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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-14
(45)【発行日】2022-07-25
(54)【発明の名称】ズームレンズおよび撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 15/20 20060101AFI20220715BHJP
   G02B 13/18 20060101ALN20220715BHJP
【FI】
G02B15/20
G02B13/18
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019059477
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020160265
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川名 正直
(72)【発明者】
【氏名】島田 泰孝
(72)【発明者】
【氏名】田中 琢也
(72)【発明者】
【氏名】田中 琢也
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-128491(JP,A)
【文献】特開2016-075828(JP,A)
【文献】特開2018-072581(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170047(WO,A1)
【文献】特開2015-230449(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0301141(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00-17/08
G02B 21/02-21/04
G02B 25/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群と、正の屈折力を有する第4レンズ群と、正の屈折力を有する第5レンズ群とからなり、
広角端から望遠端への変倍の際に、前記第1レンズ群と前記第5レンズ群とは像面に対して固定されており、前記第2レンズ群は像側へ移動し、前記第3レンズ群と前記第4レンズ群とは隣り合うレンズ群との間隔を変化させて光軸に沿って移動し、
前記第1レンズ群は、物体側から像側へ順に、合焦の際に像面に対して固定されている負の屈折力を有する第1aレンズ群と、合焦の際に光軸に沿って移動する正の屈折力を有する第1bレンズ群と、合焦の際に像面に対して固定されている正の屈折力を有する第1cレンズ群とからなり、
前記第2レンズ群は、最も物体側から像側へ順に連続して、1枚の正レンズと、1枚以上の負レンズとを含 み、
前記第2レンズ群に含まれる負レンズのうち、d線基準のアッベ数が最大の負レンズは、前記正レンズの像側に前記正レンズに連続して配置されている ズームレンズ。
【請求項2】
前記第2レンズ群に含まれる負レンズのうち、d線基準のアッベ数が最大の負レンズについて、d線基準のアッベ数をνn、g線とF線間の部分分散比をθnとした場合、
0.01<θn-(0.6483-0.001802×νn)<0.08 (1)
で表される条件式(1)を満足する請求項1に記載のズームレンズ。
【請求項3】
前記正レンズと、前記正レンズの像側に前記正レンズに連続して配置された負レンズとは、互いに接合されて接合レンズを構成している請求項1又は2に記載のズームレンズ。
【請求項4】
前記接合レンズの前記正レンズのd線基準のアッベ数をνp1、
前記接合レンズの前記正レンズのg線とF線間の部分分散比をθp1、
前記接合レンズの前記負レンズのd線基準のアッベ数をνn1、
前記接合レンズの前記負レンズのg線とF線間の部分分散比をθn1とした場合、
35<νn1-νp1<70 (2)
-0.09<θn1-θp1<-0.03 (3)
で表される条件式(2)および(3)を満足する請求項に記載のズームレンズ。
【請求項5】
前記第2レンズ群の焦点距離をf2、
前記正レンズの焦点距離をfp1とした場合、
0.3<|f2/fp1|<0.65 (4)
で表される条件式(4)を満足する請求項1からのいずれか1項に記載のズームレンズ。
【請求項6】
前記第2レンズ群が、2枚以上の正レンズと3枚以上の負レンズとからなる請求項1からのいずれか1項に記載のズームレンズ。
【請求項7】
0.02<θn-(0.6483-0.001802×νn)<0.07 (1-1)
