(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】希土類金属-遷移金属系合金粉末の製造方法及びサマリウム-鉄合金粉末
(51)【国際特許分類】
B22F 9/24 20060101AFI20220712BHJP
B22F 9/20 20060101ALI20220712BHJP
C22C 1/04 20060101ALI20220712BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20220712BHJP
H01F 1/055 20060101ALI20220712BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
B22F9/24 A
B22F9/20 C
C22C1/04 F
C22C33/02 G
H01F1/055 110
H01F41/02 G
(21)【出願番号】P 2021505544
(86)(22)【出願日】2020-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2020000732
(87)【国際公開番号】W WO2020183885
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2019044953
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 卓
(72)【発明者】
【氏名】榎戸 靖
(72)【発明者】
【氏名】岡田 周祐
(72)【発明者】
【氏名】高木 健太
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-119909(JP,A)
【文献】特開2009-088121(JP,A)
【文献】特表2008-505500(JP,A)
【文献】特開2018-186255(JP,A)
【文献】特開平06-310316(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163967(WO,A1)
【文献】特開2018-127716(JP,A)
【文献】特開平04-268046(JP,A)
【文献】TERESIAK, A. et. al.,Formation of modified TbCu7 and Th2Zn17 type structures during annealing of mechanical-alloyed Sm-Fe powders,Journal of Alloys and Compounds,NL,ELSEVIER,1998年12月30日,vol.274,pp.284-293
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
C22C 33/02
Science Direct
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類金属と、遷移金属と、アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物とを含む組成物を、前記アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物の融点以上の温度で熱処理する工程を含み、
前記希土類金属は、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される一種以上であり、
前記遷移金属は、Fe、Ni、Co、Cr及びMnからなる群より選択される一種以上である、希土類金属-遷移金属系合金粉末の製造方法。
【請求項2】
前記希土類金属は、SmまたはNdであり、
前記遷移金属は、Feである、請求項1に記載の希土類金属-遷移金属系合金粉末の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理する温度は、500℃以上800℃未満である、請求項1に記載の希土類金属-遷移金属系合金粉末の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理する温度における前記アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属ハロゲン化物中の前記希土類金属の濃度が3.2mol/L以上8.2mol/L以下である、請求項1に記載の希土類金属-遷移金属系合金粉末の製造方法。
【請求項5】
TbCu
7型希土類金属-遷移金属系合金の単結晶粒子を含む希土類金属-遷移金属系合金粉末を製造する、請求項1に記載の希土類金属-遷移金属系合金粉末の製造方法。
【請求項6】
希土類金属と、遷移金属、遷移金属の酸化物及び/又は遷移金属のハロゲン化物と、アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とを含む組成物を、前記アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物の融点以上の温度で熱処理する工程を含み、
前記希土類金属は、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される一種以上であり、
前記遷移金属は、Fe、Ni、Co、Cr及びMnからなる群より選択される一種以上である、希土類金属-遷移金属系合金粉末の製造方法。
【請求項7】
前記希土類金属は、SmまたはNdであり、
