(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】リソグラフィ装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20220711BHJP
【FI】
G03F7/20 503
G03F7/20 521
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018090435
(22)【出願日】2018-05-09
【審査請求日】2021-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】504151804
【氏名又は名称】エーエスエムエル ネザーランズ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン オーステン,アントン,ベルンハルト
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-538452(JP,A)
【文献】特開2012-060178(JP,A)
【文献】特表2013-518418(JP,A)
【文献】特表2016-503186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長λを有する放射ビームを調節するように構成された照明システムを備え、
前記照明システムは
反射性の光学要素を備え、
前記光学要素は第1の層及び第2の層を有する二層を備え、
前記二層は、入射角(aoi)で前記二層に入射する放射が前記二層から反射されて、前記反射放射のs偏光成分が前記入射放射のs偏光成分に対して増大するように構成されて
おり、
前記二層から反射された前記s偏光放射の反射率が前記aoiについて最大となるように、前記二層の厚さはλ/(2cos(aoi))に実質的に等しい、
リソグラフィ装置。
【請求項2】
前記二層は、ブルースター角に相当する入射角(aoi)で前記二層に入射する放射が前記二層から反射されて前記反射放射が実質的に完全にs偏光されるように構成されている、請求項
1に記載のリソグラフィ装置。
【請求項3】
前記二層の前記厚さは、前記二層から反射された前記s偏光放射の前記反射率がブルースター角において最大となるように構成されている、請求項1
又は2に記載のリソグラフィ装置。
【請求項4】
前記第1及び第2の層の厚さの比は少なくとも1:1.5であり、最大で1.5:1である、請求項1から
3のいずれかに記載のリソグラフィ装置。
【請求項5】
前記二層における前記第1の層の前記厚さと前記第2の層の前記厚さとの前記比は実質的に1:1.5である、請求項
4に記載のリソグラフィ装置。
【請求項6】
前記光学要素は複数の二層を含む多層を備える、請求項1から
5のいずれかに記載のリソグラフィ装置。
【請求項7】
前記光学要素は少なくとも10の二層を含む、請求項
6に記載のリソグラフィ装置。
【請求項8】
前記二層はMoSi又はRuSiを含む、請求項1から
7のいずれかに記載のリソグラフィ装置。
【請求項9】
前記照明システムは、前記光学要素の入射面に対して垂直な面内に実質的に配置されたリフレクタを備え、前記光学要素を通って透過されたp偏光放射が前記リフレクタの面に対してs偏光されるようになっており、前記リフレクタは前記放射を反射するように構成されている、請求項1から
8のいずれかに記載のリソグラフィ装置。
【請求項10】
前記光学要素は前記照明システムのフィールド面に位置決めされている、請求項1から
9のいずれかに記載のリソグラフィ装置。
【請求項11】
前記照明システムは複数の光学要素を備える、請求項1から
10のいずれかに記載のリソグラフィ装置。
【請求項12】
前記リソグラフィ装置はEUVリソグラフィ装置である、請求項1から
11のいずれかに記載のリソグラフィ装置。
【請求項13】
反射性の光学要素を備えた照明システムを有するリソグラフィ装置のために放射を偏光する方法であって、
波長λを有する放射を、第1の層及び第2の層を有する二層を備えた前記光学要素に入射角(aoi)で入射するように誘導することと、
前記二層から放射を反射させて、前記反射放射のs偏光成分が前記入射放射のs偏光成分に対して増大するようにすることと、
を含み、
