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  • 特許-コンクリート構造物の補強構造 図1
  • 特許-コンクリート構造物の補強構造 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20220713BHJP
【FI】
E04G23/02 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018140131
(22)【出願日】2018-07-26
(65)【公開番号】P2020016086
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000152424
【氏名又は名称】株式会社日建設計
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598031936
【氏名又は名称】日鉄物産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100172269
【氏名又は名称】▲徳▼永 英男
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 卓司
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸司
(72)【発明者】
【氏名】上田 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 朗
(72)【発明者】
【氏名】渡部 修
(72)【発明者】
【氏名】立石 晶洋
(72)【発明者】
【氏名】大和田 章
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-112132(JP,A)
【文献】特開2008-082135(JP,A)
【文献】特開2000-027446(JP,A)
【文献】特開2003-120042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E01D 1/00
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の補強構造であって、柱部材に支承された張り出し部に設けられた既設の仕切り壁の屋外側を補強鋼板で補強するとともに、同仕切り壁の屋内側を補強繊維シートで補強し、既設の仕切り壁を貫通する補強繊維製アンカーを用いて、補強鋼板による屋外側の補強部分と、補強繊維シートによる屋内側の補強部分とを連結することで、張り出し部の屋外側と屋内側とを一体化したことを特徴とするコンクリート構造物の補強構造。
【請求項2】
補強繊維製アンカーの少なくとも一端部が扇形状に拡開されて、補強部分に貼付されている請求項1に記載のコンクリート構造物の補強構造。
【請求項3】
補強繊維製アンカーの一端部が、コンクリート構造物に埋設固定されている請求項1または2の何れかに記載のコンクリート構造物の補強構造。
【請求項4】
補強繊維製アンカーの一端部が、既設の仕切り壁の外側のコンクリート構造物に設けられた補強鋼板に貼付されている請求項1から3の何れか1項に記載のコンクリート構造物の補強構造。
【請求項5】
補強繊維製アンカーの扇形状に拡開されない端部が結束されており、該端部には、補強部分に埋設固定されたときに抜け止め作用を呈する凸部が設けられていることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のコンクリート構造物の補強構造。
【請求項6】
補強繊維として炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、バサルト繊維、ビニロン繊維およびポリエステル繊維から選択される1種以上を用いる請求項1~5の何れか1項に記載のコンクリート構造物の補強構造。
【請求項7】
補強鋼板が補強鋼板定着アンカーによって張り出し部に固定されており、該定着アンカーが、補強繊維製アンカーの端部よりも仕切り壁側に配置されている請求項1~6の何れか1項に記載のコンクリート構造物の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高架軌道などのコンクリート構造物の補強構造に関し、特に、高架軌道の下方空間に駅ビル施設等のあるコンクリート構造物に適用して、優れた補強効果と、低コストかつ短時間での施工が期待できるコンクリート構造物の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
