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特許7102797光学装置、これを用いた距離計測装置、及び移動体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】光学装置、これを用いた距離計測装置、及び移動体
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20220712BHJP
   G01S 7/481 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
G02B26/10 B
G02B26/10 C
G02B26/10 D
G02B26/10 104Z
G01S7/481 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018044805
(22)【出願日】2018-03-12
(65)【公開番号】P2019159067
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】池應 敏行
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰史
(72)【発明者】
【氏名】坂井 篤
(72)【発明者】
【氏名】軸谷 直人
(72)【発明者】
【氏名】植野 剛
(72)【発明者】
【氏名】塚本 宣就
(72)【発明者】
【氏名】仲村 忠司
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 一磨
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 修一
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-293226(JP,A)
【文献】特開平03-168606(JP,A)
【文献】特開2007-058163(JP,A)
【文献】国際公開第2016/207327(WO,A1)
【文献】特開2015-111090(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0307736(US,A1)
【文献】特開平07-174994(JP,A)
【文献】特開2007-133095(JP,A)
【文献】特開2010-151958(JP,A)
【文献】特開平10-100476(JP,A)
【文献】特開2002-372677(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0058923(US,A1)
【文献】特開2015-145962(JP,A)
【文献】特開2015-219803(JP,A)
【文献】特表2010-533889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/10 - 26/12
G01S 7/48 - 7/51
G01S 17/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の面発光レーザ素子が二次元的に配置されている光源と、
前記光源から出射されたレーザ光を走査する走査部と、
前記光源と前記走査部の間の光路に配置されて前記レーザ光を前記走査部に導く光学系と、
を有し、
前記光源は、前記複数の面発光レーザ素子が同一面内に配列された面発光レーザアレイであり、
前記光学系は、前記光源から出射された前記レーザ光の発散を抑制する第1光学素子と、
前記第1光学素子を通過した前記レーザ光を前記走査部の走査面に集光する第2光学素子と、を含み、
前記第1光学素子は、前記複数の面発光レーザ素子に対応する複数の光学素子を有する光学素子アレイであり、
前記面発光レーザアレイと前記光学素子アレイの間の距離は、前記光学素子アレイの焦点距離未満である
ことを特徴とする光学装置。
【請求項2】
前記光学素子アレイは、複数のマイクロレンズを有するマイクロレンズアレイ、または複数の回折レンズを有する回折素子アレイであることを特徴とする請求項に記載の光学装置。
【請求項3】
前記第1光学素子は、片面に複数の凸形状のレンズ素子が形成された平凸のレンズ素子アレイであり、
前記レンズ素子アレイの凸面が前記光源に対向して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の光学装置。
【請求項4】
前記第1光学素子は、片面に複数の凸形状のレンズ素子が形成された平凸のレンズ素子アレイであり、
前記レンズ素子アレイの平面が前記光源に対向して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の光学装置。
【請求項5】
前記第1光学素子は、複数の凸形状のレンズ素子が両面に形成された両凸型のレンズ素子アレイであることを特徴とする請求項1に記載の光学装置。
【請求項6】
前記光源は、前記複数の面発光レーザ素子で形成されるレーザ素子グループを1以上有する面発光レーザアレイであり、
1以上の前記レーザ素子グループの発光は互いに独立して制御され、
各レーザ素子グループに含まれる前記複数の面発光レーザ素子は、同時に発光することを特徴とする請求項1に記載の光学装置。
【請求項7】
前記光源は、1つの前記レーザ素子グループで形成されており、
前記走査部は、前記レーザ光を1軸方向に走査する可動ミラーであることを特徴とする請求項に記載の光学装置。
【請求項8】
前記光源は、1つの前記レーザ素子グループで形成されており、
前記走査部は、前記レーザ光を2軸方向に走査する可動ミラーであることを特徴とする請求項に記載の光学装置。
【請求項9】
前記光源は、2以上の前記レーザ素子グループで形成されており、
前記走査部は、前記レーザ素子グループの各々から出射される前記レーザ光を1軸方向に走査する可動ミラーであることを特徴とする請求項に記載の光学装置。
【請求項10】
前記光源は、2以上の前記レーザ素子グループで形成されており、
前記走査部は、前記レーザ素子グループの各々から出射される前記レーザ光を2軸方向に走査する可動ミラーであることを特徴とする請求項に記載の光学装置。
【請求項11】
請求項1から1のいずれか1項に記載の光学装置を用いて対象物までの距離を測定する距離計測装置。
【請求項12】
請求項1に記載の距離計測装置を搭載した移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を走査する光学装置と、これを用いた距離計測装置、及び移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
