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特許7102110吸油低減剤、吸油低減方法および揚げ物用油脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】吸油低減剤、吸油低減方法および揚げ物用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20220711BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20220711BHJP
   A23L 5/30 20160101ALI20220711BHJP
   A23L 5/40 20160101ALI20220711BHJP
   A23L 29/10 20160101ALI20220711BHJP
【FI】
A23D9/00 506
A23L5/10 D
A23L5/30
A23L5/40
A23L29/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017147301
(22)【出願日】2017-07-30
(65)【公開番号】P2019024405
(43)【公開日】2019-02-21
【審査請求日】2020-07-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100106448
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 伸介
(72)【発明者】
【氏名】肥山 恵理奈
(72)【発明者】
【氏名】小薗 伸介
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-050234(JP,A)
【文献】特開平04-187048(JP,A)
【文献】特開2006-020549(JP,A)
【文献】国際公開第2009/013757(WO,A1)
【文献】特開2015-142553(JP,A)
【文献】国際公開第2012/035901(WO,A1)
【文献】特開2010-227039(JP,A)
【文献】特開2007-068462(JP,A)
【文献】特開2014-113116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油糧原料から食用油脂を得る精製工程において脱酸工程(ただし脱酸工程は分子蒸留法を除く)を省いて精製された粗精製油を有効成分と
前記粗精製油は、脱ガム工程及び脱色工程を経たものである、揚げ物の吸油低減剤。
【請求項2】
前記粗精製油の含有量が0.01質量%以上100質量%以下である、請求項1に記載の揚げ物の吸油低減剤。
【請求項3】
食用油脂を含む、請求項1または2に記載の揚げ物の吸油低減剤。
【請求項4】
前記粗精製油が脱臭処理を経たものである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の揚げ物の吸油低減剤。
【請求項5】
さらに、 ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含む、請求項1乃至のいずれか一項に記載の揚げ物の吸油低減剤。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の揚げ物の吸油低減剤、及び食用油脂を含む、吸油が低減する揚げ物用油脂組成物であって、
前記粗精製油の含有量が0.03質量%以上4質量%以下であることを特徴とする、前記吸油が低減する揚げ物用油脂組成物。
【請求項7】
前記吸油低減剤がポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含む場合、前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量が0.01質量%以上0.12質量%以下である、請求項6に記載の吸油が低減する 揚げ物用油脂組成物。
【請求項8】
請求項6または7に記載の吸油が低減する揚げ物用油脂組成物を使用して、揚げ物を加熱調理することを特徴とする、吸油が低減する揚げ物の製造方法。
【請求項9】
前記揚げ物の揚げ温度が150℃~210℃である、請求項に記載の吸油が低減する揚げ物の製造方法。
【請求項10】
揚げ物の吸油低減方法であって、
食用油脂と粗精製油を含み、前記粗精製油の含有量が0.03質量%以上4質量%以下である揚げ物用油脂組成物を使用して、揚げ物を調理する、および、
前記粗精製油は、油糧原料から食用油脂を得る精製工程において脱酸工程(ただし脱酸工程は分子蒸留法を除く)を省いて精製された粗精製油であって、脱ガム工程及び脱色工程を経たものであることを特徴とする、前記揚げ物の吸油低減方法。
