(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】積層シート
(51)【国際特許分類】
B32B 5/22 20060101AFI20220712BHJP
H04R 7/02 20060101ALI20220712BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
B32B5/22
H04R7/02 E
B32B5/18 101
(21)【出願番号】P 2019032966
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】根本 友幸
(72)【発明者】
【氏名】石田 幹祥
(72)【発明者】
【氏名】高橋 潤
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-61297(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107880828(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102333269(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0079944(US,A1)
【文献】特開平9-316226(JP,A)
【文献】特表2018-523588(JP,A)
【文献】特開2005-6023(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0191242(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0054678(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-4300
H04R 7/02
C08J 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片面に樹脂層、多孔質フィルムが順次設けられた積層シートであり、積層シートの引張弾性率が1000~2500MPaであり、多孔質フィルムの平均細孔径が0.01~1μmの範囲である積層シート。
【請求項2】
基材フィルムがポリエステル系樹脂からなる、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
多孔質フィルムがポリプロピレン系樹脂からなる、請求項1又は2に記載の積層シート。
【請求項4】
樹脂層がアクリル系樹脂からなる、請求項1~3のいずれか1つに記載の積層シート。
【請求項5】
前記積層シートの比弾性率が1.0~2.5(m
2/s
2)/10
6の範囲である、請求項1~4のいずれか1つに記載の積層シート。
【請求項6】
多孔質フィルムと基材フィルムとの接着強度が0.4N/25mm以上である、請求項1~5のいずれか1つに記載の積層シート。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つに記載の積層シートからなる振動板。
【請求項8】
請求項7に記載の振動板を備えるスピーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層シート、振動板、及びスピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
多数の微細な空孔を有する多孔質フィルムは、超純水の製造、薬液の精製、水処理等に使用する分離膜、衣類・衛生材料等に使用する透湿防水性フィルム、電子機器や住宅、建材等に使用する断熱性フィルム、あるいは電池等に使用する電池用セパレータ等、各種分野で利用されている。しかしながら、内部に無数の空孔を有するために剛性が必要とされる用途には使用が難しかった。
【0003】
剛性を必要とする多孔質フィルムの用途として、振動して音を発生させるスピーカーの振動板が知られている。小型電子機器(例えば、携帯電話、ノートブックコンピューター、スマートフォン等)の普及により、小型のスピーカー(いわゆる、マイクロスピーカー)やマイクロフォン等の需要が高まっている。
【0004】
振動板をより振動させやすいものとし、小型化を図るため、弱い力で振動させることが可能な樹脂製の多孔質フィルムの一種である発泡シートでの振動板が検討されている。
例えば、特許文献1には、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする発泡シートを振動板に用いることについて記載されている。
また、発泡シートの剛性を強化する取り組みとして、特許文献2には不織布との積層構成、特許文献3にはアルミニウム面材との積層構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-178956号公報
【文献】特開2007-258864号公報
【文献】特開2004-064726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献2や特許文献3に開示されるように、多孔質フィルムと他のシートを積層化することによって、ある程度は剛性と軽量化を両立することができるが、前記に記載のように、電子機器のさらなる小型化によって、より軽量かつ剛性に優れ、長時間の振動等の外力が加わった場合においても、積層化されたフィルム同士の剥離のない積層シートが望まれていた。
本発明は、軽量でありながら剛性に優れ、フィルム同士の接着強度にも優れる積層シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基材フィルムの少なくとも片面に樹脂層、多孔質フィルムが順次設けられた積層シートであり、積層シートの引張弾性率が1000~2500MPaであり、多孔質フィルムの平均細孔径が0.01~1μmの範囲である積層シートに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の積層シートは、軽量でありながら剛性に優れ、シート同士の接着強度にも優れるため、スピーカー等の振動板として好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0010】
