(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】複合体及びその製造方法、積層体、並びに細胞接着用基材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/07 20100101AFI20220712BHJP
C12N 11/02 20060101ALI20220712BHJP
B33Y 80/00 20150101ALN20220712BHJP
B33Y 10/00 20150101ALN20220712BHJP
【FI】
C12N5/07
C12N11/02
B33Y80/00
B33Y10/00
(21)【出願番号】P 2017178043
(22)【出願日】2017-09-15
【審査請求日】2020-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】仲山 智明
(72)【発明者】
【氏名】林 和花
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 愛乃
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-111988(JP,A)
【文献】特開2017-131144(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0028914(US,A1)
【文献】国際公開第2014/192909(WO,A1)
【文献】特開2009-131240(JP,A)
【文献】特表2005-518827(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0134968(US,A1)
【文献】特表2016-520328(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0227783(US,A1)
【文献】国際公開第2010/132028(WO,A1)
【文献】再生医療,Vol.16, 増刊,2017年,p.314, O-35-2
【文献】2010年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集,2010年,p.613-614, J03
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12N 11/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞接着性を有する粒子を表面に露出するハイドロゲルの領域を形成する工程と、
前記粒子を表面に露出しないハイドロゲルの領域を形成する工程と、
前記粒子に細胞を接着させる工程と、
を含むことを特徴とする複合体の製造方法であって、
前記細胞接着性を有する粒子を表面に露出する及び/または露出しないハイドロゲルの領域を形成する工程において、ハイドロゲル前駆体水溶液にハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液を滴下することを含む、製造方法。
【請求項2】
細胞接着性を有する粒子を含有表面に露出するハイドロゲルの領域を形成する工程と、
前記粒子を含有表面に露出しないハイドロゲルの領域を形成する工程と、
前記粒子に細胞を接着させる工程と、
を複数回繰り返し、細胞が接着したハイドロゲルの層を積層することを特徴とする、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
細胞接着性を有する粒子を表面に露出するハイドロゲルと、
前記粒子を表面に露出しないハイドロゲルと、を含むことを特徴とする細胞接着用基材であって、
前記粒子が、ゼラチン粒子であり、
前記ハイドロゲルが、細胞非接着性かつイオン架橋性のハイドロゲルである、細胞接着用基材。
【請求項4】
細胞接着性を有する粒子を表面に露出するハイドロゲルの領域を形成する工程と、
前記粒子を表面に露出しないハイドロゲルの領域を形成する工程と、
を含むことを特徴とする細胞接着用基材の製造方法であって、
前記細胞接着性を有する粒子を表面に露出する及び/または露出しないハイドロゲルの領域を形成する工程において、ハイドロゲル前駆体水溶液にハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液を滴下することを含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体及びその製造方法、並びに細胞接着用基材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、幹細胞技術の進展に伴い、複数の細胞からなる組織体を人工的に形成する技術の開発が行われている。
【0003】
組織体の作製の方法は、細胞の足場材としてハイドロゲルを利用し、三次元的に組織体を作製する方法が知られている。そして、組織体の作製においては、血管等を含んだ複雑な形状を再現するために、三次元的に微細な構造となるように細胞を配置する必要があることが知られている。
【0004】
また、細胞は、ただ単に組織体に配置されているだけではなく、細胞と足場材との相互作用を発現することが重要となる。例えば、細胞が足場材と接着することによって細胞の生存や正常な挙動(増殖、遊走、形態変化、遺伝子発現等)を可能にしていることが知られている。細胞の接着に影響がある要素として、インテグリン等に代表されるような細胞膜に存在する受容体に結合する細胞接着性因子(又は細胞接着活性配列)が必要であり、ナノスケール~マイクロスケールの凹凸等の微細構造や局所的な物性の変化が影響することが知られている。また、接着因子や微細な構造を変化させることにより接着性の制御が可能であることが既に知られている。
【0005】
しかし、人工の組織体を作製する技術では、接着性を有する領域と、接着性が弱い領域域とを三次元的に区別しながら任意の位置に配置することが困難であった。そのため、細胞の接着する領域を制御することによって、適切な挙動を示す細胞の位置を制御することができないという問題があった。
【0006】
そこで、細胞非接着性のアルブミンフィルム層を有する基盤にタンパク質変性剤や正電荷を有する高分子化合物の溶液をインクジェットで滴下し、その液が滴下された領域のみ細胞接着性を持つ領域へと変換する細胞固定化基板の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、細胞を所定の位置に配置した複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としての本発明の複合体は、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルと、前記粒子を含有しないハイドロゲルと、前記粒子に接着している細胞と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、細胞を所定の位置に配置した複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、本発明の複合体の一例を示す平面模式図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の複合体の他の一例を示す側面模式図である。
【
図2A】
図2Aは、細胞接着性を有する粒子と細胞とが接着点を有する場合の細胞の状態を示す側面模式図である。
【
図2C】
図2Cは、細胞接着性を有する粒子を含まないハイドロゲルと細胞との接着点を有さない場合の細胞の状態を示す側面模式図である。
【
図3A】
図3Aは、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルと、細胞との状態を示す側面模式図である。
【
図3B】
図3Bは、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルと、細胞との状態を示す平面模式図である。
【
図4A】
図4Aは、細胞接着性を有する粒子の露出表面積の占有割合が1%である原子間力顕微鏡(AFM)の写真を示す。
【
図4B】
図4Bは、細胞接着性を有する粒子の露出表面積の占有割合が18%である原子間力顕微鏡(AFM)の写真を示す。
【
図4C】
図4Cは、細胞接着性を有する粒子の露出表面積の占有割合が50%~58%である原子間力顕微鏡(AFM)の写真を示す。
【
図5】
図5は、ゼラチン粒子を含む液体の粘度及びゼラチンを含む液体の粘度を示すグラフである。
【
図6】
図6は、ハイドロゲル前駆体水溶液をゲル化する一例を示す模式図である。
【
図7A】
図7Aは、本発明の複合体の製造方法の一例を示す概略図である。
【
図7B】
図7Bは、本発明の複合体の製造方法の他の一例を示す概略図である。
【
図7C】
図7Cは、本発明の複合体の製造方法の他の一例を示す概略図である。
【
図8A】
図8Aは、本発明で用いられる複合体を製造する製造装置の一例を示す概略図である。
【
図8B】
図8Bは、本発明で用いられる複合体を製造する製造装置の他の一例を示す概略図である。
【
図8C】
図8Cは、本発明で用いられる複合体を製造する製造装置の他の一例を示す概略図である。
【
図9】
図9は、ゼラチン粒子作製時における架橋剤含有量の変化によるゼラチン粒子の粒度分布の変化を示すグラフである。
【
図10】
図10は、乾燥状態のゼラチン粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【
図12A】
図12Aは、参考例2における24時間細胞培養後の細胞の状態を示す写真である。
【
図12B】
図12Bは、参考例3における24時間細胞培養後の細胞の状態を示す写真である。
【
図12C】
図12Cは、参考例4における24時間細胞培養後の細胞の状態を示す写真である。
【
図13】
図13は、実施例1における48時間細胞培養後の複合体の状態を示す写真である。
【
図14A】
図14Aは、実施例2における細胞培養前の複合体の状態を示す写真である。
【
図14B】
図14Bは、実施例2における48時間細胞培養後の複合体の状態を示す写真である。
【
図15A】
図15Aは、実施例3における第1層目の複合体の状態を示す写真である。
【
図15B】
図15Bは、実施例3における第1層目の複合体の状態を示す写真である。
【
図15C】
図15Cは、実施例3における第3層目の複合体の状態を示す写真である。
【
図15D】
図15Dは、実施例3における共焦点顕微鏡により観察した複合体の厚み方向の細胞の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(複合体、及び細胞接着用基材)
本発明の複合体は、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルと、前記粒子を含有しないハイドロゲルと、前記粒子に接着している細胞と、を含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。
本発明の複合体は、従来の細胞固定化基板の製造方法では、アルブミン溶液をシャーレに加えてクリーンベンチ内にて一晩風乾する工程を含むため、細胞が乾燥してしまうと死んでしまうため、この工程を繰り返して、細胞を積層させることが困難であるという問題があるという知見に基づくものである。