前記遷移金属は、Feである、請求項6に記載の希土類金属-遷移金属系合金粉末の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理する温度は、500℃以上800℃未満である、請求項6に記載の希土類金属-遷移金属系合金粉末の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理する温度における前記アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属ハロゲン化物中の前記希土類金属の濃度が3.2mol/L以上8.2mol/L以下である、請求項6に記載の希土類金属-遷移金属系合金粉末の製造方法。
【請求項10】
TbCu
7型希土類金属-遷移金属系合金の単結晶粒子を含む希土類金属-遷移金属系合金粉末を製造する、請求項6に記載の希土類金属-遷移金属系合金粉末の製造方法。
【請求項11】
TbCu
7型サマリウム-鉄合金の単結晶粒子を含
み、
粒子径が3.0μm以下である、サマリウム-鉄合金粉末。
【請求項12】
TbCu
7型サマリウム-鉄合金の単結晶粒子を含
み、
前記単結晶粒子は、内部に結晶粒界を含まず、結晶方位が揃った粒子であり、他の粒子と凝集していない孤立した粒子であるサマリウム-鉄合金粉末。
【請求項13】
粒子径が3.0μm以下である、請求項12に記載のサマリウム-鉄合金粉末。
【請求項14】
TbCu
7型サマリウム-鉄合金相の(110)面のX線回折ピークに対するTh
2Zn
17型サマリウム-鉄合金相の(024)面のX線回折ピークの強度比が0.400以下である、請求項
11から請求項13のいずれか1項に記載のサマリウム-鉄合金粉末。
【請求項15】
TbCu
7型サマリウム-鉄合金相の格子定数aに対する格子定数cの比c/aが0.840以上である、請求項11
から請求項14のいずれか1項に記載のサマリウム-鉄合金粉末。
【請求項16】
Fe相の比率が20%以下である、請求項11
から請求項15のいずれか1項に記載のサマリウム-鉄合金粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類金属-遷移金属系合金粉末の製造方法及びサマリウム-鉄合金粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ネオジム磁石を超える高い磁気特性を有する磁石の原料として、TbCu7型サマリウム-鉄-窒素磁石粉末が注目されている。
【0003】
TbCu7型サマリウム-鉄-窒素磁石粉末は、TbCu7型サマリウム-鉄合金粉末を窒化することで製造されている。また、TbCu7型サマリウム-鉄合金は、準安定相であるため、通常の加熱溶解及び冷却による合金化方法で製造することができず、例えば、超急冷法で製造されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、超急冷法を用いると、結晶方位がランダムであるTbCu7型サマリウム-鉄-窒素等方性磁石粉末しか製造することができず、その結果、最大エネルギー積が高いTbCu7型サマリウム-鉄-窒素磁石を製造することはできない。
【0006】
最大エネルギー積が高いTbCu7型サマリウム-鉄-窒素磁石を製造するためには、TbCu7型サマリウム-鉄-窒素異方性磁石粉末を製造する必要があり、そのために、TbCu7型サマリウム-鉄合金の単結晶粒子を含むサマリウム-鉄合金粉末を製造する必要がある。
【0007】
本発明の一態様は、TbCu7型希土類金属-遷移金属系合金の単結晶粒子を含む希土類金属-遷移金属系合金粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、希土類金属-遷移金属系合金粉末の製造方法において、希土類金属と、遷移金属と、アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物とを含む組成物を、前記アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物の融点以上の温度で熱処理する工程を含み、前記希土類金属は、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される一種以上であり、前記遷移金属は、Fe、Ni、Co、Cr及びMnからなる群より選択される一種以上である。
【0009】
本発明の他の一態様は、希土類金属-遷移金属系合金粉末の製造方法において、希土類金属と、遷移金属、遷移金属の酸化物及び/又は遷移金属のハロゲン化物と、アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とを含む組成物を、前記アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物の融点以上の温度で熱処理する工程を含み、前記希土類金属は、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される一種以上であり、前記遷移金属は、Fe、Ni、Co、Cr及びMnからなる群より選択される一種以上である。
【0010】
本発明の他の一態様は、サマリウム-鉄合金粉末において、TbCu7型サマリウム-鉄合金の単結晶粒子を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、TbCu7型希土類金属-遷移金属系合金の単結晶粒子を含む希土類金属-遷移金属系合金粉末の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例20のサマリウム-鉄合金粉末の明視野TEM像である。
【
図3】
図2の領域Cに対応する制限視野回折像である。
【
図4】実施例19~21、25のサマリウム-鉄合金粉末のX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に記載した内容により限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は、適宜組み合わせることが可能である。
