(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】画像形成方法および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20220720BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220720BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20220720BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20220720BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20220720BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41J2/01 123
B41J2/01 501
B41J2/18
B41J2/14 305
C09D11/322
B41M5/00 130
B41M5/00 120
B41M5/00 112
(21)【出願番号】P 2018121037
(22)【出願日】2018-06-26
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】梶 優輝
(72)【発明者】
【氏名】中川 智裕
(72)【発明者】
【氏名】萩原 弘規
【審査官】川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-012219(JP,A)
【文献】特開2015-091640(JP,A)
【文献】特開2016-074749(JP,A)
【文献】特開2017-186534(JP,A)
【文献】特開2017-088646(JP,A)
【文献】特開2012-184334(JP,A)
【文献】特開2018-031084(JP,A)
【文献】特開2011-105915(JP,A)
【文献】特開2010-150454(JP,A)
【文献】特開2017-013350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00-5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩および樹脂Aを含む前処理液を記録媒体に塗布する工程と、
前記前処理液を塗布した記録媒体にマゼンタインクを付与する工程とを有する画像形成方法であって、
前記マゼンタインクは、下記構造式(1)で表されるC.I.ピグメントレッド269および樹脂Bを含むマゼンタインクであり、
前記樹脂Bは前記樹脂Aよりも高いガラス転移点を有する樹脂であり、かつ
前記記録媒体が非吸収性記録媒体であ
り、
前記マゼンタインク全体に対し、前記C.I.ピグメントレッド269の含有率が3質量%以上10質量%以下であることを特徴とする画像形成方法。
【化1】
【請求項2】
前記前処理液中に含まれる金属塩が、多価金属塩であることを特徴とする請求項1に記載の画像形成方法。
【請求項3】
前記多価金属塩が、カルシウム塩またはマグネシウム塩のいずれかであることを特徴とする請求項2に記載の画像形成方法。
【請求項4】
前記前処理液中に含まれる樹脂Aのガラス転移点が、0℃以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項5】
前記マゼンタインク全体に対し、前記C.I.ピグメントレッド269の含有率が6質量%以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項6】
前記マゼンタインクに含まれる樹脂Bのガラス転移点が、50℃以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項7】
金属塩および樹脂Aを含む前処理液を記録媒体に塗布する手段と、
前記前処理液を塗布した記録媒体に、インク吐出ヘッドを用いてマゼンタインクを付与する手段とを有する画像形成装置であって、
前記マゼンタインクは、下記構造式(1)で表されるC.I.ピグメントレッド269および樹脂Bを含むマゼンタインクであり、
前記樹脂Bは前記樹脂Aよりも高いガラス転移点を有する樹脂であり、かつ
前記記録媒体が非吸収性記録媒体であ
り、
前記マゼンタインク全体に対し、前記C.I.ピグメントレッド269の含有率が3質量%以上10質量%以下であることを特徴とする画像形成装置。
【化2】
【請求項8】
前記インク吐出ヘッドは、インクを吐出する複数のノズルを有する吐出ヘッドであり、
さらに前記インク吐出ヘッドは、
前記ノズルに通じる個別液室と、
前記個別液室にインクを供給する共通液室と、
前記個別液室に通じる循環流路と、
前記循環流路に通じる循環共通液室と、
前記個別液室のインクに圧力を付与する圧力発生手段と、を備えるインク吐出ヘッドで
ある請求項7に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成方法および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、飲料、日用品等の包装材料としては、プラスチックフィルム等が多く用いられ、一般的に包装材料には印刷が施されている。該プラスチックフィルムは、吸水性が極めて乏しい非吸収性記録媒体であるため、このような非吸収性記録媒体に用いられるインクとしては、例えば、有機溶剤を溶媒として用いた溶剤系インク、重合性モノマーを主成分とする紫外線硬化型インク等が広く用いられている。
しかし、食品、飲料、日用品は直接人体へ接触したり摂取されたりするものであるため、これらの包装材料への印刷には、前記溶剤系インクや前記紫外線硬化型インクを用いない方が好ましい場合がある。
【0003】
これに対し、主成分が水である水性インクは、前記溶剤系インクや前記紫外線硬化型インクに比べて人体への影響が少ないとされている。吸水性が極めて乏しい非吸収性記録媒体に水性インクをにじみなく印刷する方法として、非吸収性記録媒体に予め金属塩を含む前処理液を付与した後に印刷する方法がある。前処理液の付与により、金属イオンと色材から塩が形成され、この塩形成による凝集により、にじみのない高品質な画像を得ることができるとされている。例えば特許文献1には、低吸水性の紙支持体の吸収層を有する記録媒体に、反応液とインク組成物とを付着させて、印字を行うインクジェット記録方法が開示されている。
【0004】
また、非吸収性記録媒体であるプラスチックフィルムは、一般的に透明性を有しており、発色性を確保するにはインク中の色材濃度を高める必要がある。しかし色材濃度を高めると、インク塗膜の硬脆性が増加してしまい、産業用印刷装置上の最終工程にてロールで巻きとった際に、ロールの加圧により画像が隣接するフィルムに接着してはがれてしまうブロッキングが発生しやすくなる。このため低い色材濃度で高い発色性を確保することが課題となる。
【0005】
一方、マゼンタインクに用いられる色材において、低濃度で高い発色性を有する顔料としてアゾ顔料であるC.I.ピグメントレッド269がある。特許文献2には、着色成分として2種類のアゾ顔料、顔料分散樹脂、水、水溶性溶剤とを少なくとも含んでなるインキ組成物であって、アゾ顔料としてC.I.ピグメントレッド269が例示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に開示された技術では、非吸収性記録媒体における、インク塗膜の硬脆性の十分な低下に至らず、にじみ抑制と高い発色性と耐ブロッキング性の共立が課題となっている。
【0007】
したがって本発明の目的は、非吸収性記録媒体に対し、にじみを抑制し、高い発色性を確保しながら耐ブロッキング性に優れる画像を得られる画像形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、下記構成1)により解決される。
1)金属塩および樹脂Aを含む前処理液を記録媒体に塗布する工程と、
前記前処理液を塗布した記録媒体にマゼンタインクを付与する工程とを有する画像形成方法であって、
前記マゼンタインクは、下記構造式(1)で表されるC.I.ピグメントレッド269および樹脂Bを含むマゼンタインクであり、
前記樹脂Bは前記樹脂Aよりも高いガラス転移点を有する樹脂であり、かつ
前記記録媒体が非吸収性記録媒体であり、
前記マゼンタインク全体に対し、前記C.I.ピグメントレッド269の含有率が3質量%以上10質量%以下であることを特徴とする画像形成方法。
【0009】
