(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】熱可塑性共重合体組成物及びそれから製造される成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20220712BHJP
C08J 5/16 20060101ALI20220712BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220712BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20220712BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20220712BHJP
F16D 3/84 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
C08L67/02
C08J5/16 CFD
C08K3/36
C08L71/02
C08L83/04
F16D3/84 W
(21)【出願番号】P 2021508302
(86)(22)【出願日】2020-08-03
(86)【国際出願番号】 KR2020010230
(87)【国際公開番号】W WO2021029589
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】10-2019-0099672
(32)【優先日】2019-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0095350
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ソン-ムン
(72)【発明者】
【氏名】アン、ヒョン-ミン
(72)【発明者】
【氏名】キム、キュ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ソ、ム-ソン
(72)【発明者】
【氏名】キム、チョン-ウ
(72)【発明者】
【氏名】カク、ミン-ハン
(72)【発明者】
【氏名】キム、テ-チョル
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-523216(JP,A)
【文献】特開2003-118776(JP,A)
【文献】国際公開第2012/128161(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/010690(WO,A1)
【文献】特表2003-509522(JP,A)
【文献】特開2001-040198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08J 5/16
F16D 3/84
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルエラストマーと、
ポリテトラメチレングリコール(polytetramethyleneglycol)と、
シリカ及び下記化学式1で表されるシロキサン系高分子を含む添加剤と、
相溶化剤と、イオノマーとを含み、
前記添加剤は、前記ポリエステルエラストマー100重量部を基準として1~4重量部含まれる、熱可塑性共重合体組成物:
【化1】
前記化学式1中、R
1~R
8は、独立して炭素数1~10のアルキル基であり、nは、100~10,000の整数である。
【請求項2】
前記ポリエステルエラストマーは、前記熱可塑性共重合体組成物の総重量に対して80~95重量%含まれる、請求項1に記載の熱可塑性共重合体組成物。
【請求項3】
前記ポリテトラメチレングリコールは、前記ポリエステルエラストマー100重量部を基準として3~8重量部含まれる、請求項1または2に記載の熱可塑性共重合体組成物。
【請求項4】
前記添加剤中のシリカ及び前記化学式1で表されるシロキサン系高分子の含量は、前記シリカ1重量部に対して前記化学式1で表されるシロキサン系高分子が1~4重量部である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性共重合体組成物。
【請求項5】
前記ポリテトラメチレングリコールの重量平均分子量が2,000g/mol~5,000g/molである、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性共重合体組成物。
【請求項6】
前記シリカはヒュームドシリカ(Fumed silica)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱可塑性共重合体組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性共重合体組成物はポリアルキレンテレフタレートをさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性共重合体組成物。
