(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】合成シリカガラス粉
(51)【国際特許分類】
C03B 20/00 20060101AFI20220712BHJP
C03C 12/00 20060101ALI20220712BHJP
C03C 13/04 20060101ALI20220712BHJP
C03B 37/012 20060101ALI20220712BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
C03B20/00 F
C03C12/00
C03C13/04
C03B20/00 D
C03B37/012 Z
G02B6/02 356A
(21)【出願番号】P 2019066683
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下 功朗
【審査官】松本 瞳
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-86250(JP,A)
【文献】特開昭59-227741(JP,A)
【文献】特開平9-86947(JP,A)
【文献】特開2009-184912(JP,A)
【文献】特表2006-501129(JP,A)
【文献】特表2009-514774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 20/00
C03B 37/012
C03C 1/00-14/00
G02B 6/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基(OH基)を10ppm以下の濃度で含有し、重水酸基(OD基)を含有し、OD基の濃度がOH基の濃度よりも高い、重水素化合成シリカガラス粉。
【請求項2】
前記OD基の濃度が100ppm以下である、請求項1に記載の重水素化合成シリカガラス粉。
【請求項3】
光ファイバー用原料である、請求項1又は2に記載の重水素化合成シリカガラス粉。
【請求項4】
合成シリカガラス粉を、重水と反応させる重水付加処理工程を含む、重水素化合成シリカガラス粉の製造方法。
【請求項5】
重水付加処理工程の後、重水付加された合成シリカガラス粉を脱水する脱水処理工程をさらに含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
ゾルゲル法により得られた乾燥シリカゲル粉を、1000℃以上1400℃以下で焼成する焼成処理工程、
焼成処理により得られた合成シリカガラス粉を重水と反応させる重水付加処理工程、及び
重水付加処理により得られた重水付加合成シリカガラス粉を脱水する脱水処理工程を含む、重水素化合成シリカガラス粉の製造方法。
【請求項7】
前記重水付加処理工程が、40℃以上100℃以下の飽和重水蒸気圧相当の重水蒸気雰囲気下において600℃以上1400℃以下で加熱することを含む、請求項6に記載の重水素化合成シリカガラス粉の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の重水素化合成シリカガラス粉を用いてオーバークラッドを形成する工程を含む、光ファイバーの製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の重水素化合成シリカガラス粉を用いてジャケット管を形成する工程を含む、ジャケット管の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の重水素化合成シリカガラス粉を用いてサブストレートチューブを形成する工程を含む、サブストレートチューブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカガラス材料の原料として使用される合成シリカガラス粉に関する。特に、本発明は光ファイバーのクラッドガラス層に用いることができる合成シリカガラス粉に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線通信に用いられる光ファイバーは、その光損失を低減するために赤外線を吸収する水酸基(OH基)のシリカガラス中の濃度を低減する必要があることが知られている。一般に数ppm以下のOH基の濃度が要求される。
【0003】
現在、実用化されている光ファイバー母材(以下プリフォームと呼ぶ。)の製造方法としては、主に、内付け法(MCVD法)、外付け法(OVD法)、および、気相軸付法(VAD法)が知られている。これらの方法で製造した光ファイバーにおけるOH基の存在量は十分に少なく、OH基による赤外線の吸収は、光ファイバーとして使用中に、周囲の部材から発生した水素がシリカガラス中の欠陥部分に結合し、OH基が発生する経時変化が問題になることがある程度であった。この問題に対し重水素ガス(D2)を用いてファイバー中に浸透させ、シリカガラスの欠陥部分にこれを結合させ、Si-D及びSi-ODとすることで、光ファイバーとして使用中にOH基が発生することを防ぐ技術が存在する(特許文献1)。
