(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】レーザ装置及び半導体レーザ素子の制御方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/068 20060101AFI20220715BHJP
H01S 5/024 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
H01S5/068
H01S5/024
(21)【出願番号】P 2017199648
(22)【出願日】2017-10-13
【審査請求日】2020-09-24
(32)【優先日】2016-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 和正
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 嘉洋
(72)【発明者】
【氏名】松井 剛生
(72)【発明者】
【氏名】田尻 毅嗣
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2001/003350(WO,A1)
【文献】特開2004-134576(JP,A)
【文献】特開2001-053378(JP,A)
【文献】特開2011-029378(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0173353(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出力する半導体レーザ素子と、
前記半導体レーザ素子の温度を調節する温度調節素子と、
前記半導体レーザ素子の近傍に配置された第1温度センサと、
前記第1温度センサよりも前記半導体レーザ素子から離間した位置に配置され、前記半導体レーザ素子の環境温度を検知する第2温度センサと、
前記半導体レーザ素子に駆動電流を供給して前記半導体レーザ素子の駆動状態を制御し、前記半導体レーザ素子に駆動電流が供給されている間、前記第1温度センサが検知した温度が目標温度になるように前記温度調節素子の駆動状態を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記半導体レーザ素子をオン状態とするLDオン条件が成立しているときに、前記駆動電流の値を、ゼロから目標電流値に変更する際に、前記レーザ光の波長が所定の範囲内に収まるように前記駆動電流の値を変化させながら前記目標電流値に近づけ、
前記LDオン条件は、前記第1温度センサが検知した温度が目標温度以下であること、および、前記駆動電流の値がゼロであること、を含
み、
前記制御部は、前記駆動電流の値を多段ステップ状、直線状、又は曲線状に変化させ、
前記制御部は、前記第2温度センサが検知した温度に基づいて、前記駆動電流の値の変化の形状を変更し、
前記変化の形状は、前記レーザ光の波長が前記所定の範囲から外れない形状として、かつ前記第2温度センサが検知した温度に対応して、予め実験またはシミュレーション計算により求めたものが、前記制御部の記憶部に記憶されている
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1温度センサが検知した温度に基づいて、フィードバック制御によって前記駆動電流の値を変更する
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記目標温度は、前記レーザ光に対する波長の設定値を実現する温度である
ことを特徴とする請求項1
または2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記駆動電流の値がゼロのときに、前記第1温度センサが検知した温度が前記目標温度よりも低くなるように前記温度調節素子の駆動状態を制御し、
前記駆動電流の値がゼロより大きくなったら、前記第1温度センサが検知した温度が目標温度になるように前記温度調節素子の駆動状態を制御する
ことを特徴とする請求項1~
3のいずれか一つに記載のレーザ装置。
【請求項5】
制御部が、
レーザ光を出力する半導体レーザ素子をオン状態とするLDオン条件が成立しているか否かを判定するステップと、
前記制御部が、
前記LDオン条件が成立しているときに、前記半導体レーザ素子に供給する駆動電流の値を、ゼロから目標電流値に変更する際に、前記レーザ光の波長が所定の範囲内に収まるように前記駆動電流の値を変化させながら前記目標電流値に近づけるステップと、
