IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立金属株式会社の特許一覧

特許7103111ノンハロゲン難燃性樹脂組成物、絶縁電線、及びケーブル
<>
  • 特許-ノンハロゲン難燃性樹脂組成物、絶縁電線、及びケーブル 図1
  • 特許-ノンハロゲン難燃性樹脂組成物、絶縁電線、及びケーブル 図2
  • 特許-ノンハロゲン難燃性樹脂組成物、絶縁電線、及びケーブル 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】ノンハロゲン難燃性樹脂組成物、絶縁電線、及びケーブル
(51)【国際特許分類】
   C08L 31/04 20060101AFI20220712BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20220712BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20220712BHJP
   H01B 7/295 20060101ALI20220712BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20220712BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
C08L31/04 S
C08L23/26
C08K3/22
H01B7/295
H01B7/18 H
H01B7/02 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018178833
(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2020050703
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】木部 有
(72)【発明者】
【氏名】梶山 元治
(72)【発明者】
【氏名】橋本 充
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 周
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-239901(JP,A)
【文献】特開2012-224693(JP,A)
【文献】特開2011-111567(JP,A)
【文献】特開2014-011140(JP,A)
【文献】特開2016-108390(JP,A)
【文献】特表2007-521370(JP,A)
【文献】特開2009-114230(JP,A)
【文献】特開2007-062330(JP,A)
【文献】特開2014-227447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 31/04
C08L 23/26
C08K 3/22
H01B 7/295
H01B 7/18
H01B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、
ベースポリマと、
前記ベースポリマ100質量部に対して150質量部以上250質量部以下の金属水酸化物と、
を含み、
前記ベースポリマは、(a)酢酸ビニル含有量が60質量%以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体、及び(b)融点が85℃以上であるポリオレフィン系ポリマを含み、
前記ベースポリマの全質量に対し、前記(a)及び前記(b)の合計質量の比率が80質量%以上であり、
前記(a)と前記(b)との質量比は、1:2~2:1の範囲であり、
前記ベースポリマは、(c)ガラス転移温度が-55℃以下である酸変性ポリオレフィンをさらに含み、
前記(a)、前記(b)、及び前記(c)の合計質量に対し、前記(c)の質量の比率が1質量%以上20質量%以下であり、
前記金属水酸化物は、水酸化マグネシウム及び/又は水酸化アルミニウムを含み、
前記(b)はエチレン-酢酸ビニル共重合体である
ノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、
架橋しているノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
絶縁層を備える絶縁電線であって、
前記絶縁層の少なくとも一部は請求項1又は2に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物から成る絶縁電線。
【請求項4】
請求項に記載の絶縁電線を備えるケーブル。
【請求項5】
シースを備えるケーブルであって、
