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特許7106702全固体二次電池用正極、及びそれを含む全固体二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-15
(45)【発行日】2022-07-26
(54)【発明の名称】全固体二次電池用正極、及びそれを含む全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20220719BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220719BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220719BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220719BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20220719BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220719BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220719BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220719BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220719BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/62 Z
H01M4/36 C
H01M4/505
H01M4/131
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/38 Z
H01M4/587
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021033438
(22)【出願日】2021-03-03
(65)【公開番号】P2021141065
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2021-03-03
(31)【優先権主張番号】10-2020-0026799
(32)【優先日】2020-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(74)【代理人】
【識別番号】100159042
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 徹二
(72)【発明者】
【氏名】權 泰 利
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-062683(JP,A)
【文献】特開2016-042417(JP,A)
【文献】特開2019-175830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05- 10/39
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物系固体電解質を含む全固体二次電池用正極であって、
前記全固体二次電池用正極は、正極活物質及び固体電解質を含み、
前記正極活物質は、コア及びシェルを含む構造を有するニッケル系活物質であり、
前記シェルは、下記化学式2で表される化合物であるコバルト(Co)を含むニッケル系活物質を含み、
前記ニッケル系活物質の表面には、酸化ランタン及びリチウムランタン酸化物からなる群から選択される1以上のリチウムイオン伝導体を含むコーティング膜を含み、
前記リチウムイオン伝導体の含量は、前記ニッケル系活物質と前記リチウムイオン伝導体との総重量100重量部に対して、0.1ないし10重量部である、全固体二次電池用正極。
Li Ni 1-x-y-z Co M1 M2 (2)
(上記化学式2において、0.9≦a≦1.3であり、
M1は、アルミニウム(Al)であり、
M2は、ボロン(B)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、またはこれらの組み合わせであり、
0.3≦x≦0.6、0.002≦y≦0.05、0≦z<1、x+y+z<1である。)
【請求項2】
前記リチウムランタン酸化物は、下記化学式1で表される化合物である、請求項1に記載の全固体二次電池用正極。
aLiO-LaO (1)
(上記化学式1において、0.1≦a≦2.0である。)
【請求項3】
前記固体電解質の含量は、前記全固体二次電池用正極の総重量100重量部に対して、5ないし15重量部である、請求項1または2に記載の全固体二次電池用正極。
【請求項4】
前記正極活物質のコアは、下記化学式3で表される化合物である、請求項1~のいずれか1項に記載の全固体二次電池用正極。
Li(Ni1-x-y-zCoM1M2)O (3)
(上記化学式3において、M1は、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、またはこれらの組み合わせであり、
M2は、ボロン(B)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、またはこれらの組み合わせであり、
0.95≦a≦1.3、x≦(1-x-y-z)、y≦(1-x-y-z)、0<x<1、0≦y<1、0≦z<1である。)
【請求項5】
前記化学式3で表される化合物において、ニッケルの含量が80ないし98モル%である、請求項に記載の全固体二次電池用正極。
【請求項6】
前記コバルト(Co)を含むニッケル系活物質の含量は、前記コア及び前記シェルを含む構造を有するニッケル系活物質の総重量100重量部に対して、0.3ないし10重量部である、請求項1~のいずれか1項に記載の全固体二次電池用正極。
【請求項7】
前記コーティング膜の厚みは、0.1ないし100nmである、請求項1~のいずれか1項に記載の全固体二次電池用正極。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の全固体二次電池用正極と、負極と、前記全固体二次電池用正極と前記負極との間に配置されている固体電解質層と、を含み、
前記固体電解質層が硫化物系固体電解質を含む、全固体二次電池。
【請求項9】
前記硫化物系固体電解質は、LiS-P、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiCl-LiBr、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(m、nは、正数であり、Zは、Ge、ZnまたはGaのうち一つである)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(p、qは、正数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、GaInのうち一つである)、Li7-xPS6-xCl(0≦x≦2)、Li7-xPS6-xBr(0≦x≦2)及びLi7-xPS6-x(0≦x≦2)からなる群から選択される1以上である、請求項に記載の全固体二次電池。
【請求項10】
前記負極が、負極集電体上及び前記負極集電体上に配置されている第1負極活物質層を含み、
前記第1負極活物質層が負極活物質及びバインダを含み、
前記負極活物質が粒子形態を有し、
前記負極活物質の平均粒径が4μm以下である、請求項8または9に記載の全固体二次電池。
【請求項11】
前記負極活物質が、炭素系負極活物質、金属負極活物質及び準金属負極活物質からなる群から選択される1以上を含む、請求項10に記載の全固体二次電池。
【請求項12】
前記炭素系負極活物質は、非晶質炭素及び結晶質炭素からなる群から選択される1以上を含む、請求項11に記載の全固体二次電池。
【請求項13】
前記金属負極活物質または準金属負極活物質が、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)及び亜鉛(Zn)からなる群から選択される1以上を含む、請求項11に記載の全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池用正極、及びそれを含む全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のリチウム二次電池は、使用される液体電解質が空気中の水分に触れると、発火しやすく、安定性問題が常に提起されてきた。そのような安定性問題は電気自動車の登場により、さらに深刻な問題になっている。そこで、最近、安全性向上を目的に、無機材料を含む固体電解質を利用した全固体二次電池(all-solid-state secondary battery)の研究が活発になされている。全固体二次電池は、安定性、高エネルギー密度、高出力、長寿命、製造工程の単純化、電池の大型化・コンパクト化及び低価格化などの観点において、次世代二次電池として注目されている。
【0003】
全固体二次電池は、正極、固体電解質層及び負極により構成され、全固体二次電池は、電池電極の内部抵抗が大きく、イオン伝導性が大きく、粒子サイズが小さい小粒の正極活物質を利用することが一般的である。
【0004】
しかしながら、前述の正極活物質を利用すれば、正極が低い合剤密度を示し、正極極板の抵抗が高く、全固体二次電池の高率特性及び寿命特性が低下し、それに対する改善が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、新規の全固体二次電池用正極、及びそれを含む全固体二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一側面により、硫化物系固体電解質を含む全固体二次電池用正極であって、前記正極は、正極活物質及び固体電解質を含み、前記正極活物質は、コア及びシェルを含む構造を有するニッケル系活物質であり、前記シェルは、コバルト(Co)を含むニッケル系活物質を含み、前記ニッケル系活物質の表面には、酸化ランタン及びリチウムランタン酸化物からなる群から選択される1以上のリチウムイオン伝導体を含むコーティング膜を含み、前記リチウムイオン伝導体の含量は、前記ニッケル系活物質と前記リチウムイオン伝導体との総重量100重量部に対して、0.1ないし10重量部である、全固体二次電池用正極が提供される。
【0007】
