(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】光硬化型組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 220/20 20060101AFI20220713BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220713BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20220713BHJP
C08F 2/48 20060101ALI20220713BHJP
C08F 226/10 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
C08F220/20
B32B27/30 A
B32B27/38
C08F2/48
C08F226/10
(21)【出願番号】P 2017230889
(22)【出願日】2017-11-30
【審査請求日】2020-09-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】梅津 智
(72)【発明者】
【氏名】川端 雄一郎
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-228312(JP,A)
【文献】特開平11-100419(JP,A)
【文献】特開2012-042911(JP,A)
【文献】特開平02-298507(JP,A)
【文献】特開2014-065850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00 - 2/60
C08F 220/00 - 220/70
C08F 226/00 - 226/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A1)成分、(A2)成分、(B)成分、及び(C)成分を含み、
前記(A1)成分100質量部当たり、
前記(A2)成分を10~300質量部、
前記(B)成分を100~900質量部含む
光硬化性組成物:
(A1)下記式(1)で示されるN-ビニル単官能重合性単量体;
【化1】
(式中、
R
1、およびR
2は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1~5の炭化
水素基であるか、あるいは
R
1とR
2とは互いに結合して炭素数2~6の炭化水素基を形成していてもよ
い。)、
(A2)下記の(A2b)成分を含む単官能重合性単量体;
(A2b)下記式(2)で示されるエポキシ基含有単官能重合性単量体
【化2】
(式中、
R
3、およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子、またはメチル基であり、
R
5、およびR
6は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基で置換されていてもよ
い炭素数1~4のアルキレン基、または
【化3】
で示される基であり、
a、およびbの平均は、それぞれ0~20である。)、
(B)下記式(2)で示される多官能(メタ)アクリレート重合性単量体;
【化4】
(式中、
R
7は、3~6価の有機残基であり、
R
8、およびR
9は、それぞれ独立に、水素原子、またはメチル基であり、
cは0~3の整数であり、dは3~6の整数である。)、
及び
(C)
(C1)アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤、および(C2)アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤以外の分子内開裂型重合開始剤を含む光重合開始剤。
【請求項2】
前記(A2)成分は、分子内に少なくとも1つの水酸基を有し、かつ1つの(メタ)アクリレート基を有する水酸基含有単官能重合性単量体である(A2a)成分を更に含む請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
前記(A2a)成分に対する前記(A2b)成分の質量比((A2b)/(A2a))が、0.3~4である請求項2に記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
前記(C1)アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤が2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、およびビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドから選ばれる光重合開始剤であり、
前記(C2)分子内開裂型重合開始剤が、α-ヒドロキシアセトフェノン、α-アミノアセトフェノン、ベンゾイン、ベンジルケタール、α-アミロキシムエステル、およびこれらの誘導体から
選ばれる光重合開始剤である請求項
1~3の何れか1項に記載の光硬化性組成物。
【請求項5】
前記(C1)アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤に対する前記(C2)分子内開裂型重合開始剤の質量比((C2)/(C1))が、0.1~10である請求項
1~4の何れか1項に記載の光硬化性組成物。
【請求項6】
前記(B)多官能(メタ)アクリレート重合性単量体が、
(B1)下記式(4)で示される水酸基含有多官能(メタ)アクリレート重合性単量体
【化5】
(式中、
R
10は、4~6価の有機残基であり、
R
11、およびR
12は、それぞれ独立に、水素原子、またはメチル基であり、
eは0~3の整数であり、fは3~5の整数である。)
を含有する請求項1~
5の何れか
1項に記載の光硬化性組成物。
【請求項7】
前記(B)多官能(メタ)アクリレート重合性単量体を100質量部としたとき、
前記(B1)水酸基含有多官能(メタ)アクリレート重合性単量体を0.001~60質量部、および
(B2)前記(B1)水酸基含有多官能(メタ)アクリレート重合性単量体以外のその他の多官能(メタ)アクリレート重合性単量体を40~99.999質量部含む請求項
6に記載の光硬化性組成物。
