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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】太陽電池及び太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/44 20060101AFI20220712BHJP
   H01L 31/048 20140101ALI20220712BHJP
【FI】
H01L31/04 120
H01L31/04 112Z
H01L31/04 560
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018056391
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019169615
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-10-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業[戦略的イノベーション創出推進プログラム]、「塗布型長寿命有機太陽電池の創出と実用化に向けた基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100105407
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】二宮 直哉
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 辰哉
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-069508(JP,A)
【文献】特開2012-238661(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169985(WO,A1)
【文献】特開2016-178288(JP,A)
【文献】特開2016-187021(JP,A)
【文献】国際公開第2016/060156(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0122316(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0070882(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/04-31/078,51/42-51/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部基板上に、下部電極と上部電極から構成される一対の電極に挟持された、ペロブスカイト化合物を含有する活性層を有する太陽電池素子と、封止層と、上部基板と、を有し、
前記封止層は、前記太陽電池素子が存在しない前記下部基板端部に位置し、
該封止層を形成する封止樹脂は溶解度パラメータSP値が10以上であり、かつ該封止層は下部基板との接触界面にペロブスカイト化合物を含有する、太陽電池(但し、前記下部基板及び前記上部基板のうちの少なくとも一方が薄膜層を有するものを除く。)。
【請求項2】
下部基板上に、下部電極と上部電極から構成される一対の電極に挟持された、ペロブスカイト化合物を含有する活性層を有する太陽電池素子と、封止層と、上部基板と、を有し、
前記封止層は、前記太陽電池素子が存在しない前記下部基板端部に位置し、
前記下部基板の前記封止層と接する表面上にペロブスカイト化合物が存在し、
該封止層を形成する封止樹脂は溶解度パラメータSP値が10以上であり、かつ該封止層はペロブスカイト化合物を含有する、太陽電池。
【請求項3】
前記封止層が、下部電極上に位置する活性層と接触していない請求項1又は2に記載の太陽電池。
【請求項4】
前記封止層を形成する封止樹脂がエポキシ系樹脂である、請求項1~3のいずれか1項に記載の太陽電池。
【請求項5】
前記封止層を形成する封止樹脂が光硬化型のエポキシ系樹脂である請求項1~4のいずれか1項に記載の太陽電池。
【請求項6】
前記封止層の膜厚が5μm以上である請求項1~5のいずれか1項に記載の太陽電池。
【請求項7】
下部基板上に、下部電極、ペロブスカイト化合物を含有する活性層及び上部電極を形成して太陽電池素子を製造する工程、並びに封止層を形成する工程を有する、太陽電池を製
造する方法であって、
前記封止層を形成する工程において、前記下部基板端部の、前記太陽電池素子が存在せず、ペロブスカイト化合物が存在する面上に、前記封止層を形成し、
該封止層を形成する封止樹脂は溶解度パラメータSP値が10以上である、太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト化合物を含む活性層を備えた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高効率化の観点からペロブスカイト化合物を用いた太陽電池が検討されている。活性層を有する太陽電池においては、有機活性層が外気や水分などに晒されることを防ぐため、また外部からの衝撃から保護するため、対向する一対の電極で挟持された有機活性層は、封止樹脂により全面封止されることが一般的である(例えば特許文献1の図2参照)。
【0003】
有機活性層の封止に関しては、有機ELの分野において、基板及びカバー部材により形成された空間を基板及びカバー材の側面から封止することで、有機発光層が外気や水分などに晒されることを防ぐ技術が提案されている(特許文献2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6151378号
【文献】特開2017-199682号公報
【文献】特開2017-062870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
封止層は通常熱可塑性樹脂や熱硬化性および光硬化性樹脂からなるため、一般的に、太陽電池素子を封止する際には、太陽電池素子を封止用の樹脂で覆った後に、熱処理やUVなどを照射する必要がある。一方でペロブスカイト化合物を含有する活性層は、熱やUVに対する耐性が高くないことから、封止層を形成させる際の熱やUV照射により太陽電池素子の発電性能が低下する場合があるという課題を有する。
【0006】