車両、船舶、航空機などの移動体の運行では、広い角度範囲で対象物の位置情報を検出する技術が用いられる。このようなセンシング技術の一つとして、LiDAR(Light Detection and Ranging:光検出および測距)がある。LiDARは光を用いたリモートセンシングであり、レーザ光源から出射されたレーザ光が対象物で反射されて検出器に戻るまでの時間から対象物までの距離を計測するTOF(Time of Flight:飛行時間)法が用いられている。レーザ光は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーやポリゴンミラー等の走査手段によって広角度に走査される。LiDARのレーザ光源として、一般的に基板に対して平行方向に光を出射する端面発光型の半導体レーザが使われている。端面発光型のレーザは集積化が困難であるため、同一基板上への集積化が容易なVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER:表面発光型レーザ)を光源として用いることが検討されている。VCSELは、基板に対して垂直方向にレーザ発振する。VCSELアレイを用いて、複数の発光点からのレーザ光を可動ミラー上に集光し、可動ミラーで光走査する構成が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の光走査では、VCSELからの出射光を集光レンズなどの光学素子で直接可動ミラーに集光して光ビームを走査する。VCSELは2次元集積化が容易であるが、発光素子1つ当たりの出力パワーは小さく、複数の発光素子を並べることで出力パワーを増大させている。
【0004】
LiDARでは、測定分解能と測定距離を確保するため、レーザ光源からのレーザ光を高い角度分解能で走査する必要がある。レーザ光の角度分解能dθは、レーザ光源の発光領域のサイズaと可動ミラーへ光を集める集光レンズの焦点距離fを用いて、
dθ=2×tan-1[(a/2)/f]
と表される。
【0005】
角度分解能を高くするには(すなわちdθを小さくするには)、VCSELの発光領域のサイズaを小さくするか、集光レンズの焦点距離fを大きくすればよい。実際には、発光領域aの縮小には限界があり、集光レンズの焦点距離fを長くしなければならない。
【0006】
一方、レンズによって集光されるビームウエスト径Wは、レーザ光の発散角φと、レンズの焦点距離fによって、
W=2f×tan(φ/2)
で計算される。高い角度分解能を確保するためにレンズの焦点距離fを長くすると、ビームウエスト径Wが大きくなり、ミラー面積の大きい可動ミラーが必要となるが、LiDARシステムにおいて、可動ミラーは小型であることが望ましい。MEMSミラーの場合、ミラー面積が小さいほど、高速かつ広範囲の走査を実現することができる。ポリゴンミラーについては、小型であるほど高速走査が可能になるのに加えて、システムをコンパクトにすることができる。
【0007】
高速かつ広範囲の走査を行うLiDARでは、高い角度分解能のレーザ光が求められるが、焦点距離が長くなるとビーム径を絞ることができない。角度分解能を高める目的で焦点距離を長くとったレーザ光を小型の可動ミラーに集光すると、ビーム径が十分に絞られず、可動ミラーに入射しない光成分が発生する。この場合、光走査のための光量が低下して検出可能な距離が短くなる。
【0008】
本発明は、検出距離を低下させることなく、高い角度分解能で高速かつ広範囲の光走査を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、VCSELの各面発光レーザ素子の光路上に、VCSELから出射されるレーザ光の発散を抑制する光学素子を設け、レーザ光を小さいビームウエスト径で可動ミラーに集光して入射光量を確保する。
【0010】
より具体的には、光学装置は、
複数の面発光レーザ素子を有する光源と、
前記光源から出射されたレーザ光を走査する走査部と、
前記光源と前記走査部の間の光路に配置されて前記レーザ光を前記走査部に導く光学系と、
を有し、
前記光学系は、前記光源から出射された前記レーザ光の発散を抑制する第1光学素子と、
前記第1光学素子を通過した前記レーザ光を前記走査部の走査面に集光する第2光学素子と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
上記の構成により、検出距離を低下させることなく、高い角度分解能で高速かつ広範囲の光走査を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態のLiDAR装置の概略図である。
図2】光源の構成例を示す図である。
図3】第1光学素子とVCSELアレイの位置関係を示す図である。
図4】第1光学素子として回折素子を用いる例を示す図である。
図5】第2光学素子とVCSELアレイの位置関係を示す図である。
図6】投光光学系の光路図である。
図7】可動ミラーの一例を示す図である。
図8】可動ミラーの別の例を示す図である。
図9】投光部1による光走査の第1の例を示す図である。
図10】投光部1による光走査の第2の例を示す図である。
図11】投光部1による光走査の第3の例を示す図である。
図12】投光部1による光走査の第4の例を示す図である。
図13】投光部1による光走査の第5の例を示す図である。
図14】投光部1による光走査の第6の例を示す図である。
図15A】隣接したマイクロレンズにレーザ光が入射した際の、MLAを通過したレーザ光のビームウエスト位置での強度分布を示す図である。
図15B】可動ミラー14によって、遠方に投光された光の強度分布を示す。
図16】発光素子とMLAのレンズ素子の位置関係を示す図である。
図17】両面凸型のMLAを用いるときの発光素子とレンズ素子の位置関係を示す図である。
図18】レンズ素子121の凸面をMLAの出射側に配置する例を示す図である。
図19A】MLAの焦点距離とVCSEL-MLA間の距離が一致するときの、MLAを介して出射されるレーザ光の角度分布である。
図19B】MLAの焦点距離がVCSEL-MLA間の距離よりも長いときの、MLAを介して出射されるレーザ光の角度分布である。
図20】可動ミラーの受光幅とレーザ光のビームウエスト形状を示す図である。
図21】レーザ光の発散角とビーム径の関係を示す図である。
図22】異なる発散角で走査したときの走査角に対する光利用効率を示す。
図23】投光レンズのデフォーカス量に対する副走査方向の角度分解能を発散角ごとに示す図である。
図24】実施形態のLiDAR装置が適用される移動体の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、実施形態のLiDAR装置100の概略図である。LiDAR装置100は、光学的に距離を計測する距離計測装置の一例である。LiDAR装置100は、レーザ光を投光する投光部1と、対象物40からの反射光Lrefを受光する受光部2と、投光部1の制御と受信反射光に基づく距離演算を行う制御・信号処理部3を有する。投光部1は、「特許請求の範囲」における光学装置の一例である。
