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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】濃厚な発酵乳およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/123 20060101AFI20220711BHJP
   A23C 9/142 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
A23C9/123
A23C9/142
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2016217201
(22)【出願日】2016-11-07
(65)【公開番号】P2018074911
(43)【公開日】2018-05-17
【審査請求日】2019-10-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】金子 成子
(72)【発明者】
【氏名】越膳 浩
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0342208(US,A1)
【文献】特表2008-543298(JP,A)
【文献】特開平11-069942(JP,A)
【文献】特開平11-028056(JP,A)
【文献】特開平07-099885(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0308398(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104904989(CN,A)
【文献】特開平08-266221(JP,A)
【文献】特開平11-032675(JP,A)
【文献】Int. Dairy Journal,1992年,Vol. 2, No. 5,pp. 311-323
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
A01J
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/CAplus/AGRICOLA/MEDLINE/BIOSIS
/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜分離処理で濃縮した液状の濃縮乳を主成分とし、
7.5~20重量%のタンパク質、
0~3.0重量%の脂質、
5~18重量%の乳糖
を含む原料乳(ただし、噴霧乾燥用の原料乳を除く)を製造する方法であって、噴霧乾燥する工程経ない、前記製造方法。
【請求項2】
原料乳が、粉末状の乳タンパク質を含まない、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
原料乳が、安定化剤を含まない、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
原料乳が、0.15~2重量%の灰分を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
原料乳が、0.05~0.7重量%のカルシウムを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
75℃・達温、95℃・達温、75℃~95℃・15~60秒間、110℃~150℃・1~5秒間のいずれかの条件で加熱殺菌処理する、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
主成分の濃縮乳が、濃縮の前に、生乳、殺菌処理した乳および/または脱脂乳のpHを5.5~6.5に調整し、0.5時間以上保持する酸性化処理されて調製された濃縮乳である、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法によって製造された原料乳を発酵させることを含む、発酵乳の製造方法。
【請求項9】
原料乳を容器に充填し、その後に発酵させる、請求項8に記載の発酵乳の製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の製造方法により製造された、発酵乳。
【請求項11】
7.5~20重量%のタンパク質、
0~3.0重量%の脂質、
5~18重量%の乳糖
を含む、膜分離処理で濃縮した液状の濃縮乳を主成分とする原料乳を発酵させることを含む、発酵乳の食感を滑らかにする方法。
【請求項12】
7.5~20重量%のタンパク質、
0~3.0重量%の脂質、
4~18重量%の乳糖、
0.15~2重量%の灰分、
を含む、膜分離処理で濃縮した液状の濃縮乳を主成分とする原料乳を発酵させることを含む、発酵乳の食感を滑らかにし、かつ、発酵乳の塩味またはえぐ味を低減、もしくは発酵乳にコク味を付与する方法。
