(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-08
(45)【発行日】2022-07-19
(54)【発明の名称】インターナル、流動床式反応装置およびトリクロロシランの製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 8/34 20060101AFI20220711BHJP
C01B 33/107 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
B01J8/34
C01B33/107 Z
(21)【出願番号】P 2018563330
(86)(22)【出願日】2018-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2018000967
(87)【国際公開番号】W WO2018135473
(87)【国際公開日】2018-07-26
【審査請求日】2020-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2017007974
(32)【優先日】2017-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】阪上 恭之
(72)【発明者】
【氏名】間島 卓也
(72)【発明者】
【氏名】山下 義晶
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-129679(JP,A)
【文献】特開2009-120467(JP,A)
【文献】特公昭41-000882(JP,B1)
【文献】特開昭62-237939(JP,A)
【文献】特開昭55-134637(JP,A)
【文献】特表2008-545870(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第1321715(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 8/00- 8/46
C01B 33/00-33/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動床式反応装置内に設置するための、インターナルであり、
上記インターナルは、上面が錐状を成す
円錐型の形状を有する複数の抵抗体を含む抵抗体群を備え、
上記抵抗体は、下面と上記上面とを貫通する孔が形成されており、
上記複数の抵抗体は、水平方向の同一断面上に互いに一定の間隔をあけて配置されていることを特徴とするインターナル。
【請求項2】
上記抵抗体は、上記上面の錐状側壁の傾斜角θが、鉛直線に対して45°以下であることを特徴とする請求項
1に記載のインターナル。
【請求項3】
上記抵抗体の水平方向の外径X
1と上記流動床式反応装置の水平方向の内径Y
1とが、0.05≦X
1/Y
1≦0.25を満たすことを特徴とする請求項1
または2に記載のインターナル。
【請求項4】
上記抵抗体の高さX
2と上記抵抗体の水平方向の外径X
1との比が、0.5≦X
2/X
1≦5を満たすことを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載のインターナル。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のインターナルを流動層形成領域に設けたことを特徴とする流動床式反応装置。
【請求項6】
上記インターナルは、水平方向の同一断面上に複数の上記抵抗体を含む抵抗体群、を備え、
上記抵抗体群では、上記流動床式反応装置の水平方向の断面積に対する上記抵抗体の占有面積が上記抵抗体1つあたり0.1%~10%であることを特徴とする請求項
5に記載の流動床式反応装置。
【請求項7】
上記インターナルは、水平方向の同一断面上に複数の上記抵抗体を含む抵抗体群、を備え、
上記抵抗体群では、上記流動床式反応装置の水平方向の断面積に対する上記抵抗体の占有面積の和が0.2%~30%であることを特徴とする請求項
5または
6に記載の流動床式反応装置。
【請求項8】
上記インターナルは、上記抵抗体群を複数、備えることを特徴とする、請求項
6または
7に記載の流動床式反応装置。
【請求項9】
上記インターナルは、上記流動層形成領域の高さに対して、5%~80%の範囲内に上記抵抗体を備えていることを特徴とする、請求項
5~
8のいずれか1項に記載の流動床式反応装置。
【請求項10】
請求項
5~
9のいずれか1項に記載の流動床式反応装置に、金属シリコン粉末とガス状のテトラクロロシランと水素とを供給し、上記ガス状のテトラクロロシランおよび水素により金属シリコン粉末を流動化してテトラクロロシランの還元反応を行うことを特徴とするトリクロロシランの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターナル、流動床式反応装置およびトリクロロシランの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流動ガスと固体(一般的には粉体)との接触を利用した化学反応を提供する装置として、流動床式反応装置が用いられている。
【0003】
一般に、流動床式反応装置では、以下の順で気体と固体との反応が生じる。(i)反応炉の内底部に置かれた粉体にその下方から気体(ガス)を導入する。(ii)粉体が上昇するガスによって流動され、流動層が形成される。(iii)上記流動層中において、粉末とガスとが接触することにより、反応が生じる。
【0004】
従来、気体と固体との反応の促進を目的とした、様々な流動床式反応装置が報告されている。例えば特許文献1~4には、トリクロロシランの製造に用いられるための流動床式反応装置が開示されている。上記文献では、反応炉内に、気体と固体との反応を促進させるための部材(以下、本明細書中では、「インターナル」と称する場合もある。)として様々な部材を備えている、流動床式反応装置が開示されている。
【0005】
特許文献1および2に記載の流動床式反応装置では、反応炉内に、ガス流制御部材と、ガス流制御部材を取り囲むように配置された伝熱管とを設置してインターナルが構成されている。上記インターナルは、筒状の部材を流動層中に存在せしめ、ガス流を攪乱することにより、反応を促進しようとするものである。
【0006】
特許文献3に記載の流動床式反応装置では、反応炉下部にあるガスの噴出孔の近傍に、複数の有孔小片と、これら有孔小片同士の間に介在する複数の塊状部材とが、混在した状態で堆積することによりインターナルを構成している。また、特許文献4に記載の流動床式反応装置では、反応炉下部にあるガスの噴出孔の近傍に、ボール状ガス拡散材を複数備えることによりインターナルを構成している。上記特許文献3及び4において、インターナルは、ガス噴出口の近傍に設けられ、ガス噴出口から供給するガスを拡散せしめることを目的とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-120467号公報
