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特許7107075組成物、グリーンシート、焼成物、及びガラスセラミックス基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】組成物、グリーンシート、焼成物、及びガラスセラミックス基板
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/18 20060101AFI20220720BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20220720BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
C04B35/18
C04B35/622
H05K1/03 610D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018146041
(22)【出願日】2018-08-02
(65)【公開番号】P2020019688
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】高田 新吾
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
(72)【発明者】
【氏名】糸谷 一男
(72)【発明者】
【氏名】兼松 孝之
(72)【発明者】
【氏名】林 正道
(72)【発明者】
【氏名】前川 文彦
(72)【発明者】
【氏名】佐野 義之
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-210828(JP,A)
【文献】特開2016-222501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F
C04B
H05K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムライトを表層に含む板状アルミナ粒子と、ガラス成分と、を含有する組成物であり、前記板状アルミナ粒子が、XPS分析において、Alに対するSiのモル比[Si]/
[Al]が0.15以上であり、かつゼータ電位測定により、電位が0となる等電点のpHが2.5~5である、組成物。
【請求項2】
ガラスセラミックス基板の製造に用いられる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記板状アルミナ粒子が、XRD分析において、2θが35.1±0.2°に認められるα-アルミナの(104)面のピーク強度に対する、2θが26.2±0.2°に認められるムライトのピーク強度の比が0.02以上である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記板状アルミナ粒子が、密度が3.7g/cm以上4.1g/cm以下である、
請求項1~のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記板状アルミナ粒子が、厚みが0.01~5μmであり、平均粒子径が0.1~50
0μmであり、かつアスペクト比が2~500である、請求項1~のいずれか一項に記
載の組成物。
【請求項6】
前記板状アルミナ粒子が、更にモリブデンを含む、請求項1~のいずれか一項に記載
の組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の組成物を用いて製造されたグリーンシート。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の組成物の焼成物。
【請求項9】
請求項に記載の焼成物を備えるガラスセラミックス基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、グリーンシート、焼成物、及びガラスセラミックス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
LTCC(Low Temperature Co‐fired Ceramics)基板は、一般的に、ガラス粉末にフィラー材料を添加した原料を、例えば1000℃以下の低温で焼成して得られるセラミックス基板である。上記の焼成温度は、銀や銅等の導体金属の融点よりも低いため、製造過程でグリーンシートに導体金属を配した状態で焼成できるという利点がある。
近年のLTCC基板に対する技術ニーズは、低誘電材料であることに加えて、高強度化が求められている。基板強度が向上すれば、基板の薄型化や大型化が可能となる。先行文献1には、特定の形状を有する板状アルミナフィラーが、特定の量ガラス成分の中に分散された、ガラスセラミックス基板が開示されている。上記ガラスセラミックス基板は、高い強度を有するとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-100517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で近年、基板の高周波対応が求められている。しかし、高周波化が進むにつれて、基板における発熱が増加するという問題があり、熱伝導率に優れた材料が必要となる。
【0005】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、強度及び熱伝導率に優れるガラスセラミックス基板の製造に用いることのできる、組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記組成物を用いて製造されたグリーンシートを提供することを目的とする。
また、本発明は、前記組成物の焼成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記焼成物を備えるガラスセラミックス基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、ガラスセラミックス基板の原料として、本発明に係る特定の板状アルミナ粒子を用いることで、おそらく該板状アルミナ粒子とガラス成分との密着性が向上するために、強度及び熱伝導率に優れるガラスセラミックス基板が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を提案する。
【0007】
(1)ムライトを表層に含む板状アルミナ粒子と、ガラス成分と、を含有する組成物。
(2)ガラスセラミックス基板の製造に用いられる、前記(1)に記載の組成物。
(3)前記板状アルミナ粒子が、XPS分析において、Alに対するSiのモル比[Si]/[Al]が0.15以上である、前記(1)又は(2)に記載の組成物。
(4)前記板状アルミナ粒子が、XRD分析において、2θが35.1±0.2°に認められるα-アルミナの(104)面のピーク強度に対する、2θが26.2±0.2°に認められるムライトのピーク強度の比が0.02以上である、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の組成物。
(5)前記板状アルミナ粒子が、密度が3.7g/cm以上4.1g/cm以下である、前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の組成物。
(6)前記板状アルミナ粒子が、厚みが0.01~5μmであり、平均粒子径が0.1~500μmであり、かつアスペクト比が2~500である、前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の組成物。
(7)前記板状アルミナ粒子が、更にモリブデンを含む、前記(1)~(6)のいずれか一つに記載の組成物。
(8)前記板状アルミナ粒子が、ゼータ電位測定により、電位が0となる等電点のpHが2~6である、前記(1)~(7)のいずれか一つに記載の組成物。
(9)前記(1)~(8)のいずれか一つに記載の組成物を用いて製造されたグリーンシート。
(10)前記(1)~(8)のいずれか一つに記載の組成物の焼成物。
