(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】合わせガラス用中間膜
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20220719BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20220719BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220719BHJP
C08L 97/02 20060101ALI20220719BHJP
C08L 53/00 20060101ALI20220719BHJP
C08L 51/06 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
C03C27/12 F
B60J1/00 H
C08L101/00
C08L97/02
C08L53/00
C08L51/06
(21)【出願番号】P 2020217036
(22)【出願日】2020-12-25
(62)【分割の表示】P 2018542419の分割
【原出願日】2017-09-19
【審査請求日】2021-01-08
(31)【優先権主張番号】P 2016188735
(32)【優先日】2016-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016188737
(32)【優先日】2016-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 芳聡
(72)【発明者】
【氏名】尾下 竜也
(72)【発明者】
【氏名】磯上 宏一郎
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-045089(JP,A)
【文献】特開2000-044818(JP,A)
【文献】特開平10-298354(JP,A)
【文献】特開2016-056296(JP,A)
【文献】国際公開第2013/042771(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/00-29/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂100質量部、および、制振性付与剤10~1000質量部を含有する制振性樹脂組成物であって、該制振性付与剤は100~10000の分子量を有し、30℃を超える温度に融点を有さず、該制振性樹脂組成物は30℃以下の温度にtanδの極大値を有し、該極大値は3.1より大きい、制振性樹脂組成物
であって、
熱可塑性樹脂は、アクリル樹脂、スチレンジエンブロック共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカルボン酸ビニル樹脂、オレフィン-カルボン酸ビニル共重合体、ポリエステルエラストマー樹脂およびハロゲン化ポリオレフィン樹脂からなる群から選択される1以上の樹脂であり、
制振性付与剤は、ロジン系樹脂、フルオレン系化合物、テルペン系樹脂、石油樹脂、水添石油樹脂、クマロン-インデン系樹脂、フェノール系樹脂およびキシレン系樹脂からなる群から選択される1以上である、制振性樹脂組成物。
【請求項2】
熱可塑性樹脂は-100~250℃の温度範囲に2つ以上のtanδピーク温度を有する、請求項1に記載の制振性樹脂組成物。
【請求項3】
制振性付与剤100質量部および熱可塑性樹脂8質量部からなる組成物について測定した曇り点は150℃未満である、請求項1
または2に記載の制振性樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂はアクリル樹脂である請求項1~
3のいずれかに記載の制振性樹脂組成物。
【請求項5】
アクリル樹脂はアクリルブロックコポリマーまたはアクリルコアシェル樹脂である、請求項
4に記載の制振性樹脂組成物。
【請求項6】
アクリル樹脂は、該アクリル樹脂全体に基づいて30質量%以上のソフトブロックを含む、請求項
5に記載の制振性樹脂組成物。
【請求項7】
熱可塑性樹脂はスチレン系ブロックコポリマーである請求項1~
3のいずれかに記載の制振性樹脂組成物。
【請求項8】
制振性付与剤は2つ以上の環状骨格を有する化合物である、請求項1~
7のいずれかに記載の制振性樹脂組成物。
【請求項9】
制振性付与剤はロジンまたは変性ロジンである、請求項1~
8のいずれかに記載の制振性樹脂組成物。
【請求項10】
変性ロジンはロジンエステルである、請求項
9に記載の制振性樹脂組成物。
【請求項11】
ロジンエステルはロジン酸、水添ロジンおよび不均化ロジンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物と1~4価のアルコールとのエステル化合物である、請求項
10に記載の制振性樹脂組成物。
【請求項12】
ロジンエステルはロジン酸、水添ロジンおよび不均化ロジンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物と1価のアルコールとのエステル化合物である、請求項
11に記載の制振性樹脂組成物。
【請求項13】
ロジンエステルは50℃未満のT
gを有する、請求項
10~
12のいずれかに記載の制振性樹脂組成物。
【請求項14】
ロジンエステルは不均化ロジンおよび水添ロジンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物とアルコールとのエステル化合物である、請求項
10~
13のいずれかに記載の制振性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラス用中間膜に関する。
【背景技術】
【0002】
合わせガラス用中間膜は、高強度かつ高透明性を有し、ガラスとの接着性に優れ、柔軟性に優れることが要求される膜であり、このような合わせガラス用中間膜を2枚のガラスで挟んで得られる合わせガラスは、自動車フロントガラスなどの各種安全ガラスに使用されている。
【0003】
近年、生活環境の質を向上するという要求が高まりつつあり、それに伴い、騒音および振動に対する環境改善の要求が高まっている。例えば自動車や建物の窓に使用される合わせガラスにおいても高い遮音性が求められており、騒音低減を目的として制振性を有する樹脂組成物から作製したフィルムをガラスの間に挟み込んだ、遮音性を有する合わせガラス用中間膜を含む遮音性合わせガラスに関する検討が行われている。このような遮音性を有する合わせガラス用の制振性樹脂組成物および合わせガラス用中間膜として、例えば特許文献1には、ポリビニルアセタールと所定の式で表されるエステル化合物を含有する樹脂組成物、およびそれから作製された層を有する積層体が記載されている。また、特許文献2には、ポリビニルアセタール樹脂と、可塑剤と、粘着付与剤とを含む樹脂組成物、およびそれから作製された層を備える合わせガラス用中間膜が記載されている。また、例えば、振動吸収や騒音低減を目的として、制振性能(振動吸収性能、騒音防止性能など)を有するゴムやエラストマーなどの材料が開発されている。さらに、例えば車載用の電気機器部品などの振動に関して厳しい環境下で使用される電気機器部品に使用する材料として、制振性能を有する樹脂組成物が求められている。
【0004】
特に車載用に使用される電気機器部品および自動車フロントガラスにおいては、自動車の燃費向上、自動車の低重心化等を目的として、軽量化に対する要求も高まっている。ところが、フロントガラスを軽量化した場合、音響透過損失が低下し、遮音性が低下することが知られている。非特許文献1によると、質量則に従う領域の音響透過損失TL[dB]は、合わせガラスの面密度をm[kg/m
2]、周波数をf[Hz]とすると簡易的に、式(1):
【数1】
により求められ、合わせガラスの面密度を10%、20%低減した場合、その音響透過損失はそれぞれ約0.8dB、1.7dB低下することがわかる。すなわちフロントガラスの軽量化と遮音性は従来、トレードオフの関係にあり、これらの特性を両立するには未だ課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/188544号
【文献】国際公開第2013/042771号
【非特許文献】
【0006】
【文献】制振工学ハンドブック(コロナ社、2008年刊)490ページ、(3.60)式
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来知られている遮音性合わせガラス用中間膜を使用した合わせガラスの多くは、特にコインシデンス効果による音響透過損失の低下を抑制する効果を有する。しかし、例えば自動車フロントガラス等において求められる軽量化と遮音性の両立を達成するためには、遮音性のさらなる向上、特に質量則が支配的になる領域の周波数およびコインシデンス領域の周波数の両方に対する遮音性の向上が必要である。さらに、合わせガラス用中間膜を製造および保管する際や、該中間膜を用いて合わせガラスを製造する際に、良好な取扱い性を有すること、制振性を有するフィルムやシートを製造する際に原料となる樹脂組成物が良好な取扱い性を有することや、製造されたフィルムやシートの保管時またはさらなる加工時に、これらが良好な取扱性を有することも求められる。
【0008】
そこで、本発明は、特に質量則が支配的になる領域の周波数およびコインシデンス領域の周波数の両方に対して、特に室温付近の温度で高い遮音性を有すると共に、取扱い性に優れ、さらに、長期間使用した場合に透明性が損なわれない合わせガラス用中間膜および制振性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、以下に説明する本発明の合わせガラス用中間膜および制振性樹脂組成物により上記目的を達成できることを見出した。
すなわち、本発明は以下の好適な態様を包含する。
〔1〕熱可塑性樹脂100質量部、および、制振性付与剤10~1000質量部を含有する樹脂組成物Aからなる遮音層を少なくとも有する合わせガラス用中間膜であって、該制振性付与剤は100~10000の分子量を有し、30℃を超える温度に融点を有さず、該樹脂組成物Aは30℃以下の温度にtanδの極大値を有し、該極大値は3.1より大きい、合わせガラス用中間膜。
〔2〕熱可塑性樹脂は-100~250℃の温度範囲に2つ以上のtanδピーク温度を有する、前記〔1〕に記載の合わせガラス用中間膜。
〔3〕熱可塑性樹脂100質量部、および、制振性付与剤10~1000質量部を含有する樹脂組成物Aからなる遮音層を少なくとも有する合わせガラス用中間膜であって、該制振性付与剤は100~10000の分子量を有し、該熱可塑性樹脂は-100~250℃の温度範囲に2つ以上のtanδピーク温度を有し、該樹脂組成物Aは30℃以下の温度にtanδの極大値を有し、該極大値は3.1より大きい、合わせガラス用中間膜。
〔4〕制振性付与剤100質量部および熱可塑性樹脂8質量部からなる組成物について測定した曇り点は150℃未満である、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
〔5〕熱可塑性樹脂はアクリル樹脂である、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
〔6〕アクリル樹脂はアクリルブロックコポリマーまたはアクリルコアシェル樹脂である、前記〔5〕に記載の合わせガラス用中間膜。
〔7〕アクリル樹脂は、該アクリル樹脂全体に基づいて30質量%以上のソフトセグメントを含む、前記〔6〕に記載の合わせガラス用中間膜。
〔8〕熱可塑性樹脂はスチレン系ブロックコポリマーである、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
〔9〕制振性付与剤は2つ以上の環状骨格を有する化合物である、前記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
〔10〕制振性付与剤はロジンまたは変性ロジンである、前記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
〔11〕変性ロジンはロジンエステルである、前記〔10〕に記載の合わせガラス用中間膜。
〔12〕ロジンエステルはロジン酸、水添ロジンおよび不均化ロジンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物と1~4価のアルコールとのエステル化合物である、前記〔11〕に記載の合わせガラス用中間膜。
〔13〕ロジンエステルは50℃未満のTgを有する、前記〔11〕または〔12〕に記載の合わせガラス用中間膜。
〔14〕遮音層と、該遮音層の少なくとも一方の面に積層された保護層とを少なくとも有する、前記〔1〕~〔13〕のいずれかに記載の合わせガラス用中間膜。
〔15〕熱可塑性樹脂100質量部、および、制振性付与剤10~1000質量部を含有する制振性樹脂組成物であって、該制振性付与剤は100~10000の分子量を有し、30℃を超える温度に融点を有さず、該樹脂組成物は30℃以下の温度にtanδの極大値を有し、該極大値は3.1より大きい、樹脂組成物。
〔16〕熱可塑性樹脂100質量部、および、制振性付与剤10~1000質量部を含有する制振性樹脂組成物であって、該制振性付与剤は100~10000の分子量を有し、該熱可塑性樹脂は-100~250℃の温度範囲に2つ以上のtanδピーク温度を有し、該樹脂組成物は30℃以下の温度にtanδの極大値を有し、該極大値は3.1より大きい、樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の合わせガラス用中間膜および制振性樹脂組成物は、高い遮音性を有すると共に、取扱い性に優れ、さらに、長期間使用した場合にその透明性は損なわれない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。
