IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特許7102868人造黒鉛系負極材、非水系二次電池用負極及び非水系二次電池
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】人造黒鉛系負極材、非水系二次電池用負極及び非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20220712BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20220712BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220712BHJP
   C01B 32/205 20170101ALI20220712BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/133
H01M4/36 C
C01B32/205
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018068830
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019179687
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】平原 聡
(72)【発明者】
【氏名】関 敬一
(72)【発明者】
【氏名】原田 隆
(72)【発明者】
【氏名】吉田 紘章
(72)【発明者】
【氏名】近藤 寿子
(72)【発明者】
【氏名】池田 宏允
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-089887(JP,A)
【文献】特開2013-179074(JP,A)
【文献】国際公開第2012/157590(WO,A1)
【文献】特開2017-174739(JP,A)
【文献】特開2017-054583(JP,A)
【文献】特開2017-010650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
H01M 4/133
H01M 4/36
C01B 32/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一粒子からなる人造黒鉛系負極材であって、下記条件(1)~(3)を満たし、下記式1で表されるO/Cが0.1~1.5mol%である人造黒鉛系負極材。
条件(1):少なくとも一部が非晶質炭素で被覆されている。
条件(2):X線回折法(XRD)により測定した002面の面間隔(d002)が0.338nm以下である。
条件(3):体積基準粒子径において、メジアン径(d50)が9.0~25.0μmであり、小粒子側から10%積算部の粒子径(d10)が0.5~5.4μmである。
式1:O/C(mol%)=〔[X線光電子分光法分析におけるO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたO原子濃度]/[X線光電子分光法分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度]〕×100
【請求項2】
下記式2で表されるラマンR値が0.05以上0.8以下である請求項1に記載の人造黒鉛系負極材。
式2:[ラマンR値]=[ラマンスペクトル分析における1360cm-1付近のピークPの強度I]/[ラマンスペクトル分析における1580cm-1付近のピークPAの強度I
【請求項3】
集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備え、該活物質層が請求項1又は2に記載の人造黒鉛系負極材を含有する、非水系二次電池用負極。
【請求項4】
正極及び負極、並びに電解質を備える非水系二次電池であって、該負極が請求項3に記載の非水系二次電池用負極である、非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電容量及びクーロン効率が高く、容量維持率及び急速充電特性に優れる人造黒鉛系負極材に関する。また、本発明は、この人造黒鉛系負極材を含む非水系二次電池用負極及び非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い、高容量の二次電池に対する需要が高まってきている。特に、ニッケル・カドミウム電池や、ニッケル・水素電池に比べ、よりエネルギー密度が高く、急速充放電特性に優れた非水系二次電池、とりわけリチウムイオン二次電池が注目されている。特に、リチウムイオンを吸蔵・放出できる正極及び負極、並びにLiPFやLiBF等のリチウム塩を溶解させた非水電解液からなる非水系リチウム二次電池が開発され、実用化されている。
【0003】
この非水系リチウム二次電池の負極材としては種々のものが提案されているが、高容量であること、放電電位の平坦性に優れていること等の理由から、天然黒鉛やコークス等の黒鉛化で得られる人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズピッチ、黒鉛化炭素繊維等の黒鉛質の炭素材が用いられている。また、一部の電解液に対して比較的安定しているなどの理由で非晶質の炭素材も用いられている。更には、黒鉛粒子の表面に非晶質炭素を被覆あるいは付着させ、黒鉛による高容量かつ不可逆容量が小さいという特性と、非晶質炭素による電解液との安定性に優れるという特性との2つの特性を併せ持った炭素材も用いられている。
