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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】放射線撮影システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20220713BHJP
   A61B 6/04 20060101ALI20220713BHJP
   A61B 6/10 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
A61B6/00 330Z
A61B6/00 320M
A61B6/04 309C
A61B6/10 353
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019024727
(22)【出願日】2019-02-14
(65)【公開番号】P2020130338
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001988
【氏名又は名称】特許業務法人小林国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒井 毅久
(72)【発明者】
【氏名】小林 丈恭
(72)【発明者】
【氏名】小平 俊輔
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/087083(WO,A1)
【文献】特開2014-012055(JP,A)
【文献】特表2016-514538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を発生する放射線発生部と、前記放射線を用いて被検者を撮影する放射線撮影部と、前記放射線発生部及び前記放射線撮影部を移動自在に支持する可動部と、を有し、撮影室に配置する放射線撮影装置本体と、
前記被検者に関する被検者情報を取得する被検者情報取得部と、
前記被検者情報を用いて、前記被検者の体格に合わせた第1位置に前記可動部の位置を移動する第1位置制御部と、
前記被検者を撮影する撮影部と、
前記撮影部が撮影した前記被検者の画像を用いて、前記被検者を認識する認識部と、
前記認識部の認識結果を用いて、前記可動部の位置を前記第1位置から、前記認識部の認識結果に合わせた第2位置に移動する第2位置制御部と、
を備える放射線撮影システム。
【請求項2】
前記被検者情報は、前記被検者の体格に関する情報、及び/または、前記被検者の過去の放射線撮影における前記可動部の位置に関する情報、を含む請求項1に記載の放射線撮影システム。
【請求項3】
前記第1位置制御部及び前記第2位置制御部が制御する前記可動部の位置は、前記撮影室の床面からの高さである請求項1または2に記載の放射線撮影システム。
【請求項4】
前記放射線撮影装置本体がマンモグラフィ装置である場合、前記第1位置制御部及び前記第2位置制御部が制御する前記可動部の位置は、前記被検者の乳房を配置する撮影台の高さである請求項2に記載の放射線撮影システム。
【請求項5】
前記第1位置制御部は、前記可動部を鉛直上方向に移動することにより、前記可動部を前記第1位置に移動する請求項1~4のいずれか1項に記載の放射線撮影システム。
【請求項6】
前記第1位置制御部は、前記被検者情報取得部が前記被検者情報を取得した後、前記被検者が前記撮影室に入室するまでの間に、前記可動部の位置を前記第1位置に移動する請求項1~5のいずれか1項に記載の放射線撮影システム。
【請求項7】
前記認識部は、
今回の前記認識部の認識結果と、過去の放射線撮影に係る情報から特定する前記認識部の認識結果に対応する情報と、の差が閾値以上である場合、今回取得した前記認識部の認識結果を用いて前記第2位置を決定し、かつ、
前記差が閾値未満である場合、過去の放射線撮影に係る情報を用いて今回の放射線撮影において使用する前記第2位置を決定する請求項1~6のいずれか1項に記載の放射線撮影システム。
【請求項8】
前記第1位置制御部及び前記第2位置制御部は、前記放射線撮影装置本体を含む特定の範囲内に人または物がない場合に、前記可動部を移動する請求項1~7のいずれか1項に記載の放射線撮影システム。
【請求項9】
前記特定の範囲は、少なくとも前記可動部の可動範囲以上の広さである請求項8に記載の放射線撮影システム。
【請求項10】
前記第2位置制御部は、前記放射線撮影装置本体と前記被検者との距離が近いほど低速度で前記可動部を移動する請求項1~8のいずれか1項に記載の放射線撮影システム。
【請求項11】
前記第1位置制御部及び前記第2位置制御部は、前記可動部を鉛直下方向に移動する場合、前記可動部を鉛直上方向に移動する場合よりも低速度で前記可動部を移動する請求項1~10のいずれか1項に記載の放射線撮影システム。
