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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】蒸着装置及び蒸着方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20220711BHJP
   C23C 14/52 20060101ALI20220711BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220711BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
C23C14/24 U
C23C14/52
H05B33/14 A
H05B33/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017231819
(22)【出願日】2017-12-01
(65)【公開番号】P2019099870
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】北沢 僚也
(72)【発明者】
【氏名】中村 寿充
(72)【発明者】
【氏名】須磨 明徳
(72)【発明者】
【氏名】木村 孔
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-065942(JP,A)
【文献】特開2008-122200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
C23C 14/52
H01L 51/50
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と、
前記真空容器内に設けられた蒸着源と、
前記蒸着源に対向する、複数の第1水晶振動子と前記複数の第1水晶振動子のいずれかを前記蒸着源に向けて露出させる第1シャッタとを含む第1膜厚センサと、基準センサとなる第2水晶振動子と第2シャッタとを含む第2膜厚センサとを有し、前記第1膜厚センサから選択される任意の第1水晶振動子及び前記第2水晶振動子によって、それぞれの水晶振動子に形成される蒸着材料の蒸着速度が検知可能であり、前記蒸着源に対する基板及び前記第1膜厚センサの配置位置によって生じる、前記基板に形成される蒸着材料の蒸着速度と前記第1水晶振動子に形成される前記蒸着材料の前記蒸着速度との誤差を補正するツーリング係数と、前記第1水晶振動子と前記第1水晶振動子に形成される膜との音響インピーダンス比とを前記複数の第1水晶振動子のそれぞれに対して設定可能な膜厚測定器と、
前記第1水晶振動子によって検知される前記蒸着速度に基づいて、前記基板に形成される前記蒸着材料の膜厚を制御する制御装置と
を具備し、
前記制御装置は、
(a)前記基板に前記蒸着材料を形成する前に、前記第2水晶振動子によって検知される蒸着速度に基づいて、前記基板に形成される前記蒸着材料の蒸着速度を調整し、
(b)前記蒸着速度の検知を前記第2膜厚センサから前記第1膜厚センサに切り替え、前記第1膜厚センサから選択されたいずれかの前記第1水晶振動子によって検知される前記蒸着速度と、前記第2水晶振動子によって検知される前記蒸着速度との差が目的値となるように、前記第1水晶振動子の前記ツーリング係数を補正し、
(c)前記基板に前記蒸着材料が形成される際に、前記第1水晶振動子で検知される前記蒸着速度に基づいて、前記基板に形成される前記蒸着材料の蒸着速度を制御し、
(d)前記基板に前記蒸着材料を形成しながら、前記第1水晶振動子による前記蒸着速度の検知を続けた結果、前記第1水晶振動子の検知時間または前記第1水晶振動子の共振周波数が所定範囲を超え、前記差が前記目的値でなくなった場合には、前記基板への前記蒸着材料の形成中に、前記差が前記目的値になるように、前記第1水晶振動子の前記音響インピーダンス比または前記ツーリング係数を補正し、
(e)前記第1水晶振動子による前記基板に形成される前記蒸着材料の蒸着速度の制御をさらに続け、前記基板に前記蒸着材料を形成して前記第1水晶振動子の前記共振周波数が許容範囲外になった場合には、前記第1シャッタによって前記第1膜厚センサから前記第1水晶振動子以外の第1水晶振動子を選択し、
(f)前記(b)ステップから前記(e)までのステップを繰り返す
蒸着装置。
【請求項2】
請求項1に記載された蒸着装置であって、
前記膜厚測定器において、前記(c)ステップ及び(e)ステップでは、前記第2水晶振動子に対向する前記第2シャッタが閉じられる
蒸着装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された蒸着装置であって、
前記蒸着源に対する、前記第1膜厚センサ及び前記第2膜厚センサのそれぞれの前記配置位置が固定されている
蒸着装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載された蒸着装置であって、
前記(c)ステップまたは前記(e)ステップの途中において、前記(a)ステップが実行される
