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特許7105647透過型荷電粒子顕微鏡における回折パターン検出
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  • 特許-透過型荷電粒子顕微鏡における回折パターン検出 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】透過型荷電粒子顕微鏡における回折パターン検出
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/205 20180101AFI20220715BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20220715BHJP
   H01J 37/26 20060101ALI20220715BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20220715BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20220715BHJP
   G01N 23/20058 20180101ALI20220715BHJP
【FI】
G01N23/205
H01J37/28
H01J37/26
H01J37/244
H01J37/22 501D
H01J37/22 501Z
G01N23/20058
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018146465
(22)【出願日】2018-08-03
(65)【公開番号】P2019035744
(43)【公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】17186546.2
(32)【優先日】2017-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ブイユッセ バルト
(72)【発明者】
【氏名】クイユペール マールテン
【審査官】後藤 順也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-057294(JP,A)
【文献】特開平05-188015(JP,A)
【文献】国際公開第2011/007492(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/109425(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
H01J 37/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過型荷電粒子顕微鏡を使用する方法であって、
- 試料を試料ホルダ上に提供するステップと、
- 荷電粒子ビームカラムを使用して、荷電粒子ビームを生成し、該荷電粒子ビームを用いて前記試料の少なくとも部分を照射するステップと、
- イメージングシステムを使用して、前記照射中に前記試料を横切る荷電粒子を収集し、該荷電粒子を検出器に指向するステップと、
- 前記検出器を使用して、前記試料の照射された前記部分の回折パターンを記録するステップと、を含み、
- 前記検出器を粒子計数モードで動作させるように構成し、
- 前記回折パターンを一連の連続する検出フレームにおいて繰り返し記録し、該フレームを加算し、
- 各フレームの記録中に前記回折パターンと前記検出器の相対運動を引き起こすための走査アセンブリを使用して、前記パターンにおける各局所強度最大値が前記検出器上で軌跡を描くようにする、
方法。
【請求項2】
前記相対運動は、
- 前記検出器上の回折パターンを変位させるために、前記試料と前記検出器との間に配置されたビーム偏向モジュール、
- 前記検出器に接続され、前記回折パターンに対して前記検出器を変位させるアクチュエータモジュール、及び
前記ビーム偏向モジュールと前記アクチュエータモジュール の組み合わせを含む群
から選択される前記走査アセンブリを使用することでもたらされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記相対運動の振幅は、任意の所与の第1及び第2の局所強度最大値に対して、対応する第1及び第2の軌跡が相互に交差しないように選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記軌跡が閉曲線である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記軌跡が円である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記検出器は、CMOSセンサを含み、