【請求項8】
光学基材と、その表面に積層された請求項1~
7の何れか
1項に記載の光硬化性組成物の硬化体とからなる積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基材への密着性に優れた光硬化性組成物に関する。さらには、該組成物の硬化体(硬化膜)が積層された積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、軽量性、易加工性、耐衝撃性などの種々の特徴をもち、ガラスに代わる材料として、眼鏡用レンズ等種々の用途に用いられている。プラスチックは、ガラスに比べ軽量で、耐衝撃性、成型加工性に優れるという長所を有する反面、表面の耐摩耗性が低く、接触や摩擦、引っかき等によって表面に損傷を受けやすいという欠点がある。そこで、耐摩耗性を向上させるべく、プラスチック表面に、該表面を保護する硬化膜を積層させる方法が提案されている。近年では、人体、および影響、環境への影響から、溶剤量を低減した系、好ましくは無溶剤系の光硬化性組成物の需要が高まっている。その中でも、特に、薄膜積層が可能なであり、高い耐擦傷性を発現する低粘度の光硬化性組成物の開発が望まれている。
【0003】
そこで、本発明者等は、無溶剤系の光硬化性組成物において、保存安定性に優れ、高い耐擦傷性を示し、ポリカーボネート光学基材、およびポリウレタン光学基材等に対し、優れた密着性を発現する組成物を提案した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の光硬化性組成物では、以下の点で改善の余地があることが分かった。例えば、該光硬化性組成物は、積層する光学基材の種類によって、その密着性が低下する場合があった。具体的には、チオウレタン系樹脂、およびアリルジカーボネート系樹脂からなる光学基材に対する密着性が低下する場合があることが分かった。この現象は、特に、空気雰囲気下で重合硬化を行った場合に顕著であった。すなわち、該光硬化性組成物では、酸素の重合阻害の影響により、著しく耐擦傷性、及び密着性が低下する場合があることが分かった。また、該光硬化性組成物は粘度が高いため、より一層、低粘度の光硬化性組成物が望まれていた。
【0006】
近年、コストの観点から空気雰囲気下での硬化、安全性の観点からオゾンレスタイプのUVランプによる硬化の使用が推奨されている。
【0007】
従って、本発明の目的は、高い耐擦傷性を有し、様々なプラスチック基材との密着性が良好で、且つ、クラックなどの外観不良がない硬化体(硬化膜)を与える、空気雰囲気下での硬化が可能な低粘度の光硬化性組成物を提供することにある。本発明の他の目的は、上記光硬化性組成物の硬化体(硬化膜)がプラスチック基材に積層された積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた。先ず、従来技術において、物性低下の原因を推定したところ、耐擦傷性、及び密着性が低下する要因は、酸素による重合阻害と、重合性単量体、例えば、(メタ)アクリレートモノマーの重合収縮により生じるものと考えられた。そして、それを改善するために様々な重合性単量体の組み合わせを検討した。その結果、特定の多管能重合性単量体、N-ビニル化合物、及びエポキシ基又は水酸基を有する特定の単官能重合性単量体を用いた光硬化性組成物が、低粘度であり、空気雰囲気下であっても、各種光学基材に高い密着性、及び高い耐擦傷性を有する組成物となることを見出した。
【0009】
さらには、前記単官能重合性単量体、及び前記多官能重合性単量体の比率(配合割合)、並びに、開始剤の種類、および量を調製することにより、空気雰囲気下における硬化においても、より高い耐擦傷性、より高い密着性を発現する低粘度の光硬化性組成物となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
下記(A1)成分、(A2)成分、(B)成分、及び(C)成分を含み、前記(A1)成分100質量部当たり、前記(A2)成分を10~300質量部、前記(B)成分を100~900質量部含む光硬化性組成物。
(A1)下記式(1)で示されるN-ビニル単官能重合性単量体;
【0011】
【0012】
(式中、
R1、およびR2は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1~5の炭化
水素基であるか、あるいは
R1とR2とは互いに結合して炭素数2~6の炭化水素基を形成していてもよ
い。)、
(A2)下記の(A2b)成分を含む単官能重合性単量体;
(A2b)下記式(2)で示されるエポキシ基含有単官能重合性単量体
【0013】
【化2】
(式中、
R
3、およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子、またはメチル基であり、
R
5、およびR
6は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基で置換されていてもよ
い炭素数1~4のアルキレン基、または
【0014】
【化3】
で示される基であり、
a、およびbの平均は、それぞれ0~20である。)、
(B)下記式(2)で示される多官能(メタ)アクリレート重合性単量体;
【0015】
【0016】
(式中、
R7は、3~6価の有機残基であり、
R8、およびR9は、それぞれ独立に、水素原子、またはメチル基であり、
cは0~3の整数であり、dは3~6の整数である。)、並びに
(C)(C1)アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤、および(C2)アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤以外の分子内開裂型重合開始剤を含む光重合開始剤。
【0017】
また、他の本発明は、光学基材と、その表面に積層された前記光硬化性組成物の硬化体とからなる積層体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、低粘度であり、各種コーティング方法で塗工可能であり、また空気雰囲気下での重合が可能である光硬化性組成物を提供できる。また、該光硬化性組成物を使用することにより、プラスチック基材との高い密着性を有し、かつ高い耐擦傷性を有する硬化体(硬化膜)、及びそれが積層された積層体を得ることができる。