本発明の複合体は、従来の細胞固定化基板の製造方法では、(1)例えば、血管や臓器等の組織のような微細な構造を再現することができない、(2)同一のシャーレで、同一の条件下で、例えば、細胞の生存率、分化、増殖、接着、伸展等の特性などを評価できない、(3)異なる細胞をパターニングし、例えば、どの細胞が近くに局在するか、異なる細胞同士の相互作用、異なる細胞の隣接による影響等の研究ができない、(4)複数の細胞にて、例えば、薬剤に対する毒性、効能、効果等を、小面積で評価を行うことができない、という問題があるという知見に基づくものである。
【0012】
本発明の複合体は、細胞を所定の位置に配置することができ、(1)血管や臓器等の組織のような微細な構造を再現することができる、(2)同一のシャーレで、同一の条件下で、細胞の生存率、分化、増殖、接着、伸展等の特性等を評価できる、(3)異なる細胞をパターニングし、どの細胞が近くに局在するか、異なる細胞同士の相互作用、異なる細胞の隣接による影響等の研究ができる、(4)複数の細胞にて、薬剤に対する毒性、効能、効果等を、小面積で評価を行うことができる。
【0013】
本発明の細胞接着用基材は、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルと、細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲルと、を含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。本発明の細胞接着用基材としては、例えば、培地として用いることも可能である。
【0014】
図1Aに示すように、培養容器(基体)61上に、本発明の複合体60として、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル62、及び細胞接着性を有する粒子を含まないハイドロゲル63を含み、少なくとも細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル62上(やその近傍)に、細胞64を有する。なお、細胞64は、細胞接着性を有する粒子に接着している。
【0015】
なお、複合体は、多層構成としてもよい。具体的には、複合体60を1単位とし、これを厚み方向に複数有することが好ましい。厚み方向とは、
図1Bに示すように、培養容器61の側面(断面)における上下方向であり、複合体60の単位を厚み方向に複数有することにより、複合体60を積層した複合体60’を得ることができる。
【0016】
<細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル>
細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルは、細胞接着性を有する粒子を含有すれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、更に必要に応じてその他の成分を含む。
【0017】
<<ハイドロゲル>>
ハイドロゲルとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、生体適合性を有することが好ましい。
【0018】
ハイドロゲルとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多糖類、両親媒性ゲル、タンパクゲル(例えば、フィブリン糊等)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、多糖類が好ましい。
【0019】
多糖類としては、例えば、ゲル状多糖類などが好ましい。
ゲル状多糖類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルギン酸カルシウム、ジェランガム、アガロース、グァーガム、キサンタンガム、カラギーナン、ペクチン、ローカストビーンガム、タマリンドガム、ダイユータンガム、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。これらの中でも、アルギン酸カルシウムが好ましい。
アルギン酸カルシウムは、アルギン酸のカルボキシル基にカルシウムイオンが結合した塩であり、カルシウムイオンは2価であるため、2つのカルボキシル基にまたがるかたちで結合(イオン架橋)して増粘することにより、ハイドロゲルを形成することができる。
また、ハイドロゲルは、所定の領域に細胞を支持(保持)することができるため、細胞間の距離を調整することができる。
【0020】
ハイドロゲルの含有量としては、複合体全量に対して、10質量%以上100質量%未満が好ましい。含有量が、10質量%以上100質量%未満であると、細胞が接着、伸展することができる足場としての好適な強度とすることができる。
【0021】
<<細胞接着性を有する粒子>>
細胞接着性を有する粒子は、細胞等の生体と接着性を有すれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ゼラチン粒子、コラーゲン粒子、フィブロネクチン粒子、フィブリノーゲン粒子などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ゼラチン粒子が好ましい。
【0022】
細胞接着性を有する粒子は、細胞と接着点を有することが好ましい。
図2Aは、細胞接着性を有する粒子と細胞とが接着点を有する場合の細胞の状態を示す側面模式図である。
図2Bは、
図2Aの平面(上面)模式図である。
図2A及び
図2Bに示すように、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル104上に細胞接着性を有する粒子101が存在する。細胞接着性を有する粒子101上に、細胞102が付与されると、細胞接着性を有する粒子101と、細胞102とが、接着点103により接着する。細胞接着性を有する粒子101と、細胞102とが、接着点を有することにより、細胞接着性を有する粒子101上の細胞が、効率よく、接着、伸展することができる。一方、
図2Cは、細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲルと細胞との接着点を有さない場合の細胞の状態を示す側面模式図である。
図2Cに示すように、細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲル104’は、細胞102’との接着点となる細胞接着性を有する粒子を含有しないため、細胞102’が細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲルに接着することができず、伸展もすることができない。
【0023】
粒子状のゼラチン粒子は、細胞接着用基材への細胞の接着性を向上することができ、非粒子状のゼラチンと比較すると、長期間、細胞に分解されることなく複合体中に存在することができる。そのため、粒子状のゼラチン粒子には、細胞の接着性を向上させ、さらに、長期にわたって、細胞の栄養源として利用されるという利点がある。また、粒子状のゼラチン粒子は、複合体の作製時の複合体用組成液の粘度を低くすることができ、複合体の作製を容易にすることができる。
【0024】
また、非粒子状のゼラチン等の高分子化合物は、そのままインクジェットで吐出すると皮膜ができやすく、ノズルが詰まりやすいという課題がある。しかし、本発明のように細胞接着性を有する粒子を用いることにより、粒が点在する溶液(インク)を吐出すればよく、ノズル詰まりも防止することができる。さらに、ハイドロゲルの中で、粒子状のゼラチンは分離して点在する。そのため、ハイドロゲルとゼラチン粒子とを混ぜることによりハイドロゲルの粘度が上がることも避けることができる。
【0025】
またさらに、非粒子状のゼラチンは培養温度の領域で脆いため、多層構造の一層に、ゼラチン、又はゼラチン水溶液を混ぜた溶液を含む場合、複合体が崩れやすいという課題がある。しかし、ゼラチンを粒子状にすることにより、培養温度の領域で複合体自体の強度を下げることなく、複合体を形成することができる。すなわち、複合体を上下方向に何層も重ねるような多層構造とするときも、型崩れせずに形成することができる。
【0026】
また、粒子としては、国際公開第2011/059112号パンフレットに記載されているように、特に制限はなく、目的に応じて適宜、分子を粒子に修飾することができ、例えば、細胞の栄養、細胞接着因子、成長因子、細胞接着分子などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、細胞の栄養、細胞接着因子、細胞接着分子が好ましい。
【0027】
栄養としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、糖、アミノ酸などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
細胞接着因子としては、例えば、アミノ酸配列として、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸配列(RGD配列)、セリン-アラニン-セリン配列(SAS配列)、CS1配列、CS5配列、REDV配列、GPEILDVPST配列、YIGSR配列、RNIAEIIKDI配列、F-9ペプチド、IKVAV配列、PDSGR配列などが挙げられる。
なお、接着とは、細胞が、足場となる材料が有する上記配列と結合することを意味する。足場となる材料の構造が上記配列を有する他に、材料がコーティングや化学修飾などの処理により接着点となる配列を有する場合を含む。複合体を形成するための細胞の成長、分裂には、細胞と上記配列とが接着していることが好ましい。
【0028】
細胞接着分子としては、例えば、細胞膜に埋め込まれている膜タンパク質などが挙げられる。細胞接着因子と結合する細胞接着分子としては、例えば、インテグリンなどが挙げられるが、細胞接着分子に特に制限はなく、細胞種や足場材の組合せによって適宜選択することができる。例えば、細胞外マトリクスの一種であるラミニンは、インテグリンではない受容体と結合することが知られており、36/67kDaラミニンレセプター、クレイニン、アスパルタクチンなどの分子が細胞接着分子として使用することができる。
【0029】
細胞接着性を有する粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜、形状等を選択することができる。
細胞接着性を有する粒子の形状としては、例えば、球状、線状、不定形状などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
細胞接着性を有する粒子としては、ハイドロゲルの少なくとも一部の表面から露出していることが好ましく、ハイドロゲルから突出していることがより好ましい。
露出とは、内部に存在する細胞接着性を有する粒子が平面視した時に複合体の表面に現れることを意味する。
露出は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)により確認することができる。
突出は、複合体の厚み方向の断面を、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)により観察することにより確認することができる。
表面から露出している細胞接着性を有する粒子を増やす(占有面積を広げる)方法としては、例えば、溶液(インク)内でのゼラチンの濃度を上げることにより達成することができる。溶液内で細胞接着性を有する粒子数が増えれば、おのずと表面から露出する粒子も増え、表面での細胞接着性を有する粒子同士の間隔も近くなる。
