(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】Cr合金ターゲット材
(51)【国際特許分類】
C23C 14/32 20060101AFI20220712BHJP
C22C 27/06 20060101ALI20220712BHJP
C22C 27/04 20060101ALI20220712BHJP
C22C 27/02 20060101ALI20220712BHJP
B22F 3/14 20060101ALN20220712BHJP
B22F 3/15 20060101ALN20220712BHJP
C22C 1/04 20060101ALN20220712BHJP
【FI】
C23C14/32 A
C22C27/06
C22C27/04 101
C22C27/02 103
B22F3/14 D
B22F3/14 101B
B22F3/15 M
C22C1/04 E
(21)【出願番号】P 2018561848
(86)(22)【出願日】2017-12-05
(86)【国際出願番号】 JP2017043547
(87)【国際公開番号】W WO2018131328
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】P 2017003496
(32)【優先日】2017-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 功一
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 和也
(72)【発明者】
【氏名】十亀 宏明
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-336611(JP,A)
【文献】特開2003-226963(JP,A)
【文献】特開2011-252227(JP,A)
【文献】特開平08-269700(JP,A)
【文献】特開2000-038662(JP,A)
【文献】特開2012-237056(JP,A)
【文献】特開2000-199055(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129449(WO,A1)
【文献】特開2015-196885(JP,A)
【文献】特開2005-220444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
B22F 1/00- 8/00
C22C 1/04- 1/05
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子比における組成式がCr
100-x-yM1
xM2
y、0.1≦x≦21.0、0.1≦y≦23.0、M1がTiおよびVから選択される一種以上の元素、M2がMo、Mn、B、W、Nb、Taより選択される一種以上の元素で表わされ、残部が不可避的不純物からな
り、アークイオンプレーティング法に用いるCr合金ターゲット材であって、不可避的不純物として、酸素を50~700質量ppm含有し、S、Al、Siを合計で300質量ppm以下含有することを特徴とするCr合金ターゲット材。
【請求項2】
不可避的不純物として、S、Al、Siを合計で60質量ppm以下含有することを特徴とする請求項1に記載のCr合金ターゲット材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着用のCr合金ターゲット材に関するものであり、特にアークイオンプレーティング法による蒸発源として有用なCr合金ターゲット材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
切削工具、摺動部品、金型等の表面には、耐摩耗性、耐焼付き性の向上を目的として、例えばCr合金からなる硬質皮膜が適用されている。Cr合金からなる硬質皮膜をコーティングするには、蒸発源としてCr合金ターゲット材を使用したイオンプレーティング法を適用することが一般的である。
【0003】
イオンプレーティング法の一種であるアークイオンプレーティング法は、減圧した反応ガス雰囲気中において、硬質皮膜の原料となるターゲット材をアーク放電にて瞬時に溶解、イオン化し、負に印加した被処理材に付着させて硬質皮膜を形成する方法である。アークイオンプレーティング法は、電子銃等を用いたイオンプレーティング法に比べて、蒸発金属のイオン化率が高く、密着力に優れた硬質皮膜が得られることから、現在ではその適用が増大している。