【文献】特開2010-189256号公報
【文献】特開2009-120473号公報
【文献】特開2010-184846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のような従来技術では、流動床式反応装置内において、流動層における気体と固体との反応を促進させる点で十分とはいえず、依然として改善の余地があった。また、本願の発明者らが鋭意検討したところ、流動床式反応装置内から固体成分を排出する際の効率性も、トリクロロシランの製造方法において重要であることを独自に見出した。即ち、前記特許文献3の堆積物の上面に固体成分である粉体が堆積し易く、また、特許文献4のボール状のインターナルでは、ボール上部に固体成分である粉体が堆積し易い。すなわち、特許文献3および特許文献4のいずれの技術においても、反応時、或いは、反応終了後の固体成分の排出において、インターナル上に固体成分が残留する。
【0009】
本発明の一実施形態は、上記問題点に鑑みなされたものである。従って、本発明の一実施形態は、下記(1)および(2)が可能である新規のインターナル、当該インターナルを備える流動床式反応装置および当該流動床式反応装置を用いたトリクロロシランの製造方法を提供することを目的とする:(1)気体と固体との反応を促進すること;および(2)固体成分の堆積を抑制すること。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の発明者らは、上述した課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、流動床式反応装置内に設置するためのインターナルにつき、上面が錐状を成す形状を有する抵抗体を備えることにより、上述した課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の一実施形態に係るインターナルは、流動床式反応装置内に設置するための、インターナルであり、上記インターナルは、上面が錐状を成す形状を有する抵抗体を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、流動床式反応装置において気体と固体との反応を促進し得るとともに、流動床式反応装置から固体成分の効率的な排出も可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るインターナルの斜視図である。
【
図2】(a)~(c)は本発明の一実施形態に係る抵抗体を水平方向からみた図である。(d)および(e)は本発明の一実施形態に係る抵抗体の斜視図である。
【
図3】(a)~(c)は、本発明の一実施形態に係る抵抗体の斜視図である。(d)および(f)は、本発明の一実施形態に係る抵抗体を水平方向からみた図である。(e)および(g)は、それぞれ(d)および(f)に係る抵抗体に鉛直上方から光を当てた際の投影図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る流動床式反応装置を水平方向からみた際の断面図である。
【
図5】テトラクロロシランからトリクロロシランへの転化率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。即ち、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0015】
〔1.インターナル〕
本発明の一実施形態に係るインターナルは、流動床式反応装置内に設置するためのインターナルであり、上記インターナルは、上面が錐状を成す形状を有する抵抗体を備える。なお、本明細書中では、「本発明の一実施形態にかかるインターナル」を、単に「本インターナル」と称する場合もある。また、本明細書中では、「流動床式反応装置」を、単に「装置」と称する場合もある。
【0016】
本インターナルは、上記構成を含むため、以下のような利点を有する:(1)インターナルが備える抵抗体に、反応のために供給された気体からなる気泡が接触して該気泡が分散することにより、該気泡が小さくなる(気泡の細分化)。それによって、気体-固体の接触面積が増加する。従って、本インターナルが設置された装置内で所望の反応が促進される、という利点;また、(2)上記抵抗体が錐状の形状を有することにより、反応時において、インターナルの鉛直上方から落下する粉体の滞留は少なくなる。これによって、本インターナルが設置された装置内では、粉体の流動がスムースに行われることが可能となる、という利点;さらに、(3)上記抵抗体が錐状の形状を有することにより、本インターナルが設置された装置内から粉体を排出する際、装置内、特にインターナルの抵抗体上面における粉体の滞留を防止することが可能となる、という利点。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係るインターナル10の斜視図である。
図1に示すとおり、インターナル10は、上面が錐状を成す形状を有する抵抗体11、抵抗体11を保持するための支持体12を備える。
【0018】
<1-1.抵抗体11>
図2を参照して抵抗体11を説明する。
図2の(a)~(c)は抵抗体11を水平方向からみた図である。
図2の(d)および(e)は抵抗体11の斜視図である。
図2の(a)に図示されたように、抵抗体11は、上面13および下面14を有する。
【0019】
本明細書中において、抵抗体11の「上面13」とは、抵抗体11を鉛直上方から見たときに視界に入る部分、および抵抗体11を水平方向からみたときに視界に入る部分を意図する。抵抗体11の「下面14」とは、抵抗体11の「上面13」以外の部分を意図する。従って、
図2の(a)~(e)を参照すると、各図の下線が下面14となり、下線よりも上部は全て上面13となる。
【0020】
抵抗体11は、上面13が錐状を成す形状を有する。上記「上面13が錐状を成す形状を有する」とは、「上面13が錐状を形成する面を有する」とも換言し得る。上記「錐状を形成する面」とは、抵抗体11の頂点を通る鉛直線を引いたときに、鉛直下方から鉛直上方に向かって当該鉛直線に近づく面であり、かつ、当該鉛直線と90°以下で交わる直線を含む面である。ここで、「抵抗体11の頂点」とは、抵抗体11において最も鉛直上方にある点を意図する。本明細書中では、上面13が有している「錐状を形成する面」を、「錐状面13a」または「錐状側壁」と称する場合もある。
【0021】
なお、「錐状」は、「錘状」と言い換えることも可能である。「錘状」とした場合、用語「錘状面」および「錘状側壁」が意図するものは、「錐状面」および「錐状側壁」が意図するものと、それぞれ同じである。
【0022】
抵抗体11の上面13は、錐状面13a以外に、胴直面13bを有していてもよい。上記「胴直面13b」とは、鉛直方向と平行である面をいう。
図2の(b)および(c)で図示されるように、抵抗体11は、錐状面13aと胴直面13bとが組み合わされて構成されていてもよい。
【0023】
抵抗体11の形状の例としては、