【請求項12】
前記認識部は、前記被検者の体格を認識する請求項1~11のいずれか1項に記載の放射線撮影システム。
【請求項13】
前記認識部は、少なくとも前記被検者の身長を認識し、かつ、少なくとも前記被検者の身長を用いて前記第2位置を決定する請求項12に記載の放射線撮影システム。
【請求項14】
前記認識部は、前記放射線を用いて撮影する前記被検者の部位を認識する請求項1~13のいずれか1項に記載の放射線撮影システム。
【請求項15】
前記認識部は、前記被検者と区別して、前記放射線撮影装置本体を使用する検査技師を認識する請求項1~14のいずれか1項に記載の放射線撮影システム。
【請求項16】
前記可動部の位置を前記第2位置にして放射線撮影を実施した場合、前記第2位置を前記被検者情報に登録することを提案する請求項1~15のいずれか1項に記載の放射線撮影システム。
【請求項17】
請求項1に記載の放射線撮影システムを駆動し、前記認識部を構成するプログラムであって、
前記放射線撮影装置本体が含む演算装置または前記放射線撮影装置本体と協働する前記演算装置が、前記被検者を撮影した前記画像の入力によって前記被検者に合わせた前記可動部の前記第2位置を出力する学習済みモデルを用いて、前記第2位置を決定するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線等の放射線を用いて被検者を撮影する放射線撮影システム、及び、放射線撮影システムを駆動するプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マンモグラフィ装置等、放射線を用いて被検者を撮影する放射線撮影装置あるいはシステムが知られている。被検者は各々に体格等が異なるので、放射線撮影システム等は、通常、撮影をする際に被検者に合わせた調整が必要である。
【0003】
例えば、被検者の生体指数に基づいて、撮影台を含む可動部の位置調整を行うマンモグラフィ装置が知られている(特許文献1)。同様に、被検者の身長及び体重に基づいて、可動部(いわゆるCアーム)の位置を自動調整する他の放射線撮影装置も知られている(特許文献2)。さらに、可動部の位置を自動調整した後、被検者に合わせてマニュアル操作による微調整を行う放射線撮影装置が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2016-514538号公報
【文献】特開2003-210447号公報
【文献】特開2006-334020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
可動部の位置調整を自動的に行う放射線撮影システムには、その精度が低いという問題がある。通常は、放射線撮影システムにおいて可動部の位置を直接的に決定できる程度に、被検者に関する情報が得られていないからである。このため、可動部の位置調整を自動的に行うとしても、結局はマニュアル操作による可動部の位置調整が必要であり、装置またはシステムが自動的に行う可動部の位置調整が十分な効果を発揮するには至っていない
【0006】
本発明は、可動部の自動的な位置調整の精度を向上することにより、円滑に放射線撮影を実行し得るようにした放射線撮影システム及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の放射線撮影システムは、放射線を発生する放射線発生部と、放射線を用いて被検者を撮影する放射線撮影部と、放射線発生部及び放射線撮影部を移動自在に支持する可動部と、を有し、撮影室に配置する放射線撮影装置本体と、被検者に関する被検者情報を取得する被検者情報取得部と、被検者情報を用いて、被検者の体格に合わせた第1位置に可動部の位置を移動する第1位置制御部と、被検者を撮影する撮影部と、撮影部が撮影した被検者の画像を用いて、被検者を認識する認識部と、認識部の認識結果を用いて、可動部の位置を第1位置から、認識部の認識結果に合わせた第2位置に移動する第2位置制御部と、を備える。
【0008】
被検者情報は、被検者の体格に関する情報、及び/または、被検者の過去の撮影における可動部の位置に関する情報、を含むことが好ましい。
【0009】
第1位置制御部及び第2位置制御部が制御する可動部の位置は、撮影室の床面からの高さであることが好ましい。
【0010】
放射線撮影装置本体がマンモグラフィ装置である場合、第1位置制御部及び第2位置制御部が制御する可動部の位置は、被検者の乳房を配置する撮影台の高さであることが好ましい。
【0011】
第1位置制御部は、可動部を鉛直上方向に移動することにより、可動部を第1位置に移動することが好ましい。
【0012】
第1位置制御部は、被検者情報取得部が被検者情報を取得した後、被検者が撮影室に入室するまでの間に、可動部の位置を第1位置に移動することが好ましい。
【0013】
