IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ハウス食品株式会社の特許一覧 ▶ ハウス食品グループ本社株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】調味料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20220719BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20220719BHJP
【FI】
A23L27/00 D
A23L19/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018056101
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019165670
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】岩畑 慎一
(72)【発明者】
【氏名】中屋 圭子
(72)【発明者】
【氏名】里見 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】青▲柳▼ 守紘
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-327430(JP,A)
【文献】特開2006-333836(JP,A)
【文献】京大農場報告, 2016年,25号,p.41-44
【文献】たまねぎ - 成井さんちの完熟たまねぎ 1kg[兵庫県淡路島],農家の台所 WEB SHOP, 2016年,p.1-7,webshop.noukanodaidokoro.com/shopdetail/009010000002/, 検索日:2021年10月11日
【文献】圧力鍋で時短飴色タマネギ,Cookpad, 2018年1月14日,p.1-3,https://cookpad.com/recipe/3522340, 検索日:2022年5月30日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00-19/20
A23L 27/00-27/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飴色玉ねぎを含む調味料の製造方法であって、
(1)ピューレ状の生玉ねぎを減圧濃縮して調製したペースト状玉ねぎを用意する工程と、
(2)前記ペースト状玉ねぎを油脂と混合した状態で密閉された空間における加圧状態で加熱し、飴色玉ねぎを調製する工程と、
を含み、前記ペースト状玉ねぎのBrix値が、22~80である、製造方法。
【請求項2】
工程2が、密閉されたレトルトパウチ又は圧力釜により加圧状態で実施される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程1が、生玉ねぎをピューレ状に磨砕して、前記ピューレ状の生玉ねぎを調製する工程、及び/又は、前記ピューレ状の生玉ねぎを減圧濃縮する工程を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記油脂の量が、前記ペースト状玉ねぎ及び前記油脂の合計量に対して、8質量%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法により製造された調味料を添加する工程を含む、食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の調味料の製造方法に関し、特に従来にはない強い後味と濃厚なコクを有する飴色玉ねぎを含む調味料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
玉ねぎを加熱すると、辛みが減少し、かつ甘み及び香ばしさが上昇して、特有の風味が生成されるため、加熱した玉ねぎは、飴色玉ねぎ又はローストオニオンなどとして、家庭用のみならず業務用の食品原料としても従来から利用されている。例えば、特許文献1及び2には、粉末状若しくはスライス状の乾燥玉ねぎ、又は、スライス若しくはみじん切り後に熱風乾燥した玉ねぎを、レトルトパウチ内で加熱することにより品質の安定したローストオニオンを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭60-83567号公報
【文献】特開昭63-167756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、最近では飴色玉ねぎの製造方法はほぼ固定化されており、新しい製造方法は検討されていない。そこで、本発明者らは、飴色玉ねぎの新規の調製方法を開発することを試みた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、意外なことに、ピューレ状の生玉ねぎを減圧濃縮した後に油脂と一緒に加熱することで、従来の飴色玉ねぎにはない、強い後味と濃厚なコクを有する飴色玉ねぎを調製することができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示す調味料の製造方法及び食品の製造方法を提供するものである。