前記シースの少なくとも一部は請求項1又は2に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物から成るケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はノンハロゲン難燃性樹脂組成物、絶縁電線、及びケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線の絶縁層やケーブルのシースを、難燃剤を含む難燃性樹脂組成物により構成することがある。難燃剤として、ハロゲン材料が知られている。近年、環境保全に対する活動の世界的な高まりにより、ノンハロゲン材料の普及が急速に進んでいる。特許文献1には、金属水酸化物等のノンハロゲン材料を難燃剤として使用した絶縁電線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-97881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
絶縁電線の絶縁層やケーブルのシースには、難燃性に加え、低温特性、耐燃料特性が良好であることが要求されることがある。
従来のノンハロゲン材料を含む難燃性樹脂組成物では、絶縁層やシースの難燃性と、低温特性及び耐燃料性とを両立させることは困難であった。例えば、ノンハロゲン材料である金属水酸化物は、ハロゲン材料に比べて難燃性が低い。そのため、絶縁層やシースの難燃性を高めるためには、難燃性樹脂組成物における金属水酸化物の配合量を多くする必要がある。しかしながら、金属水酸化物の配合量を多くすると、絶縁層やシースの伸び特性や低温特性等が悪化してしまう。
【0005】
本開示の一局面は、難燃性、低温特性、及び耐燃料性が良好であるノンハロゲン難燃性樹脂組成物、絶縁電線、及びケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一局面は、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、ベースポリマと、前記ベースポリマ100質量部に対して150質量部以上250質量部以下の金属水酸化物と、を含み、前記ベースポリマは、(a)酢酸ビニル含有量が60質量%以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体、及び(b)融点が85℃以上であるポリオレフィン系ポリマを含み、前記ベースポリマの全質量に対し、前記(a)及び前記(b)の合計質量の比率が80質量%以上であるノンハロゲン難燃性樹脂組成物である。
[発明の効果]
【0007】
本開示の一局面であるノンハロゲン難燃性樹脂組成物によれば、難燃性、耐燃料性及び低温特性が良好であるノンハロゲン難燃性樹脂組成物を得ることができる。
本開示の一局面である絶縁電線によれば、難燃性、耐燃料性及び低温特性が良好である絶縁電線を得ることができる。
本開示の一局面であるケーブルによれば、難燃性、耐燃料性及び低温特性が良好であるケーブルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】絶縁電線の長さ方向に直交する断面での絶縁電線の断面図である。
図2】絶縁電線の長さ方向に直交する断面での絶縁電線の断面図である。
図3】ケーブルの長さ方向に直交する断面でのケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の例示的な実施形態を、図面を参照しながら説明する。
1.ノンハロゲン難燃性樹脂組成物
ノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、難燃剤としてハロゲン材料を含まない難燃性樹脂組成物である。ノンハロゲン難燃性樹脂組成物はベースポリマを含む。ベースポリマは、(a)酢酸ビニル含有量が60質量%以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(以下では(a)成分とする)、及び(b)融点が85℃以上であるポリオレフィン系ポリマ(以下では(b)成分とする)を含み、ベースポリマの全質量に対し、(a)成分及び(b)成分の合計質量の比率が80質量%以上である。この構成により、難燃性、耐燃料性、及び低温特性が良好なノンハロゲン難燃性樹脂組成物が得られる。
【0010】
(a)成分において、酢酸ビニル含有量(以下ではVA量とする)は、60質量%以上80質量%以下が好ましく、60質量%がさらに好ましい。60質量%以上の範囲内で、VA量が低いほど、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の低温特性が一層向上する。VA量とは、エチレン-酢酸ビニル共重合体の全質量に対する、酢酸ビニルの質量の比率を意味する。
【0011】
(b)成分として、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、直鎖状超低密度ポリエチレン(VLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等が挙げられる。(b)成分として、EVAが好ましい。(b)成分がEVAである場合、難燃性の点で優れる。
【0012】
(b)成分であるEVAの結晶性が低いほど、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物に充填剤を添加しても、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の伸び等の物性が低下し難い。(b)成分であるEVAにおけるVA量は、17質量%程度が好ましい。(b)成分であるEVAの融点は、89℃程度が好ましい。
【0013】
