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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】液滴形成装置及び液滴形成方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220712BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
C12M1/00 A
B05C5/00 101
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018047523
(22)【出願日】2018-03-15
(65)【公開番号】P2019154351
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】増子 龍也
(72)【発明者】
【氏名】岡野 覚
(72)【発明者】
【氏名】村松 功一
(72)【発明者】
【氏名】中澤 聡
(72)【発明者】
【氏名】倉持 譲
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴彦
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-203157(JP,A)
【文献】特開2017-077197(JP,A)
【文献】特開2016-116489(JP,A)
【文献】特表2007-503998(JP,A)
【文献】特開2003-010764(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0028189(KR,A)
【文献】特開2009-101515(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0050119(KR,A)
【文献】特開2006-170756(JP,A)
【文献】特開平09-029996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
B05C 5/00-5/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子懸濁液を保持する液体保持部と
粒子懸濁液を振動により吐出口から液滴として吐出する膜状部材と、
前記膜状部材を振動させる振動手段と、
を有し、
前記振動手段にて、前記吐出口のメニスカスを励振させてから、当該メニスカスの振動停止前に、吐出駆動を実施して前記液滴を吐出することを特徴とする液滴形成装置。
【請求項2】
前記液体保持部内を大気に開放する大気開放部を有する請求項1に記載の液滴形成装置。
【請求項3】
前記励振されたメニスカスが前記吐出口を少なくとも1回通過する請求項1から2のいずれかに記載の液滴形成装置。
【請求項4】
前記膜状部材の吐出側の表面が撥水処理されており、前記吐出口の壁面が親水処理されている請求項1から3のいずれかに記載の液滴形成装置。
【請求項5】
前記膜状部材の吐出側の表面に少なくとも1つの凸部が設けられており、前記吐出口の壁面に少なくとも1つの凹凸部を有する請求項1から4のいずれかに記載の液滴形成装置。
【請求項6】
前記膜状部材の吐出口近傍の厚みが、前記膜状部材の吐出口近傍以外の厚みよりも薄く形成されている請求項1から5のいずれかに記載の液滴形成装置。
【請求項7】
液体を保持する液体保持部と、
前記液体保持部内を大気に開放する大気開放部と、
前記液体を振動により吐出口から液滴として吐出する膜状部材と、
前記膜状部材を振動させる振動手段と、
前記膜状部材の吐出側の表面に少なくとも1つの凸部が設けられており、前記吐出口の壁面に少なくとも1つの凹凸部を有し、
前記振動手段にて、前記吐出口のメニスカスを励振させてから、前記液滴を吐出することを特徴とする液滴形成装置。
【請求項8】
液体を保持する液体保持部と、
前記液体保持部内を大気に開放する大気開放部と、
前記液体を振動により吐出口から液滴として吐出する膜状部材と、
前記膜状部材を振動させる振動手段と、
前記膜状部材の吐出口近傍の厚みが、前記膜状部材の吐出口近傍以外の厚みよりも薄く形成されてなり、
前記振動手段にて、前記吐出口のメニスカスを励振させてから、前記液滴を吐出することを特徴とする液滴形成装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の液滴形成装置を用いて液滴を形成することを特徴とする液滴形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴形成装置及び液滴形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、幹細胞技術の進展に伴い、複数の細胞をインクジェットヘッドから吐出して組織体を形成する技術が行われている。
本願出願人は、既に、細胞を分散させた細胞懸濁液を吐出する液滴形成装置として、ノズルを設けたメンブレンをアクチュエーターによって振動させることにより、メンブレン上の液を吐出する装置を提案している(例えば、特許文献1参照)。
また、吐出される液滴に含まれる沈降性粒子の数のばらつきを抑制することを目的とし、液滴を形成しない範囲で膜状部材を振動させる撹拌波形を加振手段に選択的に付与する駆動手段が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、吐出曲がりを抑制することができる液滴形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するための手段としての本発明の液滴形成装置は、粒子懸濁液を保持する液体保持部と、前粒子懸濁液を振動により吐出口から液滴として吐出する膜状部材と、前記膜状部材を振動させる振動手段と、を有し、前記振動手段にて、前記吐出口のメニスカスを励振させてから、当該メニスカスの振動停止前に、吐出駆動を実施して前記液滴を吐出する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によると、吐出曲がりを抑制することができる液滴形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A図1Aは、吐出曲がりが生じるメカニズムを説明する図である。