そこで本発明者らは、特許文献2及び3に記載された、有機EL分野において用いられている基板及びカバー材の側面端部からの封止技術を、ペロブスカイト化合物を含有する活性層を備えた太陽電池素子に適用することで、活性層への熱やUVによるダメージを低減することを試みた。しかしながら、一般的に太陽電池を製造する場合、太陽電池素子を構成する各層を製膜した後にパターニングが必要になるが、活性層のパターニングが十分ではなく、基板端部において、封止層を設ける位置にペロブスカイト化合物が残存していると、封止層に使用する樹脂の種類によっては、基板と封止層が剥離しやすくなる場合があることが判明した。また、この問題を解決すべく、基板の端部の封止層を設ける位置には、ペロブスカイト化合物が完全に除去されるようにパターニングすることも考えらえるが、ペロブスカイト化合物を完全に除去することは困難であった。本発明は、簡易的に製造が可能な、封止層と基板との密着性が高い、耐久性の高い太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者らが検討したところ、特定の樹脂を用いて、基板端部に封止層を設けることで、封止層を設ける位置にペロブスカイト化合物が残存していても、封止層と下部基板との密着性が高く、耐久性の高い太陽電池を提供できることを見出し、発明を完成させた。
【0008】
本発明は、以下を要旨とする。
[1]下部基板上に、下部電極と上部電極から構成される一対の電極に挟持された、ペロブスカイト化合物を含有する活性層を有する太陽電池素子と、封止層と、上部基板と、を有し、前記封止層は、前記太陽電池素子が存在しない前記下部基板端部に位置し、該封止層を形成する封止樹脂は溶解度パラメータSP値が10以上であり、かつ該封止層はペロブスカイト化合物を含有する、太陽電池(但し、前記下部基板及び前記上部基板のうちの少なくとも一方が薄膜層を有するものを除く。)
[2]下部基板上に、下部電極と上部電極から構成される一対の電極に挟持された、ペロブスカイト化合物を含有する活性層を有する太陽電池素子と、封止層と、上部基板と、を有し、
前記封止層は、前記太陽電池素子が存在しない前記下部基板端部に位置し、
前記下部基板の前記封止層と接する表面上にペロブスカイト化合物が存在し、
該封止層を形成する封止樹脂は溶解度パラメータSP値が10以上であり、かつ該封止層はペロブスカイト化合物を含有する、太陽電池。
]前記太陽電池素子は、前記封止層が、下部電極上に位置する活性層と接触していない[1]又は[2]に記載の太陽電池。
]前記封止層を形成する封止樹脂がエポキシ系樹脂である、[1]~[3]のいずれかに記載の太陽電池。
]前記封止層を形成する封止樹脂が光硬化型のエポキシ系樹脂である[1]~[]のいずれかに記載の太陽電池。
]前記封止層の膜厚が5μm以上である[1]~[]のいずれかに記載の太陽電池。
[7]下部基板上に、下部電極、ペロブスカイト化合物を含有する活性層及び上部電極を形成して太陽電池素子を製造する工程、並びに封止層を形成する工程を有する、太陽電池を製造する方法であって、
前記封止層を形成する工程において、前記下部基板端部の、前記太陽電池素子が存在せず、ペロブスカイト化合物が存在する面上に、前記封止層を形成し、
該封止層を形成する封止樹脂は溶解度パラメータSP値が10以上である、太陽電池の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、製造工程を簡素化し、封止層の剥離が少ない耐久性の高い太陽電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る、太陽電池素子100の模式図である。
図2図1における鎖線部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、具体的な態様を示しながら詳細に説明するが、本発明は例示する具体的態様に限定されないことはいうまでもない。また、発明の説明において図面を用いるが、用いる図面はいずれも具体的実施形態を模式的に示すものであって、理解を深めるべく部分的な強調、拡大、縮小、又は省略等を行っており、各構成部材の縮尺や形状等を正確に表すものとはなっていない場合がある。
【0012】
本発明の実施形態に係る太陽電池は、下部基板上に、下部電極と上部電極から構成された一対の電極に挟持された、ペロブスカイト化合物を含有する活性層を有する太陽電池素子と、封止層及び上部基板を有する。
【0013】
<上部基板及び下部基板>
下部基板は、太陽電池を構成する支持部材である。上部基板は、後述する封止層とともに、太陽電池素子を封止する部材である。下部基板及び上部基板の材料としては、ロール・ツー・ロール方式に適用できるよう、ロールに巻回できる程度の可撓性を有する、樹脂材料からなる可撓性基板であることが好ましいが、透明ガラス基板であってもよく、セラミック基板であってもよい。
下部基板及び/又は下部基板が樹脂材料により形成される場合、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、セルロース、アセチルセルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアリレート、ポリノルボルネン等の有機材料などが挙げられる。これらのなかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリイミド、ポリ(メタ)アクリル樹脂フィルムが、可撓性基板の形成しやすさの点で好ましい。さらに、耐熱性の観点からは、ポリエチレンナ
フタレート、および、ポリイミドフィルムが特に好ましい。上部基板及び下部基板の材料は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、上部基板と下部基板とは、同じ種類の基板であってよく、異なる基板であってよい。
【0014】
上部基板及び下部基板の厚さは特段限定されないが、通常20μm以上、好ましくは50μm以上であり、一方、通常1000μm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは200μm以下である。上部基板及び下部基板の膜厚は、同じであってよく、異なっていてもよい。
【0015】
<一対の電極>
一対の電極は、下部電極及び上部電極により構成され、一対の電極のうち一方の電極は活性層が光を吸収することにより発生する正孔を捕集する機能を有する電極(以下、アノードと称す)であり、他方の電極は、活性層が光を吸収することにより発生する電子を捕集する機能を有する電極である(以下、カソードと称す)。下部電極をアノードとする場合、上部電極をカソードとし、下部電極をカソードとする場合、上部電極をアノードとすることが好ましい。
【0016】
一対の電極のうち、少なくとも一方の電極は、透明電極であることが好ましく、他方の電極は、必ずしも透明電極である必要はない。なお透明電極とは、通常60%以上の可視光線透過率を有する電極を意味するが、変換効率を向上させるためには、透明電極の可視光線透過率は70%以上であることが好ましく、一方、上限は特段限定されないが、通常90%以下である。なお、該電極の可視光線透過率は、分光光度計により測定することができ、例えば、紫外可視近赤外分光光度計UV-3600(島津製作所製)とフィルムサンプルホルダーを用いて測定することができる。測定結果は、JIS R 3106:1998に従って、波長380nm~780nmまでの透過率が算出され、これらの波長領域の透過率の平均として、透明電極の透過率を算出することができる。
