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特許7104174研磨層用ポリウレタン、研磨層、研磨パッド及び研磨層の改質方法
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  • 特許-研磨層用ポリウレタン、研磨層、研磨パッド及び研磨層の改質方法 図1
  • 特許-研磨層用ポリウレタン、研磨層、研磨パッド及び研磨層の改質方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】研磨層用ポリウレタン、研磨層、研磨パッド及び研磨層の改質方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/24 20120101AFI20220712BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20220712BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20220712BHJP
   C08G 18/34 20060101ALI20220712BHJP
   C08G 18/38 20060101ALI20220712BHJP
   C08J 7/12 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
B24B37/24 C
H01L21/304 622F
C08G18/65
C08G18/34 080
C08G18/38 042
C08J7/12 A CFF
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020556037
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2019043003
(87)【国際公開番号】W WO2020095832
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2021-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2018211758
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【弁理士】
【氏名又は名称】江川 勝
(72)【発明者】
【氏名】砂山 梓紗
(72)【発明者】
【氏名】加藤 充
(72)【発明者】
【氏名】竹越 穣
(72)【発明者】
【氏名】岡本 知大
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晋哉
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/021428(WO,A1)
【文献】特開2013-086217(JP,A)
【文献】特公平06-099534(JP,B2)
【文献】国際公開第2014/084091(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/24
H01L 21/304
C08G 18/65
C08G 18/38
C08J 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸エステル基を、側鎖又は主鎖末端の少なくとも一方に有する研磨層用ポリウレタン。
【請求項2】
単量体単位として、(a)鎖伸長剤単位、(b)高分子ポリオール単位、及び(c)有機ジイソシアネート単位を少なくとも含み、前記(a)鎖伸長剤単位及び前記(b)高分子ポリオール単位の少なくとも一方が前記カルボン酸エステル基を有する請求項1に記載の研磨層用ポリウレタン。
【請求項3】
前記(a)鎖伸長剤単位が、酒石酸ジエステル,1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-ピロリジノール,及び2,4-ジヒドロキシ安息香酸メチルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物に由来する単量体単位を含む請求項2に記載の研磨層用ポリウレタン。
【請求項4】
熱可塑性ポリウレタンである請求項1~3の何れか1項に記載の研磨層用ポリウレタン。
【請求項5】
研磨面の、研磨される基材に接触する領域全体に、請求項1~4の何れか1項に記載の研磨層用ポリウレタンが、その機能を充分に発揮するための量、含まれる研磨層。
【請求項6】
前記研磨面の、研磨される基材に接触する領域全体における、前記研磨層用ポリウレタンの含有割合が50質量%以上である請求項5に記載の研磨層。
【請求項7】
前記研磨層用ポリウレタンの非発泡成形体である請求項5または6に記載の研磨層。
【請求項8】
研磨面の、研磨される基材に接触する領域全体に、カルボン酸エステル基を、側鎖又は主鎖末端の少なくとも一方に有するポリウレタンが、その機能を充分に発揮するための量、含まれる、研磨層を準備する工程と、
前記ポリウレタンの前記カルボン酸エステル基を加水分解させてカルボン酸基を生成させる工程と、を備えることを特徴とする研磨層の改質方法。
【請求項9】
前記研磨面の、研磨される基材に接触する領域全体における、前記ポリウレタンの含有割合が50質量%以上である請求項8に記載の研磨層の改質方法。
【請求項10】
カルボン酸基を有する熱可塑性ポリウレタンの成形体を含む研磨層であって
研磨面の、研磨される基材に接触する領域全体の、pH3.0~pH8.0におけるゼータ電位が-1.0mV以下であることを特徴とする研磨層。
【請求項11】
研磨面の、研磨される基材に接触する領域全体の、水との接触角が80度以下である請求項10に記載の研磨層。
【請求項12】
請求項5~7,10及び11の何れか1項に記載の研磨層を含む研磨パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッドの研磨層の素材として好ましく用いられる新規なポリウレタンに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハを鏡面加工したり、半導体基板上に回路を形成する工程において酸化膜等の絶縁膜や導電体膜を有する被研磨物の表面を平坦化したりするために用いられる研磨方法として、CMP(化学機械研磨)が知られている。CMPは被研磨物の表面に砥粒および反応液を含むスラリーを供給しながら研磨パッドで被研磨物を高精度に研磨する方法である。ポリウレタンは、CMPに用いられる研磨パッドの研磨層の素材として用いられている。
【0003】
近年、半導体基板上に形成される回路の高集積化および多層配線化の進展に伴い、CMPには研磨速度の向上や、より高い平坦化性が求められている。このような要求を満たすべく、砥粒と研磨面との親和性を高めることによって研磨速度を上げるために、ポリウレタンの表面状態を調整する技術が提案されている。例えば、下記特許文献1は、研磨パッドを研磨装置に取り付けて、研磨装置を立ち上げた使用の初期段階におけるドレッシング処理である、研磨パッドの表面の目立て処理をする準備工程(ブレークイン(立ち上げ))に要する時間を短縮化する研磨パッドを開示する。具体的には、被研磨物に圧接される研磨面を有し、研磨面のうねりが、周期5mm~200mmであって、最大振幅40μm以下である研磨パッドを開示する。また、特許文献1は、研磨パッドの研磨面のゼータ電位が-50mv以上0mv未満である場合には、研磨面に対するスラリー中の負の砥粒との反発が抑制されることにより、研磨面と砥粒とのなじみが良好となってブレークイン時間の短縮が図られることを開示している。
