IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 栗田工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-逆浸透システムの診断装置 図1
  • 特許-逆浸透システムの診断装置 図2
  • 特許-逆浸透システムの診断装置 図3
  • 特許-逆浸透システムの診断装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】逆浸透システムの診断装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 65/10 20060101AFI20220712BHJP
   B01D 61/10 20060101ALI20220712BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
B01D65/10
B01D61/10
C02F1/44 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020521138
(86)(22)【出願日】2019-05-07
(86)【国際出願番号】 JP2019018248
(87)【国際公開番号】W WO2019225306
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2020-09-10
(31)【優先権主張番号】P 2018097219
(32)【優先日】2018-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】亀田 英邦
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-136210(JP,A)
【文献】特開2001-170458(JP,A)
【文献】特開2004-322058(JP,A)
【文献】特開2015-134322(JP,A)
【文献】特開2003-022128(JP,A)
【文献】特開2015-231606(JP,A)
【文献】特開2008-194560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00- 71/82
C02F 1/44
G01N 33/00- 33/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を逆浸透処理する逆浸透装置を有する逆浸透システムの動作状態を診断する診断装置であって、
該被処理水及び該逆浸透装置の濃縮水のNa濃度、TOC濃度及びUV260(波長260nmの紫外線吸光光度法によって測定される有機物質)濃度の入力部と、
入力されたNa濃度、TOC濃度及びUV260濃度に基づいてNa、TOC、及びUV260の濃縮倍率を演算し、Naの濃縮倍率がTOCの濃縮倍率よりも所定値以上大きいとき、又はNaの濃縮倍率がUV260の濃縮倍率よりも所定値以上大きいときには、逆浸透装置に有機物汚染が生じているものと判定する判定部と
を有する逆浸透システムの診断装置。
【請求項2】
被処理水を逆浸透処理する逆浸透装置を有する逆浸透システムの動作状態を診断する診断装置であって、
該被処理水及び該逆浸透装置の濃縮水のNa濃度、Ca濃度、Mg濃度及びSi濃度の入力部と、
入力されたNa濃度、Ca濃度、Mg濃度及びSi濃度に基づいて、Na、Ca、Mg及びSiの濃縮倍率を演算し、Naの濃縮倍率がCaの濃縮倍率よりも所定値以上大きいとき、Naの濃縮倍率がMgの濃縮倍率よりも所定値以上大きいとき、又はNaの濃縮倍率がSiの濃縮倍率よりも所定値以上大きいときには、逆浸透装置にCa、Mg又はSiスケール汚染が生じているものと判定する判定部と
を有する逆浸透システムの診断装置。
【請求項3】
前記逆浸透装置の一次側流路差圧が所定値以上となった場合、一次側流路差圧の上昇速度が所定値以上となった場合、補正フラックスが所定範囲外となった場合、又は補正フラックスの低下速度が所定値以上となった場合に前記診断を行う請求項1又は2の逆浸透システムの診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理水を逆浸透(RO)処理する逆浸透システムの動作不調原因を診断するための診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
井戸水、工業用水、水道水などを原水とする用水処理や、各種排水処理、排水回収等においては、原水に凝集剤を添加し、原水中の懸濁物質、コロイダル成分や有機物質等を凝結かつ粗大化させた後、沈殿、浮上、濾過、膜濾過等により固液分離する方法や、膜濾過単独で除濁・除菌して処理水を回収することが行われている。
【0003】
一般に、RO膜の膜閉塞原因としては、(i)給水の濁質過多や(ii)スケール、スライムの付着、(iii)前処理がある場合は前処理不良等があげられる。その対策として、次のようなことが行われている。
【0004】
(i)については、例えばRO給水のSDIを測定する。所定SDI以上の場合、前処理条件の変更等で対応する。(ii)については、例えばRO給水、RO処理水、及びRO濃縮水の水質を測定し、回収率の適正化を行う。(iii)については、前処理の凝集剤の添加濃度を確認し、許容添加濃度以上の場合、それ以下となるように調整する。
【0005】