他の一側面により、正極と、負極と、前記全固体二次電池用正極と負極との間に配置されている硫化物系固体電解質層と、を含む全固体二次電池であり、前記正極が、前述の全固体二次電池用正極である全固体二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明による全固体二次電池は、電極抵抗及び電流密度の特性が改善され、容量特性を向上させつつ、高率特性及び寿命特性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一態様による正極活物質上部に、硫化物系固体電解質が配置されている一部構造を示した図面である。
図2A】一態様による全固体二次電池の構造を示した図面である。
図2B】他の一態様による全固体二次電池の構造を示した図面である。
図2C】さらに他の一態様による全固体二次電池の構造を示した図面である。
図2D】さらに他の一態様による全固体二次電池の構造を示した図面である。
図3】実施例7~9及び比較例3によって製造された全固体二次電池のインピーダンス特性を示したグラフである。
図4】製造例1によって製造された正極活物質のEDX分析結果を示した図面である。
図5】製造例1によって製造された正極活物質のEDX分析結果を示した図面である。
図6】実施例1~3及び比較例1の全固体二次電池において、寿命特性を示したグラフである。
図7】実施例1~4及び比較例1の全固体二次電池において、高率特性を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付された図面を参照しながら、以下において、例示的な全固体二次電池用正極、それを含む全固体二次電池、及びその製造方法についてさらに詳細に説明する。
【0011】
本実施形態は、硫化物系固体電解質を含む全固体二次電池用正極であって、全固体二次電池用正極(以降、正極ともいう)は、正極活物質及び固体電解質を含み、正極活物質は、コア及びシェルを含む構造を有するニッケル系活物質であり、シェルは、コバルトを含むニッケル系活物質を含み、ニッケル系活物質の表面には、酸化ランタン及びリチウムランタン酸化物からなる群から選択される1以上のリチウムイオン伝導体を含むコーティング膜を含み、リチウムイオン伝導体の含量は、ニッケル系活物質とリチウムイオン伝導体との総重量100重量部に対して、0.1ないし10重量部である。
【0012】
シェルに含まれるコバルトを含むニッケル系活物質において、コバルトの含量は、例えば、30モル%以上であってもよく、35ないし55モル%であってもよい。
【0013】
本明細書において、「ニッケル系活物質とリチウムイオン伝導体との総重量100重量部」は、コア及びシェルを含むニッケル系活物質の重量と、リチウムイオン伝導体の重量とを合わせた総重量100重量部を意味する。
【0014】
コーティング膜において、リチウムイオン伝導体の含量は、ニッケル系活物質とリチウムイオン伝導体との総重量100重量部に対して、0.1ないし10重量部であればよく、例えば、0.3ないし10重量部であってもよい。リチウムイオン伝導体の含量が0.1重量部未満であるならば、正極と硫化物系固体電解質との間におけるコバルト、硫黄及びリンの拡散を抑制する効果が微々たるものであり、界面抵抗低減効果が満足すべきレベルに至ることができない。一方、リチウムイオン伝導体の含量が10重量部を超えれば、容量特性が低下し、望ましくない。好ましくは、コーティング膜において、リチウムイオン伝導体の含量は、ニッケル系活物質とリチウムイオン伝導体との総重量100重量部に対して、0.5ないし5重量部であり、例えば、1~3重量部であってもよい。
【0015】
本明細書において、酸化ランタンは、化学式LaOで表され、リチウムランタン酸化物は、下記化学式1で表示される化合物であってもよい。
【0016】
aLiO-LaO (1)
【0017】
化学式1において、0.1≦a≦2.0である。
【0018】
化学式1で表される化合物は、例えば、LiO-LaOであってもよい。
【0019】
正極活物質上に、酸化ランタン及びリチウムランタン酸化物からなる群から選択される1以上のリチウムイオン伝導体がコーティングされれば、正極と硫化物系固体電解質との間において、Co、P及びSの拡散が抑制され、リチウム欠乏層生成が防止され、界面抵抗を低減することができる。
【0020】
正極活物質は、コア及びシェルを含む構造を有するニッケル系活物質を含むことができる。このニッケル系活物質は、コアよりもシェルの方がコバルトの含量が多いことが好ましい。例えば、このニッケル系活物質は、コバルトの含量が30モル%以上であるシェルと、コバルトの含量が30モル%未満、特に10モル%以下であるコアとを含むことが好ましい。
【0021】
図1は、一態様による、正極活物質上部に硫化物系固体電解質が配置されている一部構造を示したものである。
【0022】
図1によると、正極活物質に含まれるコア112上部に、コバルトを含むニッケル系活物質を含むシェル113が配置され、その上部に、酸化ランタン及びリチウムランタン酸化物からなる群から選択される1以上のリチウムイオン伝導体を含むコーティング膜114が存在する。コーティング膜114は、硫化物系の固体電解質層30に接している。リチウムイオン伝導体を含むコーティング膜を形成すれば、容量特性及び高率特性を改善することが可能な正極活物質を得ることができる。
【0023】
正極活物質は、一態様による正極活物質に加え、さらに一般的な正極活物質を含んでもよい。一般的な正極活物質は、後述する。
【0024】
一態様による正極活物質において、コーティング膜に存在するランタン、及び正極活物質のシェルに存在するコバルトは、EDX(Energy-Dispersive X-ray)測定により確認することができる。
【0025】
コバルトを含むニッケル系活物質を含むシェル113が、図1に示されているように配置されれば、界面抵抗が小さくなり、容量特性及び高率特性をさらに改善することができる。コバルトを含むニッケル系活物質において、コバルトの含量は、30モル%以上であってもよい。また、コバルトを含むニッケル系活物質を含むシェルの厚みは、例えば、5ないし100nmであってもよく、リチウムイオン伝導体を含むコーティング膜114の厚みは、例えば、1ないし50nmであってもよい。
【0026】
一態様によるコバルトを含むニッケル系活物質において、コバルトの含量は、例えば、30ないし60モル%、または35ないし55モル%であってもよい。コバルトを含むニッケル系活物質の含量は、コア及びシェルを含む構造を有するニッケル系活物質の総重量100重量部に対して、例えば、0.3ないし10重量部であってもよく、0.5ないし8重量部であってもよい。
【0027】
コバルトを含むニッケル系活物質は、例えば、下記化学式2で表される化合物であってもよい。
【0028】
LiNi1-x-y-zCoM1M2 (2)
【0029】
化学式2において、0.9≦a≦1.3、M1は、MnまたはAlであり、M2は、ボロン(B)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、またはこれらの組み合わせであり、0.3≦x≦0.6、0.002≦y≦0.05、0≦z<1、x+y+z<1である。
【0030】
化学式2において、0.3≦x≦0.6が好ましく、0.35≦x≦0.55がより好ましく、0.4≦x≦0.5がさらに好ましい。
【0031】
化学式2において、0.002≦y≦0.05が好ましく、0.002≦y≦0.01がより好ましい。化学式2において、M1はMnまたはAlであってよいが、Alが好ましい。
【0032】
化学式2において、0≦z<1が好ましく、0≦z<0.5がより好ましく、0≦z<0.1がさらに好ましい。化学式2において、M2は上記した元素のいずれであってもよいが、z=0の場合は含まれなくてもよい。
【0033】
化学式2において、1-x-y-zはニッケルの含量を表し、0.4~0.7が好ましく、0.45~0.65がより好ましく、0.5~0.6がさらに好ましい。
【0034】
化学式2において、ニッケルの含量は、例えば、40ないし70モル%であってもよく、コバルトの含量は、例えば、30ないし60モル%であってもよく、M1の含量は、例えば、0.2ないし5モル%であってもよい。
【0035】
化学式2で表される化合物は、例えば、LiNi0.47Co0.5Al0.03、LiNi0.88Co0.105Al0.015、LiNi0.915Co0.07Al0.015、LiNi0.917Co0.069Al0.014(NCA)、またはLiNi0.93Co0.055Al0.015であってもよい。
【0036】
正極において、固体電解質は、正極総重量100重量部に対して、例えば、5ないし15重量部であってもよく、正極活物質の総含量は、例えば、80ないし93重量部であってもよく、導電剤は、例えば、0.1ないし1重量部であってもよく、バインダは、例えば、0.1ないし2重量部であってもよい。
【0037】
一態様による正極活物質は、例えば、下記化学式3で表示される化合物である。
【0038】
Li(Ni1-x-y-zCoM1M2)O (3)
【0039】
化学式3において、M1は、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、またはこれらの組み合わせであり、M2は、ボロン(B)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、またはこれらの組み合わせであり、0.95≦a≦1.3、x≦(1-x-y-z)、y≦(1-x-y-z)、0<x<1、0≦y<1、0≦z<1である。
【0040】
化学式3において、0<x<0.5であり、xは、例えば、0.005ないし0.3、0.01ないし0.25、または0.03ないし0.20であってもよい。
【0041】
化学式3において、0≦y<0.5であり、yは、例えば、0.002ないし0.05、0.003ないし0.04、または0.004ないし0.03であってもよい。また、zは、0≦z<0.5であり、例えば、0.002ないし0.05、0.003ないし0.04、または0.005ないし0.03であってもよい。
【0042】
化学式3において、ニッケルの含量は、コバルト、M1、M2の含量に比べて多い。化学式3において、1-x-yは、例えば、0.8ないし0.98、または0.8ないし0.95であってもよい。
【0043】
化学式3において、ニッケルの含量は、例えば、80ないし98モル%であればよく、80ないし95モル%であってもよい。このように、ニッケルの含量が多ければ、容量特性に優れた正極を得ることができる。また、コバルトの含量は、例えば、0.5ないし30モル%であればよく、1ないし25モル%、または3ないし20モル%であってもよい。