前記二層から反射された前記s偏光放射の反射率が前記aoiについて最大となるように、λ/(2cos(aoi))に実質的に等しい厚さを有する前記二層から放射を反射させる
方法。
【請求項14】
ブルースター角に相当する入射角(aoi)で前記二層から放射を反射させて前記反射放射が実質的に完全にs偏光されるようにすることを更に含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
ブルースター角に相当する入射角(aoi)で前記二層から放射を反射させることを更に含み、前記二層の前記厚さは、前記二層から反射された前記s偏光放射の前記反射率がブルースター角において最大となるように構成されている、請求項13
又は14に記載の方法。
【請求項16】
複数の二層を含む多層から放射を反射させることを更に含む、請求項13から
15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記光学要素の入射面に対して垂直な面内に実質的に配置されたリフレクタから前記光学要素を通って透過された放射を反射させて、前記光学要素を通って透過されたp偏光放射が前記リフレクタの面に対してs偏光放射として反射されるようにすることを更に含む、請求項13から
16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記放射はEUV放射である、請求項13から
17のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本発明は、リソグラフィ装置、及び、リソグラフィ装置において放射を偏光させるための方法に関する。更に特定すれば、リソグラフィ装置においてEUV放射を偏光させることである。
【背景技術】
【0002】
[0002] リソグラフィ装置は、所望のパターンを基板に適用するように構成された機械である。リソグラフィ装置は、例えば集積回路(IC)の製造に使用可能である。リソグラフィ装置は、例えば、パターニングデバイス(例えばマスク)におけるパターンを、基板上に設けた放射感応性材料(レジスト)の層に投影することができる。
【0003】
[0003] 基板にパターンを投影するため、リソグラフィ装置は電磁放射を用いることができる。この放射の波長は、基板上に形成できるフィーチャの最小サイズを決定する。4~20nmの範囲内の波長、例えば6.7nm又は13.5nmの波長を有する極端紫外線(EUV)放射を使用するリソグラフィ装置を用いて、例えば193nmの波長の放射を使用するリソグラフィ装置よりも小さいフィーチャを基板上に形成することができる。
【0004】
[0004] プラズマ源からのEUV放射はインコヒーレントであるので、EUV放射は一般に偏光状態で生成されない。これは、例えば、放射源からすでに偏光状態で生成できる深紫外線(DUV)放射とは対照的である。リソグラフィ装置で使用するため、EUV放射を偏光することが望まれている。EUV放射は物質によって比較的大きく吸収され(例えば透過のために真空が必要である)、このため、EUV放射の大部分が失われる際に偏光EUV放射を得ることは問題である。
【発明の概要】
【0005】
[0005] 本発明の第1の態様によれば、波長λを有する放射ビームを調節するように構成された照明システムを備えるリソグラフィ装置が提供される。照明システムは光学要素を備え、光学要素は第1の層及び第2の層を有する二層を備え、二層は、入射角(aoi)で二層に入射する放射が二層から反射されて、反射放射のs偏光成分が入射放射のs偏光成分に対して増大するように構成されている。
【0006】
[0006] 二層から反射されたs偏光放射の反射率がaoiについて最大となるように、二層の厚さはλ/(2cos(aoi))に実質的に等しくすることができる。
【0007】
[0007] 二層は、ブルースター角に相当する入射角(aoi)で二層に入射する放射が二層から反射されて反射放射が実質的に完全にs偏光されるように構成され得る。
【0008】
[0008] 二層の厚さは、二層から反射されたs偏光放射の反射率がブルースター角において最大となるように構成され得る。
【0009】
[0009] 第1及び第2の層の厚さの比は少なくとも1:1.5であり、最大で1.5:1であり得る。
【0010】
[00010] 二層における第1の層の厚さと第2の層の厚さとの比は実質的に1:1.5であり得る。