RO膜の濾過抵抗が上昇した場合、逆洗や酸、アルカリ等による薬品洗浄が行われる(特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-185520号公報
【0007】
RO膜の閉塞原因としては、給水の濁質過多、スケールやスライムの付着、前処理不良等の多くの原因があり、原因によって対応策が異なるため、原因を正確に判断して、迅速かつ適切に対応策を立案することが求められている。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、逆浸透(RO)システムの動作不調の原因を容易に知ることができる逆浸透システムの診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の逆浸透システムの診断装置は、被処理水を逆浸透処理する逆浸透装置を有する逆浸透システムの動作状態を診断する診断装置であって、該逆浸透システムの濃縮倍率の入力部と、濃縮倍率と該逆浸透システムの動作不調状態との関係を表わすデータを記憶する記憶部と、前記入力部で入力された濃縮倍率と該記憶部に記憶されたデータとに基づき逆浸透装置の動作不調の原因を判定する判定部とを有する。
【0010】
本発明の一態様では、前記判定部は、非析出性の標準物質の濃縮倍率と、有機物の濃縮倍率とを対比する。
【0011】
本発明の一態様では、前記判定部は、非析出性の標準物質の濃縮倍率と、スケール形成性物質の濃縮倍率とを対比する。
【0012】
本発明の一態様では、前記非析出性の標準物質はNaであり、スケール形成性物質はSi、Ca又はMgである。
【0013】
本発明の一態様では、前記逆浸透装置の一次側流路差圧が所定値以上となった場合、一次側流路差圧の上昇速度が所定値以上となった場合、補正フラックスが所定範囲外となった場合、又は補正フラックスの低下速度が所定値以上となった場合に前記診断を行う。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、ROシステムの不調の原因を適切に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ROシステムの構成図である。
図2】ROシステムの診断装置の構成図である。
図3】ROシステムの診断方法を示すフローチャートである。
図4】前処理装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は実施の形態に係るROシステムの構成図である。原水は前処理装置1にて凝集処理及び濾過処理された後、ポンプ2、弁3、及び配管4を介してRO装置5に供給される。この実施の形態では、前処理装置1としては、図4の通り、凝集処理装置1aと、凝集処理水を濾過処理する濾過装置1bと、濾過処理水を貯留する中継槽1dとを有するものが用いられているが、これに限定されない。符号1cは、濾過水の中継槽1dへの流入配管、1eは中継槽1dから前記ポンプ2に向う配管を示す。この配管1eにpH計19が設置されている。
【0017】
濾過装置1bとしては、重力濾過器、圧力濾過器、MF膜モジュール、UF膜モジュールなどが好適であるが、この実施の形態では、中空糸UF膜モジュールが用いられている。
【0018】
RO装置5のRO膜5aの透過水は、配管6及び弁7を介して処理水として取り出され、RO膜5aを透過しなかった原水は、配管17及び弁18を介して濃縮水として取り出される。配管4,6,17には、それぞれ圧力センサ8,9,27が設けられている。配管6には、さらに、流量計9A、温度計9Bが設けられている。流量計9A、圧力センサ8,9,27、及び温度計9Bの検出値は、演算回路20に入力され、補正フラックス(補正透過流束)が演算される。
【0019】
前記圧力センサ8,27の検出圧力は演算回路20に入力され、両者の差が一次側流路差圧として演算される。この差圧が過大(所定値a以上)であるか、又は差圧の上昇速度が過大(所定値b以上)であるときには、アラーム回路21に信号を送って音及び/又は光によるアラームを発生させると共に、診断装置30に信号を送って診断を行う。前記流量計9Aの検出流量等から求まる補正フラックスが所定範囲外であるか、又は補正フラックスの低下速度が所定値以上である場合にも、アラーム回路21に信号を送って音及び/又は光によるアラームを発生させると共に、診断装置30に信号を送って診断を行う。
【0020】
診断装置30は、図2の通り、本体部31と、タッチスイッチ機能を有する入力部としての液晶表示パネル36を備えている。本体部31は、データ収集部32、データ保存部33、データベース(記憶部)34及び判定部35を備えている。
【0021】
本体部31は、CPU(中央演算処理装置)や、フラッシュメモリ、ROM、RAM、ハードディスク等からなるコンピュータで構成されている。
【0022】
本体部31のCPUが管理プログラムを実行することで、データ収集部32、データ保存部33、データベース34及び判定部35の機能が実現される。
【0023】
データ収集部32は、一次側流路差圧及び補正フラックスデータのほか、表示パネル36からの濃縮倍率データを受信する。データ保存部33は各データ及び後述の判定結果を保存する。データベース34には、各濃縮倍率とROシステムの動作不調原因との関係を表わすデータが格納されている。
【0024】
判定部35は、データ収集部32が収集した表示パネル36からの濃縮倍率データと、データベース34の原因データとに基づいて動作不調原因を決定し、表示パネル36に表示する。
【0025】