図1B図1Bは、吐出曲がりが生じるメカニズムを説明する図である。
図2A図2Aは、粒子位置及びメニスカス形状の関係を示し、粒子初期位置がノズル中央である状態を示す図である。
図2B図2Bは、粒子位置及びメニスカス形状の関係を示し、粒子初期位置がノズル端である状態を示す図である。
図3A図3Aは、ノズル内の粒子位置と吐出曲がりθとの関係を明らかにする実験に用いる装置の概略図である。
図3B図3Bは、図3Aのファンクションジェネレーターから各機器への駆動波形入力タイミングを示す図である。
図4A図4Aは、ノズル内に位置している粒子を可視化した結果を示す図である。
図4B図4Bは、吐出曲がりθの評価方法を示す図である。
図5A図5Aは、吐出曲がりθ及びノズルのX方向だけを抽出した粒子位置xの関係を示す図である。
図5B図5Bは、吐出曲がりθ及びノズルのX方向だけを抽出した粒子位置xの関係を示す図である。
図6A図6Aは、吐出液滴の2方向観察を行う実験に用いる装置の概略図である。
図6B図6Bは、吐出曲がりθ及び2方向座標を抽出したときの粒子位置xとの関係を示すグラフである。
図7図7は、第1の実施形態の液滴形成装置の一例を示す概略図である。
図8図8は、粒子をノズル中心に寄せるための駆動方法を説明するための図である。
図9図9は、励振されたメニスカスの飛び出し距離を示す図である。
図10A図10Aは、ノズルの表面処理なしの状態を示す図である。
図10B図10Bは、ノズルの表面処理ありの状態を示す図である。
図11A図11Aは、ノズル凹凸形状なしの状態を示す図である。
図11B図11Bは、ノズル凹凸形状ありの状態を示す図である。
図12A図12Aは、細胞及び培養液成分の付着を抑制するためのノズル形成のリファレンスを示す図である。
図12B図12Bは、第2の実施形態における膜状部材の厚みをノズル近傍だけ薄くした液滴吐出ヘッドのノズル部分を示す図である。
図13図13は、第3の実施形態における 液滴吐出ヘッドの一例を示す図である。
図14図14は、粒子懸濁液吐出時の吐出曲がり抑制実験に用いた 液滴吐出ヘッドの一例を示す図である。
図15図15は、粒子懸濁液吐出時の吐出曲がり抑制実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(液滴形成装置及び液滴形成方法)
本発明の液滴形成装置は、液体を保持する液体保持部と、液体保持部内を大気に開放する大気開放部と、液体を振動により吐出口から液滴として吐出する膜状部材と、膜状部材を振動させる振動手段と、を有し、振動手段にて、吐出口のメニスカスを励振させてから、前記液滴を吐出し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
本発明の液滴形成方法は、本発明の液滴形成装置を用いて液滴を形成する。
【0008】
吐出曲がりの原因は2つあると考えられる。1つめは、残留振動の影響である。図1Aに示すように、メンブレンが振動することによりメニスカスも振動する。次に、メンブレン振動がおさまるが、メニスカスは振動を続ける。この状態で次の吐出を行うと、メニスカスの乱れが生じることが想定できる。
2つめは、粒子(細胞)懸濁液に特有の影響である。図1Bに示すように、ノズル径と同スケールの細胞が通過すると、ノズルを通過する流体の速度場が乱れ、水吐出では軸対称のメニスカス形状が軸非対称のメニスカス形状になり、吐出曲がりが生じる。
【0009】
先行研究において、ノズル径を固定し、吐出する粒子径を大きくすると、吐出曲がりが大きくなることが示されている(Ryanto The et al.,“Piezoelectric Inkjet-based One Cell per One Droplet Automatic Printing by Image Processing”IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems,(2013),502-507.)。
この報告から、吐出曲がりの根本に関わる粒子(細胞)懸濁液特有の課題であることが明らかである。しかし、吐出曲がりが生じる原因は不明である。
【0010】
本発明においては、液体として粒子懸濁液(大径粒子)吐出時に吐出曲がりを抑制することができる。吐出曲がりを抑制することができれば、液滴形成装置と液滴着弾面の距離をより離すことができる。例えば、再生医療の分野では生体内の環境を模した3次元表面での細胞培養が求められており、高さ方向の情報を有する基板へ細胞吐出を行うことができる。
【0011】
ここで、図2A及び図2Bは、ノズル径60μmに対して、粒子径20μmの粒子を吐出したときの、メニスカス形状を表した解析結果を示す。図2Aから、粒子初期位置がノズル中央のとき、メニスカス形状はノズル中心を軸に対称であることがわかる。図2Bから、粒子初期位置がノズル端のとき、メニスカス形状はノズル中心を軸に非対称であり、ノズル内の粒子が位置している方向へ、メニスカスの偏りが生じ、吐出曲がりに至っていることが示唆される。この解析結果より、ノズル内の粒子位置が吐出曲がりに関係があることが示唆されたので、図3A及び図3Bに示すような実験装置系を組み、ノズル内の粒子位置及び吐出曲がりの関係を明らかにした。図3Aは、実験に用いる装置の概略図である。図3Bは、図3Aのファンクションジェネレーター(F.G.)から各機器への駆動波形入力タイミングを示す図である。
【0012】
実験方法について以下に示す。
・吐出前のノズルをCCDカメラで観察し、ノズル内の粒子位置xを測定した。
・吐出液を高速度カメラで観察し、吐出曲がりθを測定した。
・着滴した粒子をカウントし、1粒子含有している液滴の曲がりだけを評価した。
【0013】
図4A及び図4Bには、評価方法を示す。まず、ノズル内の粒子位置xの測定方法を図4Aに示す。
図4Aはノズル内に位置している粒子を可視化した結果である。この画像からノズル中心から粒子重心位置までの距離xを測定した。
次に、吐出曲がりθの評価方法を図4Bに示す。高速度カメラ画像より、ノズル中心を通るZ軸に対して、液滴の吐出曲がり角度θを測定した。
