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特許7104934難燃薬剤、これを用いた難燃材料および難燃材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】難燃薬剤、これを用いた難燃材料および難燃材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 21/02 20060101AFI20220714BHJP
   C09K 21/14 20060101ALI20220714BHJP
   B27K 3/52 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
C09K21/02
C09K21/14
B27K3/52 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018023936
(22)【出願日】2018-02-14
(65)【公開番号】P2019137805
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉井 良介
(72)【発明者】
【氏名】松村 和之
(72)【発明者】
【氏名】森本 行生
(72)【発明者】
【氏名】田中 正喜
(72)【発明者】
【氏名】若山 恵英
(72)【発明者】
【氏名】露本 伊佐男
【審査官】▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/085055(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0095771(KR,A)
【文献】特表2011-517628(JP,A)
【文献】特開2010-106105(JP,A)
【文献】特開2007-284607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 21/02
C09K 21/14
B27K 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)難燃性付与成分と、(B)下記平均単位式(1)で表されるポリシロキサン化合物(ただし、下記d≧0.99のシリカを除く。)とを含む水溶液からなり、
前記難燃性付与成分(A)が、ホウ酸とホウ砂との混合物であり、前記ホウ酸およびホウ砂が、ホウ素換算で3.0mol/kg以上含まれる ことを特徴とする難燃薬剤。
(R1 3SiO1/2)a(R2 2SiO)b(R3 1SiO3/2)c(SiO2)d(OR4)e (1)
(式中、R1~R3は、それぞれ独立して、水素原子、または一つ以上のアミノ基、エポキシ基、酸無水物基、マレイミド基、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタアクリル基、もしくはヘテロ環式化合物で置換されていてもよい、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~20のアリール基もしくは炭素原子数7~20のアラルキル基を表すが、R 1 、R 2 およびR 3 のうちの少なくとも一部は、アミノ基で置換された炭素原子数1~20のアルキル基、アミノ基で置換された炭素原子数6~20のアリール基、またはアミノ基で置換された炭素原子数7~20のアラルキル基であり、R4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~8のアルキル基を表し、aは、0~0.5、bは、0~0.5、cは、0~0.9、dは、0.1~1.0、eは、0~2.0、かつ、a+b+c+d=1を満たす数である。)
【請求項2】
前記難燃性付与成分(A)が、ホウ酸とホウ砂との混合物のみからなる請求項1記載の難燃薬剤。
【請求項3】
前記dが、0.1~0.4を満たす数である請求項1または2記載の難燃薬剤。
【請求項4】
前記R1、R2およびR3のうちの少なくとも一部が、γ-アミノプロピル基、またはN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル基である請求項1~3のいずれか1項記載の難燃薬剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載の難燃薬剤で処理されてなる難燃材料。
【請求項6】
(i)(A)難燃性付与成分と、(B)下記一般式(1)で表されるポリシロキサン化合物とを水に溶解させて難燃薬剤を得る工程、
(R1 3SiO1/2)a(R2 2SiO)b(R3 1SiO3/2)c(SiO2)d(OR4)e (1)
(式中、R1~R3は、それぞれ独立して、水素原子、または一つ以上のアミノ基、エポキシ基、酸無水物基、マレイミド基、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタアクリル基、もしくはヘテロ環式化合物で置換されていてもよい、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~20のアリール基もしくは炭素原子数7~20のアラルキル基を表すが、R 1 、R 2 およびR 3 のうちの少なくとも一部は、アミノ基で置換された炭素原子数1~20のアルキル基、アミノ基で置換された炭素原子数6~20のアリール基、またはアミノ基で置換された炭素原子数7~20のアラルキル基であり、R4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~8のアルキル基を表し、aは、0~0.5、bは、0~0.5、cは、0~0.9、dは、0.1~1.0、eは、0~2.0、かつ、a+b+c+d=1を満たす数である。)
