IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三星エスディアイ株式会社の特許一覧

特許7105544正極活物質層、およびリチウムイオン二次電池
<>
  • 特許-正極活物質層、およびリチウムイオン二次電池 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】正極活物質層、およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20220715BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220715BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220715BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220715BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220715BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M4/505
H01M10/052
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017105670
(22)【出願日】2017-05-29
(65)【公開番号】P2018200838
(43)【公開日】2018-12-20
【審査請求日】2020-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】深谷 倫行
(72)【発明者】
【氏名】干場 弘治
(72)【発明者】
【氏名】武井 悠記
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/068142(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/176092(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/046723(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/157715(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/00-10/0587
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム複合酸化物を含有する正極活物質と、
下記化学式1で表される第1の共重合体と、下記化学式2または3で表される第2の共重合体とを25:75~75:25の質量比で含有するバインダ樹脂と、
を含む、正極活物質層:
【化1】
(上記化学式2および3において、Rは、水素、またはメチル基であり、Rは、水素であり、Rは、水素、または炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基である。)
であって、
前記リチウム複合酸化物は、下記化学式4:
LiCo ・・化学式4
(上記化学式4において、Mは、アルミニウム、ニッケル、マンガン、クロム、鉄、バナジウム、マグネシウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タングステン、銅、亜鉛、ガリウム、インジウム、スズ、ランタン、およびセリウムからなる群から選択される1種または2種以上の金属元素であり、
0.20≦a≦1.20、0.95≦x<1.00、0<y≦0.05であり、x+y=1である)
で表される化合物であり、
前記第1の共重合体は、フッ化ビニリデンをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に60~80モル%含み、
前記第1の共重合体は、テトラフルオロエチレンをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に20~40モル%含み、
前記第2の共重合体は、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に90モル%超~97.5モル%含み、
前記化学式2で表される第2の共重合体は、アクリル酸またはアクリル酸エステルをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に2.5モル%以上10モル%未満含み、かつ、
前記化学式3で表される第2の共重合体は、アクリルアミドをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に2.5モル%以上10モル%未満含む、正極活物質層。
【請求項2】
前記第1の共重合体、および前記第2の共重合体の重量平均分子量は、それぞれ300,000以上である、請求項1に記載の正極活物質層。
【請求項3】
請求項1または2に記載の正極活物質層を含む正極と、
負極と、
非水電解質と、
を備える、リチウムイオン二次電池。
【請求項4】
充電終止電圧がグラファイト基準で4.45V超である、請求項3に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質層、およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器の小型化および軽量化に伴い、これらの電子機器の電源としてリチウムイオン二次電池が使用されている。このようなリチウムイオン二次電池では、さらなる高エネルギー密度化が求められている。リチウムイオン二次電池の高エネルギー密度化のためには、例えば、リチウムイオン二次電池の充電電圧を高めることが検討されている。
【0003】
一方で、高電位下のリチウムイオン二次電池では、正極活物質の酸化力が強くなる。そのため、正極活物質の表面において、電解液の分解、および正極活物質の構造破壊を引き起こす副反応が加速度的に進行してしまう。その結果、リチウムイオン二次電池のサイクル特性、および保存特性が著しく低下してしまう。
【0004】
そこで、リチウムイオン二次電池の特性を向上させるために、正極活物質層に含まれるバインダ樹脂に対して、種々の提案が行われている。
【0005】
例えば、下記の特許文献1では、正極活物質層に含まれるバインダ樹脂にフッ化ビニリデンおよびテトラフルオロエチレンの共重合体を用いている。これにより、特許文献1では、正極活物質層を高密度化しつつ、正極活物質層の柔軟性を確保している。
【0006】
また、下記の特許文献2および3では、カルボキシル基、スルホン酸基またはリン酸基などの極性官能基を有する高分子をバインダ樹脂に用いている。これにより、下記の特許文献2および3では、高電圧下におけるリチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5949915号
【文献】特開2014-235996号公報
