(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 25/12 20060101AFI20220719BHJP
C08F 212/10 20060101ALI20220719BHJP
C08F 279/04 20060101ALI20220719BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20220719BHJP
C08L 55/02 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
C08L25/12
C08F212/10
C08F279/04
C08L51/04
C08L55/02
(21)【出願番号】P 2020560980
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(86)【国際出願番号】 KR2019011840
(87)【国際公開番号】W WO2020060110
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2020-10-30
(31)【優先権主張番号】10-2018-0113966
(32)【優先日】2018-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0110895
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ソ・ファ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ビョン・イル・カン
(72)【発明者】
【氏名】ウン・ジュン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】テク・ジュン・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・イン・チョ
(72)【発明者】
【氏名】ドン・クン・シン
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-528722(JP,A)
【文献】国際公開第2011/108486(WO,A1)
【文献】特表2011-521068(JP,A)
【文献】特開2010-070646(JP,A)
【文献】特開平04-198255(JP,A)
【文献】特開平01-092261(JP,A)
【文献】特開平09-263680(JP,A)
【文献】特開平03-177405(JP,A)
【文献】特表2008-521997(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0073453(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
C08C 19/00 - 19/44
C08F 6/00 - 297/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位
のみからなる第1共重合体;及び芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位
のみからなる第2共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
前記第1共重合体は、グラフト率が32から50%であり、
前記第2共重合体は、重量平均分子量が85,000から115,000g/molであり、
残留オリゴマーを1.1重量%以下
;
前記第1共重合体を10から30重量%;及び
前記第2共重合体を70から90重量%で含む、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記第2共重合体は、90,000g/molから115,000g/molである、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
残留オリゴマーを1重量%以下で含む、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
流動指数が220℃、10kgの条件下で30g/10分以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
流動指数が220℃、10kgの条件下で30から50g/10分である、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記第1共重合体は、グラフト率が35から45%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記第1共重合体は、シェルの重量平均分子量が55,000から95,000g/molである、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記共役ジエン系重合体は、平均粒径が0.05から0.5μmである、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記第1共重合体は、残留オリゴマーを1.5重量%以下で含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
