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特許7105262車両用複合ケーブル、及び車両用複合ハーネス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】車両用複合ケーブル、及び車両用複合ハーネス
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20220714BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20220714BHJP
   H01B 11/02 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
H01B7/00 310
H01B7/00 301
H01B7/18 H
H01B11/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020038695
(22)【出願日】2020-03-06
(62)【分割の表示】P 2018184351の分割
【原出願日】2014-12-22
(65)【公開番号】P2020080330
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2020-03-13
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】豊島 直也
(72)【発明者】
【氏名】早川 良和
(72)【発明者】
【氏名】村山 知之
(72)【発明者】
【氏名】江島 弘高
(72)【発明者】
【氏名】林 真也
(72)【発明者】
【氏名】及川 実
(72)【発明者】
【氏名】二ツ森 敬浩
(72)【発明者】
【氏名】坂口 寛史
【合議体】
【審判長】辻本 泰隆
【審判官】小田 浩
【審判官】松永 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-237428(JP,A)
【文献】特開2004-119096(JP,A)
【文献】国際公開第2012/105142(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の停止後に制動力を発生させる電動パーキングブレーキ装置に電流を供給し、中心導体を絶縁体で被覆してなる2本の電源線と、
前記車両の走行時に通電され、中心導体を絶縁体で被覆してなる2本の第1の絶縁電線を撚り合わせてなる第1のツイストペア線と、
前記車両の走行時に通電され、中心導体を絶縁体で被覆してなる2本の第2の絶縁電線を撚り合わせてなる第2のツイストペア線と、
前記2本の電源線と前記第1及び第2のツイストペア線とを一括して被覆するシースと、
を備え、
前記2本の電源線及び前記第1及び第2のツイストペア線は、それぞれシールド導体により被覆されておらず、
前記第1及び第2のツイストペア線は、断面視において、前記2本の電源線によって隔てられ、前記2本の電源線を挟んで離間して配置されており、
前記2本の電源線は、それぞれ前記第1及び第2の絶縁電線よりも大きな外径であるとともに、前記2本の電源線の間隔が前記第1の絶縁電線の太さ及び前記第2の絶縁電線の太さよりも狭く、
前記第1の絶縁電線の前記絶縁体の厚さは、前記第2の絶縁電線の前記絶縁体の厚さよりも厚く、前記第1の絶縁電線の外径の前記第2の絶縁電線の外径に対する比は、0.8以上1.2以下であ
前記一対の第1の絶縁電線の撚り合わせ方向と前記一対の第2の絶縁電線の撚り合わせ方向とは同じ方向であり、
前記一対の第1の絶縁電線及び前記一対の第2の絶縁電線は、その撚りピッチが互いに異なる、
車両用複合ケーブル。
【請求項2】
前記第1及び第2のツイストペア線はそれぞれ、前記車両の走行時に前記車両の走行状態を示す車両状態量の検出信号を伝送する信号線である、
請求項1に記載の車両用複合ケーブル。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両用複合ケーブルと、
前記シースから露出した前記2本の電源線、前記第1のツイストペア線、及び前記第2のツイストペア線の端部のうち、少なくとも何れかの端部に取り付けられたコネクタと、を有する、
車両用複合ハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用複合ケーブル、及びこの車両用複合ケーブルを用いた車両用複合ハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の停車後に車輪の回転を抑止するための電動パーキングブレーキ機構に電流を供給するための電動パーキングブレーキ専用ケーブルと、車両の走行中の車輪の回転速度を測定するためのABSセンサに接続されるABSセンサ用ケーブルとを共通のシースで一体化した複合ケーブルを備えた複合ハーネスが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この種の複合ハーネスは、一方の端部が車体に固定され、他方の端部が懸架装置を介して車体に支持された車輪に固定される。そして、車両の走行に伴って車体が路面に対して上下動すると、複合ケーブルが屈曲されるので、この複合ケーブルには、高い屈曲性が求められる。特許文献1に記載の複合ハーネスでは、電動パーキングブレーキ専用ケーブル及びABSセンサ用ケーブルにノイズ対策用のシールド導体が設けられておらず、これにより屈曲性の向上及び軽量化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5541331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の車両の高度な電子化により、車輪側に複数のセンサが取り付けられる場合がある。しかし、複数のセンサの検出信号を伝送する複数の信号線をシースで一括して被覆する場合、複数の信号線のそれぞれにシールド導体を設けないと、信号線間のクロストークが発生しやすくなってしまう。
【0006】