比較的強い信号を受信する第1のセンサ領域は、比較的弱い信号を受信する第2のセンサ領域よりも頻繁に読み出される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
透過型荷電粒子顕微鏡であって、
- 試料を保持するための試料ホルダと、
- 荷電粒子ビームを生成し、該荷電粒子ビームを用いて前記試料の少なくとも部分を照射するための荷電粒子ビームカラムと、
- 前記照射中に前記試料を横切る荷電粒子を収集し、該荷電粒子を、前記試料の照射された前記部分の回折パターンを記録するように構成された検出器に指向するためのイメージングシステムと、
- 当該顕微鏡の少なくともいくつかの動作面を制御するためのコントローラと、を含み、
前記コントローラは、
- 前記検出器を粒子計数モードで動作させ、
- 前記回折パターンを一連の連続的な検出フレームにおいて繰り返し記録し、該フレームを加算し、
- 各フレームの記録中に前記回折パターンと前記検出器の相対運動をもたらす走査アセンブリを起動して、前記パターンにおける各局所強度最大値が前記検出器上で軌跡を描くようにする、
透過型荷電粒子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透過型荷電粒子顕微鏡(TCPM)を使用する方法に関連し、
- 試料を試料ホルダ上に提供するステップと、
- 荷電粒子ビームカラムを使用して、荷電粒子ビームを生成し、荷電粒子ビームを用いて試料の少なくとも部分を照射するステップと、
- イメージングシステムを使用して、照射中に試料を横切る荷電粒子を収集し、荷電粒子を検出器に指向するステップと、
- 検出器を使用して、試料の照射された部分の回折パターンを記録するステップと、を含む。
本発明は、そのような方法を成り立たせることができる荷電粒子顕微鏡にも関連する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子顕微鏡法は、特に電子顕微鏡の形態で、微視的な対象物をイメージングするための周知かつますます重要な技術である。歴史的に、電子顕微鏡の基本的な分類は、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、走査型透過電子顕微鏡(STEM)等、多くの周知の装置の種類へと進化しており、また、例えば、いわゆる「デュアルビーム」装置(例えばFIB-SEM)のように、「機械加工」収束イオンビーム(FIB)を追加的に採用し、イオンビームミリング、イオンビーム誘導堆積(IBID)等の補助作業を可能にした、種々のサブ種へも進化している。より具体的には、
- SEMでは、走査電子ビームによる試料の照射が、例えば、二次電子、後方散乱電子、X線及び陰極ルミネッセンス(赤外、可視及び/又は紫外光子)の形態で、試料からの「補助」放射の放出を引き起こし、次いで、この放出される放射の1つ以上の成分が検出され、画像蓄積のために使用される。
- TEMでは、試料を照射するために使用される電子ビームは、試料を貫通するのに十分なエネルギーであるものが選択される(このため、一般に、試料はSEMの試料の場合よりも薄い)。次いで、試料から放出される透過電子は、画像を生成するために使用される。そのようなTEMが走査モードで動作すると(STEMとなり)、照射電子ビームの走査動作中に当該画像が蓄積される。
ここで説明した事項のいくつかについてのさらなる情報は、例えば、以下のWikipedia(登録商標)のリンクから収集することができる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Electron_microscope
http://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_electron_microscope
http://en.wikipedia.org/wiki/Transmission_electron_microscopy
http://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_transmission_electron_microscopy