蒸着装置。
【請求項5】
複数の第1水晶振動子と前記複数の第1水晶振動子のいずれかを前記蒸着源に向けて露出させる第1シャッタとを含む第1膜厚センサから任意の第1水晶振動子を選択し、前記第1水晶振動子に形成される蒸着材料の蒸着速度を検知することによって、基板に形成される前記蒸着材料の膜厚を制御し、
蒸着源に対する前記基板及び前記第1膜厚センサの配置位置によって生じる、前記基板に形成される蒸着材料の蒸着速度と前記第1水晶振動子に形成される前記蒸着材料の前記蒸着速度との誤差を補正するツーリング係数と、前記第1水晶振動子と前記第1水晶振動子に形成される膜との音響インピーダンス比と、を前記複数の第1水晶振動子のそれぞれに対して設定可能な前記第1膜厚センサを用いた蒸着方法であって、
(a)前記第1膜厚センサ以外に、第2水晶振動子と第2シャッタとを含む第2膜厚センサを基準センサとして用い、前記基板に前記蒸着材料を形成する前に、前記第2水晶振動子によって検知される蒸着速度に基づいて、前記基板に形成される前記蒸着材料の蒸着速度を調整し、
(b)前記蒸着速度の検知を前記第2膜厚センサから前記第1膜厚センサに切り替え、前記第1膜厚センサから選択されたいずれかの前記第1水晶振動子によって検知される前記蒸着速度と、前記第2水晶振動子によって検知される前記蒸着速度との差が目的値となるように、前記第1水晶振動子の前記ツーリング係数を補正し、
(c)前記基板に前記蒸着材料が形成される際に、前記第1水晶振動子で検知される前記蒸着速度に基づいて、前記基板に形成される前記蒸着材料の蒸着速度を制御し、
(d)前記基板に前記蒸着材料を形成しながら、前記第1水晶振動子による前記蒸着速度の検知を続けた結果、前記第1水晶振動子の検知時間または前記第1水晶振動子の共振周波数が所定範囲を超え、前記差が前記目的値でなくなった場合には、前記基板への前記蒸着材料の形成中に、前記差が前記目的値になるように、前記第1水晶振動子の前記音響インピーダンス比または前記ツーリング係数を補正し、
(e)前記第1水晶振動子による前記基板に形成される前記蒸着材料の蒸着速度の制御をさらに続け、前記基板に前記蒸着材料を形成して前記第1水晶振動子の前記共振周波数が許容範囲外になった場合には、前記第1シャッタによって前記第1膜厚センサから前記第1水晶振動子以外の第1水晶振動子を選択し、
(f)前記(b)から前記(e)までの工程を繰り返す
蒸着方法。
【請求項6】
請求項5に記載された蒸着方法であって、
前記(c)工程及び(e)工程では、前記第2水晶振動子に対向する前記第2シャッタが閉じられる
蒸着方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載された蒸着方法であって、
前記蒸着源に対する、前記第1膜厚センサ及び前記第2膜厚センサのそれぞれの前記配置位置を固定して、前記(a)~前記(f)の工程を実行する
蒸着方法。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1つに記載された蒸着方法であって、
前記(c)工程または前記(e)工程の途中において、前記(a)工程を実行する
蒸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置及び蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)を利用した有機ELディスプレイでは、表示デバイスの大型化とともに、その薄型化が望まれている。特に、有機ELディスプレイを構成する画素は多層構造となっており、各層における光取り出し効率を高めるには、各層の層厚をいかにして精度よく制御するかが重要になる。
【0003】
例えば、各層を構成する有機膜は真空蒸着によって形成され、その蒸着速度は、水晶振動子を用いた膜厚センサにより制御される。特に最近では、生産性の観点から複数の水晶振動子を備えた膜厚センサが開示されている(例えば、特許文献1参照)。これにより、真空チャンバを大気開放することなく、複数の水晶振動子で蒸着速度を検知しながら、基板への蒸着を長時間行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-065942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の技術では、複数の水晶振動子のそれぞれの特性が微妙にばらついた場合、蒸着源から発せられる材料の量が同じだとしても、それぞれの水晶振動子によって検知される蒸着速度が微妙にばらつく可能性がある。これにより、毎秒、ナノオーダーの蒸着速度を制御する場合は、各層の厚みを精度よく制御できない場合がある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、複数の水晶振動子を備えた膜厚センサにおいて、複数の水晶振動子によって検知される蒸着速度のばらつきが抑えられ、長時間にわたり蒸着速度が高精度に制御される蒸着装置及び蒸着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る蒸着装置は、真空容器と、蒸着源と、膜厚測定器と、制御装置とを具備する。