【0012】
本発明の合わせガラス用中間膜は、熱可塑性樹脂および制振性付与剤を含有する樹脂組成物Aからなる遮音層を少なくとも有し、該樹脂組成物Aは、30℃以下の温度にtanδの極大値を有し、該極大値は3.1より大きい。このような樹脂組成物Aからなる遮音層を有する本発明の合わせガラス用中間膜は、特に質量則が支配的になる領域の周波数およびコインシデンス領域の周波数の両方に対して高い遮音性を有すると共に、取扱い性に優れる。ここで、質量則が支配的になる領域の周波数とは、透過損失が合わせガラスの質量と音の周波数とから一定の関係式で表される質量則が成立する領域の周波数である。コインシデンス領域の周波数とは、コインシデンス効果が発生するコインシデンス限界周波数より高い領域の周波数である。
【0013】
本発明の合わせガラス用中間膜において、樹脂組成物Aは、30℃以下の温度にtanδの極大値を有する。樹脂組成物Aが30℃以下の温度にtanδの極大値を有さない場合、樹脂組成物Aからなる遮音層を含む本発明の合わせガラス用中間膜が室温付近の温度で十分な遮音性を達成することができない。樹脂組成物Aは、30℃以下の温度に、1つのtanδの極大値を有してもよいし、2つ以上のtanδの極大値を有してもよい。樹脂組成物Aは、合わせガラス用中間膜の室温付近での遮音性を高める観点から、好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下、さらにより好ましくは10℃以下、いっそう好ましくは0℃以下の温度にtanδの極大値を有する。樹脂組成物Aがtanδの極大値を有する温度の下限は特に限定されないが、樹脂組成物Aは、好ましくは-50℃以上、より好ましくは-20℃以上、さらに好ましくは-15℃以上、いっそう好ましくは-10℃以上の温度にtanδの極大値を有する。また、樹脂組成物Aが30℃以下の温度に有するtanδの極大値は3.1より大きい。樹脂組成物Aが30℃以下の温度に1つのtanδの極大値を有する場合、該極大値は3.1より大きく、樹脂組成物Aが30℃以下の温度に2つ以上のtanδの極大値を有する場合、該2つ以上の極大値の少なくとも1つが3.1より大きければよい。かかる極大値が3.1以下であると、樹脂組成物Aからなる遮音層を含む合わせガラス用中間膜の十分な遮音性を達成することができない。樹脂組成物Aが30℃以下の温度に有するtanδの極大値は、合わせガラス用中間膜の遮音性を高めやすい観点から、好ましくは3.2以上、より好ましくは3.4以上、さらにより好ましくは3.6以上、いっそう好ましくは4.0以上、特に好ましくは4.5以上、最も好ましくは5.0以上である。かかる極大値の上限は特に限定されないが、例えば20以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下である。
【0014】
前記樹脂組成物Aのtanδは、動的粘弾性装置を用いて周波数0.3Hzで測定される損失正接であり、損失弾性率と貯蔵弾性率との比(損失弾性率/貯蔵弾性率)である。例えばtanδは、動的粘弾性装置(例えば株式会社ユービーエム製、Rheogel-E4000)を用いて、周波数0.3Hz、引張モードで測定される。測定試料としては、例えば厚さ0.8mmの樹脂組成物Aのシートを用いてよい。測定試料として、樹脂組成物Aを熱プレス等によりシート状に成形したものを用いてもよいし、樹脂組成物Aからなる遮音層を含む合わせガラス用中間膜から遮音層を取り出したものを用いてもよい。樹脂組成物Aが上記温度範囲にtanδの極大値を有するように調整し、該極大値を上記範囲内となるように調整する方法としては、後述する熱可塑性樹脂および制振性付与剤を所定の量で樹脂組成物Aに含有させる方法、樹脂組成物Aに含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移点(Tg)を適切に調整する方法等が挙げられる。
【0015】
本発明の合わせガラス用中間膜は、熱可塑性樹脂100質量部、および、制振性付与剤10~1000質量部を含有する樹脂組成物Aからなる遮音層を少なくとも有する。前記熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えばアクリル樹脂、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカルボン酸ビニル樹脂、オレフィン-カルボン酸ビニル共重合体、ポリエステルエラストマー樹脂、ハロゲン化ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。樹脂組成物Aは1種類の熱可塑性樹脂を含有してもよいし、2種以上の熱可塑性樹脂を組み合わせて含有してもよい。熱可塑性樹脂は、より高い遮音性能を発現する観点から、アクリル樹脂またはスチレン系樹脂であることが好ましい。
【0016】
アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸およびその誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の(メタ)アクリルモノマーに由来する構成単位を含むポリマーである。なお、本明細書において(メタ)アクリルとはアクリル、メタクリル、またはアクリルとメタクリルの両方を意味する。アクリル樹脂としては、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル等の(メタ)アクリルモノマーの単独重合体またはこれらの2種以上の共重合体、ならびに、(メタ)アクリルモノマーを主成分として、これらと共重合可能なスチレンおよびジビニルベンゼンなどのモノマーを重合させた共重合体などが挙げられる。アクリル樹脂は上記(メタ)アクリルモノマーおよび/またはこれらと共重合可能な他のモノマーとを従来既知の方法により重合することにより製造することができる。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸3-メチルブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の(メタ)アクリル酸アルキル;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸芳香族エステル;(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシエステル;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルなど、従来公知の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0018】
アクリル樹脂が共重合体である場合、アクリル樹脂は、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマーまたはコアシェル樹脂のいずれであってもよい。本発明の合わせガラス用中間膜に高い遮音性能と取扱い性を両立させる観点からは、アクリル樹脂は、アクリルブロックコポリマーまたはアクリルコアシェル樹脂であることが好ましい。アクリルブロックコポリマーは、上記(メタ)アクリルモノマーに由来する構成単位を主成分として含む重合体のブロックを少なくとも1つ有するコポリマーである。アクリルブロックコポリマーが、例えばブロックAおよびブロックBの2種のブロックを有する場合、アクリルブロックコポリマーはA-(B-A)nまたは(A-B)n(式中、nはいずれも1以上の整数を表し、好ましくは1である)で表される形態であってよい。ブロックAおよびブロックBのいずれか一方が上記(メタ)アクリルモノマーを主成分として含む重合体のブロックであってもよいし、ブロックAおよびBの両方が上記(メタ)アクリルモノマーを主成分として含む重合体のブロックであってもよい。アクリルブロックコポリマーがさらに別のブロックを有してもよい。アクリルブロックコポリマーは、2つ以上の(メタ)アクリル酸エステル重合体ブロックを有することが、本発明の合わせガラス用中間膜に高い遮音性能と取扱い性を両立させる点で好ましく、同様の理由から、2つ以上の(メタ)アクリル酸アルキル重合体ブロックを有することがより好ましく、ポリメタクリル酸アルキル重合体ブロックと、ポリアクリル酸アルキル重合体ブロックとを有することがさらにより好ましく、1つのポリアクリル酸アルキル重合体ブロックの両端にポリメタクリル酸アルキル重合体ブロックがそれぞれ1つずつ結合したトリブロック共重合体が特に好ましい。
【0019】
アクリルコアシェル樹脂は、内層であるコア層および外層であるシェル層からなる2層構造、または内層であるコア層と外層であるシェル層の間に1層以上の中間層を有する3層以上の構造を有する。上記アクリルコアシェル樹脂は、上記(メタ)アクリルモノマーに由来する構成単位を主成分として含む重合体をコア層、中間層またはシェル層の少なくとも1層に有する樹脂である。本発明の合わせガラス用中間膜に高い取扱い性を発現させる観点から、アクリルコアシェル樹脂のシェル層はメタクリル酸エステル重合体であることが好ましく、メタクリル酸アルキル重合体であることがより好ましい。また、本発明の合わせガラス用中間膜に高い遮音性能を発現させる観点から、アクリルコアシェル樹脂のコア層はアクリル酸エステル重合体であることが好ましく、アクリル酸アルキル重合体であることがより好ましい。
【0020】
アクリル樹脂がアクリルブロックコポリマーまたはアクリルコアシェル樹脂である本発明の好ましい一態様において、アクリル樹脂は、該アクリル樹脂全体に基づいて好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらにより好ましくは50質量%以上、特に好ましくは60質量%以上、特別好ましくは70質量%以上のソフトセグメントを含む。また、上記好ましい一態様において、アクリル樹脂は、該アクリル樹脂全体に基づいて好ましくは99質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらにより好ましくは80質量%以下のソフトセグメントを含む。ソフトセグメントの量が上記の範囲内であることが、優れた遮音性能を発現するため好ましい。アクリルブロックコポリマーまたはアクリルコアシェル樹脂におけるソフトセグメントとしては、例えばアクリル酸アルキルモノマーの単独重合体または共重合体、共役ジエン重合体およびその誘導体が挙げられる。前記ソフトセグメントは、1種類のアクリル酸アルキルモノマーの単独重合体または2種以上のアクリル酸アルキルモノマーの共重合体であることが好ましい。アクリルコアシェル樹脂においては、前記ソフトセグメントがコア層を構成することが好ましい。
【0021】
なお、本明細書において、ブロックコポリマーがガラス転移点の異なる2つ以上の重合体ブロックを有する場合、各重合体ブロックのうち最も高いガラス転移点と最も低いガラス転移点の平均値よりも低いガラス転移点を有する重合体ブロックをソフトセグメントと呼び、上記平均値よりも高いガラス転移点を有する重合体ブロックをハードセグメントと呼ぶ。また、コアシェル樹脂がガラス転移点の異なる2つ以上の層を有する場合、各層のうち最も高いガラス転移点と最も低いガラス転移点の平均値よりも低いガラス転移点を有する層をソフトセグメントと呼び、上記平均値よりも高いガラス転移点を有する層をハードセグメントと呼ぶ。ソフトセグメントのガラス転移点は、好ましくは-100~100℃、より好ましくは-50~50℃である。また、ハードセグメントのガラス転移点は、好ましくは0~150℃、より好ましくは50~120℃である。
【0022】
アクリル樹脂がアクリルブロックコポリマーまたはアクリルコアシェル樹脂である本発明の好ましい一態様において、このようなアクリル樹脂は従来公知の方法、例えば、リビングアニオン重合や乳化重合によって製造することができる。
【0023】
スチレン系樹脂は、スチレン化合物に由来する構成単位を含むポリマーである。スチレン系樹脂としては、スチレン化合物の単独重合体、またはスチレン化合物を主成分として、これらと共重合可能な単量体との共重合体が挙げられる。スチレン化合物としては、例えば、スチレン;α-メチルスチレン、α-エチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン等のアルキル置換スチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-ブロモスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、トリクロロスチレン、トリブロモスチレン等のハロゲン化スチレン等が挙げられる。スチレン化合物は、スチレンまたはα-メチルスチレンであることが好ましい。スチレン化合物と共重合可能な単量体としては、例えば1,3-ブタジエンおよびイソプレン等の好ましくは4~5の炭素数を有する共役ジエン系化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリルおよびマレオニトリル等のシアン化ビニル化合物;メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸、アクリル酸等のアクリル化合物;が挙げられる。スチレン系樹脂は上記スチレン化合物および/またはこれらと共重合可能な他の単量体とを従来既知の方法により重合することにより製造することができる。