(11)前記(10)に記載の焼成物を備えるガラスセラミックス基板。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、強度及び熱伝導率に優れるガラスセラミックス基板の製造に用いることのできる、組成物を提供できる。
また、本発明によれば、前記組成物を用いて製造されたグリーンシートを提供できる。
また、本発明によれば、前記組成物の焼成物を提供できる。
また、本発明によれば、前記焼成物を備えるガラスセラミックス基板を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の組成物、グリーンシート、焼成物、及びガラスセラミックス基板の実施形態を説明する。
【0010】
≪組成物≫
実施形態の組成物は、ムライトを表層に含む板状アルミナ粒子と、ガラス成分と、を含有するものである。以下、各成分について説明する。
【0011】
<板状アルミナ粒子>
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、ムライトを表層に含むものである。また、板状アルミナ粒子はモリブデンを含んでもよい。さらに、本発明の効果を損なわない限り、原料または形状制御剤などからの不純物を含んでもよい。なお、板状アルミナ粒子はさらに有機化合物等を含んでいてもよい。
【0012】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、表層にムライトを含むことにより、従来の板状アルミナ粒子よりもガラス成分との密着性に優れるものと考えられる。また、アルミナはモース硬度9の物質であり、非常に硬い物質に分類される。そのため従来の板状アルミナ粒子は、それを含む製品の製造等に使用する機器を摩耗させてしまうことが問題となっていた。一方、ムライトのモース硬度は7.5である。そのため、実施形態に係る板状アルミナ粒子が、ムライトを表層に含むことで、機器は板状アルミナ粒子のアルミナよりも表面のムライトと接することとなり、実施形態に係る組成物を製造する際の機器の摩耗を低減することができる。
また、板状アルミナ粒子は、モリブデンを含ませ、後記する製造方法において、その含有量や存在状態を制御することにより、使用する用途に応じた板状アルミナの物性や性能、例えば色相や透明性などの光学特性等を任意に調整することが可能である。
【0013】
本発明でいう「板状」は、アルミナ粒子の平均粒子径を厚みで除したアスペクト比が2以上であることを指す。なお、本明細書において、「アルミナ粒子の厚み」は、走査型電子顕微鏡(SEM)により得られたイメージから、無作為に選出された少なくとも50個の板状アルミナ粒子について測定された厚みの算術平均値とする。また、「アルミナ粒子の平均粒子径」は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定された体積基準の累積粒度分布から、体積基準メジアン径d50として算出された値とする。
【0014】
実施形態に係るアルミナ粒子においては、厚み、平均粒子径、及びアスペクト比の条件は、それが板状である範囲で、どの様に組み合わせることもできる。
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、厚みが0.01~5μmであることが好ましく、平均粒子径が0.1~500μmであることが好ましく、厚みに対する粒子径の比率であるアスペクト比が2~500であることが好ましい。板状アルミナ粒子のアスペクト比が2以上であると、2次元の配合特性を有し得ることから好ましく、板状アルミナ粒子のアスペクト比が500以下であると、機械的強度に優れることから好ましい。厚みが0.03~3μmであることがより好ましく、平均粒子径が0.5~100μmであることがより好ましく、厚みに対する粒子径の比率であるアスペクト比が10~300であることがより好ましい。アスペクト比が10~300であると、機械的強度に優れる上に取り扱い性も向上し、また、ガラス粉末と混合した際の充填性も向上するため好ましい。厚みが0.1~1μmであることがさらに好ましく、平均粒子径が1~50μmであることがさらに好ましく、厚みに対する粒子径の比率であるアスペクト比が11~100であることがさらに好ましい。
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、円形板状や楕円形板状であってもよいが、粒子形状は、例えば、六角~八角といった多角板状であることが、取り扱い性や製造のし易さの点から好ましい。
【0015】
実施形態に係る板状アルミナ粒子における、その厚み、平均粒子径、アスペクト比等は、モリブデン化合物と、アルミニウム化合物と、形状制御剤との使用割合、形状制御剤の種類、形状制御剤とアルミニウム化合物との存在状態を選択することにより、制御することができる。
【0016】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、表層にムライトを含みさえすれば、どの様な製造方法に基づいて得られたものであってもよいが、よりアスペクト比が高く、より分散性に優れ、より生産性に優れる点で、モリブデン化合物と形状制御剤の存在下でアルミニウム化合物を焼成する事により得ることが好ましい。形状制御剤はムライトのSiの供給元となることから、シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物を使用するのがよい。
上記製造方法において、モリブデン化合物はフラックス剤として用いられる。本明細書中では、以下、フラックス剤としてモリブデン化合物を用いたこの製造方法を単に「フラックス法」ということがある。フラックス法については、後に詳記する。なお、かかる焼成により、モリブデン化合物がアルミニウム化合物と高温で反応し、モリブデン酸アルミニウムを形成した後、このモリブデン酸アルミニウムが、さらに、より高温でアルミナと酸化モリブデンに分解する際に、モリブデン化合物が板状アルミナ粒子内に取り込まれるものと考えられる。酸化モリブデンが昇華し、回収して、再利用することもできる。そして、この過程で、形状制御剤として配合されたシリコン又はシリコン原子を含む化合物とアルミニウム化合物が、モリブデンを介し反応することにより、ムライトが板状アルミナ粒子の表層に形成されるものと考えられる。ムライトの生成機構について、より詳しくは、アルミナの板表面にて、モリブデンとSi原子の反応によるMo-O-Siの形成、並びにモリブデンとAl原子の反応によるMo-O-Alの形成が起こり、高温焼成することでMoが脱離するとともにSi-O-Al結合を有するムライトが形成するものと考えられる。
板状アルミナ粒子に取り込まれない酸化モリブデンは、昇華させることにより回収して、再利用することが好ましい。こうすることで、板状アルミナ表面に付着する酸化モリブデン量を低減でき、樹脂の様な有機バインダーやガラスの様な無機バインダーなどの被分散媒体に分散させる際に、酸化モリブデンがバインダーに混入することがなく、板状アルミナ本来の性質を最大限に付与することが可能となる。
尚、本発明においては、後記する製造方法において昇華しうる性質を有するものをフラックス剤、昇華し得ないものを形状制御剤と称するものとする。
【0017】
前記板状アルミナ粒子の製造において、モリブデン及び形状制御剤を活用することにより、アルミナ粒子は高いα結晶率を有し、自形を持つことから、優れた分散性と機械強度、高熱伝導性を実現することができる。
【0018】
板状アルミナ粒子の表層に生成されるムライトの量は、モリブデン化合物及び形状制御剤の使用割合によって制御可能であるが、特に形状制御剤として使用されるシリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物の使用割合によって制御可能である。板状アルミナ粒子の表層に生成されるムライトの量の好ましい値と、原料の好ましい使用割合については、後に詳記する。
【0019】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、ムライトを表層に含むことで、通常のアルミナに比べて、ゼータ電位測定により、電位ゼロとなる等電点のpHがより酸性側にシフトしている。