既存のコンクリート構造物を補強する場合、従来は、補強鋼板の巻き立てや、構造物表面へのコンクリート増し打ち、補強繊維シートによる巻き立て等が採用されている。
【0003】
コンクリート構造物の下方空間を利用する場合、コンクリート構造物の張り出し部に屋内外を仕切る仕切り壁を設けて、下方空間を店舗等に利用することが多い。
この場合、既設の仕切り壁が、コンクリート構造物の補強の際に障害となる場合がある。
【0004】
すなわち、コンクリート構造物を一体的に補強するためには、既設の仕切り壁を一旦撤去して、屋内外に渡って存在する張り出し部を一体的に補強した後、改めて仕切り壁を設置し直す必要があり、費用および工事期間が増大してしまう。
【0005】
一方、仕切り壁を残したまま、補強しようとすれば、コンクリート構造物の張り出し部のうち、仕切り壁の屋外側については、張り出し部先端側の軌道外側に防音壁等が設置されている場合が多く、大きな曲げモーメントがかかることから、補強鋼板の巻き立てによる補強施工を採用し、仕切り壁の屋内側については、相当の重量物である補強鋼板を搬入して、巻き立て補強を施工することは、揚重機の使用無しでは困難であるため、施工上の簡便性や、床面に作用する重量、コストおよび工事期間を考慮して、補強繊維シートによる補強施工が適用される場合が多かった。
【0006】
このような補強方法では、高架橋部分の屋内側の補強工事と、屋外側の補強工事とが、既設の仕切り壁部分で分断されて個別に施工されることとなり、所望の補強強度を得るためには、板厚の大きな補強鋼板を採用する必要が生じるとともに、屋内側に採用した補強繊維補強シートによる補強施工についても、その巻き立て回数や敷設密度を増加せざるを得ず、非効率な補強施工となってしまい、仕切り壁を撤去して補強する場合と同様に、工費および工期とも増大する欠点があった。
【0007】
コンクリート部材の補強方法として、特許文献1には、鋼板からなる本体に補剛部を備えた補強パネルをコンクリート構造物に取り付けて、コンクリート構造物を補強する技術が記載されている。
この技術は、コンクリート構造物の補強に使用する鋼板製の補強パネルに剛性を高める補剛部を設けるものであり、一体的な補強構造の支障となるような仕切り壁を有するコンクリート構造物に対する補強構造については、触れているところがない。
【0008】
また、特許文献2には、複数本の強化繊維を、その長さ方向の一部で一体に束ねてなる定着用アンカーを、その束ねた部分を補強対象のコンクリート部材またはその周囲の柱や梁に形成された孔に定着させ、かつ束ねていない部分を該コンクリート部材の表面に沿わせた状態で配設し、強化繊維を有する補強シートが該定着アンカーの束ねていない部分に重ねて接合される構造のコンクリート部材の補強構造が記載されている。
【0009】
引用文献2に開示された技術においても、補強対象のコンクリート部材は、補強面の周囲が確定された単一面となっており、支障物によって分断された複数の被補強面を一体的に補強する技術について示唆するところはない。
【0010】
特許文献3には、コンクリート製梁部材の補強に、強化繊維製のいわゆる定着用アンカーを用いる技術が記載されているが、単純形状の梁、或いは柱状のコンクリート部材を補強する事例が開示されるにとどまり、一体的な補強が困難な仕切り壁を有する張り出し部等の補強工法については記するところがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2014-177811号公報
【文献】特開2000-45565号公報
【文献】特許第3918310号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述した仕切り壁等により、分断されているために一体的な補強施工が困難であって、非効率な補強工法を採用せざるを得なかったコンクリート構造物の補強施工において、従来の補強施工による欠点を解消するために、既設壁で仕切られた高架橋下の屋内外の空間の補強構造を、補強繊維製アンカーを用いて連結して、構造的に一体化することにより、既設仕切り壁で分離された内外空間を有する高架橋等のコンクリート構造物の張り出し部分を効率的に、低コストで補強できる補強構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成する本発明の構成は、以下に記載のとおりのものである。