【0024】
スチレン系樹脂は、合わせガラス用中間膜の生産性の観点からスチレン系ブロックコポリマーであることが好ましい。スチレン系ブロックコポリマーは、上記スチレン化合物に由来する構成単位を含む重合体のブロックを少なくとも1つ有するコポリマーである。スチレン系ブロックコポリマーが、例えばブロックCおよびブロックDの2種のブロックを有する場合、スチレン系ブロックコポリマーはC-(D-C)nまたは(C-D)n(式中、nはいずれも1以上の整数を表し、好ましくは1である)で表される形態であってよい。ブロックCおよびブロックDのいずれか一方が上記スチレン化合物に由来する構成単位を含む重合体のブロックであってもよいし、ブロックCおよびブロックDの両方が上記スチレン化合物に由来する構成単位を含む重合体のブロックであってもよい。スチレン系ブロックコポリマーがさらに別のブロックを有してもよい。スチレン系ブロックコポリマーは、スチレン化合物に由来する構成単位を含む重合体のブロックと、共役ジエン系化合物に由来する構成単位を含む重合体のブロックとを有するスチレンジエンブロックコポリマーであることが好ましい。
【0025】
スチレン系樹脂がスチレン系ブロックコポリマーである本発明の好ましい一態様において、スチレン系樹脂は、該スチレン系樹脂全体に基づいて好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらにより好ましくは50質量%以上、特に好ましくは60質量%以上、特別好ましくは70質量%以上のソフトセグメントを含む。また、上記好ましい一態様において、スチレン系樹脂は、該スチレン系樹脂全体に基づいて好ましくは99質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらにより好ましくは80質量%以下のソフトセグメントを含む。ソフトセグメントの量が上記の範囲内であることが、優れた遮音性能を発現するため好ましい。スチレン系ブロックコポリマーにおけるソフトセグメントとしては、例えば共役ジエン系化合物の単独重合体または共重合体が挙げられる。前記ソフトセグメントは、好ましくは共役ジエン系化合物の重合体であり、より好ましくは炭素数4~5の共役ジエン系化合物の単独重合体である。共役ジエン系化合物の単独重合体を含むブロックにおいて、共役ジエン系化合物に基づく炭素-炭素二重結合の一部または全部が水素添加されていてもよい。
【0026】
スチレン系樹脂がスチレン系ブロックコポリマーである本発明の好ましい一態様において、このようなスチレン系樹脂は従来公知の方法、例えば、リビングアニオン重合によって製造することができる。
【0027】
前記ポリビニルアルコール樹脂としては、従来公知のポリビニルアルコール樹脂を使用してよく、例えば、ビニルエステル系単量体を重合し、得られた重合体をけん化することによってポリビニルアルコール樹脂を製造することができる。ビニルエステル系単量体を重合する方法としては、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等、従来公知の方法を適用することができる。重合開始剤としては、重合方法に応じて、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が適宜選ばれる。けん化反応は、従来公知のアルカリ触媒または酸触媒を用いる加アルコール分解、加水分解等が適用でき、この中でもメタノールを溶媒とし苛性ソーダ(NaOH)触媒を用いるけん化反応が簡便であり最も好ましい。
【0028】
前記ポリビニルアセタール樹脂としては、従来公知のポリビニルアセタールを使用してよく、例えば前記ポリビニルアルコール樹脂とアルデヒドとを酸触媒の存在下でアセタール化反応させることにより製造することができる。アセタール化反応に用いる酸触媒は、例えば有機酸および無機酸のいずれでもよく、例えば酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。これらの中でも塩酸、硝酸、硫酸が好ましく用いられる。ポリビニルアルコールと反応させるアルデヒドとしては、例えば炭素数1~8のアルデヒドを用いることが好ましい。炭素数1~8のアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-ペンチルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、2-エチルヘキシルアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。これらの中でも炭素数2~5のアルデヒドを用いることが好ましく、炭素数4のアルデヒドを用いることがより好ましい。特にn-ブチルアルデヒドが入手容易であり、アセタール化反応後に残存するアルデヒドの水洗や乾燥による除去が容易で、また得られるポリビニルアセタールの取扱い性と力学特性のバランスに優れるため、好ましく用いられる。ポリビニルアセタール樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂が好ましい。
【0029】
ポリウレタン樹脂としては、脂肪族ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得られる化合物が挙げられる。脂肪族ポリイソシアネートは、耐候性の観点から、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートであることが好ましい。ポリオールとしては、特に限定されるものではないが、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。応力緩和性やガラスに対する接着性等の観点から、ポリエステルポリオールまたはポリエーテルポリオールを用いることが好ましい。
【0030】
ポリカルボン酸ビニル樹脂としては、カルボン酸ビニル化合物を従来公知の方法、例えば溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの方法を適用し、重合開始剤としては、重合方法に応じて、例えばアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤などを適宜選択して重合したものが挙げられる。カルボン酸ビニル化合物は、炭素数4~20のカルボン酸ビニル化合物が好ましく、炭素数4~10のカルボン酸ビニル化合物がより好ましく、炭素数4~6のカルボン酸ビニル化合物がさらに好ましい。カルボン酸ビニル化合物の炭素数が4より小さくなると、目的の重合体の製造が困難となり、炭素数が20より大きくなると、力学特性が低下したり、遮音性が低下したりする傾向にある。このようなカルボン酸ビニル化合物としては、例えば酢酸ビニル、酢酸n-プロペニル、酢酸イソプロペニル、酢酸n-ブテニル、酢酸イソブテニル、プロピオン酸ビニル、ブタン酸ビニル、ペンタン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、オクタン酸ビニル、デカン酸ビニル、ドデカン酸ビニル、ヘキサデカン酸ビニルなどが挙げられる。これらの中でも特に、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ブタン酸ビニルが好適に用いられ、酢酸ビニルがより好適に用いられる。
【0031】
オレフィン-カルボン酸ビニル共重合体としては、例えば、従来公知のオレフィン-カルボン酸ビニル共重合体が挙げられる。オレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブチレン、ブタジエン、イソプレンなどの従来公知の化合物が使用できる。またカルボン酸ビニル化合物としては、例えば酢酸ビニル、酢酸n-プロペニル、酢酸イソプロペニル、酢酸n-ブテニル、酢酸イソブテニル、プロピオン酸ビニル、ブタン酸ビニル、ペンタン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、オクタン酸ビニル、デカン酸ビニル、ドデカン酸ビニル、ヘキサデカン酸ビニルが挙げられる。これらの中でもオレフィンとしてエチレンを使用し、カルボン酸ビニル化合物として酢酸ビニルを使用した、エチレン-酢酸ビニル共重合体が優れた遮音性、十分な力学強度を発現する観点で好ましい。
【0032】
前記熱可塑性樹脂は、ハードセグメントとソフトセグメントとを有するブロックコポリマーまたはコアシェル樹脂であることが好ましい。このような熱可塑性樹脂としては、例えばポリメタクリル酸アルキルを含むハードセグメントと、ポリアクリル酸アルキルを含むソフトセグメントとを有する、アクリルブロックコポリマーまたはアクリルコアシェル樹脂(好ましくはコア層がソフトセグメントであり、シェル層がハードセグメントである)、または、ポリスチレンを含むハードセグメントと、共役ジエン系化合物の重合体を含むソフトセグメントとを有するスチレン系ブロックコポリマーが挙げられる。
【0033】
樹脂組成物Aに含まれる熱可塑性樹脂は、遮音性能と合わせガラス用中間膜の生産性の両立する観点から、-100~250℃の温度範囲に2つ以上のtanδピーク温度を有することが好ましい。tanδピーク温度は、tanδが極大値を示す温度である。熱可塑性樹脂は、本発明の合わせガラス用中間膜で優れた遮音性能と合わせガラス用中間膜の生産性を両立する観点から、-70~200℃の温度範囲に2つ以上のtanδピーク温度を有することがより好ましく、-50~120℃の温度範囲に2つ以上のtanδピーク温度を有することがさらにより好ましい。熱可塑性樹脂が有する2つ以上のtanδピーク温度のうち、最も低い温度をT1とし、最も高い温度をT2とすると、T1は遮音性能を発現する観点から、-50~50℃であることが好ましく、-45~45℃であることがより好ましく、-40~40℃であることがさらに好ましい。また、T2は取扱い性向上の観点から、50~200℃であることが好ましく、60~150℃であることがより好ましく、70~120℃であることがさらに好ましい。このような熱可塑性樹脂としては、例えばアクリルブロックコポリマー、アクリルコアシェル樹脂、スチレン系ブロックコポリマーなどが挙げられる。
【0034】
前記熱可塑性樹脂のtanδは、樹脂組成物Aのtanδと同様に、動的粘弾性装置を用いて周波数0.3Hzで測定される。例えばtanδは、動的粘弾性装置(例えば株式会社ユービーエム製、Rheogel-E4000)を用いて、周波数0.3Hz、引張モードで測定される。測定試料として、例えば0.8mmの厚さを有する熱可塑性樹脂のシートを用いてよく、該測定試料は、熱可塑性樹脂を熱プレス等によりシート状に成形して作製してよい。
【0035】
前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、良好な取扱い性を得る観点から、好ましくは10000~1000000、より好ましくは20000~700000、さらにより好ましくは30000~500000である。Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定し、ポリスチレン換算により算出される。
【0036】
前記熱可塑性樹脂のメルトマスフローレート(MFR)は、合わせガラス用中間膜製造時の成形性の観点から、好ましくは0.01~100g/sec、より好ましくは0.02~20g/sec、さらにより好ましくは0.05~10g/secである。MFRは、フローテスター(例えば、東洋精機株式会社製、セミオートメルトインデクサー2A)を用いて、温度190℃、荷重2.16kgfで測定する。
【0037】
前記熱可塑性樹脂のガラス転移点(Tg)は、遮音性の観点から、好ましくは-50~50℃、より好ましくは-45~40℃である。Tgは、示差熱分析法(DTA)により測定することができる。
【0038】
樹脂組成物Aは、前記熱可塑性樹脂に加えて、制振性付与剤を含有する。本明細書において、制振性付与剤は、樹脂組成物Aに含まれる熱可塑性樹脂に混合させることによって、該熱可塑性樹脂の-100~250℃の温度範囲に存在するtanδの極大値の少なくとも1つを増大させることができる化合物を意味する。ある化合物(「化合物a」とする)が制振性付与剤であるか否かは、樹脂組成物Aに含まれる熱可塑性樹脂についてtanδを測定した際の-100~250℃に存在するtanδの任意の1つの極大値をTDP-1とし、樹脂組成物Aに含まれる熱可塑性樹脂100質量部および化合物a25質量部からなる混合物についてtanδを測定した際の上記TDP-1としての極大値に対応するtanδの極大値をTDP-2とした場合に、TDP-1とTDP-2の値を比較して判断することができ、TDP-1<TDP-2となるような化合物aを制振性付与剤とする。なお、樹脂組成物Aが2種以上の熱可塑性樹脂の混合物を含有する場合、かかる熱可塑性樹脂の混合物についてtanδを測定した際の-100~250℃に存在するtanδの極大値をTDP-1とし、かかる熱可塑性樹脂の混合物100質量部に化合物a25質量部を添加して得た混合物についてtanδを測定した際の上記TDP-1としての極大値に対応するtanδの極大値をTDP-2として、TDP-1<TDP-2となるか否かを判断すればよい。制振性付与剤は、好ましくは-70~100℃、より好ましくは-50~80℃、さらに好ましくは-45~70℃、特に好ましくは-40~30℃の温度範囲に存在するtanδの極大値の少なくとも1つを増大させることができる化合物であることが好ましい。