【0004】
また、下記特許文献2は、研磨面への研磨屑付着を抑制することにより被研磨物表面のスクラッチやディフェクトの発生を低減させて、製品の歩留まりを向上させ、かつ、高い平坦化性と適度な研磨速度が得られる研磨パッドを開示する。具体的には、被研磨物と相対する研磨面のゼータ電位が-55mvより小さく-100mv以上であることを特徴とする研磨パッドを開示する。
【0005】
また、下記特許文献3は、CMPにおいて、低負荷で絶縁層に欠陥を生じさせずに研磨できる、定盤に固定して研磨に使用する研磨パッドを開示する。具体的には、研磨パッドの被研磨物に接する研磨面の少なくとも一部に、室温における引張弾性率が0.2GPa以上で、かつ被研磨物と研磨パッドの研磨面との間に供給されるスラリーのpH領域におけるゼータ電位が+0.1~+30mVである材質を用いたことを特徴とする研磨パッドを開示する。また、比較例として、pH3~5の酸性のスラリーを使用してCMPを行う場合にゼータ電位が-8.5mVである研磨パッドを開示する。
【0006】
また、下記特許文献4は、(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂、(B)炭素数が1~4であるカルボン酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液を、不織布に含浸させた後に乾燥して得られる研磨用シートを開示する。特許文献4は、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂が研磨用シートの親水性を向上させることを開示する。
【0007】
ところで、研磨パッドに関する技術ではないが、ポリウレタンにカルボン酸エステル基を導入する技術は知られている。例えば、下記特許文献5は、光学活性な酒石酸ジエステル又は光学活性な1,2-ジフェニルエチレングリコールとジイソシアネートとを反応させることを特徴とする光学活性な新規ポリウレタンの製造方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開2008-029725号
【文献】特開2013-018056号公報
【文献】特開2005-294661号公報
【文献】特開2006-36909号公報
【文献】特公平06-099534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、研磨パッドの研磨層の素材として好ましく用いられる新規なポリウレタンとそれを含む研磨層、研磨パッド、及び研磨層の改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一局面は、カルボン酸エステル基を、側鎖又は主鎖末端の少なくとも一方に有する研磨層用ポリウレタンである。カルボン酸エステル基は加水分解されることによりカルボン酸基(カルボキシ基とも称する)を生成する。このようなカルボン酸エステル基を有するポリウレタンによれば、ポリウレタンの成形後にカルボン酸エステル基を加水分解することにより、カルボン酸基を生成させることができる。カルボン酸基はポリウレタンの表面の親水性を高めて濡れ性を向上させる。また、研磨パッドの研磨層の素材として用いた場合には、加水分解処理条件を選択して加水分解のレベルを調整することにより研磨面の表面電位であるゼータ電位を調整することができる。また、カルボン酸基を他の官能基に変化させることにより、ポリウレタンに種々の官能基を導入することもできる。カルボン酸エステル基を側鎖や末端に含む場合には、カルボン酸エステル基の分子運動性が高くなる。また、とくにカルボン酸エステル基を側鎖に導入した場合には、ポリウレタンの分子鎖長に関わらず、カルボン酸エステル基の導入量を充分に確保することができる。さらに、カルボン酸エステル基を主鎖に含む場合には、ポリオール内にカルボン酸エステル基を含むことができるために、ハード/ソフトセグメントの割合に関わらず、カルボン酸エステル基の導入量を充分に確保することができる。さらにカルボン酸エステル基を末端に導入した場合には、分子運動性の観点から安定して高い変性率を確保できること、ポリマー内での導入位置を均一化し易いことから、主に平均から低い分子長鎖においても変性率の高さを確保でき、導入位置を均一化することで反応性を安定に保つことができる。
【0011】
また、カルボン酸エステル基を有するポリウレタンとしては、カルボン酸エステル基を有する単量体単位を含むポリウレタンが挙げられる。具体的には、例えば、単量体単位として、(a)鎖伸長剤単位、(b)高分子ポリオール単位、及び(c)有機ジイソシアネート単位を少なくとも含むポリウレタンであり、(a)鎖伸長剤単位及び(b)高分子ポリオール単位の少なくとも一方がカルボン酸エステル基を有することが、ポリウレタンにカルボン酸エステル基を保持させやすい点から好ましい。カルボン酸エステル基を有する(a)鎖伸長剤の具体的としては、例えば、酒石酸ジエステル,1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-ピロリジノール,2,4-ジヒドロキシ安息香酸メチル等が挙げられる。
【0012】
また、ポリウレタンは、熱可塑性ポリウレタンであることが連続溶融重合により連続生産可能であり、Tダイを用いた押出成形性にも優れる点から好ましい。
【0013】
また、本発明の他の一局面は、研磨面の、研磨される基材に接触する領域全体に、上記何れかのポリウレタンが、その機能を発揮するための量、含まれる研磨層である。このような研磨層は成形後にカルボン酸エステル基を加水分解させることにより表面特性が改質される。とくには、研磨面の、研磨される基材に接触する領域全体における、研磨層用ポリウレタンの含有割合が50質量%以上であることが好ましい。また、研磨層が非発泡成形体であることが、研磨特性が変動しにくい安定した研磨が実現できる研磨層が得られる点から好ましい。
【0014】
また、本発明の他の一局面は、研磨面の、研磨される基材に接触する領域全体に、カルボン酸エステル基を、側鎖又は主鎖末端の少なくとも一方に有するポリウレタンが、その機能を充分に発揮する量、含まれる研磨層を準備する工程と、ポリウレタンのカルボン酸エステル基を加水分解させてカルボン酸基を生成させる工程と、を備える研磨層の改質方法である。このような研磨層の改質方法によれば、研磨層の成形後にカルボン酸エステル基を加水分解させることにより研磨面にカルボン酸基を生成させて表面特性を改質することができる。そのためにこのような研磨層を用いた場合には、表面特性の改質により、研磨面の表面電位であるゼータ電位を調整することができる。
【0015】
また、本発明の他の一局面は、カルボン酸基を有する熱可塑性ポリウレタンを含む研磨層であって、研磨面の、研磨される基材に接触する領域全体の、pH3.0~pH8.0におけるゼータ電位が-1.0mV以下の研磨層である。このような研磨層は、アルカリ性のスラリーだけでなく、酸性のスラリーを用いても、砥粒に対して高い親和性を示す点から好ましい。
【0016】
また、研磨層は、研磨面の、研磨される基材に接触する領域全体の、水との接触角が80度以下であることが研磨均一性及び研磨安定性にも優れる点から好ましい。
