(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/10 20060101AFI20220712BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220712BHJP
B22F 7/04 20060101ALI20220712BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220712BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20220712BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20220712BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20220712BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
H05K3/10 B
B22F1/00 L
B22F7/04 D
H01B13/00 503Z
H01B5/14 Z
H01B1/02 A
H01B1/00 E
H05K1/09 A
(21)【出願番号】P 2017244113
(22)【出願日】2017-12-20
【審査請求日】2020-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】納堂 高明
(72)【発明者】
【氏名】明比 龍史
(72)【発明者】
【氏名】米倉 元気
(72)【発明者】
【氏名】浦島 航介
(72)【発明者】
【氏名】江尻 芳則
【審査官】黒田 久美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-032734(JP,A)
【文献】特開2016-145397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/10
B22F 1/00
B22F 7/04
H01B 13/00
H01B 5/14
H01B 1/02
H01B 1/00
H05K 1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、ポリイソシアネートを含む第1の組成物を配置する工程と、
配置された前記第1の組成物上に、銅含有粒子及びポリオールを含む第2の組成物を配置する工程と、
前記第1の組成物及び前記第2の組成物を熱処理することによって、前記ポリイソシアネート及び前記ポリオールを重合させ、前記銅含有粒子を焼結させる工程と、
を備える、構造体の製造方法。
【請求項2】
前記銅含有粒子が、銅を含むコア粒子及び前記コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆する有機物を有する、請求項1に記載の構造体の製造方法。
【請求項3】
前記ポリイソシアネートが、ジフェニルメタンジイソシアネート又はポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートを含む、請求項1又は2に記載の構造体の製造方法。
【請求項4】
前記ポリオールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、又はこれらの脱水縮合物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理の温度が、100℃~250℃である、請求項1~4のいずれか一項に記載の構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導通を確保するための構造体の形成方法として、金属粒子を含むインク、ペースト等の導電材料を用いて基材上に導電材料からなる導電層を形成する工程と、導電層を加熱して金属粒子を焼結させ、導電性を発現させる導体化工程とを含む方法が知られている。導電材料に含まれる金属粒子としては、金属の酸化を抑制して保存性を高めるために表面に被覆材としての有機物を付着させたものが知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-072418号公報
【文献】特開2012-226865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、金属粒子を焼結させてなる焼結体は、基材によっては充分な密着性が得られず、導通が確保できない場合がある。また、近年用いられている基材は、多様化しており、基材と焼結体との密着性の向上が課題となっている。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、基材と金属粒子の焼結体との密着性に優れる構造体の製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記[1]~[5]に示す構造体の製造方法及び下記[6]に示す構造体を提供する。
【0007】