上記蒸着源は、上記真空容器内に設けられる。
上記膜厚測定器は、上記蒸着源に対向する、複数の第1水晶振動子を含む第1膜厚センサと、基準センサとなる第2水晶振動子を含む第2膜厚センサとを有する。上記膜厚測定器においては、上記第1膜厚センサから選択される任意の第1水晶振動子及び上記第2水晶振動子によって、それぞれの水晶振動子に形成される蒸着材料の蒸着速度が検知可能である。上記膜厚測定器においては、上記蒸着源に対する基板及び上記第1膜厚センサの配置位置によって生じる、上記基板に形成される蒸着材料の蒸着速度と上記第1水晶振動子に形成される上記蒸着材料の上記蒸着速度との誤差を補正するツーリング係数と、上記第1水晶振動子と上記第1水晶振動子に形成される上記膜との音響インピーダンス比とを上記複数の第1水晶振動子のそれぞれに対して設定可能になっている。
上記制御装置は、上記第1水晶振動子によって検知される上記蒸着速度に基づいて、上記基板に形成される上記蒸着材料の膜厚を制御する。
上記制御装置は、
(a)上記基板に上記蒸着材料を形成する前に、上記第2水晶振動子によって検知される蒸着速度に基づいて、上記基板に形成される上記蒸着材料の蒸着速度を調整し、
(b)上記蒸着速度の検知を上記第2膜厚センサから上記第1膜厚センサに切り替え、上記第1膜厚センサから選択されたいずれかの上記第1水晶振動子によって検知される上記蒸着速度と、上記第2水晶振動子によって検知される上記蒸着速度との差が目的値となるように、上記第1水晶振動子の上記ツーリング係数を補正し、
(c)上記基板に上記蒸着材料が形成される際に、上記第1水晶振動子で検知される上記蒸着速度に基づいて、上記基板に形成される上記蒸着材料の蒸着速度を制御し、
(d)上記第1水晶振動子による上記蒸着速度の検知を続けた結果、上記第1水晶振動子の検知時間または上記第1水晶振動子の共振周波数が所定範囲を超え、上記差が上記目的値でなくなった場合には、上記差が上記目的値になるように、上記第1水晶振動子の上記音響インピーダンス比または上記ツーリング係数を補正し、
(e)上記第1水晶振動子による上記基板に形成される上記蒸着材料の蒸着速度の制御をさらに続け、上記第1水晶振動子の上記共振周波数が許容範囲外になった場合には、上記第1膜厚センサから上記第1水晶振動子以外の第1水晶振動子を選択し、
(f)上記(b)ステップから上記(e)までのステップを繰り返す、
制御をする。
【0008】
このような蒸着装置によれば、複数の第1水晶振動子を含む第1膜厚センサにおいて、基準となる第2水晶振動子で検知された蒸着速度を基準にして、それぞれの第1水晶振動子のツーリング係数が予め補正される。これにより、それぞれの第1水晶振動子の特性によって生じる蒸着速度のばらつきが抑えられる。さらに、選択された第1水晶振動子を長時間使用した結果、第2水晶振動子で検知された蒸着速度と第1水晶振動子で検知される蒸着速度の差が目的値外となったとしても、第1水晶振動子と膜との音響インピーダンス比またはツーリング係数が補正されるので、それぞれの第1水晶振動子によって検知される蒸着速度のばらつきが長時間にわたり抑えられる。
【0009】
上記の蒸着装置においては、上記膜厚測定器において、上記(c)ステップ及び(e)ステップでは、上記第2水晶振動子に対向するシャッタが閉じられてもよい。
【0010】
このような蒸着装置によれば、ツーリング係数または音響インピーダンス比が補正された後に、第2水晶振動子に対向するシャッタが閉じられるので、第1水晶振動子による検知を長時間続けても、第2水晶振動子には微量な膜が付着するだけで足りる。これにより、第1水晶振動子による検知を長時間続けても、1つの第2水晶振動子によって検知される蒸着速度を長時間にわたり基準の蒸着速度とすることができる。
【0011】
上記の蒸着装置においては、上記蒸着源に対する、上記第1膜厚センサ及び上記第2膜厚センサのそれぞれの上記配置位置が固定されてもよい。
【0012】
このような蒸着装置によれば、蒸着源に対する、第1膜厚センサ及び第2膜厚センサのそれぞれの幾何学的位置が固定されているので、第1膜厚センサ及び第2膜厚センサの移動による検知の誤差が起きにくくなる。
【0013】
上記の蒸着装置においては、上記(c)ステップまたは上記(e)ステップの途中において、上記(a)ステップが実行されてもよい。
【0014】
このような蒸着装置によれば、第1水晶振動子によって蒸着速度の検知をしつつ、基板に形成される蒸着材料の膜厚の制御を継続している途中で、基準となる第2水晶振動子によって蒸着源から発せられる蒸発速度を検査できる。これにより、蒸着源を起因とする蒸着速度の経時変化があったとしても、第2水晶振動子によって、その蒸着速度を補正することができる。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る蒸着方法は、複数の第1水晶振動子を含む第1膜厚センサから任意の第1水晶振動子を選択し、上記第1水晶振動子に形成される蒸着材料の蒸着速度を検知することによって、基板に形成される上記蒸着材料の膜厚を制御することを含む。