【0014】
[希土類金属-遷移金属系合金粉末の第1の製造方法]
本実施形態の希土類金属-遷移金属系合金粉末の第1の製造方法は、希土類金属と、遷移金属と、アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物とを含む組成物を、アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物の融点以上の温度で熱処理する工程を含む。このため、希土類金属-遷移金属系合金を構成する金属の融点よりも遙かに低い温度で合金化することができ、その結果、TbCu7型希土類金属-遷移金属系合金の単結晶粒子を含む希土類金属-遷移金属系合金粉末を製造することができる。
【0015】
本明細書及び特許請求の範囲において、アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物が混合物である場合、アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物の融点以上の温度とは、状態図により示される混合物の共晶点以上の温度を意味する。
【0016】
(熱処理)
希土類金属は、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される一種以上である。
【0017】
希土類金属の形態としては、例えば、粉末等が挙げられる。
【0018】
遷移金属は、Fe、Ni、Co、Cr及びMnからなる群より選択される一種以上である。
【0019】
遷移金属の形態としては、例えば、粉末等が挙げられる。
【0020】
アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物におけるハロゲン化物としては、例えば、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物等が挙げられる。
【0021】
アルカリ金属のハロゲン化物としては、例えば、LiCl、KCl、NaCl、LiF等が挙げられる。
【0022】
アルカリ土類金属のハロゲン化物としては、例えば、CaCl2、MgCl2、BaCl2、SrCl2等が挙げられる。
【0023】
アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物の形態としては、例えば、粉末等が挙げられる。
【0024】
希土類金属及び遷移金属が、例えば、それぞれSm及びFeであると、サマリウム-鉄系合金の単結晶粒子を含むサマリウム-鉄系合金粉末を製造することができる。
【0025】
また、希土類金属及び遷移金属が、例えば、それぞれNd及びFeであると、ネオジム-鉄系合金の単結晶粒子を含むネオジム-鉄系合金粉末を製造することができる。
【0026】
熱処理する温度は、500℃以上800℃未満であることが好ましく、550℃以上650℃未満であることがさらに好ましい。これにより、TbCu7型希土類-鉄系合金の単結晶粒子を含む希土類-鉄系合金粉末を製造することができる。
【0027】
なお、アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物や、熱処理温度を変更することにより、Th2Zn17型等の希土類-鉄系合金の単結晶粒子を含む希土類-鉄系合金粉末を製造することができる。
【0028】
熱処理する温度におけるアルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物中の希土類金属の濃度は、3.2mol/L以上8.2mol/L以下であることが好ましく、5.2mol/L以上6.2mol/L以下であることがさらに好ましい。これにより、例えば、Smリッチ相(例えば、SmFe2相、SmFe3相)等の異相の生成を抑制することができる。
【0029】
[希土類金属-遷移金属系合金粉末の第2の製造方法]
本実施形態の希土類金属-遷移金属系合金粉末の第2の製造方法は、希土類金属と、遷移金属、遷移金属の酸化物及び/又は遷移金属のハロゲン化物と、アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属とを含む組成物を、アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物の融点以上の温度で熱処理する工程を含む。このため、希土類金属-遷移金属系合金を構成する金属の融点よりも遙かに低い温度で合金化することができ、その結果、TbCu7型希土類金属-遷移金属系合金の単結晶粒子を含む希土類金属-遷移金属系合金粉末を製造することができる。
【0030】
(熱処理)
希土類金属は、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される一種以上である。
【0031】
希土類金属の形態としては、例えば、粉末等が挙げられる。
【0032】
遷移金属は、Fe、Ni、Co、Cr及びMnからなる群より選択される一種以上である。
【0033】
遷移金属の酸化物としては、例えば、Fe2O3、Fe3O4等が挙げられる。
【0034】
遷移金属のハロゲン化物におけるハロゲン化物としては、例えば、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物等が挙げられる。
【0035】
遷移金属のハロゲン化物としては、例えば、FeCl2、FeCl3、FeF2、FeI2等が挙げられる。
【0036】
遷移金属、遷移金属の酸化物及び/又は遷移金属のハロゲン化物の形態としては、例えば、粉末等が挙げられる。
【0037】
アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物におけるハロゲン化物としては、例えば、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物等が挙げられる。
【0038】
アルカリ金属のハロゲン化物としては、例えば、LiCl、KCl、NaCl、LiF等が挙げられる。
【0039】
アルカリ土類金属のハロゲン化物としては、例えば、CaCl2、MgCl2、BaCl2、SrCl2等が挙げられる。
【0040】
アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物の形態としては、例えば、粉末等が挙げられる。
【0041】
アルカリ金属としては、例えば、ナトリウム等が挙げられる。
【0042】
アルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。
【0043】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の形態としては、例えば、粉末等が挙げられる。
【0044】
本実施形態の希土類金属-遷移金属系合金粉末の第2の製造方法では、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属が用いられている。このため、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属は、遷移金属の酸化物及び/又は遷移金属のハロゲン化物を還元したり、表面が酸化された希土類金属及び/又は遷移金属を還元したりすることができる。その結果、例えば、Smリッチ結晶相(例えば、SmFe2相、SmFe3相)等の異相の生成を抑制することができる。
【0045】
希土類金属及び遷移金属が、例えば、それぞれSm及びFeであると、サマリウム-鉄系合金の単結晶粒子を含むサマリウム-鉄系合金粉末を製造することができる。
【0046】
また、希土類金属及び遷移金属が、例えば、それぞれNd及びFeであると、ネオジム-鉄系合金の単結晶粒子を含むネオジム-鉄系合金粉末を製造することができる。
【0047】
熱処理する温度は、500℃以上800℃未満であることが好ましく、550℃以上650℃未満であることがさらに好ましい。これにより、TbCu7型希土類-鉄系合金の単結晶粒子を含む希土類-鉄系合金粉末を製造することができる。
【0048】
なお、アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属の塩化物や、熱処理温度を変更することにより、Th2Zn17型等の希土類-鉄系合金の単結晶粒子を含む希土類-鉄系合金粉末を製造することができる。
【0049】
熱処理する温度におけるアルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物中の希土類金属の濃度は、3.2mol/L以上8.2mol/L以下であることが好ましく、5.2mol/L以上6.2mol/L以下であることがさらに好ましい。これにより、例えば、Smリッチ結晶相(例えば、SmFe2相、SmFe3相)等の異相の生成を抑制することができる。
【0050】
[希土類金属-遷移金属系合金粉末の製造方法のその他の工程]
(水洗)
希土類金属-遷移金属系合金粉末は、アルカリ金属のハロゲン化物及び/又はアルカリ土類金属のハロゲン化物を除去するために、水洗することが好ましい。
【0051】
例えば、希土類金属-遷移金属系合金粉末に水を加え、撹拌した後、デカンテーションする操作を繰り返す。
【0052】
(脱水素)
希土類金属-遷移金属系合金粉末を水洗する際に、希土類金属-遷移金属系合金粉末の結晶格子間に水素が侵入する場合がある。この場合、希土類金属-遷移金属系合金粉末を脱水素してもよい。
【0053】
希土類金属-遷移金属系合金粉末を脱水素する方法としては、特に限定されないが、真空中又は不活性ガス雰囲気中で希土類金属-遷移金属系合金粉末を熱処理する方法等が挙げられる。
【0054】
例えば、真空中又はアルゴン気流下、希土類金属-遷移金属系合金粉末を150~250℃で1~3時間熱処理する。
【0055】
(真空乾燥)
水洗された希土類金属-遷移金属系合金粉末は、水を除去するために、真空乾燥させることが好ましい。
【0056】
水洗された希土類金属-遷移金属系合金粉末を真空乾燥させる温度は、常温~100℃であることが好ましい。これにより、希土類金属-遷移金属系合金粉末の酸化を抑制することができる。
【0057】
なお、水洗された希土類金属-遷移金属系合金粉末をアルコール類等の揮発性が高く、水と混和することが可能な有機溶媒で置換した後、真空乾燥させてもよい。
【0058】
(解砕)
希土類金属-遷移金属系合金粉末を解砕してもよい。
【0059】
希土類金属-遷移金属系合金粉末を解砕する際には、ジェットミル、乾式及び湿式のボールミル、振動ミル、媒体撹拌ミル等を用いることができる。
【0060】
[サマリウム-鉄合金粉末]
本実施形態のサマリウム-鉄合金粉末は、TbCu7型サマリウム-鉄合金の単結晶粒子を含む。
【0061】
ここで、粉末とは、粒子の集合体を表し、単結晶粒子とは、その内部に結晶粒界を含まず、結晶方位が揃った粒子が、他の粒子と凝集していない孤立粒子を表す。
【0062】
なお、本実施形態のサマリウム-鉄合金粉末は、本実施形態の希土類金属-遷移金属系合金粉末の製造方法を用いて、製造することができる。
【0063】