【0014】
投光部1は、光源の一例であるレーザ光源11と、走査部としての可動ミラー14と、レーザ光源11と可動ミラー14の間の光路上に配置される投光光学系16とを有する。投光光学系16は、レーザ光源11から出射されるレーザ光の発散角を抑制する第1光学素子12と、発散角が抑制されたレーザ光を所定の広がり角と角度分解能に変換する第2光学素子13を含む。可動ミラー14は、第2光学素子13から所定の角度分解能で入射するレーザ光を、所望の走査範囲4に走査する。
【0015】
受光部2は、受光素子21と、光学フィルタ22と、集光光学系23を有する。集光光学系23は、対象物40からの反射光Lrefを集光し、光学フィルタ22を通して、受光素子21に入射させる。光学フィルタ22は、レーザ光源11の発振波長近傍の波長のみを透過させるフィルタである。発振波長の両側の波長をカットすることで、受光素子21に入射する光のS/N(信号対雑音)比が向上する。受光素子21は、1つ以上のアバランシェ・フォトダイオード(APD)であり、光学フィルタ22を透過した光を電気信号に変換する。
【0016】
制御・信号処理部3は、レーザ光源11を駆動するレーザ光源駆動回路31と、可動ミラー14の動き(または偏向角)を制御する制御回路32と、対象物40の距離を計算する信号処理回路33を有する。レーザ光源駆動回路31は、レーザ光源11の発光タイミングと発光強度を制御する。制御・信号処理部3は、LSIチップ、マイクロプロセッサ等の集積回路チップ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA:Field Programmable Gate Array)等のロジックデバイス、集積回路チップとロジックデバイスの組み合わせ等で実現される。
【0017】
レーザ光源11からの光は、第1光学素子12と第2光学素子13により、可動ミラーに導かれ、可動ミラーによって走査範囲4内に存在する対象物40に照射される。対象物40で反射された反射光Lrefは、集光光学系23、光学フィルタ22を経て、受光素子21で受光される。受光素子21は入射光量に応じた光電流を検出信号として出力する。
【0018】
信号処理回路33は、レーザ光源駆動回路31から供給される発光タイミング信号と検出信号の時間差とに基づいて距離演算を行い、対象物40からの距離を計算する。
【0019】
図2は、レーザ光源11の構成例を示す図である。レーザ光源11は、たとえば、「レイヤー」と呼ばれるレーザ素子グループが複数、同一面内に配置されたVCSELアレイ11Aで形成される(面発光レーザアレイ)。以下の説明では、レーザ光源11の各レイヤーを形成する「面発光レーザ素子」を「発光素子」と略称する。VCSELアレイ11Aはレイヤー111-1~111-mを有し、各レイヤー111は、複数の発光素子1121~112n(以下、適宜「発光素子112」と総称する)を有する。
【0020】
発光素子112は、同一基板上に集積可能な素子であり、各発光素子112の光軸はVCSELアレイ11Aの配置面と直交する。
【0021】
各レイヤー111の発光タイミングは、レーザ光源駆動回路31によって、それぞれ独立に制御されている。また、各レイヤー111は、そのレイヤー111内に含まれる複数の発光素子112が同時に発光するように制御されている。
【0022】
図2では、複数のレイヤー111が一次元的に配置されているが、複数のレイヤー111が2次元的に配置されたVCSELアレイ11Aを用いてもよい。各レイヤー111の発光素子112は、所定のピッチで細密配置またはハニカム状に配置されているが、この配置例に限定されない。発光素子112の開口の形状も六角形に限定されない。VCSELアレイ11Aのレイヤー111の数、レイヤー111内の発光素子112の数、発光領域の大きさ等は、LiDAR装置100に必要とされる角度分解能、走査範囲、検出距離等によって、適宜設計される。
【0023】
図3は、第1光学素子12とVCSELアレイ11Aの位置関係を示す図である。第1光学素子12は、VCSELアレイ11Aから出射されたレーザ光の発散を抑制する光学素子である。第1光学素子12として、マイクロレンズアレイ(MLA:Micro Lens Array)、回折素子アレイなど、VCSELアレイ11Aの発散角を抑制できる適切な光学素子アレイを用いることができる。図3の例では、第1光学素子12としてMLA12Aを用いる。
【0024】
図3(A)は、光軸に沿った方向から、VCSELアレイ11AとMLA12Aを重ねて見た図、図3(B)は、側面から見た図である。MLA12Aは、VCSELアレイ11Aのレイヤー111の配置に対応する複数のレンズグループ122を有する。各レンズグループ122は、対応するレイヤー111内の発光素子112と同数のレンズ素子121を含む。
【0025】
各レンズ素子121は、対応する発光素子112と光軸が一致するように配置されており、各発光素子112から出力されるレーザ光の発散角を光の屈折作用により抑制する。各レンズ素子121のレンズ径は、隣接するレンズ素子121が互いに干渉しないように設定され、レンズ素子121の間の間隔は、VCSELアレイ11Aの発光素子112間の間隔よりも小さい。
【0026】
図3(B)に示すように、MLA12Aは、レンズ素子121の凸面がVCSELアレイ11Aから出力されるレーザ光の入射側に位置するように対向して配置されている。MLA12Aのレンズ素子121は、同一の焦点距離を有している。VCSELアレイ11Aと、MLA12Aの入射面の間の距離dは、MLA12Aのレンズ素子121の焦点距離以下に設定されている。
【0027】
図4は、第1光学素子12として回折素子アレイ12Bを用いる例を示す。回折素子アレイ12Bは、VCSELアレイ11Aのレイヤー111の配置に対応する複数のレンズグループ122を有する。各レンズグループ122は、対応するレイヤー111内の発光素子112と同じ数の回折レンズ123を含む。
【0028】
回折レンズ123は、光軸OAを中心とする同心円状の周期パターンを有し、この周期パターンによって入射光の発散角を抑制する。各回折レンズ123は、対応する発光素子112と光軸が一致するように配置されており、回折レンズ123のレンズ面がレーザ光の入射側に位置する。
【0029】
図5は、第2光学素子13とVCSELアレイ11Aの位置関係を示す図である。第2光学素子13は、MLA12Aにより発散が抑制されたレーザ光を、所定の広がり角と角度分解能に変換する投光レンズである。
【0030】