【請求項13】
7.5~20重量%のタンパク質、
0~3.0重量%の脂質、
4~18重量%の乳糖、
0.05~0.7重量%のカルシウム、
を含む、膜分離処理で濃縮した液状の濃縮乳を主成分とする原料乳を発酵させることを含む、発酵乳の食感を滑らかにし、かつ、発酵乳の塩味またはえぐ味を低減、もしくは発酵乳にコク味を付与する方法。
【請求項14】
発酵乳がセットタイプヨーグルトである、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃厚な発酵乳、特に低脂肪または無脂肪であるにもかかわらず、滑らかな食感を有する濃厚な発酵乳、およびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵乳は広く一般的に食される健康食品であり、需要者の嗜好の多様化に伴い、多様な発酵乳の需要が存在する。近年、濃厚な発酵乳への需要が高く、原料乳への増粘剤などの添加により、発酵乳に粘性を付与する方法(特許文献1)や、遠心分離法、水切り法などにより、通常の濃度の発酵乳から水分などを除去して、発酵乳を濃縮する方法(特許文献2)が知られている。
【0003】
一方、濃厚な味わいを付与した発酵乳を製造する方法として、ナノろ過処理によって濃縮した所定の成分のMPCを含む原料乳を用いて発酵させる方法が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-215563号公報
【文献】特開2005-318855号公報
【文献】特表2010-502182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、原料乳に増粘剤などを添加する方法では、発酵乳の風味を損なう恐れがあり、また、増粘剤などの添加物を含まない食品への需要が高まっており、必ずしも好ましいとは言えない。また、遠心分離法、水切り法などにより、発酵乳を濃縮する方法では、ホエイが排出されるため、その処理が課題となる。また、ナノろ過処理により、発酵乳を濃縮する方法では、風味・食感に優れた無脂肪・低脂肪の発酵乳を提供するものではない。したがって、低脂肪または無脂肪であって、濃厚な風味・食感の発酵乳を効率的に製造する十分な方法は見出されていないと言える。
【0006】
本発明は、低脂肪・無脂肪、高タンパク質でありながら、滑らかな食感を有する濃厚な発酵乳を合理的に製造することを課題とし、かかる発酵乳では従来、パサつきの問題があり、十分に満足できる風味や食感が得られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意研究を重ねる中で、低脂肪、高タンパク質の原料乳に、乳糖を含有せしめることで、滑らかな食感を有する発酵乳が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1] 7.5~20重量%のタンパク質、
0~3.0重量%の脂質、
4~18重量%の乳糖
を含む原料乳を発酵させることを含む、発酵乳の製造方法。
[2] 原料乳がカゼイン:ホエイタンパク質を9:1~7:3で含む、前記[1]に記載の発酵乳の製造方法。
[3] 粉末状の乳タンパク質を用いない、前記[1]または[2]に記載の発酵乳の製造方法。
[4] 安定化剤を用いない、前記[1]~[3]のいずれかに記載の発酵乳の製造方法。
[5] 原料乳が0.15~2重量%の灰分を含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載の発酵乳の製造方法。
[6] 原料乳が0.05~0.7重量%のカルシウムを含む、前記[1]~[5]のいずれかに記載の発酵乳の製造方法。
[7] 前記[1]~[6]のいずれかに記載の発酵乳の製造方法で製造された発酵乳。
[8] セットタイプである、前記[7]に記載の発酵乳。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、低脂肪・無脂肪、高タンパク質の原料乳に、乳糖を含有せしめることで、滑らかな食感を有する発酵乳を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】乳糖を添加して発酵させたハードタイプ発酵乳(発明品)と、糖無添加のハードタイプ発酵乳(対照品)の官能試験の比較を示す図である。
図2】乳糖を添加して発酵させたソフトタイプ発酵乳(発明品)と、糖無添加のソフトタイプ発酵乳(対照品)の官能試験の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において「発酵乳」とは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)で定義される「発酵乳」を包含する。例えば、本発明において、発酵乳は、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳および加工乳などの乳または、これと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を乳酸菌または酵母で発酵させ、糊状または液状にしたもの、または、これらを凍結したものをいう。これらは多様なヨーグルトを包含し、例えば、セットタイプヨーグルト(ハードヨーグルト)、ソフトヨーグルト、ドリンクヨーグルト、フローズンヨーグルトである。