【0017】
下部電極及び/又は上部電極を透明電極とする場合、下部電極及び/又は上部電極は、上述の可視光線透過率を有してさえいれば、透明導電層又は金属層による単層で形成されていてもよいし、透明導電層及び金属層との積層により形成されていてもよい。しかしながら、透明電極を透明導電層のみで形成すると、抵抗が高く、良好な導電性を示さない傾向があるために変換効率が低下する場合がある。また、透明電極を薄い金属層のみにより形成する場合、金属層は腐食しやすく、経時的に光電変換素子が劣化する傾向があるために、透明電極とする電極は、透明導電層と金属層の積層により形成することが好ましい。
【0018】
透明導電層に用いられる材料としては、特段の制限はないが、スズをドープしたインジウム酸化物(ITO)、亜鉛をドープしたインジウム酸化物(IZO)、タングステンをドープしたインジウム酸化物(IWO)、亜鉛とアルミニウムとの酸化物(AZO)、酸化インジウム(In)等である。これらの中でも、スズをドープしたインジウム酸化物(ITO)、亜鉛をドープしたインジウム酸化物(IZO)、タングステンをドープしたインジウム酸化物(IWO)、亜鉛とスズの複合酸化物(ZTO)等の非晶質性酸化物を用いることが好ましい。
【0019】
また、透明導電層は、シート抵抗が100Ω/□以下であることが好ましく、50Ω/□以下であることがさらに好ましく、一方、0.1Ω/□以上であることが好ましい。
【0020】
金属層の材料は、特段の制限はなく、例えば、金、白金、銀、アルミニウム、ニッケル、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム、クロム、銅、コバルトの等の金属又はその合金が挙げられる。これらのなかでも、金属層を形成する材料は、高い電気伝導性を示すとともに、薄膜における可視光線透過率の高い銀又は銀の合金であるこ
とが好ましい。なお、銀の合金としては、硫化又は塩素化の影響を受けにくく薄膜としての安定性を向上させるために、銀と金の合金、銀と銅の合金、銀とパラジウムの合金、銀と銅とパラジウムの合金、銀と白金の合金等が挙げられる。
【0021】
金属層の膜厚は、透明電極として70%以上の可視光線透過率を維持できる限りにおいて、特段の制限はないが、良好な導電性を得るために1nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましく、一方、光透過率が低下して活性層に入射する光量が低下するのを防ぐために、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。
【0022】
上述の通り、一対の電極は、一方の電極が透明電極であれば、他方の電極は必ずしも透明電極でなくてもよく、非透明電極であってもよい。非透明電極を用いる場合、特段の制限はないが、例えば、上述したような金属層を厚膜化して形成することにより、非透明電極を形成することができる。なお、下部電極及び上部電極を共に透明電極とする場合、下部電極及び上部電極はともに、金属層と透明導電層の積層構造であることが好ましい。
【0023】
下部電極及び上部電極の全体の厚さは、特段の制限はなく、光学特性及び電気特性を考慮して任意で選択すればよい。なかでも、シート抵抗を抑えるために、下部電極及び上部電極のそれぞれの膜厚は、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましく、一方、高い透過率を維持するために、10μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、500nm以下であることがさらに好ましい。
【0024】
下部電極及び上部電極の形成方法は、特段の制限はなく、使用する材料に合わせて公知の方法により形成することができる。コーティングにおける膜形成ステップとしては、例えば、蒸着法、スパッタ法等の真空法、又はナノ粒子や前駆体を含有するインクを塗布する湿式法が挙げられる。なお、下部電極及び上部電極に対して表面処理を行うことにより、電気特性や濡れ特性等を改良してもよい。
【0025】
<バッファ層>
太陽電池素子は、一対の電極の少なくとも一方の電極と有機活性層との間にバッファ層を有してもよい。すなわち、上部電極と有機活性層の間に上部バッファ層、及び/又は下部電極と有機活性層との間に下部バッファ層を有してもよい。
【0026】
バッファ層は、電子取り出し効率を向上させる電子取り出し層又は正孔取り出し層に分類される。
電子取り出し層の材料は、電子取り出し効率を向上させることができる材料であれば特段の制限はなく、無機化合物又は有機化合物が挙げられる。
無機化合物の例としては、Li、Na、K又はCs等のアルカリ金属の塩;酸化チタン(TiOx)や酸化亜鉛(ZnO)のようなn型半導体酸化物等が挙げられる。なかでも、アルカリ金属塩としては、LiF、NaF、KF又はCsFのようなフッ化物塩が好ましく、n型半導体酸化物としては、酸化亜鉛(ZnO)が好ましい。このような材料の動作機構は不明であるが、Al等で構成されるカソードと組み合わされた際にカソードの仕事関数を小さくし、太陽電池素子内部に印加される電圧を上げる事が考えられる。
【0027】
有機化合物の例としては、例えば、トリアリールホスフィンオキシド化合物のようなリン原子と第16族元素との二重結合を有するホスフィン化合物;バソキュプロイン(BCP)又はバソフェナントレン(Bphen)のような、置換基を有してもよく、1位及び10位がヘテロ原子で置き換えられていてもよいフェナントレン化合物;トリアリールホウ素のようなホウ素化合物;(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)の
ような有機金属酸化物;オキサジアゾール化合物又はベンゾイミダゾール化合物のような、置換基を有していてもよい1又は2の環構造を有する化合物;ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)又はペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)のような、ジカルボン酸無水物のような縮合ジカルボン酸構造を有する芳香族化合物等が挙げられる。
【0028】