【0004】
一方、近年は生産性の向上のためプリフォームの太径化が望まれており、前記の方法で製造された一次プリフォーム(オプティカルクラッドで被覆されたオプティカルコア(光の通路)を含む)をオーバークラッドチューブに入れることで太径の二次プリフォームを製造するジャケット法(RIC法)も実用化されている。また、太径の二次プリフォームを製造する方法として、シリカガラス粉をオーバークラッド層に用いるサンドクラッディング法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光ファイバー中を伝搬する光信号は、オプティカルコア内部のみならずその外側のクラッド層(オプティカルクラッド層及びオーバークラッド層)にもその一部がはみ出して伝わることから、クラッド層においても光損失が低いことが要求される。サンドクラッディング法ではプリフォームのクラッド層の一部(オーバークラッド層)として、シリカ粉が利用されるが、天然のシリカ粉を使用した場合には各種金属不純物が存在し、また、既存の合成シリカガラス粉を使用した場合には金属不純物濃度は低いもののOH基の濃度が高く、いずれも光ファイバーの光損失が大きくなる。そのため、光ファイバーの光損失を低減するためには、一次プリフォームにおけるオプティカルコアが占める割合を小さくせざるを得ない。即ち、実質的に太径化に限界があるという欠点がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、プリフォームの太径化を容易にするため、OH基の濃度の低い合成シリカガラス粉を提供すること、及び該合成シリカガラス粉の容易な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、合成シリカガラス粉に対し、重水付加処理を施して製造した重水素化合成シリカガラス粉により上記課題を解決できることを見出した。即ち、重水の付加により、OD基は増加するもののOH基を減少させることができ、OD基は通信用に使用される赤外線の範囲に吸収ピークを実質的に持たないため、合成シリカガラス粉におけるOH基による赤外線吸収の影響を低減することができる。
【0009】
本発明は、以下のものを含む。
[1] 水酸基(OH基)を10ppm以下の濃度で含有し、重水酸基(OD基)を含有し、OD基の濃度がOH基の濃度よりも高い、重水素化合成シリカガラス粉。
[2] 前記OD基の濃度が100ppm以下である、[1]に記載の重水素化合成シリカガラス粉。
[3] 光ファイバー用原料である、[1]又は[2]に記載の重水素化合成シリカガラス粉。
[4] 合成シリカガラス粉を、重水と反応させる重水付加処理工程を含む、重水素化合成シリカガラス粉の製造方法。
[5] 重水付加処理工程の後、重水付加された合成シリカガラス粉を脱水する脱水処理工程をさらに含む、[4]に記載の製造方法。
[6] ゾルゲル法により得られた乾燥シリカゲル粉を、1000℃以上1400℃以下で焼成する焼成処理工程、
焼成処理により得られた合成シリカガラス粉を重水と反応させる重水付加処理工程、及び
重水付加処理により得られた重水付加合成シリカガラス粉を脱水する脱水処理工程を含む、重水素化合成シリカガラス粉の製造方法。
[7] 前記重水付加処理工程が、40℃以上100℃以下の飽和重水蒸気圧相当の重水蒸気雰囲気下において600℃以上1400℃以下で加熱することを含む、[6]に記載の重水素化合成シリカガラス粉の製造方法。
[8] [1]乃至[3]のいずれかに記載の重水素化合成シリカガラス粉を用いてオーバークラッドを形成する工程を含む、光ファイバーの製造方法。
[9] [1]乃至[3]のいずれかに記載の重水素化合成シリカガラス粉を用いてジャケット管を形成する工程を含む、ジャケット管の製造方法。
[10] [1]乃至[3]のいずれかに記載の重水素化合成シリカガラス粉を用いてサブストレートチューブを形成する工程を含む、サブストレートチューブの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、OH基の濃度が低い重水素化合成シリカガラス粉を提供できる。また、該重水素化合成シリカガラス粉を用い、容易に太径の二次プリフォームやマルチコアプリフォームを製造可能となることが期待できる。また、シリカガラス中の欠陥部分に作用させるのでは無く、一旦シロキサン骨格に重水(D2O)を付加させて初期のOH基の濃度よりもOD基濃度を高め、その後、脱水して水(D2O、HDO及びH2O)を脱離させることで、OH基濃度を下げることが目的であること、重水素化合成シリカガラス粉の原料である合成シリカガラス粉は粉であるため、透過性の高い重水素を使わなくてもよいことから、比較的安価で取り扱いの容易な重水を用いることで、水酸基(OH基)濃度を低減して、水酸基(OH基)による赤外線吸収の影響を十分に低減することができ、光ファイバー等の赤外線を透過させる光学機器に使用できる重水素化合成シリカガラス粉を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の
