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  • 特許-吸液ロール用シート及び吸液ロール 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】吸液ロール用シート及び吸液ロール
(51)【国際特許分類】
   F26B 13/26 20060101AFI20220714BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20220714BHJP
   D04H 3/12 20060101ALI20220714BHJP
   D06N 7/00 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
F26B13/26
F16C13/00 A
F16C13/00 Z
D04H3/12
D06N7/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018233147
(22)【出願日】2018-12-13
(65)【公開番号】P2019183364
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2018076396
(32)【優先日】2018-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100133798
【弁理士】
【氏名又は名称】江川 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100189991
【氏名又は名称】古川 通子
(72)【発明者】
【氏名】菱田 弘行
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-002420(JP,A)
【文献】特開昭63-192510(JP,A)
【文献】特開平03-119162(JP,A)
【文献】特開2017-179652(JP,A)
【文献】特開2008-002521(JP,A)
【文献】特開昭61-262586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H1/00-18/04
D06N1/00-7/06
F16C13/00-15/00
F26B1/00-25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維を含む不織布と、前記不織布に付与された10~30質量%の高分子弾性体とを含み、
直径113mmの円形の切断片において、含水率100質量%で2.0kgf/cm2の荷重で平面方向に圧縮したときの直径変化率が2.0%以下であることを特徴とする吸液ロール用シート。
【請求項2】
含水率100質量%で測定したときの10%引張強力が1.0kg/cm以上である請求項1に記載の吸液ロール用シート。
【請求項3】
0.42~0.46g/cm3の見かけ密度を有する請求項1または2に記載の吸液ロール用シート。
【請求項4】
前記長繊維は0.01~1.0dtexのポリエステル系繊維であり、前記高分子弾性体はポリウレタンである請求項1~3の何れか1項に記載の吸液ロール用シート。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の吸液ロール用シートからなる中央に貫通孔を有する円環状シートを多数枚重ねた積重体とシャフトとを備え、
前記積重体を形成する前記円環状シートの前記貫通孔にシャフトを挿通し、該積重体を圧縮するように固定して形成されたことを特徴とする吸液ロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布を含む円形のシートを積重して形成される吸液ロールの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物品の製造工程において、被処理部材の表面を洗浄したり、表面に薬剤を塗布したりする工程の後、余分な液を除去するために用いられる吸液性を有するロールとして、不織布を含む円形のシートを積重して形成される吸液ロールが知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1は、蓮根状の多孔質繊維あるいは極細繊維束が立体的に絡合された不織マットの空隙部に高分子物質を多孔質構造に充填された繊維質シートをローラー表面に被覆接着してなる吸液ロールを開示する。
【0004】
