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特許7106484ε-酸化鉄粉末およびこれを含む組成物、磁気記録媒体ならびに磁気記録再生装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】ε-酸化鉄粉末およびこれを含む組成物、磁気記録媒体ならびに磁気記録再生装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/706 20060101AFI20220719BHJP
   G11B 5/714 20060101ALI20220719BHJP
   G11B 5/702 20060101ALI20220719BHJP
   G11B 5/738 20060101ALI20220719BHJP
   G11B 5/735 20060101ALI20220719BHJP
   G11B 5/842 20060101ALI20220719BHJP
   H01F 1/11 20060101ALI20220719BHJP
   H01F 1/113 20060101ALI20220719BHJP
   C01G 49/06 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
G11B5/706
G11B5/714
G11B5/702
G11B5/738
G11B5/735
G11B5/842 Z
H01F1/11
H01F1/113
C01G49/06 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019064069
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020166908
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】直井 憲次
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-169148(JP,A)
【文献】特開2016-051493(JP,A)
【文献】特開2019-021357(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101178965(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/706
G11B 5/714
G11B 5/702
G11B 5/738
G11B 5/735
G11B 5/842
H01F 1/11
H01F 1/113
C01G 49/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子サイズが5.0~16.0nmの範囲であり、
M原子表層部偏在性を有し、
前記M原子は、アルミニウム原子およびイットリウム原子からなる群から選ばれる一種以上の原子であり、かつ
鉄原子100原子%に対する前記M原子の含有率が4.0~9.5原子%の範囲であるε-酸化鉄粉末。
【請求項2】
前記M原子の含有率が4.3~8.0原子%の範囲である、請求項1に記載のε-酸化鉄粉末。
【請求項3】
平均粒子サイズが6.0~16.0nmの範囲である、請求項1または2に記載のε-酸化鉄粉末。
【請求項4】
ガリウム原子、コバルト原子およびチタン原子からなる群から選ばれる一種以上の原子を更に含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のε-酸化鉄粉末。
【請求項5】
前記M原子として、少なくともアルミニウム原子を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のε-酸化鉄粉末。
【請求項6】
前記M原子として、少なくともイットリウム原子を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のε-酸化鉄粉末。
【請求項7】
磁気記録用強磁性粉末である、請求項1~6のいずれか1項に記載のε-酸化鉄粉末。
【請求項8】
非磁性支持体と強磁性粉末を含む磁性層とを有する磁気記録媒体であって、
前記強磁性粉末が、請求項1~7のいずれか1項に記載のε-酸化鉄粉末である磁気記録媒体。
【請求項9】
前記磁性層に含窒素ポリマーを更に含む、請求項8に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を有する、請求項8または9に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有する、請求項8~10のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項12】
請求項8~11のいずれか1項に記載の磁気記録媒体と、磁気ヘッドと、を有する磁気記録再生装置。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか1項に記載のε-酸化鉄粉末を含む組成物。
【請求項14】
結合剤を更に含む、請求項13に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ε-酸化鉄粉末およびこれを含む組成物、磁気記録媒体ならびに磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体に使用される強磁性粉末として、近年、ε-酸化鉄粉末が注目を集めている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-122044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気記録媒体に記録されたデータは、通常、磁気記録媒体を磁気記録再生装置内で走行させて磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させ摺動させることにより、磁気ヘッドによってデータを読み取り再生される。磁気記録媒体に求められる性能の1つとしては、このように磁気記録媒体に記録されたデータを再生する際に優れた電磁変換特性を発揮できることが挙げられる。
また、磁気記録媒体は、近年、様々な環境下で使用される。磁気記録媒体の使用環境の一態様としては、高温高湿環境が挙げられる。
以上に鑑み本発明者は、ε-酸化鉄粉末を磁性層に含む磁気記録媒体の電磁変換特性について検討を重ねた。その結果、本発明者は、従来のε-酸化鉄粉末については、走行初期の電磁変換特性および高温高湿環境下での繰り返し走行後の電磁変換特性が共に優れる磁気記録媒体を提供するという点で更なる改善が望まれると考えるに至った。
【0005】
本発明の一態様は、走行初期の電磁変換特性および高温高湿環境下での繰り返し走行後の電磁変換特性が共に優れる磁気記録媒体の作製に使用可能なε-酸化鉄粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
平均粒子サイズが5.0~16.0nmの範囲であり、
M原子表層部偏在性を有し、
上記M原子は、アルミニウム原子およびイットリウム原子からなる群から選ばれる一種以上の原子であり、かつ
鉄原子100原子%に対する上記M原子の含有率が4.0~9.5原子%の範囲であるε-酸化鉄粉末、
に関する。
【0007】
一態様では、上記M原子の含有率は、4.3~8.0原子%の範囲であることができる。
【0008】
一態様では、上記平均粒子サイズは、6.0~16.0nmの範囲であることができる。
【0009】
一態様では、上記ε-酸化鉄粉末は、ガリウム原子、コバルト原子およびチタン原子からなる群から選ばれる一種以上の原子を更に含むことができる。
【0010】
一態様では、上記ε-酸化鉄粉末は、上記M原子として、少なくともアルミニウム原子を含むことができる。
【0011】
一態様では、上記ε-酸化鉄粉末は、上記M原子として、少なくともイットリウム原子を含むことができる。
【0012】
一態様では、上記ε-酸化鉄粉末は、磁気記録用強磁性粉末であることができる。
【0013】
本発明の一態様は、
非磁性支持体と強磁性粉末を含む磁性層とを有する磁気記録媒体であって、
上記強磁性粉末が、上記ε-酸化鉄粉末である磁気記録媒体、
に関する。
【0014】
一態様では、上記磁気記録媒体は、上記磁性層に含窒素ポリマーを更に含むことができる。
【0015】
一態様では、上記磁気記録媒体は、上記非磁性支持体と上記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を有することができる。
【0016】
一態様では、上記磁気記録媒体は、上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することができる。
【0017】
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体と、磁気ヘッドと、を有する磁気記録再生装置に関する。
【0018】
本発明の一態様は、上記ε-酸化鉄粉末を含む組成物に関する。
【0019】
一態様では、上記組成物は、結合剤を含むことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、走行初期の電磁変換特性および高温高湿環境下での繰り返し走行後の電磁変換特性が共に優れる磁気記録媒体の作製に使用可能なε-酸化鉄粉末およびこれを含む組成物を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、上記ε-酸化鉄粉末を磁性層に含む磁気記録媒体、およびこの磁気記録媒体を含む磁気記録再生装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[ε-酸化鉄粉末]
本発明の一態様は、平均粒子サイズが5.0~16.0nmの範囲であり、M原子表層部偏在性を有し、上記M原子は、アルミニウム原子およびイットリウム原子からなる群から選ばれる一種以上の原子であり、かつ鉄原子100原子%に対する上記M原子の含有率が4.0~9.5原子%の範囲であるε-酸化鉄粉末に関する。
【0022】
本発明者は、上記ε-酸化鉄粉末について、平均粒子サイズが上記範囲であることは、磁気記録媒体の電磁変換特性(中でも走行初期の電磁変換特性)の向上に寄与すると推察している。また、上記ε-酸化鉄粉末にアルミニウム原子およびイットリウム原子からなる群から選ばれる一種以上の原子であるM原子が上記含有率で含まれることは、磁気記録媒体の走行初期および高温高湿環境下での繰り返し走行後の電磁変換特性の向上に寄与すると推察される。更に、かかるM原子が表層部に偏在していることは、高温高湿環境下での繰り返し走行後の電磁変換特性の向上に寄与すると本発明者は考えている。これは、M原子が表層部に偏在することが、ε-酸化鉄粉末と磁性層に含まれる他の成分との親和性を高めることに寄与するためと推察される。この結果、磁性層の強度が高まり高温高湿環境下で磁気ヘッドとの摺動が繰り返されても磁性層表面が削れ難くなるため、磁性層表面の削れ屑によりスペーシングロスが生じて電磁変換特性が低下することを抑制できるのではないかと本発明者は考えている。ただし以上は推察であって、本発明を限定するものではない。また、本明細書に記載の他の推察にも本発明は限定されない。
なお、先に挙げた特開2017-122044号公報(特許文献1)には、ε-Feまたはεタイプの鉄系酸化物磁性粒子粉にAlおよび/またはYの水酸化物皮膜を設けることが記載されているものの(同公報の段落0013等)、上記平均粒子サイズを有し、かつ上記含有率でM原子を含みM原子表層部偏在性を有するε-酸化鉄粉末の開示はない。また、同公報には、走行初期および高温高湿環境下での繰り返し走行後のいずれにおいても優れた電磁変換特性を発揮することができる磁気記録媒体に関する示唆もない。
以下、上記ε-酸化鉄粉末について、更に詳細に説明する。
【0023】
本発明および本明細書において、「ε-酸化鉄粉末」とは、X線回折分析によって、主相としてε-酸化鉄型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークがε-酸化鉄型の結晶構造に帰属される場合、ε-酸化鉄型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。本発明および本明細書におけるε-酸化鉄粉末には、鉄原子と酸素原子から構成される所謂無置換型のε-酸化鉄の粉末と、鉄原子を置換する一種以上の置換原子を含む所謂置換型のε-酸化鉄の粉末とが包含される。
【0024】
本発明および本明細書において、「M原子表層部偏在性」とは、M原子について、以下に記載の「表層部含有率(対バルク鉄原子)」と「バルク含有率」との比率(表層部含有率(対バルク鉄原子)/バルク含有率)が、0.90以上であることをいうものとする。かかる比率を満たすことは、M原子が、ε-酸化鉄粉末を構成する粒子の表層部に多量に存在していること(即ち偏在していること)を意味する。上記比率は、0.92以上であることができ、0.94以上であることもできる。また、上記比率は、例えば1.00以下であることができる。
【0025】
M原子の「表層部含有率(対バルク鉄原子)」とは、ε-酸化鉄粉末を酸により全溶解して得られた溶解液中の鉄原子(バルク鉄原子)100原子%に対する、ε-酸化鉄粉末を酸により部分溶解して得られた溶解液中のM原子(表層部M原子)の含有率である。一方、「バルク含有率」とは、ε-酸化鉄粉末を酸により全溶解して得られた溶解液中の鉄原子(バルク鉄原子)100原子%に対する、ε-酸化鉄粉末を酸により全溶解して得られた溶解液中のM原子(バルクM原子)の含有率である。特記しない限り、ε-酸化鉄粉末に含まれる各種原子に関する含有率は、「バルク含有率」をいうものとする。
また、後述の「表層部含有率(対表層部鉄原子)」とは、ε-酸化鉄粉末を酸により部分溶解して得られた溶解液中の鉄原子(表層部鉄原子)100原子%に対する、ε-酸化鉄粉末を酸により部分溶解して得られた溶解液中のM原子(表層部M原子)の含有率である。
【0026】
ε-酸化鉄粉末の部分溶解および全溶解について、以下に説明する。粉末として存在しているε-酸化鉄粉末については、部分溶解および全溶解する試料粉末は、同一ロットの粉末から採取する。一方、磁気記録媒体の磁性層に含まれているε-酸化鉄粉末については、磁性層から取り出したε-酸化鉄粉末の一部を部分溶解に付し、他の一部を全溶解に付す。磁性層からのε-酸化鉄粉末の取り出しは、例えば、特開2015-91747号公報の段落0032に記載の方法によって行うことができる。
