(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】抗菌膜、抗菌組成物、抗菌膜付き基材、抗菌性を付与する方法
(51)【国際特許分類】
A01N 25/10 20060101AFI20220713BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20220713BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20220713BHJP
A01N 37/36 20060101ALI20220713BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220713BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220713BHJP
C09D 7/40 20180101ALI20220713BHJP
【FI】
A01N25/10
A01N25/34
A01N59/16 A
A01N37/36
A01P1/00
A01P3/00
C09D7/40
(21)【出願番号】P 2020504951
(86)(22)【出願日】2019-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2019007554
(87)【国際公開番号】W WO2019172041
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2018043461
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】保土沢 善仁
(72)【発明者】
【氏名】小川 朋成
(72)【発明者】
【氏名】林 卓弘
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-095655(JP,A)
【文献】国際公開第2017/086098(WO,A1)
【文献】特開2010-150239(JP,A)
【文献】特開2010-185062(JP,A)
【文献】国際公開第2014/184989(WO,A1)
【文献】興研株式会社,“銅系抗菌剤「イマディーズTM」の開発に関するお知らせ~汎用性が高いゲル状抗菌剤の開発に成功~”,[online],2015年01月27日,[令和4年1 月18日検索],インターネット<URL:https://www.koken-ltd.co.jp/preview_pdf.php?h=3a7c6cb826018d4006fb8de2472b53b7>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,A01P
C09D
C08L
B32B
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀を含む抗菌剤と、バインダーと、抗ウイルス剤と、フッ素系界面活性剤と、を含む抗菌膜であって、
前記抗ウイルス剤が、乳酸オリゴマー
及び乳酸オリゴマーの金属
塩からなる群より選ばれる1種以上を含
み、
前記乳酸オリゴマーの重量平均分子量が、200~5,000であり、
前記銀を含む抗菌剤の含有量が、抗菌膜の全質量に対して、0.01~10質量%である、抗菌膜。
【請求項2】
前記金属塩が銅塩を含む、請求項
1に記載の抗菌膜。
【請求項3】
前記バインダーが、ポリオキシアルキレン基、アミノ基、カルボキシ基、カルボキシ基のアルカリ金属塩、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミド基、カルバモイル基、スルホンアミド基、スルファモイル基、スルホン酸基、及び、スルホン酸基のアルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも1つの親水性基を有する親水性ポリマーを含む、請求項1
又は2に記載の抗菌膜。
【請求項4】
前記銀を含む抗菌剤が、銀を担持した無機粒子を含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の抗菌膜。
【請求項5】
前記銀を含む抗菌剤の含有量が、抗菌膜の全質量に対して、2.0~10質量%である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の抗菌膜。
【請求項6】
前記抗ウイルス剤の含有量が、抗菌膜の全質量に対して、0.1~4.0質量%である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の抗菌膜。
【請求項7】
前記フッ素系界面活性剤の含有量が、抗菌膜の全質量に対して、0.01~1.0質量%である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の抗菌膜。
【請求項8】
前記抗ウイルス剤の含有量に対する前記フッ素系界面活性剤の含有量の含有質量比が、0.03以上である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の抗菌膜。
【請求項9】
前記バインダーの含有量に対する前記抗ウイルス剤の含有量の含有質量比が、0.05以下である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の抗菌膜。
【請求項10】
前記銀を含む抗菌剤の含有量に対する前記抗ウイルス剤の含有量の含有質量比が、1.0以下である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の抗菌膜。
【請求項11】
銀を含む抗菌剤と、モノマーと、抗ウイルス剤と、フッ素系界面活性剤と、溶媒とを含む抗菌組成物であって、
前記抗ウイルス剤が、乳酸オリゴマー
及び乳酸オリゴマーの金属
塩からなる群より選ばれる1種以上を含
み、
前記乳酸オリゴマーの重量平均分子量が、200~5,000であり、
前記銀を含む抗菌剤の含有量が、前記抗菌組成物の全固形分に対して0.01~10質量%である、抗菌組成物。
【請求項12】
前記金属塩が銅塩を含む、請求項
11に記載の抗菌組成物。
【請求項13】
前記モノマーが、ポリオキシアルキレン基、アミノ基、カルボキシ基、カルボキシ基のアルカリ金属塩、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミド基、カルバモイル基、スルホンアミド基、スルファモイル基、スルホン酸基、及び、スルホン酸基のアルカリ金属塩からなる群より選択される少なくとも1つの親水性基を有する親水性モノマーを含む、請求項
11又は12に記載の抗菌組成物。
【請求項14】
前記銀を含む抗菌剤が、銀を担持した無機粒子を含む、請求項
11~13のいずれか1項に記載の抗菌組成物。
【請求項15】
前記銀を含む抗菌剤の含有量が、
前記抗菌組成物の全固形分に対して、2.0~10質量%である、請求項
11~14のいずれか1項に記載の抗菌組成物。
【請求項16】
前記抗ウイルス剤の含有量が、
前記抗菌組成物の全固形分に対して、0.1~4.0質量%である、請求項
11~15のいずれか1項に記載の抗菌組成物。
【請求項17】
前記フッ素系界面活性剤の含有量が、
前記抗菌組成物の全固形分に対して、0.01~1.0質量%である、請求項
11~16のいずれか1項に記載の抗菌組成物。
【請求項18】
前記抗ウイルス剤の含有量に対する前記フッ素系界面活性剤の含有量の含有質量比が、0.03以上である、請求項
11~17のいずれか1項に記載の抗菌組成物。
【請求項19】
前記モノマーの含有量に対する前記抗ウイルス剤の含有量の含有質量比が、0.05以下である、請求項
11~18のいずれか1項に記載の抗菌組成物。
【請求項20】
前記銀を含む抗菌剤の含有量に対する前記抗ウイルス剤の含有量の含有質量比が、1.0以下である、請求項
11~19のいずれか1項に記載の抗菌組成物。
【請求項21】
基材と、前記基材上に配置された請求項1~
10のいずれか1項に記載の抗菌膜と、を有する抗菌膜付き基材。
【請求項22】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の抗菌膜、又は請求項
11~20のいずれか1項に記載の抗菌組成物を用いて対象物に抗菌性を付与する、抗菌性を付与する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌膜、抗菌組成物、抗菌膜付き基材、及び抗菌性を付与する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネル等の物品が細菌等によって汚染されることを防止するための技術として、上記物品の表面に抗菌膜を設ける技術が注目されている。