【0014】
図5A及び図5Bは、吐出曲がりθ及びノズルのX方向だけを抽出した粒子位置xの関係を示す。図5Bの結果から、吐出曲がりθは粒子径5μmよりも粒子径20μmの方が大きくなる傾向が得られた。また、粒子がノズル中心に位置すると、曲がりが抑制される傾向が得られた。
【0015】
図5Bの実験結果は、ノズル内粒子のX座標及び飛翔液滴を1方向から観察したときの吐出曲がりθの関係を表しており、吐出曲がりθに対するノズル内粒子の初期位置依存性を実証できていない。これを示すためには、飛翔液滴の曲がりθを2方向から観察したときに、図5Bと同様の傾向が得られることを示す必要がある。
そこで、図6Aに示すような実験装置系を組み、高速度カメラ2台を60°傾けて配置し、吐出液滴の2方向観察を行った。
実験結果を図6Bに示す。図6BのX軸は、X及びX’座標の粒子位置xを表している。Y軸は、それぞれの高速度カメラで測定した吐出曲がりθを表している。図6Bの結果から、吐出曲がりθはそれぞれ同様の傾向を示しており、粒子の位置依存性が確認できた。
【0016】
図5B及び図6Bの結果より、粒子がノズル軸中心に位置すると、吐出曲がりが抑制される傾向が認められた。そこで、本発明は、粒子をノズル軸中心へ寄せるような駆動を行うことにより、吐出曲がりを抑制することを特徴とする。
【0017】
したがって、本発明は、液体を保持する液体保持部と、液体保持部内を大気に開放する大気開放部と、液体を振動により吐出口から液滴として吐出する膜状部材と、膜状部材を振動させる振動手段と、を有し、振動手段にて、吐出口のメニスカスを励振させてから、前記液滴を吐出する。即ち、液滴を形成しない範囲で前記メンブレンを加振させる予備駆動を行い、予備駆動により、励振されたノズル部のメニスカスの振動が停止する前に、液滴を形成する吐出駆動を行う。その結果、吐出口(ノズル)を通過する流体が図2Aに示すような軸対称の流れと仮定すると、液滴が形成しない程度に、ノズルからメニスカスを飛び出させることで、流体の速度場に従って粒子は中心に移動し、粒子(細胞)がノズル中心に移動した状態で吐出することで、吐出曲がりを抑制することができる。
励振されたメニスカスは、吐出口を少なくとも1回通過することが好ましい。励振されたメニスカスがノズルを通過する回数を1回、2回、3回、4回・・・と増やすことで、更に粒子をノズル中心へ寄せることができる。
【0018】
<液体保持部>
液体保持部は、液体を保持する。液体保持部は、大気開放部を上部側に有していることが好ましい。液体中に混入した気泡は大気開放部から排出可能に構成されている。
【0019】
液体保持部の形状、大きさ、材質、及び構造については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
液体保持部の材質としては、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム等の金属や、二酸化ケイ素、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスなどが挙げられる。
これらの中でも、粒子として細胞やタンパク質を用いる際には、細胞やタンパク質に対する付着性の低い材料を用いることが好ましい。
細胞の付着性は一般的に材質の水との接触角に依存性があると言われており、材質の親水性が高い又は疎水性が高いときには細胞の付着性が低い。親水性の高い材料としては各種金属材料やセラミックス(金属酸化物)を用いることが可能であり、疎水性が高い材料としてはフッ素樹脂等を用いることが可能である。
これら以外にも、材料表面をコーティングすることで細胞接着性を低下させることも考えられる。例えば、材料表面を前述の金属又は金属酸化物材料でコーティングすることや、細胞膜を模した合成リン脂質ポリマー(例えば、日油株式会社製、Lipidure)によってコーティングすることが可能である。
【0020】
<膜状部材>
膜状部材は、吐出口(ノズル)が形成され,液体保持部に保持された液体をその振幅運動による振動により吐出口から液滴として吐出する部材である。
膜状部材は、液体保持部の下端部に固定されている。
液体保持部に保持された液体は、膜状部材の振動により貫通孔である吐出口から液滴として吐出される。
【0021】
膜状部材の吐出側の表面が撥水処理されており、前記吐出口の壁面が親水処理されていることが好ましい。表面処理無しの場合に比べて、表面処理を行うことにより、膜状部材表面の前進接触角をより大きくすることができ、ノズル壁面の後退接触角をより小さくすることができる。その結果、予備駆動により励振されたメニスカスの接触点位置が移動しづらくなり、ノズルを通過する流体の軸対称流れ場が非対称となりにくくなる。したがって、ノズル内粒子を中心へ寄せる効果がより向上する。
【0022】
膜状部材の吐出側の表面に少なくとも1つの凸部が設けられており、前記吐出口の壁面に少なくとも1つの凹凸部を有することが好ましい。膜状部材の吐出側の表面に凸部無しの場合に比べて、凸部を設けることにより、励振されたメニスカスの接触点位置が凸部で固定され、前進接触角をより大きくすることができる。これにより、予備駆動により励振されたメニスカスの接触点位置が移動しづらくなり、ノズルを通過する流体の軸対称流れ場が非対称となりにくくなる。したがって、ノズル内粒子を中心へ寄せる効果がより大きくなる。また、ノズル壁面に少なくとも1つの凹凸部を設けることにより、同様の効果が期待できる。
【0023】
膜状部材の吐出口近傍の厚みは、膜状部材の吐出口近傍以外の厚みよりも薄く形成されていることが好ましい。膜状部材の厚みをノズル近傍だけ薄くする。これにより、内壁付着物とノズル壁面が接触する面積が小さくなり、粒子とノズル壁面間で働く表面張力が小さくなる。内壁付着物がある閾値以上に成長すると、ノズル内を通過する流体から受ける力で剥離するとしたとき、膜状部材の厚みをノズル近傍だけ薄くすることで、対象よりもある閾値を小さくすることができる。つまり、内壁付着物が剥離しやすくなる。上記の効果に付随して、粒子がノズルを通過したとき、ノズルを通過する流体の軸対称性が損なわれる時間が短くなるので、吐出バラつきを抑制することができる。
【0024】