本実施形態のサマリウム-鉄合金粉末のTbCu7型サマリウム-鉄合金相の(110)面のX線回折ピークに対するTh2Zn17型サマリウム-鉄合金相の(024)面のX線回折ピークの強度比は、0.400以下であることが好ましく、0.150以下であることがより好ましく、0.001以下であることがさらに好ましい。TbCu7型サマリウム-鉄合金相の(110)面のX線回折ピークに対するTh2Zn17型サマリウム-鉄合金相の(024)面のX線回折ピークの強度比が0.400以下であると、本実施形態のサマリウム-鉄合金粉末中のTbCu7型サマリウム-鉄合金相の比率が十分に高くなる。
【0064】
本実施形態のサマリウム-鉄合金粉末のTbCu7型サマリウム-鉄合金相の格子定数aに対する格子定数cの比c/aが0.840以上であることが好ましく、0.842以上であることがより好ましく、0.846以上であることがさらに好ましい。本実施形態のサマリウム-鉄合金粉末のTbCu7型サマリウム-鉄合金相の格子定数aに対する格子定数cの比c/aが0.840以上であると、本実施形態のサマリウム-鉄合金粉末中のTbCu7型サマリウム-鉄合金相の比率が十分に高くなる。
【0065】
本実施形態のサマリウム-鉄合金粉末のFe相の比率は、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。本実施形態のサマリウム-鉄合金粉末のFe相の比率が20%以下であると、本実施形態のサマリウム-鉄合金粉末中のTbCu7型サマリウム-鉄合金相の比率が十分に高くなる。
【0066】
本実施形態のサマリウム-鉄合金粉末の粒子径は、3μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがさらに好ましい。
【0067】
本実施形態のサマリウム-鉄合金粉末を窒化処理することで、TbCu7型サマリウム-鉄-窒素磁石粉末が得られる。ここで、Th2Zn17型サマリウム-鉄-窒素磁石の単磁区粒子の粒子径は3μm程度であり、異方性磁界がTh2Zn17型サマリウム-鉄-窒素磁石の1/3程度であるため、TbCu7型サマリウム-鉄-窒素磁石の単磁区粒子の粒子径が3μmを超えることはないと考えられる。
【0068】
したがって、本実施形態のサマリウム-鉄合金粉末の粒子径が3μm以下であると、TbCu7型サマリウム-鉄-窒素磁石粉末の磁気構造が多磁区構造から単磁区構造に遷移するため、TbCu7型サマリウム-鉄-窒素磁石粉末の磁気特性が高くなる。また、本実施形態のサマリウム-鉄合金粉末の粒子径が1μm以下であると、磁化反転核の形成を抑制することができるため、TbCu7型サマリウム-鉄-窒素磁石粉末の磁気特性がさらに高くなる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
[鉄粉末の作製]
硝酸鉄101.8g、硝酸カルシウム14.9gを水819mLに溶解させた後、撹拌しながら、1mol水酸化カリウム水溶液441mlを滴下し、水酸化鉄の懸濁液を得た。次に、水酸化鉄の懸濁液をろ過し、洗浄した後、熱風乾燥オーブンを用いて、空気中、120℃で一晩乾燥させ、水酸化鉄粉末を得た。次に、水素気流中、500℃で6時間、水酸化鉄粉末を還元し、鉄粉末を得た。
【0071】
[実施例1]
(熱処理)
サマリウム粉末0.40g、鉄粉末0.24g、融点605℃の塩化リチウム粉末1.04gを鉄製るつぼに入れた後、Ar雰囲気中、650℃で6時間熱処理し、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、650℃における塩化リチウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0072】
塩化リチウム中のサマリウムの濃度は、式
[(サマリウム粉末の質量)/(サマリウムのモル質量)]/[(塩化リチウムの質量)/(塩化リチウムの密度)]
により決定した。
【0073】
(水洗)
サマリウム-鉄合金粉末を純水で洗浄し、塩化リチウムを除去した。
【0074】
(真空乾燥)
純水で洗浄したサマリウム-鉄合金粉末を、イソプロパノールで置換した後、常温で真空乾燥させた。
【0075】
[実施例2]
以下のように熱処理した以外は、実施例1と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。
【0076】
(熱処理)
サマリウム粉末0.24g、鉄粉末0.29g、融点605℃の塩化リチウム粉末1.04g、カルシウム粉末0.20gを鉄製るつぼに入れた後、Ar雰囲気中、650℃で6時間熱処理し、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、650℃における塩化リチウム中のサマリウムの濃度は、3.2mol/Lであった。
【0077】
[実施例3]
熱処理におけるサマリウム粉末及び鉄粉末の添加量を、それぞれ0.40g及び0.24gに変更した以外は、実施例2と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、650℃における塩化リチウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0078】
[実施例4]
熱処理におけるサマリウム粉末及び鉄粉末の添加量を、それぞれ0.54g及び0.20gに変更した以外は、実施例2と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、650℃における塩化リチウム中のサマリウムの濃度は、7.2mol/Lであった。
【0079】
[実施例5]
熱処理におけるサマリウム粉末及び鉄粉末の添加量を、それぞれ0.63g及び0.19gに変更した以外は、実施例2と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、650℃における塩化リチウム中のサマリウムの濃度は、8.4mol/Lであった。
【0080】
[実施例6]