【請求項8】
前記ポリアルキレンテレフタレートはポリブチレンテレフタレートである、請求項7に記載の熱可塑性共重合体組成物。
【請求項9】
前記ポリアルキレンテレフタレートは、前記ポリエステルエラストマー100重量部を基準として3~8重量部含まれる、請求項7または8に記載の熱可塑性共重合体組成物。
【請求項10】
前記ポリエステルエラストマーは、ポリエステルとポリエーテルの重縮合反応で収得されたものである、請求項1~9のいずれか一項に記載の熱可塑性共重合体組成物。
【請求項11】
前記ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ(1,3-プロピレンテレフタレート)(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、またはこれらの組み合わせ、またはこれらの共重合体である、請求項10に記載の熱可塑性共重合体組成物。
【請求項12】
前記ポリエーテルは、ポリエチレンエーテルグリコール(PEG)、ポリプロピレンエーテルグリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)、またはこれらの組み合わせ、またはこれらの共重合体である、請求項10または11に記載の熱可塑性共重合体組成物。
【請求項13】
前記熱可塑性共重合体組成物は、ISO1133に従って、230℃及び10kgの条件下で測定された流動指数が18g/10min以下であり、騒音測定器で試料の折れ曲がり角度40°の条件下で測定された75dB以上の騒音発生サイクル数が34以上である、請求項1~12のいずれか一項に記載の熱可塑性共重合体組成物。
【請求項14】
前記熱可塑性共重合体組成物は、反射角60°の条件下で測定した射出直後の光沢度に対する、射出後に常温で一週間放置した後に測定した光沢度の低減率が70%以上であることを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の熱可塑性共重合体組成物。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の熱可塑性共重合体組成物を含むことを特徴とする、成形品。
【請求項16】
前記成形品は等速ジョイントブーツである、請求項15に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願との相互参照〕
本出願は、2019年8月14日付の韓国特許出願第10-2019-0099672号及び2020年7月30日付で再出願された韓国特許出願第10-2020-0095350号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、熱可塑性共重合体組成物に関し、より詳細には、等速ジョイントブーツのような成形品の製造に使用されて騒音低減効果を提供できる熱可塑性共重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
自動車の等速ジョイントは、変速機とタイヤとの間に設置される部品であって、エンジンで発生した動力を変速機を経てタイヤに均一に伝達することによって、両方のタイヤが均一な速度で回転するようにする装置である。
【0004】
このような等速ジョイントには、潤滑作用のために過量のグリース(grease)を塗布し、潤滑用グリースが抜け出ないようにゴムブーツが包んでいる。すなわち、等速ジョイントに使用されたブーツは、等速ジョイントとグリースを外部の異物から保護する役割を果たす。前記ブーツは、通常、ゴム又はポリエステル系列の樹脂などを押出成形して製造される。
【0005】
一方、前記等速ジョイントがタイヤに動力を伝達する際に回転しながら、ブーツ内の蛇腹部で面と面との摩擦により騒音が発生することがある。このとき、自動車の下部において水、塩水、砂などの異物による汚染がある場合、ブーツ内の蛇腹部で面と面との摩擦によりその騒音が増大し、90dB以上の大きな騒音が発生することもある。このような騒音の改善のために、ブーツの製造時に種々の滑剤が添加されている。
【0006】
前記滑剤としては、アミド(amide)、モンタン(montan)、オレフィン(olefin)系の単量体性ワックスが用いられているが、これらの成分は、ブーツの主成分であるポリエステルエラストマーとの相溶性が低いため、少量添加時には効果が僅かであり、過量添加時にはマイグレーション(migration)現象により表面不良、機械的物性の減少などを引き起こしている。
【0007】
そこで、ポリアルキレングリコール類のような有機物を添加して、摩擦及び汚染による騒音の発生を改善しようとする試みがあったが、この場合にも騒音の改善があまり効果的ではなかった。
【0008】