(ii)前記工程(i)で得られた難燃薬剤を、木材、紙、織布、不織布および樹脂から選択される材料に含浸させる工程、並びに
(iii)前記工程(ii)後の材料を乾燥させる工程
を含み
前記難燃性付与成分(A)が、ホウ酸とホウ砂との混合物であり、
前記難燃薬剤中において、前記ホウ酸およびホウ砂がホウ素換算で3.0mol/kg以上含まれる 難燃材料の製造方法。
【請求項7】
前記工程(i)において、前記難燃性付与成分(A)が、ホウ酸とホウ砂との混合物のみからなる請求項6記載の難燃材料の製造方法。
【請求項8】
前記dが、0.1~0.4を満たす数である請求項6または7記載の難燃材料の製造方法。
【請求項9】
前記R1、R2およびR3のうちの少なくとも一部が、γ-アミノプロピル基、またはN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル基である請求項6~8のいずれか1項記載の難燃材料の製造方法。
【請求項10】
前記工程(ii)が、加圧条件下および加熱条件下の少なくとも一方で行われる請求項6~9のいずれか1項記載の難燃材料の製造方法。
【請求項11】
前記工程(ii)において、上記材料が木材である請求項6~10のいずれか1項記載の難燃材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃薬剤、これを用いた難燃材料および難燃材料の製造方法に関し、さらに詳述すると、木材等のセルロースを多く含む部材に使用するための難燃薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素化合物は木材などのセルロース系材料の燃焼抑制剤として19世紀前半から検討されてきており、特に、ホウ酸(H3BO3)やホウ砂(四ホウ酸ナトリウム十水和物、Na247・10H2O)は、木材や木質材料の発炎燃焼と赤熱燃焼を抑制する効果のあることが知られ、コストや入手の容易性等の面からも、これらは古くから木材の防火剤として利用されている。
しかし、ホウ酸、ホウ砂の両方を20℃の水に溶解させた場合、その濃度は無水塩換算で7質量%程度にしかならず、木材の燃焼を抑制するだけの量を水溶液として木材や木質材料に注入することは困難である。
【0003】
特許文献1には、乾燥、減圧、加圧を2サイクル以上繰り返して、ホウ酸およびホウ砂などの不燃成分を木材に含浸させる不燃木材の製造方法が開示されている。この方法では、不燃成分の低濃度溶液が用いられており、木材を不燃化し得る量の不燃成分を木材に導入するためには高圧力で長時間の繰り返し工程が必要である。
特許文献2や特許文献3では、ホウ酸とホウ砂をある一定の比率で混合させることで、ホウ素化合物を高濃度に含む水溶液が作製できることが報告され、上記水溶液を用いることで、少ない工程で不燃木材の製造を達成している。一方で、この系では、木材に吸着したホウ素化合物が空気中の湿気で溶出し、さらに表面で析出することで生じる白華現象の有無については触れられておらず、実用化のためには白華現象を抑制する措置が必要である。
【0004】
特許文献4では、ホウ素化合物を木材に含浸した後に、木材表面にシロキサン化合物を塗布することで、薬剤の溶脱が抑制可能であることが報告されている。しかし、この手法を用いた場合、木材自身に含まれる水分にホウ素化合物が溶解し、コーティング膜と木材間の界面で白華を生じる事例が報告されており、しかも表面を拭いても外観の改善は見込めないため、より深刻な問題となる。
特許文献5では、ホウ素化合物とシランカップリング剤、ポリフェノール系化合物を含んだ水溶液で処理した木材について、薬剤の溶出が抑制されることが報告されているが、白華の有無については検討されておらず、溶脱処理後の薬剤溶出率が35質量%以上であることから白華は免れない。また、当該処理液自体に含まれる難燃性成分濃度は20質量%程度であり、効率的に難燃処理を行うためには、より高濃度に難燃性成分が溶解していることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-211412号公報
【文献】特開2006-219329号公報
【文献】特開2005-112700号公報
【文献】特開2008-254336号公報
【文献】特許第3485914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、木材等のセルロースを多く含む部材に難燃性を付与可能であり、難燃性付与成分の溶脱に起因した白華現象を抑制可能な難燃薬剤、これを用いた難燃材料、および難燃材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、ホウ素系の難燃性付与成分に対し、特定の構造を有するポリシロキサン化合物を混合した水溶液からなる難燃薬剤を用いることで、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. (A)ホウ素化合物、ホウ酸、およびホウ酸塩からなる群から選ばれる一種以上の難燃性付与成分と、(B)下記平均単位式(1)で表されるポリシロキサン化合物とを含む水溶液からなることを特徴とする難燃薬剤、