部分溶解は、以下の方法により行われる。以下の方法により、ε-酸化鉄粉末を構成する粒子について、例えば、粒子全体を100質量%として1~20質量%の領域を溶解することができる。
試料粉末12mgおよび1mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度70℃のホットプレート上で1時間保持する。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過する。こうして得られたろ液の元素分析を誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)分析装置によって行う。元素分析によりM原子として2種(即ちアルミニウム原子およびイットリウム原子)が検出された場合には、全M原子の合計含有率を、表層部含有率とする。この点は、バルク含有率ついても、同様である。
一方、全溶解とは、溶解終了時に液中にε-酸化鉄粉末の残留が目視で確認されない状態まで溶解することをいう。全溶解は、例えば、以下の方法により行われる。ただし、下記の試料粉末量等の溶解条件は例示であって、全溶解が可能な溶解条件を任意に採用できる。
試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持する。その後は上記の部分溶解と同様に行う。
【0027】
<M原子の含有率>
上記ε-酸化鉄粉末のM原子の含有率(バルク含有率)は、鉄原子100%に対して4.0~9.5原子%の範囲である。電磁変換特性(中でも高温高湿環境下での繰り返し走行後の電磁変換特性)の更なる向上の観点からは、M原子の上記含有率は、4.3原子%以上であることが好ましく、4.5原子%以上であることがより好ましく、4.7原子%以上であることが更に好ましい。また、電磁変換特性(中でも走行初期の電磁変換特性)の更なる向上の観点からは、M原子の上記含有率は、9.3原子%以下であることが好ましく、9.0原子%以下であることがより好ましく、8.7原子%以下であることが更に好ましく、8.5原子%以下であることが一層好ましく、8.3原子%以下であることがより一層好ましく、8.0原子%以下であることが更に一層好ましく、7.7原子%以下であることがなお一層好ましく、7.5原子%以下であることが更になお一層好ましく、7.3原子%以下であることが更になおより一層好ましく、7.0原子%以下であることが特に好ましい。ε-酸化鉄粉末のM原子の含有率は、ε-酸化鉄粉末を製造する際に使用する原料混合物の組成によって調整することができる。
【0028】
上記ε-酸化鉄粉末は、M原子の含有率(バルク含有率)が上記範囲であり、かつM原子表層部偏在性を有するものであればよく、先に記載の方法により求められるM原子の表層部含有率(対バルク鉄原子)および表層部含有率(対表層部鉄原子)は特に限定されるものではない。
一態様では、M原子の表層部含有率(対表層部鉄原子)は、例えば50原子%以上、60原子%以上または70原子%以上であることができる。また、一態様では、M原子の表層部含有率(対表層部鉄原子)は、例えば100原子%以下、95原子%以下または90原子%以下であることができる。
一態様では、M原子の表層部含有率(対バルク鉄原子)は、例えば2.0原子%以上、3.0原子%以上または3.5原子%以上であることができる。また、一態様では、M原子の表層部含有率(対バルク鉄原子)は、例えば15.0原子%以下、12.5原子%以下または9.5原子%以下であることができる。
【0029】
M原子表層部偏在性を有するε-酸化鉄粉末は、M原子の化合物をε-酸化鉄粉末を構成する粒子の表面に被着させる被着処理を行うことによって製造することができる。被着処理については更に後述する。
【0030】
<平均粒子サイズ>
上記ε-酸化鉄粉末の平均粒子サイズは、5.0~16.0nmの範囲である。電磁変換特性(中でも走行初期の電磁変換特性)の更なる向上の観点からは、上記ε-酸化鉄粉末の平均粒子サイズは、5.5nm以上であることが好ましく、6.0nm以上であることがより好ましく、6.5nm以上であることが更に好ましく、7.0nm以上であることが一層好ましく、7.5nm以上であることがより一層好ましく、8.0nm以上であることが更に一層好ましく、8.5nm以上であることがなお一層好ましく、9.0nm以上であることがなお更に一層好ましい。また、走行初期および高温高湿環境下での繰り返し走行後の電磁変換特性の更なる向上の観点からは、上記ε-酸化鉄粉末の平均粒子サイズは、15.5nm以下であることが好ましく、15.0nm以下であることがより好ましく、14.0nm以下であることが更に好ましく、13.0nm以下であることが一層好ましく、12.0nm以下であることがより一層好ましい。ε-酸化鉄粉末の平均粒子サイズは、ε-酸化鉄粉末の製造条件等によって調整できる。
【0031】
本発明および本明細書において、特記しない限り、ε-酸化鉄粉末等の各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントするか、ディスプレイに表示する等して、粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。
上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。本発明および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している態様に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している態様も包含される。粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。
【0032】
粒子サイズ測定のために磁気記録媒体から試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0033】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
【0034】
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0035】
<ε-酸化鉄粉末の製造方法>
ε-酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、Feの一部がGa、Co、Ti、Al、Rh等の置換原子によって置換されたε-酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280-S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200-5206等を参照できる。
【0036】
一例として、例えば、上記ε-酸化鉄粉末は、
ε-酸化鉄の前駆体を調製すること(以下、「前駆体調製工程」とも記載する。)、
上記前駆体を被膜形成処理に付すこと(以下、「被膜形成工程」とも記載する。)、
上記被膜形成処理後の上記前駆体に熱処理を施すことにより、上記前駆体をε-酸化鉄に転換すること(以下、「熱処理工程」とも記載する。)、
上記ε-酸化鉄を被膜除去処理に付すこと(以下、「被膜除去工程」とも記載する。)、および
M原子の化合物を被着させること(以下、「M原子被着工程」とも記載する。)、
を経てε-酸化鉄粉末を得る製造方法によって得ることができる。以下に、かかる製造方法について更に説明する。ただし以下に記載する製造方法は例示であって、本発明の一態様にかかるε-酸化鉄粉末は、以下に例示する製造方法によって製造されたものに限定されるものではない。
【0037】
(前駆体調製工程)
ε-酸化鉄の前駆体とは、加熱されることによりε-酸化鉄型の結晶構造を主相として含むものとなる物質をいう。前駆体は、例えば、鉄および結晶構造において鉄の一部を置換し得る原子を含有する水酸化物、オキシ水酸化物(酸化水酸化物)等であることができる。前駆体調製工程は、共沈法、逆ミセル法等を利用して行うことができる。かかる前駆体の調製方法は公知であり、上記製造方法における前駆体調製工程は、公知の方法によって行うことができる。例えば、前駆体の調製方法については、特開2008-174405号公報の段落0017~0021および同公報の実施例、WO2016/047559A1の段落0025~0046および同公報の実施例、WO2008/149785A1の段落0038~0040、0042、0044~0045および同公報の実施例等の公知技術を参照できる。
【0038】
鉄原子の一部を置換する置換原子を含まないε-酸化鉄は、組成式:Feにより表すことができる。一方、鉄原子の一部が、例えば1種~3種の原子により置換されたε-酸化鉄は、組成式:A Fe(2-x-y-z)により表すことができる。A およびAは、それぞれ独立に鉄原子を置換する置換原子であり、x、yおよびzは、それぞれ独立に0以上1未満であり、ただし少なくとも1つが0超であり、x+y+zは2未満である。上記ε-酸化鉄粉末は、鉄原子を置換する置換原子を含まなくてもよく、含んでもよい。置換原子の種類および置換量によって、ε-酸化鉄粉末の磁気特性を調整することができる。置換原子が含まれる場合、置換原子としては、Ga、Co、Ti、Al、Rh等の一種以上を挙げることができ、Ga、CoおよびTiの一種以上が好ましい。鉄原子を置換する置換原子を含むε-酸化鉄粉末を製造する場合、ε-酸化鉄におけるFeの供給源となる化合物の一部を、置換原子の化合物に置き換えればよい。その置換量によって、得られるε-酸化鉄粉末の組成を制御することができる。鉄原子および各種置換原子の供給源となる化合物としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、塩化物等の無機塩(水和物であってもよい。)、ペンタキス(シュウ酸水素)塩等の有機塩(水和物であってもよい。)、水酸化物、オキシ水酸化物等を挙げることができる。
【0039】
(被膜形成工程)
前駆体を被膜形成処理後に加熱すると、前駆体がε-酸化鉄に転換する反応を被膜下で進行させることができる。また、被膜は、加熱時に焼結が起こることを防ぐ役割を果たすこともできると考えられる。被膜形成処理は、被膜形成の容易性の観点からは、溶液中で行うことが好ましく、前駆体を含む溶液に被膜形成剤(被膜形成のための化合物)を添加して行うことがより好ましい。例えば、前駆体調製に引き続き同じ溶液中で被膜形成処理を行う場合には、前駆体調製後の溶液に被膜形成剤を添加し撹拌することにより、前駆体に被膜を形成することができる。溶液中で前駆体に被膜を形成することが容易な点で好ましい被膜としては、ケイ素含有被膜を挙げることができる。ケイ素含有被膜を形成するための被膜形成剤としては、例えば、アルコキシシラン等のシラン化合物を挙げることができる。シラン化合物の加水分解によって、好ましくはゾル-ゲル法を利用して、前駆体にケイ素含有被膜を形成することができる。シラン化合物の具体例としては、テトラエトキシシラン(TEOS;Tetraethyl orthosilicate)、テトラメトキシシランおよび各種シランカップリング剤を例示できる。被膜形成処理については、例えば、特開2008-174405号公報の段落0022および同公報の実施例、WO2016/047559A1の段落0047~0049および同公報の実施例、WO2008/149785A1の段落0041、0043および同公報の実施例等の公知技術を参照できる。例えば、被膜形成処理は、前駆体および被膜形成剤を含む50~90℃の液温の溶液を5~36時間程度撹拌することによって行うことができる。なお被膜は前駆体の表面の全部を覆ってもよく、前駆体表面の一部に被膜によって被覆されていない部分があってもよい。
【0040】
(熱処理工程)
上記被膜形成処理後の前駆体に熱処理を施すことにより、前駆体をε-酸化鉄に転換することができる。熱処理は、例えば被膜形成処理を行った溶液から採取した粉末(被膜を有する前駆体の粉末)に対して行うことができる。熱処理工程については、例えば、特開2008-174405号公報の段落0023および同公報の実施例、WO2016/047559A1の段落0050および同公報の実施例、WO2008/149785A1の段落0041、0043および同公報の実施例等の公知技術を参照できる。熱処理工程は、例えば、炉内温度900~1200℃の熱処理炉において、3~6時間程度行うことができる。
【0041】
(被膜除去工程)
上記熱処理工程を行うことにより、被膜を有する前駆体はε-酸化鉄に転換される。こうして得られるε-酸化鉄には被膜が残留しているため、好ましくは、被膜除去処理を行う。被膜除去処理については、例えば、特開2008-174405号公報の段落0025および同公報の実施例、WO2008/149785A1の段落0053および同公報の実施例等の公知技術を参照できる。被膜除去処理は、例えば、被膜を有するε-酸化鉄を、4mol/L程度の濃度の液温60~90℃程度の水酸化ナトリウム水溶液中で、5~36時間撹拌することによって行うことができる。ただし本発明の一態様にかかるε-酸化鉄粉末は、被膜除去処理を経ずに製造されたもの、即ち被膜を有するものであってもよい。また、被膜除去処理において完全に被膜が除去されず、一部の被膜が残留しているものでもよい。
【0042】
(M原子被着工程)
M原子表層部偏在性を有するε-酸化鉄粉末は、例えば上記方法により調製されたε-酸化鉄の粉末を構成する粒子にM原子の化合物を被着させることによって得ることができる。M原子の化合物としては、M原子の水酸化物を挙げることができる。ここで水酸化物とは、一部脱水した含水酸化物を包含する意味で用いられる。被着処理は、湿式または乾式で行うことができ、被着処理の容易性等の観点からは湿式で行うことが好ましい。
【0043】
被着処理は、例えば、上記方法により調製されたε-酸化鉄の粉末を以下の処理に付すことによって行うことができる。
塩基性水溶液中でε-酸化鉄の粉末を撹拌して分散させながら、この塩基性水溶液中にM原子を含むイオン性物質を添加することにより、M原子の化合物(例えば水酸化物)をε-酸化鉄の粉末を構成する粒子の表面に被着させることができる。これによりε-酸化鉄粉末にM原子表層部偏在性をもたらすことができる。塩基性水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、アンモニア等を用いて調製することができる。pHが9~12の範囲の水溶液を調製できるように塩基性水溶液の調製に使用される塩基の量を調整することが好ましい。塩基性水溶液に添加するM原子を含むイオン性物質は、例えば、M原子の硫酸塩、塩酸塩、硝酸塩、酸化物、塩化物または水溶性有機錯塩(酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩)等を挙げることができる。かかるイオン性物質の添加量は、被着処理後のε-酸化鉄粉末のM原子含有率が先に記載した範囲となるように設定すればよい。被着処理については、特開2017-122044号公報の段落0041および0042も参照できる。