【請求項11】
前記食用油脂が90質量%以上である、請求項10に記載の揚げ物の吸油低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸油低減剤、吸油低減方法および揚げ物用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
揚げ物は、加熱した食用油脂を用いて調理される食品である。揚げ物には、天ぷら、コロッケ、唐揚げ等がある。食用油脂を用いて調理される際に、調理対象物中の水分と食用油脂との置換等により、該食用油脂が揚げ物へ移行する。
【0003】
近年、消費者の健康志向に伴い、揚げ物に含まれる油脂量を低減させることが課題の一つとされている。例えば、特許文献1(特開2015-119665)には、油脂に特定の乳化剤を0.02~0.08質量%配合した加熱調理用油脂組成物が加熱調理後の調理対象物に残存する油分を低減することができることが開示されている。特定の乳化剤として、コハク酸モノオレイン酸グリセリン、クエン酸モノオレイン酸グリセリン、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ショ糖エルカ酸エステル、及び構成する脂肪酸の47質量%以上が多価不飽和脂肪酸である脂肪酸モノグリセリドについて、その効果が開示されている。
【0004】
一方、特許文献2(特開2009-55897)には、「精製された食用油脂に、原油および中間的油脂から選ばれる少なくとも一種のリン由来成分をリン分が0.1~10.0ppmとなるように添加することを含む、180℃での加熱耐性に優れた揚げ物用油脂組成物の製造方法」が開示されている。この発明によれば、食用油脂の加熱時に起こる着色および加熱臭を抑制できるとされる。しかしながら、該原油および該中間的油脂に揚げ物の吸油低減の効果があることについては、示唆も開示もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-119665号公報
【文献】特開2009-55897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、揚げ物の吸油を低減することのできる、吸油低減剤、吸油低減方法および揚げ物用油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、油糧原料から食用油脂を得る精製工程において特定の工程を省いて精製された粗精製油に吸油低減の効果があること見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、油糧原料から食用油脂を得る精製工程において脱酸工程を省いて精製された粗精製油を有効成分とする、揚げ物の吸油低減剤である。
【0009】
前記粗精製油の含有量が0.01質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0010】
前記吸油低減剤は食用油脂を含むことが好ましい。
【0011】
前記粗精製油が脱臭処理を経たものであることが好ましい。
【0012】
前記粗精製油が、さらに、脱ガム工程を経たものであることが好ましい。
【0013】
前記粗精製油が、さらに、脱色工程を経たものであることが好ましい。
【0014】
前記吸油低減剤はポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含むことが好ましい。
【0015】
また、本発明は、前記吸油低減剤を含む揚げ物用油脂組成物であって、
前記粗精製油の含有量が0.01質量%以上4質量%以下であることを特徴とする、前記揚げ物用油脂組成物である。
【0016】
また、本発明は、前記揚げ物用油脂組成物を使用して、揚げ物を加熱調理することを特徴とする、揚げ物の製造方法である。
【0017】
前記揚げ物の揚げ温度が150℃~210℃であることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、揚げ物の吸油低減方法であって、
食用油脂と粗精製油を含み、前記粗精製油の含有量が0.01質量%以上4質量%以下である揚げ物用油脂組成物を使用して、揚げ物を調理することを特徴とする、前記吸油低減方法である。
【0019】
前記食用油脂が90質量%以上であることが好ましい。
【0020】
また、本発明は、食用油脂、油糧原料から食用油脂を得る精製工程において脱酸工程を省いて精製された粗精製油、およびポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する揚げ物用油脂組成物であって、
