(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】全固体二次電池の製造方法、並びに、全固体二次電池用電極シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20220713BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220713BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220713BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220713BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220713BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/13
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2020549264
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2019037484
(87)【国際公開番号】W WO2020067107
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2020-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2018182797
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀幸
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/053359(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0585
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/13
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で積層した層構成を有する全固体二次電池の製造方法であって、
ポリマーからなるバインダーと無機固体電解質とを含有し、前記バインダーの固形分含有量が2~5質量%である固体電解質組成物を支持体上で製膜する工程と、
前記支持体上に形成され
た固体電解質層と、正極活物質層及び負極活物質層の一方の活物質層とを重ねて加圧圧着する前加圧圧着工程と、
前記活物質層に加圧圧着された前記固体電解質層の1~10質量%を前記支持体に残存させて、前記支持体を前記固体電解質層から剥離する工程と、
前記支持体を剥離した固体電解質層と、正極活物質層及び負極活物質層の他方の活物質層とを重ねて加圧圧着する後加圧圧着工程と、
を有する、全固体二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記バインダーが粒子状バインダーである、請求項1に記載の全固体二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記前加圧圧着工程において、前記固体電解質層中の前記バインダーの含有量が2~5質量%であり、加圧力が5~100MPaである、請求項1又は2に記載の全固体二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記支持体上に形成された前記固体電解質層の層厚が、20~100μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の全固体二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記剥離工程において、前記固体電解質層の1~5質量%を残存させて前記支持体を剥離する、請求項1~4のいずれか1項に記載の全固体二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記後加圧圧着工程で得られる、正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層との積層体を100~1000MPaの加圧力で加圧する最終加圧工程を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の全固体二次電池の製造方法。
【請求項7】
正極活物質層及び負極活物質層の一方の活物質層と、該活物質層に積層され、ポリマーからなるバインダーと無機固体電解質とを含有し、表面に凹凸を有する固体電解質層とを有する全固体二次電池用電極シートの製造方法であって、
ポリマーからなるバインダーと無機固体電解質とを含有し、前記バインダーの固形分含有量が2~5質量%である固体電解質組成物を支持体上で製膜する工程と、
前記支持体上に形成された固体電解質層と、正極活物質層及び負極活物質層の一方の活物質層とを重ねて加圧圧着する前加圧圧着工程と、
前記活物質層に加圧圧着された前記固体電解質層の1~10質量%を前記支持体に残存させて、前記支持体を前記固体電解質層から剥離する工程と、
を有する全固体二次電池用電極シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池の製造方法、並びに、全固体二次電池用電極シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体二次電池は負極、電解質、正極の全てが固体からなり、有機電解液を用いた電池の課題とされる安全性及び信頼性を大きく改善することができる。また長寿命化も可能になるとされる。更に、全固体二次電池は、電極と電解質を直接並べて直列に配した構造とすることができる。そのため、有機電解液を用いた二次電池に比べて高エネルギー密度化が可能となり、電気自動車又は大型蓄電池等への応用が期待されている。
【0003】
全固体二次電池は、一般に、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層をこの順で積層した層構成を有している。このような層構成を有する全固体二次電池の製造方法について種々の技術が提案されている。その一例として、構成層を加圧圧着(プレス)する製造技術が挙げられる。例えば、特許文献1には、高弾性率部材上に電解質膜と第1の電極層とをこの順で積層した後に加圧し、次いで、高弾性率部材を剥離した後に第2の電極層を電解質膜に積層して加圧する方法が記載されている。また、特許文献2には、正極合剤層と固体電解質層とを加圧接合した第1の積層体と、負極合剤層と固体電解質層とを加圧接合した第2の積層体とを、各積層体の固体電解質層が重なり合うように積層して加圧接合する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-293721号公報
【文献】特開2015-118870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
全固体二次電池の負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層等の構成層は、一般に、固体粒子(無機固体電解質、固体粒子、導電助剤等)で形成されている。そのため、各層中の固体粒子同士の密着性だけでなく、隣接する層同士が高い層間密着性で積層されていることが、全固体二次電池の電池性能、とりわけ電池抵抗の点で、重要となる。
しかし、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層の積層体を複数回に分けてプレスして積層体を形成する方法では、各層を十分な層間密着性で加圧圧着できない。例えば、特許文献1に記載の方法のように、正極活物質層と固体電解質層とを加圧圧着すると、通常、固体電解質層の、負極活物質層を設ける表面は平坦になるため、固体電解質層と負極活物質層とは加圧圧着しても層間に強固な密着性は発現しない。特許文献2に記載の方法は、正極活物質層及び負極活物質層それぞれに加圧圧着した固体電解質層同士を更に加圧圧着することにより、各活物質層と固体電解質層との界面での空隙の発生を防止できると記載されている。それでも、加圧圧着した固体電解質層の表面は平坦になるため、固体電解質層同士を強固に密着させることはできず、改善の必要がある。
とりわけ、近年、電気自動車の高性能化、実用化等の研究開発が急速に進行し、全固体二次電池に求められる電池性能も高くなっている。そのため、構成層の層間密着性を更に強固なものとし、より高い電池性能を示す全固体二次電池を製造する方法が求められている。
【0006】
本発明は、構成層を強固な層間密着性で加圧圧着することにより、高い電池性能を示す全固体二次電池を生産性よく製造する方法を提供することを課題とする。また、本発明は、この製造方法により中間製品として製造される全固体二次電池用電極シート及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討を重ねた結果、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層を順次加圧圧着する方法を行うに当たり、正極活物質層及び負極活物質層の一方の活物質層と、支持体上に形成した固体電解質層とを加圧圧着した後に支持体を剥離する際に、固体電解質層の一部を支持体に残存させることにより、固体電解質層とこの固体電解質層に積層される他方の活物質層とを強固な層間密着性で加圧圧着できることを見出した。更に、こうして製造された全固体二次電池が優れた電池性能(低い電池抵抗)を示すことをも見出した。本発明はこれらの知見に基づき更に検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0008】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で積層した層構成を有する全固体二次電池の製造方法であって、
支持体上に形成された、ポリマーからなるバインダー及び無機固体電解質を含有する固体電解質層と、正極活物質層及び負極活物質層の一方の活物質層とを重ねて加圧圧着する前加圧圧着工程と、
活物質層に加圧圧着された固体電解質層の1~10質量%を支持体に残存させて、支持体を固体電解質層から剥離する工程と、
支持体を剥離した固体電解質層と、正極活物質層及び負極活物質層の他方の活物質層とを重ねて加圧圧着する後加圧圧着工程と、
を有する、全固体二次電池の製造方法。
<2>前加圧圧着工程の前に、ポリマーからなるバインダーと無機固体電解質とを含有する固体電解質組成物を支持体上で製膜する工程を有する、<1>に記載の全固体二次電池の製造方法。
<3>バインダーが粒子状バインダーである、<1>又は<2>に記載の全固体二次電池の製造方法。
<4>前加圧圧着工程において、固体電解質層中のバインダーの含有量が2~5質量%であり、加圧力が5~100MPaである、<1>~<3>のいずれか1つに記載の全固体二次電池の製造方法。
<5>支持体上に形成された固体電解質層の層厚が、20~100μmである、<1>~<4>のいずれか1つに記載の全固体二次電池の製造方法。
<6>剥離工程において、固体電解質層の1~5質量%を残存させて支持体を剥離する、<1>~<5>のいずれか1つに記載の全固体二次電池の製造方法。
<7>後加圧圧着工程で得られる、正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層との積層体を100~1000MPaの加圧力で加圧する最終加圧工程を有する、<1>~<6>のいずれか1つに記載の全固体二次電池の製造方法。
<8>正極活物質層及び負極活物質層の一方の活物質層と、この活物質層に積層された固体電解質層とを有する全固体二次電池用電極シートであって、
固体電解質層は、ポリマーからなるバインダーと無機固体電解質とを含有し、その表面に凹凸を有する、全固体二次電池用電極シート。
<9>上記<8>に記載の全固体二次電池用電極シートの製造方法であって、
支持体上に形成された固体電解質層と、正極活物質層及び負極活物質層の一方の活物質層とを重ねて加圧圧着する前加圧圧着工程と、
活物質層に加圧圧着された固体電解質層の1~10質量%を支持体に残存させて、支持体を固体電解質層から剥離する工程と、
を有する全固体二次電池用電極シートの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、活物質層と固体電解質層とを強固に加圧圧着(密着又は単に圧着ということがある。)させて高い電池性能を示す全固体二次電池を生産性よく製造する方法を提供できる。また、本発明は、この製造方法により中間製品として製造される全固体二次電池用電極シート及びその製造方法を提供できる。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池を模式化して示す縦断面図である。
【
図2】実施例で作製したコイン型全固体二次電池を模式的に示す縦断面図である。
【
図3】本発明の全固体二次電池の好ましい製造方法における前加圧圧着工程において、負極活物質シートの負極活物質層と、固体電解質シートの固体電解質層とを互いに接触させて重ねた状態を示す概略断面図である。
【
図4】本発明の全固体二次電池の好ましい製造方法における剥離工程を実施した後の、負極活物質シートと固体電解質層との積層シートを示す概略断面図である。
【
図5】本発明の全固体二次電池の好ましい製造方法における後加圧圧着工程において、固体電解質層と、正極活物質シートの正極活物質層とを互いに接した状態で重ねた状態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、層を「加圧圧着する」とは、直接(隣接して)積層する層同士を重ねて加圧することにより、これらの層を圧着(接合)して一体化した積層体を形成することをいう。
また、本発明において、「活物質層に固体電解質層を転写する」とは、活物質層と固体電解質層とを直接積層可能な状態(接触状態)で加圧圧着して一体化した積層体を形成することをいう。本発明の製造方法においては、具体的には、支持体上に形成された固体電解質層と活物質層とを接触状態で加圧圧着した後に支持体を剥離して、活物質層と固体電解質層との積層体を形成することをいい、本発明で規定する、前加圧圧着工程及び剥離工程により実施される。
本発明において、同一の組成を有する複数の構成層が直接積層されている場合、各構成層が別々に形成されている場合、各層をそれぞれ1層とする。例えば、特許文献2において、正極合剤層及び負極合剤層それぞれに加圧接合された固体電解質層は、互いに直接積層されていても、また同じ組成を有していても、2層の積層構造とする。
本発明においては、各工程で形成される層を、負極活物質層、正極活物質層又は固体電解質層と称している。厳密には、各工程で形成される層と、全固体二次電池に組み込まれた層(最終加圧工程中又は後の層)とは同一ではない(例えば層厚が減少する)が、理解を助けるため、同一の名称を用いている。なお、各工程で形成される層を、全固体二次電池に組み込まれた層と区別する必要がある場合は、(各組成物)の塗布乾燥層等と称することがある。
【0012】
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明において、単に「アクリル」又は「(メタ)アクリル」と記載するときは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。
【0013】
まず、本発明の全固体二次電池の製造方法及び全固体二次電池用電極シートの製造方法(併せて本発明の製造方法ということがある。)により製造される、全固体二次電池及び全固体二次電池用電極シート、更に本発明の製造方法に好適に用いられる全固体二次電池用シートについて、説明する。
【0014】
[全固体二次電池]
本発明の全固体二次電池の製造方法により製造される全固体二次電池(以下、本発明における全固体二次電池ということがある。)は、正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層とをこの順で直接積層した層構成を有している。より具体的には、正極活物質層と、この正極活物質層に対向する負極活物質層と、正極活物質層及び負極活物質層の間に正極活物質層及び負極活物質層に隣接して配置された固体電解質層とを有している。この全固体二次電池において、正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層との各層は強固な層間密着性で積層(圧着)されている。
正極活物質層は、好ましくは、固体電解質層とは反対側の表面に正極集電体が設けられて、正極を構成する。同様に、負極活物質層は、好ましくは、固体電解質層とは反対側の表面に負極集電体が設けられて、負極を構成する。
全固体二次電池における各層の層厚は、それぞれ、特に制限されないが、一般的な全固体二次電池の寸法を考慮すると、10~1,000μmが好ましく、20μm以上500μm未満がより好ましい。正極活物質層及び負極活物質層の少なくとも1層の層厚は50μm以上500μm未満であることが更に好ましい。
本発明において、正極活物質層及び負極活物質層の両方を合わせて、単に活物質層と称することがある。また、正極活物質及び負極活物質両方を合わせて、単に活物質と称することがある。
【0015】
正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層は後述する各組成物で形成され、各層が含有する成分種及びその含有量は、各組成物が含有する成分種及び各組成物の固形分に対する含有量と同じである。後述する前加圧着工程で固体電解質層が加圧圧着される正極活物質層又は負極活物質層は、金属からなる層(金属層)で形成されていてもよい。負極活物質層として好適な金属層としては、例えば、リチウム金属の粉末を堆積若しくは成形してなる層、リチウム箔、リチウム蒸着膜等のリチウム金属層が挙げられる。リチウム金属層の層厚は、負極活物質層の上記層厚にかかわらず、例えば、1~500μmとすることができる。
【0016】
〔筐体〕
本発明における全固体二次電池は、用途によっては、上記構造のまま全固体二次電池として使用してもよいが、乾電池等の形態とするためには更に適当な筐体に封入して用いることが好ましい。筐体は、金属性のものであっても、樹脂(プラスチック)製のものであってもよい。金属性のものを用いる場合には、例えば、アルミニウム合金製又はステンレス鋼製のものを挙げることができる。金属性の筐体は、正極側の筐体と負極側の筐体に分けて、それぞれ正極集電体及び負極集電体と電気的に接続させることが好ましい。正極側の筐体と負極側の筐体とは、短絡防止用のガスケットを介して接合され、一体化されることが好ましい。
【0017】
以下に、
図1を参照して、本発明における好ましい実施形態に係る全固体二次電池について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0018】
図1は、本発明における好ましい実施形態に係る全固体二次電池(リチウムイオン二次電池)を模式化して示す断面図である。本実施形態の全固体二次電池10は、負極側からみて、負極集電体1、負極活物質層2、固体電解質層3、正極活物質層4、正極集電体5を、この順に有している。各層はそれぞれ接触しており、隣接した層構造をとっている。このような層構造を採用することで、充電時には、負極側に電子(e
-)が供給され、そこにリチウムイオン(Li
+)が蓄積される。一方、放電時には、負極に蓄積されたリチウムイオン(Li
+)が正極側に戻され、作動部位6に電子が供給される。図示した例では、作動部位6に電球をモデル的に採用しており、放電によりこれが点灯するようにされている。
【0019】
図1に示す層構成を有する全固体二次電池を2032型コインケースに入れる場合、
図2に示されるように、この全固体二次電池を全固体二次電池用積層体12と称し、この全固体二次電池用積層体12を2032型コインケース11に入れて作製した電池をコイン型全固体二次電池13と称することもある。
【0020】
(正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層)
全固体二次電池10は、正極活物質層4と固体電解質層3と負極活物質層2との各層が強固な層間密着性で積層されており、優れた電池性能を示す。全固体二次電池10において、負極活物質層4及び正極活物質層2は、後述する負極用組成物若しくは正極用組成物で形成されている。
図1に図示していないが、全固体二次電池10は、負極集電体1と負極活物質層2との間、正極活物質層4と正極集電体5との間、又は、全固体二次電10の外側には、機能性の層、部材、上記筐体等を適宜介在若しくは配設してもよい。また、各層は、複層で構成されていてもよいが、単層で構成されていることが好ましい。
【0021】
[全固体二次電池用電極シート]
本発明の全固体二次電池用電極シートは、本発明における全固体二次電池に好適に用いられる。この全固体二次電池用電極シートは、正極活物質層及び負極活物質層の一方の活物質層と、この活物質層に積層(加圧圧着)された固体電解質層とを有している。この固体電解質層は、ポリマーからなるバインダーと無機固体電解質とを含有しており、その表面に凹凸を有している。本発明の全固体二次電池用電極シートは、好ましくは、後述する本発明の全固体二次電池の製造方法における前加圧圧着工程と剥離工程とにより製造され、その好ましい例として
図4に示される全固体二次電池用電極シート15が挙げられる。
全固体二次電池用電極シートにおける固体電解質層の表面凹凸は、固体電解質層の一部(1~10質量%)が欠落若しくは脱落して形成されたものであれば、その形状は特に制限されず、また
図4に示されるように凹凸の周期は一定(均一)でなくてもよい。表面の凹部は、剥離工程で固体電解質層の一部が転写されずに支持体に残存することによって、(未転写部として)形成される。
本発明の全固体二次電池用電極シートを形成する材料及び方法は後述する。
【0022】
本発明の全固体二次電池用電極シートは、活物質層及び固体電解質層が基材(集電体)上に形成されているシートでも、基材を有さず、活物質層及び固体電解質層から形成されているシートであってもよい。
基材としては、活物質層及び固体電解質層を支持できるものであれば特に限定されないが、集電体として機能するものが好ましい。基材を形成する材料としては、例えば、後述する集電体で説明する材料、有機材料、無機材料等のシート体(板状体)等が挙げられる。有機材料としては、各種ポリマー等が挙げられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース等が挙げられる。無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック等が挙げられる。
本発明の全固体二次電池用電極シートは、保護層(剥離シート)、コート層等の他の層を有していてもよい。
本発明の全固体二次電池用電極シートを構成する各層及びその層厚は、本発明における全固体二次電池において説明した各層及び層厚と同じである。電極シートの活物質層中の各成分の含有量は、特に限定されないが、好ましくは、本発明の固体電解質組成物(電極用組成物)の固形分中における各成分の含有量と同様である。
【0023】
[全固体二次電池用シート]
本発明の製造方法に用いる各層は、予めシート状若しくはフィルム状に成形されたのが好ましい。例えば、活物質層を有し、活物質層に積層された固体電解質層を有さない活物質シート、固体電解質層を有する固体電解質シート等が挙げられる。これらのシートは、活物質層又は固体電解質層が基材上に形成されているシートでも、基材を有さず、活物質層又は固体電解質層から形成されているシートであってもよい。後述する前加圧圧着工程に用いるシートは、集電体として機能する基材を有する活物質シート、及び支持体として機能する基材を有する固体電解質シートが好ましい。基材を形成する材料は上述の通りである。また、これらのシートは、上述の他の層を有してもよい。