図2に図示された形状、例えば、(a)の錐型、(b)のコマ型、(c)の段々型、が挙げられるがこれらに限定されない。また、抵抗体11は、
図2の(a)~(c)を組み合わせた形状であってもよい。例えば、一つの図において、抵抗体11は、ある部分は錐型を示すが、他の部分はコマ型を示すような形状であってもよく、または、一方向からみた図では錐型を示すが、他方からみた図ではコマ型を示すような形状であってもよい。
【0024】
また、
図2の(a)~(c)において図示された図は、全て、抵抗体11の頂点を通る鉛直線に対して左右対称であるが、抵抗体11はこれに限定されない。また、抵抗体11は、
図2の(d)に図示された円錐のように、底面の形状が円形でもよく、
図2の(e)に図示された三角錐のように、底面の形状が三角形でもよい。抵抗体11の底面の形状はこれらに限定されず、例えば楕円形、四角形、または多角形であってもよい。ここで、上記「底面」とは、抵抗体11に鉛直上方から光を当てた際の投影図で表される面である。
【0025】
抵抗体11は、気泡の細分化の観点から、錐型、特に、円錐型であることが好ましい。
【0026】
抵抗体11の下面14の形状は、特に限定されず、平坦であってもよく、凹部を有していてもよい。
【0027】
抵抗体11は、下面14と上面13とを貫通する孔が形成されていることが好ましい。抵抗体11において、孔が形成される場所は特に限定されず、抵抗体11の頭頂部に孔が形成されていてもよい。抵抗体11は、下面14と上面13とを貫通する孔が形成されていることにより、当該抵抗体を備えるインターナル10が設置された装置内での反応がより促進されるという利点を有する。これは、装置に導入された気体からなる気泡が、孔を通過することによって、気泡がより小さくなる(言い換えれば気泡がさらに細分化する)ため、気体と固体との接触面積がより増加することに起因する。
【0028】
抵抗体11に形成される孔の数は特に限定されないが、気泡の細分化の観点から、1つ以上が好ましく、2つ以上がより好ましく、4つ以上がさらに好ましく、6つ以上が特に好ましい。抵抗体11に2つ以上の孔が形成される場合には、形成される孔の配置は特に限定されないが、気泡の細分化の観点から、均等に配置されることが好ましい。
【0029】
また、抵抗体11に形成される孔の形状は特に限定されず、四角形、菱形、多角形、円形および楕円形などが挙げられる。抵抗体11に形成される孔の形状は、加工の簡便さの観点から、円形が好ましい。
【0030】
孔が形成された抵抗体11の一例を、
図3の(a)および(b)を参照して説明する。
図3の(a)および(b)は、抵抗体11の斜視図である。当該抵抗体11は、下面14が凹部を有し、かつ、下面14と上面13とを貫通する孔が形成されている。
【0031】
図3の(a)に図示された抵抗体11は、抵抗体11の鉛直方向略中央に四角形の孔が形成されている。
図3の(a)では、抵抗体11には、等間隔に合計6つの孔が形成されている。これら6つの孔は、水平方向の同一断面上に形成されている。
【0032】
図3の(b)に図示された抵抗体11は、抵抗体11の頭頂部、および、抵抗体11の鉛直方向略中央に、円形の孔が形成されている。鉛直方向略中央に形成されている孔は、等間隔に合計6つ形成されており、3つの孔は水平方向の同一断面上に形成されており、他の3つの孔は、水平方向の異なる、同一断面状に形成されている。なお、便宜上、
図3の(a)および(b)には、鉛直方向略中央に形成されている6つの孔のうちの3つの孔のみ示す。
【0033】
図3の(c)は、抵抗体11の斜視図である。
図3の(c)に図示されたように、抵抗体11は、抵抗体11の頂点を通る鉛直線pと上記錐状側壁に含まれる直線sとが形成する角θを有する。上記θを「傾斜角θ」と称する場合もある。
図3の(c)に図示された抵抗体11は、上面13の錐状側壁の傾斜角θとして、45°の傾斜角θを有する。抵抗体11は、上面13の錐状側壁の傾斜角θが、抵抗体11の頂点を通る鉛直線pに対して45°以下であることが好ましく、40°以下であることがより好ましく、35°以下であることがさらに好ましく、30°以下であることが特に好ましい。上面13の錐状側壁の傾斜角θの下限は、特に限定されないが、10°以上であってもよい。
【0034】
抵抗体11は、上述したように、上面13の錐状側壁の傾斜角θが、抵抗体11の頂点を通る鉛直線pに対して45°以下であることにより、粉体の流動をスムースに行うことが可能となる、という利点を有する。これは、抵抗体11の上面13への固体(粉体)の堆積をより一層抑えることができるため、インターナル10の鉛直上方から落下する粉体の抵抗体11の上面13の近傍における滞留が少なくなることに起因する。また、上面13の錐状側壁の傾斜角θが、抵抗体11の頂点を通る鉛直線pに対して45°以下である抵抗体11は、当該抵抗体11の上面13への固体(粉体)の堆積がより一層少なくなる。そのため、上記粉体を流動床式反応装置からより容易に抜き取ることが可能となる。上記抵抗体11を備えるインターナル10が設置された装置が後述するトリクロロシラン製造方法において用いられる場合には、上記粉体は金属シリコンである。
【0035】
図3の(c)に図示されたように、抵抗体11の水平方向の外径をX
1、抵抗体11の高さをX
2とする。また、後述される
図4に図示されたように、流動床式反応装置100の水平方向の内径をY
1とする。抵抗体11の大きさとしては、次の(1)または(2)を満たすことが好ましく、(1)および(2)を共に満たすことがより好ましい:(1)抵抗体11の水平方向の外径X
1と、当該抵抗体11を備えるインターナル10が設置される流動床式反応装置の水平方向の内径Y
1とが、0.05≦X
1/Y
1≦0.25であること;(2)上記抵抗体の高さX
2と上記外径X
1との比が、0.5≦X
2/X
1≦5であること。
【0036】
抵抗体11の大きさとしては、0.05≦X1/Y1≦0.20を満たすことがより好ましく、0.05≦X1/Y1≦0.15を満たすことがさらに好ましく、0.05≦X1/Y1≦0.10を満たすことが特に好ましい。また、抵抗体11の大きさとしては、0.5≦X2/X1≦3を満たすことがより好ましく、0.5≦X2/X1≦2を満たすことがさらに好ましく、0.5≦X2/X1≦1を満たすことが特に好ましい。
【0037】
抵抗体11の大きさが上記(1)を満たすことにより、当該抵抗体11を備えるインターナル10が設置された装置では、装置内の流動層のスラッギングの発生が抑えられるため、装置内で所望の反応が促進される、という利点を有する。また、抵抗体11の大きさが上記(2)を満たすことにより、当該抵抗体11を備えるインターナル10が設置された装置では、装置内の流動層の流れがスムースな流れとなるため、当該装置で所望の反応が促進される、という利点を有する。なお、上記スラッギング発生の判定は、Keairnsらによるスラッギング判定式を用いて、当業者の技術的知識の範囲内で、行うことが可能である。
【0038】
図3の(d)は、抵抗体11を水平方向からみた図であり、