正孔取り出し層の材料としては、正孔の取り出し効率を向上させることが可能な材料であれば、特段の制限はないが、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、トリフェニレンジアミン又はポリアニリン等に、スルホン酸及び/又はヨウ素等がドーピングされた導電性ポリマー;スルホニル基を置換基に有するポリチオフェン誘導体、アリールアミン等の導電性有機化合物等の導電性化合物;酸化銅、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化バナジウム又は酸化タングステン等の金属酸化物半導体;ナフィオン、後述のp型半導体等の半導体化合物;が挙げられる。好ましくは、スルホン酸をドーピングした導電性ポリマーであり、より好ましくは、ポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルホン酸をドーピングした(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)である。
【0029】
バッファ層の膜厚は特段の制限はなく、用いられるバッファ層材料により適宜設定し得る。バッファ層材料として半導体化合物を用いる場合、電子又は正孔取り出し効率を向上させるために、10nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがさらに好ましく、50nm以上であることが特に好ましい。一方、太陽電池素子の内部抵抗を低く保ち、太陽電池素子の変換効率を向上させるために、300nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。一方、バッファ層材料として導電性化合物を用いる場合、電子又は正孔取り出し効率を向上させるために、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがさらに好ましく、100nm以上であることが特に好ましい。一方、太陽電池素子の内部抵抗を低く保ち、太陽電池素子の変換効率を向上させるために1000nm以下であることが好ましく、700nm以下であることがさらに好ましく、500nm以下であることが特に好ましい。なお、バッファ層の膜厚は、分光エリプソメトリを用いて平均膜厚を算出することにより求めることができる。
【0030】
電子取り出し層及び正孔取り出し層の形成方法は特段の制限は無く、使用する材料に合わせて公知のコーティング方法により形成することができる。例えば、昇華性を有する材料を用いる場合は蒸着法、スパッタ法等の真空法により形成することができる。また、溶媒に可溶な材料を用いる場合は、スピンコートやインクジェット等の湿式法により形成することができる。なかでも、PEDOT:PSSを用いる場合、分散液を塗布する方法によって正孔取り出し層を形成することが好ましい。PEDOT:PSSの分散液としては、ヘレウス社製のCLEVIOSTMシリーズや、アグファ社製のORGACONTMシリーズ等が挙げられる。
【0031】
<活性層>
活性層は光電変換が行われる層である。光電変換素子が光を受けると、光が活性層に吸収されてキャリアが発生し、発生したキャリアは下部電極及び上部電極から取り出される。
【0032】
本実施形態において、活性層は有機無機ハイブリッド型半導体材料を含有する。有機無機ハイブリッド型半導体材料とは、有機成分と無機成分とが分子レベル又はナノレベルで組み合わせられた材料であって、半導体特性を示す材料のことを指す。
【0033】
本実施形態において、有機無機ハイブリッド型半導体材料は、ペロブスカイト構造を有する化合物(以下、ペロブスカイト半導体化合物と呼ぶことがある)である。ペロブスカ
イト半導体化合物とは、ペロブスカイト構造を有する半導体化合物のことを指す。ペロブスカイト半導体化合物としては、特段の制限はないが、例えば、Galasso et al. Structure and Properties of Inorganic Solids, Chapter 7 - Perovskite type and related structuresで挙げられているものから選ぶことができる。例えば、ペロブスカイト半導体化合物としては、一般式AMXで表されるAMX型のもの又は一般式AMXで表されるAMX型のものが挙げられる。ここで、Mは2価のカチオンを、Aは1価のカチオンを、Xは1価のアニオンを指す。
【0034】
1価のカチオンAに特段の制限はないが、上記Galassoの著書に記載されているものを用いることができる。より具体的な例としては、周期表第1族及び第13族乃至第16族元素を含むカチオンが挙げられる。これらの中でも、セシウムイオン、ルビジウムイオン、置換基を有していてもよいアンモニウムイオン又は置換基を有していてもよいホスホニウムイオンが好ましい。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンの例としては、1級アンモニウムイオン又は2級アンモニウムイオンが挙げられる。置換基にも特段の制限はない。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンの具体例としては、アルキルアンモニウムイオン又はアリールアンモニウムイオンが挙げられる。特に、立体障害を避けるために、3次元の結晶構造となるモノアルキルアンモニウムイオンが好ましく、安定性向上の観点からは、一つ以上のフッ素基を置換したアルキルアンモニウムイオンを用いることが好ましい。また、カチオンAとして2種類以上のカチオンの組み合わせを用いることもできる。
【0035】
1価のカチオンAの具体例としては、メチルアンモニウムイオン、モノフッ化メチルアンモニウムイオン、ジフッ化メチルアンモニウムイオン、トリフッ化メチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、イソプロピルアンモニウムイオン、n-プロピルアンモニウムイオン、イソブチルアンモニウムイオン、n-ブチルアンモニウムイオン、t-ブチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、ジエチルアンモニウムイオン、フェニルアンモニウムイオン、ベンジルアンモニウムイオン、フェネチルアンモニウムイオン、グアニジウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、アセトアミジニウムイオン又はイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0036】
2価のカチオンMにも特段の制限はないが、2価の金属カチオン又は半金属カチオンであることが好ましい。具体的な例としては周期表第14族元素のカチオンが挙げられ、より具体的な例としては、鉛カチオン(Pb2+)、スズカチオン(Sn2+)、ゲルマニウムカチオン(Ge2+)が挙げられる。また、カチオンMとして2種類以上のカチオンの組み合わせを用いることもできる。なお、安定な光電変換素子を得る観点からは、鉛カチオン又は鉛カチオンを含む2種以上のカチオンを用いることが特に好ましい。
【0037】