前記第2共重合体は、残留オリゴマーを1.6重量%以下で含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本発明は、2018年9月21日付で出願された韓国特許出願第10-2018-0113966号及び2019年9月6日付で出願された韓国特許出願第10-2019-0110895号に基づいた優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容を本明細書の一部として含む。
【0002】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物に関し、詳細には、外観特性を低下させることなく射出成形時間が短縮される熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
ABSグラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物は、耐化学性、剛性、耐衝撃性及び加工性を取り揃えており、表面光沢に優れ、メッキ、印刷、塗装などの2次加工特性に優れるので、家電、自動車、雑貨などの多様な用途に広く用いられている。
【0004】
熱可塑性樹脂組成物を家電部品または自動車部品に製造する場合、射出成形工程を利用する場合が多い。そのため、射出成形時の生産性を向上させるために、射出成形時間を短縮させるためのさまざまな努力がされてきた。詳細には、製品の厚さなどのデザインを調整したり、金型設計を最適化したりする方法などが提案されたが限界があり、射出温度を下げるなどの加工条件を調整する場合、外観品質が低下するという問題があった。現在は、部品の大型化などにより射出成形時間、特に冷却時間がさらに増加するようになった。
【0005】
よって、熱可塑性樹脂組成物で製造された射出成形品の生産性を向上させるためには、射出成形時間を短縮させることができる素材の開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、外観特性を低下させることなく射出成形時間が短縮され、生産性を向上させることができ、外観特性にも優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体単位を含む第1共重合体;及び芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位を含む第2共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物であって、前記第1共重合体は、グラフト率が32から50%であり、前記第2共重合体は、重量平均分子量が85,000から115,000g/molであり、前記熱可塑性樹脂組成物は、前記第1共重合体を30重量%以下、残留オリゴマーを1.1重量%以下で含む熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、固化速度が高いので、射出成形時に外観特性を低下させることなく冷却時間が短縮され得る。よって、本発明の熱可塑性樹脂組成物で製造された成形品は生産性がより向上し得る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に対する理解を助けるために本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
本明細書及び特許請求の範囲に用いられた用語や単語は、通常的かつ辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自身の発明を最良の方法で説明するために用語の概念を適宜定義することができるという原則に即し、本発明の技術的思想に適合する意味と概念に解釈されなければならない。
【0011】
本発明において、残留オリゴマーは、ガスクロマトグラフィー(GC)で測定することができる。詳細には、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物2gをクロロホルム10mlに溶解させ、メタノール30mlで沈澱させた後、上澄液を取ってろ過(0.2μmディスクシリンジフィルター(disc syringe filter))してから、ALS-GC/FID(Automatic Liquid Sampler-Gas Chromatography/Flame Ionization Detector)で分析して測定することができる。
【0012】
本発明において、流動指数は、ASTM D1238に基づいて、220℃、10kgの条件下で測定することができる。
【0013】
