(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】フッ素除去方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20060101AFI20220712BHJP
【FI】
C02F1/58 M
(21)【出願番号】P 2018071951
(22)【出願日】2018-04-03
【審査請求日】2021-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100204032
【氏名又は名称】村上 浩之
(72)【発明者】
【氏名】中西 次郎
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
(72)【発明者】
【氏名】加地 伸行
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 宏
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-203130(JP,A)
【文献】国際公開第2008/120704(WO,A1)
【文献】特開2002-316172(JP,A)
【文献】特開2001-340870(JP,A)
【文献】特開2008-188484(JP,A)
【文献】特開昭60-075393(JP,A)
【文献】米国特許第04226710(US,A)
【文献】特開平10-263558(JP,A)
【文献】特開2011-000534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58-1/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非鉄金属製錬工程から生じる硫酸イオンを含むフッ素含有排水からのフッ素除去方法であって、
前記フッ素含有排水にリン酸を添加するリン酸添加工程と、
前記リン酸添加工程後のフッ素含有排水に水酸化マグネシウムを添加する水酸化マグネシウム添加工程と、
前記水酸化マグネシウム添加工程後のフッ素含有排水に消石灰を添加して、生成したフッ素含有沈澱物を分離除去するフッ素沈澱除去工程とを有
し、
前記水酸化マグネシウム添加工程におけるフッ素含有排水のpHが4以上7以下となるように前記水酸化マグネシウムの添加量を調整することを特徴とするフッ素除去方法。
【請求項2】
前記リン酸の添加量を、前記フッ素含有排水中のフッ素(F)に対する前記リン酸中のリン(P)のモル比(P/F)が0.2以上5.0以下となるように調整することを特徴とする請求項1記載のフッ素除去方法。
【請求項3】
前記フッ素沈澱除去工程におけるフッ素含有排水のpHが7.1以上9.0以下となるように前記消石灰の添加量を調整することを特徴とする請求項1
または2記載のフッ素除去方法。
【請求項4】
前記リン酸の添加量を、前記フッ素含有排水中のフッ素(F)に対する前記リン酸中のリン(P)のモル比(P/F)が0.25以上1.5以下となるように調整することを特徴とする請求項1乃至請求項
3の何れか1項に記載のフッ素除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば非鉄金属製錬工程から生じる排水等のフッ素および硫酸イオン等を含有するフッ素含有排水からのフッ素除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅や鉛等の非鉄金属の製錬工程では、原料鉱石を炉に投入して熔解し、不純物をスラグとして、又は硫黄を亜硫酸ガスとして分離し、目的とする金属を精製する。原料鉱石にはフッ素が含有されることがあるが、このフッ素は鉱石が熔解される際に揮発し、亜硫酸ガスと共に排ガスとしてスクラバー等に集められ、アルカリ性の洗浄液中に捕集される。
【0003】
スクラバー等で排ガスを捕集した洗浄液は、洗浄廃液として順次取り出されて処理され、フッ素が分離回収される。フッ素を除去した後の洗浄廃液は、引き続いて排水処理施設に送られ、一般の排水と共に中和、酸化、還元等の方法によって、重金属や有機物等を分離し、無害化された後に排出される。
【0004】
排水等の水溶液中に含まれるフッ素を除去する一般的な方法としては、フッ素沈澱剤として消石灰や塩化カルシウムや硫酸カルシウム等のカルシウム化合物を添加し、フッ素を難溶性のフッ化カルシウムとして沈澱させる方法が知られている。
【0005】
例えば特許文献1には、フッ素含有排水中の硫酸イオン濃度を調整する硫酸イオン濃度調整工程と、フッ素含有排水中のフッ素を沈澱として分離除去するフッ素沈澱除去工程とを含むフッ素含有排水中のフッ素をフッ化カルシウムとして沈澱させて分離除去するフッ素含有排水からのフッ素分離方法が記載されている。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の方法によれば、硫酸イオン濃度を調整するために、フッ素含有排水に多量の塩化カルシウムを添加する必要があり、コストアップにつながっていた。
【0007】