熱処理におけるカルシウム粉末の添加量を0.40gに変更した以外は、実施例3と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、650℃における塩化リチウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0081】
[実施例7]
熱処理におけるカルシウム粉末の添加量を0.80gに変更した以外は、実施例3と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、650℃における塩化リチウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0082】
[実施例8]
熱処理におけるカルシウム粉末の添加量を1.00gに変更した以外は、実施例3と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、650℃における塩化リチウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0083】
[実施例9]
熱処理において、塩化リチウム粉末1.04gの代わりに、塩化リチウム粉末0.71g及び融点770℃の塩化カリウム粉末0.31gを添加した以外は、実施例3と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、650℃における塩化リチウム及び塩化カリウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0084】
[実施例10]
熱処理において、塩化リチウム粉末1.04gの代わりに、塩化リチウム粉末0.78g及び融点801℃の塩化ナトリウム粉末0.27gを添加した以外は、実施例3と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、650℃における塩化リチウム及び塩化ナトリウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0085】
[実施例11]
熱処理において、塩化リチウム粉末1.04gの代わりに、塩化リチウム粉末0.92g及び融点848℃のフッ化リチウム粉末0.14gを添加した以外は、実施例3と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、650℃における塩化リチウム及び塩化ナトリウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0086】
[実施例12]
熱処理において、塩化リチウム粉末1.04gの代わりに、塩化リチウム粉末0.63g及び融点772℃の塩化カルシウム粉末0.42gを添加した以外は、実施例3と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、650℃における塩化リチウム及び塩化カルシウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0087】
[実施例13]
熱処理において、塩化リチウム粉末1.04gの代わりに、塩化リチウム粉末0.69g及び融点714℃の塩化マグネシウム粉末0.39gを添加した以外は、実施例3と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、650℃における塩化リチウム及び塩化マグネシウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0088】
[実施例14]
熱処理において、塩化リチウム粉末1.04gの代わりに、塩化リチウム粉末0.62g及び融点962℃の塩化バリウム粉末0.77gを添加した以外は、実施例3と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、650℃における塩化リチウム及び塩化バリウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0089】
[実施例15]
熱処理において、塩化リチウム粉末1.04gの代わりに、塩化リチウム粉末0.63g及び融点874℃の塩化ストロンチウム粉末0.59gを添加した以外は、実施例3と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、650℃における塩化リチウム及び塩化ストロンチウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0090】
[実施例16]
熱処理において、サマリウム粉末0.40gの代わりに、ネオジム粉末0.40gを添加した以外は、実施例3と同様にして、ネオジム-鉄合金粉末を得た。ここで、650℃における塩化リチウム中のネオジムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0091】
[実施例17]
熱処理において、熱処理温度を600℃に変更した以外は、実施例9と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、600℃における塩化リチウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0092】
[実施例18]
熱処理において、熱処理温度を550℃に変更した以外は、実施例9と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、550℃における塩化リチウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0093】
[実施例19]