【0004】
これらの中でも人造黒鉛は電池寿命に優れるという特長がある。人造黒鉛は結晶構造の違いから等方性組織を有する人造黒鉛と異方性組織を有する人造黒鉛に大別される。また、これらのそれぞれについて、単一粒子からなる人造黒鉛と単一粒子を造粒して得られる人造黒鉛がある。
【0005】
等方性組織を有する人造黒鉛は異方性組織を有するものと比べて電池容量が劣る。また、造粒粒子からなる人造黒鉛は急速充電特性が優れるという特長はあるが、繰り返し使用することにより造粒粒子の崩壊が起こることがあるため電池の寿命の観点で単一粒子の方が有利である。
【0006】
即ち、単一粒子からなる異方性組織の人造黒鉛粒子は電池容量が大きくかつ電池の寿命の点では良好である。単一粒子からなる異方性組織由来の人造黒鉛粒子の例として、特許文献1及び2に開示されている負極材が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5461746号公報
【文献】特開2014-167905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者等の検討によれば、特許文献1、2では、異方性組織を有するコールタールピッチ又は等方性組織を有するコールタールピッチとニードルコークス粉に混合した後、黒鉛化処理を行なっているため、黒鉛粒子表面の被覆物は黒鉛化されているため急速充電特性の点で不十分である。
【0009】
本発明の課題は、放電容量及びクーロン効率が高く、容量維持率及び急速充電特性に優れる人造黒鉛系負極材を提供することにある。また、本発明の課題は、この人造黒鉛系負極材を用いて得られる非水系二次電池用負極及び非水系二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等が上記課題に対して検討した結果、単一黒鉛粒子からなり、かつニードルコークス由来の人造黒鉛系負極材であり、非晶質炭素により少なくとも一部が被覆されたものであって、更に特定の粒度分布を有する負極材により上記課題が解決され得ることを見出した。即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0011】
[1] 単一粒子からなる人造黒鉛系負極材であって、下記条件(1)~(3)を満たす人造黒鉛系負極材。
条件(1):少なくとも一部が非晶質炭素で被覆されている。
条件(2):X線回折法(XRD)により測定した002面の面間隔(d002)が0.338nm以下である。
条件(3):体積基準粒子径において、メジアン径(d50)が9.0~25.0μmであり、小粒子側から10%積算部の粒子径(d10)が0.5~5.4μmである。
【0012】
[2] 下記式1で表されるO/Cが0.1~1.5mol%以下である[1]に記載の人造黒鉛系負極材。
式1:O/C(mol%)=〔[X線光電子分光法分析におけるO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたO原子濃度]/[X線光電子分光法分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度]〕×100
【0013】
[3] 下記式2で表されるラマンR値が0.05以上0.8以下である[1]又は[2]に記載の人造黒鉛系負極材。
式2:[ラマンR値]=[ラマンスペクトル分析における1360cm-1付近のピークPの強度I]/[ラマンスペクトル分析における1580cm-1付近のピークPAの強度I
【0014】
[4] 集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備え、該活物質層が[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の負極材を含有する、非水系二次電池用負極。
【0015】
[5] 正極及び負極、並びに電解質を備える非水系二次電池であって、該負極が[4]に記載の非水系二次電池用負極である、非水系二次電池。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、放電容量及びクーロン効率が高く、容量維持率及び急速充電特性に優れる人造黒鉛系負極材、並びにこれを含む非水系二次電池用負極及び非水系二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本発明において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0018】
〔人造黒鉛系負極材〕
本発明の人造黒鉛系負極材は、単一粒子からなる人造黒鉛系負極材であって、下記条件(1)~(3)を満たすものである。以下において、本発明の人造黒鉛系負極材について、単に「本発明の負極材」と称することがある。
条件(1):少なくとも一部が非晶質炭素で被覆されている。
条件(2):X線回折法(XRD)により測定した002面の面間隔(d002)が0.338nm以下である。