[1]基材上に、ポリイソシアネートを含む第1の組成物を配置する工程と、配置された第1の組成物上に、銅含有粒子及びポリオールを含む第2の組成物を配置する工程と、第1の組成物及び第2の組成物を熱処理することによって、ポリイソシアネート及びポリオールを重合させ、銅含有粒子を焼結させる工程と、を備える、構造体の製造方法。
[2]銅含有粒子が、銅を含むコア粒子及びコア粒子の表面の少なくとも一部を被覆する有機物を有する、[1]に記載の構造体の製造方法。
[3]ポリイソシアネートが、ジフェニルメタンジイソシアネート又はポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートを含む、[1]又は[2]に記載の構造体の製造方法。
[4]ポリオールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、又はこれらの脱水縮合物を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の構造体の製造方法。
[5]熱処理の温度が、100℃~250℃である、[1]~[4]のいずれかに記載の構造体の製造方法。
[6]基材と、基材上に、ポリイソシアネート及びポリオールの重合体を介して設けられた、銅含有粒子を焼結させてなる焼結体と、を備える、構造体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基材と金属粒子の焼結体との密着性に優れる構造体の製造方法が提供される。また、このような製造方法によって得られる構造体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1で作製した構造体の界面における断面拡大像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに本明細書において組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0012】
本明細書において「工程」とは、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0013】
本明細書において「層」又は「膜」とは、平面図として観察したときに、全面に形成されている形状の構成に加え、一部に形成されている形状の構成も包含される。
【0014】
本明細書において「導体化」とは、金属含有粒子を焼結させて導電性を有する物体に変化させることをいう。「導体」とは、導電性を有する物体をいい、より具体的には体積抵抗率が1000μΩ・cm以下である物体をいう。
【0015】
本明細書において、「ポリイソシアネート」とは、分子内に2以上のイソシアネート基を有する化合物を意味する。また、本明細書において、「ポリオール」とは、分子内に2以上の水酸基を有する化合物を意味する。
【0016】
<構造体の製造方法>
一実施形態に係る構造体の製造方法は、基材上に、ポリイソシアネートを含む第1の組成物を配置する工程(第1の配置工程)と、配置された第1の組成物上に、銅含有粒子及びポリオールを含む第2の組成物を配置する工程(第2の配置工程)と、第1の組成物及び第2の組成物を熱処理することによって、ポリイソシアネート及びポリオールを重合させ、前記銅含有粒子を焼結させる工程(熱処理工程)と、を備える。
【0017】
このような構造体の製造方法によれば、基材と金属粒子の焼結体との密着性に優れる構造体を製造することができる。本発明者は、このような効果が奏する理由を以下のように考えている。イソシアネート基は反応性が高く、水酸基等の官能基と容易に縮合する。そのため、基材上にポリイソシアネートを含む第1の組成物を配置し、その後、銅含有粒子及びポリオールを含む第2の組成物を配置し、熱処理することによって、ポリイソシアネートのイソシアネート基及びポリオールの水酸基が縮合して重合体(ウレタン結合を有する重合体)が形成され、同時に、形成された重合体を介して、銅含有粒子させてなる焼結体が基材上に形成されると推測される。形成された重合体は、基材と金属粒子の焼結体との密着性に寄与し得る。
【0018】
(第1の配置工程)
本実施形態に係る構造体の製造方法は、基材上に、ポリイソシアネートを含む第1の組成物を配置する工程を備える。
【0019】
基材の材質は特に制限されず、導電性を有していても有していなくてもよい。基材の材質としては、例えば、銅、金、白金n、パラジウム、銀、亜鉛、ニッケル、コバルト、鉄、アルミニウム、スズ等の金属、これら金属の合金、酸化インジウム錫、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛、酸化インジウムガリウム亜鉛、ケイ素、炭化ケイ素、窒化ガリウム等の半導体、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス等のガラス、黒鉛、グラファイト等のカーボン材料、樹脂、紙などが挙げられる。基材の形状は特に制限されず、板状、棒状、ロール状、フィルム状等であってもよい。
【0020】
銅含有粒子が銅を含むコア粒子及びコア粒子の表面の少なくとも一部を被覆する有機物を有するものである場合、比較的低い温度(例えば、150℃以下)での導体化が可能であるため、耐熱性の低いものを基材として用いることができる。このような基材としては、例えば、熱可塑性樹脂からなる基材が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。