本発明において、第1共重合体のグラフト率は、第1共重合体粉末2gをアセトン300mlに24時間撹拌しながら溶かし、遠心分離機で分離した後、分離されたアセトン溶液をメタノールに落としてグラフトされていない部分を収得し、これを60から120℃で乾燥して乾燥物を収得する。この乾燥物の重量を測定し、下記式に基づいて測定することができる。
グラフト率(%)=[(乾燥物の重量)-(共役ジエン系重合体の重量)]/[共役ジエン系重合体の重量]×100
共役ジエン系重合体の重量=グラフト共重合体粉末2gに理論上投入された共役ジエン系重合体の固形分重量;またはグラフト共重合体を赤外線分光法で分析して測定した共役ジエン系重合体の重量
【0014】
本発明において、第1共重合体のシェルの重量平均分子量は、共役ジエン系重合体にグラフトされた芳香族ビニル系単量体単位とビニルシアン系単量体単位を含む共重合体の重量平均分子量を意味し得る。
【0015】
本発明において、第1共重合体のシェルの重量平均分子量は、グラフト率の測定方法で記載された乾燥物を1重量%の濃度でテトラヒドロフラン(THF)溶液に溶かし、1μmのフィルターを介してろ過した後、ゲル浸透クロマトグラフィーを介し標準PS(ポリスチレン標準;standard polystyrene)試料に対する相対値として測定することができる。
【0016】
本発明において、共役ジエン系重合体の平均粒径は、動的光散乱(dynamic light scattering)法を用いて測定することができ、詳細には、Nicomp 380装置(製品名、製造社:PSS)を用いて測定することができる。
【0017】
本明細書において、平均粒径は、動的光散乱法により測定される粒度分布における算術平均粒径、すなわち、散乱強度の平均粒径を意味し得る。
【0018】
本発明において、第2共重合体の重量平均分子量は、溶出液としてテトラヒドロフラン(THF)を用い、ゲル浸透クロマトグラフィーを介し標準PS(ポリスチレン標準;standard polystyrene)試料に対する相対値として測定することができる。
【0019】
1.熱可塑性樹脂組成物
本発明の一実施形態による熱可塑性樹脂組成物は、1)共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体単位を含む第1共重合体;及び2)芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位を含む第2共重合体を含み、前記1)第1共重合体は、グラフト率が32から50%であり、前記2)第2共重合体は、重量平均分子量が85,000から115,000g/molであり、前記熱可塑性樹脂組成物は、前記第1共重合体を30重量%以下、残留オリゴマーを1.1重量%以下で含む。
【0020】
前記熱可塑性樹脂組成物は、残留オリゴマーを1重量%以下で含むのが好ましい。残留オリゴマーの場合、第1共重合体と第2共重合体それぞれを製造時の副産物として製造されるものであって、第1共重合体と第2共重合体内に含まれている。そして、残留オリゴマーは、残留単量体とは異なり熱可塑性樹脂組成物の加工時に少量のみ揮発されるので、第1及び第2共重合体内の残留オリゴマーの含量を考慮し、前述の含量以下で残留オリゴマーが含まれるように熱可塑性樹脂組成物を製造しなければならない。残留オリゴマーが前述の含量で含まれると、熱可塑性樹脂組成物の射出成形時に固化速度を高めることができるので、射出成形時の冷却時間を顕著に減らすことができる。また、冷却時間が顕著に減ってもエジェクトピン跡のような外観不良が発生しないため、外観特性に優れる。前述の含量を超過すれば、残留オリゴマーは、熱可塑性樹脂組成物内で可塑剤として作用して熱可塑性樹脂組成物の射出時に固化速度を遅らせ、結果的に射出成形時の冷却時間が長くなる。
【0021】
本発明の一実施形態による熱可塑性樹脂組成物は、前記第1共重合体を30重量%以下で含む。前述の含量を超過すれば、熱可塑性樹脂組成物の流動指数が低下して射出成形性が低下し、よって、射出温度を高めなければならないので、射出成形時の冷却時間が増加する。
【0022】
本発明の一実施形態による熱可塑性樹脂組成物は、前記第1共重合体を10から30重量%、前記第2共重合体を90から70重量%で含んでよく、好ましくは、前記第1共重合体18から28重量%及び第2共重合体82から72重量%で含むのが好ましい。前述の含量を満たせば、熱可塑性樹脂組成物の流動指数が適切に維持されるので、射出成形性に優れるようになる。よって、適切な温度で熱可塑性樹脂組成物を射出することができるので、射出成形時の冷却時間が減少し得る。また、優れた機械的特性を有する熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。
【0023】
前記熱可塑性樹脂組成物は、流動指数が220℃、10kgの条件下で30g/10分以上または30から50g/10分であってよく、このうち30から50g/10分であるのが好ましい。前記流動指数は、前記第1共重合体のグラフト率と第2共重合体の重量平均分子量に影響を受ける要素であって、前述の条件を満たせば、射出成形性に優れるようになって適切な温度で射出することができるので、射出成形時の冷却時間が減少し得る。