細胞接着性を有する粒子同士の左右方向の間隔としては、少なくとも使用する細胞の1個分の大きさよりも狭い状態が好ましい。この状態では、各細胞に対して少なくとも2個以上の細胞接着性を有する粒子が接着するため、細胞が細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル上を伸展しながら接着させることができる。
図3Aは、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルと、細胞との状態を示す側面模式図である。
図3Aに示すように、細胞11は、細胞接着性を有する粒子12を介して、ハイドロゲル13に接着していることが好ましい。
図3Bは、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルと、細胞との状態を示す平面模式図である。
図3Bに示すように、ハイドロゲル23上において、細胞接着性を有する粒子22が細胞21の周囲に接着していることが好ましい。
【0031】
細胞接着性を有する粒子の露出表面積の占有割合としては、平面視した前記複合体の全体表面に対して、1%以上有していれば好適に接着が起こる。効率よく伸展を起こすには20%以上がより好ましく、50%以上が特に好ましい。
図4Aに細胞接着性を有する粒子の露出表面積の占有割合が1%、
図4Bに細胞接着性を有する粒子の露出表面積の占有割合が18%、
図4Cに細胞接着性を有する粒子の露出表面積の占有割合が50%~58%である原子間力顕微鏡(AFM)の写真を示す。
占有割合は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)により得られた画像を、ImageJ(ソフトウェア)を用いて解析することにより算出することができる。
【0032】
また、他の態様として、細胞接着性を有する粒子は、ハイドロゲル中に分散していることも好ましい。
分散とは、連続的な均一相の物質中に、他の物質が粒子の状態となって散在している現象を意味する。
【0033】
細胞接着性を有する粒子のキュムラント径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1μm以上1.0μm以下が好ましく、0.25μm以上0.70μm以下がより好ましく、0.30μm以上0.70μm以下が特に好ましい。なお、キュムラント径は、濃厚系粒径アナライザー(商品名:FPAR-1000、大塚電子株式会社製)を用いて、下記のサンプル液の調製例により得られたサンプル液を用いて、以下の測定条件により測定することができる。なお、細胞接着性を有する粒子のキュムラント径は、細胞接着性を有する粒子の膨潤状態における粒径である。また、細胞接着性を有する粒子の粒度分布は、粒度分布計(商品名:UPA150、日機装株式会社製)を用いて測定することができる。
-サンプル液の調製例-
純水製造装置(商品名:GSH-2000、ADVANTEC社製)を用いて得られた純水に、細胞接着性を有する粒子を濃度0.5質量%で分散させる。測定用の液量は5mL、分散は20mm回転子をスターラーを用いて200rpm、約1日間撹拌することでサンプル液を調製することができる。
-測定条件-
・溶媒:水(屈折率:1.3314、25℃における粘度:0.884mPa・s(cP)、NDフィルターにより最適光量調製は適宜設定)
・測定プローブ:濃厚用プローブ
・測定ルーチン:測定:25℃で180秒間→測定:25℃で600秒間(本体側を35℃に変更すると次第に液温が25℃から35℃になる。その間の粒子径変化をモニタ)→測定:35℃で180秒間
【0034】
細胞接着性を有する粒子の体積平均粒径としては、細胞の体積平均粒径より小さいことが好ましい。
細胞接着性を有する粒子の体積平均粒径としては、1μm以下が好ましく、100nm以上1μm以下がより好ましい。
細胞接着性を有する粒子の体積平均粒径は、キュムラント径と同様にして測定することができる。
【0035】
細胞接着性を有する粒子としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
細胞接着性を有する粒子がゼラチン粒子である場合、ゼラチン粒子の原料であるゼラチンとしては、例えば、商品名:APH-250(新田ゼラチン株式会社製)、ゼラチン(和光純薬工業株式会社)、ゼラチン(ナカライテスク株式会社製)、メディゼラチン(株式会社ニッピ製)などが挙げられる。
【0036】
細胞接着性を有する粒子としては、その構造中において架橋剤により架橋されていることが好ましい。細胞接着性を有する粒子としてゼラチン粒子を用いる場合は、ゼラチンを架橋剤により架橋することが好ましい。架橋剤により架橋されることにより、細胞接着性を有する粒子のキュムラント径を小さくすることができ、細胞接着性を有する粒子を含む複合体上において、細胞の増殖を促進することができる。
【0037】
架橋剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド等のアルデヒド;エチレンプロピレンジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル;ヘキサメチレンジイソシアネート、α-トリジンイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタン-4,4,4-トリイソシアネート等のイソシアネート;グルコン酸カルシウムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アルデヒドが好ましく、グルタルアルデヒドがより好ましい。
【0038】
架橋剤の含有量としては、細胞接着性を有する粒子がゼラチン粒子である場合は、ゼラチン全量に対して、1質量%以上20質量%以下が好ましく、2質量%以上10質量%以下がより好ましい。含有量が、1質量%以上20質量%以下であると、細胞接着性を有する粒子のキュムラント径を小さくすることができ、細胞接着性を有する粒子を含む複合体上において、細胞の増殖を促進することができる。
【0039】
細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルとは、細胞接着性を有する粒子の密度が1mg/cm3以上であるハイドロゲルを意味する。
【0040】
細胞接着性を有する粒子の含有量としては、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル全量に対して、0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、0.5質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上2質量%以下が特に好ましい。含有量が、0.5質量%以上10質量%以下であると、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル上に十分細胞を接着し、細胞の増殖を促進することができる。
【0041】
[細胞接着性を有する粒子の作製方法]
細胞接着性を有する粒子としては、ゼラチン粒子の例として以下のようにして作製することができる。
細胞接着性を有する粒子としてゼラチンを2質量%となるように水と混ぜて60℃の湯浴中にて溶解して2質量%ゼラチン水溶液を得る。次に、40℃に加温した2質量%ゼラチン水溶液40mLを200mLビーカーに入れて撹拌する。その後、アセトン60gを一気に添加して白濁液を得る。
白濁液に、架橋剤として24質量%以上26質量%以下のグルタルアルデヒド水溶液を、例えば、160μL(ゼラチン全量に対するグルタルアルデヒドの含有量:5質量%)添加して、60℃の湯浴中で300rpm程度にて撹拌させながら30分間保持する。次第に白濁液がクリーム色に変化し、ゼラチン粒子を形成することができる。
次に、室温(25℃)に戻して、アセトン100gを添加し、ゼラチン粒子を凝集沈殿させて沈殿物を得る。
上澄み液の除去とアセトン洗浄とを数回繰り返し、得られた沈殿物から水分と未反応架橋剤とを除去し、必要に応じてろ過を行なう。その後、60℃ホットプレート上で沈殿物を乾燥して、50℃ホットプレート上で1時間減圧乾燥してゼラチン粒子(細胞接着性を有する粒子)の粉末を得ることができる。
【0042】
<粒子を含有しないハイドロゲル>
粒子を含有しないハイドロゲルとしては、細胞接着性を有する粒子を含有しなげれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
【0043】
<<ハイドロゲル>>
粒子を含有しないハイドロゲルとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルにおけるハイドロゲルと同様のものを用いることができる。
【0044】
粒子を含有しないハイドロゲルとしては、細胞接着性が低いことが好ましく、細胞非接着性であることがより好ましい。
細胞接着性が低いとは、細胞が基材上で伸展し、増殖、遊走しないことを意味する。
細胞接着性が低いことは、例えば、基材上に細胞を播種し、その細胞を、播種1日経過後に位相差顕微鏡などを用いて、基材上に播種した細胞が基材上に伸展しているかを観察することによって、また、数日後に同じく位相差顕微鏡などを用いることによって、遊走して場所を移動しているか、細胞が増殖して数が増えているかを観察することにより測定することができる。
【0045】
[複合体中の細胞接着性を有する粒子及びハイドロゲルの測定方法]
複合体中の細胞接着性を有する粒子及びハイドロゲルの測定方法としては、例えば、GC-MS測定により得られるピーク強度から測定する方法;ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)による分子量分布測定で得られるピーク強度から測定する方法;1H NMR測定で得られる積分値から測定する方法などが挙げられる。
【0046】
<粒子に接着している細胞>
粒子に接着している細胞としては、細胞接着性を有する粒子と接着性を有していれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0047】
<<細胞>>
細胞は、その種類等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、分類学的に、例えば、真核細胞、原核細胞、多細胞生物細胞、単細胞生物細胞を問わず、すべての細胞について使用することができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
真核細胞としては、例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、真菌などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、動物細胞が好ましく、細胞が細胞集合体を形成する場合は、細胞と細胞とが互いに接着し、物理化学的な処理を行わなければ単離しない程度の細胞接着性を有する接着性細胞がより好ましい。
【0048】
接着性細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、分化した細胞、未分化の細胞などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