【0044】
化学式3において、M1がマンガンである場合、マンガンの含量は、例えば、0.2ないし5モル%であればよく、0.3ないし4モル%、または0.4ないし3モル%であってもよい。また、化学式3において、M1がアルミニウムである場合、アルミニウムの含量は、例えば、0.2ないし5モル%であればよく、0.3ないし4モル%、または0.5ないし3モル%であってもよい。
【0045】
化学式3で表される化合物は、例えば、下記化学式4で表される化合物、または下記化学式5で表される化合物であってもよい。
【0046】
LiNi1-x-yCoAl (4)
【0047】
化学式4において、0.005≦x≦0.6、0.002≦y≦0.05である。
【0048】
LiNi1-x-yCoMn (5)
【0049】
化学式5において、0.005≦x≦0.6、0.002≦y≦0.05である。
【0050】
化学式4で表される化合物がコバルトリッチ化合物である場合には、例えば、0.3≦x≦0.6、0.002≦y≦0.05であればよく、0.005≦x≦0.3、0.002≦y≦0.05であってもよい。
【0051】
一態様によれば、化学式4で表される化合物は、例えば、ニッケルの含量が40ないし80モル%であってもよく、コバルトの含量が30ないし60モル%であってもよく、アルミニウムの含量が0.2ないし5モル%であってもよい。他の一態様によれば、化学式4で表される化合物は、例えば、ニッケルの含量が80ないし98モル%であってもよく、コバルトの含量が30ないし60モル%であってもよく、アルミニウムの含量が0.2ないし5モル%であってもよい。
【0052】
一態様によれば、化学式5で表される化合物は、例えば、ニッケルの含量が40ないし80モル%であってもよく、コバルトの含量が30ないし60モル%であってもよく、マンガンの含量が0.2ないし5モル%であってもよい。他の一態様によれば、化学式5で表される化合物は、例えば、ニッケルの含量が80ないし98モル%であってもよく、コバルトの含量が30ないし60モル%であってもよく、マンガンの含量が0.2ないし5モル%であってもよい。
【0053】
一態様によれば、化学式3で表される化合物は、例えば、LiNi0.896Co0.072Mn0.0322、LiNi0.917Co0.069Al0.0142、LiNi0.88Co0.105Al0.0152、LiNi0.88Co0.105Mn0.015、またはLiNi0.845Co0.105Mn0.05であってもよい。
【0054】
以下、一態様による正極活物質の製造方法について説明する。
【0055】
一形態による正極活物質の製造方法は、コア及びシェルを含む構造を有するニッケル系活物質を含み、ニッケル系活物質の表面には、酸化ランタン及びリチウムランタン酸化物からなる群から選択される1以上のリチウムイオン伝導体を含むコーティング膜を形成することを含むことができる。
【0056】
正極活物質の製造方法は、特に制限されないが、一例について以下に説明する。
【0057】
正極活物質の製造方法の一例では、ニッケル系活物質のコア前駆体にコバルト前駆体を付加し、これを混合して前駆体混合物を得て、前駆体混合物を、例えば、600℃ないし800℃、または650ないし750℃で熱処理を施し、ニッケル系活物質を構成するようにコアと、コバルトを含むニッケル系活物質を含むシェルと、を含む正極活物質を得ることができる。熱処理は、酸素雰囲気または空気雰囲気で実施することができる。
【0058】
前駆体混合物には、水酸化ナトリウムなどを付加し、混合物のpHを制御する。
【0059】
コバルト前駆体は、例えば、硫酸コバルト、酢酸コバルト、硝酸コバルト、酸化コバルトなどを用いることができる。
【0060】
正極活物質の平均粒径は、特別に制限されるものではないが、例えば、5ないし50μm、または10ないし100μmであってもよい。
【0061】
正極活物質上部に、酸化ランタン及びリチウムランタン酸化物からなる群から選択される1以上のリチウムイオン伝導体を含むコーティング膜を形成する。リチウムイオン伝導体を含むコーティング膜は、リチウムイオン伝導体が化学式1で表される化合物である場合、韓国公開特許第10-2014-0074174号公報に開示された製造方法を参照し、コバルトを含むニッケル系活物質上部に、リチウムイオン伝導体を含むコーティング膜を形成することができる。
【0062】
コーティング膜は、ランタンアルコキシドを有機溶媒に溶解させて分散させ、組成物を得て、これを正極活物質表面にコーティングした後でこれを熱処理する有機液状法によって実施し、正極活物質表面にコーティング膜を連続した膜状で均一に形成することができる。
【0063】
熱処理は、例えば、300ないし450℃、または300ないし400℃で実施してもよい。熱処理は、酸素雰囲気下または空気雰囲気下で実施し、熱処理時間は、熱処理温度などによって異なり、例えば、0.5ないし20時間の範囲で実施することができる。
【0064】
ランタンアルコキシドは、例えば、ランタンメトキシド、ランタンエトキシド、ランタンプロポキシド、ランタンブトキシド、またはこれらの組み合わせを用いることができ、有機溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、メタノールなどを用いることができる。コーティング膜は、前述のように、有機液状法によって実施し、固相法によって形成する場合と比べ、コーティング膜を均一であって連続した膜状に製造することができる。
【0065】
コーティング膜の厚みは、例えば、0.1ないし100nm、5ないし100nm、5ないし50nm、5ないし30nm、5ないし20nm、または5ないし10nmであってもよい。
【0066】
前述の正極活物質を利用し、合剤密度が3.4ないし3.7g/cmである正極を製造することができる。
【0067】
正極の製造方法の一方法では、上記製造方法によって得られる正極活物質と、固体電解質とを混合し、得られる正極活物質組成物を用いて正極を作製することができる。正極活物質と固体電解質とを含む正極活物質組成物には導電剤及びバインダ等が含まれてもよい。例えば、正極活物質組成物を正極集電体に塗工することで正極を作製することができる。
【0068】
製造過程において、コバルト前駆体と混合する出発物質であるニッケル系活物質のコア前駆体は、一般的な製造方法によっても製造することができる。例えば、出発物質であるニッケル系活物質のコア前駆体は、アルミニウム前駆体またはマンガン前駆体と、ニッケルコバルト水酸化物及びリチウム前駆体とを混合して混合物を得て、それを酸化性ガス雰囲気下で熱処理して製造することができる。
【0069】
混合物は、ドーピングする金属を含む前駆体をさらに付加することができる。前駆体は、例えば、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、酸化チタンなどがある。
【0070】
熱処理条件は、前駆体の種類によって異なり、熱処理は、例えば、600ないし900℃、または650ないし750℃で実施されてもよい。酸化性ガス雰囲気とは、例えば、酸素雰囲気または大気雰囲気を指す。
【0071】
ニッケルコバルト水酸化物は、一般的な製造方法によって製造することができ、例えば、共沈法などを利用して製造することができる。
【0072】
他の態様により、前述の全固体二次電池用正極、硫化物系固体電解質及び負極を含む全固体二次電池が提供される。
【0073】
以下において、例示的な一態様による全固体二次電池について、さらに詳細に説明する。
【0074】
一態様による全固体二次電池は、正極と、負極と、正極と負極との間に配置されている固体電解質層を含み、正極が、正極集電体上及び正極集電体上に配置されている正極活物質層を含み、負極が、負極集電体上及び負極集電体上に配置されている負極活物質層を含む。
【0075】
上記正極は、上記一態様の全固体二次電池用正極である。
【0076】
[全固体二次電池]
図2Aによると、全固体二次電池1は、正極10と、負極20と、正極10と負極20との間に配置されている固体電解質層30と、を含み、正極10は、正極集電体11、及び正極集電体11上に配置されている正極活物質層12を含み、負極20は、負極集電体21、及び負極集電体上に配置されている第1負極活物質層22を含む。なお、層(例えば、負極活物質層)などが、他の部分(例えば、負極集電体)の「上」に配置されているとき、それは、他の部分の真上にある場合だけではなく、その表面に層がある場合も含む。
【0077】
[正極:正極集電体]
正極集電体11は、例えば、インジウム(In)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、ステンレススチール、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、リチウム(Li)、またはそれらの合金からなる板状体(plate)またはホイル(foil)などを使用することができる。正極集電体11は、設けなくてもよい。
【0078】
[正極:正極活物質]
正極活物質層12は、例えば、正極活物質及び固体電解質を含む。正極10に含まれる固体電解質は、固体電解質層30に含まれる固体電解質と同一であってもよいし、あるいは異なっていてもよい。該固体電解質に係わる詳細な説明は、固体電解質層30の説明を参照することができる。
【0079】
正極10は、前述の一態様による全固体二次電池用正である。正極10の正極活物質として、下記正極活物質がさらに含まれてもよい。
【0080】
正極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵(absorb)及び放出(desorb)することができる。正極活物質は、例えば、リチウムコバルト酸化物(LCO)、リチウムニッケル酸化物(lithium nickel oxide)、リチウムニッケルコバルト酸化物(lithium nickel cobalt oxide)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCA)、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(NCM)、リチウムマンガン酸化物(lithium manganate)、リチウムリン酸鉄酸化物(lithium iron phosphate)のようなリチウム遷移金属酸化物;硫化ニッケル;硫化銅;硫化リチウム;酸化鉄または酸化バナジウム(vanadium oxide)などであってもよいが、必ずしもそれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、正極活物質として使用するものであるならば、いずれも可能である。正極活物質は、それぞれ単独であっても、あるいは2種以上の混合物であってもよい。