前記制御部が、
前記半導体レーザ素子に駆動電流が供給されている間、前記半導体レーザ素子の周囲温度が目標温度になるように、前記半導体レーザ素子の温度を調節するステップと、
を含み、
前記LDオン条件は、前記周囲温度が目標温度以下であること、および、前記駆動電流の値がゼロであること、を含
み、
前記制御部が、前記駆動電流の値を多段ステップ状、直線状、又は曲線状に変化させ、
前記制御部が、前記半導体レーザ素子の環境温度に基づいて、前記駆動電流の値の変化の形状を変更し、
前記変化の形状は、前記レーザ光の波長が前記所定の範囲から外れない形状として、かつ前記半導体レーザ素子の環境温度に対応して、予め実験またはシミュレーション計算により求めたものが、前記制御部の記憶部に記憶されている
ことを特徴とする半導体レーザ素子の制御方法。
【請求項6】
前記半導体レーザ素子の周囲温度に基づいて、前記駆動電流の値をフィードバック制御する
ことを特徴とする請求項
5に記載の半導体レーザ素子の制御方法。
【請求項7】
前記目標温度は、前記レーザ光に対する波長の設定値を実現する温度である
ことを特徴とする請求項
5または6に記載の半導体レーザ素子の制御方法。
【請求項8】
前記駆動電流の値がゼロのときに、前記半導体レーザ素子の周囲温度が前記目標温度よりも低くなるように前記半導体レーザ素子の温度を制御するステップをさらに含む
ことを特徴とする請求項
5~
7のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ装置及び半導体レーザ素子の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信等において、半導体レーザ素子を備えたレーザ装置が用いられている。一般的に、半導体レーザ素子は、素子温度が高い程、出力されるレーザ光の波長(レーザ発振波長)が長くなる。この現象は、素子温度を制御することによってレーザ発振波長を制御する際に利用される(特許文献1参照)。レーザ発振波長を制御する方法として、半導体レーザ素子の近傍にサーミスタ等の温度センサを配置し、この温度センサが検知した温度が目標温度になるように、半導体レーザ素子の温度を調節する温度調節素子の駆動状態をフィードバック制御する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば光通信において用いられる半導体レーザ素子について、レーザ発振波長の高精度の制御が要求される場合がある。高精度な制御の要求例として、半導体レーザ素子がレーザ光を出力している状態で、レーザ発振波長が要求波長を含む所定の範囲内に収まるように半導体レーザ素子の駆動状態を制御する要求がある。
【0005】
ここで、例えば半導体レーザ素子の立ち上げ時に、半導体レーザ素子に供給される駆動電流の値がゼロの状態から駆動電流の供給を開始する、すなわち半導体レーザ素子をオフ状態からオン状態にすると、半導体レーザ素子のジャンクション温度は駆動電流の供給に迅速に応答して上昇する。ジャンクション温度の上昇に伴いレーザ発振波長も長くなる。ところが、温度センサは、ジャンクション温度の上昇から遅れて、ジャンクション温度の上昇による半導体レーザ素子の温度上昇を検知する。その結果、温度調節素子のフィードバック制御にも遅れが生じ、この遅れの間にレーザ発振波長が所定の範囲から外れてしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、半導体レーザ素子をオン状態にする際にレーザ発振波長を所定の範囲から外れないようにすることができるレーザ装置及び半導体レーザ素子の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係るレーザ装置は、レーザ光を出力する半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子の温度を調節する温度調節素子と、前記半導体レーザ素子の近傍に配置された第1温度センサと、前記半導体レーザ素子に駆動電流を供給して前記半導体レーザ素子の駆動状態を制御し、前記半導体レーザ素子に駆動電流が供給されている間、前記第1温度センサが検知した温度が目標温度になるように前記温度調節素子の駆動状態を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記駆動電流の値を、ゼロから目標電流値に変更する際に、前記レーザ光の波長が所定の範囲内に収まるように