【0004】
アークイオンプレーティング法に用いられるCr合金ターゲット材は、所望の組成からなる板材で構成されており、一般的には粉末焼結法によって製造されている。このCr合金ターゲット材を使用して成膜した硬質皮膜は、使用中に、切削工具や摺動部品から剥離してしまう場合があり、切削工具における切削スピードの高速化や、摺動部品に更なる信頼性が要求される昨今では、この改良が求められている。
そして、例えば、特許文献1においては、Crを主成分とし、アルミニウム、ケイ素およびチタニウム等を含有するスパッタリングターゲット材において、不純物元素として酸素、炭素、硫黄、水素の含有量を3000質量ppm以下に制御することが提案されている。この特許文献1に開示のあるスパッタリングターゲット材は、密着力の高い硬質皮膜を形成するために有用な技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、TiやVを含有するCr合金ターゲット材を用いてアークイオンプレーティング法にて被処理材に硬質皮膜を形成したところ、異常放電が発生したり、さらにCr合金ターゲット材からドロップレットが無数に飛散して、これらが被処理材に付着するという新たな問題が発生することを確認した。このドロップレットは、硬質皮膜の平滑性を悪化させる有害なものであり、特に切削工具や摺動部品の耐摩耗性、耐焼付き性の向上を阻害する上、被処理材からドロップレットが脱落してしまい、切削工具や摺動部品の損傷という別の問題も誘発する虞がある。
そして、本発明者は、このドロップレットの発生の問題が、Cr合金ターゲット材に含有されるTiやV等の酸化活性な元素が中心となって、局部的な溶融が発生し、Cr合金ターゲット材の表面に、直径0.5mm以上のクレータが形成されることにより発生するものであることを確認した。
【0007】
本発明の目的は、上記課題を解決し、成膜時に、Cr合金ターゲット材の表面におけるクレータの生成を抑制でき、被処理材へのドロップレットの付着を抑制できる新規なCr合金ターゲット材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、TiやVを含有するCr合金ターゲット材において、成膜時に生じるドロップレットの原因を鋭意検討した結果、ターゲット材に含有される酸素値を所定量にすることにより、Cr合金ターゲット材の表面におけるクレータの生成を抑制でき、被処理材へのドロップレットの付着を抑制できることを見出した。また、本発明者は、前述の酸素値に加えて、Cr合金ターゲット材に含有されるS、Al、Siの合計を所定量以下に制限することにより、クレータの生成が抑制可能であることも見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、原子比における組成式がCr100-x-yM1xM2y、0.1≦x≦21.0、0.1≦y≦23.0、M1がTiおよびVから選択される一種以上の元素、M2がMo、Mn、B、W、Nb、Taより選択される一種以上の元素で表わされ、残部が不可避的不純物からなるCr合金ターゲット材であって、不可避的不純物として、酸素を10~1000質量ppm含有するCr合金ターゲット材の発明である。
また、本発明のCr合金ターゲット材は、前記酸素を、50~700質量ppm含有することが好ましい。
また、本発明のCr合金ターゲット材は、不可避的不純物として、S、Al、Siを合計で300質量ppm以下含有することがより好ましい。
また、本発明のCr合金ターゲット材は、不可避的不純物として、S、Al、Siを合計で60質量ppm以下含有することがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、Cr合金の硬質皮膜を被処理材にコーティングする際に、Cr合金ターゲット材の表面にクレータが生成することを抑制でき、被処理材へのドロップレットの付着を抑制できるCr合金ターゲット材を提供することが実現でき、切削工具、摺動部品、金型等の表面への硬質皮膜のコーティングに対して有用な技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】使用後の本発明例1のCr合金ターゲット材の表面観察写真。
【
図2】使用後の本発明例2のCr合金ターゲット材の表面観察写真。
【
図3】使用後の本発明例3のCr合金ターゲット材の表面観察写真。