〔1〕飴色玉ねぎを含む調味料の製造方法であって、
(1)ピューレ状の生玉ねぎを減圧濃縮して調製したペースト状玉ねぎを用意する工程と、
(2)前記ペースト状玉ねぎを油脂と混合した状態で加熱し、飴色玉ねぎを調製する工程と、
を含むことを特徴とする、製造方法。
〔2〕工程1が、生玉ねぎをピューレ状に磨砕して、前記ピューレ状の生玉ねぎを調製する工程、及び/又は、前記ピューレ状の生玉ねぎを減圧濃縮する工程を含む、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕前記ペースト状玉ねぎのBrix値が、22~80である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕前記油脂の量が、前記ペースト状玉ねぎ及び前記油脂の合計量に対して、8質量%以上である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の製造方法。
〔5〕前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の方法により製造された調味料を添加する工程を含む、食品の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、従来の飴色玉ねぎにはない、強い後味と濃厚なコクを有する飴色玉ねぎを含む調味料を製造することができる。したがって、当該調味料を使用することによって、製造する食品に飴色玉ねぎの良好な風味を付与し、当該食品への嗜好性を向上することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の飴色玉ねぎを含む調味料の製造方法は、ピューレ状の生玉ねぎを減圧濃縮して調製したペースト状玉ねぎを用意する工程(以下、「工程1」という。)と、前記ペースト状玉ねぎを油脂と混合した状態で加熱し、飴色玉ねぎを調製する工程(以下、「工程2」という。)とを含むことを特徴としている。
【0008】
本明細書に記載の「飴色玉ねぎ」とは、生玉ねぎを、飴色すなわち褐色になるまで加熱して、辛み及び苦味を低減させかつ甘み及び香ばしさを高めた食品原料であり、ローストオニオン又はロースト玉ねぎなどと呼ばれることもある。
【0009】
前記ペースト状玉ねぎは、ピューレ状の生玉ねぎを減圧濃縮して調製したものである限り、どのように用意したものであってもよいが、例えば、生玉ねぎから自ら加工して用意してもいいし、ピューレ状の生玉ねぎを減圧濃縮した加工品を購入して用意してもよい。前記ペースト状玉ねぎを使用することによって、調製される飴色玉ねぎの後味及びコクが向上する原理としては、特定の理論に拘束されるものではないが、例えば、飴色玉ねぎの風味成分のもととなる化学物質は生玉ねぎ中の酵素の働きで生じるものと考えられるところ、生玉ねぎをピューレ状に磨砕することにより、当該酵素とその基質との接触頻度が高まって、前記化学物質の生成が促進されること、及び、減圧濃縮することにより必要以上に加熱することが避けられて、風味成分のもととなる化学物質が揮発して外部に逃げるのを抑えつつ、その濃度を高めることができることなどが考えられる。
【0010】
ある態様では、前記工程1は、生玉ねぎをピューレ状に磨砕して、前記ピューレ状の生玉ねぎを調製する工程、及び/又は、前記ピューレ状の生玉ねぎを減圧濃縮する工程を含む。前記生玉ねぎをピューレ状に磨砕する方法としては、当技術分野で通常採用される方法を、特に制限されることなく使用することができるが、例えば、生玉ねぎを粉砕機にかけて目開き1.0mm以下の篩を通る状態になるまで磨砕してもよい。また、前記ピューレ状の生玉ねぎを減圧濃縮する方法としては、当技術分野で通常採用され得る方法を、特に制限されることなく使用することができるが、例えば、減圧乾燥機によって約100℃未満の温度の板等の上で減圧濃縮してもよい。
【0011】
前記ペースト状玉ねぎのBrix値は、ピューレ状の生玉ねぎ(Brix値は約8程度)から十分に上昇している限り特に制限されないが、例えば約22~約80であってもよく、好ましくは約29~約70、特に好ましくは約33~約60である。前記ペースト状玉ねぎのBrix値がこのような範囲であると、玉ねぎの水分が少ない状態で加熱することができるため、効率よく調理をすることができ、調製される飴色玉ねぎの後味及びコクを一層向上することができる。
【0012】
前記油脂としては、当技術分野で通常採用されるものを、特に制限されることなく使用することができるが、例えば、パーム油、菜種油、ラード、牛脂、バター、大豆油、ココナツ油、キャノーラ油、からし油、ピーナツ油、オリーブ油などであってもよい。前記油脂の量は、前記ペースト状玉ねぎから飴色玉ねぎを調製することができる限り特に制限されないが、例えば、前記ペースト状玉ねぎ及び前記油脂の合計量に対して、約8質量%以上であってもよく、好ましくは約14~約30質量%である。前記油脂をこのような量で使用すると、特定の理論に拘束されるものではないが、例えば、前記ペースト状玉ねぎから飴色玉ねぎの風味成分のもととなる化学物質が効率よく抽出され、かつ効率の良い酵素反応の場が提供されることになるので、調製される飴色玉ねぎの後味及びコクを一層向上することができると考えられる。
【0013】