また、例えば、下記特許文献2は、合成繊維からなる不織布で構成されたディスク状物を多数枚積重させてなるロールにおいて、該不織布がポリアミド系繊維からなる親水性極細長繊維を含む長繊維絡合体で構成されていることを特徴とする不織布ロールを開示する。
【0005】
また、例えば、下記特許文献3は、ロール軸とその周囲の吸液部材からなる吸液ロールにおいて、該吸液部材が水流交絡処理を施した極細繊維からなる不織布で構成されていることを特徴とする吸液ロールを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実公昭50‐10012号公報
【文献】特開2004‐028162号公報
【文献】特開平8‐159658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
不織布を含む円形のシートを多数枚積重させて両側から圧縮するように密着させて製造される吸液ロールは、被処理部材の表面に付着した液を吸液するために用いられる。具体的には、例えば、被処理部材の表面を洗浄するための洗浄液を除去するために、走行する被処理部材の表面に回転する吸液ロールの表面を接触させ、吸液ロールを形成する多数枚積重させた不織布を含むシートに吸液させる。被処理部材の表面に回転する吸液ロールを接触させる場合、表面に筋のような痕が残ることがあった。筋のような痕は、吸液ロールの表面に存在する微細な凹凸により吸液ロールが鋼板表面に均質に接触していないことに起因する。従来、このような吸液ロールにおいては、吸液ロールの表面が被処理部材の表面に均質に接触するように吸液ロールの表面を平滑にするように研磨加工により仕上げられていた。しかし、平滑に研磨仕上げされた吸液ロールであっても、経時的に上述したような筋のような痕が残ることがあった。本発明者らは、表面を平滑に仕上げた吸液ロールであっても、吸液ロールの使用時にこのような筋の痕が残る原因として、吸水することにより円形のシートが僅かに変形することにより、吸液ロールの外周面に微細な凹凸が発生して平滑性が低減することにより、被処理部材の表面に吸液ロールの外周面が均質に接触しにくくなるためであることに気付いた。
【0008】
本発明は、使用時に表面の平滑さが低下しにくい、不織布を含む円形のシートを積重して形成される吸液ロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面は、長繊維を含む不織布と、不織布に付与された10~30質量%の高分子弾性体とを含み、直径113mmの円形の切断片において、含水率100質量%で2.0kgf/cm2の荷重で平面方向に圧縮したときの直径変化率が2.0%以下である吸液ロール用シートである。このような吸液ロール用シートによれば、吸液した場合であっても変形しにくく、使用時に表面の平滑さが低下しにくい吸液ロールを製造することができる。
【0010】
また、吸液ロール用シートは、含水率100質量%で測定したときの10%引張強力が1.0kg/cm以上であることが、吸液した場合であっても変形しにくく、使用時に表面の平滑さが低下しにくい吸液ロールを製造することができる点から好ましい。
【0011】
また、0.42~0.46g/cm3の見かけ密度を有することが、上述した直径変化率を備える吸液ロール用シートが得られやすい点から好ましい。
【0012】
また、長繊維は0.01~1dtexのポリエステル系繊維であり、高分子弾性体はポリウレタンであることが、水を吸収した場合でも剛性が大幅に低下しにくいために、吸水時の吸液ロールの変形が抑制できる点から好ましい。
【0013】
また、本発明の他の一局面は、上記何れかの吸液ロール用シートからなる中央に貫通孔を有する円環状シートを多数枚重ねた積重体とシャフトとを備え、積重体を形成する円環状シートの貫通孔にシャフトを挿通し、積重体を圧縮するように固定して形成された吸液ロールである。このような吸液ロールは、使用時に吸液ロールのロール表面の平滑さが低下しにくい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、使用時にロール表面の平滑さが低下しにくい、不織布を含む円形のシートを積重して形成される吸液ロールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は本発明に係る一実施形態の吸液ロールの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る吸液ロール用シート及び吸液ロールの一実施形態を詳しく説明する。本実施形態の吸液ロール用シートは、長繊維を含む不織布と、不織布に付与された10~30質量%の高分子弾性体とを含み、直径113mmの円形の切断片において、含水率100質量%で2.0kgf/cm2の荷重で平面方向に圧縮したときの直径変化率が2.0%以下であるシートである。