実施形態の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本発明の一実施形態は、水酸基(OH基)を10ppm以下の濃度で含有し、重水酸基(OD基)を含有し、OD基の濃度がOH基の濃度よりも高い、重水素化合成シリカガラス粉である。
【0013】
重水素化合成シリカガラス粉は、原料である合成シリカガラス粉が含有する一部のシロキサン結合に重水を付加することと、重水付加後の合成シリカガラス粉を脱水することにより製造する。ここで言う重水付加とは、原料が含有するシロキサン結合を重水により加水分解し、二つのOD基に変換することである。この反応を、重水付加反応ともいう。原料である合成シリカガラス粉が含有する一部のシロキサン結合を重水付加することで、合成シリカガラス粉中にOD基が生成する。最終的な重水素化合成シリカガラス粉におけるOH基の濃度を十分に低減するためには、生成するOD基の濃度が原料中に含まれるOH基の濃度よりも高くなるまで重水付加反応を行う。結果として、重水素化合成シリカガラス粉のOD基の濃度はOH基の濃度よりも高い。なお、合成シリカガラス粉におけるOH基及びOD基の濃度の定量は一般的なIR測定で実施できる。
【0014】
重水素化合成シリカガラス粉における水酸基(OH基)の濃度の上限は、10ppm以下、好ましくは5ppm以下、より好ましくは1ppm以下である。重水素化合成シリカガラス粉における水酸基(OH基)の濃度の下限は特にないが、通常0ppm以上である。これらの上限と下限は、いずれの組み合わせでもよい。シリカガラスが含有するOH基はIR測定で7200cm-1付近に吸収スペクトルを持つ。そのため、OH基の濃度が高いシリカガラスを材料にして光ファイバーを製造すると、光ファイバーにおける光損失の原因となるため、シリカガラス材料のOH基の濃度は低い方が好ましい。上記範囲内であれば、赤外線通信で使用される領域の吸収が小さいため、光損失が少ないことが求められる光ファイバー用に使用することができる点で好ましい。
【0015】
重水素化合成シリカガラス粉における重水酸基(OD基)の濃度の下限は、水酸基(OH基)の濃度より高く、通常10ppm以上である。また、重水酸基(OD基)の濃度の上限は、通常100ppm以下、好ましくは70ppm以下、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは40ppm以下である。これらの上限と下限は、いずれの組み合わせでもよい。また、一旦、重水酸基(OD基)を増加させ、それを脱水する際に水酸基(OH基)を減少させて、水酸基(OH基)の赤外線吸収の影響を減らすことが目的であるため、水酸基(OH基)の方が重水酸基(OD基)より少ないことが、本発明の効果を発揮していることになるため好ましい。
【0016】
また、原料である合成シリカガラス粉にOD基を導入するために利用するD源としては、従来よく知られるような重水素ではなく、重水を利用することが好ましい。重水素は反応性が高いものの高価であり、また、爆発する条件の範囲が広いことから、その使用の危険性は高い。よって、より安価でかつ安全な重水を重水素源として用いることは好ましい。また、重水と合成シリカガラス粉の重水付加反応において、シロキサン結合の重水付加によりOD基が生成する一方で、重水素による重水素化反応の場合のようにSi-D結合は生成しないため、本実施形態の重水素化合成シリカガラス粉は原理的にSi-D結合が少ない。
【0017】
重水素化合成シリカガラス粉の比表面積は特段限定されないが、通常0.001m2/g以上であり、好ましくは0.01m2/g以上であり、また通常1m2/g以下であり、0.3m2/g以下であることが好ましい。
【0018】
重水素化合成シリカガラス粉の粒径範囲は1μm以上1mm以下が好ましい。上記範囲内であれば、溶融してガラス部材の原料として使用される際、溶融させやすく、粉体としての取扱いも容易である。
【0019】
本発明において重水素化合成シリカガラス粉の製造工程では、粒径を変化させる工程は存在しないため、即ち、原料となる合成シリカガラス粉の粒径範囲として1μm以上1mm以下が好ましい。