前記工程2における加熱方法としては、当技術分野で通常採用される方法を、特に制限されることなく使用することができるが、例えば、フライパン、鍋、及び調理釜などを用いて加熱してもいいし、密閉されたレトルトパウチ又は圧力釜などにより加圧状態で加熱してもよい。特に、後者のような密閉された空間で前記ペースト状玉ねぎを加熱すると、当該ペースト状玉ねぎから発生する風味成分や風味成分のもととなる化学物質が外部へ逃げないため、調製される飴色玉ねぎの後味及びコクを一層向上することができる。前記工程2における加熱の条件は、前記ペースト状玉ねぎから飴色玉ねぎを調製することができる限り特に制限されないが、例えば、約100~約150℃であり、約100℃の場合は約180~約220分間、約120℃の場合は約35~約65分間、約150℃の場合は約2~約8分間加熱してもよい。
【0014】
ある態様では、本発明の製造方法は、当技術分野の調味料に通常添加され得る添加剤を、適宜添加する工程をさらに含んでもよい。前記添加剤としては、飴色玉ねぎの良好な風味を妨げない限り特に制限されないが、例えば、香辛料、着色料、香料、甘味料、苦味料、酸味料、うま味調味料、発酵調味料、タンパク加水分解物、保存料、防カビ剤、酸化防止剤、乳化剤、pH調整剤、かんすい、増粘安定剤、酵素、製造用剤、栄養強化剤、みょうばんなどが挙げられる。
【0015】
本発明の製造方法に従って製造された調味料は、種々の食品の調味のために使用することができる。例えば、カレー、シチュー、ハンバーグ、スープ、及びミートソースなどのソースなどに添加して、飴色玉ねぎの良好な風味を付与することができる。換言すれば、本発明は、前記調味料を添加する工程を含む、食品の製造方法にも関している。
【0016】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0017】
〔実施例1〕
生玉ねぎを粉砕機(Vitamix社製、VITA-PREP3)にかけて目開き0.8mmの篩を通る状態になるまで磨砕し、ピューレ状にした。このピューレ状玉ねぎをステンレスバットに敷き詰め、減圧乾燥機(共和真空技術株式会社製「凍結乾燥機」RLEII-204型)内の80℃の板の上にステンレスバットを置き、13.3Pa以下の減圧下で、Brix値が25になるまでピューレ状玉ねぎを濃縮してペースト状にした。このペースト状減圧濃縮玉ねぎ87gとパーム油13gとをレトルトパウチ内に投入し、封をして120℃で40分間加熱して、飴色玉ねぎを含む調味料を調製した。
【0018】
〔実施例2~5〕
上記ピューレ状玉ねぎを、減圧乾燥機によって、Brix値が23、28、35、又は56になるまで濃縮してペースト状にした以外は、実施例1と同様にして、飴色玉ねぎを含む調味料を調製した。
【0019】
〔実施例6~11〕
上記ペースト状減圧濃縮玉ねぎとパーム油を、それぞれ92gと8g、90gと10g、85gと15g、80gと20g、70gと30g、又は50gと50gの量でレトルトパウチ内に投入した以外は、実施例1と同様にして、飴色玉ねぎを含む調味料を調製した。
【0020】
〔比較例1〕
生玉ねぎを10~20mm角にみじん切りした。このみじん切り生玉ねぎ87gと油13gとをフライパンで60分間炒めて、飴色玉ねぎを含む調味料を調製した。
【0021】
〔比較例2〕
上記ペースト状減圧濃縮玉ねぎに代えて、乾燥粉末玉ねぎをBrix値が25になるように水で戻した水戻し玉ねぎを使用した以外は、実施例1と同様にして、飴色玉ねぎを含む調味料を調製した。
【0022】
〔比較例3〕
生玉ねぎを1.5~2.0mmにスライスし、110℃の熱風乾燥によりBrix値が25になるまで濃縮した。この熱風乾燥スライス玉ねぎ87gと油13gとをレトルトパウチ内に投入し、封をして120℃で40分間加熱して、飴色玉ねぎを含む調味料を調製した。
【0023】
〔試験例〕
実施例1~11及び比較例1~3の調味料について、5名のパネリストが官能評価を行った。以下のように比較例1の調味料を基準(△)とし、4段階で他の調味料の後味及びコクを評価した。
(後味)
◎:食べ終わったあと口の中に味が非常に強く残る
○:食べ終わったあと口の中に味が強く残る
△:食べ終わったあと口の中に味がわずかに残る(比較例1の調味料と同等)
×:食べ終わったあと口の中に味が残らない
(コク)
◎:複数の味からなる非常に濃厚なコクを感じる
○:複数の味からなる濃厚なコクを感じる
△:味が単調でありコクが弱い(比較例1の調味料と同等)
×:コクを感じない
【0024】
試験の結果を、以下の表1に示す。
【表1】
【0025】
比較例1~3の方法で調製した調味料では、飴色玉ねぎの後味もコクも低かったが、実施例1~11の方法で調製した調味料では、飴色玉ねぎの強い後味と濃厚なコクを感じることができた。特に、ペースト状玉ねぎの濃縮の程度が高い実施例4及び5や、ペースト状玉ねぎと油脂の配合比率が特に好適な実施例8~10の製造方法で調製した調味料は、非常に強い後味及び非常に濃厚なコクを有していた。
【0026】
以上より、ピューレ状の生玉ねぎを減圧濃縮して調製したペースト状玉ねぎを油脂と一緒に加熱することによって、調製される飴色玉ねぎの後味及びコクを向上することがわかった。したがって、従来の飴色玉ねぎにはない、強い後味と濃厚なコクを有する飴色玉ねぎを含む調味料を調製することが可能となる。