【0081】
リチウム遷移金属酸化物は、例えば、Li1-bB’(化学式で、0.90≦a≦1及び0≦b≦0.5である);Li1-bB’2-c(化学式で、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05である);LiE2-bB’4-c(化学式で、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05である);LiNi1-b-cCoB’α(化学式で、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α≦2である);LiNi1-b-cCoB’2-αF’α(化学式で、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi1-b-cCoB’2-αF’(化学式で、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi1-b-cMnB’α(化学式で、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α≦2である);LiNi1-b-cMnB’2-αF’α(化学式で、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi1-b-cMnB’2-αF’(化学式で、0.90≦a≦1、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05、0<α<2である);LiNi(化学式で、0.90≦a≦1、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5、0.001≦d≦0.1である);LiNiCoMnGeO(化学式で、0.90≦a≦1、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5、0≦d≦0.5、0.001≦e≦0.1である);LiNiG(化学式で、0.90≦a≦1、0.001≦b≦0.1である);LiCoG(化学式で、0.90≦a≦1、0.001≦b≦0.1である);LiMnG(化学式で、0.90≦a≦1、0.001≦b≦0.1である);LiMn(化学式で、0.90≦a≦1、0.001≦b≦0.1である);QO;QS;LiQS;V;LiV;LiI’O;LiNiVO;Li3-f(PO(0≦f≦2);Li3-fFe(PO(0≦f≦2);LiFePOの化学式からなる群から選択されるいずれか一つで表される化合物であってもよい。このような化合物で、Aは、Ni、Co、Mn、またはこれらの組み合わせであり、B’は、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、希土類元素、またはこれらの組み合わせであり、Dは、O、F、S、P、またはこれらの組み合わせであり、Eは、Co、Mn、またはこれらの組み合わせであり、F’は、F、S、P、またはこれらの組み合わせであり、Gは、Al、Cr、Mn、Fe、Mg、La、Ce、Sr、V、またはこれらの組み合わせであり、Qは、Ti、Mo、Mn、またはこれらの組み合わせであり、I’は、Cr、V、Fe、Sc、Y、またはこれらの組み合わせであり、Jは、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、またはこれらの組み合わせである。このような化合物表面に、コーティング層が付加された化合物の使用も可能であり、前述の化合物と、コーティング層が付加された化合物との混合物の使用も可能である。このような化合物の表面に付加されるコーティング層は、例えば、コーティング元素のオキシド・ヒドロキシド、コーティング元素のオキシヒドロキシド、コーティング元素のオキシカーボネート、またはコーティング元素のヒドロキシカーボネートのコーティング元素化合物を含んでもよい。このようなコーティング層をなす化合物は、非晶質であっても結晶質であってもよい。コーティング層に含まれるコーティング元素としては、例えば、Mg、Al、Co、K、Na、Ca、Si、Ti、V、Sn、Ge、Ga、B、As、Zr、Nb、またはこれらの混合物であってもよい。コーティング層の形成方法は、正極活物質の物性に悪影響を与えない範囲内で選択される。該コーティング方法は、例えば、スプレーコーティング法、浸漬法などである。具体的なコーティング方法は、当該分野の当業者に理解されている内容であるので、詳細な説明は、割愛する。
【0082】
正極活物質は、例えば、前述のリチウム遷移金属酸化物のうち層状岩塩型(layered rock salt type)構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩を含む。「層状岩塩型構造」は、例えば、立方晶岩塩型(cubic rock salt type)構造の<111>方向に、酸素原子層と金属原子層とが相互に規則的に配され、それにより、それぞれの原子層が二次元平面を形成している構造である。「立方晶岩塩型構造」は、結晶構造の一種である塩化ナトリウム型(NaCl type)構造を示し、具体的には、陽イオン及び陰イオンがそれぞれ形成する面心立方格子(fcc:face centered cubic lattice)が互いに単位格子(unit lattice)のリッジ(ridge)の1/2ほどずれて配置された構造を示す。そのような層状岩塩型構造を有するリチウム遷移金属酸化物は、例えば、LiNiCoAl(NCA)またはLiNiCoMn(NCM)(0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1)のような三元系リチウム遷移金属酸化物である。正極活物質が層状岩塩型構造を有する三元系リチウム遷移金属酸化物を含む場合、全固体二次電池1のエネルギー密度及び熱安定性をさらに向上することができる。
【0083】
正極活物質は、前述のようにコーティング膜によって覆われていてもよいが、コーティング膜以外の被覆層によって覆われていてもよい。被覆層は、全固体二次電池の正極活物質の被覆層として公知されているものであるならば、いかなるものであってもよい。被覆層は、例えば、aLiO-ZrO(例えば、a=1、LiO-ZrO(LZO))などであってもよい。
【0084】
正極活物質が、例えば、NCAまたはNCMのような三元系リチウム遷移金属酸化物であり、ニッケル(Ni)を含む場合、全固体二次電池1の容量密度を上昇させ、充電状態において、正極活物質の金属溶出低減が可能である。結果として、全固体二次電池1の充電状態でのサイクル特性を向上することができる。
【0085】
正極活物質の形状は、例えば、真球形、楕円球形のような粒子形状であってもよい。正極活物質の粒径は、特別に制限されるものではなく、従来の全固体二次電池の正極活物質に適用可能な範囲である。正極10の正極活物質の含量も、特別に制限されるものではなく、従来の全固体二次電池の正極に適用可能な範囲であればよい。負極活物質の平均粒径(D50)は、例えば、5~50μm、または10~100μmである。負極活物質の平均粒径(D50)は、レーザ回折粒度分布計(laser diffraction particle diameter distribution meter)、走査電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)、及び/または透過電子顕微鏡(transmission electron microscope:TEM)で測定することができる。
【0086】
[正極:固体電解質]
正極活物質層12は、例えば、固体電解質を含んでもよい。正極10に含まれる固体電解質は、固体電解質層30に含まれる固体電解質と互いに同一であっても、異なっていてもよい。固体電解質に係わる詳細な説明は、固体電解質層30の説明を参照することができる。
【0087】
正極活物質層12に含まれる固体電解質は、固体電解質層30に含まれる固体電解質に比べ、D50平均粒径が小さくてもよい。例えば、正極活物質層12に含まれる固体電解質のD50平均粒径は、固体電解質層30に含まれる固体電解質のD50平均粒径の90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、または20%以下であってもよい。
【0088】
[正極:バインダ]
正極活物質層12は、バインダを含んでもよい。バインダは、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンなどであってもよい。
【0089】
[正極:導電剤]
正極活物質層12は、導電剤を含んでもよい。導電剤は、例えば、黒鉛、カーボンブラック(CB:carbon black)、アセチレンブラック(AB:acetylene black)、ケッチェンブラック(KB:Ketjen black)ブラック、炭素ファイバ、金属粉末などであってもよい。
【0090】
[正極:その他添加剤]
正極10は、前述の正極活物質、固体電解質、バインダ、導電剤以外に、例えば、フィラ(filler)、コーティング剤、分散剤、イオン伝導性補助剤のような添加剤をさらに含んでもよい。
【0091】
正極10に含まれるフィラ、コーティング剤、分散剤、イオン伝導性補助剤などとしては、一般的に全固体二次電池の電極に使用される公知の材料を使用することができる。
【0092】
正極10において、正極活物質の含量は、例えば、80ないし93重量部であればよく、固体電解質の含量は、例えば、5ないし15重量部であればよく、5ないし10重量部であればよく、導電剤の含量は、例えば、0.5ないし5重量部であればよく、0.5ないし1重量部であってもよく、バインダの含量は、例えば、0.1ないし5重量部であればよく、0.1ないし2重量部であってもよい。ここで、当該の正極活物質、固体電解質、バインダ及び導電剤の各含量は、正極10の総重量100重量部に対するものである。正極10の総重量は、前述の正極活物質、固体電解質、バインダ及び導電剤の総含量を示す。
【0093】
正極10の厚みは、例えば、70ないし150μmであってもよい。
【0094】
[固体電解質層]
[固体電解質層:硫化物系固体電解質]
図2Aないし図2Cによると、固体電解質層30は、正極10と負極20との間に配置されており、硫化物系固体電解質を含む。