原料となる合成シリカガラス粉の粒度分布としては、開口径300μmの篩を、全体の50wt%以上が通過するような粒径であることが好ましい。このような粒度分布であれば、重水付加反応が比較的速く進む。
【0020】
本発明の別の実施態様は、合成シリカガラス粉を重水と反応させる重水付加処理工程を含む、重水素化合成シリカガラス粉の製造方法である。
【0021】
本発明において重水素化合成シリカガラス粉の原料となる合成シリカガラス粉は、任意のものを用いることができるが、例えばゾルゲル法により得られるものを用いてもよい。合成シリカガラス粉ゾルゲル法の例としては、反応器にアルコキシシランと高純水とを、当量から10倍当量仕込み、ゾルゲル反応を行った後、粉砕、乾燥してシリカ前駆体である乾燥シリカゲル粉を得る。得られた乾燥シリカゲル粉を焼成し、合成シリカガラス粉を得ることができる。乾燥シリカゲル粉を焼成する温度は、通常1000℃以上、好ましくは1200℃以上であり、通常1400℃以下、好ましくは1300℃以下である。これらの上限と下限は、いずれの組み合わせでもよい。
【0022】
重水素化合成シリカガラス粉の原料となる合成シリカガラス粉が含有する水酸基(OH基)の濃度は、ある程度低いことが望ましい。合成シリカガラス粉におけるOH基の濃度の上限は、通常500ppm以下、好ましくは120ppm以下、より好ましくは60ppm以下である。合成シリカガラス粉におけるOH基の濃度の下限は特にないが、通常0ppm以上である。これらの上限と下限は、いずれの組み合わせでもよい。
【0023】
重水素化合成シリカガラス粉の原料となる合成シリカガラス粉は、金属不純物の濃度が低い高純度のものを用いることが好ましい。金属不純物の濃度が低いことで、合成シリカガラス粉を光ファイバーのクラッド乃至はオーバークラッドとして用いた際の、光損失を抑制することができる。金属不純物としては典型的には遷移金属があげられ、より具体的には銅、鉄、クロムなどが挙げられる。また、アルカリ土類金属、アルカリ金属などは、溶融粘度等の物性を変えてしまう点、また、シリカガラスの結晶化を触媒し失透をもたらす点で減らすことが好ましい。原料の合成シリカガラス粉における金属不純物の濃度の合計の上限は、好ましくは1ppm以下、より好ましくは0.1ppm以下である。金属不純物の濃度の合計の下限は特にないが、通常0ppb以上、つまり有効数字で1ppbに達しないレベルであれば、実質的な影響がないため費用対効果の点で無視してよい。これらの上限と下限は、いずれの組み合わせでもよい。金属不純物の濃度を低下させる手段は、従来の合成シリカガラス粉の製造方法として知られている方法を適用することができる。また、重水素化合成シリカガラス粉の製造工程においても、不純物の混入を避けるべく、原料の合成シリカガラス粉の接触部には高純度の合成シリカガラス製の部材を使用することが望ましい。
【0024】
重水付加処理は合成シリカガラス粉を重水に反応させることで実施する。重水付加処理は軽水が実質的に存在しない、つまり工業的に乾燥させた乾燥雰囲気に重水を共存させた雰囲気下で加熱することで実施することが好ましい。合成シリカガラス粉に反応させる重水は、D2Oの分子式を持つものが必要であり、一部にDHOの分子式を持つものが含まれていてもよい。重水付加反応と脱水反応によるOH基の低減を効率よく進めるためには
、D2Oの含有量が多い重水を用いることが好ましい。合成シリカガラス粉に反応させる重水の形態は、特に限定されないが、重水蒸気であることが好ましい。重水付加処理の雰囲気における重水の存在量は、40℃以上100℃以下の飽和重水蒸気圧相当であることが好ましい。密閉炉の場合、40℃以上100℃以下の飽和重水蒸気圧に相当する重水を入れて、重水付加処理を行う温度にすればよい。流通炉の場合、40℃以上100℃以下の飽和重水蒸気圧に相当する質量の重水が雰囲気中に存在していればよい。この最も簡単な方法は、流通させる雰囲気ガスを40℃以上100℃以下に保った重水中でバブリングさせたものを冷却することなく使用すればよい。重水付加処理の雰囲気における重水の存在量としてより好ましくは、60℃以上80℃以下の飽和重水蒸気圧相当であることである。
【0025】
重水付加処理は高温で実施することが、重水の合成シリカガラス粉内部への拡散およびシロキサン結合の重水付加反応が速く進む点で好ましい。重水付加処理温度は、通常600℃以上、好ましくは800℃以上、より好ましくは1000℃以上であり、また、通常1400℃以下、好ましくは1300℃以下、より好ましくは1250℃以下である。これらの上限と下限は、いずれの組み合わせでもよい。
【0026】
重水付加処理においては、処理後の重水付加合成シリカガラス粉中のOD基の濃度がOH基の濃度よりも高くなるように重水のD純度や重水の使用量を決定する。
【0027】