で表される条件式(1-1)を満足する請求項2に記載のズームレンズ。
【請求項8】
0.03<θn-(0.6483-0.001802×νn)<0.07 (1-2)
で表される条件式(1-2)を満足する請求項2に記載のズームレンズ。
【請求項9】
45<νn1-νp1<70 (2-1)
で表される条件式(2-1)を満足する請求項に記載のズームレンズ。
【請求項10】
-0.08<θn1-θp1<-0.04 (3-1)
で表される条件式(3-1)を満足する請求項に記載のズームレンズ。
【請求項11】
0.4<|f2/fp1|<0.65 (4-1)
で表される条件式(4-1)を満足する請求項に記載のズームレンズ。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載のズームレンズを備えた撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ズームレンズ、および撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放送用カメラ、映画撮影用カメラ、およびデジタルカメラ等に使用されるズームレンズとして、5群構成のレンズ系が知られている。例えば、下記特許文献1には、物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、第3レンズ群と、第4レンズ群と、正の屈折力を有する第5レンズ群とを備え、変倍の際に第2レンズ群と第3レンズ群と第4レンズ群とが移動するズームレンズが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-230449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、高画質を求めて従来よりもセンササイズの大きなカメラが用いられるようになってきており、このようなカメラに対応可能なイメージサークルが大きいレンズ系が求められている。また、映像の精細さに対する要求も高まっており、センササイズが大きくなっても従来と同等以下のピクセルピッチに対応可能な光学性能を有することがレンズ系には求められている。一方、撮影現場でのオペレーションを考慮すると、従来使用されていたレンズ系と比べて著しく大型化することは避けたいという要望がある。
【0005】
特許文献1に記載されている5群構成のレンズ系は、倍率色収差が大きく、イメージサークルが小さい。近年要望されているサイズのイメージサークルに対応させるように、特許文献1に記載されている5群構成のレンズ系を比例拡大し、良好な光学性能を実現しようとすると、レンズ系全長が長くなってしまう。
【0006】
本開示は、上記事情に鑑みなされたものであり、全系のサイズを抑えながらも、イメージサークルが大きく、良好な光学性能を有するズームレンズ、およびこのズームレンズを備えた撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係るズームレンズは、物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群と、正の屈折力を有する第4レンズ群と、正の屈折力を有する第5レンズ群とからなり、広角端から望遠端への変倍の際に、第1レンズ群と第5レンズ群とは像面に対して固定されており、第2レンズ群は像側へ移動し、第3レンズ群と第4レンズ群とは隣り合うレンズ群との間隔を変化させて光軸に沿って移動し、第1レンズ群は、物体側から像側へ順に、合焦の際に像面に対して固定されている負の屈折力を有する第1aレンズ群と、合焦の際に光軸に沿って移動する正の屈折力を有する第1bレンズ群と、合焦の際に像面に対して固定されている正の屈折力を有する第1cレンズ群とからなり、第2レンズ群は、最も物体側から像側へ順に連続して、1枚の正レンズと、1枚以上の負レンズとを含み、第2レンズ群に含まれる負レンズのうち、d線基準のアッベ数が最大の負レンズは、上記正レンズの像側に上記正レンズに連続して配置されている
【0008】
上記態様のズームレンズの第2レンズ群に含まれる負レンズのうち、d線基準のアッベ数が最大の負レンズについて、d線基準のアッベ数をνn、g線とF線間の部分分散比をθnとした場合、下記条件式(1)を満足することが好ましく、下記条件式(1-1)を満足することがより好ましく、下記条件式(1-2)を満足することがさらにより好ましい。
0.01<θn-(0.6483-0.001802×νn)<0.08 (1)
0.02<θn-(0.6483-0.001802×νn)<0.07 (1-1)