照射ビームとして電子を使用する代わりに、他の種類の荷電粒子を使用した荷電粒子顕微鏡法を実行することができる。この点、「荷電粒子」という用語は、例えば、電子、正イオン(例えば、Ga又はHeイオン)、負イオン、陽子及び陽電子を含むものとして広く解釈されるべきである。非電子ベースの荷電粒子顕微鏡法に関して、いくつかのさらなる情報を、例えば、以下のような参考から収集することができる。
https://en.wikipedia.org/wiki/Focused_ion_beam
http://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_Helium_Ion_Microscope
W.H. Escovitz,T.R. Fox and R. Levi-Setti, Scanning Transmission Ion Microscope with a Field Ion Source,Proc. Nat. Acad. Sci. USA 72(5), pp 1826-1828 (1975)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22472444
イメージング及び(局所的な)表面修正(例えば、ミリング、エッチング、付着等)を実行することに追加して、荷電粒子顕微鏡は、分光を行う、ディフラクトグラム(diffractogram)を試験する等の他の機能を有してもよいことに留意すべきである。
【0003】
すべての場合において、荷電粒子顕微鏡(CPM)は、少なくとも以下の構成要素を含む:
- ショットキー電子ソース、イオンソース等の粒子ソース。
- ソースからの「未加工の」放射ビームを操作し、それについて集束、収差軽減、(絞りを用いた)クロッピング、フィルタリング等の特定の動作を実行する役割を果たす照射器(荷電粒子ビームカラム)。一般に、1つ以上の(荷電粒子)レンズを含み、他のタイプの(粒子)光学構成要素も含んでよい。必要であれば、照射器には、その出射ビームが調査されている試料を横切って走査運動を実行するように起動することができる偏向器システムを設けることができる。
- 調査されている試料を保持し、(例えば、傾けて、回転させて)位置決めする試料ホルダ。必要であれば、ビームに対して試料の走査運動をもたらすように、この試料ホルダを動かすことができる。一般には、試料ホルダは位置決めシステムに接続される。低温試料を保持するように設計されるときは、試料ホルダは、例えば、適切に接続された低温バットを使用して、その試料を低温に維持するための手段を含むことができる。
- (照射された試料から放出された放射を検出するための)検出器。本質的に一体型又は複合型/分散型としてよく、検出される放射に依存して多くの異なる形態を取ることができる。例としては、フォトダイオード、CMOS検出器、CCD検出器、光電池、X線検出器(シリコンドリフト検出器、Si(Li)検出器等)等を含む。一般には、CPMはいくつかの異なるタイプの検出器を含むことができ、それらのうちの選択したものを異なる状況において呼び出すことができる。
(例えば、(S)TEMなどの)透過型顕微鏡の場合に、CPMは追加的に以下を含む。
- 検出/イメージングデバイス、(EELS装置(EELS(電子エネルギー損失分光法))などの)分光装置等の試料(平面)を透過した荷電粒子を取り込み、それらを分析装置に指向する(集約する)イメージングシステム。上記の照射器と同様に、イメージングシステムは、収差軽減、クロッピング、フィルタリング等の他の機能も実行してよく、一般に1つ以上の荷電粒子レンズ及び/又は他のタイプの粒子光学構成要素を含む。
【0004】
以下では、本発明は、例として、しばしば特定の電子顕微鏡に関連して説明することがある。しかし、そのような単純化は、明瞭にする/説明するためだけを目的としており、限定するものとして解釈されるべきではない。
【0005】
荷電粒子の照射は、一般に、試料、特に生物学的試料に放射損傷を引き起こす。それゆえ、(例えば)生命科学のTEM用途では、試料への放射損傷を最小限に抑えようとして、比較的低線量の照射条件で作業することが望ましい。しかし、そのような低線量の動作は、信号品質における劣化を引き起こす傾向がある。これらの矛盾する効果が、TCPMオペレータに難しい問題を提示する。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、この問題に対処することである。より具体的には、本発明の目的は、TCPMを使用して、比較的低線量ではあるが十分な信号品質を有する回折パターンを記録することができる手段を提供することである。