【0011】
[00011] 光学要素は複数の二層を含む多層を備え得る。
【0012】
[00012] 光学要素は少なくとも10の二層を含み得る。
【0013】
[00013] 二層はMoSi又はRuSiを含み得る。
【0014】
[00014] 照明システムは、光学要素の入射面に対して垂直な面内に実質的に配置されたリフレクタを備え、光学要素を通って透過されたp偏光放射がリフレクタの面に対してs偏光されるようになっており、リフレクタは放射を反射するように構成され得る。
【0015】
[00015] 光学要素は照明システムのフィールド面に位置決めされ得る。
【0016】
[00016] 照明システムは複数の光学要素を備え得る。
【0017】
[00017] リソグラフィ装置はEUVリソグラフィ装置であり得る。
【0018】
[00018] 本発明の第2の態様によれば、光学要素を備えた照明システムを有するリソグラフィ装置のために放射を偏光する方法が提供される。この方法は、波長λを有する放射を、第1の層及び第2の層を有する二層を備えた光学要素に入射角(aoi)で入射するように誘導することと、二層から放射を反射させて、反射放射のs偏光成分が入射放射のs偏光成分に対して増大するようにすることと、を含む。
【0019】
[00019] 方法は、二層から反射されたs偏光放射の反射率がaoiについて最大となるように、λ/(2cos(aoi))に実質的に等しい厚さを有する二層から放射を反射させることを更に含み得る。
【0020】
[00020] 方法は、ブルースター角に相当する入射角(aoi)で二層から放射を反射させて反射放射が実質的に完全にs偏光されるようにすることを更に含み得る。
【0021】
[00021] 方法は、ブルースター角に相当する入射角(aoi)で二層から放射を反射させることを更に含むことができ、二層の厚さは、二層から反射されたs偏光放射の反射率がブルースター角において最大となるように構成され得る。
【0022】
[00022] 方法は、複数の二層を含む多層から放射を反射させることを更に含み得る。
【0023】
[00023] 方法は、光学要素の入射面に対して垂直な面内に実質的に配置されたリフレクタから光学要素を通って透過された放射を反射させて、光学要素を通って透過されたp偏光放射がリフレクタの面に対してs偏光放射として反射されるようにすることを更に含み得る。
【0024】
[00024] 放射はEUV放射であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
[00025] 以下で、添付の概略図を参照して、一例としてのみ本発明の実施形態について説明する。
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に従ったリソグラフィ装置及び放射源を備えたリソグラフィシステムを示す。
【
図2】レンズを通過して基板上に至る放射ビームを示す。
【
図4】本発明の一実施形態に従った、多層に関連した反射、透過、及び放射損失のグラフを示す。
【
図5】本発明の一実施形態に従った、多層に関連した反射、透過、及び放射損失のグラフを示す。
【
図6】本発明の一実施形態に従った、多層に関連した反射、透過、及び放射損失のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[00026]
図1は、放射源SO及びリソグラフィ装置LAを備えたリソグラフィシステムを示す。放射源SOは、EUV放射ビームBを生成し、このEUV放射ビームBをリソグラフィ装置LAに供給するように構成されている。リソグラフィ装置LAは、照明システムILと、パターニングデバイスMA(例えばマスク)を支持するように構成された支持構造MTと、投影システムPSと、基板Wを支持するように構成された基板テーブルWTと、を備えている。
【0028】