【0017】
また、本発明の他の一局面は、上記何れかの研磨層を含む研磨パッドである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、研磨パッドの研磨層の素材として好ましく用いられる新規なポリウレタンが得られる。また、研磨パッドの研磨層は、成形後に表面特性が容易に改質される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、カルボン酸エステル基を有するポリウレタンの模式構造図である。
図2図2は、カルボン酸エステル基を有するポリウレタンをカルボン酸基を保持するポリウレタンに改質する過程を説明する説明図である。
図3図3は、ポリウレタンに導入されたカルボン酸基の解離を説明する説明図である。
図4図4は、実施形態の研磨パッドを用いた研磨方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るポリウレタン、研磨層、研磨パッド及び研磨層の改質方法の一実施形態について、詳しく説明する。
【0021】
本実施形態のポリウレタンは、カルボン酸エステル基を有するポリウレタンである。具体的には、カルボン酸エステル基を、側鎖及び主鎖末端の少なくとも一方に有するポリウレタンが挙げられる。
【0022】
カルボン酸エステル基を有するポリウレタンは、例えば、(a)鎖伸長剤、(b)高分子ポリオール、及び(c)有機ジイソシアネートを少なくとも含み、(a)鎖伸長剤及び(b)高分子ポリオールの少なくとも一方がカルボン酸エステル基を有する化合物であるポリウレタンの単量体原料を公知のプレポリマー法またはワンショット法を用いたポリウレタンの製造方法により製造される。詳しくは、例えば、ポリウレタンの単量体原料を実質的に溶剤の不存在下で所定の比率で単軸又は多軸スクリュー型押出機を用いて溶融混合しながら連続溶融重合する方法や、溶剤の存在下で溶液重合させる方法や、乳化重合する方法等が挙げられる。
【0023】
ポリウレタンとしては、熱可塑性ポリウレタンであっても、熱硬化性ポリウレタンであってもよい。研磨パッドの研磨層として用いる場合には熱可塑性ポリウレタンであることが、Tダイを用いた押出成形性に優れる点から好ましい。以下、本実施形態においては、カルボン酸エステル基を有するポリウレタンの一例として、熱可塑性ポリウレタンについて代表例として詳しく説明する。
【0024】
鎖伸長剤(a)は、ジオール化合物またはジアミン化合物等の、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する、好ましくは分子量300以下の低分子化合物である。ポリウレタンの側鎖にカルボン酸エステル基を保持させるためには、鎖伸長剤(a)の少なくとも一部として、カルボン酸エステル基を有する鎖伸長剤(a1)を用いることが好ましい。
【0025】
カルボン酸エステル基を有する鎖伸長剤(a1)の具体例としては、例えば、酒石酸ジエチルや酒石酸ジメチル等の酒石酸ジエステル;2,4-ジヒドロキシ安息香酸メチル,3,5-ジヒドロキシ安息香酸メチル,ネオペンチルグリコールモノ(ヒドロキシピバラート)等のカルボン酸エステル基を含有するジオール,ジアミン,またはそれらの誘導体、が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組合せて用いてもよい。これらの中では、反応性や機械的特性に優れるポリウレタンが得られやすい点から酒石酸ジエチルが特に好ましい。
【0026】
また、カルボン酸エステル基を有する鎖伸長剤(a1)以外のカルボン酸エステル基を有しない鎖伸長剤(a2)としては、従来、ポリウレタンの製造に用いられている、カルボン酸エステル基を有しない、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量300以下の低分子化合物が挙げられる。その具体例としては、例えば、エチレングリコール,ジエチレングリコール,1,2-プロパンジオール,1,3-プロパンジオール,2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール,1,2-ブタンジオール,1,3-ブタンジオール,2,3-ブタンジオール,1,4-ブタンジオール,1,5-ペンタンジオール,ネオペンチルグリコール,1,6-ヘキサンジオール,3-メチル-1,5-ペンタンジオール,1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン,1,4-シクロヘキサンジオール,1,4-シクロヘキサンジメタノール等のシクロヘキサンジメタノール,ビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート,1,9-ノナンジオール,m-キシリレングリコール,p-キシリレングリコール,ジエチレングリコール,トリエチレングリコール等のジオール類;エチレンジアミン,トリメチレンジアミン,テトラメチレンジアミン,ヘキサメチレンジアミン,ヘプタメチレンジアミン,オクタメチレンジアミン,ノナメチレンジアミン,デカメチレンジアミン,ウンデカメチレンジアミン,ドデカメチレンジアミン,2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン,2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン,3-メチルペンタメチレンジアミン,1,2-シクロヘキサンジアミン,1,3-シクロヘキサンジアミン,1,4-シクロヘキサンジアミン,1,2-ジアミノプロパン,ヒドラジン,キシリレンジアミン,イソホロンジアミン,ピペラジン,o-フェニレンジアミン,m-フェニレンジアミン,p-フェニレンジアミン,トリレンジアミン,キシレンジアミン,アジピン酸ジヒドラジド,イソフタル酸ジヒドラジド,4,4’-ジアミノジフェニルメタン,4,4’-ジアミノジフェニルエーテル,4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル,4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル,1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン,1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン,1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン,3,4’-ジアミノジフェニルエーテル,4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン,3,4-ジアミノジフェニルスルフォン,3,3’-ジアミノジフェニルスルフォン,4,4’-メチレン-ビス(2-クロロアニリン),3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル,4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド,2,6-ジアミノトルエン,2,4-ジアミノクロロベンゼン,1,2-ジアミノアントラキノン,1,4-ジアミノアントラキノン,3,3’-ジアミノベンゾフェノン,3,4-ジアミノベンゾフェノン,4,4’-ジアミノベンゾフェノン,4,4’-ジアミノビベンジル,2,2’-ジアミノ-1,1’-ビナフタレン,1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)アルカン,1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)アルカン,1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)アルカン等の1,n-ビス(4-アミノフェノキシ)アルカン(nは3~10),1,2-ビス[2-(4-アミノフェノキシ)エトキシ]エタン,9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン,4,4’-ジアミノベンズアニリド等のジアミン類が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組合せて用いてもよい。これらの中では、1,4-ブタンジオールが好ましい。