投光レンズ(第2光学素子13)の焦点距離はfである。投光レンズのほぼ焦点位置にVCSELアレイ11Aが配置されている。レーザ光の広がり角θと角度分解能dθは、投光レンズの焦点距離fと、VCSELアレイ11Aの全体の発光領域のサイズS、および各レイヤー111の発光領域のサイズaによって、式(1)と式(2)で決定される。
【0031】
θ=2×tan-1[(S/2)/f] (1)
dθ=2×tan-1[(a/2)/f] (2)
図6は、投光光学系16の光路図である。投光レンズ(第2光学素子13)と通ったレーザ光は、投光レンズの焦点位置でビーム径が最も小さくなる。ビーム径が最も小さくなる箇所は「ビームウエスト」と呼ばれる。ビームウエスト径Wは、レーザ光源から発振されるレーザ光の発散角φと、投光レンズの焦点距離fによって、式(3)で表される。
【0032】
W=2f×tan-1(φ/2) (3)
式(3)からわかるように、レーザ光源の発散角φを小さくすることで、ビームウエスト径Wを小さくすることができ、ミラー面積の小さい可動ミラーに集光することができる。
【0033】
図7は、可動ミラー14の一例として、MEMSミラー14Aを示す。可動ミラー14は、投光レンズ(第2光学素子13)を透過したレーザ光を1軸または2軸方向に走査して、走査範囲4内に位置する対象物を照射する。MEMSミラー14Aは、第2光学素子13を透過したレーザ光のビーム径が最も小さくなるビームウエスト位置、すなわち第2光学素子13のほぼ焦点位置に配置される。
【0034】
MEMSミラー14Aは、反射ミラー145を有する可動部144と、可動部144の両側で可動部144を支持する一対の蛇行梁部146を有する。各蛇行梁部146で、一端が支持基板143に固定され、他端は可動部144に連結されている。
【0035】
各蛇行梁部146は、複数の折り返し部を介して、第1圧電部材147aと第2圧電部材147bが交互に配置され、複数の折り返し部を介して蛇行(ミアンダ)パターンを形成している。隣接する第1圧電部材147aと第2圧電部材147bには、互いに逆位相の電圧信号が印加され、蛇行梁部146にZ方向への反りが発生する。
【0036】
隣接する第1圧電部材147aと第2圧電部材147bでは、撓みの方向が逆になる。逆方向の撓みが累積されて、反射ミラー145を備えた可動部144が、回転軸Aを回転中心として、往復回動する。図7の例では、反射ミラー145は矩形形状をしているが、この例に限定されず、楕円形、円形等の反射ミラー145を用いてもよい。
【0037】
回転軸Aを回転中心としたミラー共振モードに合わせた駆動周波数をもつ正弦波を逆相で第1圧電部材147aと第2圧電部材147bに印加することで、低電圧で大きな回転角度を得ることができる。
【0038】
図8は、可動ミラー14の別の例として、ポリゴンミラー14Bを示す。ポリゴンミラー14Bは、回転軸141に対して等速回転する。この例では、6角形の回転体の6つの傾斜面に平面ミラー142a~142fが設けられている。回転体が回転軸141を中心として回転することで、レーザ光のミラー面へ入射角が変化し、レーザビームをXZ面内で走査することができる。
【0039】
平面ミラー142a~142fは、回転軸141に対する倒れ角が互いに異なる。所定の倒れ角を各平面ミラー142a~142fに与えることで、投射ビームのY軸方向の出射角を制御する。レーザ光が反射されるミラー面が変わるたびに、Y軸方向への出力角が変化する。ポリゴンミラー14Bが有するミラー面の数に応じて、Y軸方向の走査領域を広げることができる。
【実施例1】
【0040】
図9は、投光部1による光走査の第1の例を示す図である。1レイヤーを有するVCSELアレイ11Aと、1軸走査型の可動ミラー14を用いる構成例である。可動ミラーとして1軸走査のMEMSミラー14A1を用いる。
【0041】
VCSELアレイ11Aから出射したレーザ光は、MLA12Aによって発散が抑制されて、投光レンズ(第2光学素子13)に入射する。VCSELアレイ11Aは、第2光学素子13の入射側で、焦点距離fの近傍に位置する。MEMSミラー14A1は、第2光学素子13の出射側で、焦点距離fの近傍に位置する。第2光学素子13を通過したレーザ光は、1軸走査型のMEMSミラー14A1に集光され、入射レーザ光とMEMSミラー14A1との角度に依存した方向へ投光される。
【0042】
主走査方向については、MEMSミラー14A1の回転角度を変えることでレーザ光が走査され(図7参照)、走査範囲4内で投光像10の位置が主走査方向にスイープする。主走査方向の走査範囲は、MEMSミラー14A1の走査角度に依存する。一方、副走査方向の走査範囲は、VCSELアレイ11Aの副走査方向の広がり角θで決まる。広がり角θは式(1)により、VCSELアレイ11Aの副走査方向の発光領域のサイズSと、投光レンズ(第2光学素子13)の焦点距離fで決まる。
【0043】
走査されるレーザ光の角度分解能dθは、主走査方向、副走査方向ともに、式(2)に基づいて、投光レンズ(第2光学素子13)の焦点距離fと、VCSELアレイ11Aのレイヤー111の発光領域のサイズにより決定される。
【0044】
レイヤー111の発光領域のサイズの低減には限界があるが、MLA12AでVCSELアレイ11Aからのレーザ光の発散が抑制されているので、ビームウエストが絞られたレーザ光がMEMSミラー14A1の反射領域148に入射する。これにより、光量の低下を抑制し、高分解能を維持して広範囲にレーザ光を走査することができる。
【0045】
なお、1軸走査型のMEMSミラー14A1に替えて、ポリゴンミラーなどレーザ光に対して可動ミラーの角度が1軸で変化する任意のミラーを用いてもよい。
【実施例2】
【0046】
図10は、投光部1による光走査の第2の例を示す図である。1レイヤーを有するVCSELアレイ11Aと、2軸走査型の可動ミラー14を用いる構成例である。可動ミラーとして、2軸走査のMEMSミラー14A2を用いる。MEMSミラー14A2は、主軸Rmainの回りに回動することでレーザ光を主走査方向に走査し、副軸Rsubの回りに回動することで、レーザ光を副走査方向に走査する。
【0047】
VCSELアレイ11Aからのレーザ光は、MLA12Aによって発散が抑制されて投光レンズ(第2光学素子13)に入射する。VCSELアレイ11Aは、第2光学素子13の入射側で焦点距離fの近傍に位置する。MEMSミラー14A2は、第2光学素子13の出射側で、焦点距離fの近傍に位置する。第2光学素子13を通過したレーザ光は、2軸走査型のMEMSミラー14A2に入射し、入射レーザ光とMEMSミラー14A2との角度に依存した方向へ投光される。
【0048】
MEMSミラー14A2は、主走査方向と副走査方向の角度を変えることでレーザ光を走査する。投光像10は、所定の走査範囲4内で、主走査方向へのスイープと、副走査方向へのシフトを交互に繰り返す。主走査方向と副走査方向の走査範囲は、MEMSミラー14A2の走査角度に依存する。走査されるレーザ光の角度分解能dθは、主走査方向、副走査方向ともに、式(2)に基づいて、投光レンズ(第2光学素子13)の焦点距離fと、VCSELアレイ11Aのレイヤー111の発光領域のサイズにより決定される。