【
図4】使用後の比較例1のCr合金ターゲット材の表面観察写真。
【
図5】使用後の比較例2のCr合金ターゲット材の表面観察写真。
【
図6】使用後の本発明例4のCr合金ターゲット材の表面観察写真。
【
図7】使用後の本発明例5のCr合金ターゲット材の表面観察写真。
【
図8】使用後の本発明例6のCr合金ターゲット材の表面観察写真。
【
図9】使用後の本発明例7のCr合金ターゲット材の表面観察写真。
【
図10】使用後の本発明例8のCr合金ターゲット材の表面観察写真。
【
図11】使用後の本発明例9のCr合金ターゲット材の表面観察写真。
【
図12】使用後の本発明例10のCr合金ターゲット材の表面観察写真。
【
図13】使用後の比較例3のCr合金ターゲット材の表面観察写真。
【
図14】使用後の比較例4のCr合金ターゲット材の表面観察写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の重要な特徴は、硬質皮膜の形成に有害な、Cr合金ターゲット材の表面に形成される直径が0.5mm以上のクレータの生成を抑制するために、酸素の含有量を所定量に制御する点にある。このクレータの生成を抑制することにより、被処理材にドロップレットが付着することを抑制できる。
【0013】
本発明のCr合金ターゲット材は、原子比における組成式がCr100-x-yM1xM2y、0.1≦x≦21.0、0.1≦y≦23.0、M1がTiおよびVから選択される一種以上の元素、M2がMo、Mn、B、W、Nb、Taより選択される一種以上の元素で表わされ、残部が不可避的不純物からなるCr合金ターゲット材であって、不可避的不純物として、酸素を10~1000質量ppm含有する。ここで、本発明のCr合金ターゲット材は、各主要構成元素を主要構成元素全体に対する原子%、主要構成元素以外の不可避的不純物をCr合金ターゲット材全体における質量ppmで表わす。
【0014】
上記のM1元素として、TiおよびVから選択される一種以上の元素の含有量は、コーティングされるCr合金の硬質皮膜の耐酸化性を向上させ、且つ硬質皮膜の硬度を大きく損なわない範囲として、M1元素を合計で0.1~21.0原子%に規定するものである。また、得られる硬質皮膜の耐酸化性の観点からは、M1元素は合計で0.5原子%以上が好ましい。また、得られる硬質皮膜の硬度の観点からは、M1元素は合計で15.0原子%以下が好ましい。
また、上記のM2元素として、Mo、Mn、B、W、Nb、Taより選択される一種以上の元素の含有量は、コーティングされるCr合金の硬質皮膜の耐焼付き性を向上させることが可能であることに加え、Cr合金ターゲット材を粉末焼結法等で製造する際に、焼結性の低下によって形成されるポアを抑制することが可能な範囲として、M2元素を合計で0.1~23.0原子%に規定するものである。また、得られる硬質皮膜の耐焼付き性の観点からは、M2元素は合計で0.5原子%以上が好ましい。また、製造性の観点からは、M2元素は合計で15.0原子%以下が好ましい。
そして、本発明のCr合金ターゲット材は、得られる硬質皮膜の熱伝導を向上させるという観点から、M1元素とM2元素との合計を10原子%未満にすることがより好ましい。
【0015】
本発明のCr合金ターゲット材は、酸素の含有量を10~1000質量ppmにする。
酸素は、原料粉末を焼結してCr合金ターゲット材を製造する過程で、Cr合金ターゲット材の中のTiおよびVから選択される一種以上の元素と反応して、電気伝導度がその他の金属相と大きく異なる酸化物相を形成してしまう。特に、アークイオンプレーティング法等でコーティングをする際には、その酸化物相が局部的な溶融発生の起点となり、ドロップレットの付着の原因となるクレータがCr合金ターゲット材の表面に生成される虞がある。このため、本発明のCr合金ターゲット材は、酸素の含有量の上限を1000質量ppmとする。
一方、TiおよびVから選択される一種以上の元素等の酸化活性な元素を含有させる場合は、Cr合金ターゲット材に含有される酸素を10質量ppm未満とすることが極めて困難である。これらの観点から、本発明のCr合金ターゲット材は、酸素の含有量を10~1000質量ppmにする。また、上記の酸化物相の形成を抑制する観点からは、酸素は700質量ppm以下が好ましく、500質量ppm以下がより好ましい。また、製造性の観点からは、酸素は50質量ppm以上が好ましく、100質量ppm以上がより好ましい。
【0016】
