(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】水中油型乳化油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20220712BHJP
A21D 2/14 20060101ALI20220712BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20220712BHJP
A21D 2/18 20060101ALI20220712BHJP
A21D 2/22 20060101ALI20220712BHJP
A21D 2/26 20060101ALI20220712BHJP
A21D 10/00 20060101ALI20220712BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20220712BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D2/14
A21D2/16
A21D2/18
A21D2/22
A21D2/26
A21D10/00
A21D13/00
(21)【出願番号】P 2017226280
(22)【出願日】2017-11-24
【審査請求日】2020-09-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 倫生
(72)【発明者】
【氏名】廣川 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】藪下 哲成
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 俊介
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-158120(JP,A)
【文献】特開2008-079507(JP,A)
【文献】特開2017-035052(JP,A)
【文献】特開2009-240240(JP,A)
【文献】特開2011-097923(JP,A)
【文献】特開平07-132039(JP,A)
【文献】特開昭63-007744(JP,A)
【文献】特開2009-095247(JP,A)
【文献】特開平07-184541(JP,A)
【文献】日高 徹, グリセリン脂肪酸エステルを中心とする食品用乳化剤の現況と動向, 油化学, 1981, vol. 30, no. 12, p. 823-836
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)~(9)の全てを満たす
製パン用水中油型乳化油脂組成物。
(1)油脂含量が10~30質量%である。
(2)水分含量が10~30質量%である。
(3)糖類の含量が固形分として
35~70質量%である。
(4)水相中の糖類の含量が固形分として65質量%以上である。
(5)グリセリン有機酸脂肪酸エステル及び/又はプロピレングリコール脂肪酸エステルを含有し、その合計量が1~10質量%である。
(6)グリセリン有機酸脂肪酸エステルを除くグリセリンモノ脂肪酸エステルを1~15質量%含有する。
(7)アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸塩を含有し、その合計量が0.1~3質量%である。
(8)pH調整剤を0.001~1質量%含有する。
(9)HLBが7を超える乳化剤を含有しない。ただし、前記(5)成分の乳化剤を除く。
【請求項2】
さらに、酵素を含有する請求項1記載の水中油型乳化油脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の水中油型乳化油脂組成物を含有するベーカリー生地。
【請求項4】
請求項3記載のベーカリー生地の加熱品であるベーカリー製品。
【請求項5】
請求項1又は2記載の水中油型乳化油脂組成物を使用するベーカリー生地の改良方法。
【請求項6】
請求項1又は2記載の水中油型乳化油脂組成物を使用するベーカリー製品の改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存性が良好であり、ボリュームが大きく、ソフトでしとりと歯切れが良好であるパンを、生地物性を悪化させることなく得ることができる水中油型乳化油脂組成物、及び、該水中油型乳化油脂組成物を使用したベーカリー生地及びベーカリー製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ボリュームが大きく、ソフトでしとりと歯切れが良好であるパンを得ることは製パン業界における最も重要な課題のひとつである。
その解決方法の最も古典的な方法は、パンの吸水を増加させる方法である。しかし、この方法では生地がべたついて成形しづらくなってしまったり、得られるパンが、ソフトではあるがべちゃついたりねちゃついたりした歯切れの悪い食感になってしまうことに加え、焼き落ちやケービングを起こしやすいという問題があった。
【0003】
そのため、パンの構成成分である澱粉ゲルやグルテン構造に作用する成分を各種組み合わせて、水分含量の多寡に影響されず、生地物性にあまり影響を与えることなく、ボリュームが大きく、ソフトでしとりと歯切れが良好であるパンを得る方法が各種提案されている。
例えば、油脂、モノグリセリド、有機酸モノグリセリド、pH調整剤、HLB10以上の庶糖脂肪酸エステル、糖アルコール及びα-アミラーゼをそれぞれ特定量含有することを特徴とする水中油型乳化油脂組成物(たとえば特許文献1参照)、モノグリセリド、ジグリセリド、有機酸モノグリセリド、リン脂質、糖類及びHLB11以上の乳化剤をそれぞれ特定量含有する乳化物(たとえば特許文献2参照)、アルギン酸エステル、モノグリセリド及び有機酸モノグリセリドをそれぞれ特定量含有する水中油型乳化物(たとえば特許文献3参照)、特定の乳原料、親油性乳化剤の水和物及びアルギン酸類をそれぞれ特定量含有するパン生地(たとえば特許文献4参照)、ジグリセリド、有機酸モノグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、飽和モノグリセリド及び不飽和モノグリセリドをそれぞれ特定量含有する製パン練込油脂(たとえば特許文献5参照)、モノグリセリド、有機酸モノグリセリド及び増粘安定剤をそれぞれ特定量含有する製パン練込油脂(たとえば特許文献6参照)などが提案されている。