【0019】
本発明の光硬化性組成物が上記効果を有する理由は明らかではないが、以下のように推定される。例えば、水酸基を有する単官能重合性単量体を含むものであれば、該水酸基と光学基材との間に水素結合が生じて密着性が向上するものと考えられる。また、エポキシ基を有する単官能重合性単量体を含むものであれば、エポキシ基と光学基材との間に化学結合が生じて密着性が向上するものと考えられる。このような結合により光学基材との密着性が向上すると考えられるため、本発明の光硬化性組成物は、プラスチック基材のみならず、その他の光学基材、例えば、ガラスのような無機材料からなる基材表面のコーティング剤としても有用である。
【0020】
さらに、本発明において、該単官能重合性単量体は、組成物の粘度を低下させつつ、他のN-ビニル化合物、および多官能重合性単量体と組み合わせて硬化することにより、硬化体の中に組み込まれる。その結果、得られる硬化体は、耐擦傷性が向上したものになると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の光硬化性組成物は、特定のN-ビニルアミド化合物と特定の単官能重合性単量体と多官能(メタ)アクリレートモノマーとを組合せて含有することが特徴である。以下、本発明の光硬化性組成物を構成する各成分について詳細に説明する。
【0022】
<(A1)N-ビニルアミド化合物>
本発明の光硬化性組成物に用いられる、(A1)N-ビニルアミド化合物(以下、(A1)成分という場合もある。)は下記式(1)で示されるN-ビニルアミド化合物である。
【0023】
【0024】
式中、R1、およびR2は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1~5の炭化水素基であり、あるいはR1、およびR2は互いに結合して炭素数2~6の炭化水素基を形成していてもよい。
【0025】
ここで、R1、およびR2において、炭素数1~5の炭化水素基は、光硬化性組成物の硬化性、光硬化性組成物を硬化させて得られる硬化膜とプラスチック基材との密着性、汎用性、入手のしやすさなどの観点から特定されたものである。とりわけ炭素数1~3の炭化水素基であることが好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基などが挙げられる。
【0026】
また、上記R1、およびR2が互いに結合して炭素数2~6の炭化水素基を形成するときには、当該N-ビニルアミド化合物は、当該炭素数に応じてβ-ラクタム(炭素数2)、γ-ラクタム(炭素数3)、δ-ラクタム(炭素数4)、ε-ラクタム(炭素数5)、ω-ラクタム(炭素数6)等を形成する。これら炭化水素基は、本発明で使用するN-ビニルアミド化合物の基として、いずれも好適に用いることができる。なお、前記炭化水素基の炭素数は、R1とR2との合計の炭素数を指す。前記炭化水素基は、炭素数1~6のアルキル基や炭素数6~14のアリール基などの置換基を有していてもよい。前記炭化水素基の炭素数は、これら置換基の炭素数は含まず当該ラクタム環の環員を構成する全環員炭素の炭素数から1(カルボニルの炭素)を引いた数を表わすものとする。
【0027】
上記式(1)で示されるN-ビニルアミド化合物の好ましい具体例としては、N-ビニル-β-ラクタム、N-ビニルピロリドン、N-ビニル-バレロラクタム、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルホルムアミド、N-メチル-N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、N-エチル-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオンアミド、N-メチル-N-ビニルプロピオンアミドなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせてもよい。
【0028】
これらのN-ビニルアミド化合物の中でも、光硬化性組成物の硬化性、光硬化性組成物を硬化させて得られる硬化膜とプラスチック基材との密着性、汎用性、入手のしやすさなどの観点から、とりわけN-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルアセトアミドが特に好ましい。
【0029】
<(A2)特定の単官能重合性単量体((A1)成分を除く)>
本発明の光硬化性組成物においては、前記(A)成分以外の単官能重合性単量体を含む。具体的には、(A2)下記の(A2a)成分、又は(A2b)成分から選ばれる少なくとも1種の単官能重合性単量体を含む(以下、単官能重合性単量体をまとめて(A2)成分とする場合もある。)。それぞれの単官能重合性単量体について説明する。
【0030】
<(A2a)分子内に、少なくとも1つの水酸基を有し、かつ1つの(メタ)アクリレート基を有する水酸基含有単官能重合性単量体>
分子内に、少なくとも1つの水酸基を有し、かつ1つの(メタ)アクリレート基を有する水酸基含有単官能重合性単量体(以下、単に(A2a)成分とする場合もある)は、特に制限されるものではなく、市販のものを使用できる。(A2a)成分の具体例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上組み合わせてもよい。これらの(A2a)成分の中でも、光硬化性組成物の粘度、光硬化性組成物を硬化させて得られる硬化膜とプラスチック基材との密着性、汎用性、入手のしやすさの観点から、とりわけヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0031】
<(A2b)エポキシ基含有単官能重合性単量体>
本発明において、(A2)成分として使用できる、その他の単官能重合性単量体としては、(A2b)下記式(2)で示されるエポキシ基含有単官能重合性単量体(以下、単に(A2b)成分とする場合もある。)が挙げられる。
【0032】
【0033】
(式中、
R3、およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、またはメチル基であり、
R5、およびR6は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基で置換されていてもよ