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、非吸収性記録媒体に対し、にじみを抑制し、高い発色性を確保しながら耐ブロッキング性に優れる画像を得られる画像形成方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】インクジェット記録装置の一例を示す斜視説明図である。
【
図2】インクジェット記録装置におけるメインタンクの一例を示す斜視説明図である。
【
図3】印刷装置におけるインク吐出ヘッドの一例を示す外観斜視図である。
【
図4】
図3のインク吐出ヘッドのノズル配列方向と直交する方向の断面説明図である。
【
図5】
図3のインク吐出ヘッドのノズル配列方向と平行な方向の一部断面説明図である。
【
図6】
図3のインク吐出ヘッドのノズル板の平面説明図である。
【
図7】
図3のインク吐出ヘッドの流路部材を構成する各部材の平面説明図である。
【
図8】
図3のインク吐出ヘッドの共通液室部材を構成する各部材の平面説明図である。
【
図9】本発明に係るインク循環システムの一例を示すブロック図である。
【
図10】インク吐出ヘッド内におけるインクの循環について説明する図である。
【
図11】インク吐出ヘッド内におけるインクの循環について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態についてさらに詳しく説明する。
本発明の画像形成方法は、金属塩および樹脂Aを含む前処理液を記録媒体に塗布する工程と、前記前処理液を塗布した記録媒体にマゼンタインクを付与する工程とを有し、前記マゼンタインクは、下記構造式(1)で表されるC.I.ピグメントレッド269(C.I. Pigment Red 269)および樹脂Bを含むマゼンタインクであり、前記樹脂Bは前記樹脂Aよりも高いガラス転移点を有する樹脂であり、かつ前記記録媒体が非吸収性記録媒体であることを特徴とする。
【0013】
【0014】
大容量の印刷物をロールとして巻き取って保管する際、画像は隣接するフィルムに加圧された状態で接触しており、フィルムを引き出す際に画像の接着した箇所があると剥がれてしまいブロッキングが発生する。高い発色性を得るために色材濃度を高くすると、インク塗膜中の単位体積あたりに含まれる顔料粒子の重量が大きくなり、硬く脆い層が形成されやすくなるため、ブロッキングが発生しやすくなる。
【0015】
本発明では、まずマゼンタインクの色材にアゾ顔料であるPigment Red 269を用いることで、低顔料濃度でも高い発色性を担保でき、高顔料濃度によるインク塗膜の硬脆性が改善され耐ブロッキング性が上がることが分かった。また、前処理液中の樹脂Aとマゼンタインク中の樹脂Bについて、樹脂Bのガラス転移点が樹脂Aのガラス転移点より高くなるような2つの樹脂をそれぞれ前処理液およびマゼンタインクに含有させることで、耐ブロッキング性がさらに向上することを見出した。これは、(1)前処理液中にガラス転移点の低い樹脂を加えることで比較的柔軟性のある前処理層が形成され、上に形成されるインク層に対し緩衝作用が働くこと、(2)マゼンタインク中にガラス転移点の高い樹脂を加えることでインク層全体が均一で強度の高い樹脂膜のようになり、インク層の欠損が起きにくくなること、の2つの作用の組み合わせにより耐ブロッキング性が向上すると考えられる。
【0016】
<前処理液>
本発明における前処理液は、少なくとも金属塩および樹脂Aを含有し、さらに水を含有することができる。また必要に応じて、下記で説明するマゼンタインクに含まれる有機溶剤、界面活性剤、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤などを含有してもよい。
【0017】
前処理液を記録媒体に塗布する工程としては、特に制限無く公知のあらゆる方法を用いることができる。例えば、インクジェット法、ブレードコート法、グラビアコート法、グラビアオフセットコート法、バーコート法、ロールコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、Uコンマコート法、AKKUコート法、スムージングコート法、マイクログラビアコート法、リバースロールコート法、4本ロールコート法、5本ロールコート法、ディップコート法、カーテンコート法、スライドコート法、ダイコート法等が挙げられる。
【0018】
また、前処理液の記録媒体への塗布量は、例えば0.1g~10g/m2であり、好ましくは1g~6g/m2である。
【0019】
<金属塩>
前処理液に含まれる金属塩は、インク中の色材を着滴後に速やかに凝集させ、カラーブリードを抑制するとともに、発色性を向上させる。
金属塩としては特に限定されないが、より強力な色材の凝集によるにじみ抑制効果を得るため、多価金属塩が好ましい。
多価金属塩における金属としては、例えば、チタン、クロム、銅、コバルト、ストロンチウム、バリウム、鉄、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。これらの中でも、色材の効果的な凝集の観点から、カルシウム、マグネシウムが好ましい。
多価金属塩の具体例としては、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0020】
前処理液における金属塩の濃度としては、前処理液全量に対して、例えば0.01~0.1モル/kgであり、0.05~0.5モル/kgが好ましい。
【0021】
<樹脂A>
前処理液に含まれる樹脂Aはノニオン樹脂粒子が好ましい。ノニオン樹脂粒子とは、酸性あるいは塩基性の官能基の中和によって電荷を利用せずとも立体反発によって分散可能な樹脂粒子のことを指す。
ノニオン樹脂粒子の構造は特に限定されず、ノニオン分散可能な樹脂粒子であればどのようなものでも使用することができるが、ポリオレフィン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、およびこれらの共重合体から選ばれる少なくとも1つであるとき、様々な記録媒体に対し強固な密着性が得られるため好ましく、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合樹脂、オレフィン変性ウレタン樹脂、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂であることがさらに好ましい。
樹脂Aのガラス転移点は、-30~30℃であることが好ましい。ガラス転移点が-30℃以上であれば樹脂皮膜が十分強靭なものとなり、前処理液により記録媒体上に形成される前処理層がより堅牢なものとなり、30℃以下であれば樹脂の成膜性が向上し、充分な柔軟性も担保されるため記録媒体に対する密着性が強固なものとなり好ましい。本発明においては、より柔軟性の高い前処理層を形成するため、ガラス転移点は0℃以下が好ましく、-30℃以上0℃以下がより好ましい。
【0022】
なお本明細書で言うガラス転移点は、例えば、示差走査熱量測定(DSC)装置(装置名:リガク製Thermo plus EVO2/DSC)を用い、測定温度30℃~300℃、1分間に2.5℃の昇温速度により測定できる。
【0023】
樹脂Aの体積平均粒径(以下、単に平均粒径と言うことがある)としては、1000nm以下が好ましく、10nm以上200nm以下がより好ましい。前記体積平均粒径は、例えば、粒度測定器(マルチサイザーIII、ベックマンコールター社製)を用い、解析ソフト(Beckman Coulter Mutlisizer 3 Version3.51)を用いて測定することができる。
【0024】
前処理液全体に対する樹脂Aの含有量は、固形分として0.5質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がさらに好ましい。
前記樹脂Aの含有量が0.5質量%以上であることで、樹脂Aが充分に記録媒体表面を被覆することができるため前処理液の密着性が向上し、20質量%以下であれば前処理液の膜厚の増大を抑制し、密着性の低下の恐れがない。
【0025】
<マゼンタインク>
本発明におけるインクは、前記構造式(1)で表されるC.I. Pigment Red 269、前記樹脂Aよりも高いガラス転移点を有する樹脂B、水を含有する。必要に応じて有機溶剤、界面活性剤、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤などを含有してもよい。
【0026】
<水>
インクにおける水の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%~60質量%がより好ましい。
【0027】
<C.I. Pigment Red 269>
インク中のC.I. Pigment Red 269の含有量は、画像濃度の向上、良好な定着性や吐出安定性、およびインク塗膜の硬脆性の点から、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、6質量%以下が好ましく、1質量%以上6質量%以下がさらに好ましい。以下、C.I. Pigment Red 269を「顔料」と呼ぶことがある。