[00027] 照明システムILは、EUV放射ビームBがパターニングデバイスMAに入射する前にEUV放射ビームBを調節するように構成されている。そのため、照明システムILは、ファセットフィールドミラーデバイス10及びファセット瞳ミラーデバイス11を含むことができる。ファセットフィールドミラーデバイス10及びファセット瞳ミラーデバイス11は共に、EUV放射ビームBに所望の断面形状と所望の強度分布を与える。照明システムILは、ファセットフィールドミラーデバイス10及びファセット瞳ミラーデバイス11に加えて又はこれらの代わりに、他のミラー又はデバイスを含むことができる。この例では、ファセットフィールドミラーデバイスは、少なくとも部分的に偏光されている反射EUV放射ビームBを生成するために少なくとも1つの多層30(すなわち光学要素)を含む。これについては、後で更に詳しく説明する。
【0029】
[00028] このように調節された後、EUV放射ビームBはパターニングデバイスMAと相互作用する。この相互作用の結果、パターン付きEUV放射ビームB’が生成される。投影システムPSは、パターン付きEUV放射ビームB’を基板Wに投影するように構成されている。この目的のため、投影システムPSは、基板テーブルWTによって保持された基板Wにパターン付きEUV放射ビームB’を投影するように構成された複数のミラー13、14を備えることができる。投影システムPSは、パターン付きEUV放射ビームB’に縮小係数を適用し、これによって、パターニングデバイスMAにおける対応するフィーチャよりも小さいフィーチャの像を形成できる。例えば、4又は8の縮小係数を適用できる。投影システムPSは、
図1では2つのミラー13、14のみを有するように図示されているが、投影システムPSは異なる数のミラー(例えば6又は8のミラー)を含み得る。
【0030】
[00029] 基板Wは、前もって形成されたパターンを含み得る。これが当てはまる場合、リソグラフィ装置LAは、パターン付きEUV放射ビームB’によって形成される像を、基板W上に前もって形成されたパターンとアライメントを行う。
【0031】
[00030] 相対真空(relative vacuum)、すなわち大気圧を大きく下回る圧力の少量のガス(例えば水素)を、放射源SO、照明システムIL、及び/又は投影システムPS内に提供することができる。
【0032】
[00031] 放射源SOは、レーザ生成プラズマ(LPP)源、放電生成プラズマ(DPP)源、自由電子レーザ(FEL)、又はEUV放射を生成できる他の任意の放射源とすればよい。
【0033】
[00032]
図2は、パターン18を用いて提供された放射ビーム16を示す。放射ビーム16はレンズ20によって基板W上に屈折される。放射ビーム16は、図示のように、p偏光成分(レンズ20の入射面に対して平行に偏光された放射)を有する。具体的には、放射ビーム16は、入射面に対して平行な面内に波動ベクトルk
1及び電場ベクトルE
1を有する光線と、入射面に対して平行な面内に波動ベクトルk
2及び電場ベクトルE
2を有する光線とによって示されている。
【0034】
[00033] レンズ20は比較的大きい開口数(NA)を有する。これは、電場ベクトルE
1及びE
2を有する光線が双方ともレンズ20から比較的大きい角度で屈折することを意味する。これは、光線がウェーハWに到達する際に(部分的な楕円22の部分を参照のこと)、光線がほぼ反対方向であることを意味する。更に、電場ベクトルE
1及びE
2は、ほぼ反対方向である(
図2の下部の部分的な楕円22の拡大図を参照のこと)。これは、p偏光放射(波動)が基板Wにおいて相互に打ち消し合う傾向があることを意味する。これは、大きい伝搬角度差ではp偏光放射波の干渉が不完全であるからである。従って、高NA系には何らかの形態の偏光制御が必要である。DUV高NA系は一般に、これを回避するため高度に偏光された放射を使用する。しかしながら上述のように、高度に偏光されたEUV放射を得ることは問題である(EUVプラズマ源がインコヒーレントな放射を生成し、EUV放射の吸収が大きいため)。
【0035】
[00034]
図3は、多層30(すなわち光学要素)を示し、入射EUV放射ビームBは波長λを有し、反射EUV放射ビームB’は多層30から反射されている。この点で、多層30は多層ミラーであると考えられる。多層ミラーは、異なる屈折率の層材料が交互に配置された周期的スタックである。各界面において、入射した放射の一部が反射され、残りはスタック内に深く浸透して部分的に他の界面で反射される。部分的に反射されたコヒーレントビームは全て相互に干渉する。多層30は、図示しない膜(すなわち基板)上に配置するか又はそれによって支持することができる。膜の大きさ及び厚さは、以下で更に詳しく説明するように、特定の状況(多層内の層の数等)によって異なる可能性がある。
