(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】シリコン単結晶基板中の炭素濃度評価方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20220712BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20220712BHJP
C30B 13/00 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
H01L21/66 L
C30B29/06 501A
C30B13/00
(21)【出願番号】P 2019130241
(22)【出願日】2019-07-12
【審査請求日】2021-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】竹野 博
【審査官】綿引 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-036661(JP,A)
【文献】特開2019-040929(JP,A)
【文献】特開2016-044109(JP,A)
【文献】特開平03-003244(JP,A)
【文献】特表2019-505472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
C30B 29/06
C30B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮遊帯溶融法により育成したシリコン単結晶から作製したシリコン単結晶基板に含まれる炭素濃度を評価する方法であって、
予め、前記シリコン単結晶から作製した炭素濃度の異なる複数の試験用シリコン単結晶基板を準備して、該複数の試験用シリコン単結晶基板に所定の熱処理を施す第1の工程と、
前記所定の熱処理を施した前記複数の試験用シリコン単結晶基板において、それぞれキャリアの再結合ライフタイムLTを測定する第2の工程と、
前記測定した複数の試験用シリコン単結晶基板のキャリアの再結合ライフタイムLTに基づいて、前記シリコン単結晶基板におけるキャリアの再結合ライフタイムLT又は該再結合ライフタイムの逆数である1/LTと、前記シリコン単結晶基板中の炭素濃度との相関関係を求める第3の工程と、
前記シリコン単結晶から作製した炭素濃度を評価する評価用シリコン単結晶基板に対し、前記第1の工程で施した前記複数の試験用シリコン単結晶に対する所定の熱処理と同等の熱処理を施す第4の工程と、
前記同等の熱処理を施した前記評価用シリコン単結晶基板においてキャリアの再結合ライフタイムLTを測定して、該評価用シリコン単結晶基板のキャリアの再結合ライフタイムLT又は1/LTを得る第5の工程と、
前記得た評価用シリコン単結晶基板のキャリアの再結合ライフタイムLT又は1/LTと、前記相関関係に基づいて、前記評価用シリコン単結晶基板中の炭素濃度を評価する第6の工程と
を含むことを特徴とするシリコン単結晶基板中の炭素濃度評価方法。
【請求項2】
前記第1の工程において、前記複数の試験用シリコン単結晶基板に対して施す所定の熱処理として、熱処理温度が600℃以上650℃以下で、熱処理時間が4時間以上16時間以下の熱処理を施すことを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶基板中の炭素濃度評価方法。
【請求項3】
前記第2の工程及び第5の工程において、前記キャリアの再結合ライフタイムLTを測定する方法として、マイクロ波光導電減衰法を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコン単結晶基板中の炭素濃度評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮遊帯溶融法(FZ法)により育成したシリコン単結晶から作製したシリコン単結晶基板中の炭素濃度を簡便に評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体デバイス用の基板として、浮遊帯溶融法により育成されたシリコン単結晶から作製されたシリコン単結晶基板が広く用いられている。FZ法により育成されたシリコン単結晶は、チョクラルスキー法(CZ法)により育成されたシリコン単結晶に比べて、結晶育成軸方向における抵抗率の均一性が優れており、また、酸素をほとんど含んでいないために、デバイスプロセスにおいて抵抗率変化の要因となる酸素関連ドナーが発生しないという利点がある。
【0003】
FZ法により育成されたシリコン単結晶(以下、「FZシリコン単結晶」とも称する)の抵抗率を制御するためにドーパントをドープする方法として、結晶育成時の雰囲気ガスからドーパントをドープするガスドープ法(GD法)と、シリコン単結晶育成後に中性子を照射して、核変換反応(30Si(n,γ)→31Si→31P+β)によりリンをドープする中性子照射ドープ法(NTD法)がある(非特許文献1)。なお、FZシリコン単結晶から作製した基板をFZシリコン単結晶基板といい、また、上記ドープ方法で得られた単結晶から作製した基板をそれぞれGD-FZシリコン単結晶基板、NTD-FZシリコン単結晶基板という。NTD-FZシリコン単結晶基板は、GD-FZシリコン単結晶基板に比べて抵抗率の面内均一性が優れていることから、抵抗率の要求規格が厳しいパワーデバイス用の基板として用いられている。
【0004】
また、FZシリコン単結晶では、結晶育成時の炉内での放電防止、結晶育成時に導入される結晶欠陥の低減、ウェーハ強度の向上のために、結晶育成時に窒素が添加される場合が多い(特許文献1)。育成された単結晶に導入される窒素の濃度は、結晶育成時の雰囲気ガスの調整により制御される。