【0027】
また、ポリウレタンの主鎖末端にカルボン酸エステル基を保持させるためには、カルボン酸エステル基を有する化合物として、ネオペンチルグリコールモノ(ヒドロキシピバラート)1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-ピロリジノール等のカルボン酸エステル基を有するモノオールやモノアミンを用いてもよい。これらは単独で用いても2種以上を組合せて用いてもよい。
【0028】
カルボン酸エステル基を有するモノオールやモノアミンも鎖伸長剤(a1)に含めた場合、鎖伸長剤(a)の全量中の鎖伸長剤(a1)の割合は適宜選択されるが、例えば、5~95モル%、さらには10~90モル%であることが、カルボン酸エステル基をポリウレタンの側鎖や主鎖末端に充分に付与できる点から好ましい。
【0029】
高分子ポリオール(b)は、数平均分子量300超の、ポリエーテルポリオール,ポリエステルポリオール,ポリカーボネートポリオール等の高分子ポリオールが挙げられる。また、熱可塑性ポリウレタンを製造する場合には、主として高分子ジオールが用いられる。また、ポリウレタンにカルボン酸エステル基を保持させるために、カルボン酸エステル基を有する高分子ポリオール(b1)を用いてもよい。
【0030】
カルボン酸エステル基を有する高分子ポリオール(b1)の具体的としては、例えば、カルボン酸エステル基を有するポリカーボネートジオールが挙げられる。
【0031】
また、カルボン酸エステル基を有する高分子ポリオール(b1)以外のカルボン酸エステル基を有しない高分子ポリオール(b2)としては、従来、ポリウレタンの製造に用いられている、カルボン酸エステル基を有しない、数平均分子量300超のポリエーテルポリオール,ポリエステルポリオール,ポリカーボネートポリオール等の高分子ポリオールが特に限定なく用いられる。
【0032】
高分子ポリオール(b2)の具体例としては、例えば、カルボン酸エステル基を有しない、ポリエーテルジオール,ポリエステルジオール,ポリカーボネートジオール等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0033】
ポリエーテルジオールの具体例としては、例えば、ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリテトラメチレングリコール,ポリ(メチルテトラメチレン)グリコール,グリセリンベースポリアルキレンエーテルグリコール等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組合せて用いてもよい。これらの中では、ポリエチレングリコール,ポリテトラメチレングリコール、とくにはポリテトラメチレングリコールが好ましい。
【0034】
また、ポリエステルジオールは、例えば、ジカルボン酸またはそのエステルやその無水物などのエステル形成性誘導体と、低分子ジオールと、を直接エステル化反応またはエステル交換反応させることにより得られる。
【0035】
ポリエステルジオールを製造するためのジカルボン酸またはそのエステルやその無水物などのエステル形成性誘導体の具体例としては、例えば、シュウ酸,コハク酸,グルタル酸,アジピン酸,ピメリン酸,スベリン酸,アゼライン酸,セバシン酸,ドデカンジカルボン酸,2-メチルコハク酸,2-メチルアジピン酸,3-メチルアジピン酸,3-メチルペンタン二酸,2-メチルオクタン二酸,3,8-ジメチルデカン二酸,3,7-ジメチルデカン二酸等の炭素数2~12の脂肪族ジカルボン酸;トリグリセリドの分留により得られる不飽和脂肪酸を二量化した炭素数14~48の二量化脂肪族ジカルボン酸(ダイマー酸)およびこれらの水素添加物(水添ダイマー酸)等の脂肪族ジカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸,イソフタル酸,オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。また、ダイマー酸および水添ダイマー酸の具体例としては、例えば、ユニケマ社製商品名「プリポール1004」,「プリポール1006」,「プリポール1009」,「プリポール1013」等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組合せて用いてもよい。
【0036】
また、ポリエステルジオールを製造するための低分子ジオールの具体例としては、例えば、エチレングリコール,1,3-プロパンジオール,1,2-プロパンジオール,2-メチル-1,3-プロパンジオール,1,4-ブタンジオール,ネオペンチルグリコール,1,5-ペンタンジオール,3-メチル-1,5-ペンタンジオール,1,6-ヘキサンジオール,1,7-ヘプタンジオール,1,8-オクタンジオール,2-メチル-1,8-オクタンジオール,1,9-ノナンジオール,1,10-デカンジオール等の脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール,シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組合せて用いてもよい。これらの中では、炭素数6~12、さらには炭素数8~10、とくには炭素数9のジオールが好ましい。
【0037】
ポリカーボネートジオールとしては、低分子ジオールと、ジアルキルカーボネート,アルキレンカーボネート,ジアリールカーボネート等のカーボネート化合物との反応により得られるものが挙げられる。ポリカーボネートジオールを製造するための低分子ジオールとしては先に例示した低分子ジオールが挙げられる。また、ジアルキルカーボネートとしては、ジメチルカーボネート,ジエチルカーボネート等が挙げられる。また、アルキレンカーボネートとしてはエチレンカーボネート等が挙げられる。ジアリールカーボネートとしてはジフェニルカーボネート等が挙げられる。
【0038】
高分子ポリオール(b)の数平均分子量としては、300~3000、さらには500~2700、とくには500~2400であることが、剛性,硬度,親水性等の要求特性を維持する研磨層に適したポリウレタンが得られやすい点から好ましい。なお、高分子ジオールの数平均分子量は、JISK1557に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出された数平均分子量を意味する。
【0039】