【0039】
前記TDP-1およびTDP-2に関し、特に質量則が支配的になる領域の周波数およびコインシデンス領域の周波数の両方に対する遮音性を高めやすい観点からは、TDP-2がTDP-1よりも0.1以上高いことが好ましく、0.2以上高いことがより好ましく、0.3以上高いことがさらにより好ましい。
【0040】
樹脂組成物Aに含まれる制振性付与剤は、100~10000の分子量を有する。制振性付与剤の分子量が100より小さい場合には本発明の合わせガラス用中間膜を使用する際に制振性付与剤が揮発することがあり、分子量が10000より大きい場合には制振性付与剤と熱可塑性樹脂との相溶性が低下することがある。制振性付与剤の分子量は、好ましくは200~5000であり、より好ましくは250~3000であり、特に好ましくは300~2000である。
【0041】
樹脂組成物Aに含まれる制振性付与剤は、本発明の合わせガラス用中間膜を長期間使用した際に透明性の低下を起こさない観点から、30℃を超える温度に融点を有さないことが好ましい。制振性付与剤は、融点を有さない非晶性化合物であるか、または、30℃以下の融点を有する結晶性化合物であることが好ましい。制振性付与剤は、10℃以上の温度に融点を有さないことがより好ましく、0℃以上の温度に融点を有さないことがさらにより好ましい。制振性付与剤の融点は、例えば示差走査熱量計により測定される。なお、前記制振性付与剤が2種類以上の化合物を含む混合物である場合、その融点は前記混合物の融点である。
【0042】
制振性付与剤は、100~10000の分子量を有し、樹脂組成物Aに含まれる熱可塑性樹脂との関係で、上記tanδについての要件を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、一般的に粘着付与剤として知られる化合物を制振性付与剤として使用してよい。具体的には、制振性付与剤としては、例えばロジン系樹脂、フルオレン系化合物、テルペン系樹脂、石油樹脂、水添石油樹脂、クマロン-インデン系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂等が挙げられる。樹脂組成物Aは、1種類の制振性付与剤を含有してもよいし、2種以上の制振性付与剤を組み合わせて含有してもよい。
【0043】
ロジン系樹脂としては、例えばロジンまたは変性ロジンが挙げられる。ロジンとしては、ガムロジン、トールロジン、ウッドロジンが挙げられる。変性ロジンとしては、水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、ロジンエステル等が挙げられる。ロジンエステルとしては、ロジン酸、水添ロジンまたは不均化ロジン等とアルコールとのエステル化合物が挙げられる。上記ロジン系樹脂としては、市販のロジン系樹脂をそのまま用いてもよく、さらに精製して用いてもよく、ロジン系樹脂に含まれる特定の有機酸(例えば、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸等)やその変性物を単独でまたは複数組み合わせて用いてもよい。
【0044】
フルオレン系化合物としては、例えばビスフェノールフルオレン、ビスフェノールフルオレンアルコキシレートなどのフルオレン骨格を有する化合物が挙げられる。
【0045】
テルペン系樹脂としては、例えば、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン等を主体とするテルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂等が挙げられる。
【0046】
(水添)石油樹脂等としては、例えば、(水添)脂肪族系(C5系)石油樹脂、(水添)芳香族系(C9系)石油樹脂、(水添)共重合系(C5/C9系)石油樹脂、(水添)ジシクロペンタジエン系石油樹脂、脂環式飽和炭化水素樹脂等が挙げられる。
【0047】
制振性付与剤は、2つ以上の環状骨格を有する化合物であることが好ましい。制振性付与剤が2つ以上の環状骨格を有する場合、本発明の合わせガラス用中間膜でより高い遮音性能を発現するため好ましい。2つ以上の環状骨格を有する化合物としては、例えばロジン系樹脂、フルオレン系化合物、テルペン系樹脂、石油樹脂、水添石油樹脂、スチレン系樹脂、クマロン-インデン系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂等の化合物が挙げられる。
【0048】
制振性付与剤としては、優れた遮音性能を得る観点から、ロジン系樹脂またはフルオレン系化合物が好ましく、ロジン系樹脂がより好ましく、ロジンまたは変性ロジンがさらに好ましく、変性ロジンのうちロジンエステルが特に好ましい。
【0049】
制振性付与剤がロジンエステルである本発明の好ましい一態様において、優れた遮音性能を得る観点、熱可塑性樹脂との相溶性の観点から、ロジンエステルは、ロジン酸、水添ロジンおよび不均化ロジンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物と1~4価のアルコールとのエステル化合物であることが好ましく、ロジン酸、水添ロジンおよび不均化ロジンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物と1~3価のアルコールとのエステル化合物であることがより好ましく、ロジン酸、水添ロジンおよび不均化ロジンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物と1価のアルコールとのエステル化合物であることがさらに好ましい。上記アルコールは特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール、n-ヘキサノール、n-オクタノール等の1価のアルコール;エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の2価のアルコール;グリセリン等の3価のアルコール;ペンタエリトリトール等の4価のアルコールなどが挙げられる。また、前記好ましい一態様において、ロジンエステルは、好ましくは50℃未満、より好ましくは30℃以下、さらにより好ましくは10℃以下のガラス転移点(Tg)を有する。Tgは、示差熱分析法(DTA)により測定することができる。
【0050】
制振性付与剤がロジンエステルである本発明の好ましい一態様において、ロジンエステルの水酸基価は、熱可塑性樹脂との相溶性の観点から、好ましくは0~200mgKOH/g、より好ましくは0~140mgKOH/g、さらに好ましくは0~100mgKOH/g、特に好ましくは0~50mgKOH/g、最も好ましくは0~20mgKOH/gである。ロジンエステルの水酸基価は、JIS K0070により測定される。この態様において、ロジンエステルの酸価は、耐候性の観点から、好ましくは0~100mgKOH/g、より好ましくは0~50mgKOH/g、さらに好ましくは0~20mgKOH/gである。ロジンエステルの酸価は、JIS K2501により測定される。
【0051】
制振性付与剤がロジンエステルである本発明の好ましい一態様において、ロジンエステルの軟化点は、ロジンエステルの取扱い性の観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下である。ロジンエステルの軟化点は、JIS K5902により測定される。
【0052】
本発明の合わせガラス用中間膜において、樹脂組成物Aは、熱可塑性樹脂100質量部、および、制振性付与剤10~1000質量部を含有する。熱可塑性樹脂100質量部に対する制振性付与剤の量が10質量部より少ないと、樹脂組成物Aからなる遮音層を含む本発明の合わせガラス用中間膜の十分な遮音性を達成することができない。熱可塑性樹脂100質量部に対する制振性付与剤の量が1000質量部より大きいと、熱可塑性樹脂と制振性付与剤の相溶性が問題になることがある。熱可塑性樹脂100質量部に対する制振性付与剤の量は、好ましくは15~800質量部、より好ましくは20~500質量部、さらにより好ましくは25~300質量部、いっそう好ましくは35~300質量部、特に好ましくは51~300質量部である。
【0053】
本発明の合わせガラス用中間膜において、樹脂組成物Aに含まれる熱可塑性樹脂および制振性付与剤の合計量は、優れた遮音性能を発現する観点から、樹脂組成物Aの総量に基づいて好ましくは30~100質量%、より好ましくは40~100質量%、さらにより好ましくは50~100質量%である。
【0054】
本発明の合わせガラス用中間膜において、樹脂組成物Aに含まれる熱可塑性樹脂および制振性付与剤は、該制振性付与剤100質量部および該熱可塑性樹脂8質量部からなる組成物について測定した曇り点が、150℃未満であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、50℃以下であることがさらにより好ましい。上記曇り点の下限値は-273℃以上である限り特に限定されないが、例えば-100℃以上であることが好ましく、-80℃以上であることがより好ましい。樹脂組成物Aが、このような特徴を示す熱可塑性樹脂および制振性付与剤を組み合わせて含有することが、合わせガラス用中間膜の初期の透明性が高く、また長期間使用した場合に、その透明性が損なわれにくい観点から好ましい。なお、樹脂組成物Aが2種以上の熱可塑性樹脂の混合物を含有する場合、該混合物8質量部を制振性付与剤100質量部に添加して得た組成物について曇り点を測定すればよい。同様に、樹脂組成物Aが2種の制振性付与剤の混合物を含有する場合、熱可塑性樹脂8質量部を該混合物100質量部に添加して得た組成物について曇り点を測定すればよい。
【0055】
本発明の合わせガラス用中間膜の好ましい一態様において、樹脂組成物Aは、熱可塑性樹脂と、100~10000の分子量を有し、30℃を超える温度に融点を有さない制振性付与剤を含有する。かかる一態様において、熱可塑性樹脂は、アクリルブロックコポリマー、スチレン系ブロックコポリマーおよびアクリルコアシェル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、制振性付与剤はロジンおよび変性ロジンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0056】
本発明の合わせガラス用中間膜の別の好ましい一態様において、樹脂組成物Aは、-100~250℃の温度範囲に2つ以上のtanδピーク温度を有する熱可塑性樹脂と、100~10000の分子量を有する制振性付与剤を含有する。かかる一態様において、熱可塑性樹脂は、アクリルブロックコポリマー、スチレン系ブロックコポリマーおよびアクリルコアシェル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、制振性付与剤はロジンおよび変性ロジンから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0057】
本発明の合わせガラス用中間膜における樹脂組成物Aは、本発明の効果を損なわない範囲で、前記熱可塑性樹脂および制振性付与剤に加えて、可塑剤、遮熱材料(例えば、赤外線吸収能を有する、無機遮熱性微粒子又は有機遮熱性材料)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、接着力調整剤、ブロッキング防止剤、顔料、染料等の種々の添加剤を含有してよい。
【0058】
樹脂組成物Aに含まれ得る可塑剤は、例えば一価カルボン酸エステル系、多価カルボン酸エステル系などのカルボン酸エステル系可塑剤;リン酸エステル系可塑剤、有機亜リン酸エステル系可塑剤などのほか、カルボン酸ポリエステル系、炭酸ポリエステル系、また、ポリアルキレングリコール系などの高分子可塑剤や、ひまし油などのヒドロキシカルボン酸と多価アルコールのエステル化合物も使用することができる。これらの中でも特に、2価アルコールと1価カルボン酸のエステル化合物が、本発明の合わせガラス用中間膜の遮音性を高めやすい観点で好ましく、トリエチレングリコールジ(2-エチルヘキサノエート)が特に好ましい。
【0059】
樹脂組成物Aが可塑剤を含む場合、その含有量は樹脂組成物Aに含まれる熱可塑性樹脂100質量部に対して、0質量部より多いことが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらにより好ましく、10質量部以上であることが特に好ましい。樹脂組成物Aにおける可塑剤の含有量は、樹脂組成物Aに含まれる熱可塑性樹脂100質量部に対して、60質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましい。樹脂組成物Aにおける可塑剤の含有量が、上記の下限以上であると、得られる合わせガラス用中間膜の柔軟性を高めやすく、合わせガラス用中間膜としての衝撃吸収性を高めやすい。また、樹脂組成物Aにおける可塑剤の含有量が、上記の上限以下であると、得られる合わせガラス用中間膜の力学強度を高めやすい。なお、上記特定の樹脂組成物Aを用いる本発明の合わせガラス用中間膜においては、可塑剤を添加しないか、または、従来の合わせガラス用中間膜と比較してより少ない量で添加する場合であっても、十分な遮音性を達成することができる。そのため、可塑剤の遮音層からのブリードアウトを抑制しやすい。また、合わせガラス用中間膜が遮音層と他の層とを積層させた構成を有する場合には、遮音層に含まれ得る可塑剤の他の層への移行を抑制しやすい。熱可塑性樹脂として-100~250℃の範囲にtanδピーク温度を有する樹脂を使用し、制振性付与剤として30℃を超える温度に融点を有さないものを使用することが、可塑剤の添加量を低減しやすい観点から好ましい。