【0024】
以下、本発明の一実施形態による熱可塑性樹脂組成物に含まれた第1及び第2共重合体に対して詳細に説明する。
【0025】
1)第1共重合体
前記第1共重合体は、共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位を含む第1共重合体を含む。
【0026】
前記第1共重合体は、熱可塑性樹脂組成物に優れた耐衝撃性、耐化学性及び加工性を付与することができる。
【0027】
前記第1共重合体は、グラフト率が32から50%であり、好ましくは35から45%であってよい。前述の範囲を満たせば、熱可塑性樹脂組成物の流動指数が適切に維持されるので、射出成形性に優れるようになる。よって、適切な温度で熱可塑性樹脂組成物を射出することができるので、射出成形時の冷却時間が減少し得る。前述の範囲を超過すれば、熱可塑性樹脂組成物の流動指数が低下して射出成形性が低下し、よって、射出温度を高めなければならないので、射出成形時の冷却時間が増加する。前述の範囲未満であれば、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が低下する。
【0028】
前記第1共重合体は、シェルの重量平均分子量が55,000から95,000g/molまたは60,000から90,000g/molであってよく、このうち、60,000から90,000g/molが好ましい。前述の範囲を満たせば、熱可塑性樹脂組成物の流動指数が適切に維持されるので、射出成形性に優れるようになる。よって、適切な温度で熱可塑性樹脂組成物を射出することができるので、射出成形時の冷却時間が減少し得る。また、熱可塑性樹脂組成物が優れた耐衝撃性を具現することができる。
【0029】
前記共役ジエン系重合体は、第1共重合体に優れた耐衝撃性と表面光沢特性を付与することができる。
【0030】
前記共役ジエン系重合体は、共役ジエン系重合体に芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体がグラフト重合されることにより、変性された共役ジエン系重合体を含むことができる。
【0031】
前記共役ジエン系重合体は、共役ジエン系重合体が重合、好ましくは乳化重合されて製造されたものであってよく、前記共役ジエン系単量体は、1,3-ブタジエン、イソプレン、クロロプレン及びピペリレンよりなる群から選択される1種以上であってよく、このうち1,3-ブタジエンが好ましい。
【0032】
前記共役ジエン系重合体は、平均粒径が0.05から0.5μmまたは0.1から0.4μmであってよく、このうち0.1から0.4μmが好ましい。前述の条件を満たせば、第1共重合体の耐衝撃性及び表面光沢特性がより改善され得る。
【0033】
前記共役ジエン系重合体は、前記第1共重合体の総重量に対して、50から70重量%または55から65重量%で含まれてよく、このうち55から65重量%で含まれるのが好ましい。前述の条件を満たせば、第1共重合体の剛性、機械的特性、加工性及び表面光沢特性がより改善され得る。
【0034】
前記芳香族ビニル系単量体単位は、第1共重合体に優れた加工性、剛性及び機械的特性を付与することができる。
【0035】
前記芳香族ビニル系単量体単位は、スチレン、α-メチルスチレン、α-エチルスチレン及びp-メチルスチレンよりなる群から選択される1種以上由来の単位であってよく、このうちスチレン由来の単位が好ましい。
【0036】
前記芳香族ビニル系単量体は、前記第1共重合体の総重量に対して、20から40重量%または25から35重量%で含まれてよく、このうち25から35重量%で含まれるのが好ましい。前述の範囲を満たせば、第1共重合体の加工性、剛性及び機械的特性をより改善させることができる。
【0037】
前記ビニルシアン系単量体単位は、第1共重合体に優れた耐化学性を付与することができる。
【0038】
前記ビニルシアン系単量体単位は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル及びα-クロロアクリロニトリルよりなる群から選択される1種以上由来の単位であってよく、このうちアクリロニトリル由来の単位が好ましい。
【0039】
前記ビニルシアン系単量体単位は、前記第1共重合体の総重量に対して、1から20重量%または5から15重量%で含まれてよく、このうち5から15重量%で含まれるのが好ましい。前述の範囲を満たせば、第1共重合体の耐化学性をより改善させることができる。
【0040】
前記第1共重合体は、残留オリゴマーを1.5重量%以下または1.3重量%以下で含んでよく、このうち1.3重量%以下で含まれるのが好ましい。前述の範囲を満たせば、熱可塑性樹脂組成物が残留オリゴマーを最大限少なく、具体的には、残留オリゴマーを1.1重量%以下で含むことができる。
【0041】