蒸着源に対する上記基板及び上記第1膜厚センサの配置位置によって生じる、上記基板に形成される蒸着材料の蒸着速度と上記第1水晶振動子に形成される上記蒸着材料の上記蒸着速度との誤差を補正するツーリング係数と、上記第1水晶振動子と上記第1水晶振動子に形成される上記膜との音響インピーダンス比と、を上記複数の第1水晶振動子のそれぞれに対して設定可能な上記第1膜厚センサが用いられる。
この蒸着方法では、
(a)上記第1膜厚センサ以外に、第2水晶振動子を含む第2膜厚センサを基準センサとして用い、上記基板に上記蒸着材料を形成する前に、上記第2水晶振動子によって検知される蒸着速度に基づいて、上記基板に形成される上記蒸着材料の蒸着速度を調整し、
(b)上記蒸着速度の検知を上記第2膜厚センサから上記第1膜厚センサに切り替え、上記第1膜厚センサから選択されたいずれかの上記第1水晶振動子によって検知される上記蒸着速度と、上記第2水晶振動子によって検知される上記蒸着速度との差が目的値となるように、上記第1水晶振動子の上記ツーリング係数を補正し、
(c)上記基板に上記蒸着材料が形成される際に、上記第1水晶振動子で検知される上記蒸着速度に基づいて、上記基板に形成される上記蒸着材料の蒸着速度を制御し、
(d)上記第1水晶振動子による上記蒸着速度の検知を続けた結果、上記第1水晶振動子の検知時間または上記第1水晶振動子の共振周波数が所定範囲を超え、上記差が上記目的値でなくなった場合には、上記差が上記目的値になるように、上記第1水晶振動子の上記音響インピーダンス比または上記ツーリング係数を補正し、
(e)上記第1水晶振動子による上記基板に形成される上記蒸着材料の蒸着速度の制御をさらに続け、上記第1水晶振動子の上記共振周波数が許容範囲外になった場合には、上記第1膜厚センサから上記第1水晶振動子以外の第1水晶振動子を選択し、
(f)上記(b)から上記(e)までの工程が繰り返される。
【0016】
このような蒸着方法によれば、複数の第1水晶振動子を含む第1膜厚センサにおいて、基準となる第2水晶振動子で検知された蒸着速度を基準にして、それぞれの第1水晶振動子のツーリング係数が予め補正される。これにより、それぞれの第1水晶振動子の特性によって生じる蒸着速度のばらつきが抑えられる。さらに、選択された第1水晶振動子を長時間使用した結果、第2水晶振動子で検知された蒸着速度と第1水晶振動子で検知される蒸着速度の差が目的値外となったとしても、第1水晶振動子と膜との音響インピーダンス比またはツーリング係数が補正されるので、それぞれの第1水晶振動子によって検知される蒸着速度のばらつきが長時間にわたり抑えられる。
【0017】
上記の蒸着方法においては、上記(c)工程及び(e)工程では、上記第2水晶振動子に対向するシャッタが閉じられてもよい。
【0018】
このような蒸着方法によれば、ツーリング係数または音響インピーダンス比が補正された後に、第2水晶振動子に対向するシャッタが閉じられるので、第1水晶振動子による検知を長時間続けても、第2水晶振動子には微量な膜が付着するだけで足りる。これにより、第1水晶振動子による検知を長時間続けても、1つの第2水晶振動子によって検知される蒸着速度を長時間にわたり基準の蒸着速度とすることができる。
【0019】
上記の蒸着方法においては、上記蒸着源に対する、上記第1膜厚センサ及び上記第2膜厚センサのそれぞれの上記配置位置を固定して、上記(a)~上記(f)の工程が実行されてもよい。
【0020】
このような蒸着方法によれば、蒸着源に対する、第1膜厚センサ及び第2膜厚センサのそれぞれの幾何学的位置が固定されているので、第1膜厚センサ及び第2膜厚センサの移動による検知の誤差が起きにくくなる。
【0021】
上記の蒸着方法においては、上記(c)工程または上記(e)工程の途中において、上記(a)工程が実行されてもよい。
【0022】
これにより、蒸着源を起因とする蒸着速度の経時変化があったとしても、第2水晶振動子によって、蒸着源を起因とする蒸着速度を補正することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上述べたように、本発明によれば、複数の水晶振動子を備えた膜厚センサにおいて、複数の水晶振動子によって検知される蒸着速度のばらつきが抑えられ、長時間にわたり蒸着速度が高精度に制御される蒸着装置及び蒸着方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】図(a)及び図(b)は、本実施形態に係る蒸着装置の概略的断面図である。図(c)は、本実施形態に係る蒸着装置に設置された膜厚センサの概略的斜視図である。
図2】本実施形態に係る蒸着装置のブロック構成図である。
図3】本実施形態に係る蒸着方法を説明するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。各図面には、XYZ軸座標が導入される場合がある。
【0026】
図1(a)及び図1(b)は、本実施形態に係る蒸着装置の概略的断面図である。図1(c)は、本実施形態に係る蒸着装置に設置された膜厚センサの概略的斜視図である。図1(a)が正面図とした場合、図1(b)は、側面図に相当する。