【0004】
しかし、特許文献1の方法は、パンをソフトにすることはできるが、生地がべたつく上にパンの食感も歯切れが重いものとなるという課題があった。特許文献2の方法は、多加水の生地では生地がべたつきやすいという課題があった。特許文献3の方法は、生地状態は良好であるが、パンのソフト性が劣り歯切れも重いという課題があった。特許文献4の方法は、パンのボリュームが大きくなり、パンの食感をソフトでしっとりさせ口溶けのよいものにすることができるが、歯切れが重いという課題があった。特許文献5の方法は、多加水の生地に適用した場合、生地がべたつきやすいという課題があった。特許文献6の方法は、パンの食感をソフトでしっとりさせ口溶けのよいものにすることができるが、歯切れが重いという課題あった。
【0005】
また、特許文献1~6の油脂組成物を水中油型乳化物とする場合は、乳化のためにHLBの値が高い乳化剤、例えばショ糖脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステルを必要とし、そのような乳化剤を使用した結果、パンの歯切れが重くなってしまうという課題があった。
【0006】
このように、従来は、保存性が良好であり、ボリュームが大きく、ソフトでしとりと歯切れが良好であるパンを、生地物性を悪化させることなく得ることができる水中油型乳化油脂組成物は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平08―173033号公報
【文献】特開2009―240240号公報
【文献】特開2012―024002号公報
【文献】特開2013―220061号公報
【文献】特開2014―131503号公報
【文献】特開2015―082986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の課題は、HLBの値が高い乳化剤を使用することなく、保存性が良好であり、ボリュームが大きく、ソフトでしとりと歯切れが良好であるパンを、生地物性を悪化させることなく得ることができる水中油型乳化油脂組成物、及び、該水中油型乳化油脂組成物を使用したベーカリー生地及びベーカリー製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決すべく種々検討した結果、油分、水分、糖分を特定含量とし、且つ、水中糖濃度を調整し、さらに、特定の乳化剤を特定含量使用し、さらにアスコルビン酸又はその塩を使用し、pHを調整することで、特定の乳化剤を製パン改良効果の高いα結晶状態や液晶状態に保持することができ、上記課題を解決可能であることを見出した。そしてこの効果は、HLBの値が高い乳化剤を使用することなくとも奏されることを見出した。
本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、下記の(1)~(9)の全てを満たす水中油型乳化油脂組成物を提供するものである。
(1)油脂含量が10~30質量%である。
(2)水分含量が10~30質量%である。
(3)糖類の含量が固形分として30~70質量%である。
(4)水相中の糖類の含量が固形分として65質量%以上である。
(5)グリセリン有機酸脂肪酸エステル及び/又はプロピレングリコール脂肪酸エステルを含有し、その合計量が1~10質量%である。
(6)グリセリン有機酸脂肪酸エステルを除くグリセリンモノ脂肪酸エステルを1~15質量%含有する。
(7)アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸塩を含有し、その合計量が0.1~3質量%である。
(8)pH調整剤を0.001~1質量%含有する。
(9)HLBが7を超える乳化剤を含有しない。
【0010】
また、本発明は、前記水中油型乳化油脂組成物を含有するベーカリー生地、及び、該ベーカリー生地の加熱品であるベーカリー製品を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、HLBの値が高い乳化剤を使用せずとも、保存性が良好であり、ボリュームが大きく、ソフトでしとりと歯切れが良好であるパンを、生地物性を悪化させることなく得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の水中油型乳化油脂組成物について好ましい実施形態に基づき詳述する。
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、油脂を10~30質量%、好ましくは15~25質量%含有する。油脂含量が10質量%未満であると、上記(5)及び(6)の乳化剤成分を油脂組成物中に均質に分散させることができず、30質量%を超えると水中油型乳化が不安定となり分離しやすくなってしまう。
尚、油脂含量には、後述するその他の成分として油脂分を含む成分を使用した場合には、これらに由来する油脂分も算入するものとする。
【0013】
本発明の水中油型乳化油脂組成物においては、油脂として、食用油脂を特に制限なく使用することができる。油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、落花生油、カポック油、胡麻油、月見草油、カカオ脂、シア脂及びサル脂等の植物油脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油及び鯨油等の動物油脂、並びにこれらの油脂に水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。本発明の水中油型乳化油脂組成物においては、これらの中から選ばれた1種又は2種以上の油脂を用いることができるが、上記(6)成分の乳化剤を、製パン改良効果の高いα結晶状態や液晶状態に長期間にわたって保持することができるため、融点が25℃以下の油脂を使用することが好ましく、特に、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、パームスーパーオレインなどの液状油のうちの1種又は2種以上を使用することが好ましい。