【0036】
[00035] 入射放射ビームBは、図示のように、多層30に対する入射角(aoi)を有する。aoiは、多層30の面法線と入射放射ビームBの伝搬方向との間の角度である。多層30の入射面は、多層30の面法線31及び入射放射ビームBの波動ベクトル(k)を含む面である。反射放射ビームB’の位相、すなわち、位相Φが0の波動と位相Φが180の波動が示されている。入射放射ビームBも同様に示されている。
【0037】
[00036] 多層は複数の二層32を備えている。二層32は第1の層34及び第2の層36を含み、放射は第1の層34に入射した後、第2の層36に入射する。図示のように、二層32は相互に隣接し、多層30全体を通して第1の層34及び第2の層36が交互になっている。
【0038】
[00037] この例では、第1の層34はモリブデンから作製され、第2の層はシリコンから作製される。すなわち、二層32はMoSiである。MoSi多層30は、ルテニウムのキャッピング層で開始し、その後にシリコンがある。他の例では、二層(第1及び第2の層)は、RuSi(ルテニウムシリコン)のような他の材料から作製することができる。RuSi多層はRuから開始する。Ruはキャッピング層であるが、Moとほぼ同じように機能する。Ruは、SiRu界面においてMoよりも反射が大きいが、Moより吸収も大きいので、トレードオフとなる。Moから作製された第1の層34は、EUV放射に対して1よりも小さい屈折率を有する。Siから作製された第2の層36は、EUV放射に対してほぼ1に等しい屈折率を有する。従って、Siの第2の層36は真空の屈折率に近い屈折率を有する。Siの第2の層36は、Moの第1の層34を離間するため使用されるスペーサであると考えることができ、Siの第2の層36は比較的小さい放射吸収を与える。第1の層34と第2の層36との間の屈折率の差が、EUV放射の所望の反射と透過を与える。
【0039】
[00038] 第1の層34は厚さd1を有する。第2の層36は厚さd2を有する。第1の層34及び第2の層36の合計の厚さはDである。従って、二層32の合計の厚さはDである。すなわち、D=d1+d2である。これらの層の厚さはz方向で測定される。また、多層30の層はx方向及びy方向に延出している。多層30は、上方から、すなわちz方向で見た場合、方形又は矩形の形状を形成し得る。現実には、実際のミラーは、キャッピング層と、第1の層及び第2の層の間の急激な遷移の代わりの中間層とを有し得るが、動作原理はこれによって影響を受けない。
【0040】
[00039]
図3に示されているように、入射放射ビームBは多層30の二層32によって部分的に反射及び透過される。具体的には、反射は、二層32の第1の層34と第2の層36との間の界面で発生し得る。また、反射は、ある二層32の第2の層36と隣接する二層32の第1の層との間の界面等でも発生し得る。
【0041】
[00040] 入射放射ビームBは非偏光放射であり得る。非偏光放射は、放射波の伝搬方向に対して垂直な全ての方向の偏光成分から成る。偏光方向の各々を、相互に垂直な方向に沿った成分に分解すると、非偏光放射は、大きさの等しい2つの垂直な平面偏光ビームと見なすことができる。このため、入射放射ビームBは、p偏光成分(多層30の入射面に対して平行に偏光された放射)と、s偏光成分(多層30の入射面に対して垂直に偏光された放射)を有すると考えられ得る。
【0042】
[00041] 多層30からの反射後、反射放射ビームB’のs偏光成分は、入射放射ビームBのs偏光成分に対して増大する。換言すると、多層30からの反射後、反射放射は入射放射よりも更に偏光される。これは、s偏光成分の比較的多くの量が多層30から反射されると共に、p偏光成分の比較的多くの量が多層30内に透過されるからである。いくつかの例では、入射放射は多層30に入射する前に部分的に偏光され得る(例えば部分的にs偏光される)が、多層30からの反射後、反射放射は入射放射よりも更に偏光され得る。
【0043】