(a)成分と(b)成分との質量比は特に限定されないが、1:2~2:1の範囲が好ましく、4:6~6:4の範囲がより好ましい。(a)成分と(b)成分との質量比が上記の範囲内である場合、耐燃料性の点で優れる。
【0014】
ベースポリマの全質量に対し、(a)成分及び(b)成分の合計質量の比率は80質量%以上である。そのことにより、耐燃料性の点で優れる。
ベースポリマは、例えば、(c)ガラス転移温度が-55℃以下である酸変性ポリオレフィン(以下では(c)成分とする)をさらに含んでいてもよい。ベースポリマが(c)成分をさらに含む場合、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の低温特性が一層優れている。
【0015】
(c)成分は、例えば、ポリオレフィンに酸をグラフトもしくは共重合させたものである。ポリオレフィンとして、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンαオレフィンコポリマ、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレンアクリル酸エチル共重合体、エチレンアクリル酸エステル共重合体、ポリウレタン、超低密度ポリエチレン、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン-ヘキセン-1共重合体、エチレン-オクテン-1共重合体等が挙げられる。ポリオレフィンとして、エチレンプロピレンゴム、エチレンαオレフィン共重合体、エチレンアクリル酸エチル共重合体が好ましい。
【0016】
酸として、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。ベースポリマは、1種のみの(c)成分を含んでいてもよいし、2種以上の(c)成分を含んでいてもよい。ガラス転移温度とは、DSC法により測定されたガラス転移温度を意味する。
【0017】
(a)成分、(b)成分、及び(c)成分の合計質量に対し、(c)成分の質量の比率は、1質量%以上20質量%以下である。このことにより、低温特性の点で優れる。
ベースポリマは、(a)~(c)成分以外のポリマ(以下では他のポリマとする)をさらに含んでいてもよい。他のポリマとして、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、直鎖状超低密度ポリエチレン(VLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-スチレン共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン-ブテン-ヘキセン三元共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン-オクテン共重合体(EOR)、エチレン共重合ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、ポリ-4-メチル-ペンテン-1、マレイン酸グラフト低密度ポリエチレン、水素添加スチレン-ブタジエン共重合体(H-SBR)、マレイン酸グラフト直鎖状低密度ポリエチレン、エチレンと炭素数が4~20のαオレフィンとの共重合体、エチレン-スチレン共重合体、マレイン酸グラフトエチレン-メチルアクリレート共重合体、マレイン酸グラフトエチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-エチルアクリレート-無水マレイン酸三元共重合体、ブテン-1を主成分とするエチレン-プロピレン-ブテン-1三元共重合体等が挙げられる。
【0018】
ノンハロゲン難燃性樹脂組成物は金属水酸化物を含む。金属水酸化物として、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。金属水酸化物として、水酸化マグネシウムが好ましい。ノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、1種のみの金属水酸化物を含んでいてもよいし、2種以上の金属水酸化物を含んでいてもよい。金属水酸化物は難燃剤として機能する。
【0019】
金属水酸化物は、表面処理されていてもよい。表面処理は、例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、脂肪酸、脂肪酸金属塩等を用いて行うことができる。脂肪酸として、例えば、ステアリン酸等が挙げられる。脂肪酸金属塩として、例えば、ステアリン酸カルシウム等が挙げられる。
【0020】
ノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、ベースポリマ100質量部に対して150質量部以上250質量部以下の金属水酸化物を含む。金属水酸化物の含有量が、ベースポリマ100質量部に対して150質量部以上であることにより、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の難燃性が高い。金属水酸化物の含有量が、ベースポリマ100質量部に対して250質量部以下であることにより、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の伸び特性等が高い。