前記駆動電流の値を変化させながら前記目標電流値に近づけることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係るレーザ装置は、前記制御部は、前記駆動電流の値を多段ステップ状、直線状、又は曲線状に変化させることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様に係るレーザ装置は、前記第1温度センサよりも前記半導体レーザ素子から離間した位置に配置され、前記半導体レーザ素子の環境温度を検知する第2温度センサをさらに備え、前記制御部は、前記第2温度センサが検知した温度に基づいて、前記駆動電流の値の変化の形状を変更することを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係るレーザ装置は、前記制御部は、前記第1温度センサが検知した温度に基づいて、フィードバック制御によって前記駆動電流の値を変更することを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係るレーザ装置は、前記目標温度は、前記レーザ光に対する波長の設定値を実現する温度であることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係るレーザ装置は、前記制御部は、前記駆動電流の値がゼロのときに、前記第1温度センサが検知した温度が前記目標温度よりも低くなるように前記温度調節素子の駆動状態を制御し、前記駆動電流の値がゼロより大きくなったら、前記第1温度センサが検知した温度が目標温度になるように前記温度調節素子の駆動状態を制御することを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係る半導体レーザ素子の制御方法は、レーザ光を出力する半導体レーザ素子に供給する駆動電流を、ゼロから目標電流値に変更する際に、前記レーザ光の波長が所定の範囲内に収まるように前記駆動電流の値を変化させながら前記目標電流値に近づけるステップと、前記半導体レーザ素子に駆動電流が供給されている間、前記半導体レーザ素子の周囲温度が目標温度になるように、前記半導体レーザ素子の温度を調節するステップと、を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係る半導体レーザ素子の制御方法は、前記駆動電流の値を多段ステップ状、直線状、又は曲線状に変化させることを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係る半導体レーザ素子の制御方法は、前記半導体レーザ素子の環境温度に基づいて、前記駆動電流の値の変化の形状を変更することを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様に係る半導体レーザ素子の制御方法は、前記半導体レーザ素子の周囲温度に基づいて、前記駆動電流の値をフィードバック制御することを特徴とする。
【0017】
本発明の一態様に係る半導体レーザ素子の制御方法は、前記目標温度は、前記レーザ光に対する波長の設定値を実現する温度であることを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様に係る半導体レーザ素子の制御方法は、前記駆動電流の値がゼロのときに、前記半導体レーザ素子の周囲温度が前記目標温度よりも低くなるように前記半導体レーザ素子の温度を制御するステップをさらに含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、半導体レーザ素子をオン状態にする際にレーザ発振波長を所定の範囲に収めることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施形態1に係るレーザ装置の構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図1のレーザ装置における制御フローを示す図である。
【
図4】
図4は、実施例1、比較例のレーザ装置の特性を説明する図である。
【
図5】
図5は、実施形態2に係るレーザ装置の構成を示す模式図である。
【
図6】