分化した細胞としては、例えば、肝臓の実質細胞である肝細胞;星細胞;クッパー細胞;血管内皮細胞;類道内皮細胞、角膜内皮細胞等の内皮細胞;繊維芽細胞;骨芽細胞;砕骨細胞;歯根膜由来細胞;表皮角化細胞等の表皮細胞;気管上皮細胞;消化管上皮細胞;子宮頸部上皮細胞;角膜上皮細胞等の上皮細胞;乳腺細胞;ペリサイト;平滑筋細胞、心筋細胞等の筋細胞;腎細胞;膵ランゲルハンス島細胞;末梢神経細胞、視神経細胞等の神経細胞;軟骨細胞;骨細胞などが挙げられる。接着性細胞は、組織や器官から直接採取した初代細胞でもよく、又はそれらを何代か継代させたものでもよい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
未分化の細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、未分化細胞である胚性幹細胞、多分化能を有する間葉系幹細胞等の多能性幹細胞;単分化能を有する血管内皮前駆細胞等の単能性幹細胞;iPS細胞などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
原核細胞としては、例えば、真正細菌、古細菌などが挙げられる。
【0050】
遊離状態における細胞の体積平均粒径としては、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、20μm以下が特に好ましい。体積平均粒径が、100μm以下であれば、インクジェット法に好適に用いることができる。
【0051】
なお、細胞の体積平均粒径としては、下記の測定方法で測定することができる。
インキュベーター内(商品名:KM-CC17RU2、パナソニック株式会社製、37℃、5%CO2環境)において、1質量%抗生物質(Antibiotic-Antimycotic Mixed Stock Solution(100×)、和光純薬工業株式会社製)を含むダルベッコ変法イーグル培地(和光純薬工業株式会社製、以下、「D-MEM」とも称することがある)で細胞を培養後、アスピレータ(商品名:VACUSIP、INTEGRA社製)で100mmディッシュ内の10体積%ウシ胎児血清(以下、「FBS」とも称することがある)、及び培地を除去する。ディッシュにリン酸緩衝生理食塩水(和光純薬工業株式会社製、以下、「PBS(-)」とも称することがある)を3mL加え、アスピレータでPBS(-)を吸引除去し、表面を洗浄する。PBS(-)による洗浄作業を3回繰り返した後、0.1質量%トリプシン溶液(Trypsin, from Porcine Pancreas、和光純薬工業株式会社製)を3mL加え、インキュベーター内にて5分間加温し、ディッシュから細胞を剥離する。位相差顕微鏡で細胞の剥離を確認後、10質量%FBS、1質量%抗生物質を含むD-MEMを4mL加え、トリプシンを失活させる。遠沈管に移し、遠心分離(商品名:H-19FM、KOKUSAN社製、1.2×103rpm(234G)、5min、5℃)を行い、アスピレータで上清を除去する。除去後、遠沈管に10質量%FBS、1質量%抗生物質を含むD-MEMを1mL添加し、穏やかにピペッティングを行い、細胞を分散させる。その細胞懸濁液から10μLをエッペンドルフチューブに取り出し、0.4質量%トリパンブルー染色液10μLを加えてピペッティングを行って細胞を染色する。染色した細胞懸濁液から10μL取り出してPMMA製プラスチックスライドに載せ、自動セルカウンター(商品名:Countess Automated Cell Counter、invitrogen社製)を用いて測定することができる。なお、細胞数、細胞生存率も同様の測定方法により求めることができる。細胞は、遊離状態であると、略球状の形状をとるため、体積平均粒径を測定することができる。
【0052】
複合体の粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、200mPa・s以上500mPa・s以下が好ましく、300mPa・s以上400mPa・s以下が好ましい。粘度が、200mPa・s以上500mPa・s以下であると、細胞の密着、増殖、及び伸展を向上できる。
なお、粘度は、下記条件により測定することができる。
[粘度測定条件]
・計測器 :MCR-301(株式会社アントンパール・ジャパン製)
・コーン :CP50-1
・温度 :25℃
・せん断速度 :120(1/s)
【0053】
細胞の粒子への接着としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)により確認することができる。
【0054】
[細胞の配置方法]
細胞の配置方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピペット分注、マイクロマニピュレーター、インクジェット法、ゲル押し出し法、スクリーン印刷法等の転写法、光ピンセットなどが挙げられる。これらの中でも、細胞を効率よく数mm以下の狭い範囲の領域、又は薄く均一に配置することができる点から、インクジェット法が好ましい。
【0055】
-培養容器(基体)-
培養容器(基体)としては、足場材の形成、培養容器への接着に必要な土台となる基体からなる。
培養容器としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、樹脂製、ガラス製、金属製などが挙げられる。
【0056】
培養容器としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜、形状、構造、大きさを選択することができる。
培養容器の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平面状のみならず、穴が開いた形状、メッシュ状、凹凸のある形状、ハニカム形状などが挙げられる。
図1Aにおいては、培養容器は円柱形状であるが、培養容器はどのような形状でもよい。また、
図1Aにおいては、培地や薬剤の出し入れのために上部が開いた形状であるが、閉鎖系で環流培養が可能な形状やマイクロ流路を持つチップ型形状なども用いることができる。
培養容器の材質としては、例えば、有機材料、無機材料などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
有機材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、TAC(トリアセチルセルロース)、ポリイミド(PI)、ナイロン(Ny)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ウレタンアクリレート等のアクリル系材料、セルロースなどが挙げられる。
無機材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガラス、セラミックスなどが挙げられる。
培養容器とは別である別容器を用いる場合には、別容器の素材、形状等は、培養容器と同様のものを用いることができる。
また、別容器の大きさは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、培養容器に内包可能な大きさが好ましい。
【0057】
(複合体の製造方法、及び細胞接着用基材の製造方法)
本発明の複合体の製造方法は、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルの領域を形成する工程と、粒子を含有しないハイドロゲルの領域を形成する工程と、粒子に細胞を接着させる工程と、を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
本発明の複合体の製造方法は、本発明の複合体を好適に製造することができる。
【0058】
細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルの領域を形成する工程、及び粒子を含有しないハイドロゲルの領域を形成する工程は、層形成工程と、ハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液付与工程と、を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
粒子に細胞を接着させる工程は、細胞層形成材料付与工程、を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0059】
本発明の細胞接着用基材の製造方法は、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルの領域を形成する工程と、粒子を含有しないハイドロゲルの領域を形成する工程と、を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
本発明の複合体の製造方法は、本発明の複合体を好適に製造することができる。
細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルの領域を形成する工程、及び粒子を含有しないハイドロゲルの領域を形成する工程は、層形成工程と、ハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液付与工程と、を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0060】
<層形成工程>
層形成工程は、基体上に、ハイドロゲル前駆体水溶液のハイドロゲル前駆体水溶液層を形成する工程である。
【0061】
-ハイドロゲル前駆体水溶液層-
ハイドロゲル前駆体水溶液層としては、ハイドロゲル前駆体水溶液(培養インク)を含み、更に必要に応じてその他の水溶液を含む。
ハイドロゲル前駆体水溶液(培養インク)としては、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルの領域を形成するために用いられる粒子含有ハイドロゲル前駆体水溶液、及び粒子を含有しないハイドロゲルの領域を形成するために用いられる粒子不含有ハイドロゲル前駆体水溶液から構成される。
細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルの領域を形成するために用いられる粒子含有ハイドロゲル前駆体水溶液は、細胞接着性を有する粒子及びハイドロゲル前駆体を含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。
また、粒子を含有しないハイドロゲルの領域を形成するために用いられる粒子不含有ハイドロゲル前駆体水溶液としては、細胞接着性を有する粒子を含まず、ハイドロゲル前駆体を含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。
粒子不含有ハイドロゲル前駆体水溶液におけるハイドロゲル前駆体としては、粒子含有ハイドロゲル前駆体水溶液におけるハイドロゲル前駆体と同様のものを用いることができる。
【0062】
--細胞接着性を有する粒子--
細胞接着性を有する粒子は、本発明の複合体における細胞接着性を有する粒子と同様のものを用いることができる。
【0063】
細胞接着性を有する粒子は、細胞接着性材料を粒子状にすることにより得ることができる。
細胞接着性材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ゼラチン、コラーゲン、フィブロネクチン、フィブリノーゲンなどが挙げられる。