【0021】
ノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、架橋させることができる。架橋方法として、例えば、照射架橋法、化学架橋法が挙げられる。照射架橋法は、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の成形後に電子線や放射線等を照射して架橋させる方法である。照射架橋法を実施する場合、あらかじめ架橋助剤をノンハロゲン難燃性樹脂組成物に配合しておく。
【0022】
化学架橋法は、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の成形後に加熱して架橋させる方法である。化学架橋法を実施する場合、あらかじめ架橋剤をノンハロゲン難燃性樹脂組成物に配合しておく。
架橋剤として、例えば、有機過酸化物等が挙げられる。有機過酸化物として、例えば、1,3-ビス(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド(DCP)等が挙げられる。
【0023】
ノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、必要に応じて、添加剤を含んでいてもよい。添加剤として、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、金属水酸化物以外の難燃剤、架橋剤、架橋助剤、滑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、カーボンブラック、着色剤等が挙げられる。
【0024】
酸化防止剤として、例えば、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。フェノール系酸化防止剤として、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート] 、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジル)-S-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)トリオン、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等が挙げられる。フェノール系酸化防止剤として、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましい。
【0025】
硫黄系酸化防止剤として、例えば、ジドデシル3,3‘-チオジプロピオネート、ジトリデシル3,3‘-チオジプロピオネート、ジオクタデシル3,3’-チオジプロピオネート、テトラキス[メチレン-3-(ドデシルチオ)プロピオネート]メタン等が挙げられる。硫黄系酸化防止剤として、テトラキス[メチレン-3-(ドデシルチオ)プロピオネート]メタンが好ましい。ノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、1種のみの酸化防止剤を含んでいてもよいし、2種以上の酸化防止剤を含んでいてもよい。
【0026】
金属不活性剤は、キレート形成により金属イオンを安定化し、酸化劣化を抑制する効果がある。金属不活性剤として、例えば、N-(2H-1,2,4-トリアゾール-5-イル)サリチルアミド、ドデカン二酸ビス[N2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジド]、2’,3-ビス[[3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジド等が挙げられる。金属不活性剤として、2’,3-ビス[[3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジドが好ましい。
【0027】
金属水酸化物以外の難燃剤として、例えば、非晶質シリカ、スズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、酸化亜鉛等の亜鉛化合物、ホウ酸カルシウム、ホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム等のホウ酸化合物、リン系難燃剤メラミンシアヌレート等の窒素系難燃剤、燃焼時に発泡する成分と固化する成分の混合物からなるインテュメッセント系難燃剤等が挙げられる。
【0028】
架橋助剤として、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等が好ましい。
滑剤として、例えば、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド等が挙げられ、具体的には、ステアリン酸亜鉛等が挙げられる。ノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、1種のみの滑剤を含んでいてもよいし、2種以上の滑剤を含んでいてもよい。
【0029】