【0017】
はじめに、長繊維を含む不織布について説明する。不織布を形成する長繊維は、特に限定されないが、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル;ポリアミド6等のポリアミド;ポリプロピレン,ポリエチレン等のポリオレフィン;またはこれらの変性物等からなる長繊維の繊維が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリエステルの繊維が吸水しにくいために、吸液ロールの吸水時に剛性が低下しにくく、吸水時の吸液ロールの変形が抑制できる点から好ましい。
【0018】
長繊維は、長さ100mm以上、さらには、200mm以上であるフィラメントまたは連続繊維である。長繊維の上限は、特に限定されないが、例えば、連続的に紡糸された数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。長繊維の不織布を用いることにより、回転する吸液ロールの外周面を被処理部材と接触させたときに、繊維が脱落することを抑制できる。また、長繊維の繊度はとくに限定されないが、0.01~1.0dtex、さらには、0.1~0.5dtexであることが好ましい。長繊維の繊度が高すぎる場合には、被処理部材に対する接触性が低下する傾向がある。また、長繊維の繊度が低すぎる場合には、回転する吸液ロールを被処理部材と接触させたときに、繊維が脱落しやすくなる傾向がある。
【0019】
不織布は、長繊維の三次元絡合体である絡合不織布であることが好ましい。このような不織布は、例えば、後述するように、長繊維の海島型複合繊維の三次元絡合体から、海成分を形成する樹脂成分を選択的に除去することにより形成される。
【0020】
吸液ロール用シートにおいては、長繊維を含む不織布の内部に高分子弾性体が付与されている。高分子弾性体の種類は特に限定されないが、その具体例としては、例えば、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリエステル、ポリエステルエーテルコポリマー、ポリアクリル酸エステルコポリマー、ネオプレン、スチレンブタジエンコポリマー、シリコーン樹脂、ポリアミノ酸、ポリアミノ酸ポリウレタンコポリマー等の弾性体が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリウレタンが、柔軟な風合いが得られる点から特に好ましい。ポリウレタンの具体例としては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリカーボネート/エーテル系ポリウレタン等のポリウレタンが挙げられる。
【0021】
吸液ロール用シート中の高分子弾性体の含有割合は10~30質量%であり、好ましくは15~25質量%である。高分子弾性体の含有割合が10質量%未満の場合には、回転する吸液ロールを被処理部材と接触させたときに、繊維が脱落しやすくなるとともに、形態安定性が低下して吸液ロールが変形しやすくなる。また、高分子弾性体の含有割合が30質量%を超える場合には、吸液性が低下するとともに、後述する直径113mmの円形の切断片において、含水率100質量%で2.0kgf/cm2の荷重で平面方向に圧縮したときの直径変化率が2.0%以下であるシートを製造しにくくなる。
【0022】
吸液ロール用シートの見かけ密度は0.2~0.6g/cm3、さらには0.42~0.46g/cm3であることが、後述する直径113mmの円形の切断片において、含水率100質量%で2.0kgf/cm2の荷重で平面方向に圧縮したときの直径変化率が2.0%以下に調整しやすい点から好ましい。
【0023】
吸液ロール用シートは、直径113mmの円形の切断片において、含水率100質量%で2.0kgf/cm2の荷重で平面方向に圧縮したときの直径変化率が2.0%以下であり、1.5%以下、さらには1.0%以下であることが好ましい。直径113mmの円形の切断片において、含水率100質量%で2.0kgf/cm2の荷重で平面方向に圧縮したときの直径変化率は、20℃の環境下で、直径113mmの円形に切り抜いた吸液ロール用シートを水に浸漬し、ディップ・ニップ処理により含水させて、吸液ロール用シートと同じ重量分の含水量に調整し、2.0kgf/cm2の荷重で平面方向に圧縮したときの直径の伸び率であり、ランダムに選択した円周上の点に対して、0度、45度、90度の点を測定したときの何れも直径変化率が2.0%以下であることを意味する。0度、45度、90度の3点を選択することにより、製造ラインの進行方向の影響を受けて特性に異方性が生じる長さ方向、幅方向、その中間の斜め方向においても変化率を小さくすることができる。上記直径変化率が2.0%以下である場合には、吸液ロールの使用時に吸水しても表面の平滑さが低下しにくい吸液ロールを製造することができる。また、吸液ロール用シートの上記直径変化率が2.0%を超える場合には、使用時に吸液することにより、吸液ロールの外周面に微細な凹凸が発生しやすくなる。