板状アルミナ粒子の等電点のpHは、例えば2~6の範囲であり、2.5~5の範囲であることが好ましく、3~4の範囲であることがより好ましい。等電点のpHが上記範囲内にある板状アルミナ粒子は、静電反発力が高く、それ自体で上記した様な被分散媒体へ配合した際の分散安定性を高めることができ、更なる性能向上を意図したカップリング処理剤等の表面処理による改質がより容易となる。
【0020】
ムライトはアルミナに比べて密度が低く、板状アルミナ粒子に含まれるムライトの量が増えるに伴い、板状アルミナ粒子の密度が低くなると考えられる。
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、例えば密度が3.70g/cm以上4.10g/cm以下であり、密度が3.72g/cm以上4.10g/cm以下であることが好ましく、密度が3.80g/cm以上4.10g/cm以下であることがより好ましい。
前記密度の値が、上記範囲内である板状アルミナ粒子は、表層に含まれるムライト量が適当であり、ガラス成分との密着性に優れるものと考えられ、品質に優れ、実施形態に係る組成物を製造する際の機器の摩耗を低減する効果により優れる。
密度は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0021】
[アルミナ]
実施形態に係る板状アルミナ粒子に含まれる「アルミナ」は、酸化アルミニウムであり、例えば、γ、δ、θ、κ、δ等の各種の結晶形の遷移アルミナであっても、または遷移アルミナ中にアルミナ水和物を含んでいてもよいが、より機械的な強度または熱伝導性に優れる点で、基本的にα結晶形(α型)であることが好ましい。α結晶形がアルミナの緻密な結晶構造であり、実施形態に係る板状アルミナの機械強度または熱伝導性の向上に有利となる。
α結晶化率は、100%にできるだけ近いほうが、α結晶形本来の性質を発揮しやすくなるので好ましい。実施形態に係る板状アルミナ粒子のα結晶化率は、例えば90%以上であり、95%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。
【0022】
[ムライト]
ムライトは、板状アルミナ粒子の表層に含まれることで、ガラス成分との密着性に優れるものと考えられ、顕著な機器の摩耗低減が発現する。実施形態に係る板状アルミナ粒子が表層に含む「ムライト」は、AlとSiとの複合酸化物でありAlSiz表わされるが、x、y、zの値に特に制限はない。より好ましい範囲はAlSi~AlSi13である。なお、後述の実施例でXRDピーク強度を確認しているのはAl2.85Si6.3、AlSi6.5、Al3.67Si7.5、AlSi、又はAlSi13を含むものである。実施形態に係る板状アルミナ粒子は、Al2.85Si6.3、AlSi6.5、Al3.67Si7.5、AlSi、およびAlSi13からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を表層に含んでいてもよい。ここで「表層」とは実施形態に係る板状アルミナ粒子の表面から10nm以内のことをいう。この距離は、実施例において計測に用いたXPSの検出深さに対応する。尚、このムライト表層は、10nm以内の非常に薄い層になり、表面及び界面におけるムライト結晶の欠陥等が多くなれば、ムライト表層の硬度はムライト本来のモース硬度(7.5)よりも更に低くなり、結晶欠陥の無い或いは少ないムライトに比べて、更に、実施形態に係る組成物を製造する際の機器の摩耗を顕著に低減することができる。
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、ムライトが表層に偏在していることが好ましい。ここで「表層に偏在」するとは、前記表層における単位体積あたりのムライトの質量が、前記表層以外における単位体積あたりのムライトの質量よりも多い状態をいう。ムライトが表層に偏在していることは、後述する実施例において示すように、XPSによる表面分析と、XRFによる全体分析の結果を比較することで判別できる。ムライトは表層に偏在させることで、表層だけでなく表層以外(内層)にもムライトを存在させる場合に比べて、より少量で、ガラス成分との密着性に優れるものと考えられ、同様水準でムライトに基づく機器の摩耗性を低減することができる。
【0023】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、表層にムライトを含むことから、XPS分析によってSiが検出される。実施形態に係る板状アルミナ粒子は、XPS分析において取得された、Alに対するSiのモル比[Si]/[Al]の値が、0.15以上であることが好ましく、0.20以上であることがより好ましく、0.25以上であることがさらに好ましい。後述する実施例のXPSの結果によれば、原料のSiOの仕込み量を増やしていくことで、[Si]/[Al]の値が上昇していくが、値はある程度までで頭打ちとなる。これは、板状アルミナ粒子上のSi量が飽和状態となったことを意味するものと考えられる。したがって、前記モル比[Si]/[Al]の値が、0.20以上のもの、特に0.25以上の板状アルミナ粒子は、表面がムライトで被覆された状態にあると考えられる。上記被覆された状態とは、板状アルミナ粒子の表面の全部がムライトで被覆されていてもよく、板状アルミナ粒子の表面の少なくとも一部がムライトで被覆されていてもよい。
前記XPS分析のモル比[Si]/[Al]の値の上限は特に限定されるものではないが、0.4以下であることが好ましく、0.35以下であることがより好ましく、0.3以下であることがさらに好ましい。
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、XPS分析において取得された、Alに対するSiのモル比[Si]/[Al]の値が、0.15以上0.4以下であることが好ましく、0.20以上0.35以下であることがより好ましく、0.25以上0.3以下であることがさらに好ましい。
前記XPS分析において取得された、前記モル比[Si]/[Al]の値が、上記範囲である板状アルミナ粒子は、表層に含まれるムライト量が適当であり、ガラス成分との密着性に優れるものと考えられ、品質に優れ、実施形態に係る組成物を製造する際の機器の摩耗を低減する効果により優れる。
XPS分析は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
本発明においては、後記する板状アルミナの製造方法において、仕込んだSiO等の、シリコン又はケイ元素を含むケイ素化合物が高効率でムライトに変換されることにより、優れた品質の板状アルミナが得られる。
【0024】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、ムライトを含むことから、XRD分析によってムライト由来の回折ピークが検出される。このムライト由来の回折ピークは、シリコン又はケイ元素を含むケイ素化合物、例えば、SiO等の回折ピークとは明確に区別することが可能である。実施形態に係る板状アルミナ粒子は、XRD分析によって取得された、2θが35.1±0.2°に認められるα-アルミナの(104)面のピーク強度に対する、2θが26.2±0.2°に認められるムライトのピーク強度の比が、例えば0.02以上であり、0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましい。
前記ピーク強度の比の値の上限は、特に限定されるものではないが、例えば0.3以下であり、0.2以下であることが好ましく、0.12未満であることがより好ましい。
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、XRD分析によって取得された、2θが35.1±0.2°に認められるα-アルミナの(104)面のピーク強度に対する、2θが26.2±0.2°に認められるムライトのピーク強度の比が、例えば0.02以上0.3以下であり、0.05以上0.2以下であることが好ましく、0.1以上0.15以下であることがより好ましく、0.1以上0.12未満であることがさらに好ましい。