認識部は、今回の認識部の認識結果と、過去の放射線撮影に係る情報から特定する前記認識部の認識結果に対応する情報と、の差が閾値以上である場合、今回取得した認識部の認識結果を用いて第2位置を決定し、かつ、差が閾値未満である場合、過去の放射線撮影に係る情報を用いて今回の放射線撮影において使用する第2位置を決定することが好ましい。
【0014】
第1位置制御部及び第2位置制御部は、放射線撮影装置本体を含む特定の範囲内に人または物がない場合に、可動部を移動することが好ましい。
【0015】
特定の範囲は、少なくとも可動部の可動範囲以上の広さであることが好ましい。
【0016】
第2位置制御部は、放射線撮影装置本体と被検者との距離が近いほど低速度で可動部を移動することが好ましい。
【0017】
第1位置制御部及び第2位置制御部は、可動部を鉛直下方向に移動する場合、可動部を鉛直上方向に移動する場合よりも低速度で可動部を移動することが好ましい。
【0018】
認識部は、被検者の体格を認識することが好ましい。
【0019】
認識部は、少なくとも被検者の身長を認識し、かつ、少なくとも被検者の身長を用いて第2位置を決定することが好ましい。
【0020】
認識部は、放射線を用いて撮影する被検者の部位を認識することが好ましい。
【0021】
認識部は、被検者と区別して、放射線撮影装置本体を使用する検査技師を認識することが好ましい。
【0022】
可動部の位置を第2位置にして放射線撮影を実施した場合、第2位置を被検者情報に登録することを提案することが好ましい。
【0023】
本発明のプログラムは、上記の放射線撮影システムを駆動し、認識部を構成するプログラムであって、放射線撮影装置本体が含む演算装置または前記放射線撮影装置本体と協働する演算装置が、被検者を撮影した画像の入力によって被検者に合わせた可動部の第2位置を出力する学習済みモデルを用いて、第2位置を決定する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の放射線撮影システム及びプログラムは、可動部の自動的な位置調整の精度が向上したことにより、円滑に放射線撮影を実行し得る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】放射線撮影システムのブロック図である。
図2】放射線撮影システムの構成を示す説明図である。
図3】マンモグラフィ装置の外観図である。
図4】可動部の移動態様を示す説明図である。
図5】可動部の移動態様を示す説明図である。
図6】可動部の位置調整に係るフローチャートである。
図7】第2実施形態のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第1実施形態]
図1に示すように、放射線撮影システム10は、放射線を用いて被検者18(図2参照)の撮影を実行する放射線撮影装置本体11、放射線撮影装置本体11を制御するコンソール13、及び、可視光、紫外光、または赤外光等の放射線以外の光を用いて被検者18等を撮影する撮影部12を備える。これらは有線または無線により接続しており、必要に応じて相互にデータ及び制御信号等を送受信する。
【0027】
また、図2に示すように、少なくとも放射線撮影装置本体11は、撮影室16に配置する。撮影室16は放射線撮影を行うための部屋である。本実施形態においては、撮影部12及びコンソール13も撮影室16内に設置する。撮影室16は、例えばスライド式のドア17が出入り口となっており、放射線撮影システム10を用いて被検者18を撮影する場合には、ドア17から被検者18及び放射線撮影装置本体11を使用(操作)する検査技師(以下、放射線技師という)19が入室する。
【0028】
放射線撮影装置本体11は、放射線発生部21、放射線撮影部22、及び、支持部23を備える(図1参照)。放射線発生部21はX線等の放射線を発生する。放射線発生部21は、X線を発生する場合、放射線発生部21は、X線管あるいはX線管とその他回路等を一体化したモノタンクである。放射線撮影部22は、被検者18を透過した放射線を用いて、被検者18を撮影する放射線検出器である。放射線撮影部22は、例えば、FPD(Flat Panel Detector)である。支持部23は、放射線発生部21と放射線撮影部22を移動自在に支持する。支持部23は、例えばC字形状のアーム(いわゆるCアーム)等であり、放射線発生部21と放射線撮影部22を支持した支持部23(放射線発生部21、放射線撮影部22、及び、支持部23の全体)は、放射線撮影装置本体11において、放射線を用いて被検者18を撮影する場合に位置の調整をする可動部である。
【0029】