全固体二次電池用シートの各層及び層厚は、後述する全固体二次電池において説明する各層及び層厚と同じである。全固体二次電池用固体電解質シートが有する固体電解質層は、本発明の固体電解質組成物で形成されることが好ましい。この固体電解質層中の各成分の含有量は、特に限定されないが、好ましくは、本発明の固体電解質組成物の固形分中における各成分の含有量と同様である。
【0024】
[本発明の製造方法]
本発明の全固体二次電池の製造方法は、下記前加圧圧着工程と、下記剥離工程と、下記後加圧圧着工程とを有し、これらの工程をこの順で行う。一方、本発明の全固体二次電池用電極シートの製造方法は、下記前加圧圧着工程と下記剥離工程とを有し、この順で行う。
本発明の製造方法は、前加圧圧着工程と剥離工程とを行うことにより、活物質層と反対側の表面に凹凸を有する形態で固体電解質層を活物質層に転写することができる。このように固体電解質層の転写とともに表面に凹凸を形成できるため、生産効率が高く、しかも、この表面に活物質層を強固な層間密着性で加圧圧着することができる。そのため、活物質層と固体電解質層とを強固に密着させて高い電池性能を示す全固体二次電池を生産性よく製造できる。
前加圧圧着工程:支持体上に形成された、ポリマーからなるバインダー及び無機固体電解質を含有する固体電解質層と、正極活物質層及び負極活物質層の一方の活物質層とを重ねて加圧圧着する工程
剥離工程:活物質層に加圧圧着された固体電解質層の1~10質量%を支持体に残存させて、支持体を固体電解質層から剥離する工程
後加圧圧着工程:支持体を剥離した固体電解質層と、正極活物質層及び負極活物質層の他方の活物質層とを重ねて加圧圧着する工程
本発明において、各工程は、上記順で行われれば、連続して行ってもよく、他の工程(例えば下記工程)を介して(不連続で)行ってもよい。また、各工程を不連続で行う場合、時間、場所、実施者等を変更して、行うこともできる。
【0025】
本発明の製造方法においては、好ましくは、下記工程の少なくとも1つを有する。
下記成膜工程のうち複数の成膜工程を行う場合、各工程に用いる組成物が含有する各成分(無機固体電解質、バインダー等)は同種であっても異種であってもよい。
固体電解質層の成膜工程:上記前加圧圧着工程の前に、ポリマーからなるバインダーと無機固体電解質とを含有する固体電解質組成物を支持体上で製膜する工程
一方の活物質層の成膜工程:上記前加圧圧着工程の前に、正極活物質及び負極活物質の一方の活物質を含有する電極用組成物を基材(集電体)上で製膜する工程
他方の活物質層の成膜工程:上記後加圧圧着工程の前に、正極活物質及び負極活物質の他方の活物質層を含有する電極用組成物を基材(集電体)上で製膜する工程
最終加圧工程:正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層との積層体(全固体二次電池用積層体)を100~1000MPaの加圧力で加圧する工程
本発明の製造方法においては、更に、成膜した構成層(シート)を公知の方法で切断する切断工程を有していてもよい。
【0026】
<固体電解質層の成膜工程>
本発明の製造方法においては、好ましくは、上記前加圧圧着工程の前に、固体電解質層を成膜する工程を行うが、上記前加圧圧着工程の前に行う一方の活物質層の成膜工程との前後は問わない。本発明の製造方法では、特に制限されないが、この成膜工程で作製した、支持体と固体電解質層とをこの順で積層した固体電解質シートを、上記前加圧圧着工程に用いることが好ましい。
この成膜工程は、バインダーと無機固体電解質とを含有する固体電解質組成物を支持体上で製膜して、支持体と固体電解質層との積層体を作製可能な方法を特に制限されることなく、適用できる。例えば、支持体上に(直接)固体電解質組成物を製膜(塗布乾燥)する方法が挙げられる。これにより、支持体上に固体電解質組成物の塗布乾燥層を形成することができる。塗布乾燥層とは、固体電解質組成物を塗布し、分散媒を乾燥させることにより形成される層(すなわち、固体電解質組成物から分散媒を除去した組成からなる層)をいう。塗布乾燥層は、本発明の効果を損なわない限り、乾燥後も分散媒を含有してよく、例えば塗布乾燥層の全質量に対して1質量%以下の含有量で含有(残存)していてもよい。この塗布乾燥層は、全固体二次電池に組み込まれて固体電解質層となる層である。
【0027】
固体電解質組成物の塗布方法は、特に制限されず、適宜に選択できる。例えば、スプレー塗布、スピンコート塗布、ディップコート、スリット塗布、ストライプ塗布、バーコート塗布、ベーカー式アプリケーターを用いた塗布等の各塗布法(好ましくは湿式塗布)が挙げられる。
固体電解質組成物の塗布において、固体電解質層の単位面積(cm2)当たりの無機固体電解質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば1~100mg/cm2とすることができる。ただし、固体電解質組成物が後述する活物質を含有する場合、無機固体電解質の目付量は、活物質と無機固体電解質との合計量が上記範囲であることが好ましい。
【0028】
固体電解質組成物の乾燥温度は特に制限されない。乾燥温度の下限は、30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましい。乾燥温度の上限は、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下が更に好ましい。このような温度範囲で加熱することで、分散媒を除去し、固体電解質組成物を固体状態(塗布乾燥層)にすることができる。乾燥時間は、特に制限されず、例えば、0.3~3時間である。
【0029】
固体電解質層の成膜工程においては、固体電解質組成物を製膜した後に加圧することもできる。加圧方法としては、特に制限されず、プレス法が挙げられ、具体的には、油圧シリンダープレス機を用いた平面プレス法、加圧ローラを用いたローラプレス法等が挙げられる。加圧力としては、塗布乾燥層中の無機固体電解質粒子、更には粒子状のバインダーが粒子状の形態を保持できる範囲で調整されることが好ましい。加圧力は、例えば1~100MPaであり、好ましくは5~80MPaである。加圧時間は、特に制限されないが、例えば、1秒以上5時間以下とすることができ、好ましくは3秒以上1時間以下である。加圧は、短時間(例えば数時間以内)で高い圧力をかけて行ってもよいし、長時間(1日以上)かけて中程度の圧力をかけて行ってもよい。加圧中の雰囲気としては、特に制限されず、大気下、乾燥空気下(露点-20℃以下)、不活性ガス中(例えばアルゴンガス中、ヘリウムガス中、窒素ガス中)等が挙げられる。加圧力は被圧部(塗布乾燥層)に対して均一であっても異なる圧であってもよく、加圧力を被圧部の面積又は層厚に応じて変化させることができる。また同一部位を段階的に異なる圧力で変えることもできる。なお、プレス機のプレス面は平滑であっても粗面化されていてもよい。
塗布乾燥層の加圧は、加熱下で行うこともできる。加熱温度としては特に制限されず、一般的には30~300℃の範囲である。無機固体電解質のガラス転移温度よりも高い温度で加圧することもでき、バインダーを形成するポリマーのガラス転移温度よりも高い温度で加圧することもできる。ただし、一般的にはポリマーの融点を越えない温度とする。
【0030】
こうして得られた塗布乾燥層(固体電解質層)の層厚は、特に制限されず、全固体二次電池中における固体電解質層の上記層厚と同じであってもよい。塗布乾燥層は、後述する工程で加圧されるため、全固体二次電池中の固体電解質層よりも厚い層厚にしてもよい。塗布乾燥層の膜厚は、例えば、20~200μmが好ましく、20~100μmがより好ましく、40~80μmが更に好ましい。
塗布乾燥層(固体電解質層)は、後述する、バインダー及び無機固体電解質を含有しており、無機固体電解質同士、更には無機固体電解質と支持体とが、バインダーによって結着されている。無機固体電解質の結着状態は、特に限定されないが、支持体表面に対して無機固体電解質を、強く結着させた領域(結着部分)と、弱く結着させた領域若しくは結着していない領域(非結着部分)とが混在するように、結着させることが好ましい。このような結着状態とすることにより、後述する剥離工程で固体電解質層の一部を支持体に残存させることができる。上記結着状態は、例えば、固体電解質組成物の調製方法、固体電解質組成物中のバインダーの含有量等によって達成できる。
固体電解質層等は、例えば支持体上で、固体電解質組成物等を上記加圧条件下で加圧成形して形成することもできる。
【0031】
(支持体)
固体電解質層の成膜工程に用いる支持体は、活物質層及び固体電解質層を支持できるものであれば、特に制限されない。支持体を形成する材料としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼(SUS)、銅等の金属、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂が挙げられる。支持体は、上述の結着状態を実現しやすい点で、金属製のものが好ましい。支持体は、シート状若しくはフィルム状に形成されることが好ましく、その厚さは、特に制限されないが、例えば、5~50μmが好ましく、10~30μmがより好ましい。支持体の表面は、無機固体電解質との結着力(密着力)を考慮して、公知の離型層を設けてもよく、また凹凸を形成してもよい。
【0032】
(固体電解質組成物)
固体電解質層の成膜工程に用いる固体電解質組成物(無機固体電解質含有組成物ともいう)は、バインダーと無機固体電解質とを含有し、好ましくは分散媒を含有し、通常、後述する活物質及び導電助剤を含有しない(固体電解質組成物中の含有量がいずれも1質量%以下)。分散媒を含有する場合、無機固体電解質、バインダー及び分散媒の混合態様は、特に制限されないが、分散媒中にバインダーと無機固体電解質とが分散したスラリーであることが好ましい。
固体電解質組成物は、特に制限されないが、含水率(水分含有量ともいう。)が、500ppm以下であることが好ましく、200ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることが更に好ましく、50ppm以下であることが特に好ましい。固体電解質組成物の含水率が少ないと、無機固体電解質の劣化を抑制することができる。含水量は、固体電解質組成物中に含有している水の量(固体電解質組成物に対する質量割合)を示し、具体的には、0.02μmのメンブレンフィルターでろ過し、カールフィッシャー滴定を用いて測定された値とする。
【0033】
以下、固体電解質組成物が含有する成分及び含有しうる成分について説明する。
【0034】
- 無機固体電解質 -
固体電解質層の成膜工程に用いる無機固体電解質は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を示す電解質である。
本発明において、無機固体電解質とは、無機の固体電解質のことであり、固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。主たるイオン伝導性材料として有機物を含むものではないことから、有機固体電解質(ポリエチレンオキシド(PEO)などに代表される高分子電解質、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などに代表される有機電解質塩)とは明確に区別される。また、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオン及びアニオンに解離又は遊離していない。この点で、電解液、又は、ポリマー中でカチオン及びアニオンに解離若しくは遊離している無機電解質塩(LiPF6、LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、LiClなど)とも明確に区別される。無機固体電解質は周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの伝導性を有するものであれば、特に限定されず、電子伝導性を有さないものが一般的である。本発明における全固体二次電池がリチウムイオン電池の場合、無機固体電解質は、リチウムイオンのイオン伝導性を有することが好ましい。
上記無機固体電解質は、全固体二次電池に通常使用される固体電解質材料を適宜選定して用いることができる。無機固体電解質としては、(i)硫化物系無機固体電解質、(ii)酸化物系無機固体電解質、(iii)ハロゲン化物系無機固体電解質、(iv)水素化物系固体電解質等が挙げられる。本発明において、活物質と無機固体電解質との間により良好な界面を形成することができる観点から、硫化物系無機固体電解質が好ましく用いられる。
【0035】
(i)硫化物系無機固体電解質
硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、しかも電子絶縁性を有するものが好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、S及びPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、目的又は場合に応じて、Li、S及びP以外の他の元素を含んでもよい。
【0036】
硫化物系無機固体電解質としては、例えば、下記式(1)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性無機固体電解質が挙げられる。
La1Mb1Pc1Sd1Ae1 (1)
式中、LはLi、Na及びKから選択される元素を示し、Liが好ましい。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1~e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1~12:0~5:1:2~12:0~10を満たす。a1は1~9が好ましく、1.5~7.5がより好ましい。b1は0~3が好ましく、0~1がより好ましい。d1は2.5~10が好ましく、3.0~8.5がより好ましい。e1は0~5が好ましく、0~3がより好ましい。
【0037】
各元素の組成比は、下記のように、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0038】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、P及びSを含有するLi-P-S系ガラス、又はLi、P及びSを含有するLi-P-S系ガラスセラミックスを用いることができる。
硫化物系無機固体電解質は、例えば硫化リチウム(Li2S)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P2S5))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mで表される元素の硫化物(例えばSiS2、SnS、GeS2)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
【0039】
Li-P-S系ガラス及びLi-P-S系ガラスセラミックスにおける、Li2SとP2S5との比率は、Li2S:P2S5のモル比で、好ましくは60:40~90:10、より好ましくは68:32~78:22である。Li2SとP2S5との比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度を好ましくは1×10-4S/cm以上、より好ましくは1×10-3S/cm以上とすることができる。上限は特にないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0040】
具体的な硫化物系無機固体電解質の例として、原料の組み合わせ例を下記に示す。例えば、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiCl、Li2S-P2S5-H2S、Li2S-P2S5-H2S-LiCl、Li2S-LiI-P2S5、Li2S-LiI-Li2O-P2S5、Li2S-LiBr-P2S5、Li2S-Li2O-P2S5、Li2S-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5-P2O5、Li2S-P2S5-SiS2、Li2S-P2S5-SiS2-LiCl、Li2S-P2S5-SnS、Li2S-P2S5-Al2S3、Li2S-GeS2、Li2S-GeS2-ZnS、Li2S-Ga2S3、Li2S-GeS2-Ga2S3、Li2S-GeS2-P2S5、Li2S-GeS2-Sb2S5、Li2S-GeS2-Al2S3、Li2S-SiS2、Li2S-Al2S3、Li2S-SiS2-Al2S3、Li2S-SiS2-P2S5、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li10GeP2S12などが挙げられる。ただし、各原料の混合比は問わない。このような原料組成物を用いて硫化物系無機固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法、溶液法及び溶融急冷法を挙げられる。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0041】
(ii)酸化物系無機固体電解質
酸化物系無機固体電解質は、酸素原子を含有し、かつ、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、しかも電子絶縁性を有するものが好ましい。
酸化物系無機固体電解質は、イオン伝導度として、1×10-6S/cm以上であることが好ましく、5×10-6S/cm以上であることがより好ましく、1×10-5S/cm以上であることが特に好ましい。上限は特に制限されないが、1×10-1S/cm以下であることが実際的である。
【0042】
具体的な化合物例としては、例えばLixaLayaTiO3〔xaは0.3≦xa≦0.7を満たし、yaは0.3≦ya≦0.7を満たす。〕(LLT); LixbLaybZrzbMbb
mbOnb(MbbはAl、Mg、Ca、Sr、V、Nb、Ta、Ti、Ge、In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。); LixcBycMcc
zcOnc(MccはC、S、Al、Si、Ga、Ge、In及びSnから選ばれる1種以上の元素である。xcは0<xc≦5を満たし、ycは0<yc≦1を満たし、zcは0<zc≦1を満たし、ncは0<nc≦6を満たす。); Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadPmdOnd(xdは1≦xd≦3を満たし、ydは0≦yd≦1を満たし、zdは0≦zd≦2を満たし、adは0≦ad≦1を満たし、mdは1≦md≦7を満たし、ndは3≦nd≦13を満たす。); Li(3-2xe)Mee
xeDeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。); LixfSiyfOzf(xfは1≦xf≦5を満たし、yfは0<yf≦3を満たし、zfは1≦zf≦10を満たす。); LixgSygOzg(xgは1≦xg≦3を満たし、ygは0<yg≦2を満たし、zgは1≦zg≦10を満たす。); Li3BO3; Li3BO3-Li2SO4; Li2O-B2O3-P2O5; Li2O-SiO2; Li6BaLa2Ta2O12; Li3PO(4-3/2w)Nw(wはw<1); LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO4; ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO3; NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi2P3O12; Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyhP3-yhO12(xhは0≦xh≦1を満たし、yhは0≦yh≦1を満たす。); ガーネット型結晶構造を有するLi7La3Zr2O12(LLZ)等が挙げられる。
またLi、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(Li3PO4); リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON; LiPOD1(D1は、好ましくは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt及びAuから選ばれる1種以上の元素である。)等が挙げられる。
更に、LiA1ON(A1は、Si、B、Ge、Al、C及びGaから選ばれる1種以上の元素である。)等も好ましく用いることができる。
【0043】
(iii)ハロゲン化物系無機固体電解質
ハロゲン化物系無機固体電解質は、一般に用いられるものであり、ハロゲン原子を含有し、かつ、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
ハロゲン化物系無機固体電解質としては、特に制限されないが、例えば、LiCl、LiBr、LiI、ADVANCED MATERIALS,2018,30,1803075に記載のLi3YBr6、Li3YCl6等の化合物が挙げられる。中でも、Li3YBr6、Li3YCl6を好ましい。
【0044】
(iV)水素化物系無機固体電解質
水素化物系無機固体電解質は、一般に用いられるものであり、水素原子を含有し、かつ、周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
水素化物系無機固体電解質としては、特に制限されないが、例えば、LiBH4、Li4(BH4)3I、3LiBH4-LiCl等が挙げられる。
【0045】
無機固体電解質は粒子であることが好ましい。この場合、無機固体電解質の平均粒径(体積平均粒子径)は特に制限されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることが更に好ましく、1μm以上であることが特に好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが更に好ましく、7μm以下であることが特に好ましい。無機固体電解質の平均粒径の測定は、以下の手順で行う。無機固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mLサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調製する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要によりJIS Z 8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0046】
固体電解質組成物は、無機固体電解質を1種含有していても、2種以上を含有していてもよい。
固体電解質組成物中の無機固体電解質の含有量は、界面抵抗の低減及び結着性の点で、固形分100質量%において、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。上限としては、同様の観点から、99.9質量%以下であることが好ましく、99.5質量%以下であることがより好ましく、99質量%以下であることが特に好ましい。
本明細書において、固形分(固形成分)とは、固体電解質組成物を、1mmHgの気圧下、窒素雰囲気下170℃で6時間乾燥処理したときに、揮発又は蒸発して消失しない成分をいう。典型的には、後述の分散媒以外の成分を指す。
【0047】
- バインダー -
本発明の製造方法において、バインダーは、固体粒子同士を結着させ、また固体粒子と基材(集電体)若しくは支持体とを結着させる機能を示す。