条件(3):体積基準粒子径において、メジアン径(d50)が9.0~25.0μmであり、小粒子側から10%積算部の粒子径(d10)が0.5~5.4μmである。
【0019】
[非晶質炭素による被覆]
本発明の負極材は、前記条件(1)の通り、少なくとも一部が非晶質炭素で被覆されたものである。これにより本発明の負極材は、放電容量及び初回クーロン効率が良好となる。
【0020】
[002面の面間隔(d002)]
本発明の負極材は、前記条件(2)の通り、X線回折法(XRD)により測定した002面の面間隔(d002)が0.338nm以下であり、また、好ましくは0.337nm以下であり、更に好ましくは0.336nm以下である。d002は、負極材のバルクの結晶性を示す値であり、d002の値が小さいほど、結晶性が高い炭素材であることを示し、黒鉛層間に入るリチウムの量が理論値に近づくので容量が増加する。結晶性が低過ぎると高結晶性黒鉛を電極に用いた場合の、高容量で、かつ不可逆容量が低いという優れた電池特性が発現しにくくなる傾向にある。また、本発明の負極材は異方性組織を有する炭素質由来の人造黒鉛であることによりd002が上記範囲となる。一方で等方性組織を有する人造黒鉛の場合、d002は0.338nmより大となり、本発明の負極材とはその結晶構造において明確に区別される。
【0021】
X線回折は次の手法により測定する。まず、炭素粉末に総量の約15重量%のX線標準高純度シリコン粉末を加えて混合したものを材料とし、グラファイトモノクロメーターで単色化したCuKα線を線源とし、反射式ディフラクトメーター法で広角X線回折曲線を測定する。その後、学振法を用いて面間隔(d002)及び結晶子の大きさ(Lc)を求める。
【0022】
[粒度分布(d50、d10及びd90)]
本発明の負極材は、前記条件(3)の通り、体積基準粒子径において、メジアン径(d50)が9.0~25.0μmであり、小粒子側から10%積算部の粒子径(d10)が0.5~5.4μmである。
【0023】
d50が条件(3)の範囲であることにより、電池容量が良好となる。また、これらをより良好とする観点から、d50は、好ましくは10.0μm以上であり、より好ましくは11.0μm以上であり、一方、好ましくは20.0μm以下であり、より好ましくは18.0μm以下である。
【0024】
d10が条件(3)の範囲であることにより、急速充電特性が良好となる。また、これらをより良好とする観点から、d10は、好ましくは1.0μm以上であり、より好ましくは2.0μm以上であり、一方、好ましくは5.3μm以下である。
【0025】
また、本発明の負極材は小粒子側から90%積算部の粒子径(d90)が、急速充電性の観点から、好ましくは20.0μm以上であり、より好ましくは22.0μm以上である。また、本発明の負極材のd90は、急速充電特性の観点から、好ましくは30.0μm以下であり、より好ましくは29.0μm以下である。
【0026】
界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(ツィーン20(登録商標))の0.1体積%水溶液約150mLに、負極材0.01gを懸濁させたものを、レーザー回折式粒度分布計(堀場製作所製 LA-920)を用いて体積基準粒度分布を測定することにより、メジアン径(d50)、小粒子側から10%積算部のd10粒径、90%積算部のd90粒径を求めることができる。測定条件は超音波分散1分間、超音波強度4、循環速度2、相対屈折率1.50である。
【0027】
[表面官能基量O/C値(mol%)]
XPSより求められ、下記式1で表されるO/C値は、好ましくは0.1mol%以上、より好ましくは0.2mol%以上、更に好ましくは0.3mol%以上であり、一方、好ましくは1.5mol%以下、より好ましくは1.3mol%以下、更に好ましくは1.1mol%以下である。この表面官能基量O/C値が上記範囲内であれば、負極表面におけるLiイオンと電解液溶媒の脱溶媒和反応性が促進され急速充放電特性が良好となり、電解液との副反応が抑制され充放電効率が良好となる傾向がある。
式1:O/C(mol%)=〔[X線光電子分光法分析におけるO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたO原子濃度]/[X線光電子分光法分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度]〕×100
【0028】
表面官能基量O/C値の算出にあたっては、X線光電子分光法測定としてX線光電子分光器を用い、測定対象を表面が平坦になるように試料台に載せ、アルミニウムのKα線をX線源とし、C1s(280~298eV)とO1s(526~542eV)のスペクトルを測定する。得られたC1sのピークトップを284.6eVとして帯電補正し、C1sとO1sのスペクトルのピーク面積を求め、更に装置感度係数を掛けて、CとOの表面原子濃度をそれぞれ算出する。得られたそのOとCの原子濃度比O/C(O原子濃度/C原子濃度)を炭素材の表面官能基量O/C値と定義する。
【0029】
[ラマンR値]
