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特許7104332付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物及びその硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20220713BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20220713BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20220713BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220713BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220713BHJP
   C09J 183/05 20060101ALI20220713BHJP
   C09J 183/07 20060101ALI20220713BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K5/5415
C08K3/36
C08K3/013
C09J183/05
C09J183/07
C09J11/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019103634
(22)【出願日】2019-06-03
(65)【公開番号】P2020196809
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前川 珠里
(72)【発明者】
【氏名】芦田 諒
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-022284(JP,A)
【文献】特開平04-077558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08K 5/5415
C08K 3/36
C08K 3/013
C09J 183/00-183/16
C09J 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を含有し、分子中にエーテル結合及びエステル結合を含有しないオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.1~20質量部、
(C)ヒドロシリル化反応用触媒:(A)、(B)の合計質量に対して、触媒金属元素の質量換算で1~500ppm、及び
(D)ケイ素原子に結合した水素原子を1個以上含むシロキサン構造及び該シロキサン構造に連結する、エーテル結合及びエステル結合を含む炭化水素構造(ただし、エーテル結合とエステル結合は連続しない)を1分子中にそれぞれ1つ以上含有する、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物:0.1~10質量部
X-Q-R 1 -Q-X (I)
(式中、Xは互いに独立に、下記構造式(II)
【化1】
(式中、R 2 は互いに独立に炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、nは0~3の整数である。破線は結合手を示す。)
で表される環状シロキサン構造であり、Qは互いに独立に、エーテル結合及びエステル結合を含む炭素数3~20の2価炭化水素基(ただし、エーテル結合とエステル結合は連続しない)であり、R 1 は炭素数1~20の2価の有機基である。)
を含むことを特徴とする付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
(D)成分の式(I)中のQが下記式(III)で表されるエーテル結合及びエステル結合を含む2価炭化水素基である請求項に記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
-(CH2m-O-(CH2l-(OOC)- (III)
(式中、m及びlはそれぞれ1~8の整数である。また、エステル結合の結合手は式(I)におけるR1に結合し、エステル結合とは反対側の炭化水素の結合手はXに結合する。)
【請求項3】
(D)成分の式(I)中のR 1 が下記式から選ばれるいずれかである請求項1又は2に記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
―(CH 2 o
(式中、oは1~20の整数である。)
【化2】
【請求項4】
(D)成分が下記式のいずれかで表される有機ケイ素化合物である請求項1~3のいずれか1項に記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
【化3】
【請求項5】
更に、(E)成分として補強性シリカ微粉末を、(A)成分100質量部に対して1~100質量部含有する請求項1~4のいずれか1項に記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
【請求項6】
(E)成分が、BET法における比表面積が50m2/g以上のヒュームドシリカである請求項5に記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
【請求項7】
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ウレタン(PU)樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリスルフォン樹脂、ナイロン6(PA6)樹脂、ナイロン66(PA66)樹脂、ポリフタルアミド(PPA)樹脂、ポリイミド樹脂及び液晶樹脂から選ばれる熱可塑性樹脂に対する接着用である請求項1~6のいずれか1項に記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
【請求項8】
120℃×30分で加熱硬化して得た硬化物がJIS K 6850:1999記載の方法で測定したポリフタルアミド樹脂へのせん断接着力として2.5MPa以上有する請求項1~7のいずれか1項に記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のシリコーンゴム組成物を硬化してなるシリコーンゴム硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己接着性を有する付加硬化型シリコーンゴム組成物、詳しくは、PA66(ナイロン66)、PPA(ポリフタルアミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)などの幅広い有機樹脂に接着性を示す付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムは、耐熱性、耐寒性、安全性、電気絶縁性、耐候性などの良さから、コネクターシールやスパークプラグブーツなどの自動車部品、複写機用のロールや電子レンジのパッキンなどの電気・電子用部品、シーラントなどの建築用部品、その他哺乳瓶用乳首やダイビング用品などあらゆる分野に広く使用されている。これら各種の用途の中には、有機樹脂などと組み合わせた部品として使用される事例も少なくない。