図3の(e)は、
図3の(d)に係る抵抗体11に鉛直上方から光を当てた際の投影図である。
図3の(f)は、抵抗体11を水平方向からみた図であり、
図3の(g)は、
図3の(f)に係る抵抗体11に鉛直上方から光を当てた際の投影図である。
【0039】
図3の(d)および(f)に図示されたように、抵抗体11の上面13は、錐状面13aおよび胴直面13b以外に、水平面13cを有していてもよい。上記「水平面13c」とは、上面13のうち、鉛直方向と垂直である面をいう。
図3の(d)および(f)で図示されるように、抵抗体11は、錐状面13aと水平面13cとが組み合わされて構成されていてもよい。
図3の(d)および(f)で図示されるように、抵抗体11の上面13は、抵抗体11の最も鉛直上方にある面が、水平面13cであってもよい。
【0040】
図3の(e)および(g)に図示されたように、抵抗体11に鉛直上方から光を当てた際の投影図の面積、をS1とする。また
図3の(d)および(f)に図示されたように、抵抗体11が有する上面13において、傾斜角θが45°を超える上面13の面積の和をS2とする。S1はS2を含む。抵抗体11は、S2とS1との比、S2/S1が小さければ小さいほど好ましい。具体的には、S2/S1は0.5未満であることが好ましく、0.3未満であることがより好ましく、0.2未満であることがさらに好ましく、0.1以下が特に好ましい。
【0041】
図3の(f)に図示された抵抗体11は、下面14が凹部を有し、かつ、水平面13cに、下面14と上面13とを貫通する孔が形成されている。
図3の(f)に図示されたように、傾斜角θが45°を超える上面13に孔が形成されている場合には、孔を除いた上面13の和がS2となる。
【0042】
抵抗体11は、S2/S1が0.5未満であることにより、粉体の流動をスムースに行うことが可能となる、という利点を有する。これは、抵抗体11の上面13への固体(粉体)の堆積をより一層抑えることができるため、インターナル10の鉛直上方から落下する粉体の抵抗体11の上面13の近傍における滞留が少なくなることに起因する。また、S2/S1が0.5未満である抵抗体11は、当該抵抗体11の上面13への固体(粉体)の堆積がより一層少ないため、上記粉体を流動床式反応装置からより容易に抜き取ることが可能となる。
【0043】
図1に示されたインターナル10は、複数の水平方向の断面上に抵抗体11を備え、かつ、水平方向の同一断面上に複数の抵抗体11を備えている。本明細書中では、水平方向の同一断面上に設けられた複数の抵抗体を、「抵抗体群」とも称する。
図1に示されたインターナル10は、水平方向の同一断面上に複数の抵抗体11を含む抵抗体群11aを複数(具体的には
4つ)備えており、それらの抵抗体群11aのうちの一つの抵抗体群11aが含んでいる抵抗体11は、灰色で、かつ点線で囲って、図示されている。しかしながら、インターナル10が備える抵抗体11の数は、特に限定されない。インターナル10は、気泡の細分化の観点から、好ましくは2つ以上の水平方向の断面上に、より好ましくは3つ以上の水平方向の断面上に、さらに好ましくは4つ以上の水平方向の断面上に、特に好ましくは5つ以上の水平方向の断面上に、抵抗体11を備える。インターナル10は、気泡の細分化の観点から、水平方向の同一断面上に、2以上の抵抗体11を備えることが好ましく、10以上の抵抗体11を備えることがより好ましく、20以上の抵抗体11を備えることがさらに好ましく、30以上の抵抗体11を備えることが特に好ましい。インターナル10は、気泡の細分化の観点から、水平方向の同一断面上に複数の抵抗体11を含む抵抗体群11a、を2つ以上備えることが好ましく、3つ以上備えることがより好ましく、4つ以上備えることがさらに好ましく、5つ以上備えることが特に好ましい。
【0044】
インターナル10が、上述したように、複数の水平方向の断面上に抵抗体11を備えること、および/または、水平方向の同一断面上に複数の抵抗体11を含む抵抗体群11aを備えることによって、以下のような利点を有する。即ち、当該インターナル10が設置された装置では、流動層の水平方向および/または鉛直方向の様々な位置において、抵抗体11による利点を享受することが可能となる。言い換えれば、流動層の水平方向および/または高さ方向の様々な位置において、気体と固体との接触面積がより増加する利点を享受することが可能となり、故に、当該装置で所望の反応が促進される、という利点を有する。
【0045】
インターナル10が、複数の水平方向の断面上に抵抗体11を備える場合の、複数の抵抗体11の位置関係について説明する。インターナル10において、水平方向のある断面上に抵抗体a1が存在し、上記断面と鉛直方向で隣り合う水平方向断面上に抵抗体b1が存在する場合を想定する。この場合には、抵抗体a1と抵抗体b1との互いの鉛直方向の中心線は、重なり合ってもよく、重なり合わなくともよいが、気泡の細分化の観点からは、重なり合わないことが好ましい。
【0046】
インターナル10が、水平方向の同一断面上に複数の抵抗体11を含む抵抗体群11a、を備える場合には、抵抗体群11aにおいて各々の抵抗体11は、互いに一定の間隔をあけて配置されることが好ましい。上記「一定の間隔」は、インターナル10が設置された装置内における、流動層のスラッギングの発生に影響を与え得る。従って、上記「一定の間隔」は、上記スラッギングの発生を防止することを目的として、適宜設定され得る。
【0047】
インターナル10が複数の水平方向の断面上に抵抗体11を備え、かつ、水平方向の同一断面上に複数の抵抗体11を含む抵抗体群11aを少なくとも一つ備える場合には、各々の水平方向の断面上に形成される複数の抵抗体11の数は、同じであってもよく、異なっていてもよい。当該抵抗体11の数は、気泡の細分化、スラッギングの発生防止、および、装置が備えるインターナル以外の部材の配置などを考慮して、適宜設定され得る。
【0048】
抵抗体11の材質は、特に限定されるわけではないが、装置内で行われる反応の各種条件(例えば温度および圧力など)、化学反応、および粉体による摩耗などに耐えられる材質であることが好ましい。抵抗体11の材質としては、例えば、ニッケル、ニッケル基合金(インコロイ、およびインコネルなど)、およびSUSなどが挙げられるが、これらの中でもコストの観点からSUSが好ましい。
【0049】
<1-2.支持体12>
支持体12は、抵抗体11を保持できる構成であれば特に限定されない。例えば、
図1のように、抵抗体11の上面13と接触して保持するような構成であってもよく、抵抗体11を貫通することによって保持するような構成であってもよく、またはそれらが組み合わされていてもよい。
【0050】
支持体12の形状は、抵抗体11を支持できる構成であれば特に限定されない。
図1のように板状体から構成されてもよいし、角柱、または円柱などから構成されてもよい。また、支持体12は、上述した様々な形状の部材が組み合わされて構成されてもよい。また、角柱、または丸柱などが使用される場合、それらの内部は空洞であってもよい。支持体12の形状は、装置内の流動層の流れをスムースな流れとする観点から、水平方向の断面積が小さいことが好ましく、従って、板状体が用いられ、かつ、板状の面が鉛直方向と平行になるように構成されることが好ましい。