【0044】
以上記載した各種工程の前および/または後に、公知の工程を任意に実施することもできる。かかる工程としては、例えば、ろ過、洗浄、乾燥等の各種の公知の工程を挙げることができる。
【0045】
上記ε-酸化鉄粉末は、磁気記録用強磁性粉末として使用することができる。詳しくは、上記ε-酸化鉄粉末は、非磁性支持体と磁性層とを有する磁気記録媒体において、磁性層に含まれる強磁性粉末として使用することができる。
【0046】
[磁気記録媒体]
本発明の一態様は、非磁性支持体と強磁性粉末を含む磁性層とを有する磁気記録媒体であって、上記強磁性粉末が、上記の本発明の一態様にかかるε-酸化鉄粉末である磁気記録媒体に関する。
以下、上記磁気記録媒体について、更に詳細に説明する。
【0047】
<磁性層>
(強磁性粉末)
上記磁気記録媒体の磁性層には、上記の本発明の一態様にかかるε-酸化鉄粉末が含まれる。その詳細は、先に記載した通りである。磁性層における強磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
【0048】
(結合剤、硬化剤)
上記磁気記録媒体は塗布型の磁気記録媒体であることができ、磁性層に結合剤を含むことができる。結合剤としては、一種以上の樹脂が用いられる。樹脂はホモポリマーであってもコポリマー(共重合体)であってもよい。磁性層に含まれる結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選択したものを単独で用いることができ、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものは、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0029~0031を参照できる。磁性層の結合剤の含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~30.0質量部であることができる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。
【0049】
また、結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一態様では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一態様では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、硬化剤の少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。磁性層形成用組成物の硬化剤の含有量は、結合剤100.0質量部に対して例えば0~80.0質量部であることができ、50.0~80.0質量部であることが好ましい。
【0050】
(添加剤)
磁性層には、必要に応じて一種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、非磁性粉末(例えば無機粉末、カーボンブラック等)、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。例えば、潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0033、0035および0036を参照できる。後述する非磁性層に潤滑剤が含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030、0031および0034~0036を参照できる。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤を非磁性層形成用組成物に添加してもよい。非磁性層形成用組成物に添加し得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。また、磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、研磨剤として機能することができる非磁性粉末、磁性層表面に適度に突出する突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末(例えば非磁性コロイド粒子等)等が挙げられる。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して、または公知の方法で製造して、任意の量で使用することができる。
【0051】
磁性層に含まれる添加剤としては、含窒素ポリマーを挙げることができる。含窒素ポリマーの一例としては、ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーを挙げることができる。「ポリアルキレンイミン鎖」とは、同一または異なるアルキレンイミン鎖を2つ以上含むポリマー鎖を意味する。アルキレンイミン鎖の具体例としては、下記式3で表されるアルキレンイミン鎖および下記式4で表されるアルキレンイミン鎖を挙げることができる。
【0052】
【化1】
【0053】
【化2】
【0054】
式3中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、n1は2以上の整数を表す。式4中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、n2は2以上の整数を表す。
【0055】
本発明および本明細書において、化合物の一部を表す式中の「*」は、その一部の構造と隣接する原子との結合位置を表す。式4中の窒素カチオン(N)に関する2つの結合位置の一方における結合は、通常、アニオンと窒素カチオンとのイオン結合(塩架橋基の形成)である。その他の「*」で表される結合位置の結合は、通常、共有結合である。
【0056】
本発明および本明細書において、特記しない限り、記載されている基は置換基を有してもよく無置換であってもよい。また、置換基を有する基について「炭素数」とは、特記しない限り、置換基の炭素数を含まない炭素数を意味するものとする。本発明および本明細書において、置換基としては、例えば、アルキル基(例えば炭素数1~6のアルキル基)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(例えば炭素数1~6のアルコキシ基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシ基、カルボキシ基の塩、スルホン酸基、スルホン酸基の塩等を挙げることができる。
【0057】
上記の式3で表されるアルキレンイミン鎖中のRおよびR、ならびに式4で表されるアルキレンイミン鎖中のRおよびRは、それぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表す。アルキル基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基を挙げることができ、好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基またはエチル基であり、更に好ましくはメチル基である。上記アルキル基は、好ましくは無置換アルキル基である。式3中のRおよびRの組み合わせとしては、一方が水素原子であって他方がアルキル基である態様、両方が水素原子である態様および両方がアルキル基(同一または異なるアルキル基)である態様があり、好ましくは両方が水素原子である態様である。この点は、式4中のRおよびRについても同様である。
【0058】
アルキレンイミンとして環を構成する炭素数が最少の構造はエチレンイミンであり、エチレンイミンの開環により得られたアルキレンイミン鎖(エチレンイミン鎖)の主鎖の炭素数は2である。したがって、式3中のn1および式4中のn2の下限は2である。即ち、式3中のn1および式4中のn2は、それぞれ独立に、2以上の整数を表す。磁気記録媒体の耐久性向上の観点からは、式3中のn1および式4中のn2は、それぞれ独立に、10以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましく、4以下であることが更に好ましく、2または3であることが一層好ましく、2であることがより一層好ましい。
【0059】
ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーの一例としては、ポリアルキレンイミン鎖とともに、式1で表される部分構造および式2で表される部分構造からなる群から選ばれる一種以上の部分構造を含むポリマーを挙げることができる。上記ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーの一態様は、かかる部分構造として式1で表される部分構造のみを1分子中に1個以上含むポリマーであり、他の一態様は、式2で表される部分構造のみを1分子中に1個以上含むポリマーであり、更に他の一態様は、1分子中に式1で表される部分構造を1個以上と式2で表される部分構造を1個以上含むポリマーである。上記ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーは、式1で表される部分構造および式2で表される部分構造からなる群から選ばれる一種以上の部分構造を、1分子あたり1個以上含み、1~10個含むことが好ましく、1~8個含むことがより好ましい。上記部分構造が1分子あたり2個以上含まれる場合、含まれる部分構造の構造はすべて同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0060】
【化3】
【0061】
式1中のL1および式2中のLは、それぞれ独立に二価の連結基を表す。二価の連結基としては、例えば、直鎖、分岐または環構造を含んでもよいアルキレン基、直鎖、分岐または環構造を含んでもよいアルケニレン基、芳香族基、-C(=O)-、および-O-からなる群から選ばれる1つ、またはこれらの群から選ばれる2つ以上の組み合わせから構成される二価の連結基を挙げることができる。芳香族基は、ヘテロ原子を含んでもよく含まなくてもよく、含まないこと(即ちアリーレン基であること)が好ましい。好ましい二価の連結基としては、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数2~10のアルケニレン基、および炭素数6~12の芳香族基を挙げることができる。より好ましい二価の連結基としては、炭素数1~10のアルキレン基および炭素数6~12の芳香族基を挙げることができる。更に好ましい二価の連結基としては、炭素数1~5の直鎖アルキレン基、炭素数6~10のシクロアルキレン基、炭素数6~12のアリーレン基を挙げることができる。
【0062】
式1中のZおよび式2中のZは、それぞれ独立に-OMで表される一価の基または-Oで表される一価の基を表す。
【0063】
-OMにおいて、Mは水素原子またはアルカリ金属原子を表す。アルカリ金属原子は、例えば、ナトリウム原子またはカリウム原子である。-OMで表される一価の基は、-OH(即ちヒドロキシ基)、-ONaまたは-OKであることが好ましく、-OHまたは-ONaであることがより好ましい。
【0064】
-Oにおいて、Aはアンモニウムカチオンを表す。-Oにおいて、酸素アニオンとAで表されるアンモニウムカチオンは、イオン結合によって結合して塩を形成している。アンモニウムカチオンは、N(R11により表すことができる。N(R11において、4個存在するR11は、それぞれ独立に水素原子または炭化水素基を表す。アンモニウムカチオンが有機アンモニウムカチオンの場合、4個存在するR11の少なくとも1個は炭化水素基を表す。炭化水素基は好ましくはアルキル基である。アルキル基は、直鎖、分岐または環状のいずれのアルキル基でもよく、直鎖アルキル基であることが好ましい。アルキル基の炭素数は、例えば1~10であり、好ましくは1~6である。4つ存在するR11は、同一であっても一部または全部が異なっていてもよい。N(R11において、4個存在するR11のすべてが水素原子であってもよく、すべてが炭化水素基であってもよい。N(R11において、1~3個のR11が炭化水素基であり、炭化水素基以外のR11が水素原子であることが好ましい。
【0065】
上記ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーは、ポリアルキレンイミン鎖を含み、他のポリマー鎖を含んでもよく、含まなくてもよい。一態様では、上記ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーは、上記部分構造と、ポリアルキレンイミン鎖と、ポリアルキレンイミン鎖以外の他のポリマー鎖、とを有することができる。他のポリマー鎖の一態様としては、ビニルポリマー鎖を挙げることができる。また、他のポリマー鎖の他の一態様としては、ポリエステル鎖を挙げることができる。
【0066】
ビニルポリマー鎖とは、下記式5で表されるポリマー鎖である。
【0067】
【化4】
【0068】
式5において、Rは水素原子または置換基を表し、Rは置換基を表し、n3は2以上の整数を表す。以下、式5について更に説明する。
【0069】
式5中、Rは水素原子または置換基を表し、例えば水素原子またはメチル基を表す。Rは置換基を表す。Rで表される置換基としては、アルキルオキシカルボニル基、ヒドロキシアルキルオキシカルボニル基、アリール基等を挙げることができ、具体例としては後述のビニルポリマーの具体例が有する置換基を挙げることができる。アルキルオキシカルボニル基が有するアルキル基およびヒドロキシアルキルオキシカルボニル基が有するヒドロキシ基により置換されたアルキル基は、直鎖アルキル基、分岐アルキル基または環状アルキル基であることができる。直鎖アルキル基および分岐アルキル基の炭素数は、例えば1~20の範囲であることができる。環状アルキル基の炭素数は、例えば3~20の範囲であることができる。環状アルキル基には、単環式アルキル基と多環式アルキル基(例えばビシクロアルキル基)が包含されるものとする。アリール基としては、炭素数が6~20のアリール基を挙げることができ、具体例としてはフェニル基を挙げることができる。