【0095】
硫化物系固体電解質は、例えば、LiS-P、LiS-P-LiX(Xは、ハロゲン元素である)、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(m、nは、正数であり、Zhs、Ge、ZnまたはGaのうち一つである)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO、p、qは、正数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、GaInのうち一つである)、Li7-xPS6-xCl(0≦x≦2)、Li7-xPS6-xBr(0≦x≦2)及びLi7-xPS6-x(0≦x≦2)からなる群から選択される1以上であってもよい。硫化物系固体電解質は、例えば、LiS、Pのような出発原料を、溶融急冷法や機械的ミリング法などによって処理して作製される。
【0096】
LiS-P-LiXには、例えば、LiS-P-LiCl、またはLiS-P-LiCl-LiBrがあってもよい。
【0097】
また、固体電解質は、非晶質であっても、結晶質であっても、またはこれらが混合された状態であってもよい。また、固体電解質は、例えば、前述の硫化物系固体電解質材料のうち、少なくとも構成元素として、硫黄(S)、リン(P)及びリチウム(Li)を含むものであってもよい。例えば、固体電解質は、LiS-Pを含む材料であってもよい。固体電解質を形成する硫化物系固体電解質材料として、LiS-Pを含むものを利用する場合、Li2とPとの混合モル比は、例えば、LiS:P=50:50ないし90:10ほどの範囲であればよい。
【0098】
硫化物系固体電解質は、例えば、Li7-xPS6-xCl(0≦x≦2)、Li7-xPS6-xBr(0≦x≦2)、及びLi7-xPS6-x(0≦x≦2)からなる群から選択される1以上を含むアルジロダイト型(argyrodite-type)の化合物であってもよい。例えば、硫化物系固体電解質は、LiPSCl、LiPSBr、及びLiPSIからなる群から選択される1以上を含むアルジロダイト型の化合物であってもよい。
【0099】
アルジロダイト型の固体電解質の密度は、例えば、1.5ないし2.0g/ccであってもよい。アルジロダイト型の固体電解質が1.5g/cc以上の密度を有することにより、全固体二次電池の内部抵抗が低減し、Liによる固体電解質層の貫通(penetration)を効果的に抑制することができる。
【0100】
固体電解質の弾性係数は、例えば、15ないし35GPaであってもよい。
【0101】
[固体電解質層:バインダ]
固体電解質層30は、例えば、バインダを含んでもよい。固体電解質層30に含まれるバインダは、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンなどであってもよいが、これらに限定されるものではなく、当該技術分野において、バインダとして使用するものであるならば、いずれも可能である。固体電解質層30のバインダは、正極活物質層12及び第1負極活物質層22に含まれるバインダと互いに同じであっても、異なっていてもよい。
【0102】
固体電解質層は、例えば、30ないし60μmの厚みを有していていもよい。
【0103】
[負極]
[負極:負極活物質]
第1負極活物質層22は、例えば、負極活物質及びバインダを含む。
【0104】
第1負極活物質層22に含まれる負極活物質は、例えば、粒子形態を有する。粒子形態を有する負極活物質の平均粒径は、例えば、4μm以下、3μm以下、2μm以下、1μm以下、または900nm以下であってもよい。粒子形態を有する負極活物質の平均粒径は、例えば、10nmないし4μm、10nmないし3μm、10nmないし2μm、10nmないし1μm、または10nmないし900nmであってもよい。負極活物質がこのような範囲の平均粒径を有することにより、充放電時、リチウムの可逆的な吸蔵及び/または放出をさらに容易にすることができる。負極活物質の平均粒径は、例えば、レーザ式粒度分布計を使用して測定したメジアン(median)径(D50)である。負極活物質の平均粒径は、走査電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)、及び/または透過電子顕微鏡(transmission electron microscope:TEM)で測定することができる。
【0105】
第1負極活物質層22に含まれる負極活物質は、例えば、炭素系負極活物質、及び金属負極活物質または準金属負極活物質からなる群から選択される1以上を含む。
【0106】
炭素系負極活物質は、例えば、非晶質炭素(amorphous carbon)であってもよい。非晶質炭素は、例えば、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ファーネスブラック(FB:furnace black)、ケッチェンブラック(KB)、グラフェンなどであってもよいが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、非晶質炭素に分類されるものであるならば、いずれも可能である。非晶質炭素は、結晶性を有さなくても、あるいは結晶性が非常に低い炭素(結晶性炭素または黒鉛系炭素と区分される)であってもよい。
【0107】
金属負極活物質または準金属負極活物質は、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)及び亜鉛(Zn)からなる群のうちから選択される1以上を含むが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、リチウムと合金または化合物を形成する金属負極活物質または準金属負極活物質として使用するものであるならば、いずれも可能である。例えば、ニッケル(Ni)は、リチウムと合金を形成しないので、金属負極活物質ではない。
【0108】
第1負極活物質層22は、このような負極活物質のうち一種の負極活物質を含むか、あるいは複数の互いに異なる負極活物質の混合物を含む。例えば、第1負極活物質層22は、非晶質炭素のみを含んでもよいし、あるいは金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)及び亜鉛(Zn)からなる群のうちから選択される1以上を含んでもよい。または、第1負極活物質層22は、非晶質炭素と、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)及び亜鉛(Zn)からなる群のうちから選択される1以上との混合物を含んでもよい。非晶質炭素と、金などとの混合物の混合比は、重量比として、例えば、10:1ないし1:2、5:1ないし1:1、または4:1ないし2:1であってもよいが、必ずしもこのような範囲に限定されるものではなく、要求される全固体二次電池1の特性によって選択される。負極活物質がこのような組成を有することにより、全固体二次電池1のサイクル特性をさらに向上することができる。
【0109】
第1負極活物質層22に含まれる負極活物質は、例えば、非晶質炭素からなる第1粒子と、金属または準金属からなる第2粒子との混合物を含んでもよい。金属または準金属は、例えば、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、シリコン(Si)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、スズ(Sn)及び亜鉛(Zn)などを含んでもよい。準金属の代わりに半導体を含んでもよい。第2粒子の含量は、混合物の総重量に対して、8ないし60重量%、10ないし50重量%、15ないし40重量%、または20ないし30重量%であってもよい。第2粒子がこのような範囲の含量を有することにより、例えば、全固体二次電池1のサイクル特性をさらに向上することができる。
【0110】
[負極:バインダ]
第1負極活物質層22に含まれるバインダは、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレートなどであってもよいが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、バインダとして使用するものであるならば、いずれも可能である。バインダは、単独バインダ、または複数の互いに異なるバインダよっても構成される。
【0111】
第1負極活物質層22がバインダを含むことにより、第1負極活物質層22が負極集電体21上に安定化される。また、充放電過程において、第1負極活物質層22の体積変化、及び/または相対的な位置変更にもかかわらず、第1負極活物質層22の亀裂が抑制される。例えば、第1負極活物質層22がバインダを含まない場合、第1負極活物質層22が、負極集電体21から容易に分離してしまう。負極集電体21から第1負極活物質層22が離脱した部分は、負極集電体21が露出され、固体電解質層30と接触することにより、短絡が発生する可能性が上昇する。第1負極活物質層22は、例えば、第1負極活物質層22を構成する材料が分散されたスラリーを負極集電体21上に塗布し、乾燥させて作製される。バインダを第1負極活物質層22に含めることにより、スラリー中において、負極活物質の安定した分散が可能である。例えば、スクリーン印刷法でスラリーを負極集電体21上に塗布する場合、スクリーンの詰まり(例えば、負極活物質の凝集体による詰まり)を抑制することが可能である。
【0112】
[負極:その他添加剤]
第1負極活物質層22は、従来の全固体二次電池1に使用される添加剤、例えば、フィラ、コーティング剤、分散剤、イオン伝導性補助剤などをさらに含むことが可能である。
【0113】
[負極:第1負極活物質層]
第1負極活物質層22の厚みは、例えば、正極活物質層12の厚みの50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、または5%以下であってもよい。第1負極活物質層22の厚みは、例えば、1μmないし20μm、2μmないし10μm、または3μmないし7μmであってもよい。第1負極活物質層22の厚みが過度に薄ければ、第1負極活物質層22と負極集電体21との間に形成されるリチウムデンドライトが、第1負極活物質層22を崩壊させ、全固体二次電池1のサイクル特性が向上し難い。第1負極活物質層22の厚みが過度に厚くなれば、全固体二次電池1のエネルギー密度が低下し、第1負極活物質層22による全固体二次電池1の内部抵抗が増大し、全固体二次電池1のサイクル特性が向上し難い。
【0114】