前記第1共重合体は、共役ジエン系重合体、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を乳化または塊状重合して製造することができ、このうち第1共重合体が優れた耐衝撃性と表面光沢特性を具現することができるよう乳化重合して製造するのが好ましい。
【0042】
2)第2共重合体
前記第2共重合体は、芳香族ビニル系単量体単位及びビニルシアン系単量体単位を含む。
【0043】
前記第2共重合体は、熱可塑性樹脂組成物に優れた耐化学性、耐衝撃性及び加工性を付与することができる。
【0044】
前記第2共重合体は、重量平均分子量が85,000g/molから115,000g/molであり、好ましくは90,000g/molから115,000g/molであってよく、より好ましくは90,000g/molから110,000g/molであってよい。前述の含量を満たせば、熱可塑性樹脂組成物の流動指数が適切に維持されるので、射出成形性に優れるようになる。よって、適切な温度で熱可塑性樹脂組成物を射出することができるので、射出成形時の冷却時間が減少し得る。また、熱可塑性樹脂組成物に優れた耐衝撃性を付与することができる。前述の範囲未満であれば、熱可塑性樹脂組成物の流動指数が低下して射出成形性が低下し、よって、射出温度を高めなければならないので、射出成形時の冷却時間が増加する。前述の範囲を超過すれば、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が低下する。
【0045】
前記第2共重合体は、芳香族ビニル系単量体単位とビニルシアン系単量体単位を65:35から80:20または70:30から80:20の重量比で含んでよく、このうち70:30から80:20の重量比で含むのが好ましい。前述の範囲を満たせば、熱可塑性樹脂組成物により優れた耐化学性、耐衝撃性及び加工性を付与することができる。
【0046】
前記第2共重合体は、残留オリゴマーを1.6重量%以下または1.5重量%以下で含んでよく、このうち1.5重量%以下で含まれるのが好ましい。前述の範囲を満たせば、熱可塑性樹脂組成物が残留オリゴマーを最大限少なく、具体的には、残留オリゴマーを1.1重量%以下で含むことができる。
【0047】
前記第2共重合体は、芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を懸濁または塊状重合して製造することができ、このうち高純度の共重合体を製造することができる塊状重合で製造するのが好ましい。
【0048】
前記第2共重合体は、詳細には、(1)芳香族ビニル系単量体及びビニルシアン系単量体を投入し塊状重合して重合生成物を製造する段階;及び(2)前記重合生成物を脱揮発させる段階を含む製造方法で製造されてよい。
【0049】
前記塊状重合は、130から150℃で行われてよく、前述の温度を満たせば、反応副産物であるオリゴマーの生成を最大限抑制することができる。
【0050】
また、前記塊状重合は、前述の温度で塊状重合が容易に行われるように1時間半減期温度が105から145℃である開始剤を用いるのが好ましい。
【0051】
前記開始剤は、有機過酸化物であってよく、ジクミルペルオキシド、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルペルオキシシクロヘキサン)プロパン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサンよりなる群から選択された1種以上であってよく、ジクミルペルオキシドが好ましい。
【0052】
前記(1)段階において、前記反応器に反応溶媒及び分子量調節剤をさらに投入してよい。
【0053】
前記反応溶媒は、エチルベンゼン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンよりなる群から選択される1種以上であってよく、このうちトルエンが好ましい。
【0054】
前記分子量調節剤は、n-ドデシルメルカプタン、n-アミルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ヘキシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン及びn-ノニルメルカプタンよりなる群から選択される1種以上であってよく、このうちt-ドデシルメルカプタンが好ましい。
【0055】
前記(2)段階は、前記重合生成物を150から160℃、400torr以下の条件で1次脱揮発させ、前記1次脱揮発させた重合生成物を230から250℃、20torr以下の圧力条件で2次脱揮発させる段階であってよい。前述の条件で重合生成物を脱揮発させると、重合生成物内に含まれた反応溶媒と残留オリゴマーを最大限除去することができる。
【0056】
前記第2共重合体が前述の製造方法で製造されることで、残留オリゴマーの含量が既存の共重合体に比べて顕著に少ないことができる。
【0057】
以下、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できるよう、本発明の実施例に対して詳しく説明する。しかし、本発明はいくつか異なる形態に具現されてよく、ここで説明する実施例に限定されない。