【0021】
基材は、第1の配置工程前に、充分に洗浄されていることが好ましい。基材の洗浄方法としては、例えば、有機溶剤又は水を含む洗浄液で洗浄する方法、基材の表面に紫外線を照射する方法等が挙げられる。
【0022】
第1の組成物は、ポリイソシアネートを含む。ポリイソシアネートとしては、例えば、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等のジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、トルエン-2,4-ジイソシアネート、トルエン-2,6-ジイソシアネート等のトルエンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジントリイソシアネート、メチルシラントリイルトリスイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートなどが挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ポリイソシアネートは、ジフェニルメタンジイソシアネート又はポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートを含むことが好ましい。
【0023】
ポリイソシアネートの含有量は、第1の組成物全量を基準として、0.1質量%以上、0.3質量%以上、又は1質量%以上であってもよい。ポリイソシアネートの含有量が0.1質量%以上であると、基材との密着性がより良好となる傾向にある。ポリイソシアネートの含有量は、第1の組成物全量を基準として、100質量%以下であってもよく、80質量%以下又は60質量%以下であってもよい。ポリイソシアネートの含有量が80質量%以下であると、第1の組成物の塗布がより容易となる傾向にある。
【0024】
第1の組成物は、無機充填材、架橋剤等のその他の成分を含んでもよい。シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等であってもよい。架橋剤は、シランカップリング剤等であってもよい。その他の成分の含有量は、ポリイソシアネート100質量部に対して、0.1~10質量部であってもよい。
【0025】
第1の組成物は、第1の溶剤で希釈された第1の組成物ワニスとして用いてもよい。第1の組成物の配置は、例えば、第1の組成物ワニスを基材上に塗布することによって行うことができる。第1の溶剤は、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族化合物、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の鎖状炭化水素類、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサノン等の環状化合物であってもよい。これらの第1の溶剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、第1の溶剤は、トルエン、キシレン、又は酢酸エチルであってもよい。
【0026】
第1の組成物ワニスにおける第1の溶剤の含有量は、ポリイソシアネート100質量部に対して、0~100000質量部、10~30000質量部、又は50~10000質量部であってもよい。第1の溶剤の含有量がこのような範囲にあると、分散性により優れ、より効率よく基材上に塗布することができる。
【0027】
第1の組成物ワニスは、ポリイソシアネート及びその他の成分、並びに第1の溶剤を混合、混練することによって調製することができる。混合及び混練は、石川式撹拌機、自転公転式撹拌機、超薄膜高速回転式分散機、ロールミル、超音波分散機、ビーズミル等のメディア分散機、ホモミキサー、シルバーソン撹拌機等のキャビテーション撹拌装置、アルテマイザー等の対向衝突装置を適宜、組み合わせて行うことができる。
【0028】
第1の組成物ワニスは、市販品をそのまま用いることもできる。このような市販品としては、例えば、K-500(商品名、スリーエムジャパン株式会社)等が挙げられる。これらは、上記第1の溶剤でさらに希釈して用いてもよい。
【0029】
第1の組成物ワニスを塗布する方法は、特に制限されず、公知の方法を適用することができる。このような方法としては、例えば、インクジェット法、スーパーインクジェット法、スクリーン印刷法、転写印刷法、オフセット印刷法、ジェットプリンティング法、ディスペンス法、ジェットディスペンス法、ニードルディスペンス法、カンマコート法、バーコート法、スリットコート法、ダイコート法、グラビアコート法、凸版印刷法、凹版印刷法、グラビア印刷法、ソフトリソグラフ法、ディップペンリソグラフ法、粒子堆積法、スプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、電着塗装法等が挙げられる。
【0030】
第1の組成物ワニスを基材上に塗布した後、第1の組成物ワニスに含まれる第1の溶剤の一部又は全部を乾燥によって除去してもよい。乾燥条件は、室温(25℃)~80℃であってもよい。
【0031】