【0051】
支持体12の材質は、特に限定されるわけではないが、装置内で行われる反応の各種条件(例えば温度および圧力など)、化学反応、および粉体による摩耗などに耐えられる材質であることが好ましい。支持体12の材質としては、例えば、ニッケル、ニッケル基合金(インコロイ、およびインコネルなど)、およびSUSなどが挙げられるが、これらの中でもコストの観点からSUSが好ましい。
【0052】
〔2.流動床式反応装置〕
図4は本発明の一実施形態に係る流動床式反応装置100を水平方向からみた際の断面図である。「本発明の一実施形態にかかる流動床式反応装置」を、単に「本装置」と称する場合もある。
【0053】
流動床式反応装置100は、反応炉20と、当該反応炉20に固体(粉体)を供給する粉体供給部30と、当該粉体と反応させるための気体を導入する気体導入部40と、当該反応によって生成された反応生成ガスを採集するガス採集部50と、を備えている。
【0054】
反応炉20は、その内部に、インターナル10、隔壁60、噴出孔70および噴出孔キャップ71を、さらに備える。
【0055】
反応炉20は、大部分がストレートの円筒状をなす鉛直方向に沿う胴体部21と、胴体部の下部に連結された底部22と、胴体部の上端に連結された天面部23とが設けられている。胴体部21の内部空間と底部22の内部空間とは、水平な隔壁60によって仕切られている。一方、胴体部21の内部空間と天面部23の内部空間とは相互に連通可能な状態に構成されている。また、流動床式反応装置100の内径とは、反応炉20の内径であり、Y1で表される。
【0056】
底部22と天面部23との形状は、
図4に記載された形状、言い換えれば、胴体部21と略同径に形成された形状に限定されず、胴体部21と天面部23の径が異なる形を有するように構成されてもよい。反応生成ガスを粉体から効率よく分離して採集するためには、胴体部21よりも天面部23の方が大きな径を有するように構成されていることが好ましい。胴体部21よりも天面部23の方が大きな径を有する場合には、胴体部21から天面部23に向かう途中に、鉛直上方に向かって拡径するテーパ部が形成されてもよい。天面部23の内径は、胴体部21の内径の1.3~1.6倍であることが好ましい。
【0057】
粉体供給部30は、天面部23に形成されており、天面部23を鉛直方向に貫通するように構成されることにより、反応炉20の外部から反応炉20の内部に固体(粉体)を供給することを可能にする。
【0058】
反応炉20の底部22には、気体導入部40が形成されている。気体導入部40は、底部22の壁を貫通するように構成されており、それにより、反応炉20の外部から、反応炉20の底部22の内部に反応に用いる気体を導入することを可能にする。
【0059】
隔壁60は、胴体部21と底部22との境界面に設置されている。隔壁60によって、胴体部21と底部22とは区切られている。粉体供給部30から反応炉20の内部に供給された粉体は、隔壁60により、底部22への進入を防がれている。
【0060】
噴出孔70は、隔壁60に形成されており、当該隔壁60を鉛直方向に貫通するように構成されることにより、気体導入部40によって底部22に導入された気体を、胴体部21へ導入することを可能にする。
【0061】
噴出孔キャップ71は、噴出孔70の上部に形成されており、胴体部21側の噴出孔70の孔を覆うように構成される。これにより、噴出孔キャップ71は、粉体の噴出孔70の内部への侵入を、言い換えれば、粉体が噴出孔70を通ることによる、粉体の胴体部21から底部22への侵入を、防ぐことを可能にしている。
【0062】
ガス採集部50は、天面部23に形成されており、反応生成ガスを採集することが可能である。
【0063】
流動床式反応装置100では、以下の様な反応が行われ得る。(i)粉体供給部30から、反応炉20の内底部(言い換えれば、隔壁60上)へ、粉体が供給される。(ii)気体導入部40を通り、外部から流動床式反応装置100の底部22内腔へ、反応に用いる気体が導入される。底部22内腔へ導入された気体は、さらに噴出孔70を通り、胴体部21の内部へ、上記粉体の下方から導入される。(iii)粉体が上昇する気体によって流動され、胴体部21に流動層が形成される。(iv)流動層中において、粉体と気体とが接触することにより、反応が生じる。(v)上記反応によって生じた反応生成ガスが、ガス採集部50から採集される。流動層が形成される領域を、「流動層形成領域80」と称する場合もある。
【0064】
流動床式反応装置100は、当該装置で所望の反応が行われ、当該反応によって生成される反応生成ガスを得ることを目的に行われることを意図しており、上述したガス採集部50を備えている。しかしながら、流動床式反応装置100で行われる反応によって生成される反応生成物はガスに限らず、液体および固体、またはガス、液体および固体の混合物であってもよい。従って、流動床式反応装置100は、当該装置で行われる反応によって生成される反応生成物の形態に合わせて、様々な反応生成物のための採集部を備えてもよい。当該反応生成物のための採集部は、当業者が通常知り得る技術範囲において、適宜選択され得る。
【0065】
図4において、流動床式反応装置100は、インターナル10を流動層形成領域80に設けている。インターナル10は、〔1.インターナル〕に記載されたインターナルであることが好ましい。また、インターナル10は、水平方向の同一断面上に複数の抵抗体11を含む抵抗体群11aを複数(具体的には5つ)備えており、それらの抵抗体群11aのうちの一つの抵抗体群11aが含んでいる抵抗体11は、灰色で、かつ点線で囲って、図示されている。上述したように、反応は、流動層中において生じるため、インターナル10が流動層形成領域80に設けられることにより、インターナル10の利点を享受することが可能となる。インターナル10は、そのすべてが流動層形成領域80に収まっている必要は必ずしもない。インターナル10の一部、特に、一つ以上の抵抗体11を含む部分が流動層形成領域80に収まっていれば、インターナル10の利点を享受することが可能となる。インターナル10の利点をより多く享受することが可能となることから、インターナル10が備える抵抗体11のうち、流動層形成領域80に収まっている抵抗体11が多いほど好ましい。故に、インターナル10が備える全ての抵抗体11が流動層形成領域80に収まっていることが特に好ましい。
【0066】
流動床式反応装置100は、インターナル10を流動層形成領域80に設けていることにより、インターナル10が有する利点と同様の利点を有する。
【0067】
流動床式反応装置100では、インターナル10は、水平方向の同一断面上に複数の抵抗体11を含む抵抗体群11a、を備え、抵抗体群11aでは、上記流動床式反応装置100の水平方向の断面積に対する抵抗体11の占有面積が、上記抵抗体11の1つあたり0.1%~10%であることが好ましい。