1価のアニオンXの例としては、ハロゲン化物イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、ホウ酸イオン、アセチルアセトナートイオン、炭酸イオン、クエン酸イオン、硫黄イオン、テルルイオン、チオシアン酸イオン、チタン酸イオン、ジルコン酸イオン、2,4-ペンタンジオナトイオン又はケイフッ素イオン等が挙げられる。バンドギャップを調整するためには、Xは1種類のアニオンであってもよいし、2種類以上のアニオンの組み合わせであってもよい。一実施形態において、Xとしてはハロゲン化物イオン、又はハロゲン化物イオンとその他のアニオンとの組み合わせが挙げられる。ハロゲン化物イオンXの例としては、塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオン等が挙げられる。半導体のバンドギャップを広げすぎない観点から、ヨウ化物イオンを用いることが好ましい。
【0038】
活性層は、Xがハロゲン化物イオン、又はハロゲン化物イオンとその他のアニオンとの組み合わせである、ハライド系有機無機ペロブスカイト半導体化合物を少なくとも含み、他のペロブスカイト半導体化合物を含有していてもよい。例えば、A、B及びXのうちの
少なくとも1つが異なるペロブスカイト半導体化合物が活性層に含まれていてもよい。また活性層は、異なる材料を含み又は異なる成分を有する複数の層で形成される積層構造を有していてもよい。
【0039】
ハライド系有機無機ペロブスカイト半導体化合物の具体例としては、CHNHPbI、CHNHPbBr、CHNHPbCl、CHNHSnI、CHNHSnBr、CHNHSnCl、CHNHPbI(3-x)Cl、CHNHPbI(3-x)Br、CHNHPbBr(3-x)Cl、CHNHPb(1-y)Sn、CHNHPb(1-y)SnBr、CHNHPb(1-y)SnCl、CHNHPb(1-y)Sn(3-x)Cl、CHNHPb(1-y)Sn(3-x)Br、及びCHNHPb(1-y)SnBr(3-x)Cl、並びに、上記の化合物においてCHNHの代わりにCFHNH、CFHNH、又はCFNHを用いたもの、等が挙げられる。なお、xは0以上3以下、yは0以上1以下の任意の値を示す。
【0040】
活性層に含まれるペロブスカイト半導体化合物の量は、良好な半導体特性が得られるように、好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。上限に特に制限はない。また、活性層には、ペロブスカイト半導体化合物に加えて添加剤が含まれていてもよい。添加剤の例としては、ハロゲン化物、酸化物、又は硫化物、硫酸塩、硝酸塩若しくはアンモニウム塩等の無機塩のような、無機化合物、又は有機化合物が挙げられる。
【0041】
活性層の厚さに特段の制限はない。より多くの光を吸収できる点で、活性層の厚さは、一実施形態において10nm以上、別の実施形態において50nm以上、さらに別の実施形態において100nm以上、さらに別の実施形態において120nm以上である。一方で、直列抵抗が下がる点、又は電荷の取出し効率を高める点で、活性層の厚さは、一実施形態において1500nm以下、別の実施形態において1000nm以下、さらに別の実施形態において600nm以下である。
【0042】
活性層の形成方法は特に限定されず、任意の方法を用いることができる。具体例としては、塗布法及び蒸着法(又は共蒸着法)が挙げられる。簡易に活性層を形成できる点で、塗布法を用いることができる。例えば、ペロブスカイト半導体化合物又はその前駆体を含有する塗布液を塗布し、必要に応じて加熱乾燥することにより活性層を形成する方法が挙げられる。また、このような塗布液を塗布した後で、ペロブスカイト半導体化合物の溶解性が低い溶媒をさらに塗布することにより、ペロブスカイト半導体化合物を析出させることもできる。
【0043】
ペロブスカイト半導体化合物の前駆体とは、塗布液を塗布した後にペロブスカイト半導体化合物へと変換可能な材料のことを指す。具体的な例として、加熱することによりペロブスカイト半導体化合物へと変換可能なペロブスカイト半導体化合物前駆体を用いることができる。例えば、一般式AXで表される化合物と、一般式MXで表される化合物と、溶媒と、を混合して加熱攪拌することにより、塗布液を作製することができる。この塗布液を塗布して加熱乾燥を行うことにより、一般式AMXで表されるペロブスカイト半導体化合物を含有する活性層を作製することができる。溶媒としては、ペロブスカイト半導体化合物及び添加剤が溶解するのであれば特に限定されず、例えばN,N-ジメチルホルムアミドのような有機溶媒が挙げられる。
【0044】
塗布液の塗布方法としては任意の方法を用いることができるが、例えば、スピンコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法
、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法又はカーテンコート法等が挙げられる。
【0045】
<封止層>
本実施形態では、封止層が、前記太陽電池素子が存在しない前記下部基板端部に位置し、封止層により下部基板と上部基板が貼合されている。さらに、封止層を形成するための樹脂組成物の溶解度パラメータSP値が10以上であり、かつ、封止層がペロブスカイト化合物を含有している。当該構成とすることで、以下に説明するように、下部基板と封止層との密着性が良くなり、耐久性の高い太陽電池を提供することができる。
【0046】
一般的に、下部基板上に太陽電池素子を形成する場合、太陽電池素子を構成する各層を製膜するとともに、所望のパターンを得るために、パターニングが必要になる。しかしながら、ペロブスカイト化合物を含有する活性層を、エッチング法やレーザースクライブ法等によりパターニングする場合、下部基板の端部に活性層として機能しないペロブスカイト化合物が残存する場合がある。この場合、例えば、ペロブスカイト化合物が残存する領域に溶解度パラメータが10未満の樹脂を用いて封止すると、該樹脂とペロブスカイト化合物との相溶性が悪く、樹脂とペロブスカイト化合物が混合しないために、該樹脂を用いて形成された封止層と、下部基板端部に残存したペロブスカイト化合物との密着性が弱く、封止層が剥離しやすくなるために、耐久性の高い太陽電池を提供することが困難である。しかしながら、上述の通り、溶解度パラメータ10以上の樹脂を用いて封止層を形成すると、ペロブスカイト化合物と樹脂との相溶性が良好であるために、ペロブスカイト化合物と樹脂が良好に混合される。その結果、ペロブスカイト化合物を含有する封止層となり、封止層が剥離しにくい耐久性の高い太陽電池が提供できることになる。
【0047】
なお、封止層は、太陽電池素子を構成するペロブスカイト化合物を含有する活性層と接触しないことが好ましい。上述の通り、封止層を形成する樹脂の含有する樹脂の溶解度パラメータが10以上の場合、ペロブスカイト化合物を溶かすために、太陽電池素子の活性層と封止層が接触すると、活性層が封止層を形成する樹脂により浸され、その結果、変換効率が低下する場合があるために、封止層と太陽電池素子を構成する活性層は接触していないことが好ましい。また、封止層が下部電極上の活性層と接触せずに、太陽電池素子が存在しない基板端部のみに位置する太陽電池の場合、部分的に熱や紫外線照射を行うことが可能になるために、太陽電池素子の劣化を防止しやすくなる。特に、封止層を形成する樹脂が光硬化型の樹脂の場合、マスク等を用いれば、太陽電池素子に紫外線を照射することなく封止層を形成することができるために、太陽電池の製造時に、変換効率が低下するのをより防ぐことができる。