撮影部12は、1または複数のカメラ31を用いて構成する。カメラ31は、例えば、可視光又は赤外線を用いて撮影をするデジタルカメラまたはデジタルビデオカメラである。撮影部12のうち、撮影室16に設置するカメラ31は、撮影室16の入り口であるドア17及びその近傍、放射線撮影装置本体11の可動範囲45(図2参照)、並びに、安全範囲46(図2参照)を撮影する。撮影室16に設置するカメラ31がドア17及びその近傍を撮影するのは、被検者18及び/または放射線技師19を撮影するためである。撮影室16に設置するカメラ31が放射線撮影装置本体11の可動範囲45及び安全範囲46を撮影するのは、安全のためである。安全範囲46とは、放射線撮影システム10を稼働する場合に人または物があることを避けるべき範囲であり、通常は、放射線撮影装置本体11及び放射線撮影装置本体11の可動範囲45を含む。すなわち、安全範囲46は放射線撮影装置本体11の可動範囲45よりも広く設定されており、安全範囲46の撮影は放射線撮影装置本体11の可動範囲45の撮影を兼ねる。
【0030】
なお、撮影部12を構成するカメラ31のうち、被検者18及び/または放射線技師19を撮影するためのものは、撮影室16の他に、あるいは、撮影室16に設置するものに代えて、診察室、待合室、撮影室16に通じる通路等に設置することができる。
【0031】
コンソール13は、被検者情報取得部41、第1位置制御部42、認識部43、及び、第2位置制御部44を備える(図1参照)。この他、コンソール13は、図示しない表示部(モニタ等)、及び、キーボードまたはポインティングデバイス等の操作部を備える。
【0032】
被検者情報取得部41は、被検者18に関する情報である被検者情報を取得する。被検者情報取得部41が取得する被検者情報は、被検者18の体格に関する情報、被検者18の撮影部位に関する情報、及び/または、被検者の過去の放射線撮影に関する情報等を含む。被検者18の体格に関する情報とは、例えば被検者18の身長等、被検者18に関する体格的な寸法を表す情報である。過去の放射線撮影に関する情報とは、被検者の過去の放射線撮影における可動部70の位置(高さ)、圧迫板66による圧迫力、圧迫板66によって圧迫した乳房の厚さ、X線の線質、及び/または、X線の線量等、その他放射線撮影の具体的な実施態様に係る情報である。本実施形態においては、被検者情報取得部41は、少なくとも被検者18の身長を取得する。可動部の位置を自動的に調整する場合に、利用し得る情報だからである。また、被検者18の撮影部位に関する情報とは、撮影部位の名称及び/または撮影部位の位置等である。なお、撮影部位とは、放射線を用いて撮影する被検者の部位である。
【0033】
なお、被検者の体格に関する情報(体格情報)及び過去の放射線撮影に関する情報は、放射線撮影システム10が記憶している場合にはこれを参照し、放射線撮影システム10が記憶していない場合には、放射線科情報システム(いわゆるRIS(Radiology Information Systems))、病院情報システム(いわゆるHIS(Hospital Information Systems))、PACS(Picture Archiving and Communication Systems)等の放射線撮影システム10と直接的にまたは間接的に連携するシステムから取得できる。例えば、被検者情報取得部41は、病院情報システムが含む電子カルテサーバーから電子カルテを取得することにより、電子カルテが含む被検者の体格に関する情報を取得できる。また、被検者情報取得部41は、電子カルテから過去の放射線撮影に関する情報を取得できる他、PACSから放射線画像を取得することにより、放射線画像に付帯して記録された過去の放射線撮影に関する情報を取得できる。
【0034】
第1位置制御部42は、被検者情報を用いて、被検者18の体格に合わせた第1位置に可動部の位置を移動する。すなわち、第1位置制御部42は、可動部の位置を自動的に調整する。第1位置制御部42が可動部の位置調整をするタイミングは、例えば、被検者18が撮影室16に入室する前、または、被検者18が撮影室16に入室後に放射線撮影装置本体11に一定以上に近づくまで(例えば安全範囲46に入るまで)のタイミングである。本実施形態においては、第1位置制御部42は、被検者情報取得部41が被検者情報を取得した後、被検者18が撮影室16に入室するまでの間に、可動部の位置を第1位置に移動する。特に円滑に撮影または撮影の準備を行うためである。
【0035】
認識部43は、撮影部12が撮影した被検者18の画像(または画像の集合である映像。以下同様。)を用いて、被検者18を認識する。また、認識部43は、撮影部12が撮影した画像(以下、カメラ画像という)を用いて、放射線技師19を認識する。撮影室16に入室する被検者18と放射線技師19を区別して、被検者18及び放射線技師19を認識することにより、被検者18と放射線技師19の誤認によって可動部の位置を誤って調整するのを防止するためである。なお、被検者18の認識とは、被検者18を放射線技師19等の他の人と区別して、被検者18の体格に関する情報及び/または撮影部位に関する情報を得ることをいう。本実施形態においては、認識部43は、被検者18の体格を認識する。より具体的には、本実施形態の認識部は、少なくとも被検者18の身長を認識する。また、放射線技師19は、その顔等をコンソール13(認識部43)等に登録してある。このため、認識部43は放射線技師19以外の者を被検者18と認識する。