【0012】
一般的に、プレーンヨーグルトなどのセットタイプヨーグルトは、原料乳を容器に充填し、その後に発酵すること(後発酵)により製造される。一方、ソフトヨーグルトやドリンクヨーグルトは、原料乳をタンク内等で発酵し、その後に微粒化処理や均質化処理してから容器に充填すること(前発酵)により製造される。
【0013】
本発明において、原料乳を高濃度(高タンパク質)で配合し、これを発酵させて濃厚な発酵乳を製造するため、遠心分離法、水切り法のような従来法では提供できない、セットタイプヨーグルト(後発酵のヨーグルト)を提供することもできる。
【0014】
本発明において「原料乳」とは、発酵乳の原料の混合物であって、所定の構成比となるように、一般的な原料を適宜使用して調製することができる。本発明において、原料乳とは、殺菌前のものでも、殺菌後のものでもよい。本発明において、原料乳には、具体的な原料(素材)として、例えば、生乳(全脂乳)、全脂濃縮乳、全脂粉乳、殺菌処理した乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、乳タンパク質濃縮物(MPC、TMP)、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質単離物(WPI)、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、バター、クリーム、水、ブドウ糖、ショ糖、香味成分、香料、色素、ミネラル(塩類)、ビタミン、甘味料、安定化剤、および、その他の食品用の添加物などを含んでもよい。本発明の一態様において、原料乳には、乳由来の原料のみを主成分として含み、乳糖をさらに含み、必要に応じて、水を含む。本発明の一態様において、原料乳には、乳タンパク質濃縮物、乳糖のみを主成分として含み、必要に応じて、水を含む。本発明の一態様において、風味や食感が自然な発酵乳を製造する観点から、原料乳には、安定化剤、添加物を含まない。
【0015】
本発明の一態様において、原料乳には、乳タンパク質の原料として、例えば、脱脂粉乳、MPC、WPC、WPI、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンなどを使用することで、高タンパク質の原料乳を調製することができる。本発明の一態様において、原料乳には、これらの原料を主成分として使用することで、低脂肪・無脂肪の原料乳を調製することができる。本発明の一態様において、原料乳には、非加熱的な方法で、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳などを濃縮して、高タンパク質の液状の濃縮乳を調製し、この濃縮乳を主成分として使用することで、高タンパク質の原料乳を調製することができる。非加熱的な方法で、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳などを濃縮することで、加熱臭などの問題を抑制することができる。本発明の一態様において、加熱臭などの問題を抑制する観点から、原料乳には、液状の濃縮乳のみを使用し、粉末状の濃縮乳を使用しないことが好ましい。非加熱的な方法は、具体的には、膜分離処理を使用することができ、高タンパク質の濃縮乳を効率的に調製できる観点から、限外ろ過(UF)処理を使用することが好ましい。本発明の一態様において、原料乳には、非加熱的な方法で、低脂肪乳、脱脂乳などを濃縮して、低脂肪・無脂肪の液状の濃縮乳を調製し、この濃縮乳を主成分として使用することで、低脂肪・無脂肪の原料乳を調製することができる。
【0016】
本発明において「タンパク質」とは、あらゆるタンパク質を意味し、植物性タンパク質であっても、動物性タンパク質であってもよいが、好ましくは、動物性タンパク質であり、より好ましくは、乳タンパク質である。本発明の一態様において、乳タンパク質におけるカゼインとホエイタンパク質の重量比は、一般的な乳における重量比と同程度(およそ8:2)である。したがって、本発明の一態様において、乳タンパク質におけるカゼインとホエイタンパク質の重量比は、好ましくは9:1~7:3、より好ましくは8:2である。本発明において、遠心分離法、水切り法のような従来法とは異なり、ホエイが排出(除去)されず、ホエイタンパク質が豊富に含まれることから、タンパク質の吸収が速くなり、栄養価が高い発酵乳を提供することができる。
【0017】