【0024】
また、吸液ロール用シートは、含水率100質量%で測定したときの10%引張強力が1.0kg/cm以上であることが、吸水時の圧縮変形が抑制され寸法安定性に優れ、また、繊維の脱落を抑制した寸法安定性に優れたシートが得られる点から好ましい。含水率100質量%で測定したときの10%引張強力は、吸液ロール用シートから切り出した2.5cm×16cmの試験片を用いて、JISL1096の8.12.1「引張強度試験」に準じて応力-歪み曲線を得、応力-歪み曲線から求められる10%伸びたときの応力であり、吸液ロール用シートから切り出したタテ方向及びヨコ方向の試験片をそれぞれ3本ずつ測定し、それらの平均値とする。吸液ロール用シートの含水率100質量%で測定したときの10%引張強力は、1.0kg/cm以上、さらには1.2kg/cm以上であることが好ましい。
【0025】
吸液ロール用シートの厚さは特に限定されないが0.3~3mm、さらには0.7~2.5mmであることが、上述したような直径変化率を備えるように調整しやすい点から好ましい。
【0026】
次に、吸液ロール用シートの製造方法の一例について、詳しく説明する。吸液ロール用シートの製造方法においては、はじめに、長繊維の不織布を形成するための樹脂を島成分とし、島成分となる樹脂と化学的または物理的性質が異なる選択的に除去可能な樹脂を海成分とする、海島型複合繊維を製造することが、不織布の繊度を調整しやすい点から好ましい。そして、このような海島型複合繊維の長繊維のウェブを形成する。
【0027】
海島型複合繊維の長繊維のウェブは、例えば、スパンボンド法を用いて形成される。具体的には、島成分を形成するための樹脂と、選択的に除去可能な海成分を形成するための樹脂とを溶融紡糸して得られる溶融状態の海島型複合繊維を冷却装置で冷却した後、エアジェットノズルのような吸引装置で、例えば、1000~6000m/分の引取り速度に相当する速度で高速気流により延伸して細化させることにより海島型複合繊維を得る。そして、海島型複合繊維を開繊させながら移動式ネットなどの捕集面上に堆積させることにより海島型複合繊維の長繊維のウェブが得られる。
【0028】
海島型複合繊維は、島成分を形成するための樹脂と、島成分を形成するための樹脂に対して化学的または物理的性質の異なる、選択的に除去可能な海成分を形成するための樹脂とが海島状の断面を形成した長繊維の複合繊維である。そして、このような海島型複合繊維から、海成分の樹脂を選択的に除去することにより、島成分を形成するための樹脂の長繊維が形成される。
【0029】
海成分を形成するための樹脂としては、島成分を形成する樹脂とは溶剤に対する溶解性または分解剤に対する分解性が異なり、且つ、島成分を形成する樹脂と相溶性が低い樹脂であって、溶融紡糸可能な樹脂であれば特に限定なく用いられうる。このような樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、スチレンエチレン共重合体、スチレンアクリル共重合体、ポリスチレン、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系樹脂等が挙げられる。
【0030】
溶融複合紡糸により形成された溶融状態の海島型複合繊維のストランドは冷却装置で冷却された後、エアジェットノズルなどの吸引装置を用いて目的の繊度となるように1000~6000m/分の引き取り速度に相当する速度の高速気流により延伸される。なお、紡糸速度が高いほど繊維の結晶配向性が高くなるために、10%引張強力が高くなる傾向がある。そして、延伸された海島型複合繊維を移動式の捕集面の上に堆積することにより長繊維のウェブが形成される。なお、このとき、必要に応じてウェブに形態安定性を付与するために部分的に熱圧着してもよい。
【0031】
次に、上述のようにして得られたウェブを複数層重ね合わせ、長繊維の海島型複合繊維の三次元絡合体を形成する。本工程は、ウェブを複数層重ね合わせた後、ニードルパンチや水流交絡処理による絡合処理を施すことにより、厚み方向に長繊維が絡合された三次元絡合体を得る工程である。重ね合わせるウェブの層数はとくに限定されないが、例えば4層以上、さらには、8層以上であることが好ましい。