本発明のCr合金ターゲット材は、S、Al、Siを合計で300質量ppm以下にすることが好ましい。S、Alは、本発明のCr合金ターゲット材の主要構成元素と比較して、著しく融点が低く、成膜時に局部的な溶融発生の起点、すなわちクレータの起点となりやすい。また、Siは、本発明のCr合金ターゲット材の主要構成元素と反応することにより、脆化相を形成してしまい、クレータの起点となりやすいことに加え、成膜時やハンドリング時にCr合金ターゲット材本体の割れ等の破損を誘発したり、割れに伴う異常放電を発生させる場合がある。このため、本発明のCr合金ターゲット材は、S、Al、Siを合計で300質量ppm以下にすることが好ましい。また、上記と同様の理由から、S、Al、Siは合計で60質量ppm以下がより好ましい。
一方、Cr合金ターゲット材中のS、Al、Siを極限まで低減することは極めて困難であるため、現実的には、S、Al、Siは合計で1質量ppm以上が好ましい。また、製造性の観点からは、S、Al、Siは合計で10質量ppm以上がより好ましい。
【0017】
本発明のCr合金ターゲット材は、例えば、原料粉末として、Cr粉末と、TiおよびVから選択される一種以上の元素からなる粉末と、Mo、Mn、B、W、Nb、Taより選択される一種以上の元素からなる粉末とを混合して、これを加圧焼結することで得ることができる。
原料粉末として用いるCr粉末は、例えば、電解精錬によって製造した純度が99.9質量%以上のCrフレークを機械的に粉砕し、これを真空熱処理や水素雰囲気で還元処理することによって得ることができる。そして、Cr粉末は、粒径が500μm以下の粉末を用いることが好ましい。これにより、その他の金属粉末との混合性を向上させることが可能となり、均質な焼結体を得ることができる。また、Cr粉末は、粒径が45μm以上の粉末を用いることが好ましい。これにより、Cr粉末の表面に吸着する揮発性不純物の量を低減することができ、Cr合金ターゲット材の酸素含有量を上述の範囲に制御する上で好ましい。
【0018】
また、原料粉末として用いるTi粉末は、例えば、スポンジTiを真空2次精錬した、純度が99.9質量%以上の鋳塊を一旦水素化して機械的に粉砕した後、脱水素処理を施すことによって製造することができる。そして、Ti粉末は、粒径が500μm以下の粉末を用いることが好ましい。これにより、Cr粉末やその他の金属粉末との混合性を向上させることが可能となり、均質な焼結体を得ることが可能となる。また、Ti粉末は、粒径が1μm以上の粉末を用いることがより好ましい。これにより、Ti粉末の表面に吸着する揮発性不純物の量を低減することができ、Cr合金ターゲット材の酸素含有量を上述の範囲に制御する上で好ましい。
また、原料粉末として用いるV粉末は、例えば、アルミテルミット法により精錬されたV-Al合金に対して、さらに電子ビーム溶解による2次精錬を繰り返して得られた純度が99.9質量%以上の鋳塊を粉砕することによって製造することができる。そして、V粉末は、粒径が500μm以下の粉末を用いることが好ましい。これにより、Cr粉末やその他の金属粉末との混合性を向上させることが可能となり、均質な焼結体を得ることが可能となる。また、V粉末は、粒径が1μm以上の粉末を用いることが好ましい。これにより、V粉末の表面に吸着する揮発性不純物の量を低減することができ、Cr合金ターゲット材の酸素含有量を上述の範囲に制御する上で好ましい。
【0019】
また、Mo、Mn、B、W、Nb、Taより選択される一種以上の元素からなる粉末は、ドロップレットの発生を抑制するために、不純物として含まれる酸素を1000質量ppm以下まで低減することが好ましい。そして、これらの粉末は、粒径が1~150μmの粉末を用いることが好ましい。これにより、本発明のCr合金ターゲット材は、ドロップレットの一因となる酸化物相が低減され、上記の酸素含有量に制御する上で好ましい。
【0020】
本発明では、加圧焼結としては、例えば、熱間静水圧プレス法、ホットプレス法、通電焼結法等を適用することができる。特に好ましくは、焼結温度を900~1300℃、加圧圧力を50MPa以上とすることで、脆い金属間化合物相の形成が十分に抑制された焼結体を得ることができ、焼結密度を損なわず、良好な焼結が可能となる。
【実施例1】
【0021】