【0005】
半導体デバイスの基板として広く用いられるシリコン単結晶基板には、炭素が不純物として含まれている。炭素は、シリコン単結晶の製造工程において混入し、更に、ウェーハ加工工程、エピタキシャル成長工程、デバイス製造工程においても混入する場合がある。シリコン単結晶中の炭素は、通常の状態ではシリコンの格子位置に存在し(格子位置に存在する炭素を置換型炭素と呼ぶ)、それ自身は電気的に不活性である。しかし、デバイス工程におけるイオン注入や熱処理などにより格子間位置に弾き出されると(格子間位置に存在する炭素を格子間炭素と呼ぶ)、他の不純物と反応して複合体を形成することで電気的に活性となり、デバイス特性に悪影響を及ぼすという問題が生じる。
【0006】
特に、電子線、プロトン、ヘリウムイオンなどの粒子線をシリコン基板に照射することでキャリアライフタイムを制御するパワーデバイスでは、0.05ppma以下の極微量の炭素がデバイス特性に悪影響を及ぼすことが指摘されている(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。このことから、シリコン基板に含まれる炭素をできる限り低減することが重要な課題であり、そのためには、炭素濃度を高感度で評価する方法が必要である。
【0007】
シリコン結晶中の炭素濃度を測定する方法として、赤外吸収法、二次イオン質量分析法(SIMS)、及び荷電粒子放射化分析法が挙げられる(非特許文献5)。
【0008】
また、試料に電子線を照射した後に、フォトルミネッセンス(PL)法によりシリコンに由来する発光強度と炭素に由来する欠陥の発光強度とを取得し、それらの強度と予め用意されている検量線とを用いて、炭素濃度を測定する方法が開示されている(特許文献2)。この方法では、FZ単結晶の原料の種類別に検量線を作成して用意しておき、測定用半導体試料の原料と同じ種類の原料の検量線を選択し、その選択した検量線を用いて、前記測定用半導体試料のPL法による測定値から炭素濃度を求める。
【0009】
また、シリコン単結晶基板に粒子線を照射し、その後に過剰キャリアを注入した後のキャリア濃度の減衰曲線と炭素濃度との相関関係を求めて、該相関関係から評価したいシリコン単結晶基板に粒子線照射して過剰キャリアを注入した後のキャリア濃度の減衰曲線を測定して炭素濃度を評価する方法が開示されている(特許文献3)。
【0010】
また、試料に炭素及び酸素以外のイオンを注入した後に、カソードルミネッセンス法又はフォトルミネッセンス法により炭素関連欠陥の濃度を測定することにより、炭素濃度を評価する方法(特許文献4)や、試料に電子線を照射した後に、カソードルミネッセンス法又はフォトルミネッセンス法により格子間シリコンクラスターの濃度を測定することにより、炭素濃度を評価する方法(特許文献5)が開示されている。
【0011】
一方、シリコン単結晶基板中の金属汚染や結晶欠陥の評価方法の一つとして、キャリアの再結合ライフタイムを測定する方法が用いられることがある。非特許文献6では、FZシリコンウェーハに450~700℃の熱処理を施すと、キャリアの再結合ライフタイムが低下することが報告されている。キャリアの再結合ライフタイムが低下する原因は、空孔が関連した欠陥であろうと推測されている。また、窒素がほとんど含まれていない場合と窒素が含まれている場合とでは、キャリアの再結合ライフタイムの熱処理温度依存性が異なることが記載されている。非特許文献7では、FZシリコンウェーハで500℃の熱処理により導入される再結合ライフタイムを低下させる欠陥には、窒素が関与していることが示唆されている。
【0012】
また、特許文献6では、チョクラルスキー法により引き上げられたシリコン単結晶(CZシリコン単結晶)では、炭素濃度が1.0×1014atoms/cm3以下と低濃度である場合、酸素濃度に関係なく、炭素濃度が低減するにしたがってバルクライフタイムが長くなることが開示されている。この場合、CZシリコン単結晶の育成後に熱処理は施されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2017-122033号公報
【文献】特開2019-036661号公報
【文献】特開2019-050283号公報
【文献】特開2015-156420号公報
【文献】特開2015-111615号公報
【文献】特開2016-044109号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】伊藤辰夫、戸田真人:シリコンの中性子照射ドーピング、放射線と産業、No.64,p.19(1994)
【文献】杉山他,シリコンテクノロジーNo.87,p.6
【文献】杉江他,シリコンテクノロジーNo.148,p.11
【文献】N.Inoue et al.,Physica B 401-402(2007),p.477
【文献】JEITA EM-3503「赤外吸収によるシリコン結晶中の置換型炭素原子濃度の標準測定法」
【文献】N.E.Grant et al., Phys. Status Solidi A. doi:10.1002/pssa.201600360
【文献】J.Mullins et al., J.Appl.Phys. 124,035701(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上述した従来技術の赤外吸収法では、炭素を含まない参照試料を必要とし、また、炭素濃度を高感度で測定するには、厚く且つ厚み均一性の高い試料を準備する必要があるという問題があった。また、吸収スペクトルを測定する際の積算時間を長くする必要があり、測定時間が長くなるという問題があった。