第1負極活物質層22の厚みが薄くなれば、例えば、第1負極活物質層22の充電容量も低減する。第1負極活物質層22の充電容量は、例えば、正極活物質層12の充電容量に比べ、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または2%以下であってもよい。第1負極活物質層22の充電容量は、例えば、正極活物質層12の充電容量に比べ、0.1%ないし50%、0.1%ないし40%、0.1%ないし30%、0.1%ないし20%、0.1%ないし10%、0.1%ないし5%、または0.1%ないし2%であってもよい。第1負極活物質層22の充電容量が過度に少なければ、第1負極活物質層22の厚みが非常に薄くなるので、繰り返される充放電過程において、第1負極活物質層22と負極集電体21との間に形成されるリチウムデンドライトが、第1負極活物質層22を崩壊させ、全固体二次電池1のサイクル特性が向上し難い。第1負極活物質層22の充電容量が過度に増大すれば、全固体二次電池1のエネルギー密度が低下し、第1負極活物質層22による全固体二次電池1の内部抵抗が増大し、全固体二次電池1のサイクル特性が向上し難い。
【0115】
正極活物質層12の充電容量は、正極活物質の充電容量密度(mAh/g)に、正極活物質層12における正極活物質の質量を乗じて得られる。正極活物質がさまざまな種類使用される場合、正極活物質ごとに、充電容量密度×質量値を計算し、該値の総和が正極活物質層12の充電容量である。第1負極活物質層22の充電容量も、同じ方法に計算される。すなわち、第1負極活物質層22の充電容量は、負極活物質の充電容量密度(mAh/g)に、第1負極活物質層22における負極活物質の質量を乗じて得られる。負極活物質がさまざまな種類使用される場合、負極活物質ごとに、充電容量密度×質量値を計算し、その値の総和が第1負極活物質層22の容量である。ここで、正極活物質及び負極活物質の充電容量密度は、リチウム金属を相対電極として使用した全固体半電池(half-cell)を利用して推定された容量である。全固体半電池を利用した充電容量測定により、正極活物質層12と第1負極活物質層22との充電容量が直接測定される。測定された充電容量を、それぞれ活物質の質量で除算すれば、充電容量密度が得られる。または、正極活物質層12と第1負極活物質層22との充電容量は、初期サイクル充電時に測定される初期充電容量としてもよい。
【0116】
[負極:第2負極活物質層(析出層)]
全固体二次電池1は、充電により、例えば、負極集電体21と第1負極活物質層22との間に配置されている第2負極活物質層23をさらに含んでもよい。全固体二次電池1は、充電により、固体電解質層30と第1負極活物質層22との間に配置されている第2負極活物質層をさらに含んでもよい。全固体二次電池1は、充電により、例えば、負極集電体21と第1負極活物質層22との間、及び固体電解質層30と第1負極活物質層22との間に配置されている第2負極活物質層23をさらに含んでもよい。第2負極活物質層は、リチウムまたはリチウム合金を含む金属層である。金属層は、リチウムまたはリチウム合金を含む。従って、第2負極活物質層23は、リチウムを含む金属層であるので、例えば、リチウム貯蔵庫(reservoir)として作用する。リチウム合金は、例えば、Li-Al合金、Li-Sn合金、Li-In合金、Li-Ag合金、Li-Au合金、Li-Zn合金、Li-Ge合金、Li-Si合金などであってもよいが、これらに限定されるものではなく、当該技術分野において、リチウム合金として使用するものであるならば、いずれも可能である。第2負極活物質層は、このような合金のうち一つからなってもよいし、またはリチウムからなってもよいし、あるいはさまざまな種類の合金からなってもよい。
【0117】
第2負極活物質層23の厚みは、特別に制限されるものではないが、例えば、1μmないし1,000μm、1μmないし500μm、1μmないし200μm、1μmないし150μm、1μmないし100μm、または1μmないし50μmであってもよい。第2負極活物質層23の厚みが過度に薄ければ、第2負極活物質層23によるリチウム貯蔵庫の役割を果たし難い。第2負極活物質層23の厚みが過度に厚ければ、全固体二次電池1の質量及び体積が増大し、サイクル特性がかえって低下してしまう。第2負極活物質層23は、例えば、このような範囲の厚みを有する金属ホイルであってもよい。
【0118】
全固体二次電池1において、第2負極活物質層23は、例えば、全固体二次電池1の組み立て前、負極集電体21と第1負極活物質層22との間に配置されているか、あるいは全固体二次電池1の組み立て後、充電により、負極集電体21と第1負極活物質層22との間に析出される。図2Bに示されているように、全固体二次電池1の組み立て前、負極集電体21と第1負極活物質層22との間に第2負極活物質層23が配置されている場合、第2負極活物質層23がリチウムを含む金属層であるので、リチウム貯蔵庫として作用する。例えば、全固体二次電池1の組み立ての前、負極集電体21と第1負極活物質層22との間にリチウムホイルが配置されている。これにより、第2負極活物質層23を含む全固体二次電池1のサイクル特性をさらに向上することができる。全固体二次電池1の組み立て後、充電により、第2負極活物質層23が析出される場合、全固体二次電池1の組み立て時、第2負極活物質層23を含まないので、全固体二次電池1のエネルギー密度が上昇する。例えば、全固体二次電池1の充電時、第1負極活物質層22の充電容量を超えて充電する。すなわち、第1負極活物質層22を過充電する。充電初期には、第1負極活物質層22にリチウムを吸蔵させる。第1負極活物質層22に含まれる負極活物質は、正極10から移動してきたリチウムイオンと、合金または化合物を形成する。第1負極活物質層22の容量を超えて充電を行えば、例えば、第1負極活物質層22の背面、すなわち、負極集電体21と第1負極活物質層22との間にリチウムが析出され、析出されたリチウムにより、第2負極活物質層に23該当する金属層が形成される。第2負極活物質層23は、主に、リチウム(すなわち、金属リチウム)によって構成される金属層である。このような結果は、例えば、第1負極活物質層22に含まれる負極活物質が、リチウムと合金または化合物を形成する物質によって構成されることによって得られる。放電時には、第1負極活物質層22及び第2負極活物質層、すなわち、金属層のリチウムがイオン化され、正極10側に移動する。従って、全固体二次電池1において、リチウムを負極活物質として使用することが可能である。また、第1負極活物質層22が第2負極活物質層23を被覆するために、第2負極活物質層23、すなわち、金属層保護層の役割を担うと共に、リチウムデンドライトの析出成長を抑制する役割を果たす。従って、全固体二次電池1の短絡及び容量低下を抑制し、結果として、全固体二次電池1のサイクル特性を向上することができる。また、全固体二次電池1の組み立て後、充電により、第2負極活物質層23が配置されている場合、負極集電体21及び第1負極活物質層22、並びにそれら間の領域は、例えば、全固体二次電池の初期状態、または放電後の状態において、リチウム(Li)を含まないLiフリー(free)領域である。
【0119】
[負極:第3負極活物質層]
図2Dによると、全固体二次電池1は、第3負極活物質層23’を含んでもよい。第3負極活物質層23’は、負極集電体21と第1負極活物質層22との間に配置されていてもよい。第3負極活物質層23’は、リチウムまたはリチウム合金を含む金属層である。金属層は、リチウムまたはリチウム合金を含む。従って、第3負極活物質層23’は、リチウムを含む金属層であるので、例えば、リチウム貯蔵庫として作用する。リチウム合金は、例えば、Li-Al合金、Li-Sn合金、Li-In合金、Li-Ag合金、Li-Au合金、Li-Zn合金、Li-Ge合金、Li-Si合金などであってもよいが、これらに限定されるものではなく、当該技術分野において、リチウム合金として使用するものであるならば、いずれも可能である。第3負極活物質層23’は、このような合金のうち一つからなってもよいし、またはリチウムからなってもよいし、あるいはさまざまな種類の合金からなってもよい。
【0120】
第3負極活物質層23’の厚みは、特別に制限されるものではないが、例えば、1μmないし100μm、10ないし100μm、1μmないし50μm、1μmないし40μm、1μmないし30μm、1μmないし20μm、1μmないし15μm、1μmないし10μm、または1μmないし5μmであってもよい。第3負極活物質層23’の厚みが過度に薄ければ、第3負極活物質層23’によるリチウム貯蔵庫の役割を果たし難い。第3負極活物質層23’の厚みが過度に厚ければ、全固体二次電池1の質量及び体積が増大し、サイクル特性がむしろ低下してしまう。第3負極活物質層23’は、例えば、このような範囲の厚みを有する金属蒸着層または金属ホイルであってもよい。
【0121】
第3負極活物質層23’と固体電解質層30との間には、図2Cに示されているように、リチウムハライド層24がさらに配置されている。リチウムハライド層24が不動態化(passivation)層として作用し、第3負極活物質層23’の劣化を防止することができる。リチウムハライド層24は、高強度層及び高硬度層であるので、第3負極活物質層23’を保護する保護層(protecting layer)でもある。リチウムハライド層24は、LiF、LiCl、LiBr、及びLiIからなる群から選択される1以上を含んでもよい。リチウムハライド層24は、LiF層であってもよい。リチウムハライド層24は、蒸着により、第3負極活物質層23’上にも配置されている。リチウムハライド層24の厚みは、特別に制限されるものではないが、例えば、10μmないし300μm、10μmないし200μm、10μmないし150μm、10μmないし100μm、10μmないし90μm、10μmないし80μm、10μmないし60μm、または20μmないし50μmであってもよい。リチウムハライド層24の厚みが過度に薄ければ、リチウムハライド層24が第3負極活物質層23’の劣化を防止し難い。リチウムハライド層24の厚みが過度に厚ければ、全固体二次電池1のエネルギー密度が低下してしまう。
【0122】