乾燥後の配置された第1の組成物の厚みは、目的に応じて適宜設定することができるが、例えば、0.2~50μmであってもよく、密着性の観点から、0.5μm~20μmであることがより好ましい。
【0032】
(第2の配置工程)
本実施形態に係る構造体の製造方法は、配置された第1の組成物上に、銅含有粒子及びポリオールを含む第2の組成物を配置する工程を備える。
【0033】
第2の組成物は、銅含有粒子を含む。銅含有粒子は、熱伝導率及び焼結性の観点から銅が主成分であることが好ましい。銅含有粒子における銅が占める元素割合は、水素、炭素、酸素を除く全元素を基準として、80原子%以上、90原子%以上、又は95原子%以上であってもよい。銅が占める元素割合が80原子%以上であると、銅に由来する熱伝導率及び焼結性が発現し易い傾向にある。
【0034】
銅含有粒子は、銅を含むコア粒子とコア粒子の表面の少なくとも一部を被覆する有機物とを有する銅含有粒子であってもよい。銅含有粒子は、例えば、銅を含むコア粒子と、コア粒子の表面の少なくとも一部に存在するアルキルアミンに由来する物質を含む有機物と、を有していてよい。当該アルキルアミンは、炭化水素基の炭素数が7以下であるアルキルアミンであってよい。この銅含有粒子は、有機物を構成するアルキルアミンの炭化水素基の鎖長が比較的短いため、比較的低い温度(例えば、150℃以下)でも熱分解し、コア粒子同士が融着し易い傾向にある。このような銅含有粒子としては、例えば、特開2016-037627号公報に記載の銅含有粒子を好適に用いることができる。
【0035】
有機物は、炭化水素基の炭素数が7以下であるアルキルアミンを含んでいてもよい。炭化水素基の炭素数が7以下であるアルキルアミンは、例えば、1級アミン、2級アミン、アルキレンジアミン等であってよい。1級アミンとしては、エチルアミン、2-エトキシエチルアミン、プロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、ブチルアミン、4-メトキシブチルアミン、イソブチルアミン、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ヘプチルアミン等を挙げることができる。2級アミンとしては、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルペンチルアミン等を挙げることができる。アルキレンジアミンとしては、エチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N’-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノ-2-メチルペンタン、1,6-ジアミノへキサン、N,N’-ジメチル-1,6-ジアミノへキサン、1,7-ジアミノヘプタン等を挙げることができる。
【0036】
コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆する有機物は、炭化水素基の炭素数が7以下であるアルキルアミン以外の有機物を含んでいてもよい。有機物全体に対する炭化水素基の炭素数が7以下であるアルキルアミンの割合は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。
【0037】
コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆する有機物は、その割合がコア粒子及び有機物の合計に対して0.1~20質量%であることが好ましい。有機物の割合が0.1質量%以上であると、充分な耐酸化性が得られる傾向にある。有機物の割合が20質量%以下であると、低温での導体化が達成され易くなる傾向にある。コア粒子及び有機物の合計に対する有機物の割合は0.3~10質量%であることがより好ましく、0.5~5質量%であることがさらに好ましい。
【0038】
銅含有粒子は、少なくとも銅を含み、必要に応じてその他の物質を含んでもよい。その他の物質としては、金、銀、白金、錫、ニッケル等の金属又はこれらの金属元素を含む化合物、還元性化合物又は有機物、酸化物、塩化物等を挙げることができる。導電性に優れる導体を形成する観点からは、銅含有粒子中の銅の含有率は50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。
【0039】
銅含有粒子の形状は特に制限されない。例えば、球状、長粒状、扁平状、繊維状等を挙げることができ、銅含有粒子の用途にあわせて選択できる。印刷用ペーストとして用いる観点からは、球状、長粒状であることが好ましい。
【0040】
銅含有粒子は、表面の少なくとも一部に有機物が存在しているために、空気中で保存している間も銅の酸化が抑制されており、酸化物の含有率が小さいと推測される。例えば、銅含有粒子中の酸化物の含有率は5質量%以下であってよい。銅含有粒子中の酸化物の含有率は、例えばXRDによって測定することができる。
【0041】
銅含有粒子の製造方法は特に制限されない。製造方法としては、例えば、特開2016-037627号公報に記載の銅含有粒子の製造方法が挙げられる。
【0042】