【0016】
また、SIMSの場合は、近年の技術進展により測定感度が高くなってきているが、高価な分析装置と高度な専門的分析技術を必要とするという問題があった。さらに、炭素濃度を高感度で測定するには、環境からの外乱因子を低減するために真空引きに長時間を要するなど、測定時間が長くなるという問題があった。
【0017】
また、荷電粒子放射化分析法の場合は、炭素の存在状態によらず全ての炭素を測定できるという利点があるが、特殊な装置が必要となることや感度が低いことなどから、評価手法として一般的に用いることは難しいという問題があった。
【0018】
また、特許文献2~特許文献5の技術では、荷電粒子線を照射するための大がかりな装置が必要であり、また、ルミネッセンス強度を測定する際に、測定対象の試料を約30K以下に冷却する必要があり、手間とコストがかかるという問題があった。また、リンをドープするために中性子照射されたNTD-FZシリコン単結晶基板の場合には適用できないという問題があった。
【0019】
また、特許文献6において、CZシリコン単結晶では、熱処理を施さない場合でも、バルクライフタイムと炭素濃度に相関があることが示されている。しかしながら、本発明者が鋭意研究を行い、本発明者による実験の結果、FZシリコン単結晶では、熱処理を施さない場合、キャリアの再結合ライフタイムと炭素濃度に相関がないという問題を見出した。
【0020】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであって、FZ法により育成したシリコン単結晶から作製したシリコン単結晶基板に含まれる炭素の濃度を、簡便に速く評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明は、浮遊帯溶融法により育成したシリコン単結晶から作製したシリコン単結晶基板に含まれる炭素濃度を評価する方法であって、
予め、前記シリコン単結晶から作製した炭素濃度の異なる複数の試験用シリコン単結晶基板を準備して、該複数の試験用シリコン単結晶基板に所定の熱処理を施す第1の工程と、
前記所定の熱処理を施した前記複数の試験用シリコン単結晶基板において、それぞれキャリアの再結合ライフタイムLTを測定する第2の工程と、
前記測定した複数の試験用シリコン単結晶基板のキャリアの再結合ライフタイムLTに基づいて、前記シリコン単結晶基板におけるキャリアの再結合ライフタイムLT又は該再結合ライフタイムの逆数である1/LTと、前記シリコン単結晶基板中の炭素濃度との相関関係を求める第3の工程と、
前記シリコン単結晶から作製した炭素濃度を評価する評価用シリコン単結晶基板に対し、前記第1の工程で施した前記複数の試験用シリコン単結晶に対する所定の熱処理と同等の熱処理を施す第4の工程と、
前記同等の熱処理を施した前記評価用シリコン単結晶基板においてキャリアの再結合ライフタイムLTを測定して、該評価用シリコン単結晶基板のキャリアの再結合ライフタイムLT又は1/LTを得る第5の工程と、
前記得た評価用シリコン単結晶基板のキャリアの再結合ライフタイムLT又は1/LTと、前記相関関係に基づいて、前記評価用シリコン単結晶基板中の炭素濃度を評価する第6の工程と
を含むことを特徴とするシリコン単結晶基板中の炭素濃度評価方法を提供する。
【0022】
FZシリコン単結晶から作製したシリコン単結晶基板に所定の熱処理を施すと、該シリコン単結晶基板に含まれる炭素が、電気的に活性な欠陥(以下、炭素関連再結合中心と呼ぶことがある)を形成し、キャリアの再結合に影響を及ぼすようにすることができる。このことから、上記のようにして、複数の試験用シリコン単結晶基板の熱処理後にキャリアの再結合ライフタイムLT(以下、「再結合ライフタイム」「LT」とも称する)を測定し、LT又は1/LTと炭素濃度との相関関係を予め求めておき、該相関関係を用いることにより、評価対象である評価用シリコン単結晶基板中の炭素濃度を簡便に速く評価することができる。従来技術のように高価な分析装置や高度な専門的分析技術を必要とせずに迅速に評価でき、低コストで行うことができる。
【0023】
このとき、前記第1の工程において、前記複数の試験用シリコン単結晶基板に対して施す所定の熱処理として、熱処理温度が600℃以上650℃以下で、熱処理時間が4時間以上16時間以下の熱処理を施すことができる。
【0024】
このように、熱処理温度が600℃以上650℃以下で、熱処理時間が4時間以上16時間以下の熱処理を施すことで、より効果的に、シリコン単結晶基板に含まれる炭素が、電気的に活性な欠陥を形成し、キャリアの再結合に影響を及ぼすようにすることができるので、より確実に炭素濃度を簡便に速く評価することができる。
【0025】
熱処理温度を600℃以上にすることで、GD-FZシリコン単結晶基板において、結晶育成時に形成されたキャリア再結合中心をより効果的に消滅させることができる。また、NTD-FZシリコン単結晶基板において、結晶育成時及び、その後の中性子照射時に形成されたキャリア再結合中心をより効果的に消滅させることができる。このことにより、熱処理温度を600℃以上、熱処理時間を4時間以上にすることで、ドーパントのドープ法によらず、キャリアの再結合ライフタイムが炭素濃度により一層強く依存するようにできるので、熱処理後に上記相関関係を求めて用いることにより、簡便なシリコン単結晶基板中の炭素濃度評価をより確実に行うことができる。
また、熱処理温度を650℃以下、熱処理時間を4時間以上とすることで、ドーパントのドープ法によらず、キャリアの再結合ライフタイムが窒素濃度に強く依存することをより効果的に避けることができ、キャリアの再結合ライフタイムが炭素濃度により一層強く依存するようにできるので、熱処理後に上記相関関係を求めて用いることにより、簡便なシリコン単結晶中の炭素濃度評価をより確実に行うことができる。