本発明の負極材は、下記式1で表されるラマンR値が、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.15以上である。また、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.4以下である。このラマンR値が小さすぎることは負極材表面の結晶性が高すぎることを示しており、Liイオンが挿入・脱離しにくくなることにより低温入出力特性が低下する場合がある。一方、ラマンR値が大き過ぎると非晶質炭素の持つ不可逆容量の影響の増大、電解液との副反応の増大により、リチウムイオン二次電池の初期充放電効率の低下やガス発生量の増大を招き、電池容量が低下する傾向がある。
式2:[ラマンR値]=[ラマンスペクトル分析における1360cm-1付近のピークPの強度I]/[ラマンスペクトル分析における1580cm-1付近のピークPAの強度I
【0030】
本発明において、ラマンR値は本発明の負極材についてラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおける1580cm-1付近のピークPの強度Iと、1360cm-1付近のピークPの強度Iとを測定したときの強度比(I/I)として定義する。なお、「1580cm-1付近」とは1580~1620cm-1の範囲を、「1360cm-1付近」とは1350~1370cm-1の範囲を指す。
【0031】
なお、本発明において、ラマンR値は次の方法により求めることができる。サーモフィッシャーサイエンティフィック社製AlmegaXRを用い、波長532nmの半導体レーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、1580cm-1の付近のピークPの強度I、1360cm-1の範囲のピークPの強度Iを測定し、その強度の比R=I/Iを求める。試料の調製にあたっては、粉末状態のものを自然落下によりセルに充填し、セル内のサンプル表面にレーザー光を照射しながら、セルをレーザー光と垂直な面内で回転させて測定を行われる。
試料上のレーザーパワー :2mW以下
分解能 :約10cm-1
測定範囲 :400cm-1~4000cm-1
ピーク強度測定、ピーク半値幅測定:バックグラウンド処理、複数スペクトルの平均化
【0032】
[製造方法]
本発明の負極材は、コールタールピッチを加熱重合して生コークスを製造し、これを粉砕、分級して生コークス粉としてから黒鉛化を行い、更に非晶質炭素前駆体を混合、加熱することによる非晶質炭素の被覆処理を行うことで製造することができる。なお、条件(3)のd10及びd50に制御するためには生コークスを得た後に粉砕、分級を行うこと、及び非晶質炭素の被覆を行った後で篩にかけて粒度調整することが好ましく、特に、予め粒度分布が異なる生コークス粉を準備してそれぞれを用いて非晶質炭素が被覆された人造黒鉛を製造し、これらを適宜混合することで条件(3)を満足するように制御することが粒度分布の制御を行い易いために好ましい。
【0033】
<コールタールピッチ>
本発明において、「コールタールピッチ」とは、石炭の乾留によって得られるコールタールを蒸留、精製して得られる混合物を意味する。コールタールピッチの成分としては通常、ナフタレン、アセナフテン、フェノキシベンゼン、メチルナフタレン、その他、三環以上の多環芳香族化合物等が含まれる。また、原料として用いるコールタールピッチのキノリン不溶分は通常、5重量%未満であり、好ましくは3重量%以下であり、より好ましくは1重量%以下である。
【0034】
<加熱重合>
コールタールピッチを400~700℃で加熱重合することにより生コークスを得ることができる。この工程での加熱温度は好ましくは450~600℃である。また、この加熱処理は通常、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行われる。
【0035】
<粉砕及び分級>
得られた生コークスは粉砕、分級を行い、生コークス粉とすることが好ましい。特に、条件(3)を満足するように、生コークス粉を分級により粒度を調整することが好ましい。
【0036】
粉砕処理に使用する粗粉砕機としては、ジョークラッシャー、衝撃式クラッシャー、コ-ンクラッシャー等が挙げられ、中間粉砕機としてはロールクラッシャー、ハンマーミル等が挙げられ、微粉砕機としてはボールミル、振動ミル、ピンミル、攪拌ミル、ジェットミル等が挙げられる。
【0037】
分級処理の条件としては、目開きが、好ましくは75μm以下であるものを用いて実施される。また、後の工程で異なる粒度分布の人造黒鉛を混合する場合には、この段階で目開きの異なるものを用い、予め粒度分布の異なる生コークス粉を準備してもよい。
【0038】
分級処理に用いる装置としては特に制限はないが、例えば、乾式篩い分けの場合:回転式篩い、動揺式篩い、旋動式篩い、振動式篩い等を用いることができ、乾式気流式分級の場合:重力式分級機、慣性力式分級機、遠心力式分級機(クラシファイア、サイクロン等)等を用いることができ、湿式篩い分けの場合:機械的湿式分級機、水力分級機、沈降分級機、遠心式湿式分級機等を用いることができる。
【0039】
<黒鉛化>
生コークス粉を2800~3300℃に加熱して黒鉛化することにより、人造黒鉛を得ることができる。このとき、加熱条件は、2800℃以上であることが原料由来の不純物を揮発させて結晶性の高い人造黒鉛を得る観点で好ましく、この観点からより好ましくは2900℃以上である。また、3300℃以下であると、黒鉛化の進行が停止した後での余剰なエネルギー消費を防ぐ観点で好ましく、この観点からより好ましくは3200℃以下である。なお、黒鉛化の前に生コークス粉を700℃~1800℃の間でか焼したものを用いてもよい。