(R1 3SiO1/2)a(R2 2SiO)b(R3 1SiO3/2)c(SiO2)d(OR4)e (1)
(式中、R1~R3は、それぞれ独立して、水素原子、または一つ以上のアミノ基、エポキシ基、酸無水物基、マレイミド基、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタアクリル基、もしくはヘテロ環式化合物で置換されていてもよい、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~20のアリール基もしくは炭素原子数7~20のアラルキル基を表し、R4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~8のアルキル基を表し、aは、0~0.5、bは、0~0.5、cは、0~0.9、dは、0.1~1.0、eは、0~2.0、かつ、a+b+c+d=1を満たす数である。)
2. 前記難燃性付与成分(A)が、ホウ酸とホウ砂との混合物であり、前記ホウ酸およびホウ砂が、ホウ素換算で3.0mol/kg以上含まれる1の難燃薬剤、
3. 前記dが、0.2~1.0を満たす数である1または2の難燃薬剤、
4. 前記R1、R2およびR3のうちの少なくとも一部が、アミノ基で置換された炭素原子数1~20のアルキル基、アミノ基で置換された炭素原子数6~20のアリール基、またはアミノ基で置換された炭素原子数7~20のアラルキル基である1~3のいずれかの難燃薬剤、
5. 1~4のいずれかの難燃薬剤で処理されてなる難燃材料、
6. (i)(A)ホウ素化合物、ホウ酸、およびホウ酸塩からなる群から選ばれる一種以上の難燃性付与成分と、(B)下記一般式(1)で表されるポリシロキサン化合物とを水に溶解させて難燃薬剤を得る工程、
(R1 3SiO1/2)a(R2 2SiO)b(R3 1SiO3/2)c(SiO2)d(OR4)e (1)
(式中、R1~R3は、それぞれ独立して、水素原子、または一つ以上のアミノ基、エポキシ基、酸無水物基、マレイミド基、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタアクリル基、もしくはヘテロ環式化合物で置換されていてもよい、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~20のアリール基もしくは炭素原子数7~20のアラルキル基を表し、R4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~8のアルキル基を表し、aは、0~0.5、bは、0~0.5、cは、0~0.9、dは、0.1~1.0、eは、0~2.0、かつ、a+b+c+d=1を満たす数である。)
(ii)前記工程(i)で得られた難燃薬剤を、木材、紙、織布、不織布および樹脂から選択される材料に含浸させる工程、並びに
(iii)前記工程(ii)後の材料を乾燥させる工程
を含む難燃材料の製造方法、
7. 前記工程(i)において、前記難燃性付与成分(A)が、ホウ酸とホウ砂との混合物であり、前記難燃薬剤中において、前記ホウ酸およびホウ砂がホウ素換算で3.0mol/kg以上含まれる6の難燃材料の製造方法、
8. 前記dが、0.2~1.0を満たす数である6または7の難燃材料の製造方法、
9. 前記R1、R2およびR3のうちの少なくとも一部が、アミノ基で置換された炭素原子数1~20のアルキル基、アミノ基で置換された炭素原子数6~20のアリール基、またはアミノ基で置換された炭素原子数7~20のアラルキル基である6~8のいずれかの難燃材料の製造方法、
10. 前記工程(ii)が、加圧条件下および加熱条件下の少なくとも一方で行われる6~9のいずれかの難燃材料の製造方法、
11. 前記工程(ii)において、上記材料が木材である6~10のいずれかの難燃材料の製造方法、
12. (i-1)(A)ホウ素化合物、ホウ酸およびホウ酸塩からなる群から選ばれる一種以上の難燃性付与成分の水溶液を得る工程、
(ii-1)前記工程(i-1)で得られた難燃性付与成分の水溶液を、木材、紙、織布、不織布および樹脂から選択される材料に含浸させる工程、
(iii-1)前記工程(ii-1)後の材料を乾燥させる工程、
(i-2)(B)下記一般式(1)で表されるポリシロキサン化合物の水溶液を得る工程、
(R1 3SiO1/2)a(R2 2SiO)b(R3 1SiO3/2)c(SiO2)d(OR4)e (1)