【0003】
従来、付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物と有機樹脂とが一体化した成型物を得る方法は数多く提案されている。成型樹脂表面にプライマーを塗布し、その上から未硬化のシリコーンゴム組成物を塗布・硬化させて接着させる方法、接着剤を界面に塗布して一体化させる方法、2色成形で両者の嵌合等により一体化させる方法、自己接着性シリコーンゴム材料を成形樹脂の上から硬化させる方法などが代表的である。しかしながら、接着剤やプライマーを使用する方法は、工程が増えてしまうだけでなく、塗布方法によっては非接着面を汚してしまうなどの問題点もあった。また、2色成形による方法では、一体化品の形状が制約されたり、界面の密着性は不十分などの問題があった。
そこで、シリコーンゴム組成物に接着剤を添加した自己接着性シリコーンゴム組成物を用いることが、前記塗布工程が不要となるため作業時間の短縮、およびコスト削減ができ、作業性も向上するため、樹脂との一体成型体を製造する上で有効な手段である。
【0004】
付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物の成型において、有機樹脂と接着させる方法は数多く報告されている。その一つに樹脂上で自己接着性シリコーンゴム組成物を硬化させる方法が提案されている。例えば、付加硬化型シリコーンゴム組成物に接着促進剤、及び耐薬品性を改良するためのフルオロオルガノポリシロキサンを添加し、有機樹脂または金属と接着させる方法(特許文献1:特表2007-502346号公報)、熱硬化型シリコーンゴム組成物中に接着性付与成分、及び組成物の主ポリマーであるオルガノポリシロキサンと非相溶なオルガノポリシロキサンを配合する事で接着性付与成分をゴム表面に排出し、有機樹脂とシリコーンゴムを接着させる方法(特許文献2:特開2002-020718号公報)、付加硬化型シリコーンゴム組成物に毒性成分を含まない二重結合含有接着促進剤を配合することにより、有機樹脂に接着させる方法(特許文献3:特表2013-533368号公報)等が提案されている。
【0005】
しかしながら、上記の方法の場合、シリコーン組成物と相溶性の低い接着性成分を配合するため、シリコーンゴム組成物の硬化物の外観が白濁したり、経時でシリコーン組成物から接着性成分が分離したりしてしまうなどの問題点があった。
【0006】
また、シリコーンゴムと有機樹脂とを接着させる他の方法としては、熱硬化型シリコーンゴム組成物に特定の構造を有する接着助剤を配合する方法が提案されている。例えば、一分子中にSiH結合、芳香族骨格、及び窒素原子を有する有機ケイ素化合物を接着性向上材として添加することで、有機樹脂と接着させる方法(特許文献4:特開平11-140324号公報)、付加硬化型シリコーンゴム組成物に1分子中にケイ素原子に直結した水素原子、エポキシ基等の反応性有機基、及びアラルキル基を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを添加し、有機樹脂、金属またはガラス類と接着させる方法(特許文献5:特開2012-184350号公報)等が提案されている。
【0007】
しかしながら、上記の方法の場合、高極性基であるアミド基やウレア基又は、反応性の高いエポキシ基、アルコキシシリル基等を有する有機ケイ素化合物を接着成分としてシリコーンゴム組成物に配合する必要があり、経時でシリコーンゴム組成物が増粘する等の懸念点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2007-502346号公報
【文献】特開2002-020718号公報
【文献】特表2013-533368号公報
【文献】特開平11-140324号公報
【文献】特開2012-184350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、硬化物の外観が白濁せず、経時での接着性成分の分離や増粘が起こらない、様々な有機樹脂との接着が可能な付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物及びその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、後述する(A)~(D)成分を必須成分とすることで、PA66、芳香族PA、PPS、PBT、PC等の幅広い有機樹脂に対して十分な接着力を有するシリコーンゴム硬化物となるシリコーンゴム組成物が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
従って、本発明は、下記の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物及びその硬化物を提供する。
1.
(A)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を含有し、分子中にエーテル結合及びエステル結合を含有しないオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.1~20質量部、
(C)ヒドロシリル化反応用触媒:(A),(B)の合計質量に対して、触媒金属元素の質量換算で1~500ppm、及び
(D)ケイ素原子に結合した水素原子を1個以上含むシロキサン構造及び該シロキサン構造に連結する、エーテル結合及びエステル結合を含む炭化水素構造(ただし、エーテル結合とエステル結合は連続しない)を1分子中にそれぞれ1つ以上含有する、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物:0.1~10質量部
X-Q-R 1 -Q-X (I)
(式中、Xは互いに独立に、下記構造式(II)
【化1】
(式中、R 2 は互いに独立に炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、nは0~3の整数である。破線は結合手を示す。)
で表される環状シロキサン構造であり、Qは互いに独立に、エーテル結合及びエステル結合を含む炭素数3~20の2価炭化水素基(ただし、エーテル結合とエステル結合は連続しない)であり、R 1 は炭素数1~20の2価の有機基である。)
を含むことを特徴とする付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。

(D)成分の式(I)中のQが下記式(III)で表されるエーテル結合及びエステル結合を含む2価炭化水素基であるに記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
-(CH2m-O-(CH2l-(OOC)- (III)
(式中、m及びlはそれぞれ1~8の整数である。また、エステル結合の結合手は式(I)におけるR1に結合し、エステル結合とは反対側の炭化水素の結合手はXに結合する。)
3.