【0027】
蒸着装置1は、真空容器10と、蒸着源20と、基板搬送機構30と、膜厚測定器40と、温度センサ50と、制御装置60とを具備する。蒸着装置1では、X軸方向における基板90と蒸着源20との相対位置を変えながら、基板90に蒸着材料20mが蒸着される。図1(a)、(b)では、蒸着源20が固定され、蒸着源20の上方をX軸方向に基板90が移動する装置が例示されている。
【0028】
真空容器10は、減圧状態が維持することが可能な容器である。真空容器10には、真空容器10内のガスを排気する排気系が設けられる。また、真空容器10には、真空容器10外から真空容器10内にガスを供給することが可能なガス供給機構が設けられてもよい。真空容器10をX-Y平面で切断したときの形状は、例えば、矩形状である。
【0029】
蒸着源20は、真空容器10内に設けられている。蒸着源20は、例えば、真空容器10内の底部または底部近傍に設けられている。蒸着源20は、複数の蒸着源20sを有する。複数の蒸着源20sのそれぞれは、基板90が移動する方向に対して交差する方向(例えば、直交する方向)に並ぶ。蒸着源20は、いわゆるリニアソース型の蒸着源である。
【0030】
複数の蒸着源20sのそれぞれは、蒸着材料20mを収容する。複数の蒸着源20sのそれぞれは、加熱装置(不図示)が設けられ、外部から供給される交流電圧によって加熱される。複数の蒸着源20sのそれぞれが加熱されると、複数の蒸着源20sのそれぞれから、基板90に向けて蒸着材料20mが蒸発する。加熱装置は、例えば、誘導加熱装置または抵抗加熱装置である。蒸着材料20mは、例えば、有機EL素子の発光層及びキャリア輸送層を構成する有機材料である。また、蒸着材料20mは、有機材料とは限らず、無機材料、金属等でもよい。
【0031】
基板搬送機構30は、蒸着源20上に設けられる。基板搬送機構30は、基板90が基板ホルダ91によって保持された状態で、基板90及び基板ホルダ91を真空容器10内で搬送する。基板搬送機構30には、基板90側に図示しないロール機構が設けられる。例えば、基板搬送機構30は、基板90及び基板ホルダ91を複数の蒸着源20sのそれぞれが並ぶ方向に対して直交する方向に搬送する。
【0032】
複数の蒸着源20sのそれぞれから、基板90に向けて蒸着材料20mが蒸発すると、基板90の成膜対象面90dに蒸発物質が付着して、基板90に所望の厚みの薄膜が形成される。また、基板90を一定速度で移動しながら、成膜対象面90dへの蒸着を行うことにより、成膜対象面90dにおける局所成膜が抑えられ、成膜対象面90dに均一な厚みの薄膜が形成される。
【0033】
膜厚測定器40は、膜厚センサ41(第1膜厚センサ)と、膜厚センサ42(第2膜厚センサ)とを有する。膜厚センサ41、42は、蒸着源20からの蒸着材料20mの量を測定し、基板90に形成される薄膜の厚み(または、蒸着速度)を制御する。膜厚センサ41、42は、蒸着源20に対向する。但し、膜厚センサ41、42は、蒸着材料20mが基板90に到達するのを妨げないように配置される。例えば、膜厚センサ41、42は、蒸着源20と基板90との間には配置されない。蒸着装置1では、蒸着源20に対する、膜厚センサ41、42のそれぞれの幾何学的位置が固定されている。膜厚センサ41、42の出力は、制御装置60に入力される。
【0034】
ここで、膜厚センサ41は、実測用のセンサとして用いられる。膜厚センサ42は、実測用の膜厚センサ41を補正する基準センサとして用いられる。
【0035】
膜厚センサ41は、本体41bと、複数の水晶振動子41c(第1水晶振動子)と、回転式のシャッタ41sを有する(図1(c))。膜厚センサ41は、例えば、12個の水晶振動子41cを含むマルチセンサである。膜厚センサ41に含まれる水晶振動子41cの数は、12個に限らない。
【0036】
シャッタ41sには、複数の水晶振動子41cのいずれかが露出する開口41hが設けられている。シャッタ41sの回転により、膜厚センサ41から任意の水晶振動子41cが露出、選択される。膜厚センサ41では、膜厚センサ41から選択される任意の水晶振動子41cによって、それぞれの水晶振動子41cに形成される蒸着材料20mの蒸着速度が検知可能である。
【0037】
膜厚センサ42は、本体42bと、基準となる水晶振動子42c(第2水晶振動子)と、シャッタ42sとを含む。膜厚センサ42では、水晶振動子42cに形成される蒸着材料20mの蒸着速度が検知可能である。但し、水晶振動子42cは、基準の水晶振動子とされ、蒸着源20から蒸発する蒸着材料20mの蒸発量の初期の調整、水晶振動子41cに対して入力する設定値の補正に用いられる。その設定値とは、例えば、以下の2つの設定値があげられる。
【0038】
例えば、膜厚測定器40では、蒸着源20に対する基板90と、膜厚センサ41との配置位置(幾何的位置)によって、基板90に形成される蒸着材料20mの蒸着速度と、複数の水晶振動子41cのそれぞれに形成される蒸着材料20mの蒸着速度とに、誤差が生じる。この誤差を補正するツーリング係数(T Factor(T.F.))が複数の水晶振動子41cのそれぞれに対して設定可能になっている。