また、排水等の水溶液中に含まれるフッ素を除去する一般的な方法として、リン酸化合物を添加してから固液分離を行うフッ化アパタイト法などが知られている。フッ化アパタイト法は、カルシウム、リン酸及びフッ素が反応することで、フッ化カルシウムよりも溶解度が低いフッ化アパタイト(Ca5(PO4)3F)を生成させるものである(例えば特許文献2参照)。
【0008】
しかし、従来のフッ化アパタイト法では、硫酸イオンが共存するフッ素含有排水において、カルシウムイオンを添加すると、カルシウムイオンと硫酸イオンが反応して石膏(硫酸カルシウム)が生成するため、十分にフッ素を沈澱除去できないという問題を有していた。また、生成した硫酸カルシウムはスラッジとして処理されるため、多量の硫酸カルシウムの生成はフッ素除去に要するコストの増加につながっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-47336号公報
【文献】特開昭62-125894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した従来の事情に鑑みて提案されたものであり、非鉄金属製錬工程から生じるフッ素含有排水から簡単且つ低コストで、沈澱物の生成を抑制しながら効率よくフッ素を分離除去することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、硫酸イオンを含むフッ素含有排水(以下、「フッ素含有排水」とも言う)中のフッ素を低減する処理方法について検討を重ね、フッ素含有排水にリン酸、水酸化マグネシウムおよび消石灰を一定の範囲の割合で添加することで、沈澱物の生成を抑制しながらフッ素含有沈澱としてフッ素が安定的に分離されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、上記目的を達成するための本発明の一態様は、非鉄金属製錬工程から生じる硫酸イオンを含むフッ素含有排水からのフッ素除去方法であって、前記フッ素含有排水にリン酸を添加するリン酸添加工程と、前記リン酸添加工程後のフッ素含有排水に水酸化マグネシウムを添加する水酸化マグネシウム添加工程と、前記水酸化マグネシウム添加工程後のフッ素含有排水に消石灰を添加して、生成したフッ素含有沈澱物を分離除去するフッ素沈澱除去工程とを有し、前記水酸化マグネシウム添加工程におけるフッ素含有排水のpHが4以上7以下となるように前記水酸化マグネシウムの添加量を調整することを特徴とする。
【0013】
このようにすれば、非鉄金属製錬工程から生じるフッ素含有排水から簡単且つ低コストで、沈澱物の生成を抑制しながら効率よくフッ素を分離除去することができる。また、無用な澱物量の生成を抑制しながら効率的にフッ素を分離除去することができる。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記リン酸の添加量を、前記フッ素含有排水中のフッ素(F)に対する前記リン酸中のリン(P)のモル比(P/F)が0.2以上5.0以下となるように調整してもよい。
【0015】
このようにすれば、フッ素含有排水に添加するリン酸のコストを抑えつつ、フッ素の沈澱量を増加することができる。
【0018】
また、本発明の一態様では、前記フッ素沈澱除去工程におけるフッ素含有排水のpHが7.1以上9.0以下となるように前記消石灰の添加量を調整してもよい。
【0019】
このようにすれば、無用な澱物量の生成を抑制しながら効率的にフッ素を分離除去することができる。
【0020】
また、本発明の一態様では、前記リン酸の添加量を、前記フッ素含有排水中のフッ素(F)に対する前記リン酸中のリン(P)のモル比(P/F)が0.25以上1.45以下となるように調整してもよい。
【0021】
このようにすれば、澱物量の増加を抑えつつフッ素除去排水中のフッ素濃度を低減することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、非鉄金属製錬工程から生じるフッ素含有排水から簡単且つ低コストで、沈澱物の生成を抑制しながら効率よくフッ素を分離除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るフッ素含有排水からのフッ素除去方法におけるフッ素の除去プロセスの概略を示す工程図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係るフッ素沈澱除去工程後のフッ素除去排水中のフッ素(F)濃度と、澱物量の関係を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明を適用した具体的な実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)について、以下の順序で図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることが可能である。
【0025】
1.フッ素含有排水からのフッ素除去方法
1-1.フッ素除去方法の概要
1-2.各工程の概略
1-3.リン酸添加工程
1-4.水酸化マグネシウム添加工程
1-5.フッ素沈澱除去工程
【0026】
[1.フッ素含有排水からのフッ素除去方法]
(1-1.フッ素除去方法の概要)