したがって、等速ジョイントブーツの騒音の発生の低減にさらに効果的な素材の開発が依然として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明で解決しようとする課題は、上記発明の背景となる技術で言及した問題を解決するために、機械的物性の低下なしに等速ジョイントブーツの表面特性の均一性を向上させ、これを通じて、等速ジョイントブーツの騒音低減特性及び制音特性を効果的に改善させることである。
【0011】
すなわち、本発明は、上記従来技術の問題点を解決するために案出されたもので、等速ジョイントブーツのような成形品の製造に用いられて、機械的物性の低下なしに低騒音特性を向上させることができる熱可塑性共重合体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するための本発明の一実施形態によれば、本発明は、ポリエステルエラストマーと;ポリテトラメチレングリコール(polytetramethyleneglycol)と;シリカ(SiO2)及び化学式1で表されるシロキサン系高分子を含む添加剤と;を含み、前記添加剤は、前記ポリエステルエラストマー100重量部を基準として1~4重量部含まれる熱可塑性共重合体組成物を提供する:
【0013】
【0014】
前記式中、R1~R8は、独立して炭素数1~10のアルキル基であり、nは、100~10,000の整数である。
【0015】
また、本発明は、前記熱可塑性共重合体組成物を含む成形品を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る熱可塑性共重合体組成物は、主成分として、ポリエステルエラストマー、及び前記エラストマーとの相溶性が良いポリテトラメチレングリコールを含むことによって、本発明に係る組成物で製造された成形品の軟質の性質を補強して、機械的摩擦による騒音の発生を低減する効果がある。さらに、前記ポリテトラメチレングリコールの溶出を加速化させるシリカ(SiO2)及びシロキサン系高分子を含む添加剤を含むことによって、等速ジョイントブーツのような成形品の摩擦又は汚染による騒音の発生を効果的に改善することができる。
【0017】
さらに、等速ジョイントブーツのように硬度及び引張強度が特に求められる成形品の製造に使用される場合、前記組成物にポリアルキレンテレフタレートをさらに含めることによって、成形品の機械的物性も共に改善させる効果が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施例1~2及び比較例2~3の熱可塑性共重合体組成物から製造された試片を1週間放置したときの表面の状態を示す図である。
【
図2】75dB以上の騒音発生サイクル数の測定のために騒音測定器に折れ曲がり角度40°で中空成形品が装着された様子を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の説明及び特許請求の範囲で使用された用語や単語は、通常の又は辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者が自分の発明を最良の方法で説明するために用語の概念を適宜定義できるという原則に基づき、本発明の技術的思想に符合する意味及び概念で解釈されなければならない。
【0020】
以下、本発明に対する理解を助けるために本発明をさらに詳細に説明する。
【0021】
本発明の一実施形態に係る熱可塑性共重合体組成物は、ポリエステルエラストマー(a)と;ポリテトラメチレングリコール(b)と;シリカ(SiO2)及びシロキサン系高分子を含む添加剤(c)とを含む。
【0022】
本発明の熱可塑性共重合体組成物において、前記ポリエステルエラストマー(a)は、成形加工が容易な熱可塑性樹脂の利点と、柔軟性及び弾性回復力のようなゴムの利点の両方を有するので、自動車の部品、例えば、等速ジョイントブーツの素材として使用可能な成分である。当該分野では、熱可塑性ポリエステルエラストマー(thermoplastic polyester elastomer、TPEE)として通用する場合もある。
【0023】
このようなポリエステルエラストマーは、ポリエステルとポリエーテルの重縮合反応で収得され得る。前記ポリエステルは、エラストマーの硬質セグメントを構成する単位であって、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールに由来し得る。前記ポリエステルの例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ(1,3-プロピレンテレフタレート)(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、またはこれらの組み合わせ、またはこれらの共重合体が含まれてもよい。また、前記ポリエーテルは、エラストマーの軟質セグメントを構成する単位であって、その例としては、ポリエチレンエーテルグリコール(PEG)、ポリプロピレンエーテルグリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)、またはこれらの組み合わせ、またはこれらの共重合体を含むことができる。