前記ピーク強度の比の値が、上記範囲内である板状アルミナ粒子は、ムライト量が適当であり、ガラス成分との密着性に優れるものと考えられ、品質に優れ、実施形態に係る組成物を製造する際の機器の摩耗を低減する効果により優れる。
XRD分析は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0025】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、ムライトを含むことから、XRF分析によってSiが検出される。実施形態に係る板状アルミナ粒子は、XRF分析によって取得された、Alに対するSiのモル比[Si]/[Al]が例えば0.04以下であり、0.035以下であることが好ましく、0.02以下であることがより好ましい。
また、前記モル比[Si]/[Al]の値は、特に限定されるものではないが、例えば0.003以上であり、0.004以上であることが好ましく、0.008以上であることがより好ましい。
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、XRF分析によって取得された、Alに対するSiのモル比[Si]/[Al]が例えば0.003以上0.04以下であり、0.004以上0.035以下であることが好ましく、0.008以上0.02以下であることがより好ましい。
前記XRF分析により取得された前記モル比[Si]/[Al]の値が、上記範囲内である板状アルミナ粒子は、ムライト量が適当であり、ガラス成分との密着性に優れるものと考えられ、品質に優れ、実施形態に係る組成物を製造する際の機器の摩耗を低減する効果により優れる。
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、その製造方法で用いたシリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物に基づくムライトに対応した、ケイ素を含むものである。実施形態に係る板状アルミナ粒子100質量%に対するケイ素の含有量は、二酸化ケイ素換算で、好ましくは、10質量%以下であり、より好ましくは、0.001~5質量%であり、さらに好ましくは、0.01~4質量%以下であり、特に好ましくは、0.6~2.5質量%以下である。ケイ素の含有量が上記範囲内であると、ムライト量が適当であることから好ましい。上記ケイ素の含有量はXRF分析により求めることができる。
XRF分析は、以下の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
(板状アルミナ粒子内に含まれるSi量の分析)
蛍光X線(XRF)分析装置PrimusIV(株式会社リガク製)を用い、作製した試料約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて組成分析を行う。
XRF分析結果により求められる[Si]/[Al]を板状アルミナ粒子内のSi量とする。
【0026】
また、前記表層のムライトは、ムライト層を形成していてもよく、ムライトとアルミナとが混在した状態であってもよい。表層のムライトとアルミナとの界面は、ムライトとアルミナとが物理的に接触した状態であってもよく、ムライトとアルミナとがSi-O-Alなどの化学結合を形成していてもよい。アルミナとSiOとの組み合わせに対して、アルミナとムライトとを必須成分とする組み合わせは、構成原子組成の類似性の高さや、フラックス法を採用した場合には、それに基づく上記Si-O-Alなどの化学結合の形成し易さの観点から、よりアルミナとムライトとが強固に結着し剥がれ難いものとすることが出来る。このことから、Si量が同等水準であれば、アルミナとムライトとを必須成分とする組み合わせは、機器をより長期間に亘ってガラス成分との密着性に優れるものと考えられ、実施形態に係る組成物を製造する際の機器の摩耗をさせ難くすることが出来るため、より好ましい。アルミナとムライトとを必須成分とする組み合わせでの技術的効果は、アルミナとムライトのみでも、アルミナとムライトとシリカでも期待はできるが、どちらかと言えば、前者の二者組み合わせが技術的効果の水準はより高くなる。
【0027】
[モリブデン]
また、実施形態に係る板状アルミナ粒子は、モリブデンを含んでいてもよい。当該モリブデンは、フラックス剤として用いたモリブデン化合物に由来するものである。
モリブデンは触媒機能、光学的機能を有する。また、モリブデンを活用することにより、後述するように製造方法において、ムライトの形成が促進され、高アスペクト比と優れた分散性を有する板状アルミナ粒子を製造することができる。また、板状アルミナ粒子に含まれたモリブデンの特性を利用して、酸化反応触媒、光学材料の用途に適用することが可能となりうる。
【0028】
当該モリブデンとしては、特に制限されないが、モリブデン金属の他、酸化モリブデンや一部が還元されたモリブデン化合物等が含まれる。モリブデンは、MoOとして板状アルミナ粒子に含まれると考えられるが、MoO以外にもMoOやMoO等として板状アルミナ粒子に含まれてもよい。
【0029】
モリブデンの含有形態は、特に制限されず、板状アルミナ粒子の表面に付着する形態で含まれていても、アルミナの結晶構造のアルミニウムの一部に置換された形態で含まれていてもよいし、これらの組み合わせであってもよい。
【0030】
実施形態に係る板状アルミナ粒子100質量%に対するモリブデンの含有量は、三酸化モリブデン換算で、好ましくは、10質量%以下であり、焼成温度、焼成時間、モリブデン化合物の昇華速度を調整する事で、より好ましくは、0.001~5質量%であり、さらに好ましくは、0.01~5質量%以下であり、特に好ましくは、0.1~1.2質量%以下である。モリブデンの含有量が10質量%以下であると、アルミナのα単結晶品質を向上させることから好ましい。
上記モリブデンの含有量はXRF分析により求めることができる。XRF分析は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0031】
使用するモリブデンの量により板状アルミナの色相を青、薄青、白色等に容易に調整可能であり、グリーンシート焼成後のガラスセラミックス基板の誘電損失の増大や、焼結密度の低下をまねくことなくガラスセラミックス基板の色合いの調整が可能となる。これより、実装の際、基板上の配線導体の画像認識の精度が向上することによる配線ミス発生率の低下が可能となり、歩留まりが向上し生産性の安定化が図れる。
【0032】
[有機化合物]
一実施形態において、板状アルミナ粒子は有機化合物を含んでいてもよい。当該有機化合物は、板状アルミナ粒子の表面に存在し、板状アルミナ粒子の表面物性を調節する機能を有する。例えば、表面に有機化合物を含んだ板状アルミナ粒子は樹脂との親和性を向上することから、フィラーとして板状アルミナ粒子の機能を最大限に発現することができる。
【0033】
有機化合物としては、特に制限されないが、有機シラン、アルキルホスホン酸、およびポリマーが挙げられる。
【0034】
前記有機シランとしては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、iso-プロピルトリメトキシシラン、iso-プロピルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン等のアルキル基の炭素数が1~22までのアルキルトリメトキシシランまたはアルキルトリクロロシラン類、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリクロロシラン類、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p-クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p-クロロメチルフェニルトリエトキシシラン類等が挙げられる。
【0035】