1.基材フィルム
基材フィルムは、必要な剛性を備えたフィルムであれば、材質及び構成は限定されない。
【0011】
基材フィルムは、単層であっても、多層であってもよいが、単層であることが好ましい。基材フィルムが多層の場合、2層であってもよく、3層以上の多層であってもよい。
【0012】
基材フィルムは、樹脂からなることが好ましく、ポリエステル系樹脂からなることが好ましい。多層の場合も各層はポリエステル系樹脂からなることが好ましい。
ポリエステル系樹脂は、ポリエステルを少なくとも50質量%以上含有し、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは100質量%含有する。
【0013】
前記ポリエステルは、ホモポリエステルであっても、共重合ポリエステルであってもよい。ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。前記芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等を挙げることができる。前記脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等を挙げることができる。代表的なホモポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレートを例示することができる。
【0014】
前記共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、セバシン酸等の1種又は2種以上を挙げることができ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0015】
ポリエステルの具体例としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレート(PBN)が例示される。
【0016】
その他の樹脂として、ポリアリレート類、ポリエーテルスルフォン、ポリカーボネート、ポリエーテルケトン、ポリスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエステル系液晶ポリマー、トリアセチルセルロース、セルロース誘導体、ポリプロピレン、ポリアミド類、ポリイミド(PI)、ポリシクロオレフィン類等を例示することができる。樹脂の中でも、PET、PEN、PIが取扱い性の点で好ましい。
【0017】
基材フィルムは、フィルム表面に易滑性を付与する目的及び各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を含有してもよい。
当該粒子の種類は、特に限定されるものではない。例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子、アクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機粒子等を挙げることができる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
粒子として、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
前記粒子の形状は、特に限定されるわけではない。例えば球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれであってもよい。
また、前記粒子の硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0018】
前記粒子の平均粒径は、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましく、2.5μm以下が更に好ましい。また、0.01μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。5μmを超える場合には、本基材フィルムの表面粗度が粗くなりすぎて、後工程において各種の表面機能層を形成させる場合等に不具合が生じる場合がある。
【0019】
粒子を用いる場合、粒子含有量は、基材フィルムの5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。また、0.01質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。粒子含有量をこのような範囲とすることで、フィルムの滑り性と透明性との両立が可能となるので好ましい。
【0020】
基材フィルムに粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用することができる。例えば、ポリエステルを製造する任意の段階において添加することができる。好ましくはエステル化もしくはエステル交換反応終了後、添加するのが良い。
【0021】
基材フィルムには、必要に応じて、従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料、紫外線吸収剤等を添加することができる。
【0022】
基材フィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではなく、9~125μmが好ましく、12~100μmがより好ましく、12~75μmが更に好ましい。
【0023】
基材フィルムは、例えば、樹脂組成物を溶融製膜方法や溶液製膜方法によりフィルム形状にすることにより形成することができる。多層構造の場合は、共押出してもよい。
また、一軸延伸又は二軸延伸したものであってもよく、剛性の点から、二軸延伸フィルムが好ましい。
【0024】
基材フィルムの引張弾性率は、汎用的なフィルムを用いる観点より、好ましくは2.0GPa以上4.5GPa以下、より好ましくは2.0GPa以上4.0GPa以下、更に好ましくは2.0GPa以上3.5GPa以下である。中でも汎用性の面で前記引張弾性率を有するポリエステルフィルムが好ましい。
【0025】
2.樹脂層