【0068】
水平方向の同一断面上に複数の抵抗体11を含む抵抗体群11aを備えるインターナル10が設置されていることから、流動床式反応装置100は所望の反応をより効率よく生じる反応装置となる利点を有する。また、当該装置の水平方向の断面積に対して特定の占有面積を有する抵抗体11を含む抵抗体群11a、を備えるインターナル10が設置されているため、流動床式反応装置100内では流動層のスラッギングの発生も抑えられ、故に所望の反応がさらに促進され得る利点を有する。
【0069】
流動床式反応装置100では、インターナル10は、水平方向の同一断面上に複数の抵抗体11を含む抵抗体群11a、を備え、抵抗体群11aでは、上記流動床式反応装置100の水平方向の断面積に対する抵抗体11の占有面積の和が0.2%~30%であることが好ましい。
【0070】
水平方向の同一断面上に複数の抵抗体11を含む抵抗体群11aを備えるインターナル10が設置されていることから、流動床式反応装置100は所望の反応をより効率よく生じる反応装置となる利点を有する。また、当該装置の水平方向の断面積に対して、抵抗体11の占有面積の和が0.2%~30%となるように抵抗体11を含む抵抗体群11a、を備えるインターナル10が設置されているため、流動床式反応装置100内では流動層のスラッギングの発生も抑えられる。故に所望の反応がさらに促進され得る利点を有する。
【0071】
流動床式反応装置100では、インターナル10は、上記流動層形成領域80の高さHに対して、5%~80%の範囲内に抵抗体11を備えていることが好ましい。「5%~80%の範囲内」とは、上記流動層形成領域80の高さHに対して、流動層形成領域80の下端より鉛直上方へ5%の位置H1から、流動層形成領域80の下端より鉛直上方へ80%の位置H2までの範囲内を意図する。従って、上記範囲内に抵抗体11を備えるとは、鉛直最下方の抵抗体11の下端h1から、鉛直最上方の抵抗体11の上端h2までが、H1からH2の範囲内に含まれているように、抵抗体11を備えることを意図する。
【0072】
上記構成によれば、所望の反応をより効率よく生じる流動床式反応装置100を提供できるという利点を有する。これは、流動床式反応装置100の反応炉20内部で反応中に形成される流動層の鉛直上方においても、気泡が小さくなる(言い換えれば、気泡が細分化する)ことにより、気体-固体の接触面積が増加することに起因する。
【0073】
図4のように、インターナル10が複数の抵抗体11を備えている場合には、インターナル10が備える抵抗体11のうち、1つ以上の抵抗体11が、流動層形成領域80の高さHに対して、5%~80%の範囲内に備えられていればよい。インターナル10が備える抵抗体11のうち、流動層形成領域80の高さHに対して、5%~80%の範囲内に備えられる抵抗体11が多いほど好ましい。インターナル10が備える抵抗体11の全てが、流動層形成領域80の高さHに対して、5%~80%の範囲内に備えられることが特に好ましい。
【0074】
図4に図示された流動床式反応装置100では、インターナル10は、流動層形成領域80の高さHに対して、20%~70%の範囲に複数の抵抗体11を備えている。
【0075】
〔3.トリクロロシランの製造方法〕
本発明の一実施形態に係るトリクロロシランの製造方法は、流動床式反応装置に、金属シリコン粉末とガス状のテトラクロロシランと水素とを供給し、上記ガス状のテトラクロロシランおよび水素により金属シリコン粉末を流動化してテトラクロロシランの還元反応を行うことを特徴とするトリクロロシランの製造方法、であることが好ましい。
【0076】
本明細書では、「本発明の一実施形態にかかるトリクロロシランの製造方法」を、単に「本製造方法」と称する場合もある。
【0077】
上記流動床式反応装置は、〔2.流動床反応装置〕に記載された流動床式反応装置であることが好ましい。
【0078】
上記構成によれば、粉体と反応するための気体の気泡を小さくすることが可能であるインターナル10を流動床式反応装置に設けているため、気体-固体の接触面積が増加する。故に、本製造方法は、流動床式反応装置100内において、テトラクロロシラン還元反応が促進され、テトラクロロシランからトリクロロシランへの転化率が向上する、という利点を有する。
【0079】
流動床式反応装置100を用いて行う本製造方法について、詳しく説明する。
【0080】
反応炉20の内部に、気流移送により、粉体供給部30を通じて、金属シリコン粉末を供給する。金属シリコンはバッチ供給である。計量済の金属シリコンは、反応炉20の上部に設置された粉体供給部30に含まれるドラムなどに投入される。その後、上記ドラムのガス相を水素置換、および水素昇圧(反応炉圧力より高い圧力)し、粉体供給部30に含まれる、反応炉20までの供給管に設置された自動弁を開とすることにより、金属シリコンは、自圧および自重により、反応炉20の内部に投入される。金属シリコンの投入量は反応炉20の負荷に依存するため、当該負荷に応じて計量値を変更する。このとき、水素ガスを気流移送のキャリアガスとして用いており、このキャリアガスの流量を制御することにより金属シリコン粉末の供給量を調整する。
【0081】
また、気体導入部40により、反応炉20の底部22にガス状のテトラクロロシランと水素とを供給する。気体導入部40から供給されるガス状のテトラクロロシランと水素とを、反応ガスとも称する。上記反応ガスは、隔壁60に設けられた噴出孔70を介して、反応炉20の底部22から胴体部21内に供給される。供給された反応ガスにより、供給された金属シリコン粉末は流動化され、反応ガスの上昇流に乗って上昇させられることになる。
【0082】
金属シリコン粉末の流動化によって、流動層が形成される。このとき、流動層内では、反応ガスと金属シリコン粉末との間に、テトラクロロシランの還元反応、具体的には下記反応式(1)に示される反応が、生じる。
Si+2H2+3SiCl4→4SiHCl3・・・(1)
上記反応によってガス状のトリクロロシランが得られる。
【0083】
上記流動層において、流動状態の金属シリコン粉末と反応ガスとの混合物(流動混合物とも称する)は、反応炉20の胴体部21におけるインターナル10の中を経由して上昇する。このとき、反応ガスは気泡状になって流動混合物内に存在することになり、上昇するにつれて反応ガスの気泡が徐々に成長して大きくなってくる。ここで、大きくなった気泡は、インターナル10内を通過するときに、インターナル10が備える抵抗体11と接触して細分化する。このとき、上記抵抗体11に孔が形成されている場合には、気泡は当該孔を通過することによって、より細分化される。
【0084】
従って、この反応炉20においては、抵抗体11を備えるインターナル10を設置したことにより、反応ガスは、反応炉20の上部まで気泡の径が比較的小さい状態に維持されたまま上昇する。その間に、反応ガスが金属シリコン粉末と接触することによって、テトラクロロシランの還元反応が生じる。そして、反応ガスの気泡径が小さいため、金属シリコン粉末と反応ガスとの接触面積が増え、テトラクロロシランの還元反応の反応効率が高められるものである。従って、ガス状のテトラクロロシランは、効率的にガス状のトリクロロシランへ転化され得る。