そこで、本発明は、電動パーキングブレーキ装置に電流を供給する一対の電源線と、シールド導体に被覆されていない複数の信号線とをシースによって一括して被覆しても、ツイストペア線間のクロストークを抑制することが可能な車両用複合ケーブル、及びこの車両用複合ケーブルを備えた車両用複合ハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、車両の車体と車輪の間に配線される車両用複合ケーブルであって、前記車両の停止後に制動力を発生させる電動パーキングブレーキ装置に電流を供給し、中心導体を絶縁体で被覆してなる2本の電源線と、前記車両の走行時に通電され、中心導体を絶縁体で被覆してなる一対の第1の絶縁電線を撚り合わせてなる第1のツイストペア線と、前記車両の走行時に通電され、中心導体を絶縁体で被覆してなる一対の第2の絶縁電線を撚り合わせてなる第2のツイストペア線と、前記2本の電源線と前記第1及び第2のツイストペア線とを一括して被覆するシースと、を備え、前記2本の電源線は、それぞれ前記第1及び第2の絶縁電線よりも大きな外径であり、前記2本の電源線の間隔が前記第1の絶縁電線の太さ及び前記第2の絶縁電線の太さよりも狭く、前記2本の電源線及び前記第1及び第2のツイストペア線は、それぞれシールド導体により被覆されておらず、前記第1及び第2のツイストペア線は、前記2本の電源線によって隔てられ、前記2本の電源線を挟んで離間して配置されている、車両用複合ケーブルを提供する。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、前記車両用複合ケーブルと、前記シースから露出した前記2本の電源線、前記第1のツイストペア線、及び前記第2のツイストペア線の端部のうち、少なくとも何れかの端部に取り付けられたコネクタと、を有する、車両用複合ハーネスを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両用複合ケーブル及び車両用複合ハーネスによれば、ツイストペア線間のクロストークを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施の形態に係る複合ハーネスが用いられた車両の構成を示す模式図である。
図2】後輪の周辺部の構成例を示す概略図である。
図3】ワイヤハーネスの構成の一具体例を示す構成図である。
図4】ワイヤハーネスを構成する複合ケーブルの一端部を示す概略図である。
図5】複合ケーブルの断面図である。
図6】(a)は、第2の実施の形態に係る複合ケーブルの内部構造を示す説明図であり、(b)は、複合ケーブルの断面図である。
図7】(a)は、第3の実施の形態に係る複合ケーブルの内部構造を示す説明図であり、(b)は、複合ケーブルの断面図である。
図8】第4の実施の形態に係る複合ケーブルの断面図である。
図9】第5の実施の形態に係る複合ケーブルの断面図である。
図10】(a)は、第6の実施の形態に係る複合ケーブルの断面図であり、(b)は、複合ケーブルの編組シールドの構成例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
図1は、本実施の形態に係る複合ハーネスが用いられた車両の構成を示す模式図である。
【0012】
車両1は、車体10に4つのタイヤハウス100を有し、2つの前輪11及び2つの後輪12がそれぞれのタイヤハウス100内に配置されている。本実施の形態では、車両1が前輪駆動車であり、前輪11がエンジンや電動モータからなる図略の駆動源の駆動力を受けて駆動される。すなわち、本実施の形態では、前輪11が駆動輪であり、後輪12が従動輪である。
【0013】
また、車両1は、2つの電動パーキングブレーキ装置130と、制御装置14とを有している。電動パーキングブレーキ装置130は、2つの後輪12のそれぞれに対応して設けられ、制御装置14から供給される電流によって作動して、後輪12に制動力を発生させる。制御装置14は、車室内に設けられたパーキングブレーキ作動スイッチ140の操作状態を検出可能であり、運転者は、このパーキングブレーキ作動スイッチ140をオン/オフ操作することで、電動パーキングブレーキ装置130の作動状態と非作動状態とを切り替えることが可能である。
【0014】
例えば、停車時おいて運転者がパーキングブレーキ作動スイッチ140をオフ状態からオン状態にすると、制御装置14は、所定時間(例えば1秒間)にわたって電動パーキングブレーキ装置130を作動させるための作動電流を出力する。これにより、電動パーキングブレーキ装置130が作動し、後輪12に制動力を発生させる。この電動パーキングブレーキ装置130の作動状態は、制御装置14から電動パーキングブレーキ装置130を非作動状態にするための電流が出力されるまで維持される。このように、電動パーキングブレーキ装置130は、主として車両1の停止後に制動力を発生させる。
【0015】
制御装置14は、運転者の操作によってパーキングブレーキ作動スイッチ140がオン状態からオフ状態にされた場合に、電動パーキングブレーキ装置130を非作動状態にするための電流を出力する。なお、制御装置14は、パーキングブレーキ作動スイッチ140がオフ状態にされた場合の他、例えばアクセルぺダルが踏込操作された場合にも、電動パーキングブレーキ装置130を非作動状態にするための電流を出力する。
【0016】
また、前輪11及び後輪12には、車輪速を検出するための車輪速センサ131、及びタイヤの空気圧を検出するための空気圧センサ132が設けられている。車輪速センサ131は、それ自体は周知のものであり、前輪11又は後輪12と共に回転する環状の磁気エンコーダの磁界を検出する磁界検出素子を有し、この磁界の向きが変化する周期によって車輪速(前輪11又は後輪12の回転速度)を検出する。空気圧センサ132は、例えばタイヤの空気圧に応じて撓み量が変化するダイヤフラムを有し、このダイヤフラムの撓み量に応じた電気信号を出力する。
【0017】
制御装置14と、前輪11の車輪速センサ131及び空気圧センサ132とは、複数の電線からなる前輪用電線群151、及び前輪用ワイヤハーネス152によって電気的に接続されている。前輪用電線群151と前輪用ワイヤハーネス152とは、車体10に固定された中継ボックス153内で接続されている。中継ボックス153は、左右一対の前輪11のそれぞれの近傍に配置されている。
【0018】