カーボンブラックとして、例えば、ゴム用カーボンブラック(N900-N100:ASTM D 1765-01)等が挙げられる。着色剤として、例えば、ノンハロゲン用のカラーマスターバッチ等が挙げられる。
ノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、ベースポリマに加えて、絶縁性を大きく損なわない程度であれば、無機充填剤を含んでいてもよい。無機充填剤として、例えば、硅酸塩類、酸化物、炭酸塩、水酸化物等が挙げられる。
【0030】
硅酸塩類として、例えば、カオリナイト、カオリンクレー、焼成クレー、タルク、マイカ、ウォラストナイト、パイロフィライト等が挙げられる。酸化物として、例えば、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等が挙げられる。炭酸塩として、例えば、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム等が挙げられる。水酸化物として、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0031】
疎水性の焼成クレーやタルクは、高い電気特性を示す。また、疎水性の焼成クレーやタルクは、炭素を含まないため、一酸化炭素を発生させ難い。そのため、疎水性の焼成クレーやタルクは、無機充填剤として好ましい。
【0032】
無機充填剤に対し、シラン等を用いて表面処理を行うことができる。この場合、無機充填剤とベースポリマとの密着性が強固になる。また、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の絶縁性能が一層高くなる。ノンハロゲン難燃性樹脂組成物における無機充填剤の含有量は、ベースポリマ100質量部に対し、100質量部以下であることが好ましい。ノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、1種のみの無機充填剤を含んでいてもよいし、2種以上の無機充填剤を含んでいてもよい。
【0033】
2.絶縁電線
本開示の絶縁電線は、例えば、図1に示す構成を有する。絶縁電線10は、導体11と、絶縁層12とを備える。絶縁層12は導体11を被覆する。
【0034】
導体11は、例えば、通常用いられる金属線から成る。金属線として、例えば、銅線、銅合金線、アルミニウム線、金線、銀線等が挙げられる。金属線は、例えば、その外周に錫やニッケル等の金属めっき層を備える。導体11は、例えば、撚線であってもよい。
【0035】
絶縁層12は、本開示のノンハロゲン難燃性樹脂組成物から成る。絶縁層12は、例えば、図1に示すように、単層構造を備える。
本開示の絶縁電線は、例えば、図2に示す構成を有する。絶縁電線20は、導体21と、絶縁内層22と、絶縁外層23と、を備える。絶縁内層22は導体21を被覆する。絶縁外層23は絶縁内層22を被覆する。絶縁内層22及び絶縁外層23は絶縁層に対応する。絶縁電線20は、多層構造の絶縁層を備える。絶縁外層23は、最も外側にある絶縁層である。導体21は、導体11と同様のものである。絶縁外層23は、本開示のノンハロゲン難燃性樹脂組成物から成る。
【0036】
絶縁内層22は、例えば、ポリオレフィン系ポリマから成る。ポリオレフィン系ポリマとして、例えば、低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸ポリオレフィン等が挙げられる。絶縁内層22は、1種のみのポリオレフィン系ポリマを含んでいてもよいし、2種以上のポリオレフィン系ポリマを含んでいてもよい。
【0037】
絶縁内層22は、例えば、ゴム材料から成る。ゴム材料として、例えば、エチレン-プロピレン共重合体ゴム(EPR)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合ゴム(EPDM)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素添加NBR(HNBR)、アクリルゴム、エチレン-アクリル酸エステル共重合体ゴム、エチレンオクテン共重合体ゴム(EOR)、エチレン-酢酸ビニル共重合体ゴム、エチレン-ブテン-1共重合体ゴム(EBR)、ブタジエン-スチレン共重合体ゴム(SBR)、イソブチレン-イソプレン共重合体ゴム(IIR)、ポリスチレンブロックを有するブロック共重合体ゴム、ウレタンゴム、ホスファゼンゴム等が挙げられる。絶縁内層22は、1種のみのゴム材料を含んでいてもよいし、2種以上のゴム材料を含んでいてもよい。
【0038】
絶縁内層22は、例えば、その他の絶縁性材料から成っていてもよい。絶縁電線20は、必要に応じて、セパレータ、編組等を備えていてもよい。
絶縁電線20は、3層以上の絶縁層を備えていてもよい。その場合、例えば、最も外側の絶縁層を含む1以上の絶縁層は、本開示のノンハロゲン難燃性樹脂組成物から成る。また、例えば、最も外側の絶縁層を除く1以上の絶縁層は、絶縁内層22と同様の組成を有する。
【0039】
3.ケーブル
本開示のケーブルは、例えば、図3に示す構成を有する。ケーブル30は、2本の絶縁電線20と、シース31とを備える。絶縁電線20は、図2に示すものである。シース31は2本の絶縁電線20を内包する。シース31は本開示のノンハロゲン難燃性樹脂組成物から成る。シース31は難燃シースである。ケーブル30が備える絶縁電線20の数は2以外でもよい。ケーブル30は、図1に示す絶縁電線10を備えていてもよい。