カルボン酸エステル基を有する高分子ポリオール(b1)を用いる場合の高分子ポリオール(b)の全量中の高分子ポリオール(b1)の割合は適宜選択されるが、例えば、10~100モル%、さらには20~90モル%であることが、力学的物性を維持しつつカルボン酸エステル基をポリウレタンに充分に付与できる点から好ましい。
【0040】
また、有機ジイソシアネート(c)としては、従来ポリウレタンの製造に用いられている有機ジイソシアネートであれば特に限定なく用いられる。その具体例としては、例えば、エチレンジイソシアネート,テトラメチレンジイソシアネート,ペンタメチレンジイソシアネート,ヘキサメチレンジイソシアネート,2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート,2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート,ドデカメチレンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネート,イソプロピリデンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート),シクロヘキシルメタンジイソシアネート,メチルシクロヘキサンジイソシアネート,4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート,リジンジイソシアネート,2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート,ビス(2-イソシアナトエチル)フマレート,ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート,2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサノエート,シクロヘキシレンジイソシアネート,メチルシクロヘキシレンジイソシアネート,ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロへキセンなどの脂肪族又は脂環式ジイソシアネート;2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート,4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート,2,4-トリレンジイソシアネート,2,6-トリレンジイソシアネート,m-フェニレンジイソシアネート,p-フェニレンジイソシアネート,m-キシリレンジイソシアネート,p-キシリレンジイソシアネート,1,5-ナフチレンジイソシアネート,4,4’-ジイソシアナトビフェニル,3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル,3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン,クロロフェニレン-2,4-ジイソシアネート,テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組合せて用いてもよい。これらの中では、耐摩耗性に優れる研磨層に適したポリウレタンが得られる点から4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートがとくに好ましい。
【0041】
カルボン酸エステル基を有する熱可塑性ポリウレタンは、カルボン酸エステル基を有する化合物を含むポリウレタンの単量体原料を用い、公知のプレポリマー法またはワンショット法を用いたポリウレタンの製造方法により得られる。好ましくは、実質的に溶剤の不存在下で、上述した各成分を所定の比率で配合して単軸又は多軸スクリュー型押出機を用いて溶融混合しながら連続溶融重合するワンショット法が生産性に優れる点から好ましい。
【0042】
各成分の配合割合は目的とする特性に応じて適宜調整される。例えば、鎖伸長剤(a)と高分子ポリオール(b)とに含まれる活性水素原子1モルに対して、有機ジイソシアネート(c)に含まれるイソシアネート基が0.95~1.3モル、さらには0.96~1.10モル、とくには0.97~1.05モルとなる割合で配合することが好ましい。
【0043】
上述のように連続溶融重合することにより得られたカルボン酸エステル基を有する熱可塑性ポリウレタンは、例えば、ペレット化された後、押出成形法,射出成形法,ブロー成形法,カレンダー成形法などの各種の成形法によりシート状の成形体に成形される。とくには、Tダイを用いた押出成形によれば厚さの均一なシート状の成形体が連続生産できる点から好ましい。
【0044】
また、カルボン酸エステル基を有する熱可塑性ポリウレタンは、ハードセグメントの結晶の融点である高温側の融点が50~100℃、さらには60~90℃であることが加工性の点から好ましい。
【0045】
以上のように製造されるポリウレタンは、側鎖又は主鎖末端の少なくとも一方にカルボン酸エステル基を有する。このようなポリウレタンの模式構造図を図1に示す。
【0046】
ポリウレタン中の、側鎖又は主鎖末端の少なくとも一方に存在するカルボン酸エステル基の含有割合は特に限定されないが、カルボン酸基換算で、1~20質量%、さらには、3~10質量%であることが、ポリウレタンの表面改質の効果が顕著に得られやすい点から好ましい。
【0047】
また、ポリウレタンは、必要に応じて、架橋剤,充填剤,架橋促進剤,架橋助剤,軟化剤,粘着付与剤,老化防止剤,発泡剤,加工助剤,密着性付与剤,無機充填剤,有機フィラー,結晶核剤,耐熱安定剤,耐候安定剤,帯電防止剤,着色剤,滑剤,難燃剤,難燃助剤(酸化アンチモンなど),ブルーミング防止剤,離型剤,増粘剤,酸化防止剤,導電剤等の添加剤を含有してもよい。添加剤の含有割合は特に限定されないが、50質量%以下、さらには20質量%以下、とくには5質量%以下であることが好ましい。
【0048】
本実施形態のポリウレタンは好ましくは熱可塑性ポリウレタンである。なお、熱可塑性とは、押出成形,射出成形,カレンダー成形,3Dプリンタ成形等の加熱溶融させる工程を経る成形方法により成形できる特性を意味する。研磨パッドの研磨層として用いられる研磨パッド用成形体は、ポリウレタンを上述した各種成形方法により成形して得られる。とくには、Tダイを用いた押出成形を採用することが生産性に優れ、均一な厚さのシート状の成形体が容易に得られる点から好ましい。
【0049】
また、研磨パッド用成形体は発泡成形体であっても非発泡成形体であってもよい。とくには、非発泡成形体であることが、研磨特性が変動しにくく安定した研磨が実現できる点から好ましい。例えば、注型発泡硬化することによって製造されるポリウレタン発泡体を用いた研磨層の場合には、発泡構造がばらつくことにより、平坦化性や平坦化効率等の研磨特性が変動しやすくなる傾向があり、また、平坦化性を向上させるための高硬度化が難しくなる傾向がある。
【0050】
このような側鎖又は主鎖末端の少なくとも一方にカルボン酸エステル基を有するポリウレタンの成形体は、成形後にカルボン酸エステル基を加水分解させるだけで表面特性が改質される。具体的には、ポリウレタンの側鎖又は主鎖末端の少なくとも一方に存在するカルボン酸エステル基を加水分解することにより、ポリウレタン成形体の表面にカルボン酸基を生成させることができる。また、ポリウレタンに保持されたカルボン酸基をさらに他の官能基に変換することもできる。また、カルボン酸エステル基を加水分解する条件を選択することにより、生成させるカルボン酸基の量を調整することもできる。その結果、ポリウレタン成形体の成形後に表面のゼータ電位や親水性等の表面特性の改質を調整することができる。次に改質処理である、ポリウレタンが有するカルボン酸エステル基の加水分解について詳しく説明する。