【0040】
<非晶質炭素の被覆処理>
黒鉛化により得られた人造黒鉛を非晶質炭素前駆体(非晶質炭素の原料)と混合して焼成することにより、条件(1)が満足される。
【0041】
非晶質炭素前駆体としては、特に限定されないが、コールタール、コールタールピッチ、乾留液化油等の石炭系重質油;常圧残油、減圧残油等の直留系重質油;原油、ナフサ等の熱分解時に副生するエチレンタール等の分解系重質油等の石油系重質油;アセナフチレン、デカシクレン、アントラセン等の芳香族炭化水素;フェナジンやアクリジン等の窒素含有環状化合物;チオフェン等の硫黄含有環状化合物;アダマンタン等の脂肪族環状化合物;ビフェニル、テルフェニル等のポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール等のポリビニルエステル類、ポリビニルアルコール等の熱可塑性高分子等の有機物が挙げられる。これらの有機物前駆体は1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
非晶質炭素の被覆処理を行う際の焼成は通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス中で行われる。このときの熱処理温度は、通常800℃以上、好ましくは900℃以上、より好ましくは1000℃以上であり、一方、通常1300℃以下、好ましくは1200℃以下である。また、熱処理時間は、非晶質炭素前駆体が非晶質炭素化するまで行えばよく、通常10分~24時間である。
【0043】
<粒度分布の調整>
得られた非晶質炭素で少なくとも一部が被覆された人造黒鉛について、篩を用いて粒度を調整することが好ましい。更に、粒度分布を調整するために異なる粒度分布を有するものと混合して粒度を調整することが好ましい。
【0044】
〔非水系二次電池用負極〕
本発明の非水系二次電池用負極(以下、「本発明の負極」と称する場合がある。)は、集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備え、該活物質層が本発明の負極材を含有するものである。
【0045】
本発明の負極材を用いて負極を作製するには、負極材に結着樹脂を配合したものを水性又は有機系媒体でスラリーとし、必要によりこれに増粘材を加えて集電体に塗布し、乾燥すればよい。
【0046】
結着樹脂としては、非水電解液に対して安定で、かつ非水溶性のものを用いるのが好ましい。例えば、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム及びエチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアクリル酸、及び芳香族ポリアミド等の合成樹脂;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体やその水素添加物、スチレン・エチレン・ブタジエン、スチレン共重合体、スチレン・イソプレン及びスチレンブロック共重合体並びにその水素化物等の熱可塑性エラストマー;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、及びエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニデンフルオライド、ポリペンタフルオロプロピレン及びポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素化高分子等を用いることができる。有機系媒体としては、例えば、N-メチルピロリドン及びジメチルホルムアミドを用いることができる。
【0047】
結着樹脂は、負極材100重量部に対して通常は0.1重量部以上、好ましくは0.2重量部以上用いるのが好ましい。結着樹脂の使用量を負極材100重量部に対して0.1重量部以上とすることで、負極材料相互間や負極材料と集電体との結着力が十分となり、負極から負極材料が剥離することによる電池容量の減少及びリサイクル特性の悪化を防ぐことができる。
【0048】
また、結着樹脂の使用量は負極材100重量部に対して10重量部以下とするのが好ましく、7重量部以下とするのがより好ましい。結着樹脂の使用量を負極材100重量部に対して10重量部以下とすることにより、負極の容量の減少を防ぎ、かつリチウムイオン等のアルカリイオンの負極材料への出入が妨げられる等の問題を防ぐことができる。
【0049】
スラリーに添加する増粘材としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロース類、ポリビニルアルコール並びにポリエチレングリコール等が挙げられる。これらの中でも好ましいのはカルボキシメチルセルロースである。増粘材は負極材料100重量部に対して、通常0.1~10重量部、特に0.2~7重量部となるように用いるのが好ましい。
【0050】
負極集電体としては、従来からこの用途に用い得ることが知られている、例えば、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、チタン及び炭素等を用いればよい。集電体の形状は通常はシート状であり、その表面に凹凸をつけたもの、ネット及びパンチングメタル等を用いることも好ましい。