前記粗精製油が0.01質量%以上4質量%以下であり、前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルが0.01質量%以上0.12質量%以下である、前記揚げ物用油脂組成物である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の吸油低減剤は、揚げ物の調理の際に使用することで、揚げ物の吸油量を低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の吸油低減剤の有効成分である粗精製油は、油糧原料から得られる原油の精製工程において、脱酸工程を経ていないことを特徴とする。精製された食用油脂は、通常、油糧原料を圧搾抽出および/または溶剤抽出による搾油で得られる原油を、脱ガム工程→脱酸工程→脱色工程→脱臭工程の順に精製されて、不純物が除かれる。工程の操作である「脱ガム処理」、「脱酸処理」、「脱色処理」、及び「脱臭処理」は、公知であり、本発明はこれらの処理を特に制限なく使用可能である。前記粗精製油は、好ましくは脱臭工程を経たものであり、さらに好ましくは脱ガム工程および脱臭工程を経たものであり、さらにより好ましくは脱ガム工程、脱色工程および脱臭工程を経たものである。
【0023】
以下に、脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理、及び脱臭処理を概説する。
脱ガム工程(脱ガム処理)とは、油分中に含まれるリン脂質を主成分とするガム質を水和除去する工程である。脱ガム工程の処理条件は、特に制限されず、汎用の条件を使用可能である。例えば、水の使用量は、原料油脂に対して、通常、1~5質量%、好ましくは1.5~3質量%である。適宜、シュウ酸、クエン酸、リン酸等の有機酸の水溶液からなる脱ガム剤を添加してもよい。脱ガム温度は、通常、40~95℃でよく、好ましくは60~95℃である。原油に水蒸気又は水を加えて攪拌することにより、ガム質が水和して水溶性となり、水層へ移る。撹拌時間は、通常、1~60分である。この水層は遠心分離機等で分離される。
【0024】
脱酸工程(脱酸処理)とは、炭酸ナトリウムや苛性ソーダといったアルカリの水溶液で処理することにより油分中に含まれる遊離脂肪酸をセッケン分として除去する工程である。脱酸工程の処理条件は、特に制限されず、汎用の条件を使用可能である。例えば、濃度が3~40質量%のアルカリ水溶液を、原料油脂に対して、通常、0.1~5質量%、好ましくは0.5~3質量%となるように添加する。脱酸温度は、通常、20~120℃でよく、好ましくは35~95℃である。油脂に不溶の上記セッケンは、遠心分離機等で分離される。脱酸工程(脱酸処理)は、アルカリを用いない物理的精製法でもよい。物理的精製法には、水蒸気蒸留法や分子蒸留法がある。分子蒸留法では、一部の脱臭処理も同時に行われる。
【0025】
脱色工程(脱色処理)とは、油分中に含まれる色素を活性白土、活性炭等へ吸着させて除去する工程である。脱色工程の処理条件は、特に制限されず、汎用の条件を使用可能である。例えば、活性白土の使用量は、原料油脂に対して、通常、0.05~5質量%でよく、好ましくは0.1~3質量%である。脱色温度は、通常、70~120℃でよく、好ましくは80~120℃である。脱色工程は、通常、無水下で行われるが、水の存在下で行ってもよい。脱色時間は、通常、5~120分間、好ましくは10~80分間である。色素の付着した活性白土等は、減圧濾過等により除去される。
【0026】
脱臭工程(脱臭処理)とは、減圧下で水蒸気蒸留等することによって油分中に含まれる有臭成分を除去する工程である。脱臭工程の処理条件は、特に制限されず、汎用の条件を使用可能である。例えば、水蒸気の使用量は、原料油脂に対して、通常、0.1~10質量%、好ましくは0.3~8質量%である。水蒸気蒸留の温度は、通常、200~260℃、好ましくは220~250℃である。減圧度は、温度に依存するが、通常、150~1000Pa、好ましくは200~800Paである。また、蒸留時間は、温度及び減圧度に依存するが、通常、10~180分間、好ましくは20~120分間である。
【0027】
前記吸油低減剤の前記粗精製油の含有量が、好ましくは0.01質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上50質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以上20質量%以下である。
【0028】
前記粗精製油の油糧原料は、通常、食用油脂に使用される油糧原料を用いることができるが、好ましくは、菜種及び大豆から選ばれる一種または二種である。
【0029】