【0064】
--ハイドロゲル前駆体--
ハイドロゲル前駆体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、コラーゲン、エラスチン、ゼラチン等の生体由来ポリマー;アルギン酸、ジェランガム等の多糖化合物金属塩;ポリ乳酸等の合成ポリマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、多糖化合物金属塩が好ましく、アルギン酸塩がより好ましい。
アルギン酸塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アルギン酸ナトリウムが好ましい。
【0065】
ハイドロゲル前駆体水溶液層の形成が、ハイドロゲル前駆体水溶液を基体上に飛翔させることにより行われることが好ましい。
ハイドロゲル前駆体水溶液の基体上への飛翔としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクジェット方式が好ましい。
【0066】
ハイドロゲル前駆体水溶液の飛翔の態様としては、例えば、液体流路内のインクを加圧する圧力発生手段として圧電素子を用いて液体流路の壁面を形成する振動板を変形させて液体流路内容積を変化させて液体滴を吐出させる、いわゆるピエゾ方式(例えば、特公平2-51734号公報参照)、発熱抵抗体を用いて液体流路内で液体を加熱して気泡を発生させる、いわゆるサーマル方式(例えば、特公昭61-59911号公報参照)、インク流路の壁面を形成する振動板と電極とを対向配置し、振動板と電極との間に発生させる静電力によって振動板を変形させることで、液体流路内容積を変化させて液体滴を吐出させる静電方式(例えば、特開平6-71882号公報参照)などが挙げられる。
【0067】
飛翔させるハイドロゲル前駆体水溶液の液滴は、その大きさとしては、例えば、3pL以上40pL以下が好ましく、その吐出噴射の速さとしては、5m/s以上20m/s以下が好ましく、その駆動周波数としては、1kHz以上が好ましい。
【0068】
ハイドロゲル前駆体水溶液の粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20mPa・s以下が好ましく、15mPa・s以下がより好ましい。粘度が、20mPa・s以下であると、基体への液体層の形成が容易になり、また、インクジェット方式を用いる場合は、吐出安定性を向上することができる。
ハイドロゲル前駆体水溶液の粘度としては、細胞接着性材料を粒子状とした細胞接着性を有する粒子を含有する場合は、インクジェット方式に適した粘度にすることができる。
図5は、細胞接着性を有する粒子であるゼラチン粒子を含む液体、及び細胞接着性材料であるゼラチンを含む液体の粘度を示すグラフである。
図5に示すように、1質量%未処理ゼラチン及び1質量%アルギン酸ナトリウムを含む液体の粘度と比較して、1質量%粒子化ゼラチン及び1質量%アルギン酸ナトリウムを含む液体の粘度は低くなり、インクジェット方式に適した粘度になっていることが分かる。
【0069】
また、未処理ゼラチンは、アルギン酸ナトリウムと混合し、その後、ゲル化した場合に、細胞培養温度において、未処理ゼラチンが溶解し、流出してしまうため細胞支持強度が維持されず、崩壊してしまうことから細胞の培養に用いることはできない。一方、粒子化したゼラチンは、温度による形態変化がないため、細胞支持強度を維持することができ、細胞の培養中に崩壊することがなく、好適に細胞を培養することができる。
【0070】
ハイドロゲル前駆体水溶液層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3μm以上200μm以下が好ましく、10μm以上100μm以下がより好ましい。平均厚みが、3μm以上200μm以下であると、細胞の増殖を好適に促進することができる。なお、平均厚みは、公知の方法に従って測定することができる。
【0071】
-基体-
培養容器(基体)としては、複合体における培養容器(基体)と同様のものを用いることができる。
【0072】
<ハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液付与工程>
ハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液付与工程は、ハイドロゲル前駆体水溶液層上に、ハイドロゲル前駆体水溶液と接触するとハイドロゲル前駆体をゲル化させるハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液を付与する工程である。
ハイドロゲル前駆体水溶液層に、ハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液を付与することにより、ハイドロゲル前駆体水溶液中のハイドロゲル前駆体と、ハイドロゲル前駆体ゲル化ポリマーとが反応して、イオン架橋して増粘することにより、複合体を形成することができる。
【0073】
-ハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液-
ハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液としては、ハイドロゲル前駆体水溶液と接触するとハイドロゲル前駆体をゲル化させるハイドロゲル前駆体ゲル化ポリマーを含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。
ハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、塩化カルシウム水溶液、キトサン水溶液、キチン水溶液が好ましい。
【0074】
--ハイドロゲル前駆体ゲル化ポリマー--
ハイドロゲル前駆体ゲル化ポリマーとしては、ハイドロゲル前駆体水溶液と接触するとハイドロゲル前駆体をゲル化できれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多糖類、多価金属塩、フィブリノーゲン、トロンビン、フィブロネクチン、ラミニン、リコンビナントペプチド、キトサン、キチンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、多価金属塩、キトサン、キチンが好ましく、塩化カルシウム、キトサン、キチンがより好ましく、塩化カルシウムが特に好ましい。
【0075】
ハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液付与工程におけるハイドロゲル前駆体水溶液層上へのハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液の付与としては、ハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液をハイドロゲル前駆体水溶液層上に飛翔させることにより行われることが好ましい。
ハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液のハイドロゲル前駆体水溶液層上への飛翔としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクジェット方式が好ましい。
インクジェット方式としては、層形成工程におけるインクジェット方式と同様のものを用いることができる。
図6に、ハイドロゲル前駆体水溶液をゲル化する一例を示す模式図である。
図6は、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル前駆体水溶液について示すが、細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲル前駆体水溶液でも原理は同じである。
図6に示すように、細胞接着性を有する粒子42を含むハイドロゲル前駆体水溶液41に、塩化カルシウム等由来のカルシウムイオンなどのハイドロゲル前駆体ゲル化ポリマーを付与することにより、細胞接着性を有する粒子42を含有するハイドロゲル43を形成することができる。
【0076】
<細胞層形成材料付与工程>
細胞層形成材料付与工程は、層形成工程と、ハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液付与工程と、により形成される複合体上に細胞を含む細胞層形成材料を付与する工程である。
細胞としては、複合体における細胞と同様のものを用いることができる。
【0077】
-細胞層形成材料の付与方法-
細胞層形成材料の付与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、インクジェット法、ディスペンサー法、ピペット法、アスピレータ法などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、一細胞レベルで精密かつ複雑な細胞配置できる点から、インクジェット法が好ましい。
【0078】
インクジェット法は、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。なお、インクジェット法を実施するには公知のインクジェット吐出装置を、細胞層形成材料付与手段として好適に使用することができる。
【0079】
遊離状態における細胞の体積平均粒径としては、複合体における細胞の体積平均粒径と同様である。
【0080】
細胞層形成材料中の細胞数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5×105個/mL以上5×108個/mL以下が好ましく、5×105個/mL以上5×107個/mL以下がより好ましい。細胞数が、5×105個/mL以上5×108個/mL以下であると、吐出した液滴中に細胞を確実に含むことができ、細胞の精密配置に好適である。細胞数としては、体積平均粒径の測定方法と同様にして、自動セルカウンター(商品名:Countess Automated Cell Counter、invitrogen社製)を用いて測定することができる。
【0081】
-細胞層形成材料の付与位置-
細胞層形成材料の付与位置は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル及び細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲルを含むハイドロゲル全体、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル上などが挙げられる。これらの中でも、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル上が好ましい。
なお、細胞層形成材料を細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲル上に付与しても、細胞は隣接する細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル上に移動し、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル上で接着、伸展する傾向にある。
【0082】
図7Aは、本発明の複合体の製造方法の一例を示す概略図である。
図7Bは、本発明の複合体の製造方法の他の一例を示す概略図である。
図7Cは、本発明の複合体の製造方法の他の一例を示す概略図である。