【文献】特開2014-1307775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記の特許文献1~3に開示された技術では、特に酸化力が強い正極活物質で生じる正極活物質の構造破壊については十分検討されていない。したがって、特許文献1~3に開示された技術では、リチウムイオン二次電池のサイクル特性、および高温保存後の容量特性を十分に向上させることは困難であった。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題等に鑑みてなされた。本発明の目的とするところは、サイクル特性、および高温保存後の容量特性を向上させることが可能な正極活物質層、およびリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、リチウム複合酸化物を含有する正極活物質と、下記化学式1を少なくとも含む第1の共重合体と、下記化学式2または3を少なくとも含む第2の共重合体とを25:75~75:25の質量比で含有するバインダ樹脂と、を含む、正極活物質層が提供される。
【化1】
上記化学式2および3において、RおよびRは、互いに独立して、水素、またはメチル基であり、Rは、水素、または炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基である。
【0011】
この構成によれば、リチウムイオン二次電池は、サイクル特性、および高温保存後の容量特性を向上させることが可能である。
【0012】
前記第1の共重合体は、フッ化ビニリデンをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に50モル%以上含んでもよい。
【0013】
この構成によれば、第1の共重合体の有機溶媒への溶解性を向上させることで、正極スラリー作製を容易にすることが可能である。
【0014】
前記第1の共重合体は、テトラフルオロエチレンをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に10モル%以上40モル%以下含んでもよい。
【0015】
この構成によれば、第1の共重合体において、酸化に対する耐性と、有機溶媒への溶解性と、正極活物質の分散性とを両立させることが可能である。
【0016】
前記第2の共重合体は、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に90モル%以上含んでもよい。
【0017】
この構成によれば、第2の共重合体は、酸化に対する耐性を向上させることにより、正極活物質の表面での副反応を抑制することが可能である。
【0018】
前記化学式2を少なくとも含む第2の共重合体は、アクリル酸またはアクリル酸エステルをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に0.1モル%以上10モル%未満含んでもよい。
【0019】
この構成によれば、化学式2を少なくとも含む第2の共重合体は、酸化に対する耐性と、正極スラリー作製の容易性とを両立させることが可能である。
【0020】
前記化学式3を少なくとも含む第2の共重合体は、アクリルアミドをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に0.1モル%以上10モル%未満で含んでもよい。
【0021】
この構成によれば、化学式3を少なくとも含む第2の共重合体は、酸化に対する耐性と、正極スラリー作製の容易性とを両立させることが可能である。
【0022】
前記第1の共重合体、および前記第2の共重合体の重量平均分子量は、それぞれ300,000以上であってもよい。
【0023】
この構成によれば、リチウムイオン二次電池において、正極活物質からの遷移金属の溶出をさらに抑制することが可能である。
【0024】
前記リチウム複合酸化物は、下記化学式4で表される化合物であってもよい。
LiCo ・・化学式4
上記化学式4において、Mは、アルミニウム、ニッケル、マンガン、クロム、鉄、バナジウム、マグネシウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タングステン、銅、亜鉛、ガリウム、インジウム、スズ、ランタン、およびセリウムからなる群から選択される1種または2種以上の金属元素であり、
0.20≦a≦1.20、0.95≦x<1.00、0<y≦0.05であり、x+y=1である。
【0025】
この構成によれば、リチウムイオン二次電池は、さらに高エネルギー密度化することが可能である。
【0026】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、請求項1~8のいずれかに記載の正極活物質層を含む正極と、負極と、非水電解質と、を備える、リチウムイオン二次電池が提供される。
【0027】
この構成によれば、サイクル特性、および高温保存後の容量特性が向上したリチウムイオン二次電池を得ることが可能である。
【0028】
リチウムイオン二次電池の充電終止電圧は、グラファイト基準で4.45V超であってもよい。
【0029】
この構成によれば、リチウムイオン二次電池をさらに高密度エネルギー化することで、電池容量を拡大することが可能である。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように本発明によれば、リチウムイオン二次電池のサイクル特性、および高温保存後の容量特性を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0033】
<1.リチウムイオン二次電池の概要>
まず、本発明の一実施形態に係る正極活物質層、および該正極活物質層を備えるリチウムイオン(lithium ion)二次電池の概要について説明する。
【0034】
近年、リチウムイオン二次電池をより高エネルギー(energy)密度化することが検討されている。そこで、リチウムイオン二次電池の充電終止電圧をグラファイト(graphite)基準で4.45V超に高めることが検討されている。
【0035】
しかしながら、本発明者らは、上述したような高い充電終止電圧の環境下では、正極活物質の酸化力が強くなることを見出した。本発明者らは、強くなった酸化力により、電解液の分解反応および正極活物質の構造破壊が進行し、正極活物質中の遷移金属が電解液中に溶出してしまうことを見出した。このような場合、リチウムイオン二次電池は、サイクル(cycle)特性、および高温保存時の容量特性が急激に低下してしまう。
【0036】
本発明者らは、上記問題等を鋭意検討した結果、正極に含まれるバインダ(binder)樹脂として、特定の2種の共重合体を用いることを見出した。本発明者らは、特定の2種の共重合体を用いることで、正極活物質の構造破壊を引き起こす副反応を抑制し、正極活物質からの遷移金属の溶出を抑制できることを見出した。したがって、本発明者らは、高い充電終止電圧の環境下でも、正極活物質の表面での副反応を抑制できることを見出した。これによれば、リチウムイオン二次電池は、サイクル特性、および高温保存時の容量特性を向上させることが可能である。
【0037】
すなわち、本実施形態に係る正極活物質層は、リチウム複合酸化物を含有する正極活物質粒子と、バインダ樹脂とを含む。バインダ樹脂は、下記化学式1を少なくとも含む第1の共重合体と、下記化学式2または3を少なくとも含む第2の共重合体とを25:75~75:25の質量比で含有する。
【0038】
【化2】
【0039】