本発明の吸油低減剤は、前記粗精製油以外に食用油脂を含んでいてもよい。前記食用油脂は、特に限定されず、例えば、パーム核油、パーム油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂等の植物油脂、ラード等の動物油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。また、これらの分別油(パーム油の中融点部、パーム油の分別軟質油、パーム油の分別硬質油等)、エステル交換油、水素添加油等の加工した油脂を使用できる。また、これらの食用油脂は、一種又は二種以上を使用することができ、大豆油、菜種油、コーン油、及びパーム油の分別軟質油のいずれか一種または二種以上を含むことが好ましく、菜種油、コーン油、及びパーム油の分別軟質油のいずれか一種または二種以上を含むことがさらに好ましい。
また、前記食用油脂の上昇融点は、好ましくは5℃以下であり、より好ましくは0℃以下である。所定の上昇融点とすることで、吸油低減の効果がより顕著となる。なお、上昇融点は、基準油脂分析試験法2.2.4.2-1996に準じ、測定することができる。
【0030】
前記吸油低減剤の前記食用油脂の含有量は、例えば、50質量%以上であり、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。上限は特にないが、好ましくは前記食用油脂と前記粗精製油の合計量が100質量%以下である。また、前記吸油低減剤の水含量は、例えば、1質量%未満である。
【0031】
また、本発明の揚げ物用油脂組成物は、前記吸油低減剤を含む揚げ物用油脂組成物であって、前記粗精製油の含有量が0.01質量%以上4質量%以下であることを特徴とする。
【0032】
前記粗精製油の含有量は、好ましくは0.03質量%以上4質量%以下であり、より好ましくは0.03質量%以上3質量%以下であり、さらに好ましくは0.03質量%以上2質量%以下であり、さらにより好ましくは0.05質量%以上2質量%以下である。また、前記粗精製油の油糧原料やその精製工程については上述したとおりである。
【0033】
また、本発明では、食用油脂と、油糧原料から食用油脂を得る精製工程において脱酸工程を省いて精製された粗精製油とを含み、前記粗精製油の含有量が0.01質量%以上4質量%以下である揚げ物用油脂組成物を使用して、揚げ物を調理することにより、揚げ物の吸油低減をすることができる。前記粗精製油の含有量は、好ましくは0.03質量%以上4質量%以下であり、より好ましくは0.03質量%以上3質量%以下であり、さらに好ましくは0.03質量%以上2質量%以下であり、さらにより好ましくは0.05質量%以上2質量%以下である。
【0034】
前記揚げ物用油脂組成物に含まれる食用油脂は、特に限定されず、例えば、パーム核油、パーム油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂等の植物油脂、ラード等の動物油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。また、これらの分別油(パーム油の中融点部、パーム油の分別軟質油、パーム油の分別硬質油等)、エステル交換油、水素添加油等の加工した油脂を使用できる。また、これらの食用油脂は、一種又は二種以上を使用することができ、大豆油、菜種油、コーン油、及びパーム油の分別軟質油のいずれか一種または二種以上を含むことが好ましく、菜種油、コーン油、及びパーム油の分別軟質油のいずれか一種または二種以上を含むことがさらに好ましい。
また、前記食用油脂は、食用油脂中に、大豆油、菜種油、コーン油、及びパーム油の分別軟質油のいずれか一種または二種以上を80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましい。特に、上限はなく、例えば、100質量%以下である。
また、前記食用油脂の上昇融点は、好ましくは5℃以下であり、より好ましくは0℃以下である。所定の上昇融点とすることで、吸油低減の効果がより顕著となる。なお、上昇融点は、基準油脂分析試験法2.2.4.2-1996に準じ、測定することができる。
【0035】
前記揚げ物用油脂組成物の前記食用油脂の含有量は、例えば、90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上であり、より好ましくは97質量%以上である。上限は特にないが、好ましくは前記食用油脂と前記粗精製油の合計量が100質量%以下である。また、前記揚げ物用油脂組成物の水含量は、例えば、1質量%未満である。
【0036】