【0070】
上記ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーがビニルポリマー鎖を有する場合、そのビニルポリマー鎖の構造は、ポリマーの合成に用いたビニルモノマーの構造に由来する。ビニルモノマーとは、ビニル基および/またはビニリデン基を有する化合物である。ビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類、クロトン酸エステル類、ビニルエステル類、マレイン酸ジエステル類、フマル酸ジエステル類、イタコン酸ジエステル類、(メタ)アクリルアミド類、スチレン類、ビニルエーテル類、ビニルケトン類、オレフィン類、マレイミド類、(メタ)アクリロニトリル等を挙げることができる。上記の「類」とは、その誘導体を含む意味で用いられる。例えば、スチレン類とは、スチレンとスチレン誘導体を包含する意味で用いられる。また、本発明および本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルとメタクリルを包含する意味で用いられる。例えば、ビニルモノマーとして(メタ)アクリル酸エステルを用いることにより、ビニルポリマー鎖としてポリ(メタ)アクリラート鎖を有する化合物を得ることができる。また、例えばビニルモノマーとしてスチレンを用いることにより、ビニルポリマー鎖としてポリスチレン鎖を有するポリマーを得ることができる。
【0071】
上記ビニルモノマーの中でも、磁気記録媒体の耐久性向上の観点から好ましいビニルモノマーは、(メタ)アクリル酸エステル類およびスチレン類であり、より好ましいビニルモノマーは(メタ)アクリル酸エステル類である。(メタ)アクリル酸エステル類の具体例としては、メチル(メタ)アクリラート、エチル(メタ)アクリラート、n-プロピル(メタ)アクリラート、イソプロピル(メタ)アクリラート、n-ブチル(メタ)アクリラート、イソブチル(メタ)アクリラート、t-ブチル(メタ)アクリラート、ラウリル(メタ)アクリラート、アミル(メタ)アクリラート、n-ヘキシル(メタ)アクリラート、シクロヘキシル(メタ)アクリラート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリラート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリラート、t-オクチル(メタ)アクリラート、ドデシル(メタ)アクリラート、オクタデシル(メタ)アクリラート、アセトキシエチル(メタ)アクリラート、フェニル(メタ)アクリラート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリラート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリラート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリラート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリラート、2-メトキシエチル(メタ)アクリラート、2-エトキシエチル(メタ)アクリラート、2-(2-メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリラート、3-フェノキシ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリラート、2-クロロエチル(メタ)アクリラート、グリシジル(メタ)アクリラート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリラート、ビニル(メタ)アクリラート、2-フェニルビニル(メタ)アクリラート、1-プロペニル(メタ)アクリラート、アリル(メタ)アクリラート、2-アリロキシエチル(メタ)アクリラート、プロパルギル(メタ)アクリラート、ベンジル(メタ)アクリラート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリラート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリラート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリラート、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリラート、プロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリラート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリラート、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリラート、β-フェノキシエトキシエチル(メタ)アクリラート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリラート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリラート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリラート、トリフルオロエチル(メタ)アクリラート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリラート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリラート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリラート、トリブロモフェニル(メタ)アクリラート、トリブロモフェニルオキシエチル(メタ)アクリラート、γ-ブチロラクトン(メタ)アクリラート、イソボルニル(メタ)アクリラート、フルフリル(メタ)アクリラート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリラート等が挙げられる。
【0072】
ビニルポリマー鎖に関して、上記式5中のn3は、2以上の整数であり、磁気記録媒体の耐久性向上の観点からは、5以上の整数であることが好ましく、7以上の整数であることがより好ましい。また、n3は、例えば100以下の整数であることができ、強磁性粉末の分散性向上の観点からは、80以下の整数であることが好ましく、70以下の整数であることがより好ましい。式5においてn3は2以上の整数であるため、式5中には複数のRが含まれる。複数存在するRは同一である場合もあり異なる場合もある。この点はRについても同様である。
【0073】
以下に、ビニルポリマー鎖の具体例を示す。ただし上記ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーがビニルポリマー鎖を含む場合、含まれるビニルポリマー鎖は下記具体例に限定されるものではない。上記ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーがビニルポリマー鎖を含む場合、1種のビニルポリマー鎖のみが含まれてもよく、異なる構造の2種以上のビニルポリマー鎖が含まれてもよい。以下のn3については、先に式5中のn3について記載した通りである。
【0074】
【化5】
【0075】
ポリエステル鎖は、一態様では、式3で表されるアルキレンイミン鎖に含まれる窒素原子Nと、式3中の*においてカルボニル結合-(C=O)-により結合し、-N-(C=O)-を形成することができる。また、他の一態様では、式4で表されるアルキレンイミン鎖とポリエステル鎖とが、式4中の窒素カチオンNとポリエステル鎖が有するアニオン性基により塩架橋基を形成することができる。塩架橋基としては、ポリエステル鎖に含まれる酸素アニオンOと式4中のNとにより形成されるものを挙げることができる。
【0076】
式3で表されるアルキレンイミン鎖に含まれる窒素原子Nとカルボニル結合-(C=O)-により結合するポリエステル鎖としては、下記式6で表されるポリエステル鎖を挙げることができる。式6で表されるポリエステル鎖は、*で表される結合位置において、アルキレンイミン鎖に含まれる窒素原子とポリエステル鎖に含まれるカルボニル基-(C=O)-とが-N-(C=O)-を形成することにより、式3で表されるアルキレンイミン鎖と結合することができる。
【0077】
【化6】
【0078】
また、式4で表されるアルキレンイミン鎖と、式4中のNとポリエステル鎖に含まれるアニオン性基が塩架橋基を形成することにより結合するポリエステル鎖としては、式7で表されるポリエステル鎖を挙げることができる。式7で表されるポリエステル鎖は、酸素アニオンOにより、式4中のNと塩架橋基を形成することができる。
【0079】
【化7】
【0080】
式6中のLおよび式7中のLは、それぞれ独立に二価の連結基を表す。二価の連結基としては、好ましくは炭素数3~30のアルキレン基を挙げることができる。アルキレン基の炭素数は、アルキレン基が置換基を有する場合には、先に記載したように、置換基の炭素数を含まない炭素数をいうものとする。
【0081】
式6中のb11および式7中のb21は、それぞれ独立に2以上の整数を表し、例えば200以下の整数である。
【0082】
式6中のb12および式7中のb22は、それぞれ独立に0または1を表す。
【0083】
式6中のXおよび式7中のXは、それぞれ独立に、水素原子または一価の置換基を表す。一価の置換基としては、アルキル基、ハロアルキル基(例えばフルオロアルキル基等)、アルコキシ基、ポリアルキレンオキシアルキル基およびアリール基からなる群から選択される一価の置換基を挙げることができる。
【0084】
アルキル基は置換基を有していてもよく、無置換であってもよい。置換基を有するアルキル基としては、ヒドロキシ基が置換したアルキル基(ヒドロキシアルキル基)、およびハロゲン原子が1つ以上置換したアルキル基が好ましい。また、炭素原子と結合する全水素原子がハロゲン原子に置換したアルキル基(ハロアルキル基)も好ましい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等を挙げることができる。アルキル基としては、より好ましくは炭素数1~30、更に好ましくは炭素数1~10のアルキル基である。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状および環状のいずれであってもよい。ハロアルキル基についても、同様である。
【0085】
置換または無置換のアルキル基またはハロアルキル基の具体例としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、ペンタデシル基、へキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、2-エチルヘキシル基、tert-オクチル基、2-ヘキシルデシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシルメチル基、オクチルシクロヘキシル基、2-ノルボルニル基、2,2、4-トリメチルペンチル基、アセチルメチル基、アセチルエチル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシヘキシル基、ヒドロキシヘプチル基、ヒドロキシオクチル基、ヒドロキシノニル基、ヒドロキシデシル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、ブロモメチル基、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル基、ヘプタフルオロプロピル基、ペンタデカフルオロヘプチル基、ノナデカフルオロノニル基、ヒドロキシウンデシル基、ヒドロキシドデシル基、ヒドロキシペンタデシル基、ヒドロキシヘプタデシル基、およびヒドロキシオクタデシル基が挙げられる。
【0086】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ヘキシルオキシ基、メトキシエトキシ基、メトキシエトキシエトキシ基、メトキシエトキシエトキシメチル基等を挙げることができる。
【0087】
ポリアルキレンオキシアルキル基とは、R10(OR11)n3(O)m1-で表される一価の置換基である。R10はアルキル基を表し、R11はアルキレン基を表し、n3は2以上の整数を表し、m1は0または1を表す。
10で表されるアルキル基については、XまたはXで表されるアルキル基について記載した通りである。R11で表されるアルキレン基の詳細については、XまたはXで表されるアルキル基に関する上記の記載を、これらアルキレン基から水素原子を1つ取り去ったアルキレン基に読み替えて(例えば、メチル基はメチレン基に読み替えて)適用することができる。n3は2以上の整数であり、例えば10以下、好ましくは5以下の整数である。
【0088】
アリール基は置換基を有していても縮環していてもよく、より好ましくは炭素数6~24のアリール基であり、例えばフェニル基、4-メチルフェニル基、4-フェニル安息香酸、3-シアノフェニル基、2-クロロフェニル基、2-ナフチル基等を挙げることができる。
【0089】
以上記載した式6で表されるポリエステル鎖および式7で表されるポリエステル鎖は、公知のポリエステル合成法により得られたポリエステル由来の構造であることができる。ポリエステル合成法としては、特開2015-28830号公報の段落0056~0057に記載のラクトンの開環重合を挙げることができる。ただし、上記ポリエステル鎖は、ラクトンの開環重合により得られたポリエステル由来の構造に限定されるものではなく、公知のポリエステル合成法、例えば、多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合、ヒドロキシカルボン酸の重縮合等により得られたポリエステル由来の構造であることもできる。
【0090】