本発明例1となるCr合金ターゲット材を得るために、Cr粉末は、電解精錬により製造した純度が99.9質量%のCrフレークをボールミルにて粉砕し、真空熱処理を施した後、目開き300μmの篩で篩別分級した粉末を準備した。また、Ti粉末は、スポンジTiを真空2次精錬した純度が99.9質量%の鋳塊から切削屑を採取し、一旦水素化して粉砕した後に脱水素処理を施して製造した純度が99.9質量%のTi粉末を目開き150μmの篩で篩別分級した粉末を準備した。また、V粉末は、アルミテルミット法により精錬されたV-Al合金に対して、さらに電子ビーム溶解による2次精錬を繰り返して得られた純度が99.9質量%の鋳塊を粉砕した後、目開き150μmの篩で篩別分級した粉末を準備した。また、B粉末は、市販の純度が99質量%のB粉末を目開き45μmの篩で篩別分級した粉末を準備した。
【0022】
本発明例2となるCr合金ターゲット材を得るために、Cr粉末は、電解精錬により製造した純度が99.99質量%のCrフレークをボールミルにて粉砕し、水素雰囲気で還元処理を施した後、目開き150μmの篩で篩別分級した粉末を準備した。また、Ti粉末は、スポンジTiを真空2次精錬した純度が99.9質量%の鋳塊から切削屑を採取し、一旦水素化して粉砕した後に脱水素処理を施して製造した純度が99.9質量%のTi粉末を目開き45μmの篩で篩別分級した粉末を準備した。また、V粉末およびB粉末は、本発明例1と同じ粉末を準備した。
【0023】
上記で準備した各粉末を、原子比における組成式がCr90.2M15.2M24.6、具体的にはCr90.2Ti4.7V0.5B4.6となるように秤量した後にV型混合機にて混合し、軟鉄製のカプセルに充填し、450℃、4時間の条件で脱ガス封止した後に、温度1180℃、保持圧力100MPa、保持時間1時間の条件で熱間静水圧プレスによって加圧焼結し、焼結体を製造した。
得られた焼結体を直径105mm、厚さ16mmに機械加工して、Cr合金ターゲット材を作製した。
【0024】
本発明例3となるCr合金ターゲット材を得るために、本発明例1に使用したCr粉末と電解精錬により製造した純度が99.9質量%のCrフレークをボールミルにて粉砕した後、真空熱処理を行なわず、目開き300μmの篩で篩別分級してCr粉末を3:1で混合したCr混合粉末を準備した。また、Ti粉末、V粉末およびB粉末については、本発明例1と同じ粉末を準備した。上記で準備した各粉末を、原子比における組成式がCr90.2M15.2M24.6、具体的にはCr90.2Ti4.7V0.5B4.6となるように秤量した後にV型混合機にて混合し、上記と同じ焼結条件で加圧焼結した、本発明例3となるCr合金ターゲット材も準備した。
【0025】
比較例1となるCr合金ターゲット材を得るために、電解精錬により製造した純度が99.9質量%のCrフレークをボールミルにて粉砕した後、真空熱処理を行なわず、目開き300μmの篩で篩別分級してCr粉末を準備した。また、Ti粉末、V粉末およびB粉末については本発明例1と同じ粉末を準備した。上記で準備した各粉末を、原子比における組成式がCr90.2M15.2M24.6、具体的にはCr90.2Ti4.7V0.5B4.6となるように秤量した後にV型混合機にて混合し、上記と同じ焼結条件で加圧焼結した、比較例1となるCr合金ターゲット材も準備した。
【0026】
比較例2となるCr合金ターゲット材を得るために、本発明例2に使用したCr粉末と比較例1に使用したCr粉末を1:1で混合したCr混合粉末を準備した。また、Ti粉末、V粉末およびB粉末については、本発明例1と同じ粉末を準備した。上記で準備した各粉末を、原子比における組成式がCr90.2M15.2M24.6、具体的にはCr90.2Ti4.7V0.5B4.6となるように秤量した後にV型混合機にて混合し、上記と同じ焼結条件で加圧焼結した、比較例2となるCr合金ターゲット材も準備した。
【0027】
上記で作製した各Cr合金ターゲット材について、各元素の含有量は、Ti、V、BをICP発光分光法、酸素を不活性ガス融解―赤外線吸収法、Sを高周波燃焼―赤外線吸収法、Al、Siを原子吸光分光法により分析した。
また、上記の各Cr合金ターゲット材については、水中置換法によって嵩密度を測定し、この嵩密度をCr合金ターゲット材の組成比から得られる質量比で算出した元素単体の加重平均として得た理論密度で除した値に100を乗じて、相対密度を算出した。
各Cr合金ターゲット材の成分分析値と相対密度の値を表1に示す。
【0028】
上記で作製した各Cr合金ターゲット材を株式会社神戸製鋼所製のアークイオンプレーティング装置(型式:S-20)のカソードに配置し、チャンバー内を真空排気し、チャンバー内を450℃にて1Hr加熱した後に、Arガス圧0.5Pa、ターゲット電流100A、バイアス電圧600Vの条件にて2分間のメタルボンバード処理を行なった。