【0051】
ポリウレタンに存在するカルボン酸エステル基を加水分解することにより、ポリウレタンの表面にカルボン酸基を生成させることができる。具体的には、例えば、図2に示すように、カルボン酸エステル基を有するポリウレタンの成形体のカルボン酸エステル基を加水分解させることにより、カルボン酸エステル基をカルボン酸基に変換することができる。
【0052】
加水分解反応は、含水液で処理することにより行われる。含水液としては、例えば、塩酸等の酸性水溶液や、水酸化ナトリウム水溶液,水酸化カリウム水溶液,アンモニア水等の塩基性溶液を用いることが触媒作用により、加水分解が促進される点から好ましい。これらの中では、加水分解の反応性の点から、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液を用いることが特に好ましい。また、加水分解のための含水液の温度は特に限定されないが、20~90℃、さらには、30~80℃であることが加水分解反応を制御しやすい点から好ましい。さらに、含水液で処理する時間も特に限定されないが、5~1440分間、さらには、60~720分間程度であることが加水分解を制御しやすい点から好ましい。
【0053】
このようにしてカルボン酸エステル基を加水分解することにより改質されたポリウレタンはカルボン酸基を有する。ポリエステルに付与されたカルボン酸基は、図3に示すように、酸性領域を含む、カルボン酸基をイオン化させるpHの水溶液に接したときにはカルボン酸基が-COOとH+に解離する。そして、この表面の-COOによりポリウレタンの表面に負の電位を付与する。このような負の電位は、後述する研磨パッドの研磨層としての用途においては、酸性領域におけるゼータ電位を低下させて、酸性のスラリー中の砥粒との親和性を向上させる。また、ポリウレタンのカルボン酸基は、ポリウレタンの表面の親水性を高めることにより濡れ性を向上させる。このようなポリウレタンは、親水性や電気的特性等の改質が求められるポリウレタンの各種用途に好ましく用いられる。とくには、研磨パッドの研磨層として用いられる研磨パッド用成形体として好ましく用いられる。とくに、カルボン酸基を有するポリウレタン成形体を用いた研磨層は、研磨層の表面の電位を低下させることにより砥粒との親和性が向上する。
【0054】
次に、カルボン酸エステル基を有するポリウレタンの成形体を研磨層として含む研磨パッドについて説明する。本実施形態の研磨パッドは、カルボン酸エステル基を有するポリウレタンのシート状の成形体から円形等の断片を切り出すことにより得られる研磨層を含む。
【0055】
例えば、CMPに用いられるスラリーとしては、酸性のスラリーやアルカリ性のスラリーがある。酸性のスラリーとアルカリ性のスラリーとは、研磨の目的に応じて選択されたり、多段の研磨プロセスを行う場合にそれらを併用したりして用いられる。アルカリ性のスラリーに含まれる砥粒は、通常、負のゼータ電位を有する。アルカリ性のスラリーを使用した場合にゼータ電位が負になる研磨層を用いた場合、研磨層のゼータ電位を負に保つことができ、それにより、研磨層に研磨屑が付着しにくくなってスクラッチやディフェクトの発生が低減する。しかしながら、アルカリ性においてゼータ電位が負になる研磨層の場合、酸性のスラリーを用いた場合には、ゼータ電位が正になることが多かった。
【0056】
酸性のスラリー中の砥粒はゼータ電位が正になるものが多い。一方、例えば、シリコンウェハの表面のゼータ電位は酸性において通常負になる。この場合、シリコンウェハの表面の負電荷と、酸性のスラリー中の砥粒の正電荷が引き付けられるために、互いの親和性が高いと思われる。一方、一般的なポリウレタンのゼータ電位は酸性領域のとくにpH3より低いpH領域においては、ゼータ電位が正になり、pH3付近で等電点になって0に近づき、pHが高いアルカリ領域で負になる傾向がある。
【0057】
酸性領域においてゼータ電位が負になる基材を、酸性のスラリー中のゼータ電位が正になる砥粒を用いて、酸性領域においてゼータ電位が正になるポリウレタンの研磨層で研磨した場合、ゼータ電位が正の研磨層とゼータ電位が正の砥粒とが反発しあって親和性に乏しくなると思われる。従って、酸性領域においてゼータ電位が負になる基材を酸性のスラリーを用いて研磨する場合には、酸性領域でゼータ電位がより負になる研磨層を用いることが好ましいと思われる。本件発明者らは、負のゼータ電位を示す基材と負のゼータ電位を示す研磨層との間に、正のゼータ電位を示す砥粒を介在させることにより、基材と研磨層との間で砥粒を安定させ、研磨速度を向上させる手段を実現した。
【0058】
本実施形態の研磨層の素材として用いられる成形体は、カルボン酸基を有するポリウレタンの成形体である。表面にカルボン酸基を有するポリウレタン成形体を用いた研磨層は、酸性のスラリーと接したときに研磨面のカルボン酸基が-COO-に解離することによりゼータ電位をpH3.0において-1.0mV以下になるような研磨面を実現できる。pH3.0におけるゼータ電位が-1.0mV以下である場合、酸性領域において正のゼータ電位を示す砥粒と高い親和性を示す。そして、酸性領域において負のゼータ電位を示す基材と負のゼータ電位を示す研磨層との間に、正のゼータ電位を示す砥粒が介在することにより、砥粒が基材及び研磨層の両方に対して高い親和性を示すために、高い研磨速度を実現することができる。
【0059】
研磨層を形成するポリウレタンのpH3.0~pH8.0におけるゼータ電位は-1.0mV以下、さらには-2.0mV~-40mV、とくには-3.0~-30mV、ことには-5.0~-20mVであることが好ましい。とくに、研磨パッドのpH3.0におけるゼータ電位が-1.0を超える場合には、研磨スラリーと研磨パッドが電気的に反発しやすくなるために親和性が低くなる。ここでゼータ電位とは、物質が液体と接したときに、物質の表面電荷に応じて、対イオンによって電気二重層表面(滑り面)に生じる電位である。本実施形態においては、ゼータ電位は、電気泳動光散乱装置(ELS-Z、大塚電子(株)製)を使用し、pH3.0にHCl水溶液で調整した10mM NaCl水溶液中に分散したモニターラテックス(大塚電子(株)製)を用いて測定されたゼータ電位である。
【0060】
また、研磨層を形成するポリウレタンのpH4.0におけるゼータ電位は、-1.0mV以下、さらには-5.5~-40mV、とくには-7.5~-30mV、ことには-10.0~-30mVであることが、pH3.0におけるゼータ電位が-1.0mV以下の研磨層が得られやすい点から好ましい。
【0061】
また、研磨層を形成するポリウレタンとしては、50℃の水で飽和膨潤させた後の50℃における貯蔵弾性率が50~1200MPa、さらには100~1100MPa、とくには200~1000MPaであることが好ましい。ポリウレタンの50℃の水で飽和膨潤させた後の50℃における貯蔵弾性率が低すぎる場合には研磨層が柔らかくなりすぎて研磨速度が低下し、高すぎる場合には被研磨物の被研磨面にスクラッチが増加する傾向がある。
【0062】