熱処理において、熱処理時間を48時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、650℃における塩化リチウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0094】
[実施例20]
熱処理において、塩化リチウム粉末0.71g及び塩化カリウム粉末0.31gの代わりに、塩化リチウム粉末0.35g及び塩化カルシウム粉末0.71gを添加した以外は、実施例17と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、600℃における塩化リチウム及び塩化カルシウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0095】
[実施例21]
熱処理において、熱処理時間を48時間に変更した以外は、実施例20と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、650℃における塩化リチウム及び塩化カルシウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0096】
[実施例22]
以下のように熱処理した以外は、実施例1と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。
【0097】
(熱処理)
サマリウム粉末0.25g、鉄粉末0.24g、塩化リチウム粉末0.35g、塩化カルシウム粉末0.71gを鉄製るつぼに入れた後、Ar雰囲気中、600℃で6時間熱処理し、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、600℃における塩化リチウム及び塩化カルシウム中のサマリウムの濃度は、3.2mol/Lであった。
【0098】
[実施例23]
熱処理におけるサマリウム粉末の添加量を0.30gに変更した以外は、実施例22と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、600℃における塩化リチウム及び塩化カルシウム中のサマリウムの濃度は、4.0mol/Lであった。
【0099】
[実施例24]
熱処理におけるサマリウム粉末の添加量を0.35gに変更した以外は、実施例22と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、600℃における塩化リチウム及び塩化カルシウム中のサマリウムの濃度は、4.7mol/Lであった。
【0100】
[実施例25]
熱処理におけるサマリウム粉末の添加量を0.40gに変更した以外は、実施例22と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、600℃における塩化リチウム及び塩化カルシウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0101】
[実施例26]
熱処理におけるカルシウム粉末の添加量を0.10gに変更した以外は、実施例20と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、600℃における塩化リチウム及び塩化カルシウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0102】
[実施例27]
熱処理におけるカルシウム粉末の添加量を0.40gに変更した以外は、実施例20と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、600℃における塩化リチウム及び塩化カルシウム中のサマリウムの濃度は、5.4mol/Lであった。
【0103】
[実施例28]
熱処理におけるサマリウム粉末の添加量を0.25gに変更した以外は、実施例20と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、600℃における塩化リチウム及び塩化カルシウム中のサマリウムの濃度は、3.2mol/Lであった。
【0104】
[実施例29]
熱処理におけるサマリウム粉末の添加量を0.30gに変更した以外は、実施例20と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、600℃における塩化リチウム及び塩化カルシウム中のサマリウムの濃度は、4.0mol/Lであった。
【0105】
[実施例30]
熱処理におけるサマリウム粉末の添加量を0.35gに変更した以外は、実施例20と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、600℃における塩化リチウム及び塩化カルシウム中のサマリウムの濃度は、4.7mol/Lであった。
【0106】
[実施例31]
熱処理における鉄粉末の添加量を0.12gに変更した以外は、実施例30と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、600℃における塩化リチウム及び塩化カルシウム中のサマリウムの濃度は、4.0mol/Lであった。
【0107】
[実施例32]
熱処理における鉄粉末の添加量を0.06gに変更した以外は、実施例30と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を得た。ここで、600℃における塩化リチウム及び塩化カルシウム中のサマリウムの濃度は、4.0mol/Lであった。
【0108】
[比較例1]
熱処理において、塩化リチウム粉末を添加しなかった以外は、実施例3と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を作製しようとしたが、サマリウム-鉄合金粉末を作製することができなかった。