バインダーを形成するポリマーは、全固体二次電池用の固体電解質組成物に通常用いられる各種のポリマーを特に制限されずに適用できる。例えば、含フッ素ポリマー、炭化水素系熱可塑性ポリマー、(メタ)アクリルポリマー、その他のビニル系モノマーとの共重合体(コポリマー)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート、セルロース誘導体ポリマー等が挙げられる。
【0048】
含フッ素ポリマーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニレンジフルオリド(PVdF)、ポリビニレンジフルオリドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF-HFP)が挙げられる。
炭化水素系熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水素添加スチレンブタジエンゴム(HSBR)、ブチレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレンが挙げられる。
(メタ)アクリルポリマーとしては、各種の(メタ)アクリルモノマー、(メタ)アクリルアミドモノマー、及びこれらモノマーの2種以上の共重合体(好ましくは、アクリル酸とアクリル酸メチルとの共重合体)が挙げられる。
また、その他のビニル系モノマーとの共重合体(コポリマー)も好適に用いられる。例えば、(メタ)アクリル酸メチルとスチレンとの共重合体、(メタ)アクリル酸メチルとアクリロニトリルとの共重合体、(メタ)アクリル酸ブチルとアクリロニトリルとスチレンとの共重合体が挙げられる。本願明細書において、コポリマーは、統計コポリマー及び周期コポリマーのいずれでもよく、ブロックコポリマーが好ましい。
ポリウレタン、ポリウレア、ポリアミド、ポリイミドの各ポリマーとしては、例えば、特開2015-088480号公報に記載の、ウレタン結合を有するポリマー、ウレア結合を有するポリマー、アミド結合を有するポリマー、イミド結合を有するポリマー等が挙げられる。
ポリエステル及びポリエーテルとしては、例えば、後述するポリマーCにおけるP3として採りうる重合鎖として説明するポリエステル及びポリエーテルが挙げられる。
【0049】
上記の中でも、含フッ素ポリマー、炭化水素系熱可塑性ポリマー、(メタ)アクリルポリマー、ポリウレタン、ポリカーボネート及びセルロース誘導体ポリマーが好ましく、無機固体電解質との親和性が良好であり、また、ポリマー自体の柔軟性が良好で、固体粒子とのより強固な結着性を示し得る点で、(メタ)アクリルポリマー又はポリウレタンがより好ましい。
【0050】
バインダーを形成するポリマーは、固体粒子同士等の結着性、更には剥離工程における固体電解質層の残存量の点で、下記のポリマーA~Cが更に好ましい。
【0051】
(ポリマーA)
ポリマーAは、側鎖成分として数平均分子量1,000以上のマクロモノマーを組み込んだポリマーである。
本発明において、ポリマーの主鎖とは、ポリマーを構成する、それ以外のすべての分子鎖が、主鎖に対してペンダントとみなしうる線状分子鎖をいう。ポリマーがマクロモノマーに由来する構成成分を有する場合、マクロモノマーの質量平均分子量にもよるが、典型的には、ポリマーを構成する分子鎖のうち最長鎖が主鎖となる。ただし、ポリマー末端が有する官能基は主鎖に含まない。また、ポリマーの側鎖とは、主鎖以外の分子鎖をいい、短分子鎖及び長分子鎖を含む。側鎖成分とは、ポリマーの側鎖を構成する成分であり、側鎖の一部であってもよく側鎖全体であってもよい。
【0052】
- 主鎖成分 -
ポリマーAの主鎖は、特に限定されず、通常のポリマー、例えば上述の各種ポリマーを適用することができ、(メタ)アクリルポリマー、又はその他のビニル系モノマーとの共重合体が好ましい。
主鎖を構成する重合性化合物としては、重合性不飽和基(例えばエチレン性不飽和結合を有する基)を有する重合性化合物であることが好ましく、例えば各種のビニル化合物、(メタ)アクリル化合物等が挙げられる。本発明においては、中でも、(メタ)アクリル化合物が好ましく、更に好ましくは、(メタ)アクリル酸化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物及び(メタ)アクリロニトリル化合物から選ばれる(メタ)アクリル化合物である。重合性化合物1分子中の重合性不飽和基の数は特に限定されないが、1~4個であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
【0053】
上記ビニル化合物又は(メタ)アクリル化合物としては、下記式(b-1)で表される化合物が好ましい。
【0054】
【0055】
式中、R1は水素原子、ヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子、アルキル基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が特に好ましい)、アルケニル基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6が特に好ましい)、アルキニル基(炭素数2~24が好ましく、2~12がより好ましく、2~6が特に好ましい)、又はアリール基(炭素数6~22が好ましく、6~14がより好ましい)を表す。中でも水素原子又はアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
【0056】
R2は、水素原子又は置換基を示す。R2として採りうる置換基は、特に限定されず、後述する置換基Tが挙げられ、好ましくは、アルキル基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が特に好ましい)、アルケニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましい)、アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~14がより好ましい)、アラルキル基(炭素数7~23が好ましく、7~15がより好ましい)、シアノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、スルファニル基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、酸素原子を含有する脂肪族複素環基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましい)、又はアミノ基(NRN
2:RNは水素原子又は置換基を示し、好ましくは水素原子又は炭素数1~12(より好ましくは1~3)のアルキル基)が挙げられる。中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シアノ基、エテニル基、フェニル基、カルボキシ基、スルファニル基、スルホン酸基等が好ましい。
スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基は例えば炭素数1~6のアルキル基を伴ってエステル化されていてもよい。酸素原子を含有する脂肪族複素環基は、エポキシ基含有基、オキセタン基含有基、テトラヒドロフリル基含有基などが好ましい。
【0057】
L1は、連結基であり、特に限定されないが、例えば、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキレン基、炭素数2~6(好ましくは2~3)のアルケニレン基、炭素数6~24(好ましくは6~10)のアリーレン基、酸素原子、硫黄原子、イミノ基(-NRN-)、カルボニル基、リン酸連結基(-O-P(OH)(O)-O-)、ホスホン酸連結基(-P(OH)(O)-O-)、又はそれらの組み合わせた基等が挙げられ、-CO-O-基、-CO-N(RN)-基(RNは上述の通り。)が好ましい。
本発明において、連結基を構成する原子の数は、1~36であることが好ましく、1~24であることがより好ましく、1~12であることが更に好ましく、1~6であることが特に好ましい。連結基の連結原子数は10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。下限としては、1以上である。上記連結原子数とは所定の構造部間を結ぶ最少の原子数をいう。例えば、-CH2-C(=O)-O-の場合、連結基を構成する原子の数は6となるが、連結原子数は3となる。
上記連結基は置換基を有していてもよい。このような置換基としては、後述する置換基Tが挙げられ、例えば、アルキル基又はハロゲン原子などが挙げられる。
【0058】
nは0又は1であり、1が好ましい。ただし、-(L1)n-R2が1種の置換基(例えばアルキル基)を示す場合、nを0とし、R2を置換基(アルキル基)とする。
【0059】
上記(メタ)アクリル化合物としては、上記(b-1)のほか、下記式(b-2)又は(b-3)で表される化合物も好ましい。
【0060】
【0061】
R1、nは上記式(b-1)と同義である。ただし、式(b-2)中のnは1である。
R3は、R2と同義である。ただし、その好ましいものとしては、水素原子、アルキル基、アリール基、カルボキシ基、スルファニル基、リン酸基、ホスホン酸基、酸素原子を含有する脂肪族複素環基、アミノ基などが挙げられる。
L2は、連結基であり、上記L1と同義である。ただし、酸素原子、アルキレン基、アルケニレン基、カルボニル基、イミノ基、又はそれらの組合せに係る基等が好ましい。
L3は、連結基であり、上記L1と同義であるが、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキレン基が好ましい。
mは1~200の整数であり、1~100の整数であることが好ましく、1~50の整数であることがより好ましい。
【0062】
上記式(b-1)~(b-3)において、重合性基を形成する炭素原子であってR1が結合していない炭素原子は無置換炭素原子(H2C=)として表しているが、上述のように、置換基を有していてもよい。置換基としては、特に制限されないが、例えば、R1としてとりうる上記基が挙げられる。
また、式(b-1)~(b-3)において、アルキル基、アリール基、アルキレン基、アリーレン基など置換基を取ることがある基については、本発明の効果を損なわない範囲で置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば後述する置換基Tが挙げられ、具体的には、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルファニル基、アシル基、アルキル基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アリーロイル基、アリーロイルオキシ基、アミノ基等が挙げられる。上記置換基としては、更に後述する官能基群(b)に含まれる基も挙げられる。
【0063】
(メタ)アクリル化合物の具体例としては、例えば、特開2015-88486号公報に記載の化合物A-1~A-60が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0064】
- 側鎖成分 -
側鎖成分を構成するマクロモノマーは、数平均分子量が1,000以上であり、2,000以上であることがより好ましく、3,000以上であることが特に好ましい。上限としては、500,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましく、30,000以下であることが特に好ましい。マクロモノマーの数平均分子量は後述する測定方法により測定される値である。ポリマーAが上記の範囲の分子量をもつ側鎖を有することにより、固体粒子との結着性を向上させ、固体電解質組成物中での分散性を改善させることができる。
【0065】
ポリマー(A)におけるマクロモノマーのSP値は、特に限定されないが、10以下であることが好ましく、9.5以下であることがより好ましい。下限値は特にないが、5以上であることが実際的である。SP値は有機溶剤に分散する特性を示す指標となる。マクロモノマーを特定の分子量以上とし、好ましくは上記SP値以上とすることで、固体粒子との結着性を向上させ、かつ、これにより溶剤との親和性を高め、安定に分散させることができる。
本発明において、SP値は、特に断らない限り、Hoy法によって求める(H.L.Hoy Journal of Painting,1970,Vol.42,76-118)。また、SP値については単位を省略して示しているが、その単位はcal1/2cm-3/2である。なお、側鎖に組み込まれたマクロモノマー成分のSP値は、マクロモノマーのSP値とほぼ変わらない。
【0066】
マクロモノマーは、質量平均分子量が1000以上のものであれば特に限定されず、バインダーを形成するポリマーとして上述した各種ポリマーを主鎖とするマクロモノマーが挙げられ、重合性不飽和基に結合する重合鎖を有するマクロモノマーが好ましい。マクロモノマーが有する重合鎖は、ポリマーの主鎖に対して側鎖(グラフト鎖)を構成する。
マクロモノマーが有する重合性不飽和基は、特に限定されず、詳細は後述するが、例えば各種のビニル基、(メタ)アクリロイル基を挙げることができ、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0067】
マクロモノマーが有する重合鎖は、特に限定されず、通常のポリマー成分を適用することができる。例えば、(メタ)アクリルポリマー鎖、ポリビニルポリマー鎖の鎖等が挙げられ、(メタ)アクリルポリマー鎖が好ましい。(メタ)アクリルポリマー鎖は、(メタ)アクリル酸化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物及び(メタ)アクリロニトリル化合物から選ばれる(メタ)アクリル化合物に由来する構成成分を含むことが好ましく、2種以上の(メタ)アクリル化合物の重合体であることがより好ましい。(メタ)アクリル化合物としては、主鎖を構成する重合性化合物で説明した化合物を特に制限されることなく適用できる。
【0068】
上記マクロモノマーは、下記式(b-13a)で表される化合物であることが好ましい。
【0069】
【0070】
Rb2は、R1と同義である。
naは特に限定されないが、好ましくは1~6の整数であり、より好ましくは1又は2であり、更に好ましくは1である。
【0071】
Raは、naが1のときは置換基、naが2以上のときは連結基を表す。
Raとしてとりうる置換基としては、特に限定されないが、上記重合鎖が好ましく、(メタ)アクリルポリマー鎖がより好ましい。
Raとしてとりうる連結基は、特に限定されないが、例えば、炭素数1~30のアルカン連結基、炭素数3~12のシクロアルカン連結基、炭素数6~24のアリール連結基、炭素数3~12のヘテロアリール連結基、エーテル基、スルフィド基、ホスフィニデン基(-PR-:Rは水素原子若しくは炭素数1~6のアルキル基)、シリレン基(-SiRS1RS2-:RS1、RS2は水素原子若しくは炭素数1~6のアルキル基)、カルボニル基、イミノ基(-NRN1-:RN1は水素原子又は置換基を示し、好ましくは水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数6~10のアリール基)、又はその組み合わせが好ましい。
Raは、式(b-13a)中の酸素原子(-O-)に直接結合していてもよいが、連結基を介して結合していることが好ましい。この連結基としては、特に限定されず、例えば、Raの形成(重合)の際に用いられる連鎖移動剤残基が挙げられる。
【0072】
ポリマーAは、下記官能基群(b)のうち少なくとも1つを有していることが好ましい。この官能基群は、主鎖に含まれていても側鎖に含まれていてもよいが、主鎖に含まれることが好ましい。主鎖等に特定の官能基が含まれることで、固体粒子の表面に存在する水素原子、酸素原子、硫黄原子等との相互作用が強くなり、結着性が向上し、界面抵抗を低減できる。
官能基群(b)
カルボニル基含有基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、エーテル基、シアノ基、チオール基
カルボニル基含有基としては、カルボキシ基、カルボニルオキシ基、アミド基等が挙げられ、炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が特に好ましい。アミノ基は炭素数0~12が好ましく、0~6がより好ましく、0~2が特に好ましい。スルホン酸基及びリン酸基はそのエステルや塩でもよい。エステルの場合、炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が特に好ましい。上記官能基は、置換基として存在しても、連結基として存在していてもよい。例えば、アミノ基は2価のイミノ基又は3価の窒素原子として存在してもよい。
【0073】
上述のマクロモノマーの詳細、更に上述のマクロモノマー以外のマクロモノマーとしては、例えば、特開2015-88486号公報に記載の「マクロモノマー(X)」が挙げられる。
【0074】
上述のポリマーAからなるバインダーとしては、特開2015-88486号公報に記載の「バインダー粒子(B)」を適宜に参照することができる。
【0075】
(ポリマーB)
ポリマーBは、下記結合群(I)から選択される結合を少なくとも1つ有する主鎖を持つポリマーであって、主鎖に炭化水素ポリマーセグメントを含む態様のポリマーと、主鎖に炭化水素ポリマーセグメントを含まない態様のポリマーとを包含する。
<結合群(I)>
エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、イミド結合、エーテル結合及びカーボネート結合
上記結合群(I)から選択される結合は、ポリマーの主鎖中に含まれる限り特に制限されるものでなく、構成単位(繰り返し単位)中に含まれる態様及び/又は異なる構成単位同士を繋ぐ結合として含まれる態様のいずれでもよい。ただし、上記結合群(I)から選択される結合が、炭化水素ポリマーセグメントの主鎖中に含まれることはない。
【0076】
上記結合群(I)から選択される結合が構成単位中に含まれる態様において、ポリマーBの構成単位の1つとして、上記結合群(I)から選択される結合が含まれる親水性セグメントをポリマーBの主鎖に有することが好ましく、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリイミド、ポリエーテル及びポリカーボネートから選択される少なくとも1つのセグメント(以下、親水性セグメントとも称す。)をポリマーBの主鎖に有することがより好ましい。
ポリマーBが上記親水性セグメントと炭化水素ポリマーセグメントとを有する場合、親水性セグメントと炭化水素ポリマーセグメントとの結合部位として、上記結合群(I)から選択される結合を更に有してもよい。
【0077】
ポリマーBが炭化水素ポリマーセグメントを主鎖に含まない態様のポリマーである場合、ポリマーBは、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリイミド、ポリエーテル及びポリカーボネートからなる群より選択されるポリマーでもよく、また、上記群より選択される少なくとも2つのポリマーの、ランダム重合体若しくは重縮合型セグメント化ポリマーのいずれでもよい(重縮合型セグメント化ポリマーが好ましい)。
一方、ポリマーBが上記親水性セグメントと上記炭化水素ポリマーセグメントとをそれぞれ主鎖に有する態様である場合、このポリマーBは、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリイミド、ポリエーテル及びポリカーボネートからなる群より選択される少なくとも1つのポリマーと、これらのポリマー末端との反応のため、末端が官能基化された炭化水素ポリマーとの、ランダム重合体、及び、重縮合型セグメント化ポリマーのいずれでもよく、重縮合型セグメント化ポリマーが好ましい。
【0078】
- 炭化水素ポリマーセグメント -
炭化水素ポリマーセグメントとは、炭素原子及び水素原子から構成されるオリゴマー又はポリマー(以下、炭化水素ポリマーとも称す。)からなるセグメントを意味し、厳密には、炭素原子及び水素原子から構成されるポリマーの少なくとも2つの原子(例えば、水素原子)又は基(例えばメチル基)が脱離した構造を意味する。
ポリマー末端に有し得る、上記親水性セグメント等との結合のための官能基は、炭化水素ポリマーセグメントには含まれないものとする。
炭化水素ポリマーは、少なくとも2個以上の構成繰り返し単位が連なった構造を有するポリマーである。また、炭化水素ポリマーは、少なくとも50個以上の炭素原子から構成されることが好ましい。炭化水素ポリマーとしては、炭素-炭素不飽和結合を有していてもよく、脂肪族環及び/又は芳香族環の環構造を有していてもよい。すなわち、炭化水素ポリマーは、脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素から選択される炭化水素で構成される炭化水素ポリマーであればよい。柔軟性を有し、かつ粒子として存在する場合の立体反発の効果を示す点からは、脂肪族炭化水素で構成される炭化水素ポリマーが好ましい。
炭化水素ポリマーは、エラストマーであることが好ましく、具体的には、主鎖に二重結合を有するジエン系エラストマー、及び、主鎖に二重結合を有しない非ジエン系エラストマーが挙げられる。ジエン系エラストマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-エチレン-ブタジエンゴム(SEBR)、ブチルゴム(イソブチレンとイソプレンの共重合ゴム、IIR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)及びエチレン-プロピレン-ジエンゴム等が挙げられる。非ジエン系エラストマーとしては、エチレン-プロピレンゴム及びスチレン-エチレン-ブチレンゴム等のオレフィン系エラストマー、並びに、上記ジエン系エラストマーの水素還元エラストマーが挙げられる。
【0079】
炭化水素ポリマーセグメントの質量平均分子量は、1,000以上が好ましく、1,000以上1,000,000未満がより好ましく、1,000以上100,000未満がさらに好ましく、1,000以上10,000未満が特に好ましい。また、ガラス転移温度は、(B)ポリマーの粒子分散性を向上させ、微細な粒子を得る点から、0℃以下が好ましく、-20℃以下がより好ましく、-40℃以下がさらに好ましい。下限は特に限定されないが、一般的には-150℃以上である。この炭化水素ポリマーセグメントのSP(Solubility Parameter)値は、9.0未満が好ましく、8.7未満がより好ましく、8.5未満がさらに好ましい。下限は特に限定されないが、一般的には6.0以上である。
炭化水素ポリマーセグメントの質量平均分子量及びSP値は、国際公開第2018/020827号に記載の測定方法で測定された値とする。
【0080】
ポリマーB(主鎖に炭化水素ポリマーセグメントを含む態様のポリマー)中における、炭化水素ポリマーセグメントの含有量は、1~80質量%が好ましく、5~80質量%がより好ましく、5~50質量%が更に好ましく、10~40質量%が特に好ましく、10~30質量%が最も好ましい。
【0081】
ポリマーBを合成する点から、炭化水素ポリマーは、ポリマー末端に親水性セグメント等との結合を形成するための官能基を有することが好ましく、縮重合可能な官能基を有することがより好ましい。縮重合可能な官能基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、スルファニル基及び酸無水物等が挙げられ、中でもヒドロキシ基が好ましい。ポリマー末端に縮重合可能な官能基を有する炭化水素ポリマーとしては、特に制限されず、国際公開第2018/020827号に記載の各市販品が挙げられる。
【0082】
