IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】一方向性補強繊維シートおよび組紐
(51)【国際特許分類】
   D03D 1/00 20060101AFI20220720BHJP
   D03D 15/43 20210101ALI20220720BHJP
   D03D 15/275 20210101ALI20220720BHJP
   D03D 15/37 20210101ALI20220720BHJP
   D04C 1/02 20060101ALI20220720BHJP
   D04C 1/12 20060101ALI20220720BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20220720BHJP
【FI】
D03D1/00 A
D03D15/43
D03D15/275
D03D15/37
D04C1/02
D04C1/12
D03D15/20 100
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018056096
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019167648
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】原田 耕志
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/042763(WO,A1)
【文献】特開2001-073241(JP,A)
【文献】特開2017-036519(JP,A)
【文献】特開2009-035837(JP,A)
【文献】特開2015-148030(JP,A)
【文献】特開2017-056737(JP,A)
【文献】特開2008-266648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
D03D1/00-27/18
D04C1/00-7/00
D04G1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組紐及び組紐中央に挿入された芯糸からなる複合強化紐が互いに平行に配列された複合強化紐群と、前記複合強化紐と交差する方向に配列された補助繊維糸を有し
前記組紐を構成する強化繊維糸条及び前記芯糸を構成する強化繊維糸条が、炭素繊維マルチフィラメント糸であり、
かつ、下記(1)から(3)の少なくとも1つを満たす、該組紐を構成する強化繊維フィラメントよりも該芯糸を構成する強化繊維フィラメントの方が高い含浸性を有する一方向性補強繊維シート。
(1)前記組紐を構成する強化繊維糸条の単繊維繊度が0.1dtex以上1.0dtex未満であり、前記芯糸を構成する強化繊維糸条の単繊維繊度が1.0dtex以上2.4dtex未満である。
(2)前記組紐を構成する強化繊維糸条の繊維真円度が0.90以上1.00以下であり、前記芯糸を構成する強化繊維糸条の繊維真円度が0.70以上0.90未満である。
(3)前記組紐を構成する強化繊維糸条が、強化繊維糸条の1.0重量%以上20.0重量%以下の固着粒子を有し、前記芯糸を構成する強化繊維糸条が、強化繊維糸条の1.0重量%未満の固着粒子を有する。
【請求項2】
前記組紐を構成する強化繊維素糸の、前記複合強化紐の長さ方向に対する斜行角度αが0.1°以上、10°以下である、請求項1に記載の一方向性補強繊維シート。
【請求項3】
前記シート状の組紐群の両面に前記補助繊維糸を有する、請求項1または2に記載の一方向性補強繊維シート。
【請求項4】
前記複合強化紐と前記補助繊維糸が織組織を構成している、請求項1からのいずれか1項に記載の一方向性補強繊維シート。
【請求項5】
前記複合強化紐と前記補助繊維糸が、低融点ポリマーで接着されている請求項1からのいずれか1項に記載の一方向性補強繊維シート。
【請求項6】
前記複合強化紐の1m当たりの質量が3g以上であり、前記複合強化紐に占める前記芯糸の割合が10.0質量%以上95.0質量%以下である、請求項1からのいずれか に記載の一方向性補強繊維シート。
【請求項7】
1m当たりの質量が600g以上である請求項1からのいずれか1項に記載の一方向性補強繊維シート。
【請求項8】
強化繊維を含んでなる組紐とその芯部に位置する強化繊維を含んでなる芯糸を含んでなる複合強化紐 であって、
前記組紐を構成する強化繊維糸条及び前記芯糸を構成する強化繊維糸条が、炭素繊維マルチフィラメント糸であり、
かつ、下記(1)から(3)の少なくとも1つを満たす複合強化紐。
(1)前記組紐を構成する強化繊維糸条の単繊維繊度が0.1dtex以上1.0dtex未満であり、前記芯糸を構成する強化繊維糸条の単繊維繊度が1.0dtex以上2.4dtex未満である。
(2)前記組紐を構成する強化繊維糸条の繊維真円度が0.90以上1.00以下であり、前記芯糸を構成する強化繊維糸条の繊維真円度が0.70以上0.90未満である。
(3)前記組紐を構成する強化繊維糸条が、強化繊維糸条の1.0重量%以上20.0重量%以下の固着粒子を有し、前記芯糸を構成する強化繊維糸条が、強化繊維糸条の1.0重量%未満の固着粒子を有する。
【請求項9】
前記組紐を構成する強化繊維と前記芯糸を構成する強化繊維とが別の種類の強化繊維である、請求項に記載の複合強化紐。
【請求項10】