図6は、実施例2、比較例のレーザ装置の特性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して実施形態について説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一又は対応する要素には適宜同一の符号を付している。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0022】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るレーザ装置の構成を示す模式図である。
図1に示すように、レーザ装置100は、筐体1と、温度調節素子である熱電冷却素子2と、サブマウント3と、半導体レーザ素子4と、第1温度センサであるサーミスタ5と、コリメータレンズ6と、集光レンズ7と、光ファイバ8と、を備える半導体レーザモジュールと、第2温度センサである温度センサ9と、制御部10と、を備えている。制御部10は、TEC(Thermo-Electric Cooler)電流制御部11と、LD(Laser Diode)電流制御部12とを備えている。
【0023】
筐体1は、熱電冷却素子2と、サブマウント3と、半導体レーザ素子4と、サーミスタ5と、コリメータレンズ6と、集光レンズ7と、を少なくとも収容し、光ファイバ8が取り付けられている。
【0024】
図2は、
図1におけるA矢視図であって、熱電冷却素子2、サブマウント3、半導体レーザ素子4、及びサーミスタ5を示している。
図1、2に示すように、熱電冷却素子2は、サブマウント3を搭載している。また、サブマウント3は、半導体レーザ素子4とサーミスタ5とを搭載している。
【0025】
熱電冷却素子2は、例えばペルチェ素子である。熱電冷却素子2は、制御部10のTEC電流制御部11から駆動電流であるTEC電流C1が供給されることによって、サブマウント3を介して半導体レーザ素子4を冷却又は加熱して、半導体レーザ素子4の温度を調節することができる。
【0026】
サブマウント3は、例えば熱伝導率が170W/m・Kと高い窒化アルミニウム(AlN)からなるが、AlNに限らず、CuW、炭化ケイ素(SiC)、ダイヤモンドなどの熱伝導率が高い材料でもよい。
【0027】
半導体レーザ素子4は、例えば分布帰還(DFB)型のレーザダイオード素子である。半導体レーザ素子4は、制御部10のLD電流制御部12から駆動電流であるLD電流C2が供給されて、単一モードのレーザ光Lを出力する。レーザ発振波長は例えば1.55μmの波長帯に含まれる。
【0028】
サーミスタ5は、サブマウント3上において半導体レーザ素子4の近傍に配置されている。サーミスタ5は、半導体レーザ素子4の周囲温度を検知するためのものであり、検知した温度に対応する電気信号S1をTEC電流制御部11に出力する。サーミスタ5は、その検知する温度が、半導体レーザ素子4の素子温度と略見なせる程度に、半導体レーザ素子4の近傍に配置されることが好ましい。
【0029】
コリメータレンズ6は、半導体レーザ素子4から出力されたレーザ光Lを平行光に変換する。集光レンズ7は、平行光に変換されたレーザ光Lを集光して光ファイバ8に入力させる。光ファイバ8はレーザ光Lを所定の装置等まで伝送する。
【0030】
なお、コリメータレンズ6と集光レンズ7の間のレーザ光Lの光路又は光路の周辺には、公知の光アイソレータや、制御部10による公知の波長ロック制御(レーザ光Lを所望の波長及び強度にするための制御)を行うためのビームスプリッタ、フォトダイオード、エタロンフィルタ等が適宜配置されていてもよい。
【0031】
温度センサ9は、サーミスタ5よりも半導体レーザ素子4から離間した位置である筐体1の外部に設けられており、半導体レーザ素子4の環境温度としてのケース温度を検知するためのものである。温度センサ9は、検知した温度に対応する電気信号S2を制御部10に出力する。温度センサ9は、例えば制御部10に設けられた、制御部10の温度を測定するための温度センサであってもよい。
【0032】
制御部10は、演算部と、記憶部とを備えている。演算部は、制御部10が実行する制御のための各種演算処理を行うものであり、たとえばCPU(Central Processing Unit)で構成される。記憶部は、演算部が演算処理を行うために使用する各種プログラムやデータ等が格納される、たとえばROM(Read Only Memory)で構成される部分と、演算部が演算処理を行う際の作業スペースや演算部の演算処理の結果等を記憶する等のために使用される、たとえばRAM(Random Access Memory)で構成される部分とを備えている。TEC電流制御部11及びLD電流制御部12は、制御部10が備える演算部と記憶部の機能によりソフトウェア的に実現される。