【0007】
これらの及び他の目的は、上記の冒頭の段落において説明したような方法により達成され、
- 検出器を粒子計数モードにおいて動作させるように構成し、
- 回折パターンを一連の連続する検出フレームにおいて繰り返し記録し、フレームを加算し、
- 各フレームの記録中に回折パターンと検出器の相対運動を引き起こして、パターンにおける各局所強度最大値が検出器上で軌跡を描く(trace out)ようにする、
ことにより特徴付けられる。
当業者は、本明細書で示唆されるような検出フレーム(又は単に「フレーム」)の概念に精通しているであろう。例えば、1秒間に所定の数の「フレーム」でテレビ画像がキャプチャされる方法に例えられる。本質的に、検出フレームFnは、特定の時間間隔Tnで画素アレイにキャプチャされ、これから読み出されるコンテンツを表し、そのプロセスを長い時間経過の間に繰り返して、一連の連続してキャプチャされたフレーム{F,Fn+1,Fn+2,…}を取得することができる。当該画素アレイは、採用される検出器の検出面の全体又は単にその一部を構成してもよいことに留意すべきである。この後者の関連では、例えば、CMOS検出器の検出面を、ある数の構成画素アレイ(サブセット)に細分化することができ、その各々は、必要であれば、異なるレートで読み出すことができる。そのような場合、本発明の「フレーム」は、構成画素がまとめて読み出される、そのようなサブセットの所与の1つからのコンテンツを指すものと見なすことができる。
【0008】
本発明の根底にある原理は、以下のように説明することができる。
- 比較的高い検出量子効率(DQE:Detective Quantum Efficiency)を有する検出器/カメラを使用すると、低線量の状況において検出された信号を最適化するのに役立つ。本発明では、そのような高いDQEを、例えば、直接電子検出器を使用し、いわゆる粒子計数技術を適用することによって、広い/完全な空間周波数領域で達成する。粒子(電子)計数検出器についてのさらなる情報については、(例えば、)以下の文献を参照されたい。
https://www.deepdyve.com/lp/spie/detector-dead-time-in-particle-counting-detectors-sGbIELa9CG
http://conference.microscopy.org/MandM/2015/program/abstracts/PDP_38-143.pdf
http://www.microscopy-analysis.com/sites/default/files/2013_Sept_Booth.pdf
- 回折パターンを記録するときに、そのような粒子計数を直接的には適用することができない。これは、検出される信号/パターンが局所的に強いピーク(強度の最大値/輝点)において集中するためである。回折パターンの最も強くでている部分の粒子ヒット率は非常に高い。(検出器における必然的なヒット間の「デッドタイム(dead time)」及びいわゆる「パイルアップ(pile up)」/一致(coincidence)損失に関連する)妥協した計数統計を避けるために、計数のためのヒット率を比較的低く保つ必要がある(例えば、20~40フレーム当たり1粒子を超えない)。したがって、非常に高速なカメラ(例えば、約200~400フレーム/秒)であっても、1画素当たりの許容可能なカウント速度(例えば、10粒子/ピクセル/秒)は実用的には低すぎる傾向がある。
― 本発明は、各フレーム記録中、(小さな)ビーム/検出器相対運動を課すことによってこの問題に対処し、それにより、回折パターンにおける各輝点が検出器のN個の画素をインターセプト(intercept)する軌跡に沿って「スミアアウト(smear out)」させる。この方法では:
・1ピクセルあたりの平均線量率は1/Nに減少する。
・パイルアップ-発生した場合、軌跡に沿って異なるピクセルに影響を与え、個々のヒットに「分解」することができる。
その結果、より高い計数率を実現することができ、従って、(特に)低線量回折パターンにおける比較的弱い回折スポットを記録する実用的な方法となる。
回折パターンは、既知の軌跡に従って(検出器に対して)移動するため、(動きの影響を無効にするために)各フレームに直接的なデコンボリューションを適用することによって、元の(移動していない)回折パターンを計算的に復元することができる。このようにして、(複雑/混雑した)回折パターンにおけるピーク/最大の位置及び強度を非常に正確に決定することができる。