前記組紐を構成する強化繊維の含浸性よりも前記芯糸を構成する強化繊維の含浸性が高い、請求項またはに記載の複合強化紐。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維マルチフィラメント糸を用いた一方向性補強繊維シートに関し、さらに詳しくは風車ブレード用途、自動車用途などの多様な産業分野に用いられるVaRTM成形(真空アシスト樹脂注入成形)やRTM成形(樹脂注入成形)(以下、両成形をあわせて、単にRTM成形と言う。)に適した、強度発現に優れ、製品内のボイド発生率の低い一方向性補強繊維シートに関する。また、当該一方向性補強繊維シートに用いる組紐に関する。
【背景技術】
【0002】
組紐は意匠的な代表用途として帯締め、羽織の紐やそれ以外のストラップ、靴紐、動物の引き紐など多種にわたり使用されている。また、産業用途としても強さ、捩れにくいなどの特徴から縄跳びの紐、登山用のロ-プなど、又、筒形状が作成できることから工業用ホ-ス、消火用ホ-ス、などの補強用や被覆目的で使用されている。更には組紐の伸縮性を利用して電線のシ-ルド被覆など多種多様に使用されている。
【0003】
近年では炭素繊維やアラミド繊維、セラミック繊維などを用いた組紐や組物が、それらをプラスチックやセラミックで固めた繊維強化複合材料として、航空宇宙分野をはじめ、土建分野、自動車分野、スポ-ツ分野など様々な分野に利用されている。
【0004】
たとえば、特開平6-278234号公報(特許文献1)では自転車フレ-ム、テニスラケット、ゴルフシャフト、スキ-ストック、野球バットなどの管状成形品の製造に炭素繊維の組紐を使用することが提案されている。また、特開2007-113346号公報(特許文献2)ではコンクリ-ト製の梁や柱、或いは橋脚、煙突などのコンクリ-ト構造物の補強に炭素繊維の組紐を使用することが提案されている。
【0005】
一方、特願2014-022648号公報(特許文献3)では炭素繊維のマルチフィラメント糸からなる組紐を一方向に配列して固定用繊維材にて互いに固定された高い目付の一方向性補強繊維シートが提案されているが、RTM成形では組紐外周のフィラメントにおいて樹脂含浸が速やかに進行し、製品内部にボイドが残留しやすいという課題がある。
【0006】
製品内のボイド発生率低減手段の一つとして、特許第5682570号(特許文献4)に記載されるような単繊維繊度が大きく繊維真円度が小さい、樹脂含浸性の高い炭素繊維マルチフィラメント糸の使用があるが、単純な置き換えではボイド発生率低減について十分な効果は得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-278234号公報
【文献】特開2007-113346号公報
【文献】特願2014-022648号公報
【文献】特許第5682570号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高い目付であってもRTM成形時に製品内のボイド発生率が低く、機械的特性に優れる繊維強化複合材料が得られる、一方向性補強繊維シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、組紐を構成する強化繊維フィラメントよりも高い含浸性を有する芯糸を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の要旨は以下の[1]~[14]に存する。
【0010】
本発明の第1の実施形態
[1] 組紐及び組紐中央に挿入された芯糸からなる複合強化紐が互いに平行に配列された複合強化紐群と、前記複合強化紐と交差する方向に配列された補助繊維糸を有し、該組紐を構成する強化繊維フィラメントよりも該芯糸を構成する強化繊維フィラメントの方が高い含浸性を有する一方向性補強繊維シート。
[2] 前記組紐を構成する強化繊維糸条及び前記芯糸を構成する強化繊維糸条が炭素繊維マルチフィラメント糸である、上記[1]に記載の一方向性補強繊維シート。
[3] 前記組紐を構成する強化繊維素糸の、前記複合強化紐の長さ方向に対する斜行角度α が0.1°以上、10°以下である、上記[1]または[2]に記載の一方向性補強繊維シート。
[4] 前記組紐を構成する強化繊維糸条の単繊維繊度が0.1dtex以上1.0dtex未満であり、前記芯糸を構成する強化繊維糸条の単繊維繊度が1.0dtex以上2.4dtex未満である、上記[1]から[3]のいずれかに記載の一方向性補強繊維シート。
[5] 前記組紐を構成する強化繊維糸条の繊維真円度が0.90以上1.00以下であり、前記芯糸を構成する強化繊維糸条の繊維真円度が0.70以上0.90未満である、上記[1]から[4]のいずれかに記載の一方向性補強繊維シート。
[6] 前記組紐を構成する強化繊維糸条が、強化繊維糸条の1.0重量%以上20.0重量%以下の固着粒子を有し、前記芯糸を構成する強化繊維糸条が、強化繊維糸条の1.0重量%未満の固着粒子を有するである、上記[1]から[5]のいずれかに記載の一方向性補強繊維シート。
[7] 前記シート状の組紐群の両面に前記補助繊維糸を有する、上記[1]から[6]のいずれかに記載の一方向性補強繊維シート。
[8] 前記複合強化紐と前記補助繊維糸が織組織を構成している、上記[1]から[7]のいずれかに記載の一方向性補強繊維シート。
[9] 前記複合強化紐と前記補助繊維糸が、低融点ポリマーで接着されている上記[1]から[8]のいずれかに記載の一方向性補強繊維シート。