【0085】
そして、このようにして反応炉20の天面部23まで上昇したガス状のトリクロロシランは、天面部23に備えられたガス採集部50によって採集され、反応炉20の外部へ取り出される。
【0086】
本製造方法では、上述したテトラクロロシランの還元反応が生じることにより、トリクロロシランが製造されることが好ましい。しかしながら、本製造方法で生じる反応は、上記テトラクロロシランの還元反応に限定されない。例えば、気体導入部40から、水素とともに塩化水素ガスが導入される場合には、下記反応式(2)で表される塩素化反応が生じ、トリクロロシランが製造され得る。
Si+3HCl→SiHCl3+H2・・・(2)
本製造方法では、反応式(1)で表されるテトラクロロシランの還元反応が生じる限り、反応式(2)で表される塩素化反応が同時に生じてもよい。
【0087】
本発明の一実施形態は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。従って、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0088】
[1]流動床式反応装置内に設置するための、インターナルであり、上記インターナルは、上面が錐状を成す形状を有する抵抗体を備えることを特徴とするインターナル。
【0089】
[2]上記抵抗体は、下面と上記上面とを貫通する孔が形成されていることを特徴とする[1]に記載のインターナル。
【0090】
[3]上記抵抗体は、上記上面の錐状側壁の傾斜角θが、鉛直線に対して45°以下であることを特徴とする[1]または[2]に記載のインターナル。
【0091】
[4]上記抵抗体の水平方向の外径X1と上記流動床式反応装置の水平方向の内径Y1とが、0.05≦X1/Y1≦0.25を満たすことを特徴とする[1]~[3]のいずれか1つに記載のインターナル。
【0092】
[5]上記抵抗体の高さX2と上記抵抗体の水平方向の外径X1との比が、0.5≦X2/X1≦5を満たすことを特徴とする[1]~[4]のいずれか1つに記載のインターナル。
【0093】
[6][1]~[5]のいずれか1つに記載のインターナルを流動層形成領域に設けたことを特徴とする流動床式反応装置。
【0094】
[7]上記インターナルは、水平方向の同一断面上に複数の上記抵抗体を含む抵抗体群、を備え、上記抵抗体群では、上記流動床式反応装置の水平方向の断面積に対する上記抵抗体の占有面積が上記抵抗体1つあたり0.1%~10%であることを特徴とする[6]に記載の流動床式反応装置。
【0095】
[8]上記インターナルは、水平方向の同一断面上に複数の上記抵抗体を含む抵抗体群、を備え、上記抵抗体群では、上記流動床式反応装置の水平方向の断面積に対する上記抵抗体の占有面積の和が0.2%~30%であることを特徴とする[6]または[7]に記載の流動床式反応装置。
【0096】
[9]上記インターナルは、上記抵抗体群を複数、備えることを特徴とする、[7]または[8]に記載の流動床式反応装置。
【0097】
[10]上記インターナルは、上記流動層形成領域の高さに対して、5%~80%の範囲内に上記抵抗体を備えていることを特徴とする、[6]~[9]のいずれか1つに記載の流動床式反応装置。
【0098】
[11][6]~[10]のいずれか1つに記載の流動床式反応装置に、金属シリコン粉末とガス状のテトラクロロシランと水素とを供給し、上記ガス状のテトラクロロシランおよび水素により金属シリコン粉末を流動化してテトラクロロシランの還元反応を行うことを特徴とするトリクロロシランの製造方法。
【実施例】
【0099】
〔実施例1〕
本発明の一実施例について説明する。
【0100】
小スケールの流動床装置を作製した。種々のインターナルを流動床装置に設置した場合の、流動床装置内で生じる流動層の特性、および、流動床装置から粉体を取り出すときの金属シリコンの残存量、を評価した。なお、これらを評価する観点からは、実施例1における流動床装置では、流動層が生じればよく(換言すれば、テトラクロロシランの還元反応は必要でなく)、流動床装置に導入する気体としては空気を用いた。検討に用いた流動床装置の内径(Y1)は600mmである。
【0101】
流動床装置に、インターナルとして、(A)抵抗体、(B)ダミーチューブ、または(C)多孔板、をそれぞれ設置した。
【0102】
(A)抵抗体は、最大外径(X1)160mm、高さ(X2)80mmの円錐型とした。抵抗体はまた、上面の鉛直略中央に、幅20mm高さ5mmである四角形の孔を、等間隔に6つ形成した。抵抗体の傾斜角θは、45°であった。抵抗体は、直径10mmの円柱状の支持体によって、支持体が抵抗体の中心線を貫通することによって保持し、一つの支持体につき一つの抵抗体を保持させた。合計7個の抵抗体を、抵抗体の下端が隔壁から鉛直上方へ1mの位置となるように設けた。
【0103】
(B)ダミーチューブは、直径(外径)(X1)60.5mm、高さ(X2)1000mmの円柱型とした。合計4個のダミーチューブを、その下端が隔壁から鉛直上方へ1mの位置となるように設けた。
【0104】
(C)多孔板は、その直径(外径)(X1)が装置の内径と一致し、厚さ(高さ)(X2)9mmの円盤型とした。多孔板には、直径25mmの孔を等間隔に187個形成した。多孔板は1枚、その下端が隔壁から鉛直上方へ1mの位置となるように設けた。
【0105】
また、検討には、気体として空気を用い、粉体として金属シリコンを用いた。
【0106】
流動条件は、以下のとおりである。
・供給した金属シリコンの充填層高:約2000mm
・流動床装置内の温度:常温
・流動床装置内の圧力:約20kPaG
・流動床装置内へ供給する空気の温度:常温
・流動床装置内へ供給する空気の圧力:約30kPaG
結果、インターナルなし、または(A)抵抗体、(B)ダミーチューブ、もしくは(C)多孔板を設置した装置内における、流動層形成領域の高さ(H)(換言すれば流動層高)は、それぞれ、隔壁から鉛直上方へ2143.6mm、2178.6mm、2123.1mm、または2152.9mmであった。
【0107】
各インターナルを、気泡率、圧力トレンド、金属シリコン分散性、および金属シリコン残存量、の各項目について、評価した。以下に、各項目の評価方法および評価基準について説明する。
【0108】
(気泡率)
気泡率を以下の式により定義した。
【0109】
気泡率(%)=(1-(充填層高/流動層高))×100
上記充填層高は、粉体供給部から供給した金属シリコンの、隔壁からの鉛直方向の高さであり、メジャーを用いて計測した。
【0110】
上記流動層高は、上述した条件によって流動させた際、流動層内で発生した流動層の高さであり、メジャーを用いて計測した。
【0111】