特許文献1には、親水性ポリマー及び銀を含む抗菌剤を含む親水性加工部(抗菌膜)を備えた機器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、昨今では、抗菌膜に対して、抗菌性のみならず、更に抗ウイルス性を付与する要求が高まっている。具体的には、抗菌膜に対して、ウイルス(特に、ノロウイルス)を不活化できる機能を付与することが求められている。
【0005】
本発明者らは、特許文献1に記載された抗菌膜を作製して、ネコカリシウイルス(ノロウイルスの近縁種であり、ノロウイルスに類似のゲノム組成、カプシド構造及び生化学的特性を有しているので現在最も広く使用されている代用ウイルスである。)に対する抗ウイルス性について検討したところ、抗ウイルス性を更に改善する余地があることを明らかとした。また、特許文献1に記載された抗菌膜は、使用回数を重ねるにつれて、変色(黒化)が生じ易い傾向があることを明らかとした。
【0006】
そこで、本発明は、抗菌性及び抗ウイルス性に優れ、且つ、変色が生じにくい抗菌膜を提供することを課題とする。
また、本発明は、抗菌性及び抗ウイルス性に優れ、且つ、変色が生じにくい抗菌膜を与え得る抗菌組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、上記抗菌膜を備えた抗菌膜付き基材を提供することを課題とする。
また、本発明は、上記抗菌膜及び上記抗菌組成物を用いた抗菌性の付与方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、特定の組成の抗菌膜によれば上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、以下の構成により上記目的を達成することができることを見出した。
【0008】
〔1〕 銀を含む抗菌剤と、バインダーと、抗ウイルス剤と、フッ素系界面活性剤と、を含む抗菌膜。
〔2〕 上記抗ウイルス剤が、水に対する溶解度が100g/L以下の疎水性抗ウイルス剤、金属塩、金属銅、及び銅化合物からなる群より選ばれる1種以上を含む、〔1〕に記載の抗菌膜。
〔3〕 上記疎水性抗ウイルス剤が、乳酸オリゴマー及び乳酸オリゴマーの金属塩からなる群より選ばれる1種以上を含む、〔2〕に記載の抗菌膜。
〔4〕 上記金属塩が銅塩を含む、〔2〕又は〔3〕に記載の抗菌膜。
〔5〕 上記バインダーが親水性ポリマーを含む、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の抗菌膜。
〔6〕 上記銀を含む抗菌剤が、銀を担持した無機粒子を含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の抗菌膜。
〔7〕 上記銀を含む抗菌剤の含有量が、抗菌膜の全質量に対して、2.0~10質量%である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の抗菌膜。
〔8〕 上記抗ウイルス剤の含有量が、抗菌膜の全質量に対して、0.1~4.0質量%である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の抗菌膜。
〔9〕 上記フッ素系界面活性剤の含有量が、抗菌膜の全質量に対して、0.01~1.0質量%である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の抗菌膜。
〔10〕 上記抗ウイルス剤の含有量に対する上記フッ素系界面活性剤の含有量の含有質量比が、0.03以上である、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の抗菌膜。
〔11〕 上記バインダーの含有量に対する上記抗ウイルス剤の含有量の含有質量比が、0.05以下である、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の抗菌膜。
〔12〕 上記銀を含む抗菌剤の含有量に対する上記抗ウイルス剤の含有量の含有質量比が、1.0以下である、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の抗菌膜。
〔13〕 銀を含む抗菌剤と、モノマーと、抗ウイルス剤と、フッ素系界面活性剤と、溶媒とを含む抗菌組成物。
〔14〕 上記抗ウイルス剤が、水に対する溶解度が100g/L以下の疎水性抗ウイルス剤、金属塩、金属銅、及び銅化合物からなる群より選ばれる1種以上を含む、〔13〕に記載の抗菌組成物。
〔15〕 上記疎水性抗ウイルス剤が、乳酸オリゴマー及び乳酸オリゴマーの金属塩からなる群より選ばれる1種以上を含む、〔14〕に記載の抗菌組成物。
〔16〕 上記金属塩が銅塩を含む、〔14〕又は〔15〕に記載の抗菌組成物。
〔17〕 上記モノマーが、親水性モノマーを含む、〔13〕~〔16〕のいずれかに記載の抗菌組成物。
〔18〕 上記銀を含む抗菌剤が、銀を担持した無機粒子を含む、〔13〕~〔17〕のいずれかに記載の抗菌組成物。
〔19〕 上記銀を含む抗菌剤の含有量が、全固形分に対して、2.0~10質量%である、〔13〕~〔18〕のいずれかに記載の抗菌組成物。
〔20〕 上記抗ウイルス剤の含有量が、全固形分に対して、0.1~4.0質量%である、〔13〕~〔19〕のいずれかに記載の抗菌組成物。
〔21〕 上記フッ素系界面活性剤の含有量が、全固形分に対して、0.01~1.0質量%である、〔13〕~〔20〕のいずれかに記載の抗菌組成物。
〔22〕 上記抗ウイルス剤の含有量に対する上記フッ素系界面活性剤の含有量の含有質量比が、0.03以上である、〔13〕~〔21〕のいずれかに記載の抗菌組成物。
〔23〕 上記モノマーの含有量に対する上記抗ウイルス剤の含有量の含有質量比が、0.05以下である、〔13〕~〔22〕のいずれかに記載の抗菌組成物。
〔24〕 上記銀を含む抗菌剤の含有量に対する上記抗ウイルス剤の含有量の含有質量比が、1.0以下である、〔13〕~〔23〕のいずれかに記載の抗菌組成物。
〔25〕 基材と、上記基材上に配置された〔1〕~〔12〕のいずれかに記載の抗菌膜と、を有する抗菌膜付き基材。
〔26〕 〔1〕~〔12〕のいずれかに記載の抗菌膜、又は〔13〕~〔24〕のいずれかに記載の抗菌組成物を用いて対象物に抗菌性を付与する、抗菌性を付与する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、抗菌性及び抗ウイルス性に優れ、且つ、変色が生じにくい抗菌膜を提供できる。
また、本発明によれば、抗菌性及び抗ウイルス性に優れ、且つ、変色が生じにくい抗菌膜を与え得る抗菌組成物を提供できる。
また、本発明によれば、上記抗菌膜を備えた抗菌膜付き基材を提供できる。
また、本発明によれば、上記抗菌膜及び上記抗菌組成物を用いた抗菌性の付与方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を含有しないものと共に置換基を含むものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を含有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を含むアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタアクリレートを表す。また、本明細書において、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及びメタクリロイルを表す。
【0011】
〔抗菌膜〕
本発明の抗菌膜は、銀を含む抗菌剤と、バインダーと、抗ウイルス剤と、フッ素系界面活性剤と、を含む。
上記抗菌膜が本発明の効果を奏する機序は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のとおり推測している。なお、本発明は、下記の機序により効果が得られるものに制限されるものではない。
【0012】
本発明者らは、特許文献1に記載された抗菌膜が変色する原因について検討したところ、銀を含む抗菌剤から供給される過剰な銀イオンが、空気中の硫黄成分、手汗、及び皮脂の付着等により還元されて黒化することに起因していることを明らかとした。これに対し、本発明の抗菌膜は、フッ素系界面活性剤が抗菌膜中の表面に偏在することで、抗菌性の発現に必要な量の銀イオンのみが抗菌膜面に表出し、抗菌膜面への銀イオンの過剰供給を抑制している。つまり、本発明の抗菌膜は、フッ素系界面活性剤の存在により、銀イオンによる優れた抗菌性と、優れた変色抑制性を両立している。特に、バインダーが親水性基を有するポリマー(親水性ポリマー)を含む場合、銀イオンが抗菌膜表面に移動し易く、且つ銀イオンが抗菌膜表面に繰り返し供給されるため、抗菌性に優れるものの、通常、抗菌膜が変色しやすくなる。一方で、本発明においては上述したフッ素系界面活性剤の作用により、親水性ポリマーを抗菌膜が含む場合であっても、抗菌膜は、変色抑制性に優れつつ、優れた抗菌性を安定的に長時間持続できる。