【0048】
なお、本発明において、活性層とは、太陽電池素子を構成する下部電極上に存在する活性層を意味するものとし、例えば、下部電極上に位置していないペロブスカイト化合物層は活性層ではない。また、下部電極とは、太陽電池として機能する際に、集電線等の外部に電気を取り出す配線と電気的に接続された電極を意味するものとする。
【0049】
この構成について、図面により説明する。図1は、本発明の実施形態に係る太陽電池素子100の模式図である。図1の鎖線部分の拡大図を図2に示す。
太陽電池素子100は、下部基板10上に下部電極12、活性層14及び上部電極13がこの順に積層される。本実施形態では、下部基板10上に、下部電極12と上部電極13から構成される一対の電極に挟持された、ペロブスカイト化合物を含有する活性層14を有する太陽電池素子と、封止層15と、上部基板11と、を有し、前記封止層は、前記太陽電池素子が存在しない前記下部基板端部に位置し、下部電極上に位置する活性層と接触していない構成である。
【0050】
本実施形態において、上述の通り、封止層を形成する封止樹脂は溶解度パラメータ(SP値)が10以上であることで、基板端部に存在するペロブスカイト化合物と封止層を形成するための樹脂組成物との相溶性が良好であるため、封止層と下部基板との密着性が良好となり、耐久性の高い太陽電池を提供することができる。なかでも、SP値は10.5以上であることが好ましく、特に上限に限りはない。なお、本明細書において封止層を形成する樹脂材料のSP値(δi)は、Fedorsにより提案された下記式(1)から算出することができる。それぞれ、Δeiはi成分の原子または原子団の蒸発エネルギー、Δviはi成分の原子または原子団の蒸発モル体積を表しており、「Polymer Handbook, Fourth Edition」,volume2に記載の値を用いることができる。
δi=[Δei/Δvi]^(1/2) (1)
【0051】
封止層を形成する樹脂組成物の樹脂としては、SP値が10以上である限り特段限定されないが、例えばエポキシ系樹脂、ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等)、ポリアクリロニトリルなどがあげられる。なお、封止層は1種の樹脂組成物で形成されていてもよく、2種以上の樹脂組成物で形成されていてもよい。なかでも、エポキシ系樹脂であることが好ましく、上述の通り、封止層形成直後の太陽電池の変換効率の低下を防ぐために、光硬化型のエポキシ系樹脂であることがより好ましく、紫外線硬化型のエポキシ系樹脂が特に好ましい。
【0052】
また、封止層には、水や酸素のガスバリア性を付与するため、無機フィラー、水分および酸素ゲッター材等の添加剤を含有していてもよく、また、封止層の酸化を防止するために酸化防止剤を含有していてもよい。
【0053】
無機フィラーとしては、特段の制限はないが、例えば、シリカ、マイカ、タルク、クレー、ベントナイト、モンモリロナイト、カオリナイト、ワラストナイト、炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、チタン酸カリウム、ガラス繊維などが挙げられる。これらのなかでも、水や酸素のガスバリア性を付与する観点では、シリカ、クレー、タルク、が好ましい。なお、樹脂組成物中に混合される無機フィラーは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。なお、密着性を維持しつつバリア性を付与したい場合は、樹脂組成物中の無機フィラーの割合を5質量%以下とすることが好ましく、1質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0054】
水分および酸素ゲッター材としては、水分及び/又は酸素を吸収することができるものであれば任意である。その材料の例を挙げると、水分を吸収する物質としてアルカリ金属、アルカリ土類金属又はアルカリ土類金属の酸化物;アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物;シリカゲル、ゼオライト系化合物、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム又は硫酸ニッケル等の硫酸塩;アルミニウム金属錯体又はアルミニウムオキサイドオクチレート等の有機金属化合物等が挙げられる。具体的には、アルカリ土類金属としては、Ca、Sr又はBa等が挙げられる。アルカリ土類金属の酸化物としては、CaO、SrO又はBaO等が挙げられる。その他にZr-Al-BaOやアルミニウム金属錯体等も挙げられる。具体的な商品名を挙げると、例えば、OleDry(双葉電子社製)等が挙げられる。なお、樹脂組成物中に混合される無機フィラーは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0055】
酸化防止剤としては、種々の市販品が適用でき、モノフェノール系、ビスフェノール系、高分子型フェノール系等のフェノール系、ホスファイト系等各種タイプのものを挙げることができる。酸化防止剤は、1種で用いることもでき、2種以上組合せて使用することもできる。本発明においては、酸化防止剤の効果、熱安定性、経済性等からフェノール系及びホスファイト系の酸化防止剤が好ましく用いられ、両者を組み合わせて用いることが
更に好ましい。該酸化防止剤の添加量は、樹脂組成物中に、通常0.1~1質量%程度であり、0.2~0.5質量%添加することが好ましい。
【0056】
封止層の膜厚は特段限定されないが、水蒸気や酸素透過率の低減の観点から、通常100nm以上であり、好ましくは500nm以上、より好ましくは1μm以上であり、特に好ましくは5μm以上であり、一方、密着性向上や未封止部低減の観点から、通常100μm以下であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下である。
【0057】
封止層15のペロブスカイト化合物の含有量は特段限定されないが、封止層と下部基板との剥離を防止するために、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが特に好ましく、一方、封止層そのものの機能の低下を防ぐために、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0058】
なお、活性層14と封止層15との間に、空隙16が存在することが好ましい。活性層14と封止層15とが接触する場合、高温時に活性層が劣化する場合がある。