【0040】
4.実施例
(4-1)ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の製造
表1に示す組成を有する実施例1~10のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を製造した。また、表2に示す組成を有する比較例1~7のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を製造した。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
表1及び表2における配合量の単位は質量部である。表1及び表2における材料は以下のものである。
・EVA1):ランクセス社製「レバプレン600」(VA量:60質量%、融点:無)
・EVA2):ランクセス社製「レバプレン800」(VA量:80質量%、融点:無)
・EVA3):三井・デュポンポリケミカル社製「エバフレックス(登録商標)V5274」
(VA量:17質量%、融点:89℃)
・EVA4):三井・デュポンポリケミカル社製「エバフレックスP1007」
(VA量:10質量%、融点:94℃)
・EEA5):日本ポリエチレン社製「レクスパールA1150」
(EA量:15質量%、融点:100℃)
・酸変性ポリオレフィン6):三井化学社製「タフマーMH7020」
・水酸化マグネシウム7):神島化学工業社製「マグシーズS4」
・酸化防止剤8):アデカ社製「AO-18」
・カーボンブラック9):旭カーボン社製「FTカーボン」
・滑材10):日東化成社製「ステアリン酸亜鉛」
・EVA11):三井・デュポンポリケミカル社製「エバフレックスV9000」
(VA量:41質量%、融点:無)
・EVA12):三井・デュポンポリケミカル社製「エバフレックスEV260」
(VA量:28質量%、融点:72℃)
EVA1)、EVA2)は(a)成分に対応する。EVA3)、EVA4)、EEA5)は(b)成分に対応する。酸変性ポリオレフィン6)は(c)成分に対応する。EA量とは、エチレン-アクリル酸エチル共重合体の全質量に対する、アクリル酸エチルの質量の比率を意味する。
【0043】
実施例1~10及び比較例1~7のノンハロゲン難燃性樹脂組成物の製造方法は以下のとおりである。表1又は表2に示す材料を秤量し、加圧ニーダーによって混練し、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物のペレットを得た。混練における開始温度は40℃であり、終了温度は190℃であった。
【0044】
(4-2)絶縁電線の製造
実施例1~10及び比較例1~7のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いて絶縁電線を製造した。絶縁電線の製造方法は以下のとおりである。
【0045】
スズめっき銅撚線を用意した。スズめっき銅撚線における構成は、37本/0.18mmであった。また、スズめっき銅撚線の外径は0.6mmであった。次に、スズめっき銅撚線をノンハロゲン難燃性樹脂組成物で被覆し、絶縁層を形成した。
【0046】
使用するノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、実施例1~10及び比較例1~7のノンハロゲン難燃性樹脂組成物のうちのいずれかである。絶縁層の厚さは0.6mmであった。次に、絶縁層に電子線を照射した。電子線の照射量は7.5MRadであった。絶縁層は架橋し、架橋体となった。
【0047】
以上の工程により、図1に示す絶縁電線10が得られた。絶縁電線10は、スズめっき銅撚線から成る導体11と、絶縁層12とを備える。絶縁層12は導体11を被覆する。
実施例i(iは1~10のいずれか)のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いて製造した絶縁電線を、以下では実施例iの絶縁電線とする。また、比較例j(jは1~7のいずれか)のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いて製造した絶縁電線を、以下では比較例jの絶縁電線とする。
【0048】
(4-3)絶縁電線の評価方法
実施例1~10及び比較例1~7の絶縁電線を以下のように評価した。
(i)初期引張り試験
絶縁電線から導体を取り除いた。その結果、チューブ状の絶縁層が得られた。このチューブ状の絶縁層を試験体とした。試験体に対し、変位速度250mm/minの条件で引張試験を実施し、引張強さと伸びとを測定した。測定結果を上記表1及び表2に示す。
【0049】
また、引張強さが10MPa以上であれば、上記表1及び表2に「○」を示し、引張強さが10MPa未満であれば、上記表1及び表2に「×」を示す。
また、伸びが150%以上であれば、上記表1及び表2に「○」を示し、伸びが150%未満であれば、上記表1及び表2に「×」を示す。
【0050】
(ii)耐燃料試験