膜状部材の平面形状、大きさ、材質、及び構造については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
膜状部材の平面形状としては、例えば、円形、楕円形、長方形、正方形、菱形などが挙げられる。
膜状部材の材質としては、柔らかすぎると膜状部材が簡単に振動し、吐出しないときに直ちに振動を抑えることが困難であるため、ある程度の硬さを有する材質を用いることが好ましく、例えば、金属、セラミックス、高分子材料などが挙げられ、具体的には、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、二酸化ケイ素、アルミナ、ジルコニアなどが挙げられる。これらの中でも、上記液体保持部と同様に、粒子として細胞やタンパク質を用いる場合には、細胞やタンパク質に対する付着性の低い材料を用いることが好ましい。
【0025】
-吐出口-
吐出口としては、その配列数、配列態様、間隔(ピッチ)、開口形状、開口の大きさなどについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
吐出口の配列数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、液滴吐出手段の吐出面の長さ方向に沿って1列以上配設されていることが好ましく、1列以上4列以下がより好ましい。吐出口を1列以上設けることにより、単位時間当りの吐出する液滴数を増加させることができると共に、粒子の種類(例えば、細胞の種類など)応じて列を変えて一度に吐出することができる。
1列当たりの吐出口の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択されるが、2個以上100個以下が好ましく、2個以上50個以下がより好ましく、2個以上12個以下が更に好ましい。1列当たりの吐出口の数が2個以上100個以下であると、単位時間当りの吐出する液滴数を増加させることができる高い生産性を有する粒子計数装置を提供することができる。
吐出口の配列態様としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、規則配列(例えば、千鳥格子配列など)であっても、不規則配列であってもよい。
吐出口が、複数列である場合には、隣接する吐出口から吐出される液滴同士の干渉を防止でき、粒子の検出感度を向上させるため、各列の間に仕切り部材を設けることが好ましい。仕切り部材としては、例えば、仕切り板などが挙げられる。
吐出口は、等間隔に並んで配列されていることが好ましく、隣接する吐出口の中心間の最短距離である間隔(ピッチ)Pとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、50μm以上1,000μm以下が好ましい。
吐出口の開口形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円形、楕円形、四角形などが挙げられる。
吐出口の平均径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、粒子が吐出口に詰まることを避けるため、粒子の大きさの2倍以上とすることが好ましい。
粒子が、例えば、動物細胞、特にヒトの細胞である場合、ヒトの細胞の大きさは、一般的に、5μm以上50μm以下であるため、吐出口の平均径は、使用する細胞に合わせて、10μm以上100μm以下が好ましい。
一方で、液滴が大きくなり過ぎると、微小液滴を形成するという目的の達成が困難となるため、吐出口の平均径は、200μm以下であることが好ましい。したがって、吐出口の平均径は、10μm以上200μm以下がより好ましい。
【0026】
<振動手段>
振動手段は、膜状部材を振動させて吐出口(ノズル)から液滴を吐出させる。
振動手段は、膜状部材の下面側に形成されている。
振動手段の形状、大きさ、材質、及び構造については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
振動手段の形状としては、特に制限はなく、膜状部材の形状に合わせて適宜設計することができるが、例えば、膜状部材の平面形状が円形である場合には、吐出口の周囲に平面形状が円環状(リング状)の振動手段を形成することが好ましい。
【0027】
振動手段としては、圧電素子が好適に用いられる。圧電素子としては、例えば、圧電材料の上面及び下面に電圧を印加するための電極を設けた構造とすることができる。この場合、駆動手段から圧電素子の上下電極間に電圧を印加することによって膜の面横方向に圧縮応力が加わり、膜状部材を膜の面上下方向に振動させることができる。
圧電材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)、ビスマス鉄酸化物、ニオブ酸金属物、チタン酸バリウム、又はこれらの材料に金属や異なる酸化物を加えたものなどが挙げられる。これらの中でも、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)が好ましい。
【0028】
<駆動手段>
駆動手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液滴吐出ヘッドが圧電加圧方式によるインクジェットヘッドである場合、液滴吐出ヘッドに駆動電圧を入力する手段などが挙げられる。この場合、駆動手段が圧電素子を変形させることにより微小な液滴を吐出させることができる。
【0029】
<液体>
液体は、粒子懸濁液が好ましい。粒子懸濁液としては、細胞懸濁液が好ましい。
【0030】
<液滴>
液滴は、粒子を含むことが好ましい。
液滴中に含まれる粒子の個数は、1個以上が好ましく、1個以上5個以下がより好ましい。
液滴の直径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、25μm以上150μm以下が好ましい。液滴の直径が25μm以上であると、内包する粒子の直径が適正となり、適用できる粒子の種類が多くなる。また、液滴の直径が150μm以下であると、液滴の吐出が安定となる。