【0014】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、水分を10~30質量%、好ましくは15~30質量%含有する。水分含量が10質量%未満であると、保管中に糖の結晶が析出してしまい乳化が破壊されてしまったり、水溶性成分である上記(7)成分及び(8)成分を水相中に安定的に保持できなくなってしまう。また30質量%を超えると上記(6)成分の乳化剤を、製パン改良効果の高いα結晶状態や液晶状態に保持することが難しくなってしまう。本発明の水中油型乳化油脂組成物の水分含量は、常圧加熱乾燥法や減圧加熱乾燥法を用いて測定される。
尚、水分含量には、下記糖類や後述するその他の成分として水分を含む成分を使用した場合には、これらに由来する水分も算入するものとする。
【0015】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、糖類を固形分として30~70質量%、好ましくは35~70質量%、特に好ましくは40~60質量%含有する。糖類の含量が30質量%未満であると、上記(6)成分の乳化剤を、製パン改良効果の高いα結晶状態や液晶状態に保持することが難しくなってしまう。70質量%超であると、油分が不足し乳化剤を必要量配合できなくなる。
【0016】
本発明で使用することのできる糖類としては、キシロース、ブドウ糖及び果糖等の単糖類、ショ糖、乳糖、麦芽糖、オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、パラチノースオリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース及びトレハロース等のオリゴ糖類、還元乳糖、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール及びマンニトール等の糖アルコール、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、並びにはちみつ等の転化糖、等が挙げられる。本発明の水中油型乳化油脂組成物ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
特に本発明の水中油型乳化油脂組成物では、上記の(6)成分の乳化剤を、製パン改良効果の高いα結晶状態や液晶状態に保持可能なことから、上記の糖類として還元澱粉糖化物、並びにソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール及びマンニトール等の糖アルコールより選ばれた1種又は2種以上を用いることが好ましい。特に好ましくはソルビトールである。
【0017】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、水相中の糖類の含量が固形分で65質量%以上、好ましくは68質量%以上である。糖類の含量が65質量%未満であると、上記の(6)成分の乳化剤を、製パン改良効果の高いα結晶状態や液晶状態に保持することが難しくなってしまう。尚、上限については、保管中に糖の結晶が析出してしまい、製品品質が低下してしまうおそれがあるため、80質量%未満が好ましく、75質量%未満がより好ましい。
【0018】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、グリセリン有機酸脂肪酸エステル及び/又はプロピレングリコール脂肪酸エステルを含有し、これらの合計量が1~10質量%、好ましくは2~8質量%、特に好ましくは4~6質量%である。グリセリン有機酸脂肪酸エステル及びプロピレングリコール脂肪酸エステルの合計含量が1質量%未満であると、上記(6)成分の乳化剤を、製パン改良効果の高いα結晶状態や液晶状態に保持することが難しくなることに加え、ボリューム、歯切れなどの製パン改良効果が得られず、10質量%を超えると、ベーカリー製品の風味及び口溶けが悪化してしまう。本発明の水中油型乳化油脂組成物のグリセリン有機酸脂肪酸エステル及びプロピレングリコール脂肪酸エステルの含量は、例えばTLC-FIDにより測定することができる。
【0019】
本発明で使用するグリセリン有機酸脂肪酸エステルは、グリセリン1分子に対し脂肪酸1分子と有機酸1分子が結合した構造を有する。グリセリン有機酸脂肪酸エステルは、一般的には、有機酸の酸無水物と脂肪酸モノグリセリドを反応させることにより得ることができる。
本発明において有機酸とは、直鎖式炭化水素基の末端に1個のカルボキシル基をもつ酸以外の有機酸を意味する。上記の有機酸としては、例えば、コハク酸、クエン酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。これらの中で、食品用途に使用されるコハク酸、クエン酸、ジアセチル酒石酸が好ましい。
また、脂肪酸は、風味の観点から、パルミチン酸、ステアリン酸を主成分とするものが好ましい。
グリセリン有機酸脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル及びグリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0020】
プロピレングリコール脂肪酸エステルとは、プロピレングリコールと脂肪酸とのモノ、ジエステル、又はこれらの混合物であって、好ましくはHLBが2~6、より好ましくは3~5のものである。