そして、メタルボンバード処理に用いた、使用後の各Cr合金ターゲット材の表面を観察して、ドロップレットの付着の原因となる直径が0.5mm以上のクレータの個数を測定した。その結果を表1に示す。尚、表1において、クレータの個数が200個を超えるものは、「200超」と表記し、クレータの個数が200個以下のものは、その測定個数を表記することにより、各Cr合金ターゲット材を評価した。
【0029】
【0030】
使用後の本発明例1~本発明例3のCr合金ターゲット材の表面観察写真を
図1~
図3に示す。また、使用後の比較例1および比較例2のCr合金ターゲット材の表面観察写真を
図4および
図5に示す。
比較例1および比較例2となる
図4および
図5には、ドロップレットの付着の原因となる直径が0.5mm以上のクレータが200個を超えて生成していることを確認した。
一方、本発明例1および本発明例2のCr合金ターゲット材は、
図1および
図2に示すように、ドロップレットの付着の原因となる直径が0.5mm以上のクレータが一切生成しておらず、本発明の有効性が確認できた。また、本発明例3となる
図3においても、直径が0.5mm以上のクレータが98個しか生成されておらず、比較例1および比較例2と比べて生成された直径が0.5mm以上のクレータが明らかに減少しており、本発明の有効性が確認できた。
本発明のCr合金ターゲット材によれば、これを用いた成膜時に、Cr合金ターゲット材の表面におけるクレータの発生を抑制し、被処理材にドロップレットの付着を抑制することができる。
【実施例2】
【0031】
本発明例4~本発明例10となるCr合金ターゲット材を得るために、本発明例1に使用したCr粉末、Ti粉末、V粉末およびB粉末を準備した。
さらに、Mo粉末およびW粉末は、それぞれMoO3粉末および酸化WO3粉末を還元処理し、これらをハンマーミルによって解砕して得られた、純度99.9質量%のMo粉末およびW粉末を準備した。
また、Mn粉末は、市販の純度99.0質量%のMn電解フレークを真空誘導溶解炉で溶解精錬して鋳造した後、ボールミルで粉砕し、得られた粉砕粉末をさらに目開き150μmの篩で篩別分級したMn粉末を準備した。
また、Nb粉末およびTa粉末は、各々目開き150μmおよび45μmに篩別分級された市販の粉末を準備した。
【0032】
上記で準備した各粉末を、原子比における組成式が各々表2に記載の組成となるように秤量した後にV型混合機で混合し、軟鉄製のカプセルに充填し、450℃、4時間の条件で脱ガス封止した後に、温度1180℃、保持圧力100MPa、保持時間1時間の条件で熱間静水圧プレスによって加圧焼結し、焼結体を製造した。
得られた各焼結体を直径105mm、厚さ16mmに機械加工して、Cr合金ターゲット材を作製した。
【0033】
上記で作製した各Cr合金ターゲット材について、各元素の含有量および相対密度は実施例1に記載の方法により分析、算出した。上記のCr合金ターゲット材の成分分析値と相対密度の値を表2に示す。
【0034】
【0035】
上記で作製した各Cr合金ターゲット材を実施例1に記載の条件により、メタルボンバード処理を行ない、使用後の各Cr合金ターゲット材の表面に形成された直径が0.5mm以上のクレータの個数を実施例1に記載の方法により測定した。その結果を表2に示す。尚、表2において、クレータの個数が200個を超えるものは、「200超」と表記し、クレータの個数が200個以下のものは、その測定個数を表記することにより、各Cr合金ターゲット材を評価した。
【0036】
使用後の本発明例4~本発明例10のCr合金ターゲット材の表面観察写真を
図6~
図12に示す。また、使用後の比較例3および比較例4のCr合金ターゲット材の表面観察写真を
図13および
図14に示す。
比較例3および比較例4となる
図13および
図14には、ドロップレットの付着の原因となる、直径が0.5mm以上のクレータが200個を超えて生成していることを確認した。
一方、本発明例4~本発明例10のCr合金ターゲット材は、
図6~
図12に示すように、ドロップレットの付着の原因となる直径が0.5mm以上のクレータが30個以下しか生成しておらず、本発明の有効性が確認できた。
本発明のCr合金ターゲット材によれば、これを用いた成膜時に、Cr合金ターゲット材の表面におけるクレータの発生を抑制し、被処理材にドロップレットの付着を抑制することができる。