なお、上記化学式2および3において、RおよびRは、互いに独立して、水素、またはメチル(methyl)基である。Rは、水素、または炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル(alkyl)基である。
【0040】
また、本実施形態に係る正極活物質層は、コバルト(Co)を含むリチウム複合酸化物を正極活物質に用いた場合により効果的である。具体的には、本実施形態に係る正極活物質層は、リチウム複合酸化物からの遷移金属(すなわち、コバルト)の溶出を抑制することが可能である。
【0041】
コバルト(Co)を含むリチウム複合酸化物は、具体的には、下記化学式4で表される化合物であってもよい。
LiCo ・・・化学式4
上記化学式4において、Mは、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ランタン(La)、およびセリウム(Ce)からなる群から選択される1種または2種以上の金属元素であり、0.20≦a≦1.20、0.95≦x<1.00、0<y≦0.05であり、x+y=1である。
【0042】
さらに、本実施形態に係る正極活物質層を備えるリチウムイオン二次電池は、充電終止電圧がグラファイト基準で4.45V超である場合により効果的である。具体的には、本実施形態に係る正極活物質層を備えるリチウムイオン二次電池は、正極活物質からの遷移金属の溶出を抑制することが可能である。これによれば、本実施形態に係る正極活物質層を備えるリチウムイオン二次電池は、サイクル特性、および高温保存時の容量特性を向上させることが可能である。
【0043】
<2.リチウムイオン二次電池の構成>
以下では、図1を参照して、上記で概略を説明した本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10の構成について、より詳細に説明する。
【0044】
図1に示すように、リチウムイオン二次電池10は、正極20と、負極30と、電解液が含浸したセパレータ(separator)層40とを備える。リチウムイオン二次電池10の形態は、特に限定されない。リチウムイオン二次電池10の形態は、例えば、円筒型、角型、ラミネート(laminate)型、またはボタン(button)型等のいずれであってもよい。
【0045】
正極20は、集電体21と、正極活物質層22とを含む。集電体21は、導電体であればどのようなものでも良い。集電体21は、例えば、アルミニウム(aluminium)、ステンレス鋼(stainless steel)、またはニッケルメッキ鋼(nickel‐plated steel)等であってもよい。
【0046】
正極活物質層22は、正極活物質およびバインダ樹脂を少なくとも含み、さらに導電助剤を含んでもよい。なお、正極活物質、導電助剤、およびバインダ樹脂の含有量の比率は、特に制限されない。これらの構成の含有量の比率は、一般的なリチウムイオン二次電池において適用される含有量の比率を使用することが可能である。
【0047】
正極活物質は、リチウム複合酸化物を含有する。正極活物質が含有するリチウム複合酸化物は、コバルトを含むリチウム複合酸化物であってもよく、具体的には、下記化学式4で表される化合物であってもよい。
LiCo ・・・化学式4
上記化学式4において、Mは、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ランタン(La)、およびセリウム(Ce)からなる群から選択される1種または2種以上の金属元素であり、0.20≦a≦1.20、0.95≦x<1.00、0<y≦0.05であり、x+y=1である。なお、好ましくは、Mは、Al、Mg、Ti、およびZrからなる群から選択される1種または2種以上の金属元素であってもよい。
【0048】
正極活物質が上記化学式4で表されるリチウム複合酸化物を含む場合、リチウムイオン二次電池は、グラファイト基準で4.45V超の充電終止電圧で使用されてもよい。これにより、リチウムイオン二次電池は、より高エネルギー密度化することができるため、電池容量を増加させることができる。
【0049】
ただし、正極活物質が上記化学式4で表されるリチウム複合酸化物を含む場合、高電位下での駆動によってリチウム複合酸化物の構造が破壊される可能性がある。このような場合、リチウム複合酸化物からコバルトが溶出する可能性がある。本実施形態に係る正極活物質層22では、特定の2種の共重合体を含有するバインダ樹脂を用いる。これにより、リチウム複合酸化物からのコバルトの溶出を抑制することが可能である。これによれば、本実施形態に係る正極活物質層22は、リチウムイオン二次電池10のサイクル特性、および高温保存時の容量特性を向上させることが可能である。
【0050】
なお、正極活物質は、上記化学式4で表されるリチウム複合酸化物以外に、1種または2種以上の他の正極活物質を含有してもよいことは言うまでもない。
【0051】
他の正極活物質としては、具体的には、リチウムを含む遷移金属酸化物または固溶体酸化物などを例示することができる。例えば、リチウムを含む遷移金属酸化物としては、LiNiCoMn等のLi/Ni/Co/Mn系複合酸化物、LiNiO等のLi/Ni系複合酸化物、またはLiMn等のLi/Mn系複合酸化物等を例示することができる。また、リチウムを含む固溶体酸化物としては、LiMnCoNi(1.150≦a≦1.430、0.45≦x≦0.6、0.10≦y≦0.15、0.20≦z≦0.28)、LiMnCoNi(0.3≦x≦0.85、0.10≦y≦0.3、0.10≦z≦0.3)、LiMn1.5Ni0.5等を例示することができる。
【0052】
バインダ樹脂は、下記化学式1を少なくとも含む第1の共重合体と、下記化学式2または3を少なくとも含む第2の共重合体とを含有する。
【0053】
【化3】
【0054】
なお、上記化学式2および3において、RおよびRは、互いに独立して、水素、またはメチル基である。Rは、水素、または炭素数1~6の直鎖もしくは分枝アルキル基である。
【0055】
本実施形態において、バインダ樹脂は、主鎖中のフッ素含有量が高く、酸化に対する耐性が高い化学式1を少なくとも含むフッ素系共重合体を第1の共重合体として含有する。これにより、バインダ樹脂は、高電位下の正極活物質の表面で生じる電解液の分解反応を抑制することができる。
【0056】
ただし、バインダ樹脂が化学式1を少なくとも含むフッ素系共重合体のみを含有する場合、スラリー(slurry)形成時の正極活物質の分散性が低くなる。加えて、正極活物質同士の結着性が低下する。これにより、リチウムイオン二次電池10のサイクル特性が低下してしまう。
【0057】
そこで、バインダ樹脂は、化学式2または3を少なくとも含むアクリロニトリル(acrylonitrile)系共重合体を第2の共重合体としてさらに含有する。アクリロニトリル系共重合体は、正極活物質の分散性および結着性が高い。これにより、本実施形態に係る正極活物質層22は、化学式1を少なくとも含むフッ素系共重合体のみをバインダ樹脂が含有する場合に生じる懸念点を改善することができる。したがって、リチウムイオン二次電池10は、高電位下でのサイクル特性、および高温保存時の容量特性を向上させることができる。
【0058】