【0049】
この構成例でも、MLA12AでVCSELアレイ11Aからのレーザ光の発散が抑制されているので、ビームウエストが絞られたレーザ光がMEMSミラー14A2の反射領域148に入射する。これにより、光量の低下を抑制し、高分解能を維持して広範囲にレーザ光を走査することができる。
【0050】
なお、2軸走査のMEMSミラー14A2に替えて、ポリゴンミラーなどレーザ光に対して可動ミラーの角度が2軸で変化する任意のミラーを用いてもよい。
【実施例3】
【0051】
図11は、投光部1による光走査の第3の例を示す図である。副走査方向に2つ以上のレイヤー111を有するVCSELアレイ11Aと、1軸走査のMEMSミラー14A1を用いる。
【0052】
VCSELアレイ11Aからのレーザ光は、MLA12Aによって発散が抑制されて投光レンズ(第2光学素子13)に入射する。VCSELアレイ11Aは、第2光学素子13の入射側で焦点距離fの近傍に位置する。MEMSミラー14A1は、第2光学素子13の出射側で、焦点距離fの近傍に位置する。
【0053】
VCSELアレイ11Aのレイヤー111-1~111-4の発光タイミングは個別に制御され、順次、駆動される。レイヤー111-1~111-4から出射されるレーザ光は、MLA12Aの対応するレンズグループ122-1~122-4によって発散が抑制されて、投光レンズ(第2光学素子13)に入射する。第2光学素子13へのレーザ光の入射位置131-1~131-4は、駆動されているレイヤー111に応じて副走査方向で異なる。第2光学素子13を通過したレーザ光は、1軸走査型のMEMSミラー14A1の対応する反射領域148-1~148-4のいずれかに集光され、入射レーザ光とMEMSミラー14A1との角度に依存した方向へ投光される。
【0054】
レイヤー111-1が駆動されているときは、副走査方向の第1の位置で、投光像10-1が主走査方向にスイープする。レイヤー111-2が駆動されているときは、副走査方向の第2の位置で、投光像10-2が主走査方向にスイープする。レイヤー111-3が駆動されているときは、副走査方向の第3の位置で、投光像10-3が主走査方向にスイープする。レイヤー111-4が駆動されているときは、副走査方向の第4の位置で、投光像10-4が主走査方向にスイープする。
【0055】
主走査方向の走査範囲は、実施例1と同様に、MEMSミラー14A1の走査角度に依存する。一方、副走査方向の走査範囲は、VCSELアレイ11Aの副走査方向の広がり角θ、すなわちVCSELアレイ11Aの全体の発光領域のサイズSと、投光レンズ(第2光学素子13)の焦点距離fによって、式(1)により決まる。
【0056】
走査されるレーザ光の角度分解能dθは、主走査方向、副走査方向ともに、式(2)に基づいて、投光レンズ(第2光学素子13)の焦点距離fと、VCSELアレイ11Aの各レイヤー111の発光領域のサイズaにより決定される。
【0057】
図11では、複数のレイヤー111-1~111-4で同時にレーザ光を出力するのではなく、レイヤー111ごとに発光タイミングを制御することで、副走査方向に分割された4つの走査領域で、独立して測定している。
【0058】
レイヤー111の発光領域のサイズの低減には限界があるが、MLA12Aの各レンズグループ122により、対応するレイヤー111からのレーザ光の発散が抑制されているので、ビームウエストが絞られたレーザ光をMEMSミラー14A1の反射領域148に入射することができる。これにより、光量の低下を抑制し、高分解能を維持して広範囲にレーザ光を走査することができる。
【0059】
なお、1軸のMEMSミラー14A1に替えて、ポリゴンミラーなどレーザ光に対して可動ミラーの角度が1軸で変化する任意のミラーを用いてもよい。
【実施例4】
【0060】
図12は、投光部1による光走査の第4の例を示す図である。副走査方向に少なくとも2つのレイヤー111を有するVCSELアレイ11Aと、2軸走査型のMEMSミラー14A2を用いる。MEMSミラー14A2は、主軸Rmainの回りに回動することでレーザ光を主走査方向に走査させ、副軸Rsubの回りに回動することでレーザ光を副走査方向にシフトさせる。
【0061】
VCSELアレイ11Aからのレーザ光は、MLA12Aによって発散が抑制されて投光レンズ(第2光学素子13)に入射する。VCSELアレイ11Aは、第2光学素子13の入射側で焦点距離fの近傍に位置する。MEMSミラー14A1は、第2光学素子13の出射側で、焦点距離fの近傍に位置する。
【0062】
実施例3と同様に、VCSELアレイ11Aのレイヤー111-1~111-4の発光タイミングは個別に制御され、順次、駆動される。レイヤー111-1~111-4から出射されるレーザ光は、MLA12Aの対応するレンズグループ122-1~122-4によって発散が抑制されて、投光レンズ(第2光学素子13)の対応する領域に入射する。
【0063】
第2光学素子13を通過したレーザ光は、2軸走査型のMEMSミラー14A2の反射領域に集光され、入射レーザ光とMEMSミラー14A2との角度に依存した方向へ投光される。VCSELアレイ11Aのレイヤー111-1~111-4の発光タイミングは個別に制御され、順次、駆動される。レイヤー111-1~111-4から出射されるレーザ光は、MLA12Aの対応するレンズグループ122-1~122-4によって発散が抑制されて、投光レンズ(第2光学素子13)に入射する。第2光学素子13へのレーザ光の入射位置131-1~131-4は、駆動されているレイヤー111に応じて副走査方向で異なる。
【0064】
第2光学素子13を通過したレーザ光は、2軸走査型のMEMSミラー14A2の対応する反射領域148-1~148-4のいずれかに集光され、入射レーザ光とMEMSミラー14A2との角度に依存した方向へ投光される。
【0065】
2軸走査型のMEMSミラー14A2が副軸のRsubに対して、θsub-n傾いているとき、レイヤー111-1~111-4が作る投光像を10-n-1~10-n-4とする。実施例3と同様に、レイヤー111-1が駆動されているときは、副走査方向の第1の位置で、投光像10-n-1が主走査方向にスイープする。レイヤー111-2が駆動されているときは、副走査方向の第2の位置で、投光像10-n-2が主走査方向にスイープする。レイヤー111-3が駆動されているときは、副走査方向の第3の位置で、投光像10-n-3が主走査方向にスイープする。レイヤー111-4が駆動されているときは、副走査方向の第4の位置で、投光像10-n-4が主走査方向にスイープする。
【0066】