図7Aに示すように、培養容器(基体)110上に、インクジェットヘッド118から、細胞接着性を有する粒子111を含有するハイドロゲル前駆体水溶液114’を付与する。さらに、培養容器(基体)110上に、インクジェットヘッドから、細胞接着性を有する粒子111を含有しないハイドロゲル前駆体水溶液を付与する。次に、ハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液を付与する。これにより、細胞接着性を有する粒子111を含有するハイドロゲル114、及び細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲル115を形成する。その後、細胞接着性を有する粒子111を含有するハイドロゲル114上に、細胞112を付与することにより、本発明の複合体を得ることができる。
【0083】
ここで、
図8Aは、本発明で用いられる複合体を製造する製造装置の一例を示す概略図である。
図8Bは、本発明で用いられる複合体を製造する製造装置の他の一例を示す概略図である。
図8Cは、本発明で用いられる複合体を製造する製造装置の他の一例を示す概略図である。
図8Aから
図8Cの複合体の製造装置は、インクジェットヘッド52、53、54を配列したヘッドユニットを用いて、インクジェットヘッド52から細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル前駆体水溶液52’を基体51上に吐出して細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル前駆体水溶液を付与する。また、インクジェットヘッド53から細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲル前駆体水溶液53’を基体51上に吐出して細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲル前駆体水溶液を付与する。これにより、基体51上に、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル前駆体水溶液、及び細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル前駆体水溶液からなるハイドロゲル前駆体層を形成する。その後、ハイドロゲル前駆体水溶液層上に、インクジェットヘッド54からハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液を吐出して、ハイドロゲル前駆体水溶液層中の各ハイドロゲル前駆体水溶液と接触させてハイドロゲルを形成するものである。その後、形成されたハイドロゲル上に、細胞層形成材料を吐出して、細胞層を形成する。このとき、細胞層形成材料は、ハイドロゲル前駆体水溶液、又はハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液に含有させて吐出してもよく、インクジェットヘッド52、53、54とは異なるインクジェットヘッドから吐出してもよい。また、ハイドロゲル及び細胞層の形成を繰り返すことにより、積層された複合体を製造することも可能である。
【0084】
また、本発明の複合体は、粒子不含有ハイドロゲル前駆体水溶液を用いて、ハイドロゲル前駆体水溶液層を形成し、次に、細胞接着性を有する粒子を、所定の位置に付与することにより、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル前駆体水溶液を形成し、その後、ハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液を付与して、ハイドロゲルを形成してもよい。この場合、細胞接着性を有する粒子が付与された領域が、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルとなり、細胞接着性を有する粒子が付与されなかった領域が、細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲルとなる。その後、上述と同様にして、細胞層形成材料を付与することができる。
【実施例】
【0085】
以下に、本発明の実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、ゼラチン粒子のキュムラント径及び体積平均粒径、並びに細胞接着性を有する粒子の露出表面積の占有割合は、以下のようにして測定した。
【0086】
<ゼラチン粒子のキュムラント径及び体積平均粒径>
ゼラチン粒子の体積平均粒径は、濃厚系粒径アナライザー(商品名:FPAR-1000、大塚電子株式会社製)を用いて、下記のサンプル液の調製例により得られたサンプル液を用いて、以下の測定条件により測定した。
-サンプル液の調製例-
純水製造装置(商品名:GSH-2000、ADVANTEC社製)を用いて得られた純水に、細胞接着性を有する粒子を濃度0.5質量%で分散させた。測定用の液量は5mL、分散は20mm回転子をスターラーを用いて200rpm、約1日間撹拌することでサンプル液を調製した。
-測定条件-
・溶媒:水(屈折率:1.3314、25℃における粘度:0.884mPa・s(cP)、NDフィルターにより最適光量調製は適宜設定)
・測定プローブ:濃厚用プローブ
・測定ルーチン:測定:25℃で180秒間→測定:25℃で600秒間(本体側を35℃に変更すると次第に液温が25℃から35℃になる。その間の粒子径変化をモニタ)→測定:35℃で180秒間
【0087】
<細胞接着性を有する粒子の露出表面積の占有割合>
原子間力顕微鏡(AFM)により得られた画像を、ImageJ(ソフトウェア)を用いて解析することにより算出した。
【0088】
<細胞の体積平均粒径>
細胞の体積平均粒径としては、下記の測定方法で測定した。
インキュベーター内(商品名:KM-CC17RU2、パナソニック株式会社製、37℃、5%CO2環境)において、1質量%抗生物質(Antibiotic-Antimycotic Mixed Stock Solution(100×)、和光純薬工業株式会社製)を含むダルベッコ変法イーグル培地(和光純薬工業株式会社製、以下、「D-MEM」とも称することがある)で細胞を培養後、アスピレータ(商品名:VACUSIP、INTEGRA社製)で100mmディッシュ内の10体積%ウシ胎児血清(以下、「FBS」とも称することがある)、及び培地を除去する。ディッシュにリン酸緩衝生理食塩水(和光純薬工業株式会社製、以下、「PBS(-)」とも称することがある)を3mL加え、アスピレータでPBS(-)を吸引除去し、表面を洗浄する。PBS(-)による洗浄作業を3回繰り返した後、0.1質量%トリプシン溶液(Trypsin, from Porcine Pancreas、和光純薬工業株式会社製)を3mL加え、インキュベーター内にて5分間加温し、ディッシュから細胞を剥離する。位相差顕微鏡で細胞の剥離を確認後、10質量%FBS、1質量%抗生物質を含むD-MEMを4mL加え、トリプシンを失活させた。遠沈管に移し、遠心分離(商品名:H-19FM、KOKUSAN社製、1.2×103rpm(234G)、5min、5℃)を行い、アスピレータで上清を除去する。除去後、遠沈管に10質量%FBS、1質量%抗生物質を含むD-MEMを1mL添加し、穏やかにピペッティングを行い、細胞を分散させた。その細胞懸濁液から10μLをエッペンドルフチューブに取り出し、0.4質量%トリパンブルー染色液10μLを加えてピペッティングを行って細胞を染色する。染色した細胞懸濁液から10μL取り出してPMMA製プラスチックスライドに載せ、自動セルカウンター(商品名:Countess Automated Cell Counter、invitrogen社製)を用いて測定した。
【0089】
(細胞接着性を有する粒子水溶液の作製例1)
<ゼラチン粒子水溶液Aの作製>
細胞接着性を有する粒子の原料としてゼラチン(商品名:APH-250、新田ゼラチン株式会社製)0.5gを水49.5mLに混ぜて、60℃の湯浴中にて溶解し、1質量%ゼラチン水溶液を得た。40℃に加温した1質量%ゼラチン水溶液40mLを200mLビーカーに入れて撹拌した。その後、アセトン60gを一気に添加して白濁液を得た(コアセルベーション)。
白濁液に、架橋剤として24質量%以上26質量%以下のグルタルアルデヒド水溶液(東京化成工業株式会社製)をゼラチン全量に対する架橋剤が5質量%となるように添加して、60℃の湯浴中で300rpm程度にて撹拌させながら30分間保持した。次第に白濁液がクリーム色に変化し、1.0質量%ゼラチン粒子水溶液A(ゼラチンに対する架橋剤濃度:5質量%)を得た。得られた1.0質量%ゼラチン粒子水溶液Aのゼラチン粒子のキュムラント径は、0.26μmであった。また、ゼラチン粒子の粒度分布を
図9に示す。
【0090】
(細胞接着性を有する粒子水溶液の作製例2)
<ゼラチン粒子水溶液Bの作製>
細胞接着性を有する粒子水溶液の作製例1において、ゼラチンの量を0.5gから1gに変更し、水の量を49.5mLから49mLに変更した以外は、細胞接着性を有する粒子水溶液の作製例1と同様にして、2.0質量%ゼラチン粒子水溶液B(ゼラチンに対する架橋剤濃度:5質量%、架橋剤量:160μL)を得た。得られた2.0質量%ゼラチン粒子水溶液Bのゼラチン粒子のキュムラント径は、0.41μmであった。また、ゼラチン粒子の粒度分布を
図4に示す。
次に、得られた2.0質量%ゼラチン粒子水溶液Bを室温(25℃)に戻して、アセトン100gを添加し、ゼラチン粒子を凝集沈殿させて沈殿物を得た。上澄み液の除去とアセトン洗浄とを数回繰り返し、得られた沈殿物から水分と未反応架橋剤とを除去した。その後、60℃ホットプレート上で沈殿物を乾燥して、50℃ホットプレート上で1時間減圧乾燥してゼラチン粒子の粉末を得た(収率:70%)。走査型電子顕微鏡(装置名:M-SEM、日本電子株式会社製)を用いて、ゼラチン粒子の粉末(乾燥状態のゼラチン粒子)のSEM像を観察した。結果を
図10に示す。
図10の結果から、ゼラチン粒子の形状は、球状であり、ゼラチン粒子のキュムラント径は、ほとんどが0.1μm以上0.5μm以下であるが、1μm以上の粗大粒子の存在も確認できた。また、
図9から膨潤状態のゼラチン粒子のキュムラント径は、0.2μm以上1μm以下であって、乾燥状態のゼラチン粒子と比較して、キュムラント径が2倍大きくなっていることが分かる。
【0091】
(細胞接着性を有する粒子水溶液の作製例3)
<ゼラチン粒子水溶液Cの作製>
細胞接着性を有する粒子水溶液の作製例1においてゼラチンの量を0.5gから1.5gに変更し、水の量を49.5mLから48.5mLに変更した以外は、細胞接着性を有する粒子水溶液の作製例1と同様にして、3.0質量%ゼラチン粒子水溶液C(ゼラチンに対する架橋剤濃度:5質量%)を得た。得られた3.0質量%ゼラチン粒子水溶液Cのゼラチン粒子のキュムラント径は、0.54μmであった。また、ゼラチン粒子の粒度分布を
図9に示す。
【0092】
(細胞接着性を有する粒子水溶液の作製例4)
<ゼラチン粒子水溶液Dの作製>
細胞接着性を有する粒子水溶液の作製例2において、グルタルアルデヒド水溶液の量160μL(ゼラチン全量に対する架橋剤:5質量%)を80μL(ゼラチン全量に対する架橋剤:2.5質量%)に変更した以外は、細胞接着性を有する粒子水溶液の作製例2と同様にして、ゼラチン粒子水溶液Dを得た。得られた2質量%ゼラチン粒子水溶液Dのゼラチン粒子のキュムラント径は、0.69μmであった。