<親水性セグメント>
ポリマーBが有する親水性セグメントは、上述の通り、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリイミド、ポリエーテル及びポリカーボネートからなる群より選択される少なくとも1つのポリマーからなるセグメントが挙げられる。これらの親水性セグメントを形成するポリマーは、公知の各種ポリマーを特に制限されずに適用することができる。ポリウレタン、ポリウレア、ポリアミド、ポリイミドの各ポリマーとしては、例えば、特開2015-088480号公報に記載の、ウレタン結合を有するポリマー、ウレア結合を有するポリマー、アミド結合を有するポリマー、イミド結合を有するポリマー等が挙げられる。
これらのポリマーは常法により合成することができ、特開2015-088480号公報に記載の原料化合物及び合成方法、更には、国際公開第2018/020827号に記載の原料化合物及び合成方法を参照することができる。
ポリマーBは、親水性セグメント中に、親水性セグメントを構成するポリマー以外の結合を有してもよく、例えば、カーボネート結合を分子鎖中に有するポリウレタンからなるセグメントの態様が挙げられる。
【0083】
<官能基群(II)から選択される官能基>
ポリマーBは、固体粒子表面への濡れ性及び/又は吸着性を高めるための官能基を有することが好ましい。官能基としては、固体粒子表面において水素結合等の相互作用を示す官能基及び固体粒子表面の基と化学結合を形成し得る官能基が挙げられ、具体的には、下記官能基群(II)から選択される官能基を少なくとも1つ有することが好ましい。ただし、固体粒子表面への濡れ性及び/又は吸着性をより効果的に発現する観点からは、ポリマーBは、官能基同士で結合を形成することが可能な2種以上の官能基を有さないことが好ましい。
<官能基群(II)>
カルボキシ基、スルホン酸基(-SO3H)、リン酸基(-PO4H2)、アミノ基、ヒドロキシ基、スルファニル基、イソシアナート基、アルコキシシリル基及び3環以上の縮環構造を有する基
【0084】
スルホン酸基及びリン酸基は、その塩でもよく、例えば、ナトリウム塩及びカルシウム塩が挙げられる。
アルコキシシリル基は、少なくとも一つのアルコキシ基(炭素数は1~12が好ましい)でSi原子が置換されたシリル基であればよく、Si原子上のその他の置換基としては、アルキル基、アリール基等が挙げられる。アルコキシシリル基としては、例えば、後述の置換基Tにおけるアルコキシシリル基の記載が好ましく適用できる。
3環以上の縮環構造を有する基は、コレステロール環構造を有する基、又は3環以上の芳香族環が縮環した構造を有する基が好ましく、コレステロール残基又はピレニル基がより好ましい。
【0085】
ポリマーBは、上記官能基群(II)から選択される官能基を炭化水素ポリマーセグメント以外の位置に有することが好ましく、親水性セグメント中に有することがより好ましい。
ポリマーB中における官能基群(II)から選択される官能基の含有量は、特に制限されるものではないが、本発明に用いられるポリマーBを構成する全繰り返し単位中、上記官能基群(II)から選択される官能基を有する繰返し単位の割合は、1~50mol%が好ましく、5~20mol%がより好ましい。
【0086】
ポリマーB(主鎖に炭化水素ポリマーセグメントを含む態様のポリマー)の具体例としては、国際公開第2018/020827号に記載の「例示化合物(B-1)~(B-21)」が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0087】
上述のポリマーBとしては、国際公開第2018/020827号に記載の「(B)ポリマー」を適宜に参照することができる。
【0088】
(ポリマーC)
ポリマーCは、下記式1で表される分岐ポリマーである。
このポリマーCにおいて、各符号で表わされる連結基、ポリマー鎖(高分子鎖)及び吸着基A
1は、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい。また、R
1に連結する各鎖(-S-R
2-P
1、-S-R
3-P
2及び-S-R
4-(A
1)p)が複数存在する場合、これらの鎖は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【化4】
【0089】
式1中、R1は(l+m+n)価の連結基を示す。A1は、水素原子、酸性基、塩基性窒素原子を有する基、ウレア基、ウレタン基、アルコキシシリル基、エポキシ基、イソシアネート基又は水酸基を示す。pは1~10の整数である。R2、R3及びR4は各々独立に単結合又は連結基を示す。P1はSP値が19.5以上である構成成分を50質量%以上含むポリマー鎖を示す。P2は数平均分子量500以上のマクロモノマーに由来する構成成分を含む高分子鎖を示す。lは0~5の整数であり、mは1~8の整数であり、nは1~9の整数である。ただし、l+m+nは3~10の整数である。
【0090】
R1は、(l+m+n)価の連結基であり、通常、炭素原子が共有結合で結びついた骨格を含む有機基からなる連結基(有機連結基)であり、更に酸素原子を含む連結基が好ましい。この連結基の分子量は特に制限されず、例えば、200以上であることが好ましく、分子量300以上であることがより好ましい。分子量の上限は、5,000以下であることが好ましく、4,000以下であることがより好ましく、3,000以下であることが特に好ましい。この連結基は四価の炭素原子1つのみではないことが好ましい。
この連結基の価数は、3~10価であり、後述するl、m及びnの合計数(l+m+n)と同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0091】
この連結基は下記式1aで表わされる基を有することが好ましい。連結基R1が有する式1aで表わされる基の数は、R1の価数である(l+m+n)価と同じであることが好ましい。連結基がこの基を複数有する場合、同一でも異なっていてもよい。
-(CRf
2)n-O(C=O)-(CRf
2)n- ・・・ 式1a
式(1a)中、nは0~10の整数であり、1~6の整数が好ましく、1又は2がより好ましい。
Rfは水素原子又は置換基を示し、水素原子が好ましい。Rfとして採りうる置換基としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子)、アルキル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が特に好ましい。)、アルコキシ基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が特に好ましい。)、アシル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2~3が特に好ましい。)、アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~10がより好ましい。)、アルケニル基(炭素数2~12が好ましく、2~5がより好ましい。)、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、酸性基(カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等)などが挙げられる。酸性基はそれぞれその塩であってもよい。対イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0092】
連結基R
1は、下記式1A又は式1Bで表される連結基が好ましい。
【化5】
【0093】
両式において、Rf及びnは上記式1aにおけるRf及びnと同義であり、好ましいものも同じである。*は式1中の硫黄原子との結合部を示す
式1Aにおいて、R1Aは水素原子又は置換基を示す。R1Aとして採りうる置換基としては、特に制限されず、例えば、Rfとして採りうる上記の各置換基、更には、上記式1aで表わされる基が挙げられる。中でも、アルキル基又は上記式1aで表わされる基が好ましい。アルキル基の炭素数は1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が特に好ましい。R1Aとして採りうる置換基は更に1つ又は2つ以上の置換基を有していてもよく、更に有していてもよい置換基としては、特に制限されず、例えば、Rfとして採りうる上記の各置換基が挙げられる。中でも、ヒドロキシ基が好ましい。更に1つ又は2つ以上の置換基を有していてもよい置換基としては、ヒドロキシアルキル基(炭素数は上記の通りである。)が挙げられ、具体的には、ヒドロキシメチルが好ましい。
式1Bにおいて、R1Cは連結基を示す。R1Cとして採りうる連結基としては、特に制限されず、例えば、後述する式3におけるWとして採りうる各連結基が挙げられる。中でも、アルキレン基、エーテル基(-O-)、スルフィド基(-S-)若しくはカルボニル基、又は、これらを2個以上(好ましくは2~5個)組み合わせた連結基が好ましく、エーテル基がより好ましい。R1Bは水素原子又は置換基を示し、水素原子が好ましい。R1Bとして採りうる置換基としては、特に制限されず、例えばRfとして採りうる上記の各置換基が挙げられる。
式1A及び式1B中において、同一の符号で表される基は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0094】
連結基R1は、上記した連結基以外にも、例えば、上記式1Bにおいて、上記式1aで表わされる基の1つ又は2つ以上が、Rfとして採りうる上記の各置換基、特にヒドロキシメチルで置換された連結基も、好ましい態様である。
【0095】
連結基R1は、下記式1C~1Hのいずれかで表される連結基も好ましい。各式中、*は、式1中のSとの結合部を示す。
【0096】
【0097】
式1C~1H中、Tは連結基であり、好ましくは下記式T1~T6のいずれかで表される基、又はこれらを2個以上(好ましくは2個又は3個)組み合わせた連結基である。組み合わせた連結基としては、例えば、式T6で表される連結基と式T1で表される連結基とを組み合わせた連結基(-OCO-アルキレン基)が挙げられる。式T1~T6で表される基において上記式1中の硫黄原子と結合する結合部はいずれもあってもよいが、Tがオキシアルキレン基(式T2~T5で表される基)又は-OCO-アルキレン基の場合には、末端の炭素原子(結合部)が上記式1中の硫黄原子に結合することが好ましい。
上記各式中に複数存在するTは同一であっても異なっていてもよい。
Zは連結基であり、下記Z1又はZ2で表される基であることが好ましい。
【0098】
【0099】
式1C~1Hにおいて、nは整数であり、それぞれ、0~14の整数であることが好ましく、0~5の整数であることがより好ましく、1~3の整数であることが特に好ましい。
式T1及びZ1において、mはそれぞれ1~8の整数であり、1~5の整数であることがより好ましく、1~3の整数であることが特に好ましい。
Z3は連結基であり、炭素数1~12のアルキレン基であることが好ましく、炭素数1~6のアルキレン基であることがより好ましい。中でも、2,2-プロパンジイル基であることが特に好ましい。
【0100】
以下に、連結基R1の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。各具体例において、*は式1中の硫黄原子との結合部を示す。
【0101】
【0102】
式1において、R2、R3及びR4は、それぞれ、単結合又は連結基を示す。R2及びR3は単結合が好ましく、R4は連結基が好ましい。
R2、R3及びR4それぞれが採りうる連結基としては、特に限定されないが、繰り返し単位を2以上有するオリゴマー若しくはポリマーからなる連結基ではないものが好ましく、例えば、後述する式3中のWとして採りうる連結基で挙げたものを挙げることができる。ただし、式中の-R4-(A1)pとしては、ポリマー鎖を採ることもでき、例えば、後述するポリマー鎖P1を形成する重合性化合物からなる少なくとも1つの構成成分、好ましくは各構成成分に後述するA1をp個有するポリマー鎖を採ることもできる。
【0103】
式1において、ポリマー鎖P1は、SP値が19.5以上である構成成分を50質量%以上含むポリマー鎖を示す。このポリマー鎖P1は、ポリマーCに導入されることにより、ポリマーCからなるバインダー粒子の形成に必要なポリマーCの凝集力を高める作用機能を奏する。このポリマー鎖P1は、SP値が19.5以上である構成成分を50質量%以上含んでいれば、SP値が19.5以上である構成成分を1種又は2種以上含んでいてもよい。ポリマー鎖P1は、マクロモノマーに由来する構成成分を含んでいないことが好ましい。このようなマクロモノマーとしては、特に限定されないが、例えば後述する高分子鎖P2を形成するマクロモノマーが挙げられる。
ポリマー鎖P1は、式1中の硫黄原子又は連結基R2と反応して上記式1で表わされるポリマーC中に導入可能な重合鎖(高分子鎖)であれば特に制限されず、通常の重合体からなる鎖を適用することができる。このようなポリマー鎖として、例えば、分子構造の末端又は側鎖にエチレン性不飽和結合(付加重合性不飽和結合)を1個若しくは2個以上(好ましくは1~4個)有する重合性化合物の重合体からなる鎖が挙げられる。エチレン性不飽和結合としては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。ポリマー鎖P1を形成する重合性化合物としては、好ましくは、スチレン化合物、ビニルナフタレン、ビニルカルバゾール、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリルアミド化合物、(メタ)アクリルニトリル化合物、アリル化合物、ビニルエーテル化合物、ビニルエステル化合物、イタコン酸ジアルキル化合物等が挙げられる。
ポリマー鎖P1は、上記重合性化合物に由来する構成成分の中でも、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリルアミド化合物及び(メタ)アクリロニトリル化合物から選ばれる重合性化合物に由来する構成成分を含むことが好ましく(ポリマー鎖P1が(メタ)アクリル重合体からなるポリマー鎖)、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル化合物及び(メタ)アクリロニトリル化合物から選ばれる重合性化合物に由来する構成成分を含むことがより好ましい。
【0104】
ポリマー鎖P1が含むSP値が19.5以上である構成成分は、SP値が19.5以上であればどのような構成成分であってもよいが、マクロモノマーに由来する構成成分ではない構成成分であることが好ましい。このような構成成分として、低分子の重合性化合物に由来する構成成分が好ましく、エチレン性不飽和結合を有する低分子の重合性化合物に由来する構成成分がより好ましく、上記重合性化合物に由来する構成成分のうちSP値が19.5以上のものが更に好ましい。低分子の重合性化合物の分子量は、一概には決定されないが、例えば、1000未満であることが好ましく、500未満であることがより好ましい。
【0105】
ポリマー鎖P1が含む構成成分としてSP値が19.5以上である構成成分を含むと、疎水溶媒(例えば後述する好ましい分散媒)中でのポリマーCの合成過程においてポリマーCが粒子化してバインダー粒子の分散液として調製でき、更には固体粒子の結着性若しくは電池特性に優れる。この構成成分のSP値は、20.0以上が好ましく、21.0以上がより好ましい。一方、上限は特に制限されず、適宜に設定される。例えば、45.0以下が好ましく、30.0以下がより好ましい。
構成成分のSP値を19.5以上に設定するためには、例えば、水酸基等の置換基を導入するなど、極性の高い官能基を導入する方法等が挙げられる。
本発明において、ポリマーCにおける構成成分のSP値は沖津法により算出された値を採用する。沖津法は、例えば、日本接着学会誌、1993年、Vol.29、No.6、p249~259に詳述されている。本願における構成成分のSP値は、構成成分がポリマー中に組み込まれた構造を元に計算した値を採用する。
また、構成成分が酸性基を有し、この酸性基を中和して、バインダー粒子を固体電解質組成物中に分散させている場合には、中和前の構成成分のSP値を用いる。
本発明において、ポリマーCにおけるSP値の単位を省略して示しているが、その単位はMPa1/2である。
【0106】
SP値が19.5以上である構成成分を導く化合物としては、特に制限されず、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸(ポリオキシアルキレンエステル)、N-モノ若しくはジ(アルキル)(メタ)アクリル酸アミド、N-(ヒドロキシアルキル)(メタ)アクリル酸アミド、α,β-不飽和ニトリル化合物等、更には後述する実施例で用いた化合物等が挙げられる。具体的には、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルエステル、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ジアセトンアクリルアミド、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、N-(メタ)アクリロイルオキシエチル-N、N-ジメチルアンモニウム-α-N-メチルカルボキシベタイン等も挙げられる。
【0107】
ポリマー鎖P1は、上記SP値が19.5以上である構成成分以外の構成成分、例えばSP値が19.5未満である構成成分を含んでもよい。この構成成分としては、マクロモノマー由来の構成成分であってもよいが、低分子の重合性化合物に由来する構成成分が好ましく、エチレン性不飽和結合を有する低分子の重合性化合物に由来する構成成分がより好ましく、上記重合性化合物に由来する構成成分のうちSP値が19.5未満のものが更に好ましい。低分子の重合性化合物の分子量は、一概には決定されないが、例えば、500未満であることが好ましく、300未満であることがより好ましい。
SP値が19.5未満である構成成分のSP値は、19.5未満であればよく、下限は特に制限されず、適宜に設定される。例えば、15.0以上が好ましく、17.0以上がより好ましい。
SP値が19.5未満である構成成分としては、上記SP値が19.5以上である構成成分となる重合性化合物と共重合可能な重合性化合物に由来する構成成分であれば特に限定されないが、例えば、エチレン性不飽和結合を有する低分子の重合性化合物に由来する構成成分が挙げられ、より具体的には、アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル化合物、環状オレフィン化合物、ジエン化合物、スチレン化合物、ビニルエーテル化合物、カルボン酸ビニルエステル化合物、不飽和カルボン酸無水物等に由来する構成成分が挙げられる。このような共重合性化合物としては、特開2015-088486号公報の段落[0031]~[0035]に記載の「ビニル系モノマー」及び同段落[0036]~[0042]に記載の「アクリル系モノマー」に由来する構成成分のうちSP値が19.5未満のものが挙げられる。
【0108】
ポリマー鎖P1中の、全構成成分の重合度は、特に制限されないが、10~10000であることが好ましく、20~2000であることがより好ましい。
【0109】
ポリマー鎖P1中の、SP値が19.5以上である構成成分の含有量は、50質量%以上である。ポリマー鎖P1がこの構成成分を50質量%以上含むことにより、固体粒子の結着性を高めことができる。固体粒子の結着性の点で、上記含有量は、60質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。上記含有量の上限値は、特に制限されず、100質量%とすることもでき、100質量%未満にすることもできる。
【0110】
ポリマー鎖P1中の、SP値が19.5未満である構成成分の含有量は、50質量%以下である。この構成成分の含有量は、SP値が19.5以上である構成成分の含有量との合計が100質量%となるように設定されることが好ましい。
【0111】
式1において、P2は、数平均分子量500以上のマクロモノマーに由来する構成成分を含む高分子鎖(高分子骨格)を示す。
本発明において、マクロモノマーに由来する構成成分を含む高分子鎖は、マクロモノマーに由来する構成成分が複数結合した重合体からなる鎖に加えて、マクロモノマーに由来する構成成分1つからなる鎖をも包含する。この高分子鎖P2は、ポリマーCに導入されることにより、このポリマーCの合成過程において所定の平均粒径を有する高純度のバインダー粒子を合成することができ、固体粒子の結着性、更には固体粒子の分散性を高める作用機能を奏する。P2は、式1中の硫黄原子又は連結基R3と反応して上記式1で表わされるポリマーC中に導入可能な高分子鎖であれば特に制限されず、通常の重合体からなる鎖若しくは通常のマクロモノマーを適用することができる。このような高分子鎖として、例えば、分子構造の末端又は側鎖にエチレン性不飽和結合を有する重合性化合物(少なくともマクロモノマーを含む。)及びこの重合性化合物の重合体からなる鎖が挙げられる。高分子鎖P2を形成する重合性化合物としては、ポリマー鎖P1を形成する重合性化合物と同じ化合物が好ましく、より好ましくは、メタクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステル化合物(高分子鎖P2が(メタ)アクリルエステル化合物又は(メタ)アクリル重合体からなるポリマー鎖)である。
【0112】
マクロモノマーの、下記測定方法による数平均分子量は、500以上であればよいが、固体粒子の結着性、更には固体粒子の分散性の点で、1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましく、3,000以上であることが更に好ましい。上限としては、特に制限されず、500,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましく、30,000以下であることが特に好ましい。
【0113】
マクロモノマーは、分子構造の末端又は側鎖にエチレン性不飽和結合を有する化合物が好ましく、例えば、上記ポリマー鎖P1を形成する上記重合性化合物で説明した各化合物のうち数平均分子量が500以上のものが挙げられる。マクロモノマーが有するエチレン性不飽和結合の1分子中の数は、上述の通りであるが、1個が好ましい。
【0114】
高分子鎖P
2が含む構成成分を導くマクロモノマーは、下記式3で表されるモノマーが好ましい。すなわち、高分子鎖P
2が含む構成成分は、下記式3で表されるモノマーにおけるエチレン性不飽和結合が開裂(重合)してなる構成成分であることが好ましい。
【化9】
【0115】
式3中、R11は水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を示す。アルキル基の炭素数は、1~3であることが好ましく、1であることがより好ましい。R11は水素原子又はメチルが好ましい。
【0116】
式3中、Wは、単結合又は連結基を示し、連結基が好ましい。
Wとして採りうる連結基としては、特に限定されないが、炭素数1~30のアルキレン基、炭素数3~12のシクロアルキレン基、炭素数6~24のアリーレン基、炭素数3~12のヘテロアリーレン基)、エーテル基(-O-)、スルフィド基(-S-)、ホスフィニデン基(-PR-:Rは水素原子若しくは炭素数1~6のアルキル基)、シリレン基(-SiRS1RS2-:RS1、RS2は水素原子若しくは炭素数1~6のアルキル基)、カルボニル基、イミノ基(-NRN-:RNは水素原子、炭素数1~6のアルキル基若しくは炭素数6~10のアリール基)、又は、これらを2個以上(好ましくは2~10個)組み合わせた連結基であることが好ましい。中でも、炭素数1~30のアルキレン基、炭素数6~24のアリーレン基、エーテル基、カルボニル基、スルフィド基、又は、これらを2個以上(好ましくは2~10個)組み合わせた連結基であることがより好ましい。