【0059】
<その他の層>
本実施形態の太陽電池は、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜その他の層を有してもよい。その他の層としては、例えば集電線、上面保護層、裏面保護層、バリア層、紫外線遮蔽層、水分ゲッター層、酸素ゲッター層、波長変換層、反射防止層などがあげられる。これらの部材は太陽電池の適用環境等により、適宜設けられる。
【0060】
本発明に係る太陽電池は、任意の用途に用いることができる。例えば、建材用太陽電池、自動車用太陽電池、宇宙機用太陽電池、家電用太陽電池、携帯電話用太陽電池又は玩具用太陽電池等が挙げられる。特に、本発明の太陽電池素子は、室内の照明や室内の太陽光の散乱光を利用して発電することも可能であることから、エネルギーハーベスト用途に適している。
【0061】
<太陽電池の製造方法>
太陽電池の製造方法は、本発明に係る太陽電池が製造できる限りにおいて特段の制限はない。一例としては、太陽電池素子を製造する工程と、封止工程とにより太陽電池を製造することができる。
【0062】
太陽電池素子の製造方法は、特段の制限はなく、下部基板上に、上記の太陽電池素子を構成する各層をそれぞれ製膜して製造すればよい。また、所望の太陽電池素子のパターンを得るために、適宜、各層をパターニングして形成すればよい。特に、本発明のように、活性層が存在しない基板端部に封止層を設ける場合、基板端部に形成された各層をパターニングしておくことが好ましいが、活性層用に形成したペロブスカイト化合物層の一部は完全にパターニングせずに、適度に残存させておくことが好ましい。なお、各層のパターニングの方法は公知の方法により行えばよく、好ましくは、エッチング法、レーザースクライブ法、メカニカルスクライブ法、フォトエッチング法、又は、リフトオフ法等が挙げられる。
【0063】
エッチング法に使用する溶媒は、特段の制限はないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、テトラリン若しくはデカン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、クロロベンゼン若しくはオルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、テトラリン若しくはデカリン等の脂環式炭化水素類;メタノール、エタノール若しくはプロパノール等の低級アルコール類;ア
セトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン若しくはシクロヘキサノン等の脂肪族ケトン類;アセトフェノン若しくはプロピオフェノン等の芳香族ケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル若しくは乳酸メチル等のエステル類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン若しくはトリクロロエチレン等のハロゲン炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン若しくはジオキサン等のエーテル類;又は、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド若しくはジメチルアセトアミド等のアミド類等が挙げられる。なお、溶媒は1種の溶媒を単独で用いてもよいし、任意の2種以上の溶媒を任意の比率で併用してもよい。
【0064】
封止工程は、本発明に係る太陽電池の製造が可能な範囲において、特段の制限はないが、太陽電池素子が存在しない基板端部に、封止層を形成する樹脂組成物を塗布等により配置し、その後、上部基板を重ねた後に、熱処理や紫外線照射により樹脂組成物を硬化することが好ましい。この際に、上述の通り、基板端部にペロブスカイト化合物が存在していれば、樹脂組成物がペロブスカイト化合物と混合して、その後、硬化させることで、ペロブスカイト化合物を含有する封止層とすることができ、封止層と下部基板との密着性を向上させることができる。
【0065】
なお、封止層15と下部基板10との接触界面におけるペロブスカイト化合物の存在量は特段限定されず、図2に示すように、エッチング残りの形態で存在してもよいが、活性層14と略同様の膜厚を有するペロブスカイト化合物が存在していてもよい。この場合、下部基板の端部領域を準備するためにエッチングをせず、そのまま封止樹脂を形成することとなるが、このような場合であっても、ペロブスカイト化合物と封止樹脂との相溶性が良好であるため、封止層と下部基板との間の密着性が問題とならない。
【0066】
また、樹脂は、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂であることが好ましいが、ペロブスカイト化合物は熱に弱い傾向があるために、部分的に光照射が可能な樹脂は光硬化型の樹脂であることが好ましい。
【実施例
【0067】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。まず、本実施例で行なった測定・評価試験について説明する。なお、封止層を形成する樹脂のSP値は、上記式(1)に基づき算出した。各樹脂のSP値は表1に示す通りである。
【0068】
<実施例1>
図1の模式断面図に示す太陽電池を以下の手順で作製した。
まず、モル比が1:1となるようにヨウ化鉛(II)(1014mg)及びヨウ化メチルアンモニウム(CHNHI,350mg)をバイアルに量りとり、N,N-ジメチルホルムアミド(2mL)を加えた。次に、得られた混合液を70℃で1時間加熱撹拌した。その後、得られた溶液をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルター(孔径0.2μm)で濾過することにより、活性層塗布液を作製した。
下部電極として酸化インジウムスズ(ITO)透明導電膜を備えるガラス基板(ジオマテック製、厚さ0.7mm、40mm角)に対し、洗浄剤(横浜油脂工業社製、精密ガラス基板用洗浄剤セミクリーンM-LO)を用いた超音波洗浄、超純水を用いた超音波洗浄、窒素ブローによる乾燥、および、UV-オゾン処理を行ない、下部基板を準備した。
【0069】
ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)分散液(PEDOT:PSS、ヘレウス社製AI4083)をアセトン:水=1:1(重量比)の混合溶媒2mLに溶解させ、オートバイアル(孔径0.45μm)でろ過することにより、正孔取出し層用塗布液を調製した。この正孔取出し層用塗布液を、室温で、上記ガラス基
板上の全面に3000rpmの速度でスピンコートすることにより、厚さ約30nmの正孔取り出し層を形成した。得られた基板を120℃で30分間加熱した。
【0070】