銅含有粒子の含有量は、第2の組成物全量を基準として、20質量%以上、30質量%以上、又は40質量%以上であってもよい。銅含有粒子の含有量が20質量%以上であると、焼結させて得られる焼結体の抵抗値が小さくなる傾向にある。銅含有粒子の含有量は、第1の組成物全量を基準として、99質量%以下、95質量%以下、又は90質量%以下であってもよい。銅含有粒子の含有量が99質量%以下であると、第2の組成物の塗布がより容易になる傾向にある。
【0043】
第2の組成物は、ポリオールを含む。ポリオールは、上述の第1の組成物に含まれるポリイソシアネートと反応して重合体(ウレタン結合を有する重合体)を形成し得る。ポリオールとしては、例えば、二価アルコール、三価アルコール、四価アルコール等が挙げられる。ポリオールは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,2-ブタンジオール、3-メチル-1,2-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-ペンタンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、3,5-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0045】
三価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、2-メチル-1,2,3-プロパントリオール、2-メチル-2,3,4-ブタントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ペンタントリオール、2,3,4-ペンタントリオール、1,3,4-ペンタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,3-ヘキサントリオール、2,3,4-ヘキサントリオール、3-メチル-1,2,5-ペンタントリオール、3-メチル-1,3,5-ペンタントリオール等が挙げられる。
【0046】
四価アルコールとしては、例えば、エリトリトール、トレイトール、ペンタエリトリトール、ジトリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0047】
これらの中でも、ポリオールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、又はこれらの脱水縮合物を含むことが好ましい。
【0048】
ポリオールの含有量は、銅含有粒子100質量部に対して、0.05~300質量部、0.1~150質量部、又は0.5~100質量部であってもよい。多価アルコールの含有量が300質量部以下であると、より良好な保存安定性が得られる傾向にある。また、多価アルコールの含有量が0.05質量部以上であると、得られる焼結体の基材との密着性がより優れる傾向にある。
【0049】
第2の組成物は、無機充填材、架橋剤、硬化性樹脂等のその他の成分を含んでもよい。無機充填材及び架橋剤は、第1の組成物で例示した成分と同様のものを例示することができる。
【0050】
硬化性樹脂は、得られる焼結体と基材との密着性の向上及び焼結体の酸化の抑制に寄与し得る。硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。第2の組成物は、硬化性樹脂を硬化させるための硬化剤を含んでいてもよく、硬化を促進させるための硬化促進剤を含んでいてもよい。その他の成分の含有量は、銅含有粒子100質量部に対して、0.1~5.0質量部であってもよい。
【0051】
第2の組成物は、第2の溶剤で希釈された第2の組成物ワニスとして用いてもよい。第2の組成物の配置は、例えば、第2の組成物ワニスを第1の組成物上に塗布することによって行うことができる。第2の溶剤は、導電インク、導電ペースト等の製造に一般に用いられるものから用途に応じて適宜選択でき、例えば、テルピネオール、イソボルニルシクロヘキサノール、ジヒドロテルピネオール等の一価アルコール、ジヒドロテルピネオールアセテート等のエステルなどであってもよい。これらの第2の溶剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、第2の溶剤は、テルピネオール、イソボルニルシクロヘキサノール、又はジヒドロテルピネオールであってもよい。
【0052】
第2の組成物ワニスにおける第2の溶剤の含有量は、ポリオール100質量部に対して、1~500質量部、3~300質量部、又は5~200質量部であってもよい。第2の溶剤の含有量がこのような範囲にあると、分散性により優れ、より効率よく基材上に塗布することができる。
【0053】
第2の組成物ワニスは、銅含有粒子、ポリオール及び第2の溶剤、並びにその他の成分等を混合、混練することによって調製することができる。混合及び混練は、第1の組成物ワニスと同様の方法であってもよい。
【0054】
第2の組成物ワニスを塗布する方法は、特に制限されず、第1の組成物ワニスを塗布する方法で例示した公知の方法を適用することができる。
【0055】
第2の組成物ワニスを第1の組成物上に塗布した後、第2の組成物ワニスに含まれる第2の溶剤の一部又は全部を乾燥によって除去してもよい。乾燥条件は、室温(25℃)~80℃であってもよい。
【0056】