(D)成分の式(I)中のR 1 が下記式から選ばれるいずれかである1又は2に記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
―(CH 2 o
(式中、oは1~20の整数である。)
【化12】
4.
(D)成分が下記式のいずれかで表される有機ケイ素化合物である1~3のいずれかに記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
【化13】
5.
更に、(E)成分として補強性シリカ微粉末を、(A)成分100質量部に対して1~100質量部含有する1~4のいずれかに記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
6.
(E)成分が、BET法における比表面積が50m2/g以上のヒュームドシリカである5に記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
7.
アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ウレタン(PU)樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリスルフォン樹脂、ナイロン6(PA6)樹脂、ナイロン66(PA66)樹脂、ポリフタルアミド(PPA)樹脂、ポリイミド樹脂及び液晶樹脂から選ばれる熱可塑性樹脂に対する接着用である1~6のいずれかに記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
8.
120℃×30分で加熱硬化して得た硬化物がJIS K 6850:1999記載の方法で測定したポリフタルアミド樹脂へのせん断接着力として2.5MPa以上有する1~7のいずれかに記載の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物。
9.
1~8のいずれかに記載のシリコーンゴム組成物を硬化してなるシリコーンゴム硬化物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物は、シリコーン組成物と相溶性が高く、かつ特定の官能基を有する有機ケイ素化合物である接着性成分(D)を配合することにより、硬化物の外観が白濁せず、経時での接着性成分の分離や増粘が起こらない、硬化して様々な有機樹脂との接着が可能な付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物の提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明に係る付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物は、
(A)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を含有し、分子中にエーテル結合及びエステル結合を含有しないオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.1~20質量部、
(C)ヒドロシリル化反応用触媒:(A),(B)の合計質量に対して、触媒金属元素の質量換算で1~500ppm、及び
(D)ケイ素原子に結合した水素原子を1個以上含むシロキサン構造及び該シロキサン構造に連結する、エーテル結合及びエステル結合を含む炭化水素構造(ただし、エーテル結合とエステル結合は連続しない)を1分子中にそれぞれ1つ以上含有する有機ケイ素化合物:0.1~10質量部
を含むことを特徴とするものである。
【0014】
[(A)成分]
まず、(A)成分の1分子中に2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンとしては、下記平均組成式(IV)で示されるものを用いることができる。
3 aSiO(4-a)/2 (IV)
(式中、R3は互いに同一又は異種の炭素数1~10、好ましくは1~8の非置換又は置換一価炭化水素基であり、aは1.5~2.8、好ましくは1.8~2.5、より好ましくは1.95~2.02の範囲の正数である。)
【0015】
ここで、上記R3で示されるケイ素原子に結合した非置換又は置換の一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられるが、全R3の90モル%以上、特には、アルケニル基を除く全てのR3がメチル基であることが好ましい。
【0016】
また、R3のうち2個以上、好ましくは2~50個、より好ましくは2~20個はアルケニル基(炭素数2~8のものが好ましく、更に好ましくは2~6であり、特に好ましくはビニル基である。)であることが必要である。好ましくは、前記R3の0.01~5モル%、より好ましくは0.05~2モル%がアルケニル基であることが望ましい。
【0017】
このオルガノポリシロキサンの分子構造は、基本的には分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基(R3 3SiO1/2)で封鎖され、主鎖がジオルガノシロキサン単位(R3 2SiO2/2)(R3は上記と同じ)の繰り返しからなる直鎖状構造を有するが、部分的には分岐状の構造、環状構造、三次元網状構造などであってもよい。
【0018】