初期引張試験の場合と同様に試験体を作成した。試験体を、70℃に熱したIRM903に168時間浸漬した。次に、試験体を室温で16時間程度放置した。次に、初期引張試験の場合と同様に、引張強さと伸びとを測定した。
【0051】
そして、測定した引張り強さの、初期引張試験での引張り強さに対する変化率(以下では引張強さ変化率とする)を算出した。また、測定した伸びの、初期引張試験での伸びに対する変化率(以下では伸び変化率とする)を算出した。引張強さ変化率及び伸び変化率を上記表1及び表2に示す。
【0052】
また、引張強さ変化率の絶対値が30%以下であれば、上記表1及び表2に「○」を示し、引張強さ変化率の絶対値が30%を超えていれば、上記表1及び表2に「×」を示す。
また、伸び変化率の絶対値が40%以下であれば、上記表1及び表2に「○」を示し、伸び変化率の絶対値が40%を超えていれば、上記表1及び表2に「×」を示す。
【0053】
(iii)低温試験
初期引張試験の場合と同様に試験体を作成した。試験体に対し、-40℃の下で、変位速度30mm/minの条件で引張試験を実施し、伸びを測定した。測定結果を上記表1及び表2に示す。
【0054】
また、伸びが30%以上であれば、上記表1及び表2に「○」を示し、伸びが30%未満であれば、上記表1及び表2に「×」を示す。
(iv)難燃性試験
EN60332-1-2に準拠した垂直燃焼試験(VFT)を行った。具体的な試験方法は以下のとおりである。長さ600mmの絶縁電線を、軸方向が垂直となるように保持した。次に、絶縁電線に炎を60秒間当てた。炎を取り去った後、60秒以内に消火すれば「○」と判断し、60秒を超えても消火しなければ「×」と判断した。判断結果を上記表1及び表2に示す。
【0055】
EN50266-2-4に準拠した垂直トレイ燃焼試験(VTFT)を行った。具体的な試験方法は以下のとおりである。全長3.5mの絶縁電線を7本撚って1つの束を作成した。11の束を等間隔に並べた。それぞれの束の軸方向は垂直である。11の束を20分間燃焼させた。その後、11の束は自己消炎した。自己消炎の後、11の束において、炭化長が2.5m以下であれば「○」と判断し、炭化長が2.5mを超えていれば「×」と判断した。判断結果を上記表1及び表2に示す。炭化長とは、バーナーの接炎位置から上方への炭化した長さを意味する。
(4-4)絶縁電線の評価結果
実施例1~10の絶縁電線では、全ての評価試験において良好な結果が得られた。実施例2の絶縁電線は、実施例1の絶縁電線に比べて、低温試験の評価結果が一層良好であった。その理由は、実施例2のノンハロゲン難燃性樹脂組成物が(c)成分を含んでいるためである。
【0056】
実施例2~4の絶縁電線の評価結果を比較すると、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物における金属水酸化物の含有量が多いほど、難燃性試験の評価結果が一層良好であった。一方、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物における金属水酸化物の含有量が少ないほど、初期引張試験における伸び、及び、低温試験における伸びが一層大きかった。
【0057】
実施例5、6の絶縁電線の評価結果を比較すると、(a)成分であるEVAにおけるVA量が多いほど、耐燃料試験及び難燃性試験の評価結果が一層良好であった。一方、(a)成分であるEVAにおけるVA量が少ないほど、低温試験の評価結果が一層良好であった。
【0058】
比較例1~7の絶縁電線では、いずれかの評価試験において、不十分な結果であった。さらに、比較例1の絶縁電線では、押出直後の絶縁層の粘着性が過度に高く、製造上の問題も生じた。
表2から明らかなように、(a)成分及び(b)成分を含有しない比較例3は耐燃料性が劣っていた。また、ベースポリマの全質量に対し、(a)成分及び(b)成分の合計質量の比率が80質量%に満たない比較例4及び比較例5は耐燃料性が劣っていた。
(b)成分を含有しない比較例1は低温特性が劣っていた。また、(a)成分を含有しない比較例2は難燃性が劣っていた。
金属水酸化物の含有量が本発明の規定範囲よりも少ない比較例6は難燃性が劣っていた。金属水酸化物の含有量が本発明の規定範囲よりも多い比較例7は低温特性が劣っていた。
5.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0059】
(1)上記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、上記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0060】
(2)上述したノンハロゲン難燃性樹脂組成物、絶縁電線、ケーブルの他、当該絶縁電線を構成要素とするシステム、ケーブルを構成要素とするシステム、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物の製造方法、絶縁電線の製造方法、ケーブルの製造方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0061】
10、20…絶縁電線、11、21…導体、12…絶縁層、22…絶縁内層、23…絶縁外層、30…ケーブル、31…シース
図1
図2
図3