また、研磨層を形成するポリウレタンとしては、イソシアネート基に由来する窒素原子の含有率が、4.5~7.6質量%、さらには5.0~7.4質量%、とくには5.2~7.3質量%であることが、50℃の水で飽和膨潤させた後の50℃における貯蔵弾性率が50~1200MPaであるポリウレタンが得られやすくなる点から好ましい。
【0063】
また、研磨層を形成するポリウレタンとしては、水との接触角が80度以下、さらには78度以下、とくには76度以下、ことには74度以下であることが好ましい。ポリウレタンの水との接触角が大きすぎる場合には、研磨層の研磨面の親水性が低下することによりスクラッチが増加する傾向がある。
【0064】
また、研磨層は、研磨パッド用成形体の切削,スライス,打ち抜き加工等により寸法、形状、厚さ等を調整することにより研磨層に仕上げられる。研磨層の厚さは特に限定されないが、0.3~5mm、さらには1.7~2.8mm、とくには2.0~2.5mmであることが生産や取り扱いのしやすさ、研磨性能の安定性から好ましい。
【0065】
また、研磨層の硬度としては、JIS-D硬度で60以上、さらには、65以上であることが好ましい。JIS-D硬度が低すぎる場合には、被研磨面への研磨パッドの追従性が高くなってローカル平坦性が低下する傾向がある。
【0066】
研磨層の研磨面には、研削加工やレーザー加工により、同心円状の所定のパターンで溝や穴である凹部が形成されることが好ましい。このような凹部は、研磨面にスラリーを均一かつ充分に供給するとともに、スクラッチ発生の原因となる研磨屑の排出や、研磨層の吸着によるウェハ破損の防止に役立つ。例えば同心円状に溝を形成する場合、溝間の間隔としては、1.0~50mm、さらには1.5~30mm、とくには2.0~15mm程度であることが好ましい。また、溝の幅としては、0.1~3.0mm、さらには0.2~2.0mm程度であることが好ましい。また、溝の深さとしては、0.2~1.8mm、さらには0.4~1.5mm程度であることが好ましい。また、溝の断面形状としては、例えば、長方形,台形,三角形,半円形等の形状が目的に応じて適宜選択される。
【0067】
非発泡成形体の熱可塑性ポリウレタンの場合、密度としては、1.0g/cm以上、さらには1.1g/cm以上、とくには、1.2g/cm以上であることが好ましい。非発泡成形体の密度が低すぎる場合には、研磨層が柔らかくなり過ぎてローカル平坦性が低下する傾向がある。
【0068】
研磨パッドは、上述したポリウレタン成形体の研磨層のみからなる単層型の研磨パッドであっても、研磨層の研磨面ではない側の面にクッション層を積層した複層型研磨パッドであってもよい。クッション層としては、研磨層の硬度より低い硬度を有する層であることが好ましい。クッション層の硬度が研磨層の硬度よりも低い場合には、被研磨面の局所的な凹凸には硬質の研磨層が追従し、被研磨基材全体の反りやうねりに対してはクッション層が追従するためにグローバル平坦性とローカル平坦性とのバランスに優れた研磨が可能になる。
【0069】
クッション層として用いられる素材の具体例としては、不織布にポリウレタンを含浸させた複合体(例えば、「Suba400」(ニッタ・ハース(株)製));天然ゴム,ニトリルゴム,ポリブタジエンゴム,シリコーンゴム等のゴム;ポリエステル系熱可塑性エラストマー,ポリアミド系熱可塑性エラストマー,フッ素系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー;発泡プラスチック;ポリウレタン等が挙げられる。これらの中では、クッション層として好ましい柔軟性が得られやすい点から、発泡構造を有するポリウレタンがとくに好ましい。
【0070】
クッション層の厚さは特に限定されないが、例えば0.5~5mm程度であることが好ましい。クッション層が薄すぎる場合には、被研磨面の全体の反りやうねりに対する追従効果が低下してグローバル平坦性が低下する傾向がある。一方、クッション層が厚すぎる場合には、研磨パッド全体が柔らかくなって安定した研磨が難しくなる傾向がある。研磨層にクッション層を積層する場合には、研磨パッドの厚みが0.3~5mm程度であることが好ましい。
【0071】
次に、上述したような研磨パッドを用いたCMPの一実施形態について説明する。
【0072】
CMPにおいては、例えば、図4に示す上面視したときに円形の回転定盤2と、スラリー供給ノズル3と、キャリア4と、パッドコンディショナー6とを備えたCMP装置10が用いられる。回転定盤2の表面に上述した研磨層を備えた研磨パッド1を両面テープ等により貼付ける。また、キャリア4は被研磨物5を支持する。
【0073】
CMP装置10においては、回転定盤2は図略のモータにより矢印に示す方向に回転する。また、キャリア4は、回転定盤2の面内において、図略のモータにより例えば矢印に示す方向に回転する。パッドコンディショナー6も回転定盤2の面内において、図略のモータにより例えば矢印に示す方向に回転する。
【0074】
はじめに、回転定盤2に固定されて回転する研磨パッド1の研磨面に蒸留水を流しながら、例えば、ダイアモンド粒子をニッケル電着等により担体表面に固定したCMP用のパッドコンディショナー6を押し当てて、研磨パッド1の研磨面のコンディショニングを行う。コンディショニングにより、研磨面を被研磨面の研磨に好適な表面粗さに調整する。次に、回転する研磨パッド1の研磨面にスラリー供給ノズル3からスラリー7が供給される。またCMPを行うに際し、必要に応じ、スラリーと共に、潤滑油、冷却剤などを併用してもよい。
【0075】
ここで、スラリーは、例えば、水やオイル等の液状媒体;シリカ,アルミナ,酸化セリウム,酸化ジルコニウム,炭化ケイ素等の砥粒;塩基,酸,界面活性剤,過酸化水素水等の酸化剤,還元剤,キレート剤等を含有しているCMPに用いられるスラリーが好ましく用いられる。なお、スラリーには、酸性のスラリー、アルカリ性のスラリー、中性近傍のスラリーがあるが、上述したポリウレタン成形体からなる研磨層を用いる場合には、とくには、pH2.0~7.0、とくには、pH3.0~6.0の酸性のスラリーを用いてCMPを行うときにもスラリーとの高い親和性を維持することができる点から好ましい。
【0076】
そして、研磨層の研磨面にスラリー7が満遍なく行き渡った研磨パッド1に、キャリア4に固定されて回転する被研磨物5を押し当てる。そして、所定の平坦度が得られるまで、研磨処理が続けられる。研磨時に作用させる押し付け力や回転定盤2とキャリア4との相対運動の速度を調整することにより、仕上がり品質が影響を受ける。
【0077】
研磨条件は特に限定されないが、効率的に研磨を行うためには、回転定盤とキャリアのそれぞれの回転速度は300rpm以下の低回転が好ましく、被研磨物にかける圧力は、研磨後に傷が発生しないように150kPa以下とすることが好ましい。研磨している間、研磨面には、スラリーをポンプ等で連続的に供給することが好ましい。スラリーの供給量は特に限定されないが、研磨面が常にスラリーで覆われるように供給することが好ましい。
【0078】
そして、研磨終了後の被研磨物を流水でよく洗浄した後、スピンドライヤ等を用いて被研磨物に付着した水滴を払い落として乾燥させることが好ましい。このように、被研磨面をスラリーで研磨することによって、被研磨面全面にわたって平滑な面を得ることができる。
【0079】