このオルガノポリシロキサンの分子量(又は重合度)については、平均重合度(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ分析(GPC)におけるポリスチレン換算の重量平均重合度、以下同様)が1,500以下、通常100~1,500、特に150~1,000であることが好ましい。100未満では十分なゴム感が得られない場合があり、1,500より高いと得られるシリコーンゴム組成物の粘度が高くなり、成形が困難になってしまう場合がある。
【0019】
また、(A)成分の粘度は、0.25~100Pa・s、特に0.5~100Pa・sであることが好ましい。粘度が低すぎると得られる硬化物の機械的特性が悪化する場合があり、高すぎると得られるシリコーンゴム組成物の粘度が高くなり、成形加工が困難となる場合がある。なお、本発明において、粘度は、通常、室温(25℃)において回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型等)などにより測定することができる。
【0020】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独でも分子構造や重合度の異なる2種以上を併用してもよい。
【0021】
[(B)成分]
次に、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中にケイ素原子と結合する水素原子(SiH基)を2個以上有し、分子中のSiH基が前記(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基とヒドロシリル付加反応により架橋し、組成物を硬化させるための硬化剤として作用するものである。更に分子内にエーテル結合及びエステル結合を有さないものである点において、後述する(D)成分とは本質的に相違するものである。
【0022】
この(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、下記平均組成式(V)
4 bcSiO(4-b-c)/2 (V)
(式中、R4は互いに同一又は異種の炭素数1~10、好ましくは1~8の非置換又は置換の一価炭化水素基である。また、bは0.7~2.1、cは0.001~1.0で、かつb+cは0.8~3.1を満足する正数である。)
で示され、1分子中に2個以上(通常、2~300個)、好ましくは3~200個、より好ましくは4~100個のケイ素原子結合水素原子(SiH基)を有するものが好適に用いられる。
【0023】
ここで、R4の一価炭化水素基は、脂肪族不飽和結合を含まないものであることが好ましい。このようなR4としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基等のアリール基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられる。R4として、好ましくはメチル基、フェニル基である。
【0024】
また、bは0.7~2.1、好ましくは0.8~2.0であり、cは0.001~1.0、好ましくは0.01~1.0であり、b+cは0.8~3.1、好ましくは0.9~3.0である。
【0025】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子結合水素原子(SiH基)含有量としては、0.002~0.017mol/gであることが好ましく、より好ましくは0.003~0.017mol/gである。0.002mol/gより少ないと硬化性及び接着性が低下する場合があり、0.017mol/gより多いとオルガノハイドロジェンポリシロキサンが不安定となり、製造自体が困難となる場合がある。
【0026】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網目状のいずれの構造であってもよい。この場合、1分子中のケイ素原子の数(又は重合度)は2~300個、好ましくは4~200個、より好ましくは10~100個で、室温(25℃)で液状のものが好適に用いられる。なお、ケイ素原子に結合する水素原子は分子鎖末端、分子鎖の途中(分子鎖非末端又は側鎖)のいずれに位置していてもよく、両方に位置するものであってもよい。
【0027】
上記(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシクロシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH33SiO1/2単位と(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(CH3)SiO3/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(CH32SiO2/2単位とからなる共重合体や、上記各例示化合物において、メチル基の一部又は全部がエチル基、プロピル基等の他のアルキル基で置換されたものなどが挙げられる。
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独でも2種以上を併用してもよい。
【0028】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1~20質量部であり、好ましくは0.2~19質量部であり、より好ましくは0.3~18質量部であり、更に好ましくは0.4~17質量部である。(B)成分が0.1質量部未満では、ゴムの架橋が不十分であり、20質量部より多いと、硬化物の機械的特性が低下する場合がある。