リチウムハライド層24上に、カーボン層がさらに配置されていてもよい。リチウムハライド層24上に、カーボン層がさらに配置されていることにより、リチウムハライド層24と固体電解質層30との界面抵抗を低減することができる。カーボン層の厚みは、例えば、1μmないし10μm、2μmないし10μm、または1μmないし5μmであってもよい。カーボン層の厚みが過度に薄ければ、リチウムハライド層24と固体電解質層30との界面抵抗を効果的に低減させ難い。カーボン層の厚みが過度に厚ければ、全固体二次電池1のエネルギー密度が低下してしまう。カーボン層は、バインダ及び炭素系材料を含んでもよい。炭素系材料は、非晶質炭素、結晶質炭素などを含んでもよい。バインダは、前述の正極に使用されるバインダを含んでもよい。カーボン層は、非晶質炭素及び結晶質炭素のいずれも含んでもよい。カーボン層に含まれる非晶質炭素と結晶質炭素との重量比は、例えば、4:6ないし6:4であってもよい。
【0123】
[負極:負極集電体]
負極集電体21は、例えば、リチウムと反応しない、すなわち、合金及び化合物をいずれも形成しない材料によって構成される。負極集電体21を構成する材料は、例えば、銅(Cu)、ステンレススチール、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)などであってもよいが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、電極集電体として使用するものであるならば、いずれも可能である。負極集電体21は、前述の金属のうち1種によって構成されてもよいし、あるいは2種以上の金属の合金、または被覆材料によって構成されてもよい。負極集電体21は、例えば、板状またはホイル状であってもよい。
【0124】
全固体二次電池1は、例えば、負極集電体21上に、リチウムと合金を形成することができる元素を含む薄膜(thin film)をさらに含んでもよい。薄膜は、負極集電体21と第1負極活物質層22との間に配置されている。薄膜は、例えば、リチウムと合金を形成することができる元素を含む。リチウムと合金を形成することができる元素は、例えば、金、銀、亜鉛、スズ、インジウム、ケイ素、アルミニウム、ビスマスなどであってもよいが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、当該技術分野において、リチウムと合金を形成することができる元素であるならば、いずれも可能である。薄膜は、それら金属のうち一つで構成されてもよいし、あるいはさまざまな種類の金属の合金で構成されてもよい。薄膜が負極集電体21上に配置されていることにより、例えば、薄膜と第1負極活物質層22と間に析出される第2負極活物質層の析出形態がさらに平坦化され、全固体二次電池1のサイクル特性をさらに向上することができる。
【0125】
薄膜の厚みは、例えば、1nmないし800nm、10nmないし700nm、50nmないし600nm、または100nmないし500nmであってもよい。薄膜の厚みが1nm未満になる場合、該薄膜による機能が発揮され難くなる。薄膜の厚みが過度に厚ければ、薄膜自体がリチウムを吸蔵し、負極において、リチウム析出量が減少し、全固体電池のエネルギー密度が低下され、全固体二次電池1のサイクル特性が低下してしまう。薄膜は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、メッキ法などにより、負極集電体21上に配置することができるが、必ずしもこのような方法に限定されるものではなく、当該技術分野において、薄膜を形成することができる方法であるならば、いずれも可能である。
【0126】
一態様による全固体二次電池1において、正極10は、例えば、厚みが70ないし150μmであってもよく、固体電解質層30は、例えば、厚みが30ないし60μmであってもよく、負極20は、例えば、厚みが10ないし100μmであってもよい。
【0127】
一態様による全固体二次電池1は、中大型電池または電力保存装置(ESS:energy storage system)に適用可能である。一態様による全固体二次電池1は、例えば、自動車電池に利用可能である。
【実施例
【0128】
以下の実施例及び比較例を用いて、さらに詳細に説明する。ただし、実施例は、例示のためのものであり、それらだけによって限定されるものではない。
【0129】
(正極活物質の製造)
<製造例1:正極活物質{LiNi0.966Co0.028Al0.006(NCA)コア+CoリッチNCAシェル+aLiO-LaO(LLaO)コーティング膜}(平均粒径:約6μm)の製造>
ニッケル系活物質LiNi0.967Co0.019Al0.014(NCA)(平均粒径:約6μm)に、コバルト前駆体である硫酸コバルトCoSO及び水酸化ナトリウムNaOHを付加し、それらを混合し、混合物を空気中で、約700℃で熱処理し、LiNi0.966Co0.028Al0.006(NCA)(コア)と、その上部にCoリッチNCAを有するシェルと、を含む正極活物質を得た。ここで、CoリッチNCAは、LiNi0.563Co0.430Al0.007を含んでいる。コア及びシェルを合わせた正極活物質(ニッケル系活物質)の全体的な組成は、LiNi0.917Co0.069Al0.014(NCA)である。
【0130】
シェルに含まれるCoリッチNCA(LiNi0.563Co0.430Al0.007)の含量は、コア及びシェルを含む構造を有するニッケル系活物質の総重量100重量部に対して、7重量部であった。
【0131】
これとは別途に、リチウムメトキシド0.118g、ランタンプロポキシド1.129g、イソプロピルアルコール20g、及びアセト酢酸エチル10gの混合液を、30分間、撹拌して混合し、aLiO-LaO(a=1)のアルコール溶液(aLiO-LaO被覆用塗布液)を製造した。ここで、リチウムメトキシド及びランタンプロポキシドの含量、即ち、ニッケル系活物質の表面に被覆されるaLiO-LaO(a=1)の含量が、ニッケル系活物質とaLiO-LaO(a=1)との総重量100重量部に対して、0.56重量部になるように調節した。ここで、「ニッケル系活物質とaLiO-LaO(a=1)との総重量100重量部」は、コア及びシェルを含むニッケル系活物質と、リチウムイオン伝導体であるaLiO-LaO(a=1)との総重量100重量部を示す。
【0132】
次に、aLiO-LaO被覆用塗布液を、前述の正極活物質微細粉末と混合し、混合溶液を撹拌しながら、40℃に加熱し、溶媒を蒸発乾燥させた。このとき、混合溶液には、超音波を照射した。
【0133】
以上の工程により、ニッケル系活物質微細粉末の粒子表面に、aLiO-LaOの前駆体を担持させた。
【0134】
また、ニッケル系活物質の粒子表面に担持されたaLiO-LaO(a=1)の前駆体を、約300℃で1時間、酸素雰囲気下で熱処理した。熱処理過程において、ニッケル系活物質上部に存在するaLiO-LaO(a=1)の前駆体が、aLiO-LaOに変化した。LiO-LaO(LLaO)の含量は、ニッケル系活物質とリチウムイオン伝導体との総重量100重量部に対して、約0.56重量部であった。
【0135】
前述の製造工程によれば、正極活物質であるaLiO-LaOコーティング膜を有するニッケル系活物質{LiNi0.966Co0.028Al0.006(NCA)コア+Co-rich NCAシェル+aLiO-LaO(LLaO)コーティング膜}を得ることができた。CoリッチNCAの組成は、LiNi0.563Co0.430Al0.007であり、コア及びシェルを含む正極活物質の組成は、LiNi0.917Co0.069Al0.014(NCA)であった。
【0136】
<製造例2>
リチウムメトキシド及びランタンプロポキシドの含量、即ち、ニッケル系活物質の表面に被覆されるaLiO-LaO(a=1)の含量が、ニッケル系活物質とリチウムイオン伝導体との総重量100重量部に対して、0.94重量部になるように調節されたことを除いては、製造例1と同様に実施し、正極活物質を製造した。aLiO-LaO被覆用塗布液として、リチウムメトキシド0.196g、ランタンプロポキシド1.882g、イソプロピルアルコール20gの混合物を利用した。
【0137】
<製造例3>
リチウムメトキシド及びランタンプロポキシドの含量、即ち、ニッケル系活物質の表面に被覆されるaLiO-LaO(a=1)の含量が、ニッケル系活物質とリチウムイオン伝導体との総重量100重量部に対して、1.32重量部になるように調節されたことを除いては、製造例1と同様に実施し、正極活物質を製造した。ここで、aLiO-LaO被覆用塗布液として、リチウムメトキシド0.275g、ランタンプロポキシド2.635g、イソプロピルアルコール20gの混合物を利用した。
【0138】
<製造例4>
リチウムメトキシド及びランタンプロポキシドの含量、即ち、ニッケル系活物質の表面に被覆されるaLiO-LaO(a=1)の含量が、ニッケル系活物質とリチウムイオン伝導体との総重量100重量部に対して、0.94重量部になるように調節されたことを除いては、製造例1と同様に実施し、正極活物質を製造した。ここで、aLiO-LaO被覆用塗布液として、リチウムメトキシド0.392g、ランタンプロポキシド3.764g、イソプロピルアルコール20gの混合物を利用した。
【0139】
<製造例5、6>
リチウムメトキシド及びランタンプロポキシドの含量、即ち、ニッケル系活物質の表面に被覆されるaLiO-LaO(a=1)の含量が、ニッケル系活物質とリチウムイオン伝導体との総重量100重量部を基準にしに対して、それぞれ0.1重量部及び3重量部になるように調節されたことを除いては、製造例1と同様に実施し、正極活物質を製造した。
【0140】
<比較製造例1>
ニッケル系活物質の表面に、LLaOコーティング膜を形成しないことを除いては、製造例1と同様に実施し、正極活物質を製造した。
【0141】
<比較製造例2>
LiNi0.88Co0.105Al0.015(NCA)上部に、CoリッチNCAを有するシェルを形成しないことを除いては、製造例1と同様に実施し、正極活物質を製造した。
【0142】
<参照製造例1>
リチウムメトキシド及びランタンプロポキシドの含量、即ち、ニッケル系活物質の表面に被覆されるaLiO-LaO(a=1)の含量が、ニッケル系活物質とリチウムイオン伝導体との総重量100重量部に対して、0.05重量部になるように調節されたことを除いては、製造例1と同様に実施し、正極活物質を製造した。
【0143】
<参照製造例2>
リチウムメトキシド及びランタンプロポキシドの含量、即ち、ニッケル系活物質の表面に被覆されるaLiO-LaO(a=1)の含量が、ニッケル系活物質とリチウムイオン伝導体との総重量100重量部に対して、12重量部になるように調節されたことを除いては、製造例1と同様に実施し、正極活物質を製造した。
【0144】
〔ポーチ型全固体二次電池〕
<実施例1>
(正極製造)
正極活物質として、製造例1の正極活物質を利用した。
【0145】