(式中、R1~R3は、それぞれ独立して、水素原子、または一つ以上のアミノ基、エポキシ基、酸無水物基、マレイミド基、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタアクリル基、もしくはヘテロ環式化合物で置換されていてもよい、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~20のアリール基もしくは炭素原子数7~20のアラルキル基を表し、R4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~8のアルキル基を表し、aは、0~0.5、bは、0~0.5、cは、0~0.9、dは、0.1~1.0、eは、0~2.0、かつ、a+b+c+d=1を満たす数である。)
(ii-2)前記工程(i-2)で得られたポリシロキサン化合物の水溶液を、前記(iii-1)で得られた材料に含浸させる工程、並びに
(iii-2)前記工程(ii-2)後の材料を乾燥させる工程
を含む難燃材料の製造方法、
13. 前記工程(i-1)において、前記難燃性付与成分(A)が、ホウ酸とホウ砂との混合物であり、
前記水溶液中において、前記ホウ酸およびホウ砂がホウ素換算で3.0mol/kg以上含まれる12の難燃材料の製造方法。
14. 前記dが、0.2~1.0を満たす数である12または13の難燃材料の製造方法、
15. 前記R1、R2およびR3のうちの少なくとも一部が、アミノ基で置換された炭素原子数1~20のアルキル基、アミノ基で置換された炭素原子数6~20のアリール基、またはアミノ基で置換された炭素原子数7~20のアラルキル基である12~14のいずれかの難燃材料の製造方法、
16. 前記工程(ii-1)および工程(ii-2)が、加圧条件下および加熱条件下の少なくとも一方で行われる12~15のいずれかの難燃材料の製造方法、
17. 工程(ii-1)において、前記材料が木材である12~16のいずれかの難燃材料の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の難燃薬剤は、ホウ素化合物とポリシロキサン化合物とを含む水溶液であるため、これを難燃化の対象となる材料に含浸させて乾燥させた場合に、ホウ素化合物がポリシロキサンネットワーク中に化学的に取り込まれることから、白華を効果的に抑制することが可能である。
また、水溶性のポリシロキサンを用いているため、ホウ素化合物を含む水溶液との混合が可能となり、一つの液を難燃化の対象となる材料に含浸することで難燃処理が達成可能であることから、より簡便な工程で難燃処理が可能である。
さらに、SiO2構造(Q単位構造)を一定量以上有しているため、シランカップリング剤等に多く含まれる、燃焼や発熱量増加の原因となるケイ素-炭素結合部位が少なくなり、従来困難とされてきた白華防止と難燃性の両立を可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に説明する。
[1](A)難燃性付与成分
本発明の難燃薬剤は、難燃性付与成分としてホウ素化合物、ホウ酸、およびホウ酸塩からなる群から選ばれる一種以上を含む。
ホウ素化合物、ホウ酸、およびホウ酸塩の具体例としては、ホウ砂;H3BO3(オルトホウ酸)、HBO2(メタホウ酸)等のホウ酸;InBO3,Mg3(BO32等のオルトホウ酸塩;Mg225、Co225等の二ホウ酸塩;NaBO2・2H2O、NaBO2・4H2O、KBO2、LiBO2、Ca(BO22等のメタホウ酸塩;Na247・5H2O等の四ホウ酸塩;KB58・4H2O、NH458・4H2O等の五ホウ酸塩;Na2813・4H2O等の八ホウ酸塩;モクボーベネザーブ(商品名)等が挙げられるが、本発明では、特にホウ酸とホウ砂の組み合わせが好ましい。
【0011】
本発明で用いられるホウ酸は、H3BO3(オルトホウ酸)および/またはHBO2(メタホウ酸)であり、ホウ砂は、Na247・10H2O(四ホウ酸ナトリウム十水和物)である。
本発明におけるホウ砂の質量は十水和物の質量換算であるが、ホウ砂は必ずしも水和物である必要はなく、無水物であってもよい。ホウ酸は、ホウ砂に酸を加えることによっても得ることができ、ホウ砂はホウ酸に水酸化ナトリウムを加えることによっても得ることができる。
したがって、本発明では、このように合成したホウ酸とホウ砂を用いることもできる。すなわち、本発明は、ホウ砂と酸、またはホウ酸と水酸化ナトリウムを原料とすることもできる。
【0012】
本発明において、特にホウ酸とホウ砂の混合物を難燃性付与成分として用いる場合には、ホウ酸とホウ砂が、室温以上に加熱された温度でのそれぞれの単独化合物の溶解度を超える量で含有されてなる安定な水溶液であることが、材料に高濃度に難燃性成分を導入できるために望ましい。
なお、本発明において、「安定な」とは、室温でホウ酸とホウ砂とが析出しないことを意味する。「室温」とは、15℃から25℃の温度範囲を意味する。
【0013】
ホウ素化合物の安定な水溶液は、材料に高濃度に難燃性成分を導入することを考慮すると、難燃性成分をホウ素換算で3.0mol/kg以上含むことが好ましく、4.0mol/kg以上含むことがより好ましい。なお、重量モル濃度(mol/kg)は、ホウ砂の結晶水が溶解後に溶媒の水になるとして算出した値である。
【0014】
本発明において、安定なホウ素化合物の水溶液は、例えば、水にホウ酸とホウ砂とを同時に、または別々に添加し、室温以上に加熱して溶解させることにより調製することができる。この場合、加熱前の水にホウ酸とホウ砂とを添加しても、予め加熱した水にホウ酸とホウ砂とを添加してもよく、ホウ酸とホウ砂のいずれか一方を水に添加して、添加成分をある程度溶解させた後に他の成分を添加してもよい。室温以上に加熱された温度としては、好ましくは40~100℃であり、より好ましくは70~100℃である。