0.03<θn-(0.6483-0.001802×νn)<0.07 (1-2)
【0009】
上記態様のズームレンズの第2レンズ群に含まれる負レンズのうち、d線基準のアッベ数が最大の負レンズは、上記正レンズの像側に上記正レンズに連続して配置されていることが好ましい。
【0010】
上記態様のズームレンズにおいて、上記正レンズと、上記正レンズの像側に上記正レンズに連続して配置された負レンズとは、互いに接合されて接合レンズを構成していることが好ましい。
【0011】
上記態様のズームレンズが上記接合レンズを有する場合、接合レンズの正レンズのd線基準のアッベ数をνp1、接合レンズの正レンズのg線とF線間の部分分散比をθp1、接合レンズの負レンズのd線基準のアッベ数をνn1、接合レンズの負レンズのg線とF線間の部分分散比をθn1とした場合、下記条件式(2)および(3)を満足することが好ましい。また、条件式(2)および(3)を満足した上で、下記条件式(2-1)および(3-1)の少なくとも一方を満足することがより好ましい。
35<νn1-νp1<70 (2)
-0.09<θn1-θp1<-0.03 (3)
45<νn1-νp1<70 (2-1)
-0.08<θn1-θp1<-0.04 (3-1)
【0012】
上記態様のズームレンズにおいて、第2レンズ群の焦点距離をf2、上記正レンズの焦点距離をfp1とした場合、下記条件式(4)を満足することが好ましく、下記条件式(4-1)を満足することがより好ましい。
0.3<|f2/fp1|<0.65 (4)
0.4<|f2/fp1|<0.65 (4-1)
【0013】
上記態様のズームレンズの第2レンズ群は、2枚以上の正レンズと3枚以上の負レンズとからなることが好ましい。
【0014】
本開示の別の態様に係る撮像装置は、本開示の上記態様のズームレンズを備えている。
【0015】
なお、本明細書の「~からなり」、「~からなる」は、挙げられた構成要素以外に、実質的に屈折力を有さないレンズ、並びに、絞り、フィルタ、およびカバーガラス等のレンズ以外の光学要素、並びに、レンズフランジ、レンズバレル、撮像素子、および手振れ補正機構等の機構部分、等が含まれていてもよいことを意図する。
【0016】
なお、本明細書の「正の屈折力を有する~群」は、群全体として正の屈折力を有することを意味する。同様に「負の屈折力を有する~群」は、群全体として負の屈折力を有することを意味する。「正の屈折力を有するレンズ」と「正レンズ」とは同義である。「負の屈折力を有するレンズ」と「負レンズ」とは同義である。「レンズ群」は、複数のレンズからなる構成に限らず、1枚のみのレンズからなる構成としてもよい。
【0017】
非球面を含むレンズに関する、屈折力の符号、および面形状は、特に断りが無い限り、近軸領域で考えることにする。複合非球面レンズ(球面レンズと、その球面レンズ上に形成された非球面形状の膜とが一体的に構成されて、全体として1つの非球面レンズとして機能するレンズ)は、接合レンズとは見なさず、1枚のレンズとして扱う。
【0018】
条件式で用いている「焦点距離」は、近軸焦点距離である。条件式で用いている値は、部分分散比以外、無限遠物体に合焦した状態において、d線を基準とした場合の値である。あるレンズのg線とF線間の部分分散比θgFとは、g線、F線、およびC線に対するそのレンズの屈折率をそれぞれNg、NF、およびNCとした場合に、θgF=(Ng-NF)/(NF-NC)で定義される。本明細書に記載の「d線」、「C線」、「F線」、および「g線」は輝線であり、d線の波長は587.56nm(ナノメートル)、C線の波長は656.27nm(ナノメートル)、F線の波長は486.13nm(ナノメートル)、g線の波長は435.84nm(ナノメートル)である。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、全系のサイズを抑えながらも、イメージサークルが大きく、良好な光学性能を有するズームレンズ、およびこのズームレンズを備えた撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本開示の実施例1のズームレンズに対応し、本開示の一実施形態に係るズームレンズの構成の断面図と移動軌跡を示す図である。
図2図1に示すズームレンズの各変倍状態における構成と光束を示す断面図である。
図3】本開示の実施例1のズームレンズの各収差図である。
図4】本開示の実施例2のズームレンズの構成の断面図と移動軌跡を示す図である。
図5】本開示の実施例2のズームレンズの各収差図である。
図6】本開示の実施例3のズームレンズの構成の断面図と移動軌跡を示す図である。