プロピレングリコール脂肪酸エステルの脂肪酸は、飽和脂肪酸である場合と、不飽和脂肪酸である場合とがある。また、プロピレングリコール脂肪酸エステルの脂肪酸炭素数が12~22のものであることが好ましい。具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸などの飽和脂肪酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ヒラゴン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの不飽和脂肪酸が挙げられる。プロピレングリコール脂肪酸エステルの脂肪酸は、これらの脂肪酸の1種単独である場合があり、2種以上の組み合わせである場合がある。これらの脂肪酸の中でも、パルミチン酸、ステアリン酸及びベヘン酸が好ましい。
プロピレングリコール脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、プロピレングリコールパルミチン酸エステル、プロピレングリコールステアリン酸エステル、及びプロピレングリコールベヘン酸エステル等が挙げられる。
【0021】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを単独で使用することができ、プロピレングリコール脂肪酸エステルを単独で使用することができ、あるいは、両者を併用することができる。グリセリン有機酸脂肪酸エステルとプロピレングリコール脂肪酸エステルとを併用することが好ましい。本発明の効果をより引き出すことができるからである。
【0022】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを除くグリセリンモノ脂肪酸エステル(以下、単にグリセリンモノ脂肪酸エステルという場合がある)を1~15質量%、好ましくは2~10質量%、特に好ましくは2~8質量%含有する。グリセリンモノ脂肪酸エステルの含量が1質量%未満であると、製パン改良効果、特にソフト性、しとりなどの改良効果が得られず、15質量%を超えると、ベーカリー製品の風味及び口溶けが悪化してしまう。本発明の水中油型乳化油脂組成物のグリセリンモノ脂肪酸エステルの含量は、例えばTLC-FIDにより測定することができる。
【0023】
本発明で使用する上記グリセリンモノ脂肪酸エステルは乳化剤として使用されるものであるが、そのHLBは7以下である。上記グリセリンモノ脂肪酸エステルのHLBは2.5~7.0が好ましく、3.0~5.0がより好ましい。上記グリセリンモノ脂肪酸エステルとしては、公知のグリセリンモノ脂肪酸エステルを使用することができる。グリセリンモノ脂肪酸エステルの脂肪酸は、飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でも使用可能であるが、本発明の効果が大きくなる点で飽和脂肪酸が好ましい。脂肪酸の鎖長についても制限はないが、好ましくは8~26、より好ましくは12~24、さらに好ましくは16~22である。
【0024】
上記グリセリンモノ脂肪酸エステルは、高い製パン改良効果が得られることから、α結晶状態や液晶状態であることが好ましい。ここで液晶状態とは水を結晶中に含んだ構造のことであり、具体的には水相中にグリセリンモノ脂肪酸エステルがニート状もしくはゲル状に分散し、ラメラ構造を有している状態のことをいう。α結晶状態とは、グリセリンモノ脂肪酸エステルがさらに、水を抱いてα結晶ゲル状態となったものをいう。
【0025】
グリセリンモノ脂肪酸エステルをα結晶状態や液晶状態とするには、油中水型乳化物であれば、グリセリンモノ脂肪酸エステルを、油相ではなく水相に含有させることが好ましい。しかしながら、本発明の油脂組成物は油脂含量の少ない水中油型乳化物であるため、製造時に油相にグリセリンモノ脂肪酸エステルを含有させた場合であっても、乳化時に油水界面に移動してα結晶状態や液晶状態となる。したがって、本発明においてグリセリンモノ脂肪酸エステルは、水相に含有させることができ、油相に含有させることができる。
【0026】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸塩を含有し、これらの合計量が0.1~3質量%、好ましくは0.15~1質量%、特に好ましくは0.15~0.5質量%である。アスコルビン酸及びアスコルビン酸塩の合計含量が0.1質量%未満であると、ベーカリー生地改良効果が得られず、1質量%を超えると生地が締まりすぎて十分な伸展性が得られず、不良な生地物性になってしまう。本発明の水中油型乳化油脂組成物においてアスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸塩は、水相に含まれている場合と、油相に含まれている場合とがあるが、アスコルビン酸及びアスコルビン酸塩は共に水溶性素材であることから、水相に含まれていることが好ましい。本発明の水中油型乳化油脂組成物のアスコルビン酸及びアスコルビン酸塩の含量は、例えばHPLCにより測定することができる。
尚、上記アスコルビン酸塩はカリウム塩、ナトリウム塩等が挙げられ、いずれも使用することが可能である。
【0027】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、pH調整剤を0.001~1質量%、好ましくは0.01~0.5質量%含有する。pH調整剤の含量が0.001質量%未満であると、(6)成分の乳化剤のα結晶ゲルや液晶構造が不安定となり、1質量%を超えると、水中油型乳化が不安定となってしまう。
本発明で使用することのできるpH調整剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、乳酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カルシウム、クエン酸三ナトリウム等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0028】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、HLBが7を超える乳化剤を含有しないことが特徴の一つである。乳化物の製造には、一般的に、その安定化のため、油中水型乳化物にはHLBが3~6程度のHLBの低い乳化剤が必要とされ、水中油型乳化物にはHLBが8~16程度のHLBの高い乳化剤を必要とされる。