い炭素数1~4のアルキレン基、または
【0034】
【0035】
で示される基であり、
a、およびbの平均は、それぞれ0~20である。)。
【0036】
前記(A2b)成分の好ましい具体例としては、例示すると、グリシジルエチル(メタ)アクリレート、グリシジルプロピル(メタ)アクリレート、グリシジルブチル(メタ)アクリレート、グリシジルペンチル(メタ)アクリレート、グリシジルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジルヘプチル(メタ)アクリレート、グリシジルオクチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの(A2b)成分のうち、光硬化性組成物の粘度、光硬化性組成物を硬化させて得られる硬化膜とプラスチック基材との密着性の観点からグリシジルエチル(メタ)アクリレート、グリシジルプロピル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0037】
<成分(A1)と成分(A2)との好ましい配合割合>
本発明の光硬化性組成物における上記(A1)成分と(A2)成分の配分割合は、用いるプラスチック基材の種類、本発明の光り硬化性組成物を硬化させて得られる硬化膜の強度などを勘案して適宜選定することができる。中でも、プラスチック基材と該硬化膜との密着性、硬化膜の耐擦傷性、及び外観の観点から、(A1)成分100質量部あたり(A2)成分を10~400質量部の範囲とするのが好ましく、50~300質量部とするのがさらに好ましく、150~250質量部の範囲とすることが最も好ましい。前記(A2)成分の配合割合は、複数の(A2)成分、例えば、(A2a)成分と(A2b)成分とを併用して使用する場合には、前記(A2a)成分と前記(A2b)成分との合計量と見なす。
【0038】
<成分(A2a)と成分(A2b)の好ましい配合割合>
本発明で使用する(A2)成分においては、(A2a)成分、または(A2b)成分の何れか一方のみを使用することができる。その中でも、(A2)成分は、前記(A2a)成分と前記(A2b)成分とを併用することが好ましい。これらを併用する場合、用いるプラスチック基材の種類、本発明の光硬化性組成物を硬化させて得られる硬化膜の強度等を勘案して適宜決定することができる。中でも、プラスチック基材と該硬化膜との密着性、硬化膜の耐擦傷性、及び外観の観点から、前記(A2a)成分に対する前記(A2b)成分の質量比((A2b)/(A2a))が、0.3~4となることが好ましく、さらに、0.5~3となることがより好ましく、0.7~1.5となることがさらに好ましい。
【0039】
次に、本発明で使用する(B)多官能(メタ)アクリレートモノマーについて説明する。
【0040】
<(B)多官能(メタ)アクリレートモノマー>
本発明の光硬化性組成物に用いられる、(B)多官能(メタ)アクリレートモノマー(以下、単に(B)成分という場合もある。)は、下記式(3)で示される多官能(メタ)アクリレートモノマーである。
【0041】
【0042】
式中、R8、およびR9は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基であり、R7は3~6価の有機残基であり、cは0~3の整数であり、dは3~6の整数である。
【0043】
ここで、R8における3~6価の有機残基として具体的には下記式
【0044】
【0045】
(式中、破線の数は、R7の価数に等しい結合手の数を示す。)で示される基などが挙げられる。上記具体例のうち、例えば2列目の最初の有機基は、エチル基(H3CH2C-)が結合している炭素原子(C)が伸びる3本の破線がR7の結合手であって、3価の有機基であることを示している。同様に、その次の有機基は、中央の-CH2OCH2-左右にそれぞれ結合している2つの炭素原子のそれぞれから3本ずつ伸びる合計6本の破線がR7の結合手であって、6価の有機基であることを示している。これらの中でも光硬化性組成物の硬化性、光硬化性組成物を硬化させて得られる硬化膜とプラスチック基材との密着性、汎用性、入手のしやすさなどの観点から以下の基が好ましい。
【0046】
【0047】
また、c及びdについては、耐擦傷性、硬化膜とプラスチック基材との密着性、外観、取り扱いやすい粘度などの観点から、cは0又は1、dは3又は4であることが好ましい。
【0048】
上記(B)成分の好ましい具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせてもよい。これらのうち、光硬化性組成物の硬化性、光硬化性組成物を硬化させて得られる硬化膜とプラスチック基材との密着性の観点から、とりわけペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0049】
また、上記(B)成分は、(B1)下記式(4)で示される水酸基含有多官能(メタ)アクリレートモノマー(以下、単に(B1)成分とする場合もある。)を含むことが好ましい。
【0050】
【0051】
ここで、R11、R12は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基であり、R10は4~6価の有機残基であり、eは0~3の整数であり、fは3~5の整数である。
【0052】
前記(B1)水酸基含有多官能(メタ)アクリレートモノマーを用いることで、(A1)成分、および(A2)成分と、(B)成分との相溶性をいっそう高めることでき、外観不良をさらに抑制できる。また、後述のように硬化体(硬化膜)上にプライマー層を積層する場合において、イソシアネート基等の水酸基と反応する置換基を有するプライマー組成物を用いると、硬化膜とプライマー層との密着性をより向上できる利点もある。
【0053】
ここで、R10における4~6価の有機残基として、具体的には下記式で示す基であることが好ましい。
【0054】
【0055】
式中、破線の数は、上記式R10の価数に等しい結合手の数を示す。
【0056】
上記具体例のうち、例えば2つ目の有機基は、上記のとおり、6価の有機基であるが、6本の結合手のうち1本はHOH2C-と結合していると理解されるべきである。
【0057】