図7】本開示の実施例3のズームレンズの各収差図である。
図8】本開示の実施例4のズームレンズの構成の断面図と移動軌跡を示す図である。
図9】本開示の実施例4のズームレンズの各収差図である。
図10】本開示の実施例5のズームレンズの構成の断面図と移動軌跡を示す図である。
図11】本開示の実施例5のズームレンズの各収差図である。
図12】本開示の一実施形態に係る撮像装置の概略的な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示のズームレンズの実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本開示の一実施形態に係るズームレンズの広角端における構成を示す断面図と移動軌跡を示す図である。図2は、このズームレンズの各変倍状態における構成と光束を示す断面図である。図1および図2に示す例は後述の実施例1のズームレンズに対応している。図1および図2では、無限遠物体に合焦している状態を示し、左側が物体側、右側が像側である。図2では、「WIDE」と付した上段に広角端状態を示し、「TELE」と付した下段に望遠端状態を示す。図2では、光束として、広角端状態における軸上光束waおよび最大画角の光束wb、望遠端状態における軸上光束taおよび最大画角の光束tbを示す。以下では主に図1を参照しながら説明する。
【0022】
図1では、ズームレンズが撮像装置に適用されることを想定して、ズームレンズと像面Simとの間に平行平板状の光学部材PPが配置された例を示している。光学部材PPは、各種フィルタ、および/又はカバーガラス等を想定した部材である。各種フィルタとは例えば、ローパスフィルタ、赤外線カットフィルタ、および特定の波長域をカットするフィルタ等である。光学部材PPは屈折力を有しない部材であり、本開示においては光学部材PPを省略した構成も可能である。
【0023】
本開示のズームレンズは、光軸Zに沿って物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第1レンズ群G1と、負の屈折力を有する第2レンズ群G2と、正の屈折力を有する第3レンズ群G3と、正の屈折力を有する第4レンズ群G4と、正の屈折力を有する第5レンズ群G5とからなる。最も物体側の第1レンズ群G1を正レンズ群とすることによって、レンズ系全長の短縮が可能となるため、小型化に有利となる。また、最も像側の第5レンズ群G5を正レンズ群とすることによって、軸外光線の主光線が像面Simへ入射する入射角が大きくなるのを抑制できるので、シェーディングを抑制することが可能となる。
【0024】
図1に示す例では、第1レンズ群G1は、物体側から像側へ順に、レンズL11~L18の8枚のレンズからなり、第2レンズ群G2は、物体側から像側へ順に、レンズL21~L25の5枚のレンズからなり、第3レンズ群G3は、物体側から像側へ順に、レンズL31~L33の3枚のレンズからなり、第4レンズ群G4は、物体側から像側へ順に、開口絞りStとレンズL41~L43の3枚のレンズとからなり、第5レンズ群G5は、物体側から像側へ順に、レンズL51~L57の7枚のレンズからなる。ただし、本開示のズームレンズにおいては、各レンズ群を構成するレンズの枚数は、図1に示す例と異なる枚数とすることも可能である。また、図1の開口絞りStは形状を示しているのではなく、光軸方向の位置を示している。
【0025】
本開示のズームレンズにおいては、広角端から望遠端への変倍の際に、第1レンズ群G1と第5レンズ群G5とは像面Simに対して固定されており、第2レンズ群G2は常に像側へ移動し、第3レンズ群G3と第4レンズ群G4とは隣り合うレンズ群との間隔を変化させて光軸Zに沿って移動するように構成される。図1では、第2レンズ群G2、第3レンズ群G3、および第4レンズ群G4の下にそれぞれ、広角端から望遠端へ変倍する際の各レンズ群の移動軌跡を模式的に矢印で示している。負の屈折力を有する第2レンズ群G2を移動させて主な変倍を行い、第3レンズ群G3および第4レンズ群G4を移動させて変倍に伴う像面位置の変動を補正することができる。変倍の際に第3レンズ群G3および第4レンズ群G4は相対的に移動するため、変倍の際の像面湾曲の変動、および変倍の際の球面収差の変動を良好に抑制することが容易となる。また、第1レンズ群G1と第5レンズ群G5とを変倍の際に固定されている構成とすることによって、最も物体側のレンズ面から最も像側のレンズ面までの距離が変倍の際に変化せず、レンズ系の重心の変動を小さくすることができるため、撮影の際の利便性を高めることができる。
【0026】
