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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】養殖装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/60 20170101AFI20220712BHJP
   A01K 63/06 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
A01K61/60 322
A01K63/06 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018002327
(22)【出願日】2018-01-11
(65)【公開番号】P2019118330
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2020-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤原 宗
(72)【発明者】
【氏名】武渕 堅次
(72)【発明者】
【氏名】矢田 智春
(72)【発明者】
【氏名】加藤 義規
(72)【発明者】
【氏名】山崎 王義
【審査官】赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-053556(JP,U)
【文献】中国実用新案第202197670(CN,U)
【文献】ヒラメ緑色LEDで成長促進 重量2割上回る 大分県が稚魚で実証試験,みなと新聞[online],2017年09月19日,URL: <https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/72848>,令和3年11月12日検索日
【文献】稲田 博史,水産分野におけるLED光源の活用 ,FAIS ひびきのサロン 水産動物の行動制御への応用,2011年12月22日,URL: <https://www.ksrp.or.jp/fais/mic/outline/files/20111222_01.pdf>,令和3年11月12日検索日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00-61/95
A01K 63/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
養殖魚が泳ぐ遊泳槽を照らす照明装置を備えた養殖装置において、
前記照明装置は、前記遊泳槽の底面側の水中から水面側方向、前記遊泳槽の表面側の水中から底面側方向、あるいは前記遊泳槽の表面側の水上から前記底面側方向の、少なくともいずれかの方向へ光を放射して前記遊泳槽の中央部を照射するように配置され、前記遊泳槽の中央部に柱状の照明領域を形成し
前記照明装置は、LEDを光源とし、照明開始時は前記LEDから放射される光の照度を徐々に上げ、照明終了時は照度を徐々に下げるように制御する機能を有していることを特徴とする養殖装置。
【請求項2】
請求項1記載の養殖装置において、
前記照明装置は、前記養殖装置が設置されている水上の照度、あるいは水中の照度を検知する機能を有し、該照度の検出結果から前記LEDから放射される光の照度を上げ、あるいは下げるように制御する機能を有していることを特徴とする養殖装置。
【請求項3】
請求項記載の養殖装置において、
前記照明装置は、前記養殖装置が設置されている場所を検知する設置場所検知機能と、少なくとも前記養殖装置の設置場所における日の出、日の入り時間を記憶手段から読み出す機能とを有し、前記設置場所の日の入り時間を読み出し、予め設定された照明開始時間に照明を開始する機能と、前記設置場所の日の出時間を読み出し、予め設定された照明終了時間に照明を終了する機能を有していることを特徴とする養殖装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、魚の養殖装置に関する。
【背景技術】
【0002】
魚資源の保護や魚の安定供給の観点から、魚の養殖がおこなわれている。例えば、マグロ養殖では、未成魚を海面に設置した生簀内で市場に出荷可能な大きさまで育てている。
【0003】
特にマグロ養殖においては、マグロが急激な環境変化に驚いて興奮状態となり、狂乱的に泳ぐ驚愕行動を防止することが、経営上きわめて重要となっている。例えば沿岸近くの海上に生簀が設置されている場合、夜間真っ暗となった生簀に沿岸から車のヘッドライトが到達するだけで、マグロは驚愕行動を起こしてしまう。
【0004】