本実施の形態に係るフッ素含有排水からのフッ素除去方法(以下、「フッ素除去方法」という。)は、銅や鉛等の非鉄金属の製錬工程(非鉄金属製錬工程)から生じる排水中に含まれている原料鉱石由来のフッ素を除去するための方法である。
【0027】
非鉄金属の製錬においては、原料鉱石の熔解時に発生する排ガス中に含まれているフッ素や亜硫酸ガスをスクラバーで捕集して処理を行う。排ガス中のフッ素をスクラバーで捕集するとフッ素含有排水が得られる。
【0028】
また、排ガス中の亜硫酸ガスをスクラバーで捕集すると硫酸イオンが得られるため、フッ素含有排水中には硫酸イオンが含まれている。この硫酸イオン(SO4
2-)は、特許文献2で示された、リン酸(H3PO4)と消石灰(Ca(OH)2)を添加することによりフッ素をフッ素含有沈澱物として除去する方法において、多量のCaSO4を沈澱物として生成させてしまう。
【0029】
具体的に説明すると、特許文献2において、リン酸と消石灰の反応により生成するハイドロキシアパタイトCa10(PO4)6(OH)2は、OH-イオンの位置にF-イオンが置換してフッ化アパタイトが形成すると考えられる(化学式1)。
3H3PO4+5Ca(OH)2+F-→Ca5(PO4)3F+9H2O+OH-・・・・(化学式1)
【0030】
ここで、添加する消石灰の第一の役割はハイドロキシアパタイトが高pH側で生成するためにフッ素含有排水のpHを上昇させることであり、第二の役割は化学式1において示したようにフッ化アパタイトを生成させることである。しかしながら、フッ素含有排水中に多量に含まれる硫酸イオンSO4
2-と消石灰Ca(OH)2が反応し、添加した消石灰が石膏の生成に消費されてしまう。これにより多量のCaSO4が生成し、沈澱すると考えられる。そして、CaSO4の沈澱物はスラッジとして処理されるため、多量の沈澱物の生成はフッ素除去に要するコストの増加につながっていた。
【0031】
本発明による方法は、フッ素含有排水にリン酸を添加した後に、消石灰を添加するのではなく、フッ素含有排水にリン酸を添加した後に水酸化マグネシウムを添加し、消石灰を添加することを特徴とする。これにより、消石灰の第一の役割である、フッ素含有排水のpHの上昇を水酸化マグネシウムを用いて行う。水酸化マグネシウムと硫酸イオンSO4
2-との反応により生成するMgSO4は極めて水に溶けやすいため沈澱を生じない。このため、消石灰のみを用いた場合に引き起こされる、石膏による沈澱生成が抑制される。
【0032】
本発明によれば、非鉄金属製錬工程から生じるフッ素含有排水から、CaSO4等の沈澱物の生成を抑制しながら効率よくフッ素をフッ素含有沈澱物として分離除去することができる。
【0033】
(1-2.各工程の概略)
本発明の一実施形態に係るフッ素除去方法は、
図1に示すように、フッ素含有排水中にリン酸を添加する工程(以下、「リン酸添加工程S11」という。)と、リン酸添加工程後のフッ素含有排水中に水酸化マグネシウムを添加する水酸化マグネシウム添加工程(以下、「水酸化マグネシウム添加工程S12」という。)と、水酸化マグネシウム添加工程後のフッ素含有排水中のフッ素を沈澱として分離除去する工程(以下、「フッ素沈澱除去工程S13」という。)とを有するものである。
【0034】
(1-3.リン酸添加工程)
図1に示すリン酸添加工程S11では、リン酸をフッ素含有排水に添加する。本工程でリン酸をフッ素含有排水中に添加することで、後述するフッ素沈澱除去工程において水酸化マグネシウム及び消石灰と反応させてフッ素含有沈澱物を生成することができる。そして、フッ素を分離除去することができる。
【0035】
リン酸の添加量は、フッ素含有排水中の総フッ素量の0.2倍以上5.0倍以下の物質量(モル量)とするのが望ましい。リン酸の添加量がフッ素含有排水中の総フッ素量の0.2倍未満では、十分にフッ素を除去することができなくなってしまう。リン酸の添加量がフッ素含有排水中の総フッ素量の5.0倍を超えると、リン酸の添加量を増やしても生成する澱物量が大きくなり澱物廃棄のコストが大きくなってしまう。リン酸の添加量は、フッ素含有排水中の総フッ素量の0.2倍以上5.0倍以下とすることで、リン酸のコストを抑えつつ、フッ素含有沈澱を生成することができる。また、リン酸の添加量は、フッ素含有排水中の総フッ素量の0.25倍以上1.5倍以下とすることがさらに好ましい。リン酸の添加量をこの範囲とすることで、後述する
図2に示すように、澱物量の増加を抑えつつフッ素除去排水中のフッ素濃度を低減することができる。
【0036】
(1-4.水酸化マグネシウム添加工程)
図1に示す水酸化マグネシウム添加工程S12では、水酸化マグネシウムをリン酸添加工程後のフッ素含有排水に添加する。水酸化マグネシウムを添加することで、硫酸カルシウムのような沈澱物を発生させることなくフッ素含有排水のpHを上昇させることができる。
【0037】
水酸化マグネシウムの添加量は、pHが4以上7以下となるまで添加するのが望ましい。pH4未満では、水酸化マグネシウムの添加量が少なすぎるため、後の工程である消石灰添加工程でpHを上げるために多量の消石灰を添加する必要が生じ、多量の沈澱が生じてしまう。また、pH8を超えると、添加した水酸化マグネシウムが溶解せずやはり沈澱量の増加につながってしまう。水酸化マグネシウムの添加量を、pH4以上7以下となるよう調整することで、無用な沈澱物の生成を抑制しながら効率的にフッ素を分離除去することができる。