【0015】
[2](B)ポリシロキサン化合物
本発明の難燃薬剤は、(B)下記平均単位式(1)で表されるポリシロキサン化合物を含む。なお、下記平均単位式(1)において、特に断りのない限り、(R1 3SiO1/2)で表される単位をM単位、(R2 2SiO)で表される単位をD単位、(R3SiO3/2)で表される単位をT単位、(SiO2)で表される単位をQ単位と呼ぶ。
【0016】
(R1 3SiO1/2)a(R2 2SiO)b(R3 1SiO3/2)c(SiO2)d(OR4)e (1)
【0017】
式(1)において、R1~R3は、それぞれ独立して、水素原子、または一つ以上のアミノ基、エポキシ基、酸無水物基、マレイミド基、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタアクリル基、もしくはヘテロ環式化合物で置換されていてもよい、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~20のアリール基もしくは炭素原子数7~20のアラルキル基を表し、R4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~8のアルキル基を表し、aは、0~0.5、bは、0~0.5、cは、0~0.9、dは、0.1~1.0、eは、0~2.0、かつ、a+b+c+d=1を満たす数である。
【0018】
炭素原子数1~8または炭素原子数1~20のアルキル基としては、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-オクチル、n-デシル、シクロペンチル、シクロヘキシル基等が挙げられ、好ましくはメチル基またはエチル基である。
炭素原子数6~20のアリール基としては、フェニル、ナフチル等が挙げられる。
炭素原子数7~20のアラルキル基としては、ベンジル、フェネチル基等が挙げられる。
ヘテロ環式化合物としては、ピペリジン、ピリジン、ピロール、チオフェン等が挙げられる。
特に、本発明では、R1、R2およびR3のうちの少なくとも一部が、アミノ基で置換された炭素原子数1~20のアルキル基、アミノ基で置換された炭素原子数6~20のアリール基、またはアミノ基で置換された炭素原子数7~20のアラルキル基が好ましく、特に、γ-アミノプロピル基、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル基が好ましい。
【0019】
本発明の難燃薬剤は、ポリシロキサン化合物を用いることが特徴の一つであり、シランカップリング剤を用いる場合と区別される。
シランカップリング剤とは一般的にT単位とD単位からなるアルコキシシランを指し、多くの場合はシロキサン結合(Si-O-Si結合)を持たない化合物であることは当該分野では一般的である。一方でポリシロキサンとは一部のアルコキシシラン同士が加水分解縮合した化合物であり、シロキサン結合を有する。ある程度縮合が進行したポリシロキサン化合物では乾燥時に縮合が進行することで、容易にネットワーク形成が容易であり、木材に固定化さ易いことに加え、燃焼性ガスの発生源であるアルコキシ基がシランカップリング剤に比べ少ないことで、難燃性の低下が少ないという利点を有する。
このような理由から、本発明で用いるポリシロキサン化合物は、シロキサン結合を含まないモノマー(シランカップリング剤等)成分が少なくとも全体の50質量%以下の化合物が好ましく、30質量%以下の化合物がより好ましく、10質量%以下の化合物がより一層好ましく、1質量%以下の化合物が最も好ましい。
【0020】
上記シロキサン結合を含まないモノマー(シランカップリング剤)成分とポリシロキサン成分の量は、29Si-NMR(核磁気共鳴)スペクトルにおけるシグナルと積分比から求めることができる。29Si-NMRでは、例えば3官能性ポリシロキサン(T単位)の場合、シロキサン結合を形成しているケイ素原子の数は、下記に示す(T0)~(T3)の割合を調べることで求めることができる。検出磁場は、一般的にT3>T2>T1>T0の順で高磁場側となるため、T0成分がシランカップリング剤由来のケイ素原子で、それ以外はポリシロキサン由来のケイ素原子であるから、各ピークの積分値の比からモノマー(シランカップリング剤)成分とポリシロキサン成分の割合を求めることができる。
【0021】
【化1】
(式中、Rは有機基を表し、Xは、水素原子または有機基を表す)
【0022】
上記のようなポリシロキサンは、各構成単位のモノマー成分を、酸または塩基触媒下で加水分解縮合することで容易に合成が可能である。
【0023】
Q単位のモノマーとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n-プロポキシ)シラン、テトラ(i-プロポキシ)シラン、テトラ(n-ブトキシ)シラン、ケイ酸アルカリやケイ酸アルカリをカチオン交換して得られる活性ケイ酸等が挙げられる。
【0024】
T単位のモノマーとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
