(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】シリコンエピタキシャルウェーハの製造方法及びシリコンエピタキシャルウェーハ
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20220712BHJP
C23C 16/24 20060101ALI20220712BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20220712BHJP
C30B 25/16 20060101ALI20220712BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220712BHJP
B24B 1/00 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
H01L21/205
C23C16/24
C30B29/06 504A
C30B25/16
H01L21/304 621D
H01L21/304 622D
B24B1/00 A
(21)【出願番号】P 2018245106
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石橋 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】吉田みどり
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 大介
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-243845(JP,A)
【文献】特開2001-253797(JP,A)
【文献】特開2012-043892(JP,A)
【文献】特開2007-204286(JP,A)
【文献】国際公開第2009/150896(WO,A1)
【文献】特開2015-162522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/24
C30B 29/06
C30B 25/16
H01L 21/304
B24B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
{110}面、又は{110}面からのオフアングルが1度未満の面を主面とするシリコン単結晶ウェーハの前記主面に、エピタキシャル層を気相成長させるシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法において、
前記シリコン単結晶ウェーハの温度を1140℃~1165℃とし、0.5μm/分~1.7μm/分の成長速度で前記エピタキシャル層を気相成長させるシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項2】
シリコン単結晶ウェーハの主面は、{110}面からのオフアングルが0度超、1度未満の面である請求項1に記載のシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記エピタキシャル層を気相成長させたのち、前記エピタキシャル層の表面を鏡面研磨する請求項1又は2に記載のシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項4】
粒径が20nm以下の砥粒を含む研磨液を用いて、研磨代を0超、0.2μm以下として鏡面研磨する請求項3に記載のシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項5】
{110}面、又は{110}面からのオフアングルが1度未満の面を主面とするシリコン単結晶基板にエピタキシャル層を成長させたシリコンエピタキシャルウェーハであって、
微分干渉コントラスト法を用いて観察される、前記エピタキシャル層の表面の微小段差欠陥が、1.5個/300mmウェーハ以下であり、
白色顕微鏡を用いて観察される、前記エピタキシャル層の表面粗さのPV値が、10nm未満であるシリコンエピタキシャルウェーハ。
【請求項6】
シリコン単結晶
基板の主面は、{110}面からのオフアングルが0度超、1度未満の面である請求項5に記載のシリコンエピタキシャルウェーハ。
【請求項7】
前記エピタキシャル層の表面のヘイズレベル(SP2,DWOモードで測定)が0.4ppm以下である請求項5又は6に記載のシリコンエピタキシャルウェーハ。
【請求項8】
前記シリコン単結晶
基板は、ボロンが添加され、抵抗率が1mΩ・cm~100mΩ・cmに調整されたウェーハである請求項5~7のいずれか一項に記載のシリコンエピタキシャルウェーハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンエピタキシャルウェーハの製造方法及びシリコンエピタキシャルウェーハに関するものである。
【背景技術】
【0002】
{110}面を主面とするシリコンウェーハを用いると、pMOSトランジスターにおいてキャリア移動度が{100}面を主面とするウェーハよりも高いことから、pMOSトランジスターを高速化できることが知られている。一方、エピタキシャルウェーハは、エピタキシャル層の欠陥が極めて少ないことから高性能デバイスの素材として用いられている。このため、{110}面を主面としたエピタキシャルウェーハは、MPU等の高性能デバイスの素材として期待される(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、{110}面を主面とするエピタキシャルウェーハでは、エピタキシャル成長で形成される、幅100μm程度、高さ10nm程度の表面の凹凸形状の段差状微小欠陥が発生しやすく、微分干渉コントラスト(Differential Interference Contrast,DIC)法により検出されるDIC欠陥が大きくなるという問題がある。