【0039】
さらに、膜厚測定器40では、水晶振動子41cと水晶振動子41cに形成される膜との音響インピーダンス比(Z-Ratio(Z.R.))を複数の水晶振動子41cのそれぞれに対して設定可能になっている。
【0040】
なお、ツーリング係数及び音響インピーダンス比は、水晶振動子42cに対しても設定可能である。
【0041】
温度センサ50は、複数の蒸着源20sのそれぞれに設置されている。温度センサ50は、例えば、熱電対により温度を測定する。温度センサ50は、制御装置60に接続されている。温度センサ50は、適宜、蒸着装置1から取り除いてもよい。
【0042】
制御装置60は、膜厚測定器40及び温度センサ50の測定結果に基づいて、蒸着源20に設けられた加熱装置に供給される電力(交流電圧)を調整し、蒸着源20を所望の温度に調整し、蒸着材料20mの量が所望の値となるように制御する。
【0043】
図2(a)及び図2(b)は、本実施形態に係る蒸着装置のブロック構成図である。ここで、図中のSVは、設定信号であり、SPは、目標信号であり、MVは、制御信号であり、PVは、測定信号である。
【0044】
蒸着装置1では、膜厚測定器40の膜厚センサ41から任意の水晶振動子41c(第1水晶振動子)が選択され、水晶振動子41cに形成される蒸着材料20mの蒸着速度を検知することによって、基板90に形成される蒸着材料20mの膜厚が制御される。
【0045】
例えば、図2(a)には、温度センサ50を使用しない例が示されている。この場合、使用者によって所望の蒸着速度(SV)が蒸着装置1に設定されると、蒸着速度(SV)と、水晶振動子41cによって検知された蒸着速度(PV)との差が目的値内に収まるように交流電源に制御信号(MV)が送られる。この結果、使用者は、所望する蒸着速度で基板90に蒸着材料20mを蒸着することができる。この制御は、例えば、PID(Proportional Integral Differential)制御により行われる。
【0046】
なお、水晶振動子41cによって検知される蒸着速度(PV)は、速度フィルタによって平均化処理がなされる。これらのPID制御及び膜厚測定器40の管理は、制御装置60により一括して行われる。
【0047】
一方、温度センサ50を使用し、蒸着源20の温度を管理することにより、基板90に形成される蒸着材料20mの膜厚を制御することもできる。例えば、図2(b)に示すように、蒸着速度(SV)と、蒸着速度(PV)との差は、温度差として予め変換される。そして、この温度差が目的値内に収まるように、温度センサ50によって検知された温度(PV)が所望の温度になるように、交流電源に制御信号(MV)が送られる。この結果、使用者は、所望する蒸着速度で基板90に蒸着材料20mを蒸着することができる。
【0048】
特に、リニアソース型の蒸着源20のように、熱容量が大きい蒸着源を用いる場合は、蒸着源20の蒸発量を直接的に検知して蒸着速度を制御する方法(図2(a))よりも、蒸着源20の温度を検知して蒸着速度を制御する方法(図2(b))のほうが、蒸発量の過度現象が抑制されて、より精度の高い膜厚制御ができる。
【0049】
しかし、膜厚センサ41は、複数の水晶振動子41cを含む。これら複数の水晶振動子41cのそれぞれの特性がばらついた場合、蒸着材料20mの蒸発量が一定だとしても、複数の水晶振動子41cのそれぞれによって検知される蒸着速度が同じ値を示すとは限らない。例えば、複数の水晶振動子41cのそれぞれの表面状態(例えば、研磨状態)が異なる場合、複数の水晶振動子41cのそれぞれによって検知される蒸着速度が異なってしまう
【0050】
これにより、図2(a)、(b)で示した制御を試みても、PID制御で用いられる蒸着速度(PV)の信号が水晶振動子ごとにばらついてしまい、基板90に形成される蒸着材料20mの蒸着速度が水晶振動子ごとにばらつくことになる。
【0051】
このような状況の中、蒸着装置1では、以下の蒸着方法により、蒸着速度(PV)の信号が水晶振動子ごとにばらつくことなく、基板90に形成される蒸着材料20mの蒸着速度が各水晶振動子を用いて高精度に制御される。この方法は、制御装置60によって自動的に行われる。
【0052】
図3は、本実施形態に係る蒸着方法を説明するグラフ図である。
【0053】
図3の上段には、基準となる水晶振動子42cによって検知された蒸着速度(nm/s)が示されている。図3の下段には、実測用の複数の水晶振動子41cによって検知された蒸着速度(nm/s)が示されている。ここで、実線枠は、水晶振動子41cにおいて、ツーリングファクタ(T.F.)が補正されている期間を示し、破線枠は、音響インピーダンス比(Z.R.)またはT.F.が補正されている期間を意味する。また、図3の横軸が所々で分断されている理由は、この分断されている期間において、実線枠及び破線枠に要する時間よりも長い時間が経過していることを意味している。
【0054】
まず、本実施形態では、膜厚センサ41以外に、水晶振動子42cを含む膜厚センサ42を基準センサとして用いる。基板90に蒸着材料20mを形成する前に、水晶振動子42cによって検知される蒸着速度に基づいて、基板90に形成される蒸着材料20mの蒸着速度を調整する(ステップ(a))。