【0093】
(参考例1)
<複合体の作製>
アルギン酸ナトリウム(商品名:SKAT-ONE、株式会社キミカ製)0.02gを水10mLに溶解して2質量%アルギン酸ナトリウム水溶液10mLを調製し、ゼラチン粒子水溶液D(ゼラチン粒子濃度:2質量%、架橋剤濃度:2.5質量%)10mLを添加(体積比(2質量%アルギン酸ナトリウム水溶液:ゼラチン粒子水溶液D)が1:1)してベンコット(商品名:ベンコットM-1、旭化成株式会社製)を敷いた6wellプレート(商品名:Costar(登録商標) cell culture plates、コーニング社製)に、ピペットを用いて、3mLずつ加えて、一晩60℃で乾燥させた。乾燥後、100mmol/L(mM)塩化カルシウム水溶液3mLを6wellプレートに加えて30分間以上静置し、アルギン酸カルシウム(ハイドロゲル)が形成され、ゼラチン粒子(細胞接着性を有する粒子)を含む複合体を得た。
得られた複合体を、イオン交換水にて3回洗浄した。次いで70質量%エタノール水溶液にて3回以上洗浄した。
アルギン酸ナトリウムと塩化カルシウムとの反応により作製された薄膜を安定化させるために、37℃、5体積%CO2条件にて、ダルベッコ変法イーグル培地(D-MEM:和光純薬工業株式会社製)に72時間浸漬させた。なお、培地は、24時間毎に交換した。
【0094】
-細胞層形成材料の調製-
継代数10以上20以下のNHDF(ヒト皮膚繊維芽細胞、ロンザジャパン株式会社製)をD-MEM(和光純薬工業株式会社製)を用いて、ポリスチレンディッシュ上にて、37℃、5体積%CO2条件下で72時間培養した。その後、0.05質量%トリプシン溶液(Trypsin, from Porcine Pancreas、和光純薬工業株式会社製)と0.02質量%エチレンジアミン四酢酸(EDTA、和光純薬工業株式会社製)とを含み、かつカルシウム及びマグネシウムを含有しないPBSを用いて、細胞を、37℃にて5分間トリプシン処理を行ないポリスチレンディッシュから剥がした。トリプシン処理後、10質量%FBSを含むD-MEMを加えて酵素反応を停止させて、細胞含有溶液を得た。得られた細胞含有溶液234gを5℃にて5分間遠心分離処理して、上澄みを取り除いた後に10質量%FBSを含むD-MEMに懸濁させ、細胞層形成材料を得た。
【0095】
-細胞培養-
72時間D-MEM培地に浸漬させた複合体上に、細胞層形成材料を、細胞数が4,000個/cm2となるように付与した。その後、37℃、5体積%CO2条件下で48時間培養した。なお、培地は、培養開始から24時間後に一度交換した。
【0096】
細胞培養において、培養開始から48時間後に位相差顕微鏡を用いて、細胞を観察した。位相差顕微鏡により取得した蛍光画像を観察した結果を
図11A~
図11Cに示す。
図11Aは、参考例1の48時間培養後の細胞の状態を示す写真である。
図11A中、破線部は伸展している細胞を表す。
図11Bは、
図11Aにおける実線部の部分拡大写真を示す写真である。
図11Cは、
図11Bにおける実線部の部分拡大写真を示す写真である。
図11Cから、細胞の仮足が、ゼラチン粒子密集部を這うようにして伸展していることが分かる。
【0097】
(参考例2)
-細胞層形成材料の調製例2-
--細胞層形成材料2の調製--
継代数10以上20以下のNHDF(ヒト皮膚繊維芽細胞、ロンザジャパン株式会社製)をD-MEM(和光純薬工業株式会社製)を用いて、ポリスチレンディッシュ上にて、37℃、5体積%CO2条件下で72時間培養した。その後、0.05質量%トリプシン溶液(Trypsin, from Porcine Pancreas、和光純薬工業株式会社製)と0.02質量%エチレンジアミン四酢酸(EDTA、和光純薬工業株式会社製)とを含み、かつカルシウム及びマグネシウムを含有しないPBSを用いて、細胞を、37℃にて5分間トリプシン処理を行ないポリスチレンディッシュから剥がした。トリプシン処理後、10質量%FBSを含むD-MEMを加えて酵素反応を停止させて、細胞含有溶液を得た。得られた細胞含有溶液234gを5℃にて5分間遠心分離処理して、上澄みを取り除いた後に10質量%FBSを含むD-MEMに懸濁させ、細胞層形成材料を得た。
【0098】
-細胞の染色-
冷凍保存された緑色蛍光染料(商品名:Cell Tracker Green、Life Technology社製)を室温まで解凍し、10mMの濃度でジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」とも称することがある)へ溶解させ、無血清ダルベッコ変法イーグル培地(Life Technology社製)と混合し、濃度が10μMの緑色蛍光染料含有無血清培地を調製した。次に、細胞層形成材料2に調製した緑色蛍光染料含有無血清培地をディッシュ1枚あたり5mL添加し、インキュベーター内で30分間染色し、緑色蛍光染料で染色された細胞を含む細胞層形成材料を得た。
【0099】
アルギン酸ナトリウム(商品名:SKAT-ONE、株式会社キミカ製)0.01gを水10mLに溶解して1質量%アルギン酸ナトリウム水溶液10mLを調製し、ゼラチン粒子水溶液D(ゼラチン粒子濃度:2質量%、架橋剤濃度:2.5質量%)をゼラチン粒子濃度1%に希釈したゼラチン粒子水溶液D希釈液を10mLを添加(体積比(1質量%アルギン酸ナトリウム水溶液:ゼラチン粒子水溶液D 1%)が1:1)し、混合液Aを得た。次に、6wellプレート(商品名:Costar(登録商標) cell culture plates、コーニング社製)に、産業用インクジェットヘッドGEN4(リコーインダストリー株式会社製)を用いて、得られた混合液Aを一辺8mm、平均厚さが30μmの層を形成するように印字後、100mM塩化カルシウムを平均厚さが10μmとなるように混合液Aの上に重ねて印字し、構造物を形成した。その後、得られた構造物に無血清ダルベッコ変法イーグル培地(Life Technology社製)で1回洗い、複合体を得た。
【0100】
-細胞培養-
得られた複合体上に、緑色蛍光染料で染色された細胞を含む細胞層形成材料を、細胞数が4,000個/cm2となるように付与した。その後、37℃、5体積%CO2条件下で48時間培養した。なお、培地(無血清ダルベッコ変法イーグル培地、Life Technology社製)は、培養開始から24時間後に一度交換した。
【0101】
-細胞の接着、伸展-
細胞培養において、培養開始から24時間後に位相差顕微鏡を用いて、細胞の接着、伸展を確認した。結果を
図12Aに示す。
【0102】
位相差顕微鏡により取得した蛍光画像からImageJ(ソフトウェア)を用いて細胞数をカウントし、画像6枚の平均から細胞数を算出した。また、伸展している細胞数もカウントすることで伸展率を求めた。伸展率の結果を下記表1に示す。また、細胞接着性を有する粒子の露出表面積の占有割合を下記表1に示す。
【0103】
(参考例3)
参考例2において、ゼラチン粒子水溶液D(ゼラチン粒子濃度:2質量%、架橋剤濃度:2.5質量%)をゼラチン粒子濃度1%に希釈したゼラチン粒子水溶液D希釈液を、ゼラチン粒子水溶液D(ゼラチン粒子濃度:2質量%、架橋剤濃度:2.5質量%)をゼラチン粒子濃度0.1%に希釈したゼラチン粒子水溶液D希釈液に変更した以外は、参考例2と同様にして、複合体を得た。次に、参考例2と同様にして、細胞培養を行った。その後、参考例2と同様にして、細胞の接着、伸展を確認した。結果を
図12Bに示す。また、細胞接着性を有する粒子の露出表面積の占有割合、及び細胞伸展率を下記表1に示す。
【0104】
(参考例4)
参考例2において、ゼラチン粒子水溶液D(ゼラチン粒子濃度:2質量%、架橋剤濃度:2.5質量%)添加しなかった以外は、参考例2と同様にして、複合体を得た。次に、参考例2と同様にして、細胞培養を行った。その後、参考例2と同様にして、細胞の接着、伸展を確認した。結果を
図12Cに示す。また、細胞接着性を有する粒子の露出表面積の占有割合、及び細胞伸展率を下記表1に示す。
【0105】
【0106】
(実施例1)
<粒子を含有しないハイドロゲル前駆体の作製例>
<<粒子を含有しないハイドロゲル前駆体の作製>>
アルギン酸ナトリウム水溶液(株式会社キミカ製)を、アルギン酸ナトリウムの最終濃度が0.5質量%となるように純水に溶解し、粒子を含有しないハイドロゲル前駆体を作製した。
【0107】
<粒子を含有するハイドロゲル前駆体の作製例>
<<粒子を含有するハイドロゲル前駆体の作製>>
アルギン酸ナトリウム水溶液(株式会社キミカ製)を、1質量%となるように純水に溶解し、粒子を含有しないハイドロゲル前駆体を得た。得られた粒子を含有しないハイドロゲル前駆体と、ゼラチン粒子水溶液Dとを、最終濃度がアルギン酸ナトリウム0.5質量%、ゼラチン粒子0.5質量%となるように混合し、粒子を含有するハイドロゲル前駆体を作製した。
【0108】
<ハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液の作製例>
<<ハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液の作製>>
塩化カルシウム(和光純薬工業株式会社製)を100mMとなるように純水に溶解し、ハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液を作製した。
【0109】
<細胞層形成材料の作製例>
<<細胞層形成材料の作製>>
市販の正常ヒト皮膚線維芽細胞(商品名:CC2507、Lonza社製、以下、「NHDF」とも称することがある)2×104個/mLをDulbecco’s Modified Eagle Medium(商品名:DMEM(1X)、Life technologies社製)10mL入れた100mmディッシュにてインキュベーター(装置名:KM-CC17RU2、パナソニック株式会社製、37℃、5%CO2環境)内で、72時間培養した。培養した正常ヒト皮膚線維芽細胞を含有する培養液を除去し、ダルベッコりん酸緩衝生理食塩水(DPBS)を2mL添加し洗浄した。DPBSを除去し、トリプシン処理を用いて細胞を単離して細胞層形成材料を作製した。細胞の体積平均粒径は、10μmであった。
【0110】
<複合体の作製>
培養容器(商品名:Tissue Culture Dish、AGCテクノグラス株式会社製)に、インクジェット法(装置名:GEN4、株式会社リコー製)を用いて、粒子を含有するハイドロゲル前駆体水溶液を幅0.2cmで付与し、隣接して粒子を含有しないハイドロゲル前駆体水溶液を幅0.2cmになるように付与し、これを繰り返すことにより、粒子を含有するハイドロゲル前駆体水溶液及び粒子を含有しないハイドロゲル前駆体水溶液が交互に付与された層を形成した。次に、インクジェット法(装置名:GEN4、株式会社リコー製)を用いて、ハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液を11mg/cm2となるように層全体に付与し、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル、及び細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲルを得た。
次に、細胞が1×106cells/mLになるように、オートピペットを用いて、ハイドロゲル全体に対して、細胞層形成材料を添加し、37℃、5体積%CO2条件下で48時間培養して、複合体を得た。なお、培地(無血清ダルベッコ変法イーグル培地、Life Technology社製)は、培養開始から24時間後に一度交換した。