第1レンズ群G1は、物体側から像側へ順に、合焦の際に像面Simに対して固定されている負の屈折力を有する第1aレンズ群G1aと、合焦の際に光軸Zに沿って移動する正の屈折力を有する第1bレンズ群G1bと、合焦の際に像面Simに対して固定されている正の屈折力を有する第1cレンズ群G1cとからなる。このような構成にすることによって、合焦の際に発生する球面収差および軸上色収差を低減することが容易となる。図1の第1bレンズ群G1bの下に記入された水平方向の両矢印は、第1bレンズ群G1bが合焦の際に移動するフォーカスレンズ群であることを示す。
【0027】
第1bレンズ群G1bは、物体側から像側へ順に、物体側に凸面を向けた正レンズと、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズとからなることが好ましい。このようにした場合は、合焦の際の軸外収差の変動を抑制することが容易となる。
【0028】
一例として、図1に示す例では、第1aレンズ群G1aは、物体側から像側へ順に、レンズL11~L13の3枚のレンズからなり、第1bレンズ群G1bは、物体側から像側へ順に、レンズL14~L15の2枚のレンズからなり、第1cレンズ群G1cは、物体側から像側へ順に、レンズL16~L18の3枚のレンズからなる。ただし、本開示のズームレンズにおいては、各レンズ群を構成するレンズの枚数は、図1に示す例と異なる枚数とすることも可能である。
【0029】
第2レンズ群G2は、最も物体側から像側へ順に連続して、1枚の正レンズと、1枚以上の負レンズとを含むように構成される。第2レンズ群G2の最も物体側に正レンズを配置することによって、第2レンズ群G2内での軸外光線の高さが下がり、倍率色収差の発生を抑えることができる。第2レンズ群G2の最も物体側の正レンズに連続して負レンズを配置することによって、倍率色収差の補正に有利となる。
【0030】
第2レンズ群G2に含まれる負レンズのうち、d線基準のアッベ数が最大の負レンズについて、d線基準のアッベ数をνn、g線とF線間の部分分散比をθnとした場合、下記条件式(1)を満足することが好ましい。条件式(1)の下限以下とならないようにすることによって、2次の色収差の補正に有利となる。条件式(1)の上限以上とならないようにすることによって、適切なアッベ数の材料を選択することが可能となり、1次の色収差の補正が容易になる。なお、下記条件式(1-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができ、下記条件式(1-2)を満足する構成とすれば、さらにより良好な特性とすることができる。
0.01<θn-(0.6483-0.001802×νn)<0.08 (1)
0.02<θn-(0.6483-0.001802×νn)<0.07 (1-1)
0.03<θn-(0.6483-0.001802×νn)<0.07 (1-2)
【0031】
第2レンズ群G2に含まれる負レンズのうち、d線基準のアッベ数が最大の負レンズは、第2レンズ群G2の最も物体側の正レンズの像側にこの正レンズに連続して配置されていることが好ましい。すなわち、第2レンズ群G2に含まれる負レンズのうちd線基準のアッベ数が最大の負レンズは、第2レンズ群G2の負レンズの中で最も物体側に配置されていることが好ましい。このようにした場合は、広角側の倍率色収差の発生を抑制することが容易となる。
【0032】
第2レンズ群G2の最も物体側の正レンズと、この正レンズの像側にこの正レンズに連続して配置された負レンズとは、互いに接合されて接合レンズを構成していることが好ましい。第2レンズ群G2の最も物体側に、正レンズと負レンズとが物体側から順に接合されてなる接合レンズを配置することによって、第2レンズ群G2の光軸上の厚さを抑えながら倍率色収差を良好に補正することが容易となる。
【0033】
第2レンズ群G2の最も物体側に上記接合レンズが配置されている構成において、接合レンズの正レンズのd線基準のアッベ数をνp1、接合レンズの正レンズのg線とF線間の部分分散比をθp1、接合レンズの負レンズのd線基準のアッベ数をνn1、接合レンズの負レンズのg線とF線間の部分分散比をθn1とした場合、下記条件式(2)および(3)を満足することが好ましい。条件式(2)および(3)の両方を満足することによって、望遠側の1次の色収差および2次の色収差を良好に補正することが容易となる。なお、条件式(2)および(3)を満足した上で、下記条件式(2-1)および(3-1)の少なくとも一方を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
35<νn1-νp1<70 (2)