【0109】
[比較例2]
熱処理において、サマリウム粉末0.40gの代わりに、酸化サマリウム粉末0.47gを添加した以外は、比較例1と同様にして、サマリウム-鉄合金粉末を作製しようとしたが、サマリウム-鉄合金粉末を作製することができなかった。
【0110】
表1に、熱処理の条件を示す。
【0111】
【表1】
次に、TbCu
7型サマリウム-鉄(又はネオジム-鉄)合金の単結晶粒子の有無、形成相、TbCu
7型サマリウム-鉄合金相の(110)面のX線回折ピークに対するTh
2Zn
17型サマリウム-鉄合金相の(024)面のX線回折ピークの強度比(以下、X線回折ピークの強度比という)、TbCu
7型サマリウム-鉄合金相の格子定数aに対する格子定数cの比c/a(以下、格子定数比という)、鉄相の比率を評価した。
【0112】
[TbCu7型サマリウム-鉄(又はネオジム-鉄)合金の単結晶粒子の有無]
粉末を樹脂に包埋し、研磨した後、集束イオンビーム(FIB)加工することにより、薄片を得た。次に、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、薄片の制限視野回折像を取得し、TbCu7型サマリウム-鉄(又はネオジム-鉄)合金の単結晶粒子の有無を評価した。
【0113】
図1に、実施例20のサマリウム-鉄合金粉末の明視野TEM像を示す。また、
図2は、
図1の明視野TEM像の部分拡大図であり、
図3は、
図2の領域Cに対応する制限視野回折像である。
【0114】
図1から、実施例20のサマリウム-鉄合金粉末は、粒子径が3.0μm以下であることがわかる。
【0115】
また、
図3の制限視野回折像がスポット状であることから、
図1のサマリウム-鉄合金粉末が単結晶粒子を含むことがわかる。さらに、
図3の制限視野回折像がTbCu
7型サマリウム-鉄合金の結晶構造の特徴である空間群P6/mmmと一致することから、サマリウム-鉄合金粉末がTbCu
7型サマリウム-鉄合金の単結晶粒子を含むことがわかる。
【0116】
[形成相、X線回折ピークの強度比、格子定数比、鉄相の比率]
X線回折装置Empyrean(Malvern Panalytical製)及びX線検出器Pixcel 1D(Malvern Panalytical製)を用いて、サマリウム-鉄合金粉末のX線回折スペクトルを測定した。具体的には、X線源として、Co管球を使用し、管電圧45kV、管電流40mA、測定角度30~60°、測定ステップ幅0.013°、幅スキャンスピード0.09°/secの条件で、サマリウム-鉄合金粉末のX線回折スペクトルを測定した(
図4参照)。
【0117】
X線回折パターンの解析ソフトとして、High Score Plus(Malvern Panalytical製)を用い、最小有意度を1.00に設定して、ピークサーチ及びプロファイルフィッティングを実施した。具体的には、TbCu7型サマリウム-鉄合金相の(110)面の回折ピークの積分強度と、Th2Zn17型サマリウム-鉄合金相の(024)面の回折ピークの積分強度を求めた後、X線回折ピークの強度比を算出した。
【0118】
図4から、実施例19~21、25のサマリウム-鉄合金粉末は、X線回折ピークの強度比が、それぞれ0.362、<0.001、0.137、<0.001であること、即ち、TbCu
7型サマリウム-鉄合金相の比率が高いことがわかった。
【0119】
また、サマリウム-鉄合金粉末のX線回折スペクトルを測定した後(
図4参照)、リートベルト解析を実施することにより、格子定数比を求めた。
【0120】
図4から、実施例19~21、25のサマリウム-鉄合金粉末の格子定数比は、それぞれ0.840、0.846、0.842、0.846であることがわかった。
【0121】
さらに、X線回折パターンの解析ソフトとして、High Score Plus(Malvern Panalytical製)を用いて、TbCu7型サマリウム-鉄合金相の主回折ピークである49.8°近傍に観測される(111)面の積分強度(I_TbCu7)と、Fe相の主回折ピークである52.7°近傍に観測される(110)面の積分強度(I_Fe)と、TbCu7型サマリウム-鉄合金相以外のサマリウム-鉄合金相の主回折ピークの積分強度(I_SmFe)を求め、式
I_Fe/(I_TbCu7+I_Fe+I_SmFe)
から、鉄相の比率を算出した。
【0122】
図4から、実施例19~21、25のサマリウム-鉄合金粉末の鉄相の比率は、それぞれ1%未満、7%、6%、7%であることがわかった。
【0123】
なお、ネオジム-鉄合金粉末の鉄相の比率は、TbCu7型ネオジム-鉄合金相の主回折ピークが49.0°近傍に観測される(111)面の積分強度(I_TbCu7)と、TbCu7型ネオジム-鉄合金相以外のネオジム-鉄合金相の主回折ピークの積分強度(I_NdFe)を求めた以外は、サマリウム-鉄合金粉末の鉄相の比率と同様にして、算出した。
【0124】
表2に、TbCu7型サマリウム-鉄(又はネオジム-鉄)合金の単結晶粒子の有無、形成相、X線回折ピークの強度比、格子定数比、鉄相の比率の評価結果を示す。
【0125】
【表2】
表2から、実施例1~15、17~32では、TbCu
7型サマリウム-鉄合金の単結晶粒子を含むサマリウム-鉄合金粉末が得られ、実施例16では、TbCu
7型ネオジム-鉄合金の単結晶粒子を含むネオジム-鉄合金粉末が得られることがわかる。
【0126】
これに対して、比較例1、2では、アルカリ金属のハロゲン化物又はアルカリ金属土類金属のハロゲン化物を添加せず、650℃で熱処理したため、サマリウム-鉄合金粉末が得られない。
【0127】
本願は、日本特許庁に2019年3月12日に出願された基礎出願2019-044953号の優先権を主張するものであり、その全内容を参照によりここに援用する。