[10] 前記複合強化紐の1m当たりの質量が3g以上であり、前記複合強化紐に占める前記芯糸の割合が10.0質量%以上95.0質量%以下である、上記[1]から[9]のいずれかに記載の一方向性補強繊維シート。
[11] 1m当たりの質量が600g以上である上記[1]から[10]のいずれかに記載の一方向性補強繊維シート。
【0011】
本発明の第2の実施形態
[12] 強化繊維を含んでなる組紐とその芯部に位置する強化繊維を含んでなる芯糸を含んでなる複合強化紐。
[13] 前記組紐を構成する強化繊維と前記芯糸を構成する強化繊維とが別の種類の強化繊維である、上記[12]に記載の複合強化紐。
[14] 前記組紐を構成する強化繊維の含浸性よりも前記芯糸を構成する強化繊維の含浸性が高い、上記[12]または[13]に記載の複合強化紐。
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複合強化紐外周に相対的に樹脂含浸性の低いフィラメントを配し、複合強化紐中央に相対的に含浸性の高いフィラメントを配することでRTM成型における外周のフィラメントにおいて樹脂含浸が先行する現象を抑制し、高い目付であっても、RTM成形を行う際に製品内に内部ボイドが発生しづらく、機械的特性に優れる繊維強化複合材料を与える、一方向性補強繊維シートが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(組紐)
本発明に用いる組紐は炭素繊維マルチフィラメント糸を素糸として製造された組紐であることが好ましい。組物は2組の糸を斜めに交錯させて作る布であり、テープ状に組み合わせた物を平打組物、円筒状に組み合わせた物を丸打組物と呼ぶ。他には、角打組物、三次元組物などさまざまなものが知られている。一般に、組物のなかでも幅の狭いものを組紐と呼びならわしているが、本発明においては組物と組紐を区別なく用いる。
【0014】
組紐は3本以上の素糸を組み合わせることで形成され、その組織も1本組(または、一間飛び組織、平織相当)、2本組(または、二間飛び組織、綾織相当)など各種のものが知られている。本発明に用いる組紐としては、4~36本の炭素繊維マルチフィラメント糸を素糸として組み合わせて作製される組紐が、簡易な装置で生産性高く生産されるので好ましい。丸打組紐は本発明の一方向性補強シートを製造する工程が簡易となるので好ましく、平打組紐は均一に配列することにより本発明の一方向性補強シートの厚さを高い精度で制御できるので好ましい。
【0015】
本発明に用いる組紐には、組紐の長さ方向に斜行する素糸、即ち、丸打組紐においては組紐の長さ方向軸の回りに螺旋を形成する素糸、平打組紐においては組紐の幅方向を往復しながら組紐の長さ方向軸を中心にジグザグ形状を形成する素糸に加え、組紐の長さ方向に平行な芯糸を形成する素糸を加えることができる。
また、本発明に用いる組紐が丸打組紐の場合には、組紐の中空部に軸糸を形成する素糸を加えることができる。
【0016】
組紐の長さ方向に斜行する素糸の、組紐の長さ方向に対する斜行角度αは、丸打組紐においては前記螺旋のピッチと組紐の周長、平打組紐においては前記ジグザグ形状のピッチと組紐の幅の2倍の長さによって決定される。斜行角度αの絶対値が0.1°以上であると、組紐の組織が素糸の引き揃いを抑制して組紐内に空隙を確保し、また、隣接する組紐との密着を抑制して組紐間に空隙を確保する。一方、炭素繊維の配向を良好なものとするため、 斜行角度αの絶対値は10°未満が好ましく、5°未満がさらに好ましい。斜行角度αがゼロの組紐は単純に引き揃えた素糸群であり、組紐形態を維持できない。従って本発明の一方向性補強シートは厳密な意味では一方向性ではないが、斜行角度αの絶対値が十分に小さく、かつ、組紐内でプラス方向に傾斜した炭素繊維とマイナス方向に傾斜した炭素繊維が等しく存在して傾きの効果を相殺するので、一方向性として扱うことができる。
【0017】
なお、本発明の一方向性補強繊維シート中において、丸打組紐は略長方形断面に潰れた形で存在するので、円筒螺旋として決定される斜行角度は必ずしも保存されないが、本発明においては、本発明の一方向性補強繊維シート中の、各組紐の幅方向中央部における素糸の方向を実測して斜行角度αとする。
【0018】
(複合強化紐)
本発明に用いる組紐は、強化繊維を含んでなる組紐とその芯部に位置する強化繊維を含んでなる芯糸を含んでなる複合強化紐である。前記組紐を構成する強化繊維と前記芯糸を構成する強化繊維とが別の種類の強化繊維であることが好ましい。また、樹脂含侵性の観点から、前記組紐を構成する強化繊維の含浸性よりも前記芯糸を構成する強化繊維の含浸性が高いことが好ましい。
【0019】
組紐中央に芯糸を長手方向と平行に挿入することで複合強化紐が得られる。芯糸は炭素繊維マルチフィラメント糸を素糸として製造された糸条であればなんら限定するものではない。芯糸として組紐構造を用いることも可能だが、繊維の伸直性が高く強度発現率が高いため一方向に引きそろえられた繊維糸条を用いることがより望ましい。 芯糸は組紐の製造と同時に組紐内に供給され、連続的に複合強化紐を製造することが可能である。
【0020】
本発明に用いる複合強化紐の目付は、複合強化紐中に用いる組紐及び芯糸の素糸目付の合計目付として基本的に決定されるが、斜行角度αが大きい場合は、複合強化紐中に用いる素糸目付の合計目付よりも大きくなる。本発明に用いる複合強化紐一本の目付は、3g/m以上であれば目付の大きな一方向性補強繊維シートが容易に得られるので好ましい。
【0021】
(素糸)