[00042] 条件kz(d1+d2)=πにおいて、放射の最大反射に到達する。ここで、kz=kcos(aoi)である。波数式k=2π/λを使用すると、d1+d2≒λ/(2cos(aoi))である。従って、二層32の厚さDはλ/(2cos(aoi))に実質的に等しい。すなわち、D≒λ/(2cos(aoi))である。これは、二層32から反射されたs偏光放射の反射率がaoiについて最大となることを意味する。式D≒λ/(2cos(aoi))を用いて二層がaoiに適合される限り、多層から反射された最大s偏光放射はaoiに依存する。厚さを低減させるために、反射率はゼロまで低下する。s偏光放射では、二層32の厚さが1/cos(aoi)としてスケーリングされるならば、最大反射は任意の入射角で発生させ得る。
【0044】
[00043]
図4は、d1(Moの第1の層34)が3.92nmであると共にd2(Siの第2の層36)が5.88nmであるMoSi二層32を50層有する多層に関連した、単一の平面波についての反射、透過、及び放射損失のグラフを示す。入射EUV放射ビームBは、実質的に13.5nmから14nmの範囲内の波長を有し得る。他の例では、EUV放射の波長は異なる場合があり、二層の厚さはこれに応じてスケーリングされ得る。
【0045】
[00044]
図4の反射グラフに示されているように、多層30から反射された放射は、約44度のaoiにおいて実質的に完全にs偏光であり(TE:transverse electric)、反射されるp偏光放射(TM:transverse magnetic)は実質的に存在しない。従って、44度のaoiは多層30のブルースター角と見なすことができる。このため、二層32(従って多層30)は、ブルースター角(ここでは≒44度)に相当するaoiで入射する放射が多層から反射されて、この反射された放射が実質的に完全にs偏光であるように構成されている。これは、多層ミラー30が、EUV放射用の偏光ミラーを生成するため使用できるブルースター角を有することを意味する。多層30が配置されている膜は、純粋に反射性のデバイスの場合は比較的厚い可能性がある。この場合、膜は全ての透過放射を吸収し得る。
【0046】
[00045] この例では、二層における第1の層34の厚さと第2の層36の厚さとの比は1:1.5である。すなわち、第1の層34は二層32全体の厚さの40%である。Siの方がMoよりも吸収が少ないので、Mo層の厚さが小さくなればなるほど、放射の吸収は少なくなる。しかしながら、Si/Mo界面において充分な反射を有するため、この比は50%の近くに維持するべきである。反射が小さくなることは、多層30内への浸透が深くなること、従って吸収が大きくなることを意味する。このため、矛盾する効果が存在する。Mo層が二層の合計の厚さの40%であることは最適な値と見なされ得る。いくつかの例では、第1及び第2の層の厚さの比は少なくとも1:1.5、最大で1.5:1であり得る。すなわち、第1の層の厚さは、二層の合計の厚さの40%の厚さから二層の合計の厚さの60%の厚さまでの範囲内であり得る。
【0047】
[00046] 二層32の厚さD(すなわちd1+d2)は、入射放射の入射角がブルースター角である場合に、二層32から反射されたs偏光放射の反射率が最大となるように選択される。
図4の反射グラフに示されているように、s偏光放射の反射率は、多層30に入射するs偏光放射の全量の約75%である。従って、ブルースター角での多層30からの反射では、(理想的には)s偏光放射の損失は25%である。これに対して、p偏光放射の反射率は、多層30に入射するp偏光放射の全量の0%である。従って、ブルースター角での多層30からの反射では、(理想的には)p偏光放射の損失は100%である。
【0048】
[00047]
図4の透過グラフは、ブルースター角ではs偏光放射の透過が存在しないこと、及び、p偏光放射のある程度の透過が存在することを示している。
図4の損失グラフは、多層30において、s偏光放射の比較的小さい、約25%の吸収が存在するが、p偏光放射の比較的大きい吸収が存在することを示している。
【0049】
[00048] s偏光放射の損失が25%であること、並びにp偏光放射全体の損失及び透過は、ほぼ6度のaoiで動作する「標準的な」多層ミラーに対する全体的な効率が約50%であることを意味する。標準的な瞳ミラーの代わりに多層30を使用すると、EUV放射では比較的高い効率である全入射放射の50%で偏光放射を提供する。放射入射角(aoi)が6度でなく約44度のブルースター角である多層ミラー30を使用するには、EUVリソグラフィ装置LAの光学設計を変更することが必要であり得る。