更に、本発明者らは、バインダーが親水性ポリマーを含み、且つ、抗ウイルス剤が疎水性抗ウイルス剤(例えば、乳酸オリゴマー及び乳酸オリゴマーの金属塩)を含む場合、抗ウイルス剤を起因としてハジキ状面状故障が発生しやすい(言い換えると、面状性に劣る場合がある)ことを知見している。これに対して、上述したフッ素系界面活性剤は、ハジキ状面状故障の抑制にも寄与することを明らかとした。つまり、銀を含む抗菌剤と、親水性ポリマーを含むバインダーと、疎水性抗ウイルス剤(例えば、乳酸オリゴマー及び乳酸オリゴマーの金属塩)と、フッ素系界面活性剤とを含む抗菌膜は、抗菌性及び抗ウイルス性に優れ、変色が生じにくく、且つ、面状性にも優れることを明らかとした。
以下、抗菌膜中に含まれる各種成分について詳述する。
【0013】
<銀を含む抗菌剤>
上記抗菌膜は、銀を含む抗菌剤(以下、「銀系抗菌剤」ともいう。)を含む。
銀系抗菌剤としては特に制限されず、公知の抗菌剤を使用できる。
また、銀系抗菌剤中における銀の形態は特に制限されず、例えば、金属銀、銀イオン、及び銀塩等が挙げられる。なお、本明細書では、銀錯体は銀塩の範囲に含まれる。
銀塩としては、特に制限されないが、例えば、酢酸銀、アセチルアセトン酸銀、アジ化銀、銀アセチリド、ヒ酸銀、安息香酸銀、フッ化水素銀、臭素酸銀、臭化銀、炭酸銀、塩化銀、塩素酸銀、クロム酸銀、クエン酸銀、シアン酸銀、シアン化銀、(cis,cis-1,5-シクロオクタジエン)-1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロアセチルアセトン酸銀、ジエチルジチオカルバミン酸銀、フッ化銀(I)、フッ化銀(II)、7,7-ジメチル-1,1,1,2,2,3,3-ヘプタフルオロ-4,6-オクタンジオン酸銀、ヘキサフルオロアンチモン酸銀、ヘキサフルオロヒ酸銀、ヘキサフルオロリン酸銀、ヨウ素酸銀、ヨウ化銀、イソチオシアン酸銀、シアン化銀カリウム、乳酸銀、モリブデン酸銀、硝酸銀、亜硝酸銀、酸化銀(I)、酸化銀(II)、シュウ酸銀、過塩素酸銀、ペルフルオロ酪酸銀、ペルフルオロプロピオン酸銀、過マンガン酸銀、過レニウム酸銀、リン酸銀、ピクリン酸銀一水和物、プロピオン酸銀、セレン酸銀、セレン化銀、亜セレン酸銀、スルファジアジン銀、硫酸銀、硫化銀、亜硫酸銀、テルル化銀、テトラフルオロ硼酸銀、テトラヨードムキュリウム酸銀、テトラタングステン酸銀、チオシアン酸銀、p-トルエンスルホン酸銀、トリフルオロメタンスルホン酸銀、トリフルオロ酢酸銀、バナジン酸銀等、ヒスチジン銀錯体、メチオニン銀錯体、システイン銀錯体、アスパラギン酸銀錯体、ピロリドンカルボン酸銀錯体、オキソテトラヒドロフランカルボン酸銀錯体、及びイミダゾール銀錯体等が挙げられる。
【0014】
銀系抗菌剤としては、例えば、上記銀塩等の有機系の抗菌剤と、後述する担体を含む無機系の抗菌剤が挙げられるが、その種類は特に制限されない。
なかでも、抗菌膜の抗菌性がより優れる点で、銀系抗菌剤としては、担体と、担体上に担持された銀とを含む銀担持担体が好ましい。
担体の種類は特に制限されず、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、リン酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、活性炭、活性アルミナ、シリカゲル、ゼオライト、ヒドロキシアパタイト、リン酸ジルコニウム、リン酸チタン、チタン酸カリウム、含水酸化ビスマス、含水酸化ジルコニウム、ハイドロタルサイト、及びガラス(水溶性ガラスを含む)等が挙げられる。
なかでも、抗菌膜の抗菌性がより優れる点で、担体としてはリン酸亜鉛カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、リン酸アルミニウム、ゼオライト、又はガラスが好ましく、担体が潮解性を有さず、抗菌膜がより優れた安定性を有する点で、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、リン酸アルミニウム、又はゼオライトがより好ましい。
すなわち、銀系抗菌剤としては、抗菌膜の抗菌性がより優れる点で、担体と、担体上に担持された銀とを含み、且つ、担体が、リン酸塩及びゼオライトからなる群より選択される少なくとも1種である抗菌剤が好ましい。なお、上記リン酸塩としては、例えば、上述した、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム、及びリン酸アルミニウム等が挙げられる。
ゼオライトとしては、例えば、チャバサイト、モルデナイト、エリオナイト、クリノプチロライト等の天然ゼオライト、A型ゼオライト、X型ゼオライト、及びY型ゼオライト等の合成ゼオライトが挙げられる。
【0015】
銀系抗菌剤の平均粒径は特に制限されないが、一般に、0.1~10μmが好ましく、0.1~2μmがより好ましい。なお、上記平均粒径は、光学顕微鏡を用いて銀系抗菌剤を観察し、少なくとも10個の任意の銀系抗菌剤の粒子(一次粒子)の直径を測定し、それらを算術平均した値である。
【0016】
銀系抗菌剤中における銀の含有量は特に制限されないが、銀系抗菌剤の全質量に対して、0.1~10質量%が好ましく、0.3~5質量%がより好ましい。
【0017】
抗菌膜中における銀系抗菌剤の含有量としては特に制限されないが、抗菌膜の全質量に対して、銀の含有量として0.001~10質量%(好ましくは、0.01~5質量%)となる量が好ましい。
【0018】
抗菌膜中における銀系抗菌剤の含有量としては特に制限されないが、抗菌膜の全質量に対して、0.01~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましく、2.0~10質量%が更に好ましい。なお、銀系抗菌剤として有機系の抗菌剤を用いる場合は、抗菌剤の含有量は特に制限されないが、抗菌膜の機械的強度がより優れる点で、抗菌膜の全質量に対して1.0~10質量%が好ましい。また、銀系抗菌剤として無機系の抗菌剤を用いる場合は、抗菌剤の含有量は特に制限されないが、抗菌膜の機械的強度がより優れる点で、抗菌膜の全質量に対して0.01~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましく、2.0~10質量%が更に好ましい。
【0019】
なお、銀系抗菌剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上の銀系抗菌剤を併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0020】
<バインダー>
上記抗菌膜は、抗菌剤及び抗ウイルス剤を支持するバインダーを含む。
上記バインダーとしては、抗菌剤及び抗ウイルス剤を支持可能な材料であれば特に制限されず、例えば、ポリマーが挙げられる。
上記ポリマーの重量平均分子量は特に制限されないが、溶解性等の取扱い性がより優れる点で、1,000~1,000,000が好ましく、10,000~500,000がより好ましい。なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定でのポリスチレン換算値として定義される。
上記ポリマーの種類は特に制限されないが、抗菌性により優れ、且つ、堅牢性により優れる点で、親水性基を有するポリマー(以下、「親水性ポリマー」ともいう。)であることが好ましい。
なお、バインダーは、ポリマーを1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよいが、少なくとも1種は親水性ポリマーであることが好ましい。
【0021】
親水性基としては特に制限されず、例えば、ポリオキシアルキレン基(例えば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、オキシエチレン基とオキシプロピレン基がブロック又はランダム結合したポリオキシアルキレン基)、アミノ基、カルボキシ基、カルボキシ基のアルカリ金属塩、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミド基、カルバモイル基、スルホンアミド基、スルファモイル基、スルホン酸基、及びスルホン酸基のアルカリ金属塩等が挙げられる。なかでも、抗菌膜がより優れたハードコート性、及び/又は耐カール性を有する点で、親水性基としては、ポリオキシアルキレン基が好ましい。
【0022】