また、e及びfについては、硬化膜の耐擦傷性、硬化膜とプラスチック基材との密着性、外観、取り扱いやすい粘度などの観点から、eは0又は1、fは3であることが好ましい。
【0058】
前記(B1)成分の好ましい具体例としては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらのうち、光硬化性組成物の硬化性、光硬化性組成物を硬化させて得られる硬化膜とプラスチック基材との密着性の観点から、とりわけペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0059】
本発明の光硬化性組成物における(B)成分としては、前記式(4)で示される水酸基含有多官能(メタ)アクリレートモノマー((B1)成分)と、(B1)成分を除く前記式(3)で示される多官能(メタ)アクリレートモノマー(その他水酸基非含有多官能(メタ)アクリレートモノマーであり、単に(B2)成分とする場合もある。)成分との混合物とすることが、生産上の観点から好ましい。具体的には、前記式(4)で示される水酸基含有多官能(メタ)アクリレートモノマー((B1)成分)とその他の水酸基非含有(メタ)多官能アクリレートモノマー((B2)成分)との混合物((B)成分の全量)を100質量部としたとき、前記式(4)で示される水酸基含有多官能(メタ)アクリレートモノマーを0.001~60質量部、その他の水酸基非含有多官能(メタ)アクリレートモノマーを40~99.999質量部とすることが好ましく、前記式(4)で示される水酸基含有多官能(メタ)アクリレートモノマーを5~35質量部、その他の水酸基非含有多官能(メタ)アクリレートモノマーを65~95質量部とすることがさらに好ましい。
【0060】
なお、好ましい(B2)成分は、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、又はジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートである。特に、好ましい(B1)成分と併せて(B)成分を構成する場合、(B)成分自体の生産性を考慮すると、(B2)成分は、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、又はジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが好ましく、特にペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0061】
<(B)成分の好ましい配合割合>
本発明の光硬化性組成物における(B)成分の配合割合は、用いるプラスチック基材の種類、本発明の光硬化性組成物を硬化させて得られる硬化膜の強度等を勘案して適宜決定することができる。プラスチック基材と該硬化膜との密着性、硬化膜の耐擦傷性、及び外観の観点から、(A1)と成分100質量部あたり、成分(B)が100~900質量部の範囲とすることが好ましく、200~850質量部とすることがさらに好ましく、300~800質量部の範囲とすることが最も好ましい。
【0062】
<(C)光重合開始剤>
本発明の光硬化性組成物は、当該組成物をプラスチック基材に塗布後、紫外線照射によって硬化される。上記本発明の光硬化性組成物に用いられる光重合開始剤(以下、単に(C)成分とする場合もある。)としては、光硬化に用いられる公知の光重合開始剤を用いることができる。かかる光重合開始剤の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。これらの光重合開始剤の使用量は、重合条件や開始剤の種類、重合性単量体の種類や組成によって異なり、一概に限定できないが、例えば、重合成分である(A1)成分、(A2)成分、および(B)成分の合計100質量部に対して、0.01~10質量部の範囲で用いるのが好適である。なお、該(C)成分の配合割合は、複数種類の(C)成分を使用する場合には、その合計量が前記配合割合を満足することが好ましい。
【0063】
本発明において、(C)成分は、特に制限されるものではないが、(C1)アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤(以下、単に(C1)成分という場合もある。)を必須成分とすることが好ましい。そして、空気中でもより性能の高い硬化膜を形成するためには、(C2) 前記(C1)成分以外の分子内開裂型重合開始剤(以下、単に(C2)成分という場合もある)を含むことが好ましい。
【0064】
前記(C1)成分の好ましい具体例としては、ベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、3,4-ジメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)(2,4,4-トリメチル-ペンチル)フォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメチルベンゾイル)エチルフォスフィンオキサイドなどがあげられる。上記(C1)成分の中でも、光硬化組成物の硬化性、硬化膜とプラスチック基材のとの密着性の観点から、ベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、3,4-ジメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイドを用いることが好ましい。
【0065】
本発明においては、(C2)成分を併用することが好ましい。前記(C2)成分の好ましく具体例としては、α-ヒドロキシアセトフェノン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-プロパノン-1等のアルキルフェノン系化合物、ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル等のベンゾインエーテル化合物、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステルがあげられる。上記(C2)成分の中でも、硬化膜とプラスチック基材との密着性、硬化膜の擦傷性の観点からアルキルフェノン系化合物剤を用いることが好ましい。これらは1種単独または2種以上組み合わせてもよい。
【0066】
<成分(C1)と成分(C2)の好ましい配合割合>