【0009】
本発明は、特に、有機結晶(例えば、タンパク質など)の(複雑な)回折パターンを低線量での弱い回折ピークを記録する問題を緩和する。そのような弱い回折ピークがしばしば最も高い解像度情報を含むため、従って、本発明の用途は、例えば、電子結晶学研究において有機分子中のより高い解像度の構造を明らかにすることが期待される。同様の期待は、例えば、特定の高分子及びゼオライト試料のように低線量での無機試料にも当てはまる。本発明によって対処される別の問題は、検出表面の数ピクセルにわたる高強度のピークをスミアアウトし、ピクセル当たりの線量を低減することによって、検出器損傷のリスクを低減することができることである。既に上述したように、パイルアップの構成事象を(上述の軌跡上に異なるピクセルによって記録されるため)分解できるため、上述したように、パイルアップによる計数ミスが軽減される。非常に本質的に、本発明は直感には反していることに留意されたい。通常、例えば、振動又は熱ドリフトによる回折パターン及び検出器のフレーム内相対運動を回避しようとするが、本発明では、その2つの相対運動を意図的に生成し利用するのである。
【0010】
回折パターン/検出器の上述の相対運動は、
(i) (例えば、偏向コイル/電極を含み、)試料と検出器との間に配置され、検出器上で回折パターンを変位させるビーム偏向モジュール
(ii) 検出器に接続され、回折パターンに対して検出器を変位させるアクチュエータモジュール(例えば、電動ステージ)
、及びその組み合わせを含む群から選択される走査アセンブリを使用してもたらされることができる。ビーム走査(技術(i))は、(SEM、STEM等)走査型CPMで使用される従来的な手法であるが、本発明はその変更を必要とする(試料の前/上方ではなく、その後/下方で生じさせる)。アプローチ(ii)はCPMにおいてはあまり一般的ではないが、リソグラフィなどの分野において洗練された走査ステージが既に使用されており、多くの異なる実装形式において利用可能であるため、技術的ハードルを提示しなくてよい。
【0011】
本発明の一実施形態では、相対運動の振幅は、記録される回折パターンにおける任意の所与の第1及び第2の局所強度最大値に対して、対応する第1及び第2の軌跡が互いに交差しないように選択される。そのような実施形態であれば、本質的に、パターンがそれ自体を横切ってスミアアウトされないこと、すなわち、隣接する輝点による軌跡がお互いの経路を交差しないことを保証する。別の言い方をすれば、選択された軌跡が最小の単位セル内に収まる場合、隣接する単位セルは重なり合わない。そのような動きは、上述したデコンボリューションの作業を単純化する。しかし、これは強制的な前提条件ではないことに留意すべきである。検出器上のスミアアウトされたバージョンから、オリジナルの(静的な)回折パターンを抽出(distillation)することを(いくぶん)複雑化させるが、必要であれば、選択された軌跡がこの規則に違反してもよい。
【0012】
選択される軌跡に関して、例えば、直線セグメント又は円弧など、異なる可能な形態を有してよい。代替的には、例えば、円、楕円又は長円などの閉曲線であってよい。閉曲線の利点は、一致する開始点と終了点を有することができることであり、走査機構の観点から(上記の(i)と(ii)の運動アプローチの両方に関連する、ヒステリシス、反転、ジャーク等の影響に対して)有利である。前の段落を参照すると、例示的な例として、所与のパターン内の2つの最も近いスポットが(例えば、)20個の検出器ピクセルで離れている場合、20ピクセル未満の円軌跡は上述の交差現象を回避する。円軌跡の利点は、(例えば、)その円周に沿って単に3つの粒子ヒットでその幾何学的中心を決定することができることである。円軌跡はまた、すべての方向において同じ「幅」(直径/振幅)を有するため、上述の交差/重複問題を最適に回避する。
【0013】
関与する試料の異なる傾き値の離散数で回折パターンを検査することができることに留意されたい。そのような状況では、本発明の関連では、各別個の傾き値に対して合計された一連のフレームを取得することができる。化学的/物理的変化を受ける試料の場合も同様の考慮を適用することができる。そのような場合には、合計された一連のフレームは、関係する変化の前後で別々に取得することができる。
【0014】