【0117】
式3において、P3は高分子鎖を示し、Wとの連結部位は、特に制限されず、高分子鎖の末端でも側鎖でもよい。P3として採りうる高分子鎖としては、特に制限されず、通常の重合体からなるポリマー鎖を適用することができる。このようなポリマー鎖としては、例えば、(メタ)アクリル重合体、ポリエーテル、ポリシロキサン若しくはポリエステルからなる鎖、又は、これら鎖を2個(好ましくは2個若しくは3個)組み合わせた鎖が挙げられる。中でも、(メタ)アクリル重合体を含む鎖が好ましく、(メタ)アクリル重合体の鎖がより好ましい。上記組み合わせた鎖において、鎖の組み合わせは特に制限されず、適宜に決定される。
【0118】
(メタ)アクリル重合体、ポリエーテル、ポリシロキサン及びポリエステルからなる鎖としては、通常の、(メタ)アクリルポリマー、ポリエーテル、ポリシロキサン及びポリエステルからなる鎖であればよく、特に制限されない。
例えば、(メタ)アクリル重合体としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリルアミド化合物及び(メタ)アクリロニトリル化合物から選ばれる重合性化合物に由来する構成成分を含む重合体が好ましく、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル化合物及び(メタ)アクリロニトリル化合物から選ばれる重合性化合物に由来する構成成分を含む重合体がより好ましい。特に、(メタ)アクリル酸エステル化合物の中でも(メタ)アクリル酸の長鎖アルキルエステルに由来する構成成分を含む重合体が好ましい。この長鎖アルキル基の炭素数としては、例えば、4以上であることが好ましく、4~24であることがより好ましく、8~20であることが更に好ましい。(メタ)アクリル重合体は、スチレン化合物、環状オレフィン化合物等の、上述したエチレン性不飽和結合を有する重合性化合物に由来する構成成分を含んでもよい。
【0119】
ポリエーテルとしては、例えば、ポリアルキレンエーテル、ポリアリーレンエーテル等が挙げられる。ポリアルキレンエーテルのアルキレン基は、炭素数1~10が好ましく、2~6がより好ましく、2~4が特に好ましい。ポリアリーレンエーテルのアリーレン基は炭素数6~22が好ましく、6~10がより好ましい。ポリエーテル鎖中のアルキレン基及びアリーレン基は同一でも異なっていてもよい。ポリエーテル鎖中の末端は、水素原子又は置換基であり、この置換基としては、例えばアルキル基(好ましくは炭素数1~20)が挙げられる。
【0120】
ポリシロキサンとしては、例えば、-O-Si(RS
2)-で表される繰り返し単位を有する鎖が挙げられる。上記繰り返し単位において、RSは水素原子又は置換基を示し、置換基としては、特に制限されず、ヒドロキシ基、アルキル基(炭素数1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が特に好ましい。)、アルケニル基(炭素数2~12が好ましく、2~6がより好ましく、2又は3が特に好ましい。)、アルコキシ基(炭素数1~24が好ましく、1~12がより好ましく、1~6が更に好ましく、1~3が特に好ましい。)、アリール基(炭素数6~22が好ましく、6~14がより好ましく、6~10が特に好ましい。)、アリールオキシ基(炭素数6~22が好ましく、6~14がより好ましく、6~10が特に好ましい。)、アラルキル基(炭素数7~23が好ましく、7~15がより好ましく、7~11が特に好ましい。)が挙げられる。中でも、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基又はフェニル基がより好ましく、炭素数1~3のアルキル基が更に好ましい。ポリシロキサンの末端に位置する基は、特に制限されないが、アルキル基(炭素数1~20が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が好ましい。)、アルコキシ基(炭素数1~20が好ましく、1~6がより好ましく、1~3が特に好ましい。)、アリール基(炭素数6~26が好ましく、6~10がより好ましい。)、ヘテロ環基(好ましくは、少なくとも1つの酸素原子、硫黄原子、窒素原子を有し、炭素原子数2~20のヘテロ環基、5員環又は6員環が好ましい。)等が挙げられる。このポリシロキサンは、直鎖状であってもよく分岐鎖状であってもよい。
【0121】
ポリエステルとしては、多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合体からなるものであれば特に制限されない。多価カルボン酸及び多価アルコールとしては、通常用いられるものが挙げられ、例えば、脂肪族若しくは芳香族の多価カルボン酸、脂肪族若しくは芳香族の多価アルコールが挙げられる。多価カルボン酸及び多価アルコールの価数は、2以上であればよく、通常、2~4価である。
【0122】
高分子鎖P2が含む構成成分を導くマクロモノマーは、(メタ)アクリル重合体、ポリエーテル、ポリシロキサン、ポリエステル及びこれらの組み合わせからなる群より選択されるポリマー鎖と、このポリマー鎖に結合するエチレン性不飽和結合とを有するモノマーが更に好ましい。このマクロモノマーが有するポリマー鎖は、上記式3における高分子鎖P3が好ましく採りうるポリマー鎖と同義であり、好ましいものも同じである。また、エチレン性不飽和結合は、上述のポリマー鎖P1を形成する重合性化合物が有するエチレン性不飽和結合と同義であり、(メタ)アクリロイル基が好ましい。ポリマー鎖と、エチレン性不飽和結合とは直接(連結基を介することなく)結合していてもよく、連結基を介して結合していてもよい。この場合の連結基としては、式3におけるWとして採りうる連結基が挙げられる。
【0123】
マクロモノマーのSP値は、特に制限されず、例えば、21以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。下限値としては、15以上であることが実際的である。
【0124】
高分子鎖P2においてマクロモノマーが有するポリマー鎖(上記式3におけるポリマー鎖P3に対応する)の重合度は、マクロモノマーの数平均分子量が500となるのであれば、特に制限されないが、5~5000であることが好ましく、10~300であることがより好ましい。
【0125】
高分子鎖P2は、上述の、マクロモノマーに由来の構成成分に加えて、他の構成成分を含有していてもよい。他の構成成分としては、特に限定されないが、上記ポリマー鎖P1を形成する各構成成分(マクロモノマーを除く。)が挙げられる。
【0126】
高分子鎖P2を形成する全構成成分の重合度は、特に制限されないが、1~200であることが好ましく、1~100であることがより好ましい。
高分子鎖P2中の、マクロモノマーに由来の構成成分の含有量は、0質量%を超える限り特に制限されない。高分子鎖P2がマクロモノマーに由来の構成成分を含有していると、固体粒子の結着性を高めことができる。固体粒子の結着性の点で、この構成成分の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。上記含有量の上限値は、特に制限されず、100質量%とすることもでき、100質量%未満にすることもできる。100質量%未満に設定する場合、例えば、50質量%以下に設定することができる。
高分子鎖P2中の、マクロモノマーに由来の構成成分以外の他の構成成分の含有量は、0質量%以上であり、マクロモノマーに由来の構成成分の含有量との合計が100質量%となるように設定されることが好ましい。
【0127】
式1において、A1は、水素原子、酸性基、塩基性窒素原子を有する基、ウレア基、ウレタン基、アルコキシシリル基、エポキシ基、イソシアネート基又は水酸基を示す。中でも、酸性基、塩基性窒素原子を有する基、ウレア基又はウレタン基が好ましい。
【0128】
A1として採りうる酸性基としては、特に制限されず、例えば、カルボン酸基(-COOH)、スルホン酸基(スルホ基:-SO3H)、リン酸基(ホスホ基:-OPO(OH)2)、ホスホン酸基及びホスフィン酸基が挙げられる。
A1として採りうる、塩基性窒素原子を有する基としては、アミノ基、ピリジル基、イミノ基及びアミジンが挙げられる。
【0129】
A1として採りうるウレア基としては、例えば、-NR15CONR16R17(ここで、R15、R16及びR17は水素原子又は炭素数1~20のアルキル基、炭素数6以上のアリール基、炭素数7以上のアラルキル基を表す。)が好ましい例として挙げられる。このウレア基としては、-NR15CONHR17(ここで、R15及びR17は水素原子又は炭素数1~10のアルキル基、炭素数6以上のアリール基、炭素数7以上のアラルキル基を表す。)がより好ましく、-NHCONHR17(ここで、R17は水素原子又は炭素数1~10のアルキル基、炭素数6以上のアリール基、炭素数7以上のアラルキル基を表す。)が特に好ましい。
【0130】
A1として採りうるウレタン基としては、例えば、-NHCOR18、-NR19COOR20、-OCONHR21、-OCONR22R23(ここで、R18、R19、R20、R21、R22及びR23は炭素数1~20のアルキル基、炭素数6以上のアリール基、炭素数7以上のアラルキル基を表す。)などの、少なくともイミノ基とカルボニル基とを含む基が好ましい例として挙げられる。ウレタン基としては、-NHCOOR18、-OCONHR21(ここで、R18、R21は炭素数1~20のアルキル基、炭素数6以上のアリール基、炭素数7以上のアラルキル基を表す。)などがより好ましく、-NHCOOR18、-OCONHR21(ここで、R18、R21は炭素数1~10のアルキル基、炭素数6以上のアリール基、炭素数7以上のアラルキル基を表す。)などが特に好ましい。
【0131】
A1として採りうるアルコキシシリル基としては、特に制限されず、炭素数1~6のアルコキシシリル基が好ましく、例えば、メトキシシリル、エトキシシリル、t-ブトキシシリル及びシクロヘキシルシリルが挙げられる。
【0132】
上記A1は、固体粒子と相互作用することにより、バインダー粒子が奏する、固体粒子の結着性を補強することができる。この相互作用は特に制限されないが、例えば、水素結合によるもの、酸-塩基によるイオン結合によるもの、共有結合によるもの、芳香環によるπ-π相互作用によるもの、又は、疎水-疎水相互作用によるもの等が挙げられる。上記固体粒子とバインダー粒子とは、A1として採りうる基の種類と、上述の固体粒子の種類とによって、1つ又は2つ以上の上記相互作用によって、吸着する。
A1として採りうる基が相互作用する場合、A1として採りうる基の化学構造は変化しても変化しなくてもよい。例えば、上記π-π相互作用等においては、通常、A1として採りうる基は変化せず、そのままの構造を維持する。一方、共有結合等による相互作用においては、通常、カルボン酸基等の活性水素が離脱したアニオンとなって(A1として採りうる基が変化して)固体粒子と結合する。
正極活物質及び無機固体電解質に対しては、酸性基、水酸基、アルコキシシリル基が好適に吸着する。中でもカルボン酸基が特に好ましい。
導電助剤に対しては、塩基性窒素原子を有する基が好適に吸着する。
【0133】
式1において、pは1~10の整数であり、好ましくは1~5の整数であり、より好ましくは1~3の整数であり、更に好ましくは1である。
【0134】
式1において、lは0~5の整数であり、好ましくは0~4の整数であり、より好ましくは0~3の整数であり、更に好ましくは0~2である。
mは1~8の整数であり、好ましくは1~4の整数であり、より好ましくは1~3の整数であり、更に好ましくは1又は2である。
nは1~9の整数であり、好ましくは2~5の整数であり、より好ましくは3~5の整数である。
ただし、l+m+nは3~10の整数となり、好ましくは3~8の整数であり、より好ましくは3~6の整数であり、更に好ましくは4~6の整数である。
【0135】
上記式1で表わされるポリマーCが有するポリマー鎖は、いずれも、単独重合体、ブロック共重合体、交互共重合体又はランダム共重合体のいずれであってもよく、またグラフト共重合体でもよい。
【0136】
ポリマーCは、市販品を用いることができるが、例えば、界面活性剤、乳化剤若しくは分散剤、ポリマー鎖P1を形成する重合性化合物、高分子鎖P2を形成する重合性化合物、及びA1とR4とを有する重合性化合物、更には共重合可能な化合物等を用いて、A1とR4とを有する重合性化合物、ポリマー鎖P1を形成する重合性化合物及び高分子鎖P2を形成する重合性化合物を多価のチオール化合物と通常の方法で付加反応させることにより、チオール化合物にポリマー鎖P1及び高分子鎖P2を導入して、合成することができる。必要により、ポリマー鎖P1を形成する重合性化合物、高分子鎖P2を形成する重合性化合物を、通常の重合反応等に準じて重合(ラジカル重合)反応させることもできる。
この反応において、ポリマーCは、通常、球状若しくは粒状のポリマー粒子(バインダー粒子)として合成される。得られるバインダー粒子の平均粒径は、用いる化合物等の種類、重合温度、滴下時間、滴下方法、重合開始剤量等によって、所定の範囲に適宜に設定できる。
【0137】
本発明において、化合物の表示(例えば、化合物と末尾に付して呼ぶとき)については、この化合物そのもののほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。また、所望の効果を奏する範囲で、置換基を導入するなど一部を変化させた誘導体を含む意味である。
本発明において、置換又は無置換を明記していない置換基、連結基等(以下、置換基等という。)については、その基に適宜の置換基を有していてもよい意味である。よって、本明細書において、単に、YYY基と記載されている場合であっても、このYYY基は、置換基を有しない態様に加えて、更に置換基を有する態様も包含する。これは置換又は無置換を明記していない化合物についても同義である。好ましい置換基としては、後述する置換基Tが挙げられる。
本発明において、特定の符号で示された置換基等が複数あるとき、又は複数の置換基等を同時若しくは択一的に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよいことを意味する。また、特に断らない場合であっても、複数の置換基等が隣接するときにはそれらが互いに連結したり縮環したりして環を形成していてもよい意味である。
【0138】
置換基Tとしては、下記のものが挙げられる。
アルキル基(好ましくは炭素数1~20のアルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t-ブチル、ペンチル、ヘプチル、1-エチルペンチル、ベンジル、2-エトキシエチル、1-カルボキシメチル等)、アルケニル基(好ましくは炭素数2~20のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、オレイル等)、アルキニル基(好ましくは炭素数2~20のアルキニル基、例えば、エチニル、ブタジイニル、フェニルエチニル等)、シクロアルキル基(好ましくは炭素数3~20のシクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、4-メチルシクロヘキシル等)、アリール基(好ましくは炭素数6~26のアリール基、例えば、フェニル、1-ナフチル、4-メトキシフェニル、2-クロロフェニル、3-メチルフェニル等)、ヘテロ環基(好ましくは炭素数2~20のヘテロ環基で、好ましくは、少なくとも1つの酸素原子、硫黄原子、窒素原子を有する5又は6員環のヘテロ環基である。ヘテロ環基には芳香族ヘテロ環基及び脂肪族ヘテロ環基を含む。例えば、テトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン、2-ピリジル、4-ピリジル、2-イミダゾリル、2-ベンゾイミダゾリル、2-チアゾリル、2-オキサゾリル等)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~20のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ベンジルオキシ等)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6~26のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、1-ナフチルオキシ、3-メチルフェノキシ、4-メトキシフェノキシ等)、ヘテロ環オキシ基(上記ヘテロ環基に-O-基が結合した基)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2~20のアルコキシカルボニル基、例えば、エトキシカルボニル、2-エチルヘキシルオキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数6~26のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル、1-ナフチルオキシカルボニル、3-メチルフェノキシカルボニル、4-メトキシフェノキシカルボニル等)、アミノ基(好ましくは炭素数0~20のアミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基を含み、例えば、アミノ(-NH2)、N,N-ジメチルアミノ、N,N-ジエチルアミノ、N-エチルアミノ、アニリノ等)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0~20のスルファモイル基、例えば、N,N-ジメチルスルファモイル、N-フェニルスルファモイル等)、アシル基(アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、アルキニルカルボニル基、アリールカルボニル基、ヘテロ環カルボニル基を含み、好ましくは炭素数1~20のアシル基、例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル、オクタノイル、ヘキサデカノイル、アクリロイル、メタクリロイル、クロトノイル、ベンゾイル、ナフトイル、ニコチノイル等)、アシルオキシ基(アルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基、アルキニルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、ヘテロ環カルボニルオキシ基を含み、好ましくは炭素数1~20のアシルオキシ基、例えば、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ、オクタノイルオキシ、ヘキサデカノイルオキシ、アクリロイルオキシ、メタクリロイルオキシ、クロトノイルオキシ、ベンゾイルオキシ、ナフトイルオキシ、ニコチノイルオキシ等)、アリーロイルオキシ基(好ましくは炭素数7~23のアリーロイルオキシ基、例えば、ベンゾイルオキシ等)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1~20のカルバモイル基、例えば、N,N-ジメチルカルバモイル、N-フェニルカルバモイル等)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数1~20のアシルアミノ基、例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1~20のアルキルチオ基、例えば、メチルチオ、エチルチオ、イソプロピルチオ、ベンジルチオ等)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6~26のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ、1-ナフチルチオ、3-メチルフェニルチオ、4-メトキシフェニルチオ等)、ヘテロ環チオ基(上記ヘテロ環基に-S-基が結合した基)、アルキルスルホニル基(好ましくは炭素数1~20のアルキルスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル等)、アリールスルホニル基(好ましくは炭素数6~22のアリールスルホニル基、例えば、ベンゼンスルホニル等)、アルキルシリル基(好ましくは炭素数1~20のアルキルシリル基、例えば、モノメチルシリル、ジメチルシリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル等)、アリールシリル基(好ましくは炭素数6~42のアリールシリル基、例えば、トリフェニルシリル等)、ホスホリル基(好ましくは炭素数0~20のリン酸基、例えば、-OP(=O)(RP)2)、ホスホニル基(好ましくは炭素数0~20のホスホニル基、例えば、-P(=O)(RP)2)、ホスフィニル基(好ましくは炭素数0~20のホスフィニル基、例えば、-P(RP)2)、スルホ基(スルホン酸基)、ヒドロキシ基、スルファニル基、シアノ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)が挙げられる。RPは、水素原子又は置換基(好ましくは置換基Tから選択される基)である。
【0139】
また、置換基Tで挙げた各基は、上記の置換基Tが更に置換していてもよい。
化合物、置換基及び連結基等がアルキル基、アルキレン基、アルケニル基、アルケニレン基、アルキニル基及び/又はアルキニレン基等を含むとき、これらは環状でも鎖状でもよく、また直鎖でも分岐していてもよく、上記のように置換されていても無置換でもよい。
【0140】
(ポリマーの物性)
- ガラス転移温度 -
バインダーを形成するポリマーのガラス転移温度は、特に制限されないが、30℃以下であることが好ましく、25℃以下であることがより好ましく、15℃以下であることが更に好ましく、5℃以下であることが特に好ましい。ガラス転移温度の下限は、特に制限されず、例えば、-200℃に設定でき、-150℃以上であることが好ましく、-120℃以上であることがより好ましい。
【0141】
ガラス転移温度(Tg)は、バインダーを形成するポリマーの乾燥試料を測定対象として、示差走査熱量計:X-DSC7000(商品名、SII・ナノテクノロジー社製)を用いて、下記の条件で測定する。測定は同一の試料で二回実施し、二回目の測定結果を採用する。
測定室内の雰囲気:窒素ガス(50mL/min)
昇温速度:5℃/min
測定開始温度:-100℃
測定終了温度:200℃
試料パン:アルミニウム製パン
測定試料の質量:5mg
Tgの算定:DSCチャートの下降開始点と下降終了点の中間温度の小数点以下を四捨五入することでTgを算定する。
なお、全固体二次電池を用いる場合は、例えば、全固体二次電池を分解して活物質層又は固体電解質層を水に入れてその材料を分散させた後、ろ過を行い、残った固体を収集し、上記の測定法でガラス転移温度を測定することにより行うことができる。
【0142】
バインダーを形成するポリマーは、非晶質であることが好ましい。本発明において、ポリマーが「非晶質」であるとは、典型的には、上記ガラス転移温度の測定法で測定したときに結晶融解に起因する吸熱ピークが見られないことをいう。
【0143】
- 質量平均分子量 -
バインダーを形成するポリマーの質量平均分子量は、特に制限されない。例えば、3,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、7,000以上が更に好ましく、15,000以上が特に好ましい。上限としては、1,000,000以下が実質的であるが、800,000以下が好ましく、600,000以下がより好ましい。
<分子量の測定>
本発明において、質量平均分子量又は数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算の質量平均分子量又は数平均分子量を計測する。測定法としては、基本として下記条件1又は条件2(優先)の方法により測定した値とする。ただし、測定する重合体(ポリマー等)の種類によっては適宜適切な溶離液を選定して用いればよい。