このようなCMPは、各種半導体装置、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等の製造プロセスにおける研磨に好ましく用いられる。研磨対象の例としては、半導体基板上に形成された酸化膜等の絶縁膜の他、銅,アルミニウム,タングステン等の配線用金属膜;タンタル,チタン,窒化タンタル,または窒化チタン等のバリアメタル膜、とくには、酸化膜等の絶縁膜を研磨するのに好ましく用いられる。金属膜として配線パターンやダミーパターン等のパターンが形成されたものを研磨することも可能である。パターンにおけるライン間のピッチは、製品により異なるが、通常は50nm~100μm程度である。
【実施例
【0080】
本発明に係るポリウレタン、研磨パッド及びその改質方法の一例を実施例により説明する。なお、本発明の範囲は以下の実施例により何ら限定して解釈されるものではない。
【0081】
[実施例1]
数平均分子量850のポリテトラメチレングリコール(PTMG850)、酒石酸ジエチル(DET)、1,4-ブタンジオール(1,4-BD)、および4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を、質量比で、PTMG850:DET:1,4-BD:MDI=17.9:8.70:15.2:58.1となる割合で混合した原料配合物を調整した。このとき、DET/1,4-BD=20/80(モル比)であった。そして、同軸で回転する2軸押出機に原料配合物を定量ポンプで連続的に供給し、連続溶融重合を行い、2軸押出機のダイスから溶融物を水中に連続的に押出して冷却することによりストランドを形成させ、ストランドをペレタイザーでペレット状に細断し、80℃で20時間除湿乾燥することにより、カルボン酸エステル基を側鎖に有する熱可塑性ポリウレタン(PU1)のペレットを製造した。
【0082】
そして、熱可塑性ポリウレタン(PU1)の特性を次のようにして評価した。
【0083】
(熱可塑性ポリウレタンの改質、改質前後のゼータ電位の測定)
5~14gのPU1のペレットをテフロン(登録商標)のシートに挟み、熱プレス機を用いて200~230℃で熱プレスして成形した。このようにして厚さ0.3~0.5mmのPU1の非発泡成形体を得た。そして、PU1の非発泡成形体のカルボン酸エステル基を加水分解させるための改質処理をすることにより、カルボン酸エステル基をカルボン酸基に変換させた。改質処理の条件は、(i)50℃の水酸化カリウム(KOH)水溶液(0.1M)に24時間浸漬、(ii)50℃の塩酸(HCl)水溶液(0.1M)に24時間浸漬、(iii)50℃の純水に24時間浸漬、の3条件でそれぞれ行った。このようにして、表面にカルボン酸基を有する熱可塑性ポリウレタンの非発泡成形体を得た。
そして、改質処理前後の熱可塑性ポリウレタンの非発泡成形体をそれぞれ30mm×60mmに切り出し、それらの表面を洗浄して試験片を作成した。そして、各試験片のpH3.0、pH4.0、及びpH7.0におけるゼータ電位を電気泳動光散乱装置(ELS-Z、大塚電子(株)製)を用いて測定した。具体的には、電気泳動光散乱装置の平板測定用セルにサンプルを取り付け、塩酸水溶液でpH3.0、及びpH4.0に調整された10mM 塩化ナトリウム水溶液に分散させたモニターラテックス(大塚電子(株)製)を用いて測定した。同様に、水酸化ナトリウム水溶液でpH7.0に調整した10mM 塩化ナトリウム水溶液に分散させたモニターラテックスを用いて測定した。
【0084】
(水に対する接触角)
熱プレス機を用いて厚さ300μmのPU1のフィルムを作製した。そして、上述した改質処理と同様の条件で、PU1のフィルムを改質処理した。そして、改質処理前後のフィルムをそれぞれ、20℃、65%RHの条件下に3日間放置した。そして改質処理前後の各フィルムの水に対する接触角を、協和界面科学(株)製DropMaster500を用いて測定した。
【0085】
以上の結果を下記表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
[実施例2]
原料配合物を、PTMG850:DET:1,4-BD:MDI=12.1:18.0:11.8:58.1となる割合で配合した原料配合物に変更した以外は実施例1と同様にして、カルボン酸エステル基を側鎖に有する熱可塑性ポリウレタン(PU2)のペレットを製造した。このとき、DET/1,4-BD=40/60(モル比)であった。そして、PU1のペレットの代わりにPU2のペレットを用いた以外は実施例1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンの特性を評価した。結果を表1に示す。
【0088】
[実施例3]
原料配合物を、PTMG850:DET:1,4-BD:MDI=13.4:9.4:16.4:60.8となる割合で配合した原料配合物に変更した以外は実施例1と同様にして、カルボン酸エステル基を側鎖に有する熱可塑性ポリウレタン(PU3)のペレットを製造した。このとき、DET/1,4-BD=20/80(モル比)であった。そして、PU1のペレットの代わりにPU3のペレットを用いた以外は実施例1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンの特性を評価した。結果を表1に示す。
【0089】
[実施例4]
PTMG850、1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-ピロリジノール(BCP)、1,4-BD、及びMDIを、PTMG850:BCP:1,4-BD:MDI=19.0:7.90:15.1:58.1、となる割合で配合した原料配合物に変更した以外は実施例1と同様にして、カルボン酸エステル基を末端に有する熱可塑性ポリウレタン(PU4)のペレットを製造した。このとき、BCP/1,4-BD=20/80(モル比)であった。そして、PU1のペレットの代わりにPU4のペレットを用いた以外は実施例1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンの特性を評価した。結果を表1に示す。
【0090】
[実施例5]
PTMG850、2,4-ジヒドロキシ安息香酸メチル(MDB)、1,4-BD、及びMDIを、PTMG850:MDB:1,4-BD:MDI=19.7:7.0:15.1:58.1、となる割合で配合した原料配合物に変更した以外は実施例1と同様にして、カルボン酸エステル基を側鎖に有する熱可塑性ポリウレタン(PU5)のペレットを製造した。このとき、MDB/1,4-BD=20/80(モル比)であった。そして、PU1のペレットの代わりにPU5のペレットを用いた以外は実施例1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンの特性を評価した。結果を表1に示す。
【0091】
[比較例1]
PTMG850:1,4-BD:MDI=23.5:18.4:58.1となる割合で配合した原料配合物に変更した以外は実施例1と同様にして、熱可塑性ポリウレタン(PU6)のペレットを製造した。なお、PU6は、カルボン酸エステル基を側鎖に有しない。そして、PU1のペレットの代わりにPU6のペレットを用いた以外は実施例1と同様にして、熱可塑性ポリウレタンの特性を評価した。結果を表1に示す。
【0092】
表1を参照すれば、カルボン酸エステル基を側鎖及び主鎖末端の少なくとも一方に有する実施例1~5のポリウレタンは、カルボン酸エステル基を有しない比較例1のポリウレタンに比べて、改質処理によりゼータ電位が低下していることが分かる。また、それにより、接触角も小さくなることが分かる。
図1
図2
図3
図4