気泡径が小さいほど上昇速度が小さく、流動層滞在時間が長くなる。従って、気泡径が小さいほど、流動層高が高くなり、その結果上記気泡率が大きくなる。気泡率が大きいことは、気泡径が小さいことを表し、従って、所望の反応効率を促進し得るため、気泡率は大きいことが好ましい。
【0112】
気泡率は、以下の基準に従って評価し、その結果を表1に示した。
◎:8%以上
○:7.5%以上8%未満
△:7%以上7.5%未満
×:7%未満
(圧力トレンド)
圧力トレンドとは、流動層における、時間ごとの流動層最下部と流動層上部のガス相の圧力の差分の変動である。圧力トレンドは、以下のように測定した。
【0113】
第一の圧力伝送器を流動層底板(隔壁)から300mmの高さ、第二の圧力伝送器を流動層の粉面より1000mm以上高い位置、の流動床装置の側面に設置し、それぞれの圧力測定を1秒毎に行った。圧力トレンドは、第一の圧力伝送器および第二の圧力伝送器の圧力測定値の差分を取り、流動層の流動状態の指標とした。
【0114】
圧力トレンドが小さいほど、言い換えれば、流動層における圧力変動が小さいほど、所望の反応が効率よく進行し得るため、好ましい。
【0115】
圧力トレンドは、以下の基準に従って評価し、その結果を表1に示した。
◎:平均値±0.1kPa未満
○:平均値±0.2kPa未満
△:平均値±0.4kPa未満
×:平均値±0.6kPa未満
(金属シリコン分散性)
金属シリコン分散性とは、流動層における金属シリコン粉末の分散の程度である。
【0116】
金属シリコン分散性が大きいほど、所望の反応が効率よく進行し得るため、好ましい。
【0117】
金属シリコン分散性は、インターナルの形状を考慮の上、反応中の金属シリコンの振るまいを目視し、目視の結果を以下の基準に従って評価し、その結果を表1に示した。
◎:インターナルを有しないか、またはインターナルが、金属シリコンの上下の移動を妨げていない。
○:インターナルが、金属シリコンの上下の移動を少し妨げている。
△:インターナルが、金属シリコンの上下の移動を妨げている。
×:インターナルが、金属シリコンの上下の移動を著しく妨げている。
【0118】
(金属シリコン残存量)
金属シリコン残存量とは、流動層から未反応の金属シリコン粉末を取り出す際に、反応炉内に残存した金属シリコン粉末の量である。
【0119】
金属シリコン残存量が小さいことは、反応炉から未反応の金属シリコン粉末を容易にかつ十分に取り出せることを示しており、金属シリコン残存量は小さいほど好ましい。
【0120】
金属シリコン残存量は、反応後に、インターナル上の金属シリコン粉末の有無を目視によって観察し、以下の基準に従って評価し、その結果を表1に示した。
○:インターナル上に、金属シリコン粉末が殆ど存在しない
×:インターナル上に、金属シリコン粉末が多く存在する。
【0121】
(総合評価)
上述した各評価結果に基づき、各インターナルの総合評価を以下の基準に従って評価し、表1に示した。
○:各評価結果に×が含まれない
×:各評価結果に×が含まれる
【0122】
【表1】
抵抗体を備えるインターナルは、特に、気泡率および圧力トレンドの観点から優れている。抵抗体を備えるインターナルは、金属シリコン分散性および金属シリコン残存量の観点からも、十分に優れた効果を有する。従って、表1の結果より、インターナルの総合評価として、抵抗体を備えるインターナルが最も優れていることがわかる。
【0123】
〔実施例2〕
実施例1で高評価であった抵抗体を備えるインターナルを設置した流動床式反応装置と、インターナルを設置していない流動床式反応装置とを用いて、トリクロロシランの製造を下記のように行った。
【0124】
検討に用いた流動床式反応装置の内径(Y1)は2300mmである。
【0125】
上記流動床式反応装置を4つ用意し、うち一つに、抵抗体を備えるインターナルを設置した。
【0126】
抵抗体は、最大内径(X1)160mm、高さ(X2)80mmの円錐型とした。抵抗体はまた、上面の鉛直略中央に、幅20mmである円形の孔を、等間隔に8つ形成した。抵抗体の傾斜角θは、45°であった。抵抗体は、幅50mmの板からなる格子状の支持体によって保持した。インターナルは、抵抗体を水平方向の同一断面上に25~32個備えるセットを、鉛直方向に4セット備えるよう、構成した。
【0127】
反応条件は、以下のとおりである。
・供給した金属シリコンの充填層高:約5000mm。
・反応炉内の温度:540℃
・反応炉内の圧力:2.8MPaG
・胴体部内へ供給する水素の温度:550℃
・胴体部内へ供給する水素の圧力:2.9MPaG
・胴体部内へ供給するテトラクロロシランの温度:550℃
・胴体部内へ供給するテトラクロロシランの圧力:2.9MPaG
なお、金属シリコンは、流動層を形成させながら、約5000mmの高さまで供給した。従って、流動床式反応装置内における、流動層形成領域は、金属シリコンの充填層高と同じ、約5000mmであった。
【0128】
上記反応条件でトリクロロシランの製造を行った際の、テトラクロロシランからトリクロロシランへの転化率を下記のように算出し、結果を
図5に示した。
転化率=(F-R)/F。
【0129】
ここで、Fは供給したテトラクロロシラン量(換言すればフィードテトラクロロシラン量)であり、Rは反応生成ガス中のテトラクロロシラン量である。
【0130】
図5において、(A)~(C)はすべてインターナルを設置していない流動床式反応装置を用いており、(A)~(C)はそれぞれ異なる日に運転を開始したことを表している。インターナルあり、およびインターナルなし(A)~(C)、全てにおいて、1日毎に、転化率を算出した。
【0131】
図5より、インターナルあり、またはインターナルなし(A)~(C)の各装置における転化率は、運転(反応)の開始から上昇し、数日後に安定した値(装置転化率と称する)となることが分かる。インターナルなし(A)~(C)において、全ての装置転化率の平均値は24.5%であった。一方、インターナルありでは、装置転化率は25.7%であった。すなわち、インターナルを設置した流動床式反応装置は、インターナルを設置しない流動床式反応装置と比べて、約1.05倍転化率が向上した。
【0132】
上述したように、トリクロロシランの製造方法において、抵抗体を備えるインターナルを設置した流動床式反応装置を用いることによって、気泡率を大きくする、言い換えれば気泡径を小さくすることが可能となる。その結果、テトラクロロシランからトリクロロシランへの転化率を高めることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の一実施形態によれば、気体と固体との反応を促進し得る新規のインターナル、当該インターナルを備える流動床式反応装置、および、当該流動床式反応装置を用いたトリクロロシランの製造方法を提供することが可能である。
【符号の説明】
【0134】
10 インターナル
11 抵抗体
11a 抵抗体群
12 支持体
13 上面
14 下面
20 反応炉
21 胴体部
22 底部
23 天面部
30 粉体供給部
40 気体導入部
50 ガス採集部
60 隔壁
70 噴出孔
71 噴出孔キャップ
80 流動層形成領域
100 流動床式反応装置