本発明の一態様において、濃厚な風味を有する発酵乳を提供する観点から、原料乳におけるタンパク質の濃度は、7.5重量%以上、好ましくは8重量%以上、より好ましくは8.5重量%以上、さらに好ましくは9重量%以上、さらに好ましくは9.5重量%以上である。本発明の一態様において、商業的に許容可能な発酵時間で制御(管理)する観点から、原料乳におけるタンパク質の濃度は、20重量%以下、好ましくは18重量%以下、より好ましくは16重量%以下、さらに好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは14重量%以下である。本発明の一態様において、滑らかな食感を有する発酵乳を提供する観点から、原料乳におけるタンパク質の濃度は、16重量%以下、好ましくは15重量%以下、より好ましくは14重量%以下であり、さらに好ましくは13重量%以下、さらに好ましくは12重量%である。本発明の一態様において、栄養価が高い発酵乳を提供する観点から、原料乳におけるホエイタンパク質の濃度は、0.8重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは1.2重量%以上、さらに好ましくは1.4重量%以上、さらに好ましくは1.6重量%以上である。本発明の一態様において、滑らかな食感を有する発酵乳を製造する観点から、原料乳におけるホエイタンパク質の濃度は、6重量%以下、好ましくは5.5重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは4.5重量%以下、さらに好ましくは4重量%以下である。
【0018】
本発明の一態様において、濃厚な風味と滑らかな食感を有する発酵乳を提供する観点から、原料乳におけるタンパク質の濃度は、7.5~16重量%、好ましくは8~15重量%、より好ましくは8.5~14重量%、さらに好ましくは9~13重量%、さらに好ましくは9.5~12重量%である。本発明の一態様において、十分な強度の固形状の発酵乳を提供する観点から、原料乳における無脂乳固形分に対するタンパク質の割合は、60~80重量%、より好ましくは60~75重量%、さらに好ましくは65~75重量%、さらに好ましくは65~70重量%である。
【0019】
本発明において「脂質」とは、あらゆる脂質を意味し、植物性脂肪であっても、動物性脂肪であってもよいが、好ましくは、動物性脂肪であり、より好ましくは、乳脂肪である。本発明の一態様において、原料乳における脂質の濃度は、好ましくは低く、より好ましくは実質的に0(無)である。本発明の一態様において、健康志向の発酵乳を提供する観点から、原料乳における脂質の濃度は、3重量%以下(すなわち、0~3重量%)、好ましくは2重量%以下(すなわち、0~2重量%)、より好ましくは1重量%以下(すなわち、0~1重量%)、さらに好ましくは実質的に0重量%である(脂質の濃度の分析値が0.5重量%以下であり、原料乳に脂質を配合しない)。本発明の一態様において、原料乳における脂肪の濃度を前記の数値に設定することで、低脂肪・無脂肪の発酵乳を提供することができる。
【0020】
本発明において「乳糖」とは、あらゆる形態の乳糖を意味し、原料乳を構成する生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳、乳タンパク質濃縮物などの乳原料などに含まれる乳糖、および精製された乳糖の両方を含む。したがって、本発明において、原料乳における乳糖の濃度は、原料乳を構成する乳原料などに含まれる乳糖、および原料乳に配合(添加)される乳糖の両方を含む場合には、それらの合計の濃度を意味する。
【0021】
本発明の一態様において、滑らかな食感を得る観点から、原料乳における乳糖の濃度は、4重量%以上、好ましくは4.5重量%以上、より好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは5.5%以上、さらに好ましくは6重量%以上である。本発明の一態様において、商業的に許容可能な発酵時間で制御する観点から、原料乳における乳糖の濃度は、18重量%以下、好ましくは16重量%以下、より好ましくは14重量%以下、さらに好ましくは12重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは8重量%以下である。
【0022】
本発明において「灰分」とは、乳由来の塩類および試薬の塩類などを意味し、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン、塩素などを主成分として含む。本発明の一態様において、発酵乳の過剰な塩味や、えぐ味を低減する観点から、原料乳における灰分の濃度は、適切な範囲に調整(低減)され、特に、カルシウムの濃度は、適切な範囲に調整される。したがって、本発明の一態様において、発酵乳の過剰な塩味や、えぐ味を低減する観点、および発酵乳の適度なコク味を付与する観点から、原料乳における灰分の濃度は、0.15~2重量%、好ましくは0.2~1.8重量%、より好ましくは0.25~1.6重量%、さらに好ましくは0.3~1.4重量%である。本発明の一態様において、発酵乳の過剰な塩味や、えぐ味を低減する観点、および発酵乳の適度なコク味を付与する観点から、原料乳におけるカルシウムの濃度は、0.05~0.7重量%、好ましくは0.05~0.6重量%、より好ましくは0.1~0.5重量%。さらに好ましくは0.1~0.4重量%である。