また、液滴の直径をRとし、粒子の直径をrとすると、R>3rであることが好ましい。R>3rであると、粒子の直径と液滴の直径との関係が適正であり、液滴の縁の影響を受けることがないため、粒子の計数精度が向上する。
液滴の液量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1,000pL以下が好ましく、100pL以下がより好ましい。
液滴の液量は、例えば、液滴の画像から液滴の大きさを求め、液量を算出する方法などにより測定することができる。
【0031】
液滴に含まれる粒子としては、例えば、金属微粒子、無機微粒子、細胞などが挙げられる。これらの中でも、細胞が好ましい。
【0032】
細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真核細胞、原核細胞、多細胞生物細胞、単細胞生物細胞を問わず、すべての細胞について使用することができる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
真核細胞としては、特に制限はなく、目的応じて適宜選択することができ、例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、真菌、藻類、原生動物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、動物細胞、真菌が好ましく、ヒト由来の細胞がより好ましい。
【0034】
接着性細胞としては、組織や器官から直接採取した初代細胞でもよく、組織や器官から直接採取した初代細胞を何代か継代させたものでもよく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、分化した細胞、未分化の細胞などが挙げられる。
【0035】
分化した細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、肝臓の実質細胞である肝細胞;星細胞;クッパー細胞;血管内皮細胞;類道内皮細胞、角膜内皮細胞等の内皮細胞;繊維芽細胞;骨芽細胞;砕骨細胞;歯根膜由来細胞;表皮角化細胞等の表皮細胞;気管上皮細胞;消化管上皮細胞;子宮頸部上皮細胞;角膜上皮細胞等の上皮細胞;乳腺細胞;ペリサイト;平滑筋細胞、心筋細胞等の筋細胞;腎細胞;膵ランゲルハンス島細胞;末梢神経細胞、視神経細胞等の神経細胞;軟骨細胞;骨細胞などが挙げられる。
【0036】
未分化の細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、未分化細胞である胚性幹細胞、多分化能を有する間葉系幹細胞等の多能性幹細胞;単分化能を有する血管内皮前駆細胞等の単能性幹細胞;iPS細胞などが挙げられる。
【0037】
真菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カビ、酵母菌などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、細胞周期を調節することができ、1倍体を使用することができる点から、酵母菌が好ましい。
細胞周期とは、細胞が増えるとき、細胞分裂が生じ、細胞分裂で生じた細胞(娘細胞)が再び細胞分裂を行う細胞(母細胞)となって新しい娘細胞を生み出す過程を意味する。
【0038】
酵母菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、細胞周期をG1期に制御するフェロモン(性ホルモン)の感受性が増加したBar-1欠損酵母が好ましい。酵母菌がBar-1欠損酵母であると、細胞周期が制御できていない酵母菌の存在比率を低くすることができるため、容器内に収容された細胞の特定の核酸の数の増加等を防ぐことができる。
【0039】
原核細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真正細菌、古細菌などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
細胞としては、死細胞が好ましい。死細胞であると、分取後に細胞分裂が起こることを防ぐことができる。
【0041】
細胞としては、光を受光したときに発光可能な細胞であることが好ましい。光を受光したときに発光可能な細胞であると、細胞の数を高精度に制御して被着対象物に着弾させることができる。
受光とは、光を受けることを意味する。
光学センサとは、人間の目で見ることができる可視光線と、それより波長の長い近赤外線や短波長赤外線、熱赤外線領域までの光のいずれかの光をレンズで集め、対象物である細胞の形状などを画像データとして取得する受動型センサを意味する。
【0042】
--光を受光したときに発光可能な細胞--
光を受光したときに発光可能な細胞としては、光を受光したときに発光可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、蛍光色素によって染色された細胞、蛍光タンパク質を発現した細胞、蛍光標識抗体により標識された細胞などが挙げられる。
細胞における蛍光色素による染色部位、蛍光タンパク質の発現部位、又は蛍光標識抗体による標識部位としては、特に制限はなく、細胞全体、細胞核、細胞膜などが挙げられる。
【0043】
---蛍光色素---
蛍光色素としては、例えば、フルオレセイン類、アゾ類、ローダミン類、クマリン類、ピレン類、シアニン類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、フルオレセイン類、アゾ類、ローダミン類が好ましく、エオシン、エバンスブルー、トリパンブルー、ローダミン6G、ローダミンB、ローダミン123がより好ましい。
【0044】
蛍光色素としては、市販品を用いることができ、市販品としては、例えば、商品名:EosinY(和光純薬工業株式会社製)、商品名:エバンスブルー(和光純薬工業株式会社製)、商品名:トリパンブルー(和光純薬工業株式会社製)、商品名:ローダミン6G(和光純薬工業株式会社製)、商品名:ローダミンB(和光純薬工業株式会社製)、商品名:ローダミン123(和光純薬工業株式会社製)などが挙げられる。
【0045】
---蛍光タンパク質---