また、バインダ樹脂は、フッ素系共重合体である第1の共重合体と、アクリロニトリル系共重合体である第2の共重合体とを含有する。これにより、バインダ樹脂は、正極活物質からの遷移金属(具体的には、コバルト)の溶出を抑制することができる。なお、正極活物質からの遷移金属の溶出を抑制する機構については明らかでない。ただし、フッ素系共重合体である第1の共重合体と、アクリロニトリル系共重合体である第2の共重合体とが正極活物質の構造破壊を効果的に抑制するためであると考えられる。
【0059】
化学式1を少なくとも含む第1の共重合体と、化学式2または3を少なくとも含む第2の共重合体との含有割合は、質量比で、25:75~75:25である。化学式2または3を少なくとも含む第2の共重合体との含有割合は、質量比で、好ましくは、質量比で、35:65~65:35である。化学式1を少なくとも含む第1の共重合体の含有割合が上記範囲を下回った場合、バインダ樹脂の酸化に対する耐性が低くなる。これにより、正極活物質の表面での電解液の分解等の副反応を抑制することが困難になるため好ましくない。また、化学式2または3を少なくとも含む第2の共重合体の含有割合が上記範囲を下回った場合、スラリー作製時の正極活物質の分散性、および正極活物質の結着性が低下する。これにより、リチウムイオン二次電池10のサイクル特性が低下するため好ましくない。
【0060】
ここで、第1の共重合体は、フッ化ビニリデンをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に50モル%以上含むことが好ましい。第1の共重合体は、フッ化ビニリデンをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に60モル%以上含むことがより好ましい。なお、フッ化ビニリデン(vinylidene fluoride)をモノマー(monomer)とする単位構造は、化学式1において左側の単位構造である。フッ化ビニリデンをモノマーとする単位構造の含有量が50モル%未満である場合、第1の共重合体は、有機溶媒への溶解性が著しく低下する。これにより、スラリー作製が困難になるため好ましくない。フッ化ビニリデンをモノマーとする単位構造の含有量の上限は、特に限定されないが、例えば、80モル%であってもよい。なお、有機溶媒は、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone:NMP)などである。
【0061】
また、第1の共重合体は、テトラフルオロエチレンをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に10モル%以上40モル%以下含むことが好ましい。第1の共重合体は、テトラフルオロエチレンをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に15モル%以上35モル%以下含むことがより好ましい。なお、テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)をモノマーとする単位構造は、化学式1において右側の単位構造である。テトラフルオロエチレンをモノマーとする単位構造の含有量が10モル%未満である場合、第1の共重合体は、酸化に対する耐性が低くなる。これにより、正極活物質の表面での副反応を抑制することが困難になるため好ましくない。一方、テトラフルオロエチレンをモノマーとする単位構造の含有量が40モル%超である場合、有機溶媒への溶解性が著しく低下する。また、スラリー作製時の正極活物質の分散性が低下する。なお、有機溶媒は、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone:NMP)などである。
【0062】
化学式2を含む第2の共重合体は、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に90モル%以上含むことが好ましい。第2の共重合体は、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に95モル%以上含むことがより好ましい。なお、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリル(methacrylonitrile)をモノマーとする単位構造は、化学式2または3において左側の単位構造である。アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルをモノマーとする単位構造の含有量が90モル%未満である場合、第2の共重合体は、酸化に対する耐性が低くなる。これにより、正極活物質の表面での副反応を抑制することが困難になるため好ましくない。アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルをモノマーとする単位構造の含有量の上限は、特に限定されない。ただし、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルをモノマーとする単位構造の含有量の上限は、例えば、97.5モル%であってもよい。
【0063】
また、化学式2を含む第2の共重合体は、アクリル酸またはアクリル酸エステルをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に0.1モル%以上10モル%未満含むことが好ましい。第2の共重合体は、アクリル酸またはアクリル酸エステルをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に1.0モル%以上5.0モル%以下含むことがより好ましい。なお、アクリル酸(acrylic acid)またはアクリル酸エステル(acrylic ester)をモノマーとする単位構造は、化学式2において右側の単位構造である。アクリル酸またはアクリル酸エステルをモノマーとする単位構造の含有量が0.1%未満である場合、第2の共重合体は、有機溶媒(例えば、NMPなど)への溶解性が低下する。これにより、スラリー作製が困難になり、かつ正極活物質同士の結着性が低下するため好ましくない。一方、アクリル酸またはアクリル酸エステルをモノマーとする単位構造の含有量が10モル%以上である場合、第2の共重合体は、酸化に対する耐性が低くなる。これにより、正極活物質の表面での副反応を抑制することが困難になるため好ましくない。
【0064】
一方、化学式3を含む第2の共重合体は、アクリルアミドをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に0.1モル%以上10モル%未満含むことが好ましい。化学式3を含む第2の共重合体は、アクリルアミドをモノマーとする単位構造をポリマー主鎖中に1.0モル%以上5.0モル%以下含むことがより好ましい。なお、アクリルアミド(acrylamide)をモノマーとする単位構造は、化学式3において右側の単位構造である。アクリルアミドをモノマーとする単位構造の含有量が0.1%未満である場合、第2の共重合体は、有機溶媒(例えば、NMPなど)への溶解性が低下する。これにより、スラリー作製が困難になるため好ましくない。一方、アクリルアミドをモノマーとする単位構造の含有量が10モル%以上である場合、第2の共重合体は、酸化に対する耐性が低くなる。これにより、正極活物質の表面での副反応を抑制することが困難になるため好ましくない。
【0065】