親水性ポリマーとしては特に制限されないが、後述する親水性モノマーを重合して得られるポリマー、及び、後述する親水性モノマーと後述する非親水性モノマーとを重合して得られるポリマーが挙げられる。
親水性ポリマーの主鎖の構造は特に制限されず、例えば、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、及びポリウレア等が挙げられる。また、親水性ポリマーが、後述する親水性モノマーと後述する非親水性モノマーとを重合して得られるポリマーである場合、その混合比(親水性モノマーの質量/非親水性モノマーの質量)は、抗菌膜の親水性の制御がし易い点で、0.01~10が好ましく、0.1~10がより好ましい。
また、親水性ポリマーとして、例えば、セルロース系化合物も使用できる。セルロース系化合物とは、セルロースを母核とする化合物を意図し、例えば、カルボキシメチルセルロースのほか、トリアセチルセルロースを原料とするナノファイバー等が挙げられる。
【0023】
抗菌膜中におけるバインダーの含有量としては特に制限されないが、抗菌膜の全質量に対して、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。また、その上限値は特に制限されないが、例えば99.9質量%以下であり、98%質量%以下が好ましい。
【0024】
<抗ウイルス剤>
上記抗菌膜は、抗ウイルス剤を含む。
抗ウイルス剤は、カリシウイルス科、オルトミクソウイルス科、コロナウイルス科、及びヘルペスウイルス科等に属するウイルスの活性を減少させるものが好ましい。なお、カリシウイルス科に属するウイルスとしては、ノロウイルス属、サポウイルス属、ラゴウイルス属、ネボウイルス属、及びベシウイルス属に属するウイルス等が挙げられる。抗ウイルス剤としては、なかでも、ノロウイルス属に属するウイルス及びベシウイルス属に属するウイルスに対して良好な不活化効果を発揮するものが好ましい。
上記抗ウイルス剤としては、具体的には、抗ノロウイルス性がより優れる点で、疎水性抗ウイルス剤、金属塩、金属銅、及び銅化合物からなる群より選ばれる1種以上が好ましく、疎水性抗ウイルス剤がより好ましい。抗菌膜が疎水性抗ウイルス剤を含む場合、抗菌膜の表面が拭き取られても、膜中から抗ウイルス剤が除去されにくいためである。
ここで「疎水性抗ウイルス剤」とは、水(25℃)に対する溶解度が100g/L以下である抗ウイルス剤を意図する。疎水性抗ウイルス剤の水(25℃)に対する溶解度は、10g/L以下であることが好ましい。なお、下限値は特に制限されないが、例えば、0g/Lである。
なお、疎水性抗ウイルス剤には、後述する金属塩、並びに、後述する金属銅及び銅化合物は含まれない。
【0025】
疎水性抗ウイルス剤としては、例えば、抗ウイルス性を示す疎水性のオリゴマー、及びその金属塩等が挙げられる。
疎水性のオリゴマーの重量平均分子量としては、例えば200~5,000であり、300~4,000が好ましい。
【0026】
疎水性抗ウイルス剤としては、乳酸オリゴマー及び乳酸オリゴマーの金属塩(金属塩としては特に制限されないが、例えば、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、銀塩、白金塩、錫塩、及びニッケル塩等が挙げられ、銅塩、亜鉛塩、又は鉄塩が好ましく、銅塩がより好ましい。)からなる群より選ばれる1種以上が好ましい。なかでも、抗ノロウイルス性がより優れる点、及び堅牢性により優れる点で、乳酸オリゴマーと乳酸オリゴマーの金属塩との混合物がより好ましく、乳酸オリゴマーと乳酸オリゴマーの銅塩との混合物が更に好ましい。なお、乳酸オリゴマーと乳酸オリゴマーの金属塩との混合物は、市販品(例えば、興研株式会社製イマディーズ)として入手できる。
【0027】
また、抗ウイルス剤として使用し得る金属塩としては、銀以外の金属塩が好ましく、例えば、銅塩、亜鉛塩、及びニッケル塩等が挙げられる。上記金属塩としては、銅塩が好ましい。銅塩としては、塩化銅、及び硫酸銅等が挙げられる。なお、ここでいう金属塩には、金属塩の形態の疎水性抗ウイルス剤、及び後述する銅化合物は含まれない。
【0028】
また、抗ウイルス剤として使用し得る金属銅及び銅化合物としては、銅粒子(例えば、銅ナノ粒子)、及び酸化銅等が挙げられる。なお、ここでいう銅化合物には、銅塩は含まれない。
【0029】
抗菌膜中、銀系抗菌剤の含有量(A)に対する抗ウイルス剤の含有量(C)の含有質量比(C/A)は、0.01以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。またその上限値は、2.0以下が好ましく、1.0以下がより好ましい。
抗菌膜中、銀系抗菌剤の含有量(A)に対する抗ウイルス剤の含有量(C)の含有質量比(C/A)が上記数値範囲である場合、得られる抗菌膜は、抗菌スペクトルの広い銀系抗菌剤による抗菌作用と抗ウイルス剤による抗菌作用とが相乗し、抗菌性及び抗ウイルス性がより優れる。
【0030】
抗菌膜中、バインダーの含有量(B)に対する抗ウイルス剤(C)の含有量の含有質量比(C/B)は、0.001以上が好ましく、0.01以上がより好ましい。また、その上限値は、0.2以下が好ましく、0.1以下がより好ましく、0.05以下が更に好ましい。
抗ウイルス剤の含有量が多いほど抗ウイルス性が向上するが、一方で膜の硬度(ハードコート性)が低下する傾向にある。特に、抗ウイルス剤として疎水性抗ウイルス剤(例えば、乳酸オリゴマーと乳酸オリゴマーの金属塩との混合物)を用いた場合は、膜の硬度の低下がより顕著となる。抗菌膜中、バインダーの含有量(B)に対する抗ウイルス剤(C)の含有量の含有質量比(C/B)が上記数値範囲である場合、抗菌膜は、抗ウイルス性とハードコート性がより優れる。
また、上記抗菌膜中、特に、バインダーが親水性ポリマーを含み、且つ抗ウイルス剤が疎水性抗ウイルス剤(例えば、乳酸オリゴマーと乳酸オリゴマーの金属塩との混合物)を含む場合、バインダーの含有量(B)に対する抗ウイルス剤(C)の含有量の含有質量比(C/B)が0.05以下であれば、疎水性抗ウイルス剤に起因するハジキ状面状故障がより抑制される。
【0031】
抗菌膜中、抗ウイルス剤の含有量(C)に対するフッ素系界面活性剤の含有量(D)の含有質量比(D/C)は、0.0001以上が好ましく、0.03以上がより好ましい。また、その上限値としては、1.0以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。
抗菌膜中、抗ウイルス剤の含有量(C)に対するフッ素系界面活性剤の含有量(D)の含有質量比(D/C)が1.0以下である場合、フッ素系界面活性剤を起因とするミセルが形成されにくいため、抗菌膜がより均一な膜質となる。つまり、フッ素系界面活性剤に起因するハジキ状面状故障がより抑制される。
また、上記抗菌膜中、特に、バインダーが親水性ポリマーを含み、且つ抗ウイルス剤が疎水性抗ウイルス剤(例えば、乳酸オリゴマーと乳酸オリゴマーの金属塩との混合物)を含む場合、抗ウイルス剤の含有量(C)に対するフッ素系界面活性剤の含有量(D)の含有質量比(D/C)が0.0001以上(好ましくは0.03以上)であれば、疎水性抗ウイルス剤に起因するハジキ状面状故障がより抑制され、面状性により優れる。
【0032】
抗ウイルス剤の含有量は特に制限されないが、得られる抗菌膜の面状性がより優れる点で、抗菌膜の全質量に対して、0.1~10質量%が好ましく、0.1~4.0質量%がより好ましい。
【0033】
なお、抗ウイルス剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上の抗ウイルス剤を併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0034】
<フッ素系界面活性剤>
上記抗菌膜は、フッ素系界面活性剤を含む。
フッ素系界面活性剤としては、例えば、DIC株式会社製 メガファックF-171、F-172、F-173、F-176、F-177、F-141、F-142、F-143、F-144、R-30、F-437、F-475、F-479、F-482、F-554、F-560、F-561、F-780、F-781、MCF-350、及びTF1025、スリーエムジャパン株式会社製 フロラードFC430、FC431、及びFC171、旭硝子株式会社製 サーフロンS-382、SC-101、SC-103、SC-104、SC-105、SC1068、SC-381、SC-383、S393、及びKH-40、株式会社フロロテクノロジー社製 フロロサーフFS-7024、FS-7025、FS-7026、FS-7027、及びFS-7028、株式会社ジェムコ社製EFTOP EF-101、EF-121、EF-122B、EF-122C、EF-122A3、EF-121、EF-123A、EF-123B、EF-126、EF-127、EF-301、EF-302、EF-351、EF-352、EF-601、EF-801、及びEF-802、株式会社ネオス社製 フタージェント250、251、222F、FTX-218、212M、245M、290M、FTX-207S、FTX-211S、FTX-220S、FTS-230S、FTX-209F、FTX-213F、FTX-233F、FTX-245F、FTX-208G、FTX-218G、FTX-230G、FTS-240G、FTX-204D、FTX-208D、FTX-212D、FTX-216D、FTX-218D、FTX-220D、FTX-222D、FTX-720C、及びFTX-740C、並びに、セイミケミカル株式会社製 サーフロンS-111、S-112、S-113、S-121、S-131、S-132、S-141、S-145、S-381、S-383、S-393、S-101、KH-40、及びSA-100等が挙げられる。