固体電解質として、アジロダイト型結晶体であるLiPSCl固体電解質(D50=0.6μm結晶質)を準備した。バインダとして、ポリテトラフルオルエチレン(PTFE)バインダ(PTFE binder、ダイキン社製)を準備した。導電剤として、炭素ナノファイバ(CNF)を準備した。これらのような材料を、正極活物質:固体電解質:導電剤:バインダ=89:8.8:1.22:0.98の重量比で、キシレン溶媒と混合させた正極活物質組成物をシート状に成形した後、40℃で8時間、真空乾燥させ、正極活物質層を製造した。
【0146】
正極活物質層を、炭素コーティングされたAl(carbon-coated Al)集電体に積層し、ロールプレスで圧着して正極を準備した。
【0147】
(負極製造)
負極集電体として、厚み10μmのNi箔(foil)を準備した。
【0148】
一次粒径が30nmほどであるカーボンブラック(CB)6gを容器に入れ、そこに、PVDFバインダ(クレハ社の#9300)5重量%含まれるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液8gを投入して混合し、混合溶液を準備した。次に、混合溶液にNMPを少しずつ添加しながら、混合溶液を撹拌し、スラリーを製造した。製造されたスラリーを、Ni集電体上部に、バーコータ(bar coater)を利用して塗布し、空気中で80℃で10分間乾燥させ、カーボンブラックと銀とを含むカーボン層を形成した。カーボン層の厚みは、7μmであった。
【0149】
以上の工程により、負極を製造した。負極に含まれるカーボン+Ag層の多層構造を有する第1負極活物質層の厚みは、7μmであった。
【0150】
(固体電解質層の製造)
Li-アジロダイト(LiPSCl、D50=3μm、結晶質)99重量部、アクリル系バインダであるポリ(スチレン-co-ブチルアクリレート)(8:2モル比)1重量部、キシレン495重量部を、シンキーミキサー(Thinky mixer)(1,300rpm、5分)で混合し、正極活物質スラリーを準備した。スラリーを、離形PET(厚み:75μm)上の不織布(厚み:15μm)上に、バーコータを利用して膜を作り、コンベキションオーブン(convection oven)(80℃、10分)で液体成分をなくし、真空オーブン(40℃、10分)で乾燥させ、固体電解質層(加圧前厚:90μm、WIP加圧後厚:45μm)を準備した。
【0151】
(全固体二次電池の製造)
以上の工程によって得た負極、固体電解質層及び正極の順に配置し、積層体を準備した。準備された積層体をポーチに入れ、それをシーリングし、ポーチ型負極/固体電解質層/正極の単位セルを製造した。固体電解質層の厚みは、約45μmであった。
【0152】
<実施例2ないし6>
正極活物質として、製造例2ないし製造例6の正極活物質をそれぞれ使用したことを除いては、実施例1と同様に実施し、ポーチセル全固体二次電池を製造した。
【0153】
〔トルクセル(torque cell)型全固体二次電池〕
<実施例7>
(正極製造)
正極活物質として、製造例1の正極活物質を利用した。
【0154】
固体電解質として、アジロダイト型結晶体であるLiPSCl固体電解質(D50=0.6μm結晶質)を準備した。バインダとして、ポリテトラフルオルエチレン(PTFE)バインダ(PTFE binder、ダイキン社製)を準備した。導電剤として炭素ナノファイバ(CNF)を準備した。これらのような材料を、正極活物質:固体電解質:導電剤=65:35:5の重量比で混合させた正極活物質組成物をペレット状に成形した後、40℃で8時間真空乾燥させ、ペレット状の正極活物質層を製造した。
【0155】
正極活物質層を、炭素コーティングされたAl集電体に積層し、ロールプレスで圧着し、ペレット状の正極を準備した。
【0156】
(負極製造)
負極として、厚みが約25μmであるリチウム金属を利用した。
【0157】
(固体電解質層の製造)
Li-アジロダイト(LiPSCl、D50=3μm、結晶質)100重量部、100μm(13Φ)を、3Nm圧力でプレスし、ペレット化させた。
【0158】
(全固体二次電池の製造)
以上の工程によって得た負極、固体電解質層及び正極の順に配置し、積層体を準備した。準備された積層体を、500MPaの圧力で、1分間、平板加圧(plate press)処理し、トルクセル型負極/固体電解質/正極の単位セルを製造した。このような加圧処理により、固体電解質層が焼結され、電池特性が向上した。焼結された固体電解質層の厚みは、約45μmであった。
【0159】
<実施例8ないし12>
正極活物質として、製造例2ないし製造例6の正極活物質をそれぞれ使用したことを除いては、実施例7と同様に実施し、トルクセル型全固体二次電池を製造した。
【0160】
<比較例1、2>
正極活物質として、比較製造例1及び比較製造例2の正極活物質をそれぞれ利用したことを除いては、実施例1と同様に実施し、ポーチ型全固体二次電池を製造した。
【0161】
<比較例3、4>
正極活物質として、比較製造例1及び比較製造例2の正極活物質をそれぞれ利用したことを除いては、実施例7と同様に実施し、トルクセル型全固体二次電池を製造した。
【0162】
<参照例1、2>
正極活物質として、参照製造例1及び参照製造例2の正極活物質をそれぞれ利用したことを除いては、実施例1と同様に実施し、ポーチセル型全固体二次電池を製造した。
【0163】
[評価例1:インピーダンス]
実施例7ないし9及び比較例3のトルクセル型全固体二次電池のインピーダンス特性を測定した。全固体二次電池のインピーダンスは、インピーダンス分析機器(Solartron 1260A Impedance/Gain-Phase Analyzer)を使用し、2-プローブ(probe)法によって、25℃、106ないし0.1MHz周波数範囲において、10mVの電圧バイアスを与えて抵抗を測定することにより、インピーダンスを評価した。評価結果の一部を下記表1に示した。
【0164】
【表1】
【0165】
各全固体二次電池の製造後、経過時間が24時間であるとき、インピーダンス測定結果に係わるナイキストプロット(Nyquist plot)を図3に示した。図3において、電極のバルク抵抗は、半円の位置及び大きさによって決定され、それは、半円の左側x軸切片と右側x軸切片との差を示す。
【0166】
図3及び表1により、実施例7ないし9の全固体二次電池は、比較例3の全固体二次電池と比較し、バルク抵抗が大きく低減したことが分かった。
【0167】
[評価例2:EDX(energy dispersive X-ray spectroscopy)分析]
製造例1によって製造された複合正極活物質における遷移金属の組成を測定するために、EDX(energy dispersive X-ray spectroscopy)実験を行い、その結果の一部を図4及び図5に示した。EDX測定機器は、FEI Sirion SEM_EDXを使用して測定した。
【0168】
図4に示されているように、製造例1により、正極活物質は、シェル領域にコバルトがリッチである組成で存在していることが分かった。
【0169】
また、製造例1の正極活物質は、表面にランタンが局所的に存在することが分かった。
【0170】
[評価例3:効率及び寿命特性]
実施例1~3、比較例1、2及び参照例1、2によって作製されたポーチセル型全固体二次電池における充放電特性などを、充放電機(製造社:TOYO、モデル:TOYO-3100)で評価した。
【0171】
初回充放電は、0.1Cの電流で、4.25Vに至るまで定電流充電した後、0.05Cの電流に至るまで定電圧充電を実施した。充電完了したセルは、約10分間の休止期間を経た後、0.1Cの電流で、電圧が2.5Vに至るまで、定電流放電を行った。2回目充放電サイクルは、0.2Cの電流で、4.25Vに至るまで定電流充電した後、0.05Cの電流に至るまで定電圧充電を実施した。充電完了したセルは、約10分間の休止期間を経た後、0.2Cの電流で、電圧が2.5Vに至るまで定電流放電を行った。
【0172】
寿命評価は、1Cの電流で、4.25Vに至るまで定電流充電した後、0.05Cの電流に至るまで定電圧充電を実施した。充電完了したセルは、約10分間の休止期間を経た後、1Cの電流で、電圧が2.5Vに至るまで定電流放電を実施するサイクルを100回繰り返して評価した。
【0173】
サイクル数による放電容量変化を図6に示した。
【0174】
図6によると、実施例1ないし3の全固体二次電池は、比較例1の場合に比べ、寿命特性が向上した。
【0175】
また、実施例5、6及び参照例1、2の全固体二次電池に対し、実施例1の場合と同一評価方法により、寿命特性を調査した。
【0176】
その結果、実施例5、6の全固体二次電池は、実施例1の場合と同等レベルの寿命特性を有するということが分かった。さらに、実施例5、6の全固体二次電池は、参照例1、2の全固体二次電池に比べ、優れた寿命特性を示した。
【0177】
[評価例3:高率特性]
各全固体二次電池に対し、0.33C、1.0C、及び2.0Cで、2.5~4.25V領域で充放電を実施した後、それぞれのCレートによる放電容量変化を図7に示した。また、Cレートが0.33Cであるときの放電容量に対する1.0Cであるときの放電容量の比を下記表2に示した。
【0178】
【表2】
【0179】
表2及び図7によると、実施例1~3によって製造された全固体二次電池は、比較例1の場合に比べ、極板の抵抗が低く、優れた充放電効率、寿命特性、及び高率特性が得られることが分かった。
【0180】
実施例4の全固体二次電池は、実施例1の全固体二次電池と類似したレベルの充放電効率、寿命特性、及び高率特性を示した。
【0181】
以上において、図面及び実施例を参照し、一態様について説明したが、それらは、例示的なものに過ぎず、当該技術分野において当業者であるならば、それらから多様な変形、及び均等な他の態様が可能であるという点を理解することができるであろう。従って、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって定められるものの技術的思想の範囲内も含まれ、上記の多様な変形、及び均等な他の態様も、本創意的思想の技術的範囲に属するということは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0182】
1 全固体二次電池
10 正極
11 正極集電体
12 正極活物質層
20 負極
21 負極集電体
22 第1負極活物質層
23 第2負極活物質層
23’ 第3負極活物質層
24 リチウムハライド層
30 固体電解質層
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6
図7