さらに、第1の共重合体、および第2の共重合体の重量平均分子量は、それぞれ300,000以上であることが好ましい。第1の共重合体、および第2の共重合体の重量平均分子量は、それぞれ400,000以上であることがより好ましい。第1の共重合体、および第2の共重合体の重量平均分子量が300,000未満である場合、正極活物質同士の結着性、および正極活物質層22の集電体への密着性が低下する。これにより、リチウムイオン二次電池10のサイクル特性が低下するため好ましくない。第1の共重合体、および第2の共重合体の重量平均分子量の上限は、特に限定されない。ただし、第1の共重合体、および第2の共重合体の重量平均分子量の上限は、例えば、2,000,000であってもよい。なお、第1の共重合体、および第2の共重合体の重量平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィ(Gel Permeation Chromatography:GPC)によって計測することが可能である。
【0066】
本実施形態では、化学式1を少なくとも含む第1の共重合体と、化学式2または3を少なくとも含む第2の共重合体とを25:75~75:25の質量比でバインダ樹脂に用いる。これにより、バインダ樹脂は、正極活物質の表面での副反応を抑制することが可能である。これによれば、リチウムイオン二次電池10は、高電位下での正極活物質からの金属の溶出を抑制し、サイクル特性および高温保存時の容量特性を向上させることができる。
【0067】
導電助剤は、例えば、ケッチェンブラック(ketjen black)およびアセチレンブラック(acetylene black)等のカーボンブラック(carbon black)と、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンナノチューブ(carbon nanotubes)、グラフェン(graphene)およびカーボンナノファイバ(carbon nanofibers)等の繊維状炭素と、またはこれら繊維状炭素とカーボンブラック(carbon black)との複合体等と、を用いることができる。ただし、導電助剤は、正極の導電性を高めることができれば、上記の物質に限定されず用いることが可能である。
【0068】
正極活物質層22は、例えば、正極スラリー(slurry)を作製し、該正極スラリーを集電体21上に塗工した後、乾燥および圧延することで作製することができる。正極スラリー(slurry)は、上記の正極活物質、導電助剤、およびバインダ樹脂を適当な有機溶媒に分散させることで作製することができる。適当な有機溶媒は、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone)などである。なお、圧延後の正極活物質層22の密度は、特に制限されず、一般的なリチウムイオン二次電池の正極活物質層に適用可能な密度であればよい。
【0069】
負極30は、集電体31と、負極活物質層32とを含む。集電体31は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、ステンレス鋼、またはニッケルメッキ鋼等であってもよい。
【0070】
負極活物質層32は、少なくとも負極活物質を含み、導電助剤およびバインダ樹脂をさらに含んでもよい。なお、負極活物質、導電助剤、およびバインダの含有量の比率は、特に制限されない。負極活物質、導電助剤、およびバインダの含有量の比率は、一般的なリチウムイオン二次電池において適用される含有量の比率を使用することが可能である。
【0071】
負極活物質は、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物もしくは人造黒鉛で被覆した天然黒鉛などの黒鉛活物質と、ケイ素(Si)もしくはスズ(Sn)の微粒子と、ケイ素(Si)もしくはスズ(Sn)の酸化物の微粒子と、ケイ素もしくはスズの合金と、またはLiTi12等の酸化チタン(TiO)系化合物となどを使用することができる。また、これらの混合物も使用可能である。さらに、負極活物質としては、これらの他に、例えば金属リチウム(lithium)等を使用することも可能である。
【0072】
導電助剤は、正極活物質層22で用いた導電助剤と同様のものが使用可能である。また、バインダ樹脂は、例えば、スチレンブタジエンゴム(Styrene-Butadiene Rubber:SBR)などを用いることができる。
【0073】
負極活物質層32は、例えば、負極スラリーを作製し、該負極スラリーを集電体31上に塗工した後、乾燥および圧延することで作製することができる。負極スラリーは、上記の負極活物質、導電助剤、およびバインダ樹脂を適当な溶媒(例えば、水など)に分散させることで作製することができる。なお、圧延後の負極活物質層32の密度は、特に制限されず、一般的なリチウムイオン二次電池の負極活物質層に適用可能な密度であればよい。
【0074】
セパレータ層40は、セパレータと、電解液とを含む。
【0075】
セパレータは、リチウムイオン二次電池のセパレータとして使用されるものであれば、特に制限されず、どのようなものも使用可能である。セパレータとしては、例えば、優れた高率放電性能を示す多孔膜または不織布等が単独使用または併用されることが好ましい。また、セパレータの少なくともいずれかの面は、コーティング(coating)されていてもよい。コーティングは、Al、SiO等の無機物、またはポリフッ化ビニリデンなどのポリマー(polymer)によって行うことができる。また、セパレータは、フィラー(filler)として、AlまたはSiO等の無機物を含んでいてもよい。
【0076】
セパレータを構成する材料としては、例えば、ポリエチレン(polyethylene)またはポリプロピレン(polypropylene)等に代表されるポリオレフィン(polyolefin)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate)またはポリブチレンテレフタレート(polybuthylene terephthalate)等に代表されるポリエステル(polyester)系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(vinylidene difluoride-hexafluoropropylene)共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル(vinylidene difluoride-perfluorovinylether)共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン(vinylidene difluoride-tetrafluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン(vinylidene difluoride-trifluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン(vinylidene difluoride-fluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン(vinylidene