【0055】
例えば、水晶振動子42cを用いて、基板90への短時間の蒸着を試み、水晶振動子42cが検知する蒸着速度と、基板90に形成される膜の蒸着速度との関係(検量線による対応付け)を予め取得しておく。ここで、基板90に形成される膜の厚みは、エリプソメータ、触針式膜厚計等で測定される。また、水晶振動子42cのT.F.値は、100%とする。なお、Z.R.値は、蒸着材料20mの固有の値が入力される。
【0056】
例えば、検量線において、水晶振動子42cが検知する蒸着速度が9.0nm/sのとき、基板90に形成される膜の蒸着速度が10.0nm/sのとき、基板90に形成される膜の蒸着速度を10.0nm/sに制御したいときは、水晶振動子42cが検知する蒸着速度が9.0nm/sとなるように交流電源の電力を調整すればよい。これにより、基板90に形成される膜の蒸着速度を精度よく調整することができる。
【0057】
または、検量線を作成せずとも、水晶振動子42cが検知する蒸着速度と、基板90に形成される膜の蒸着速度とが一致するように、水晶振動子42cのT.F.値を調整してもよい。
【0058】
なお、基板90に形成される膜の所望の蒸着速度に対応した水晶振動子42cが検知する蒸着速度をref.値(基準値)とする。
【0059】
但し、このまま水晶振動子42cを用いて、基板90に形成される膜の蒸着速度を制御し続けると、水晶振動子42cが寿命に達したときに、水晶振動子42cを交換するため真空容器10を大気暴露しなければならない。さらに、新しい水晶振動子42cの検量線を再び作成したり、新しい水晶振動子42cのT.F.値を再調製したりしなければならない。これにより、単一の水晶振動子42cを用いる方法では、長時間にわたる蒸着速度の制御ができなくなり、生産性が向上しない。
【0060】
そこで、本実施形態では、蒸着速度の実測として、蒸着速度の検知を膜厚センサ42から複数の水晶振動子41cを持つ膜厚センサ41に切り替える。
【0061】
ここで、基板90に蒸着材料20mを形成する前に、膜厚センサ41から選択されたいずれかの水晶振動子41cによって検知される蒸着速度と、水晶振動子42cによって検知される蒸着速度との差が目的値となるように、水晶振動子41cのツーリング係数(T.F.値)を補正する(ステップ(b))。
【0062】
例えば、蒸着装置1における、水晶振動子41c、42cのそれぞれの配置位置は異なる。または、水晶振動子41c、42cのそれぞれの特性が異なる場合がある。このため、水晶振動子42cが基準値(ref.値)を示すとき、水晶振動子41cが同じ基準値(ref.値)を示すとは限らない。
【0063】
従って、膜厚センサ41から選択された最初の水晶振動子41c-1によって検知される蒸着速度と、水晶振動子42cによって検知される蒸着速度との差が、例えば、「0(nm/s)」となるように、水晶振動子41c-1のツーリング係数(T.F.値)を補正する。この補正によって、水晶振動子41c-1で検知される蒸着速度は、基準値(ref.値)を示すことになる。Z.R.値は、蒸着材料20mの固有の値が入力される。
【0064】
なお、水晶振動子41c-1によって検知される蒸着速度と、水晶振動子42cによって検知される蒸着速度との差は、「0」に調整しなくてもよい。例えば、水晶振動子41c-1によって検知される蒸着速度が水晶振動子42cによって検知される蒸着速度の整数倍になるように、水晶振動子41c-1のT.F.値を調整してもよい。すなわち、水晶振動子41c-1によって検知される蒸着速度と、水晶振動子42cによって検知される蒸着速度との差の対応付けを行えばよい。本実施形態では、一例として、水晶振動子41c-1によって検知される蒸着速度と、水晶振動子42cによって検知される蒸着速度との差が「0」の場合を例示する。
【0065】
次に、基板90に蒸着材料20mが形成される際に、水晶振動子41c-1で検知される蒸着速度に基づいて、基板90に形成される蒸着材料20mの蒸着速度を制御する(ステップ(c))。これは、水晶振動子41c-1のT.F.値が補正されたことによって、水晶振動子41c-1が水晶振動子42cと同じ機能を持つからこそ、実行できるのである。
【0066】
但し、水晶振動子41c-1による蒸着速度の検知を続けた結果、水晶振動子41c-1の検知時間または水晶振動子41c-1の共振周波数が所定範囲を超え、上記の差が目的値でなくなる場合がある。
【0067】
これは、水晶振動子に蒸着材料20mが堆積したときに、水晶振動子41cの反りの程度が個々の水晶振動子41cによって微妙にばらつくことに基づく。このような場合には、上記の差が目的値になるように、水晶振動子41c-1のZ.R.値を補正する(ステップ(d))。または、Z.R.値の代わりに、強制的にT.F.値を補正してもよい。
【0068】
次に、水晶振動子41c-1による基板90に形成される蒸着材料20mの蒸着速度の制御をさらに続け、水晶振動子41c-1の共振周波数が許容範囲外になった場合には、膜厚センサ41から水晶振動子41c-1以外の水晶振動子41c-2を選択する(ステップ(e))。すなわち、水晶振動子41c-1がいわゆる寿命に達した場合は、水晶振動子41c-1から新規の水晶振動子41c-2に切り替える。