【0060】
本発明の合わせガラス用中間膜は、上記樹脂組成物Aからなる遮音層を少なくとも有する。該遮音層は、合わせガラス用中間膜の室温での取扱い性を良好なものとする観点から、好ましくは0%以上20%未満、より好ましくは0%以上10%未満のクリープ伸び率を有する樹脂組成物Aを使用することが好ましい。また、伸び率が上記の上限以下であると、本発明の合わせガラス用中間膜が室温保管時に変形しにくく、取扱い性がより良好である。伸び率は、厚さ0.8mm、幅1cm、長さ10cmのシートを測定試料とし、20℃20%RHの条件下、24時間クリープ試験を行うことにより測定される。
【0061】
本発明の合わせガラス用中間膜は、遮音層のみから構成させていてもよいが、例えば、遮音層の少なくとも一方の面に保護層が積層されている構成、例えば遮音層の片面に保護層が積層された構成、または、遮音層の両面に保護層が積層された構成、つまり、遮音層が2つの保護層の間に配置されているような構成を有していてもよい。本発明の合わせガラス用中間膜において、遮音層の少なくとも一方の面に保護層が積層されていることが、合わせガラス用中間膜の遮音性だけでなく、力学強度、ガラスとの接着性、取扱い性を高めやすいため好ましい。
【0062】
本発明の合わせガラス用中間膜が保護層を有する場合、該保護層は樹脂(b1)を含む組成物Bからなる。組成物Bに含まれる樹脂(b1)としては熱可塑性樹脂が好ましく、例えばポリビニルアセタール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマーなどが挙げられる。これらは力学強度、透明性、ガラスとの接着性に優れているため好適である。
【0063】
組成物Bはこれらの樹脂(b1)を組成物Bの総量に基づいて40質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましく、60質量%以上含むことがさらに好ましく、80質量%以上含むことが特に好ましく、90質量%以上含むことが最も好ましい。また、組成物Bはこれら樹脂(b1)を100質量%含むものであってもよい。これら樹脂(b1)の含有量が40質量%より少なくなると、保護層とガラスとの接着性が低下したり、保護層の力学強度が不十分になったりすることがある。
【0064】
組成物Bに含まれるポリビニルアセタールの平均残存水酸基量は、10モル%以上であることが好ましく、15モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることがさらに好ましく、25モル%以上であることが特に好ましい。ポリビニルアセタールの平均残存水酸基量は、50モル%以下であることが好ましく、45モル%以下であることがより好ましく、40モル%以下であることがさらに好ましい。平均残存水酸基量が10モル%より少なくなると、ガラスとの接着性が低下する傾向にあり本発明の合わせガラス用中間膜の遮音性能が低下することがある。一方平均残存水酸基量が50モル%より多くなると、耐水性が低下する傾向にある。
【0065】
ポリビニルアセタールの平均残存ビニルエステル基量は30モル%以下であることが好ましい。平均残存ビニルエステル基量が30モル%を超えると、ポリビニルアセタールの製造時にブロッキングを起こしやすくなるため、製造しにくくなる。平均残存ビニルエステル基量は、20モル%以下であることが好ましく、0モル%であってもよい。
【0066】
ポリビニルアセタールの平均アセタール化度は40モル%以上であることが好ましく、90モル%以下であることが好ましい。平均アセタール化度が40モル%未満であると可塑剤などとの相溶性が低下する傾向にある。平均アセタール化度が90モル%を超えると、ポリビニルアセタール樹脂を得るための反応に長時間を要し、プロセス上好ましくないことがあり、また十分な力学強度を発現しないことがある。平均アセタール化度は60モル%以上であることがより好ましく、耐水性や可塑剤との相溶性の観点から、65モル%以上であることがさらに好ましく、68モル%以上であることが特に好ましい。また、平均アセタール化度は85モル%以下であることが好ましく、80モル%以下であることがさらに好ましく、75モル%以下であることが特に好ましい。
【0067】
ポリビニルアセタールの重合度は、100以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、1000以上であることがより好ましく、1400以上であることがさらに好ましく、1600以上であることが特に好ましい。ポリビニルアセタールの重合度が100未満であると、耐貫通性、耐クリープ物性、特に85℃、85%RHのような高温高湿条件下での耐クリープ物性が低下することがある。また、ポリビニルアセタールの重合度は、5000以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましく、2500以下であることがさらに好ましく、2300以下であることが特に好ましく、2000以下であることが最も好ましい。ポリビニルアセタールの重合度が5000を超えると樹脂膜の成形が難しくなることがある。さらに、得られる合わせガラス用中間膜のラミネート適性を向上させ、いっそう外観が優れた合わせガラスを得るためには、ポリビニルアセタールの重合度が1800以下であることが好ましい。なお、ポリビニルアセタールの重合度は、例えば、JIS K6728に準拠して測定することができる。
【0068】
ポリビニルアセタールの平均残存ビニルエステル基量は30モル%以下に設定することが好ましいため、原料としてけん化度が70モル%以上のポリビニルアルコールを使用することが好ましい。ポリビニルアルコールのけん化度が70モル%未満となると、樹脂の透明性や耐熱性が低下することがあり、またアルデヒド類との反応性も低下することがある。けん化度は、より好ましくは95モル%以上のものである。
【0069】
ポリビニルアルコールのけん化度は、例えば、JIS K6726:1944に準拠して測定することができる。
【0070】
ポリビニルアルコールのアセタール化に用いるアルデヒド類、ポリビニルアセタール樹脂としては、上記遮音層におけるものをいずれも採用することができる。
【0071】
組成物Bに含まれるエチレン-酢酸ビニル共重合体においては、エチレン部分、酢酸ビニル部分の合計に対する酢酸ビニル部分の割合は、50モル%未満であることが好ましく、30モル%未満であることがより好ましく、20モル%未満であることがさらに好ましく、15モル%未満であることが、合わせガラス用中間膜に必要な力学強度と柔軟性を発現する観点で特に好ましい。
【0072】
組成物Bに含まれるアイオノマーとしては、エチレン由来の構成単位、およびα,β-不飽和カルボン酸に由来の構成単位を有し、α,β-不飽和カルボン酸の少なくとも一部が金属イオンによって中和された樹脂が挙げられる。ベースポリマーとなるエチレン・α,β-不飽和カルボン酸共重合体において、α,β-不飽和カルボン酸の構成単位の含有割合は、2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。また、α,β-不飽和カルボン酸の構成単位の含有割合は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。本発明においては、入手のしやすさの点から、エチレン・アクリル酸共重合体のアイオノマー、およびエチレン・メタクリル酸共重合体のアイオノマーが好ましい。アイオノマーを構成するα,β-不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸などが挙げられ、アクリル酸またはメタクリル酸が特に好ましい。
【0073】
組成物Bは、樹脂(b1)以外の成分として、さらに可塑剤(b2)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、顔料、染料、機能性無機化合物、遮熱材料(例えば、赤外線吸収能を有する、無機遮熱性微粒子または有機遮熱性材料)等の種々の添加剤を必要に応じて含有してよい。特に組成物Bにポリビニルアセタールを使用する場合には、得られる合わせガラス用中間膜の力学強度、遮音性の観点から可塑剤を含むことが好ましい。
【0074】
可塑剤(b2)としては、例えば樹脂組成物Aに含まれ得る可塑剤として上記に述べたものが挙げられる。組成物Bが可塑剤(b2)を含む場合、その含有量は樹脂(b1)100質量部に対して、20質量部以上であることが好ましく、25質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることがさらに好ましい。組成物Bにおける可塑剤(b2)の含有量は、樹脂(b1)100質量部に対して、60質量部以下であることが好ましく、55質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることがさらに好ましい。組成物Bにおける可塑剤(b2)の含有量が、樹脂(b1)100質量部に対して20質量部より少ないと、得られる合わせガラス用中間膜の柔軟性が不十分となる傾向にあり、合わせガラス用中間膜としての衝撃吸収性が問題になる場合がある。また、組成物Bにおける可塑剤(b2)の含有量が、樹脂(b1)100質量部に対して60質量部より多いと、得られる合わせガラス用中間膜の力学強度が不十分となる傾向にある。特にポリビニルアセタールを用いる場合には、優れた遮音性を発現する観点で、可塑剤(b2)の含有量は35~60質量部であることが好適である。
【0075】
保護層を構成する組成物Bを成形したシート(厚さは例えば0.8mm)の動的粘弾性を、周波数0.3Hz、引張モードで測定した際に得られるtanδが最大の値を示す極大値を有する温度をTD(℃)とし、遮音層を構成する樹脂組成物Aを成形したシート(厚さは例えば0.8mm)の動的粘弾性を、周波数0.3Hz、引張モードで測定した際に得られるtanδが最大の値を示す極大値を有する温度をTA(℃)とした場合、TDはTAよりも高いことが好ましく、TDはTAよりも10℃以上高いことがより好ましく、TDはTAよりも20℃以上高いことがさらにより好ましい。このような条件を満たすことにより、遮音性に優れるだけでなく、力学強度、ガラスとの接着性、取扱い性に優れた合わせガラス用中間膜を得ることができる。
【0076】
遮音層および保護層を構成する樹脂組成物AおよびBは、樹脂、その他成分を従来公知の方法で混合することにより得られる。混合方法としては、例えばミキシングロール、プラストミル、押し出し機などを用いた溶融混練、あるいは各成分を適当な有機溶剤に溶解した後、溶剤を留去する方法などが挙げられる。
【0077】
本発明の合わせガラス用中間膜の製造方法は特に限定されるものではなく、樹脂組成物Aを均一に混練した後、押出法、カレンダー法、プレス法、キャスティング法、インフレーション法等、公知の製膜方法により遮音層を作製し、また、同様の方法で必要に応じて組成物Bから保護層を作製し、これらをプレス成形等で積層させてもよいし、保護層、遮音層およびその他必要な層を共押出法により成形してもよい。また、作製した遮音層を単独で使用してもよい。
【0078】
公知の製膜方法の中でも特に押出機を用いて合わせガラス用中間膜を製造する方法が好適に採用される。押出し時の樹脂温度は150℃以上が好ましく、170℃以上がより好ましい。また、押出し時の樹脂温度は250℃以下が好ましく、230℃以下がより好ましい。樹脂温度が高くなりすぎると、用いる樹脂が分解を起こし、樹脂の劣化が懸念される。逆に温度が低すぎると、押出機からの吐出が安定せず、機械的トラブルの要因になる。揮発性物質を効率的に除去するためには、押出機のベント口から減圧により、揮発性物質を除去することが好ましい。
【0079】
本実施形態における合わせガラス用中間膜は、遮音層(以下、A層ともいう)を少なくとも有し、場合により、該遮音層の少なくとも一方の面に積層された保護層(以下、B層ともいう)を有する。遮音層の両面に保護層が積層された構成であってもよい。合わせガラス用中間膜が遮音層以外の層を含む場合の積層構成は、所望する目的に応じて適宜決定してよいが、例えばB層/A層、B層/A層/B層、B層/A層/B層/A層、B層/A層/B層/A層/B層という積層構成であってもよい。これらの中でも特に取扱い性と遮音性のバランスに優れる観点からB層/A層/B層が好ましい。
【0080】
また、A層、B層以外の層(C層とする)を1層以上含んでいてもよく、例えば、B層/A層/C層/B層、B層/A層/B層/C層、B層/C層/A層/C層/B層、B層/C層/A層/B層/C層、B層/A層/C層/B層/C層、C層/B層/A層/B層/C層、C層/B層/A層/C層/B層/C層、C層/B層/C層/A層/C層/B層/C層などの積層構成でも構わない。また上記積層構成において、C層中の成分は、同一であっても異なっていてもよい。これはA層またはB層中の成分についても同様である。
【0081】
なお、C層としては公知の樹脂からなる層が使用可能であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエステルのうちポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリイミドなどを用いることができる。また、C層も、必要に応じて、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、顔料、染料、遮熱材料(例えば、赤外線吸収能を有する、無機遮熱性微粒子または有機遮熱性材料)、機能性無機化合物などの添加剤を含有してよい。