difluoride-hexafluoroacetone)共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン(vinylidene difluoride-ethylene)共重合体、フッ化ビニリデン-プロピレン(vinylidene difluoride-propylene)共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン(vinylidene difluoride-trifluoropropylene)共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン(vinylidene difluoride-tetrafluoroethylene-hexafluoropropylene)共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン(vinylidene difluoride-ethylene-tetrafluoroethylene)共重合体等を使用することができる。なお、セパレータの気孔率は、特に制限されず、一般的なリチウムイオン二次電池のセパレータが有する気孔率を適用することができる。
【0077】
電解液は、電解質塩と、非水電解質とを含む。
【0078】
電解質塩としては、例えば、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO、Li10Cl10、NaClO、NaI、NaSCN、NaBr、KClO、KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩を使用することができる。また、電解質塩として、例えば、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、(CHNBF、(CHNBr、(CNClO、(CNI、(CNBr、(n-CNClO、(n-CNI、(CN-maleate、(CN-benzoate、(CN-phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム(lithium stearyl sulfate)、オクチルスルホン酸リチウム(lithium octyl sulfate)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(lithium dodecylbenzene sulphonate)等の有機イオン塩も使用することができる。なお、これらの電解質塩は、単独、あるいは2種類以上混合して使用することも可能である。また、電解質塩の濃度は、一般的なリチウム二次電池に適用可能な濃度であればよく、特に制限はない。例えば、電解質塩の濃度は、0.5mol/L~2.0mol/Lであってもよい。
【0079】
非水電解質としては、例えば、プロピレンカーボネート(propylene carbonate)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate)、ブチレンカーボネート(buthylene carbonate)、クロロエチレンカーボネート(chloroethylene carbonate)またはビニレンカーボネート(vinylene carbonate)等の環状炭酸エステル(ester)類、γ-ブチロラクトン(butyrolactone)またはγ-バレロラクトン(valerolactone)等の環状エステル類、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate)またはエチルメチルカーボネート(ethylmethyl carbonate)等の鎖状カーボネート(carbonate)類、ギ酸メチル(methyl formate)、酢酸メチル(methyl acetate)または酪酸メチル(methyl butyrate)等の鎖状エステル類、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)またはその誘導体、1,3-ジオキサン(1,3-dioxane)、1,4-ジオキサン(1,4-dioxane)、1,2-ジメトキシエタン(1,2-dimethoxyethane)、1,4-ジブトキシエタン(1,4-dibutoxyethane)またはメチルジグライム(methyldiglyme)等のエーテル(ether)類、アセトニトリル(acetonitrile)またはベンゾニトリル(benzonitrile)等のニトリル(nitrile)類、ジオキソラン(dioxolane)またはその誘導体、エチレンスルフィド(ethylene sulfide)、スルホラン(sulfolane)、スルトン(sultone)またはこれらの誘導体等を、単独で、またはそれら2種以上を混合して使用することができる。ただし、非水電解質は、これらに限定されるものではない。
【0080】
さらに、電解液は、負極SEI(Solid Electrolyte Interface)形成剤、または界面活性剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0081】
各種添加剤としては、例えば、コハク酸無水物(succinic anhydride)、リチウムビスオキサラートボレート(lithium bis(oxalate)borate)、テトラフルオロホウ酸リチウム(lithium tetrafluoroborate)、プロパンスルトン(propane sultone)、ブタンスルトン(butane sultone)、プロペンスルトン(propene sultone)、3-スルフォレン(3-sulfolene)、フッ素化アリルエーテル(fluorinated arylether)、フッ素化アクリレート(fluorinated methacrylate)等を例示することができる。なお、これら各種添加剤の含有量は、一般的なリチウムイオン二次電池における添加剤の含有量を適用することが可能である。
【0082】
<3.リチウムイオン二次電池の製造方法>
続いて、リチウムイオン二次電池10の製造方法について説明する。ただし、リチウムイオン二次電池10の製造方法は、以下の方法に制限されず、公知の他の製造方法を用いることも可能である。
【0083】
正極20は、以下のように製造される。まず、正極活物質層22を構成する材料(例えば、正極活物質、導電助剤、およびバインダ樹脂)を所望の割合で混合する。続いて、混合物を有機溶媒(例えば、N-メチル-2-ピロリドン)に分散させることで、正極スラリーを作製する。次に、正極スラリーを集電体21上に塗工し、乾燥させることで、正極活物質層22を作製する。なお、塗工の方法は、特に限定されないが、例えば、ナイフコーター(knife coater)法、グラビアコーター(gravure coater)法等を用いることができる。
【0084】
さらに、ロールプレス機にて正極活物質層22を所望の密度または厚さとなるように圧縮する。これにより、正極20を製造することができる。ここで、正極活物質層22の密度または厚さは特に制限されず、一般的なリチウムイオン二次電池の正極活物質層が有する密度または厚さであればよい。
【0085】