【0069】
次に、この水晶振動子41c-2を用いて、ステップ(b)からステップ(e)までのステップを繰り返す(ステップ(f))。
【0070】
水晶振動子41c-2に対して、水晶振動子41c-1と同じT.F.値及びZ.R.値を入力しても、水晶振動子41c-1と同じ蒸着速度を示すとは限らない。これは、水晶振動子41c-1と、水晶振動子41c-2との表面状態が異なる場合があるからである。従って、新規の水晶振動子41c-2を用いて、ステップ(b)からステップ(e)までのステップを繰り返すことにより、水晶振動子41c-2も水晶振動子42cと同じ機能を持つことになる。
【0071】
さらに、水晶振動子41c-2が寿命に達したら、新規の水晶振動子41c-3を用いて、ステップ(b)からステップ(e)までのステップを繰り返す(ステップ(f))。この繰り返しは、膜厚センサ41に含まれる全ての水晶振動子41cに対して行われる。そして、膜厚センサ41に含まれる全ての水晶振動子41cの使用が終わったら、膜厚センサ41を別の膜厚センサ41に交換する。
【0072】
このような蒸着方法によれば、複数の水晶振動子41cを含む膜厚センサ41において、基準となる水晶振動子42cで検知された蒸着速度を基準にして、それぞれの水晶振動子41cのツーリング係数が予め補正される。これにより、それぞれの水晶振動子41cの特性によって生じる蒸着速度のばらつきが抑えられる。さらに、選択された水晶振動子41cを長時間使用した結果、水晶振動子42cで検知された蒸着速度と水晶振動子41cで検知される蒸着速度の差が目的値外となったとしても、水晶振動子41cの音響インピーダンス比またはツーリング係数が補正される。この結果、それぞれの水晶振動子41cによって検知される蒸着速度のばらつきが長時間にわたり抑えられる。
【0073】
また、本実施形態では、膜厚測定器40において、(c)ステップ及び(e)ステップ、すなわち、水晶振動子41cの補正が終了し、水晶振動子41cによって蒸着材料20mの蒸着速度を制御しているときは、水晶振動子42cに対向するシャッタ42sが閉じられる。
【0074】
これにより、ツーリング係数または音響インピーダンス比が補正された後に、膜厚測定器42では、シャッタ42sが閉じられるので、水晶振動子41cによる検知を長時間続けても、水晶振動子42cには微量な膜が付着するだけで足りる。これにより、1つの水晶振動子42cを長時間にわたり基準の水晶振動子とすることができる。
【0075】
また、本実施形態では、蒸着源に対する、膜厚センサ41、42のそれぞれの幾何学的位置が固定されているので、膜厚センサ41、42の移動による検知の誤差が起きにくくなる。
【0076】
また、本実施形態では、(c)ステップまたは(e)ステップの途中、すなわち、水晶振動子41cの補正が終了し、水晶振動子41cによって蒸着材料20mの蒸着速度を制御している途中に、(a)ステップ、すなわち、水晶振動子42cによって蒸着材料20mの蒸着速度の調整が実行されてもよい。
【0077】
これにより、蒸着源20を起因とする蒸着速度の経時変化があったとしても、水晶振動子42cによって、蒸着源20に投入される電力が補正されて、蒸着源20を起因とする蒸着速度を補正することができる。
【0078】
水晶振動子42cを用いた補正を行わず、12個の水晶振動子41cを連続して用いた場合の蒸着速度の誤差が3%以上であるときに、本実施形態では、該誤差が1%以下に抑えられる。ここで、誤差は、((実蒸着速度(Max)-狙い蒸着速度)/狙い蒸着速度)×100%、または((狙い蒸着速度-実蒸着速度(Min))/狙い蒸着速度)×100%の式から算出される。また、蒸着速度は、0.01nm/秒~数10nm/秒である。また、本実施形態により、水晶振動子41cを用いて、300時間以上の連続的な制御が可能になる。
【0079】
また、蒸着速度を測定する別の手段として、基板90にレーザ光を照射させながらin-situによって計測するエリプソメトリ観察がある。しかし、エリプソメトリでは、基板90が多積構造の場合、レーザ光が乱反射したり、基板90の種類に応じて条件依存が生じたりする場合がある。これに対して、本願のように水晶振動子を用いれば、多層構造、基板種の影響を受けずに、長時間にわたり蒸着速度を精度よく測定することができる。
【0080】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合させることができる。なお、本実施形態に係る「ステップ」は、蒸着方法で「工程」と読み替えられる。
【符号の説明】
【0081】
1…蒸着装置
10…真空容器
20、20s…蒸着源
20m…蒸着材料
30…基板搬送機構
40…膜厚測定器
41、42…膜厚センサ
41c、41c-1、41c-2、41c-3、42c…水晶振動子
41s、42s…シャッタ
41h…開口
42b…本体
50…温度センサ
60…制御装置
90…基板
90d…成膜対象面
91…基板ホルダ
図1
図2
図3