【0033】
TEC電流制御部11は、サーミスタ5から入力された電気信号S1に基づいて、サーミスタ5が検知した温度が所定の温度になるように、熱電冷却素子2にTEC電流C1を供給して、熱電冷却素子2の駆動状態をフィードバック制御する。このフィードバック制御は、例えば周知のPID制御を用いて実行される。
【0034】
LD電流制御部12は、半導体レーザ素子4にLD電流C2を供給する。LD電流制御部12は、LD電流C2の値(以下、LD電流値と記載する)を調整することによって、半導体レーザ素子4の駆動状態を制御する。半導体レーザ素子4は、LD電流値がゼロの場合は、レーザ光Lを出力せず、LD電流値が半導体レーザ素子4のしきい値電流より大きい場合は、LD電流値に応じたパワーのレーザ光Lを出力する。半導体レーザ素子4をオン状態とする指令や、レーザ光Lのパワーの設定値(以下、適宜パワー設定値と記載する)の指令は、例えばレーザ装置100の外部の装置(レーザ装置100が組み込まれるシステムの制御装置等)から制御部10に入力される。LD電流制御部12は、指令されたパワー設定値を実現するために必要なLD電流値を算出し、算出した値を目標電流値として、半導体レーザ素子4にLD電流C2を供給する。なお、或るパワー設定値を実現するために必要なLD電流値は、半導体レーザ素子4の素子温度、より正確にはジャンクション温度にも依存する。制御部10は、電気信号S1に基づいてサーミスタ5で検知される温度も考慮して、LD電流値を算出する。
【0035】
また、レーザ光Lの波長であるレーザ発振波長は、半導体レーザ素子4の素子温度、より正確にはジャンクション温度に依存して変化する。制御部10の記憶部には、レーザ発振波長と、そのレーザ発振波長のときにサーミスタ5で検知される温度との関係が予め記憶されている。そして、レーザ発振波長を或る値に設定する場合は、そのレーザ発振波長が実現される温度が目標温度に設定される。そして、TEC電流制御部11は、サーミスタ5が検知した温度が目標温度になるように熱電冷却素子2の駆動状態をフィードバック制御する。半導体レーザ素子4に対するレーザ発振波長の設定値(以下、適宜波長設定値と記載する)の指令は、例えばレーザ装置100の外部の装置から制御部10に入力される。
【0036】
次に、レーザ装置100において、半導体レーザ素子4のLD電流値をゼロから目標電流値に変更する際に、制御部10が実行する制御について、
図3に示す制御フローを参照して説明する。このような制御は、例えば半導体レーザ素子4の立ち上げ時に実行されるものであり、例えば波長設定値の指令が制御部10に入力された後で、半導体レーザ素子4をオン状態とする指令が制御部10に入力されたときにスタートする。また、
図3に示す制御フローを実行している間は、サーミスタ5が検知した温度が、波長設定値が実現される目標温度になるようにする熱電冷却素子2のフィードバック制御は実行され続ける。
【0037】
はじめに、制御部10は、ステップS101において、半導体レーザ素子4をオン状態とする条件(LDオン条件)が成立しているか否かを判定する。LDオン条件は、例えば、サーミスタ5が検知した温度が目標温度以下であること、及び、半導体レーザ素子4に供給されているLD電流値がゼロである(すなわち半導体レーザ素子4がオフ状態である)ことが含まれる。LDオン条件が成立していないと判定した場合(ステップS101、No)は、ステップS101を繰り返し実行する。LDオン条件が成立していると判定した場合(ステップS101、Yes)は、制御はステップS102に進む。
【0038】
ステップS102において、LD電流制御部12は、LD電流値を制御する。具体的には、LD電流値をゼロから目標電流値に変更する際に、レーザ発振波長が所定の範囲内に収まるようにLD電流C2の値を変化させながら目標電流値に近づける。これにより、レーザ発振波長が所定の範囲から外れないようにすることができる。なお、所定の範囲は、例えばレーザ装置100の仕様において、波長設定値等に応じて決められているものである。
【0039】