負極30も、正極20と同様の方法で製造される。まず、負極活物質層32を構成する材料(例えば、負極活物質、導電助剤、およびバインダ樹脂)を所望の割合で混合する。続いて、混合物を溶媒(例えば、水)に分散させることで、負極スラリーを作製する。次に、負極スラリーを集電体31上に塗工し、乾燥させることで、負極活物質層32を作製する。なお、塗工の方法は、特に限定されないが、例えば、ナイフコーター(knife coater)法、グラビアコーター(gravure coater)法等を用いることができる。
【0086】
さらに、ロールプレス機にて負極活物質層32を所望の密度または厚さとなるように圧縮する。これにより、負極30を製造することができる。ここで、負極活物質層32の密度または厚さは特に制限されず、一般的なリチウムイオン二次電池の負極活物質層が有する密度または厚さであればよい。なお、負極活物質層32として金属リチウムを用いる場合、集電体31に金属リチウム箔を貼り合せることで、負極30を製造することができる。
【0087】
続いて、セパレータを正極20および負極30にて挟み込むことで、電極構造体を製造する。製造した電極構造体を所望の形態(例えば、円筒型、角型、ラミネート型、ボタン型等)に適した形状に加工した後、該形態の容器に挿入する。さらに、上述した電解質塩および非水電解質を含む電解液を該容器内に注入することで、セパレータ内に電解液を含浸させる。その後、電極構造体、および電解液を注入した容器を封止する。これにより、リチウムイオン二次電池10を製造することができる。
【実施例
【0088】
以下では、実施例および比較例を参照しながら、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池について具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも一例であって、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池が下記の例に限定されるものではない。
【0089】
<実施例1>
以下の方法にて、第1の共重合体、および第2の共重合体を用意し、実施例1に係るリチウムイオン二次電池を製造した。
【0090】
(第1の共重合体:フッ素系重合体Aの合成)
第1の共重合体として、フッ化ビニリデンと、テトラフルオロエチレンとのモル比が70モル%:30モル%である共重合体(フッ素系重合体Aとも称する)を合成した。具体的には、4Lの反応容器に純水1kgを入れて窒素置換を行った後、反応容器にオクタフルオロシクロブタン800gを入れて、系内を45℃に昇温した。次に、反応容器にフッ化ビニリデン118g、およびテトラフルオロエチレン40gを加えた。その後、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネートの50質量%メタノール溶液0.9gを反応容器に投入した。さらに、混合ガスを反応容器に連続して供給しつつ、系内圧力を一定に保った状態で、8時間撹拌を継続した。混合ガスは、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン=70モル%/30モル%を用いた。加熱を止めた後、反応容器を大気圧に達するまで放圧し、反応生成物を水洗、および乾燥させることで、化学式1を少なくとも含むフッ素系重合体Aを合成した。合成したフッ素系重合体Aの重量平均分子量をGPCによって計測したところ、900,000(ポリメタクリル酸メチル換算)であった。
【0091】
(第2の共重合体:アクリロニトリル系重合体Aの合成)
第2の共重合体として、アクリルニトリルと、アクリル酸とのモル比が97.5モル%:2.5モル%である共重合体(アクリロニトリル系重合体Aとも称する)を合成した。具体的には、アクリロニトリル9.65g、およびアクリル酸0.35g(アクリルニトリルと、アクリル酸とのモル比は、97.5:2.5)をイオン交換水90gに投入した。その後、窒素雰囲気下で60℃に昇温した後、混合物に過硫酸アンモニウム1.065gを加えることで、重合体を沈殿重合させた。これにより、化学式2を少なくとも含むアクリロニトリル系重合体Aを合成した。合成したアクリロニトリル系重合体Aの重量平均分子量をGPCによって計測したところ、500,000(ポリエチレンオキシド換算)であった。
【0092】
(正極の作製)
LiCoOと、カーボンブラックと、第1の共重合体および第2の共重合体を含むバインダ樹脂とをN-メチル-2-ピロリドンに溶解分散させ、正極スラリーを形成した。混合割合は、固形分質量比で、97.6:1.2:1.2とした。なお、バインダ樹脂における第1の共重合体と、第2の共重合体との混合割合は、質量比で50:50とした。
【0093】
続いて、乾燥後のスラリー塗布量が20.0mg/cmとなるように、アルミニウム箔からなる集電体の片面に正極スラリーを塗工し、乾燥させた。乾燥後、正極スラリーを塗工した集電体を正極活物質層の密度が4.1g/cmとなるようにロールプレス機で圧延することで、正極を作製した。
【0094】
(負極の作製)
人造黒鉛と、スチレンブタジエン共重合体微粒子の水分散体と、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩とを純水に溶解分散させることで、負極スラリーを形成した。混合割合は、固形分質量比で、97.5:1.5:1.0とした。
【0095】
続いて、乾燥後のスラリー塗布量が12.5mg/cmとなるように、銅箔からなる集電体の片面に負極スラリーを塗工し、乾燥させた。乾燥後、負極スラリーを塗工した集電体を負極活物質層の密度が1.6g/cmとなるようにロールプレス機で圧延することで、負極を作製した。
【0096】
(リチウムイオン二次電池セルの作製)
上記で作製した正極にアルミニウムリード線を溶接し、上記で作製した負極にニッケルリード線を溶接した。その後、ポリエチレン製多孔質セパレータを介して、正極および負極を互いに対向させて捲回し、圧縮することで扁平型の電極構造体を作製した。作製した電極構造体は、アルミニウムラミネートフィルムで形成された電池容器にリード線を外部に引き出した状態で収納した。さらに、1mol/LのLiPFをカーボネート溶媒に溶解させた電解液を電池容器に注液した。その後、電池容器を減圧封止することで、実施例1に係るリチウムイオン二次電池を作製した。
【0097】
<実施例2および3>
正極のバインダ樹脂における第1の共重合体(フッ素系重合体A)と、第2の共重合体(アクリロニトリル系重合体A)との混合割合を表1のように変更した。それ以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2および3に係るリチウムイオン二次電池を作製した。
【0098】
<実施例4~6>
第2の共重合体として、以下で合成方法を示すアクリロニトリル系重合体Bを用いた。また、正極のバインダ樹脂における第1の共重合体(フッ素系重合体A)と、第2の共重合体(アクリロニトリル系重合体B)との混合割合を表1のように変更した。それ以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4~6に係るリチウムイオン二次電池を作製した。
【0099】
(第2の共重合体:アクリロニトリル系重合体Bの合成)