蛍光タンパク質としては、例えば、Sirius、EBFP、ECFP、mTurquoise、TagCFP、AmCyan、mTFP1、MidoriishiCyan、CFP、TurboGFP、AcGFP、TagGFP、Azami-Green、ZsGreen、EmGFP、EGFP、GFP2、HyPer、TagYFP、EYFP、Venus、YFP、PhiYFP、PhiYFP-m、TurboYFP、ZsYellow、mBanana、KusabiraOrange、mOrange、TurboRFP、DsRed-Express、DsRed2、TagRFP、DsRed-Monomer、AsRed2、mStrawberry、TurboFP602、mRFP1、JRed、KillerRed、mCherry、mPlum、PS-CFP、Dendra2、Kaede、EosFP、KikumeGRなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
---蛍光標識抗体---
蛍光標識抗体としては、蛍光標識されていれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、CD4-FITC、CD8-PEなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
細胞は、特定の核酸を有することが好ましい。特定の核酸を有する細胞の細胞数は、複数であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0048】
---特定の核酸---
特定の核酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、感染症検査に用いられる塩基配列、自然界には存在しない核酸、動物細胞由来の塩基配列、植物細胞由来の塩基配列などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、特定の核酸としては、プラスミドも好適に使用することができる。
核酸とは、プリン又はピリミジンから導かれる含窒素塩基、糖、及びリン酸が規則的に結合した高分子の有機化合物を意味する。
【0049】
特定の核酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、DNA、RNAなどが挙げられる。これらの中でも、ノロウイルスなどの感染症固定領域に由来するRNAに対応するDNA、自然界に存在しないDNAなどが好適に用いることができる。
【0050】
特定の核酸を有する複数の細胞は、使用する細胞由来の特定の核酸であってもよく、遺伝子導入により導入された特定の核酸であってもよい。特定の核酸として、遺伝子導入により導入された特定の核酸、及びプラスミドを使用する場合は、1細胞に1コピーの特定の核酸が導入されていることを確認することが好ましい。1コピーの特定の核酸が導入されていることの確認方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シーケンサー、PCR法、サザンブロット法などを用いて確認することができる。
【0051】
遺伝子導入の方法としては、特定の核酸配列が狙いの場所に狙いの分子数導入できれば特に制限がなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、相同組換え、CRISPR/Cas9、TALEN、Zinc finger nuclease、Flip-in、Jump-inなどが挙げられる。特に、酵母菌の場合は、効率の高さ、及び制御のしやすさの点から、相同組換えが好ましい。
【0052】
金属微粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、銀粒子、銅粒子などが挙げられる。これらは吐出した液滴によって配線を描画する用途に用いることができる。
【0053】
無機微粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化チタン、酸化ケイ素等が白色インクとしての用途やスペーサ材料の塗布用途等で用いられる。
【0054】
粒子が凝集する場合には、粒子を含む液体の粒子の濃度を調整することにより、液体中の粒子の濃度と、液体中の粒子の個数とがポアソン分布に従う理論から、液体中の粒子の個数を適宜調整することができる。
液体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イオン交換水、蒸留水、純水、生理食塩水、アルコール、鉱物油、植物油等の様々な有機溶媒を用いることができる。
溶媒として水を使用する際には、水分の蒸発を抑えるための湿潤剤や、表面張力を下げるための界面活性剤が含まれていることが好ましい。これらの処方には、インクジェットインクに用いられるごく一般的な材料を用いることができる。
【0055】
<粒子数計数手段>
粒子数計数手段は、液滴に含まれる粒子を計数する手段であり、液滴の吐出後、かつ液滴の被着対象物への着弾前に、液滴に含まれる粒子数をセンサによって計数する手段であることが好ましい。
センサとは、自然現象や人工物の機械的・電磁気的、熱的、音響的、又は化学的性質、或いはそれらにより示される空間情報・時間情報を、何らかの科学的原理を応用して、人間や機械が扱い易い別媒体の信号に置き換える装置を意味する。
【0056】
粒子数計数手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、吐出前に粒子を観測する処理、着弾後の粒子をカウントする処理を含んでもよい。
【0057】
液滴の吐出後、かつ液滴の被着対象物への着弾前に、液滴に含まれる粒子数の計数としては、液滴が被着対象物としてのプレートのウェルに確実に入ることが予測されるウェル開口部の直上の位置にあるタイミングにて液滴中の粒子を観測することが好ましい。
【0058】
プレートとしては、特に制限はなく、バイオ分野において一般的に用いられる穴が形成されたものを用いることが可能である。
プレートにおけるウェルの数は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、単数であってもよく、複数であってもよい。