【0038】
(1-5.フッ素沈澱除去工程)
図1に示すフッ素沈澱除去工程S13では、水酸化マグネシウム添加工程後のフッ素含有排水中のフッ素をフッ素含有沈澱物として沈澱させて除去する。具体的には、リン酸添加工程S11で添加したリン酸と、水酸化マグネシウム添加工程S12で添加した水酸化マグネシウムと、フッ素沈澱除去工程S13で添加する消石灰により、フッ素含有沈澱物が生成しフッ素の分離除去が可能となる。
【0039】
フッ素沈澱除去工程S13において、消石灰の添加量を、pHが7.1以上9.0以下となるまで添加するのが望ましい。pH7.1未満では、消石灰の添加量が少なすぎるため、十分にフッ素含有沈澱物を生成することができず、排水中にフッ素が残留してしまう。また、pH9.0を超えると、添加した消石灰がフッ素含有排水中の硫酸イオンと反応し、多量の沈澱物が生じてしまう。消石灰の添加量を、pH7.1以上9以下となるよう調整することで、無用な沈澱物の生成を抑制しながら効率的にフッ素を分離除去することができる。
【0040】
フッ素沈澱除去工程S13では、消石灰を添加したフッ素含有排水に、濾過処理を施してフッ素をフッ素含有沈澱物として分離除去し、フッ素除去排水が得られる。このフッ素除去排水は、引き続いて排水処理施設に送られ、一般の排水と共に中和や酸化還元等の方法によって、重金属や有機物等を分離し、無害化された後に排出される。
【実施例】
【0041】
以下に示す実施例及び比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例及び比較例によって何ら限定されるものではない。
【0042】
実施例1では、フッ素濃度800mg/L(フッ素量80mg(4.2mmol))、硫酸30g/Lである非鉄金属製錬工程の排水(フッ素含有排水)100mLを始液としてビーカーに入れ、リン酸を0.1g添加した。この時のフッ素に対するリンのモル比(P/F)は、0.24であった。次に、リン酸を添加したフッ素含有排水のビーカーに、pHが6になるよう水酸化マグネシウムを添加した。さらに、pHが8になるよう粉末状の消石灰を添加し、スターラーで1時間撹拌し、固液分離した。固液分離後のろ液(フッ素除去排水)のフッ素濃度は、蒸留分離吸光光度法を用いて分析した。また、水分を含む澱物は、60℃で24時間乾燥させた後、重量を測定した。ろ液のフッ素濃度は330mg/Lであり、澱物重量は0.4gであった。
【0043】
(実施例2から実施例6)
実施例2から実施例6では、リン酸添加量を表1に記載のとおりとした以外は、実施例1と同様の操作を行い、固液分離後のろ液のフッ素濃度と澱物重量を測定した。ろ液(フッ素除去排水)のフッ素濃度と澱物重量は、それぞれ表1に記載のとおりであった。
【0044】
【0045】
(比較例1から比較例6)
比較例1から比較例6では、実施例1に記載の始液に、表1に記載のリン酸を添加し、さらに消石灰をpHが8になるよう粉末状の消石灰を添加した以外は、実施例と同じ操作を行い、固液分離後のろ液のフッ素濃度と澱物重量を測定した。ろ液(フッ素除去排水)のフッ素濃度と澱物重量は、それぞれ表1に記載のとおりであった。
【0046】
表1のデータを、横軸にろ液(フッ素除去排水)中のフッ素(F)濃度(mg/L)、縦軸に澱物量(g/100mL)を示す
図2にあらわした。ここで、澱物量は、ろ液(フッ素除去排水)100mL当たりの澱物重量を示す。
図2から、フッ素除去排水中のフッ素濃度が実施例と比較例とで同等である場合、澱物量は、実施例の方が比較例よりも明らかに低減していることがわかった。これは、実施例の場合、リン酸を添加して低下したpHを上げるために水酸化マグネシウムを添加したため、後に添加する消石灰の添加量を低減できたため、石膏を主とした沈澱の発生が抑制されたためと考えられる。また
図2において、実施例1から6及び比較例1から6のプロットは、右から順に、フッ素に対するリンのモル比(P/F)が0.24、0.72、1.46、2.19、2.91及び4.86における測定値となっているが、P/Fが0.24から1.46の範囲において、ろ液(フッ素除去排水)中のフッ素(F)濃度の低下量に対する澱物量の増加がより少なくなっているのがわかる。
【0047】
以上の結果から、硫酸イオンを含むフッ素含有排水に対して、リン酸、水酸化マグネシウムおよび消石灰を添加することにより、沈澱物の生成を抑制しながら効率よくフッ素を分離除去することができることがわかる。
【0048】
なお、上記のように本発明の各実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0049】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、フッ素除去方法の構成、動作も本発明の各実施形態及び各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0050】
S11 リン酸添加工程、S12 水酸化マグネシウム添加工程、S13 フッ素沈澱除去工程