【0024】
前記ポリエステルエラストマーは、本発明の熱可塑性共重合体組成物の主成分であって、前記ポリエステルエラストマー(a)、ポリテトラメチレングリコール(b)及び添加剤(c)の全重量の80~99重量%、例えば90~98重量%を占めることができる。
【0025】
前記ポリエステルエラストマーは、好ましくは、熱可塑性共重合体組成物の総重量に対して80~95重量%含まれてもよく、好ましくは85~95重量%、より好ましくは85~90重量%含まれ、この範囲内で、物性バランスに優れ、硬度に優れるという利点がある。
【0026】
本記載において別段の定義がない限り、熱可塑性共重合体組成物の総重量は、熱可塑性共重合体組成物に含まれる全ての成分の重量の和を意味する。
【0027】
本発明の熱可塑性共重合体組成物はポリテトラメチレングリコール(polytetramethyleneglycol、PTMG)(b)を含むことができる。ポリテトラメチレングリコールは、ポリエステルエラストマーを含む組成物で製造された成形品に対して軟質の性質を付与して、成形品の機械的摩擦による騒音の発生を最小化する成分である。具体的には、前記ポリテトラメチレングリコールは、ポリエステルエラストマーとの相溶性が良いので、ポリエステルエラストマー樹脂内に均一に分散可能であり、ポリエステルエラストマー樹脂内に均一に分散されたポリテトラメチレングリコールは、時間が経過するにつれて成形品(樹脂)の表面に徐々に溶出し得る。一方、等速ジョイントブーツは、車両の駆動軸に装着されて回転運動しながら、外部環境、内部のグリースの露出などから等速ジョイントを保護するが、従来の等速ジョイントブーツは、回転運動により表面摩擦が持続的に発生し、それによって表面が損傷することによって、破損が頻繁に発生した。このとき、溶出したポリテトラメチレングリコールは、ポリエステルエラストマー成形品の表面摩擦を減少させることで、等速ジョイントブーツの損傷を防止すると同時に、騒音の発生を減少させることができる。
【0028】
前記ポリテトラメチレングリコールは、前記ポリエステルエラストマー100重量部を基準として、3~8重量部、詳細には3~5重量部の量で含まれてもよい。すなわち、熱可塑性共重合体組成物で製造された成形品に対して表面摩擦を減少させ、前記成形品が等速ジョイントブーツに適用される場合に騒音低減特性(制音特性)を発揮するためには、ポリテトラメチレングリコールの含量が3重量部以上である必要がある。一方、当該成形品の機械的物性の低下及び過度の溶出による製品成形性低下の防止のために、前記ポリテトラメチレングリコールの含量は8重量部以下であってもよい。
【0029】
本発明の一実施形態において、前記ポリテトラメチレングリコールの重量平均分子量(Mw)は、2,000~5,000g/mol、詳細には2,500~3,500g/molの範囲であってもよく、このような範囲の重量平均分子量を有する場合に、表面溶出速度の調節の観点で有利である。具体的には、分子量が2,000g/mol以上である場合、溶出速度が過度に速くなることによる製品成形時の金型の汚染、作業不良などを防止することができ、分子量が5,000g/mol以下である場合、ポリテトラメチレングリコールの溶出速度が過度に遅くなることを防止することができる。溶出速度が過度に遅くなる場合には、ポリテトラメチレングリコールが成形品の表面に十分に溶出されないので、表面摩擦の減少という目的を達成しにくくなる。
【0030】
本記載において重量平均分子量は、別段の定義がない限り、GPC(Gel Permeation Chromatography,waters breeze)を用いて測定することができ、具体例として、溶出液としてクロロホルム(chloroform):クロロフェノール(chlorophenol)混合溶液(体積比10:1)を使用して、GPC(Gel Permeation Chromatography,waters breeze)を通じて標準PS(standard polystyrene)試料に対する相対値で測定することができる。
【0031】
一方、本発明の熱可塑性共重合体組成物において、前記シリカ(SiO2)及びシロキサン系高分子を含む添加剤(c)は、前記ポリテトラメチレングリコールの溶出を加速化させることで、製造された成形品の軟性を改善することによって、前記成形品が、例えば等速ジョイントブーツで使用される場合に求められる騒音低減の特性を極大化させる成分である。
【0032】
より具体的には、前記シロキサン系高分子は、下記化学式1の構造を有するポリジメチルシロキサン(PDMS、Polydimethylsiloxane)であってもよい。
【0033】
【0034】