本発明に用いる複合強化紐を形成する素糸には、炭素繊維マルチフィラメント糸を用いる。全て素糸に同一の炭素繊維マルチフィラメント糸を用いても良く、複数種類の炭素繊維マルチフィラメント糸を用いても良い。また一部の素糸にはアラミド繊維等の有機繊維、ガラス繊維等の無機繊維、および/または、金属繊維を用いることもできる。これらの有機繊維、無機繊維、および/または、金属繊維はマルチフィラメント糸であっても良いしモノフィラメント糸であってもよい。さらには、素糸に用いる炭素繊維マルチフィラメント糸が有機繊維、無機繊維、および/または、金属繊維のフィラメントを含むものであっても良い。
【0022】
(炭素繊維マルチフィラメント糸)
炭素繊維糸条のフィラメント数は1000~100000本であることが好ましい。さらに、炭素繊維は引張強度が3000~6000MPaのものを用いることが一般産業用途用の繊維強化プラスチックとして好ましい。本発明において、炭素繊維の引張強度とは、JIS R 7601に準拠して測定したストランド強度を指す。
【0023】
繊維真円度は下記式(I)にて求められる値である。
繊維真円度 = 4πS/L (I)
ただし、Sは、フィラメントの繊維軸に垂直な断面をSEM観察し、画像解析することにより得られるフィラメントの断面積であり、Lは、同様にフィラメントの断面の周長の長さである。 繊維真円度は1に近いほど繊維の外見は円に近くなり、フィラメントの充填率が高くなるためRTM成型時に樹脂流路となるフィラメント間の空間が小さく、流動抵抗が高くなるため含浸性は低くなる。一方で真円度が低いと焼成時にフィラメント内部の物性不均一が大きくなり、強度低下が生じる。
【0024】
本発明における複合強化紐を構成する組紐においては使用するフィラメントの繊維真円度が0.90以上1.0以下であることが望ましく0.95以上1.0以下であることがより望ましい。本発明における複合強化紐を構成する芯糸においては使用するフィラメントの繊維真円度が0.70以上0.90未満であることが望ましく、0.75以上0.85未満であることがより望ましい。
【0025】
炭素繊維マルチフィラメント糸の単繊維繊度は大きいほどフィラメント間の空間が大きくなるため含浸性は高くなる。単繊維繊度が2.4dtexより大きいと均一な品質の炭素繊維束を安定に生産することが難しくなる。
【0026】
本発明における複合強化紐を構成する組紐においては使用するフィラメントの単繊維繊度が0.1dtex以上1.0dtex未満であることが望ましく、0.5dtex以上0.8dtex未満であることがより望ましい。複合強化紐を構成する芯糸においては使用するフィラメントの単繊維繊度が1.0dtex以上2.4dtex未満であることが望ましい。
【0027】
本発明に使用する炭素繊維マルチフィラメント糸は無撚りであることが好ましい。撚りがある場合は撚り数にして5回/m以下が好ましく、2回/m以下がさらに好ましい。
【0028】
本発明に用いる炭素繊維には、エポキシ基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、アクリレート基およびメタクリレート基から選ばれる1種類以上の官能基を持つ物質を0.01~5質量%付着させ、繊維束の収束性や、繊維強化プラスチックとしたときの炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を改善するサイズ剤として用いることができる。
【0029】
(フィラメントの樹脂含浸性)
炭素繊維マルチフィラメント糸は糸条としての目付が同一であっても、マルチフィラメント糸を構成する個々のフィラメントの特性によって樹脂を注入した際の含浸速度やマルチフィラメント糸内部のボイド発生率などが異なる。マルチフィラメント糸内の含浸速度の速さやボイド発生のしにくさに促進するフィラメントの特性をフィラメントの樹脂含浸性と呼ぶ。
【0030】
フィラメント間の空隙が大きくなり、樹脂流動時の壁面摩擦が小さくなるため、フィラメントの単繊維繊度が大きいほどフィラメントの樹脂含浸性は高くなる。
同様に、フィラメントの繊維真円度が小さい場合もフィラメントが整列しづらくなり、フィラメント間の空隙が大きくなるため、フィラメントの樹脂含浸性は高くなる。
また、フィラメントに対して固着粒子が付与されていた場合、フィラメント間の空隙に固着粒子が存在し、樹脂流動時の摩擦が大きくなるため、フィラメントの樹脂含浸性は低くなる。フィラメントの樹脂含浸性の評価として、例えば特開2010-271268号公報に記載の手法がある。
【0031】
(固着粒子)
本発明において固着粒子とは強化繊維糸条表面に存在している、加熱により軟化する樹脂粒子を指す。固着粒子は複数の一方向性補強シートなどからなる積層体を特定の三次元形状に変形させた状態で加熱、冷却をすることでシートを相互に固着させ形態安定性を向上させる目的で使用される。強化繊維糸条に対する固着粒子の存在状態は均一であっても、不均一かつ周期的であっても、ランダムかつ不均一であっても構わない。
【0032】
強化繊維糸条に対する固着粒子の付着により樹脂流路が制限され、固着粒子の存在量の増加とともに含浸性は低くなる。本発明における複合強化紐を構成する組紐においては固着粒子の存在量が強化繊維糸条の1.0質量%以上20.0質量%以下であることが望ましく、複合強化紐を構成する芯糸においては固着粒子の存在量が強化繊維糸条の1.0質量%未満であることが望ましい。
【0033】