【0028】
顔料を分散してインクを得るためには、顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法、顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法、分散剤を用いて分散させる方法、などが挙げられる。
顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法としては、例えば、顔料(例えばカーボン)にスルホン基やカルボキシル基等の官能基を付加することで、水中に分散可能とする方法が挙げられる。
顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法としては、顔料をマイクロカプセルに包含させ、水中に分散可能とする方法が挙げられる。これは、樹脂被覆顔料と言い換えることができる。この場合、インクに配合される顔料はすべて樹脂に被覆されている必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲において、被覆されない顔料や、部分的に被覆された顔料がインク中に分散していてもよい。
分散剤を用いて分散させる方法としては、界面活性剤に代表される、公知の低分子型の分散剤、高分子型の分散剤を用いて分散する方法が挙げられる。
分散剤としては、顔料に応じて例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等を使用することが可能である。
竹本油脂社製RT-100(ノニオン系界面活性剤)や、ナフタレンスルホン酸Naホルマリン縮合物も、分散剤として好適に使用できる。
分散剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0029】
<顔料分散体>
顔料に、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを得ることが可能である。また、顔料と、その他水や分散剤などを混合して顔料分散体としたものに、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを製造することも可能である。
前記顔料分散体は、水、顔料、顔料分散剤、必要に応じてその他の成分を混合、分散し、粒径を調整して得られる。分散は分散機を用いると良い。
顔料分散体における顔料の粒径については特に制限はないが、顔料の分散安定性が良好となり、吐出安定性、画像濃度などの画像品質も高くなる点から、最大個数換算で最大頻度が20nm以上500nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。顔料の粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
前記顔料分散体における顔料の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な吐出安定性が得られ、また、画像濃度を高める点から、0.1質量%以上50質量%以下が好ましく、0.1質量%以上30質量%以下がより好ましい。
前記顔料分散体は、必要に応じて、フィルター、遠心分離装置などで粗大粒子をろ過し、脱気することが好ましい。
【0030】
<樹脂B>
マゼンタインク中に含まれる樹脂Bは、前記樹脂Aよりも高いガラス転移点を有する樹脂であればとくに制限されないが、アクリル系樹脂粒子であることが好ましい。アクリル系樹脂粒子は、膜の平滑性や透明性に影響を与えるため、彩度やにじみ抑制の向上に効果がある。またインク塗膜の強度向上にも効果がある。アクリル系樹脂としては例えば、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、架橋型スチレン-アクリル樹脂などが挙げられる。
【0031】
樹脂Bのガラス転移点は、前記樹脂Aのガラス転移点よりも高いことが必要であり、本発明の効果向上の観点から、さらに印刷物の室温保管におけるインク膜強度向上の点から50℃以上が好ましく、50℃以上100℃以下がさらに好ましい。また、樹脂Aのガラス転移点と、樹脂Bのガラス転移点との差は、10℃以上100℃以下が好ましく、50℃以上100℃以下がさらに好ましい。
【0032】
樹脂Bの体積平均粒径としては、1000nm以下が好ましく、10nm以上200nm以下がより好ましい。前記体積平均粒径は、例えば、粒度測定器(マルチサイザーIII、ベックマンコールター社製)を用い、解析ソフト(Beckman Coulter Mutlisizer 3 Version3.51)を用いて測定することができる。
【0033】
前記樹脂Bとしては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
樹脂Bの市販品としては、例えば、マイクロジェルE-1002、E-5002(スチレン-アクリル系樹脂微粒子、日本ペイント株式会社製)、ボンコート4001(アクリル系樹脂微粒子、大日本インキ化学工業株式会社製)、ボンコート5454(スチレン-アクリル系樹脂微粒子、大日本インキ化学工業株式会社製)、SAE-1014(スチレン-アクリル系樹脂微粒子、日本ゼオン株式会社製)、サイビノールSK-200(アクリル系樹脂微粒子、サイデン化学株式会社製)、プライマルAC-22、AC-61(アクリル系樹脂微粒子、ローム・アンド・ハース製)、ナノクリルSBCX-2821、3689(アクリルシリコーン系樹脂微粒子、東洋インキ製造株式会社製)等が挙げられる。
【0034】
マゼンタインク全体に対する樹脂Bの含有量は、固形分として0.5質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がさらに好ましい。
前記樹脂Bの含有量が0.5質量%以上であることで、十分な樹脂Bの量が確保され、平坦な膜が形成されるとともに、20質量%以下であることで、樹脂膜の透明性が確保され、インクの発色性が向上する。
【0035】
<有機溶剤>
本発明に使用する有機溶剤としては特に制限されず、水溶性有機溶剤を用いることができる。例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類や多価アルコールアリールエーテル類などのエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類が挙げられる。
水溶性有機溶剤の具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ペトリオール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトン等の含窒素複素環化合物、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等のアミド類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン等のアミン類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等の含硫黄化合物、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン等が挙げられる。
湿潤剤として機能するだけでなく、良好な乾燥性を得られることから、沸点が250℃以下の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0036】
有機溶剤のインク中における含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上60質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0037】
<界面活性剤>
界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤のいずれも使用可能である。