本発明の積層シートにおける樹脂層は、主成分として、樹脂からなり、好ましくは熱可塑性樹脂からなる。前記樹脂層は、樹脂以外の成分として、粒子や架橋剤等を含有することができる。
【0026】
多孔質フィルムと基材フィルムとの接着性と、耐溶剤性、耐熱性等の耐久性を両立させる観点から、樹脂層は、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂又はこれらの混合物からなることが好ましく、アクリル系樹脂からなることがより好ましい。
【0027】
2-1.アクリル系樹脂
前記アクリル系樹脂は、アクリル酸エステル類、ビニル系単量体、メタクリル酸エステル類、架橋性単量体からなる群より選択される1種類以上を重合して得られるものが好ましく、2種類以上を含有する単量体を重合して得られるものがより好ましく、これら単量体に由来する構成単位を有するものが好ましい。
例えば、2種類以上を含有する単量体を重合して得られるものとしては、架橋性単量体とアクリル酸エステル類との組み合わせ、架橋性単量体とメタクリル酸エステル類との組み合わせ、メタクリル酸エステル類とビニル系単量体との組み合わせ等が好ましく例示される。
【0028】
また、2種類の単量体(A/B)を用いる場合、配合比率(A/B)は質量比で、好ましくは90/10~10/90、より好ましくは、80/20~40/60、更に好ましくは70/30~40/60である。この場合、単量体Aとしては、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、1-アクリロキシ-3-ブテン、1-メタクリロキシ-3-ブテンが好ましく、単量体Bとしては、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが好ましい。
【0029】
架橋性単量体は、一分子中に2つ以上の重合性官能基を有する単量体のことを指す。
架橋性単量体としては、例えば、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、1-アクリロキシ-3-ブテン、1-メタクリロキシ-3-ブテン、1,2-ジアクリロキシ-エタン、1,2-ジメタクリロキシ-エタン、1,2-ジアクリロキシ-プロパン、1,3-ジアクリロキシ-プロパン、1,4-ジアクリロキシ-ブタン、1,3-ジメタクリロキシ-プロパン、1,2-ジメタクリロキシ-プロパン、1,4-ジメタクリロキシ-ブタン、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ジビニルベンゼン、1,4-ペンタジエン、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等を挙げることができる。これらは単独でも2種類以上を併用してもよい。
【0030】
アクリル酸エステル類としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル等のアクリル酸非環状アルキルエステル;アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル等のアクリル酸環状アルキルエステル;アクリル酸フェニル、アクリル酸ナフチル等のアクリル酸アリールエステル;アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸グリシジル等の官能基含有アクリル酸非環状アルキルエステル等が例示される。
【0031】
メタクリル酸エステル類としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル等のメタクリル酸非環状アルキルエステル;メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル等のメタクリル酸環状アルキルエステル;メタクリル酸フェニル等のメタクリル酸アリールエステル;メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-メトキシエチル、メタクリル酸グリシジル等の官能基含有メタクリル酸非環状アルキルエステル等が例示される。これらは単独でも2種類以上を併用してもよい。
【0032】
樹脂層を構成する樹脂の重合方法に制限はないが、光重合開始剤を用いて、光硬化させることが好ましい。光重合開始剤は、特に制限されず、例えば、ケトン系光重合開始剤、アミン系光重合開始剤等が挙げられる。
また、光硬化開始剤とともに、必要に応じて、増感剤を併用してもよい。
【0033】
樹脂層に用いられるアクリル系樹脂中の光重合開始剤の含有量は、前記単量体の合計を100質量部としたときに、光重合開始剤1~10質量部の範囲であることが好ましい。
光重合開始剤が1質量部以上であることで、所望する重合開始効果が得られ、また、光重合開始剤10質量部以下であることで、樹脂層の黄変を抑制することができる。光硬化開始剤及び増感剤は、光硬化性組成物の固形分基準として20質量%以下の割合で使用することが好ましい。
【0034】
2-2.ポリエステル系樹脂
前記ポリエステル系樹脂は、融点を調整するために、共重合ポリエステルが好ましい。共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、セバシン酸の一種又は二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種又は二種以上が挙げられる。
【0035】
また、多孔質シートに対する接着性向上のため、ポリエステルにポリアルキレングリコール類を含有させてもよい。ポリアルキレングリコール類としては、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。ポリアルキレングリコールの分子量は、フィルムの透明性を確保するため、好ましくは10000以下、より好ましくは8000以下である。
【0036】
2-3.粒子
樹脂層には、滑り性やブロッキングの改良のため、粒子を含有してもよい。