本発明においては、前記(C1)成分と前記(C2)成分とを併合して使用することが好ましい。この場合、(C1)成分、および(C2)成分の配合割合は、用いるプラスチック基材の種類、本発明の光硬化性組成物を硬化させて得られる硬化膜の強度、基材との密着性を勘案して適宜決定することができる。
プラスチック基材と該硬化膜との密着性、硬化膜の耐擦傷性、及び外観の観点から、前記(C1)に対する前記(C2)の質量比((C2)/(C1))が、0.1~10であることが好ましく、0.2~5であることがさらに好ましく、0.4~1.5の範囲とすることが最も好ましい。
【0067】
以上、本発明の光硬化性組成物に含まれる各成分について説明した。次に、本発明の光硬化性組成物が含むことできる、任意の成分について説明する。
【0068】
<(D)ラジカル捕捉剤>
本発明の光硬化性組成物には、(D)ラジカル捕捉剤(以下、単に(D)成分とする場合もある。)を含有することができる。(D)ラジカル捕捉剤は、一般に、樹脂に配合されるものであって、樹脂の分解等によって生じたラジカルを捕捉できる性能を持つものであれば、公知のものを使用することができる。
【0069】
該(D)成分を含有することにより、保存安定性が向上し、長期間保存しても光硬化性組成物が本来有する優れた特徴を発揮することができる。例えば、ヒンダードフェノールラジカル捕捉剤、又はヒンダードアミンラジカル捕捉剤が挙げられる。
【0070】
好ましいヒンダードフェノールラジカル捕捉剤としては、例えばエチレンビス(オキシエチレン)ビス[3,5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トルイル]プロピオネート、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオネート、トリス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)-ブタン、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、トリス-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、2,4,6-トリス[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル]-1,3,5-トリメチルベンゼン、4-[[4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イル]アミノ]-2,6-ビス(1,1-ジメチルエチル)フェノールが挙げられる。
【0071】
好ましいヒンダードアミンラジカル捕捉剤としては、例えばビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1-オクチルオキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、1-[2-{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]-4-{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、メチル(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニルメタクリレート、2-[[3,5-ビス(1,1、‐ジメチルエチル)-4‐ヒドロキシフェニル]メチル]-2-ブチルプロパン二酸[1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル]、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]等が挙げられる。
【0072】
これらラジカル捕捉剤は、1種単独でまたは2種類上の混合物として使用することができる。
【0073】
これらラジカル捕捉剤の中でも、長期保存後の高い物性を維持するためには、(D)成分は、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル骨格を有する化合物を含むことが好ましい。その中でも、(D)成分は、下記式(5)で示される化合物:
【0074】
【0075】
ここで、R13、R14は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基であり、gは5~12の整数である、
を含むことが好ましい。前記式(4)で示される好ましい化合物としては、例えばビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート等が挙げられる。
【0076】
ラジカル捕捉剤の中でも、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル骨格を有する化合物、特には前記式(4)で示される化合物を配合することにより、優れた効果が発揮される。このことから、これらラジカル捕捉剤は、本発明で使用する(A1)成分、(A2)成分、および(B)成分と相性が良いと考えられ、より効果的に、これら(A)成分、(A2)成分、および(B)成分を含む本発明の光硬化性組成物の長期保存安定性を高めることができる。
【0077】
本発明において、(D)成分の使用量は、特に制限されるものではないが、得られる硬化膜とプラスチック基材との密着性、該硬化膜の耐擦傷性、外観、及び組成物の保存安定化効果の観点から、(A1)成分、(A2)成分、および(B)成分の合計100質量部当たり、(D)成分の使用量を0.005~10質量部の範囲とすることが好ましく、とりわけ0.01~1質量部の範囲とすることが特に好ましい。
【0078】
<その他の配合成分>
また、本発明の光硬化性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で各種配合剤を配合することができる。各種配合剤としては例えば界面活性剤、紫外線吸収剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤が挙げられる。
【0079】