シリコーン系界面活性剤には特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。中でも高pHでも分解しないものが好ましく、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられ、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するものが、水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。また、前記シリコーン系界面活性剤として、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤を用いることもでき、例えば、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルシロキサンのSi部側鎖に導入した化合物等が挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物が、起泡性が小さいので特に好ましい。前記パーフルオロアルキルスルホン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩等が挙げられる。前記パーフルオロアルキルカルボン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等が挙げられる。前記パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩等が挙げられる。これらフッ素系界面活性剤における塩の対イオンとしては、Li、Na、K、NH4、NH3CH2CH2OH、NH2(CH2CH2OH)2、NH(CH2CH2OH)3等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えばラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなどが挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩、などが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0038】
前記シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられ、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。
このような界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、ビックケミー株式会社、信越化学工業株式会社、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社、日本エマルジョン株式会社、共栄社化学などから入手できる。
上記のポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、一般式(S-1)式で表わされる、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルポリシロキサンのSi部側鎖に導入したものなどが挙げられる。
【0039】
【0040】
(但し、一般式(S-1)式中、m、n、a、及びbは、それぞれ独立に、整数を表わし、Rは、アルキレン基を表し、R’は、アルキル基を表す。)
上記のポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、市販品を用いることができ、例えば、KF-618、KF-642、KF-643(信越化学工業株式会社)、EMALEX-SS-5602、SS-1906EX(日本エマルジョン株式会社)、FZ-2105、FZ-2118、FZ-2154、FZ-2161、FZ-2162、FZ-2163、FZ-2164(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社)、BYK-33、BYK-387(ビックケミー株式会社)、TSF4440、TSF4452、TSF4453(東芝シリコン株式会社)などが挙げられる。
【0041】
前記フッ素系界面活性剤としては、フッ素置換した炭素数が2~16の化合物が好ましく、フッ素置換した炭素数が4~16である化合物がより好ましい。
フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物などが挙げられる。 これらの中でも、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物は起泡性が少ないため好ましく、特に一般式(F-1)及び一般式(F-2)で表わされるフッ素系界面活性剤が好ましい。
【0042】
【0043】
上記一般式(F-1)で表される化合物において、水溶性を付与するためにmは0~10の整数が好ましく、nは0~40の整数が好ましい。
一般式(F-2)
CnF2n+1-CH2CH(OH)CH2-O-(CH2CH2O)a-Y
上記一般式(F-2)で表される化合物において、YはH、又はCmF2m+1でmは1~6の整数、又はCH2CH(OH)CH2-CmF2m+1でmは4~6の整数、又はCpH2p+1でpは1~19の整数である。nは1~6の整数である。aは4~14の整数である。
上記のフッ素系界面活性剤としては市販品を使用してもよい。 この市販品としては、例えば、サーフロンS-111、S-112、S-113、S-121、S-131、S-132、S-141、S-145(いずれも、旭硝子株式会社製);フルラードFC-93、FC-95、FC-98、FC-129、FC-135、FC-170C、FC-430、FC-431(いずれも、住友スリーエム株式会社製);メガファックF-470、F-1405、F-474(いずれも、大日本インキ化学工業株式会社製);ゾニール(Zonyl)TBS、FSP、FSA、FSN-100、FSN、FSO-100、FSO、FS-300、UR、キャプストーンFS-30、FS-31、FS-3100、FS-34、FS-35(いずれも、Chemours社製);FT-110、FT-250、FT-251、FT-400S、FT-150、FT-400SW(いずれも、株式会社ネオス社製)、ポリフォックスPF-136A,PF-156A、PF-151N、PF-154、PF-159(オムノバ社製)、ユニダインDSN-403N(ダイキン工業株式会社製)などが挙げられ、これらの中でも、良好な印字品質、特に発色性、紙に対する浸透性、濡れ性、均染性が著しく向上する点から、Chemours社製のFS-3100、FS-34、FS-300、株式会社ネオス製のFT-110、FT-250、FT-251、FT-400S、FT-150、FT-400SW、オムノバ社製のポリフォックスPF-151N及びダイキン工業株式会社製のユニダインDSN-403Nが特に好ましい。
【0044】
インク中における界面活性剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、濡れ性、吐出安定性に優れ、画像品質が向上する点から、0.001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上5質量%以下がより好ましい。
【0045】
<消泡剤>
消泡剤としては、特に制限はなく、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、破泡効果に優れる点から、シリコーン系消泡剤が好ましい。
【0046】
<防腐防黴剤>
防腐防黴剤としては、特に制限はなく、例えば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンなどが挙げられる。
【0047】
<防錆剤>
防錆剤としては、特に制限はなく、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0048】
<pH調整剤>
pH調整剤としては、pHを7以上に調整することが可能であれば、特に制限はなく、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミンなどが挙げられる。
【0049】
<非吸収性記録媒体>
本発明における非吸収性記録媒体とは、水透過性、吸収性及び/又は吸着性が低い表面を有する記録媒体を指しており、内部に多数の空洞があっても外部に開口していない材質も含まれる。
より定量的には、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m2以下である記録媒体を指す。
前記非吸収性記録媒体としては、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ナイロンフィルムなどのプラスチック基材が挙げられる
前記ポリプロピレンフィルムの例としては、東洋紡製P-2002、P-2161、P-4166、SUNTOX製PA-20、PA-30、PA-20W、フタムラ化学製FOA、FOS、FORなどが挙げられる。
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムの例としては、東洋紡製E-5100、E-5102、東レ製P60、P375、帝人デュポンフィルム製G2、G2P2、K、SLなどが挙げられる。