【0111】
-細胞の接着、伸展-
細胞培養において、培養開始から48時間後に倒立型位相差顕微鏡(オリンパス株式会
複合体70において、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル71上に、伸展した細胞74が観察できる。また、細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲル72上には、細胞は観察できない。
【0112】
(実施例2)
実施例1において、粒子を含有するハイドロゲル前駆体水溶液の幅0.2cmを幅0.1cmに変更し、粒子を含有しないハイドロゲル前駆体水溶液の幅0.2cmを幅0.1cmに変更した以外は、実施例1と同様にして複合体を得た。
【0113】
-細胞の接着、伸展-
実施例1と同様にして、細胞の接着、伸展を確認した。細胞播種前の結果を
図14Aに示す。また、培養後の結果を
図14Bに示す。
図14Aの結果から、複合体80におけるハイドロゲル(細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル82、及び細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲル81)全体に対して添加された細胞層形成材料における細胞83が、ハイドロゲル上に点在することが分かる。次に、
図14Bの結果から、48時間培養後には、
図14Aに示すように、ハイドロゲル全体に点在していた細胞83が細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル82上に移動し、伸展していることが分かる。また、細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲル81上には、細胞は観察できない。
したがって、細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲル81上に細胞83を播種しても、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル82上に移動させることができる。
【0114】
図13、
図14A及び
図14Bの結果から、細胞が接着領域(細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル)に選択的に接着及び固定されていることが確認できた。
また、インクジェットを用いることによって、細胞数個分の細さを制御してパターンを作製することができることが確認できた。
【0115】
(実施例3)
実施例1において、使用したインクジェットヘッドをGEN4(株式会社リコー製)からプロトタイプ(株式会社リコー製)に変更し、細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル前駆体の幅0.2cmを0.25cm、粒子を含有しないハイドロゲル前駆体の幅0.2cmを0.25cmと変更した以外は、実施例1と同様にして、1層目の複合体を得た。得られた1層目の複合体に対して、PBS(Thermofisher社製)1mLに対して、カルセインAM(Thermofisher社製)を2μL、及び核染色剤(商品名:Hoechst33342、Thermofisher社製)を0.5μL混合して得られた染色液を滴下し、37℃で1日インキュベートした。実施例1と同様にして、1層目の細胞の接着、伸展を確認した。結果を
図15Aに示す。
得られた1層目の複合体の厚み方向に新たに、細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲル前駆体の層を形成し、ハイドロゲル前駆体ゲル化水溶液を付与することにより2層目の層を形成した。1層目を形成した工程において、ラインパターン(細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルの配置)を1層目と3層目が略直角に立体交差するように変更した以外は、1層目と同様にして、3層目を形成することによって細胞が積層された複合体を得た。得られた複合体に対して、PBS(Thermofisher社製)1mLに対して、カルセインAM(Thermofisher社製)を2μL、及び核染色剤(商品名:Hoechst33342、Thermofisher社製)を0.5μL混合して得られた染色液を滴下し、37℃で1日インキュベートした。その後、倒立型位相差顕微鏡(オリンパス株式会社製)、及び共焦点顕微鏡(装置名:FV10i、オリンパス株式会社製)により観察した。
【0116】
図15Aの結果から、実施例1と同様に、1層目の複合体120では細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル121に沿って細胞123が接着、伸展していることが観察できる。また、細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲル122上では、細胞123が接着、伸展していないことが分かる。
また、
図15Bの結果から、実施例1と同様に、1層目の複合体120’では細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル121に沿って細胞123が接着、伸展していることが観察できる。
【0117】
図15Cは、実施例3における倒立型位相差顕微鏡により観察した複合体の状態を示す写真である。
図15Cに示すように、複合体の1層目である120’と3層目である130は複合体の同じ箇所において、ピントを上下にずらして観察した。
図15Cに示すように、1層目の複合体120’は細胞の接着領域である細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル121に細胞123が接着していることが分かる。また、3層目の複合体140は細胞の接着領域である細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル141に細胞143がそれぞれ接着していることが分かる。また、細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲル142上では、細胞143が接着、伸展していないことが分かる。このように、積層体の観察は積層体を作製する途中に適宜観察することもできるし、積層体作製後にピントをずらすことによって任意の層を観察することも可能である。
【0118】
図15Dは、実施例3における共焦点顕微鏡により観察した複合体の厚み方向の細胞の分布を示す図である。
図15Dに示すように、複合体150は、1層目の複合体151、2層目の細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲル152、3層目の複合体153により構成されている。核染色剤により染色された細胞核を有する細胞154が厚み方向に複数層存在していることが確認された。
【0119】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルと、
前記粒子を含有しないハイドロゲルと、
前記粒子に接着している細胞と、を含むことを特徴とする複合体である。
<2> 前記複合体の単位を厚み方向に複数有する前記<1>に記載の複合体である。
<3> 前記粒子の体積平均粒径が、前記細胞の体積平均粒径より小さい前記<1>から<2>のいずれかに記載の複合体である。
<4> 前記粒子の体積平均粒径が、1μm以下である前記<1>から<3>のいずれかに記載の複合体である。
<5> 前記粒子の体積平均粒径が、100nm以上1μm以下である前記<4>に記載の複合体である。
<6> 前記細胞が、前記粒子と接着点を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載の複合体である。
<7> 前記粒子が、細胞接着因子を有する前記<1>から<6>のいずれかに記載の複合体である。
<8> 前記細胞接着因子が、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸配列、セリン-アラニン-セリン配列、CS1配列、CS5配列、REDV配列、GPEILDVPST配列、YIGSR配列、RNIAEIIKDI配列、F-9ペプチド、IKVAV配列、及びPDSGR配列から選択される少なくとも1種である前記<7>に記載の複合体である。
<9> 前記粒子が、ゼラチン粒子である前記<1>から<8>のいずれかに記載の複合体である。
<10> 前記粒子の露出表面積の占有割合が、平面視した前記複合体の全体表面に対して、20%以上である前記<1>から<9>のいずれかに記載の複合体である。
<11> 前記粒子の露出表面積の占有割合が、平面視した前記複合体の全体表面に対して、50%以上露出している前記<10>に記載の複合体である。
<12> 前記細胞接着性を有する粒子のキュムラント径が、0.1μm以上1.0μm以下である前記<1>から<11>のいずれかに記載の複合体である。
<13> 前記細胞接着性を有する粒子のキュムラント径が、0.25μm以上0.7μm以下である前記<12>に記載の複合体である。
<14> 前記細胞接着性を有する粒子のキュムラント径が、0.30μm以上0.70μm以下である前記<13>に記載の複合体である。
<15> 細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルの領域を形成する工程と、
前記粒子を含有しないハイドロゲルの領域を形成する工程と、
前記粒子に細胞を接着させる工程と、
を含むことを特徴とする複合体の製造方法である。
<16> 前記細胞接着性を有する粒子が、ゼラチン粒子である前記<15>に記載の複合体の製造方法である。
<17> 前記粒子の体積平均粒径が、1μm以下である前記<15>から<16>のいずれかに記載の複合体の製造方法である。
<18> 前記粒子の体積平均粒径が、100nm以上1μm以下である前記<17>に記載の複合体の製造方法である。
<19> 細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルと、
前記粒子を含有しないハイドロゲルと、を含むことを特徴とする細胞接着用基材である。
<20> 細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲルの領域を形成する工程と、
前記粒子を含有しないハイドロゲルの領域を形成する工程と、
を含むことを特徴とする細胞接着用基材の製造方法である。
【0120】
前記<1>から<14>のいずれかに記載の複合体、前記<15>から<18>のいずれかに記載の複合体の製造方法、前記<19>に記載の細胞接着用基材、及び前記<20>に記載の細胞接着用基材の製造方法は、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0121】
【符号の説明】
【0122】
60、70、80、90、120、120’、140 複合体
11、21、64、102、102’、74、83、123、143 細胞
12、22、42、101、111 細胞接着性を有する粒子
13、23、43、62、73、82、104、114、121、141 細胞接着性を有する粒子を含有するハイドロゲル
72、81、115、122、142 細胞接着性を有する粒子を含有しないハイドロゲル