熱処理時間の上限は特に限定されないが、16時間以下にすることにより、熱処理時間が長くなり効率的でなくなることを避けることができる。
【0026】
また、前記第2の工程及び第5の工程において、前記キャリアの再結合ライフタイムLTを測定する方法として、マイクロ波光導電減衰法を用いることができる。
【0027】
このように、マイクロ波光導電減衰法(Microwave Photoconductive Decay method:μ-PCD法)を用いることにより、キャリアの再結合ライフタイムを簡便に速く測定することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明のシリコン単結晶中の炭素濃度評価方法によれば、FZシリコン単結晶基板に熱処理を施した後、キャリアの再結合ライフタイムを測定し、該キャリアの再結合ライフタイムと炭素濃度との相関関係を予め求め、該相関関係に基づいて炭素濃度を評価するので、高価な分析装置や高度な専門的分析技術を必要としたり、測定に時間をかける必要がある従来技術に比べて、簡便に速く炭素濃度を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明のシリコン単結晶基板中の炭素濃度評価方法のフローを示す図である。
【
図2】実験例において測定したキャリアの再結合ライフタイム(LT)と炭素濃度との関係を示す図である。熱処理時間は16時間で、熱処理温度は、(a)が600℃、(b)が625℃、(c)が650℃である。
【
図3】実験例において測定したキャリアの再結合ライフタイムの逆数(1/LT)と炭素濃度との関係を示す図である。熱処理時間は16時間で、熱処理温度は、(a)が600℃、(b)が625℃、(c)が650℃である。
【
図4】実験例において測定したキャリアの再結合ライフタイム(LT)と炭素濃度との関係を示す図である。熱処理温度は650℃で、熱処理時間は(a)が4時間、(b)が8時間、(c)が16時間である。
【
図5】実験例において測定したキャリアの再結合ライフタイムの逆数(1/LT)と炭素濃度との関係を示す図である。熱処理温度は650℃で、熱処理時間は(a)が4時間、(b)が8時間、(c)が16時間である。
【
図6】実験例において測定したキャリアの再結合ライフタイム(LT)と炭素濃度との関係を示す図である。熱処理を施していない場合である。
【
図7】実験例において測定したキャリアの再結合ライフタイムの逆数(1/LT)と炭素濃度との関係を示す図である。熱処理を施していない場合である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
前述したように、従来技術では、高価な分析装置や専門的分析技術を必要としたり、測定に時間をかける必要があるという問題があった。
そこで、本発明者は、FZシリコン単結晶基板において、より簡便に速く炭素濃度を評価できる方法に関して鋭意検討を重ねたところ、シリコン単結晶基板に所定の熱処理を施した後、キャリアの再結合ライフタイムLTを測定した場合、LT又は1/LTと炭素濃度との間には相関関係があることを見出した。
【0031】
さらには、炭素濃度の異なる複数の試験用のFZシリコン単結晶基板に対し、所定の熱処理、キャリアの再結合ライフタイムLTの測定を行い、そのLT又は1/LTと、基板中の炭素濃度との相関関係を得る一方で、実際の評価対象である評価用のFZシリコン単結晶基板に同等の熱処理、LTの測定を行い、得たLT又は1/LTと、上記相関関係に基づいてその炭素濃度を評価すれば、従来の評価方法よりも簡便に速く低コストで炭素濃度の評価が可能であることを見出し、本発明のシリコン単結晶基板中の炭素濃度評価方法を完成させた。
【0032】
以下、
図1を参照しながら、本発明のシリコン単結晶基板中の炭素濃度評価方法をより具体的に説明する。
工程全体についてまず説明すると、
図1に示すように第1~第3の工程(S1~S3)からなり、試験用シリコン単結晶基板(炭素濃度が既知であり、各々異なる)を用い、FZシリコン単結晶基板におけるキャリアの再結合ライフタイムLT又はその逆数である1/LTと、FZシリコン単結晶基板中の炭素濃度との相関関係を求めるための予備試験と、第4~第6の工程(S4~S6)からなり、評価対象の評価用シリコン単結晶基板(炭素濃度が未知)中の炭素濃度を評価するための本試験からなっている。予備試験、本試験ともに、FZシリコン単結晶から作製したFZシリコン単結晶基板を用いる。
【0033】
以下、各工程について詳述する。まず、予め、炭素濃度の異なる複数の試験用シリコン単結晶基板を準備して、該複数の試験用シリコン単結晶基板に熱処理を施す(第1の工程、
図1のS1)。複数の炭素濃度の異なる試験用シリコン単結晶基板は、予め複数の炭素濃度の異なるFZ法により育成されたシリコン単結晶から試験用のシリコン単結晶基板を作製して準備することができる。また、このとき、評価対象となる、FZ法により育成されたシリコン単結晶から作製されたシリコン単結晶基板も同時に準備することができる(評価用シリコン単結晶基板)。これらのシリコン単結晶基板を準備する方法は、本発明において特に限定されない。例えば、該当のシリコン単結晶からウェーハを切断し、切断ダメージを取り除くために化学的エッチング処理を行うことにより準備できる。次に、準備した複数の試験用シリコン単結晶基板に所定の熱処理を施す。
【0034】
このとき、上記所定の熱処理に関して、特には熱処理温度は600℃以上650℃以下とし、熱処理時間は4時間以上16時間以下とすることが望ましい。熱処理の雰囲気は特に限定されない。例えば、酸素、窒素、アルゴン、又はそれらの混合ガスなどとすることができる。