例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子、アクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機粒子等を挙げることができる。これらは1種単独で用いても、これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
2-4.架橋剤
架橋剤を用いる場合、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、メラミン化合物、カルボジイミド化合物を使用することが好ましい。中でも密着性向上の観点から、オキサゾリン化合物又はイソシアネート化合物の少なくとも1種を使用することがより好ましい。
かかる架橋剤を含有する場合、同時に架橋を促進するための成分、例えば架橋触媒等を併用することができる。
【0038】
3.多孔質フィルム
本発明における多孔質フィルムは、平均細孔径が0.01~1μmである。
多孔質フィルムの材質には制限はないが、本発明に規定する範囲の平均細孔径の細孔を効率よく穿孔するために、主成分は樹脂が好ましく、熱可塑性樹脂がより好ましく、オレフィン系樹脂が更に好ましく、プロピレン系樹脂がより更に好ましい。
多孔質フィルムには前記樹脂以外に、エラストマーを含むことが好ましく、エラストマーとしては、ビニル芳香族エラストマーがより好ましい。エラストマーを添加することにより、効率的に微細で均一性の高い多孔構造を得ることができ、空孔の形状や孔径を制御し易くなる。
また、多孔質フィルムには、結晶の制御、孔部を効率よく得る観点から、結晶核剤を含むことが好ましく、酸化防止剤等の他の添加物を含んでもよい。
以下に、プロピレン系樹脂、ビニル芳香族エラストマー、結晶核剤について詳細に記載する。
【0039】
3-1.プロピレン系樹脂
前記プロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、又はプロピレンとエチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネンもしくは1-デセン等のα-オレフィンとのランダム共重合体又はブロック共重合体等が挙げられる。この中でも、機械的強度の観点からホモポリプロピレンがより好適に使用される。
【0040】
また、プロピレン系樹脂は、立体規則性を示すアイソタクチックペンタッド分率が80~99%であることが好ましく、より好ましくは83~98%、更に好ましくは85~97%である。アイソタクチックペンタッド分率が80%以上であれば、機械的強度が良好である。一方、アイソタクチックペンタッド分率の上限については現時点において工業的に得られる上限値で規定しているが、将来的に工業レベルで更に規則性の高い樹脂が開発された場合においてはこの限りではない。アイソタクチックペンタッド分率とは、任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素-炭素結合による主鎖に対して側鎖である5つのメチル基がいずれも同方向に位置する立体構造あるいはその割合を意味する。13C-NMRスペクトルのメチル基領域のシグナルにより測定されるポリプロピレン分子鎖中のペンタッド単位から求められる。メチル基領域のシグナルの帰属は、A.Zambelli et al.(Macromol.8,687(1975))に準拠する。
【0041】
また、プロピレン系樹脂は、分子量分布を示すパラメータであるMw/Mnが1.5~10.0であることが好ましい。より好ましくは2.0~8.0、更に好ましくは2.0~6.0である。Mw/Mnが小さいほど分子量分布が狭いことを意味するが、Mw/Mnを1.5以上とすることで、十分な押出成形性が得られ、工業的に大量生産が可能である。一方、Mw/Mnを10.0以下とすることで、十分な機械的強度を確保することができる。Mw/MnはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって測定される。
【0042】
また、プロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、通常、MFRは0.5~15g/10分であることが好ましく、1.0~10g/10分であることがより好ましい。MFRを0.5g/10分以上とすることで、成形加工時において十分な溶融粘度を有し、高い生産性を確保することができる。一方、MFRを15g/10分以下とすることで、十分な強度を確保することができる。なお、MFRはJIS K7210-1(2014年)に準拠して温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
【0043】
なお、プロピレン系樹脂の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた重合方法等が挙げられる。
【0044】
プロピレン系樹脂としては、例えば、商品名「ノバテックPP」「WINTEC」(日本ポリプロ社製)、「バーシファイ」「ノティオ」「タフマーXR」(三井化学社製)、「ゼラス」「サーモラン」(三菱ケミカル社製)、「住友ノーブレン」「タフセレン」(住友化学社製)、「プライムポリプロ」「プライム TPO」(プライムポリマー社製)、「Adflex」「Adsyl」「HMS-PP(PF814)」(サンアロマー社製)、「インスパイア」(ダウケミカル社製)等、市販されている商品を使用できる。
【0045】
3-2.ビニル芳香族エラストマー
前記ビニル芳香族エラストマーは、スチレン成分を成分の一部とした熱可塑性エラストマーの1種で、軟質成分(例えばブタジエン成分)と硬質成分(例えばスチレン成分)との連続体からなる共重合体である。
【0046】
また、前記共重合体の種類について、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体が挙げられる。一般にブロック共重合体としては、線状ブロック構造や放射状枝分れブロック構造等種々のものが知られている。本発明においてはいずれの構造のものを用いてもよい。
【0047】