前記ホスホン酸としては、例えばメチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、ペンチルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、ヘプチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、デシルホスホン酸、ドデシルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸、2_エチルヘキシルホスホン酸、シクロヘキシルメチルホスホン酸、シクロヘキシルエチルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ドデシルベンゼンホスホン酸が挙げられる。
【0036】
前記ポリマーとしては、例えば、ポリ(メタ)アクリレート類を好適に用いることができる。具体的には、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリベンジル(メタ)アクリレート、ポリシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ポリt-ブチル(メタ)アクリレート、ポリグリシジル(メタ)アクリレート、ポリペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート等であり、また、汎用のポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニル酢酸エステル、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリイミド、ポリカーボネート等ポリマーを挙げることができる。
【0037】
なお、上記有機化合物は、単独で含まれていても、2種以上を含んでいてもよい。
【0038】
有機化合物の含有形態としては、特に制限されず、アルミナと共有結合により連結されていてもよいし、アルミナを被覆していてもよい。
【0039】
有機化合物の含有率は、板状アルミナ粒子の質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10~0.01質量%であることがさらに好ましい。有機化合物の含有率が20質量%以下であると、板状アルミナ粒子由来の物性発現が容易にできることから好ましい。
【0040】
<板状アルミナ粒子の製造方法>
板状アルミナ粒子の製造方法は、特に制限されず、公知の技術が適宜適用されうるが、相対的に低温で高α結晶化率を有するアルミナを好適に制御することができる観点から、好ましくはモリブデン化合物を利用したフラックス法での製造方法が適用されうる。
【0041】
より詳細には、板状アルミナ粒子の好ましい製造方法は、モリブデン化合物および形状制御剤の存在下で、アルミニウム化合物を焼成する工程(焼成工程)を含む。焼成工程は焼成対象の混合物を得る工程(混合工程)で得られた混合物を焼成する工程であってもよい。
【0042】
[混合工程]
混合工程は、アルミニウム化合物と、モリブデン化合物と、形状制御剤と、を混合して混合物とする工程である。以下、混合物の内容について説明する。
【0043】
(アルミニウム化合物)
本発明におけるアルミニウム化合物は、アルミニウム元素を含むものであり、実施形態に係る板状アルミナ粒子の原料であり、熱処理によりアルミナになるものであれば特に限定されず、例えば、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、遷移アルミナ(γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナなど)、α-アルミナ、二種以上の結晶相を有する混合アルミナなどが使用でき、これら前駆体としてのアルミニウム化合物の形状、粒子径、比表面積等の物理形態については、特に限定されるものではない。
【0044】
下で詳記するフラックス法によれば、実施形態に係る板状アルミナ粒子の形状は、例えば、球状、無定形、アスペクトのある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなどのいずれであっても好適に用いることができる。
【0045】
同様に、アルミニウム化合物の粒子径は、下で詳記するフラックス法によれば、数nmから数百μmまでのアルミニウム化合物の固体を好適に用いることができる。
【0046】
アルミニウム化合物の比表面積も特に限定されるものではない。モリブデン化合物が効果的に作用するため、比表面積が大きい方が好ましいが、焼成条件やモリブデン化合物の使用量を調整する事で、いずれの比表面積のものでも原料として使用することができる。
【0047】
また、アルミニウム化合物は、アルミニウム化合物のみからなるものであっても、アルミニウム化合物と有機化合物との複合体であってもよい。例えば、有機シランを用いて、アルミニウム化合物を修飾して得られる有機/無機複合体、ポリマーを吸着したアルミニウム化合物複合体などであっても好適に用いることができる。これらの複合体を用いる場合、有機化合物の含有率としては、特に制限はないが、板状アルミナ粒子を効率的に製造できる観点より、当該含有率は60質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0048】
(形状制御剤)
実施形態に係る板状アルミナ粒子を形成するために、形状制御剤を用いることできる。形状制御剤はモリブデン化合物の存在下でアルミナ化合物を焼成によるアルミナの板状結晶成長に重要な役割を果たす。
【0049】
形状制御剤の存在状態は、特に制限されず、例えば、形状制御剤とアルミニウム化合物と物理混合物、形状制御剤がアルミニウム化合物の表面または内部に均一または局在に存在した複合体などが好適に用いることができる。
【0050】
また、形状制御剤がアルミニウム化合物に添加しても良いが、アルミニウム化合物中に不純物として含んでも良い。
【0051】
形状制御剤は板状結晶成長に重要な役割を果たす。一般的に行なわれる酸化モリブデンフラックス法では酸化モリブデンがアルミナのα結晶の(113)面に選択的に吸着し、結晶成分は(113)面に供給されにくくなり、(001)面、または(006)面の出現を完全に抑制できるとするものであることから、六角両錘型をベースとした多面体粒子を形成する。実施形態の製造方法においては、形状制御剤を用いて、フラックス剤である酸化モリブデンが(113)面に選択的な結晶成分の吸着を抑制することで、(001)面の発達した熱力学的に最も安定的な稠密六方格子の結晶構造を有する板状形態を形成することができる。モリブデン化合物をフラックス剤として用いることで、α結晶化率が高い、モリブデンを含む板状アルミナ粒子をより容易に形成できる。
【0052】
形状制御剤の種類については、ムライトのSiの供給元となりムライトを効率よく生産可能な点で、シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物を用いることが好ましい。また、よりアスペクト比が高く、より分散性に優れ、より生産性に優れる板状アルミナ粒子を製造可能な点からも、シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物を用いることが好ましい。
形状制御剤として、シリコン又はケイ素化合物を用いた上記フラックス法により、ムライトを表層に含む板状アルミナ粒子を容易に製造することができる。
【0053】
シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物の具体例としては、金属シリコン、有機シラン、シリコン樹脂、シリカ微粒子、シリカゲル、メソポーラスシリカ、SiC、ムライト等の人工合成シリコン化合物;バイオシリカ等の天然シリコン化合物等が挙げられる。これらのうち、アルミニウム化合物との複合、混合がより均一的に形成できる観点から、有機シラン、シリコン樹脂、シリカ微粒子を用いることが好ましい。なお、シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物の形状は、特に制限されず、例えば、球状、無定形、アスペクトのある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなどを好適に用いることができる。