【0023】
本発明の一態様において、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳などを濃縮する前に、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳などを酸性化処理し、MPCから苦味の原因のカルシウム(Ca)を効率的に低減する(除去する)工程を含む。すなわち、本発明では、MPCからCaを低減するため、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳などを濃縮する前に、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳などのCaを可溶化させる酸性化処理を含むことができる。かかる酸性化処理は、Caを効率的に可溶化する観点および乳タンパク質を安定化する観点から、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳などのpHを、例えば5.5~6.5、好ましくは5.5~6.2、より好ましくは5.5~6.0、さらに好ましくは5.5~5.8に調整し、例えば0.5時間以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは1.5時間以上、さらに好ましくは2時間以上で保持する。かかる酸性化処理は、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳などのpHを調整できれば、とくに限定されないが、例えば、塩酸、リン酸、クエン酸などを原料乳に添加する。
【0024】
本発明の一態様において、高タンパク質の液状の濃縮乳に水を添加して、限外ろ過処理し、高タンパク質の液状の濃縮乳から灰分および乳糖を効率的に低減する工程を含む。すなわち、本発明では、高タンパク質の液状の濃縮乳から灰分および乳糖を低減するため、高タンパク質の液状の濃縮乳に加水する限外ろ過処理である透析ろ過(DF)処理を含むことができる。かかる透析ろ過処理は、高タンパク質の液状の濃縮乳から灰分および乳糖を効率的に低減(除去)できる観点およびタンパク質を効率的に濃縮できる観点から、複数回であってもよい。
【0025】
本発明において、食品に通常で用いられる乳酸菌を原料乳に添加(配合)して、原料乳を発酵させることができる。本発明において、食品に通常で用いられる乳酸菌は、好ましくは、ブルガリア菌(Lactobacillus bulgaricus)、サーモフィラス菌(Streptococcus thermophiles)、ガセリ菌(Lactobacillus gasseri)からなる群から選択される1または2以上の乳酸菌、より好ましくは、ブルガリア菌およびサーモフィラス菌の組み合わせである。すなわち、本発明において、コーデックス規格でヨーグルトスターターとして規格化されているブルガリア菌およびサーモフィラス菌の混合スターターを好適に用いることができる。本発明において、この混合スターター(ヨーグルトスターター)を用いて、発酵条件(発酵温度、発酵時間など)を勘案した上で、さらに、食品に通常で用いられるビフィズス菌、プロピオン酸菌、酵母などの有用な微生物を原料乳に添加してもよい。 また、本発明において、食品に通常で用いられるビフィズス菌、プロピオン酸菌、酵母などの有用な微生物を原料乳に添加してもよい。
【0026】
本発明において、原料乳の発酵では、通常の発酵乳の製造と同様の条件を設定することができる。本発明において、原料乳の発酵温度を適宜設定すればよく、好ましくは30~45℃、より好ましくは35~44℃、さらに好ましくは37~43℃に設定することができる。本発明において、原料乳の発酵時間を適宜設定すればよく、好ましくは1~36時間、より好ましくは2~24時間、さらに好ましくは3~12時間、さらに好ましくは4~8時間に設定することができる。
【0027】
本発明において、原料乳の加熱殺菌処理では、通常の発酵乳の製造と同様の条件を設定することができる。本発明において、原料乳の加熱殺菌温度と加熱殺菌時間の組合せを適宜設定すればよく、例えば、規格化または汎用されている加熱殺菌条件として、75℃・達温、95℃・達温、75℃~95℃・15~60秒間、110℃~150℃・1~5秒間に設定することができる。本発明の一態様において、滑らかな食感を有する発酵乳を製造する観点から、調合乳の加熱殺菌温度と加熱殺菌時間の組合せを、好ましくは110℃~130℃・2~4秒間に設定することができる。