これらの中でも、得られるポリシロキサンの水への溶解性や、木材やホウ素化合物との吸着性を考慮すると、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが好ましく、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシランがより好ましい。
【0025】
D単位のモノマーとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチルプロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
これらの中でも、得られるポリシロキサンの水への溶解性や、木材やホウ素化合物との吸着性を考慮すると、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシランが好ましい。
【0026】
M単位のモノマーとしては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、n-プロピルジメチルメトキシシラン、n-プロピルジエチルメトキシシラン、iso-プロピルジメチルメトキシシラン、iso-プロピルジエチルメトキシシラン、プロピルジメチルエトキシシラン、n-ブチルジメチルメトキシシラン、n-ブチルジメチルエトキシシラン、n-ヘキシルジメチルメトキシシラン、n-ヘキシルジメチルエトキシシラン、n-ペンチルジメチルメトキシシラン、n-ペンチルジメチルエトキシシラン、n-ヘキシルジメチルメトキシシラン、n-ヘキシルジメチルエトキシシラン、n-デシルジメチルメトキシシラン、n-デシルジメチルエトキシシラン、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール、n-プロピルジメチルシラノール、n-プロピルジエチルシラノール、iso-プロピルジメチルシラノール、iso-プロピルジエチルシラノール、プロピルジメチルシラノール、n-ブチルジメチルシラノール、n-ヘキシルジメチルシラノール、n-ペンチルジメチルシラノール、n-デシルジメチルシラノール、γ-アミノプロピルジメチルメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルジメチルメトキシシラン等が挙げられる。
これらの中でも、得られるポリシロキサンの水への溶解性や、木材やホウ素化合物との吸着性を考慮すると、γ-アミノプロピルジメチルメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルジメチルメトキシシランが好ましい。
【0027】
本発明において、ポリシロキサン化合物はQ単位をポリシロキサン中の全ケイ素成分のうちで10mol%以上含むことが特徴である。Q単位のみからなるポリシロキサンは二酸化ケイ素であるので、燃焼性が低い成分である。一方でT、D、M単位からなるケイ素成分は、本質的にSi-C結合を有しており、燃焼し易い成分を含む。
したがって、Q単位を一定量有することは、白華現象を抑制するために有効な量のポリシロキサン化合物を導入した場合に、Si-C結合に由来する燃焼によって難燃性が低下するのを抑制する効果がある。
したがって、本発明の化合物においては、ポリシロキサン成分全体のケイ素数に対してQ単位を10mol%以上有することが好ましく、20mol%以上有することがより好ましく、30mol%以上有することがより一層好ましい。
【0028】
さらに、Si-C結合に由来する燃焼を抑制する観点から、ポリシロキサン成分全体のケイ素数に対してT単位は90mol%以下が好ましく、80mol%以下がより好ましい。同様の理由で、ポリシロキサン成分全体のケイ素数に対してD単位は50mol%以下が好ましく、30mol%以下がより好ましく、10mol%以下がより一層好ましい。同様の理由で、ポリシロキサン成分全体のケイ素数に対してM単位は50mol%以下が好ましく、30mol%以下がより好ましく、10mol%以下がより一層好ましい。
なお、ケイ素化合物の共加水分解縮合物の各構成単位の比は、例えば、29Si-NMRシグナルの位置と積分値の比を用いた公知の方法で確認することができる。
【0029】
本発明で用いられるポリシロキサン化合物は、水に均一に分散したコロイダルシリカの状態であってもよく、シリカの動的光散乱法による体積基準の粒度分布におけるメジアン径は、好ましくは1~100nm、より好ましくは5~50nm、さらに好ましくは5~30nmである。
【0030】
本発明で用いられるポリシロキサン化合物に含まれる官能基に特に制限はないが、水への溶解性、木材やホウ素化合物との付着性等を考慮すると、上述したとおり、一部にアミノ基を有する官能基を含むことが好ましく、全ケイ素原子に対し、アミノ基を0.1mol%以上含むことがより好ましく、1mol%以上含むことがより一層好ましく、10mol%以上含むことがさらに好ましく、50mol%以上含むことが最も好ましい。
【0031】
本発明の難燃薬剤中のポリシロキサン化合物の配合量は、水100質量部に対して、0.1~40質量部が好ましく、1~30質量部がより好ましい。なお、ポリシロキサン化合物は一種単独でも複数の種類を併用してもよい。