【0055】
(カリウム化合物)
形状制御剤として、上記シリコン又はケイ素元素を含むケイ素化合物とともに、さらにカリウム化合物を併用してもよい。
カリウム化合物としては、特に制限されないが、塩化カリウム、亜塩素酸カリウム、塩素酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酢酸カリウム、酸化カリウム、臭化カリウム、臭素酸カリウム、水酸化カリウム、珪酸カリウム、燐酸カリウム、燐酸水素カリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸カリウム等が挙げられる。この際、前記カリウム化合物は、モリブデン化合物の場合と同様に、異性体を含む。これらのうち、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酸化カリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、モリブデン酸カリウムを用いることが好ましく、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、モリブデン酸カリウムを用いることがより好ましい。なお、上述のカリウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、モリブデン酸カリウムは、モリブデンを含むため、上述のモリブデン化合物としての機能も有しうる。
カリウム化合物は、ムライトがアルミナ表層に効率良く形成されることに大きく寄与する。
【0056】
(モリブデン化合物)
モリブデン化合物は、モリブデン元素を含むものであり、後述するように、相対的に低温においてアルミナのα結晶成長にフラックス機能をする。
モリブデン化合物としては、特に制限されないが、酸化モリブデン、モリブデン金属が酸素との結合からなる酸根アニオン(MoOx n-)を含有する化合物が挙げられる。
【0057】
前記酸根アニオン(MoOx n-)を含有する化合物としては、特に制限されないが、モリブデン酸、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸リチウム、H3PMo1240、H3SiMo1240、NH4Mo712、二硫化モリブデン等が挙げられる。
【0058】
モリブデン化合物にシリコンを含むことも可能であり、その場合、シリコンを含むモリブデン化合物がフラックス剤と形状制御剤と両方の役割を果たす。
【0059】
上述のモリブデン化合物のうち、昇華し易く、かつコストの観点から、酸化モリブデンを用いることが好ましい。また、上述のモリブデン化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
上記のアルミニウム化合物、モリブデン化合物、及びシリコン又はケイ素化合物の使用量は、特に限定されるものではないが、好ましくは、板状アルミナ粒子100質量%に対して、Al換算で50質量%以上のアルミニウム化合物と、MoO換算で40質量%以下のモリブデン化合物と、SiO換算で0.5質量%以上10質量%未満のシリコン又はケイ素化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。より好ましくは、板状アルミナ粒子100質量%に対して、Al換算で70質量%以上99質量%以下のアルミニウム化合物と、MoO換算で0.5質量%以上20質量%以下のモリブデン化合物と、SiO換算で0.5質量%以上10質量%以下のシリコン又はケイ素化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。さらに好ましくは、板状アルミナ粒子100質量%に対して、Al換算で80質量%以上94.5質量%以下のアルミニウム化合物と、MoO換算で1質量%以上7質量%以下のモリブデン化合物と、SiO換算で1質量%以上7質量%以下のシリコン又はケイ素化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することができる。
上記の範囲で各種化合物を使用することで、得られる板状アルミナ粒子が表層に含むムライト量がより適当なものとなり、粒子形状が多角板状であり、厚みが0.01~5μmであり、平均粒子径が0.1~500μmであり、厚みに対する粒子径の比率であるアスペクト比が2~500である板状アルミナ粒子を製造することができる。
【0061】
前記混合物が、さらに上記のカリウム化合物を含む場合、カリウム化合物の使用量は、特に限定されるものではないが、好ましくは、板状アルミナ粒子100質量%に対して、KO換算で5質量%以下のカリウム化合物を混合することができる。より好ましくは、板状アルミナ粒子100質量%に対して、KO換算で0.01質量%以上3質量%以下のカリウム化合物を混合することができる。さらに好ましくは、板状アルミナ粒子100質量%に対して、KO換算で0.05質量%以上1質量%以下のカリウム化合物を混合することができる。
カリウム化合物の使用により、モリブデン化合物との反応により形成されるモリブデン酸カリウムは、Si拡散の効果を及ぼし板状アルミナ粒子表面のムライト形成の促進に寄与すると考えられる。
原料仕込み時に用いる又は焼成に当たって昇温過程の反応で生じるカリウム化合物として、水溶性のカリウム化合物、例えばモリブデン酸カリウムは、焼成温度域でも気化することなく、焼成後に洗浄で、容易に回収できるため、モリブデン化合物が焼成炉外へ放出される量も低減され、生産コストとしても大幅に低減することができる。
【0062】
上記のアルミニウム化合物、モリブデン化合物、シリコン又はケイ素化合物、及びカリウム化合物は、各酸化物換算の使用量の合計が100質量%を超えないよう使用される。
【0063】
[焼成工程]
焼成工程は、モリブデン化合物および形状制御剤の存在下で、アルミニウム化合物を焼成する工程である。焼成工程は、前記混合工程で得られた混合物を焼成する工程であってもよい。
【0064】
実施形態に係る板状アルミナ粒子は、例えば、モリブデン化合物および形状制御剤の存在下で、アルミニウム化合物を焼成することで得られる。上記した通り、この製造方法はフラックス法と呼ばれる。
【0065】
フラックス法は、溶液法に分類される。フラックス法とは、より詳細には、結晶-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すことを利用した結晶成長の方法である。フラックス法のメカニズムとしては、以下の通りであると推測される。すなわち、溶質およびフラックスの混合物を加熱していくと、溶質およびフラックスは液相となる。この際、フラックスは融剤であるため、換言すれば、溶質-フラックス2成分系状態図が共晶型を示すため、溶質は、その融点よりも低い温度で溶融し、液相を構成することとなる。この状態で、フラックスを蒸発させると、フラックスの濃度は低下し、換言すれば、フラックスによる前記溶質の融点低下効果が低減し、フラックスの蒸発が駆動力となって溶質の結晶成長が起こる(フラックス蒸発法)。なお、溶質およびフラックスは液相を冷却することによっても溶質の結晶成長を起こすことができる(徐冷法)。
【0066】
フラックス法は、融点よりもはるかに低い温度で結晶成長をさせることができる、結晶構造を精密に制御できる、自形をもつ多面体結晶体を形成できる等のメリットを有する。
【0067】
フラックスとしてモリブデン化合物を用いたフラックス法によるα-アルミナ粒子の製造では、そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、例えば、以下のようなメカニズムによるものと推測される。すなわち、モリブデン化合物の存在下でアルミニウム化合物を焼成すると、まず、モリブデン酸アルミニウムが形成される。この際、当該モリブデン酸アルミニウムは、上述の説明からも理解されるように、アルミナの融点よりも低温でα-アルミナ結晶を成長する。そして、例えば、フラックスを蒸発させることで、モリブデン酸アルミニウムが分解し、結晶成長することでα-アルミナ粒子を得ることができる。すなわち、モリブデン化合物がフラックスとして機能し、モリブデン酸アルミニウムという中間体を経由してα-アルミナ粒子が製造されるのである。