【0082】
また、本発明の合わせガラス用中間膜は表面にメルトフラクチャーやエンボスなど、従来公知の方法で凹凸構造を形成することが好ましい。メルトフラクチャーおよびエンボスの形状は、従来公知のものを採用することができる。本発明の合わせガラス用中間膜の表面に凹凸構造を形成すると、合わせガラス用中間膜とガラスとを熱圧着する際の泡抜け性に優れるため好ましい。
【0083】
本発明の合わせガラス用中間膜における遮音層の厚さは、0.005mm以上であることが好ましく、0.01mm以上であることがより好ましく、0.02mm以上であることがさらに好ましく、0.04mm以上であることがいっそう好ましく、0.07mm以上であることがよりいっそう好ましく、0.1mm以上であることが特に好ましく、0.15mm以上であることがとりわけ好ましく、0.2mm以上であることが最も好ましい。また遮音層の厚さは5mm以下であることが好ましく、4mm以下であることがより好ましく、2mm以下であることがさらに好ましく、1.6mm以下であることがいっそう好ましく、1.2mm以下であることがよりいっそう好ましく、1.1mm以下であることが特に好ましく、1mm以下であることがとりわけ好ましく、0.79mm以下であることが最も好ましい。遮音層の厚さは従来公知の方法、例えば接触式または非接触式の厚み計などを用いて測定される。
【0084】
本発明の合わせガラス用中間膜が保護層を有する場合、保護層の厚さは、0.01mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることがより好ましく、0.15mm以上であることがさらに好ましく、0.20mm以上であることが特に好ましく、0.25mm以上であることが最も好ましい。また保護層の厚さは1.00mm以下であることが好ましく、0.70mm以下であることがより好ましく、0.60mm以下であることがさらに好ましく、0.50mm以下であることがいっそう好ましく、0.45mm以下であることが特に好ましく、0.4mm以下であることが最も好ましい。保護層の厚さは、上記遮音層の厚さと同様にして測定される。
【0085】
本発明の合わせガラス用中間膜の厚さは、通常、その下限は0.1mm、好ましくは0.2mm、より好ましくは0.3mm、さらに好ましくは0.4mm、特に好ましくは0.5mm、いっそう好ましくは0.6mm、特別好ましくは0.7mm、最適には0.75mmである。またその上限は5mm、好ましくは4mm、より好ましくは2mm、さらに好ましくは1.6mm、特に好ましくは1.2mm、いっそう好ましくは1.1mm、特別好ましくは1mm、最適には0.79mmである。合わせガラス用中間膜の厚さは、上記遮音層の厚さと同様にして測定される。
【0086】
本発明の合わせガラス用中間膜と積層させるガラスは、例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、熱線吸収板ガラスなどの無機ガラスのほか、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネートなどの従来公知の有機ガラス等を制限なく使用できる。これらは無色または有色のいずれであってもよい。これらは一種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、ガラスの厚さは、100mm以下であることが好ましい。
【0087】
本発明の合わせガラス用中間膜を二枚のガラスに挟んでなる合わせガラスは、従来公知の方法で製造できる。例えば真空ラミネーター装置を用いる方法、真空バッグを用いる方法、真空リングを用いる方法、ニップロールを用いる方法等が挙げられる。また上記方法により仮圧着した後に、オートクレーブに投入して本接着する方法も挙げられる。
【0088】
合わせガラスは透明性に優れるものであることが好ましく、例えばそのヘイズは1%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。また合わせガラスの透明性は長期間使用した場合に経時的に変化しないことが好ましく、例えば製造された合わせガラスの作製直後のヘイズを測定し、また合わせガラスを23℃、50%RHで25週間保管した後のヘイズを測定し、25週間後のヘイズから作製直後のヘイズを差し引いた値を指標とした場合、差が50%以下であるものが好ましく、1%以下であるものがより好ましく、0.5%以下のものがさらに好ましい。差が50%以下であるものは、長期間使用した場合に、例えば本発明の合わせガラス用中間膜に付加的に含まれる制振性付与剤(例えば環構造を少なくとも2つ有する化合物)が、合わせガラス用中間膜中で析出するなどの理由により起こり得る透明性の低下が起こりにくいものであり、好適である。なお本発明においてヘイズは、ヘーズメーターHZ-1(スガ試験機株式会社製)によりJIS K7136:2000に準拠して測定できる。
【0089】
本発明はまた、熱可塑性樹脂および制振性付与剤を含有し、30℃以下の温度にtanδの極大値を有し、該極大値が3.1より大きい、制振性樹脂組成物も対象とする。このようなtanδを有する本発明の制振性樹脂組成物は、特に質量則が支配的になる領域の周波数およびコインシデンス領域の周波数の両方に対して高い遮音性を有すると共に、取扱い性に優れる。ここで、質量則が支配的になる領域の周波数およびコインシデンス領域の周波数の定義は、先に記載の樹脂組成物Aにおける定義と同様である。
【0090】
本発明の制振性樹脂組成物は30℃以下の温度にtanδの極大値を有する。制振性樹脂組成物が30℃以下の温度にtanδの極大値を有さない場合、室温付近の温度で十分な遮音性を達成することができない。また、本発明の制振性樹脂組成物が30℃以下の温度に有するtanδの極大値は3.1より大きい。本発明の制振性樹脂組成物が30℃以下の温度に1つのtanδの極大値を有する場合、該極大値は3.1より大きく、本発明の制振性樹脂組成物が30℃以下の温度に2つ以上のtanδの極大値を有する場合、該2つ以上の極大値の少なくとも1つが3.1より大きければよい。かかる極大値が3.1以下であると、十分な遮音性を達成することができない。tanδおよびその極大値に関するその他の説明は、先に記載の樹脂組成物Aにおける説明と同様である。
【0091】
本発明の制振性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100質量部、および、制振性付与剤10~1000質量部を含有する。前記熱可塑性樹脂に関する説明は、先に記載の樹脂組成物Aに含まれる熱可塑性樹脂の説明と同様である。
【0092】
本発明の制振性樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂に加えて、制振性付与剤を含有する。制振性付与剤の説明は、先に記載の樹脂組成物Aに含まれる制振性付与剤の説明と同様である。
【0093】
本発明の制振性樹脂組成物に含まれる制振性付与剤は、100~10000の分子量を有する。分子量が100より小さいと本発明の制振性樹脂組成物を合わせガラス用中間膜に使用する際、制振性付与剤が揮発することがあり、分子量が10000より大きいと熱可塑性樹脂との相溶性が低下することがある。制振性付与剤の分子量は、好ましくは200~5000であり、より好ましくは250~3000であり、特に好ましくは300~2000である。
【0094】
本発明の制振性樹脂組成物に含まれる制振性付与剤は、本発明の制振性樹脂組成物を長期間使用した際に透明性の低下を起こさない観点から、30℃を超える温度に融点を有さないことが好ましい。制振性付与剤は、融点を有さない非晶性化合物であるか、または、30℃以下の融点を有する結晶性化合物であることが好ましい。制振性付与剤は、10℃以上の温度に融点を有さないことがより好ましく、0℃以上の温度に融点を有さないことがさらにより好ましい。制振性付与剤の融点は、例えば示差走査熱量計により測定される。なお、前記制振性付与剤が2種類以上の化合物を含む混合物である場合、その融点は前記混合物の融点である。
【0095】
制振性付与剤は、100~10000の分子量を有し、本発明の制振性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂との関係で、上記tanδについての要件を満たすものであれば特に限定されない。その例としては、先に記載の樹脂組成物Aに含まれる制振性付与剤の例として挙げた化合物が挙げられる。
【0096】
本発明の制振性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100質量部、および、制振性付与剤10~1000質量部を含有する。熱可塑性樹脂100質量部に対する制振性付与剤の量が10質量部より少ないと、本発明の制振性樹脂組成物を遮音性フィルムなどの成形体において使用する際に十分な遮音性を達成することができない。熱可塑性樹脂100質量部に対する制振性付与剤の量が1000質量部より大きいと、熱可塑性樹脂と制振性付与剤の相溶性が問題になることがある。熱可塑性樹脂100質量部に対する制振性付与剤の好ましい量、熱可塑性樹脂および制振性付与剤の好ましい合計量、ならびに曇り点に関する説明および好ましい態様は、先に記載の樹脂組成物Aにおける量、説明および好ましい態様とそれぞれ同様である。
【0097】
本発明の制振性樹脂組成物の好ましい一態様において、制振性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、100~10000の分子量を有し、30℃を超える温度に融点を有さない制振性付与剤を含有する。かかる一態様において、熱可塑性樹脂は、アクリルブロックコポリマー、スチレン系ブロックコポリマーおよびアクリルコアシェル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、制振性付与剤は、ロジンおよび変性ロジンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0098】
本発明の制振性樹脂組成物の別の好ましい一態様において、制振性樹脂組成物は、-100~250℃の温度範囲に2つ以上のtanδピーク温度を有する熱可塑性樹脂と、100~10000の分子量を有する制振性付与剤を含有する。かかる一態様において、熱可塑性樹脂は、アクリルブロックコポリマー、スチレン系ブロックコポリマーおよびアクリルコアシェル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、制振性付与剤はロジンおよび変性ロジンから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0099】
本発明の制振性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記熱可塑性樹脂および制振性付与剤に加えて、種々の添加剤を含有してよい。添加剤に関する説明は、先に記載の樹脂組成物Aに含まれ得る添加剤の説明と同様である。
【0100】
本発明の制振性樹脂組成物は、制振性樹脂組成物から成形品を製造する際の室温での取扱い性を良好なものとする観点から、好ましくは0%以上20%未満、より好ましくは0%以上10%未満のクリープ伸び率を有する樹脂組成物を使用することが好ましい。また、伸び率が上記の上限以下であると、本発明の制振性樹脂組成物が室温保管時に変形しにくく、取扱い性がより良好である。伸び率は、厚さ0.8mm、幅1cm、長さ10cmのシートを測定試料とし、20℃20%RHの条件下、24時間クリープ試験を行うことにより測定される。
【0101】
本発明の制振性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂および制振性付与剤、ならびにその他成分を、従来公知の方法で混合することにより得られる。混合方法としては、例えばミキシングロール、プラストミル、押し出し機などを用いた溶融混練、あるいは各成分を適当な有機溶剤に溶解した後、溶剤を留去する方法などが挙げられる。
【0102】
本発明の制振性樹脂組成物は、室温での取扱い性に優れると共に、良好な溶融成形性を有する。そのため、本発明の制振性樹脂組成物を成形して、制振性、制音性が要求される種々の用途で使用される部品等の成形品を得ることができる。このような成形品としては、例えば、コンベアベルト、キーボード、ラミネート、各種包装容器用のフィルムやシート、ホース、チューブ、自動車部品、機械部品等が挙げられる。例えば本発明の制振性樹脂組成物から得たフィルムを、遮音性を有する合わせガラス用の中間膜として使用してもよい。
【0103】
本発明の制振性樹脂組成物を使用して製造した成形体(例えばフィルム)は、透明性に優れるものであることが好ましい。上記透明性は、例えば本発明の制振性樹脂組成物からなるシートを含む成形体を2枚のガラスに挟んで得られる合わせガラスのヘイズを指標にすることができる。上記ヘイズは、例えば3%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。また本発明の制振性樹脂組成物を使用して製造した成形体の透明性は長期間使用した場合に経時的に変化しないことが好ましい。例えば前記合わせガラスの作製直後のヘイズを測定し、また該合わせガラスを23℃、50%RHで25週間保管した後のヘイズを測定し、25週間後のヘイズから作製直後のヘイズを差し引いた値を指標とした場合、差が50%以下であるものが好ましく、1%以下であるものがより好ましく、0.5%以下のものがさらに好ましい。差が50%以下であるものは、長期間使用した場合に、例えば本発明の制振性樹脂組成物を使用して製造した成形体に含まれる制振性付与剤(例えば環構造を少なくとも2つ有する化合物)が成形体中で析出するなどの理由により起こり得る透明性の低下を抑制しやすく、好適である。なお本発明においてヘイズは、ヘーズメーターHZ-1(スガ試験機株式会社製)によりJIS K7136:2000に準拠して測定できる。