本発明においてビニル芳香族エラストマーを含む場合、温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が1g/10分以下のビニル芳香族エラストマーを含むことが好ましい。ポリプロピレン系樹脂中に分散した前記ビニル芳香族エラストマーは、樹脂との粘度差によってその形状が変化するが、前記範囲内におけるMFRのものであるならば、その形状が球状になり易い。球状分散したドメインは、アスペクト比が大きなドメインとは異なり、その後の延伸工程によって得られる多孔構造の均一性が高くなり易く、物性安定性に優れるので好ましい。さらに、上記範囲内におけるMFRであった場合、延伸工程時において、高い弾性率を有するマトリックスと低い弾性率のドメイン界面部分に応力が集中しやすくなるため、開孔起点が生じやすく、多孔化し易い。
【0048】
また、前記ビニル芳香族エラストマーは、スチレン含有量が10~40質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましい。ビニル芳香族エラストマー中のスチレン含有量が10質量%以上であることにより、効果的にポリプロピレン系樹脂中にドメインを形成することができ、スチレン含有量が40質量%以下であることにより、過度に大きなドメイン形成を抑制することができる。
【0049】
3-3.結晶核剤
多孔質フィルムには、結晶核剤を更に混合することが好ましい。結晶核剤を混合することにより、特に前記プロピレン系樹脂の結晶化が促進され、結晶構造が緻密に均一化する。それゆえ、延伸前のフィルムにおけるプロピレン系樹脂は緻密に均一化した結晶部と、該結晶部間に存在する非晶部とからなり、ビニル芳香族エラストマーはプロピレン系樹脂の非晶部に多く存在する。そのため、延伸によりプロピレン系樹脂の緻密な結晶部とビニル芳香族エラストマーとの界面で生じる多孔化は、マトリックスの結晶化に伴う弾性率の向上によって容易になり、かつ、結晶の緻密な均一化によって、得られる多孔構造も緻密で均一な多孔構造を形成しやすくなる。
【0050】
前記結晶核剤の含有量は、プロピレン系樹脂100質量部に対し、1.0×10-3~5.0質量部であることが好ましい。
【0051】
結晶核剤としては、以下に記載するα晶核剤又はβ晶核剤が例として挙げられるが、より均一な孔構造が形成されるという理由により、α晶核剤であることが好ましい。
【0052】
α晶核剤としては、例えば、タルク、ミョウバン、シリカ、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、カーボンブラック、粘土鉱物等の無機化合物;マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸、クエン酸、ブタントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、ナフテン酸、シクロペンタンカルボン酸、1-メチルシクロペンタンカルボン酸、2-メチルシクロペンタンカルボン酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、1-メチルシクロヘキサンカルボン酸、4-メチルシクロヘキサンカルボン酸、3,5-ジメチルシクロヘキサンカルボン酸、4-ブチルシクロヘキサンカルボン酸、4-オクチルシクロヘキサンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、4-シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、キシリル酸、エチル安息香酸、4-t-ブチル安息香酸、サリチル酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の脂肪族モノカルボン酸を除くカルボン酸;前記非脂肪族モノカルボン酸のリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム等の正塩又は塩基性塩;1・2,3・4-ジベンジリデンソルビトール等のジベンジリデンソルビトール系化合物;リチウム-ビス(4-t-ブチルフェニル)フォスフェート等のアリールフォスフェート系化合物;前記アリールフォスフェート系化合物の内、環状多価金属アリールフォスフェート系化合物と酢酸、乳酸、プロピオン酸、アクリル酸、オクチル酸、イソオクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、ベヘン酸、エルカ酸、モンタン酸、メリシン酸、ステアロイル乳酸、β-N-ラウリルアミノプロピオン酸、β-N-メチル-N-ラウロイルアミノプロピオン酸等の脂肪酸族モノカルボン酸のリチウム、ナトリウム又はカリウム塩等の脂肪酸モノカルボン酸アルカリ金属塩、もしくは塩基性アルミニウム・リチウム・ヒドロキシ・カーボネート・ハイドレートとの混合物;ポリ3-メチル-1-ブテン、ポリ3-メチル-1-ペンテン、ポリ3-エチル-1-ペンテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリ4-メチル-1-ヘキセン、ポリ4,4-ジメチル-1-ペンテン、ポリ4、4-ジメチル-1-ヘキセン、ポリ4-エチル-1-ヘキセン、ポリ3-エチル-1-ヘキセン、ポリアリルナフタレン、ポリアリルノルボルナン、アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、ポリジメチルスチレン、ポリビニルナフタレン、ポリアリルベンゼン、ポリアリルトルエン、ポリビニルシクロペンタン、ポリビニルシクロヘキサン、ポリビニルシクロペプタン、ポリビニルトリメチルシラン、ポリアリルトリメチルシラン等の高分子化合物、等が挙げられる。
【0053】
市販されているα晶核剤の具体例としては、新日本理化社製「ゲルオールD」シリーズ、「ゲルオールMD」シリーズ、ADEKA社製「NA」シリーズ、ミリケンケミカル社製「Millad」シリーズ、「Hyperform」シリーズ、BASF社製「IRGACLEAR」シリーズ等が挙げられる。
【0054】