また、本発明においては、(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基に対する、(B)成分と(D)成分中に含まれるSiH基の合計のモル比(SiH基/アルケニル基)が1.0~10、特には1.2~8となるように、(B)成分、(D)成分を配合することが好ましい。上記モル比が小さすぎるとゴムの架橋が不十分であり、硬化物の表面にタックが発生する場合があり、大きすぎると脱水素反応により、硬化物が発泡する場合がある。
【0029】
[(C)成分]
(C)成分の付加反応触媒としては、白金黒、塩化第二白金、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒等が挙げられる。この付加反応触媒の添加量は触媒量であり、通常(A)、(B)及び(D)の合計質量に対して白金、パラジウム又はロジウム金属質量として1~500ppm、特に2~300ppmであることが好ましい。
【0030】
なお、硬化時間を調整するために、(C)成分の付加反応触媒に加えて、アセチレン化合物、リン化合物、窒素含有化合物、ニトリル化合物、カルボキシレートなどの従来公知の付加反応制御剤、特に好ましくは、三重結合を有する炭素上に水酸基を有するアセチレン化合物(アセチレンアルコール)を併用して配合することが好ましい。付加反応制御剤の配合量は、(C)成分との配合量比で適宜選択し得る。
【0031】
[(D)成分]
(D)成分は、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を1個以上含むシロキサン構造及び該シロキサン構造に連結する、エーテル結合及びエステル結合を含む炭化水素構造(ただし、エーテル結合とエステル結合は連続しない)を1分子中にそれぞれ1つ以上含有する有機ケイ素化合物であり、接着性付与成分として作用するものである。ここで、上記SiH基はシロキサン構造中に1個以上、好ましくは1~10個、より好ましくは2~8個、特に好ましくは3個含む。また、上記シロキサン構造は1分子中に1以上、好ましくは1~4、より好ましくは2含有する。また、上記炭化水素構造は1分子中に1以上、好ましくは1~4、より好ましくは2含有する。
【0032】
上記(D)成分は好ましくは下記の一般式(I)で表すことができる。
X-Q-R1-Q-X (I)
(式中、Xは互いに独立に、ケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも1個含有する1価のシロキサン構造であり、Qは互いに独立に、エーテル結合及びエステル結合を含む炭素数3~20の2価炭化水素基(ただし、エーテル結合とエステル結合は連続しない)であり、R1は炭素数1~20の2価の有機基である。)
【0033】
Xは、1分子中に少なくとも1個、好ましくは1~20個、より好ましくは2~10個のケイ素原子に結合した水素原子を有し、好ましくは1~50個、より好ましくは2~30個のケイ素原子を含有する、環状構造となってもよい1価のシロキサン構造である。
【0034】
Xの構造として、具体的には以下の構造式(II)の環状シロキサン構造を例示することができる。
【化2】
(式中、R2は互いに独立に炭素数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、nは0~3の整数である。破線は結合手を示す。)
【0035】
2の一価炭化水素基は、脂肪族不飽和結合を含まないものであることが好ましい。このようなR2としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基等のアリール基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられる。R2として、好ましくはメチル基である。
また、nは0~3の整数であり、1、2又は3が好ましく、1又は2がより好ましく、1が特に好ましい。
【0036】
また、式(I)中のQは下記式(III)で表されるエーテル結合及びエステル結合を含む2価炭化水素基であることが好ましい。
-(CH2m-O-(CH2l-(OOC)- (III)
(式中、mは1~8の整数であり、好ましくは2~6の整数、より好ましくは2~4の整数、特に好ましくは3であり、lは1~8の整数であり、好ましくは1~5の整数、より好ましくは1~4の整数、特に好ましくは2である。また、式中、エステル結合の結合手は式(I)におけるR1に結合し、エステル結合とは反対側の炭化水素の結合手はXに結合する。)
【0037】
1は炭素数1~20の2価の有機基、好ましくはO、Nなどのヘテロ原子を介在してもよい2価炭化水素基である。このような2価の有機基としては、炭素原子と水素原子からなる2価の炭化水素基(例えば、直鎖状又は分岐状のアルキレン基等)であってもよいし、2置換のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環又はフェナントレン環等のアリーレン基であってもよい。また、酸素原子、窒素原子などのヘテロ原子によってアルキレン基又はアリーレン基を連結させた2価の有機基などが挙げられる。
【0038】
1の構造として、具体的には以下のような構造を例示することができる。
―(CH2o
(式中、oは1~20、好ましくは1~15、更に好ましくは1~8の整数である。)
【化3】
【0039】
(D)成分として、具体的には、下記に示す有機ケイ素化合物を例示することができる。
【0040】
【化4】
【0041】
このような有機ケイ素化合物は、ハイドロジェンシロキサン化合物と所定の不飽和化合物とを付加反応させて合成するとよく、上記有機ケイ素化合物が得られる方法であれば、その合成方法は特に限定されない。例えば、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンのようなハイドロジェンシロキサン化合物と下記式(a)で示される不飽和化合物を付加反応触媒の存在下でヒドロシリル化反応させた後、減圧下にて揮発成分を留去することで下記式(1)で表される無色透明で液状の有機ケイ素化合物を得ることができる。