(条件1)
カラム:TOSOH TSKgel Super AWM-Hを2本つなげる
キャリア:10mMLiBr/N-メチルピロリドン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
(条件2)
カラム:TOSOH TSKgel Super HZM-H、TOSOH TSKgel Super HZ4000、TOSOH TSKgel Super HZ2000をつないだカラムを用いる
キャリア:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
【0144】
バインダーを形成するポリマーは、非架橋ポリマーであっても架橋ポリマーであってもよい。また、加熱又は電圧の印加によってポリマーの架橋が進行した場合には、上記分子量より大きな分子量となっていてもよい。好ましくは、全固体二次電池の使用開始時にポリマーが上記範囲の質量平均分子量であることである。
【0145】
- 水分濃度 -
バインダー(ポリマー)の水分濃度は、100ppm(質量基準)以下が好ましい。また、このバインダーは、晶析させて乾燥させてもよく、ポリマー分散液をそのまま用いてもよい。
【0146】
(バインダーの分散状態)
上述のポリマーからなるバインダーは、固体電解質組成物中において、例えば分散媒に溶解して存在していてもよく(分散媒に溶解するバインダーを溶解型バインダーという。)、固体状(通常粒子状)で存在(好ましくは分散)していてもよい(固体状で存在するバインダーを粒子状バインダーという。)。本発明において、バインダーは、固体電解質組成物中、更には構成層(塗布乾燥層)において粒子状バインダーであることが、電池抵抗が低く、工程数を抑制して全固体二次電池を製造できる点で、好ましい。
【0147】
バインダーが粒子状バインダーである場合、その平均粒径は、特に制限されないが、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることが更に好ましく、30nm以上であることがより一層好ましく、50nm以上であることが特に好ましい。上限としては、500nm以下であることが好ましく、400nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることが更に好ましく、200nm以下であることが特に好ましい。粒子状バインダーの平均粒径は、無機固体電解質の平均粒径と同様の方法で測定した値とする。
【0148】
固体電解質組成物は、バインダーを1種含有していても、2種以上を含有していてもよい。
【0149】
固体電解質組成物中のバインダーの含有量は、特に制限されず適宜に設定することができる。例えば、含有量の下限は、固体粒子同士等の結着性、固体電解質層の残存量の点で、固体電解質組成物中、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましく、2質量%以上が更に好ましい。一方、下限は、電池性能の低下(電池抵抗の増大)、固体電解質層の残存量の点で、固体電解質組成物中、8質量%以下が好ましく、6質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましく、4質量%未満が更に好ましい。
【0150】
- 分散媒 -
固体電解質組成物が好ましく含有する分散媒(分散媒体)は、無機固体電解質等の分散質を分散又は溶解させるものであればよく、例えば、各種の有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、アルコール化合物、エーテル化合物、アミド化合物、アミン化合物、ケトン化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、ニトリル化合物、エステル化合物等の各溶媒が挙げられ、その分散媒の具体例としては下記のものが挙げられる。
【0151】
アルコール化合物としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、1-プロピルアルコール、2-プロピルアルコール、2-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ソルビトール、キシリトール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオールが挙げられる。
【0152】
エーテル化合物としては、アルキレングリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等)、アルキレングリコールアルキルエーテル(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等)、ジアルキルエーテル(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等)、環状エーテル(テトラヒドロフラン、ジオキサン(1,2-、1,3-及び1,4-の各異性体を含む)等)が挙げられる。
【0153】
アミド化合物としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどが挙げられる。
【0154】
アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミンなどが挙げられる。
ケトン化合物としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトンなどが挙げられる。
芳香族化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
脂肪族化合物としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどが挙げられる。
ニトリル化合物としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリルなどが挙げられる。
エステル化合物としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸ブチル、ペンタン酸ブチルなどが挙げられる。
非水系分散媒としては、上記芳香族化合物、脂肪族化合物等が挙げられる。
【0155】
本発明においては、中でも、ケトン化合物、芳香族化合物、脂肪族化合物、エステル化合物が好ましく、ケトン化合物、脂肪族化合物、エステル化合物が更に好ましい。
【0156】
分散媒は常圧(1気圧)での沸点が50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。上限は250℃以下であることが好ましく、220℃以下であることが更に好ましい。
固体電解質組成物は、分散媒を1種含有していても、2種以上を含有していてもよい。
【0157】
固体電解質組成物中の分散媒の含有量は、特に制限されず適宜に設定することができる。例えば、固体電解質組成物中、20~99質量%が好ましく、25~70質量%がより好ましく、30~60質量%が特に好ましい。
【0158】
- リチウム塩 -
固体電解質組成物は、リチウム塩(支持電解質)を含有していてもよい。リチウム塩としては、通常この種の製品に用いられるリチウム塩が好ましく、特に制限はなく、例えば、特開2015-088486号公報の段落[0082]~[0085]に記載のリチウム塩が好ましい。
固体電解質組成物がリチウム塩を含む場合、リチウム塩の含有量は、無機固体電解質100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。上限としては、50質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。
【0159】
- 分散剤 -
固体電解質組成物は、分散剤を含有していてもよい。分散剤としては、全固体二次電池に通常使用されるものを適宜選定して用いることができる。一般的には粒子吸着と立体反発及び/又は静電反発を意図した化合物が好適に使用される。
【0160】
- 他の添加剤 -
固体電解質組成物は、上記各成分以外の他の成分として、適宜に、イオン液体、増粘剤、架橋剤(ラジカル重合、縮合重合又は開環重合により架橋反応するもの等)、重合開始剤(酸又はラジカルを熱又は光によって発生させるものなど)、消泡剤、レベリング剤、脱水剤、酸化防止剤等を含有していてもよい。イオン液体は、イオン伝導度をより向上させるため含有されるものであり、公知のものを特に制限されることなく用いることができる。
【0161】
- 固体電解質組成物の調製 -
固体電解質組成物は、通常、無機固体電解質、バインダー、好ましくは分散媒、適宜に他の成分を、例えば通常用いる各種の混合機で混合することにより、混合物として、好ましくはスラリーとして、調製することができる。
混合機としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ブレードミキサー、ロールミル、ニーダー、ディスクミル等が挙げられる。混合方法は、特に制限されず、一括して混合してもよく、順次混合してもよい。混合条件は、特に制限されず、適宜の条件を適用できる。また、混合する環境も、特に制限されないが、乾燥空気下又は不活性ガス下等が挙げられる。
【0162】
本発明の製造方法において、固体電解質組成物を下記方法により調製することが好ましい。
下記方法で調製した固体電解質組成物を本発明の製造方法に用いると、後述する剥離工程で固体電解質層の1~10質量%を支持体に残存させることができ、固体電解質層と、その上に設けられる活物質層とを強固な層間密着性で加圧圧着できる。更に、前加圧圧着工程で活物質層に転写される固体電解質層に、深大な凹部の形成、更には厚さ方向に貫通するピンホールの形成を抑制できる。
(バインダーが粒子状バインダーである場合)
例えば、無機固体電解質と分散媒と所定量のバインダーとを、この順番に混合機に投入して混合する方法が挙げられ、好ましくはスラリーとして調製する。
(バインダーが溶解型のバインダーである場合)
例えば、無機固体電解質と所定量のバインダーとを混合してなる混合物と、バインダーと混合していない無機固体電解質とを定法により混合して、固体電解質組成物を調製する方法が挙げられる。このときの、バインダーと混合された無機固体電解質と、バインダーと混合されていない無機固体電解質との混合割合は、特に制限されず、上記結着状態(支持体への残存量)等に応じて適宜に決定される。
【0163】
上述の固体電解質層の成膜工程により、支持体上に(直接)形成された固体電解質層を有する固体電解質シートを作製できる。
【0164】
<一方の活物質層の成膜工程>
本発明の製造方法においては、好ましくは、正極活物質及び負極活物質の一方の活物質を含有する電極用組成物を基材(集電体)上で製膜する工程を行う。この成膜工程では、固体電解質層が加圧圧着される活物質層として負極活物質層又は正極活物質層を形成し、活物質シートを作製する。好ましくは、負極活物質層を有する負極活物質シートを作製する。本発明の製造方法では、特に制限されないが、この成膜工程で作製した、基材と活物質層とをこの順で積層した活物質シートを、前加圧圧着工程に用いることが好ましい。
この成膜工程は、通常、上記前加圧圧着工程の前に行われるが、上述の固体電解質層の成膜工程との前後は問わない。
この成膜工程は、正極活物質及び負極活物質の一方の活物質と、好ましくは無機固体電解質、導電助剤及びバインダーの少なくとも1種とを含有する電極用組成物を基材上で製膜して、基材と活物質層との積層体を作製可能な方法を特に制限されることなく、適用できる。例えば、基材上に(直接)電極用組成物を製膜(塗布乾燥)する方法が挙げられる。これにより、基材上に電極用組成物の塗布乾燥層を形成することができる。得られる塗布乾燥層は、無機固体電解質に加えて活物質、更には導電助剤等を含有していること以外は、上記固体電解質組成物の塗布乾燥膜と同義である。
電極用組成物の成膜方法は、固体電解質組成物の成膜方法と同じである。
【0165】
こうして得られた、電極組成物の塗布乾燥層(活物質層)は、後述する、正極活物質及び負極活物質の一方の活物質と、好ましくは無機固体電解質、導電助剤及びバインダーの少なくとも1種とを含有しており、固体粒子(無機固体電解質、活物質、導電助剤)同士、更には固体粒子と基材とが、バインダーによって結着されている。活物質シートにおける結着状態は、通常、後述する剥離工程において、塗布乾燥層が基材から剥離せず、かつ活物質層に亀裂や割れ等が生じない程度に、結着していることが好ましい。
【0166】
(基材)
この成膜工程に用いる、基材は、全固体二次電池に組み込まれた際に集電体として機能するものが好ましい。
基材は、通常、フィルム状、シート状等の成形体が用いられるが、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体等も用いることができる。
集電体の厚みは、特に制限されないが、1~500μmが好ましい。また、集電体表面は、表面処理により凹凸を付けることも好ましい。
基材は電子伝導体であることが好ましい。基材として正極集電体を採用する場合、正極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン若しくは銀を処理(コート)したもの(薄膜を形成したもの)が好ましく、その中でも、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、又はこれらの表面にカーボンコートしたものがより好ましい。また、基材として負極集電体を採用する場合、負極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの他に、アルミニウム、銅、銅合金又はステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン若しくは銀を処理(コート)したものが好ましく、アルミニウム、銅、銅合金若しくはステンレス鋼、又はこれらの表面にカーボンコートしたものがより好ましい。
表面にカーボンコートした基材としては、公知のものを特に制限されずに用いることができ、例えば、特開2013-23654号公報及び特開2013-229187号公報に記載の「カーボンコート箔塗工液層と金属箔から構成されるカーボンコート箔」が挙げられる。
【0167】
(電極用組成物)
固体電解質層の成膜工程に用いる電極用組成物は、正極活物質及び負極活物質の一方の活物質と、好ましくは、無機固体電解質、導電助剤及びバインダーの少なくとも1種と、更に分散媒とを含有する。電極用組成物は、活物質、導電助剤等を更に含有していること以外は、上述の固体電解質組成物と同様である。また、電極用組成物における混合態様、含水率等は上述の固体電解質組成物のそれらと同様である。
本発明において、活物質を含有する組成物を電極用組成物といい、具体的には、正極活物質を含有する組成物を正極用組成物と、負極活物質を含有する組成物を負極用組成物という。
【0168】
- 活物質 -
活物質は、周期律表第1族若しくは第2族に属する金属のイオンの挿入放出が可能な物質であり、全固体二次電池に通常使用される活物質を適宜選定して用いることができる。
【0169】
(正極活物質)
正極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び/又は放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、遷移金属酸化物、又は、硫黄などのLiと複合化できる元素などでもよい。
中でも、正極活物質としては、遷移金属酸化物を用いることが好ましく、遷移金属元素Ma(Co、Ni、Fe、Mn、Cu及びVから選択される1種以上の元素)を有する遷移金属酸化物がより好ましい。また、この遷移金属酸化物に元素Mb(リチウム以外の金属周期律表の第1(Ia)族の元素、第2(IIa)族の元素、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P及びBなどの元素)を混合してもよい。混合量としては、遷移金属元素Maの量(100mol%)に対して0~30mol%が好ましい。Li/Maのモル比が0.3~2.2になるように混合して合成されたものが、より好ましい。
遷移金属酸化物の具体例としては、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物、(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物、(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物、(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物及び(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物等が挙げられる。
【0170】
(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiCoO2(コバルト酸リチウム[LCO])、LiNi2O2(ニッケル酸リチウム)、LiNi0.85Co0.10Al0.05O2(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム[NCA])、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム[NMC])、LiNi0.5Mn0.5O2(マンガンニッケル酸リチウム)が挙げられる。
(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiMn2O4(LMO)、LiCoMnO4、Li2FeMn3O8、Li2CuMn3O8、Li2CrMn3O8及びLi2NiMn3O8が挙げられる。
(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、LiFePO4及びLi3Fe2(PO4)3等のオリビン型リン酸鉄塩、LiFeP2O7等のピロリン酸鉄類、LiCoPO4等のリン酸コバルト類並びにLi3V2(PO4)3(リン酸バナジウムリチウム)等の単斜晶ナシコン型リン酸バナジウム塩が挙げられる。
(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物としては、例えば、Li2FePO4F等のフッ化リン酸鉄塩、Li2MnPO4F等のフッ化リン酸マンガン塩及びLi2CoPO4F等のフッ化リン酸コバルト類が挙げられる。
(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物としては、例えば、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4、Li2CoSiO4等が挙げられる。
本発明では、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物が好ましく、LCO又はNMCがより好ましい。
【0171】
正極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。正極活物質の平均粒径(球換算平均粒子径)は特に制限されない。例えば、0.1~50μmとすることができる。正極活物質粒子の平均粒径は、上記無機固体電解質の平均粒径と同様にして測定できる。正極活物質を所定の粒子径にするには、通常の粉砕機又は分級機が用いられる。例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、旋回気流型ジェットミル又は篩などが好適に用いられる。粉砕時には水又はメタノール等の有機溶媒を共存させた湿式粉砕も行うことができる。所望の粒子径とするためには分級を行うことが好ましい。分級は、特に限定はなく、篩、風力分級機などを用いて行うことができる。分級は乾式及び湿式ともに用いることができる。
焼成法によって得られた正極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、有機溶剤にて洗浄した後使用してもよい。
【0172】
電極用組成物(正極用組成物)は、正極活物質を1種含有していても、2種以上を含有していてもよい。
【0173】
電極用組成物中の正極活物質の含有量は、特に制限されず、固形分100質量%において、10~97質量%が好ましく、30~95質量%がより好ましく、40~93質量が更に好ましく、50~90質量%が特に好ましい。なお、電極用組成物が無機固体電解質を含有する場合、正極活物質と無機固体電解質との合計含有量は、固体電解質組成物中における無機固体電解質質の上記含有量に設定されることが好ましい。
【0174】
(負極活物質)
負極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入及び/又は放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、金属酸化物、金属複合酸化物、リチウム単体、リチウム合金、リチウムと合金化(リチウムとの合金を形成)可能な負極活物質等が挙げられる。中でも、炭素質材料、金属複合酸化物又はリチウム単体が信頼性の点から好ましく用いられる。全固体二次電池の大容量化が可能となる点では、リチウムと合金化可能な活物質が好ましい。本発明の負極用組成物で形成した負極活物質は固体粒子同士が強固に結着しているため、負極活物質として上記リチウムと合金化可能な活物質を用いることができる。
【0175】
負極活物質として用いられる炭素質材料とは、実質的に炭素からなる材料である。例えば、石油ピッチ、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、黒鉛(天然黒鉛、気相成長黒鉛等の人造黒鉛等)、及びPAN(ポリアクリロニトリル)系の樹脂若しくはフルフリルアルコール樹脂等の各種の合成樹脂を焼成した炭素質材料を挙げることができる。更に、PAN系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA(ポリビニルアルコール)系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維及び活性炭素繊維等の各種炭素繊維類、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカー、平板状の黒鉛等を挙げることもできる。
【0176】
これらの炭素質材料は、黒鉛化の程度により難黒鉛化炭素質材料(ハードカーボンともいう。)と黒鉛系炭素質材料に分けることもできる。また炭素質材料は、特開昭62-22066号公報、特開平2-6856号公報、同3-45473号公報に記載される面間隔又は密度、結晶子の大きさを有することが好ましい。炭素質材料は、単一の材料である必要はなく、特開平5-90844号公報記載の天然黒鉛と人造黒鉛の混合物、特開平6-4516号公報記載の被覆層を有する黒鉛等を用いることもできる。
炭素質材料としては、ハードカーボン又は黒鉛が好ましく用いられ、黒鉛がより好ましく用いられる。
【0177】
負極活物質として適用される金属若しくは半金属元素の酸化物としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な酸化物であれば特に制限されず、金属元素の酸化物(金属酸化物)、金属元素の複合酸化物若しくは金属元素と半金属元素との複合酸化物(纏めて金属複合酸化物という。)、半金属元素の酸化物(半金属酸化物)が挙げられる。これらの酸化物としては、非晶質酸化物が好ましく、更に金属元素と周期律表第16族の元素との反応生成物であるカルコゲナイドも好ましく挙げられる。本発明において、半金属元素とは、金属元素と非半金属元素との中間の性質を示す元素をいい、通常、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン及びテルルの6元素を含み、更にはセレン、ポロニウム及びアスタチンの3元素を含む。また、非晶質とは、CuKα線を用いたX線回折法で、2θ値で20°~40°の領域に頂点を有するブロードな散乱帯を有するものを意味し、結晶性の回折線を有してもよい。2θ値で40°~70°に見られる結晶性の回折線の内最も強い強度が、2θ値で20°~40°に見られるブロードな散乱帯の頂点の回折線強度の100倍以下であるのが好ましく、5倍以下であるのがより好ましく、結晶性の回折線を有さないことが特に好ましい。