前記式中、R1~R8は、独立して炭素数1~10のアルキル基であり、nは100~10,000の整数である。
【0035】
前記式中、R1~R8は、好ましくは、独立して炭素数1~5のアルキル基、より好ましくは、独立して1~3のアルキル基であり、この場合に、騒音低減特性に優れるという利点がある。
【0036】
また、前記式中、nは、好ましくは500~10,000の整数、より好ましくは1,000~10,000の整数、さらに好ましくは5,000~10,000の整数、より一層好ましくは5,000~7,500の整数であり、この範囲内で、騒音低減特性に優れるという利点がある。
【0037】
前記シロキサン系高分子がポリエステルエラストマーを含む組成物に含まれる場合、製造された成形品に対して均一にポリテトラメチレングリコールの溶出が可能であり、さらに、前記成形品においてポリテトラメチレングリコールの溶出速度が加速化される。すなわち、ポリテトラメチレングリコールの溶出を加速化させるためには、例えば、添加されるポリテトラメチレングリコールの分子量を低下させる方法があるが、この場合、前述したように、製品成形時の金型の汚染、作業不良などのような作業性の問題が発生するだけでなく、成形品において均一なポリテトラメチレングリコールの溶出が難しくなる。ポリエステルエラストマーとの相溶性が良い前記シロキサン系高分子を前記組成物に添加することによって、製造された成形品においてポリテトラメチレングリコールの均一で速い溶出が可能になる。
【0038】
一方、前記添加剤(c)は、シリカ(SiO2)をさらに含むものであってもよい。
【0039】
前記シリカは、例えば、ヒュームドシリカ(Fumed silica)であってもよい。前記添加剤(c)に含まれるシロキサン系高分子は、常温で液状の高分子であるため、保管、運搬及び組成物への投入の容易性の観点で、前記シロキサン系高分子を前記シリカとペレットの形態を構成して組成物に添加することが好ましい。この場合に、ポリエステルエラストマー組成物内に均一に分散する。さらに、前記ヒュームドシリカは、高分子量の鎖構造を含むことができ、これを通じて、組成物内の複数の高分子間の絡み合い(entanglement)を誘導して、組成物及びそれから製造された成形品の機械的物性を向上させることができる。
【0040】
前記のような作用が可能なシリカ及びシロキサン系高分子を含む添加剤(c)は、前記ポリエステルエラストマー100重量部を基準として、1~4重量部、詳細には1.5~3.0重量部の含量で含まれてもよい。前記添加剤が意図する効果を発揮するためには、その含量が1重量部以上であってもよく、特に、硬度の低下及び剥離現象を防止するために、4重量部以下であってもよい。
【0041】
本発明の一実施形態において、前記添加剤(c)に含まれる前記シリカ及びシロキサン系高分子の含量は、シリカ1重量部に対してシロキサン系高分子を1~4重量部、詳細には1.5~3.0重量部使用することができる。シロキサン系高分子が、シリカ1重量部に対して1重量部以上で使用される場合に、ポリテトラメチレングリコールの溶出加速化という目的が達成され、一方、成形品の硬度の低下による耐久性の低下を防止するために、シロキサン系高分子は、シリカ1重量部に対して4重量部以下で使用され得る。
【0042】
追加で、成形品に特別な硬度の補強などの機械的物性の改善の必要性がある場合に、本発明の熱可塑性共重合体組成物は、ポリアルキレンテレフタレート、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)をさらに含むことができる。このようなポリアルキレンテレフタレートがさらに含まれた熱可塑性共重合体組成物で製造された成形品の場合に、硬度低下の防止による耐久性が向上し、これは、前記成形品の表面の機械的な損傷を最小化するので、間接的に前記成形品が等速ジョイントブーツなどに使用される場合に、騒音低減特性を向上させることができる。
【0043】
前記ポリアルキレンテレフタレートの含量は、前記ポリエステルエラストマー100重量部を基準として、3~8重量部、詳細には3~5重量部であってもよい。
【0044】
前記ポリアルキレンテレフタレートが前記ポリエステルエラストマー100重量部を基準として3重量部未満で使用される場合に、硬度の補強の効果が僅かであり、8重量部を超えて使用される場合には、硬度が過度に高くなって成形品の弾性を低下させ、結局、騒音低減特性(制音特性)に逆効果をもたらし得る。
【0045】
その他にも、本発明の熱可塑性共重合体組成物は、必要に応じて、相溶化剤、イオノマー、熱安定剤、光安定剤、滑剤、カーボンブラック顔料のような様々なその他の添加剤をさらに含むことができる。
【0046】
前記相溶化剤は、鎖延長剤であって、重合体組成物の粘度を調節する機能をする。前記相溶化剤は、例えば、グリシジル基変性エチレン-オクテン系共重合体(EOR-GMA)を含むものであってもよく、前記グリシジル基変性エチレン-オクテン系共重合体は、グリシジルメタクリレートでグラフト変性させたエチレン-オクテン系共重合体(グリシジルメタクリレートのグラフト含量が8~20重量%)であってもよい。