このようなマグロの驚愕行動を防止する方法の一つとして、生簀の水面を均一な照度に保つ方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-19485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところでマグロ等の魚は、光に集まる習性があり、生簀(遊泳槽)の表面を明るくする従来方法では、水面近傍に魚が集まり、特にマグロのような大型の魚では水面近傍で魚同士が衝突して傷ついたり、死亡したりして好ましくない。そこで本発明は、驚愕行動を防止し、かつ遊泳槽の一部に魚が集まることなく広い遊泳領域で魚を泳がせることができる養殖装置を提供することを目的とする。また本発明の別の目的は、照明装置の照明開始時刻や照明終了時刻の設定が容易な養殖装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本願請求項1に係る発明は、養殖魚が泳ぐ遊泳槽を照らす照明装置を備えた養殖装置において、前記照明装置は、前記遊泳槽の底面側から水面側方向、前記遊泳槽の表面側の水中から底面側方向、あるいは前記遊泳槽の表面側の水上から前記底面側方向の、少なくともいずれかの方向へ光を放射して前記遊泳槽の中央部を照射するように配置され、前記遊泳槽の中央部に柱状の照明領域を形成し、前記照明装置は、L EDを光源とし、照明開始時は前記LEDから放射される光の照度を徐々に上げ、照明終了時は照度を徐々に下げるように制御する機能を有していることを特徴とする。
【0009】
本願請求項に係る発明は、請求項記載の養殖装置において、前記照明装置は、前記養殖装置が設置されている水上の照度、あるいは水中の照度を検知する機能を有し、該照度の検出結果から前記LEDから放射される光の照度を上げ、あるいは下げるように制御する機能を有していることを特徴とする。
【0010】
本願請求項に係る発明は、請求項記載の養殖装置において、前記照明装置は、前記養殖装置が設置されている場所を検知する設置場所検知機能と、少なくとも前記養殖装置の設置場所における日の出、日の入り時間を記憶手段から読み出す機能とを有し、前記設置場所の日の入り時間を読み出し、予め設定された照明開始時間に照明を開始する機能と、前記設置場所の日の出時間を読み出し、予め設定された照明終了時間に照明を終了する機能を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、遊泳槽の深い位置まで達する柱状の照射領域を形成するため、魚が遊泳槽の深さ方向に分散して泳ぐようになり、魚同士が衝突して傷ついたり、死亡したりすることがなくなり、マグロのような大型の魚の養殖装置として特に効果が大きい。
【0012】
また本発明の養殖装置に使用される照明装置は、LEDを光源として使用することで、LEDから照射される光の照度制御が非常に簡単となる利点がある。特に、マグロのように驚愕行動を起こしやすい魚を養殖する場合、急激な照度変化が無いように照度を調節する必要がある場合に、その調整が簡便で好ましい。
【0013】
さらにGPS等の位置検出手段や、場所ごとに年間の日の出時間、日の入り時間を記憶しておき、日の出時間あるいは日の入り時間のそれぞれ何分後を照明終了時間あるいは照明開始時間とするように予め設定しておくことで、遊泳槽の設置場所に関わらず、自動的に照明開始時間や照明終了時間を適宜設定することができ、照明装置の駆動管理が簡便となり好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施例の養殖装置を説明する図である。
図2】本発明の第1の実施例の照明装置の配置を説明する図である。
図3】本発明の第1の実施例の照明装置の制御方法の一例を説明する図である。
図4】本発明の第1の実施例の照明装置の制御方法の別の例を説明する図である。
図5】本発明の第1の実施例の別の照明装置の配置を説明する図である。
図6】本発明の第2の実施例の照明装置の配置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の養殖装置は、照明装置により遊泳槽のほぼ中央に柱状の照明領域を形成し、その周りを魚が遊泳するように構成することで、魚を広い領域で遊泳させることが可能となる。また、特に照明の開始時に、魚が驚愕行動を起こさない照度制御を行うことができる。以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0016】
まず、本発明の第1の実施例について説明する。図1は、マグロ等の魚を養殖する海上に設置された生簀等の遊泳槽1を上面からみた説明図であり、図2は、遊泳槽1の中央部分を横からみた説明図である。図2に示す例では、遊泳槽1の底面側の水中から水面側に向かって光を放射する照明装置2を配置した場合を示している。3はフロートである。照明装置2の電力供給線等は記載を省略している。晴れた日中は、遊泳槽1内に太陽光が十分に入射し、外部から何らかの光が入射したとしても魚の驚愕行動が発生することはないので、照明装置2をオフ状態としても何ら問題はない。一方、曇った日や夜間等、太陽光が遊泳槽1に十分に到達していない場合、外部から何らかの光が入射すると、魚が驚愕行動を起こしてしまうため、照射装置2をオン状態とする必要がある。
【0017】
照明装置2がオン状態となった状態では、図2に示すように、照明装置2から光が水面側に向かって放射され、柱状の照明領域4が形成される。この柱状の照明領域は、水面まで達するように照明装置2の照度を設定している。照明装置2は、図2に示すように1台のみ設置するほか、複数の照明装置2を設定しても良い。
【0018】
このように照明領域4が形成されている遊泳槽1内では、魚が照明領域4の周りに集まり、その周りを周遊することになる。この照明領域4は、遊泳槽1の深さ方向にわたって形成されるため、従来例方法のように水面の表面のみを照明装置で照らす場合と比較して、魚は深さ方向に分散して泳ぐことになる。