【0068】
形状制御剤として、さらにカリウム化合物を用いた場合の、フラックス法によるα-アルミナ粒子の製造では、そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、例えば、以下のようなメカニズムによるものと推測される。まず、モリブデン化合物とアルミニウム化合物が反応してモリブデン酸アルミニウムを形成する。そして、例えば、モリブデン酸アルミニウムが分解して酸化モリブデンとアルミナとなり、同時に、分解によって得られた酸化モリブデンを含むモリブデン化合物は、カリウム化合物と反応してモリブデン酸カリウムを形成する。当該モリブデン酸カリウムを含むモリブデン化合物の存在下でアルミナが結晶成長することで、実施形態に係る板状アルミナ粒子を得ることができる。
【0069】
上記フラックス法により、ムライトを表層に含み、粒子形状が多角板状であり、厚みが0.01~5μmであり、平均粒子径が0.1~500μmであり、厚みに対する粒子径の比率であるアスペクト比が2~500である板状アルミナ粒子を製造することができる。
【0070】
焼成の方法は、特に限定はなく、公知慣用の方法で行う事ができる。焼成温度が700℃を超えると、アルミニウム化合物と、モリブデン化合物が反応して、モリブデン酸アルミニウムを形成する。さらに、焼成温度が900℃以上になると、モリブデン酸アルミニウムが分解し、形状制御剤の作用で板状アルミナ粒子を形成する。また、板状アルミナ粒子では、モリブデン酸アルミニウムが分解することで、アルミナと酸化モリブデンになる際に、モリブデン化合物を酸化アルミニウム粒子内に取り込まれるものと考えられる。
また、焼成温度が900℃以上になると、モリブデン酸アルミニウムの分解により得られるモリブデン化合物(例えば三酸化モリブデン)がカリウム化合物と反応し、モリブデン酸カリウムを形成するものと考えられる。
さらに、焼成温度が1000℃以上となると、モリブデンの存在下板状アルミナ粒子の結晶成長とともに、板状アルミナ粒子表面のAlとSiOが反応し、高効率にムライトを形成するものと考えられる。
【0071】
また、焼成する時に、アルミニウム化合物と、形状制御剤と、モリブデン化合物の状態は特に限定されず、モリブデン化合物および形状制御剤がアルミニウム化合物に作用できる同一の空間に存在すれば良い。具体的には、モリブデン化合物と形状制御剤とアルミニウム化合物との粉体を混ぜ合わせる簡便な混合、粉砕機等を用いた機械的な混合、乳鉢等を用いた混合であっても良く、乾式状態、湿式状態での混合であっても良い。
【0072】
焼成温度の条件に特に限定は無く、目的とする板状アルミナ粒子の平均粒子径、アスペクト比、ムライトの形成、分散性等により、適宜、決定される。通常、焼成の温度については、最高温度がモリブデン酸アルミニウム(Al2(MoO43)の分解温度である900℃以上が好ましく、ムライトが高効率に形成される1000℃以上がより好ましい。
【0073】
一般的に、焼成後に得られるα-アルミナの形状を制御しようとすると、α-アルミナの融点に近い2000℃以上の高温焼成を行う必要があるが、焼成炉へ負担や燃料コストの点から、産業上利用する為には大きな課題がある。
【0074】
本発明に係る製造方法は、2000℃を超えるような高温であっても実施可能であるが、1600℃以下というα-アルミナの融点よりかなり低い温度であっても、前駆体の形状にかかわりなくα結晶化率が高くアスペクト比の高い板状形状となるα-アルミナを形成することができる。
【0075】
本発明の一実施形態によれば、最高焼成温度が900~1600℃の条件であっても、アスペクト比が高く、α結晶化率が90%以上である板状アルミナ粒子の形成を低コストで効率的に行うことができ、最高温度が950~1500℃での焼成がより好ましく、最高温度が1000~1400℃の範囲の焼成が最も好ましい。
【0076】
焼成の時間については、所定最高温度への昇温時間を15分~10時間の範囲で行い、且つ焼成最高温度における保持時間を5分~30時間の範囲で行うことが好ましい。板状アルミナ粒子の形成を効率的に行うには、10分~15時間程度の時間の焼成保持時間であることがより好ましい。
最高温度1000~1400℃かつ10分~15時間の焼成保持時間の条件を選択することで、緻密なα結晶形の多角板状アルミナ粒子が凝集し難く、容易に得られる。
【0077】
焼成の雰囲気としては、本発明の効果が得られるのであれば特に限定されないが、例えば、空気や酸素のといった含酸素雰囲気や、窒素やアルゴン、または二酸化炭素といった不活性雰囲気が好ましく、コストの面を考慮した場合は空気雰囲気がより好ましい。
【0078】
焼成するための装置としても必ずしも限定されず、いわゆる焼成炉を用いることができる。焼成炉は昇華した酸化モリブデンと反応しない材質で構成されていることが好ましく、さらに酸化モリブデンを効率的に利用するように、密閉性の高い焼成炉を用いる事が好ましい。
【0079】
[モリブデン除去工程]
板状アルミナ粒子の製造方法は、焼成工程後、必要に応じてモリブデンの少なくとも一部を除去するモリブデン除去工程をさらに含んでいてもよい。
【0080】
上述のように、焼成時においてモリブデンは昇華を伴うことから、焼成時間、焼成温度等を制御することで、板状アルミナ粒子表層に存在するモリブデン含有量を制御することができ、またアルミナ粒子表層以外(内層)に存在するモリブデン含有量やその存在状態を制御することができる。
【0081】
モリブデンは、板状アルミナ粒子の表面に付着しうる。上記昇華以外の手段として、当該モリブデンは水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液で洗浄することにより除去することができる。なお、モリブデンは板状アルミナ粒子から除去されていなくとも良いが、少なくとも表面のモリブデンは除去した方が、各種バインダーに基づく被分散媒体に分散させて用いる様な際には、アルミナ本来の性質を充分に発揮でき、表面に存在したモリブデンによる不都合が生じないので好ましい。
【0082】
この際、使用する水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液の濃度、使用量、および洗浄部位、洗浄時間等を適宜変更することで、モリブデン含有量を制御することができる。
【0083】
[粉砕工程]
焼成物は板状アルミナ粒子が凝集して、本発明に好適な粒子径の範囲を満たさない場合がある。そのため、板状アルミナ粒子は、必要に応じて、本発明に好適な粒子径の範囲を満たすように粉砕してもよい。
焼成物の粉砕の方法は特に限定されず、ボールミル、ジョークラッシャー、ジェットミル、ディスクミル、スペクトロミル、グラインダー、ミキサーミル等の従来公知の粉砕方法を適用できる。
【0084】
[分級工程]
板状アルミナ粒子は、平均粒子径を調整し、粉体の流動性を向上するため、またはマトリックスを形成するためのバインダーに配合したときの粘度上昇を抑制するために、好ましくは分級処理される。「分級処理」とは、粒子の大きさによって粒子をグループ分けする操作をいう。
分級は湿式、乾式のいずれでも良いが、生産性の観点からは、乾式の分級が好ましい。乾式の分級には、篩による分級のほか、遠心力と流体抗力の差によって分級する風力分級などがあるが、分級精度の観点からは、風力分級が好ましく、コアンダ効果を利用した気流分級機、旋回気流式分級機、強制渦遠心式分級機、半自由渦遠心式分級機などの分級機を用いて行うことができる。
上記した粉砕工程や分級工程は、後述する有機化合物層形成工程の前後を含めて、必要な段階において行うことができる。これら粉砕や分級の有無やそれらの条件選定により、例えば、得られる板状アルミナ粒子の平均粒子径を調整することができる。
【0085】
本発明に係る板状アルミナ粒子、或いは本発明に係る製造方法で得る板状アルミナ粒子は、凝集が少ないもの或いは凝集していないものが、本来の性質を発揮しやすく、それ自体の取扱性により優れており、また被分散媒体に分散させて用いる場合において、より分散性に優れる観点から、好ましい。板状アルミナ粒子の製造方法においては、上記した粉砕工程や分級工程は行わずに、凝集が少ないもの或いは凝集していないものが得られれば、左記工程を行う必要もなく、目的の優れた性質を有する板状アルミナを、生産性高く製造することが出来るので好ましい。