【0047】
一方、イオノマーは、溶融張力の増加(製品の成形性の補強)、耐化学性の増加、耐摩耗性の補強などの機能を行い、ナトリウム系イオノマーであるDupont社製のSurlyn 8920などが使用されてもよい。
【0048】
前記熱安定剤は、熱可塑性共重合体組成物を高温で混合又は成形する場合に、組成物の熱的分解を抑制又は遮断する役割を果たす。熱安定剤は、特に制限されず、例えば、アミン系、フェノール系、ホスファイト系などを使用することができる。
【0049】
前記光安定剤としては、紫外線吸収剤、又は、紫外線に露出されて分解されないように保護するアミン光安定剤(Hindered Amine Light Stabilizer、HALS)が使用されてもよい。前記紫外線吸収剤としては、ヒドロキシベンゾフェノン(hydroxy benzophenone)系またはベンゾトリアゾール(benzotriazoles)系が使用されてもよいが、これに制限されない。また、前記アミン光安定剤は、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケートとメチル(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケートの混合物が使用されてもよいが、これに制限されない。
【0050】
前記滑剤としては、アミド(amide)、モンタン(montane)、オレフィン(olefin)系の単量体性ワックスが使用されてもよい。
【0051】
前記それぞれの様々なその他の添加剤は、本発明の熱可塑性共重合体組成物の固有の物性を阻害しない含量で使用され得、例えば、組成物の全体量を基準として0.1~5重量%、または0.1~3重量%の含量で使用されてもよい。
【0052】
本発明の熱可塑性共重合体組成物は、前記のような成分を加熱溶融混合してペレット化することによって製造することができ、このとき、溶融混合温度は、ポリエステルエラストマーの融点を考慮して適宜選択することができる。例えば、200℃~300℃、詳細には200℃~270℃で溶融混合が行われてもよい。
【0053】
前記熱可塑性共重合体は、ISO1133(230℃、10kgの条件)に準拠して測定した流動指数(Melt Index、g/10min)が、好ましくは18g/10min以下、より好ましくは17g/10min以下、さらに好ましくは16g/10min以下であり、具体的な例としては5~18g/10min、好ましい例としては10~18g/10min、より好ましい例としては12~18g/10min、さらに好ましい例としては14~17g/10min、より一層好ましい例としては15~16g/10minであり、この範囲内で、射出成形性に優れるという利点がある。
【0054】
前記熱可塑性共重合体は、ISO868に準拠して測定した硬度(Shore D)が、好ましくは33以上であり、具体的な例としては33~40、好ましい例としては33~38、より好ましい例としては33~37であり、この範囲内で、硬度特性に優れながらも物性バランスに優れるという利点がある。
【0055】
前記熱可塑性共重合体は、ISO527に準拠して測定した引張強度(MPa)が、好ましくは15MPa以上であり、具体的な例としては15~25MPa、好ましい例としては15~20MPa、より好ましい例としては15~16MPaであり、この範囲内で、強度に優れながらも物性バランスに優れるという利点がある。
【0056】
前記熱可塑性共重合体は、ISO527に準拠して測定した引張伸び(%)が、好ましくは260%以上、より好ましくは270%以上、さらに好ましくは277%以上であり、具体的な例としては260~290%、好ましい例としては270~290%、より好ましい例としては275~285%、さらに好ましい例としては275~280%であり、この範囲内で、機械的物性に優れながらも物性バランスに優れるという利点がある。
【0057】
前記熱可塑性共重合体は、騒音測定器により試料の折れ曲がり角度40°の条件下で測定された75dB以上の騒音発生サイクル数が、好ましくは34以上、より好ましくは38以上、さらに好ましくは41以上、最も好ましくは42以上であり、具体的な例としては34~45であり、この範囲内で、騒音低減の効果に優れながら物性バランスに優れるという利点がある。
【0058】
前記熱可塑性共重合体は、好ましくは100×100×2(mm)の四角試片上に、10kgの重りを載せたBall Tipを30mm移動させながら測定した摩擦係数が、0.05以下、より好ましくは0.045以下、さらに好ましくは0.042以下、より一層好ましくは0.040以下であり、この範囲内で、騒音低減の効果に優れるという利点がある。
【0059】