【0050】
[00049] 50の二層32を選択したのは、これが放射の最大反射を与える、すなわちs偏光放射の最大限75%を与えるからである。この例では、二層を50より多くしても、s偏光放射の更なる反射は与えられず、単に放射損失を増大させると共に多層30の複雑さを増すだけである。別の例では、多層30はより少ない数、すなわち50未満の二層32を有し得る。いくつかの例では、多層は10の二層を有し得る。他の例では、多層は10未満のMoSi二層を有し得る。他の例では、光学要素は単一の二層を有し得る。他の例では、1以上の二層を有する複数の光学要素を、相互に隣接させて位置決めすることも可能である。例えば、各々が1つの二層を有する10の平行なミラーは、反射光の正の干渉のために正しいミラー間距離で位置決めされた場合、10の二層を有する単一の多層ミラーと同じ効果を有し得る。実際は、そのようなデバイスにはスペーサが必要である。
【0051】
[00050]
図5は、10のMoSi二層32を有する多層30について、ある範囲のaoiでの反射、透過、及び損失の結果を示している。単一の平面波について、MoSi二層32の厚さは
図4のものと同じである、すなわち、d1は3.92nmであると共にd2は5.88nmである。
図4と同様に、放射が≒44度のブルースター角で入射する場合、多層30から反射された放射は完全にs偏光放射であるが、反射率はより低い、すなわち約65%である。放射が≒44度のブルースター角で入射する場合、10のMoSi二層32を有する多層30から反射されるp偏光放射は実質的に存在しない。
【0052】
[00051] いくつかの例では、多層30を通るp偏光放射の透過は、s偏光放射として使用されるように回収され得る。この回収された放射は、次いでリソグラフィ装置LAにおいて使用できる。例えばこれは、多層30から反射されたs偏光放射と組み合わせることができる。照明システムILは、多層30の入射面に対して垂直な面内に実質的に配置されたリフレクタ(図示せず)を含むことができ、光学要素を通って透過されたp偏光放射がリフレクタ面に対してs偏光されるようになっている。リフレクタは放射を反射するように構成されている。換言すると、多層を通って透過されたp偏光放射は、多層30の入射面に対してp偏光される。このp偏光放射は、多層30の入射面に垂直な面に対してs偏光放射であると見なされ得る。s偏光放射は、理想的には75%の透過で、任意の角度において反射させることができる。このため、リフレクタを用いてこのs偏光放射(多層30の入射面に垂直な面に対して)を反射させることで、より多くの量のEUV放射を、リソグラフィ装置LAにおいて使用するためs偏光させることが可能となる。
【0053】
[00052] 多層30が配置されている膜は、放射を透過させることができる厚さを有し得る。例えば膜は、基板Wを粒子等の汚染から保護するため使用されるペリクルと同様、比較的薄いシリコンのスライスであり得る。例えば膜は、40nmの厚さのシリコンと、腐食に対するSi3N4の10nmのキャッピングとを有し得る。膜は、ペリクルよりも小型とすることができ、フィールドミラーと同様の大きさ、例えば20cm2であり得る。膜は、透過における追加の損失を引き起こす。
【0054】
[00053] 上述のように、他の例では異なる数の二層を使用できる。例えば1つの二層は、100%反射されたs偏光放射を与え得るが、反射率は10%よりも低い可能性がある。5つの二層は、41%のs偏光放射反射率を与え得る。15の二層は、72%のs偏光反射率を与え得るが、p偏光放射透過はわずか45%であり得る。従って、10又は約10の二層の数を有すると、s偏光放射の反射率とp偏光放射の透過との良好なトレードオフを与えることができる。
【0055】
[00054]
図6は、34度のaoiで最適に反射するように多層30の厚さが選択されている場合の、ある範囲のaoiでの反射、透過、及び損失の結果をグラフで示している。この例では、d1=5.04nmであると共にd2=3.36nmである。この多層30には50のMoSi二層32が存在する。他の例では、50よりも多いか又は少ない二層が存在し得る。この例では、34度はブルースター角でないので、多層30からある程度のp偏光放射が反射される。この例では、1/cos(aoi)=1.2である。従って、式d1+d2≒λ/(2cos(aoi))を用いると、(s偏光放射とp偏光放射の双方について)最大の反射率を与えるaoiは34度である。