投光像10-n-1~10-n-4が主走査方向のスイープが終了すると、2軸走査型のMEMSミラー14A2の副軸Rsubに対する傾きがθsub-(n+1)に変化し、投光像の10-(n+1)-1~10-(n+1)-4の主走査方向へのスイープを順次行う。この動作を繰り返すことで、実施例3に比べて、より広い範囲の副走査方向を走査することができる。
【0067】
主走査方向の走査範囲は、実施例1と同様に、MEMSミラー14A2の主走査方向の走査角度に依存する。一方、副走査方向の走査範囲は、式(1)と、MEMSミラー14A2の副走査方向の走査角度とによって決定される。
【0068】
走査されるレーザ光の角度分解能dθは、主走査方向、副走査方向ともに、式(2)に基づいて、投光レンズ(第2光学素子13)の焦点距離fと、VCSELアレイ11Aの各レイヤー111の発光領域のサイズaにより決定される。
【0069】
図12では、複数のレイヤー111-1~111-4で同時にレーザ光を出力するのではなく、レイヤー111ごとに発光タイミングを制御することで、走査範囲4内で、副走査方向に分割された4つの走査領域で、独立して測定している。
【0070】
レイヤー111の発光領域のサイズの低減には限界があるが、MLA12Aの各レンズグループ122でVCSELアレイ11Aの各レイヤー111からのレーザ光の発散が抑制されているので、ビームウエストが絞られたレーザ光をMEMSミラー14A2の対応する反射領域148に入射することができる。これにより、光量の低下を抑制し、高分解能を維持して広範囲にレーザ光を走査することができる。
【0071】
なお、2軸のMEMSミラー14A2に替えて、ポリゴンミラーなどレーザ光に対して可動ミラーの角度が2軸で変化する任意のミラーを用いてもよい。
【実施例5】
【0072】
図13は、投光部1による光走査の第5の例を示す図である。主走査方向に少なくとも2つのレイヤー111を有するVCSELアレイ11Aと、1軸走査または2軸走査の可動ミラー14を用いる。図13の例では2軸走査のMEMSミラー14A2を用いる。
【0073】
実施例1~4では、各レイヤー111を可動ミラー14によって広角度に走査していたが、実施例5では、レイヤー111ごとに走査領域を分割する。
【0074】
VCSELアレイ11Aからのレーザ光は、MAL12Aによって発散が抑制され、投光レンズ(第2光学素子13)に入射する。VCSELアレイ11Aは、第2光学素子13の入射側で焦点距離fの近傍に位置する。MEMSミラー14A2は、第2光学素子13の出射側で、焦点距離fの近傍に位置する。
【0075】
第2光学素子13を通過したレーザ光は、MEMSミラー14A2の対応する反射領域に集光され、入射レーザ光とMEMSミラー14A2との角度に依存した方向へ投光される。
【0076】
主走査方向に配置されたVCSELアレイ11Aの複数のレイヤー111のうち、レイヤー111-1からのレーザ光は第2光学素子13の対応する領域に入射して、走査領域411に投光像101が形成される。同様に、レイヤー111-k(図13の例では、kは1~4の整数)からのレーザ光は、第2光学素子13によって、対応する走査領域41kに投影され、光学像10kが形成される。
【0077】
MEMSミラー14A2を主走査方向と副走査方向に走査することで、光学像10kが走査領域41kの全体をスイープする。この場合の角度分解能dθは、主走査方向、副走査方向ともに式(2)に基づく。一方、走査範囲4については、主走査方向の範囲は、MEMSミラー14A2の走査による各レイヤー111の光走査範囲と、VCSELアレイ11Aのレイヤー数の掛け算で決まる。副走査方向の範囲は、MEMSミラー14A2の走査によるレイヤー111の走査範囲で決まる。なお、各レイヤー111の走査領域41の大きさがレイヤーごとに異なるように、可動ミラー14の走査範囲を変えても良い。
【実施例6】
【0078】
図14は、投光部1による光走査の第6の例を示す図である。実施例6では、実施例5の走査方式において、VCSELアレイ11Aの複数のレイヤー111を、主走査方向と副走査方向に2次元配置している。図をわかりやすくするためにMLA12Aの絵を省略してあるが、レイヤー111の2次元配列に合わせて、MLA12Aの複数のレンズグループ122も、2次元的に配置されている。
【0079】
VCSELアレイ11Aの各レイヤー111を、111-ij(i、jは自然数)とする。レイヤー111-ijから出射されたレーザ光は、MLA12Aの対応するレンズグループ122-ijによって発散が抑制され、第2光学素子13によって、MEMSミラー14A2の対応する反射領域148ijに入射する。MEMSミラー14A2で反射されたレーザ光の光学像10ijは、走査領域41ijに投影される。
【0080】
MEMSミラー14A2を主走査方向と副走査方向に走査することで、光学像10ijは走査領域41ijの全体を走査する。この場合の角度分解能dθは、主走査方向、副走査方向ともに、式(2)に基づく。一方、走査範囲については、主走査方向、副走査方向のいずれも、MEMSミラー14A2の走査によるレイヤー111の光走査範囲と、その走査方向でのVCSElアレイ11Aのレイヤー数の掛け算で決定される。なお、各レイヤー111の走査領域41の大きさがレイヤーごとに異なるように、可動ミラー14の走査範囲を変えても良い。
<VCSEL発光素子とレンズ素子の配置関係>
図15A図15Bは、発光素子112nから出射されたレーザ光が対応するレンズ素子121nだけでなく、隣接するマイクロレンズ121(n+1)に入射した場合におけるレーザ光の強度分布を示す図である。
【0081】
図15Aは、ビームウエスト位置、すなわち可動ミラー14の反射面での強度分布である。発光素子112から対応するレンズ素子121に入射した光は、中心に集光されて高いビーム強度を示す。一方、周囲のレンズ素子に入射した光は、ターゲットのレンズ素子121の結像位置と異なる位置に集光され、第2光学素子13を通過した後のビームウエスト位置でも、中心から外れた位置に結像する。周辺領域に集光される光は、可動ミラー14に入射せずに光損失となるだけではなく、ビームウエスト位置で迷光として現れる。
【0082】
図15Bは、可動ミラー14によって遠方に投光(反射)された光の強度分布を示す。可動ミラー14で反射されたビームは、遠方に投光されて、スポット形状がY方向に広がる。対応するレンズ素子を通って可動ミラー14に入射したレーザ光は、スポット形状が拡がってもある程度の強度を維持している。隣接するレンズ素子を取って周辺に漏れ出た迷光は、走査されるレーザ光の迷光となって現れる。距離測定に用いる光の周辺に迷光が含まれると、誤検知の要因となる。発光素子112とレンズ素子121の位置関係は、光軸を合わせるだけではなく、隣接するレンズ素子にレーザ光が入射しない配置関係が必要である。
【0083】