前記ナイロンフィルムの例としては、東洋紡製ハーデンフィルムN-1100、N-1102、N-1200、ユニチカ製ON、NX、MS、NKなどが挙げられる。
さらにプラスチック基材以外にもガラス、金属、セラミックなどの無機基材であってもよく、さらにこれらの単一素材でも複数種類の素材を組み合わせたものでもよい。
【0050】
<記録装置、記録方法>
本発明のインクは、インクジェット記録方式による各種記録装置、例えば、プリンタ、ファクシミリ装置、複写装置、プリンタ/ファックス/コピア複合機、立体造形装置などに好適に使用することができる。
本発明において、記録装置、記録方法とは、記録媒体に対してインクや各種処理液等を吐出することが可能な装置、当該装置を用いて記録を行う方法である。記録媒体とは、インクや各種処理液が一時的にでも付着可能なものを意味する。
この記録装置には、インクを吐出するヘッド部分だけでなく、記録媒体の給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置と称される装置などを含むことができる。
記録装置、記録方法は、加熱工程に用いる加熱手段、乾燥工程に用いる乾燥手段を有しても良い。加熱手段、乾燥手段には、例えば、記録媒体の印字面や裏面を加熱、乾燥する手段が含まれる。加熱手段、乾燥手段としては、特に限定されないが、例えば、温風ヒーター、赤外線ヒーターを用いることができる。加熱、乾燥は、印字前、印字中、印字後などに行うことができる。
また、記録装置、記録方法は、インクによって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、幾何学模様などのパターン等を形成するもの、3次元像を造形するものも含まれる。
また、記録装置には、特に限定しない限り、吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、吐出ヘッドを移動させないライン型装置のいずれも含まれる。
更に、この記録装置には、卓上型だけでなく、A0サイズの記録媒体への印刷も可能とする広幅の記録装置や、例えばロール状に巻き取られた連続用紙を記録媒体として用いることが可能な連帳プリンタも含まれる。
記録装置の一例について
図1乃至
図2を参照して説明する。
図1は同装置の斜視説明図である。
図2はメインタンクの斜視説明図である。記録装置の一例としての画像形成装置400は、シリアル型画像形成装置である。画像形成装置400の外装401内に機構部420が設けられている。ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色用のメインタンク410(410k、410c、410m、410y)の各インク収容部411は、例えばアルミニウムラミネートフィルム等の包装部材により形成されている。インク収容部411は、例えば、プラスチックス製の収容容器ケース414内に収容される。これによりメインタンク410は、各色のインクカートリッジとして用いられる。
一方、装置本体のカバー401cを開いたときの開口の奥側にはカートリッジホルダ404が設けられている。カートリッジホルダ404には、メインタンク410が着脱自在に装着される。これにより、各色用の供給チューブ436を介して、メインタンク410の各インク排出口413と各色用の吐出ヘッド434とが連通し、吐出ヘッド434から記録媒体へインクを吐出可能となる。
【0051】
この記録装置には、インクを吐出する部分だけでなく、前処理装置、後処理装置と称される装置などを含むことができる。
前処理装置、後処理装置の一態様として、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)などのインクの場合と同様に、前処理液や、後処理液を有する液体収容部と液体吐出ヘッドを追加し、前処理液や、後処理液をインクジェット記録方式で吐出する態様がある。
前処理装置、後処理装置の他の態様として、インクジェット記録方式以外の、例えば、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法による前処理装置、後処理装置を設ける態様がある。
【0052】
なお、インクの使用方法としては、インクジェット記録方法に制限されず、広く使用することが可能である。インクジェット記録方法以外にも、例えば、ブレードコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ディップコート法、カーテンコート法、スライドコート法、ダイコート法、スプレーコート法などが挙げられる。
【0053】
本発明の画像形成装置は、金属塩および樹脂Aを含む前処理液を記録媒体に塗布する手段と、前記前処理液を塗布した記録媒体に、インク吐出ヘッドを用いてマゼンタインクを付与する手段とを有し、前記マゼンタインクは、前記構造式(1)で表されるC.I.ピグメントレッド269および樹脂Bを含むマゼンタインクであり、前記樹脂Bは前記樹脂Aよりも高いガラス転移点を有する樹脂であり、かつ前記記録媒体が非吸収性記録媒体であることを特徴とする。
【0054】
また、前記インク吐出ヘッドは、インクを吐出する複数のノズルを有する吐出ヘッドであり、さらに前記インク吐出ヘッドは、前記ノズルに通じる個別液室と、前記個別液室にインクを供給する共通液室と、前記個別液室に通じる循環流路と、前記循環流路に通じる循環共通液室と、前記個別液室のインクに圧力を付与する圧力発生手段と、を備えるインク吐出ヘッドであることが好ましい。
このようなインク循環システムをもつ画像形成装置を用いることで、樹脂を有するインクを用いて長期に印刷を行った場合にも、良好な吐出安定性を得られる。
本発明の前記インク吐出ヘッドは、例えば以下のようなものを使用することができる。
【0055】
一例について、
図3、
図4、
図5、
図6、
図7a~
図7f、
図8a、及び
図8bを参照して説明する。
図3は、本発明のインクジェット印刷装置におけるインク吐出ヘッドの一例を示す外観斜視図である。
図4は、
図3のインク吐出ヘッドのノズル配列方向と直交する方向の断面説明図である。
図5は、
図3のインク吐出ヘッドのノズル配列方向と平行な方向の一部断面説明図である。
図6は、
図3のインク吐出ヘッドのノズル板の平面説明図である。
図7a~
図7fは、
図3のインク吐出ヘッドの流路部材を構成する各部材の平面説明図である。
図8a及び
図8bは、
図3のインク吐出ヘッドの共通液室部材を構成する各部材の平面説明図である。
【0056】
前記インク吐出ヘッドは、ノズル板1と、流路板2と、壁面部材としての振動板部材3とが積層接合されており、振動板部材3を変位させる圧電アクチュエータ11と、共通液室部材20と、カバー29とを備えている。
【0057】
ノズル板1は、前記インクを吐出する複数のノズル4を有している。
流路板2は、ノズル4に通じる個別液室6と、前記流入流路としての個別液室6に通じる流体抵抗部7、及び流体抵抗部7に通じる液導入部8が形成されている。また、流路板2は、ノズル板1側から複数枚の板状部材41~45を積層接合して形成され、これらの板状部材41~45と振動板部材3を積層接合して流路部材40が構成されている。
振動板部材3は、液導入部8と共通液室部材20で形成される共通液室10とを通じる開口としてのフィルタ部9を有している。
振動板部材3は、流路板2の個別液室6の壁面を形成する壁面部材である。この振動板部材3は2層構造(限定されない)とし、流路板2側から薄肉部を形成する第1層と、厚肉部を形成する第2層で形成され、第1層で個別液室6に対応する部分に変形可能な振動領域30を形成している。
【0058】
ここで、ノズル板1には、
図6に示すように、複数のノズル4が千鳥状に配置されている。
流路板2を構成する板状部材41には、
図7aに示すように、個別液室6を構成する貫通溝部(溝形状の貫通穴の意味)6aと、流体抵抗部51、前記流出流路としての循環流路52を構成する貫通溝部51a、52aが形成されている。
同じく板状部材42には、
図7bに示すように、個別液室6を構成する貫通溝部6bと、循環流路52を構成する貫通溝部52bが形成されている。
同じく板状部材43には、
図7cに示すように、個別液室6を構成する貫通溝部6cと、循環流路53を構成するノズル配列方向を長手方向とする貫通溝部53aが形成されている。
同じく板状部材44には、
図7dに示すように、個別液室6を構成する貫通溝部6dと、流体抵抗部7である貫通溝部7aと、液導入部8を構成する貫通溝部8aと、循環流路53を構成するノズル配列方向を長手方向とする貫通溝部53bが形成されている。
同じく板状部材45には、