上記配合剤の内、界面活性剤としては、シリコーン鎖(ポリアルキルシロキサンユニット)を疎水基とするシリコーン系の界面活性剤、またフッ化炭素鎖を有するフッ素系の界面活性剤等の、公知の界面活性剤が好ましく使用できる。好適に使用できるシリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤の具体例としては、東レ・ダウコーニング株式会社製『L-7001』、『L-7002』、『L-7604』、『FZ-2123』、DIC株式会社製『メガファックF-470』、『メガファックF-1405』、『メガファックF-479』、スリーエムジャパン株式会社(住友スリーエム社)製『フローラッドFC-430』等を挙げることができる。界面活性剤は、1種単独でも、2種以上を混合して使用してもよい。界面活性剤の使用量は、(A1)成分、(A2)成分、および(B)成分の合計100質量部に対して0.001~10質量部の範囲が好適である。
【0080】
<光硬化性組成物の調製方法、及び該組成物の硬化体(硬化膜)の形成方法>
本発明の光硬化性組成物の調製は、所定量の各成分を秤り取り混合すればよい。なお、各成分の添加順序は特に限定されず全ての成分を同時に添加してもよい。また、(A1)成分、(A2)成分、および(B)成分を予め混合し、その後、(C)成分、(D)成分、及び他の添加剤を添加混合してもよい。
【0081】
本発明における積層体は、前記光硬化性組成物をプラスチック基材上に塗布し、光硬化、積層させることで製造される。光硬化性組成物を塗布するプラスチック基材は特に限定されるわけではなく、眼鏡レンズ、家屋や自動車の窓ガラス、カメラレンズ、液晶ディスプレイ等の公知のプラスチック基材が挙げられる。
【0082】
眼鏡レンズとしては、例えば(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、チオウレタン樹脂、ウレタン樹脂及びチオエポキシ樹脂等のプラスチックの眼鏡レンズが知られている。本発明の光硬化性組成物を眼鏡レンズに用いる場合には、これらのいずれの眼鏡レンズも使用できる。これらの中でも特に、ポリカーボネート樹脂のメガネレンズに用いることが好ましい。また、本発明の光硬化性組成物によれば、チオウレタン系樹脂、およびアリルジカーボネート系樹脂の眼鏡レンズでも好適に密着できる。
【0083】
本発明の光硬化性組成物をプラスチック基材表面に塗布する方法としては、公知の塗布方法を採用することができ、例えばスピンコート法、ディップコート法、バーコート法、スプレー法などが挙げられる。また、本発明の光硬化性組成物は、低粘度であるために、薄膜の形成が容易である。
【0084】
本発明の光硬化性組成物を、前述した光学基材の表面上に塗布してコーティング膜を形成し、これを光重合硬化させること(硬化体(硬化膜))によって積層体を形成する。本発明の光硬化性組成物を用いて積層体を形成する場合、光学基材の前処理を行わずとも十分な密着性を発現する。ただし、より基材に対する濡れ性、密着性を向上させたい場合、塗布に先立って、光学基材の前処理を行うことが好ましい。このような前処理としては、塩基性水溶液又は酸性水溶液による化学的処理、研磨剤を用いた研磨処理、大気圧プラズマ及び低圧プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、又はUVオゾン処理等を挙げることができる。これらの方法は、光学基材の密着性を向上させるために、組み合わせて使用しても良い。
【0085】
前処理方法の中で、特に簡便に用いることができる方法として、塩基性溶液による化学的処理が、特に前述した眼鏡レンズ基材(光学基材)の前処理として好適であり、光学基材との密着性をより強固にすることができる。該処理法は、アルカリ水溶液に光学基材を含浸するか、あるいは光学基材をアルカリ水溶液に含浸したまま超音波洗浄することにより行なわれる。アルカリ溶液としては、例えば水酸化ナトリウム水溶液、あるいは水酸化カリウム水溶液が用いられる。水酸化物の濃度としては、5~30質量%が好適である。また、処理温度は、用いる基材の耐熱性を勘案して適宜決定するのがよいが、好ましくは20~60℃の範囲である。その処理時間は、処理条件により異なるが、好ましくは1分~1時間、より好ましくは5~15分の範囲である。また、アルカリ水溶液の他に、例えば水、アルコール溶媒の混合溶液、アルコール溶液を用いてもよい。用いるアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、また、さらに少量の添加剤として、1-メチル-2-ピロリドン等の有機塩基をアルカリ溶液100質量部に対して、1~10質量部加えたものでもよい。また、アルカリ処理後は、純水、イオン交換水、蒸留水などの水を用いてすすいだ後、乾燥すればよい。
【0086】
光学基材に、前記方法により光硬化性組成物を塗布し、光硬化させることにより、積層体を形成することができる。上記方法によって得られる積層体における、該光硬化性組成物の硬化体からなる層の厚さ(硬化膜の厚さ)は、好ましくは1μm以上20μm以下、より好ましくは1μm以上5μm以下である。硬化体は、例えば該光硬化性樹成物を、厚さが、1μm以上20μm以下となるように塗布し、紫外線を照射して硬化膜を形成させることにより得ることができる。
【0087】
本発明の光硬化性組成物は、不活性ガス雰囲気下、もしくは空気雰囲気下において、例えばキセノンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプなどの光源から発せられる紫外線を利用し、硬化可能である。紫外線照射条件は、必要に応じて適宜設定することができるが、好ましくは積算光量0.4J/cm2以上、より好ましくは1.7J/cm2以上であり、10J/cm2以下になるように設定される。本発明においては、光学基材上に、本発明の光硬化性組成物より得られる硬化膜を有する積層体に、さらに2次加工を施すこともできる。具体的には、該硬化膜上にハードコート層を形成することもできる。ハードコート層を形成するためのコーティング剤(ハードコート剤)としては、公知のものが使用できる。具体的には、シランカップリング剤やケイ素、ジルコニウム、アンチモン、アルミニウム、チタン等の酸化物のゾルを主成分とするハードコート剤や、有機高分子体を主成分とするハードコート剤が使用できる。ハードコート剤を塗布する方法としては、例えばディップコーティング、スピンコーティング、ディップスピンコーティングなどの方法が挙げられる。この被覆したハードコート剤は、公知の方法、例えば、加熱することにより硬化させ、ハードコート層とすることができる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせ全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