【0032】
複数層の長繊維のウェブを重ね合わせて得られる積重体に絡合処理を施すことにより三次元絡合体が形成される。ニードルパンチの場合、用いられるフェルト針の種類は特に限定されない。厚さ方向への繊維の交絡を充分に高めるためには、細いフェルト針や、1バーブ針のようなバーブが少ないフェルト針を用いることが好ましい。また、海島型複合繊維の切断を抑制する点からは、3バーブ、6バーブ、9バーブ等のフェルト針を用いることが好ましい。また、ニードルパンチで用いるフェルト針の単位面積当たりの本数もとくに限定されないが、200~2500本/cm2の範囲が好ましい。海島型複合繊維の三次元絡合体の目付けとしては100~3000g/m2、さらには200~1000g/m2の範囲であることが好ましい。
【0033】
次に、海島型複合繊維の三次元絡合体に高分子弾性体のエマルジョンまたは溶液を含浸させた後、高分子弾性体を凝固させる。海島型複合繊維の三次元絡合体に高分子弾性体のエマルジョンや溶液を含浸させる方法は特に限定されないが、例えば、三次元絡合体に高分子弾性体のエマルジョンをディップ・ニップすることにより含浸させる方法が好ましく用いられる。高分子弾性体のエマルジョンや溶液を海島型複合繊維の三次元絡合体に含浸させた後、乾燥させてエマルジョン中の水を乾燥除去したり、湿式凝固させたりすることにより、海島型複合繊維の三次元絡合体の繊維間の空隙で高分子弾性体が凝固する。このようにして三次元絡合体の繊維間の空隙に高分子弾性体を付与することができる。
【0034】
高分子弾性体が付与された海島型複合繊維の三次元絡合体を、海成分を選択的に溶解させる溶剤中で処理することにより、海島型複合繊維から海成分の樹脂が溶解除去されて、海成分の樹脂からなる長繊維を含む不織布が形成される。海成分の樹脂の溶解除去の方法としては、例えば、海成分がポリエチレンの場合、50~100℃のトルエンを用いて、液流染色機、ジッガー等の染色機や、オープンソーパー等の精練加工機を用いて処理する方法が挙げられる。
【0035】
そして、海島型複合繊維に含まれる海成分の樹脂を除去した後、乾燥することにより吸液ロール用シートの原反が得られる。吸液ロール用シートの製造においては、乾燥前後において、吸液ロール用シートの原反に拡幅処理等の延伸処理を施すことにより、吸液ロール用シートの形態を安定させることが好ましい。このような延伸処理によれば、長繊維を含む不織布が平面方向に引き延ばされることにより伸び縮みしにくいような形態にセットされる。その結果、吸液ロールの素材として用いた場合に、吸液ロールの使用時に吸液した場合にも変形しにくいために平滑性を低下させにくい吸液ロールが得られる。延伸処理の延伸率は吸液ロール用シートの原反の種類により適宜選択されるが、例えば、原反の製造方向の幅方向には12~20%、長さ方向には5~15%程度延伸することが好ましい。
【0036】
このようにして得られた吸液ロール用シートは、円環状に切り抜かれて吸液ロールのロール本体の製造のために用いられる。円環状の直径としては、50~300mm、さらには75~250mm程度であることが好ましい。
【0037】
図1は、円環状シートに成形された吸液ロール用シート10aを多数枚積重させて圧縮して形成されたロール本体10を備える吸液ロール20を説明する説明図である。1はシャフトであり、2は固定リングであり、3は白抜き矢印方向に搬送される被処理部材である。シャフト1は、中空部1aとロール本体10を支持する部分に形成された図略の貫通孔を備えることが好ましい。このようなシャフトによれば、中空部1aに真空ポンプを接続し、中空部1aを吸引することによりロール本体10に浸透した液体を吸引したり、中空部1aに高圧ポンプを接続し、中空部1aに高圧ガスを送ることによりロール本体10に浸透した液体をその周囲から排出することができる。
【0038】
図1に示すように、吸液ロール20は、中央に貫通孔を有する円環状の吸液ロール用シート10aの貫通孔にシャフト1を挿通させて多数枚積重させた後、圧縮された状態で、固定リング2で固定されて形成されている。このような吸液ロール20は、例えば、次のようにして製造される。
【0039】
吸液ロール用シート10aを円環状のシートに成形し、貫通孔をシャフト1に貫通させてシャフト1の外周に多数枚の円環状シートに成形された吸液ロール用シート10aを積重する。そして、積重された多数枚の吸液ロール用シート10aをシャフト1の長手方向からプレス機で圧縮した後、圧縮されて積重された吸液ロール用シート10aを固定リング2で固定する。そして、所定時間放置することにより、積重させた吸液ロール用シート10aの内部応力を均一化させる。そして、積重させた吸液ロール用シート10aの表面をバイト、ナイフ等により切削加工や研磨加工することにより表面を平滑化し、さらに、サンドペーパーやエメリーペーパー等の研磨紙等により微細な凹凸を除去して平滑な表面に仕上げる。