【0035】
フッ素系界面活性剤の含有量は特に制限されないが、抗菌膜の全質量に対して、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましい。なお、フッ素系界面活性剤の含有量の上限値は特に制限されないが、2.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましい。
【0036】
なお、フッ素系界面活性剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上のフッ素系界面活性剤を併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0037】
<その他の成分>
上記抗菌膜は、上述した成分以外のその他の成分を含んでいてもよい。
上記その他の成分としては、例えば、抗菌膜を形成するために用い得る、後述する抗菌組成物中に含まれる成分(例えば、分散剤等)及びこの成分に由来する成分が挙げられる。
【0038】
<膜厚>
抗菌膜の膜厚としては特に制限されないが、0.1~15μmが好ましく、1.0~10μmがより好ましい。
なお、上記膜厚とは、抗菌膜のサンプル片を樹脂に包埋して、ミクロトームで断面を削り出し、削り出した断面を走査電子顕微鏡で観察し測定する。抗菌膜の任意の10点の位置における厚みを測定し、それらを算術平均した値を意図する。
【0039】
〔抗菌組成物〕
本発明の他の実施態様に係る抗菌組成物(以下、「本発明の組成物」ともいう。)は、銀を含む抗菌剤と、モノマーと、抗ウイルス剤と、フッ素系界面活性剤と、溶媒とを含む。
以下、抗菌組成物について詳述する。
【0040】
<銀を含む抗菌剤>
上記組成物は、銀を含む抗菌剤(銀系抗菌剤)を含む。なお、使用し得る銀系抗菌剤としては上述の通りである。
上記組成物中における銀系抗菌剤の含有量としては特に制限されないが、上記組成物の全固形分に対して、銀の含有量として0.001~10質量%(好ましくは、0.01~5質量%)となる量が好ましい。
なお、本明細書において、上記組成物中の固形分とは、溶媒以外の全ての成分を意味する。また、固形分濃度とは、組成物の総質量に対する、溶媒を除く他の成分の合計質量の質量百分率である。
【0041】
また、上記組成物中における銀系抗菌剤の含有量としては特に制限されないが、上記組成物の全固形分に対して、0.01~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましく、2.0~10質量%が更に好ましい。なお、銀系抗菌剤として有機系の抗菌剤を用いる場合は、抗菌剤の含有量は特に制限されないが、得られる抗菌膜の機械的強度がより優れる点で、上記組成物の全固形分に対して、1~10質量%が好ましい。また、銀系抗菌剤として無機系の抗菌剤を用いる場合は、抗菌剤の含有量は特に制限されないが、得られる抗菌膜の機械的強度がより優れる点で、上記組成物の全固形分に対して、0.01~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましく、2.0~10質量%が更に好ましい。
【0042】
なお、銀系抗菌剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上の銀系抗菌剤を併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0043】
<モノマー>
上記組成物は、バインダーを形成するための成分として、モノマーを含む。
モノマーとしては、親水性基を有するモノマー(以下、「親水性モノマー」ともいう。)、及び親水性基を有さないモノマー(以下、「非親水性モノマー」ともいう。)のいずれであってもよい。
上記組成物は、親水性モノマーを含むことが好ましく、親水性モノマーと非親水性モノマーとをいずれも含むことが好ましい。
以下、親水性モノマー、及び非親水性モノマーについて述べる。
【0044】
(親水性モノマー)
親水性モノマーは、親水性基と重合性基とを有する化合物である。
親水性モノマーは、重合して親水性ポリマーを形成する。上記組成物により得られる抗菌膜が親水性ポリマーを含む場合、抗菌膜はより親水性を示し、水等を用いて抗菌膜を洗浄すると、抗菌膜上に付着した汚染物質をより容易に除去することができる。
【0045】
親水性基の定義は、上述した通りである。親水性基としては、なかでも、上記組成物により得られる抗菌膜がより優れたハードコート性、及び/又は耐カール性を有する点で、親水性基としては、ポリオキシアルキレン基が好ましい。
親水性モノマー中における親水性基の数は特に制限されないが、得られる抗菌膜がより親水性を示す点より、2個以上が好ましく、2~6個がより好ましく、2~3個が更に好ましい。
また、親水性モノマーから形成される親水性ポリマーの主鎖の構造は特に制限されず、例えば、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、及びポリウレア等が挙げられる。
【0046】
重合性基としては特に制限されず、例えば、ラジカル重合性基、カチオン重合性基、及びアニオン重合性基等が挙げられる。ラジカル重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、アクリルアミド基、ビニル基、スチリル基、及びアリル基等が挙げられる。カチオン重合性基としては、ビニルエーテル基、オキシラニル基、及びオキセタニル基等が挙げられる。なかでも、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
親水性モノマー中における重合性基の数は特に制限されないが、得られる抗菌膜の機械的強度がより優れる点で、2個以上が好ましく、2~6個がより好ましく、2~3個が更に好ましい。
【0047】
上記組成物は、親水性モノマーを2種以上含むことが好ましい。
上記組成物が親水性モノマーを2種以上含む場合、その種類の上限としては特に制限されず、一般に5種以下が好ましい。
上記組成物が親水性モノマーを2種以上含むと、得られる抗菌膜がより優れた抗菌性を有する。
【0048】
また、上記組成物が親水性モノマーを2種以上含む場合、得られる抗菌膜がハードコート性に優れ、且つ、カールがより低減される点で、親水性モノマーのうち少なくとも1種が、1分子中に少なくとも1個のポリオキシアルキレン基と、2個以上の重合性基と、を含むことが好ましい。
【0049】
≪親水性モノマーの好適態様≫
親水性モノマーの好適態様の一つとしては、以下の式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0050】
【0051】
式(1)中、R1は、置換基を表す。置換基の種類は特に制限されず、公知の置換基が挙げられ、例えば、ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基(例えば、アルキル基、及びアリール基等)、及び上述した親水性基等が挙げられる。
R2は、重合性基を表す。重合性基の定義は上述の通りである。
L1は、単結合又は2価の連結基を表す。2価の連結基の種類は特に制限されず、例えば、-O-、-CO-、-NH-、-CO-NH-、-NH-CO-、-COO-、-OCO-、-O-COO-、-COO-O-、アルキレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
L2は、ポリオキシアルキレン基を表す。ポリオキシアルキレン基とは、以下の式(2)で表される基を意図する。
式(2) *-(OR3)m-*
式(2)中、R3は、アルキレン基(例えば、エチレン基、及びプロピレン基等)を表す。mは、2以上の整数を表し、2~10が好ましく、2~6がより好ましい。なお、*は、結合位置を表す。
nは、1~4の整数を表す。