第2の共重合体として、アクリルニトリルと、アクリルアミドとのモル比が95モル%:5モル%である共重合体(アクリロニトリル系重合体Bとも称する)を合成した。具体的には、アクリロニトリル9.34g、およびアクリルアミド0.66gをイオン交換水90gに投入した。窒素雰囲気下で60℃に昇温した後、混合物に過硫酸アンモニウム1.065gを加えることで、共重合体を沈殿重合させた。これにより、化学式3を少なくとも含むアクリロニトリル系重合体Bを合成した。合成したアクリロニトリル系重合体Bの重量平均分子量をGPCによって計測したところ、500,000(ポリエチレンオキシド換算)であった。
【0100】
<比較例1>
正極のバインダ樹脂として、第1の共重合体(フッ素系重合体A)のみを用いた。それ以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1に係るリチウムイオン二次電池を作製した。
【0101】
<比較例2>
正極のバインダ樹脂として、第2の共重合体(アクリルニトリル系重合体A)のみを用いた。それ以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2に係るリチウムイオン二次電池を作製した。
【0102】
<比較例3>
正極のバインダ樹脂として、フッ化ビリニデン単独重合体(クレハバッテリーマテリアルズ社製KF7200、フッ素系重合体Bとも称する)のみを用いた。それ以外は、実施例1と同様の方法で、比較例3に係るリチウムイオン二次電池を作製した。
【0103】
<比較例4>
正極のバインダ樹脂として、フッ素系重合体Bと、アクリロニトリル系重合体Aとを50:50の質量比で混合したものを用いた。それ以外は、実施例1と同様の方法で、比較例4に係るリチウムイオン二次電池を作製した。
【0104】
<比較例5>
正極のバインダ樹脂として、フッ素系重合体Aと、フッ素系重合体Bとを50:50の質量比で混合したものを用いた。それ以外は、実施例1と同様の方法で、比較例5に係るリチウムイオン二次電池を作製した。
【0105】
<比較例6~9>
正極のバインダ樹脂における第1の共重合体(フッ素系重合体A)と、第2の共重合体(アクリロニトリル系重合体A)との混合割合を表1のように変更した。それ以外は、実施例1と同様の方法で、比較例6~9に係るリチウムイオン二次電池を作製した。
【0106】
<リチウムイオン二次電池の評価>
まず、45℃の恒温槽内で、実施例1~6、および比較例1~9に係るリチウムイオン二次電池を設計容量の1/5CAで4.5Vになるまで定電流充電を行った。続いて、4.5Vで1/20CAになるまで定電圧充電を行った。その後、1/5CAで3.0Vになるまで定電流放電を行った。この工程によって、リチウムイオン二次電池の初期充電を行った。なお、このときの初期放電の放電容量を初期放電容量とした。なお、CAは、1時間放電率を表す。
【0107】
(サイクル特性の評価方法)
初期充放電後の各リチウムイオン二次電池に対して、45℃の温度下で、充電終止電圧4.5Vおよび放電終止電圧3.0Vにて、1CAで定電流充電した。その後、1/20CAで定電圧充電し、さらに1CAで定電流放電するサイクルを50サイクル繰り返した。50サイクル後、各リチウムイオン二次電池を1/5CAで定電流充電し、さらに1/20CAで定電圧充電した後、1/5CAで定電流放電することで、放電容量を計測した。計測した50サイクル後の放電容量を初期放電容量で除算することで、容量維持率を算出した。
【0108】
(コバルト溶出量の評価方法)
上記のサイクル特性評価後(すなわち、50サイクル後)の各リチウムイオン二次電池を解体した。負極に析出したコバルトを溶解した溶液を誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)によって分析することで、負極に析出したコバルト量を測定した。
【0109】
(高温保存後の容量特性の評価方法)
初期充電後の各リチウムイオン二次電池に対して、25℃の温度下で、充電終止電圧4.5Vおよび放電終止電圧3.0Vにて、1/2CAで定電流充電した。その後、1/20CAで定電圧充電し、さらに1/2CAで定電流放電するサイクルを2サイクル繰り返した。その後、25℃の温度下で、各リチウムイオン二次電池を充電終止電圧4.5Vまで1/2CAで定電流充電した。続いて、1/20CAで定電圧充電した後、60℃の恒温槽内で1週間、高温保存した。このときの充電容量を高温保存前の充電容量とした。
【0110】
高温保存後、25℃の温度下で、各リチウムイオン二次電池を1/2CAで3.0Vになるまで定電流放電した。その後、充電終止電圧4.5Vまで1/2CAで定電流充電し、続いて、1/20CAで定電圧充電することで、高温保存後の充電容量を測定した。測定された高温保存後の充電容量を、高温保存前の充電容量で除算することで、高温保存後の容量回復率を算出した。
【0111】
(密着性の評価方法)
ステンレス板上に、各リチウムイオン二次電池に用いられている正極極板を固定した。固定した正極極板の正極活物質層側の面に幅1.5cmの粘着テープ(ニチバン社製セロテープNo.405)を貼り付けた。貼り付けた粘着テープを、剥離試験機(島津製作所社製SHIMAZU EZ-S)を用いて180°方向に引き剥がすことで、正極活物質層の密着性を評価した。
【0112】
(評価結果)
上記の実施例1~6、および比較例1~9に係るリチウムイオン二次電池の評価結果を表1にまとめて示す。
【0113】
【表1】
【0114】
表1の結果を参照すると、実施例1~6は、比較例1~9に対して、高温での容量維持率、および容量回復率が高いことがわかる。これは、実施例1~6は、特定の2種の共重合体を特定の質量比で含有するバインダ樹脂を用いているためと考えられる。また、実施例1~6では、正極活物質層と集電体との密着性が5mN/mm以上であるため、バインダ樹脂として実用上問題ない密着性が得られていることがわかる。
【0115】
さらに、実施例1~6では、比較例1~3と比較して、50サイクル後に負極に析出したコバルト量が1000ppm以下に抑制されていることがわかる。このような正極活物質からのコバルト溶出を抑制する効果は、フッ素系重合体A、フッ素系重合体B、またはアクリロニトリル系重合体Aを単独で用いた場合には得られない。したがって、この効果は、本実施形態で規定されるように特定の2種の共重合体を特定の質量比で含有するバインダ樹脂を用いた場合でのみ得られることがわかる。
【0116】
以上にて説明したように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、充電終止電圧がグラファイト基準で4.45V超である高電位下で好適に用いられる。具体的には、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、サイクル特性、および高温保存時の容量特性を向上させることが可能である。
【0117】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかである。これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0118】
10 リチウムイオン二次電池
20 正極
21 集電体
22 正極活物質層
30 負極
31 集電体
32 負極活物質層
40 セパレータ層
図1