本発明に用いられる固着粒子には、加熱によって粘度が低下する加熱溶融性樹脂を用いることができる。例えば、「ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィンや、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド等のポリアリーレンスルフィド、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、液晶ポリマー」等の結晶性熱可塑性樹脂、「スチレン樹脂の他、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート」等の非晶性熱可塑性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、さらに、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系樹脂、およびアクリロニトリル系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体、変性体、およびこれら樹脂を2種類以上ブレンドした樹脂等を用いることができる。また、所望の用途に応じて樹脂成分に充填材や導電性付与材、難燃剤、難燃助剤等の添加剤や層間強化粒子を混合したものを用いることもできる。
【0034】
(補助繊維糸)
本発明に用いる補助繊維糸は、炭素繊維マルチフィラメント糸からなる組紐より細い任意の有機繊維または無機繊維を用いることができる、補助繊維糸には100tex以下のガラス繊維糸条を用いることが好ましい。炭素繊維マルチフィラメント糸からなる組紐を固定するため、熱可塑性ポリマーをガラス繊維糸条に線状に連続的に付着せしめて、補助繊維糸として用いることが好ましい。熱可塑性ポリマーをガラス繊維糸条に付着する方法は合撚、カバリング、引き揃えなど何ら限定するものではない。
【0035】
(一方向性補強繊維シート)
本発明の一方向性補強繊維シートは、炭素繊維マルチフィラメント糸からなる複合強化紐と、補助繊維糸からなる。また、本発明の一方向性補強繊維シートは多数の複合強化紐が実質的に屈曲せずに互いに並行に一列に配列して組紐群を構成し、該複合強化紐群の片面または両面に該複合強化紐群と交差する複数の補助繊維糸からなる補助繊維糸群を有する。複合強化紐群と補助繊維糸群は織組織をなしても良いし、織組織を形成しなくとも良い。
【0036】
また、本発明の一方向性補強繊維シートに用いる多数の複合強化紐は、それぞれ同一の複合強化紐であっても良いし互いに異なった種類の複合強化紐であっても良い。一方向性補強繊維シートの厚さを一定にするためには、互いに同一の厚みを持つ複合強化紐を用いることが好ましい。
【0037】
さらに、本発明の一方向性補強繊維シートはたて糸である多数の複合強化紐が、補助繊維糸との交点において、該補助繊維糸に連続的に付着した熱可塑性ポリマーによって接着されていることが好ましい。
【0038】
本発明の一方向性補強繊維シートによれば、従来の炭素繊維マルチフィラメント糸に撚りをかけた繊維束を一方向に配列して固定用繊維材にて互いに固定した一方向性補強繊維シートに比べ、600g/m以上の目付であって、成型時の製品内ボイド発生率の低い一方向性補強繊維シートが容易に得られる。
【0039】
該補助繊維糸条のピッチは特に限定するものではないが、5~30mmピッチが好ましい。織組織を形成しない場合は、本発明の一方向性補強繊維シートの片面にのみに該補助繊維糸条が配置されていても良いが、両面に交互に配置されているのが形態安定性向上のためにも好ましい。
【0040】
(一方向性補強繊維シートの製造方法)
本発明の一方向性補強繊維シートは、補強繊維シートを構成する複合強化紐群と補助繊維糸群が織組織をなしている場合は通常の織機により製造することができる。織機により本発明の一方向性補強繊維シートを製造する場合は、炭素繊維マルチフィラメント糸からなる複合強化紐をたて糸に補助繊維糸をよこ糸にして製織しても良いし、補助繊維糸をたて糸に炭素繊維マルチフィラメント糸からなる複合強化紐をよこ糸にして製織しても良い。織組織は平織、綾織、朱子織等の任意の織組織を採用することができる。
【0041】
たて糸に炭素繊維マルチフィラメント糸からなる複合強化紐を用いる場合、該複合強化紐は通常の炭素繊維糸条と異なり、かなり嵩高であるため、ヘルドのメールに大きめのメールを使用して、擦過による炭素繊維の損傷を回避することが好ましい。
【0042】
よこ糸に炭素繊維マルチフィラメント糸からなる複合強化紐を用いる場合、該複合強化紐は通常の炭素繊維糸条と異なり、目付が大きく嵩高いため、よこ糸供給装置とよこ糸搬送装置に工夫が必要である。
【0043】
ヘルドによって形成した開口に補助繊維糸のよこ糸を打ち込んで筬打ちを経て形成された織物は、織機に備えられた布巻きロールで巻き取られる。補助繊維糸に付着させた熱可塑性ポリマーにより熱融着させる場合は、筬打ちと布巻ロールの間のガイドロールを加熱ロ-ルとしてこれに接触させることで熱融着させることができる。また赤外線ヒーター等の非接触ヒーターを設けて熱融着させる手法でも良い。熱融着は、筬打ち後、布巻ロールまでにおこなうことが望ましいが、巻き取った織物の巻き返し作業の中で行うことも可能である。
【0044】
補強繊維シートを構成する複合強化紐群と補助繊維糸群が織組織をなしていない場合は、熱可塑性ポリマーを連続的に付着させた繊維を補助繊維糸として、複合強化紐群の少なくとも片面に複合強化紐群と交差する方向に配置し、該熱可塑性ポリマーにより補助繊維糸と複合強化紐を熱融着させることによって組紐群を一体化することで、一方向性補強繊維シートを製造することができる。