【0052】
親水性モノマーの具体例としては、ポリオキシアルキレン変性ペンタエリスリトールトリアクリレート、及びポリオキシアルキレン変性ビスフェノールAジアクリレートが挙げられる。
【0053】
上記組成物中における親水性モノマーの含有量としては特に制限されないが、上記組成物の全固形分に対して、0.1~50質量%が好ましく、1~25質量%がより好ましい。
親水性モノマーは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上の親水性モノマーを併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0054】
(非親水性モノマー)
非親水性モノマーとしては特に制限されず、公知の重合性基を含むモノマーを用いることができる。なお、重合性基の定義については、上述の通りである。
なかでも、得られる抗菌膜がより優れた機械的強度を有する点で、モノマーとしては、一分子につき重合性基を2個以上含む、いわゆる多官能モノマーが好ましい。多官能モノマーは架橋剤として作用する。
多官能モノマー中に含まれる重合性基の数は特に制限されず、得られる抗菌膜がより優れた機械的強度を有する点、及び多官能モノマー自体の取扱いが容易な点で、2~10個が好ましく、2~6個がより好ましい。
多官能モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、及びペンタエリスリトールテトラアクリレートが挙げられる。
【0055】
上記組成物中における、非親水性モノマーの含有量に対する、親水性モノマーの含有量の含有質量比(親水性モノマーの質量/非親水性モノマーの質量)は特に制限されないが、得られる抗菌膜の親水性の制御がしやすい点で、0.01~10が好ましく、0.1~10がより好ましい。
なお、親水性モノマーと非親水性モノマーと重合開始剤の混合物として、アイカ工業社製の「アイカアイトロンZ-949-1L」を使用できる。
【0056】
上記組成物中における、モノマーの合計量(親水性モノマー及び非親水性モノマーの合計量)としては特に制限されないが、得られる抗菌膜がより優れた汚れ除去性を有する点で、上記組成物の全固形分に対して、60~99.9質量%が好ましく、80~98質量%がより好ましい。
【0057】
<抗ウイルス剤>
上記組成物は、抗ウイルスを含む。なお、使用し得る抗ウイルス剤としては上述の通りである。
【0058】
上記組成物中、銀系抗菌剤の含有量(A)に対する抗ウイルス剤の含有量(C)の含有質量比(C/A)は、0.01以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。またその上限値は、2.0以下が好ましく、1.0以下がより好ましい。
上記組成物中、銀系抗菌剤の含有量(A)に対する抗ウイルス剤の含有量(C)の含有質量比(C/A)が上記数値範囲である場合、得られる抗菌膜は、抗菌スペクトルの広い銀系抗菌剤による抗菌作用と抗ウイルス剤による抗菌作用とが相乗し、抗菌性及び抗ウイルス性がより優れる。
【0059】
上記組成物中、モノマーの含有量(B’)に対する抗ウイルス剤の含有量(C)の含有質量比(C/B’)は、0.001以上が好ましく、0.01以上がより好ましい。また、その上限値は、0.2以下が好ましく、0.1以下がより好ましく、0.05以下が更に好ましい。なお、ここでいう「モノマーの含有量」とは、上述した親水性モノマー及び非親水性モノマーの合計量を意図する。
得られる抗菌膜は、抗ウイルス剤の含有量が多いほど抗ウイルス性が向上するが、一方で膜の硬度(ハードコート性)が低下する傾向にある。特に、抗ウイルス剤として疎水性抗ウイルス剤(例えば、乳酸オリゴマーと乳酸オリゴマーの金属塩との混合物)を用いた場合は、膜の硬度の低下がより顕著となる。得られる抗菌膜は、モノマーの含有量(B’)に対する抗ウイルス剤の含有量(C)の含有質量比(C/B’)が上記数値範囲である場合、抗ウイルス性とハードコート性がより優れる。
また、上記組成物中、特に、モノマーが親水性ポリマーを含み、且つ抗ウイルス剤が疎水性抗ウイルス剤(例えば、乳酸オリゴマーと乳酸オリゴマーの金属塩との混合物)を含む場合、モノマーの含有量(B’)に対する抗ウイルス剤の含有量(C)の含有質量比(C/B’)が0.05以下であれば、疎水性抗ウイルス剤に起因するハジキ状面状故障がより抑制される。
【0060】
上記組成物中、抗ウイルス剤の含有量(C)に対するフッ素系界面活性剤の含有量(D)の含有質量比(D/C)は、0.0001以上が好ましく、0.03以上がより好ましい。また、その上限値としては、1.0以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。
上記組成物中、抗ウイルス剤の含有量(C)に対するフッ素系界面活性剤の含有量(D)の含有質量比(D/C)が1.0以下である場合、フッ素系界面活性剤に起因するミセルが形成されにくいため、得られる抗菌膜がより均一な膜質となる。つまり、フッ素系界面活性剤に起因するハジキ状面状故障がより抑制される。
また、上記組成物中、特に、モノマーが親水性モノマーを含み、且つ抗ウイルス剤が疎水性抗ウイルス剤(例えば、乳酸オリゴマーと乳酸オリゴマーの金属塩との混合物)を含む場合、抗ウイルス剤の含有量(C)に対するフッ素系界面活性剤の含有量(D)の含有質量比(D/C)が0.0001以上(好ましくは0.03以上)であれば、疎水性抗ウイルス剤に起因するハジキ状面状故障がより抑制され、面状性により優れる。
【0061】
抗ウイルス剤の含有量は特に制限されないが、得られる抗菌膜の面状性がより優れる点で、上記組成物の全固形分に対して、0.1~10質量%が好ましく、0.1~4.0質量%がより好ましい。
【0062】
なお、抗ウイルス剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上の抗ウイルス剤を併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0063】
<フッ素系界面活性剤>
上記組成物は、フッ素系界面活性剤を含む。なお、使用し得るフッ素系界面活性剤としては上述の通りである。
フッ素系界面活性剤の含有量は特に制限されないが、上記組成物の全固形分に対して、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましい。なお、フッ素系界面活性剤の含有量の上限値は特に制限されないが、2.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましい。
【0064】
なお、フッ素系界面活性剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上のフッ素系界面活性剤を併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0065】
<溶媒>
上記組成物は、溶媒を含む。
溶媒としては特に制限されず、水及び/又は有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ペンタノール、及びイソペンタノール等のアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、及びプロピレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、及びエチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、及びエチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、及びジ-n-ブチルエーテル等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n-アミル、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル、プロピオン酸エチル、及びプロピオン酸ブチル等のエステル系溶媒等が挙げられる。
溶媒は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
なかでも、より均一な膜厚を有する抗菌膜が得られやすい点で、上記組成物は、有機溶媒を含むことが好ましく、アルコール系溶媒、及び/又はグリコールエーテル系溶媒を含むことがより好ましく、アルコール系溶媒、及びグリコールエーテル溶媒を含むことが更に好ましい。
【0066】
上記組成物の固形分濃度としては、特に制限されないが、上記組成物がより優れた塗布性を有する点で、5~80質量%が好ましく、20~60質量%がより好ましい。