乾燥後の配置された第2の組成物の厚みは、目的に応じて適宜設定することができるが、例えば、0.1~100μmであってもよく、密着性の観点から、0.5μm~20μmであることがより好ましい。
【0057】
(熱処理工程)
本実施形態に係る構造体の製造方法は、第1の組成物及び第2の組成物を熱処理することによって、ポリイソシアネート及びポリオールを重合させ、銅含有粒子を焼結させる工程を備える。
【0058】
熱処理工程の温度は、ポリイソシアネート及びポリオールを重合させ(重合体として、ポリウレタンが生成し)、銅含有粒子を焼結させることができるのであれば特に制限されないが、100℃~250℃であることが好ましく、120~230℃であることがより好ましい。熱処理工程の温度が100℃以上であると、より充分な導電性を有する焼結体が得られる傾向にある。
【0059】
熱処理工程は一定の昇温速度で行っても、不規則に変化させてもよい。また、熱処理時間は特に限定されず、熱処理温度、熱処理雰囲気、銅含有粒子の量等を考慮して選択できる。熱処理時間は、充分な導電性と量産性を両立する観点から、5分~120分であることが好ましい。熱処理時間が5分以上であると、充分な導体化が可能となる傾向にあり、120分以下であると、量産性の観点で好ましい。加熱方法は、特に制限されずに、熱板、赤外ヒータ、パルスレーザ等を用いて加熱することができる。
【0060】
加熱工程におけるガス雰囲気は、窒素、アルゴン等の不活性ガス、水素、ギ酸等の還元性ガス、又はこれらの不活性ガスと還元性ガスとの混合ガスのいずれかのガス雰囲気であってもよい。不活性ガス雰囲気で熱処理を行うことによって、銅含有粒子表面の酸化銅の生成を抑制することが可能となる。また、還元性ガスで熱処理を行うことによって、銅含有粒子表面が有機物で被覆されている場合、その有機物の脱離を容易にし、該粒子の銅を含むコア粒子同士の焼結(融着)を促進するとともに、基材に金属が含まれている場合は、その金属と該コア粒子に含まれる銅との焼結(融着)を促進することが可能となる。
【0061】
加熱工程における雰囲気の気圧条件は、特に制限されず、大気圧条件であっても減圧条件であってもよいが、減圧条件であると、低温での導体化がより促進される傾向にある。
【0062】
本実施形態に係る構造体の製造方法は、必要に応じて、その他の工程を備えていてもよい。その他の工程としては、熱処理工程後において、例えば、還元雰囲気中で熱処理によって、酸化物を還元する工程、光焼成で残存成分を除去する工程、荷重をかける工程、電解めっき又は無電解めっきでめっき処理する工程等が挙げられる。
【0063】
<構造体>
一実施形態に係る構造体は、基材と基材上に、ポリイソシアネート及びポリオールの重合体を介して設けられた、銅含有粒子を焼結させてなる焼結体とを備える。当該構造体は、基材と基材上に設けられた焼結体とが重合体を介しているため、密着性が向上していると推察される。
【0064】
焼結体の体積抵抗率は、用途に応じた最適値が要求されるが、500μΩ・cm以下、200μΩ・cm以下、又は100μΩ・cm以下であってもよい。
【0065】
焼結体の形状は、特に制限されず、薄膜状、バンプ状、パターン状等であってもよい。構造体は、種々の電子部品の配線等に使用できる。特に、構造体は比較的低温で製造できるため、耐熱性の低い基材上に金属箔、接続用端子、配線パターン等を形成する用途に好適である。
【実施例】
【0066】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
(製造例1:ノナン酸銅の合成)
水酸化銅(関東化学株式会社、特級)91.5g(0.94mol)に1-プロパノール(関東化学株式会社、特級)150mLを加えて撹拌し、これにノナン酸(関東化学株式会社、90%以上)370.9g(2.34mol)を加えた。得られた混合物を、セパラブルフラスコ中で90℃、30分間加熱撹拌した。得られた溶液を加熱したままろ過して未溶解物を除去した。その後放冷し、生成したノナン酸銅を吸引ろ過し、洗浄液が透明になるまでヘキサンで洗浄した。得られた粉体を50℃の防爆オーブンで3時間乾燥してノナン酸銅(II)を得た。収量は340g(収率96質量%)であった。
【0068】
(製造例2:銅含有粒子の合成)
上記で得られたノナン酸銅(II)15.01g(0.040mol)及び酢酸銅(II)無水物(関東化学株式会社、特級)7.21g(0.040mol)をセパラブルフラスコに入れ、1-プロパノール22mL及びヘキシルアミン(東京化成工業株式会社)32.1g(0.32mol)を添加し、オイルバス中、80℃で加熱撹拌して溶解させた。氷浴に移し、内温が5℃になるまで冷却した後、ヒドラジン一水和物(関東化学株式会社、特級)7.72mL(0.16mol)を加えて、さらに氷浴中で撹拌した。なお、銅:ヘキシルアミンのモル比は1:4である。次いで、オイルバス中で10分間、90℃で加熱撹拌した。その際、発泡を伴う還元反応が進み、セパラブルフラスコの内壁が銅光沢を呈し、溶液が暗赤色に変化した。遠心分離を9000rpm(回転/分)で1分間実施して固体物を得た。固形物をさらにヘキサン15mLで洗浄する工程を3回繰り返し、酸残渣を除去して、銅光沢を有する銅含有粒子の粉体を含む銅ケークを得た。
【0069】
(実施例1)