ウェルの数が複数であるプレートとしては、ウェルの数が24個、96個、384個など業界において一般的な個数及び寸法で穴が形成されたものを用いることが好ましい。
プレートの材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、後の処理のために、細胞や核酸の壁面への付着が抑制されているものを用いることが好ましい。
【0059】
液滴中の粒子を観測する方法としては、例えば、光学的に検出する方法、電気的・磁気的に検出する方法などが挙げられる。
【0060】
<その他の手段>
その他の手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、たとえば、制御手段、表示手段、記録手段などが挙げられる。
【0061】
ここで、本発明の液滴形成装置の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。また、下記構成部材の数、位置、形状等は本実施形態に限定されず、本発明を実施する上で好ましい数、位置、形状等にすることができる。
【0062】
<第1の実施形態>
図7は、本発明の第1の実施形態に係る液滴形成装置の一例を示す概略図である。この図7の液滴形成装置100は、液滴吐出ヘッド10、及び駆動手段20を有している。
液滴吐出ヘッド10は、液体保持部11と、吐出口14が形成され、液体保持部11に保持された液体201を振動手段13の振動により吐出口14から液滴210として吐出する膜状部材12とを有する。
液体保持部11は、光が照射されたときに発光可能な粒子200を含む液体201を保持し、本実施形態ではオープンヘッドであるため、上部に大気開放部15を有している。これにより、液体201中に混入した気泡を大気開放部15から排出可能である。
【0063】
振動手段13は、本実施形態では、液滴吐出ヘッド10がオープンヘッドであるため、膜状部材12の下面に配置されている。振動手段13の形状は、膜状部材12の形状に合わせて設計することができる。例えば、膜状部材12の平面形状が円形である場合には、吐出口14の周囲に平面形状が円環状(リング状)の振動手段13を形成することが好ましい。
振動手段13に駆動手段20から駆動信号を供給することにより、膜状部材12を振動させることができる。それによって、吐出口14から液滴210が吐出される。
【0064】
本実施形態では、膜状部材12の振動の慣性により液滴を形成するため、高表面張力(高粘度)の粒子懸濁液でも吐出が可能である。
膜状部材12の材質としては、柔らか過ぎると膜状部材12が簡単に振動し、吐出しないときに直ちに振動を抑えることが困難であるため、ある程度の硬さがある材質を用いることが好ましい。膜状部材12の材質としては、例えば、金属材料やセラミック材料、ある程度硬さのある高分子材料などを用いることができる。
液体保持部11及び膜状部材12の材質としては、粒子として細胞を用いる場合には、細胞やタンパク質に対する付着性の低い材料を用いることができる。
【0065】
駆動手段20は、膜状部材12を振動させて液滴を形成する吐出波形と、液滴を形成しない範囲で膜状部材12を振動させる撹拌波形とを振動手段13に選択的に(例えば、交互に)付与することができる。
つまり、駆動手段20は、吐出波形を振動手段13に加え、膜状部材12の振動状態を制御することにより、液体保持部11に保持された粒子200を含む液体201を吐出口14から液滴として吐出させることができる。
【0066】
液滴形成装置100においては、液体201中に気泡が混入する場合がある。この場合でも、本実施形態では、液体保持部11の上部に大気開放部15が設けられているため、液体201中に混入した気泡を、大気開放部15を通じて外気に排出できる。これによって、気泡排出のために大量の液を捨てることなく、連続して安定的に液滴を形成することが可能となる。
【0067】
図8に示すように、液滴を形成しない範囲で膜状部材を加振させる予備駆動を行う。予備駆動により、励振されたノズルのメニスカスの振動が停止する前に、液滴を形成する吐出駆動について説明する。
図8のReference駆動に対して、図8の(a)は予備駆動を1回、図8の(b)は予備駆動を2回、図8の(c)は予備駆動を3回行うことで駆動回数に対応して励振されたメニスカスが飛び出す。それにより、吐出口14(ノズル)を通過するときの流体が軸対称の流れとすると、ノズル中心部の流体速度が最も速くなり、粒子200が中心に移動することが予測される。また、予備駆動の回数を増やすほど、粒子200を中心に寄せる効果が期待できる。
【0068】
図9は、励振されたメニスカスが飛び出す範囲を示す。膜状部材12の厚みをtとする。吐出する粒子直径を2rとする。吐出口(ノズル)を通過するときの流体が軸対称の流れとすると、吐出する粒子が厚みt全てを通過したとき、予備駆動により粒子200が中心に寄る効果が最も得られる。
【0069】
図10A及び図10Bは、吐出曲がり抑制のための表面処理方法を示す。図10Aに示すように、予備駆動によって励振されたメニスカスがノズルから飛び出したときの前進接触角をθa、引き込まれたときの後退接触角をθrとする。メニスカスの初期接触点位置をABとする。予備駆動により励振されたメニスカスの移動後の接触点位置をA’B’とする。
【0070】
前述のように予備駆動はノズル内粒子を中心へ寄せる効果が期待できるが、図10Aのように、予備駆動を繰り返すことにより励振されたメニスカスがノズルから飛び出すとき、ノズル内の粒子位置によって、メニスカスの初期接触点位置ABはA’B’へノズル中心を軸に非対称に濡れ広がる可能性がある。それにより、ノズルを通過する流体の軸対称流れ場が非対称となり、ノズル内粒子を中心へ寄せる効果が期待できなくなる。また、予備駆動によりメニスカスが引き込まれるときも同様である。
そこで、図10Bに示すように、膜状部材12の吐出側表面へ撥水処理、ノズル壁面に親水処理を施す。表面処理を行うことで、表面処理無しに対し、メンブレン表面の前進接触角をθ’a>θaとすることができ、ノズル壁面の後退接触角をθr>θ’rとすることができる。これにより、表面処理無しに対して、励振されたメニスカスの接触点位置A’B’が移動しづらくなり、ノズルを通過する流体の軸対称流れ場が非対称となりにくくなる。したがって、ノズル内粒子を中心へ寄せる効果がより期待できる。