脱水処理は乾燥雰囲気下で加熱することで実施する。本明細書における脱水とは、OH基またはOD基の脱水縮合反応によってOH基又はOD基を除去することを意味する。脱水処理は高温で実施することが、OH基およびOD基の脱水縮合反応が速く進む点で好ましい。脱水処理温度は、通常1000℃以上、好ましくは1200℃以上であり、また、通常1400℃以下、好ましくは1300℃以下、より好ましくは1250℃以下である。これらの上限と下限は、いずれの組み合わせでもよい。
【0028】
重水付加処理と脱水処理は、必要に応じて繰り返して行うことで、OH基の濃度が好ましい範囲にある重水素化合成シリカガラス粉を得ることができる。また、重水付加処理と脱水処理に用いる装置は、特に限定されず、流通式でも密閉式でもよい。密閉式の炉を用いると、重水の使用効率が上がるので好ましい。
【0029】
本発明の別の実施態様は、上述の製造方法により得られた重水素化合成シリカガラス粉を用いてオーバークラッドを形成する工程を含む、光ファイバーの製造方法である。
重水素化合成シリカガラス粉は従来の合成シリカガラス粉と比較してOH基の濃度を十分に低くできるため、光ファイバーのクラッド乃至はオーバークラッドを形成する原料として好適に用いられる。重水素化合成シリカガラス粉をクラッド層の原料として、光ファイバーを製造すれば、光ファイバーの光損失を小さくすることができ、工業的に有用である。
【0030】
重水素化シリカガラス粉を用いてサンドクラッディング法によりオーバークラッドを形成する工程を含む、光ファイバーの製造方法を以下に例示する。
一例では、ガラスからなる一次プリフォーム(コアロッド)をシリカガラス管中に配置し、当該一次プリフォームとシリカガラス管との空間に重水素化合成シリカガラス粉を充填する。次いでシリカガラス粉が充填されたシリカガラス管を炉に入れてガラス(管およびシリカガラス粉)を軟化させ、線引きすることで、光ファイバーを製造できる。また、シリカガラス粉が充填されたシリカガラス管を直接線引きせず、一旦溶融ガラス化した二次プリフォームを経由してもよい。シリカガラス管は市販品を用いてもよい。また、ガラスを軟化させるための炉の温度は、当業者が適宜設定可能であり、一例では2000℃以上2500℃以下であってよい。なお、光ファイバーの製造方法はこれに限られず、公知
の方法により製造してもよい。また、本発明の合成シリカガラス粉は、クラッド部をジャケット法(Sleeving法)で製造する際のジャケット管(チューブ又はシリンダーと呼ばれることもある)やMCVD法等でスートを堆積させるためのサブストレートチューブの原料として用いることもできる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0032】
[実施例1]
テトラメトキシシランの加水分解縮合によって得られた乾燥シリカゲル粉を、乾燥雰囲気下で1220℃の温度で焼成して合成シリカガラス粉を作製した。当該合成シリカガラス粉の水酸基(OH基)の濃度は54ppmであった。当該合成シリカガラス粉をさらに60℃における重水の飽和蒸気圧に相当する重水を含む空気雰囲気下で1000℃、7時間の焼成を行うことで、重水付加された合成シリカガラス粉を作製した。当該重水付加合成シリカガラス粉の重水酸基(OD基)の濃度は682ppmであった。続いて、当該重水付加合成シリカガラス粉を乾燥空気雰囲気下で1200℃、24時間の焼成を行うことで脱水し、重水素化合成シリカガラス粉を作製した。当該重水素化合成シリカガラス粉のOH基の濃度は10ppm、OD基の濃度は39ppmであった。
【0033】
[比較例1]
テトラメトキシシランの加水分解縮合によって得られた乾燥シリカゲル粉を、乾燥空気の雰囲気下で1220℃の温度で焼成して合成シリカガラス粉を作製した。当該合成シリカガラス粉のOH基の濃度は54ppmであった。当該合成シリカガラス粉を、重水付加処理を行わず乾燥空気雰囲気下で1200℃、24時間の焼成を行って脱水処理を行った。当該合成シリカガラス粉のOH基の濃度は19ppmであった。
【0034】
[比較例2]
テトラメトキシシランの加水分解縮合によって得られた乾燥シリカゲル粉を、乾燥雰囲気下で1220℃の温度で焼成して合成シリカガラス粉を作製した。当該合成シリカガラス粉のOH基の濃度は54ppmであった。当該合成シリカガラス粉をさらに60℃における水の飽和蒸気圧に相当する水を含む空気雰囲気下で1000℃、7時間の焼成を行うことで、水付加された合成シリカガラス粉を作製した。当該水付加合成シリカガラス粉のOH基の濃度は532ppmであった。続いて、当該水付加合成シリカガラス粉を乾燥雰囲気下で1200℃、24時間の焼成を行うことで脱水処理を行い、脱水シリカガラス粉を作製した。当該脱水合成シリカガラス粉のOH基の濃度は30ppmであった。