特に、本発明のようなα結晶ゲルや液晶構造の乳化剤を含有する油脂組成物の場合は、HLBの値が高い乳化剤によって、その安定化を図ることが望ましい。
しかし、本発明では、上述の糖類を高濃度で含有し、特定の(5)成分の乳化剤を使用することにより、上記のようなHLBの値が高い乳化剤を使用することなく、(6)成分の乳化剤のα結晶ゲルや液晶構造を長時間安定的に保持が可能となる。
HLBが7を超える乳化剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステルのうちのHLB7超のものを挙げることができる。
本発明の水中油型乳化油脂組成物のHLBが7を超える乳化剤の含量は、例えばTLC-FIDにより測定することができる。
【0029】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、さらに酵素を含有することが好ましい。
本発明の水中油型乳化油脂組成物の酵素含量は、酵素製剤の形態や酵素活性の強さによって異なるが、組成物中で長期間安定的に存在可能であるという観点から、酵素製剤として0.01~10質量%であることが好ましく、0.01~1質量%であることがより好ましい。本発明の水中油型乳化油脂組成物において酵素は、水相に含まれている場合と、油相に含まれている場合とがあるが、ベーカリー生地添加時に効果的に作用するという観点から、水相中に存在することが好ましい。
【0030】
上記酵素としては、一般的にパン類の生地や菓子類の生地に使用可能なものを特に制限なく使用することができる。酵素の具体例としては、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、キシラナーゼ、ペントサナーゼ、プルラナーゼ等の細胞壁分解酵素、グルコースオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、パーオキシダーゼ、スルフィドリルオキシダーゼ等の酸化酵素、α-アミラーゼ、マルトース生成αアミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、イソアミラーゼ、アミログルコシダーゼ等の澱粉分解酵素、プロテアーゼ、リパーゼ、リポキシゲナーゼ、ホスホリパーゼ、ホスホリラーゼ、トランスグルタミナーゼ及びアスコルビン酸オキシダーゼ、カタラーゼ等を挙げることができ、市販の酵素製剤を用いることもできる。
本発明では、上記酵素の中でも、細胞壁分解酵素及び/又は澱粉分解酵素を使用することが、よりソフトでしとりがあるパン類が得られる点で好ましい。
【0031】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、本発明の効果に影響のない範囲において、上記成分以外のその他の成分を含有させることができる。
上記その他の成分としては、上記乳化剤以外の他の乳化剤、ゲル化剤や増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、クエン酸・酢酸・乳酸・グルコン酸等の酸味料、牛乳・練乳・脱脂粉乳・カゼイン・ホエーパウダー・バター・クリーム・ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・発酵乳等の乳や乳製品、デキストリン類、澱粉や化工澱粉、ステビア・アスパルテーム等の甘味料、β―カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、ホエー蛋白濃縮物・タンパク質濃縮ホエーパウダー・トータルミルクプロテイン等の乳蛋白や動物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、調味料、アミノ酸、原料アルコール、焼酎・ウイスキー・ウォッカ・ブランデー等の蒸留酒、ワイン・日本酒・ビール等の醸造酒、各種リキュール、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、紅茶、ウーロン茶、緑茶、ナッツペースト、香辛料、香辛料抽出物、カカオマス、ココアパウダー、野菜類、肉類、魚介類等の、食品や食品添加物を挙げることができる。
【0032】
上記他の乳化剤としては、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等を挙げることができる。ただし本発明では、ソルビタン脂肪酸エステルは風味の点で好ましくないため用いないことが好ましい。
【0033】
上記ゲル化剤や増粘安定剤としては、グアーガム、キサンタンガム、タマリンドガム、カラギーナン、アルギン酸、アルギン酸塩、ファーセルラン、ローカストビーンガム、ペクチン、カードラン、糊化澱粉、結晶セルロース、ナノセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ゼラチン、寒天、デキストラン等が挙げられる。これらの安定剤は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0034】
次に、本発明の水中油型乳化油脂組成物の製造方法について述べる。
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、食用油脂、水、糖類、グリセリン有機酸脂肪酸エステル及び/又はプロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを除くグリセリンモノ脂肪酸エステル、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸塩、並びにpH調整剤を原料として使用し、これらの原料を、下記の(1)~(8)の全てを満たすように混合、水中油型乳化することによって得ることができる。この際、HLBが7を超える乳化剤を使用しない。