上記ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーの重量平均分子量は、例えば80,000以下であることができ、60,000以下であることが好ましく、35,000以下であることがより好ましく、34,000以下であることが更に好ましく、30,000以下であることが一層好ましく、25,000以下であることがより一層好ましく、18,000以下であることが更に一層好ましく、15,000以下であることがなお一層好ましく、12,000以下であることがなおより一層好ましく、10,000以下であることがなお更に一層好ましい。磁気記録媒体の耐久性向上の観点からは、磁性層において併用される結合剤の重量平均分子量よりも重量平均分子量が小さいことが好ましい。また、磁気記録媒体の耐久性向上の観点からは、上記化合物の重量平均分子量は、1,000以上であることが好ましく、1,500以上であることがより好ましく、2,000以上であることが更に好ましく、3,000以上であることが一層好ましい。
【0091】
本発明および本明細書において、平均分子量(重量平均分子量および後述の数平均分子量)とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography;GPC)により測定され、標準ポリスチレン換算により求められる値をいうものとする。後述の実施例に示す平均分子量は、特記しない限り、GPCを用いて下記測定条件により測定された値を標準ポリスチレン換算して求めた値(ポリスチレン換算値)である。
GPC装置:HLC-8220(東ソー社製)
ガードカラム:TSKguardcolumn Super HZM-H
カラム:TSKgel Super HZ 2000、TSKgel Super HZ 4000、TSKgel Super HZ-M(東ソー社製、4.6mm(内径)×15.0cm、3種カラムを直列連結)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、安定剤(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール)含有
溶離液流速:0.35mL/分
カラム温度:40℃
インレット温度:40℃
屈折率(RI;Refractive Index)測定温度:40℃
サンプル濃度:0.3質量%
サンプル注入量:10μL
【0092】
上記ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーについて、磁気記録媒体の耐久性向上の観点からは、アミン価が0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.15mmol/g以上であることがより好ましく、0.20mmol/g以上であることが更に好ましく、0.25mmol/g以上であることが一層好ましい。上記ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーのアミン価は、例えばポリマーの構造においてポリアルキレンイミン鎖が占める割合によって制御することができる。ポリアルキレンイミン鎖が占める割合が高いほどポリマーのアミン価は高くなる傾向がある。また、上記ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーのアミン価は、例えば、1.50mmol/g以下であることができ、1.40mmol/g以下であることができ、1.20mmol/g以下であることができ、1.00mmol/g以下であることができ、0.80mmol/g以下であることができ、または0.60mmol/g以下であることができる。
【0093】
本発明および本明細書において、アミン価は、電位差法(溶媒:テトラヒドロフラン/水=100/10(体積比)、滴定液:0.01N (0.01mol/L)塩酸)により、室温で測定される値であり、試料1g量を中和するために要する塩酸のmmol数をいう。本発明および本明細書において、「室温」とは、20~25℃の範囲の温度をいうものとする。
【0094】
上記ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーは、磁気記録媒体の耐久性向上の観点および強磁性粉末の分散性向上の観点からは、酸価が0.20mmol/g以上であることが好ましく、0.30mmol/g以上であることがより好ましく、0.40mmol/g以上であることが更に好ましく、0.50mmol/g以上であることが一層好ましい。上記ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーの酸価は、例えば化合物の構造において式1で表される部分構造および式2で表される部分構造からなる群から選ばれる部分構造が占める割合によって制御することができる。上記部分構造が占める割合が高いほど、ポリマーの酸価は高くなる傾向がある。また、上記ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーの酸価は、例えば、3.00mmol/g以下であることができ、2.50mmol/g以下であることができ、または2.00mmol/g以下であることができる。
【0095】
本発明および本明細書において、酸価は、電位差法(溶媒:テトラヒドロフラン/水=100/10(体積比)、滴定液:0.01N (0.01mol/L)水酸化カリウム)により室温で測定される値であり、試料1g量を中和するために要する水酸化カリウムのmmol数をいう。
【0096】
上記ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーは、ポリアルキレンイミン鎖および上記部分構造を有するものであればよく、その合成方法は特に限定されるものではない。上記化合物は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等であることができる。例えば、ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーを酸無水物と反応させることによって、ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーを酸変性して式1で表される部分構造および/または式2で表される部分構造を導入することができる。酸無水物は、例えば、ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーのポリアルキレンイミン鎖の未反応アミノ基と反応することができる。酸変性の反応条件については、公知技術を適用することができる。
【0097】
酸変性に使用可能な酸無水物としては、例えば下記の酸無水物を挙げることができる。
【0098】
【化8】
【0099】
上記の酸変性が施されるポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーの一態様としては、ポリアルキレンイミン鎖とビニルポリマー鎖とを有するポリマーを挙げることができる。かかるポリマーは、ポリアルキレンイミンと、一方の末端にアミノ基と反応可能な官能基を有するビニルポリマー(以下、「中間体」とも記載する。)とを反応させることにより、ポリアルキレンイミンが有するアミノ基と上記官能基により結合を形成させることによって合成することができる。上記結合は、先に記載したように、共有結合またはイオン結合(塩架橋基の形成)であることができる。上記中間体が有するアミノ基と反応可能な官能基としては、アミノ基と酸との縮合反応が可能な官能基、アミノ基と酸との塩形成反応が可能な官能基、およびアミノ基が付加反応可能な官能基を挙げることができ、具体例としては、カルボキシ基、アクリラート基、メタクリラート基、イソシアネート基等を挙げることができる。上記中間体は、例えば、一種以上のビニルモノマーとアミノ基と反応可能な官能基を有する化合物とを公知の反応溶媒中で反応させることにより、合成することができる。アミノ基と反応可能な官能基を有する化合物としては、1分子中にアミノ基と反応可能な官能基とチオール基とを1つずつ有するチオール化合物を挙げることができる。上記チオール化合物は、連鎖移動剤として機能することができる。上記チオール化合物としては、例えば、メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、チオ乳酸、2-メルカプト安息香酸、3-メルカプト安息香酸、4-メルカプト安息香酸等を挙げることができる。また、上記中間体の合成反応は、公知の重合開始剤を用いて行うことができる。反応条件については、ビニルポリマーの重合反応に関する公知技術およびチオール化合物の反応に関する公知技術を適用することができる。上記中間体の重量平均分子量は、例えば1,000~30,000の範囲であることができ、1,500~25,000の範囲であることが好ましい。
【0100】
ポリアルキレンイミンは、アルキレンイミンの開環重合により得られるポリマーである。ポリアルキレンイミンは、公知の重合反応により合成することができ、市販品として入手することもできる。本発明および本明細書において、「ポリマー」は、ホモポリマーとコポリマーとを包含する意味で用いられる。ポリアルキレンイミンとしては、数平均分子量が200~10,000のポリアルキレンイミンが好適である。
【0101】
ポリアルキレンイミンと上記中間体とを反応させることにより、ポリアルキレンイミンが有するアミノ基と上記中間体が有する上記官能基により結合を形成させてポリアルキレンイミン鎖およびビニルポリマー鎖を有するポリマーを得ることができる。上記反応におけるポリアルキレンイミンと上記中間体との混合比については、例えば、ポリアルキレンイミンが有するアミノ基1モルに対して上記中間体が有する上記官能基のモル数が0.20~1.20モルであることができ、0.40~1.10モルであることが好ましい。上記反応の反応条件については、公知技術を適用することができる。
【0102】
上記の酸変性が施されるポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーの一態様としては、ポリアルキレンイミン鎖とポリエステル鎖とを有するポリマーを挙げることもできる。かかるポリマーの合成方法等の詳細については、特開2015-28830号公報の段落0026~0070を参照できる。ポリアルキレンイミン鎖と上記部分構造とを含む上記化合物がポリエステル鎖を有する場合、この化合物を合成するために使用されるポリエステルの数平均分子量は、200以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましく、500以上であることが更に好ましい。また、上記ポリエステルの数平均分子量は、100,000以下であることが好ましく、50,000以下であることがより好ましい。後述の実施例に示すポリエステルの数平均分子量は、GPCを用いて下記測定条件により測定された値を標準ポリスチレン換算して求めた値(ポリスチレン換算値)である。
測定器:HLC-8220GPC(東ソー社製)
カラム:TSKgel Super HZ 2000/TSKgel Super HZ 4000/TSKgel Super HZ-H(東ソー社製)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、
流速:0.35mL/min、
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折(RI)検出器
【0103】
また、磁性層に含まれるポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーとしては、特開2015-28830号公報に記載のポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーを挙げることもできる。かかるポリマーの詳細については、特開2015-28830号公報の段落0026~0070を参照できる。
【0104】
ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマー等の含窒素ポリマーは、磁性層に、強磁性粉末100.0質量部あたり0.5質量部以上含まれることが、磁気記録媒体の耐久性向上の観点から好ましく、1.0質量部以上含まれることがより好ましく、3.0質量部以上含まれることが更に好ましく、5.0質量部以上含まれることが一層好ましく、10.0質量部以上含まれることがより一層好ましく、15.0質量部以上含まれることが更により一層好ましく、20.0質量部以上含まれることがなお一層好ましい。一方、記録密度の向上のためには、磁性層における強磁性粉末の充填率を高くすることが好ましい。そのためには、相対的に強磁性粉末以外の成分の含有量は低くすることが好ましい。この点からは、ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマー等の含窒素ポリマーの磁性層における含有量は、強磁性粉末100.0質量部あたり50.0質量部以下とすることが好ましく、40.0質量部以下とすることがより好ましく、35.0質量部以下とすることが更に好ましい。
【0105】
また、磁性層に含まれる添加剤としては、特開2015-88213号公報に成分(A)として記載されている化合物を挙げることもできる。かかる化合物の詳細については、同公報の段落0028~0059を参照できる。
【0106】
<非磁性層>
上記磁気記録媒体は、一態様では、非磁性支持体上に直接磁性層を有することができる。また、一態様では、上記磁気記録媒体は、非磁性支持体と磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を有することもできる。
【0107】
非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機物質の粉末(無機粉末)でも有機物質の粉末(有機粉末)でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011-216149号公報の段落0146~0150を参照できる。非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、特開2010-24113号公報の段落0040~0041も参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。
【0108】
非磁性層は、結合剤を含むことができ、一種以上の添加剤を含むこともできる。非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細については、非磁性層に関する公知技術が適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
【0109】