-0.09<θn1-θp1<-0.03 (3)
45<νn1-νp1<70 (2-1)
-0.08<θn1-θp1<-0.04 (3-1)
【0034】
また、第2レンズ群G2の焦点距離をf2、第2レンズ群G2の最も物体側の正レンズの焦点距離をfp1とした場合、下記条件式(4)を満足することが好ましい。条件式(4)の下限以下とならないようにすることによって、第2レンズ群G2内での軸外光線の高さが高くならないため、倍率色収差を小さくすることが容易となる。条件式(4)の上限以上とならないようにすることによって、第2レンズ群G2の最も物体側の正レンズの屈折力が強くなりすぎないため、諸収差の補正が容易となる。なお、下記条件式(4-1)を満足する構成とすれば、より良好な特性とすることができる。
0.3<|f2/fp1|<0.65 (4)
0.4<|f2/fp1|<0.65 (4-1)
【0035】
第2レンズ群G2は、2枚以上の正レンズと3枚以上の負レンズとからなるように構成してもよい。このようにした場合は、第2レンズ群G2の負の屈折力を複数のレンズに分割することによって収差の発生を抑え、各負レンズで発生する色収差を正レンズによって補正し、変倍の際の収差変動を抑えることができる。
【0036】
例えば、第2レンズ群G2は、物体側から順に、正レンズと負レンズとが物体側から順に接合されてなる第1の接合レンズ、負レンズと正レンズとが物体側から順に接合されてなる第2の接合レンズ、および、負レンズからなるように構成することができる。一例として、図1に示す例では、上記の第1の接合レンズが両凸レンズと両凹レンズとからなり、上記の第2の接合レンズが像側に凹面を向けた負レンズと物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズとからなり、第2レンズ群の最も像側の負レンズが両凹レンズからなる。
【0037】
また、図1に示す例では、開口絞りStは第4レンズ群G4内に配置されており、かつ、広角端での第4レンズ群G4と第5レンズ群G5との間隔が、望遠端での第4レンズ群G4と第5レンズ群G5との間隔より大きい。このような構成にすることによって、広角端での開口絞りStの位置を望遠端での開口絞りStの位置より物体側に位置させることができるので、広角端での入射瞳位置を望遠端での入射瞳位置より物体側に位置させることができる。これによって、レンズ系全長が長くならないように抑制しながら第1レンズ群G1の外径の大径化を抑制することが容易となる。
【0038】
上述した好ましい構成および可能な構成は、任意の組合せが可能であり、要求される仕様に応じて適宜選択的に採用されることが好ましい。本開示の技術によれば、全系のサイズを抑えながらも、イメージサークルが大きく、良好な光学性能を有するズームレンズを実現することが可能である。なお、ここでいう「イメージサークルが大きく」とは、イメージサークルの直径が43.2より大きいことを意味する。
【0039】
次に、本開示のズームレンズの数値実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1のズームレンズの構成と移動軌跡は図1に示しており、その図示方法と構成は上述したとおりであるので、ここでは重複説明を一部省略する。実施例1のズームレンズは、物体側から像側へ順に、正の屈折力を有する第1レンズ群G1と、負の屈折力を有する第2レンズ群G2と、正の屈折力を有する第3レンズ群G3と、正の屈折力を有する第4レンズ群G4と、正の屈折力を有する第5レンズ群G5とからなる。変倍の際に、第1レンズ群G1と第5レンズ群G5とは像面Simに対して固定されており、第2レンズ群G2と第3レンズ群G3と第4レンズ群G4とは隣り合うレンズ群との間隔を変化させて光軸Zに沿って移動する。第1レンズ群G1は、物体側から像側へ順に、負の屈折力を有する第1aレンズ群G1aと、正の屈折力を有する第1bレンズ群G1bと、正の屈折力を有する第1cレンズ群G1cとからなる。合焦の際に、第1bレンズ群G1bのみが光軸Zに沿って移動し、その他のレンズ群は全て像面Simに対して固定されている。第1aレンズ群G1aは、物体側から像側へ順に、レンズL11~L13の3枚のレンズからなり、第1bレンズ群G1bは、物体側から像側へ順に、レンズL14~L15の2枚のレンズからなり、第1cレンズ群G1cは、物体側から像側へ順に、レンズL16~L18の3枚のレンズからなり、第2レンズ群G2は、物体側から像側へ順に、レンズL21~L25の5枚のレンズからなり、第3レンズ群G3は、物体側から像側へ順に、レンズL31~L33の3枚のレンズからなり、第4レンズ群G4は、物体側から像側へ順に開口絞りStとレンズL41~L43の3枚のレンズとからなり、第5レンズ群G5は、物体側から像側へ順に、レンズL51~L57の7枚のレンズからなる。以上が実施例1のズームレンズの概要である。