【0036】
なお、認識部43は、カメラ画像を用いて、放射線撮影装置本体11の可動範囲45及び/または安全範囲46に、人または物があるか否かを認識できる。
【0037】
認識部43は、被検者18に関する認識結果を第2位置制御部44に出力する。認識部43の認識結果とは、被検者18の体格に関する情報及び/または撮影部位に関する情報、または、被検者18の体格に関する情報及び/または撮影部位に関する情報を用いて決定する可動部の位置情報(具体的に第2位置制御部44が可動部の制御目標とする第2位置の値等)である。すなわち、認識部43は、カメラ画像を用いて、単に被検者18の体格に関する情報及び/または撮影部位を得るのみならず、被検者18の体格に関する情報及び/または撮影部位に関する情報を用いて、調整目標となる可動部の位置情報を決定し、出力できる。
【0038】
また、認識部43は、今回の認識部43の認識結果と、過去の放射線撮影に係る情報から特定する「認識部43の認識結果に対応する情報」と、の差が閾値(第1閾値)以上である場合、今回取得した認識部43の認識結果を用いて第2位置を決定し、かつ、差が閾値未満である場合、過去の放射線撮影における情報を用いて今回の放射線撮影において使用する前記第2位置を決定することができる。過去の放射線撮影に関する情報を用いて第2位置を決定する場合、第2位置の決定に要する時間を短縮し、より円滑に放射線撮影を実施できるからである。過去の放射線撮影に係る情報とは、過去の放射線撮影における認識部43の認識結果(例えば過去の放射線撮影における第2位置)、または、過去の放射線撮影における可動部70の位置(高さ)、等である。過去の放射線撮影に係る情報は、例えば、放射線撮影システム10が記憶しておくことにより、必要に応じて取得できる。また、過去の放射線撮影に係る情報は、放射線撮影システム10と連携するシステム(例えば、電子カルテサーバーに記憶された電子カルテ等)から自動的に取得でき、放射線技師19等による手動入力によっても取得することができる。
【0039】
第2位置制御部44は、認識部43の認識結果を用いて、可動部の位置を第1位置から、認識部43の認識結果に合わせた第2位置に移動する。認識部43が、認識結果として被検者18の体格に関する情報及び/または撮影部位に関する情報を出力する場合には、第2位置制御部44はこれを用いて第2位置を決定する。認識部43が、認識結果として第2位置の情報を出力する場合には、その第2位置の情報を用いて可動部を第2位置に移動する。
【0040】
本実施形態においては、放射線撮影装置本体11は、マンモグラフィ装置60である。図3に示すように、マンモグラフィ装置60は、支柱61、放射線発生部21であるX線発生部62、放射線撮影部22を内蔵する撮影台63、圧迫板66、及び、昇降部67等を備える。マンモグラフィ装置60は、X線を用いて、被検者18の乳房を撮影するX線撮影装置である。また、X線発生部62及び撮影台63は一体化されており、マンモグラフィ装置60において被検者18に合わせた位置調整をする可動部70を構成する。したがって、マンモグラフィ装置60における支持部23は、X線発生部62及び撮影台63を一体化するための筐体(可動部70の全体)である。
【0041】
撮影台63は被検者18の乳房を配置するステージであり、撮影時には圧迫板66を用いて被検者18の乳房を挟持する。また、撮影台63には、被検者18が右手で把持する把持部64aと、被検者18が左手で把持する把持部64bと、が取り付けられている。把持部64a及び把持部64bはいわゆるアームレストである。
【0042】
圧迫板66は、撮影台63に載せた被検者18の乳房を圧迫し、扁平にする。正常な乳腺の重なりを少なくし、病変がある場合に、鮮明に病変を見つけやすくするためである。昇降部67は、圧迫板66を撮影台63に対して昇降する。これにより、昇降部67は、圧迫板66を撮影台63に対してほぼ平行に、かつ、乳房の厚さに応じた特定の距離に支持する。
【0043】
図4に示すように、可動部70は、X線発生部62及び撮影台63の相対的な位置及び向きを保ったまま、所定の角度範囲内で回転自在である。このため、マンモグラフィ装置60は、撮影台63を水平に配置して、または、撮影台63を水平から傾斜した配置にして、撮影を行うことができる。具体的には、図4(A)に示すように、マンモグラフィ装置60は、撮影台63を水平に配置し、乳房を頭尾方向から撮影するCC撮影(頭尾方向(craniocaudal)撮影)を行うことができる。また、図4(B)に示すように、マンモグラフィ装置60は、撮影台63を傾斜して配置し、乳房を内外斜位方向から撮影するMLO撮影(内外斜位方向(mediolateral oblique)撮影)をすることができる。なお、図示を省略するが、マンモグラフィ装置60は、撮影台63等を、図4(B)とは逆の方向に回転することができる。