【0035】
(1)油脂含量が10~30質量%である。
(2)水分含量が10~30質量%である。
(3)糖類の含量が固形分として30~70質量%である。
(4)水相中の糖類の含量が固形分として65質量%以上である。
(5)グリセリン有機酸脂肪酸エステル及び/又はプロピレングリコール脂肪酸エステルを含有し、その合計量が1~10質量%である。
(6)グリセリン有機酸脂肪酸エステルを除くグリセリンモノ脂肪酸エステルを1~15質量%含有する。
(7)アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸塩を含有し、その合計量が0.1~3質量%である。
(8)pH調整剤を0.001~1質量%含有する。
【0036】
本発明の水中油型乳化油脂組成物は、詳しくは、下記の方法により製造することができる。
乳化油脂組成物における含量が固形分として30~70質量%となり、且つ水相における糖類の含量が固形分として65質量%以上となる量の糖類と、乳化油脂組成物における含量が0.1~3質量%となる量のアスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸塩と、必要に応じさらにその他の原料のうちの水溶性の原料とを溶解・混合し水相を調製する。また、食用油脂に必要に応じその他の原料のうちの油溶性の原料を溶解・混合し油相を調製する。そして、調製した水相と油相とを、HLBが7を超える乳化剤を使用せずに、油脂含量が10~30質量%となり、且つ水分含量が10~30質量%となるとなるような比で混合し、好ましくは45~75℃で予備乳化し、水中油型の予備乳化物を得る。
グリセリン有機酸脂肪酸エステル及び/又はプロピレングリコール脂肪酸エステル、並びにグリセリン有機酸脂肪酸エステルを除くグリセリンモノ脂肪酸エステルは、水相に添加することができ、油相に添加することができるが、好ましくは油相に添加する。グリセリン有機酸脂肪酸エステル及びプロピレングリコール脂肪酸エステルの添加量は、乳化油脂組成物における含量が1~10質量%である。また、グリセリンモノ脂肪酸エステルの添加量は、乳化油脂組成物における含量が1~15質量%となる量である。
【0037】
次いで、この予備乳化物を殺菌することが好ましい。尚、本発明における殺菌には滅菌を含む。殺菌は、インジェクション式、インフージョン式等の直接加熱方式、あるいはプレート式・チューブラー式・掻き取り式等の間接加熱方式を用いたUHT・HTST・バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌もしくは加熱殺菌処理、あるいは直火等の加熱調理により行うことができる。そして冷却することにより、本発明の水中油型乳化油脂組成物が得られる。
また、殺菌する前又は後でホモジナイザーで均質化しても良い。均質化処理を行う場合の均質化圧力は、3~30MPaとするのが好ましい。
【0038】
本発明の水中油型乳化油脂組成物が酵素を含有する場合、酵素は乳化前の水相及び/又は油相に添加混合することができ、また、予備乳化物に添加混合することができる。加熱による酵素の失活を防止するために、酵素は予備乳化物、特に殺菌後の予備乳化物に、酵素粉末又は酵素液剤を添加、分散させることが好ましい。
尚、本発明の水中油型乳化油脂組成物は、必要により、冷蔵もしくは冷凍状態で保存することができる。
【0039】
次に本発明のベーカリー生地について述べる。
本発明のベーカリー用生地は、上記本発明の水中油型乳化油脂組成物を含有するものである。
【0040】
上記ベーカリー生地の種類としては、例えば、クッキー生地、サブレ生地、ガレット生地、タルト生地、練りパイ生地、折パイ生地、シュー生地、サブレ生地、スポンジケーキ生地、バターケーキ生地、ケーキドーナツ生地等の焼菓子生地や、食パン生地、フランスパン生地、バラエティブレッド生地、ブリオッシュ生地、デニッシュ生地、スイートロール生地、イーストドーナツ生地、マフィン生地、ピザ生地、スコーン生地、蒸しパン生地、ワッフル生地、イングリッシュマフィン生地、バンズ生地等のパン生地が挙げられる。本発明ではパン生地であることが好ましい。
【0041】
上記ベーカリー生地は、一般的なベーカリー生地の製造方法に従って得ることができる。焼菓子生地であれば、オールインミックス法、シュガーバッター法、フラワーバッター法、後粉法、別立法及び後油法等により製造することができる。パン類生地であれば、中種法、ストレート法、湯種法及び長時間冷蔵法等で製造することができる。パン生地の場合は中種法で製造することが好ましい。中種法の場合、本発明の水中油型乳化油脂組成物は中種生地に添加することができ、本捏生地に使用してもよいが、好ましくは中種生地に添加する。
【0042】
上記のベーカリー生地における本発明の水中油型乳化油脂組成物の含有量は、ベーカリー生地の種類により異なり、その種類に応じて適宜決定することができる。本発明の水中油型乳化油脂組成物を練り込み使用し、且つベーカリー生地が菓子生地の場合、上記ベーカリー生地における本発明の水中油型乳化油脂組成物の含有量は、菓子生地に含まれる澱粉類100質量部に対し、好ましくは2~30質量部、より好ましくは4~21質量部である。本発明の水中油型乳化油脂組成物の含有量を練り込み使用し、且つベーカリー生地がパン生地の場合はパン生地に含まれる澱粉類100質量部に対し、好ましくは2~30質量部、より好ましくは4~21質量部である。
【0043】
次に本発明のベーカリー製品について述べる。
本発明のベーカリー製品は、本発明のベーカリー生地の加熱品である。
本発明のベーカリー製品は、上記本発明のベーカリー生地を、常法により、必要に応じ、包餡、成形、ホイロ等の処理をした後、加熱、好ましくは、焼成及び/又はフライしてなるものである。
焼成する場合の加熱条件は、ベーカリー製品の種類によって異なるが、例えばオーブンを使用する場合、好ましくは150~240℃で4~60分、さらに好ましくは180~230℃で5~50分である。
また、フライする場合の加熱条件は、好ましくは180~260℃で1~10分、さらに好ましくは200~250℃で2~5分である。