【0051】
集電体に負極材と結着樹脂のスラリーを塗布・乾燥した後は、加圧して集電体上に形成された活物質層の密度を大きくして負極活物質層の単位体積当たりの電池容量を大きくするのが好ましい。活物質層の密度は1.2~1.8g/cmの範囲にあることが好ましく、1.3~1.6g/cmであることがより好ましい。活物質層の密度を上記下限値以上とすることで、電極の厚みの増大に伴う電池の容量の低下を防ぐことができる。また、活物質層の密度を上記上限値以下とすることで、電極内の粒子間空隙が減少に伴い空隙に保持される電解液量が減り、リチウムイオン等のアルカリイオンの移動性が小さくなり急速充放電性が小さくなるのを防ぐことができる。
【0052】
本発明の負極材を用いて形成した負極活物質層の水銀圧入法による10nm~100000nmの範囲の細孔容量は、0.05mL/gであることが好ましく、0.1ml/g以上であることがより好ましい。細孔容量を0.05mL/g以上とすることによりリチウムイオン等のアルカリイオンの出入りの面積が大きくなる。
【0053】
〔非水系二次電池〕
本発明の非水系二次電池は、正極及び負極、並びに電解質を備える非水系二次電池であって、負極として、本発明の負極を用いたものである。特に、本発明の非水系二次電池に用いる正極及び負極は、通常、Liイオンを吸蔵、放出可能なリチウムイオン二次電池であることが好ましい。
【0054】
本発明の非水系二次電池は、上記の本発明の負極を用いる以外は、常法に従って製造することができる。特に、本発明の非水系二次電池は、[負極の容量]/[正極の容量]の値を1.01~1.5に設計することが好ましく、1.2~1.4に設計することがより好ましい。
【0055】
[正極]
本発明の非水系二次電池の正極の活物質となる正極材としては、例えば、基本組成がLiCoOで表されるリチウムコバルト複合酸化物、LiNiOで表されるリチウムニッケル複合酸化物、LiMnO及びLiMnで表されるリチウムマンガン複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物、二酸化マンガン等の遷移金属酸化物、並びにこれらの複合酸化物混合物等を用いればよい。更にはTiS、FeS、Nb、Mo、CoS、V、CrO、V、FeO、GeO及びLiNi0.33Mn0.33Co0.33、LiFePO等を用いればよい。
【0056】
前記正極材に結着樹脂を配合したものを適当な溶媒でスラリー化して集電体に塗布、乾燥することにより正極を製造することができる。なお、スラリー中にはアセチレンブラック、ケッチェンブラック等の導電材を含有させることが好ましい。また、必要に応じて増粘材を含有させてもよい。なお、結着材及び増粘剤としては、この用途に周知のもの、例えば負極の製造に用いるものとして例示したものを用いることができる。
【0057】
導電材の配合量は正極材100重量部に対し、0.5~20重量部が好ましく、1~15重量部がより好ましい。また、増粘材の配合量は正極材100重量部に対し、0.2~10重量部が好ましく、0.5~7重量部がより好ましい。更に、正極材100重量部に対する結着樹脂の配合量は、結着樹脂を水でスラリー化する場合には0.2~10重量部が好ましく、0.5~7重量部がより好ましく、一方、結着樹脂をN-メチルピロリドン等の結着樹脂を溶解する有機溶媒でスラリー化する場合には0.5~20重量部が好ましく、1~15重量部がより好ましい。
【0058】
正極集電体としては、例えば、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ及びタンタル等並びにこれらの合金が挙げられる。これらの中でもアルミニウム、チタン及びタンタル並びにその合金が好ましく、アルミニウム及びその合金が最も好ましい。
【0059】
[電解液]
電解液は、従来周知の非水溶媒に種々のリチウム塩を溶解させたものを用いることができる。
【0060】
非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート及びビニレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ-ブチロラクトン等の環状エステル、クラウンエーテル、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、1,2-ジメチルテトラヒドロフラン及び1,3-ジオキソラン等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン等の鎖状エーテル等を用いればよい。通常はこれらの2種以上を混合して用いる。なかでも環状カーボネートと鎖状カーボネート、又はこれに更に他の溶媒を混合して用いることが好ましい。
【0061】
電解液には、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、無水コハク酸、無水マレイン酸、プロパンスルトン及びジエチルスルホン等の化合物やジフルオロリン酸リチウムのようなジフルオロリン酸塩等が添加されていてもよい。更に、ジフェニルエーテル及びシクロヘキシルベンゼン等の過充電防止剤が添加されていてもよい。
【0062】