【0044】
図5に示すように、可動部70は、X線発生部62及び撮影台63の相対的な位置及び向きを保ったまま、鉛直方向に移動自在である。このため、マンモグラフィ装置60は、被検者18の体格に合わせて撮影台63等の位置を調整し、無理のない姿勢で撮影を行うことができる。マンモグラフィ装置60において鉛直方向における可動部70の位置とは撮影室16の床面72(支柱61の接地面)を基準とした撮影台63の高さであり、図5(A)に示す最小高さH1と図5(B)に示す最大高さH2の範囲内で任意に調整できる。
【0045】
以下、上記のようにマンモグラフィ装置60を用いて構成する放射線撮影システム10が可動部70を自動調整動作について説明する。図6に示すように、特定の被検者18について撮影依頼を受けると、コンソール13は、被検者情報取得部41を用いて、その被検者18に係る被検者情報を取得する(ステップS101)。ここでは、被検者18の身長のデータを取得する。
【0046】
被検者情報取得部41が被検者情報を取得すると、認識部43は、撮影部12のカメラ31は安全範囲46を撮影し、その画像を用いて安全範囲46内の人または物を認識する。これにより、コンソール13は、安全範囲46内の人または物を確認する(ステップS102)。安全範囲46に人または物を発見した場合には、可動部70の自動的な位置調整は行なわず、例えば、その旨の警告を報知する。安全のためである。
【0047】
安全範囲46に人または物がない場合には、可動部70の位置調整を自動的に行うステップに移る。すなわち、第1位置制御部42が被検者18の身長に合わせた第1位置に可動部70の位置を移動する(ステップS103)。すなわち、後に行う第2位置への位置調整の前に、大雑把な位置の仮決めをする。
【0048】
その後、被検者18及び放射線技師19が撮影室16に入室すると、撮影部12はカメラ31を用いてドア17近傍の被検者18及び放射線技師19を撮影し、その画像(カメラ画像)を用いて認識部43が被検者18を認識する(ステップS104)。ここでは、認識部43は被検者18の身長及び撮影部位である乳房の床面72からの高さ等を認識する。より詳細には、認識部43は、カメラ画像を用いて、放射線技師19と区別して被検者18を特定する。その後、認識部43は、カメラ画像を用いて、被検者18の身長、及び、乳房の高さ等の被写体の体格(寸法)を求める。そして、認識部43は、カメラ画像を用いて認識した被検者18の身長及び乳房の高さ等を用いて、より現実の被検者18の状況(体格等の寸法)に合致する可動部70の位置(第2位置)を求め(ステップS105)、その結果を第2位置制御部44に入力する。これにより、第2位置制御部44は、可動部70を仮決めした第1位置から、決定した第2位置に可動部70の位置を自動的に調整する(ステップS106)。
【0049】
上記のように、放射線撮影システム10は、被検者情報を用いて可動部70の位置を第1位置に仮に位置調整しておき、その後、実際に撮影した被検者の画像を用いて、より現実に被検者18の状況に合わせた第2位置に可動部70の位置を自動調整する。このため、放射線撮影システム10によれば、被検者18がマンモグラフィ装置60(放射線撮影装置本体11)に到達するときには、マニュアル操作による調整が不要か極めてわずかで済む程度の高精度に可動部70の位置を自動調整することができる。その結果、円滑に放射線撮影を実施できる。
【0050】
また、放射線撮影システム10は、カメラ画像を用いて、実際に認識した被検者18に合わせて可動部70の位置を調整するので、初めて撮影をする被検者18に対しても正確に可動部70の位置を調整することができる。また、放射線撮影システム10は、カメラ画像を用いて、被検者18を認識し、その被検者18の身長等の体格的寸法を求め、かつ、求めた身長等に合った可動部70の位置(第2位置)を決定することにより、実際に認識した被検者18に合わせて可動部70の位置を調整することができる。このため、被検者18が車椅子を使用するようになった場合等、一時的または継続的に被検者18の体格等に変化があった場合でも正確に可動部70の位置を調整することができる。
【0051】
また、放射線撮影システム10によれば、カメラ31に異常が発生した場合等、第2位置への調整が行えない場合でも、少なくとも仮決めした第1位置までは可動部70を自動調整できるので、マニュアル操作による可動部70の位置調整幅は小さい。このため、円滑に撮影を実施できる。
【0052】