先ず、本発明で使用した各成分の名称と略号について説明する。
【0089】
(A1)成分 N-ビニル単官能重合性単量体
NVP:N-ビニルピロリドン。
【0090】
(A2)成分
(A2a)成分 水酸基含有単官能重合性単量体
HEMA:ヒドロキエチルメタクリレート。
(A2b)成分 エポキシ基含有単官能重合性単量体
GMA:グリシドキシメタクリレート。
【0091】
(B)成分 多官能(メタ)アクリレート重合性単量体
(B1)成分
A-TMM-3:ペンタエリスリトールトリアクリレート。
(B2)成分
A-TMMT:ペンタエリスリトールテトラアクリレート。
【0092】
(C)成分 光重合開始剤
(C1)成分
TPO:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド。
(C2)成分
I184:1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン。
【0093】
(D)成分 ラジカル捕捉剤
T765:セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)。
【0094】
<積層体の作製>
プラスチック基材として、ポリカーボネート樹脂からなるプラスチックレンズ(屈折率1.59)、アリールジカーボネート樹脂からなるプラスチックレンズ(屈折率1.50)、チオウレタン系レンズ(屈折率1.60、および1.67)を用いた。このプラスチック光学基材を、イソプロピルアルコールでワイピングした後、スピンコートにより光硬化性組成物を塗布した。この塗膜に、水銀ランプを搭載したECE5000(Dymax社製)を使用して、75mW/cm2の紫外線を60秒間照射し、塗膜を硬化させ、光硬化性樹脂組成物の硬化体(硬化膜)が積層された積層体を得た。得られた積層体に対し、以下の評価を行った。表2に硬化膜の厚みを記載した。また、表2に、使用したポリカーボネート樹脂を使用した場合には「PC」とし、アリールジカーボネート樹脂した場合には「CR39」とし、チオウレタン系レンズを使用した場合、「MR7」、「MR8」と記載した。その他、表2に、硬化した雰囲気下を窒素雰囲気下とした場合には「窒素」、空気雰囲気下とした場合には「空気」と記載した。
【0095】
<積層体の評価方法>
1.密着性
密着性の評価は、碁盤目試験によって行った。すなわち、前記の<積層体の作製>に記載した方法で光硬化性組成物の硬化体(硬化膜)が積層された積層体表面(硬化膜)に、カッターナイフを使い、約1mm間隔に切れ目を入れ、マス目を100個形成させた。その上にセロファン粘着テープ(ニチバン(株)製セロテープ(登録商標))を強く貼りつけ、表面から90°方向へ一気に引っ張り剥離した後、硬化膜の残っているマス目(100個のマス目中残った升目の数)を測定し、以下の3段階の評価とした。
A:100/100。
B:99/100~95/100。
C:95/100未満。
【0096】
2.煮沸密着性
沸騰した水中に、前記の<積層体の作製>に記載した方法で作製した積層体を、1時間浸漬した後、積層体を取り出し、水滴をふき取り、上述の密着性の評価法と同様にして、密着性を評価した。評価後、個の積層体を再び、沸騰した水中に浸漬した。この操作を3回繰り返し、煮沸時間が合計3時間になるまで試験を実施した。
【0097】
3.スチールウール耐擦傷性試験
前記の<積層体の作製>に記載した方法で作製した積層体表面を、スチールウール(日本スチールウール(株)製ボンスター#0000番)を用い、1kgの荷重で、積層体表面を10往復擦り、傷ついた程度を目視により、以下の4段階に評価した。評価基準は下記のとおりである。
A:ほとんど傷がつかない(目視で5本未満の擦傷である)。
B:極わずかに傷がつく(目視で5本以上15本未満の擦傷がある)。
C:少し傷がつく(目視で15本以上40未満の擦傷がある)。
D:傷がつく(目視で40本以上の擦傷がある)。
E:未硬化(硬化膜が十分硬化されておらず、未硬化部分があるもの)。
実施例1
N-ビニルピロリドン(A1;(A1)成分) 100質量部に対して、ヒドロキエチルメタクリレート(A2a;(A2a)成分、(A2)成分)を100質量部、グリシドキシメタクリレート(A2b;(A2b)成分、(A2)成分)を100質量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(B1;(B1)成分、(B)成分)を70質量部、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(B2;(B2)成分、(B)成分)を630質量部、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(C1;(C1)成分、(C)成分)を20質量部、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(C2;(C2)成分、(C)成分)を10質量部、セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)(D成分)を0.2質量部、及び界面活性剤L-7001を2質量部混合して、光硬化性組成物を準備した。表1に光硬化性組成物の配合割合を記載した。
【0098】
得られた光硬化性組成物を用いて、前記<積層体の作製>に記載の方法に従い積層体を製造した。得られた積層体を前記<積層体の評価方法>に記載の方法に従い、密着性、煮沸密着性、および耐擦傷性を評価した。結果を表2に記載した。
【0099】
実施例2~実施例15、および比較例1~4
実施例1と同様の方法で、表1に示した配合割合の光硬化性組成物を準備した。得られた光硬化性組成物を、表2に示す光学基材、硬化雰囲気で硬化させて積層体を製造した(表2に光硬化性組成物からなる硬化膜の膜厚を記載した)。得られた積層体について、実施例1と同様の評価を行い、その結果を表2にまとめた。
【0100】
【0101】