【実施例
【0028】
以下に、本発明に係る方法を実施例に基づき、さらに詳しく説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0029】
[実施例1]
(a1)液状のMPCの調製
生乳(原料乳)を遠心分離処理(50℃)して、脱脂乳を調製し、この脱脂乳を冷却(5℃)した後に、リン酸を用いて、この脱脂乳のpHを5.7に調整して2時間で保持(酸性化処理)してから、限外ろ過(UF)処理(スパイラル型膜、Koch社 HpHT 3838-K131-NYV、分画分子量:10,000Da、膜面積:6.1m×並列2本)し、濃縮倍率で3.2倍に濃縮して、濃縮液を調製した。そして、この濃縮液のpHを6.7に中和して調整し、液状のミルクタンパク質濃縮物(MPC)を調製した。この液状のMPCでは、全固形分の濃度が19.9重量%、タンパク質の濃度が12.9重量%、脂質の濃度が0.5重量%、灰分の濃度が1.3重量%、乳糖の濃度が5.2重量%であった。なお、乳タンパク質におけるカゼインとホエイタンパク質の重量比は、8:2程度であった。
【0030】
(b1)乳糖を配合した高タンパク質の発酵乳(ハードタイプ、ソフトタイプ)の製造
発明品として、(a1)で調製した液状のMPCに水を添加し、全固形分の濃度が15重量%、タンパク質の濃度が9.7重量%となるように調整し、これに乳糖(無水)を3重量%で配合して、原料乳を調製した。そして、プレート式熱交換機(Power point International 社)を用いて、この原料乳を130℃、2秒間で連続式に加熱した後に、この原料乳を冷却(43℃)し、乳酸菌スターター(明治ブルガリアヨーグルトから分離した)を2重量%で添加してから、pHが4.6になるように発酵(43℃、340分間)させて、ハードタイプおよびソフトタイプの発酵乳を製造した。このとき、ソフトタイプの発酵乳は、ハードタイプの発酵乳をスリーワンモーターで攪拌してから、フィルター(孔径:250μm)を通過させて製造した。
【0031】
[比較例1]
(a2)液状のMPCの調製
実施例1の(a1)と同様にして、液状のMPCを調製した。
【0032】
(b2)糖無添加の高タンパク質の発酵乳(ハードタイプ、ソフトタイプ)の製造
対照(比較対照)品として、(a1)で調製した液状のMPCに水を添加し、全固形分の濃度が15重量%、タンパク質の濃度が9.7重量%となるように調整し、調合乳を調製した。そして、プレート式熱交換器を用いて、この調合乳を130℃、2秒間で連続式に加熱した後に、この調合乳を冷却(43℃)し、乳酸菌スターター(明治ブルガリアヨーグルトから分離した)を2重量%で添加してから、pHが4.6になるように発酵(43℃、340分間)させて、対照品のハードタイプおよびソフトタイプの発酵乳を製造した。このとき、ソフトタイプの発酵乳は、ハードタイプの発酵乳をスリーワンモーターで攪拌してから、フィルター(孔径:250μm)を通過させて製造した。
【0033】
[試験例1]
(c)ハードタイプおよびソフトタイプの発酵乳の官能検査
発明品と対照品の発酵乳について、風味と食感を官能検査(専門パネル:10名、評価:5段階)した。乳糖を配合したハードタイプおよびソフトタイプの発酵乳の官能検査の結果と、糖無添加のハードタイプおよびソフトタイプの発酵乳の官能検査の結果の比較図を、それぞれ図1および図2に示す。乳糖を配合した発酵乳では、糖無添加の発酵乳に比べて、食感の滑らかさと乳風味が向上され、えぐ味が低減された。
【0034】
[試験例2]
(d)低カルシウムのMPCの調製
生乳(原乳)を遠心分離処理(50℃)して、脱脂乳を調製し、この脱脂乳を冷却(5℃)した後に、この脱脂乳のpHを未調整にするか(pHは6.7である)、塩酸を用いて、この脱脂乳のpHを6.1および5.7に調整して2時間で保持(酸性化処理)した。そして、この脱脂乳を、それぞれ限外ろ過(UF)処理(スパイラル型膜、Koch社 HpHT 3838-K131-NYV、分画分子量:10,000Da、膜面積:6.1m×並列2本)し、濃縮倍率で4倍に濃縮して、濃縮液を調製した。そして、この濃縮液のpHを6.7に中和して調整し、液状のMPCを調製した。これらの液状のMPCの組成を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
原料乳(脱脂乳)を酸性化処理して、原料乳のpHを変化させることにより、所望のCaの濃度を有するMPCを調製することができる。そして、このMPCを主原料として、発酵乳を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、低脂肪・無脂肪、高タンパク質でありながら、滑らかな食感を有する濃厚な発酵乳を合理的に製造する方法、および、そのようにして製造された発酵乳を提供する。
図1
図2