なお、DIC法は、ウェーハ表面の高さ又は深さが所定の閾値、例えば、2nmを超えた凹凸形状の段差状微小欠陥の個数を検出することができる方法であり、この種の段差状微小欠陥は、幅30~200μm、高さ2~90nm程度の欠陥であり、他の検出モードでは検出されにくい欠陥である。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、DIC欠陥を抑制することができるシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法及びシリコンエピタキシャルウェーハを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、{110}面、又は{110}面からのオフアングルが1度未満の面を主面とするシリコン単結晶ウェーハの前記主面に、エピタキシャル層を気相成長させるシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法において、
前記シリコン単結晶ウェーハの温度を1140℃~1165℃とし、0.5μm/分~1.7μm/分の成長速度で前記エピタキシャル層を気相成長させるシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法である。
【0007】
シリコン単結晶ウェーハの主面は、{110}面からのオフアングルが0度超、1度未満の面であることがより好ましい。
【0008】
前記エピタキシャル層を気相成長させたのち、前記エピタキシャル層の表面を鏡面研磨してもよい。この場合、粒径が20nm以下の砥粒を含む研磨液を用いて、研磨代を0超、0.2μm以下として鏡面研磨することがより好ましい。
【0009】
本発明は、{110}面、又は{110}面からのオフアングルが1度未満の面を主面とするシリコン単結晶基板にエピタキシャル層を成長させたシリコンエピタキシャルウェーハであって、
微分干渉コントラスト法を用いて観察される、前記エピタキシャル層の表面の微小段差欠陥が、1.5個/300mmウェーハ以下であり、
白色顕微鏡を用いて観察される、前記エピタキシャル層の表面粗さのPV値が、10nm未満であるシリコンエピタキシャルウェーハである。
【0010】
シリコン単結晶ウェーハの主面は、{110}面からのオフアングルが0度超、1度未満の面であることがより好ましい。
【0011】
前記エピタキシャル層の表面のヘイズレベル(SP2,DWOモードで測定)が0.4ppm以下であることがより好ましい。
【0012】
前記シリコン単結晶ウェーハは、ボロンが添加され、抵抗率が1mΩ・cm~100mΩ・cmに調整されたウェーハであることがより好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、DIC欠陥を抑制することができるシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法及びシリコンエピタキシャルウェーハを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例1~6と比較例1~6の成長速度及び成長温度(ウェーハ温度)を示すグラフである。
【
図2】ウェーハの温度及び成長速度とDIC欠陥との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施例1~6と比較例1~6の成長速度及び成長温度(ウェーハ温度)を示すグラフである。
【0016】
本実施形態のシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法は、{110}面、又は{110}面からのオフアングルが1度未満の面を主面とするシリコン単結晶ウェーハの前記主面に、エピタキシャル層を気相成長させるものである。主面の、{110}面からのオフアングルが1度以上であるウェーハは、キャリア移動度が高いといったデバイス特性が不十分となるので、本実施形態の製造方法を適用して好ましいウェーハは、{110}面からのオフアングルが0度の面を主面とするシリコン単結晶ウェーハ、又は{110}面からのオフアングルが0度超、1度未満の面を主面とするシリコン単結晶ウェーハである。特に、{110}面からのオフアングルが0度超、1度未満の面を主面とするシリコン単結晶ウェーハを用いると、DIC欠陥のみならず、エピタキシャル層の表面粗さのPV値をより小さくすることができる。
【0017】
本実施形態のシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法は、上述した結晶面を有するシリコン単結晶ウェーハの主面に、エピタキシャル層を気相成長させるにあたり、ウェーハの温度とエピタキシャル層の成長速度とを、ウェーハの温度を1140℃~1165℃とし、エピタキシャル層の成長速度を0.5μm/分~1.7μm/分とする条件で行う。より具体的には、
図1の実施例1~実施例6に示す範囲であり、1140℃×0.5μm
/分~1165℃×1.7μm/分の範囲である。ウェーハの温度は、気相成長装置のチャンバ内に投入されたウェーハの実温度であり、加熱ランプへの供給電力などにより制御される。また、エピタキシャル層の成長速度は、ウェーハの主面に形成されるエピタキシャル層の単位時間当たりの膜厚であり、気相成長装置のチャンバ内に供給する反応ガス(たとえば四塩化ケイ素SiCl
4やトリクロロシランSiHCl
3など)の単位時間当たりの濃度(原料ガスの濃度と流量)により制御される。
【0018】
本発明者らが、ウェーハの温度及び成長速度とDIC欠陥との関係を調べたところ、
図2に示す知見が得られた。