焼成とフライを組み合わせる場合は、焼成後にフライすることができ、フライ後に焼成することができる。
【0044】
次に、本発明のベーカリー生地の改良方法について述べる。
本発明のベーカリー生地の改良方法は、上記の(1)~(9)の全てを満たす水中油型乳化油脂組成物を使用するものである。
【0045】
本発明のベーカリー生地の改良方法においては、上記の(1)~(9)の全てを満たす水中油型乳化油脂組成物をベーカリー生地に練り込むことによって、ベーカリー生地の物性を改良する。本発明の水中油型乳化油脂組成物を使用することにより、生地水分含量が高い場合であっても、べたつくことなく良好な物性のベーカリー生地とすることができる。その際のベーカリー生地の種類や製造方法、本発明の水中油型乳化油脂組成物の使用量については上述のとおりである。
【0046】
最後に、本発明のベーカリー製品の改良方法について述べる。
本発明のベーカリー製品の改良方法は、上記の(1)~(9)の全てを満たす水中油型乳化油脂組成物を使用するものである。
具体的には、上記の(1)~(9)の全てを満たす水中油型乳化油脂組成物をベーカリー生地に練り込み、そのベーカリー生地を加熱することによって、ベーカリー製品の食感や外観を改良する。
本発明の水中油型乳化油脂組成物を使用することにより、外観と食感の改良されたベーカリー製品、特に詳しくはボリュームが大きく、ソフトでしとりと歯切れが良好であるパンを得ることができる。その際のベーカリー生地及びベーカリー製品の種類や製造方法、本発明の水中油型乳化油脂組成物の使用量については上述のとおりである。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
<水中油型乳化油脂組成物の製造>
〔実施例1~15及び比較例1~16〕
表1に記載の配合に従い、常法により水中油型乳化油脂組成物1~31を得た。
すなわち、食用油脂(パーム油又は大豆液状油)を70℃以上に加熱し、プロペラ撹拌機で撹拌しながら、乳化剤(グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル)を添加、乳化剤が完全に溶解したらpH調整剤(リン酸3ナトリウム)を添加し、分散させ、油相を得る。一方、液糖(固形分70質量%:ソルビトール液糖)、水を70℃に加熱し、アスコルビン酸ナトリウムを溶解させ水相を得た。この水相に油相を投入し均一に乳化させる。その後、掻取式熱交換器にて急冷捏和して水中油型乳化油脂組成物を得た。
尚、増粘安定剤及びショ糖脂肪酸エステルは水相に添加し、酵素は急冷混和後に添加・混合した。
【0049】
得られた水中油型乳化油脂組成物1~31の(1)油脂含量、(2)水分含量、(3)糖類含量、(4)水相中の糖類の含量、(5)グリセリン有機酸脂肪酸エステル及び/又はプロピレングリコール脂肪酸エステルを合計した含量、(6)グリセリン有機酸脂肪酸エステルを除くグリセリンモノ脂肪酸エステルの含量、(7)アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸塩を合計含量、(8)pH調整剤の含量、及び(9)HLBが7を超える乳化剤の含量を表2に示す。
得られた水中油型乳化油脂組成物1~31は5℃の冷蔵庫で1週間保管後、以下のベーカリー試験に供した。
【0050】
【0051】
【0052】
<ベーカリー試験1:菓子パンの製造>
上記の水中油型乳化油脂組成物1~31を用い、以下の配合と製法(中種法)にてベーカリー製品(パン)である菓子パン1~31を製造した。尚、比較のために、水中油型乳化油脂組成物を使用しない以外は菓子パン1~31と同じ配合と製法によって菓子パン32(比較例17)を製造した。
【0053】
<配合>
(中種配合)
強力粉 70質量部
イーストフード 0.1質量部
イースト 3質量部
上白糖 3質量部
水 40質量部
水中油型乳化油脂組成物 2質量部
(本捏配合)
強力粉 30質量部
食塩 1質量部
上白糖 18質量部
可塑性乳化油脂組成物(「ブロンテ」(株式会社ADEKA製)) 8質量部
全卵(正味) 5質量部
水 18質量部
【0054】
<製法>
中種配合の全原料を、たて型ミキサーにて低速3分、中速1分ミキシングし、中種生地(捏ね上げ温度=26℃)を得た。得られた中種生地を28℃、相対湿度80%にて120分の中種発酵させた。
次に本捏配合の可塑性乳化油脂組成物以外の全原料と上記の中種発酵を行った中種生地を、たて型ミキサーにて低速3分、中速3分ミキシングした後、本捏配合の可塑性乳化油脂組成物を添加して、低速5分、中速3分ミキシングし、パン生地(捏ね上げ温度=28℃)を得た。
得られたパン生地は、フロアータイムを30分とり、70gに分割、丸めを行った。さらに30分ベンチタイムを取った後、ロール成形をし、38℃、相対湿度80%、50分のホイロを取った後、上火190℃下火190℃のオーブンで11分焼成した。
【0055】
<ベーカリー製品(パン)の評価>
菓子パン1~32を以下の基準で評価した。結果を表3に示す。
(生地物性)
分割、丸め時の生地物性について、下記基準にて評価した。
◎:伸展性良好であり、べたつきが感じられない。
〇+:伸展性は良好であるが、ややべたつきが感じられる。
〇:ややシマリが感じられるが、伸展性は良好である。
△:シマリが激しく、伸展性が不良である。
×:激しいべたつきが感じられ、不良である。
【0056】
(外観)
焼成した菓子パンを目視により外観を観察した。
◎:コシが高く、ボリュームも大きい。
〇+:ややコシが低いがボリュームは良好。
〇:ボリュームがやや小さいが良好な外観である。
△:やや潰れた外観で、ボリュームがやや小さい。
×:ボリュームが小さい。
【0057】
(風味)
焼成した菓子パンを室温で1時間置き、熱が取れた後、ポリエチレン袋に密封し、室温(25℃)に保管した。
焼成1日後の菓子パンの風味を、専門のパネラー11人にて、下記基準で評価した。そして、11人のパネラー評価点を合計し、その合計点に基づき、下記の基準で菓子パンの風味を評価した。