また、制御装置14と、後輪12の電動パーキングブレーキ装置130、車輪速センサ131、及び空気圧センサ132とは、複数の電線からなる後輪用電線群154、及び後輪用ワイヤハーネス2によって電気的に接続されている。この後輪用ワイヤハーネス2は、本発明に係る「複合ハーネス」の一態様である。後輪用電線群154と後輪用ワイヤハーネス2とは、車体10に固定された中継ボックス155内で接続されている。中継ボックス155は、左右一対の後輪12のそれぞれの近傍に配置されている。
【0019】
前輪用電線群151は、束ねられた状態で車体10に設けられた配線路150に配置されている。また、後輪用電線群154も、前輪用電線群151と同様に、束ねられた状態で車体10に設けられた配線路150に配置されている。
【0020】
前輪用ワイヤハーネス152は、一端部が前輪11の車輪速センサ131及び空気圧センサ132に接続され、他端部が中継ボックス153に収容されている。後輪用ワイヤハーネス2は、一端部が後輪12の電動パーキングブレーキ装置130、車輪速センサ131、及び空気圧センサ132に接続され、他端部が中継ボックス155に収容されている。前輪用ワイヤハーネス152及び後輪用ワイヤハーネス2には、車両1の走行に伴う前輪11及び後輪12の車体10に対する上下動に応じて屈曲されるので、高い屈曲耐久性が要求される。以下、後輪用ワイヤハーネス2を、単に「ワイヤハーネス2」という。
【0021】
図2は、後輪12の周辺部の構成例を示す概略図である。後輪12は、車体10に対して懸架装置16によって支持されている。懸架装置16は、アッパアーム161と、ロアアーム162と、ショックアブソーバ163と、サスペンションスプリング164とを有して構成されている。アッパアーム161及びロアアーム162は、それぞれの一端部がナックル165に連結され、他端部が車体10に連結されている。ナックル165には、後輪12のハブユニット17の外輪171が固定されている。アッパアーム161は、ナックル165の第1取付部165aにショックアブソーバ163と共に連結され、ロアアーム162は、ナックル165の第2取付部165bに連結されている。
【0022】
サスペンションスプリング164は、ショックアブソーバ163の外周に同軸状に配置され、路面に対する車体10の上下動に応じて伸縮する。そして、このショックアブソーバ163の伸縮に伴って、アッパアーム161及びロアアーム162が車体10に対して揺動する。
【0023】
また、ナックル165には、第3取付部165cが突設され、この第3取付部165cに電動パーキングブレーキ装置130が固定されている。電動パーキングブレーキ装置130は、本体部130aと、キャリパ130bと、キャリパ130bに固定されたブレーキパッド130cとを有している。
【0024】
ハブユニット17は、外輪171と、外輪171に対して回転自在に支持されたハブ輪172とを有している。ハブ輪172には、車輪取付フランジ172aが設けられ、この車輪取付フランジ172aに後輪12が取り付けられている。ハブユニット17の外輪171の内周面とハブ輪172の外周面との間には、図示しない複数の転動体が保持器に保持されて配置されている。
【0025】
ハブ輪172の車輪取付フランジ172aには、円板状のブレーキロータ18が後輪12のホイール120と共に固定されている。ブレーキロータ18は、電動パーキングブレーキ装置130のブレーキパッド130cが摩擦係合する摩擦部18aと、ハブ輪172の車輪取付フランジ172aに固定される固定部18bとを一体に有している。摩擦部18aは、その一側面が電動パーキングブレーキ装置130のブレーキパッド130cに対向している。電動パーキングブレーキ装置130が作動すると、キャリパ130bが本体部130aに引き込まれ、ブレーキパッド130cがブレーキロータ18の摩擦部18aに押し付けられる。これにより、ブレーキパッド130cとブレーキロータ18との間に摩擦力が発生し、この摩擦力が車両1の制動力となる。
【0026】
ホイール120には、タイヤ121が装着されている。このタイヤ121は、合成ゴム又は天然ゴムからなるゴム材料に補強剤等を配合したゴムタイヤである。空気圧センサ132は、タイヤ121の空気圧に応じた電波信号を発信する検出素子132aと、検出素子132aから発信された電波信号を受信するアンテナ素子132bからなる。検出素子132aは、ホイール120に取り付けられ、後輪12と共に回転する。アンテナ素子132bは、後輪12の回転に伴って回転しない非回転部材に固定されている。本実施の形態では、アンテナ素子132bが非回転部材であるナックル165に固定されているが、アンテナ素子132bを例えば車体10に固定してもよい。
【0027】
検出素子132aから発信された電波信号は、アンテナ素子132bによって電気信号に変換され、ワイヤハーネス2を経由して制御装置14に伝送される。制御装置14は、空気圧センサ132によって検出された空気圧が所定値よりも低い場合、ランプ表示やアラーム音によって運転者に警告を発する。
【0028】
(ワイヤハーネス2の構成)
図3は、ワイヤハーネス2の構成の一具体例を示す構成図である。図4は、ワイヤハーネス2を構成する複合ケーブル2Aの一端部を示す概略図である。図5(a)は、複合ケーブル2Aの断面図、図5(b)は、第1の信号線30を構成する絶縁電線31の断面図、図5(c)は電源線21の断面図、図5(d)は第2の信号線40を構成する絶縁電線41の断面図である。
【0029】
図3では、図面左側に後輪12側の端部を示し、図面右側に中継ボックス155側の端部を示している。以下の説明では、ワイヤハーネス2の後輪12側の端部を「一端部」といい、中継ボックス155側の端部を「他端部」という。
【0030】
複合ケーブル2Aは、一対の電源線21,22と、ツイストペア線からなる第1の信号線30と、同じくツイストペア線からなる第2の信号線40と、一対の電源線21,22ならびに第1及び第2の信号線30,40を一括して被覆するシース20と、シース20に収容された介在物5とを有している。
【0031】
一対の電源線21,22の一端部には、電動パーキングブレーキ装置130との接続のための第1電源コネクタ23が取り付けられ、一対の電源線21,22の他端部には、中継ボックス155内における後輪用電線群154との接続のための第2電源コネクタ24が取り付けられている。
【0032】