(1)コンクリート構造物の補強構造であって、柱部材に支承された張り出し部に設けられた既設の仕切り壁の屋外側を補強鋼板で補強するとともに、同仕切り壁の屋内側を補強繊維シートで補強し、既設の仕切り壁を貫通する補強繊維製アンカーを用いて、補強鋼板による屋外側の補強部分と、補強繊維シートによる屋内側の補強部分とを連結することで、張り出し部の屋外側と屋内側とを一体化したことを特徴とするコンクリート構造物の補強構造。
【0014】
(2)補強繊維製アンカーの少なくとも一端部が扇形状に拡開されて、補強部分に貼付されている上記(1)に記載のコンクリート構造物の補強構造。
【0015】
(3)補強繊維製アンカーの一端部が、コンクリート構造物に埋設固定されている上記(1)または(2)の何れかに記載のコンクリート構造物の補強構造。
【0016】
(4)補強繊維製アンカーの一端部が、既設の仕切り壁の外側のコンクリート構造物に設けられた補強鋼板に貼付されている上記(1)から(3)の何れかに記載のコンクリート構造物の補強構造。
【0017】
(5)補強繊維製アンカーの扇形状に拡開されない端部が結束されており、該端部には、補強部分に埋設固定されたときに抜け止め作用を呈する凸部が設けられていることを特徴とする上記(1)から(4)の何れかに記載のコンクリート構造物の補強構造。
【0018】
(6)補強繊維として炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、バサルト繊維、ビニロン繊維およびポリエステル繊維から選択される1種以上を用いる上記(1)から(5)の何れかに記載のコンクリート構造物の補強構造。
【0019】
(7)補強鋼板が補強鋼板定着アンカーによって張り出し部に固定されており、該定着アンカーが、補強繊維製アンカーの端部よりも仕切り壁側に配置されていることを特徴とする上記(1)~(6)の何れかに記載のコンクリート構造物の補強構造。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高架橋等のコンクリート構造物の張り出し部の補強に際して、構造物の下方空間を画定するための既設の仕切り壁があっても、この仕切り壁で分断された張り出し部を、仕切り壁を除去することなく、一体的に効率よく補強することができるので低コスト、且つ短時間で、効果的な補強施工を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1(a)は、本発明の補強構造を実施したコンクリート構造物の張り出し部の横断面図、図1(b)は、同張り出し部の下面図であるが、内部構造を記載するために、補強鋼板61のみは、点線で記載し、その内側にある補強繊維シートおよび補強繊維製アンカーを描画している。
図2図2は、両端部に扇形部分、中央に結束部分を備えた補強繊維製アンカーである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明によるコンクリート構造物の補強構造を、コンクリート構造物の仕切り壁を有する張り出し部に適用した場合を例に述べる。
【0023】
図1(a)は、図外右方にある柱部材に支えられた桁部材から外側に向かって延長された張り出し部の断面図である。張り出し部1の外側に近い部分には、高架橋下方空間を室内空間とするための仕切り壁2が設置されている。通常、この仕切り壁2は、高架橋自体の強度を担保する構造強度計算に算入されない、単なる仕切り壁である場合が多い。
【0024】
鉄道のための高架橋の場合、紙面を貫く方向に軌道が敷設され、列車の走行時に負荷が掛かる他、張り出し部1の最外側(先端側)には、図示しない防音壁等が設置される場合が多く、特に強風を受けた場合なども、張り出し部1には大きな曲げモーメントが掛かるため、経年劣化や繰り返し荷重による負荷が掛かり、建設時点では、十分な強度を具備していても、長年月の間には、ひび割れ等の損傷が生じる場合があるので、追加で補強施工等の手当てが必要となる場合が生じる。
【0025】
本発明に係る補強構造の施工は、以下の手順で行う。
<補強繊維シートの貼着>
仕切り壁2の屋内側と、屋外側の下面部分31、32に、所定の間隔でエポキシ樹脂等の接着剤によって炭素繊維等からなる補強繊維シート41、42を貼着する。
張り出し部下面の補強繊維シートを貼着する面については、あらかじめ不陸を均して、貼着に支承のないように、表面を平滑化しておくことが好ましい。
一方向補強繊維シートを採用する場合、繊維の方向は、張り出し部に作用する負荷モーメントと一致する方向である、軌道と直行する方向とする場合が多い。
なお、必要に応じて、隣接する補強繊維シート41、42間を直交して繋ぐように、軌道と平行方向に、さらに補強繊維シートを重ねて貼着して、負荷される荷重を分散するようにしてもよい。