3点:きわめて良好
2点:良好
1点:やや悪い
0点:悪い
【0058】
(食感)
焼成1日後及び焼成3日後の菓子パンのソフトさ、しとり及び口溶けをパネラー11人にて、下記基準にて評価した。そして、11人のパネラー評価点を合計し、その合計点に基づき、下記の基準で菓子パンのソフトさ、しとり及び口溶けを評価した。
【0059】
(ソフトさ)
3点:きわめて良好
2点:良好
1点:やや悪い
0点:悪い
(しとり)
3点:きわめて良好
2点:良好
1点:やや悪い
0点:悪い
(口溶け)
3点:歯切れがよく、きわめて良好
2点:良好
1点:ねちゃつきを感じ、やや悪い
0点:悪い
【0060】
(合計点)
◎:30~33点、○+:26~29点、○:22~25点、△:11~21点、×:10点以下
【0061】
【0062】
<ベーカリー試験2:食パンの製造>
上記の水中油型乳化油脂組成物5を用い、以下の配合と製法(中種法)にてベーカリー製品(パン)である食パン1を製造した。また、比較のために、水中油型乳化油脂組成物を使用しない以外は食パン1と同じ配合及び製法で食パン2を製造した。
【0063】
<配合>
(中種配合)
強力粉 70質量部
イーストフード 0.1質量部
イースト 2.2質量部
水 40質量部
水中油型乳化油脂組成物 2質量部
(本捏配合)
強力粉 30質量部
食塩 1.8質量部
上白糖 8質量部
可塑性乳化油脂組成物(「ブロンテ」(株式会社ADEKA製)) 5質量部
水 25質量部
【0064】
<製法>
中種配合の全原料を、たて型ミキサーにて低速3分、中速1分ミキシングし、中種生地(捏ね上げ温度=26℃)を得た。得られた中種生地は28℃、相対湿度80%にて240分の中種発酵を行った。
次に本捏配合の可塑性乳化油脂組成物以外の全原料と上記の中種発酵を行った中種生地を、たて型ミキサーにて低速3分、中速3分ミキシングした後、本捏配合の可塑性乳化油脂組成物を添加して、低速3分、中速5分ミキシングし、パン生地(捏ね上げ温度=28℃)を得た。
得られたパン生地は、フロアータイムを30分とり、220gに分割、丸めを行った。さらに30分ベンチタイムを取った後、モルダーで成形をし、3斤のプルマン型に6本入れ、38℃、相対湿度80%、50分のホイロを取った後、上火190℃下火190℃オーブンで40分焼成した。
【0065】
<ベーカリー製品(パン)の評価>
食パン1及び2について以下の基準で評価した。結果を表4に示す。
(生地物性)
分割、丸め時の生地物性について、下記基準にて評価した。
◎:伸展性良好であり、べたつきも感じられない。
〇:伸展性は良好であるが、ややべたつきが感じられる。
△:シマリが感じられ、伸展性はやや不良である。
×:激しいシマリが感じられるか、又は、激しいべたつきが感じられ、不良である。
【0066】
(風味)
焼成した食パンを室温で1時間置き、熱が取れた後、ポリエチレン袋に密封し、室温(25℃)に保管した。
焼成1日後の食パンの風味を、専門のパネラー11人にて、下記基準で評価した。そして、11人のパネラー評価点を合計し、その合計点に基づき、下記の基準で食パンの風味を評価した。
3点:きわめて良好
2点:良好
1点:やや悪い
0点:悪い
【0067】
(食感)
焼成1日後及び焼成3日後の食パンのソフトさ、しとり及び口溶けをパネラー11人にて、下記基準にて評価した。そして、11人のパネラー評価点を合計し、その合計点に基づき、下記の基準で食パンのソフトさ、しとり及び口溶けを評価した。
(ソフトさ)
3点:きわめて良好
2点:良好
1点:やや悪い
0点:悪い
(しとり)
3点:きわめて良好
2点:良好
1点:やや悪い
0点:悪い
(口溶け)
3点:歯切れがよく、きわめて良好
2点:良好
1点:ねちゃつきを感じ、やや悪い
0点:悪い
【0068】
(合計点)
◎:30~33点、○+:26~29点、○:22~25点、△:11~21点、×:10点以下
【0069】
【0070】
<ベーカリー試験3:スポンジケーキの製造>
上記の水中油型乳化油脂組成物5を用い、以下の配合と製法にてベーカリー製品(スポンジケーキ)であるスポンジケーキ1を製造した。比較のために、水中油型乳化油脂組成物を使用しない以外はスポンジケーキ1と同じ配合及び製法で、スポンジケーキ2を製造した。
【0071】
<配合>
全卵 180質量部
上白糖 120質量部
薄力粉 100質量部
ベーキングパウダー 2質量部
水中油型乳化油脂組成物 8質量部
スポンジケーキ練込用油脂(「グラシュー」:株式会社ADEKA製)
20質量部
【0072】
<製法>
全卵、上白糖、薄力粉、ベーキングパウダー、及び上記水中油型乳化油脂組成物をミキサーボウルに投入し、これをたて型ミキサーにセットし、ワイヤーホイッパーを使用して、低速で1分混合後、高速で、比重が0.43となるまで起泡した。
ここで、スポンジケーキ練込用油脂を添加し、低速30秒、中速10秒混合し、スポンジケーキ生地を得た。(比重は0.45)
6号のスポンジケーキ型に底紙と側紙をあて、ここに得られたスポンジケーキ生地360gを流し入れ、固定オーブンを使用し、上火180℃、下火170℃で25分焼成し、スポンジケーキを得た。
【0073】
<ベーカリー製品(スポンジケーキ)の評価>
スポンジケーキ1及び2について以下の基準で評価した。結果を表5に示す。
【0074】
焼成したスポンジケーキを室温で1時間置き、熱が取れた後、ポリエチレン袋に密封し、室温(25℃)に保管した。
焼成1日後のスポンジケーキのソフトさ、しとり及び口溶けをパネラー11人にて、下記基準にて評価した。そして、11人のパネラー評価点を合計し、その合計点に基づき、下記の基準でスポンジケーキのソフトさ、しとり及び口溶けを評価した。
(ソフトさ)
3点:きわめて良好
2点:良好
1点:やや悪い
0点:悪い
(しとり)
3点:きわめて良好
2点:良好
1点:やや悪い
0点:悪い
(口溶け)
3点:きわめて良好
2点:良好
1点:ねちゃつきを感じ、やや悪い
0点:悪い
(合計点)
◎:30~33点、○+:26~29点、○:22~25点、△:11~21点、×:10点以下
【0075】