なお、上記実施形態において、放射線撮影システム10は、撮影を終えた後、可動部70の位置を最小高さH1まで自動的に戻し、第1位置制御部42は、可動部70を鉛直上方向に移動することにより、可動部70を第1位置に移動することが好ましい。可動部70と床面72の間に人または物が挟まる等の不具合を確実に防止するためである。
【0053】
また、第1位置制御部42及び第2位置制御部44は、放射線撮影装置本体11を含む特定の範囲内に人または物がない場合に、可動部70を移動することが好ましい。安全のためである。ここでいう特定の範囲とは、例えば、可動範囲45または安全範囲46であるが、少なくとも可動部70の可動範囲45以上の広さであることが好ましい。これも安全のためである。
【0054】
なお、上記実施形態において、第2位置制御部44は、放射線撮影装置本体11と被検者18との距離が近いほど低速度で可動部70を移動することが好ましい。第2位置への可動部70の位置調整は、被検者18が撮影室16に入室した後に行うので、特に安全に配慮するためである。第1位置制御部42及び第2位置制御部44は、可動部70を鉛直下方向に移動する場合、可動部70を鉛直上方向に移動する場合よりも低速度で可動部70を移動することが好ましい。可動部70と床面72の間をやむを得ず人や物が通過する場合でも、可動部70と床面72の間に人または物が挟まる等の不具合を低減するためである。
【0055】
上記実施形態においては、認識部43は、カメラ画像を用いて被検者18の身長と撮影部位である乳房の床面72からの高さを認識しているが、認識部43が、被検者18の身長と撮影部位のいずれか一方だけを認識する場合も、放射線撮影装置10は上記効果を奏する。すなわち、認識部43が被検者18の身長だけを認識し、かつ、被検者18の身長だけを用いて第2位置を決定することができる。この場合、放射線撮影装置本体11がマンモグラフィ装置60である場合のように、被検者18によらず撮影部位が定まっている場合に迅速かつ正確に第2位置を決定でき、円滑に撮影を実施しやすい。
【0056】
[第2実施形態]
上記第1実施形態においては、第1位置制御部42は、被検者情報取得部41が取得した被検者情報である被検者18の身長に基づいて可動部70を第1位置に移動するが、被検者情報取得部41が被検者情報として「被検者の過去の撮影に関する情報」を取得する場合には、「被検者の過去の撮影に関する情報」を用いて第1位置を決定することが好ましい。可動部70の仮決め位置である第1位置が正確であれば、第2位置への調整が容易(場合によっては調整が不要)であるため、特に迅速かつ正確に可動部70の位置決めを完了できるので、特に円滑に放射線撮影を実施できるからである。また、撮影部12が故障してカメラ画像を取得できない場合、撮影部12が被検者18を捉えられない場合、認識部43が被検者18を上手く認識できない場合、または、認識部43が被検者18の体格等を上手く認識できない(身長等を求められない)場合等、カメラ画像を用いた認識処理が不能または不調である場合においても、ほぼ正確な第1位置に可動部70を移動しておけるので、円滑に放射線撮影を実施できる。
【0057】
例えば、図7に示すように、被検者情報取得部41は、被検者情報として被検者18の過去の放射線撮影における可動部70の位置を取得する(ステップS201)。その後、カメラ画像を用いて安全範囲46内の人または物の有無を確認すると(ステップS202)、第1位置制御部42は、過去の放射線撮影における可動部70の位置を第1位置に決定する。その結果、第1位置制御部42は、過去の放射線撮影における可動部70の位置に可動部70を自動的に移動する(ステップS203)。
【0058】
その後、撮影部12及び認識部43に不調等がなく、カメラ画像を用いて被検者18の認識処理が可能である場合(ステップS204:YES)、認識部43は被検者18の認識処理(ステップS104)及び第2位置の決定処理(ステップS105)を行い、第2位置制御部44は可動部70を第2位置に調整する(ステップS106)。一方、撮影部12または認識部43に不調等がある場合は(ステップS204:NO)、被検者18の認識処理、第2位置の決定処理、及び、第2位置への可動部70の位置調整等を行わず、撮影指示を待機する。この場合、放射線技師19は必要に応じて可動部70の位置を手動調整できる。
【0059】
なお、上記第1実施形態、第2実施形態、及びこれらの変形例等において、可動部70の位置を第2位置に自動調整して放射線撮影を実施した場合、コンソール13は放射線技師19に対して、その第2位置を被検者情報に登録することを提案することが好ましい。今回の撮影で使用した第2位置を登録しておけば、次回の撮影において登録した第2位置が、上記実施形態における第1位置となるので、可動部70の位置調整の精度がさらに向上するからである。コンソール13が、第2位置を被検者情報に登録することを提案する方法は、例えば、文字または音声等によるメッセージの報知である。但し、今回の撮影における第2位置と、過去の放射線撮影における第2位置と、の差が所定の閾値(第2閾値)以上である場合、今回の撮影における第2位置を登録しないことを提案しないか、今回の撮影における第2位置を登録するか否かを選択的に提示することが好ましい。被検者18が一時的に車椅子を使用して体格に変化がある場合には、次回の撮影において、今回の撮影における第2位置を使用しない方が可動部70の位置調整幅が小さくなり、円滑に撮影を実施できるからである。