【0071】
図11A及び図11Bは、吐出曲がり抑制のためのノズル形状を示す。図10A及び図10Bで説明した課題に対して、図11Bに示すように、吐出側の膜状部材12表面に少なくとも1つの凸部を設ける。凸部無しに対し、凸部を設けることで、励振されたメニスカスの接触点位置A’B’が凸部で固定され、前進接触角をθ’a>θaとすることができる。これにより、予備駆動により励振されたメニスカスの接触点位置A’B’が移動しづらくなり、ノズルを通過する流体の軸対称流れ場が非対称となりにくくなる。したがって、ノズル内粒子を中心へ寄せる効果がより期待できる。また、ノズル壁面には少なくとも1つの凹凸部を設ける。それにより、同様の効果が期待できる。
【0072】
<第2の実施形態>
図12Bは、第2の実施形態の液滴形成装置の液滴吐出ヘッドの部分拡大図である。この第2の実施形態の液滴形成装置は、既に説明した第1の実施形態と同一構成についての説明は省略する。
【0073】
この第2の実施形態において、図12Bは、粒子(細胞)がノズル壁面へ付着することを抑制するためのノズル形状を示す。インクジェットで細胞を吐出すると、細胞がノズルに付着し、また、培養液(インク)成分であるタンパク質も付着する。この内壁付着物30により、ノズルが閉塞し、ノズルを通過する流体の軸対称性が崩れ、吐出バラつきの要因となる。そこで、図12Bに示すように、膜状部材12の厚みをノズル近傍だけ薄くする。これにより、図12Aのリファレンスに対して、内壁付着物30とノズル壁面が接触する面積が小さくなり、細胞とノズル壁面間で働く表面張力が小さくなる。内壁付着物はある閾値a以上に成長すると、ノズル内を通過する流体から受ける力で剥離するとしたとき、メンブレン厚みをノズル近傍だけ薄くすることで、リファレンスよりもある閾値aを小さくすることができる。つまり、内壁付着物が剥離しやすくなる。
上記の効果に付随して、細胞がノズルを通過したとき、ノズルを通過する流体の軸対称性が損なわれる時間が短くなり、吐出バラつきを抑制することができる。
【0074】
<第3の実施形態>
図13は、第3の実施形態の液滴形成装置の液滴吐出ヘッドの部分拡大図である。この第3の実施形態において、既に説明した第1の実施形態と同一構成についての説明は省略する。
【0075】
この図13の液滴吐出ヘッドは、第1の実施形態で示したノズル表面処理(図10B)、及びノズル凹凸形成(図11B)、及び第2の実施形態で示した膜状部材の厚みをノズル近傍だけ薄くする(図12B)を組み合わせることにより、吐出バラつきを抑制し、かつノズル内壁付着物を抑制することができる。
【0076】
図14は、粒子懸濁液吐出時の吐出曲がり抑制実験に用いた液滴吐出ヘッドの一例を示す図である。この図14の液滴吐出ヘッドは、ノズル径60μmに対し、粒子径20μmのポリスチレン粒子を吐出した。吐出側ノズル表面から、Z方向3mm位置の吐出液滴をカメラで観察し、ノズル中心から吐出液滴の重心位置までの距離xを測定した。測定した液滴数は600液滴である。結果を図15に示す。図15の結果から、Referenceに対して、予備駆動を入れることでX方向の吐出バラつきが抑制される結果が得られた。また、膜状部材の厚みをノズル近傍だけ薄くすることで吐出バラつきが抑制された。更に、予備駆動及び膜状部材の薄膜化を組み合わせることにより、吐出バラつきを抑制することができた。
【0077】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 液体を保持する液体保持部と、
前記液体保持部内を大気に開放する大気開放部と、
前記液体を振動により吐出口から液滴として吐出する膜状部材と、
前記膜状部材を振動させる振動手段と、
を有し、
前記振動手段にて、前記吐出口のメニスカスを励振させてから、前記液滴を吐出することを特徴とする液滴形成装置である。
<2> 前記液体が粒子懸濁液である前記<1>に記載の液滴形成装置である。
<3> 前記粒子懸濁液が細胞懸濁液である前記<2>に記載の液滴形成装置である。
<4> 前記励振されたメニスカスが前記吐出口を少なくとも1回通過する前記<1>から<3>のいずれかに記載の液滴形成装置である。
<5> 前記膜状部材の吐出側の表面が撥水処理されており、前記吐出口の壁面が親水処理されている前記<1>から<4>のいずれかに記載の液滴形成装置である。
<6> 前記膜状部材の吐出側の表面に少なくとも1つの凸部が設けられており、前記吐出口の壁面に少なくとも1つの凹凸部を有する前記<1>から<5>のいずれかに記載の液滴形成装置である。
<7> 前記膜状部材の吐出口近傍の厚みが、前記膜状部材の吐出口近傍以外の厚みよりも薄く形成されている前記<1>から<6>のいずれかに記載の液滴形成装置である。
<8> 前記液滴に含まれる粒子を計数する粒子数計数手段を有する前記<1>から<7>のいずれかに記載の液滴形成装置である。
<9> 前記液滴が、光を照射されたときに発光可能な粒子を含む前記<1>から<8>のいずれかに記載の液滴形成装置である。
<10> 前記光を照射されたときに発光可能な粒子が、細胞である前記<9>に記載の液滴形成装置である。
<11> 前記光を照射されたときに発光可能な粒子が、蛍光色素によって染色された細胞及び蛍光タンパク質を発現可能な細胞の少なくともいずれかである前記<9>から<10>のいずれかに記載の液滴形成装置である。
<12> 前記<1>から<11>のいずれかに記載の液滴形成装置を用いて液滴を形成することを特徴とする液滴形成方法である。
【0078】
前記<1>から<11>のいずれかに記載の液滴形成装置、及び前記<12>に記載の液滴形成方法によると、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0079】
【文献】特許第2849647号公報
【文献】特開2016-203157号公報
【符号の説明】
【0080】
10 液滴吐出ヘッド
12 膜状部材
13 振動手段
14 吐出口
20 駆動手段
100 液滴形成装置
200 粒子
201 液体
210 液滴
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13
図14
図15