【0035】
このように、シリコン単結晶基板に熱処理を施すことにより、シリコン単結晶基板に含まれる炭素が、電気的に活性な欠陥を形成し、キャリアの再結合に影響を及ぼすようにすることができる。なお、詳しくは後述するが、特に上記範囲の熱処理温度、熱処理時間で行うことでより効果的にその影響を及ぼすことができる。そのため、後の工程のように、熱処理後にキャリアの再結合ライフタイムLTを測定し、LT又は1/LTと炭素濃度との相関関係を求めることにより、シリコン単結晶中の炭素濃度の簡便な評価をより確実に行うことができる。
なお、特に熱処理時間を16時間以下とすることで、熱処理の長時間化による非効率化を防ぐことができる。
【0036】
次に、熱処理を施した複数の試験用シリコン単結晶基板において、それぞれキャリアの再結合ライフタイムLTを測定する(第2の工程、
図1のS2)。
キャリアの再結合ライフタイムは、シリコン単結晶基板に生成された再結合中心の他に、シリコン単結晶基板の表面における表面再結合の影響も受ける。キャリアの再結合ライフタイムの測定において、シリコン単結晶基板の表面再結合が問題になる場合は、表面再結合を抑制する処理を行う。この表面再結合を抑制する処理として、熱酸化処理(酸化膜パシベーション)や電解溶液処理(ケミカルパシベーション)が一般的に用いられている。
【0037】
本発明では、第1の工程における熱処理の他に熱処理を施すことは避けることがより好ましい。第1の工程における熱処理の雰囲気を酸素、あるいは酸素を含む混合ガスとすれば、シリコン単結晶基板の表面に熱酸化膜を形成することができるが、熱処理の温度が低いために十分なパシベーション効果が得られない場合がある。このことから、表面再結合を抑制する処理としては、本発明では、第1の工程において形成された表面酸化膜などを除去した後、ケミカルパシベーションを行うことがより好ましい。
【0038】
キャリアの再結合ライフタイムの測定には、マイクロ波光導電減衰法(μ-PCD法)を用いることができる。μ-PCD法における測定条件は、一般的に用いられている条件で良く、例えば、文献「JEIDA-53-1997“シリコンウェーハの反射マイクロ波光導電減衰法による再結合ライフタイム測定方法”」に記載された条件等により測定することができる。測定装置は市販されているものを用いることができる。このように、μ-PCD法を用いることにより、キャリアの再結合ライフタイムを極めて簡便に速く測定することができる。
【0039】
次に、上記第2の工程で測定された複数の試験用シリコン単結晶基板のキャリアの再結合ライフタイムLTに基づいて、FZシリコン単結晶基板におけるキャリアの再結合ライフタイムLT又は該再結合ライフタイムの逆数である1/LTと、FZシリコン単結晶基板中の炭素濃度との相関関係を求める(第3の工程、
図1のS3)。熱処理後のLTはシリコン単結晶基板中の炭素濃度に依存し、炭素濃度が高いほど、LTは低くなり、1/LTは高くなることから、熱処理後のLT又は1/LTを求めることで炭素濃度を評価することができる。
【0040】
次に、上記のようにして予め求めた相関関係を用いて評価用シリコン単結晶基板中の炭素濃度を評価する。具体的には、以下の第4~第6の工程により炭素濃度の評価を行う。
炭素濃度を評価する評価対象の評価用シリコン単結晶基板に対し、第1の工程で施した複数の試験用シリコン単結晶基板に対する熱処理と同等の熱処理を施す(第4の工程、
図1のS4)。この熱処理は、試験用シリコン単結晶基板に対する熱処理と別途行うこともできるが、同時に行うこともできる。
【0041】
次に、評価用シリコン単結晶基板のキャリアの再結合ライフタイムLTを測定して、該評価用シリコン単結晶基板のLT又は1/LTの値を得る(第5の工程、
図1のS5)。
さらに、このようにして得たLT又は1/LTの値と、上記第3の工程で求めた相関関係に基づいて、評価用シリコン単結晶基板中の炭素濃度を評価する(第6の工程、
図1のS6)。
【0042】
このように、評価したい評価用シリコン単結晶基板に熱処理を施した後、キャリアの再結合ライフタイムを測定し、試験用シリコン単結晶基板を用いて予め求めたLT又は1/LTと炭素濃度との相関関係を用いることにより、評価用シリコン単結晶基板に含まれる炭素濃度を簡便に速く評価することができる。
【0043】
以下、本発明における熱処理条件として、熱処理温度が600℃以上650℃以下で、熱処理時間が4時間以上(16時間以下)とするのが好ましい点について詳述する。
前述したように、本発明の評価方法のように、FZシリコン単結晶基板に熱処理、特には上記範囲での熱処理温度、熱処理時間の熱処理を施すと、より効果的に、シリコン単結晶基板に含まれる炭素が、電気的に活性な欠陥を形成し、キャリアの再結合に影響を及ぼすようにすることができ、ひいては、より確実に、シリコン単結晶基板中の炭素濃度を簡便に評価することができる。
【0044】
キャリアの再結合中心として働く欠陥が1種類と仮定した場合、LTは再結合中心密度の逆数に比例することから、1/LTは再結合中心の相対密度となる。このことから、キャリアの再結合中心に炭素が関与している場合は、LT、1/LTともに炭素濃度と相関が得られることになる。従って、炭素濃度との相関関係を得る際は、LTと1/LTのどちらを用いても良い。炭素濃度の変化に対するLTおよび1/LTの絶対値の変化は、炭素濃度が低い場合にはLTの方が大きくなり、炭素濃度が高い場合には1/LTの方が大きくなる。
【0045】
上記のように、FZシリコン単結晶基板に上記条件の熱処理を施した場合に特に、LTがシリコン単結晶基板の炭素濃度に依存し、炭素濃度が高いほど、LTが低くなり、1/LTが高くなる理由は、以下のように考えられる。