図7eに示すように、個別液室6を構成する貫通溝部6eと、液導入部8を構成するノズル配列方向を長手方向とする貫通溝部8b(フィルタ下流側液室となる)と、循環流路53を構成するノズル配列方向を長手方向とする貫通溝部53cが形成されている。
振動板部材3には、
図7fに示すように、振動領域30と、フィルタ部9と、循環流路53を構成するノズル配列方向を長手方向とする貫通溝部53dが形成されている。
このように、流路部材を複数の板状部材を積層接合して構成することにより、簡単な構成で複雑な流路を形成することができる。
【0059】
以上の構成により、流路板2及び振動板部材3からなる流路部材40には、各個別液室6に通じる流路板2の面方向に沿う流体抵抗部51、循環流路52及び循環流路52に通じる流路部材40の厚み方向の循環流路53が形成される。なお、循環流路53は後述する循環共通液室50に通じている。
【0060】
一方、共通液室部材20には、メインタンクやインクカートリッジから前記インクが供給される共通液室10と循環共通液室50が形成されている。
第1共通液室部材21には、
図8aに示すように、圧電アクチュエータ用貫通穴25aと、下流側共通液室10Aとなる貫通溝部10aと、循環共通液室50となる底の有る溝部50aが形成されている。
第2共通液室部材22には、
図8bに示すように、圧電アクチュエータ用貫通穴25bと、上流側共通液室10Bとなる溝部10bが形成されている。また、第2共通液室部材22には、
図3に示すように、共通液室10のノズル配列方向の一端部と供給ポート71を通じる供給口部となる貫通穴71aが形成されている。
第1共通液室部材21及び第2共通液室部材22には、循環共通液室50のノズル配列方向の他端部(貫通穴71aと反対側の端部)と循環ポート81を通じる貫通穴81a、81bが形成されている。
なお、
図8a及び
図8bにおいて、底の有る溝部については面塗りを施して示している(以下の図でも同じである)。
このように、共通液室部材20は、第1共通液室部材21及び第2共通液室部材22によって構成され、第1共通液室部材21を流路部材40の振動板部材3側に接合し、第1共通液室部材21に第2共通液室部材22を積層して接合している。
【0061】
ここで、第1共通液室部材21は、液導入部8に通じる共通液室10の一部である下流側共通液室10Aと、循環流路53に通じる循環共通液室50とを形成している。また、第2共通液室部材22は、共通液室10の残部である上流側共通液室10Bを形成している。
このとき、共通液室10の一部である下流側共通液室10Aと循環共通液室50とはノズル配列方向と直交する方向に並べて配置されるとともに、循環共通液室50は共通液室10内に投影される位置に配置される。
これにより、循環共通液室50の寸法(大きさ)が流路部材40で形成される個別液室6、流体抵抗部7及び液導入部8を含む流路に必要な寸法による制約を受けることがなくなる。
そして、循環共通液室50と共通液室10の一部が並んで配置され、循環共通液室50は共通液室10内に投影される位置に配置されることにより、ノズル配列方向と直交する方向のヘッドの幅を抑制することができ、ヘッドの大型化を抑制できる。共通液室部材20は、ヘッドタンクや前記インクカートリッジから前記インクが供給される共通液室10と循環共通液室50を形成する。
【0062】
一方、振動板部材3の個別液室6とは反対側に、振動板部材3の振動領域30を変形させる駆動手段(アクチュエータ手段、圧力発生手段)としての電気機械変換素子を含む圧電アクチュエータ11を配置している。
この圧電アクチュエータ11は、
図5に示すように、ベース部材13上に接合した圧電部材12を有し、圧電部材12にはハーフカットダイシングによって溝加工して1つの圧電部材12に対して所要数の柱状の圧電素子12A、12Bを所定の間隔で櫛歯状に形成している。
ここでは、圧電部材12の圧電素子12Aは駆動波形を与えて駆動させる圧電素子とし、圧電素子12Bは駆動波形を与えないで単なる支柱として使用しているが、すべての圧電素子12A、12Bを駆動させる圧電素子として使用することもできる。
そして、圧電素子12Aを振動板部材3の振動領域30に形成した島状の厚肉部である凸部30aに接合している。また、圧電素子12Bを振動板部材3の厚肉部である凸部30bに接合している。
【0063】
この圧電部材12は、圧電層と内部電極とを交互に積層したものであり、内部電極がそれぞれ端面に引き出されて外部電極が設けられ、外部電極にフレキシブル配線部材15が接続されている。
このように構成したインク吐出ヘッドにおいては、例えば、圧電素子12Aに与える電圧を基準電位から下げることによって圧電素子12Aが収縮し、振動板部材3の振動領域30が下降して個別液室6の容積が膨張することにより、個別液室6内に前記インクが流入する。
その後、圧電素子12Aに印加する電圧を上げて圧電素子12Aを積層方向に伸長させ、振動板部材3の振動領域30をノズル4に向かう方向に変形させて個別液室6の容積を収縮させることにより、個別液室6内の前記インクが加圧され、ノズル4から前記インクが吐出される。
そして、圧電素子12Aに与える電圧を基準電位に戻すことによって振動板部材3の振動領域30が初期位置に復元し、個別液室6が膨張して負圧が発生するので、このとき、共通液室10から個別液室6内に前記インクが充填される。そこで、ノズル4のメニスカス面の振動が減衰して安定した後、次の吐出のための動作に移行する。
なお、このヘッドの駆動方法については上記の例(引き-押し打ち)に限るものではなく、駆動波形の与えた方によって引き打ちや押し打ちなどを行うこともできる。また、上述した実施形態では、個別液室6に圧力変動を与える手段として積層型圧電素子を用いて説明したが、これに限定されず、薄膜状の圧電素子を用いることも可能である。更に、個別液室6内に発熱抵抗体を配し、発熱抵抗体の発熱によって気泡を生成して圧力変動を与えるものや、静電気力を用いて圧力変動を生じさせるものを使用することができる。
【0064】
次に、本実施形態にかかるインク吐出ヘッドを用いた前記インク循環システムの一例を、
図9を用いて説明する。
【0065】
図9は、本発明に係るインク循環システムの一例を示すブロック図である。
図9に示すように、前記インク循環システムは、メインタンク、インク吐出ヘッド、供給タンク、循環タンク、コンプレッサ、真空ポンプ、第一送液ポンプ、第二送液ポンプ、レギュレータ(R)、供給側圧力センサ、循環側圧力センサなどで構成されている。供給側圧力センサは、供給タンクとインク吐出ヘッドとの間であって、インク吐出ヘッドの供給ポート71(
図3参照)に繋がった供給流路側に接続されている。循環側圧力センサは、インク吐出ヘッドと循環タンクとの間であって、インク吐出ヘッドの循環ポート81(
図3参照)に繋がった循環流路側に接続されている。
循環タンクの一方は、第一送液ポンプを介して供給タンクと接続されており、循環タンクの他方は第二送液ポンプを介してメインタンクと接続されている。これにより、供給タンクから供給ポート71を通ってインク吐出ヘッド内に前記インクが流入し、循環ポートから排出されて循環タンクへ排出され、更に第1送液ポンプによって循環タンクから供給タンクへ前記インクが送られることによって前記インクが循環する。
また、供給タンクには、図示しないコンプレッサが接続され、供給側圧力センサで所定の正圧が検知されるように制御される。一方、循環タンクには、図示しない真空ポンプがつなげられていて、循環側圧力センサで所定の負圧が検知されるよう制御される。これにより、インク吐出ヘッド内を通って前記インクを循環させつつ、メニスカスの負圧を一定に保つことができる。
また、インク吐出ヘッドのノズルから液滴を吐出すると、供給タンク及び循環タンク内の前記インク量が減少していくため、適宜メインタンクから第二送液ポンプを用いて、メインタンクから循環タンクに前記インクを補充することが望ましい。メインタンクから循環タンクへの前記インク補充のタイミングは、循環タンク内のインクの液面高さが所定高さよりも下がったら前記インク補充を行うなど、循環タンク内に設けた液面センサなどの検知結果によって制御することができる。
【0066】
次に、インク吐出ヘッド内における前記インクの循環について説明する。
図3に示すように、共通液室部材20の端部に、共通液室に連通する供給ポート71と、循環共通液室50に連通する循環ポート81が形成されている。供給ポート71及び循環ポート81は夫々チューブを介して前記インクを貯蔵する供給タンク及び循環タンク(
図10及び
図11参照)につなげられている。そして、供給タンクに貯留されている前記インクは、供給ポート71、共通液室10、液導入部8、流体抵抗部7を経て、個別液室6へ供給される。
更に、個別液室6内の前記インクが圧電部材12の駆動によりノズル4から吐出される一方で、吐出されずに個別液室6内に留まった前記インクの一部もしくは全ては流体抵抗部51、循環流路52、53、循環共通液室50、循環ポート81を経て、循環タンクへと循環される。