溶媒は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上の溶媒を併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0067】
<その他の成分>
上記組成物は本発明の効果を奏する範囲内において、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、重合開始剤、及び分散剤等が挙げられる。以下では、各成分について、態様を説明する。なお、上記組成物は、銀系抗菌剤以外の抗菌剤を含んでいてもよい。
【0068】
(重合開始剤)
上記組成物は、重合開始剤を含むことが好ましい。上記組成物が重合開始剤を含む場合、得られる抗菌膜はより優れた機械的強度を有する。
重合開始剤としては特に制限されず、公知の重合開始剤を用いることができる。
重合開始剤としては、例えば、熱重合開始剤、及び光重合開始剤等が挙げられる。
重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、及びフェニルフォスフィンオキシド等の芳香族ケトン類;α-ヒドロキシアルキルフェノン系化合物(BASF社製、IRGACURE184、127、2959、及びDAROCUR1173等);フェニルフォスフィンオキシド系化合物(モノアシルフォスフィンオキサイド:BASF社製 IRGACURE TPO、及びビスアシルフォスフィンオキサイド:BASF社製 IRGACURE 819);等が挙げられる。
なかでも、反応効率の観点で、光重合開始剤が好ましい。
【0069】
上記組成物中における重合開始剤の含有量としては特に制限されないが、モノマーの合計量(親水性モノマー及び非親水性モノマーの合計量)に対して、0.1~15質量%が好ましく、1~6質量%がより好ましい。
なお、重合開始剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上の重合開始剤を併用する場合には、合計含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0070】
(分散剤)
上記組成物は、分散剤を含んでいてもよい。
分散剤としては特に制限されず、公知の分散剤を用いることができる。
分散剤としては、例えば、DISPERBYK-180(BYK社製、水溶性、アルキロールアンモニウム塩)等が挙げられる。
上記組成物中における分散剤の含有量としては特に制限されないが、一般的に、組成物の全固形分に対して、0.01~5.0質量%が好ましい。
【0071】
〔抗菌組成物の製造方法〕
上記組成物は、上記の各成分を混合することによって調製することができる。なお、上記成分の混合の順番は特に制限されないが、親水性モノマー、及び非親水性モノマーを溶媒中で混合して混合物を得て、上記混合物とその他の成分とを混合する態様であってもよい。その際、親水性モノマー等を混合するために用いられる溶媒と、混合物とその他の成分とを混合するために用いられる溶媒とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
また、上記組成物が分散剤を含む場合、銀系抗菌剤粒子及び分散剤を先に混合して、銀系抗菌剤粒子を分散剤中に分散させてもよい。
【0072】
〔抗菌組成物の用途〕
上記組成物は、抗菌膜の製造、及び抗菌膜付き基材の製造に用いることができる。より具体的には、例えば、上記組成物を含むインクを作製し、インクジェット法等によって基材の表面に抗菌膜(抗菌コート)を形成する態様が挙げられる。
なお抗菌膜の形成には、抗菌組成物層にUV(ultra violet)照射を行う方法が挙げられる。すなわち、上記組成物は、UVインクジェットインクとしても用いることができる。
また、上記組成物は、例えば、液剤、ジェル剤、エアゾールスプレー剤、及び非エアゾールスプレー剤等の剤型で用いられてもよい。
【0073】
〔抗菌膜付き基材〕
本発明の他の実施態様に係る抗菌膜付き基材は、基材と、基材上に配置された抗菌膜と、を有する。抗菌膜付き基材としては、基材と、基材上に配置された抗菌膜とを有する積層体であればよく、基材の両側の表面上に抗菌膜を備える態様であってもよい。
【0074】
<基材>
基材は、抗菌膜を支持する役割を果たし、その種類は特に制限されない。また、基材は、各種装置の一部(例えば、前面板)を構成するものであってもよい。
基材の形状は特に制限されないが、板状、フィルム状、シート状、チューブ状、繊維状、及び粒子状等が挙げられる。また、抗菌膜が配置される基材表面の形態は特に制限されず、平坦面、凹面、凸面、及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。
基材を構成する材料は特に制限されず、例えば、金属、ガラス、セラミックス、及びプラスチック(樹脂)等が挙げられる。なかでも、取り扱い性の点から、プラスチックが好ましい。言い換えれば、樹脂基材が好ましい。
【0075】
〔抗菌膜の製造方法〕
本発明の他の実施態様に係る抗菌膜の製造方法は、以下の工程を含む。
<工程A>基材の表面に、上記組成物を塗布して、抗菌組成物層を形成する工程
<工程B>抗菌組成物層を硬化させて、抗菌膜を得る工程
【0076】
(工程A)
工程Aは、基材の表面に、上記組成物を塗布して、抗菌組成物層を形成する工程である。基材の表面に上記組成物を塗布する方法としては特に制限されず、公知の塗布法を用いることができる。
基材の表面に上記組成物を塗布する方法としては、例えば、スプレー法、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、インクジェット法、及びダイコーティング法等が挙げられる。
【0077】
抗菌組成物層の膜厚としては特に制限されないが、乾燥膜厚として、0.1~15μmが好ましい。
また、抗菌組成物を塗布した後、溶媒を除去するために加熱処理を行ってもよい。その場合の加熱処理の条件としては特に制限されず、例えば、加熱温度としては、50~200℃が好ましく、加熱時間としては、15~600秒が好ましい。
なお、工程Aにおいて用いることができる基材としては、すでに説明した基材の態様と同様である。
【0078】
(工程B)
工程Bは、抗菌組成物層を硬化させて、抗菌膜を得る工程である。
抗菌組成物層を硬化させる方法としては特に制限されないが、例えば、加熱処理及び/又は露光処理が挙げられる。
露光処理としては、特に制限されないが、例えば、紫外線ランプにより100~600mJ/cm2の照射量の紫外線を照射して抗菌組成物層を硬化する態様が挙げられる。
紫外線照射の場合、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、及びメタルハライドランプ等の光線から発する紫外線等が利用できる。
加熱処理の温度としては特に制限されないが、例えば、50~150℃が好ましく、80~120℃がより好ましい。
【0079】
〔抗菌膜付き基材の製造方法〕
本発明の他の実施態様に係る抗菌膜付き基材の製造方法は、基材の表面に、抗菌膜を形成する工程を含む抗菌膜付き基材の製造方法である。
抗菌膜を形成する工程としては、特に制限されないが、以下のいずれかの態様が好ましい。なお、基材についてはすでに説明したとおりである。
【0080】
<好適態様1>
基材の表面に上記組成物を塗布して抗菌組成物層を形成し、抗菌組成物層を硬化させて抗菌膜を得る工程。
上記好適態様1については、抗菌膜の製造方法としてすでに説明した態様と同様である。
<好適態様2>
基材と、抗菌膜とを貼り合せる工程。
上記好適態様2としては、基材、及び/又は抗菌膜に接着剤を塗布し、接着剤層を形成し、基材と抗菌膜とを貼り合わせ、必要に応じて接着剤を硬化させる方法が挙げられる。
接着剤としては特に制限されず、公知の接着剤を用いることができる。
接着剤としては、例えば、ホットメルトタイプ、熱硬化タイプ、光硬化タイプ、反応硬化タイプ、及び硬化の不要な感圧接着タイプ等が挙げられ、それぞれ素材としてアクリレート系、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、エポキシ系、エポキシアクリレート系、ポリオレフィン系、変性オレフィン系、ポリプロピレン系、エチレンビニルアルコール系、塩化ビニル系、クロロプレンゴム系、シアノアクリレート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリスチレン系、及びポリビニルブチラール系等の化合物を使用することができる。
【0081】
〔抗菌性の付与方法〕