【0046】
シリコン単結晶育成工程において、シリコン単結晶中に真性点欠陥(空孔と格子間シリコン)が生成されるが、標準的なFZシリコン単結晶の育成条件において窒素を添加すると、空孔が優勢になる。結晶育成中の冷却過程において、窒素と空孔が反応して窒素と空孔の複合体(以下、窒素関連複合体と呼ぶ)が形成され、冷却後は、窒素関連複合体の形成に寄与できなかった窒素と空孔が残留する。シリコン単結晶育成後に熱処理を施すと、シリコン単結晶育成中の冷却過程で形成された窒素関連複合体に加えて、残留していた窒素と空孔が反応して窒素関連複合体が形成される。この窒素関連複合体はキャリアの再結合中心として働き、窒素濃度が高いほど窒素関連複合体の密度が高くなるため、窒素濃度が高いほど、1/LT(再結合中心の相対密度)が高くなり、LTが低くなる。本発明者は、本発明における上記熱処理条件とは異なる熱処理条件の場合に、LT又は1/LTが窒素濃度に依存するようになることを見出している。
【0047】
また、シリコン単結晶に中性子を照射すると、シリコン単結晶中に真性点欠陥が過剰に生成される。過剰に生成された空孔や格子間シリコンは、単体では不安定なため、再結合したり、空孔同士や格子間シリコン同士がクラスタリングしたり、シリコン単結晶中に含まれる軽元素不純物(ドーパント、酸素、炭素、窒素など)と反応して複合体(以下、照射欠陥と呼ぶ)を形成する。そして、空孔や格子間シリコンのクラスターや、空孔や格子間シリコンと軽元素不純物の複合体はキャリアの再結合中心として働き、中性子照射量が高いほど照射欠陥の密度が高くなるため、中性子照射量が高いほど、1/LT(再結合中心の相対密度)が高くなり、LTが低くなる。
【0048】
これらのシリコン単結晶育成時に形成された窒素関連複合体や、中性子照射時に形成された照射欠陥は、熱的に不安定であるため、少なくとも600℃以上の熱処理で消滅する。また、シリコン単結晶育成後の熱処理により形成される窒素関連複合体は、熱処理温度が少なくとも700℃以上の場合に短時間で形成されるが、それと同時に窒素と空孔がシリコン単結晶基板から外方拡散するため、ある熱処理時間を境に、窒素関連複合体の密度が増加から減少に転じるようになる。一方、熱処理温度が600℃以上650℃以下の場合には、シリコン単結晶に含まれる炭素が、電気的に活性な欠陥を形成し、キャリアの再結合に影響を及ぼすようになる。
【0049】
これらのことにより、熱処理温度が600℃以上650℃以下で、熱処理時間が4時間以上の熱処理を施した場合に、より確実に、かつ、極めて効果的に、キャリアの再結合ライフタイムに対する、シリコン単結晶育成時や熱処理で形成された窒素関連複合体や中性子照射により形成された照射欠陥の影響を小さくし、且つ炭素関連再結合中心の影響を大きくすることができると考えられる。
【0050】
本発明において、上述のようなシリコン単結晶基板中の炭素濃度評価方法、および特に好ましい上記熱処理条件(熱処理温度が600℃以上650℃以下で、熱処理時間が4時間以上)は、上記知見および以下のような実験により得られた知見による。
<実験例>
FZ法により育成されたシリコン単結晶から作製されたFZシリコン単結晶基板で、異なる炭素濃度を有する複数のFZシリコン単結晶基板を用意した。このとき、ドーパントはリンとし、リンをドープする方法として、結晶育成時の雰囲気ガスからリンをドープするガスドープ法(GD法)と、シリコン単結晶育成後に中性子を照射して、核変換反応(30Si(n,γ)→31Si→31P+β)によりリンをドープする中性子照射ドープ法(NTD法)を用いた。複数のFZシリコン単結晶基板のドーパント濃度、酸素濃度、炭素濃度、窒素濃度、直径、結晶面方位は、以下の通りである。
【0051】
ドーパント濃度:6.0×1013~8.7×1013atoms/cm3、
酸素濃度:<0.1ppma(シリコン原料として多結晶シリコンを用いて育成したFZシリコン単結晶から作製した場合)、
0.1~0.4ppma(シリコン原料としてチョクラルスキー法(CZ法)で育成した単結晶シリコンを用いて育成したFZシリコン単結晶から作製した場合)、
炭素濃度:4×1014~5×1015atoms/cm3、
窒素濃度:4×1014~3×1015atoms/cm3、
直径:200mm、
結晶面方位:(100)。
【0052】
酸素濃度は赤外吸収法により測定し(JEIDAにより規定された換算係数を用いた)、炭素濃度及び窒素濃度は二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した。リン濃度は、四探針法により測定した抵抗率から、アービンカーブを用いて求めた。
【0053】
酸素濃度が0.1ppma未満のシリコン単結晶基板は、通常の多結晶シリコンインゴットを原料として、FZ法により育成されたシリコン単結晶から製造されたものである(純Poly-FZと呼ぶ)。また、酸素濃度が0.1~0.4ppmaのシリコン単結晶基板は、CZ法により育成されたシリコン単結晶インゴットを原料として、FZ法により育成されたシリコン単結晶から製造されたものである(CZ-FZと呼ぶ)。このとき、CZ法により育成されたシリコン単結晶インゴットを原料とすると、原料に含まれる酸素濃度の違いや単結晶育成条件により、酸素濃度が0.1~0.4ppmaの範囲でばらつきが生じる。
【0054】
次に、用意したシリコン単結晶基板に熱処理を施した。このとき、熱処理時間を16時間とし、熱処理温度を600~650℃の範囲で振った。またこれとは別に、熱処理温度を650℃とし、熱処理時間を4~16時間の範囲で振った。すべての熱処理条件において、熱処理雰囲気は酸素とした。
【0055】