なお、前記インクの循環は、インク吐出ヘッドの動作時のみならず、動作休止時においても実施することができる。動作休止時に循環することによって、個別液室内の前記インクは常にリフレッシュされると共に、前記インクに含まれる成分の凝集や沈降を抑制できるので好ましい。
【0067】
また、本発明の用語における、画像形成、記録、印字、印刷等は、いずれも同義語とする。
記録媒体、メディア、被印刷物は、いずれも同義語とする。
【実施例】
【0068】
以下、実施例および比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例により限定されるものではない。なお、例中の「部」は「質量部」であり、「%」は、評価基準中のものを除き、「質量%」である。
【0069】
<樹脂Aの調製>
<ポリエステル系ウレタン樹脂エマルジョンAの調製>
撹拌機、還流冷却管、及び温度計を挿入した反応容器に、ポリライトOD-X-2420(DIC株式会社製、ポリエステルポリオール)1,500g、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA)220g、及びN-メチルピロリドン(NMP)1,347gを窒素雰囲気下で仕込み、60℃に加熱してDMPAを溶解させた。次いで、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート1,445g、及びジブチルスズジラウリレート(触媒)2.6gを加えて90℃まで加熱し、5時間かけてウレタン化反応を行い、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを得た。この反応混合物を80℃まで冷却し、さらにトリエチルアミン149gを添加・混合したものの中から4,340gを抜き出して、強撹拌下、水5,400g及びトリエチルアミン15gの混合溶液の中に加えた。次いで、氷1,500gを投入し、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液626gを加えて鎖延長反応を行い、固形分濃度が30質量%となるように溶媒を留去し、得られた樹脂エマルジョンをペイントコンディショナー(レッドデビル社製、50~1,425rpmの範囲で速度調節可能)で分散処理し、固形分濃度40.0質量%、ガラス転移点が10℃のポリエステル系ウレタン樹脂エマルジョンAを得た。
【0070】
<ポリカーボネート系ウレタン樹脂エマルジョンBの調製>
撹拌機及び加熱器を備えた簡易加圧反応装置に、Mn2,000の結晶性ポリカーボネートジオール[デュラノールT6002、旭化成ケミカルズ(株)製]287.9部、1,4ブタンジオール3.6部、DMPA8.9部、水添MDI98.3部及びアセトン326.2部を、窒素を導入しながら仕込んだ。
その後90℃に加熱し、8時間かけてウレタン化反応を行い、プレポリマーを製造した。反応混合物を40℃に冷却後、トリエチルアミン6.8部を添加・混合し、更に水568.8部を加え回転子-固定子式方式の機械乳化機で乳化することで水性分散体を得た。得られた水性分散体に撹拌下、10%のエチレンジアミン水溶液を28.1部加え、50℃で5時間撹拌し、鎖伸長反応を行った。その後、減圧下に65℃でアセトンを除去し、水分調節をして、固形分濃度が40質量%、ガラス転移点が-20℃のポリカーボネート系ウレタン樹脂エマルションBを得た。
【0071】
<ポリエーテル系ウレタン樹脂エマルジョンCの調製>
撹拌機、還流冷却管、及び温度計を挿入した反応容器に、ハイフレックスD2000(第一工業製薬株式会社製、ポリエーテルポリオール)1,500g、2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA)220g、及びN-メチルピロリドン(NMP)1,347gを窒素雰囲気下で仕込み、60℃に加熱してDMPAを溶解させた。次いで、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート1,445g、及びジブチルスズジラウリレート(触媒)2.6gを加えて90℃まで加熱し、5時間かけてウレタン化反応を行い、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを得た。この反応混合物を80℃まで冷却し、さらにトリエチルアミン149gを添加・混合したものの中から4,340gを抜き出して、強撹拌下、水5,400g及びトリエチルアミン15gの混合溶液の中に加えた。次いで、氷1,500gを投入し、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液626gを加えて鎖延長反応を行い、固形分濃度が30質量%となるように溶媒を留去し、得られた樹脂エマルジョンをペイントコンディショナー(レッドデビル社製、50~1,425rpmの範囲で速度調節可能)で分散処理し、固形分濃度30.0質量%、ガラス転移点75℃のポリエーテル系ウレタン樹脂エマルジョンCを得た。
なお、ガラス転移点はDSC(リガク製Thermo plus EVO2/DSC)にて測定した。
【0072】
<樹脂Bの調製>
<アクリル樹脂エマルジョンAの調製>
メタクリル酸メチル55部、アクリル酸2-エチルヘキシル41部、メタクリル酸2部、アクアロンHS-10(第一工業製薬株式会社製)2部、イオン交換水52部からなる混合物を、ホモミキサーを用いて乳化し、均一な乳白色の乳化液を得た。攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管を備えた250mLのフラスコ内に、イオン交換水89部を仕込み、窒素を導入しつつ70℃に昇温した。次いで、10%アクアロンHS-10(第一工業製薬株式会社製)水溶液0.8部、5%過硫酸アンモニウム水溶液2.6部を投入した後、予め調製しておいた乳化液を2.5時間かけて連続的に滴下した。また、滴下開始から3h経過するまでの間、1h毎に5%過硫酸アンモニウム水溶液0.6部を投入した。滴下終了後70℃で2時間熟成した後冷却し、28%アンモニア水でpHを7~8となるよう調整し、アクリル樹脂エマルジョンAを得た。得られた樹脂粒子分散液の固形分は40.1%、樹脂粒子のガラス転移点は36℃、平均粒子径は125nmであった。
【0073】
<アクリル樹脂エマルジョンBの調製>
アクリル樹脂エマルジョンAの調製において、メタクリル酸メチル69部、アクリル酸2-エチルヘキシル27部とした以外は同様にして、アクリル樹脂エマルジョンBを得た。得られた樹脂粒子分散液の固形分は40.2%、樹脂粒子のガラス転移点は62℃、平均粒子径は121nmであった。
【0074】
<アクリル樹脂エマルジョンCの調製>
アクリル樹脂エマルジョンCとして、ビニブラン2685(日信化学製、固形分量30%、ガラス転移点50℃)を用いた
【0075】
<アクリル樹脂エマルジョンDの調製>
アクリル樹脂エマルジョンDとして、ボンコートAN-1170(DIC製、固形分量50%、ガラス転移点60℃)を用いた
【0076】
<マゼンタ顔料分散体Aの調製>
以下の処方混合物をプレミックスした後、ディスクタイプのビーズミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製、KDL型、メディア:直径0.3mmジルコニアボール使用)で7時間循環分散してマゼンタ顔料分散体A(顔料濃度:15質量%)を得た。
・C.I.Pigment Red 269・・・15質量部
・アクリル系高分子分散剤Disperbyk-2010・・・5質量部(BYKジャパン製)
・イオン交換水・・・80質量部
【0077】
<マゼンタ顔料分散体Bの調製>
以下の処方混合物をプレミックスした後、ディスクタイプのビーズミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製、KDL型、メディア:直径0.3mmジルコニアボール使用)で7時間循環分散してマゼンタ顔料分散体B(顔料濃度:15質量%)を得た。
・C.I.Pigment Red 202:C.I.Pigment Violet 19=80:20の固溶体顔料・・・15質量部
・アクリル系高分子分散剤Disperbyk-2010・・・5質量部(BYKジャパン製)
・イオン交換水・・・80質量部
【0078】
<マゼンタ顔料分散体Cの調製>
以下の処方混合物をプレミックスした後、ディスクタイプのビーズミル(株式会社シンマルエンタープライゼス製、KDL型、メディア:直径0.3mmジルコニアボール使用)で7時間循環分散してマゼンタ顔料分散体C(顔料濃度:15質量%)を得た。
・C.I.Pigment Red 122・・・15質量部