【0056】
[00055] 34度の最適なaoiにおいて、s偏光放射の反射率は75%であり、p偏光放射の反射率は38%である。従って、反射放射は完全には偏光されていない。しかしながら、反射放射の反射率は比較的高く(すなわち、このaoiについて最適化されている)、反射放射は部分的に偏光されている(すなわち、反射放射のs偏光成分は反射放射のp偏光成分よりも大きい)。このため、この部分的に偏光された放射はリソグラフィ装置LAにおいて依然として有用であり得る。34度のaoiでは、p偏光放射のわずか2.5%のみが透過され、s偏光放射の0%が透過される。
【0057】
[00056] 多層30は照明システムILの一部とすることができる。いくつかの例では、多層30は、照明システムILにおけるファセットフィールドミラーデバイス10の1つ以上を置き換えることができる。すなわち、多層30は照明システムILのフィールド面に位置決めされ得る。他の例では、多層30は、照明システムILにおけるファセット瞳ミラーデバイス11の1つ以上を置き換えることができる。いくつかの例では、照明システムILは複数の多層30を含み得る。
【0058】
[00057] 本文ではICの製造におけるリソグラフィ装置の使用に特に言及しているが、本明細書で説明するリソグラフィ装置には他の用途もあることを理解するべきである。他の可能な用途には、集積光学システム、磁気ドメインメモリ用ガイダンス及び検出パターン、フラットパネルディスプレイ、液晶ディスプレイ(LCD)、薄膜磁気ヘッド等の製造が含まれる。
【0059】
[00058] 本文ではリソグラフィ装置の文脈において本発明の実施形態に特に言及しているが、本明細書の実施形態は他の装置でも使用することができる。本発明の実施形態は、マスク検査装置、メトロロジ装置、又は、ウェーハ(もしくは他の基板)もしくはマスク(もしくは他のパターニングデバイス)等の物体を測定もしくは処理する任意の装置の一部を形成し得る。これらの装置は一般にリソグラフィツールと呼ぶことができる。そのようなリソグラフィツールは、真空条件又は周囲(非真空)条件を使用し得る。
【0060】
[00059] 上記では光学リソグラフィの文脈において本発明の実施形態の使用に特に言及しているが、本発明は、文脈上許される場合は光学リソグラフィに限定されず、例えばインプリントリソグラフィのような他の用途にも使用できることは認められよう。
【0061】
[00060] 文脈上許される場合、本発明の実施形態は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又はそれらの任意の組み合わせにおいて実装することができる。本発明の実施形態は、1つ以上のプロセッサによって読み取られて実行され得る、機械読み取り可能媒体に記憶された命令として実装することも可能である。機械読み取り可能媒体は、機械(例えばコンピューティングデバイス)によって読み取り可能な形態で情報を記憶又は伝送するための任意の機構を含み得る。例えば機械読み取り可能媒体は、読み取り専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、磁気記憶媒体、光記憶媒体、フラッシュメモリデバイス、電気、光、音響、又は他の形態の伝搬信号(例えば搬送波、赤外信号、デジタル信号等)、及び他のものを含み得る。更に、ファームウェア、ソフトウェア、ルーチン、命令は、特定のアクションを実行するものとして本明細書で記載され得る。しかしながら、そのような記載は単に便宜上のものであり、そのようなアクションは実際には、ファームウェア、ソフトウェア、ルーチン、命令等を実行するコンピューティングデバイス、プロセッサ、コントローラ、又は他のデバイスから生じ、実行する際、アクチュエータ又は他のデバイスが物質世界と相互作用し得ることは認められよう。
【0062】
[00061] 本発明の具体的な実施形態を上述したが、本発明は記載したもの以外でも実施され得ることは認められよう。上記の記載は限定でなく例示を意図している。従って、以下に示す特許請求の範囲から逸脱することなく、記載された本発明に対して変更を加え得ることは、当業者には明らかであろう。