【0019】
照明装置2は、LEDを光源とするのが好ましい。それは、以下に示す照明装置2のオン状態、オフ状態の制御、照度の制御が容易だからである。以下、照明装置2の制御方法について詳細に説明する。
【0020】
図3に晴れた日の照明装置2の制御方法の一例を示す。昼間の時間帯は、十分に太陽光が遊泳槽に入射するため、照明装置2はオフ状態としておく。夕方、日没を過ぎた時間帯は、太陽光の明るさが徐々に低下していく。そこで、太陽光の光が十分にある状態で暗くなり始める前の時刻(例えば、日没時間の1時間前)に、照明装置2から光の放射を開始する。その際、従来の照明装置では、オン状態としたところで非常に明るい光を放射してしまい魚の驚愕行動を招いてしまう可能性がある。これに対してLEDを光源とする照明装置を用い、その駆動用電源としてデジタル電源を用いれば、照明装置2から放射される光の照度をゼロから徐々に上げていくことができる。例えば図3に示すように、太陽光の明るさが徐々に暗くなる夕方の時間帯には、周囲が十分に明るい時刻に照明装置2をオン状態とし、LEDから放射する光の量を徐々に増加させる。さらに太陽光が完全になくなるときには、LEDの照度を所定の値となるように制御する。このようにLEDを駆動する電源を制御することで、照明装置2からの光放射を開始することによって魚の驚愕行動を招くことなく、柱状の照明領域4を形成することができる。
【0021】
また日の出から遊泳槽の周りが十分に明るくなるまでの間は、図3に示すように上記と逆の制御を行えば、照明装置2からの光照射が徐々に低下しても、魚の驚愕行動を招くことはない。なお、照明装置2を消灯する時刻は、遊泳槽の周りが徐々に明るくなっていく時刻より、図3に示す昼間の時間側に移しても何ら問題はない。
【0022】
このように本発明の養殖装置では遊泳槽1の中心付近に柱状の照明領域4が形成されることになる。この照明領域4は、遊泳槽の深さ方向にわたって形成されるため、魚は深さ方向に分散して泳ぎ回ることになり、衝突等を防ぐことができる。また、照明領域4は、魚が泳いで通過することに何ら問題はなく、魚が障害物にぶつかり傷つくこともない。特に、図2に示すように照明装置を遊泳槽1の底面側に配置すると、照明装置2側の照度が高く、より深い位置に魚が集まることとなり、水面側に外部から何らかの光が入射したとしても問題ない。
【0023】
照明装置2から放射される光の照度の制御は、上記説明に限らず適宜変更可能である。例えば、図4に示す例では、天候が悪く昼間の時間帯においても十分な太陽光が遊泳槽1に降り注いでいない状態の場合には、昼間も照明装置2をオン状態としておくことも可能である。夕方や日の出の時間帯の制御は、照度を徐々に上げたり、下げたりすることで上記同様、照明装置の照度の上昇あるいは下降により魚の驚愕行動を招くことがなくなる。
【0024】
以上説明したように、遊泳槽1が設置されている場所の照度により、適宜照明装置の照度を制御することで魚の驚愕行動を防止することができる。このような照度の制御を行うためには、遊漁槽1が設置されている場所の照度を測定するため、照度計を備えていることが好ましい。また、季節により日没、日の出の時間が変化することから、季節ごとのこれらデータを備え、そのデータに基づき制御することもできる。その際、制御対象である遊泳槽の設置場所を検知するため、GPS装置等を備え、養殖装置の設置場所を検出する手段を備えることが好ましくなる。また、図5に示すように、魚が遊泳槽1の大きさを認識できるように遊泳槽1の側面を照射する照明装置2を追加しても良い。この場合、遊泳槽1の側面を照射する照明装置2の照度は、遊泳槽1の中央の柱状の照明領域4の照度より低くすることで、魚は、中央の柱状の照明領域4の周りを好んで遊泳し、遊泳槽1の側壁にぶつかることも防止できるようになる。
【実施例2】
【0025】
次に第2の実施例について説明する。上記第1の実施例では、照明装置2は、遊泳槽1の底面側の水中から水面側に向かって配置した例を示したが、水面側に照明装置2を配置して良い。図6は、遊泳槽1を上面側から見たときの説明図である。照明装置2は、照明用筏5に固定することで、水面上あるいは水面側の水中から放射される光により照明領域4を形成することができる。照明装置2と魚との衝突を防止するためには、水面上に照明装置2を配置するのが好ましい。このように照明装置2を水面上等に配置する方法は、照明装置のメンテナンスが容易であるとともに、魚に与えるエサが海中に沈み、照明装置2上に堆積するような不具合を避けることができることからも好ましい。図6に示す例では、魚が遊泳槽1が認識できるように遊泳槽1の側面を照射する照明装置2を追加した例を示している。この場合、遊泳槽1の側面を照射する照明装置2の照度は、遊泳槽1の中央の柱状の照明領域4の照度より低くすることで、魚は、中央の柱状の照明領域4の周りを遊泳することになる。
【0026】
なお本発明は、海上に設置される養殖装置に限定されるものではなく、陸上に設置される養殖装置であっても良い。
【符号の説明】
【0027】
1:遊泳槽、2:照明装置、3:フロート、4:照明領域、5:照明用筏
図1
図2
図3
図4
図5
図6