前記熱可塑性共重合体は、好ましくは、射出後に常温で一週間放置した後、反射角60°の条件下で測定した光沢度が、5以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは1以下であり、この範囲内で、騒音低減特性に優れるという利点がある。
【0060】
前記熱可塑性共重合体は、好ましくは、反射角60°の条件下で測定した射出直後の光沢度に対する、射出後に常温で一週間放置した後に測定した光沢度の低減率が、70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上であり、この範囲内で、騒音低減特性に優れるという利点がある。
【0061】
前記のような本発明の熱可塑性共重合体組成物を用いて、押出成形方式で等速ジョイントブーツのような成形品を製造することができ、このような成形品は、機械的物性を維持しながら軟質特性が改善されて、回転時の摩擦、汚染などによる騒音の発生を改善させることができる。
【0062】
したがって、本発明は、さらに、前記熱可塑性共重合体組成物から製造された成形品を提供する。
【0063】
一方、前記成形品に対する75dB以上の騒音発生サイクル数は、次のような方法で測定した。
【0064】
(1)騒音測定器に折れ曲がり角度40°で装着した後、150rpmで回転させた。装着した様子は
図2に示した。測定が行われる周辺環境は、常温、75dB以下の騒音発生の条件を維持した。
(2)塩化カルシウム(CaCl
2)15重量%+水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)15重量%の混合水溶液を30秒間、25g噴射した。
(3)粒子サイズが0.8~1.2mmである砂10gを10秒かけて散布した。
(4)60秒間空回りさせた。
(5)(2)~(4)の過程を繰り返した。
(6)前記の過程の1回の繰り返しが1サイクルであり、1サイクルは総100秒である。
もし、あるサイクル中に75dB以上の騒音が発生すれば、回転を継続して維持するが、その騒音が3分以上続く場合、当該サイクルの累積サイクル数を75dB以上の騒音発生サイクル数と見なし、記録した。
【0065】
前記方法で測定した75dB以上の騒音発生サイクル数が、好ましくは40~80である自動車用等速ジョイントブーツを含むことができる。
【0066】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明する。しかし、以下の実施例は、本発明を例示するためのもので、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で様々な変更及び修正が可能であることは、通常の技術者にとって明らかであり、これらのみに本発明の範囲が限定されるものではない。
【0067】
(実施例1~4及び比較例1~7)
下記表1に示した組成の成分を、二軸押出機(twin-screw extrude)を用いて230℃で溶融及び混合してペレット化して、熱可塑性共重合体樹脂組成物を製造した。ここで、各実施例及び比較例に使用された組成成分は、次の通りである。
【0068】
まず、ポリエステルエラストマーは、ポリブチレンテレフタレートとポリテトラメチレングリコールの重縮合反応で製造されたものであって、流動指数が20g/10min(230℃、2.13kg)であるものを使用した。ポリテトラメチレングリコール(PTMG)としては、BASF社製(K-PTG)の重量平均分子量が3,000g/molであるものを使用した。
【0069】
一方、添加剤(c)は、化学式1の構造を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)であって、nが6,000であるシロキサン系高分子と、Wacker社製(Genioplast PelletS)のヒュームドシリカとが、前記ヒュームドシリカ1重量部に対してシロキサン系高分子が2.34重量部の含量でペレット状に混合されてコンパウンド化されたものを使用した。
【0070】
Shenyang Ketong Plastic社のKT-20を相溶化剤として使用し、デュポン社の商品名Surlyn 8920をイオノマーとして使用した。一方、商品名Naugard445 0.5重量%と商品名Songnox1010 0.5重量%の混合物を熱安定剤として使用し、商品名Chimassorb 944 0.2重量%を光安定剤として使用し、商品名OP WAX 0.3重量%と商品名LC104N 0.3重量%の混合物を滑剤として使用した。カーボンブラック顔料としてはCarbon black EC300Jを使用した。
【0071】
前記で製造された組成物を、85℃で4.5時間真空乾燥した後、230℃の温度で射出成形して、引張強度、引張伸び、硬度などの測定のための100mm×100mm×2Tの四角ディスク試片を製造した。75dB以上の騒音発生サイクル数の測定のための中空成形品を製造した。
【0072】