第1の信号線30には、一端部に車輪速センサ131が取り付けられ、他端部には中継ボックス155内における後輪用電線群154との接続のための第1信号線接続コネクタ33が取り付けられている。また、第2の信号線40には、一端部に空気圧センサ132のアンテナ素子132bとの接続のためのアンテナ素子接続コネクタ43が取り付けられ、他端部には中継ボックス155内における後輪用電線群154との接続のための第2信号線接続コネクタ44が取り付けられている。
【0033】
ワイヤハーネス2は、複合ケーブル2Aと、第1電源コネクタ23、第2電源コネクタ24、車輪速センサ131、第1信号線接続コネクタ33、アンテナ素子接続コネクタ43、及び第2信号線接続コネクタ44とによって構成されている。
【0034】
一対の電源線21,22は、電動パーキングブレーキ装置130に電流を供給するために用いられる。第1の信号線30は、車輪速センサ131の検出信号を制御装置14に伝送するために用いられる。また、第2の信号線40は、空気圧センサ132の検出信号を制御装置14に伝送するために用いられる。
【0035】
すなわち、第1の信号線30及び第2の信号線40は、車両1の走行時に、車両1の走行状態を示す車両状態量の検出信号を制御装置14に伝送する。第1の信号線30によって伝送される車輪速センサ131の検出信号は、後輪12の車輪速検出用の信号であり、本発明の「第1の電気信号」の一具体例である。また、第2の信号線40によって伝送される空気圧センサ132の検出信号は、本発明の「第2の電気信号」の一具体例である。
【0036】
介在物5は、シース20の内部において、一対の電源線21,22と第1及び第2の信号線30,40との間に介在している。この介在物5により、複合ケーブル2Aの中心軸に直交する断面におけるシース20の外周面20aが円形状に近づけられ、複合ケーブル2Aの配策性が高められている。また、介在物5によって、複合ケーブル2Aが屈曲された際に、シース20、一対の電源線21,22、第1の信号線30、及び第2の信号線40が相互に擦れあうことが抑制され、複合ケーブル2Aの耐屈曲性が高められている。
【0037】
シース20は、絶縁性の樹脂からなり、その素材として具体的には、柔軟性及び耐久性に優れた軟質ポリウレタンを特に好適に用いることができる。図5(a)に示すように、シース20の外径をDとし、厚みをtとすると、Dは8.0~10.0mmであり、tは1.0~2.0mmである。
【0038】
一対の電源線21,22は、それぞれが銅等の良導電性の導線からなる中心導体210,220を絶縁性の樹脂からなる絶縁体211,221で被覆した絶縁電線である。絶縁体211,221は、例えば架橋PE(ポリエチレン)又は難燃架橋PE(ポリエチレン)からなる。一対の電源線21,22のうち、一方の電源線21の中心導体210の外径、絶縁体211の厚さ、及び絶縁体211の外径は、他方の電源線22の中心導体220の外径、絶縁体221の厚さ、及び絶縁体221の外径と共通である。図5(c)に示すように、一方の電源線21の中心導体210の外径をD01、絶縁体211の厚さをt0、絶縁体211の外径をD02とすると、D01は1.8~2.3mm、t0は0.3~0.5mm、D02は2.9~3.1mmである。
【0039】
第1の信号線30は、一対の絶縁電線31,32を所定の撚りピッチで撚り合わせてなる撚り対線である。一対の絶縁電線31,32のうち、一方の絶縁電線31は、銅等の良導電性の導線からなる中心導体310を絶縁性の樹脂からなる絶縁体311で被覆してなり、他方の絶縁電線32も同様に、銅等の良導電性の導線からなる中心導体320を絶縁性の樹脂からなる絶縁体321で被覆してなる。絶縁電線31,32の中心導体310,320は、複数の素線からなる撚線である。絶縁体311,321は、例えば架橋PE(ポリエチレン)又は難燃架橋PE(ポリエチレン)からなる。
【0040】
一方の絶縁電線31の中心導体310の外径、絶縁体311の厚さ、及び絶縁体311の外径と、他方の絶縁電線32の中心導体320の外径、絶縁体321の厚さ、及び絶縁体321の外径とは、それぞれ共通である。すなわち、一方の絶縁電線31,32は、共通の諸元からなる。図5(b)に示すように、一方の絶縁電線31の中心導体310の外径をD11、絶縁体311の厚さをt1、絶縁体311の外径をD12とすると、D11は0.6~0.9mm、D12は1.3~1.6mm、t1は0.25~0.4mmである。
【0041】
第2の信号線40は、一対の絶縁電線41,42を所定の撚りピッチで撚り合わせてなる撚り対線である。第2の信号線40は、その撚りピッチ及び撚り方向が第1の信号線30の撚りピッチ及び撚り方向と同じであり、第1の信号線30と同様に構成されている。
【0042】
具体的には、第2の信号線40の一対の絶縁電線41,42のうち、一方の絶縁電線41は、銅等の良導電性の導線からなる中心導体410を絶縁性の樹脂からなる絶縁体411で被覆してなり、他方の絶縁電線42も同様に、銅等の良導電性の導線からなる中心導体420を絶縁性の樹脂からなる絶縁体421で被覆してなる。絶縁電線41,42の中心導体410,420は、複数の素線からなる撚線であり、絶縁体411,421は、例えば架橋PE(ポリエチレン)又は難燃架橋PE(ポリエチレン)からなる。
【0043】
第2の信号線40における一方の絶縁電線41の中心導体410の外径、絶縁体411の厚さ、及び絶縁体411の外径と、他方の絶縁電線42の中心導体420の外径、絶縁体421の厚さ、及び絶縁体421の外径とは、それぞれ共通である。すなわち、一方の絶縁電線41,42は、共通の諸元からなる。図5(d)に示すように、一方の絶縁電線41の中心導体410の外径をD21、絶縁体411の厚さをt-2、絶縁体411の外径をD22とすると、D21は0.7~1.0mm、D22は1.4~1.8mm、t2は0.25~0.4mmである。
【0044】
本実施の形態では、第1の信号線30の一対の絶縁電線31,32の外径(太さ)D12と、第2の信号線40の一対の絶縁電線41,42の外径(太さ)D22とが同等である。具体的には、D12のD22に対する比(D12/D22)が0.8以上1.2以下である。また、D12のD22に対する比(D12/D22)のより望ましい範囲は、0.9以上1.1以下である。
【0045】
なお、図5(a)では、図示断面から複合ケーブル2Aを長手方向に見た場合に、第1の信号線30の一対の絶縁電線31,32、及び第2の信号線40の一対の絶縁電線41,42が存在する範囲の外縁を破線で図示している。