【0026】
<補強繊維製アンカーの固定>
仕切り壁2が張り出し部1の下面と接する部分に、所定間隔で炭素繊維等からなる補強繊維製アンカー5が貫通できる貫通孔を設ける。
【0027】
補強繊維製アンカー5は、図2に示すように、中央部分51を結束した補強繊維の両端部52を扇形に拡開できるようにした補強部材であり、エポキシ樹脂などの接着剤によって、補強繊維シート41、42の表面に、両端の扇形部分を貼着することで、仕切り壁2を挟んで張り出し部1の下面31、32に貼着された補強繊維シート41、42同士を連結一体化させるものである。図2(a)のタイプは、両端の扇形部分が非拘束型、同図(b)は、両端の扇形部分が所定の中心角となるように、ストランドを横糸で拘束しているタイプであり、いずれのタイプも使用できるが、補強繊維製アンカー5の貼着に際しては、繊維が十分に伸長した状態で貼着することが必要である。
【0028】
なお、張り出し部の構造によっては、補強繊維製アンカー5の一端を、結束部のみとし、この部分を張り出し部に設けた埋設孔内に埋め込んで、接着剤等で固定してもよい。その場合には、同埋設孔内に固定される結束部に一体型、または別体からなる凸部を有する抜け止め材を設けて、アンカーを埋設孔内にしっかりと拘束することが望ましい。
補強繊維の材質としては、例示した炭素繊維の他にも、ガラス繊維、アラミド繊維、バサルト繊維、ビニロン繊維およびポリエステル繊維などを単用、或いは、これらのうちの2種以上を混用することができる。
【0029】
<補強鋼板の取り付け>
仕切り壁2で画定された張り出し部1の屋外側の端面11と張り出し部下面(屋外側)32とを覆うように、断面略L字形の補強鋼板61を配置し、空隙部分に、流動性モルタル7を充填して、補強繊維シート42、補強繊維製アンカーの一端52が順に貼付された下面32と、補強鋼板61とを強固に一体化する。
さらに、必要に応じて、端面11と張り出し部1の上面先端部を被覆する第2の補強鋼板62を被せてもよい。
【0030】
補強鋼板61と張り出し部1を一体化するために、さらに、これらの部分を貫通する孔を設けて、補強鋼板定着アンカー63等による締結手段を採用することも可能である。
その際、補強鋼板定着アンカー63を、補強繊維製アンカー5の端部52よりも、仕切り壁側に配置すると、屋外側の張り出し部下面32に貼着した補強繊維シートの端部52が、補強鋼板61と張り出し部下面に強く挟持・一体化されて、補強効果が一層有効に機能するので、強度上好ましい。
【0031】
上述した実施態様においては、張り出し部1の屋外部に貼着した補強繊維シート42上に補強繊維製アンカー5を貼着し、その上から補強鋼板62を被覆しているが、逆に、コンクリート製の張り出し部1に補強鋼板62を被覆・固定した後に、該補強鋼板上に補強繊維シート42を貼着し、または貼着せずに補強繊維製アンカー5を貼着してもよい。
【0032】
その場合には、補強鋼板62と補強繊維シート42(または同シート42を使用しない場合には補強繊維製アンカー5)との貼着力を確実なものとするために、鋼板表面を目荒らし(粗面化)しておくことが好ましいが、この種の補強鋼板には、発錆防止のため、Zn-Al系めっき鋼板等を採用しているので、粗面化のためにブラスト処理をかける場合には、めっき層の防食作用を低下させないように考慮する必要がある。例えば、鋼板の補強繊維製アンカー5が貼着される部分のみを目荒らしし、その後の貼着に際しては、アンカー貼着用の接着剤が、目荒らし部を十分に被覆して目荒らしを行っていない部分と同等以上の防錆効果を維持する工夫の他、めっき層に影響の少ない低温の溶射被覆を行うことで、めっき層の減耗を生じにくい目荒らしを実施すること等が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係る補強構造によれば、既設の仕切り壁等により分断されていて、一体的に補強することが困難なコンクリート構造物の張り出し部の補強を、当該仕切り壁を一時的に撤去することなく、低コストで効率的に、内外空間を一体的に補強することができ、産業上の貢献度は高い。
【符号の説明】
【0034】
1 張り出し部
11 端面
2 仕切り壁
21 貫通孔
31 張り出し部下面(屋内側)
32 張り出し部下面(屋外側)
41 補強繊維シート(屋内側)
42 補強繊維シート(屋外側)
5 補強繊維製アンカー
51 補強繊維製アンカーの結束部
52 補強繊維製アンカーの端部(扇形部分)
61 補強鋼板(下面側)
62 補強鋼板(上面側)
63 補強鋼板定着アンカー
7 モルタル
図1
図2