本発明および本明細書における「非磁性層」には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が100Oe以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が100Oe以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。1[kOe]=10/4π[A/m]である。
【0110】
<非磁性支持体>
非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびポリアミドが好ましい。これらの支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等を行ってもよい。
【0111】
<バックコート層>
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することもでき、有さなくてもよい。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末の一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層は、結合剤を含むことができ、一種以上の添加剤を含むこともできる。バックコート層に含まれる結合剤、任意に含まれ得る各種添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
【0112】
<非磁性支持体および各層の厚み>
非磁性支持体の厚みは、好ましくは3.0~20.0μm、より好ましくは3.0~10.0μm、更に好ましくは3.0~6.0μmである。
【0113】
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等に応じて最適化することができる。磁性層の厚みは、高密度記録化の観点から、好ましくは10nm~150nmであり、より好ましくは20nm~120nmであり、更に好ましくは30nm~100nmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する二層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。二層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
【0114】
非磁性層の厚みは、例えば0.05~1.5μmであり、0.1~1.0μmであることが好ましい。
【0115】
バックコート層の厚みは、0.9μm以下であることが好ましく、0.1~0.7μmの範囲であることが更に好ましい。
【0116】
磁気記録媒体の各層および非磁性支持体の厚みは、公知の膜厚測定法により求めることができる。一例として、例えば、磁気記録媒体の厚み方向の断面を、イオンビーム、ミクロトーム等の公知の手法により露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡を用いて断面観察を行う。断面観察において1箇所において求められた厚み、または無作為に抽出した2箇所以上の複数箇所、例えば2箇所、において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各層の厚みは、製造条件から算出される設計厚みとして求めてもよい。
【0117】
<磁気記録媒体の製造方法>
磁性層、ならびに任意に設けられる非磁性層およびバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含むことができる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる成分は、どの工程の最初または途中で添加してもよい。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもよい。各層形成用組成物を調製するためには、公知技術を用いることができる。混練工程では、オープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつニーダを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については、特開平1-106338号公報および特開平1-79274号公報に記載されている。また、各層形成用組成物を分散させるためには、分散メディアとして、ガラスビーズおよびその他の分散ビーズからなる群から選ばれる一種以上の分散ビーズを用いることができる。このような分散ビーズとしては、高比重の分散ビーズであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、およびスチールビーズが好適である。これら分散ビーズの粒径(ビーズ径)および充填率は最適化して用いることができる。分散機は公知のものを使用することができる。各層形成用組成物を、塗布工程に付す前に公知の方法によってろ過してもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01~3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
【0118】
磁性層は、磁性層形成用組成物を、非磁性支持体表面上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布する工程を経て形成することができる。バックコート層は、非磁性支持体の磁性層が設けられた(または追って設けられる)表面とは反対側の表面上にバックコート層形成用組成物を塗布する工程を経て形成することができる。
【0119】
塗布工程後には、乾燥処理、磁性層の配向処理、表面平滑化処理(カレンダ処理)等の各種処理を行うことができる。塗布工程および各種処理については、公知技術を適用することができ、例えば特開2010-24113号公報の段落0051~0057を参照できる。例えば、配向処理としては、垂直配向処理を行うことができる。垂直配向処理は、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。配向ゾーンでは、乾燥風の温度、風量および/または配向ゾーンにおける磁気テープの搬送速度によって塗布層の乾燥速度を制御することができる。また、配向ゾーンに搬送する前に塗布層を予備乾燥させてもよい。
【0120】
上記のように製造された磁気記録媒体には、磁気記録再生装置における磁気ヘッドのトラッキング制御、磁気記録媒体の走行速度の制御等を可能とするために、公知の方法によってサーボパターンを形成することができる。「サーボパターンの形成」は、「サーボ信号の記録」ということもできる。上記磁気記録媒体は、テープ状の磁気記録媒体(磁気テープ)であってもよく、ディスク状の磁気記録媒体(磁気ディスク)であってもよい。以下では、磁気テープを例にサーボパターンの形成について説明する。
【0121】
サーボパターンは、通常、磁気テープの長手方向に沿って形成される。サーボ信号を利用する制御(サーボ制御)の方式としては、タイミングベースサーボ(TBS)、アンプリチュードサーボ、周波数サーボ等が挙げられる。
【0122】
ECMA(European Computer Manufacturers Association)―319に示される通り、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気テープ(一般に「LTOテープ」と呼ばれる。)では、タイミングベースサーボ方式が採用されている。このタイミングベースサーボ方式において、サーボパターンは、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(「サーボストライプ」とも呼ばれる。)が、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置されることによって構成されている。上記のように、サーボパターンが互いに非平行な一対の磁気ストライプにより構成される理由は、サーボパターン上を通過するサーボ信号読み取り素子に、その通過位置を教えるためである。具体的には、上記の一対の磁気ストライプは、その間隔が磁気テープの幅方向に沿って連続的に変化するように形成されており、サーボ信号読み取り素子がその間隔を読み取ることによって、サーボパターンとサーボ信号読み取り素子との相対位置を知ることができる。この相対位置の情報が、データトラックのトラッキングを可能にする。そのために、サーボパターン上には、通常、磁気テープの幅方向に沿って、複数のサーボトラックが設定されている。
【0123】
サーボバンドは、磁気テープの長手方向に連続するサーボ信号により構成される。このサーボバンドは、通常、磁気テープに複数本設けられる。例えば、LTOテープにおいて、その数は5本である。隣接する2本のサーボバンドに挟まれた領域は、データバンドと呼ばれる。データバンドは、複数のデータトラックで構成されており、各データトラックは、各サーボトラックに対応している。
【0124】
また、一態様では、特開2004-318983号公報に示されているように、各サーボバンドには、サーボバンドの番号を示す情報(「サーボバンドID(identification)」または「UDIM(Unique DataBand Identification Method)情報」とも呼ばれる。)が埋め込まれている。このサーボバンドIDは、サーボバンド中に複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のものを、その位置が磁気テープの長手方向に相対的に変位するように、ずらすことによって記録されている。具体的には、複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のもののずらし方を、サーボバンド毎に変えている。これにより、記録されたサーボバンドIDはサーボバンド毎にユニークなものとなるため、一つのサーボバンドをサーボ信号読み取り素子で読み取るだけで、そのサーボバンドを一意に(uniquely)特定することができる。
【0125】
なお、サーボバンドを一意に特定する方法には、ECMA―319に示されているようなスタッガード方式を用いたものもある。このスタッガード方式では、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置された、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(サーボストライプ)の群を、サーボバンド毎に磁気テープの長手方向にずらすように記録する。隣接するサーボバンド間における、このずらし方の組み合わせは、磁気テープ全体においてユニークなものとされているため、2つのサーボ信号読み取り素子によりサーボパターンを読み取る際に、サーボバンドを一意に特定することも可能となっている。
【0126】
また、各サーボバンドには、ECMA―319に示されている通り、通常、磁気テープの長手方向の位置を示す情報(「LPOS(Longitudinal Position)情報」とも呼ばれる。)も埋め込まれている。このLPOS情報も、UDIM情報と同様に、一対のサーボストライプの位置を、磁気テープの長手方向にずらすことによって記録されている。ただし、UDIM情報とは異なり、このLPOS情報では、各サーボバンドに同じ信号が記録されている。
【0127】
上記のUDIM情報およびLPOS情報とは異なる他の情報を、サーボバンドに埋め込むことも可能である。この場合、埋め込まれる情報は、UDIM情報のようにサーボバンド毎に異なるものであってもよいし、LPOS情報のようにすべてのサーボバンドに共通のものであってもよい。
また、サーボバンドに情報を埋め込む方法としては、上記以外の方法を採用することも可能である。例えば、一対のサーボストライプの群の中から、所定の対を間引くことによって、所定のコードを記録するようにしてもよい。
【0128】
サーボパターン形成用ヘッドは、サーボライトヘッドと呼ばれる。サーボライトヘッドは、上記一対の磁気ストライプに対応した一対のギャップを、サーボバンドの数だけ有する。通常、各一対のギャップには、それぞれコアとコイルが接続されており、コイルに電流パルスを供給することによって、コアに発生した磁界が、一対のギャップに漏れ磁界を生じさせることができる。サーボパターンの形成の際には、サーボライトヘッド上に磁気テープを走行させながら電流パルスを入力することによって、一対のギャップに対応した磁気パターンを磁気テープに転写させて、サーボパターンを形成することができる。各ギャップの幅は、形成されるサーボパターンの密度に応じて適宜設定することができる。各ギャップの幅は、例えば、1μm以下、1~10μm、10μm以上等に設定可能である。
【0129】
磁気テープにサーボパターンを形成する前には、磁気テープに対して、通常、消磁(イレース)処理が施される。このイレース処理は、直流磁石または交流磁石を用いて、磁気テープに一様な磁界を加えることによって行うことができる。イレース処理には、DC(Direct Current)イレースとAC(Alternating Current)イレースとがある。ACイレースは、磁気テープに印加する磁界の方向を反転させながら、その磁界の強度を徐々に下げることによって行われる。一方、DCイレースは、磁気テープに一方向の磁界を加えることによって行われる。DCイレースには、更に2つの方法がある。第一の方法は、磁気テープの長手方向に沿って一方向の磁界を加える、水平DCイレースである。第二の方法は、磁気テープの厚み方向に沿って一方向の磁界を加える、垂直DCイレースである。イレース処理は、磁気テープ全体に対して行ってもよいし、磁気テープのサーボバンド毎に行ってもよい。
【0130】
形成されるサーボパターンの磁界の向きは、イレースの向きに応じて決まる。例えば、磁気テープに水平DCイレースが施されている場合、サーボパターンの形成は、磁界の向きがイレースの向きと反対になるように行われる。これにより、サーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号の出力を、大きくすることができる。なお、特開2012-53940号公報に示されている通り、垂直DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、単極パルス形状となる。一方、水平DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、双極パルス形状となる。
【0131】