【0046】
複合ケーブル2Aは、シース20の一端部が、後輪12の回転に伴って回転しない非回転部材に固定されている。本実施の形態では、図2に示すように、シース20の一端部が固定具19によってナックル165に固定されている。ただし、これに限らず、シース20の一端部は、後輪12の回転に伴って回転せず、かつサスペンションスプリング164の伸縮に伴って後輪12と共に車体10に対して上下動する非回転部材に固定されていればよい。
【0047】
第1の信号線30は、シールド導体により被覆されていない。また、第2の信号線40も、シールド導体により被覆されていない。またさらに、一対の電源線21,22も、シールド導体により被覆されていない。つまり、第1の信号線30の一対の絶縁電線31,32と一対の電源線21,22との間、及び第2の信号線40の一対の絶縁電線41,42と一対の電源線21,22との間には、介在物5が介在する他は、電磁波を遮蔽する導電性の部材が配置されていない。
【0048】
これは、一対の電源線21,22に電流が流れるのは主として車両1の停車中であり、第1及び第2の信号線30,40が電気信号を伝送するのは主として車両1の走行中であるため、第1の信号線30と一対の電源線21,22との間、及び第2の信号線40と一対の電源線21,22との間には、シールド導体を設ける必要がないことに着目したものである。
【0049】
つまり、一対の電源線21,22に電流が流れた場合、この電流により発生する電磁波は、第1の信号線30における一対の絶縁電線31,32間の電位差、及び第2の信号線40における一対の絶縁電線41,42間の電位差に影響を及ぼし得るが、制御装置14は、車速がゼロである車両1の停車中には、第1及び第2の信号線30,40の電気信号を無視することができ、車両1の走行に悪影響を及ぼさないようにすることができる。また、第1及び第2の信号線30,40がシールド導体に被覆されていないことにより、複合ケーブル2Aの柔軟性が増し、屈曲性が高まると共に、複合ケーブル2Aの軽量化ならびに低コスト化にも寄与することができる。
【0050】
本実施の形態ではさらに、第1の信号線30と第2の信号線40とが、一対の電源線21,22によって離間されている。換言すれば、シース20内の空間が、一対の電源線21,22によって第1の信号線30の収容空間と第2の信号線40の収容空間とに区画されている。
【0051】
これは、前述のように、第1及び第2の信号線30,40をシールド導体で被覆しないことにより、第1の信号線30と第2の信号線40との間でクロストークが発生しやすくなることに鑑みて、第1の信号線30と第2の信号線40との間に一対の電源線21,22が挟まれるように複合ケーブル2Aを構成し、クロストークを抑制するようにしたものである。つまり、第1の信号線30と第2の信号線40とを一対の電源線21,22によって離間させることで、第1の信号線30と第2の信号線40との間隔をクロストークが発生し得る距離以上に保つことにより、第1の信号線30と第2の信号線40との間のクロストークを抑止する。
【0052】
具体的には、一対の電源線21,22の間の間隔が、第1の信号線30の一対の絶縁電線31,32の太さ、及び第2の信号線40の一対の絶縁電線41,42の太さよりも狭く、第1の信号線30の一対の絶縁電線31,32と、第2の信号線40の一対の絶縁電線41,42とが、直接接触することがないようにされている。図5(a)に示す例では、一対の電源線21,22が互いに接触しているので、この間隔がゼロである。また、一対の電源線21,22の中心導体210,220は、導体であることから一定のシールド効果が期待でき、この中心導体210,220のシールド効果によっても、クロストークが抑制される。
【0053】
本実施の形態では、前述のように、第1の信号線30の一対の絶縁電線31,32の外径D12と、第2の信号線40の一対の絶縁電線41,42の外径D22とが同等であるので、複合ケーブル2Aの断面における第1の信号線30及び第2の信号線40の並び方向において、一対の電源線21,22がシース20の中央部に位置し、一対の電源線21,22と、第1及び第2の信号線30,40との相対的な位置関係が安定する。これにより、上記の効果がより顕著となる。
【0054】
また、図5(a)に示すように、本実施の形態では、一対の電源線21,22、第1の信号線30、及び第2の信号線40によって囲まれた領域A11,A12が空間とされおり、この領域A11,A12には介在物5が充填されていない。これにより、複合ケーブル2Aの端末処理が容易になる。
【0055】
つまり、複合ケーブル2Aを端末処理する際には、シース20の一部を切除して、一対の電源線21,22、第1及び第2の信号線30,40、ならびに介在物5を露出させ、さらにシース20の端部から露出した介在物5を切除する必要があるが、この際、領域A11,A12に介在物5が充填されていると、この介在物5を切除する作業が、一対の電源線21,22や第1及び第2の信号線30,40に邪魔されて困難となる。そこで、本実施の形態では、第1の信号線30、及び第2の信号線40によって囲まれた領域A11,A12に介在物5を充填しないことにより、複合ケーブル2Aの端末処理が容易化している。
【0056】
介在物5としては、ケーブルの介在物として一般的に用いられるポリプロピレンヤーン、アラミド繊維、ナイロン繊維、あるいは繊維系プラスチック等の各種の繊維状体や、紙もしくは綿糸等を用いることができるが、本実施の形態では、介在物5に人造ポリペプチド繊維を含有させている。この人造ポリペプチド繊維は、クモ(蜘蛛)糸繊維とも呼ばれ、天然クモ糸タンパク質に由来するポリペプチドを主成分として含む人造繊維であり、例えば応力が350~628.7MPa、タフネスが138~265.4MJ/m3である。介在物5に人造ポリペプチド繊維を含有させることで、複合ケーブル2Aの強度を高めることができる。
【0057】
また、シース20に上記の人造ポリペプチド繊維を含有させてもよい。人造ポリペプチド繊維を含有させることによって強度が高まるので、シース20を薄肉化することができ、複合ケーブル2Aの強度を保ちながら屈曲性を高めると共に、軽量化を図ることも可能となる。
【0058】