基材として、ポリエチレンナフタレートフィルム(商品名:テオネックス、帝人フィルムソリューション株式会社)を用いた。この基材上に、ポリイソシアネートとして、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)及びポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートを含むプライマ(商品名:K-500、スリーエムジャパン株式会社、固形分:約8質量%、分散媒:トルエン)(第1の組成物ワニス)を、バーコーターを用いて塗布し、室温(25℃)で乾燥することによって、基材上に第1の組成物を配置した。
【0070】
次に、得られた銅ケーク70質量部、第2の溶剤として、テルピネオール(和光純薬工業株式会社)15質量部、及びポリオールとして、ジエチレングリコール(東京化成工業株式会社)15質量部を、自転公転式撹拌機(商品名:あわとり錬太郎、株式会社シンキー)で混合して、銅含有粒子及びポリオールを含む第2の組成物ワニスを調製した。次いで、第1の組成物上に第2の組成物ワニスを、バーコーターを用いて塗布し、室温(25℃)で乾燥することによって、第1の組成物上に第2の組成物を配置した。
【0071】
第1の組成物及び第2の組成物が配置された基材を、雰囲気制御加熱圧着装置(RF-100B、アユミ工業株式会社)を用いて熱処理し、ポリイソシアネート及びポリオールを重合し、銅含有粒子を焼結させることによって構造体を作製した。熱処理は、窒素ガス雰囲気下の負圧(8.5×104Pa)で、昇温速度30℃/分で180℃まで加熱し、続いて窒素及びギ酸の混合ガスを導入して9.0×104Paの混合ガス雰囲気とし、180℃で60分間保持することによって行った。
【0072】
(実施例2)
第2の組成物ワニスにおいて、ジエチレングリコールをトリエチレングリコール(東京化成工業株式会社)に変更した以外は、実施例1と同様にして構造体を作製した。
【0073】
(実施例3)
第2の組成物ワニスにおいて、ジエチレングリコールをポリエチレングリコール200(東京化成工業株式会社)に変更した以外は、実施例1と同様にして構造体を作製した。
【0074】
(比較例1)
第1の組成物を配置しなかった以外は、実施例1と同様にして構造体を作製した。
【0075】
(比較例2)
第2の組成物ワニスにおいて、テルピネオール15質量部及びジエチレングリコール15質量部をテルピネオール30質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして構造体を作製した。
【0076】
(比較例3)
第2の組成物ワニスにおいて、ジエチレングリコールをイソボルニルシクロヘキサノール(商品名:テルソルブMTPH、日本テルペン化学株式会社)に変更した以外は、実施例1と同様にして構造体を作製した。
【0077】
(比較例4)
第1の組成物ワニスにおいて、プライマをプライマとジエチレングリコールとを質量比3:1で混合した混合液に変更し、第1の配置工程において、第1の組成物ワニスの乾燥条件を80℃で5分間に変更したこと、及び第2の組成物ワニスにおいて、テルピネオール15質量部及びジエチレングリコール15質量部をテルピネオール30質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして構造体を作製した。
【0078】
得られた実施例1~3及び比較例1~4の構造体について、密着性試験及び体積抵抗率の測定を行った。
【0079】
<密着性試験>
焼結体と基材との密着性を、JIS K5600(1999)に準拠して2mm角クロスカット試験によって評価した。すべて格子において、剥がれがなかった場合を「A」、カットの交差点において、小さな剥がれがあった場合を「B」、カットの線に沿って、交差点に剥がれがあった場合を「C」、部分的又は全面的な剥がれがあった場合を「D」と評価した。結果を表1に示す。
【0080】
<体積抵抗率の測定>
上記密着性試験において、「A」の評価であったものについて、焼結体の体積抵抗率を測定した。体積抵抗率は、4端針面抵抗測定器(商品名:ロレスタGP MCP-T610、株式会社株式会社三菱ケミカルアナリテック)で測定した面抵抗値と、接触式の段差計(商品名:ET200、株式会社小坂研究所)で求めた膜厚と、から計算で求めた。結果を表1に示す。
【0081】
【0082】
<断面観察>
実施例1の構造体の断面を、集束イオンビーム加工観察装置(FB-2000A、株式会社日立ハイテクノロジーズ)を用いて観察した。
図1に、実施例1で作製した構造体の界面における断面拡大像を示す。
図1に示すとおり、実施例1の構造体では、ポリイソシアネート及びポリオールの重合体を介して、焼結体が存在していることが判明した。
【0083】
以上のとおり、実施例1~3の構造体は、比較例1~3の構造体に比べて、優れた密着性を有しており、充分に低い体積抵抗率を有していた。一方、比較例4のように、第1の組成物にポリイソシアネート及びポリオールを含む場合は、実施例1~3の構造体で得られた密着性は得られないことが判明した。これらの結果が示すように、本発明の製造方法によって得られる構造体が、基材と金属粒子の焼結体との密着性に優れるものであることが確認された。