β晶核剤としては、例えば、アミド化合物;テトラオキサスピロ化合物;キナクリドン類;ナノスケールのサイズを有する酸化鉄;1,2-ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウムもしくはコハク酸マグネシウム、フタル酸マグネシウム等に代表されるカルボン酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩;ベンゼンスルホン酸ナトリウムもしくはナフタレンスルホン酸ナトリウム等に代表される芳香族スルホン酸化合物;二もしくは三塩基カルボン酸のジもしくはトリエステル類;フタロシアニンブルー等に代表されるフタロシアニン系顔料;有機二塩基酸である成分Aと周期律表第IIA族金属の酸化物、水酸化物もしくは塩である成分Bとからなる二成分系化合物;環状リン化合物とマグネシウム化合物からなる組成物等が挙げられる。
【0055】
市販されているβ晶核剤の具体例としては、新日本理化社製β晶核剤「エヌジェスターNU-100」、β晶核剤の添加されたプロピレン重合体の具体例としては、Aristech社製ポリプロピレン「Bepol B-022SP」、Borealis社製ポリプロピレン「Beta(β)-PP BE60-7032」、mayzo社製ポリプロピレン「BNX BETAPP-LN」等が挙げられる。
【0056】
3-4.厚み及び空孔率
多孔質フィルムの厚みは5~300μmが好ましく、10~200μmがより好ましく、20~150μmが更に好ましい。
【0057】
多孔質フィルムの空孔率は、多孔フィルムの空間部分の割合を示す数値であり、40~70%であることが好ましい。下限としては、40%以上がより好ましく、45%以上が更に好ましい。一方で上限として、70%以下がより好ましく、65%以下が更に好ましい。
空孔率が40%以上であれば、該積層シートの軽量化に寄与できる。また、空孔率が70%以下であれば、フィルムの強度を保持できる。空孔率の測定方法は以下のとおりである。
測定試料の実質量W1を測定し、樹脂組成物の密度に基づいて空孔率が0%の場合の質量W0を計算し、これらの値から下記式に基づいて空孔率を算出する。
空孔率(%)={(W0-W1)/W0}×100
【0058】
3-5.平均細孔径
多孔質フィルムの平均細孔径は、0.01~1μmであり、0.02~0.9μmであることが好ましく、0.03~0.8μmであることが特に好ましい。多孔質フィルムの平均細孔径を0.01~1μmとすることで、基材フィルムとの貼りあわせ時に樹脂層が多孔質フィルムに対して一部浸透し、アンカー効果として働くことで、接着強度を向上することができる。多孔質フィルムの平均細孔径は、JIS K3832:1990に準拠したバブルポイント法にて、パームポロメータ(PMI社製、500PSIタイプ)を用いて測定でき、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0059】
4.積層シート
本発明の積層シートは、引張弾性率が1000~2500MPaの範囲である。本発明における引張弾性率は、JIS K7127の方法によって測定される。
引張弾性率が1000MPa以上であれば振動板として使用した際に、高温域の再生性が確保されるほか、振動板エッジ材として十分に使用可能な剛性(コシ)を有する。前記観点から、引張弾性率は1200MPa以上が更に好ましく、1400MPa以上が特に好ましい。一方、引張弾性率が2500MPa以下であれば、例えば、マイクロスピーカーの振動板の場合、ハンドリング性や高出力時の耐久性等に優れた厚み20~40μmのフィルムを用いても最低共振周波数(f0:エフゼロ)が十分低く、低音域の再生性が確保され音質が良好となるため好ましい。前記観点から、引張弾性率は2400MPa以下が更に好ましく、2300MPa以下が特に好ましい。
【0060】
本発明の積層シートは、比弾性率が1.0~2.5(m2/s2)/106の範囲であることが好ましい。比弾性率が1.0(m2/s2)/106以上であれば振動板として使用した際に、高温域の再生性が確保されるほか、軽量であるにもかかわらず、振動板エッジ材として十分に使用可能な剛性(コシ)を有する。前記観点から、比弾性率は1.2(m2/s2)/106以上であることが更に好ましく、1.4(m2/s2)/106以上であることが特に好ましい。一方、比弾性率が2.5(m2/s2)/106以下であれば、例えば、マイクロスピーカーの振動板の場合、ハンドリング性や高出力時の耐久性等に優れた厚み20~40μmのフィルムを用いても最低共振周波数(f0:エフゼロ)が十分低く、低音域の再生性が確保され音質が良好となるため好ましい。前記観点から、比弾性率は2.4(m2/s2)/106以下であることが更に好ましく、2.3(m2/s2)/106以下であることが特に好ましい。
【0061】
本発明の積層シートは、多孔質フィルムと基材フィルムとの接着強度が0.4N/25mm以上であることが好ましい。
本発明における多孔質フィルムと基材フィルムとの接着強度とは、多孔質フィルムと基材フィルムとの間に樹脂層を有する積層シートにおいて測定される当該多孔質フィルムと当該基材フィルムとの接着強度である。具体的には、JIS Z0237に準拠した180°剥離試験で得られる強度であり、基材フィルムを硬質面に固定し、多孔質フィルムを基材フィルムから180°折り返し、速度300mm/minで引き剥がしたときの応力である。なお、多孔質フィルムを硬質面に固定し、基材フィルムを引き剥がす方法で測定を行ってもよい。
接着強度は高いほど好ましいが、0.5N/25mm以上であることがより好ましい。接着強度が0.4N/25mm以上であると、長時間の使用によって、連続的に外力が加わった場合でも、多孔質フィルムが基材フィルムから剥離することがない。
本発明の積層シートにおいて、高い接着強度が得られる理由は定かではないが、多孔質フィルムと樹脂層とを貼り合せる際に、樹脂層成分が多孔に食い込む投錨効果によって、良好な接着性を維持していることも推察される。
【0062】
5.積層シートの製造方法
本発明の積層シートは、基材フィルムの少なくとも片面に樹脂層、多孔質フィルムが順次設けられるように貼り合わせることで製造することができる。
具体的には、基材フィルムの少なくとも片面に、溶剤に溶解された樹脂層を構成する組成物(以下、樹脂層組成物ともいう)を塗布し、乾燥して、樹脂層を得、これに多孔質フィルムを積層し、多孔質フィルム側から、又は基材フィルム側から熱源で加熱し、基材フィルムと多孔質フィルムとが密着した積層シートを得ることができる。ここで、多孔質フィルムと接している基材表面の樹脂層を少し溶融させることにより、接着強度に優れる積層シートを得ることができる。