以上説明した第1の実施の形態によれば、第1の信号線30及び第2の信号線40がシールド導体に被覆されていないので、複合ケーブル2Aの屈曲性が高まると共に、複合ケーブル2Aの軽量化ならびに低コスト化に寄与することができる。また、第1の信号線30と第2の信号線40とが一対の電源線21,22によって離間されているので、第1の信号線30と第2の信号線40との間のクロストークが抑制される。すなわち、本実施の形態によれば、第1の信号線30及び第2の信号線40を被覆するシールド導体を省略しながらも、第1の信号線30と第2の信号線40との間のクロストークを抑制することが可能となる。
【0059】
(他の実施の形態)
以下、本発明の第2乃至第6の実施の形態に係る複合ケーブル2B~2Fについて説明する。これらの複合ケーブル2B~2Fは、第1の実施の形態に係る複合ケーブル2Aと同様、一対の電源線21,22、第1の信号線30、及び第2の信号線40の端部にコネクタ等が取り付けられることによりワイヤハーネスとして構成され、車両1に適用することが可能である。また、複合ケーブル2B~2Fにおいて、シース20や一対の電源線21,22、ならびに第1及び第2の信号線30,40の絶縁電線31,32,41,42の材質や寸法等については、上記したものと同様とすることができる。
【0060】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態について、図6を参照して説明する。第2の実施の形態に係る複合ケーブル2Bは、第1の実施の形態に係る複合ケーブル2Aと同様、シース20と、一対の電源線21,22と、第1の信号線30と、第2の信号線40と、介在物5とを備え、第1の信号線30と第2の信号線40とが一対の電源線21,22によって離間されているが、第1の信号線30と第2の信号線40の撚り合わせの位相が異なる。以下、この相違点について重点的に説明する。
【0061】
図6(a)は、本実施の形態に係る複合ケーブル2Bの内部構造を示す説明図であり、図6(b)は、複合ケーブル2Bの断面図である。図6(a)では、シース20を長手方向に沿って断面半円状に切断し、かつ介在物5の図示を省略して、複合ケーブル2Bの内部構造を図示している。
【0062】
本実施の形態に係る複合ケーブル2Bは、第1の実施の形態に係る複合ケーブル2Aと同様に、第1の信号線30が一対の絶縁電線31,32を撚り合わせてなり、第2の信号線40が一対の絶縁電線41,42を撚り合わせてなる。また第1の信号線30における一対の絶縁電線31,32の撚りピッチP1と、第2の信号線40における一対の絶縁電線41,42の撚りピッチP2とは共通である。
【0063】
ただし、第1の信号線30における一対の絶縁電線31,32の撚り合わせの位相と、第2の信号線40における一対の絶縁電線41,42の撚り合わせの位相とは異なり、図6(b)に示すシース20の長手方向に直交する断面において、第1の信号線30の一対の絶縁電線31,32が一対の電源線21,22の並び方向と平行な方向に沿って並ぶ場合に、第2の信号線40一対の絶縁電線41,42が一対の電源線21,22の並び方向に対して直交する方向に沿って並ぶ。
【0064】
これにより、シース20を小径化することができる。すなわち、本実施の形態では、第1の実施の形態に係る複合ケーブル2Aに比較して、複合ケーブル2Bを小径化することができる。
【0065】
つまり、第1の実施の形態に係る複合ケーブル2Aでは、図5に示すように、第1の信号線30における一対の絶縁電線31,32及び第2の信号線40における一対の絶縁電線41,42が共に一対の電源線21,22の並び方向に直交する方向に並んだ場合にも、第1の信号線30及び第2の信号線40からの押圧力によって一対の電源線21,22の間隔が大きく拡がってしまわないようにシース20の内径を設定する必要があったが、本実施の形態によれば、第1の信号線30における一対の絶縁電線31,32及び第2の信号線40における一対の絶縁電線41,42が一列に並ぶことがないので、第1の実施の形態に係る複合ケーブル2Aに比較して、シース20の内径を小さくすることが可能となる。
【0066】
また、本実施の形態に係る複合ケーブル2Bにおいても、第1の実施の形態に係る複合ケーブル2Aと同様に、一対の電源線21,22、第1の信号線30、及び第2の信号線40によって囲まれた領域A21,A22が、介在物5が充填されていない空間とされ、これにより複合ケーブル2Bの端末処理が容易化されている。
【0067】
以上のように、本実施の形態によれば、第1の実施の形態について説明した作用及び効果に加え、複合ケーブル2Bの細径化を図ることができ、ひいては複合ケーブル2Bの配策性を高めることが可能となる。
【0068】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について、図7を参照して説明する。第3の実施の形態に係る複合ケーブル2Cは、第1の実施の形態に係る複合ケーブル2Aと同様、シース20と、一対の電源線21,22と、第1の信号線30と、第2の信号線40と、介在物5とを備え、第1の信号線30と第2の信号線40とが一対の電源線21,22によって離間されているが、第1の信号線30と第2の信号線40の撚りピッチが異なる。以下、この相違点について重点的に説明する。
【0069】
図7(a)は、本実施の形態に係る複合ケーブル2Cの内部構造を示す説明図であり、図7(b)は、複合ケーブル2Cの断面図である。図7(a)では、シース20を長手方向に沿って断面半円状に切断し、かつ介在物5の図示を省略して、複合ケーブル2Cの内部構造を図示している。
【0070】
本実施の形態に係る複合ケーブル2Cは、第1の実施の形態に係る複合ケーブル2Aと同様に、第1の信号線30が一対の絶縁電線31,32を撚り合わせてなり、第2の信号線40が一対の絶縁電線41,42を撚り合わせてなるが、第1の信号線30における一対の絶縁電線31,32の撚りピッチP1と、第2の信号線40における一対の絶縁電線41,42の撚りピッチP2とが異なる。
【0071】
また、本実施の形態では、第1の信号線30の撚りピッチP1よりも第2の信号線40の撚りピッチP2の方が大きく、その差が2倍以上である。ただし、これとは逆に、第1の信号線30の撚りピッチP1を第2の信号線40の撚りピッチP2よりも大きくしてもよく、さらには第1の信号線30の撚りピッチP1を第2の信号線40の撚りピッチP2の2倍以上としてもよい。