【化5】
【化6】
【0042】
なお、このとき使用する付加反応触媒は従来公知のものであればよく特に制限されるものでない。例えば白金族金属系化合物の貴金属触媒として挙げられる白金系、パラジウム系、ロジウム系、ルテニウム系の触媒が使用できる。これらの中でも特に白金系の触媒が好適である。
【0043】
また、反応温度は特に制限されるものでないが、例えば、20℃から120℃の温度で行われるのがよい。該反応は溶媒の存在下で行ってもよく、溶剤としては、トルエン、キシレンといった芳香族系炭化水素溶剤、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンといった脂肪族炭化水素溶剤などが挙げられる。
【0044】
なお、上記化合物に、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基などのアルコキシシリル基、アクリル基、メタクリル基、無水カルボキシ基、イソシアネート基、アミノ基、アミド基等の官能性基を更に導入した有機ケイ素化合物も使用することができる。この官能性基は、例えば上記式(I)において2つのX基(シロキサン構造)間の連結部分に導入してよく、例えばR1又はQに導入することが好ましい。
【0045】
(D)成分の接着性付与成分は、1種単独でも2種以上を併用してもよい。
【0046】
(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1~10質量部であり、好ましくは0.2~9質量部であり、より好ましくは0.3~8質量部である。配合量が0.1質量部未満では十分な接着性が得られず、10質量部を超えると得られる硬化物の機械的特性が悪化する場合がある。
【0047】
この有機ケイ素化合物のケイ素原子結合水素原子(SiH基)含有量としては、0.007~0.07mol/gであることが好ましく、より好ましくは0.008~0.05mol/gである。0.007mol/gより少ないと硬化性及び接着性が低下する場合があり、0.07mol/gより多いと有機ケイ素化合物が不安定となり、製造自体が困難となる場合がある。
なお、上述したように、(B)、(D)各成分に含有するケイ素原子結合水素原子(SiH基)の合計量は、(A)成分のアルケニル基総量に対し、SiH基/アルケニル基=1.0~10(モル/モル)の範囲であることが好ましく、より好ましくは1.2~8(モル/モル)の範囲である。
【0048】
本発明の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物としては、更に(E)成分として補強性充填剤を配合することが好ましい。この場合、補強性充填剤としては、補強性シリカ微粉末が好ましい。補強性シリカ微粉末は、シリカの種類に特に限定はなく、通常ゴムの補強材として使用されるものであればよい。その補強性シリカ微粉末としては、従来のシリコーンゴム組成物に使用されているものを使用できるが、特にはBET法による比表面積が50m2/g以上である補強性シリカ微粉末を用いるとよい。特に50~400m2/gの沈澱シリカ(湿式シリカ)、ヒュームドシリカ(乾式シリカ)、焼成シリカなどが好適に使用される。得られるシリコーンゴム硬化物の強度を向上するにはヒュームドシリカが好適である。
【0049】
また、上記補強性シリカ微粉末は、表面処理されたシリカ微粉末であってもよい。その場合、これらのシリカ微粉末は、予め粉体の状態で直接処理されたものでもよい。通常の処理法として一般的周知の技術により処理でき、例えば、常圧で密閉された機械混練装置又は流動層に上記未処理のシリカ微粉末と処理剤を入れ、必要に応じて不活性ガス存在下において室温或いは熱処理にて混合処理する。場合により触媒を使用して処理を促進してもよい。混練後、乾燥することにより処理シリカ微粉末を製造し得る。処理剤の配合量は、その処理剤の被覆面積から計算される量以上であればよい。また、このシリカ微粉末の表面処理は、前記(A)成分の一部又は全部とシリカ微粉末とを、他の成分と混合する前に、予め、表面処理剤(及び場合により触媒)の存在下で、加熱、混合することによって行うようにしてもよい。
【0050】
処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン等のシラザン類、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジビニルジメトキシシラン及びクロロプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤、ポリメチルシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン等の有機ケイ素化合物が挙げられ、これらで表面処理し、疎水性シリカ微粉末として用いる。処理剤としては、特にシラン系カップリング剤又はシラザン類が好ましい。
【0051】
(E)成分の補強性シリカ微粉末は、1種単独でも2種以上を併用してもよい。
(E)成分は必要に応じて配合される任意成分であり、その配合量は、(A)成分100質量部に対して1~100質量部であり、好ましくは5~80質量部であり、より好ましくは10~50質量部である。(E)成分の配合量が上記範囲内であると、得られる組成物が作業性・加工性に優れた粘度となり、機械的強度に優れた硬化物となる。
【0052】