レーザ発振波長が所定の範囲から外れないようにするためには、半導体レーザ素子4のジャンクション温度が急上昇することを防止する必要がある。ジャンクション温度の急上昇を防止するために、LD電流値は、例えば、時間に対してLD電流値を段階的に上昇させる多段ステップ状に変化させたり、時間に対してLD電流値を比例的に上昇させる直線状に変化させたり、曲線状に変化させたり、又はこれらの変化を適宜組み合わせた形状とすることが好ましい。このようなLD電流値の変化の形状は、レーザ発振波長が所定の範囲から外れないような形状として、予め実験やシミュレーション計算等により求めておき、制御部10の記憶部に記憶されていることが好ましい。なお、半導体レーザ素子4に或る値のLD電流C2を供給したときの半導体レーザ素子4のジャンクション温度の変化は、半導体レーザ素子4の環境温度等を含めた使用環境にも依存する。従って、LD電流値の変化の形状は、少なくともレーザ装置100の使用環境下で、レーザ発振波長が所定の範囲から外れないような形状とする必要がある。
【0040】
つづいて、ステップS103において、制御部10は、LD電流値が目標電流値に到達したか否かを判定する。目標電流値に到達していないと判定した場合(ステップS103、No)は、制御はステップS102に戻る。目標電流値に到達したと判定した場合(ステップS103、Yes)は、本制御を終了する。
【0041】
なお、LD電流値が目標電流値に到達するまでの時間が長いと、半導体レーザ素子4をオン状態とする指令が入力されてからレーザ発振波長が設定波長になるまでの時間が、レーザ装置100の仕様等を満たさなくなる場合がある。従って、LD電流値の変化の形状は、LD電流値をゼロから目標電流値に変更する制御を開始してから目標電流値に到達するまでの時間が、仕様等に定められた目標時間内に収まるように設定することが好ましく、できるだけ迅速に目標電流値に到達するように設定することがより好ましい。
【0042】
半導体レーザ素子をオン状態にする際のレーザ発振波長の変動は、例えばオン状態における半導体レーザ素子のレーザ発振波長を、温度調節によって所望の波長に変化させる場合よりも、所定の範囲を超えやすい。これに対して、以上説明したように、実施形態1に係るレーザ装置100によれば、半導体レーザ素子4をオン状態にする際にレーザ発振波長を所定の範囲に収めることができる。
【0043】
(実施例1、比較例)
実施例1として、実施形態1に係るレーザ装置100と同様の構成のレーザ装置を作製し、半導体レーザ素子を立ち上げる際にLD電流値をゼロから多段ステップ状に変化させて目標電流値に変更する制御を行った。一方、比較例として、レーザ装置100と同様の構成のレーザ装置を作製し、半導体レーザ素子を立ち上げる際にLD電流値をゼロから直接目標電流値に変更する制御を行った。実施例1、比較例のいずれにおいても、サーミスタが検知した半導体レーザ素子の周囲温度が、レーザ発振波長の設定値を実現する目標温度になるように熱電冷却素子を制御した。そして、半導体レーザ素子から出力されるレーザ光の波長を測定した。
【0044】
図4は、実施例1、比較例のレーザ装置の特性を説明する図である。横軸はLD電流値の変更を開始した時間を基準とする時間を示す。左縦軸は測定したレーザ発振波長とレーザ発振波長の設定値との差(Δ波長)を示す。なお、Δ波長には上限値及び下限値が設定されている。右縦軸はLD電流値を示す。
【0045】
比較例において、実線で示すように時間ゼロにおいてLD電流値をゼロから直接目標電流値に変更する制御をした場合は、破線で示すようにLD電流値の変更を開始した直後にΔ波長が急上昇して上限値を超えてしまい、その後ゼロに収束した。一方、実施例1において、一点鎖線で示すようにLD電流値をゼロから多段ステップ状に変化させて目標電流値に変更する制御をした場合は、点線で示すようにΔ波長が上限値を超えず、上限値と下限値との間の範囲に収まりつつ、ゼロに収束した。
【0046】
なお、上記実施形態1の変形例として、LD電流制御部12が、温度センサ9が検知したケース温度に基づいて、LD電流C2の値の変化の形状を変更してもよい。上述したように、半導体レーザ素子4のジャンクション温度の変化は、半導体レーザ素子4の使用環境にも依存する。従って、温度センサ9が検知したケース温度に基づいて、LD電流値の変化の形状を変更することで、使用環境に応じてより適切な変化形状を用いて、目標温度への到達時間の最適化、短縮化等の、より適切な制御を行うことができる。この場合、制御部10は、例えば予め実験やシミュレーション計算等により求めておいた、ケース温度とそのケース温度に適した変化形状との組み合わせを記憶部に記憶しており、検知したケース温度に応じて使用する変化形状を読み出し、制御に使用する。また、環境温度としてレーザ装置100の外気温度を取得して、外気温度に基づいて、LD電流C2の値の変化の形状を変更してもよい。
【0047】
(実施形態2)
図5は、実施形態2に係るレーザ装置の構成を示す模式図である。