実施形態では、一つの配置例として、MLA12Aのレンズ素子121の凸面を発光素子112の側に向けることで迷光の発生を抑制する。
【0084】
図16は、実施形態のレンズ配置の原理を説明する図である。
【0085】
レンズ素子121が平凸レンズの場合、MLA12Aは片面に複数の凸形状のレンズ素子121が形成された平凸のレンズ素子アレイとなる。通常は、図16(B)のように、収差の観点から平凸レンズの平面を発光素子112の側に向ける。しかし、MLA12Aの場合、各レンズ素子121の有効径は小さく、一方でMLA基板の厚さは、一般的に数100μm~数mm(例えば、100μm~10mmの間)オーダーになる。図16(B)のように、平面を発光素子112の側に向けた場合、発光素子112nからのレーザ光がレンズ素子121nの凸面に到達する時点で、レーザ光はレンズ素子121nの径以上に広がって隣接するレンズ素子121mに入射する。
【0086】
そこで、ひとつの実施形態では、図16(A)のように、レンズ素子121の凸面を、発光素子112の側に向ける。LiDAR装置の場合、レーザ光を所定の角度分解能で、所定の走査範囲に制御できればよいので、結像面での球面収差を厳密に考慮しなくてもよい。MLAの平面を発光素子112側に向けなくても、投光部1の動作にはほとんど影響しない。
【0087】
ただし、レンズの凸面を発光素子112の側に向けた場合でも、図16(C)のようにVCSELの発光面とMLA12Aの距離が離れすぎると、隣接するレンズ素子にレーザ光が入って迷光が発生する。そのため、発光素子112とレンズ素子121の光軸が一致し、かつ発光素子112から出射されたレーザ光が隣接するレンズ素子121に入射しない距離に、レンズ素子121の凸面が配置される。
【0088】
図17は、第1光学素子12として両面にレンズ素子121n1、121n2を有する両面凸型のMLA12Cを用いるときの発光素子112とレンズ素子121の位置関係を示す。凸型のレンズ素子121n1と121n2を両面に配置することで、片面凸レンズ構成よりも、さらに発散角を抑制することができる。この場合、MLA12Cの入射側のレンズ素子121n1と、出射側のレンズ素子121n2のそれぞれが、対応する発光素子112nと同軸上に配置されている。
【0089】
図17(A)は、発光素子112nとレンズ素子121n1および121n2の位置関係が適切な例を示す。発光素子112nから出射したレーザ光は、そのビーム径がレンズ径よりも大きくなる前にレンズ素子121n1の凸面に入射する。入射レーザ光は、レンズ素子121n1とレンズ素子121n2によって、発散が効果的に抑制される。
【0090】
図17(B)は、発光素子112nと入射側のレンズ素子121n1の距離が近すぎる配置を示す。入射側では、レーザ光は隣接するレンズ素子121に入射しないが、出射側のレンズ素子121n2の凸面に到達した時点で、レーザ光のビーム径がレンズ径よりも広がっている。
【0091】
図17(C)は、発光素子112nと入射側のレンズ素子121n1の距離が遠すぎる配置を示す。レーザ光は、入射側のレンズ素子121n1の凸面に到達した時点で、ビーム径がレンズ径よりも広がっている。
【0092】
両面凸型のMLA12Cを用いる場合は、入射側と出射側の両方で、対応するレンズ素子121にだけレーザ光が入射する構成とすることで、迷光の発生を防止する。
【0093】
図18は、レンズ素子121の凸面をMLA12Aの出射側に配置する例を示す。MLA基板が、発光素子112nからのレーザ光が隣接するレンズ素子121mに入らないほどの薄さであれば、光は対応するレンズ素子121nのみに入ってそのレンズ素子121nの凸面から出射する。この場合は、図18のようにMLA12Aの凸面を出射側に配置、すなわち平面をVCSELアレイ11Aに対向させて配置してもよい。MLA12Aの平面を発光素子112の側に向ける場合、ウェハレベルでVCSEL基板とMLA基板を接合してパッケージングが可能になり、生産性の向上やコスト削減の効果がある。図18に開示されるMLA基板の厚さは、発光素子からのレーザ光との関係で適宜設計される。
<VCSEL-MAL間距離とMLAの焦点距離>
MLA12Aまたは12C、回折素子アレイ12Bなどの第1光学素子12を用いることで、VCSELアレイ11Aの各発光素子121から出力されるレーザ光の発散を抑制することができる。ただし、高出力を得るために発光素子の発光面積を大きくすると、結像系で第1光学素子12による発散角の抑制効果が低下する場合があり得る。
【0094】
同一間隔で発光素子112が配置されたVCSELアレイ11Aにおいて、発光面積を大きくすると、レーザ光のビーム径も大きくなる。MLA12Aの隣接するレンズ素子121にレーザ光を入射させないようにするためには、VCSELアレイ11AとMLA12Aの距離を短くする必要がある。一方、結像系ではMLAの焦点距離が短くなり、発散角が大きくなる。
【0095】
そこで、実施形態では、レーザ光源11(たとえばVCSELアレイ11Aで形成される)と第1光学素子12(たとえばMLA12A)の間の距離dと同等以上の焦点距離をもつ第1光学素子12を用いて、発散角の抑制効果を確保する。
【0096】
MLA12Aの焦点距離fMLAを、VCSELアレイ11Aとの間の距離dよりも長くした場合、レーザ光は、本来平行に進むために必要な曲率よりもゆるい曲率(大きな曲率半径)の界面で屈折することから、各発光点から光の屈折が弱くなる。すなわち、MLA12Aの焦点距離fMLAをVCSEL-MLA間の距離dと一致させた場合に比べて、発散角は小さくなる。発散角は抑制されても、各発光点からの光はある程度は発散しながら進むので、VCSELアレイ11Aの出力は、角度分布を持ったレーザ光となる。
【0097】
図19A図19Bは、MLAを介して出射されるレーザ光の角度分布である。図19Aは、MLAの焦点距離fMLAと、VCSEL-MLA間の距離dが一致しているとき(fMLA=d)の角度分布、図19Bは、MLAの焦点距離fMLAがVCSEL-MAL間の距離dよりも大きいとき(fMLA>d)の角度分布である。
【0098】
図19A図19Bの双方で、発散角が18.5°のレーザ光源に対して、MLA12Aの入射面を80μm離して配置し(d=80μm)、水平方向(H)と垂直方向(V)で、放射輝度を角度の関数として測定している。
【0099】
図19B(fMLA>d)の方が、図19A(fMLA=d)よりも角度分布があり、発散角が小さくなる。角度分布の多いレーザ光は、角度分布が少ないレーザ光に比べて、同じビーム径に集光した場合に、中心部分の強度がより高く、外周部分の強度が低くなる(図19Bの分布プロファイル参照)。
【0100】
可動ミラー14における光量ロスは、可動ミラー14に集光されなかったレーザ光の外周部の光量ロスであるため、同じ発散角のレーザ光でも、角度分布のあるレーザ光のほうが、より少ない光量ロスで可動ミラーに結像する。その結果、LiDAR装置から出射されるレーザ光のパワーが高くなり、より遠方の対象物までの距離を測定することが可能になる。