図2は、エピタキシャル層の成長速度を相対的に遅い条件と早い条件の2水準とし、これらの2水準のそれぞれについてウェーハの温度を相対的に高い温度と低い温度の2水準とした条件で、エピタキシャル層を形成した場合のDIC欠陥の結果を示すグラフである。これによれば、エピタキシャル層の成長速度を相対的に早く設定した場合は、ウェーハの温度を低く設定するほどDIC欠陥は少なくなり、逆にエピタキシャル層の成長速度を相対的に遅く設定して場合は、ウェーハの温度を高く設定するほどDIC欠陥は少なくなる。したがって、エピタキシャル層の成長速度を相対的に遅い速度とされる0.5μm/分~1.7μm/分の条件で行う場合には、ウェーハの温度を相対的に高いとされる1140℃~1165℃とすることが好ましい。このような条件で製造すると、微分干渉コントラスト法を用いて観察される、エピタキシャル層の表面の微小段差欠陥が、1.5個/300mmウェーハ以下であり、白色顕微鏡を用いて観察される、エピタキシャル層の表面粗さのPV値が、10nm未満であるシリコンエピタキシャルウェーハを得ることができる。
【0019】
本実施形態のシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法において、エピタキシャル層を気相成長させたのち、エピタキシャル層の表面を鏡面研磨してもよい。この場合、たとえば粒径が20nm以下の砥粒を含む研磨液を用いて、研磨代を0超、0.2μm以下として鏡面研磨することができる。エピタキシャル層の表面を鏡面研磨することで、エピタキシャル層の表面のヘイズレベル(SP2,DWOモードで測定)が0.4ppm以下であるシリコンエピタキシャルウェーハを得ることができる。
【0020】
なお、ゲッタリング効果を得るために、シリコン単結晶ウェーハは、ボロンが添加され、抵抗率が1mΩ・cm~100mΩ・cmに調整されたウェーハであってもよい。
【0021】
以下、本発明の実施例1~6及び比較例1~6により本発明をさらに詳細に説明する。
CZ法を用いたシリコン単結晶引き上げ装置により、主軸方位が<110>、直径305mmのp型シリコン単結晶インゴットを製造した。このインゴットを、直径300mmに外周研削した後、ノッチ加工を施し、抵抗率が1~100mΩcmのブロックを複数切り出した。このブロックを、ワイヤーソーを用い、{110}面の傾きが、傾斜方位<100>に対するオフアングル0度と0.35度となるようにスライスした。
【0022】
このウェーハを、面取、ラッピング、仕上げ面取り、エッチング、両面研磨、テープ面取り、エッジの鏡面研磨、表面の片面研磨の順に加工して鏡面研磨ウェーハを得た。なお、工程間の洗浄処理の記述は省略するが、通常のウェーハ加工プロセスと同様に洗浄処理した。このようにして得られたシリコン単結晶ウェーハの表面に、枚葉式CVD装置(アプライドマテリアル社製センチュラ)を用いて厚み4μmのシリコン単結晶エピタキシャル層を成長させた。この際の実施例1~6及び比較例1~6の成長速度と成長温度(ウェーハ温度)の各条件は、表1に示すとおりに設定した。
【0023】
CVD装置から取り出したウェーハは、ただちにSC-1洗浄液でパッシベーション処理した。得られたエピタキシャルウェーハの一部は、片面研磨装置と、粒径が20nm以下の砥粒を含む研磨液とを用い、エピタキシャル面の表面を0超、0.2μm以下だけ研磨した。
【0024】
得られたエピタキシャルウェーハについて、DIC欠陥密度、表面粗さのPV値、ヘイズ値をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。
【0025】
【0026】
《DIC欠陥密度》
エピタキシャル層の表面の微小段差欠陥密度の測定は、微分干渉コントラスト(Differential Interference Contrast、DIC)法により測定した。具体的には、ウェーハ表面検査装置(KLA-Tencor社製、Surfscan SP3)を用いて、DICモード(DIC法による測定モード)により測定した。測定にあたって、凹凸形状の段差状微小欠陥の高さの閾値を3nmに設定し、この閾値を超える段差状微小欠陥の個数(300mmウェーハ1枚当たり)を求めた。
【0027】
《表面粗さPV値》
エピタキシャル層の表面の粗さを示すPV値(Peak to Valley)は、白色顕微鏡により求めた。白色顕微鏡は、LEDビームをハーフミラーで分け、参照面と試料面に照射するとともに、これをZ方向に振りながら、参照面から戻ってきたビームと試料面から戻ってきたビームとの干渉が一番強くなるところを焦点位置として結像し、3D像を得るものである。
【0028】
《ヘイズ値》
エピタキシャル層の表面のヘイズ値の測定は、表面検査装置(KLA-Tencor社製、Surfscan SP2)を用いて、DWOモード(Dark Field Wide Obliqueモード、暗視野ワイド斜め入射モード)により測定した。
【0029】
《考察》
表1の実施例1~6に示すように、上述した結晶面を有するシリコン単結晶ウェーハの主面に、エピタキシャル層を気相成長させるにあたり、ウェーハの温度とエピタキシャル層の成長速度とを、ウェーハの温度を1140℃~1165℃とし、エピタキシャル層の成長速度を0.5μm/分~1.7μm/分とする条件で行うと、DIC欠陥密度を300mmウェーハ1枚当たり1.5個以下にすることができるとともに、表面粗さのPV値を10nm未満にすることができる。このとき、シリコン単結晶ウェーハの主面が、{110}面からのオフアングルが0度超、1度未満の面、具体的には0.35度であるウェーハについては、表面粗さのPV値を4nm以下までさらに向上させることができる。
【0030】
さらに、エピタキシャル層の表面を鏡面研磨したウェーハについては、鏡面研磨前のヘイズレベルが0.4ppm程度であるのに対し、ヘイズレベルを0.03ppm程度まで向上させることができるので、パーティクルカウンターによるLPD(Light Point Defects、輝点欠陥)等の品質管理が可能となる。
【0031】
これに対して、エピタキシャル層の成長条件のうちウェーハの温度が1140℃よりも低い比較例1~4や、エピタキシャル層の成長速度が1.7μm/分よりも早い比較例5~6は、DIC欠陥密度が著しく大きくなる。