磁気テープは、通常、磁気テープカートリッジに収容され、磁気テープカートリッジが磁気記録再生装置に装着される。
【0132】
磁気テープカートリッジでは、一般に、カートリッジ本体内部に磁気テープがリールに巻き取られた状態で収容されている。リールは、カートリッジ本体内部に回転可能に備えられている。磁気テープカートリッジとしては、カートリッジ本体内部にリールを1つ具備する単リール型の磁気テープカートリッジおよびカートリッジ本体内部にリールを2つ具備する双リール型の磁気テープカートリッジが広く用いられている。単リール型の磁気テープカートリッジは、磁気テープへのデータの記録および/または再生のために磁気記録再生装置に装着されると、磁気テープカートリッジから磁気テープが引き出されて磁気記録再生装置側のリールに巻き取られる。磁気テープカートリッジから巻き取りリールまでの磁気テープ搬送経路には、磁気ヘッドが配置されている。磁気テープカートリッジ側のリール(供給リール)と磁気記録再生装置側のリール(巻き取りリール)との間で、磁気テープの送り出しと巻き取りが行われる。この間、磁気ヘッドと磁気テープの磁性層表面とが接触し摺動することにより、データの記録および/または再生が行われる。これに対し、双リール型の磁気テープカートリッジは、供給リールと巻き取りリールの両リールが、磁気テープカートリッジ内部に具備されている。磁気テープカートリッジは、単リール型および双リール型のいずれの磁気テープカートリッジであってもよい。磁気テープカートリッジのその他の詳細については、公知技術を適用することができる。
【0133】
以上説明した本発明の一態様にかかる磁気記録媒体は、走行初期および高温高湿環境下での繰り返し走行後において、優れた電磁変換特性を示すことができる。一例として、高湿環境下は、例えば相対湿度70~100%程度の環境下であることができ、高温は、例えば25~50℃程度であることができる。
【0134】
[磁気記録再生装置]
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体と、磁気ヘッドと、を含む磁気記録再生装置に関する。
【0135】
本発明および本明細書において、「磁気記録再生装置」とは、磁気記録媒体へのデータの記録および磁気記録媒体に記録されたデータの再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれる。上記磁気記録再生装置は、摺動型の磁気記録再生装置であることができる。摺動型の磁気記録再生装置とは、磁気記録媒体へのデータの記録および/または記録されたデータの再生を行う際に磁性層表面と磁気ヘッドとが接触し摺動する装置をいう。
【0136】
上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、磁気記録媒体へのデータの記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気記録媒体に記録されたデータの再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、上記磁気記録再生装置は、一態様では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一態様では、上記磁気記録再生装置に含まれる磁気ヘッドは、データの記録のための素子(記録素子)とデータの再生のための素子(再生素子)の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。以下において、データの記録のための素子および再生のための素子を、「データ用素子」と総称する。再生ヘッドとしては、磁気テープに記録されたデータを感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR;Magnetoresistive)素子を再生素子として含む磁気ヘッド(MRヘッド)が好ましい。MRヘッドとしては、AMR(Anisotropic Magnetoresistive)ヘッド、GMR(Giant Magnetoresistive)ヘッド、TMR(Tunnel Magnetoresistive)ヘッド等の公知の各種MRヘッドを用いることができる。また、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドには、サーボ信号読み取り素子が含まれていてもよい。または、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボ信号読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が上記磁気記録再生装置に含まれていてもよい。例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生を行う磁気ヘッド(以下、「記録再生ヘッド」とも呼ぶ。)は、サーボ信号読み取り素子を2つ含むことができ、2つのサーボ信号読み取り素子のそれぞれが、隣接する2つのサーボバンドを同時に読み取ることができる。2つのサーボ信号読み取り素子の間に、1つまたは複数のデータ用素子を配置することができる。
【0137】
上記磁気記録再生装置において、磁気記録媒体へのデータの記録および/または磁気記録媒体に記録されたデータの再生は、磁気記録媒体の磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させて摺動させることにより行うことができる。上記磁気記録再生装置は、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を含むものであればよく、その他については公知技術を適用することができる。
【0138】
例えば、サーボパターンが形成された磁気記録媒体へのデータの記録および/または記録されたデータの再生の際には、まず、サーボパターンを読み取って得られるサーボ信号を用いたトラッキングが行われる。すなわち、サーボ信号読み取り素子を所定のサーボトラックに追従させることによって、データ用素子が、目的とするデータトラック上を通過するように制御される。データトラックの移動は、サーボ信号読み取り素子が読み取るサーボトラックを、テープ幅方向に変更することにより行われる。
また、記録再生ヘッドは、他のデータバンドに対する記録および/または再生を行うことも可能である。その際には、先に記載したUDIM情報を利用してサーボ信号読み取り素子を所定のサーボバンドに移動させ、そのサーボバンドに対するトラッキングを開始すればよい。
【0139】
[組成物]
また、本発明の一態様は、上記ε-酸化鉄粉末を含む組成物に関する。
【0140】
上記組成物に含まれるε-酸化鉄粉末の詳細は、先に記載した通りである。上記組成物は、ε-酸化鉄粉末に加えて一種以上の成分を更に含んでもよく、含まなくてもよい。そのような成分の一例としては、一種以上の結合剤を挙げることができる。また、上記組成物は、一種以上の溶媒を含んでもよく、含まなくてもよい。
【実施例
【0141】
以下に、本発明を実施例に基づき説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の「部」および「%」は、特記しない限り質量基準の値である。また、以下に記載の工程および評価は、特記しない限り、雰囲気温度23℃±1℃の環境において行った。以下に記載の「eq」は、当量( equivalent)であり、SI単位に換算不可の単位である。
【0142】
[実施例1]
<ε-酸化鉄粉末の作製>
純水92.3gに、硝酸鉄(III)9水和物8.3g、硝酸ガリウム(III)8水和物1.01g、硝酸コバルト(III)6水和物189mg、硫酸チタン(III)152mg、ポリビニルピロリドン(PVP)1.0gを溶解させたものを、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、大気雰囲気中、雰囲気温度25℃の条件下で、濃度25%のアンモニア水溶液3.6gを添加し、雰囲気温度25℃の温度条件のまま2時間撹拌した。得られた溶液にクエン酸0.85gを純水9.15gに溶解させて得たクエン酸水溶液を加え、1時間撹拌した。撹拌後に沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄した後、炉内温度80℃の加熱炉内で乾燥させた。
乾燥させた粉末に純水800gを加えて再度粉末を水に分散させて分散液を得た。得られた分散液を液温50℃に昇温し、撹拌しながら濃度25%のアンモニア水溶液を40g滴下した。50℃の液温を保ったまま1時間撹拌した後、テトラエトキシシラン(TEOS)13.3mLを滴下し、24時間撹拌した。得られた反応溶液に硫酸アンモニウム51gを加え、沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で乾燥させることで、ε-酸化鉄の前駆体の粉末を得た。
得られた前駆体の粉末を、大気雰囲気下、炉内温度1028℃(焼成温度)の加熱炉内に装填し、4時間の熱処理を施した。
熱処理した粉末を、4mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に投入し、液温を70℃に維持して24時間撹拌することにより、熱処理した粉末からケイ酸化合物を除去した。この粉末を遠心分離処理により採集し、純水で洗浄を行いスラリーを得た。
上記で得られたスラリーの粉末濃度を8%となるよう純水にて調製し、このスラリー500gを液温85℃で回転数300rpm(revolutions per minute)で撹拌し、濃度1.0%の塩化アルミニウム水溶液を6.3g添加し、1時間撹拌した後、pHが8.6になるまで水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、1時間撹拌を続けて粉末の粒子にAlの水酸化物を被着させた。このスラリーを水洗した後にデカンテーションにより粉末を回収し、回収された粉末を乾燥させた。
上記で得られた粉末について、X線回折分析を行った。X線回折分析は、CuKα線を電圧45kVかつ強度40mAの条件で走査し、下記条件でX線回折パターンを測定することによって行った。X線回折分析により得られたX線回折パターンのピークから、作製された強磁性粉末が、α相およびγ相の結晶構造を含まない、ε相の単相の結晶構造(ε-酸化鉄型の結晶構造)を有することを確認した。即ち、ε-酸化鉄粉末が作製されたことを確認した。
PANalytical X’Pert Pro回折計、PIXcel検出器
入射ビームおよび回折ビームのSollerスリット:0.017ラジアン
分散スリットの固定角:1/4度
マスク:10mm
散乱防止スリット:1/4度
測定モード:連続
1段階あたりの測定時間:3秒
測定速度:毎秒0.017度
測定ステップ:0.05度
【0143】
作製されたε-酸化鉄粉末は、一部を磁気記録媒体の作製に使用し、一部を後述の方法で行われる粉末の評価に使用した。
【0144】
後述の方法で作製された各強磁性粉末についても、実施例1と同様のX線回折分析を行い、作製された強磁性粉末が、α相およびγ相の結晶構造を含まない、ε相の単相の結晶構造(ε-酸化鉄型の結晶構造)を有することを確認した。即ち、ε-酸化鉄粉末であることを確認した。
【0145】
<磁気記録媒体(磁気テープ)の作製>
(1)磁性層形成用組成物の処方
(磁性液)
強磁性粉末(表1参照):100.0部
SONa基含有ポリウレタン樹脂:14.0部
(重量平均分子量:70,000、SONa基:0.4meq/g)
シクロヘキサノン:150.0部
メチルエチルケトン:150.0部
オレイン酸2.0部
(研磨剤液)
研磨剤液A
アルミナ研磨剤(平均粒子サイズ:100nm):3.0部
SONa基含有ポリウレタン樹脂:0.3部
(重量平均分子量:70,000、SONa基:0.3meq/g)
シクロヘキサノン:26.7部
研磨剤液B
ダイヤモンド研磨剤(平均粒子サイズ:100nm):1.0部
SONa基含有ポリウレタン樹脂:0.1部
(重量平均分子量:70,000、SONa基:0.3meq/g)
シクロヘキサノン:26.7部
(シリカゾル)
コロイダルシリカ(平均粒子サイズ:100nm):0.2部
メチルエチルケトン:1.4部
(その他の成分)
ステアリン酸:2.0部
ブチルステアレート:6.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート):2.5部
(仕上げ添加溶媒)
シクロヘキサノン:200.0部
メチルエチルケトン:200.0部
【0146】
(2)非磁性層形成用組成物の処方
非磁性無機粉末 α-酸化鉄:100.0部
平均粒子サイズ:10nm
平均針状比:1.9
BET(Brunauer-Emmett-Teller)比表面積:75m/g
カーボンブラック(平均粒子サイズ:20nm):25.0部
SONa基含有ポリウレタン樹脂:18.0部
(重量平均分子量:70,000、SONa基:0.2meq/g)
ステアリン酸:1.0部
シクロヘキサノン:300.0部
メチルエチルケトン:300.0部
【0147】
(3)バックコート層形成用組成物の処方
非磁性無機粉末 α-酸化鉄:80.0部
平均粒子サイズ:0.15μm
平均針状比:7
BET比表面積:52m/g
カーボンブラック(平均粒子サイズ:20nm):20.0部
塩化ビニル共重合体:13.0部
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂:6.0部
フェニルホスホン酸:3.0部
シクロヘキサノン:155.0部
メチルエチルケトン:155.0部
ステアリン酸:3.0部
ブチルステアレート:3.0部
ポリイソシアネート:5.0部
シクロヘキサノン:200.0部
【0148】
(4)磁気テープの作製
上記磁性液の各種成分を、バッチ式縦型サンドミルを用いて24時間分散することにより磁性液を調製した。分散ビーズとしては、粒径0.5mmのジルコニアビーズを使用した。
研磨剤液は、上記研磨剤液AおよびBの各種成分をバッチ型超音波装置(20kHz,300W)で24時間分散することにより調製した。
こうして得られた磁性液および研磨剤液を他の成分(シリカゾル、その他の成分および仕上げ添加溶媒)と混合後、バッチ型超音波装置(20kHz、300W)で30分処理(超音波分散)を行った。その後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過を行い磁性層用組成物を調製した。