【0072】
これにより、本実施の形態に係る複合ケーブル2Cでは、第1の実施の形態に係る複合ケーブル2Aに比較して、巻き癖を抑制することができる。つまり、複数のツイストペア線を一つのシースに収容する場合、ツイストペア線の巻き方向に応じた巻き癖により、ケーブル全体がうねるように湾曲し、配策性が低下してしまう場合があるが、本実施の形態によれば、第1の信号線30における一対の絶縁電線31,32の撚りピッチP1と、第2の信号線40における一対の絶縁電線41,42の撚りピッチP2とが異なるので、例えば第2の信号線40の撚りピッチP2が第1の信号線30の撚りピッチP1に等しい場合に比較して、複合ケーブル2Cの巻き癖が発生しにくくなる。第1の信号線30の撚りピッチP1と第2の信号線40の撚りピッチP2との差が2倍以上であれば、この効果がより顕著となる。
【0073】
また、第1の信号線30の撚りピッチP1と第2の信号線40の撚りピッチP2とを異ならせる場合、伝送する電気信号の変化周期が長い方の信号線の撚りピッチを大きくすることが望ましい。つまり、ツイストペア線では、撚りピッチを大きくすることにより、電磁波ノイズの影響を受けやすくなるが、電気信号の変化周期が長ければ、例えば複数のサンプリング周期における複数の検出結果のうち、他の検出結果からかけ離れたものを異常値として無視したり、複数の検出結果を平均化することにより、撚りピッチを大きくしても、電磁波ノイズの影響を受けにくくすることができる。
【0074】
よって、本実施の形態に係る複合ケーブル2Cでは、車輪速検出用の信号を伝送する第1の信号線30の撚りピッチP1よりも、空気圧センサ132の検出信号を伝送する第2の信号線40の撚りピッチP2を大きくしている。
【0075】
また、本実施の形態に係る複合ケーブル2Cにおいても、第1の実施の形態に係る複合ケーブル2Aと同様に、一対の電源線21,22、第1の信号線30、及び第2の信号線40によって囲まれた領域A31,A32が、介在物5が充填されていない空間とされ、これにより複合ケーブル2Cの端末処理が容易化されている。
【0076】
以上のように、本実施の形態によれば、第1の実施の形態について説明した作用及び効果に加え、複合ケーブル2Cの巻き癖を抑制することが可能となる。
【0077】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について、図8を参照して説明する。図8は、本実施の形態に係る複合ケーブル2Dの断面図である。
【0078】
第4の実施の形態に係る複合ケーブル2Dは、第1の実施の形態に係る複合ケーブル2Aと同様、シース20と、一対の電源線21,22と、第1の信号線30と、第2の信号線40とを備え、第1の信号線30と第2の信号線40とが一対の電源線21,22によって離間されているが、一対の電源線21,22、第1の信号線30、及び第2の信号線40はシース20に保持され、介在物5は有していない。
【0079】
また、本実施の形態に係る複合ケーブル2Dにおいても、一対の電源線21,22、第1の信号線30、及び第2の信号線40によって囲まれた領域A41,A42が、外部からの圧力により圧縮可能な空間とされている。これにより、第1の実施の形態と同様に、複合ケーブル2Dの端末処理が容易化されている。
【0080】
本実施の形態によっても、第1の実施の形態について説明した作用及び効果と同様の作用及び効果が得られる。また、シース20内に介在物5を配置しないので、製造工程が簡素化される。
【0081】
なお、複合ケーブル2Dのシース20に上記の人造ポリペプチド繊維を含有させてもよい。人造ポリペプチド繊維を含有したシース20を用いることにより、シース20自体の高強度化によってその外径を小さくすることができ、複合ケーブル2Dの小径化及び軽量化を図ることが可能となる。
【0082】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態について、図9を参照して説明する。図9は、本実施の形態に係る複合ケーブル2Eの断面図である。
【0083】
第5の実施の形態に係る複合ケーブル2Eは、第4の実施の形態に係る複合ケーブル2Dに対し、シース20と、一対の電源線21,22ならびに第1及び第2の信号線30,40との間に、摩擦抵抗を低減して潤滑性を高めるための潤滑材6を配置した構成が異なる。すなわち、本実施の形態に係る複合ケーブル2Eは、一対の電源線21,22ならびに第1及び第2の信号線30,40が、潤滑材6を介してシース20に保持されている。
【0084】
この潤滑材6は、粒径が例えば5~50μmであり、その材質としては、タルク(Mg3Si4O10(OH)2)やシリカ(SiO2)等を好適に用いることができる。ここで、粒径とは、JIS8801で規定されるふるい分け法、顕微鏡法、レーザ回析散乱法、電気検知法、クロマトグラフィー法等により求められる粒子の大きさをいう。また、潤滑材6として、紙テープや潤滑油を用いてもよい。
【0085】
本実施の形態に係る複合ケーブル2Eによれば、第4の実施の形態に係る複合ケーブル2Dに比較して、潤滑材6によってシース20の内部における一対の電源線21,22ならびに第1及び第2の信号線30,40の動きを円滑にすることができ、屈曲性が高められる。
【0086】
[第6の実施の形態]
次に、本発明の第6の実施の形態について、図10を参照して説明する。図10(a)は、本実施の形態に係る複合ケーブル2Fの断面図であり、図10(b)は、複合ケーブル2Fの編組シールド7の構成例を示す説明図である。
【0087】
第6の実施の形態に係る複合ケーブル2Fは、第1の実施の形態に係る複合ケーブル2Aに編組シールド7を付加したものである。すなわち、本実施の形態に係る複合ケーブル2Fは、シース20と、一対の電源線21,22と、第1の信号線30と、第2の信号線40と、介在物5とを備え、さらにシース20の内部に、一対の電源線21,22と、第1及び第2の信号線30,40とを一括して被覆する編組シールド7を備えている。
【0088】