本発明の抗菌性の付与方法は特に制限されないが、本発明の抗菌組成物を用いる場合、大腸菌、インフルエンザウイルス、及びノロウイルス等の細菌及びウイルスが付着、又は付着するおそれがある箇所に、塗布する、又は予め塗布しておくことができる。上記組成物を塗布する方法としては特に制限されないが、例えば組成物を上記箇所に噴霧する方法、及び上記組成物を含む基布等によって上記箇所を拭く方法等が挙げられる。また、本発明の抗菌膜を用いる場合、上述した抗菌膜付き基材の製造方法により、基材(抗菌性を付与したい物品)上に抗菌膜を付与する方法が挙げられる。
【実施例】
【0082】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により制限的に解釈されるべきものではない。
【0083】
〔抗菌組成物の調製、及び抗菌膜付き基材の作製〕
各種成分及び溶媒を混合して抗菌組成物を調製し、後述する手順により、表1に示す配合比(固形分比)の抗菌膜を作製した。
【0084】
<抗菌組成物の調製>
なお、上記抗菌組成物は、後述する、銀系抗菌剤、親水性モノマー、非親水性モノマー、重合開始剤、抗ウイルス剤、フッ素系界面活性剤、分散剤、及び溶媒(溶媒としては、イソプロピルアルコール(IPA)を使用した。)を混合し、固形分濃度が35.0質量%となるように調製した。
【0085】
<抗菌膜付き基材の作製>
上記抗菌組成物を用いて、以下の方法より抗菌膜付き基材を得た。
PET(Polyethylene terephthalate)シート(東洋紡社製コスモシャインA4300)の表面上に、膜厚が5.0μmの抗菌膜が得られるように上記抗菌組成物を塗布し、120℃で2分乾燥させた後、UV(ultraviolet)照射によりモノマー等を硬化させて抗菌膜付き基材を形成した。
【0086】
<各種成分>
以下に、表1に示される各種成分を示す。
・バクテライトMP102SVC13(富士ケミカル社製;リン酸CaZn系Ag;銀含有量は質量1%、銀抗菌剤に該当する:銀を担持した無機粒子に該当する。)
・ノバロンAG300(東亜合成社製;リン酸Zr系Ag;銀含有量は3質量%;銀抗菌剤に該当する:銀を担持した無機粒子に該当する。)
・アイカアイトロンZ-949-1L(アイカ工業社製;親水性モノマー、非親水性モノマー、及び重合開始剤を含む。)
・イマーディーズ(興研株式会社製、乳酸オリゴマーと乳酸オリゴマーの銅塩との混合物に該当する。なお、乳酸オリゴマー及び乳酸オリゴマーの金属塩は、いずれも疎水性抗ウイルス剤に該当し、水(25℃)に対する溶解度が100g/L以下である。)
・メガファックF-780(DIC社製;フッ素系界面活性剤に該当する。)
・フロロサーフFS-7027(フロロテクノロジー社製;フッ素系界面活性剤に該当する。)
・DisperBYK180(BYK社製;分散剤に該当する。)
・トクソーIPA(isopropyl alcohol)工業用(商品名)(トクヤマ社製;アルコール系溶媒に該当する。)
【0087】
〔各種評価〕
(抗菌性)
JIS-Z-2801:2010に準拠し、被検菌には大腸菌を使用し、菌液への接触時間を3時間に変更して試験を実施した。試験後の抗菌活性値を測定し、以下の基準に従って評価を行った。実用上、「B」以上が好ましい。
(評価基準)
「A」:抗菌活性値が、3.0以上であった。
「B」:抗菌活性値が、2.0以上3.0未満であった。
「C」:抗菌活性値が、2.0未満であった。
抗菌活性値; 無加工試験片における3時間後の生菌数Ubと、各水準の試験片における3時間後の生菌数Tbの関係を以下で表したもの。
抗菌活性値=log10(Ub/Tb)
【0088】
(抗ウイルス性)
JIS-Z-2801、ISO18184規格を参考として試験を実施した。MEM(Minimum Essential Media)培地中に約108PFU/mLとなるように作製したウイルス液を、滅菌済み蒸留水で10倍希釈したものを試験ウイルス液とした。ウイルスにはノロウイルス代替のネコカリシウイルスを用いた。各検体に試験ウイルス液を0.4mL接種し、その上に16cm2のポリエチレンフィルムを被せて密着させ、25℃、24時間放置した。その後、洗い出し液を10mL加え、ピペッティングにて検体からウイルスを洗い出した。洗い出し液は、血清を終濃度10%となるように添加したSCDLP培地(Soybean-Casein Digest Broth with Lecithin and Polysorbate 80)を用いた。洗い出し液中のウイルス感染価を測定し、被覆フィルム1cm2あたりの感染価から抗ウイルス活性値を算出し、以下の基準に従って評価を行った。実用上、「B」以上が好ましい。
(評価基準)
「A」:抗ウイルス活性値が、3.0以上であった。
「B」:抗ウイルス活性値が、2.0以上3.0未満であった。
「C」:抗ウイルス活性値が、2.0未満であった。
抗ウイルス活性値; 無加工試験片における24時間後のウイルス感染価UVと、各水準の試験片における24時間後のウイルス感染価TVの関係を以下で表したもの。
抗ウイルス活性値=log10(UV/TV)
【0089】
(変色抑制性)
白色プラスチックフィルムがラミネートされた厚さ2.5mmの10cm角に切断したベニヤ板に、両面テープにて10cm角に切断した試験フィルムを抗菌層が塗工された面を最外層に来るように貼合し、指を押し付けて指跡を付着させる。指跡を付着させた試験フィルムを照明が当たる居室に20日間静置させ、指跡を付着させた部位の変色度合いを以下の基準に従って評価を行った。実用上、「B」以上が好ましい。
(評価基準)
「A」:変色が確認されなかった。
「B」:ごく僅かに変色が確認された。
「C」:僅かに変色が確認された。
「D」:はっきりと変色が確認された。
【0090】
(面状性(ハジキ状面状故障抑制性))
試験フィルムをA4サイズに切断し、面内に存在するハジキ状面状故障を目視でカウントし、ハジキ状面状故障を以下の基準に従って評価を行った。実用上、「B」以上が好ましい。
(評価基準)
「A」:故障数がゼロであった。
「B」:故障数が1個あった。
「C」:故障数が2~3個であった。
「D」:故障数が4個以上であった。
【0091】
表1に、実施例及び比較例の抗菌膜を示す。
表1中、各成分の含有量は、抗菌膜の全質量に対する質量%として示した。なお、表1中、バインダー(B)欄に記載される「アイカアイトロンZ-949-1L(アイカ工業社製)」は上述したように親水性モノマーと非親水性モノマーとの混合物であり、重合後に抗菌膜中において親水性基を有するポリマー(親水性ポリマー)の形態をとっている。
また、表1は抗菌膜組成として各種成分の配合を示したが、上記抗菌膜を形成するための抗菌組成物についても、組成物中の各種成分の固形分比は、表1の配合比と概ね一致する。
また、表1中、「含有質量比C/A」とは、「抗ウイルス剤の含有量/銀系抗菌剤の含有量」を意図する。
また、表1中、「含有質量比C/B」とは、「抗ウイルス剤の含有量/バインダーの含有量」を意図する。
また、表1中、「含有質量比D/C」とは、「フッ素系界面活性剤の含有量/抗ウイルス剤の含有量」を意図する。
【0092】
【0093】
表1の結果から、実施例の抗菌膜は、抗菌性、抗ウイルス性、及び変色抑制性のいずれについても優れていることが明らかである。
また、実施例1~3及び実施例5~7の対比から、抗菌膜中のフッ素系界面活性剤の含有量が、抗菌膜の全質量に対して、0.05~1.0質量%である場合、抗菌膜の変色抑制性及び面状性がより優れることが確認された。
また、実施例1~3及び実施例5~7の対比から、抗菌膜中のフッ素系界面活性剤の含有量(D質量%)と抗ウイルス剤の含有量(C質量%)の含有質量比(D/C)が0.03以上である場合、抗菌膜の面状性がより優れることが確認された。
【0094】
また、実施例1~3及び実施例5~7の対比から、抗菌膜中の抗ウイルス剤の含有量が、抗菌膜の全質量に対して、0.1~4.0質量%である場合、抗菌膜の面状性がより優れることが確認された。
また、実施例1~3及び実施例5~7の対比から、抗菌膜中のバインダーの含有量と抗ウイルス剤の含有量の含有質量比(C/B)が0.05以下である場合、抗菌膜の面状性がより優れることが確認された。
【0095】
また、実施例1~3及び実施例5~7の対比から、抗菌膜中の銀系抗菌剤の含有量が、抗菌膜の全質量に対して、2.0~10質量%である場合、抗菌膜の抗菌性と抗ウイルス性がいずれにも優れることが確認された。
また、実施例1~3及び実施例5~7の対比から、抗ウイルス剤の含有量と銀系抗菌剤の含有量の含有質量比(C/A)が1.0以下である場合、得られる抗菌膜は、抗菌膜の抗菌性と抗ウイルス性がいずれにも優れることが確認された。
【0096】
一方、フッ素系界面活性剤を含まない比較例(比較例1~4)の抗菌膜は、変色抑制性に劣ることが確認された。更に、上記比較例のなかでも、バインダーが親水性ポリマーを含み、且つ、抗ウイルス剤が疎水性抗ウイルス剤を含む場合(比較例1~3)、抗ウイルス剤を起因とするハジキ状面状故障が生じることが確認された。