【0178】
上記非晶質酸化物及びカルコゲナイドからなる化合物群の中でも、半金属元素の非晶質酸化物又は上記カルコゲナイドがより好ましく、周期律表第13(IIIB)族~15(VB)族の元素(例えば、Al、Ga、Si、Sn、Ge、Pb、Sb及びBi)から選択される1種単独若しくはそれらの2種以上の組み合わせからなる(複合)酸化物、又はカルコゲナイドが特に好ましい。好ましい非晶質酸化物及びカルコゲナイドの具体例としては、例えば、Ga2O3、GeO、PbO、PbO2、Pb2O3、Pb2O4、Pb3O4、Sb2O3、Sb2O4、Sb2O8Bi2O3、Sb2O8Si2O3、Sb2O5、Bi2O3、Bi2O4、GeS、PbS、PbS2、Sb2S3又はSb2S5が好ましく挙げられる。
Sn、Si、Geを中心とする非晶質酸化物に併せて用いることができる負極活物質としては、リチウムイオン又はリチウム金属を吸蔵及び/又は放出できる炭素質材料、リチウム単体、リチウム合金、リチウムと合金化可能な活物質が好適に挙げられる。
【0179】
金属若しくは半金属元素の酸化物、とりわけ金属(複合)酸化物及び上記カルコゲナイドは、構成成分として、チタン及びリチウムの少なくとも一方を含有していることが、高電流密度充放電特性の観点で好ましい。リチウムを含有する金属複合酸化物(リチウム複合金属酸化物)としては、例えば、酸化リチウムと上記金属(複合)酸化物若しくは上記カルコゲナイドとの複合酸化物、より具体的には、Li2SnO2が挙げられる。
負極活物質、例えば金属酸化物は、チタン原子を含有すること(チタン酸化物)も好ましく挙げられる。具体的には、Li4Ti5O12(チタン酸リチウム[LTO])がリチウムイオンの吸蔵放出時の体積変動が小さいことから急速充放電特性に優れ、電極の劣化が抑制されリチウムイオン二次電池の寿命向上が可能となる点で好ましい。
【0180】
負極活物質としてのリチウム合金としては、二次電池の負極活物質として通常用いられる合金であれば特に制限されず、例えば、リチウムアルミニウム合金が挙げられる。
【0181】
リチウムと合金化可能な活物質としては、二次電池の負極活物質として通常用いられるものであれば特に制限されない。このような活物質として、ケイ素元素若しくはスズ元素を有する(負極)活物質(合金等)、Al及びIn等の各金属が挙げられ、より高い電池容量を可能とするケイ素元素を構成元素に含むケイ素系負極活物質(ケイ素元素含有活物質)が好ましく、ケイ素元素の含有量が全構成元素の50モル%以上のケイ素元素含有活物質がより好ましい。
一般的に、これらの負極活物質を含有する負極(ケイ素元素含有活物質を含有するSi負極、スズ元素を有する活物質を含有するSn負極等)は、炭素負極(黒鉛及びアセチレンブラックなど)に比べて、より多くのLiイオンを吸蔵できる。すなわち、単位質量あたりのLiイオンの吸蔵量が増加する。そのため、電池容量を大きくすることができる。その結果、バッテリー駆動時間を長くすることができるという利点がある。
ケイ素元素含有活物質としては、例えば、Si、SiOx(0<x≦1)等のケイ素材料、更には、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、ランタン等を含むケイ素含有合金(例えば、LaSi2、VSi2、La-Si、Gd-Si、Ni-Si)、又は組織化した活物質(例えば、LaSi2/Si)、他にも、SnSiO3、SnSiS3等のケイ素元素及びスズ元素を含有する活物質等が挙げられる。なお、SiOxは、それ自体を負極活物質(半金属酸化物)として用いることができ、また、全固体二次電池の稼働によりSiを生成するため、リチウムと合金化可能な負極活物質(その前駆体物質)として用いることができる。
スズ元素を有する負極活物質としては、例えば、Sn、SnO、SnO2、SnS、SnS2、更には上記ケイ素元素及びスズ元素を含有する活物質等が挙げられる。また、酸化リチウムとの複合酸化物、例えば、Li2SnO2を挙げることもできる。
【0182】
本発明においては、上述の負極活物質を特に制限されることなく用いることができるが、電池容量の点では、負極活物質として、リチウムと合金化可能な負極活物質が好ましい態様であり、中でも、上記ケイ素材料又はケイ素含有合金(ケイ素元素を含有する合金)がより好ましく、ケイ素(Si)又はケイ素含有合金を含むことが更に好ましい。
【0183】
上記焼成法により得られた化合物の化学式は、測定方法として誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、簡便法として、焼成前後の粉体の質量差から算出できる。
【0184】
負極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。負極活物質の平均粒径は、特に制限されないが、0.1~60μmが好ましい。負極活物質粒子の平均粒径は、上記無機固体電解質の平均粒径と同様にして測定できる。所定の粒子径にするには、正極活物質と同様に、通常の粉砕機若しくは分級機が用いられる。
【0185】
電極用組成物(負極用組成物)は、負極活物質を1種含有していても、2種以上を含有していてもよい。
【0186】
電極用組成物中の負極活物質の含有量は、特に制限されず、固形分100質量%において、10~90質量%であることが好ましく、20~85質量%がより好ましく、30~80質量%であることがより好ましく、40~75質量%であることが更に好ましい。なお、電極用組成物が無機固体電解質を含有する場合、負極活物質と無機固体電解質との合計含有量は、固体電解質組成物中における無機固体電解質の上記含有量に設定されることが好ましい。
【0187】
- 活物質の被覆 -
正極活物質及び負極活物質の表面は別の金属酸化物で表面被覆されていてもよい。表面被覆剤としてはTi、Nb、Ta、W、Zr、Al、Si又はLiを含有する金属酸化物等が挙げられる。具体的には、チタン酸スピネル、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物、ニオブ酸リチウム系化合物等が挙げられ、具体的には、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、LiTaO3、LiNbO3、LiAlO2、Li2ZrO3、Li2WO4、Li2TiO3、Li2B4O7、Li3PO4、Li2MoO4、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、Li2SiO3、SiO2、TiO2、ZrO2、Al2O3、B2O3等が挙げられる。
また、正極活物質又は負極活物質を含む電極表面は硫黄又はリンで表面処理されていてもよい。
更に、正極活物質又は負極活物質の粒子表面は、上記表面被覆の前後において活性光線又は活性気体(プラズマ等)により表面処理を施されていてもよい。
【0188】
- 導電助剤 -
電極用組成物は、活物質の電子導電性を向上させる等のために用いられる導電助剤を含有していることが好ましい。導電助剤としては、一般的な導電助剤を用いることができる。例えば、電子伝導性材料である、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどのカーボンブラック類、ニードルコークスなどの無定形炭素、気相成長炭素繊維若しくはカーボンナノチューブなどの炭素繊維類、グラフェン若しくはフラーレンなどの炭素質材料であってもよいし、銅、ニッケルなどの金属粉、金属繊維でもよく、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリフェニレン誘導体などの導電性高分子を用いてもよい。またこれらの内1種を含有していてもよいし、2種以上を含有していてもよい。導電助剤の形状は、特に制限されないが、粒子状が好ましい。
電極用組成物が導電助剤を含む場合、電極用組成物中の導電助剤の含有量は、固形分100質量%において、0~10質量%が好ましい。
本発明において、活物質と導電助剤とを併用する場合、上記導電助剤のうち、電池を充放電した際に周期律表第一族若しくは第二族に属する金属のイオン(好ましくはLiイオン)の挿入と放出が起きず、活物質として機能しないものを導電助剤とする。したがって、導電助剤の中でも、電池を充放電した際に活物質層中において活物質として機能しうるものは、導電助剤ではなく活物質に分類する。電池を充放電した際に活物質として機能するか否かは、一義的ではなく、活物質との組み合わせにより決定される。
【0189】
電極用組成物が含有する、活物質及び導電助剤以外の成分は、固体電解質組成物が含有する上記成分と同じであり、その含有量も同じである。
【0190】
電極用組成物は、活物質と、好ましくは、無機固体電解質、導電助剤及びバインダーの少なくとも1種と、更に分散媒と、適宜に他の成分を用いて、固体電解質組成物の調製と同様にして、調製できる。電極用組成物の塗布において、活物質層の単位面積(cm2)当たりの活物質の質量(mg)(目付量)は特に制限されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができ、例えば、1~100mg/cm2とすることができる。
【0191】
上述の活物質層の成膜工程により、基材上に形成された活物質層を有する活物質シートを作製できる。
【0192】
<前加圧圧着工程>
本発明の製造方法においては、前加圧圧着工程を行う。すなわち、支持体上に形成された固体電解質層と、正極活物質層及び負極活物質層の一方の活物質層とを重ねて加圧圧着する。この工程において、固体電解質シート及び活物質シートを用いる場合、固体電解質シートの固体電解質層(固体電解質組成物の塗布乾燥層)と、活物質シートの活物質層(電極組成物の塗布乾燥層)とが互いに接触した状態で、固体電解質シート及び活物質シートを重ね合わせて、加圧圧着する。
本発明の製造方法においては、負極活物質層を有する活物質シート(負極活物質シート)を用いて前加圧圧着工程を行うことが、好ましい。すなわち、好ましい製造方法においては、
図3に示されるように、支持体23上に形成された固体電解質層22を有する固体電解質シート18の固体電解質層22と、負極集電体1上に形成された負極活物質層21を有する負極活物質シート17の負極活物質層21とを互いに接した状態で重ね合わせて、
図3中の矢印方向に加圧圧着する。
加圧圧着する方法としては、固体電解質層の成膜工程における加圧方法と同様の方法が挙げられる。加圧方向は、両層の積み重ね方向(固体電解質層の厚さ方向)であり、加圧力は、固体電解質層と活物質層とが圧着(密着)する限り特に制限されない。例えば、固体電解質層の成膜工程における加圧力と同じ加圧力に設定できる。その加圧圧着条件も、固体電解質層の成膜工程における加圧圧着条件と同じ条件を適用できる。
【0193】
本発明の製造方法においては、正極活物質層及び負極活物質層のいずれか一方を一回り大きいサイズ(表面積)で形成し、大きいサイズの電極活物質層に固体電解質層を加圧圧着することが、電極間の短絡を防ぐ上で好ましい。また、負極活物質層を一回り大きいサイズに作製することが、活物質層の端部における過充電を防止することができる点で、好ましい。
【0194】
この前加圧圧着工程により、固体電解質層と一方の活物質層とが圧着(密着)して、支持体/固体電解質層/一方の活物質層の積層体、好ましくは固体電解質シートと活物質シートとのシート積層体が得られる。このシート積層体において、固体電解質層と活物質層との圧着力は、通常、後述する剥離工程において、固体電解質層と活物質層とが剥離せず、かつ両層に亀裂や割れ等が生じない程度に、強固に圧着していることが好ましい。
前加圧圧着工程により、各積層体の各層は互いに圧着していること以外は変化しないが、加圧力によっては層厚が薄くなることもある。
【0195】
<剥離工程>
本発明の製造方法においては、次いで、前加圧圧着工程で作製したシート積層体について、活物質層に加圧圧着された固体電解質層から支持体を剥離する工程を行う。
この支持体の剥離に際して、固体電解質層はバインダー及び無機固体電解質を含有しており、また両積層体の結着状態は上述の関係にあるから、固体電解質層の一部は支持体に残存する(密着したまま活物質層に転写されない)。すなわち、支持体上に形成された固体電解質層のうち、上述の結着部分は支持体に残存し、上述の非結着部分は支持体に残存せずに活物質層に転写される。本発明の好ましい製造方法においては、
図4に示されるように、固体電解質層22の一部が支持体23に残存した状態(図示しない)で支持体23が剥離される。こうして、一部が欠落した(転写されずに)固体電解質層22が負極活物質層21に転写され、固体電解質層22aと負極活物質層21とが強固に圧着する。
【0196】
本発明においては、固体電解質層の全質量に対して1~10質量%を支持体に残存させる。これにより、支持体が剥離された固体電解質層には固体電解質組成物が欠落した凹部が形成され、その表面は平坦ではなく凹凸を有するものとなる。
固体電解質層の支持体への残存量は、後述する後加圧圧着工程で固体電解質層の表面に加圧圧着される活物質層との圧着力がより高くなる点で、1.5質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましい。一方、深大な凹部、厚さ方向に貫通するピンホールの形成を阻害して、全固体二次電池の短絡発生を効果的に抑制できる点で、8質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましい。
この残存量は、バインダーの種類、含有量若しくは平均粒径、更には無機固体電解質の平均粒径、前加圧圧着工程での加圧力及び加圧温度、活物質層(活物質の種類若しくは平均粒径、導電助剤の種類若しくは平均粒径等)、支持体の材質、剥離方法等によって、上記範囲に設定できるが、一義的ではない。残存量の調整条件は、特に制限されるものではないが、例えば、バインダーを形成するポリマーが有する、無機固体電解質に吸着する吸着性基の比率を高めると、残存量は多くなる傾向がある。また、バインダーの含有量を高めると、残存量が多くなる傾向がある。更に粒子状バインダーの平均粒径を大きくすると、残存量は少なくなる傾向がある。無機固体電解質の平均粒径を大きくすると、残存量は多くなる傾向がある。加圧力を高めると残存量は少なくなる傾向がある。固体電解質層の層厚及び一方の活物質層の種類(負極活物質層又は正極活物質層)は、残存量に与える影響は小さい。
特に、前加圧圧着工程における条件として、固体電解質層中のバインダーの含有量を2~5質量%とし、加圧力を1~100MPa(好ましくは5~100MPa、上限は更に好ましくは80MPa以下)とすると、残存量を上記範囲に設定できる。より好ましい条件として、前加圧圧着工程における加圧力は50~100MPaであり、更に固体電解質層中のバインダーの含有量は3質量%を超えて5質量%未満である。
【0197】
剥離工程において、支持体の剥離方法は、特に制限されず、一挙に剥離してもよいが、通常、支持体の一端縁から他端縁に向けて剥離する。このときの固体電解質層から剥離する速度、角度は特に制限されないが、剥離速度は500~2000mm/分であると、所定の残存率で固体電解質層を残存させやすくなる。
【0198】
こうして、活物質シート(一方の活物質層)に、表面に凹凸を有する固体電解質層を転写することができ、上述した全固体二次電池用電極シートを作製できる。本発明の好ましい製造方法では、
図4に示される、負極シート17と、表面に凹凸を有する固体電解質層22aとの積層シートとして全固体二次電池用電極シート15が作製される。
本発明の製造方法は、上述のように、前加圧工程及び剥離工程により、固体電解質層の表面に凹凸を形成することができる。そのため、固体電解質層に凹凸を形成する工程を別途行わなくても、後述する後加圧圧着工程で活物質層を直接圧着することができ、高い生産性を示す。剥離工程で形成される凹凸形状は特に制限されない。
【0199】
<他方の活物質層の成膜工程>
本発明の全固体二次電池の製造方法においては、次いで、後加圧圧着工程を行うが、その前に、他方の活物質層の成膜工程を行うことが好ましい。この成膜工程は、後加圧圧着工程前であれば、他の工程との前後は問わず、例えば、後加圧圧着工程の前であって、上述の前加圧圧着工程及び剥離工程の、前、間若しくは後に、行うことができる。
この成膜工程は、正極活物質及び負極活物質の他方の活物質層を含有する電極用組成物を基材(集電体)上で製膜して活物質層を形成し、活物質シートを作製する工程である。この成膜工程で製膜される活物質シートは、上記前加圧圧着工程の前に行われる上記一方の活物質層の成膜工程で製膜される活物質シートに応じて、決定される。すなわち、前加圧圧着工程の前に行われる成膜工程で負極活物質シートを作製する場合、本成膜工程では正極活物質シートを作製する。
本成膜工程に用いる電極組成物及びその調製方法は、前加圧圧着工程の前に行われる成膜工程に用いる電極組成物及びその調製方法と同じである。
【0200】
<後加圧圧着工程>
本発明の全固体二次電池の製造方法においては、次いで、後加圧圧着工程を行う。すなわち、上述の剥離工程で得られた全固体二次電池用電極シートにおける、支持体を剥離した固体電解質層と、正極活物質層及び負極活物質層の他方の活物質層とを重ねて加圧圧着する。この工程において、他方の活物質層として活物質シートを用いる場合、全固体二次電池用電極シートの固体電解質層と、活物質シートの活物質層(電極組成物の塗布乾燥層)とが互いに接触した状態で、両シートを重ね合わせて、加圧圧着する。
本発明の製造方法においては、正極活物質層を有する活物質シート(正極活物質シート)を用いて後加圧圧着工程を行うことが好ましい。すなわち、好ましい製造方法においては、
図5に示されるように、固体電解質層22aと、正極集電体5上に形成された正極活物質層24を有する正極活物質シート19の正極活物質層24とを互いに接した状態で重ね合わせて、
図5中の矢印方向に加圧圧着する。
【0201】
後加圧圧着工程は、後述する最終加圧工程と別に行ってもよく、最終加圧工程を兼ねてもよい。
最終加圧工程と別に後加圧圧着工程を行う場合、加圧する方法としては、固体電解質層の成膜工程における加圧方法と同様の方法が挙げられる。加圧方向は、両層の積み重ね方向であり、加圧力は固体電解質層と活物質層とが圧着(密着)する限り特に制限されない。例えば、固体電解質層の成膜工程における加圧力と同じ加圧力に設定できる。その加圧圧着条件も、固体電解質層の成膜工程における加圧圧着条件と同じ条件を適用できる。
一方、最終加圧工程を兼ねて最終加圧工程を行う場合、最終加圧工程と別に行う後加圧圧着工程と同様にして加圧圧着することができるが、加圧力は後述する最終加圧工程と同じ加圧力に設定することが好ましい。
【0202】
こうして、固体電解質層と他方の活物質層とを後加圧圧着すると、固体電解質層の表面の凹凸形状に他方の活物質層が追従して変形し、固体電解質層と他方の活物質層とが強固な層間密着力で圧着される。その詳細な理由についてはまだ定かではないが、固体電解質層が表面に凹凸を有していることにより、他方の活物質層との接触面積が増大し、更には両層が接触界面で混合されて十分なアンカー効果を発現するため、と考えられる。
【0203】
この後加圧圧着工程により、固体電解質層と他方の活物質層とが圧着(密着)して、全固体二次電池用電極シートと活物質シートとの積層体、すなわち
図1に示す層構成を有する全固体二次電池用積層体が得られる。この全固体二次電池用積層体において、全固体二次電池用電極シートの固体電解質層と活物質シートの活物質層とは強固な圧着力で圧着されている。
後加圧圧着工程により、各層は互いに圧着していること以外は変化しないが、固体電解質層の凹凸が変形し、又は加圧力によっては層厚が薄くなることもある。
【0204】
<最終加圧工程>
本発明の全固体二次電池の製造方法においては、上記後加圧圧着工程を実施して得られる全固体二次電池用積層体(少なくとも、正極活物質層と固体電解質層と負極活物質層との積層体)を、そのまま電池として用いてもよいが、50~1500MPaの加圧力で最終加圧することが好ましい。この最終加圧工程により、特に後加圧圧着工程よりも加圧力が高く設定される場合、固体電解質層と他方の活物質層との層間密着性を更に高めることができる。
本工程で加圧する方法及び条件は、固体電解質組成物の成膜方法における加圧方法及び条件と同じであるが、加圧力は、100~1000MPaの範囲とすることが好ましい。また、加圧は通常非加熱下(全固体二次電池の保存若しくは使用温度等)で行われる。最終加圧は、短時間(例えば数時間以内)で高い圧力をかけて行ってもよいし、長時間(1日以上)かけて中程度の圧力をかけて行ってもよい。本工程においては、全固体二次電池用積層体に中程度の圧力をかけ続けるために、拘束具(ネジ締め圧等)を用いることもできる。また、最終加圧は、全固体二次電池用積層体を筐体に封入した状態で行うこともでき、更に最終加圧した状態で全固体二次電池として使用する(常時最終加圧状態)こともできる。
【0205】
<初期化工程>
本発明の全固体二次電池の製造方法においては、得られた全固体二次電池を製造後又は使用前に初期化することもできる。初期化する方法は、特に制限されず、公知の方法を適宜に適用できる。例えば、(上記最終加圧下において)加圧力を高めた状態で初充放電を行い、その後、全固体二次電池の一般使用圧力になるまで圧力を解放する方法が挙げられる。
【0206】
上述のように、本発明の全固体二次電池の製造方法は、上記工程により、全固体二次電池の構成層を強固な層間密着性で加圧圧着することができる。具体的には、正極活物質層、固体電解質層及び負極活物質層が強固な層間密着性で加圧圧着でき、更には活物質と集電体とも強い層間密着性で加圧圧着できる。
そのため、得られる固体二次電池は、圧着不良に起因する電池抵抗の上昇が抑制され、高い電池性能を発揮する。また、固体電解質層の層厚を薄くしても、強固な層間密着性は維持され、更に単位体積当たりの電気容量を高めて、高エネルギー密度化することもできる。更に、本発明の製造方法では、支持体の剥離工程において支持体に残存させる固体電解質層を上記特定の割合としているため、前加圧圧着工程で活物質層に転写される固体電解質層に、深大な凹部の形成、更には厚さ方向に貫通するピンホールの形成を抑制できる。その結果、全固体二次電池は、高い電池性能を維持しつつも短絡の発生を抑制できる。
このように、本発明の全固体二次電池の製造方法は、高い電池性能を示す全固体二次電池を生産性良く(工程数及びコストを低減して)製造することができる。更には、支持体に残存させる固体電解質層の割合によって高い電池性能を維持しつつも短絡の発生しにくい全固体二次電池を生産性に加えて再現性もよく(高い歩留りで)製造することもできる。
【0207】
また、本発明の全固体二次電池用電極シートの製造方法は、本発明の全固体二次電池の製造方法に組み込まれており、これにより得られる全固体二次電池用電極シートは本発明の全固体二次電池の製造方法に用いられる中間製品として好適である。
【0208】
[全固体二次電池の用途]
本発明の製造方法で製造された全固体二次電池は、種々の用途に適用することができる。適用態様は、特に制限はないが、例えば、電子機器に搭載する場合、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源等が挙げられる。その他民生用として、自動車、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)等も挙げられる。更に、各種軍需用、宇宙用として用いることができる。また、太陽電池と組み合わせることもできる。
【実施例】