【0101】
VCSEL-MLA間の距離dよりも長い焦点距離のMLAを用いることで、可動ミラー14への結像光学系で光量ロスを低減し、LiDAR装置の測距性能を向上することができる。
【0102】
図20は、可動ミラー14の受光幅とビームウエスト形状を示す図である。LiDARでは、入射レーザ光に対する可動ミラー14の角度を変えて、光ビームを走査する。1軸の可動ミラー14を考えると、可動ミラー14の受光幅Deffは、可動ミラーの幅Dと、入射レーザ光に対する可動ミラーの傾きθMEMSから、
Deff=D×cosθMEMS
で表される。
【0103】
可動ミラーの傾き角度が大きくなるに従って、受光幅Deffは小さくなる。広角度の走査の場合、可動ミラー14の回転角が大きくなると可動ミラーに集光されないレーザ光の量が増加し、光利用効率が低下する場合があり得る。実施形態では、あらかじめ第1光学素子12でレーザ光の発散角を小さくすることで、広角度の走査でも光量ロスを最小限にする。
【0104】
図21は、レーザ光源の発散角とビーム径の関係を示す図である。図21(A)は、異なる発散角のレーザ光を投光レンズ(第2光学素子13)で集光したときの副走査方向のビーム径を示す。四角マークは、発散角18.5°のレーザ光を焦点距離30mmの投光レンズで集光したときのビーム径を、投光レンズからの距離の関数としてプロットしたものである。黒丸は、MLA12Aにより発散角を10.6°に抑制したレーザ光を焦点距離30mmの投光レンズで集光したときのビーム径をプロットしたものである。三角マークは、MLA12Aにより発散角を7.8°に抑制したレーザ光を焦点距離30mmの投光レンズで集光したときのビーム径をプロットしたものである。
【0105】
MLA12Aの有無にかかわらず、レーザ光は投光レンズの焦点距離と一致する30mmの位置でビームウエストになっている。また、MLA12Aによって発散角を抑制することにより、より小さいビーム径で集光できることがわかる。
【0106】
図21(B)は、レーザ光の発散角の関数としてビームウエスト径をプロットした図である。黒丸が測定値、点線は式(3)に基づく計算値である。
【0107】
W=2f×tan-1(φ/2) (3)
投光レンズの焦点距離fは、30mmである。
【0108】
計算結果と実際のビームウエスト径は一致しており、投光系としてはMLAの有無に関係なく、投光レンズ(第2光学素子13)を通過した後のビームウエスト径は、投光レンズ後の発散角に依存して小さくできる(式(3)参照)。
【0109】
図22は、異なる発散角で走査したときの走査角に対する光利用効率を示す。図21と同様に、MLAなしの発散角18.5°と、MLAを用いた発散角10.6°および7.8°のレーザ光を、それぞれ焦点距離30mmの投光レンズを介して、ビームウエスト位置で1軸のMEMSミラー14Aに集光する。MEMSミラー14Aのサイズは、水平方向と垂直方向で10mm×14mmである。MEMSミラー14Aを、主走査方向に140°の範囲で回転したときの走査角度に対する光利用効率を示す。
【0110】
上述したように、発散角が小さいほど、投光レンズによって集光されるレーザ光のビームウエスト径Wは小さくなるため、走査角が大きくなったときの光利用効率が向上し、広角度範囲での距離測定が可能になる。たとえば、光利用効率95%以上の範囲を距離測定可能な範囲とすると、MLAにより発散角を18.5°から10.6°、さらには7.8°に抑制することで、走査可能な角度範囲は55°から100°、さらには120°へと拡大される。
【0111】
LiDAR装置に適用する場合、MLA12AによってVCSELアレイ11Aの発散角を抑制することで、ミラー面積の小さい(例えば、矩形の反射ミラーの短手方向の長さが1mm~20mm程度の)可動ミラー14へ効率的に集光し、広い角度範囲で長距離測定を行うことができる。
【0112】
図23は、投光レンズのデフォーカス量に対する副走査方向の角度分解能を、発散角ごとに示す図である。透光レンズのデフォーカス量は、投光レンズを焦点位置から光軸に沿って移動させたときの距離である。横軸のマイナス側は投光レンズをVCSELアレイ側に近づけた場合であり、プラス側はVCSELアレイから遠ざけた場合である。
【0113】
発散角を小さくすることによる副次的な効果として、投光レンズの実装精度の緩和がある。図23からわかるように、発散角を小さくするほど、投光レンズが焦点距離からずれた場合の角度分解能の変化量が小さい。MLA12Aにより、VCSELアレイ11Aの発散角を抑制することで、投光レンズ(第2光学素子13)の角度分解能のばらつきが小さくなり、投光レンズの実装精度を緩和することができる。
【0114】
図24は、LiDAR装置100を搭載した移動体の概略図である。移動体は、たとえば自動車501であり、LiDAR装置100は自動車501のフロントグラスの上方、前座席の天井などに取り付けられる。LiDAR装置100は、たとえば自動車501の進行方向に向かって光走査して、進行方向に存在する対象物40からの反射光を受光することで、対象物40を認識する。LiDAR装置100の投光部1は、MLAなどの第1光学素子12であらかじめレーザ光の発散角を抑制して光走査するので、可動ミラー14などの走査部での光損失が低減され、高い角度分解能でレーザ光を遠方まで投光することができる。
【0115】
LiDAR装置100の搭載位置は、自動車501の上部前方に限定されず、側面や後方に搭載されてもよい。LiDAR装置100は、車両だけではなく、航空機、ドローンなどの飛行体、ロボット等の自律移動体など、任意の移動体に適用可能である。実施形態の投光部1の構成を採用することで、広い範囲で物体の存在とその位置を検知することができる。
【符号の説明】
【0116】
1 投光部(光学装置)
2 受光部
3 制御・信号処理部
11 レーザ光源(光源)
11A VCSELアレイ
111 レイヤー(レーザ素子グループ)
112 発光素子(面発光レーザ素子)
12 第1光学素子
12A MLA(光学素子アレイ)
12B 回折素子アレイ(光学素子アレイ)
121 レンズ素子(光学素子)
13 第2光学素子
14 可動ミラー(走査部)
100 LiDAR装置(距離計測装置)
501 自動車(移動体)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0117】
【文献】特開2010-151958号公報
図1
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図19B
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図23
図24