編組シールド7は、銅等の良導電性の複数の素線70が人造ポリペプチド繊維71と共に格子状に編み合わされている。より詳しくは、編組シールド7は、銅等の良導電性の複数の素線70と人造ポリペプチド繊維71(人工クモ糸繊維)とを「所定の割合」で格子状に編み込んだ人工クモ糸繊維混入編組シールドである。ここで、「所定の割合」とは、本来のシールド機能を失わない程度の割合のことである。人造ポリペプチド繊維71としては、第1の実施の形態において説明したものと同様のものを用いることができる。
【0089】
また、考えられる変形例としては、編組シールド7を、銅等の良導電性の複数の素線70を格子状に編み込んだ編組シールド層と、人造ポリペプチド繊維71(人工クモ糸繊維)を格子状に編み込んだ人工クモ糸編組層とを積層した積層編組シールドとすることである。
【0090】
この様に、人造ポリペプチド繊維71(人工クモ糸繊維)を利用することで、編組シールドの軽量化を図ることができる。
なお、前述した人工クモ糸編組(人工クモ糸編組層)は、ケーブル分野だけでなく、ブレーキホース等のホース分野にも適用可能であり、その応用範囲は広い。
【0091】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態について説明した作用及び効果に加え、編組シールド7の外部からの電磁波が第1及び第2の信号線30,40による電気信号の伝送に悪影響を及ぼすことを抑制できる。また、一対の電源線21,22を流れる電流による電磁波が、他のケーブルを介した通信に悪影響を及ぼしてしまうことを抑制できる。またさらに、編組シールド7は、銅等の良導電性の複数の素線70が人造ポリペプチド繊維71と共に格子状に編み合わされているので、編組シールド7の強度が高まり、複合ケーブル2Fが繰り返し屈曲されても、銅等の金属からなる素線70の断裂を抑制することができる。これにより、細径の素線70を用いることができ、複合ケーブル2Fの屈曲性を高めることが可能となる。
【0092】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0093】
[1]車両(1)の車体(10)と車輪(11,12)の間に配線される車両用複合ケーブル(2A~2F)であって、前記車両(1)の停止後に制動力を発生させる電動パーキングブレーキ装置(130)に電流を供給し、中心導体(210,220)を絶縁体(211,221)で被覆してなる2本の電源線(21,22)と、前記車両(1)の走行時に通電され、中心導体(310,320)を絶縁体(311,321)で被覆してなる一対の第1の絶縁電線(31,32)を撚り合わせてなる第1のツイストペア線(30)と、前記車両(1)の走行時に通電され、中心導体(410,420)を絶縁体(411,421)で被覆してなる一対の第2の絶縁電線(41,42)を撚り合わせてなる第2のツイストペア線(40)と、前記2本の電源線(21,22)と前記第1及び第2のツイストペア線(30,40)とを一括して被覆するシース(20)と、を備え、前記2本の電源線(21,22)は、それぞれ前記第1(31,32)及び第2の絶縁電線(41,42)よりも大きな外径であり、前記2本の電源線(21,22)の間隔が前記第1の絶縁電線(31,32)の太さ及び前記第2の絶縁電線(41,32)の太さよりも狭く、前記2本の電源線(21,22)及び前記第1及び第2のツイストペア線(30,40)は、それぞれシールド導体により被覆されておらず、前記第1及び第2のツイストペア線(30,40)は、前記2本の電源線(21,22)によって隔てられ、前記2本の電源線(21,22)を挟んで離間して配置されている、車両用複合ケーブル(2A~2F)。
【0094】
[2]前記一対の第1の絶縁電線(31,32)の撚り合わせ方向と前記一対の第2の絶縁電線(41,42)の撚り合わせ方向とは同じ方向であり、前記一対の第1の絶縁電線(31,32)及び前記一対の第2の絶縁電線(41,42)は、その撚りピッチが互いに異なる、[1]に記載の車両用複合ケーブル(2A~2F)。
【0095】
[3]前記第1の絶縁電線(31,32)の外径の前記第2の絶縁電線(41,42)の外径に対する比は、0.8以上1.2以下である、前記[1]又は[2]に記載の車両用複合ケーブル(2A~2F)。
【0096】
[4]前記第1及び第2のツイストペア線(30,40)はそれぞれ、前記車両(1)の走行時に前記車両(1)の走行状態を示す車両状態量の検出信号を伝送する信号線である、前記[1]乃至[3]の何れか1つに記載の車両用複合ケーブル(2A~2F)。
【0097】
[5]前記[1]1乃至[4]の何れか1つに記載の車両用複合ケーブル(2A~2F)と、前記シース(20)から露出した前記2本の電源線(21,22)、前記第1のツイストペア線(30)、及び前記第2のツイストペア線(40)の端部のうち、少なくとも何れかの端部に取り付けられたコネクタと、を有する、車両用複合ハーネス(2A~2F)。
【0098】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0099】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能となる。例えば、上記実施の形態では、第2の信号線40が空気圧センサ132の検出信号を伝送する場合について説明したが、これに限らない。つまり、第2の信号線40は、車輪の回転速度とは異なる車両1の走行状態を示す車両状態量の検出信号を伝送すればよい。この車両状態量は、例えば後輪12が電動モータ(インホイールモータ)で駆動される場合に、この電動モータに供給される電流であってもよく、後輪12が所定の角度で操舵される場合には、その操舵角であってもよい。
【0100】
また、前輪11にも電動パーキングブレーキ装置130が設けられる場合には、複合ケーブル2A~2Fの何れかにコネクタ等を取り付けてなるワイヤハーネスを、前輪11側に用いてもよい。
【符号の説明】
【0101】
1…車両
2…ワイヤハーネス
2A~2F…複合ケーブル
5…介在物
6…潤滑材
7…編組シールド
10…車体
20…シース
21,22…電源線
30…第1の信号線
40…第2の信号線
31,32,41,42…絶縁電線
70…素線
71…人造ポリペプチド繊維
130…電動パーキングブレーキ装置
130c…ブレーキパッド
131…車輪速センサ
132…空気圧センサ
132a…検出素子
132b…アンテナ素子
図1
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