【0045】
このような方法で、本発明の一方向性補強繊維シートを製造する場合には、炭素繊維マルチフィラメント糸からなる複合強化紐を多数並べてシート状にした表面に補助繊維糸を配置しても良いし、補助繊維糸を多数並べた面に炭素繊維マルチフィラメント糸からなる組紐を補助繊維糸と交差する方向に、複合強化紐が互いに平行になるように密に並べて配置してもよい。
【0046】
熱融着のための加熱手段は、加熱ロ-ル等の接触加熱、または赤外線ヒーター等の非接触加熱が可能であるが、熱可塑ポリマーが融解して冷却される間は、炭素繊維マルチフィラメント糸からなる複合強化紐と補助繊維糸が密着されることが好ましい。
【0047】
(成型)
本発明の一方向性補強繊維シートに樹脂を含浸させて炭素繊維強化複合材料を得ることができる。含浸させる樹脂として特に制限は無いが、熱硬化性樹脂組成物または、熱可塑性樹脂組成物であり、熱硬化性樹脂としては特に制限はないが、従来RTM成形やVaRTM成形で使用されている、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シアネートエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などが挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリスチレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル、ポリアミド6等のポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルスルフォン、ポリサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどを使用できる。また、これら各樹脂の変性体を用いてもよいし、複数種の樹脂をブレンドして用いてもよい。また、熱可塑性樹脂は、各種添加剤、フィラー、着色剤等を含んでいてもよい。
【0048】
本発明の一方向性補強繊維シートを利用した炭素繊維強化複合材料の製造方法としては、前記一方向性補強繊維シートを成形型内に配置し、前記一方向性補強繊維シートをバギングフィルムで覆い、前記成形型と前記バギングフィルムの間をシールしてキャビティを形成し、前記キャビティ内を減圧して、液状樹脂組成物を吸引・注入するVaRTM法を用いることができる。VaRTM法に用いるバギングフィルム、シール材には特に限定は無く、使用するマトリクス樹脂の種類に応じて耐熱性を有する材質などを選ぶ事ができる。また、必要に応じて樹脂の拡散を促進するフローメディアを用いることができる。樹脂の注入方式としては、成形品の任意の地点から同心円状に樹脂を拡散・含浸させる多点注入方式や、成形品の任意の辺から一方向に平行に樹脂を拡散・含浸させる辺注入方式など必要に応じた方式をとることができる。
【0049】
また、本発明の一方向性補強繊維シートを利用した別の炭素繊維強化複合材料の製造方法としては、前記多軸挿入編物基材を分割成形型内に配置し、分割型を閉じてキャビティを形成し、前記キャビティ内に液状樹脂組成物を注入させるRTM法やハイサイクルRTM法、ハイプレッシャーRTM法を用いることができる。
【0050】
(成型時の製品内ボイド発生率の評価)
複合強化紐を成型した時の製品内部のボイドの発生しにくさについて、VaRTM成形によって樹脂と複合化された複合強化紐の断面観察を行うことで評価できる。
【0051】
成形品から供試体を切り出し、強化繊維配向方向と垂直な断面をアルミナ研磨剤(バイコウスキー社製 バイカロックス1.0CR)を使用し研磨を行う。研磨後の供試体断面をマイクロスコープ(キーエンス製 VHX-5000)を使用し、複合強化紐全体が1画面内に収まるように倍率100倍で観察を行う。リング照明下では複合強化紐断面内の樹脂含浸が行われていない内部ボイドは暗い領域として観察される。複合強化紐断面に占める内部ボイドの割合が小さいほど、製品内ボイド発生率が低いと評価できる。内部ボイドの量は目視による官能評価を行ってもよく、機械的な画像認識による定量評価を行ってもよい。ボイド発生率の評価には成形品の互いに離れた領域から、各領域の代表となる複合強化紐の断面観察を行うことが望ましい。各部の複合強化紐のそれぞれに対し、内部ボイドの割合に応じて良否の判定を下し、全観察サンプルにおいて良好である、もしくは全観察サンプルにおける良好部の割合が一定であることで一方向性補強繊維シートの製品内ボイド発生率の評価とすることができる。
【0052】
(実施例1)
組紐として炭素繊維(三菱レイヨン株式会社製パイロフィルTR30S)からなる3K(繊維本数:3000本)のマルチフィラメント糸(単繊維繊度 0.67dtex、繊維真円度 0.99)、芯糸として特許第5682570号(特許文献4)に記載の方法で製造される30K(繊維本数:30000本)の炭素繊維(単繊維繊度 1.07dtex、繊維真円度 0.84)を使用する。
【0053】
株式会社コクブンリミテッド製の製紐機に前記組紐用炭素繊維マルチフィラメント糸24本と前記芯糸用炭素繊維マルチフィラメント糸1本をそれぞれ供給し、巻き上げ速度を10cm/分に設定して、8.0g/mの丸打複合強化紐を製造する。前記複合強化紐に占める芯糸の割合は40.0質量%となる。前記組紐を構成する強化繊維素糸の、前記複合強化紐の長さ方向に対する斜行角度α は約8°となる。
【0054】