正孔取り出し層が形成された基板をグローブボックスに導入し、窒素雰囲気下100℃で10分間加熱処理した。冷却後、上記のように調製された活性層塗布液(160μL)を4000rpmの速度で基板上の全面にスピンコートし、約8秒後にクロロベンゼン(320μL)をさらにスピンコートすることで塗布液膜中の溶媒組成を変更してペロブスカイト組成の結晶を析出させた。さらに、ホットプレート上100℃で10分間加熱して結晶を成長させることにより、厚さ約350nmの活性層を形成した。
【0071】
下部基板の4辺の周縁部、具体的には基板端部から約5mmの間を綿棒に染み込ませたN,N-ジメチルホルムアミドを用い、活性層が残存するように拭取った。
【0072】
上記拭取り部を除いた活性層上に、フラーレンC60(フロンティアカーボン社製)を30nm、続いてバソクプロイン(BCP)(シグマ-アルドリッチ社製)を15nm、それぞれ抵抗加熱型真空蒸着法によって製膜し、電子取り出し層を形成した。
【0073】
電子取り出し層上に、抵抗加熱型真空蒸着法によりパターニングマスクを用いて厚さ約100nmの銀膜を蒸着させ、上部電極を形成した。
【0074】
次に、封止樹脂としてスリーボンド社製紫外線硬化性エポキシ樹脂(TB3124)を準備した。紫外線がカットされた光源下において、上記封止樹脂を下部基板の4辺の周縁部、具体的には基板端部から約3mmの間に塗布し、封止ガラス(テクノプリント社製、厚さ0.7mm、40mm角)を上部基板として重ね合せた。続いて、活性層部をマスクし、スポット光源(浜松ホトニクス社製LIGHTNINGCURE LC8)を用いてキセノン光を上記基板全面に約2分間照射した。その後、十分に光硬化した厚さ5μmの封止層、および、太陽電池を得た。
【0075】
<実施例2>
封止樹脂をスリーボンド社製紫外線硬化性エポキシ樹脂(TB3124)の代わりにスリーボンド社製熱硬化性エポキシ樹脂(TB1651D)とし、紫外線照射の代わりにドライクリーン環境下での真空ラミネートによる加熱、加圧工程に変更した以外は実施例1と同様の方法により、太陽電池を得た。真空ラミネートは、下部基板に封止樹脂、上部基板を重ねた後に、真空ラミネーター(NPC社製、NLM-270×400)に投入し、ラミネーター内部を減圧下で15分間保持した後に大気圧で圧着状態としつつ、120℃で10分間保持し、その後室温まで冷却した。得られた封止樹脂の厚さは20μmであった。
【0076】
<比較例1>
封止樹脂をスリーボンド社製熱硬化性エポキシ樹脂(TB1651D)の代わりにクラボウ社製ポリエチレン系共重合体であるオレフィン樹脂(クランベター)とした以外は実施例2と同様の方法で太陽電池を得た。得られた封止樹脂の厚さは20μmであった。
【0077】
<封止層の密着性の測定方法と評価方法>
下部基板と封止層の間にペロブスカイト化合物が存在する場合の密着性を以下のように測定し、評価した。
実施例1と同様の方法でガラス基板上全面に活性層形成まで形成した。次に、ガラス基板よりも一回り大きい厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを準備した。続いて、実施例1、実施例2、比較例1で使用した封止樹脂、および、封止方法により、ガラス基板とポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り合せた。それぞれ形
成された封止層の厚さは実施例1、実施例2、比較例1と同様とした。次に、ポリエチレンテレフタレート側から10mm間隔で切り込みを入れ、ポリエチレンテレフタレートと封止層を幅10mmに分割した短冊状の試験サンプルを得た。また、比較用にペロブスカイト化合物を含まない評価サンプルとして、ガラス基板上に上記と同様の方法で実施例1、実施例2、比較例1で使用した封止樹脂を用いて封止層を形成させた。
【0078】
短冊状試験サンプルの未封止側の一端にばねばかりを取付け、一方でガラス基板を実験台に十分に固定させた。その後180度剥離試験を行ない、ガラス基板と封止層が剥離した時、もしくは、ポリエチレンテレフタレートが材破した時のばねばかりの数値を読み取り、下記のように密着性評価を行なった。得られた結果を表1に示す。
○:ポリエチレンテレフタレートフィルムが材破(10kgf/10mm以上)
×:ガラス基板と封止層の間で剥離(5kgf/10mm未満)
また、比較用に作成した実施例1、実施例2、比較例1で使用した樹脂を用いて封止層を形成させた評価サンプルでも上記同様の密着性評価を行なったところ、全てポリエチレンテレフタレートフィルムが材破する結果であった。
【0079】
<太陽電池の光電変換効率の測定方法と評価方法>
太陽電池の下部基板側からソーラシュミレーター(分光計器社製)でAM1.5G条件の光を照射強度1000W/cmを照射して、得られた電流-電圧曲線を測定した。測定にはソースメーター(ケースレー社製、2400型)を用い、測定結果から、光電変換効率(PCE)を算出した。
また、後述する封止層を形成するための光硬化、熱硬化、および、熱処理等の、封止層硬化処理工程前後の光電変換効率を測定して下記式に基づき、封止層硬化処理工程前後の効率維持率を算出し、評価を行なった。得られた結果を表1に示す。
封止層硬化後処理工程前後の効率維持率 = (硬化処理工程直後のPCE)/(硬化処理工程直前のPCE)
○:効率維持率が0.98以上
△:効率維持率が0.95以下
【0080】
【表1】
【0081】
実施例1、実施例2の太陽電池の封止構成では、下部基板と封止層との密着性が非常に高かったことに対し、比較例1の太陽電池の封止構成では密着性が不十分であり、剥離し易いことが分かった。この結果から、SP値が特定の値以上の樹脂からなる封止層を用いることで、封止層を配置する箇所にペロブスカイト化合物が残留していても、太陽電池素子を充分に封止できることが分かる。この理由としては、封止層を形成する樹脂とペロブスカイト化合物の相溶性が良いため、封止工程で混じり合うことによって封止層における封止層の樹脂と下部基板の界面とが接する面積が増加するため、密着性が損なわないと考えられる。一方で、比較例で用いたようなSP値である封止層の樹脂ではペロブスカイト化合物の有機成分との相溶性が良くないため、封止樹脂とペロブスカイト化合物を含む活性層の間の界面で剥がれ易くなり、密着性が低くなると考えられる。また、実施例1と実
施例2を比較すると、実施例2に係る太陽電池は、封止層の熱硬化により太陽電池素子が影響を受けて変換効率が低下してしまったのに対して、実施例1に係る太陽電池は、太陽電池素子に紫外線を照射させることなく、封止層の硬化処理が可能であっために、太陽電池素子を劣化させることなく太陽電池を製造することができたものと思われる。
【符号の説明】
【0082】
100 太陽電池
10 下部基板
11 上部基板
12 下部電極
13 上部電極
14 活性層
14´ ペロブスカイト化合物のエッチング残り
15 封止層
16 空隙
図1
図2