【0040】
吸液ロール20のロール本体10の表面の硬度としては、ショア硬さ試験により測定した硬度が、Hs50~70程度であることが好ましい。硬度が低すぎる場合には、ロール本体の耐摩耗性が低下する傾向がある。また、硬度が低すぎる場合には、吸液性が低下する傾向がある。
【0041】
図1に示したように、このような吸液ロール20は、シャフト1を回転軸として図略の回転手段により両持ち支持されて矢印方向に回転させられながら、搬送される被処理部材3の表面に接触される。このようなロールは、例えば、物品や部品の表面に付着した余分な液を除去するための吸液ロールとして好ましく用いられる。
【実施例
【0042】
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
島成分としてポリエチレンテレフタレート(PET)、海成分としてポリエチレンを含み、島成分/海成分の質量比65/35である島数12島の溶融状態の海島型複合繊維を280℃の溶融複合紡糸用口金から吐出した。そして、口金から吐出された溶融状態の海島型複合繊維を、口金直下に設置したエアジェット吸引装置により4000m/minとなるようにエアーを調節して延伸して細化しながら冷却することにより平均繊度3dtexの海島型複合繊維を紡糸した。そして、海島型複合繊維をエアジェット吸引装置の直下に設置した移動式ネット上に連続的に捕集し、表面温度70℃の金属ロールを用いてプレスすることにより目付け40g/m2の長繊維の海島型複合繊維のウェブを得た。
【0044】
得られたウェブをクロスラッパーを用いて12枚分に相当する目付けになるように重ね合わせた。また、針折れ防止油剤をスプレーを用いてウェブ表面に均一に付与した。次に、ウェブの両面に交互に突き刺した針本数が合計で2000本/cmとなるようにニードルパンチング処理を行ってウェブの長繊維を絡合させることにより、目付750g/m2の三次元絡合体を得た。
【0045】
次に、三次元絡合体に高分子弾性体としてポリウレタン(ポリカーボネート系ポリウレタン)のDMF溶液を含浸させ、DMF水溶液を含む凝固浴で湿式凝固させた。
【0046】
そして、ポリウレタンを付与した三次元絡合体を90℃の熱トルエン中でディップ・ニップすることにより三次元絡合体中の海島型複合繊維から海成分のポリエチレンを溶解除去することにより、三次元絡合体中の海島型複合繊維をPET繊維に変換した後、引き続いて、乾燥炉中で100℃の熱風で30分間乾燥処理した。このとき、乾燥炉内で、ポリウレタンを付与した三次元絡合体の両側縁をテンタークリップで拡幅処理しながら搬送することにより、幅方向に17%、長さ方向に8%の拡幅処理を行った。このようにして、ロール用シートを製造した。
【0047】
得られたロール用シートは、繊度0.2dtexの長繊維のPET繊維の不織布と、不織布に付与された20質量%のポリウレタンとを含み、厚さ1.85mm、目付800g/m2であった。
【0048】
このようにして得られたロール用シートを用いて、下記評価を行った。
【0049】
(2.0kgf/cm2の荷重で平面方向に圧縮したときの直径変化率)
ロール用シートから製造工程の流れ方向に目印をつけ、直径113mmの円形の断片を切り抜き、断片の重量を測定した。そして、20℃の環境下で、切り抜いた断片を水に浸漬し、ディップ・ニップ処理により断片と同じ重量分の含水量になるように含水させた。
そして、断片よりも大きい2枚の円板(厚さ3mm、直径150mmの鋼板製)で含水させた切断片を流れ方向の目印がわかるように挟んだ。そしてその状態を維持するように固定して、円板の外周の流れ方向の目印の位置である点Aから2枚の円板間に定規を差し入れて、円板の外周からロール用シートの断片の外周までの距離A1(mm)を測定した。