次に、熱処理を施したシリコン単結晶基板の表面酸化膜をフッ酸水溶液により除去した後、ヨウ素エタノール溶液を用いたケミカルパシベーション処理を施した。その後、μ-PCD法によりキャリアの再結合ライフタイムLTを測定した。このとき、直径200mmのウェーハの面内において、外周から約10mmまでの領域を除き、約4mm間隔で約1600点測定して、その平均値をLTの値とした。また、測定したLTから1/LTを求めた。
【0056】
次に、LTあるいは1/LTと炭素濃度との相関を調べた。LT又は1/LTと炭素濃度との関係を
図2~
図5に示す。各図中の印の違いはシリコン原料(純Poly原料、CZ原料)及びリンドープ法(GD法、NTD法)の違いを示しており、各印のシリコン原料/リンドープ法は、○が純Poly原料/GD法の場合、△がCZ原料/GD法の場合、□が純Poly原料/NTD法の場合、◇がCZ原料/NTD法の場合である。
【0057】
図2は、FZシリコン単結晶基板に異なる温度の熱処理を施した場合のLTと炭素濃度との関係を示している。熱処理時間は16時間で、熱処理温度は、(a)が600℃、(b)が625℃、(c)が650℃である。いずれの熱処理温度の場合も、LTは炭素濃度に強く依存しており、炭素濃度が低いほどLTが高くなっている。また、リンドープ法やシリコン原料による違いがほとんどないことから、LTと炭素濃度との相関はリンドープ法やシリコン原料に依存しないことがわかる。また、図示はしていないが、窒素濃度による違いもほとんどないことから、LTと炭素濃度との相関は窒素濃度に依存しないこともわかる。このことから、所定の熱処理を施した後にLTを測定することにより、炭素濃度を評価できることがわかる。
【0058】
図3は、FZシリコン単結晶基板に異なる温度の熱処理を施した場合の1/LTと炭素濃度との関係を示している。熱処理時間は16時間で、熱処理温度は、(a)が600℃、(b)が625℃、(c)が650℃である。いずれの熱処理温度の場合も、1/LTは炭素濃度に強く依存しており、炭素濃度が低いほど1/LTが低くなっている。また、リンドープ法やシリコン原料による違いがほとんどないことから、1/LTと炭素濃度との相関はリンドープ法やシリコン原料に依存しないことがわかる。また、図示はしていないが、窒素濃度による違いもほとんどないことから、1/LTと炭素濃度との相関は窒素濃度に依存しないこともわかる。このことから、所定の熱処理を施した後にキャリアの再結合ライフタイム(LT)を測定し、1/LTを求めることにより、炭素濃度を評価できることがわかる。
【0059】
図4は、FZシリコン単結晶基板に異なる時間の熱処理を施した場合のLTと炭素濃度との関係を示している。熱処理温度は650℃で、熱処理時間は、(a)が4時間、(b)が8時間、(c)が16時間である。いずれの熱処理時間の場合も、LTは炭素濃度に強く依存しており、炭素濃度が低いほどLTが高くなっている。また、リンドープ法やシリコン原料による違いがほとんどないことから、LTと炭素濃度との相関はリンドープ法やシリコン原料に依存しないことがわかる。また、図示はしていないが、窒素濃度による違いもほとんどないことから、LTと炭素濃度との相関は窒素濃度に依存しないこともわかる。このことから、所定の熱処理を施した後にキャリアの再結合ライフタイム(LT)を測定することにより、炭素濃度を評価できることがわかる。
【0060】
図5は、FZシリコン単結晶基板に異なる時間の熱処理を施した場合の1/LTと炭素濃度との関係を示している。熱処理温度は650℃で、熱処理時間は、(a)が4時間、(b)が8時間、(c)が16時間である。いずれの熱処理時間の場合も、1/LTは炭素濃度に強く依存しており、炭素濃度が低いほど1/LTが低くなっている。また、リンドープ法やシリコン原料による違いがほとんどないことから、1/LTと炭素濃度との相関はリンドープ法やシリコン原料に依存しないことがわかる。また、図示はしていないが、窒素濃度による違いもほとんどないことから、1/LTと炭素濃度との相関は窒素濃度に依存しないこともわかる。このことから、所定の熱処理を施した後にキャリアの再結合ライフタイム(LT)を測定し、1/LTを求めることにより、炭素濃度を評価できることがわかる。
【0061】
また、用意したシリコン単結晶基板に熱処理を施さなかったこと以外、同様な手順でキャリアの再結合ライフタイムLTを測定し、測定したLTから1/LTを求めた。
【0062】
図6は、FZシリコン単結晶基板に熱処理を施さなかった場合のLTと炭素濃度との関係を示している。
図6において、NTD-FZシリコン単結晶基板の場合は、中性子照射のダメージにより再結合ライフタイムが極端に短く、約0.1μsecであった。このように、FZシリコン単結晶基板に熱処理を施さない場合には、LTは炭素濃度に依存しないことから、キャリアの再結合ライフタイム(LT)を測定することでは炭素濃度を評価できないことがわかる。
【0063】
図7は、FZシリコン単結晶基板に熱処理を施さなかった場合の1/LTと炭素濃度との関係を示している。このように、FZシリコン単結晶基板に熱処理を施さない場合には、1/LTは炭素濃度に依存しないことから、キャリアの再結合ライフタイム(LT)を測定し、1/LTを求めることでは炭素濃度を評価できないことがわかる。
【0064】
なお、
図2-3の実験例では熱処理時間を16時間としたが、代わりに熱処理時間を4時間、8時間として同様に実験した場合においても、LTや1/LTと、炭素濃度との関係において、
図2-3と同様の傾向(相関関係)が見られた。
また、
図4-5の実験例では熱処理温度を650℃としたが、代わりに熱処理温度を600℃、625℃として同様に実験した場合においても、LTや1/LTと、炭素濃度との関係において、
図4-5と同様の傾向が見られた。