【0032】
本発明の難燃薬剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、付加効果を発揮する添加剤を含んでいてもよい。
このような添加剤としては、例えば、浸透剤が挙げられる。浸透剤は、難燃化の対象物、すなわち木材(竹材を含む)、紙、織布、不織布および樹脂から選択される材料への難燃性付与成分の含浸を促進する効果を有する。
浸透剤の添加量は、特に限定されるものではなく、通常、0.05~20質量%程度、好ましくは0.5~2質量%である。
浸透剤の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等のモノアルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール等のジオール;グリセリン等のトリオール;炭素数3~11のアルジトール(グリシトールともいう)、セルロース誘導体、セルロースナノファイバー等ポリオール;ポリフェノール類;界面張力を低下させる作用のある界面活性剤などが挙げられ、これらの中でも、エチレングリコールが好ましい。
【0033】
また、浸透剤以外の添加剤としては、紫外線吸収剤、防蟻剤、酸化防止剤等が挙げられ、これらの添加材は一種単独でも複数の種類を併用してもよい。
【0034】
以上説明した(i)本発明の難燃薬剤を準備し、(ii)木材(竹材を含む)、紙、織布、不織布および樹脂から選択される材料に難燃薬剤を含浸し、(iii)材料を乾燥させることにより、難燃材料を得ることができる。
難燃薬剤を材料に含浸処理する際には、大きく分けて2つの処理方法が考えられる。
第1の処理方法は、(A)難燃性付与成分を材料に浸潤させた後、乾燥させ、その材料に(B)シロキサン化合物を浸潤させる方法である。第2の処理方法は、(A)難燃性付与成分と(B)シロキサン化合物とを含む混合溶液とし、この混合溶液を材料に含浸させる方法である。
上記第1の処理方法、第2の処理方法のいずれを用いてもよいが、工程数削減のためには後者の手法を用いることが好ましい。
【0035】
本発明の難燃材料の製造方法における含浸工程は、加熱下および/または加圧下で行うのが好ましく、特に、本発明の難燃薬剤が、高濃度の難燃性付与成分を含み、また室温以上に加熱された温度である場合、上記の材料に含浸し易く、短時間の処理で上記の材料を難燃化できるという利点がある。
加熱時の温度は、本発明の難燃薬剤の製造時における加熱温度またはそれ以上の温度が好ましい。
一方、加圧時の圧力は2~20気圧が好ましい。
【0036】
難燃化の対象となる材料としては、例えば、杉材、エゾマツ、ヒノキ、キリ、ベニヤ、ケヤキ、SPF集成材(スプルス(エゾマツ)、パイン(マツ)、ファー(モミ)を貼り合わせた合材)、竹等の木材;和紙、ふすま紙、洋紙等の紙;綿布、ポリエステル織布、PET繊維製の布等の織布;ポリエステル不織布等の不織布;SBR(スチレンブタジエンゴム)ラテックス、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)ラテックス、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂、EAA(エチレン・アクリル酸共重合体)樹脂、ポリエチレンフィルム、ポリウレタン樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、ポリエチレンシート等の樹脂などが挙げられる。
【0037】
本発明の難燃薬剤を材料に含浸・乾燥させる条件は、難燃化の対象となる材料の種類や形状などにより適宜設定すればよい。
特に、難燃化の対象が木材の場合には、加圧下で行うのが好ましい。具体的な条件は公知の条件から適宜選択することができるが、特に、後述の実施例に記載の条件が好適である。
【0038】
本発明の難燃薬剤は、調製時の温度から冷却されると難燃性付与成分が析出することがあり、そのような場合には、再度加熱して完全溶解させた後に、液状組成物を難燃化の対象となる材料に含浸させればよいが、このような析出に伴う工程の増加を防止し、熱エネルギーの損失を低減させるため、難燃薬剤の製造(調製)と、それを用いた難燃材料の製造、すなわち難燃薬剤の材料への含浸とは連続して実施することが好ましい。
【実施例
【0039】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。ここで、粒径d50は動的光散乱法による体積基準の粒度分布におけるメジアン径である。
【0040】
[1]難燃薬剤の調製
[実施例1-1]
容量1,000mlのビーカー内で沸騰させた蒸留水310gに、ホウ酸250gとホウ砂310gを添加して得られた混合溶液を撹拌しながら電熱器で加熱したところ、濁りのない清澄な溶液が得られた。そこへ続けて、30質量%水溶液であるKRM7201(信越化学工業(株)製、アミノ基含有ポリシロキサン化合物、29Si-NMRよりモノマー成分≦1質量%、前記式(1)におけるa<0.05、b<0.05、c=0.6~0.7、d=0.3~0.4、e=0.5~1.0、但しa+b+c+d=1)874gを添加して難燃薬剤(ホウ素換算で4.2mol/kg)を得た。
【0041】
[実施例1-2]