(実験例1)
前記実施例1~4及び比較例1~7で製造された熱可塑性共重合体組成物試片の物性を、下記の方法で測定した。その結果を、下記の表1及び表2に示した。
【0073】
1)流動指数(Melt Index、g/10min):標準測定ISO1133(230℃、10kgの条件)に従って試片の流動指数を測定した。
2)硬度(Shore D):標準測定ISO868に従って、試片の硬度をショアDタイプで測定した。
3)引張強度及び引張伸び(MPa及び%):標準測定ISO527-2-5Aに従って試片の引張強度(MPa)及び引張伸び(%)をそれぞれ測定した。
4)騒音発生サイクル数:成形品に対して75dB以上の騒音発生サイクル数を測定した。
【0074】
【0075】
【0076】
前記表1及び表2を参照すると、ポリテトラメチレングリコールと同時に、シロキサン系高分子及びシリカを含む添加剤を含む熱可塑性共重合体組成物で製造された成形品に関する本発明の実施例1~4の場合、騒音発生サイクル数(騒音が3分以上続くサイクル数)が35~42として優れることが確認できた。すなわち、シロキサン系高分子及びシリカを含む添加剤によってポリテトラメチレングリコールの溶出が加速化されて、成形品の表面に軟性(スリップ化)が付与されて成形品の騒音低減特性が向上した。反面、ポリテトラメチレングリコールが添加されていない組成物で製造された成形品(比較例1)の場合には、2番目のサイクルに騒音が3分以上続いて騒音低減効果がほとんどなく、ポリテトラメチレングリコールが添加されても、シロキサン系高分子及びシリカを含む添加剤が添加されていない組成物で製造された成形品(比較例2)の場合にも、騒音発生サイクル数が17であって、実施例に比べて騒音低減効果が依然として劣ることが分かる。これは、シロキサン系高分子及びシリカを含む添加剤によってポリテトラメチレングリコールの溶出速度がさらに増加して、成形品の表面摩擦を効果的に低減させたためであると判断される。
【0077】
一方、実施例1及び2、比較例3~5を見ると、ポリブチレンテレフタレート(PBT)が一定量添加される場合に、成形品の騒音発生サイクル数が一定部分遅延することを確認することができ、同時に、成形品の硬度特性が同時に改善されることが確認できた。ただし、PBTの添加量が多すぎる場合、硬度及び流動指数の改善の効果がむしろ減少することが分かる。
【0078】
比較例6を見ると、シロキサン系高分子及びシリカを含む添加剤が0.5重量部と少量添加される場合、実施例2に比べて、成形品の騒音低減効果が十分に発揮されないことが分かり、比較例7のようにシロキサン系高分子及びシリカを含む添加剤が過量添加される場合に、成形品の騒音低減特性は発現されるが、硬度特性が低下し、特に、流動指数が過度に高いため、成形中に流れ落ちる現象が発見された。
【0079】
(実験例2)
図1は、熱可塑性共重合体組成物にPTMGが同じ含量で使用された実施例1~2及び比較例2~3から製造された試片を1週間放置したときの表面状態を示すものである。
【0080】
図1から分かるように、PTMGが同じ含量で使用された条件下で、シリカ及びシロキサン系高分子を含む添加剤が添加された実施例1、及びPBTが追加で補強された実施例2は、試片の表面の光沢がない反面、シリカ及びシロキサン系高分子が添加されていない比較例2及び3の試片では光沢があった。これは、実施例1~2に使用されたシリカ及びシロキサン系高分子が、試片が表面光沢を失うほどにPTMGの溶出を加速化させ、このような現象が等速ジョイントブーツのような成形品に適用されたとき、騒音テストで騒音低減の効果を達成したと考えられる。
【0081】
(実験例3)
前記実施例2及び比較例3で製造された熱可塑性共重合体組成物試片の摩擦係数及び光沢度を下記の方法で測定し、その結果を下記表3に示した。
【0082】
5)摩擦係数:100×100×2(mm)の四角試片上に、10kgの重りを載せたBall Tipを30mm移動させながら測定した。
6)光沢度:Tokyo Denshoku Co.,LtdのGlossmeter TC-108DPAで反射角60°の条件下で測定した。
【0083】
【0084】
前記表3を参照すると、本発明に係る添加剤を含む熱可塑性共重合体組成物(実施例2)は、前記添加剤を含まない比較例3と比較して、摩擦係数が大きく低下するので、耐摩擦騒音性に優れることが確認できた。また、本発明に係る添加剤を含む熱可塑性共重合体組成物(実施例2)は、前記添加剤を含まない比較例3と比較して、射出直後の光沢度においてはあまり差がなかったが、射出後に常温で一週間放置した後の光沢度において、実施例2が大きく低下した反面、比較例3は相対的に光沢度が大きく低下しなかった。これは、実施例2に使用された添加剤(c)が、射出試片が表面光沢を失うほどにPTMGの溶出を加速化させた結果であることが分かり、等速ジョイントブーツにおいて、このようなPTMGの表面への溶出は騒音の低減をもたらすことが分かる。