また、同様に、点Aに直径方向に対向する点Bからも、円板の外周からロール用シートの断片の外周までの距離B1(mm)を測定した。そして、円板の直径150mmから距離A1及び距離B1を減じることにより、含水率100質量%で実質的に無荷重の状態の円形のロール用シートの断片の直径D1を求めた。そして、含水させた切断片を挟んだ2枚の円板を油圧プレスで2.0kgf/cm2の荷重で平面方向に圧縮し、圧縮した直後において、点A及び点Bからロール用シートの断片の外周までの距離a1,b1をそれぞれ測定した。そして、(A1+B1)から(a1+b1)を減じることにより、含水率100質量%において2.0kgf/cm2の荷重で平面方向に圧縮したときの直径の増加量Iを算出した。そして、直径変化率R(%)=I/D1×100の式により、含水率100質量%で2.0kgf/cm2の荷重で平面方向に圧縮したときの直径変化率Rを算出した。なお、円板の中心に対して、点Aから45度の方向における点、及び90度の方向における点においても同様に直径変化率を算出した。また、含水処理をしていないロール用シートの原反から切り抜いた直径113mmの円形の断片についても、2.0kgf/cm2の荷重で平面方向に圧縮し、圧縮した直後の直径変化率R(%)を算出した。
【0050】
(10%引張強力)
得られたロール用シートから切り出した2.5cm×16cmの試験片を用いて、JIS L1096の8.12.1「引張強度試験」に準じて応力-歪み曲線を得た。そして、応力-歪み曲線から10%伸びたときの応力を読み取り、10%引張強力を求めた。なお、試験は、原反のタテ方向及びヨコ方向をそれぞれ3本ずつ測定し、それらの平均値をロール用シートの10%強力とした。また、測定は、含水処理をしていないときと、含水率100質量%のときの2つの条件で行った。
【0051】
(ロール用シートの見掛け密度)
ロール用シートの単位面積あたりの質量(g/cm2)をその厚さ(cm)で除した値を見かけ密度(g/cm3)とした。結果は、任意の10箇所について測定した見かけ密度の算術平均値である。なお、厚さは、JISL1096に準じて240gf/cm2の荷重下で測定した。
【0052】
(ロール走行試験)
得られたロール用シートから中央に貫通孔を有する円環状に切断した多数のシートを製造した。そして、その円環状のシートを平面方向に多数枚重ねた積重体を形成し、積重体を形成する円環状のシートをシャフトに挿通し、積重体を圧縮固定することによりロールを作成した。そして、上下一対のロール装着部を有する装置に、線圧6kgf/cmになるようにロールを装着した。そして、表面に水を供給しながら走行させた。そして、装置から取り出したロールの外周面を目視し、凹凸が確認できなかったときをA、凹凸が明らかに確認できたときをBと判定した。
【0053】
以上の結果を下記表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
[実施例2]
実施例1のロール用シートの製造において、テンタークリップで拡幅処理する割合を、幅方向に17%、長さ方向に8%の代わりに、幅方向に7%、長さ方向に7%に変更した以外は同様にしてロール用シートの中間体を製造した。そして、得られたロール用シートの中間体にさらに、幅方向に10%拡幅処理する工程を追加して行うことによりロール用シートを製造した。実施例1のロール用シートに代えて、上述したように製造したロール用シートを用いた以外は実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0056】
[比較例1]
実施例1のロール用シートの製造において、テンタークリップで拡幅処理する割合を、幅方向に17%、長さ方向に8%の代わりに、幅方向に7%、長さ方向に7%に変更した以外は同様にしてロール用シートを製造した。実施例1のロール用シートに代えて、上述したように製造したロール用シートを用いた以外は実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0057】
[比較例2]
実施例1のロール用シートの製造において、20質量%のポリウレタンを付与したことに代えて、30質量%のポリウレタンを付与し、テンタークリップで拡幅処理する割合を、幅方向に17%、長さ方向に8%の代わりに、幅方向に11%、長さ方向に8%に変更した以外は同様にしてロール用シートを製造した。実施例1のロール用シートに代えて、上述したように製造したロール用シートを用いた以外は実施例1と同様にして評価した。
結果を表1に示す。
【0058】
表1の結果から、直径113mmの円形の切断片において、含水率100質量%で2.0kgf/cm2の荷重で平面方向に圧縮したときの直径変化率が2.0%以下である実施例1及び実施例2で得られたロール用シートを用いて製造した吸液ロールは、ロール走行試験において、何れも吸液ロールの外周面に凹凸が確認されなかった。一方、直径変化率が2.0%を超える比較例1及び比較例2で得られたロール用シートを用いて製造した吸液ロールは、ロール走行試験において、何れも吸液ロールの外周面に凹凸が明らかに確認された。
【符号の説明】
【0059】
1 シャフト
1a 中空部
2 固定リング
3 被処理部材
10,10a 吸液ロール用シート
20 吸液ロール
図1