非磁性層用組成物については、上記の各種成分をバッチ式縦型サンドミルを用いて24時間分散した。分散ビーズとしては、粒径0.1mmのジルコニアビーズを使用した。得られた分散液を0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過して非磁性層用組成物を調製した。
バックコート層用組成物については、潤滑剤(ステアリン酸およびブチルステアレート)、ポリイソシアネートおよびシクロヘキサノン200.0部を除いた上記の各種成分をオープンニーダにより混練および希釈した後、横型ビーズミル分散機により、粒径1mmのジルコニアビーズを用い、ビーズ充填率80体積%、ローター先端周速10m/秒で、1パスあたりの滞留時間を2分間とし、12パスの分散処理を行った。その後、こうして得られた分散液に残りの成分を添加し、ディゾルバーで撹拌した。こうして得られた分散液を1μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過しバックコート層用組成物を調製した。
その後、厚み5.0μmの二軸延伸ポリエチレンナフタレート製支持体に、乾燥後の厚みが0.1μmになるように非磁性層形成用組成物を塗布し乾燥させた後、その上に乾燥後の厚みが70nmになるように磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。この塗布層を、未乾状態にあるうちに、磁場強度0.6Tの磁場を塗布層の表面に対し垂直方向に印加して垂直配向処理を行った後、乾燥させた。その後、上記支持体の非磁性層と磁性層を形成した表面とは反対側の表面に、乾燥後の厚みが0.4μmになるようにバックコート層形成用組成物を塗布し乾燥させてバックコート層を形成した。
その後、金属ロールのみから構成されるカレンダで、速度100m/分、線圧294kN/m、カレンダロールの表面温度100℃で表面平滑化処理(カレンダ処理)を行った後、雰囲気温度70℃の環境で36時間加熱処理を行った。加熱処理後、1/2インチ(1インチは0.0254メートル)幅にスリットし、磁気テープを得た。
【0149】
[比較例1]
実施例1のε-酸化鉄粉末の作製において、硝酸ガリウム(III)8水和物、硝酸コバルト(III)6水和物および硫酸チタン(III)を添加せず、焼成温度を975℃に変更した点以外は同様にして、ε-酸化鉄粉末を得た。
こうして得られたε-酸化鉄粉末を磁性層形成のための強磁性粉末として使用した点以外、実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0150】
[実施例2]
ε-酸化鉄粉末調製時の焼成温度を983℃に変更した点以外は比較例1と同様にして、磁気テープを得た。
【0151】
[実施例3]
実施例1のε-酸化鉄粉末の作製において、硝酸ガリウム(III)8水和物の使用量を51mgに変更し、硝酸コバルト(III)6水和物および硫酸チタン(III)、を添加せず、焼成温度を991℃に変更した点以外は同様にして、ε-酸化鉄粉末を得た。
こうして得られたε-酸化鉄粉末を磁性層形成のための強磁性粉末として使用した点以外、実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0152】
[実施例4]
実施例1のε-酸化鉄粉末の作製において、硝酸ガリウム(III)8水和物の使用量を1.51gとし、焼成温度を1045℃に変更した点以外は同様にして、ε-酸化鉄粉末を得た。
こうして得られたε-酸化鉄粉末を磁性層形成のための強磁性粉末として使用した点以外は実施例1と同様にして、磁気テープを得た。
【0153】
[比較例2]
ε-酸化鉄粉末の作製において、硝酸ガリウム(III)8水和物の使用量を1.63gとし、焼成温度を1052℃に変更した点以外は実施例4と同様にして、磁気テープを得た。
【0154】
[比較例3]
Alの水酸化物を被着させるためにスラリーに添加する塩化アルミニウム水溶液の量を4.9gに変更した点以外は実施例1と同様にして、磁気テープを得た。
【0155】
[実施例5]
Alの水酸化物を被着させるためにスラリーに添加する塩化アルミニウム水溶液の量を5.5gに変更した点以外は実施例1と同様にして、磁気テープを得た。
【0156】
[実施例6]
Alの水酸化物を被着させるためにスラリーに添加する塩化アルミニウム水溶液の量を12.3gに変更した点以外は実施例1と同様にして、磁気テープを得た。
【0157】
[比較例4]
Alの水酸化物を被着させるためにスラリーに添加する塩化アルミニウム水溶液の量を12.9gに変更した点以外は実施例1と同様にして、磁気テープを得た。
【0158】
[比較例5]
Alの水酸化物を被着させるためにスラリーに添加する塩化アルミニウム水溶液を塩化イットリウム水溶液6.6gに変更した点以外は実施例1と同様にして、磁気テープを得た。
【0159】
[実施例7]
塩化イットリウム水溶液の添加量を7.8gに変更した点以外は比較例5と同様にして、磁気テープを得た。
【0160】
[実施例8]
塩化イットリウム水溶液の添加量を9.4gに変更した点以外は実施例7と同様にして、磁気テープを得た。
【0161】
[実施例9]
塩化イットリウム水溶液の添加量を16.7gに変更した点以外は実施例7と同様にして、磁気テープを得た。
【0162】
[比較例6]
塩化イットリウム水溶液の添加量を17.1gに変更した点以外は実施例7と同様にして、磁気テープを得た。
【0163】
[実施例10]
磁性液作製時に添加剤Aを添加した点以外は実施例1と同様にして、磁気テープを得た。
【0164】
[実施例11]
磁性液作製時に添加剤Bを添加した点以外は実施例1と同様にして、磁気テープを得た。
【0165】
[実施例12]
磁性液作製時に添加剤Aを添加した点以外は実施例8と同様にして、磁気テープを得た。
【0166】
[実施例13]
磁性液作製時に添加剤Bを添加した点以外は実施例8と同様にして、磁気テープを得た。
【0167】
[比較例7]
実施例1のε-酸化鉄粉末の作製において、硝酸ガリウム(III)8水和物1.01gを硝酸アルミニウム(III)9水和物0.33gに変更し、Alの水酸化物の被着処理を行わなかった点以外は同様にして、磁気テープを得た。
【0168】
表1に記載の添加剤Aは、特開2015-28830号公報の段落0109に記載のポリエチレンイミン誘導体(J-1)(ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマー)である。
表1に記載の添加剤Bは、以下の方法により得られたポリアルキレンイミン鎖含有ポリマーである。
表1中、「添加剤A/B」の欄に添加剤Aまたは添加剤Bと記載されている実施例については、磁性液を添加剤AまたはBを30.0部添加して調製した。
【0169】
[添加剤Bの合成方法]
<中間体P-1の合成>
500mL三口フラスコに、窒素雰囲気下、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA;反応溶媒)45.0gを添加した。液温75℃に加熱した後、メルカプトプロピオン酸(MPA;チオール化合物)6.4g、メチルメタクリラート(MMA;ビニルモノマー)90.1g、PGMEA(反応溶媒)180.1gおよびジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(富士フイルム和光純薬社製V-601;重合開始剤)0.14gを予め混合しておき、2時間かけて滴下した。滴下後、V-601を0.14g添加し2時間撹拌した。更に液温を90℃に昇温し、2時間撹拌して、以下の構造を有する中間体P-1のPGMEA溶液を得た。上記で使用されたMMA(ビニルモノマー)のモル数は、MPA(チオール化合物)1モルに対して15モルである。ここで合成された中間体P-1の重量平均分子量は、3,500であった。
【0170】
【化9】
【0171】
<添加剤Bの合成>
ポリアルキレンイミン(日本触媒社製SP-006、数平均分子量600)2.4gおよび中間体P-1の30%PGMEA溶液144.8gを混合し、液温110℃で3時間加熱して、ポリアルキレンイミン鎖とビニルポリマー鎖とを有するポリマー(ポリアルキレンイミン鎖含有ポリマー)を得た。
【0172】
以上の合成スキームを以下に示す。以下の合成スキーム中、a、bおよびcはそれぞれ独立に繰り返し単位の重合モル比を示し、0~50の範囲であり、a+b+c=100である。k、l、m1およびm2はそれぞれ独立に繰り返し単位の重合モル比を示し、kは10~90の範囲、lは0~80の範囲、m1およびm2はそれぞれ独立に0~70の範囲であり、かつk+l+m1+m2=100である。nは繰り返し単位を表し、2~100の範囲である。
【0173】
【化10】
【0174】
上記のポリマーの合成後の反応溶液を液温70℃まで昇温し、フタル酸無水物を0.4g添加し、1時間撹拌することにより、酸変性されたポリアルキレンイミン鎖含有ポリマー(添加剤B)を合成した。上記の酸変性により、添加剤Bには、式1で表される部分構造である下記部分構造が、1分子あたり1個導入される。合成された添加剤Bの重量平均分子量は4,300、アミン価は0.30mmol/g、酸価は0.59mmol/gであった。最終的に合成された添加剤Bに、各合成原料が仕込み量から算出される割合で導入されたことは、H-NMR(nuclear magnetic resonance)ならびに重量平均分子量、アミン価および酸価の測定値によって確認した。
【0175】
【化11】
【0176】
[ε-酸化鉄粉末の評価方法]
(1)平均粒子サイズ
実施例および比較例の各ε-酸化鉄粉末について、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて、先に記載の方法により平均粒子サイズを求めた。
【0177】
(2)M原子の表層部含有率(対バルク鉄原子)、M原子の表層部含有率(対表層部鉄原子)、バルク含有率、M原子表層部偏在性の評価およびε-酸化鉄粉末の組成分析
(i)部分溶解
実施例および比較例の各ε-酸化鉄粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末12mgおよび1mol/L塩酸10mLを入れたビーカーを、設定温度70℃のホットプレート上で1時間保持してε-酸化鉄粉末を構成する粒子表層部が溶解(部分溶解)した溶解液を得た。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過した。こうして得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行った。
(ii)全溶解
実施例および比較例の各ε-酸化鉄粉末から試料粉末を別途12mg採取し、この試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mLを入れたビーカーを、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持してε-酸化鉄粉末が溶解(全溶解)した溶解液を得た。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過した。こうして得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行った。
(iii)M原子の表層部含有率(対バルク鉄原子)、M原子の表層部含有率(対表層部鉄原子)、バルク含有率
M原子の表層部含有率(対バルク鉄原子)を、「(上記(i)の部分溶解により得られた溶解液中のM原子の含有量/上記(ii)の全溶解により得られた溶解液中の鉄原子の含有量)×100」として算出した。
M原子の含有率(バルク含有率)を、「(上記(ii)の全溶解により得られた溶解液中のM原子の含有量/上記(ii)の全溶解により得られた溶解液中の鉄原子の含有量)×100」として算出した。
上記で求められた表層部含有率(対バルク鉄原子)とバルク含有率との比率に基づき、M原子表層部偏在性の有無を評価した。
M原子の表層部含有率(対表層部鉄原子)を、「(上記(i)の部分溶解により得られた溶解液中のM原子の含有量/上記(i)の部分溶解により得られた溶解液中の鉄原子の含有量)×100」として算出した。
(iv)ε-酸化鉄粉末の組成分析
上記(ii)の全溶解により得られた溶解液に関するICP分析装置を用いた元素分析により、鉄原子の置換原子を定量し、定量結果から、GaCoTiFe(2-x-y-z)の組成式で表されるε-酸化鉄粉末の組成を特定した。
【0178】
[電磁変換特性の評価]
実施例および比較例の各磁気テープに対して、下記条件で磁気信号をテープ長手方向に記録し、磁気抵抗効果型(MR;Magnetoresistive)ヘッドで再生した。再生信号をシバソク製スペクトラムアナライザーで周波数分析し、0~600kfciの範囲で積分したノイズを評価した。単位kfciとは、線記録密度の単位(SI単位系に換算不可)である。実施例および比較例の各磁気テープの電磁変換特性(走行初期)を、下記評価基準にしたがい評価した。
-記録再生条件-
記録:記録トラック幅5μm
記録ギャップ0.17μm
ヘッド飽和磁束密度Bs1.8T
再生:再生トラック幅0.4μm
シールド(shield;sh)間距離(sh-sh距離)0.08μm
-評価基準-
5: ノイズがほぼなく、シグナルが良好でエラーも見られない。
4: ノイズが小さく、シグナルが良好。
3: ノイズが見られる。シグナルは良好。
2: ノイズが大きく、シグナルが不明瞭。
1: ノイズとシグナルの区別ができないか、または記録できていない。
更に、実施例および比較例の各磁気テープ(100m長)を、温度37℃および相対湿度87%の環境下、リニアテスターにおいて走行速度3m/secで600パス繰り返し走行させ、磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させ摺動させた。上記繰り返し走行後に上記と同様の方法で電磁変換特性(繰り返し走行後)を評価した。
【0179】
以上の結果を、表1に示す。比較例1は、繰り返し走行後に磁性層表面にキズ等が多く確認されたため、その後に電磁変換特性の評価は行わず、表1の繰り返し走行後の電磁変換特性の欄には、「-」と記載した。
【0180】
【表1】
【0181】
表1に示す結果から、実施例1~13の磁気テープは、走行初期および高温高湿環境下での繰り返し走行後のいずれにおいても、優れた電磁変換特性を示したことが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0182】
本発明の一態様は、高密度記録用磁気記録媒体の技術分野において有用である。