非水溶媒に溶解させる電解質としては、例えば、LiClO、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(CFSO)(CSO)及びLiC(CFSO等が挙げられる。電解液中の電解質の濃度は通常0.5~2mol/Lであり、好ましくは0.6~1.5mol/Lである。
【0063】
[セパレータ]
正極と負極との間に介在させるセパレータを用いることが好ましい。このようなセパレータとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンの多孔性シートや不織布を用いることが好ましい。
【実施例
【0064】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。以下の実施例及び比較例において、各特性の測定方法は下記のとおりである。
【0065】
<負極シートの作製>
以下の実施例及び比較例で調製した負極材を負極材料として用い、活物質層密度1.50±0.03g/cmの活物質層を有する極板を作製した。具体的には、負極材料20.00±0.02gに、1重量%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩水溶液を20.00±0.02g(固形分換算で0.200g)、及び重量平均分子量27万のスチレン・ブタジエンゴム水性ディスパージョン0.50±0.05g(固形分換算で0.2g)を加えて、キーエンス製ハイブリッドミキサーで5分間撹拌し、30秒脱泡してスラリーを得た。
【0066】
このスラリーを、集電体である厚さ10μmの銅箔上に、負極材料が10.0±0.3mg/cm付着するように、ドクターブレードを用いて幅5cmに塗布し、室温で風乾を行った。更に110℃で30分乾燥後、直径20cmのローラを用いてロールプレスして、活物質層の密度が1.50±0.03g/cmになるよう調整し電極シートを得た。
【0067】
<リチウムイオン二次電池(2016コイン型電池)の作製>
上記方法で作製した負極シートを直径12.5mmの円盤状に打ち抜き、リチウム金属箔を直径14mmの円板状に打ち抜き対極とした。両極の間には、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの混合溶媒(容量比=3:7)に、LiPFを1mol/Lになるように溶解させた電解液を含浸させたセパレータ(多孔性ポリエチレンフィルム製)を置き、2016コイン型電池をそれぞれ作製した。
【0068】
<放電容量、初回クーロン効率>
上記リチウムイオン二次電池(2016コイン型電池)を用いて、下記の測定方法で電池充放電時の放電容量を測定した。
【0069】
前述の方法で作製した非水系二次電池(コイン型電池)を用いて、下記の測定方法で電池充放電時の放電容量(mAh/g)を測定した。0.05Cの電流密度でリチウム対極に対して5mVまで充電し、さらに5mVの一定電圧で電流密度が0.005Cになるまで充電し、負極中にリチウムをドープした後、0.1Cの電流密度でリチウム対極に対して1.5Vまで放電を行なった。この初回サイクルにおいて初回クーロン効率(=(初回放電容量/初回充電容量)×100(%))を算出した。引き続き2、3回目は、同電流密度でcc-cv充電にて10mV、0.005Ccutにて充電し、放電は、全ての回で0.1Cで1.5Vまで放電した。
【0070】
この計3サイクルにおいて3サイクル目の放電容量を初回サイクルの放電容量で割った値をサイクル維持率〔%〕として算出した。
【0071】
<急速充電特性の評価>
前述の方法で作製した非水系二次電池(コイン型電池)を用いて、下記の測定方法で電池充放電時の放電容量(mAh/g)を測定した。0.05Cの電流密度でリチウム対極に対して5mVまで充電し、さらに5mVの一定電圧で電流密度が0.005Cになるまで充電し、負極中にリチウムをドープした後、0.1Cの電流密度でリチウム対極に対して1.5Vまで放電を行なった。引き続き2、3回目は、同電流密度でcc-cv充電にて10mV、0.005Ccutにて充電し、放電は、全ての回で0.1Cで1.5Vまで放電した。
【0072】
3Cの電流密度でリチウム対極に対して負極材1グラム当たりの容量として360mAh/gとなるまでcc充電し、その過程における電位変化を測定した。得られる電位値を電流値で微分した値(dV/dQ)を充電率(=充電した容量〔mAh/g〕/上記cc-cv3サイクル目放電容量、以下SOCと表記)に対しプロットした。この微分曲線のSOC=0~15%において確認されるピークのピークトップのdV/dQ値から急速充電特性を評価した。
【0073】
<人造黒鉛A~Cの製造>
コールタールピッチ(キノリン不溶分:1重量%未満)を500℃で24時間加熱して生コークスを得た。得られた生コークス粉について、75um分級を行い、平均粒子径13μmとしたものを生コークス粉A、平均粒子径8μmとしたものを生コークス粉Bとした。生コークス粉A、Bのそれぞれを3000℃で40時間加熱して黒鉛化させた。生コークス粉Aを黒鉛化させたものを人造黒鉛Cとする。
【0074】
生コークス粉A、Bのそれぞれの黒鉛化物100重量部に対し、重質油と混合した。これらのそれぞれについて、1300℃で加熱することにより非晶質炭素による被覆処理を行った。生コークス粉Aの黒鉛化物について非晶質炭素で被覆し、更に粉砕機で粉砕した後に45μmの篩を通過させ、人造黒鉛Aとした。また、生コークス粉Bの黒鉛化物について非晶質炭素で被覆し、更に粉砕機にて粉砕した後、45μmの篩を追加させたものを人造黒鉛Bとした。