【0104】
本発明の制振性樹脂組成物は各種素材に対する高い溶融接着性を有する。そのため、本発明の制振性樹脂組成物のみから成形体を得てもよいが、本発明の制振性樹脂組成物と他の材料とを組み合わせて、複合成形体を製造してもよい。複合成形体の形状は特に限定されないが、例えば積層体が挙げられる。本発明の制振性樹脂組成物と組み合せ得る他の材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紙、金属、木材、セラミック等が挙げられる。
【0105】
前記複合成形体は、例えば、上記に述べた他の材料を本発明の制振性樹脂組成物で溶融被覆して製造してもよいし、2つ以上の他の材料の間に溶融状態の本発明の制振性樹脂組成物を導入して接着、一体化させて製造してもよいし、他の材料を金型内に配置させた状態で、本発明の制振性樹脂組成物の溶融物を金型内に充填して接着、一体化させて製造してもよいし、他の材料が熱可塑性である場合は本発明の制振性樹脂組成物と他の材料とを共押出成形して接着、一体化させて製造してもよい。
【0106】
他の材料として適当な熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン系樹脂;オレフィン系重合体;ポリウレタン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリエステル樹脂;ポリ塩化ビニリデン樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;アクリル樹脂;ポリオキシメチレン樹脂;エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物;芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物、共役ジエン化合物およびオレフィン化合物からなる群から選択される少なくとも1種との共重合体などの樹脂またはそれらを含有する組成物が挙げられる。
【0107】
本発明の制振性樹脂組成物を使用して得られる成形体は、何ら限定されるものではないが、例えば、インストルメントパネル、センターパネル、センターコンソールボックス、ドアトリム、ピラー、アシストグリップ、ハンドル、エアバックカバーなどの自動車用内装部品;モール、バンパーなどの自動車外装部品;掃除機バンパー、冷蔵庫戸当たり、カメラグリップ、電動工具グリップ、リモコンスイッチ、OA機器の各種キートップなどの家電部品;水中眼鏡などのスポーツ用品;各種カバー;耐摩耗性、密閉性、防音性、防振性などを目的とした各種パッキン付き工業部品;カールコード電線被覆;食品用、医療用、農業用包装用などの各種フィルム;壁紙、化粧板などの建材;ベルト、ホース、チューブ、マット、シート、消音ギアなどの電気・電子部品などに使用することができる。
【実施例】
【0108】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
まず実施例1~16および比較例1~7により、本発明をさらに説明する。
【0109】
〔評価方法〕
(熱可塑性樹脂および樹脂組成物のtanδ)
熱可塑性樹脂および樹脂組成物のそれぞれを、熱プレス機を使用して150℃、100kg/cm2で30分間プレスして、厚さ0.8mmのシートを得た。得られたシートを幅3mmに切断し、動的粘弾性測定試料とした。この測定試料について、動的粘弾性装置(株式会社ユービーエム製、Rheogel-E4000)を使用し、-100から250℃まで、3℃/分で昇温しながら、チャック間距離20mm、周波数0.3Hz、変位75.9μm、自動静荷重26g、引張モードで分析した。得られた結果から、100℃以下の温度に存在する損失正接tanδ(=損失弾性率/貯蔵弾性率)の極大値、および極大になる温度を求めた。
【0110】
(曇り点)
直径3cmの試験管に制振性付与剤100質量部および熱可塑性樹脂8質量部を入れ、マグネティックスターラーで撹拌しながらオイルバスで150℃に昇温し、熱可塑性樹脂を溶解させた。試験管をオイルバスから取り出し、撹拌しながら室温まで冷却する過程において溶液を目視で確認し、溶液の一部が濁った温度を曇り点とした。なお、150℃で熱可塑性樹脂が溶解しない場合、曇り点は150℃を超えるものとした。
【0111】
(合わせガラスの音響透過損失)
後述する実施例および比較例で製造した合わせガラスを25mm×300mmの大きさに切断し、加振機(エミック株式会社製、小型振動発生機512-A)により加振し、その際の周波数応答関数をFFTアナライザー(株式会社小野測器製、DS-2100)にて検出し、サーボ解析ソフト(株式会社小野測器製、DS-0242)を使用して0℃、5℃、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃および40℃のそれぞれの温度について、3次の反共振モードにおける損失係数を求めた。また、損失係数と前記試験で求められる3次の反共振周波数の値から0℃、5℃、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃および40℃における2000Hz、2500Hz、3150Hz、4000Hz、5000Hzおよび6300Hzの音響透過損失を計算し、これらの平均値を求めた。表4に、音響透過損失の平均値が最も大きい温度(表4では単に「温度」と記載)と、その温度における前記平均値(表4では単に「平均値」と記載)および5000Hzにおける音響透過損失値(表4では、単に「5000Hz」と記載)を示す。前記平均値が大きいものほど、いわゆる質量則が支配的になる領域を含む広い周波数において音響透過損失が優れることを示し、5000Hzにおける音響透過損失に優れるものは、コインシデンス領域の周波数に対する遮音性に優れることを示す。
【0112】
(室温での取扱い性)
tanδの評価に記載した方法と同様にして作製した厚さ0.8mmの熱可塑性樹脂および樹脂組成物のシートを、長さ10cm、幅1cmにカットし、測定試料とした。該試料を20℃、20%RHで24時間調湿後、20℃、20%RHの条件下、シートを垂直にぶら下げてクリープ試験を実施し、24時間後の伸び率を求めた。得られた伸び率を以下の基準に従い評価した。伸び率が順に大きくなるA、B、C、Dの順に室温での取扱い性に優れる。
伸び率の評価基準
A:0%以上10%未満
B:10%以上20%未満
C:20%以上50%未満
D:50%以上
【0113】
(合わせガラスの透明性および透明性の経時変化)
後述する実施例および比較例で製造した合わせガラスについて、作製直後のヘイズを測定した。また、作製後、23℃、50%RHで25週間保管した後のヘイズを測定し、ヘイズの経時変化を評価した。ヘイズの経時変化量は次の式により算出した。
ヘイズの経時変化量=25週間保管後のヘイズ-作製直後のヘイズ
なお、ヘイズの経時変化量が小さいものほど、すなわちA、B、C、D、Eの順に、透明性の経時変化が生じにくく、合わせガラスを長期間使用した場合に透明性が低下しにくく好ましい。
ヘイズの経時変化量の評価基準
A:0.5%以下
B:0.5%より大きく、1%以下
C:1%より大きく、50%以下
D:50%より大きく、70%以下
E:70%より大きい
【0114】
後述する実施例および比較例において、次の表1に記載する熱可塑性樹脂および次の表2に記載する制振性付与剤を使用した。なお、表1中の「2つ以上のピーク温度」の欄には、熱可塑性樹脂が-100~250℃の温度範囲に2つ以上のtanδピーク温度を有するという要件を満たす場合に「満たす」、満たさない場合に「満たさない」を記載した。
【0115】
【0116】
【0117】
[製造例1:AB-1の合成]
1リットルの三口フラスコを窒素で置換した後、室温にてトルエン390g、N,N,N',N'',N''-ペンタメチルジエチレントリアミン0.30ml、イソブチルビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシ)アルミニウム3.0mmolを含有するトルエン溶液18mlを加え、さらに、sec-ブチルリチウム1.0mmolを含有するシクロヘキサンとn-ヘキサンの混合溶液0.8mlを加えた。これにメタクリル酸メチル17mlを加え、室温(25℃)にて1時間撹拌した(このとき、溶液は無色であった)。引き続き、重合液の内部温度を-12℃に冷却し、アクリル酸n-ブチル55mlを6時間かけて滴下して反応を行った。さらにメタクリル酸メチル7mlを加えて室温で撹拌下に反応させた。10時間後(このとき、溶液は無色であった)、反応液にメタノール1gを添加して重合を停止した。この重合停止後の反応液を大量のメタノール中に注ぎ、析出した白色沈殿物を回収、乾燥してAB-1を得た。AB-1は、PMMA(11質量%)-PBA(78質量%)-PMMA(11質量%)からなるトリブロック共重合体であった。
【0118】
[製造例2:AB-2の合成]
製造例1において、最初に添加したメタクリル酸メチルの使用量を8.8mLに変更し、アクリル酸n-ブチルの使用量を42mLに変更し、その後添加したメタクリル酸メチルの量を8.8mLに変更した以外は同様にしてAB-2を得た。AB-2は、PMMA(15質量%)-PBA(70質量%)-PMMA(15質量%)からなるトリブロック共重合体であった。
【0119】
[製造例3:AB-3の合成]
製造例1において、最初に添加したメタクリル酸メチルの使用量を15mLに変更し、アクリル酸n-ブチルの使用量を32mLに変更し、その後添加したメタクリル酸メチルの量を15mLに変更した以外は同様にしてAB-3を得た。AB-3は、PMMA(25質量%)-PBA(50質量%)-PMMA(25質量%)からなるトリブロック共重合体であった。
【0120】
[製造例4:ACS-1の合成]
2Lセパラブルフラスコに純水800g、7gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王株式会社製、ネオペレックスG-15)と5gのポリカルボン酸型高分子界面活性剤(花王株式会社製、ポイズ520)を添加し、80℃で撹拌、溶解した。80mgのペルオキソ2硫酸カリウムを添加し、続いてアクリル酸n-ブチル220g、スチレン50g、メタクリル酸アリル2g、リン酸エステル系化合物(株式会社アデカ製、CS-141)1gからなる混合物を60分かけて添加した後、さらに60分反応して第1層(コア層)の重合を行った。次に30mgのペルオキソ2硫酸カリウムを添加し、続いてアクリル酸n-ブチル84g、スチレン17g、メタクリル酸メチル5g、メタクリル酸アリル1gおよびCS-141E、0.5gからなる混合物を40分かけて添加し、さらに60分反応して第2層(コア層)の重合を行った。続いてペルオキソ2硫酸カリウムを48mg添加し、メタクリル酸メチル150g、アクリル酸メチル8g、n-オクチルメルカプタン1.6g、CS-141、0.8gからなる混合物を40分かけて添加し、その後60分反応して第3層(シェル層)の重合を行った。得られた溶液を40℃以下に冷却後、金属製容器に取出し、-20℃で一晩冷却して凍結後、40℃の水に添加、得られた樹脂をろ別して回収、乾燥してACS-1を得た。
【0121】
[製造例5:ACS-2の合成]
ACS-1の合成において、第3層の重合においてメタクリル酸メチルを39g、アクリル酸メチルを2g、n-オクチルメルカプタンの量を0.4gに変更した以外は同様にしてACS-2を得た。
【0122】
[製造例6:SDB-1の合成]
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン50kg、アニオン重合開始剤として濃度10.5質量%のsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液76g(sec-ブチルリチウムの実質的な添加量:8.0g)を仕込み、ルイス塩基としてテトラヒドロフラン310gを仕込んだ。
耐圧容器内を50℃に昇温した後、スチレン(1)0.5kgを加えて1時間重合させ、引き続いてイソプレン8.2kgおよびブタジエン6.5kgの混合液を加えて2時間重合させ、さらにスチレン(2)1.5kgを加えて1時間重合させることにより、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレントリブロック共重合体を含む反応液を得た。
該反応液に、オクチル酸ニッケルおよびトリメチルアルミニウムから形成されるチーグラー系水素添加触媒を水素雰囲気下で添加し、水素圧力1MPa、80℃の条件で5時間反応させた。該反応液を放冷および放圧させた後、水洗により上記触媒を除去し、真空乾燥させることにより、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物SDB-1(ポリスチレンブロックの含有量は12質量%)を得た。
【0123】
[製造例7:SDB-2の合成]