得られた複合強化紐を津田駒工業株式会社製レピア織機によって製織し、一方向性補強繊維シートを得る。前記複合強化紐をメール口径幅8mmの特殊ヘルドを介してそれぞれ3本/インチの密度の経糸として配列させ、熱可塑性ポリマーを含んだ45texのガラス繊維を緯糸として、緯糸密度8本/インチの平織組織に製織し、引き続き130℃の加熱ロ-ルにて接着固定し目付それぞれ945g/mの、本発明の一方向性補強繊維シートを製造する。
【0055】
上記の複合強化紐を用いた一方向性補強繊維シートから縦方向が複合強化紐の配向方向と一致するように縦400mm、横160mmの長方形形状のカットシートを4枚切り出し、同じ向きに積層する。得られた積層体を離形剤が塗された成形型の上に配置し、上面をバギングフィルム(AIRTECH社製、製品名:ライトロンWL8400)で覆いシーラントテープ(RICHMOND社製、製品名:RS200)によって封止する。繊維配向と直角な向かい合い二辺のそれぞれ中央には樹脂注入口および真空ポンプ接続口として内径4mmのポリウレタン製チューブを配置する。
【0056】
前記真空ポンプ接続口から真空引きを行い、前記樹脂注入口より樹脂組成物(ナガセケムテックス株式会社製のエポキシ樹脂XNR3815の主剤と硬化剤を100:27の配合、樹脂粘度260mPa・s)を流し込み常温環境下でのVaRTM成型を実施する。硬化条件24℃24時間で含浸硬化を行う。
【0057】
得られた成形品に対し断面観察を行うと複合強化紐中央に大ボイドが存在せず、一方向性補強繊維シートが成型時製品内のボイド発生抑制に優れていることが分かる。なお、芯糸の単繊維繊度は組紐の単繊維繊度よりも大きく、かつ芯糸の繊維真円度は組紐の繊維真円度よりも小さいため、芯糸は組紐よりも高いフィラメント樹脂含浸性を有する。
【0058】
(実施例2)
組紐として炭素繊維(三菱レイヨン株式会社製パイロフィルTR30S)からなる3K(繊維本数:3000本)のマルチフィラメント糸(単繊維繊度 0.67dtex、繊維真円度 0.99)、芯糸として特許第5682570号(特許文献4)に記載の方法で製造される15K(繊維本数:15000本)の炭素繊維(単繊維繊度 2.28dtex、繊維真円度 0.83)を使用する。
【0059】
株式会社コクブンリミテッド製の製紐機に前記組紐用炭素繊維マルチフィラメント糸18本と前記芯糸用炭素繊維マルチフィラメント糸3本をそれぞれ供給し、巻き上げ速度を20cm/分に設定して、13.9g/mの丸打複合強化紐を製造する。前記複合強化紐に占める芯糸の割合は74.0質量%となる。前記組紐を構成する強化繊維素糸の、前記複合強化紐の長さ方向に対する斜行角度α は約4°となる。
【0060】
得られた複合強化紐を津田駒工業株式会社製レピア織機によって製織し、一方向性補強繊維シートを得る。前記複合強化紐をメール口径幅8mmの特殊ヘルドを介してそれぞれ3本/インチの密度の経糸として配列させ、熱可塑性ポリマーを含んだ45texのガラス繊維を緯糸として、緯糸密度8本/インチの平織組織に製織し、引き続き130℃の加熱ロ-ルにて接着固定し目付それぞれ1637g/mの、本発明の一方向性補強繊維シートを製造する。
【0061】
得られた一方向性補強繊維シートに対し実施例1と同様に成型及び成型時の内部ボイド発生率の評価を行うと成型時製品内のボイド発生抑制に優れていることが分かる。なお、芯糸の単繊維繊度は組紐の単繊維繊度よりも大きく、かつ芯糸の繊維真円度は組紐の繊維真円度よりも小さいため、芯糸は組紐よりも高いフィラメント樹脂含浸性を有する。
【0062】
(実施例3)
組紐として炭素繊維(三菱レイヨン株式会社製パイロフィルTR30S)からなる3K(繊維本数:3000本)のマルチフィラメント糸(単繊維繊度 0.67dtex、繊維真円度 0.99)、芯糸として炭素繊維(三菱レイヨン株式会社製パイロフィルTRW40)からなる50K(繊維本数:50000本)のマルチフィラメント糸(単繊維繊度 0.75dtex、繊維真円度 0.97)を使用する。パイロフィルTRW40のマルチフィラメント糸には5重量%の粉体バインダー(Hexion社製Epikote 05390)が表面に均一に塗布されている。
【0063】
株式会社コクブンリミテッド製の製紐機に前記組紐用炭素繊維マルチフィラメント糸18本と前記芯糸用炭素繊維マルチフィラメント糸1本をそれぞれ供給し、巻き上げ速度を10cm/分に設定して、7.5g/mの丸打複合強化紐を製造する。前記複合強化紐に占める芯糸の割合は52.2質量%となる。前記組紐を構成する強化繊維素糸の、前記複合強化紐の長さ方向に対する斜行角度α は約8°となる。
【0064】
得られた複合強化紐を津田駒工業株式会社製レピア織機によって製織し、一方向性補強繊維シートを得る。前記複合強化紐をメール口径幅8mmの特殊ヘルドを介してそれぞれ3本/インチの密度の経糸として配列させ、熱可塑性ポリマーを含んだ45texのガラス繊維を緯糸として、緯糸密度8本/インチの平織組織に製織し、引き続き130℃の加熱ロ-ルにて接着固定し目付それぞれ890g/mの、本発明の一方向性補強繊維シートを製造する。
【0065】
得られた一方向性補強繊維シートに対し実施例1と同様に成型及び成型時の製品内ボイド発生率の評価を行うと成型時製品内のボイド発生抑制に優れていることが分かる。なお、芯糸が有する固着粒子の質量比は組紐が有する固着粒子の質量比よりも大きいため、芯糸は組紐よりも高いフィラメント樹脂含浸性を有する。
【0066】
(実施例4)