【0209】
以下に、実施例に基づき本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。以下の実施例において組成を表す「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。本発明において「室温」とは25℃を意味する。
【0210】
<合成例1:硫化物系無機固体電解質の合成>
硫化物系無機固体電解質は、T.Ohtomo,A.Hayashi,M.Tatsumisago,Y.Tsuchida,S.Hama,K.Kawamoto,Journal of Power Sources,233,(2013),pp231-235、及び、A.Hayashi,S.Hama,H.Morimoto,M.Tatsumisago,T.Minami,Chem.Lett.,(2001),pp872-873の非特許文献を参考にして合成した。
具体的には、アルゴンガス雰囲気下(露点-70℃)のグローブボックス内で、硫化リチウム(Li2S、Aldrich社製、純度>99.98%)2.42g及び五硫化二リン(P2S5、Aldrich社製、純度>99%)3.90gをそれぞれ秤量し、メノウ製乳鉢に投入し、メノウ製乳棒を用いて、5分間混合した。Li2S及びP2S5の混合比は、モル比でLi2S:P2S5=75:25とした。
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66g投入し、上記の硫化リチウムと五硫化二リンの混合物全量を投入し、アルゴンガス雰囲気下で容器を完全に密閉した。遊星ボールミルP-7(商品名、フリッチュ社製)に容器をセットし、温度25℃で、回転数510rpmで20時間メカニカルミリングを行うことで、黄色粉体の硫化物系無機固体電解質(Li/P/Sガラス、以下、LPSと表記することがある。)6.20gを得た。平均粒径は8μmであった。
【0211】
得られたLPSを用いて下記条件で湿式分散して、LPSの平均粒径を調整した。
すなわち、ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを160個投入し、合成したLPS4.0g、及び分散媒としてジイソブルケトン6.0gをそれぞれ添加した後に、遊星ボールミルP-7に容器をセットし、下記条件で60分湿式分散を行い、下記に示す平均粒径のLPSを得た。
条件1:回転数200rpm、平均粒径5μm
条件2:回転数250rpm、平均粒径3μm
条件3:回転数290rpm、平均粒径2μm
なお、LPSの平均粒径は、湿式混合して得た上記分散液に、分散媒(ジイソブルケトン)を追加して、固形分濃度1質量%の測定用分散液を調整した。測定用分散液について、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(商品名、HORIBA社製)を用いて測定した。
【0212】
<合成例2:バインダーを形成するポリマーAの合成(粒子状バインダーA分散液の調製)>
還流冷却管、ガス導入コックを付した1L三口フラスコにヘプタンを200g加え、流速200mL/minにて窒素ガスを10分間導入した後に80℃に昇温した。これに、別容器にて調製した液(アクリル酸エチル(和光純薬工業社製)140g、アクリル酸(和光純薬工業社製)20g、マクロモノマーAB-6(東亜合成社製)を40g(固形分量)、重合開始剤V-601(商品名、和光純薬工業社製)を2.0g混合した液)を2時間かけて滴下し、その後80℃で2時間攪拌した。得られた混合物にV-601を更に1.0g添加し、90℃で2時間攪拌した。得られた溶液をヘプタンで希釈することで、アクリルポリマー(質量平均分子量:75000、Tg:-5℃)からなる粒子状バインダーA(平均粒径150nm)の分散液を得た。
マクロモノマーAB-6は、末端官能基がメタクリロイル基であるポリブチルアクリレート(数平均分子量6000、SP値9.1)である。
【0213】
<合成例3:バインダーを形成するポリマーBの合成(粒子状バインダーB分散液の調製)>
ポリウレタンを合成するため、まず末端ジオールポリメタクリル酸ドデシルを合成した。
具体的には、500mL3つ口フラスコ中にメチルエチルケトン20mLを仕込み、窒素気流下、75℃に加熱した。一方、500mLメスシリンダーにドデシルメタクリレート(和光純薬工業社製)70gとメチルエチルケトン110gとを仕込み、10分撹拌した。これに連鎖移動剤としてチオグリセロール(和光純薬工業社製)2.9gとラジカル重合開始剤V-601(商品名、和光純薬工業社製)3.2gとを加え、更に10分撹拌した。得られたモノマー溶液を2時間かけて、上記500mL3つ口フラスコに滴下し、ラジカル重合を開始させた。更に、滴下終了後、75℃で6時間加熱撹拌を続けた。得られた重合液を減圧濃縮し、メチルエチルケトンを留去した後、固形物をヘプタンに溶解して、末端ジオール変性ポリメタクリル酸ドデシルの25質量%ヘプタン溶液292gを得た。得られたポリマーの質量平均分子量は3200であった。
【0214】
続いてポリウレアコロイド粒子MM-1を合成した。
具体的には、末端ジオール変性ポリメタクリル酸ドデシル25質量%のヘプタン溶液260gを、1Lの3つ口フラスコに加え、ヘプタン110gで希釈した。これにイソホロンジイソシアネート(和光純薬工業社製)11.1gとネオスタンU-600(商品名、日東化成社製)0.1gとを加え、75℃で5時間加熱撹拌した。その後、イソホロンジアミン(アミン化合物)0.4gのヘプタン125g希釈液を1時間かけて滴下した。ポリマー溶液は、滴下開始後10分で透明から薄い黄色の蛍光色を有する溶液へと変化した。この変化により、ウレアコロイドが形成したことを確認した。反応液を室温に冷却し、ポリウレアコロイド粒子MM-1の15質量%ヘプタン溶液506gを得た。
ポリウレアコロイド粒子MM-3のポリウレアの質量平均分子量は、9,600であった。
【0215】
次に、ポリウレアコロイド粒子MM-3を用いてポリウレタンを合成した。
具体的には、50mLサンプル瓶にm-フェニレンジイソシアネート(東京化成社製)3.2g、ポリエチレングリコール(質量平均分子量400、Aldrich社製)8.0gを加えた。これにポリウレアコロイド粒子MM-1の15質量%ヘプタン溶液60.0gを加え、50℃で加温しながらホモジナイザーで30分間分散した。この間、混合液は微粒子化し、薄橙色のスラリーとなった。得られたスラリーを、予め温度80℃に加熱した200mL3つ口フラスコに投入し、ネオスタンU-600(商品名、日東化成社製)0.1gを加えて、温度80℃、回転数400rpmで3時間加熱撹拌した。スラリーは、白色乳濁状となった。これより、ポリウレタンからなる粒子状バインダーが形成されたことが推定された。白色乳濁状のスラリーを冷却し、ポリウレタン(炭化水素ポリマーセグメント無含有、質量平均分子量:16000、Tg:-3℃)からなる粒子状バインダーB(平均粒径:100nm)の分散液を調製した。
【0216】
<合成例4:バインダーを形成するポリマーCの合成(粒子状バインダーC分散液の調製)>
まず、マクロモノマー溶液を調製した。すなわち、撹拌機、温度計、還流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた1リットル三口フラスコに、トルエン(269.0g)を仕込んで、窒素気流下で80℃まで昇温した。次いで、上記三口フラスコに、メチルメタクリレート(150.2g)とラウリルメタクリレート(381.6g)とV-601(5.3g、アゾ系重合開始剤、和光純薬社製)と3-メルカプトプロピオン酸(4.7g)とからなるモノマー溶液を2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。上記モノマー溶液の滴下完了後、2時間攪拌し、続いて95℃へ昇温し、更に2時間攪拌した。続いて、得られた反応混合物へ、p-メトキシフェノール(0.3g)、グリシジルメタクリレート(31.8g)及びテトラブチルアンモニウムブロミド(6.4g)を加え、120℃へ昇温して3時間撹拌した。その後、反応液を室温まで冷却し、撹拌しているメタノール(2L)へ注ぎ、しばらく静置した。上澄み液をデカンテーションして得られた固体をヘプタン(1200g)に溶解し、固形分40%まで溶媒を減圧留去して、マクロモノマー溶液を得た。
マクロモノマーの、上記測定方法による数平均分子量は10000であり、SP値は18であった。
【0217】
次いで、マクロモノマー付加体溶液を調製した。すなわち、得られたマクロモノマー溶液(287g、固形分40%)とジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)(5.0g)とトルエン(305.0g)とを、撹拌機、温度計、還流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた1リットル三口フラスコに仕込んで、窒素気流下で80℃まで昇温した。次いで、上記三口フラスコに、V-601(0.1g)を加え、2時間撹拌して、マクロモノマー付加体溶液を得た(固形分20.0%)。
得られたマクロモノマー付加体は、マクロモノマーがジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)中の平均2つのメルカプト基と反応した付加体(m=2)であった。
【0218】
こうして得られたマクロモノマー付加体溶液を用いて粒子状バインダーCの分散液を調製した。すなわち、撹拌機、温度計、還流冷却管及び窒素ガス導入管を備えた1リットル三口フラスコに、ジイソブチルケトン(54.5g)、マクロモノマー付加体溶液(225.0g、固形分20.0%)を仕込んで、窒素気流下で80℃まで昇温した。次いで、上記三口フラスコに、SP値が23.5であるヒドロキシエチルアクリレート(105.0g)とジイソブチルケトン(115.5g)とV-601(1.5g)とからなるモノマー溶液を2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。上記モノマー溶液の滴下完了後、2時間攪拌し、続いて90℃へ昇温し、更に2時間攪拌した。得られた反応混合物を網目50μmのメッシュでろ過した。こうして、固形分濃度30質量%の、下記式に示すポリマー(質量平均分子量:400000、Tg:-20℃)からなる粒子状バインダーC(平均粒径:130nm)の分散液を調製した。
下記式に示すポリマーにおいて、構成成分の右下に付記した数字は質量比を示す。
【0219】
【0220】
<調製例1:バインダーDのDIBK溶液の調製>
Poly(styrene-co-butadiene)(商品番号430072、アルドリッチ社製)を、90℃に加熱したジイソブチルケトン(DIBK)溶媒中で攪拌して、固形分濃度30質量%のバインダーD(溶解型)のDIBK溶液を調製した。
【0221】
[実施例]
下記製造方法により、全固体二次電池用電極シート及び全固体二次電池を製造して、電池性能(電池抵抗)、更に製造歩留り(短絡発生率)を評価した。その結果を表1に示す。
【0222】
<全固体二次電池No.1の製造>
全固体二次電池No.1の製造では、粒子状のバインダーを用いて、負極活物質層(表1において「被転写活物質層」と表記する。)に固体電解質層を転写した後に正極活物質層を圧着して、全固体二次電池No.1を製造した。
【0223】
(前加圧圧着工程の前に行う一方の活物質層(負極活物質層)の成膜工程)
負極活物質としてCGB20(商品名、黒鉛、平均粒径20μm、日本黒鉛社製)と、合成例1で平均粒径2μmに調整したLPSとバインダーBを60:37:3の質量比で混合し、プラネタリーミキサー(TKハイビスク(商品名)、PRIMIX社製)に加え、分散溶媒としてジイソブチルケトンを加えて固形分濃度を50質量%に調整し、50rpmで2時間撹拌して、負極用組成物(スラリー)を調製した。
得られた負極組成物を、カーボンコートした、厚み20μmのアルミニウム箔(負極集電体)上に、ベーカー式アプリケーター(商品名:SA-201、テスター産業社製)により塗布し、100℃1時間加熱乾燥して、層厚150μmの負極活物質層(塗布乾燥層)を有する負極活物質シートNo.1を作製した。
【0224】
(固体電解質層の成膜工程)
合成例1で表1に示す平均粒径に調整したLPSと、粒子状バインダーA分散液とを、表1に記載の含有量(固形分100質量%中のバインダーポリマーAの含有量)で、混合してプラネタリーミキサー(TKハイビスク(商品名))に加え、分散溶媒としてジイソブチルケトンを加えて固形分濃度を50質量%に調整し、50rpmで1時間撹拌して、固体電解質組成物(スラリー)を調製した。
得られた固体電解質組成物を、厚み20μmのアルミニウム箔(支持体)上に、ベーカー式アプリケーター(商品名:SA-201)により塗布し、100℃1時間加熱乾燥して、表1に示す層厚の固体電解質層(塗布乾燥層)を有する固体電解質シートNo.1を作製した。
【0225】
(後加圧圧着工程の前に行う他方の活物質層(正極活物質層)の成膜工程)
正極活物質としてニッケルマンガンコバルト酸リチウム(平均粒径:0.5μm、アルドリッチ社製)と、合成例1で平均粒径2μmに調整したLPSと、導電助剤としてアセチレンブラック(平均粒径50nm、デンカ社製)と、バインダーAを、70:27:1:2の質量比で混合し、プラネタリーミキサー(TKハイビスク(商品名))に加え、分散溶媒としてジイソブチルケトンを加えて固形分濃度を45質量%に調整し、50rpmで1時間撹拌して、正極用組成物(スラリー)を調製した。
得られた正極組成物を、カーボンコートした、厚み20μmのアルミニウム箔(正極集電体)上に、ベーカー式アプリケーター(商品名:SA-201)により塗布し、100℃1時間加熱乾燥して、層厚100μmの正極活物質層(塗布乾燥層)を有する正極活物質シートNo.1を作製した。
【0226】
(前加圧圧着工程)
本前加圧圧着工程では、支持体上に形成された固体電解質層として上記固体電解質シートNo.1を、正極活物質層及び負極活物質層の一方の活物質層として上記負極活物質シートNo.1を用いた。
具体的には、固体電解質シートNo.1の固体電解質層と負極活物質シートNo.1の負極活物質層とを直接接触させて重ね、これを、プレス機を用いて、アルゴンガス雰囲気下、温度25℃、加圧力50MPaで10秒間にわたって加圧圧着した。こうして、負極集電体/負極活物質層/固体電解質層/支持体からなるシート積層体No.1を作製した。
【0227】
(剥離工程)
次いで、作製したシート積層体No.1の支持体を固体電解質から剥離して、全固体二次電池用電極シートNo.1を作製した。支持体の剥離は、支持体の一端縁から他端縁に向けて、固体電解質層に対して70°の角度で、剥離速度を1000mm/分として、行った。
こうして剥離した支持体には固体電解質層の一部が残存しており、支持体が剥離された固体電解質層の表面には凹凸が形成されていた。
【0228】
(切断工程)
全固体二次電池用電極シートNo.1を直径15mmに切り出した。また、作製した正極活物質シートNo.1を直径14mmに切り出した。
【0229】
(後加圧圧着工程(最終加圧工程を兼ねる後加圧圧着工程))
本後加圧圧着工程では、正極活物質層及び負極活物質層の他方の活物質層として上記正極活物質シートNo.1を用いた。
すなわち、2032型コインケース内で、切り出した全固体二次電池用電極シートNo.1と切り出した正極活物質シートNo.1とを、全固体二次電池用電極シートNo.1の固体電解質層と正極活物質シートNo.1の正極活物質層とが直接接触した状態に、重ねた。これを、プレス機を用いて、アルゴンガス雰囲気下、温度25℃、加圧力600MPaで30秒間にわたって加圧圧着した。こうして、負極集電体/負極活物質層/固体電解質層/正極活物質層/正極集電体からなる
図1に示す層構造を有する全固体二次電池用積層体を作製した。
こうして上記加圧力でコインケース11をかしめて、全固体二次電池(
図2に示すコイン型全固体二次電池)No.1を製造した。
製造した全固体二次電池において、正極活物質及び負極活物質の層厚は上記正極シート又は負極シートにおける各層の層厚から薄くなり、それぞれ60μm及び100μmとなった。固体電解質層の層厚は45μmであった。
【0230】
<全固体二次電池No.2~15、17、18及びc1~c8の製造>
全固体二次電池No.1の製造において、固体電解質組成物の調製に用いるLPSの種類(平均粒径)、固体電解質組成物の調製に用いるバインダーの種類及び含有量(混合量)、固体電解質層の層厚、更に前加圧圧着工程での加圧力を、表1に示す内容に変更したこと以外は、全固体二次電池No.1の製造と同様にして、全固体二次電池No.2~15、17、18及びc1~c8をそれぞれ製造した。
なお、全固体二次電池における固体電解質層の層厚は、全固体二次電池No.9が35μm、No.10~12が20μmであった。
【0231】
<全固体二次電池No.19の製造>
全固体二次電池No.19の製造では、正極活物質層(表1において「被転写活物質層」と表記する。)に固体電解質層を転写した後に負極活物質層を圧着して、全固体二次電池No.19を製造した。
すなわち、全固体二次電池No.1の製造において、前加圧圧着工程に上記正極活物質シートNo.1を用い、かつ後加圧圧着工程に上記負極活物質シートNo.1を用いたこと以外は、全固体二次電池No.1の製造と同様にして、全固体二次電池No.19を製造した。
【0232】
<全固体二次電池No.16の製造>
全固体二次電池No.16の製造では、溶解型のバインダーDを含有する固体電解質組成物を用いて、負極活物質層に固体電解質層を転写した後に正極活物質層を圧着して、全固体二次電池No.16を製造した。
すなわち、全固体二次電池No.1の製造において、固体電解質層の成膜工程を下記成膜工程に変更したこと以外は、全固体二次電池No.1の製造と同様にして、全固体二次電池No.16を製造した。
(溶解型のバインダーDを用いた、固体電解質層の成膜工程)
合成例1で平均粒径3μmに調整したLPSと、バインダーDのDIBK溶液とを、表1に記載の含有量(固形分100質量%中のバインダーポリマーDの含有量)で、混合してプラネタリーミキサー(TKハイビスク(商品名))に加え、分散溶媒としてジイソブチルケトンを加えて固形分濃度を50質量%に調整し、50rpmで1時間撹拌して、固体電解質組成物(スラリー)D1を調製した。
この固体電解質組成物D1に、更にLPSとジイソブチルケトンとを加え、固形分濃度を50質量%に調整して、50rpmで3分間攪拌した。固体電解質組成物D1に加えたLPSは、固体電解質組成物D1の調製に用いたLPSと同種のLPS(平均粒径3μm)であり、その混合量は、固体電解質組成物D1の調製に用いたLPSの混合量と同量(すなわち、固体電解質組成物D1の調製に用いたLPSと追加で混合したLPSは、それぞれ、LPS全量に対して50質量%)とした。また、バインダーDは、固体電解質組成物D1の調製時に全量混合した。こうして、溶解型のバインダーDを含有する固体電解質組成物(スラリー)Dを調製した。
得られた固体電解質組成物Dを、厚み20μmのアルミニウム箔(支持体)上に、ベーカー式アプリケーター(商品名:SA-201、テスター産業社製)により塗布し、100℃1時間加熱乾燥して、層厚80μmの固体電解質層(塗布乾燥層)を有する固体電解質シートNo.16を作製した。
【0233】
<固体電解質層の残存量の算出>
上記全固体二次電池の各製造における剥離工程で固体電解質層から剥離した支持体の質量を測定した。測定した質量から、固体電解質層の成膜工程に用いた支持体の質量を減じて、剥離した支持体に残存した固体電解質層の質量W1を算出した。
一方、固体電解質層の成膜工程で用いた固体電解質組成物の固形分の質量(固体電解質シートにおける固体電解質層の質量と支持体に残存した固体電解質層の質量の合計量)W2を求めた。
得られた質量W1及びW2から、式:(W1/W2)×100(%)により、固体電解質層の残存量を算出した。その結果を表1に示す。
表1において、「圧着不可」とは固体電解質層の大部分(約100質量%)が支持体に残存して、固体電解質層を活物質層に圧着できなかったことを示す。
【0234】
<電池性能(電池抵抗)の評価>
製造した各全固体二次電池の電池抵抗を、充放電評価装置「TOSCAT-3000」(商品名、東洋システム社製)により、測定した。全固体二次電池を電池電圧が4.2Vになるまで電流値0.1mAで充電した後、電池電圧が2.5Vになるまで電流値0.1mAで放電した。この充放電を1サイクルとして充放電を3サイクル繰り返して行った後、更に、電池電圧が4.2Vになるまで電流値0.1mAで充電した後、電池電圧が2.5Vになるまで電流値2mAで放電した(4サイクル目)。
4サイクル目の電流値2mAでの放電開始10秒後の電池電圧を以下の基準で読み取った。この電池電圧が下記評価ランクのいずれに含まれるかにより、全固体二次電池の抵抗を評価した。電池電圧が高いほど低抵抗であることを示す。本試験において、評価ランク「B」以上が合格である。
表1における「電池性能」欄の「-」は、該当する全固体二次電池の電池性能を評価できなかったことを示す。
-抵抗の評価ランク-
A:4.1V以上
B:4.0V以上4.1V未満
C:4.0V未満
【0235】
<短絡率(製造再現性)の評価>
各全固体二次電池をそれぞれ10検体ずつ製造して、各検体に短絡の有無を下記方法により確認して、10検体の全固体二次電池群における短絡の発生率(短絡した検体数/10検体)を算出して、製造再現性(歩留り)を評価した。
短絡の有無確認方法:正極及び負極間の電位差を、テスターを用いて測定し、テスター端子を正極及び負極に接続して30秒後に電位差が±100mV以下のとき、短絡が発生した、と判定した。
【0236】
【0237】
表1に示す結果から次のことが分かる。
すなわち、剥離工程における固体電解質層の残存量が1質量%に到達しないで製造した全固体二次電池No.c1、c2及びc4~c7は、後加圧圧着工程で固体電解質層に他方の活物質層(正極活物質層)を圧着させることができるが、その層間圧着力は十分ではなく、電池電圧が低く電池性能に劣る。一方、全固体二次電池Mo.c3及びc8は、剥離工程において固体電解質層のほとんどが支持体に残存して、負極活物質層に固体電解質層を圧着することができなかった。更に、固体電解質層の残存量を11質量%として製造した全固体二次電池No.c9は、後加圧圧着工程で固体電解質層に他方の活物質層(正極活物質層)が圧着されていたが、固体電解質層の形成状態が悪すぎて電池性能を評価できず、更に短絡の発生も抑制できない。
これに対して、剥離工程において固体電解質層を1~10質量%の割合で残存させると、後加圧圧着工程において、他方の活物質層が形成される、固体電解質層の表面に凹凸を形成できる。この剥離工程を含んで製造した全固体二次電池No1~19は、いずれも、後加圧圧着工程で固体電解質層に他方の活物質層(正極活物質層又は負極活物質層)を強固に圧着されており、高い電池電圧を示す。このように、本発明の全固体二次電池の製造方法は、構成層を強固な層間密着性で圧着することができ、高い電池性能を示す全固体二次電池を生産性及び再現性よく製造できる。
【0238】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0239】
本願は、2018年9月27日に日本国で特許出願された特願2018-182797に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0240】
1 負極集電体
2 負極活物質層
3 固体電解質層
4 正極活物質層
5 正極集電体
6 作動部位
10 全固体二次電池
11 コインケース
12 全固体二次電池用積層体
13 コイン型全固体二次電池
15 全固体二次電池用電極シート
17 負極活物質シート
18 固体電解質シート
19 正極活物質シート
21 負極活物質層(塗布乾燥層)
22 固体電解質層(塗布乾燥層)
22a 支持体剥離後の固体電解質層(塗布乾燥層)
23 支持体
24 正極活物質層(塗布乾燥層)