【実施例】
【0058】
実施例及び比較例
グラフト共重合体及びマトリックス共重合体を下記表1及び表2に記載された含量で均一に混合し、熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0059】
実験例1
実施例及び比較例の熱可塑性樹脂組成物をバレルの温度が230℃に設定された二軸押出機に投入してペレット状に製造した。そして、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物の物性を下記のような方法で測定し、その結果を表1及び2に記載した。
【0060】
(1)残留オリゴマー(重量%):ペレット状の熱可塑性樹脂組成物2gをクロロホルム10mlに溶解させ、メタノール30mlで沈澱させた後、上澄液を取ってろ過(0.2μmディスクシリンジフィルター(disc syringe filter))してから、ALS-GC/FID(Automatic Liquid Sampler-Gas Chromatography/Flame Ionization Detector)で分析して測定した。
【0061】
(2)流動指数(g/10分):ASTM D1238に基づいて、220℃、10kgの条件下で測定した。
【0062】
実験例2
実験例1で製造したペレット状の熱可塑性樹脂組成物を射出して試片を製造し、試片の物性を下記のような方法で測定し、その結果を表1及び表2に記載した。
【0063】
(3)必要冷却時間(秒):特製の金型を用いて、220℃の射出機温度と60℃の金型温度の条件で射出し、金型から取り出された成形品にエジェクトピン跡のような外観不良が発生しない時間を測定した。
【0064】
(4)熱変形温度(HDT、℃):ASTM D648に基づいて、18.6kgの条件下で測定した。
【0065】
【0066】
【0067】
表1及び表2を参照すれば、第1共重合体及び第2共重合体を含む実施例1から実施例7は、残留オリゴマーの含量と流動指数が適正な水準を維持するので、必要冷却時間が短いことを確認することができた。そして、熱可塑性樹脂組成物の残留オリゴマーと流動指数が適正な水準である場合、第1共重合体の種類が同じであれば、第1共重合体の含量が低いほど、必要冷却時間が短縮され、熱変形温度が高くなるので、射出成形性及び耐熱性に優れるようになるということを予測できた。
【0068】
そして、熱可塑性樹脂組成物の残留オリゴマーが低いほど、必要冷却時間が短縮され、熱変形温度が高くなるので、射出成形性及び耐熱性に優れるようになるということを予測できた。
【0069】
一方、比較例1の熱可塑性樹脂組成物は、第1及び第2共重合体を全て含むとしても、残留オリゴマーの含量が高かったので、必要冷却時間が長くなり射出成形性が顕著に低下することを予測することができた。
【0070】
比較例2の熱可塑性樹脂組成物は、第1共重合体を過量で含むため、残留オリゴマーの含量が適正な水準であっても流動指数が顕著に低くなったので、必要冷却時間が長くなり射出成形性が顕著に低下することを予測することができた。
【0071】
比較例3の熱可塑性樹脂組成物は、第2共重合体を含まず第1及び第3共重合体だけ含むため、残留オリゴマーの含量が適正な水準であっても流動指数が顕著に低くなったので、必要冷却時間が長くなり射出成形性が顕著に低下することを予測することができた。
【0072】
比較例4及び5の熱可塑性樹脂組成物は、第1共重合体を含まないため、残留オリゴマーの含量が適正な水準であっても流動指数が顕著に低くなったので、必要冷却時間が長くなり射出成形性が低下することを予測することができた。
【0073】
比較例6の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト率が24%であるグラフト共重合体を含むため、熱可塑性樹脂組成物内の残留オリゴマーの含量が適正な水準であっても、流動指数が30g/分であるので、必要冷却時間が長くなり射出成形性が低下することを予測することができた。
【0074】
比較例7の熱可塑性樹脂組成物は、第2共重合体を含まず、重量平均分子量が高くてアクリロニトリル単位の含量が高い第6共重合体を含むため、残留オリゴマーの含量が高くなり、これにより必要冷却時間が長くなったので、射出成形性が低下することを予測することができた。
【0075】
比較例8の熱可塑性樹脂組成物は、第2共重合体を含まず、重量平均分子量が高い第7共重合体を含むため、残留オリゴマーの含量が高くなったことを確認することができた。これにより必要冷却時間が長くなったので、射出成形性が低下することを予測することができた。
【0076】
比較例9の熱可塑性樹脂組成物は、第2共重合体を含まず、重量平均分子量が低くて残留オリゴマーの含量が高い第8共重合体を含むため、残留オリゴマーの含量が高くなったことを確認することができた。これにより必要冷却時間が長くなったので、射出成形性が低下することを予測することができた。