図3の通り、RO装置5の一次側流路差圧に異常がある場合(差圧又は差圧上昇速度が所定値以上である場合)、又はRO装置5の補正フラックスに異常がある場合(フラックスが所定値以下となっている場合、又はフラックスの低下速度が所定値以上である場合)、アラームを作動させると共に、表示パネル36に、例えば次のような各成分の濃度入力画面がテンキー部(図示略)と共に表示されるので、該テンキー部を利用して各項目の右側の入力欄に各成分の濃度を入力する。この入力操作は、ROシステムの運転担当者等が行う。なお、アラーム作動に伴って、表示パネル36にアラームスイッチを表示させ、運転担当者等が該アラームスイッチにタッチすると上記入力画面が表示されるようにしてもよい。
【0026】
給水Na濃度□□□mg/L
濃縮水Na濃度□□□mg/L
給水Ca濃度□□□mg/L
濃縮水Ca濃度□□□mg/L
給水Mg濃度□□□mg/L
濃縮水Mg濃度□□□mg/L
給水Si濃度□□□mg/L
濃縮水Si濃度□□□mg/L
給水TOC濃度□□□mg/L
濃縮水TOC濃度□□□mg/L
給水UV260濃度□□□mg/L
濃縮水UV260濃度□□□mg/L
【0027】
上記Naは、非析出性の標準物質であり、Ca、Mg、Siは析出性標準物質(スケール形成物質)である。UV260とは、波長260nmの紫外線吸光光度法によって測定される有機物質を表わす。非析出性の標準物質としては、K,Cl等を使用することもできる。また、析出性標準物質としては、Ba,Sr等を使用することができる。
【0028】
すべての項目の濃度の入力を行った後、回答終了を意味するEntスイッチにタッチする。これにより、回答データが表示パネル36からデータ収集部32に送信される。
【0029】
判定部35は、給水及び濃縮水中の各成分濃度に基づいて各成分濃縮倍率を演算する。そして、Naの濃縮倍率と、TOC及びUV260の各濃縮倍率よりも所定値以上大きい基準値とを対比する。即ち、Naの濃縮倍率をn、TOCの濃縮倍率をt、UV260の濃縮倍率をuとした場合、n>(t+α)、n>(u+β)であるかどうかそれぞれ判断する。(t+α、u+βが基準値である。)そして、該Na濃縮倍率が各基準値よりも大きいときには有機物汚染が生じているものと判定し、基準値よりも小さいときには有機物汚染は生じていないと判定する。
【0030】
また、Naの濃縮倍率と、Ca、Mg、及びSiの各濃縮倍率よりも所定値以上大きい基準値とを対比し、該Na濃縮倍率が各基準値よりも大きいときにはCa、Mg、又はSiスケール汚染が生じているものと判定し、基準値よりも小さいときにはCa、Mg、及びSiスケールによる汚染は生じていないと判定する。
【0031】
なお、フラックスが所定の上限値を超える場合には、RO膜が経年劣化しているものと判定し、RO膜を交換すべき旨の表示を表示パネルに表示する。
【0032】
このようにして、ROシステムのRO装置に不調が生じた場合、その原因を的確に知ることができるので、それに基づいて早急に効果的な対策を行うことができる。
【0033】
なお、上記態様においては、給水及び濃縮水の各成分の濃度を入力することで、各成分の濃縮倍率を計算するが、直接、各成分の濃縮倍率を入力してもよい。
【0034】
本発明を特に限定するものではないが、原水としては、水道水、工業用水、井戸水、排水全般が例示される。
【0035】
凝集処理に用いられる凝集剤、凝集助剤は、特に限定されないが、鉄系凝集剤を使用することが望ましい。なお、水質によっては、凝集処理は省略することができる。
【0036】
鉄系凝集剤を使用する場合はpH4.5~7.0、特に5.0~6.0が良好である。pHが過度に低いと、鉄リークにより膜閉塞のリスクがある。pHが過度に高いと凝集不良の可能性がある。
【0037】
原水には酸化剤(通常は次亜塩素酸Na)を添加することが好ましい。添加量は0.3~1.0mg/LasCl程度が好ましい。
【0038】
濾過装置1bに膜濾過モジュールを用いる場合、クロスフロー方式のものであっても全量濾過方式のものであってもよい。
【0039】
膜濾過モジュールによる処理工程は、通水、エアバブリング、逆洗、水張りの各工程を有する。濾過通水時間は20~40分。初期の膜間差圧(エレメント又はモジュールの一次側圧と二次側圧との差)は0.02~0.05MPa程度で運転。膜間差圧が0.07~0.10MPaになった場合、定置洗浄することが好ましい。膜の材質はPVDFが耐薬品性が良く、好ましい。孔径は0.01~0.5μmが好ましい。
【0040】
RO装置5のブライン量は3.6m/h以上が好ましい。RO膜としては、特に限定されるものではないが、標準圧力0.735MPaの超低圧膜が好ましく、膜面積は35~41mが好ましい。初期純水フラックス:1.0m/d(25℃)以上、0.735MPa、初期脱塩率:98%以上が好ましい。カルシウム硬度ランゲリア指数が0以下となるように回収率を設定することが好ましい。ブライン水中のシリカ濃度が溶解度以内となるように回収率を設定することが好ましい。なお、回収率は通常50~80%である。
【0041】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2018年5月21日付で出願された日本特許出願2018-97219に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0042】
1 前処理装置
5 RO装置
30 診断装置
36 表示パネル
図1
図2
図3
図4