本発明の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物には、上記した成分以外に、目的に応じて各種の添加剤、例えば、酸化チタン、酸化鉄、酸化セリウム、酸化バナジウム、酸化コバルト、酸化クロム、酸化マンガン等の金属酸化物及びその複合物、石英粉末、珪藻土、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、アルミナ、カーボン、中空ガラス、中空樹脂、金、銀、銅などの導電性を有する無機粉末、メッキ粉末等の無機充填剤を添加することができ、また目的とする特性を損なわない限り、顔料、耐熱剤、難燃剤、可塑剤等を添加してもよい。なお、これら任意成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0053】
本発明の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物は、上記した(A)~(D)成分、及び必要により上述した任意成分を室温(例えば20℃±15℃)で均一に混合するだけでも得ることが可能であるが、(E)成分を予め(A)成分の全量又はその一部とプラネタリーミキサーやニーダー等で100~200℃の範囲で1~4時間熱処理し、室温(例えば20℃±15℃)に冷却後、その他の成分を添加、混合することが好ましい。
【0054】
本発明の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物は、携帯電話、モバイル通信機器、モバイルコンピューター部品、ゲーム機、時計、画像受信機、DVD機器、MD機器、CD機器などの精密電子機器、電子レンジ、冷蔵庫、電気炊飯器、ブラウン管テレビ、液晶テレビやプラズマテレビなどの薄型ディスプレー各種家電製品、複写機、プリンター、ファクシミリなどのOA機器、コネクターシール、点火プラグキャップ、各種センサー部品などの自動車部品など、有機樹脂とシリコーンゴム硬化物が一体化した部品として使用されるあらゆる分野において使用が可能である。
【0055】
本発明において、被着体として使用される有機樹脂としては、通常の熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的にはアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ウレタン(PU)樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリスルフォン樹脂、ナイロン6(PA6)樹脂、ナイロン66(PA66)樹脂、ポリフタルアミド(PPA)樹脂、ポリイミド樹脂及び液晶樹脂等が挙げられる。
【0056】
本発明の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物(本組成物)の成形方法は、混合物の粘度により自由に選択することができ、注入成形、圧縮成形、ディスペンサー成形、射出成形、押出成形、トランスファー成形等いずれの方法を採用してもよい。
特に本組成物の接着性を有効に生かすためには、予め被着体を金型内にセットし、これに未硬化の材料(即ち、本組成物)を接触硬化させた両者が一体化した成形物を得る方法(インサート成形)や、溶融或いは未硬化の有機樹脂と本組成物を交互に金型に射出することにより一体化物を得る2色成形などが好ましい。
【0057】
なお、本発明に係る付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物の硬化条件は、有機樹脂との強固な接着性を発現させるために、60~220℃で5秒~30分間加熱することが好ましいが、有機樹脂が変形、溶融、変質しない温度、硬化時間で行うことが必要である。この場合、有機樹脂の種類にもよるが、60~220℃で5秒~1時間、特に100~200℃で10秒~30分の硬化条件で一体成型体を得ることが可能である。
【0058】
また、本発明の付加硬化型自己接着性シリコーンゴム組成物によれば、(D)成分の添加量を0.1質量部以上とすることにより、120℃×30分で加熱硬化して得た硬化物がJIS K 6850:1999記載の方法で測定したポリフタルアミド樹脂へのせん断接着力として2.5MPa以上有するものとなる。
【実施例
【0059】
以下、実施例と比較例を示すが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、組成物を調製する際に使用した各成分について、重合度は、トルエンを展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ分析によるポリスチレン換算の重量平均重合度である。また、粘度はJIS Z 8803に規定する方法に準じた25℃における回転粘度計による測定値である。
【0060】
[実施例1]
25℃における粘度が約30Pa・sであり、平均重合度が750である分子鎖両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(A1)60質量部、へキサメチルジシラザン8質量部、水2質量部、およびBET法による比表面積が約300m2/gであるシリカ微粉末(E)(商品名:アエロジル300、日本アエロジル社製)40質量部を、ニーダー中で1時間混合した。次にニーダー内の温度を150℃に昇温し、引き続き2時間混合した。次いで、該温度を100℃まで降温した後、粘度が約30Pa・sであり、平均重合度が750である分子鎖両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(A1)30質量部を添加し、均一になるまで混合することで、ベースコンパウンド(BC1)を得た。