【0060】
なお、上記第2位置に係る被検者情報は、撮影した放射線画像に付帯する情報として放射線画像内に、あるいは放射線画像に関連付けて保存(登録)してもよい。また、上記第2位置に係る被検者情報は、放射線撮影システム10、放射線撮影装置本体11(マンモグラフィ装置60)が保持していてもよい。
【0061】
上記第1実施形態、第2実施形態、及びこれらの変形例等において、認識部43が第2位置の情報を第2位置制御部44に出力する場合、認識部43は、放射線撮影装置本体11が含む演算装置(CPU、GPU、メモリ、または、これらの組み合わせ等)または放射線撮影装置本体11と協働する演算装置が、被検者を撮影した画像(カメラ31で撮影したカメラ画像)の入力によって被検者18に合わせた可動部70の位置を出力する学習済みモデルを用いて、可動部70の位置を決定するプログラムを用いて構成することができる。すなわち、認識部43は、カメラ画像の入力によって第2位置を出力するAI(artificial intelligence)プログラムを用いて構成することができる。
【0062】
上記第1実施形態、第2実施形態、及びこれらの変形例等において、被検者情報取得部41、第1位置制御部42、認識部43、及び、第2位置制御部44といった各種の処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造は、次に示すような各種のプロセッサ(processor)である。各種のプロセッサには、ソフトウエア(プログラム)を実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphical Processing Unit)、FPGA (Field Programmable Gate Array) などの製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、各種の処理を実行するために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路などが含まれる。
【0063】
なお、第1実施形態、第2実施形態、及びこれらの変形例等において、放射線撮影システム10は放射線撮影装置本体11としてマンモグラフィ装置60を備えているが、本発明の放射線撮影システム10は、マンモグラフィ装置60以外に、可動部部分があり、被検者18に合わせてその位置の調整(向きの調整を含む)が必要な放射線撮影装置を備える場合にも好適である。
【0064】
1つの処理部は、これら各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種または異種の2つ以上のプロセッサの組み合せ(例えば、複数のFPGA、CPUとFPGAの組み合わせ、またはCPUとGPUの組み合わせ等)で構成されてもよい。また、複数の処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアントやサーバなどのコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウエアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)などに代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサを1つ以上用いて構成される。
【0065】
さらに、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた形態の電気回路(circuitry)である。
【符号の説明】
【0066】
10 放射線撮影システム
11 放射線撮影装置本体
12 撮影部
13 コンソール
16 撮影室
17 ドア
18 被検者
19 放射線技師(検査技師)
21 放射線発生部
22 放射線撮影部
23 支持部
31 カメラ
41 被検者情報取得部
42 第1位置制御部
43 認識部
44 第2位置制御部
45 可動範囲
46 安全範囲
60 マンモグラフィ装置
61 支柱
62 X線発生部
63 撮影台
64a 把持部
64b 把持部
66 圧迫板
67 昇降部
70 可動部
72 床面
S101~S204 動作ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7