さらには、熱処理温度、熱処理時間が、各々、600℃以上650℃以下、4時間以上16時間の範囲から僅かに外れた範囲においても同様に実験したところ、
図2-5と同様の傾向が見られた。
いずれにしろ熱処理を行った場合、得られた相関関係に基づいて炭素濃度を評価可能であり、熱処理時間、熱処理温度が600℃以上650℃以下、4時間以上16時間の範囲内のとき、より精度高く炭素濃度を評価することができた。
【0065】
以上のように、FZシリコン単結晶基板に熱処理を施した後、キャリアの再結合ライフタイムLTを測定することにより、LT(または1/LT)と炭素濃度との相関関係が得られ、該相関関係を利用してシリコン単結晶基板中の炭素濃度を簡便に速く評価できることがわかる。特には、熱処理温度が600℃以上650℃以下で、熱処理時間が4時間以上16時間以下の熱処理を施すと、より明確な上記相関関係をより確実に得ることが可能であるため極めて好ましい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例)
図1に示すような、本発明の炭素濃度評価方法でFZシリコン単結晶基板中の炭素濃度を評価した。
(予備試験)
まず、炭素濃度が異なる複数の試験用シリコン単結晶基板に熱処理を施した(
図1のS1)。複数の試験用シリコン単結晶基板は、FZ法により育成されたシリコン単結晶から作製されたFZシリコン単結晶基板であり、ドーパント濃度、酸素濃度、炭素濃度、窒素濃度、直径、結晶面方位は、上述した実験例と同様である。
このとき、熱処理の温度は650℃、時間は16時間、雰囲気は酸素とした。
【0067】
次に、熱処理を施した試験用シリコン単結晶基板の表面酸化膜をフッ酸水溶液により除去した後、ヨウ素エタノール溶液を用いたケミカルパシベーション処理を施した。その後、μ-PCD法によりキャリアの再結合ライフタイムLTを測定した(
図1のS2)。このとき、直径200mmのウェーハの面内において、外周から約10mmまでの領域を除き、約4mm間隔で約1600点測定して、その平均値をLTの値とした。また、測定したLTから1/LTを求めた。
なお、本発明の評価方法においてはLTまたは1/LTの一方を求めて用いるだけで十分であるが、各々の場合の有効性を示すため、ここでは両方の値を求め、以下のように両方の場合について炭素濃度との相関関係を示して炭素濃度を評価した。
【0068】
次に、LT及び1/LTと炭素濃度との相関関係を取得した(
図1のS3)。その結果、
図2(c)及び
図3(c)に示した相関関係を得た。
【0069】
(本試験)
次に、ガスドープ法によりリンをドープしたGD-FZシリコン単結晶基板、及び中性子照射ドープ法によりリンをドープしたNTD-FZシリコン単結晶基板を、別個に育成したFZシリコン単結晶インゴットから作製した。これらの炭素濃度が未知の評価用シリコン単結晶基板に熱処理を施した。GD-FZシリコン単結晶基板のドーパント濃度は6.2×10
13atoms/cm
3、酸素濃度は0.2ppma(JEIDA)、窒素濃度は1.5×10
15atoms/cm
3、直径は200mm、結晶面方位は(100)である。NTD-FZシリコン単結晶基板のドーパント濃度は6.5×10
13atoms/cm
3、酸素濃度は0.4ppma(JEIDA)、窒素濃度は3.5×10
15atoms/cm
3、直径は200mm、結晶面方位は(100)である。このとき、予備試験と同等の熱処理条件とし、熱処理の温度は650℃、時間は16時間、雰囲気は酸素とした(
図1のS4)。
【0070】
次に、熱処理を施した評価用シリコン単結晶基板の表面酸化膜をフッ酸水溶液により除去した後、ヨウ素エタノール溶液を用いたケミカルパシベーション処理を施した。その後、μ-PCD法によりキャリアの再結合ライフタイムLTを測定した。このとき、直径200mmのウェーハの面内において、外周から約10mmまでの領域を除き、約4mm間隔で約1600点測定して、その平均値をLTの値とした。また、測定したLTから1/LTを求めた。その結果、GD-FZシリコン単結晶基板のLTは296.7μsecとなり、1/LTは0.003μsec
-1となった。また、NTD-FZシリコン単結晶基板のLTは93.1μsecとなり、1/LTは0.011μsec
-1となった(
図1のS5)。
【0071】
次に、
図2(c)及び
図3(c)に示した相関関係に基づいて、評価用シリコン単結晶基板中の炭素濃度を評価した(
図1のS6)。その結果、GD-FZシリコン単結晶基板中の炭素濃度は約5×10
14atoms/cm
3、NTD-FZシリコン単結晶基板中の炭素濃度は約3×10
15atoms/cm
3と求まった。
【0072】
(比較例)
実施例の評価用シリコン単結晶基板を作製したシリコン単結晶インゴットの隣接する位置から、別のシリコン単結晶基板を作製し、そのシリコン単結晶基板の炭素濃度をSIMSにより測定した。SIMS分析は、専門的な技術を有する分析受託会社に委託した。
その結果、GD-FZシリコン単結晶基板中の炭素濃度は4.8×1014atoms/cm3、NTD-FZシリコン単結晶基板中の炭素濃度は3.1×1015atoms/cm3となった。しかしながら、測定結果が得られるまでに1週間以上を要し、また、高額な分析費用がかかった。
【0073】
このように、従来技術では測定に長時間を要したり、コストがかかるのに対して、本発明では、簡便な方法により熱処理後のキャリアの再結合ライフタイムを測定できるので、簡便に速く炭素濃度を評価できる。しかも、従来技術と同程度の測定精度で炭素濃度を得ることができる。
【0074】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。