また、同様にして、基材の両面に樹脂層、多孔質フィルムを順次設けてもよい。その場合の層構成は、多孔質フィルム/樹脂層/基材フィルム/樹脂層/多孔質フィルムとなる。
樹脂層組成物中の溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、アセトン等のケトン系溶媒;ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸アミル、酢酸プロピル、乳酸エチル、乳酸メチル、乳酸ブチル等のエステル系溶媒;トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ヘキサン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の炭化水素系溶媒等の有機溶媒が例示される。これらの有機溶媒は単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
また、加工の際には多孔質フィルム、基材、又は両方を摩擦等から保護するため、保護フィルムを片側、又は両側に積層して加工してもよい。使用する熱源に関しては、アイロン、ラミネーター、加熱ロール、ヒートシール装置、カレンダー装置、ロールプレス装置等の熱プレス機が例示される。
【0063】
6.振動板及びスピーカー
本発明の振動板は、前記積層シートからなるものである。すなわち、基材フィルムの少なくとも片面に樹脂層、多孔質フィルムが順次設けられ、引張弾性率が1000~2500MPaであり、多孔質フィルムの平均細孔径が0.01~1μmの範囲である積層シートからなる振動板である。
本発明の振動板は、軽量かつ剛性に優れ、用いられるフィルム同士の接着強度に優れるため、スピーカー、特にマイクロスピーカー等に用いることが好ましい。
【0064】
また、本発明のスピーカーは、前記振動板を備えるものである。すなわち基材フィルムの少なくとも片面に樹脂層、多孔質フィルムが順次設けられ、引張弾性率が1000~2500MPaであり、多孔質フィルムの平均細孔径が0.01~1μmの範囲である積層シートからなる振動板を備えるスピーカーである。
本発明のスピーカーは、軽量かつ剛性に優れ、用いられるフィルム同士の接着強度に優れる振動板を備えるため、最低共振周波数(f0:エフゼロ)が十分低く、低音域の再生性が確保され音質が良好である。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
測定法及び評価方法は次のとおりである。
【0066】
(1)平均細孔径
多孔質フィルムの平均細孔径は、パームポロメータ(PMI社製、500PSIタイプ)を用いて、JIS K3832:1990に準拠したバブルポイント法により測定した。
【0067】
(2)引張弾性率
得られた積層シートについてJIS K7127に準拠して温度23℃の条件で測定した。
【0068】
(3)密度
積層シートを1/1000mmのダイアルゲージを用いて無作為に10点測定して、その平均値である厚みTと、実質量Wを測定し、これらの値から下記式に基づいて密度を算出した。
密度ρ={W/T}
【0069】
(4)比弾性率
前記測定をした引張弾性率Eと密度ρより、下記式に基づいて比弾性率を算出した。
比弾性率={E/ρ}
【0070】
(5)接着強度
積層シートから押出方向に平行な帯状の幅25mmの試験片を切り出し、JIS Z0237に準拠して速度300mm/minの条件にて180°剥離試験を行ない、その結果得られた測定値(N/25mm)を層間の接着強度とした。
【0071】
(6)総合評価
実施例及び比較例で得られた、各シートについて、下記判定基準により、判定を行った。
(判定基準)
A(good):シートの比弾性率が1.0~2.5(m2/s2)/106であり、接着強度が0.4N/25mm以上である。
B(poor):シートの比弾性率が1.0~2.5(m2/s2)/106でない、及び/又は接着強度が0.4N/25mm未満である。
【0072】
(T1~T5:多孔質フィルム)
次の多孔質フィルムの製造例において使用した各種材料は、以下のようにして準備したものである。
(プロピレン系樹脂)
・A-1;ホモポリプロピレン(ノバテックPP FY6HA、MFR:2.4g/10分[230℃、2.16kg荷重]、Mw/Mn=3.2、日本ポリプロ社製)
・A-2;ホモポリプロピレン(ノバテックPP FY4、MFR:5.0g/10分、[230℃、2.16kg荷重]、日本ポリプロ社製)
(エラストマー)
・B-1;スチレン-エチレン・プロピレンブロック共重合体(グレード名;SEPTON1001、スチレン含有量:35質量%、MFR:0.1g/10分、クラレ社製)
・B-2;スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(グレード名;SEPTON8004、スチレン含有量:31質量%、MFR:<0.1g/10分、クラレ社製)
・B-3;スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(グレード名:SEPTON2005、スチレン含有量:20質量%、MFR:<0.1g/10分、クラレ社製)
・B-4;α-オレフィンコポリマー(タフマーPN3560、MFR:6.0g/10分[230℃、2.16kg荷重]、三井化学社製)
(結晶核剤)
・C-1:1,3:2,4-O-(4-メチルベンジリデン)-D-ソルビトール;「ゲルオールMD-LM30G」(新日本理化株式会社製;α晶核剤)
・C-2:2,6-ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド;「エヌジェスターNU-100」(新日本理化株式会社製;β晶核剤)
(酸化防止剤)
・D-1;トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトとテトラキス[3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸]ペンタエリスリトールとの1:1混合物(IRGANOX-B225、BASF社製)