また、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(以下、「PGPR」ともいう)を併用することで、吸油低減効果が向上する。前記PGPRは、特に限定されず、一般に市販されているものを用いることができる。例えば、阪本薬品株式会社製のSYグリスターCR-500、SYグリスターCR-310、SYグリスターCR-200や太陽化学株式会社製のサンソフト818TY等が挙げられる。
【0037】
前記PGPRのグリセリン平均重合度は、好ましくは3~8であり、より好ましくは3~7であり、さらに好ましくは4~6であり、さらにより好ましくは6である。
【0038】
前記吸油低減剤の前記PGPRの含有量は、例えば、0.02質量%以上50質量%以下である。
【0039】
また、前記揚げ物用油脂組成物の前記PGPRの含有量は、例えば0.01質量%以上0.12質量%以下であり、好ましくは0.02質量%以上0.11質量%以下であり、より好ましくは0.03質量%以上0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0.04質量%以上0.1質量%以下であり、さらにより好ましくは0.05質量%以上0.1質量%以下である。
【0040】
また、本発明の作用効果を害しない範囲であれば、抗酸化剤、乳化剤、香料、消泡剤などの添加素材を、更に配合していてもよい。具体的には、例えば、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、γ-オリザノール、トコフェロール、シリコーンなどが挙げられる。
【0041】
本発明の揚げ物の製造方法は、前記揚げ物用油脂組成物を使用することを特徴とする。前記揚げ物は、特に限定されないが、例えば、天ぷら、フライドポテト、ハッシュドポテト、コロッケ、唐揚げ、とんかつ、魚フライ、アメリカンドッグ、チキンナゲット、揚げ豆腐、ドーナッツ、揚げパン、揚げ米菓、スナック菓子、インスタントラーメン等である。特に、天ぷらや唐揚げのようにバッターを使用する揚げ物やコロッケのようにパン粉を使用する揚げ物に好適に使用され得る。
【0042】
揚げ物を調理する態様に特に制限はなく、揚げ物の種類に適した方法にて、適宜所望の揚げ物を製造すればよい。例えば、揚げ物の揚げ温度は、典型的には150℃~210℃、より典型的には160℃~200℃である。
【0043】
また、本発明の食用油脂、油糧原料から食用油脂を得る精製工程において脱酸工程を省いて精製された粗精製油、およびポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する揚げ物用油脂組成物であって、
前記粗精製油が0.01質量%以上4質量%以下であり、前記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルが0.01質量%以上0.12質量%以下である、前記揚げ物用油脂組成物においては、食用油脂、粗精製油およびポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、上述したとおりである。
【実施例
【0044】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明の主旨はこれらに限定されるものではない。
【0045】
実施に際して、以下のものを使用した。
【0046】
菜種油(株式会社J-オイルミルズ社製)
CR-500(PGPR、製品名:SYグリスターCR-500、阪本薬品工業株式会社製、グリセリン平均重合度6)
【0047】
(粗精製油A)
油糧原料として菜種(キャノーラ種)を使用し、菜種を圧搾抽出及び溶剤抽出することで原油を得た。得られた原油を、常法に従い、脱ガム工程→脱色工程→脱臭工程を経ることで、粗精製油Aを得た。
【0048】
(粗精製油B)
油糧原料として大豆を使用し、大豆を溶剤抽出することで原油を得た。得られた原油を、常法に従い、脱ガム工程→脱色工程→脱臭工程を経ることで、粗精製油Bを得た。
【0049】
以下の試験例において、すべての試験用油脂組成物の水含量は1質量%未満であった。
【0050】
試験例1:コロッケでの評価
表1に記載の配合で、試験用油脂組成物を調製した。下記方法により、コロッケを調理し、揚げ物の質量に対する持ち出し油量を算出し、吸油低減効果を確認した。その結果を表1に示す。
【0051】
<準備>
1、マッシュポテト(粉末、コストコホールセールにて購入)に牛乳240ml、水300mlを加えた。
2、よくかき混ぜて食品用ラップに包んで、厚さ1cm程度に伸ばした。
3、直径5cmのセルクルで型を抜いた。
4、小麦粉55gに水70gを加えたバッター液にくぐらせ、生パン粉をつけた。なお、生パン粉は「とんかつ屋さんの生パン粉」(モランボン株式会社製)を使用前に、篩を使って、小さなパン粉を除いておいた。
【0052】
<揚げ物調理と吸油低減率の算出>