容量1,000mlのビーカー内で沸騰させた蒸留水310gに、ホウ酸250gとホウ砂310gを添加して得られた混合溶液を撹拌しながら電熱器で加熱したところ、濁りのない清澄な溶液が得られた。そこへ続けて、30質量%水溶液であるKRM7201(信越化学工業(株)製)437gを添加して難燃薬剤(ホウ素換算で5.6mol/kg)を得た。
【0042】
[実施例1-3]
容量1,000mlのビーカー内で沸騰させた蒸留水310gに、ホウ酸250gとホウ砂310gを添加して得られた混合溶液を撹拌しながら電熱器で加熱したところ、濁りのない清澄な溶液が得られた。そこへ続けて、30質量%水溶液であるKRM7201(信越化学工業(株)製)437gとステーバー法によりテトラエトキシシランから合成した20質量%コロイダルシリカ水分散液(粒径d50=11nm、29Si-NMRより、モノマー成分≦1質量%、d≧0.99)437gとを添加して難燃薬剤(ホウ素換算で4.2mol/kg)を得た。
【0043】
[実施例1-4]
容量1,000mlのビーカー内で沸騰させた蒸留水301gに、ホウ酸246gとホウ砂310gを添加して得られた混合溶液を撹拌しながら電熱器で加熱したところ、濁りのない清澄な溶液が得られた。そこへ続けて、ステーバー法によりテトラエトキシシランから合成した20質量%コロイダルシリカ水分散液(粒径d50=11nm、29Si-NMRより、モノマー成分≦1質量%、d≧0.99)883gを添加して難燃薬剤(ホウ素換算で4.2mol/kg)を得た。
【0044】
[比較例1-1]
容量1,000mlのビーカー内で沸騰させた蒸留水409gに、ホウ酸322gとホウ砂405gを添加して得られた混合溶液を撹拌しながら電熱器で加熱し、濁りのない難燃薬剤(ホウ素換算で8.3mol/kg)を得た。
【0045】
[2]難燃木材の作製
[実施例2-1]
115℃で24時間乾燥させた100mm×100mm×20mmに裁断した杉材(絶乾比重0.26~0.31)を用いて、含浸試験を行った。オートクレーブ中で、実施例1-1で作製した難燃薬剤を杉材に含浸させ、温度78℃(1MPa)で24時間、加圧・加熱処理を行った。次いで、オートクレーブから杉材を取り出して115℃で24時間乾燥させ、杉材の絶乾質量に対する質量増加率(%)を求めた。得られた評価結果を難燃処理液の含浸による質量増加率とともに表1に示す。
【0046】
[実施例2-2]
実施例1-2で作製した難燃薬剤を用いた以外は、実施例2-1と同様の操作を行って難燃木材を作製した。得られた評価結果を難燃処理液の含浸による質量増加率と共に表1に示す。
【0047】
[実施例2-3]
実施例1-3で作製した難燃薬剤を用いた以外は、実施例2-1と同様の操作を行って難燃木材を作製した。得られた評価結果を難燃処理液の含浸による質量増加率と共に表1に示す。
【0048】
[実施例2-4]
実施例1-4で作製した難燃薬剤を用いた以外は、実施例2-1と同様の操作を行って難燃木材を作製した。得られた評価結果を難燃処理液の含浸による質量増加率と共に表1に示す。
【0049】
[比較例2-1]
比較例1-1で作製した難燃薬剤を用いた以外は、実施例2-1と同様の操作を行って難燃木材を作製した。得られた評価結果を難燃処理液の含浸による質量増加率と共に表1に示す。
【0050】
上記実施例2-1~2-4および比較例2-1で作製した難燃木材、並びに難燃薬剤で処理していない115℃で24時間乾燥させた100mm×100mm×20mmに裁断した杉材(絶乾比重0.26~0.31)(比較例2-2)について、以下の各試験を行った。
【0051】
[促進試験後の白華の有無]
各木材を40℃,90%RH(24時間)→60℃送風乾燥(24時間)を1サイクルとする湿乾繰り返しの操作を5サイクル行い、その後、20℃,60%RHで24時間放冷後、木材表面の白華状態の観察を行い、下記の基準により評価した。結果を表1に併せて示す。
◎:白華が見られない
○:白華が僅かに確認される
×:明らかに白華が見られる
[燃焼性試験-1]
各木材を750℃に保持したマッフル炉で20分間加熱し、その際の重量減少率から燃焼性を評価した。結果を表1に併せて示す。
[燃焼性試験-2]
各木材について輻射熱強度50kW/m2を与えたコーンカロリーメータ試験(ISO-5660-1)を行った。20分加熱時の発熱量(MJ/m2)を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示されるように、本発明における難燃薬剤を含浸させた実施例2-1~2-4では、効果的に白華が抑制され、かつ、燃焼後の重量減少率や燃焼時の発熱量が比較例2-2の未処理木材と比較して大きく抑制されている。これは高濃度に木材に中に導入されたホウ素の難燃性効果による難燃性の発現と、ホウ素がポリシロキサンネットワーク中に固定化されることによる溶出防止効果によって、白華が抑制されていることに起因している。
また、比較例2-1のようにシロキサン化合物を含まない薬剤で処理した場合には質量減少率や燃焼時の発熱量は低く、難燃性は良好であるが、ホウ素化合物の溶出に起因する白華の発生が顕著であることがわかる。
このように、本発明の難燃薬剤を用いることで、木材等の難燃性を高め、かつ、白華を抑制できることがわかる。