【0040】
実施例1のズームレンズについて、基本レンズデータを表1Aおよび表1Bに、諸元と可変面間隔を表2に、非球面係数を表3に示す。ここでは、1つの表の長大化を避けるため基本レンズデータを表1Aおよび表1Bの2つの表に分けて表示している。表1Aには第1レンズ群G1、第2レンズ群G2、および第3レンズ群G3を示し、表1Bには第4レンズ群G4、第5レンズ群G5、および光学部材PPを示す。表1A、表1B、および表2には、無限遠物体に合焦した状態におけるデータを示す。
【0041】
表1Aおよび表1Bにおいて、Snの欄には最も物体側の面を第1面とし像側に向かうに従い1つずつ番号を増加させた場合の面番号を示し、Rの欄には各面の曲率半径を示し、Dの欄には各面とその像側に隣接する面との光軸上の面間隔を示す。Ndの欄には各構成要素のd線に対する屈折率を示し、νdの欄には各構成要素のd線基準のアッベ数を示し、θgFの欄には各構成要素のg線とF線間の部分分散比を示す。
【0042】
表1Aおよび表1Bでは、物体側に凸面を向けた形状の面の曲率半径の符号を正、像側に凸面を向けた形状の面の曲率半径の符号を負としている。表1Bには開口絞りStおよび光学部材PPも合わせて示している。表1Bでは開口絞りStに相当する面の面番号の欄に面番号と(St)という語句を記載している。表1Aおよび表1Bでは、変倍の際の可変面間隔についてはDD[ ]という記号を用い、[ ]の中にこの間隔の物体側の面番号を付してDの欄に記入している。
【0043】
表2に、変倍比Zr、焦点距離f、FナンバーFNo.、最大全画角2ω、最大像高IH、および、変倍の際の可変面間隔をd線基準で示す。2ωの欄の(°)は単位が度であることを意味する。表2では、広角端状態、望遠端状態の各値をそれぞれWIDE、TELEと表記した欄に示している。
【0044】
基本レンズデータでは、非球面の面番号には*印を付しており、非球面の曲率半径の欄には近軸の曲率半径の数値を記載している。表3において、Snの欄には非球面の面番号を示し、KAおよびAm(mは3以上の整数であり、面により異なる)の欄には各非球面についての非球面係数の数値を示す。表3の非球面係数の数値の「E±n」(n:整数)は「×10±n」を意味する。KAおよびAmは下式で表される非球面式における非球面係数である。
Zd=C×h/{1+(1-KA×C×h1/2}+ΣAm×h
ただし、
Zd:非球面深さ(高さhの非球面上の点から、非球面頂点が接する光軸に垂直な平面に
下ろした垂線の長さ)
h:高さ(光軸からレンズ面までの距離)
C:近軸曲率半径の逆数
KA、Am:非球面係数
であり、非球面式のΣはmに関する総和を意味する。
【0045】
各表のデータにおいて、角度の単位としては度を用い、長さの単位としてはmm(ミリメートル)を用いているが、光学系は比例拡大又は比例縮小しても使用可能なため他の適当な単位を用いることもできる。また、以下に示す各表では所定の桁でまるめた数値を記載している。
【0046】
【表1A】
【0047】
【表1B】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
図3に、実施例1のズームレンズの無限遠物体に合焦した状態の各収差図を示す。図3では左から順に、球面収差、非点収差、歪曲収差、および倍率色収差を示す。図3では「WIDE」と付した上段に広角端状態の収差を示し、「TELE」と付した下段に望遠端状態の収差を示す。球面収差図では、d線、C線、F線、およびg線における収差をそれぞれ実線、長破線、短破線、および一点鎖線で示す。非点収差図では、サジタル方向のd線における収差を実線で示し、タンジェンシャル方向のd線における収差を短破線で示す。歪曲収差図ではd線における収差を実線で示す。倍率色収差図では、C線、F線、およびg線における収差をそれぞれ長破線、短破線、および一点鎖線で示す。球面収差図のFNo.はFナンバーを意味し、その他の収差図のωは半画角を意味する。
【0051】
上記の実施例1に関する各データの記号、意味、記載方法、および図示方法は、特に断りが無い限り以下の実施例においても同様であるので、以下では重複説明を省略する。
【0052】
[実施例2]
実施例2のズームレンズの構成と移動軌跡を図4に示す。実施例2のズームレンズは、実施例1のズームレンズの概要と同様の構成を有する。実施例2のズームレンズについて、基本レンズデータを表4Aおよび表4Bに、諸元と可変面間隔を表5に、非球面係数を表6に、各収差図を図5に示す。