本発明において使用される検出器は、例えば、CCD(電荷結合デバイス)を含むことができる。代替的には、上記に示唆したように、例えば、CMOS(相補型金属酸化膜半導体)センサを含むことができる。CMOSセンサの考えられる利点は、適応的な読み出しレートを可能にすることであり、例えば、比較的強い信号(例えば、回折パターンの中心/ゼロ次のピークを囲む)を受信する第1の検出器領域が、比較的弱い信号(例えば、より高次の従属回折ピークの近く)を受信する第2の検出器領域よりもより頻繁に(例えば、2倍又は3倍頻繁に)読み出されることを可能にし、全体的なダイナミックレンジの改善を可能にする。例えば、本発明の特定の状況においては、各運動軌跡(周波数f)の完了後に第1の検出器領域を読み出すことができるが、運動軌跡の各対(周波数f=1/2f)の完了後に第2の検出器領域を読み出すことができる。
【0015】
原理的には、本発明の方法は、回折ピークが、強いバックグラウンド信号に重ね合わされる状況においてなんらかの制限を受けると考えられ得る。しかし、通常、このようなバックグラウンドによる寄与は比較的低く、特にゼロ損失エネルギーフィルタリングが適用される場合には、比較的低い。従って、これは重要な問題ではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
ここで、本発明を例示的な実施形態および添付の概略図に基づいてより詳細に説明する。
【0017】
図1】本発明が実装されるTCPMの実施形態の縦断面立面図を表す。
図2】本発明の一実施形態を使用して記録されたアスベスト試料の回折パターンの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面では、関連し対応する部分は対応する参照符号を使用して示す。
【0019】
実施形態1
図1(縮尺通りではない)は、本発明が実装されるTCPM Mの実施形態の高度に概略化した描写である。より具体的には、TEM/STEMの実施形態を示す(ただし、本発明の関連では、例えばイオンベースの顕微鏡を有効なものとすることができる)。図では、真空エンクロージャ2内で、電子ソース4は、電子光軸B´に沿って伝搬し、電子光学照明器(荷電粒子ビームカラム)6を横断する電子ビームBを生成する。電子工学照明器6は、試料Sの選択された部分(例えば、(局所的に)薄くされ/平坦化されたところでよい)上に電子を指向する/集約する役割を果たす。偏向器8も表されており、(とりわけ、)ビームBの走査運動をもたらすために使用することができる。
【0020】
試料Sは、自由な複数の角度に位置決めすることができる位置決めデバイス/ステージAに保持される。位置決めデバイス/ステージAは、ホルダHが(着脱可能に)固定されたクレイドルA´を移動させる。例えば、試料ホルダHは、(とりわけ、)XY平面内で移動する(表したデカルト座標系を参照。典型的には、Zに平行な運動及びX/Yに対する傾きも可能である)フィンガを含んでよい。そのような移動により、軸B´(Z方向)に沿って移動する電子ビームBによって試料Sの異なる部分を照射/撮像/検査することができる、及び/又は走査運動をビーム走査の代替として実行することができる。必要であれば、オプションの冷却デバイス(図示せず)を、試料ホルダHと密接に熱接触させて、例えば、それを(及びその上にある試料Sを)低温に維持するようにすることができる。
【0021】
電子ビームBは、(例えば、)二次電子、後方散乱電子、X線及び光学放射(カソードルミネッセンス)を含む、様々なタイプの「誘導」放射が試料Sから放出されるように試料Sと相互作用する。必要であれば、これらの放射タイプのうちの1つ以上を、分析デバイス22の助けを借りて検出することができる。分析デバイス22は、例えば、シンチレータ/光電子増倍管または又はEDX(エネルギー分散型X線分光)モジュールを組み合わせてもよい。そのような場合には、SEMと基本的には同じ原理を用いて画像を構築することができる。しかし、代替的又は補足的に、試料Sを横断して(通過して)、そこから出て/放出され、軸B´に沿って(実質的にはいくらかの偏向/散乱を伴うが)伝搬する電子を研究することができる。そのような透過電子束が、イメージングシステム(投影レンズ)24に入る。イメージングシステム24は、一般には、様々な静電/磁気レンズ、偏向器、補正器(非点収差器など)を含む。通常(非走査)TEMモードでは、このイメージングシステム24は、透過電子束を蛍光スクリーン26上に収束させることができる。必要であれば、蛍光スクリーン26を、軸B´からどかすように、(矢印26´によって概略的に示すように)後退させる/引き下げることができる。標本Sの(一部の)の画像又はディフラクトグラムは、イメージングシステム24によってスクリーン26上に形成される。これは、エンクロージャ2の壁の適切な部分に配置されたビューポート28を通して見てもよい。スクリーン26に対する後退機構は、例えば、本質的に機械的及び/又は電気的なものであってもよく、ここには図示されない。