・アクリル系高分子分散剤Disperbyk-2010・・・5質量部(BYKジャパン製)
・イオン交換水・・・80質量部
【0079】
<前処理液調製方法>
<前処理液1の調製方法>
前処理液1は以下の配合で調合後、混合攪拌し、5μmのフィルター(ザルトリウス社製ミニザルト)で濾過して得た。
【0080】
塩化ナトリウム 1.17質量部
ポリエステル系ウレタン樹脂エマルジョンA 10質量部(固形分として)
FS-300(DuPont社製フッ素系界面活性剤) 1質量部
プロキセルLV(アビシア製防腐剤) 0.1質量部
1,2-プロパンジオール 10質量部
イオン交換水 77.73質量部
【0081】
<前処理液2~9の調製方法>
表1に記載の処方で前処理液1と同様にして前処理液2~9を調製した。
【0082】
【0083】
<マゼンタインク1の調製方法>
マゼンタインク1は以下の配合で混合撹拌し、平均孔径0.2μmポリプロピレンフィルターにて濾過することによりマゼンタインク1を作製した。
【0084】
マゼンタ顔料分散体A 6.5質量部(固形分として)
アクリル樹脂エマルジョンA 7質量部(固形分として)
FS-300(DuPont社製フッ素系界面活性剤) 1質量部
プロキセルLV(アビシア製防腐剤) 0.1質量部
1,2-プロパンジオール 25質量部
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 5質量部
イオン交換水 55.4質量部
【0085】
<マゼンタインク2~10の調製方法>
表2に記載の処方でマゼンタインク1と同様にしてマゼンタインク2~10を調製した。
【0086】
【0087】
<画像形成方法>
非吸収性記録媒体としてPETフィルム(東洋紡製、エスペットE-5100 厚さ25μm)に対し、前処理液をロールコーターで所定の付着量(3g/m2)となるように調整し、塗工後、循環式のオーブン乾燥器を用いて80℃2分間で乾燥させた。
予めマゼンタインクが充填されたインクジェットプリンター(装置名:IPSiO GXe5500改造機、株式会社リコー製)を用意しておき、前処理液を塗工・乾燥した記録媒体に対して5cm四方のべた画像を印刷し、その後循環式のオーブン乾燥器を用いて80℃2分間で乾燥させた。次に、上記画像形成で作成した各印刷物の特性を、下記の方法及び評価基準に従って評価した。結果を表3に示す。
【0088】
<にじみ>
形成されたべた画像の端部を目視で観察することで、記録媒体の非印刷部分に対して染み出した画像部の染み出し距離を測定し、以下の基準で評価した。評価がC以上である場合を実用可能であると判断した。
-評価基準-
A:ほとんどにじみが見られない
B:1mm未満のにじみが見られる
C:1mm以上3mm未満のにじみが見られる
D:3mm以上のにじみが見られる
【0089】
<発色性>
測色時の裏地としてリコピーPPC用紙タイプ 6200(株式会社リコー製)10枚を記録媒体の下に敷き、測色計(商品名:分光測色濃度計 X-Rite939、X-Rite社製)を用い、印刷された画像中の任意な5箇所において光学濃度(マゼンタ)を測定し、その平均値に関し、以下の基準で評価した。評価がB以上である場合を実用可能であると判断した。
-評価基準-
A:光学濃度(マゼンタ)が2.0以上
B:光学濃度(マゼンタ)が1.5以上2.0未満
C:光学濃度(マゼンタ)が1.2以上1.5未満
D:光学濃度(マゼンタ)が1.2未満
【0090】
<耐ブロッキング性>
印刷面に対し印刷していない記録媒体を5枚重ね、これを10×10cm四方のガラス板2枚の間に挟み、その上から、加重0.5kg/cm2をかけた状態で50℃50%RHの環境下に1時間放置した。その後加重を解き、上に重ねた記録媒体を剥がし、ブロッキングの度合いを以下の評価基準で評価した。評価がC以上である場合を実用可能であると判断した。
-評価基準-
A:ブロッキングがない(剥がす際に音がしない)
B:ブロッキングがない(剥がす際に音がする)
C:わずかにブロッキングした(合基材にわずかに転写した)
D:かなりブロッキングした(合基材にはっきりと転写部が分かる)
E:完全にブロッキングした(密着しはがすことが困難)
【0091】
【0092】
実施例1は、金属塩によってインク中の顔料が凝集しにじみがある程度抑えられている。またC.I.Pigment Red 269を用いることで画像濃度が2.0以上と高い発色性を示した。さらに前処理層はガラス転移点の比較的低い樹脂Aを含有し、柔軟な層を形成し、インク膜中にはガラス転移点が樹脂Aより高い樹脂Bを含み、強度の高いインク膜を形成している。この組み合わせにより加圧時の圧力に対し、前処理層で緩衝させてインク膜は破壊されにくくなっているため、ブロッキングはある程度抑えられている。なお本発明者は、
図3~11に示すようなインク循環システムを有する画像形成装置を用い、連続印刷を行ったところ、長期に良好な吐出安定性が得られることを確認した。
実施例2は金属塩を一価から多価に変えた例であり、さらに実施例3、4は多価金属塩の中でもカルシウム塩、マグネシウム塩を用いた例である。金属塩の価数を上げることで格段に凝集力が向上し、にじみのない鮮明な画像が得られた。
実施例5ではさらに前処理液に含まれる樹脂Aのガラス転移点を0℃以下にしている。これにより前処理層の緩衝効果が高まり、耐ブロッキング性が向上している。
実施例6ではマゼンタインクの顔料濃度を6.5%から3%と半減させている例である。C.I.Pigment Red 269自身の高い発色性により、低い顔料濃度でも画像濃度2.0以上を保てている。
実施例7~10はマゼンタインク中の樹脂Bのガラス転移点が50℃以上のものを用いており、本発明の好ましい例である。前記実施例1~6の特徴に加え、インク膜の強度がより向上したことで欠損しにくくなり、にじみを抑えつつ画像濃度と耐ブロッキング性を共立させた例である。
比較例1は実施例1と比較して前処理液に金属塩を含まない例である。前処理層に顔料の凝集効果を有さないため画像がにじんでしまっており、発色性の低下も起こっている。またインク膜の硬脆性が低いことから耐ブロッキング性も悪い結果となっている。
比較例2は前処理液に樹脂Aを含まない例である。前処理層に緩衝効果を有さないため、耐ブロッキング性が不良な結果となっている。
比較例3は前処理液中の樹脂Aのガラス転移点がインク中の樹脂Bのガラス転移点よりも高い例である。この場合緩衝作用が働かず、画像全体が硬く脆い状態になるため耐ブロッキング性が低い。
比較例4~7はマゼンタインクの顔料をC.I.Pigment Red 269以外のものを用いた例である。C.I.Pigment Red 269に比べて画像濃度が低く、実施例6と同様に顔料濃度を6.5%から3%に減らすとさらに画像濃度が低くなり、発色性が悪い結果となっている。
比較例8はマゼンタインクに樹脂Bを含まない例である。インク膜の強度がかなり低下し、ブロッキングの剥がれに対し、かなり弱い状態となり耐ブロッキング性が低い結果となっている。
【符号の説明】
【0093】
1 ノズル板
2 流路板
3 振動板部材
4 ノズル
6 個別液室
6a、6b、6c、6d、6e 個別液室を構成する貫通溝部
7 流体抵抗部
7a 流体抵抗部である貫通溝部
8 液導入部
8a、8b 液導入部を構成する貫通溝部
9 フィルタ部
10 共通液室
10A 下流側共通液室
10a 貫通溝部
10B 上流側共通液室
10b 溝部
11 圧電アクチュエータ
12 圧電部材
12A、12B 圧電素子
13 ベース部材
15 フレキシブル配線部材
20 共通液室部材
21 第1共通液室部材
22 第2共通液室部材
25a、25b 圧電アクチュエータ用貫通穴
29 カバー
30 振動領域
30a、30b 凸部
40 流路部材
41~45 板状部材
50 循環共通液室
50a 溝部
51 流体抵抗部
51a 流体抵抗部を構成する貫通溝部
52、53 循環流路
52a、52b 循環流路を構成する貫通溝部
53a、53b、53c、53d 循環流路を構成する貫通溝部
71 供給ポート
71a 貫通穴
81 循環ポート
81a、81b 貫通穴
400 画像形成装置
401 画像形成装置の外装
401c 装置本体のカバー
404 カートリッジホルダ
410 メインタンク
410k、410c、410m、410y ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色用のメインタンク
411 インク収容部
413 インク排出口
414 収容容器ケース
420 機構部
434 吐出ヘッド
436 供給チューブ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0094】
【文献】特開2010-23266号公報
【文献】特開2012-184334号公報