【0075】
[実施例1]
人造黒鉛A、Bを(人造黒鉛A):(人造黒鉛B)=7:3(重量比)として混合して負極材1を製造した。負極材1について各種物性を評価した。また、負極材1を用いて負極シートの作成及びリチウムイオン二次電池の作製を行い、各種の評価を行った。下記表1及び表2にその結果を示す。
【0076】
[実施例2]
人造黒鉛A、Bを人造黒鉛A:人造黒鉛B=5:5(重量比)として混合して負極材2を製造した。実施例1に対して負極材1の代わりに負極材2を用いた以外は同様にして各種の評価を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0077】
[比較例1]
人造黒鉛Cを用いて負極材3を製造した。実施例1に対して負極材1の代わりに負極材3を用いた以外は同様にして各種の評価を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0078】
[比較例2]
人造黒鉛Bを用いて負極材4を製造した。実施例1に対して負極材1の代わりに負極材4を用いた以外は同様にして各種の評価を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0079】
[比較例3]
人造黒鉛A、Bを人造黒鉛A:人造黒鉛B=8:2〔重量比〕として混合して負極材5を製造した。実施例1に対して負極材1の代わりに負極材5を用いた以外は同様にして各種の評価を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0080】
[比較例4]
人造黒鉛A、Bを人造黒鉛A:人造黒鉛B=9:1〔重量比〕として混合して負極材6を製造した。実施例1に対して負極材1の代わりに負極材6を用いた以外は同様にして各種の評価を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
[結果の考察]
非晶質被覆を行わない比較例1の結果から、不可逆容量が大きくなることが確認されている。本発明ではこの不可逆容量を防ぐため実施例1、2及び比較例2~4では粒子の一部を非晶質被覆した人造黒鉛A及びBを用いた。
【0084】
実施例1、2において比較例3、4と比較して、350mAh/g以上の放電容量、97%以上のクーロン効率、容量維持率を示し、リチウムイオン電池負極材料として優れた特性を示した。加えて、急速充電試験から得たSOC vs. dV/dQ曲線から充電初期のSOC0~15%におけるピークトップ値を比較したところ、実施例1,2では-0.0081、-0.0076、比較例3、4では0.0023、0.0023と得られた。充電過程のSOC vs. dV/dQ曲線において正の値を取るということは、本来は充電に伴い電位が降下をする領域で電位の上昇が生じていることを意味する。この現象はオーバーシュートと呼ばれ、電極/電解液間のリチウムイオンの伝導における抵抗や、負極材自体の結晶性の問題で電気抵抗が高い可能性が示唆されるほか、粒子の表面状態や被覆状態の際も大きく影響する。この様な異常な電位の挙動は電解液にも過剰な負荷をかける。これが比較例3、4におけるクーロン効率、サイクル維持率の低下の一因となっていると推察される。
【0085】
実施例1、2及び比較例3、4において用いた負極材1、2、5及び6のそれぞれについて炭素材料の電気伝導性を決定する結晶性、粒子表面状態を評価する目的でXRD、XPS、ラマン分光により評価を実施した。表1に示す結果から、負極材1、2、5及び6のいずれもXRD測定からd002<0.338nm、La>100nm、La>100nmという非常に高結晶性であった。
【0086】
一方、電極の充填度を決定し、電解液との親和性を左右する負極材の粒径についても評価を行い、表1に示す結果を得た。その結果から、実施例1、2及び比較例3、4の間で優位に変化する傾向が確認され、粒度分布が条件(3)を満たす範囲において高放電容量、高クーロン効率、高サイクル維持率、良好な急速充電特性を同時に達成することを確認した。
【0087】
続いて比較例2では表1から実施例1、2と同様の高い放電容量(初回;351mAh/g)と優れた急速充電特性(SOC0~15%におけるdV/dQピークトップ値;-0.0079)を示したが、クーロン効率(96.7%)やサイクル維持率(96.0%)において実施例1、2と比較して低下する傾向が確認された。これは比較例2では粒子径が小さい人造黒鉛Bのみから負極材が構成されることで電極と電解液の接触面積が過剰となり、電解液の分解を生じている可能性が示唆される。
【0088】
表1に示した比較例2(負極材4)の粒度測定の結果から、平均粒度d10が3.6μmと得られた。電解液の分解を抑制し、クーロン効率やサイクル維持率を良好に保つ観点から、粒度分布を条件(3)の範囲とすることが望ましいという結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の人造黒鉛系負極材、並びにこれを含む非水系二次電池用負極及び非水系二次電池は、放電容量及びクーロン効率が高く、容量維持率及び急速充電特性に優れるため、車載用途;パワーツール用途;携帯電話、パソコン等の携帯機器用途等に好適に用いることができる。