【0022】
スクリーン26上の画像/回折図を見る代わりに、画像システム24から出る電子束の焦点深度が一般にかなり大きい(例えば、1メートルのオーダー)という事実を利用することができる。結果として、様々な他のタイプの分析装置をスクリーン26の下流で使用することができる。例えば、
- TEMカメラ30。カメラ30において、電子束は、コントローラ/プロセッサ20によって処理し、例えば、フラットパネルディスプレイのような表示デバイス(図示せず)上に表示することができる静止画像又は回折図を形成することができる。必要ではないときは、カメラ30を、軸B´からどかすように、(矢印30´によって概略的に示すように)後退させる/引き下げることができる。
- STEMカメラ32。STEMカメラ32からの出力は、試料S上のビームBの(X,Y)走査位置の関数として記録することができ、XYの関数としてカメラ32からの出力の「マップ」である画像を構築することができる。カメラ32は、カメラ30内に特徴的に存在するピクセルの行列とは対照的に、例えば、20mmの直径を有する単一ピクセルを含むことができる。さらに、カメラ32は、一般に、カメラ30(例えば、毎秒10画像)よりもはるかに高い取得レート(例えば、毎秒10ポイント)を有する。繰り返しにはなるが、必要ではないときは、カメラ32を、軸B´からどかすように、(矢印32´によって概略的に示すように)後退させる/引き下げることができる(ただし、そのような後退は、例えば、ドーナツ形状の円形ダーク領域カメラ32の場合には必要ではない。そのようなカメラでは、中心孔により、カメラが使用されないときは、束が通過できる)。
- カメラ30又は32を使用したイメージングの代わりに、例えば、EELSモジュールとすることができる分光装置34を起動させることもできる。アイテム30、32及び34の順序/位置は厳密ではなく、多くの可能な変形が考えられることに留意すべきである。例えば、分光装置34をイメージングシステム24に一体化することもできる。
【0023】
コントローラ(コンピュータプロセッサ)20は、制御線(バス)20´を介して様々な図示された構成要素に接続されることに留意されたい。このコントローラ20は、動作の同期、設定値の提供、信号の処理、計算の実行、表示デバイス(図示せず)上でのメッセージ/情報の表示等の様々な機能を提供することができる。言うまでもなく、(概略的に表された)コントローラ20は、(部分的に)エンクロージャ2の内部又は外部にあってもよく、必要に応じて単一又は複合構造を有してもよい。
【0024】
当業者であれば、エンクロージャ2の内部を厳密な真空に保つ必要はないことを理解するであろう。例えば、いわゆる「環境TEM/STEM」では、所与のガスのバックグラウンド雰囲気が、エンクロージャ2内に意図的に導入/維持される。当業者は、可能な場合には、採用される電子ビームが通過する小さな管(例えば、直径が1cm程度のもの)の形態を取るが、ソース4、試料ホルダH、スクリーン26、カメラ30、カメラ32、分光装置34等の構造を収容するために広がっており、軸B´に本質的に沿って延びるように、エンクロージャ2の容量を制限することが実際には有利となることがあることも理解するだろう。
【0025】
本発明に関連では、ビーム偏向モジュール40が、イメージングシステム24から放出される電子を横方向に偏向させることができるように、イメージングシステム24とTEMカメラ30との間に設けられる。より具体的には、電子がカメラ30の検出面上で制御可能な(XY平面での)軌跡を描くようにする。代替的に/補助的に、カメラ30を精密XY運動ステージ上に搭載して、ビーム運動ではなく検出器運動を介して最終的に同じ効果を達成するようにすることができる。カメラ30が電子計数モードで動作することにより、一連のマルチフレーム回折測定において各構成フレームの記録中に軌跡が(1回以上)描かれ、それにより構成する輝点がトレースされた個々のバージョンに置き換えられる回折パターンを記録する。そのようなシナリオは、例えば、図2に表される。図2は、本発明の方法を円軌跡と共に使用して得られたアスベスト試料の回折パターンを示す。図2の下部は、図2の上部の白い挿入図/ボックスの内容を拡大して表示し、様々な回折スポットによって描かれた円軌跡を明確に示す。各軌跡に沿った個々の電子ヒットは、パターン内の各スポットの累積電子線量/強度を与えるように加算/積分される。
図1
図2