【0073】
(多孔質フィルムT1の製造)
ポリプロピレン系樹脂(A-1)70質量部、ビニル芳香族エラストマー(B-1)30質量部、結晶核剤(C-1)0.1質量部を混合して、二軸押出機にて240℃で溶融押出し、混合物(M-1)を得た。リップ開度1mmのTダイで押出機に混合物(M-1)を用いて成形を行い、キャストロールに導かれて無孔膜状物を得た。その後、無孔膜状物は縦延伸機を用いて、20℃に設定したロールと40℃に設定したロール間において、ドロー比100%(縦延伸倍率2.0倍)を掛けて低温延伸を行った。次いで、120℃に設定したロール間において、ドロー比50%(縦延伸倍率1.5倍)を掛けて高温延伸を行った。縦延伸後のフィルムは、フィルムテンター設備(京都機械社製)にて、予熱温度145℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度145℃で横方向に3.0倍延伸した後、150℃で熱処理を行い、多孔質フィルムT1を得た。
【0074】
(多孔質フィルムT2の製造)
ポリプロピレン系樹脂(A-1)70質量部、ビニル芳香族エラストマー(B-2)30質量部、結晶核剤(C-1)0.1質量部を混合して、二軸押出機にて240℃で溶融押出し、混合物(M-2)を得た。その後、実施例1と同様の方法で多孔質フィルムT2を得た。
【0075】
(多孔質フィルムT3の製造)
ポリプロピレン系樹脂(A-1)70質量部、ビニル芳香族エラストマー(B-3)30質量部、結晶核剤(C-1)0.1質量部を混合して、二軸押出機にて240℃で溶融押出し、混合物(M-3)を得た。その後、実施例1と同様の方法で多孔質フィルムT3を得た。
【0076】
(多孔質フィルムT4の製造)
プロピレン系樹脂(A-1)100質量部、結晶核剤(C-2)0.2質量部、酸化防止剤(D-1)0.1質量部を混合して、二軸押出機にて280℃で溶融押出することで混合物(M-4)を得た。リップ開度1mmのTダイで押出機に混合物(M-4)を用いて成形を行い、キャストロールに導かれて無孔膜状物を得た。その後、無孔膜状物は縦延伸機を用いて、105℃に設定したロール間において、ドロー比65%を3段(縦延伸倍率4.5倍)掛けて縦延伸を行った。縦延伸後のフィルムは、フィルムテンター設備(京都機械社製)にて、予熱温度150℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度150℃で横方向に3.5倍延伸した後、155℃で熱処理を行い、多孔質フィルムT4を得た。
【0077】
(複層フィルムT5の製造)
プロピレン系樹脂(A-2)70質量部、エラストマー(B-4)30質量部を混合して、二軸押出機にて240℃で溶融押出することで混合物(M-5)を得た。リップ開度1mmのTダイで表裏層側押出機に混合物(M-5)、中層側押出機に混合物(M-1)を用いて成形を行い、キャストロールに導かれて複層無孔膜状物を得た。その後、複層無孔膜状物は縦延伸機を用いて、105℃に設定したロール間において、ドロー比65%を3段(縦延伸倍率4.5倍)掛けて縦延伸を行った。縦延伸後のフィルムは、フィルムテンター設備(京都機械社製)にて、予熱温度150℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度150℃で横方向に3.5倍延伸した後、155℃で熱処理を行い、表面に無孔層を有する複層フィルムT5を得た。
【0078】
(基材フィルムF1)
三菱ケミカル社製ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム ダイアホイル「T100タイプ75μm」
【0079】
(樹脂層組成物)
アクリル系樹脂(UC026:三菱ケミカル(株)製) 100質量部
アクリル系樹脂(BR-87:三菱ケミカル(株)製) 100質量部
シリカ粒子(SIRMIBK15WT%-B14:CIKナノテック(株)製) 5質量部
メチルエチルケトン(MEK) 300質量部
トルエン 100質量部
上記配合により、固形分濃度20質量%に調整した樹脂層組成物を作製した。
【0080】
[実施例1]
基材フィルムF1の両面に、樹脂層組成物を、乾燥後の塗布量が0.7g/m2になるように塗布、120℃、1minで乾燥して、樹脂層を設けた。
次に樹脂層表面に多孔質フィルムT1を貼りあわせ、熱プレス機にて110℃、4kg/cm2の圧力を1分間かけ、積層シートを得た。
【0081】
[実施例2]
実施例1において、多孔質フィルムをT2に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、積層シートを得た。
【0082】
[実施例3]
実施例1において、多孔質フィルムをT3に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、積層シートを得た。
【0083】
[実施例4]
実施例1において、多孔質フィルムをT4に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、積層シートを得た。
【0084】
[比較例1]
基材フィルムF1のみで評価を実施した。
【0085】
[比較例2]
多孔質フィルムT1のみで評価を実施した。
【0086】
[比較例3]
実施例1において、多孔質フィルムを複層フィルムT5に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、積層シートを得た。
【0087】
前記実施例及び比較例で得られた各積層シートの組成、特性、評価を次の表1に示す。
【表1】
【0088】
実施例1~4より、本発明の積層シートは比弾性率が高いため、軽量かつ剛性に優れ、更に接着強度が高いために各層が剥がれにくく、スピーカーの振動板として用いた際に、その効果を期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の積層シートは、剛性及び軽量化が必要な用途に好適に使用することができ、なかでも電子機器に使用されるマイクロスピーカー等の振動板として用いることができる。