図5に示すように、レーザ装置100Aは、
図1に示すレーザ装置100において、制御部10を制御部10Aに置き換えた構成を備えている。制御部10Aは、制御部10においてLD電流制御部12をLD電流制御部12Aに置き換え、かつ、サーミスタ5からの電気信号S1がLD電流制御部12Aにも入力されるようにした構成を備えている。
【0048】
レーザ装置100Aでは、TEC電流制御部11は実施形態1の場合と同様に熱電冷却素子2の制御を行う。しかし、LD電流制御部12Aは、半導体レーザ素子4の制御の際に、サーミスタ5が検知した温度に基づいて、LD電流値が目標電流値になるようにフィードバック制御することによって、LD電流値を変更する。このフィードバック制御は、例えば周知のPID制御を用いて実行される。これによって、例えばケース温度が急に変動する等の突発的な事態が生じたとしても、半導体レーザ素子4をオン状態にする際に、レーザ発振波長を所定の範囲に収める制御をより適切かつ柔軟に実行することができる。また、様々な変化形状を制御部10Aに記憶させておかなくてもよいので、より適切な制御を実行可能でありつつ、制御部10Aの記憶容量を節約することができる。
【0049】
レーザ装置100Aにおいて、LD電流値をゼロから目標電流値に変更する際に、制御部10Aが実行する制御については、
図3の制御フローと同様である。この制御フローを実行している間は、サーミスタ5が検知した温度が、波長設定値を実現する目標温度になるようにする熱電冷却素子2のフィードバック制御は実行され続ける。そして、LD電流制御部12Aは、レーザ発振波長が所定の範囲内に収まるようにフィードバック制御を行う。
【0050】
(実施例2)
実施例2として、実施形態2に係るレーザ装置100Aと同様の構成のレーザ装置を作製し、半導体レーザ素子を立ち上げる際にまずLD電流値をゼロから初期値に変更し、その後PIDフィードバック制御により変化させて目標電流値に変更する制御を行った。なお、初期値は、半導体レーザ素子のジャンクション温度が急激に上昇しない程度の値とした。実施例2において、サーミスタが検知した半導体レーザ素子の周囲温度が、レーザ発振波長の設定値を実現する目標温度になるように熱電冷却素子を制御した。そして、半導体レーザ素子から出力されるレーザ光の波長を測定した。
【0051】
図6は、実施例2のレーザ装置の特性を説明する図である。横軸はLD電流値の変更を開始した時間を基準とする時間を示す。左縦軸は測定したレーザ発振波長とレーザ発振波長の設定値との差(Δ波長)を示す。なお、Δ波長には上限値及び下限値が設定されている。右縦軸はLD電流値を示す。なお、
図6では、参考のために
図4で示した比較例の特性も図示している。
【0052】
実施例2の場合は、点線で示すようにΔ波長が上限値を超えず、上限値と下限値との間の範囲に収まりつつ、ゼロに収束した。
【0053】
なお、上記実施形態1、2において、TEC電流制御部11は以下のような制御を行ってもよい。すなわち、LD電流値がゼロのときに、サーミスタ5が検知した温度が目標温度よりも低くなるように熱電冷却素子2の駆動状態を制御し、LD電流値がゼロより大きくなったら、サーミスタ5が検知した温度が目標温度になるように熱電冷却素子2の駆動状態を制御する。これらの制御は、例えばPIDフィードバック制御である。これにより、LD電流値がゼロより大きくなってジャンクション温度が上昇しても、目標温度よりも低い温度から上昇を開始するので、実施形態1、2のように上昇を開始する温度が目標温度である場合よりも、レーザ発振波長を所定の範囲から外れないようにすることが容易にできる。
【0054】
また、上記実施形態1、2では、半導体レーザ素子はDFB型であるが、半導体レーザ素子の型式は特に限定されず、分布ブラッグ反射(DBR)型、分布反射(DR)型等の半導体レーザ素子の、他の単一モード型の半導体レーザ素子でもよい。また、特許文献1に示すような、半導体レーザアレイを備え、波長可変レーザ素子として動作可能な集積型の半導体レーザ素子でもよい。
【0055】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 筐体
2 熱電冷却素子
3 サブマウント
4 半導体レーザ素子
5 サーミスタ
6 コリメータレンズ
7 集光レンズ
8 光ファイバ
9 温度センサ
10、10A 制御部
11 TEC電流制御部
12、12A LD電流制御部
100、100A レーザ装置
C1 TEC電流
C2 LD電流
L レーザ光
S1、S2 電気信号