【0053】
【表4A】
【0054】
【表4B】
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
[実施例3]
実施例3のズームレンズの構成と移動軌跡を図6に示す。実施例3のズームレンズは、実施例1のズームレンズの概要と同様の構成を有する。実施例3のズームレンズについて、基本レンズデータを表7Aおよび表7Bに、諸元と可変面間隔を表8に、非球面係数を表9に、各収差図を図7に示す。
【0058】
【表7A】
【0059】
【表7B】
【0060】
【表8】
【0061】
【表9】
【0062】
[実施例4]
実施例4のズームレンズの構成と移動軌跡を図8に示す。実施例4のズームレンズは、実施例1のズームレンズの概要と同様の構成を有する。実施例4のズームレンズについて、基本レンズデータを表10Aおよび表10Bに、諸元と可変面間隔を表11に、非球面係数を表12に、各収差図を図9に示す。
【0063】
【表10A】
【0064】
【表10B】
【0065】
【表11】
【0066】
【表12】
【0067】
[実施例5]
実施例5のズームレンズの構成と移動軌跡を図10に示す。実施例5のズームレンズは、実施例1のズームレンズの概要と同様の構成を有する。実施例5のズームレンズについて、基本レンズデータを表13Aおよび表13Bに、諸元と可変面間隔を表14に、非球面係数を表15に、各収差図を図11に示す。
【0068】
【表13A】
【0069】
【表13B】
【0070】
【表14】
【0071】
【表15】
【0072】
表16に、実施例1~5のズームレンズの条件式(1)~(4)の対応値を示す。表16に示す焦点距離の値はd線基準での値である。
【0073】
【表16】
【0074】
以上説明したデータからわかるように、実施例1~5のズームレンズは、小型化が図られながらも、最大像高が23.15であり、大きなイメージサークルを有し、倍率色収差を含む諸収差が良好に抑えられて高い光学性能を実現している。
【0075】
次に、本開示の実施形態に係る撮像装置について説明する。図12に、本開示の実施形態の撮像装置の一例として、本開示の実施形態に係るズームレンズ1を用いた撮像装置100の概略構成図を示す。撮像装置100としては、例えば、放送用カメラ、映画撮影用カメラ、ビデオカメラ、および監視用カメラ等を挙げることができる。
【0076】
撮像装置100は、ズームレンズ1と、ズームレンズ1の像側に配置されたフィルタ2と、フィルタ2の像側に配置された撮像素子3とを備えている。なお、図12では、ズームレンズ1が備える複数のレンズを概略的に図示している。
【0077】
撮像素子3はズームレンズ1により形成される光学像を電気信号に変換するものであり、例えば、CCD(Charge Coupled Device)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等を用いることができる。撮像素子3は、その撮像面がズームレンズ1の像面に一致するように配置される。
【0078】
撮像装置100はまた、撮像素子3からの出力信号を演算処理する信号処理部5と、信号処理部5により形成された像を表示する表示部6と、ズームレンズ1の変倍を制御する変倍制御部7と、ズームレンズ1の合焦を制御する合焦制御部8とを備える。なお、図12では1つの撮像素子3のみ図示しているが、3つの撮像素子を有するいわゆる3板方式の撮像装置としてもよい。
【0079】
以上、実施形態および実施例を挙げて本開示の技術を説明したが、本開示の技術は上記実施形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、各レンズの曲率半径、面間隔、屈折率、アッベ数、および非球面係数等は、上記各数値実施例で示した値に限定されず、他の値をとり得る。
【符号の説明】
【0080】
1 ズームレンズ
2 フィルタ
3 撮像素子
5 信号処理部
6 表示部
7 変倍制御部
8 合焦制御部
100 撮像装置
G1 第1レンズ群
G1a 第1aレンズ群
G1b 第1bレンズ群
G1c 第1cレンズ群
G2 第2レンズ群
G3 第3レンズ群
G4 第4レンズ群
G5 第5レンズ群
L11~L18、L21~L25、L31~L33、L41~L43、L51~L57 レンズ
ta、wa 軸上光束
tb、wb 最大画角の光束
PP 光学部材
Sim 像面
St 開口絞り
Z 光軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12