SDB-1の合成において、sec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液の量を20g、テトラヒドロフランの量を290g、スチレン(1)、スチレン(2)の量をそれぞれ0.16kgに変更し、イソプレンの量を4.4kg、ブタジエンの量を3.5kgに変更した以外は同様にして、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物SDB-2(ポリスチレンブロックの含有量は4質量%)を得た。
【0124】
[製造例8:ポリ酢酸ビニルPVAc-1の合成]
撹拌機、温度計、窒素導入チューブ、還流管を備え付けた6Lセパラブルフラスコに、あらかじめ脱酸素した酢酸ビニルモノマー(VAM)2555g、メタノール(MeOH)945g、VAM中の酒石酸の含有量が20ppmとなる量の酒石酸1%メタノール溶液を仕込んだ。前記フラスコ内に窒素を吹き込みながら、フラスコ内の温度を60℃に調整した。ジn-プロピルパーオキシジカーボネートの0.55質量%メタノール溶液を調製し、18.6mLを前記フラスコ内に添加し重合を開始した。このときのジn-プロピルパーオキシジカーボネートの添加量は0.081gであった。ジn-プロピルパーオキシジカーボネートのメタノール溶液を20.9mL/時間の速度で重合終了まで逐次添加した。重合中、フラスコ内の温度を60℃に保った。重合開始から4時間後、重合液の固形分濃度が25.1%となった時点で、ソルビン酸を0.0141g(重合液中に未分解で残存するジn-プロピルパーオキシジカーボネートの3モル等量に相当する)含有するメタノールを1200g添加した後、重合液を冷却し重合を停止した。重合停止時のVAMの重合率は35.0%であった。重合液を室温まで冷却した後、水流アスピレータを用いてフラスコ内を減圧することにより、VAMおよびメタノールを留去し、ポリ酢酸ビニルを析出させた。析出したポリ酢酸ビニルにメタノールを3000g添加し、30℃で加温しつつポリ酢酸ビニルを溶解させた後、再び水流アスピレータを用いてフラスコ内を減圧することにより、VAMおよびメタノールを留去してポリ酢酸ビニルを析出させた。ポリ酢酸ビニルをメタノールに溶解させた後、析出させる操作をさらに2回繰り返した。析出したポリ酢酸ビニルにメタノールを添加し、VAMの除去率99.8%のポリ酢酸ビニル(PVAc-1)の40質量%のメタノール溶液を得た。
得られたPVAc-1のメタノール溶液の一部を用いて重合度を測定した。PVAc-1のメタノール溶液に、ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が、0.1となるように水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液を添加した。ゲル化物が生成した時点でゲルを粉砕し、メタノールでソックスレー抽出を3日間行った。得られたポリビニルアルコール-1を乾燥し、粘度平均重合度を測定した。重合度は1700であった。
【0125】
[製造例9:PVAc-2の合成]
PVAc-1の合成と反応時間を変更したこと以外は同様にしPVAc-2を得た。PVAc-1と同様の方法でけん化し、得られたポリビニルアルコール-2の粘度平均重合度を測定した結果、2400であった。
【0126】
[製造例10:PVB-1の合成]
還流冷却器、温度計、イカリ型攪拌翼を備えた5Lのセパラブルフラスコに、イオン交換水3720g、ポリビニルアルコール(粘度平均重合度1700、けん化度94モル%)280gを仕込み、内容物を95℃に昇温して完全に溶解させた。次に、120rpmで攪拌下、12℃まで約60分かけて徐々に冷却した後、ブチルアルデヒド173.0gと20%の塩酸201.6mLを添加し、ブチラール化反応を25分間行った。その後、120分かけて65℃まで昇温し、65℃にて120分間保持した後、室温まで冷却した。析出した樹脂をイオン交換水で洗浄、過剰量の水酸化ナトリウム水溶液を添加して残存する酸を中和し、さらに過剰のイオン交換水で洗浄、脱水、乾燥してポリビニルブチラールPVB-1を得た。得られたPVB-1をJIS K6728-1977にしたがって測定したところ、ブチラール化度は75モル%、残存水酸基量は19モル%、残存ビニルエステル基量は6モル%であった。
【0127】
[製造例11:PVB-2の合成]
PVB-1の合成において、原料のポリビニルアルコールを粘度平均重合度1700、けん化度99モル%のポリビニルアルコール280gに変更し、ブチルアルデヒドの使用量を160gに変更した以外は同様にしてPVB-2を得た。PVB-2をJIS K6728-1977にしたがって測定したところ、ブチラール化度は69モル%、残存水酸基量は30モル%、残存ビニルエステル基量は1モル%であった。
【0128】
[製造例12:PBA-1の合成]
ACS-1の合成において、第3層の重合を行わなかったこと以外は同様にして、PBA-1を得た。
【0129】
[実施例1]
熱可塑性樹脂AB-1と制振性付与剤RE-1とを次の表3に示す量で、ラボプラストミルを用いて、120℃で5分間混合して、樹脂組成物A-1を得た。なお、表3中の制振性付与剤の量(質量部)は、熱可塑性樹脂100質量部に対する制振性付与剤の量を表す。ここで、熱可塑性樹脂AB-1の-31.7℃に存在するtanδの極大値(TDP-1)は1.1であったのに対し、100質量部の熱可塑性樹脂AB-1および25質量部のRE-1からなる混合物の上記極大値に対応し、-30.5℃に存在するtanδの極大値(TDP-2)は1.5であり、RE-1は熱可塑性樹脂AB-1を含む樹脂組成物における制振性付与剤であることが確認された。
【0130】
[比較例1]
制振性付与剤を添加せず、熱可塑性樹脂をそのまま使用した。
【0131】
[実施例2~16および比較例2~7]
熱可塑性樹脂および制振性付与剤の種類と、熱可塑性樹脂100質量部に対する制振性付与剤の量とを表3に記載されるように変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。なお、実施例2~16および比較例2~7における各熱可塑性樹脂の-100~250℃の温度範囲に存在するtanδの極大値(TDP-1)と、100質量部の各熱可塑性樹脂と、25質量部の表3の制振性付与剤の欄に記載される各化合物からなる混合物における対応するtanδの極大値(TDP-2)とを比較したところ、上記表2に記載される化合物を用いる場合にはTDP-1<TDP-2の関係を満たし、上記表2に記載される化合物が、それぞれ、表3に示す熱可塑性樹脂を含む各樹脂組成物における制振性付与剤であることが確認された。表3中の3G8およびDBAについては、TDP-1<TDP-2の関係を満たさず、これらが制振性付与剤ではないことが確認された。
【0132】
得られた各樹脂組成物および熱可塑性樹脂について上記方法に従いtanδを測定し、極大値および極大温度を得た。また、各実施例および比較例中の熱可塑性樹脂と制振性付与剤の組合せについて、上記方法に従い曇り点を測定した。得られた結果を表3に示す。
【表3】
【0133】
[遮音層の製造]
実施例および比較例で得た各樹脂組成物を、熱プレス機を使用して150℃、100kg/cm2で30分間プレスして、厚さ0.2mmのシートを得た。このようにして得たシートを、合わせガラス用中間膜における遮音層として使用した。
【0134】
[保護層の製造]
100質量部のPVB-2、36質量部の3G8を、ラボプラストミルを用いて150℃で5分間かけて溶融混練し、樹脂組成物B-1を得た。樹脂組成物B-1を熱プレス機を使用して150℃、100kg/cm2で30分間プレスして、厚さ0.3mmのシートを得た。このようにして得たシートを、合わせガラス用中間膜における保護層として使用した。
【0135】
[合わせガラス用中間膜および合わせガラスの製造]
実施例および比較例で得た各樹脂組成物からなる、厚さ0.2mmの遮音層を、上記のようにして製造した2枚の保護層で挟み、30℃、100kg/cm2で10分間プレスして、厚さ0.8mmの合わせガラス用中間膜を得た。得られた合わせガラス用中間膜を2枚の厚さ2.0mmの透明なフロートガラスと貼り合わせて合わせガラスを製造した。
【0136】
上記のようにして製造した合わせガラスについて、上記方法に従い音響透過損失およびヘイズを測定した。また、熱可塑性樹脂および樹脂組成物の取扱い性についても上記方法に従い評価した。得られた結果を表4に示す。
【0137】
【0138】
次に実施例17~32および比較例8~14により、本発明をさらに説明する。
【0139】
〔評価方法〕
(熱可塑性樹脂および樹脂組成物のtanδ)
熱可塑性樹脂および樹脂組成物のそれぞれを、熱プレス機を使用して180℃、100kg/cm2で30分間プレスして、厚さ0.8mmのシートを得たこと以外は先に記載の実施例1~16および比較例1~7に関する(熱可塑性樹脂および樹脂組成物のtanδ)の評価方法と同様にして、tanδを評価した。
【0140】
(曇り点)
先に記載の実施例1~16および比較例1~7に関する(曇り点)の評価方法と同様にして、曇り点を評価した。
【0141】
(音響透過損失)
後述する実施例および比較例で製造したフィルムを2枚のガラスで挟み、25mm×300mmの大きさに切断し、測定試料としたこと以外は先に記載の(合わせガラスの音響透過損失)の評価方法と同様にして、2枚のガラスで挟んだフィルムの音響透過損失を評価した。結果を表6に示す。
【0142】
(室温での取扱い性)
tanδの評価に記載した方法と同様にして作製した厚さ0.8mmの熱可塑性樹脂および樹脂組成物のシートを、長さ10cm、幅1cmにカットし、測定試料とした。該試料を20℃、20%RHで24時間調湿後、20℃、20%RHの条件下、クリープ試験を実施し、伸び率を求めた。得られた伸び率を以下の基準に従い評価した。伸び率が順に大きくなるA、B、C、Dの順に室温での取扱い性に優れる。
伸び率の評価基準
A:0%以上10%未満
B:10%以上20%未満
C:20%以上50%未満
D:50%以上
【0143】
(フィルムの透明性および透明性の経時変化)
後述する実施例および比較例で製造したフィルムを2枚のガラスで挟み、測定試料としたこと以外は先に記載の(合わせガラスの透明性および透明性の経時変化)と同様にして、2枚のガラスで挟んだフィルムの透明性および透明性の経時変化を評価した。
【0144】
後述する実施例および比較例において、先に記載の表1に記載する熱可塑性樹脂および先に記載の表2に記載する制振性付与剤を使用した。
【0145】
先に記載の製造例1~12にしたがって、AB-1~AB-3、ACS-1~ACS-2、SDB-1~SDB-2、PVAc-1~PVAc-2、PVB-1~PVB-2、およびPBA-1をそれぞれ合成した。
【0146】
[実施例17]
熱可塑性樹脂AB-1と制振性付与剤RE-1とを次の表5に示す量で、ラボプラストミルを用いて、120℃で5分間混合して、制振性樹脂組成物1を得た。なお、表5中の制振性付与剤の量(質量部)は、熱可塑性樹脂100質量部に対する制振性付与剤の量を表す。ここで、熱可塑性樹脂AB-1の-31.7℃に存在するtanδの極大値(TDP-1)は1.1であったのに対し、100質量部の熱可塑性樹脂AB-1および25質量部のRE-1からなる混合物の上記極大値に対応し、-30.5℃に存在するtanδの極大値(TDP-2)は1.5であり、RE-1は熱可塑性樹脂AB-1を含む樹脂組成物における制振性付与剤であることが確認された。
【0147】
[比較例8]
制振性付与剤を添加せず、熱可塑性樹脂をそのまま使用した。
【0148】
[実施例18~32および比較例9~14]
熱可塑性樹脂および制振性付与剤の種類と、熱可塑性樹脂100質量部に対する制振性付与剤の量とを表5に記載されるように変更したこと以外は実施例17と同様にして樹脂組成物を得た。なお、実施例18~32および比較例9~14における各熱可塑性樹脂の-100~250℃の温度範囲に存在するtanδの極大値(TDP-1)と、100質量部の各熱可塑性樹脂と、25質量部の表5の制振性付与剤の欄に記載される各化合物からなる混合物における対応するtanδの極大値(TDP-2)とを比較したところ、上記表2に記載される化合物を用いる場合にはTDP-1<TDP-2の関係を満たし、上記表2に記載される化合物が、それぞれ、表5に示す熱可塑性樹脂を含む各樹脂組成物における制振性付与剤であることが確認された。表5中の3G8およびDBAについては、TDP-1<TDP-2の関係を満たさず、これらが制振性付与剤ではないことが確認された。
【0149】
得られた各樹脂組成物および熱可塑性樹脂について上記方法に従いtanδを測定し、極大値および極大温度を得た。また、各実施例および比較例中の熱可塑性樹脂と制振性付与剤の組合せについて、上記方法に従い曇り点を測定した。得られた結果を表5に示す。
【表5】
【0150】
[制振性シートの製造]
実施例および比較例で得た各樹脂組成物および熱可塑性樹脂を、熱プレス機を使用して180℃、100kg/cm2で30分間プレスして、厚さ0.2mmの制振性シートを得た。
【0151】
[制振性積層体の製造]
100質量部のPVB-2、36質量部の3G8を、ラボプラストミルを用いて150℃で5分間かけて溶融混練し、樹脂組成物B-1を得た。樹脂組成物B-1を熱プレス機を使用して180℃、100kg/cm
2で30分間プレスして、厚さ0.3mmのシートBを得た。このようにして得たシートBを2枚用いて、上記のようにして製造した制振性シートを挟み、30℃、100kg/cm
2で10分間プレスして、制振性積層体を得た。得られた積層体は、例えば合わせガラス用中間膜として使用することができる。該積層体を2枚の透明なガラス板と貼り合せて、音響透過損失およびヘイズの測定に使用した。また、制振性樹脂組成物の取扱い性についても上記方法に従い評価した。得られた結果を表6に示す。
【表6】