1、フライヤーのオイルパンに3kgの試験用油脂組成物を張り込み、オイルパンと試験用油脂組成物の合計質量(A(g))を測定した。
2、網に、揚げる前のコロッケを5個置いた。
3、フライヤーに前記オイルパンを設置し、試験用油脂組成物を180℃とし、前記網を投入し、コロッケを1分揚げた。
4、試験用油脂組成物から網とコロッケを取り出し、10分静置して油を切り、切った油はオイルパンへ戻した。
5、その後、コロッケの質量(g)を測定した。
6、上記2~5の操作を2回おこない、コロッケ10個の質量(g)を算出した。
7、揚げ終わった後のオイルパンと試験用油脂組成物の合計質量と網についている試験用油脂組成物の質量を測定し、合計した(B(g))。
8、上記1~7の操作を3回おこない(すなわち、10個揚げるごとに、試験用油脂組成物を新しい別の試験用油脂組成物に交換した。)、合計30個揚げた。
9、10個揚げるごとに、下記式に基づいて、吸油率(%)を算出し、合計3回の試験結果の平均値を使用した。なお、吸油低減率(%)は、同日におこなった対照の吸油率(%)から試験用油脂組成物での吸油率(%)を減じた値を対照の吸油率(%)で除したものである。

持ち出し油量(g)=A(g)-B(g)

吸油率(%)=持ち出し油量(g)÷コロッケ10個の質量(g)×100
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示したように、油脂組成物中に粗精製油を2質量%含有することで、コロッケの吸油低減の効果が確認できた。また、PGPRであるCR-500を含有させることで、吸油低減効果がさらに高くなった。
【0055】
試験例2:粗精製油の添加量の評価1
表2に記載の配合で、試験用油脂組成物を調製した。下記方法により、サツマイモ天を調理し、揚げ物の質量に対する持ち出し油量を算出し、吸油低減効果を確認した。その結果を表2に示す。
【0056】
<準備>
サツマイモを厚さ5mm、直径3.4cmにカットした(重さ:4.9g~5.1g)。
天ぷら粉「昭和天ぷら粉」(昭和産業株式会社製)38gと氷水62gを混合し、バッター液を調製した。
【0057】
<揚げ物調理と吸油低減率の算出>
1、フライヤーのオイルパンに3kgの試験用油脂組成物を張り込み、オイルパンと試験用油脂組成物の合計質量(A(g))を測定した。
2、フライヤーに前記オイルパンを設置し、試験用油脂組成物を180℃とし、バッター液を付けたサツマイモを5個投入し、3分間調理し、サツマイモ天を得た。その際、1分30秒後に一度ひっくり返した。
3、試験用油脂組成物からサツマイモ天を取り出し、網の上で、10分静置して油を切り、切った油はオイルパンへ戻した。
4、その後、サツマイモ天の質量(g)を測定した。
5、上記2~4の操作を2回おこない、サツマイモ天10個の質量(g)を算出した。
6、揚げ終わった後のオイルパンと試験用油脂組成物の合計質量と網についている試験用油脂組成物の質量を測定し、合計した(B(g))。
7、上記1~6の操作を3回おこない(すなわち、10個揚げるごとに、試験用油脂組成物を新しい別の試験用油脂組成物に交換した。)、合計30個揚げた。
8、10個揚げるごとに、下記式に基づいて、吸油率(%)を算出し、合計3回の試験結果の平均値を使用した。なお、吸油低減率(%)は、同日におこなった対照の吸油率(%)から試験用油脂組成物での吸油率(%)を減じた値を対照の吸油率(%)で除したものである。

持ち出し油量(g)=A(g)-B(g)

吸油率(%)=持ち出し油量(g)÷サツマイモ天10個の質量(g)×100
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示したように、油脂組成物中に粗精製油を0.05質量%以上0.1質量%以下含有させることで、吸油低減の効果を確認することができた。また、実施例2-1に示したように、油脂組成物中に粗精製油A(菜種由来)を0.05質量%含有させることで、吸油低減率が11.7%となった。
【0060】
試験例3:油糧原料の評価
表3に記載の配合で、試験用油脂組成物を調製した。試験例2と同じ操作で、吸油低減効果を確認した。その結果を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
実施例3-1に示したように、粗精製油の油糧原料が大豆であっても、菜種と同様に吸油低減の効果があることが確認できた。
【0063】
試験例4:粗精製油の添加量の評価2
表4に記載の配合で、試験用油脂組成物を調製した。試験例2と同じ操作で、吸油低減効果を確認した。その結果を表4に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
表4に示したように、粗精製油を0.01質量%含有させることで、吸油低減の効果を確認することができた。