組紐である炭素繊維(三菱レイヨン株式会社製パイロフィルTR30S)からなる3K(繊維本数:3000本)のマルチフィラメント糸(単繊維繊度 0.67dtex、繊維真円度 0.99)に対し、5重量%の粉体バインダー(Hexion社製Epikote 05390)を表面に均一に塗布した以外は(実施例2)と同様に複合強化紐を作製と一方向性補強繊維シートの製織を行う。(実施例2)と同様に成型及び成型時の内部ボイド発生率の評価を行うと成型時製品内のボイド発生抑制に優れていることが分かる。なお、芯糸の単繊維繊度は組紐の単繊維繊度よりも大きく、かつ芯糸の繊維真円度は組紐の繊維真円度よりも小さいため、芯糸は組紐よりも高いフィラメント樹脂含浸性を有する。
【0067】
【表1】
【0068】
(比較例1)
組紐および芯糸として炭素繊維(三菱レイヨン株式会社製パイロフィルTR30S)からなる3K(繊維本数:3000本)のマルチフィラメント糸(単繊維繊度 0.67dtex、繊維真円度 0.99)を使用する。
【0069】
株式会社コクブンリミテッド製の製紐機に前記組紐用炭素繊維マルチフィラメント糸24本と前記芯糸用炭素繊維マルチフィラメント糸16本をそれぞれ供給し、巻き上げ速度を10cm/分に設定して、8.0g/mの丸打複合強化紐を製造する。前記複合強化紐に占める芯糸の割合は40.0質量%となる。前記組紐を構成する強化繊維素糸の、前記複合強化紐の長さ方向に対する斜行角度α は約8°となる。
【0070】
得られた複合強化紐を津田駒工業株式会社製レピア織機によって製織し、一方向性補強繊維シートを得る。前記複合強化紐をメール口径幅8mmの特殊ヘルドを介してそれぞれ3本/インチの密度の経糸として配列させ、熱可塑性ポリマーを含んだ45texのガラス繊維を緯糸として、緯糸密度8本/インチの平織組織に製織し、引き続き130℃の加熱ロ-ルにて接着固定し目付それぞれ945g/mの、本発明の一方向性補強繊維シートを製造する。
【0071】
得られた一方向性補強繊維シートに対し実施例1と同様に成型及び成型時の内部ボイド発生率の評価を行うと、複合強化紐内に大ボイドが存在し、成型時製品内のボイド発生抑制に劣ることが分かる。なお、組紐及び芯糸として使用する炭素繊維は同一のため、芯糸は組紐よりも高いフィラメント樹脂含浸性を有さない。
【0072】
(比較例2)
組紐として炭素繊維(三菱レイヨン株式会社製パイロフィルTR30S)からなる3K(繊維本数:3000本)のマルチフィラメント糸(単繊維繊度 0.67dtex、繊維真円度 0.99)を使用し、芯糸は使用しない。
【0073】
株式会社コクブンリミテッド製の製紐機に前記組紐用炭素繊維マルチフィラメント糸40本を供給し、巻き上げ速度を10cm/分に設定して、8.0g/mの丸打組紐を製造する。前記組紐を構成する強化繊維素糸の、前記組紐の長さ方向に対する斜行角度α は約8°となる。
【0074】
得られた組紐を津田駒工業株式会社製レピア織機によって製織し、一方向性補強繊維シートを得る。前記組紐をメール口径幅8mmの特殊ヘルドを介してそれぞれ3本/インチの密度の経糸として配列させ、熱可塑性ポリマーを含んだ45texのガラス繊維を緯糸として、緯糸密度8本/インチの平織組織に製織し、引き続き130℃の加熱ロ-ルにて接着固定し目付それぞれ945g/mの、本発明の一方向性補強繊維シートを製造する。
【0075】
得られた一方向性補強繊維シートに対し実施例1と同様に成型及び成型時の内部ボイド発生率の評価を行うと、組紐内に大ボイドが存在し、成型時製品内のボイド発生抑制に劣ることが分かる。
【0076】
(比較例3)
組紐として炭素繊維(三菱レイヨン株式会社製パイロフィルTR30S)からなる3K(繊維本数:3000本)のマルチフィラメント糸(単繊維繊度 0.67dtex、繊維真円度 0.99)、芯糸として炭素繊維(三菱レイヨン株式会社製パイロフィルTRW40)からなる50K(繊維本数:50000本)のマルチフィラメント糸(単繊維繊度 0.75dtex、繊維真円度 0.97)を使用する。パイロフィルTR30S及びパイロフィルTRW40のマルチフィラメント糸には5重量%の粉体バインダー(Hexion社製Epikote 05390)が表面に均一に塗布されている。
【0077】
株式会社コクブンリミテッド製の製紐機に前記組紐用炭素繊維マルチフィラメント糸18本と前記芯糸用炭素繊維マルチフィラメント糸1本をそれぞれ供給し、巻き上げ速度を10cm/分に設定して、7.7g/mの丸打複合強化紐を製造する。前記複合強化紐に占める芯糸の割合は51.0質量%となる。前記組紐を構成する強化繊維素糸の、前記複合強化紐の長さ方向に対する斜行角度α は約8°となる。
【0078】
得られた複合強化紐を津田駒工業株式会社製レピア織機によって製織し、一方向性補強繊維シートを得る。前記複合強化紐をメール口径幅8mmの特殊ヘルドを介してそれぞれ3本/インチの密度の経糸として配列させ、熱可塑性ポリマーを含んだ45texのガラス繊維を緯糸として、緯糸密度8本/インチの平織組織に製織し、引き続き130℃の加熱ロ-ルにて接着固定し目付それぞれ912g/mの、本発明の一方向性補強繊維シートを製造する。
【0079】
得られた一方向性補強繊維シートに対し実施例1と同様に成型及び成型時の内部ボイド発生率の評価を行うと、複合強化紐内に大ボイドが存在し、成型時製品内のボイド発生抑制に劣ることが分かる。なお、組紐及び芯糸として使用する炭素繊維の単繊維繊度及び繊維真円度は大きく変わらないため、芯糸は組紐よりも十分に高いフィラメント樹脂含浸性を有さない。
【0080】
【表2】