得られたベースコンパウンド(BC1)130質量部に、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖された25℃の粘度が30Pa・s(平均重合度:約750)であるジメチルポリシロキサン(A1)10質量部、主鎖を構成する2官能性ジオルガノシロキサン単位のうちビニルメチルシロキサン単位を5モル%、ジメチルシロキサン単位を95モル%含有し、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖された25℃での粘度が0.7Pa・sのジメチル-ビニルメチルポリシロキサン(平均重合度:約200)(A2)5質量部を加え、30分撹拌した後、架橋剤として分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にSiH基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(B)(平均重合度45、SiH基量0.0054mol/gの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体)2.0質量部、下記式(1)で示される有機ケイ素化合物(SiH基量:0.0061mol/g)(D1)0.6質量部、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05質量部、及び白金触媒(Pt濃度:1質量%)(C)0.1質量部を約30分均一に混合し、無色透明の液状シリコーンゴム組成物を得た。ここで、このシリコーンゴム組成物中の全アルケニル基に対する全SiH官能基のモル比(SiH基/アルケニル基)は2.0である。
【化7】
【0061】
[せん断接着力試験方法]
得られたシリコーンゴム組成物について、JIS K 6850:1999記載の方法に従い、以下のようにせん断接着力及びゴム凝集破壊率を評価した。
寸法が幅25mm、長さ100mm、厚み2mmの同じ樹脂からなる平板2枚を、長さ方向に10mm重なるようにし、この間に接着面積が25mm×10mm、厚みが2mmになるように、上記液状シリコーンゴム組成物を充填し、せん断接着試験片を作製した。平板の材質はナイロン66樹脂、ポリフタルアミド樹脂(PPA樹脂)、ポリフェニルサルファイド樹脂(PPS樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)及びポリカーボネート樹脂(PC樹脂)を使用した。せん断接着試験片の加熱硬化条件は120℃の恒温槽で30分加熱した。
得られたせん断接着試験片を用いて、せん断接着力(強度)とゴム凝集破壊率(CF)を評価した。即ち、引張り試験機に上記せん断接着試験片をセットし、引張り速度50mm/minで試験片の接着面に対して平行な方向に引張り、引張りせん断接着強度を測定した。また、その際に、試験片の接着面積全体に対して凝集破壊(界面剥離せずにシリコーンゴム自体が破断)した部分の面積の比率(百分率)を測定し、ゴム凝集破壊率(CF)とした。その結果を表1に示す。
【0062】
[実施例2]
実施例1において、(B)成分の配合量を2.1質量部に変更し、及び(D1)の代わりに下記式(2)で示される有機ケイ素化合物(SiH基量:0.0056mol/g)(D2)を0.5質量部添加した以外は同様にして、無色透明の液状シリコーンゴム組成物を調製した。このシリコーンゴム組成物中の全アルケニル基に対する全SiH官能基のモル比(SiH基/アルケニル基)は2.0である。実施例1と同様にしてせん断接着試験片を作製してせん断接着強度とゴム凝集破壊率(CF)を測定した。結果を表1に示す。
【化8】
【0063】
[実施例3]
実施例1において、(D1)の代わりに下記式(3)で示される有機ケイ素化合物(SiH基量:0.0063mol/g)(D3)を0.6質量部添加した以外は同様にして、無色透明の液状シリコーンゴム組成物を調製した。このシリコーンゴム組成物中の全アルケニル基に対する全SiH官能基のモル比(SiH基/アルケニル基)は2.0である。実施例1と同様にしてせん断接着試験片を作製してせん断接着強度とゴム凝集破壊率(CF)を測定した。結果を表1に示す。
【化9】
【0064】
[比較例1]
実施例1において、(B)成分の配合量を2.2質量部に変更し、(D1)の代わりに下記式(4)で示される有機ケイ素化合物(SiH基量:0.0046mol/g)0.5質量部添加した以外は同様にして、無色透明の液状シリコーンゴム組成物を調製した。このシリコーンゴム組成物中の全アルケニル基に対する全SiH官能基のモル比(SiH基/アルケニル基)は2.0である。実施例1と同様にしてせん断接着試験片を作製してせん断接着強度とゴム凝集破壊率(CF)を測定した。結果を表1に示す。
【化10】
【0065】
[比較例2]
実施例1において、(D1)の代わりに下記式(5)で示される有機ケイ素化合物(SiH基量:0.0076mol/g)0.5質量部添加した以外は同様にして、無色透明の液状シリコーンゴム組成物を調製した。このシリコーンゴム組成物中の全アルケニル基に対する全SiH官能基のモル比(SiH基/アルケニル基)は2.0である。実施例1と同様にしてせん断接着試験片を作製してせん断接着強度とゴム凝集破壊率(CF)を測定した。結果を表1に示す。
【化11】
【0066】
【表1】
【0067】
なお、実施例1~3及び比較例1、2で得られた組成物を、室温(25℃)にて1ヶ月間保管した後で観察した結果、組成物の分離、及び増粘は認められなかった。