【0086】
[有機化合物層形成工程]
一実施形態において、板状アルミナ粒子の製造方法は、有機化合物層形成工程をさらに含んでいてもよい。当該有機化合物層形成工程は、通常、焼成工程の後、またはモリブデン除去工程の後に行われる。
【0087】
有機化合物層を形成する方法としては、特に制限されず、公知の方法が適宜採用されうる。例えば、有機化合物を含む液を、モリブデンを含む板状アルミナ粒子に接触させ、乾燥する方法が挙げられる。
【0088】
なお、有機化合物層の形成に使用されうる有機化合物としては、上述したものが用いられうる。
【0089】
<ガラス成分>
実施形態の組成物は、板状アルミナ粒子とガラス成分とを混合することで容易に調製することができる。本発明の組成物の調製に当たっては、板状アルミナが粒子であることから、それと混合するガラス成分も粒子であることが、混合のし易さや取扱性の観点からは、好ましい。
【0090】
ガラス成分としては、ボロンシリケート(SiO・B)等からなる非結晶質ガラス、及び、クリストバライト、アノーサイトやセルシアンと称するRO-Al-2SiO(Rはアルカリ土類金属Ca,Sr,Ba)、コージエライト(2MgO・2Al・5SiO)、ディオプサイト(CaO・MgO・2SiO)、チタン酸ランタノイド〔(TiO-LnO3(Lnはランタノイド系金属を表す。)〕等の結晶が析出する結晶質ガラスが挙げられ、いずれのものも好適に用いることができるが、耐水性、耐化学安定性、基板強度等の向上の観点から結晶質ガラスが好ましい。
【0091】
ガラス成分に含まれる化合物としては、例えば、ネットワークフォーマ成分として用いられるBO3、SiO、GeO、Al、P、V、As、Sb、ZrO等や、インターミディエート成分として用いられるTiO、ZnO、PbO、Al、ThO、BeO、ZrO、CdO等、ネットワークモディファイア(改質)成分として用いられるSc、La、Bi、Y、SnO、Ga、In、ThO、PbO、PbO、MgO、LiO、ZnO、FeO、CdO、NaO、KO、RbO、HgO、CsO等、アルカリ土類金属の酸化物(BaO、CaO、SrO、RaO等)が挙げられる。ガラス成分は、上記化合物等の酸化物を主成分として含有する酸化物ガラスであることが好ましい。ここで、主成分として含有するとは、酸化物換算されたガラス成分の総量100質量%に対して、酸化物を50質量%以上含有することをいう。これらのうち、ガラス成分は、SiOを必須成分として含有するケイ酸塩ガラスであることが好ましい。SiOはガラスの結晶化を抑制し安定性を向上させ、さらに化学安定性を付与する効果に優れる。また、Bはガラスの焼結性を向上させる効果に優れ、好適に用いられる。また、Alはガラス相の安定化に寄与し、化学安定性・耐久性を向上させる効果に優れ、好適に用いられる。また、ZnOやMgOはガラスの耐水性を向上させる効果に優れ、好適に用いられる。また、ZrOは化学安定性を向上させる効果に優れ、好適に用いられる。また、BaO、CaO等のアルカリ土類金属の酸化物は、ガラス溶融時の粘度低下による焼結性を向上する効果に優れ、好適に用いられる。また、NaOやKOはガラス溶融温度やガラス転移温度(Tg)を低下させ、焼結性を向上させる効果に優れ、好適に用いられる。
【0092】
上記に挙げた化合物は、複数種類を組み合わせてもよく、2種、または3種以上の如何なる組み合わせでもよく、如何なる割合で含まれていてもよい。ガラス成分に含まれる、より好ましい化合物としては、BaO、SiO、B、Al、MgO、ZnO、ZrO、アルカリ土類金属の酸化物、NaO、及びKOが挙げられる。酸化物換算されたガラス成分の総量100質量%に対して、必須成分であるSiOは10~60質量%、Bは0~60質量%、Alは0~40質量%、MgOは0~60質量%、ZnOは0~40質量%、ZrOは0~40質量%、RO(Rはアルカリ土類金属を表す。)は0~30質量%、NaOまたはKOは0~30質量%の割合で含有するものが、焼結性が良好で、外観に優れ平滑性に優れたガラスセラミックス基板が得られ、また化学安定性、耐水性、強度に優れたガラスセラミックス基板が得られるため好ましい。
ガラス成分は、SiOと、上記B、Al、MgO、ZnO、ZrO、RO(Rはアルカリ土類金属を表す。)、NaO、及びKOからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物と、を主成分として含有することが好ましい。ここで、主成分として含有するとは、酸化物換算されたガラス成分の総量100質量%に対して、SiOと、上記B、Al、MgO、ZnO、ZrO、RO(Rはアルカリ土類金属を表す。)、NaO、及びKOからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物との質量の和が50質量%以上であることをいう。ガラス成分は、SiOと、MgO及びRO(Rはアルカリ土類金属を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物と、を主成分として含有することが好ましい。ここで、主成分として含有するとは、酸化物換算されたガラス成分の総量100質量%に対して、SiOと、MgO及びRO(Rはアルカリ土類金属を表す。)からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物との質量の和が50質量%以上であることをいう。そのうち、酸化物換算されたガラス成分の総量100質量%に対して、SiOは40質量%以上含有されていることが好ましく、50質量%以上含有されていることがより好ましく、60質量%以上含有されていることがさらに好ましい。
【0093】
ガラス成分に含まれる化合物の、好ましい組み合わせの一例としては、LiO-SiOやNaO-MgO-SiO-NaO-BaO-SiOなどのケイ酸塩ガラス、LiO-Al-SiO、MgO-Al-SiO、BaO-Al-CaO-MgO-Al-SiOなどのアルミノケイ酸塩ガラス、PbO-ZnO-ZnO-B、CdO-In-BSiOなどのホウ酸塩ガラス、Al-B-SiO、ZnO-B-SiOなどのホウケイ酸ガラス、MgO-P-SiO、CaO-Al-P-SiOなどのリンケイ酸塩ガラスなどが挙げられる。
【0094】
ガラス成分は、ガラス粉末の形態であるものを用いることができる。ガラス粉末の種類は特に限定されるものではなく、種々のものを使用用途に応じ適宜用いることができる。
ガラス粉末の平均粒子径は、特に制限はないが、一例として、0.1~10μmが好ましい。ガラス粉末の平均粒径が上記範囲内であると、取り扱い性に優れるため好ましい。また、板状アルミナ粒子と混合する際、ガラス粉末と板状アルミナの平均粒子径の差がより小さくなり、粒子が均一混合された組成物、グリーンシートが得られ好ましい。さらには、焼成時、熱伝導性の均一化により焼成のむらが生じにくくなり、より緻密なガラスセラミックス基板を得られることが可能となり好ましい。「ガラス粉末の平均粒子径」は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定された体積基準の累積粒度分布から、体積基準メジアン径d50として算出された値とする。
【0095】
実施形態の組成物は、板状アルミナ粒子及びガラス成分以外にも、バインダー成分、可塑剤、溶剤等を含有してもよい。
【0096】
バインダー成分としては、グリーンシートとして塗工が可能なものであり、本発明の効果を損なうものでなければ特に限定されず、各種樹脂を例示でき、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルブチラール、オレフィン樹脂、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。これより、グリーンシートの膜厚均一性、塗工のし易さ、取り扱い性などに優れることより、アクリル樹脂およびエポキシ樹脂が好ましい。アクリル樹脂としては、アクリル系重合体が挙げられ、(メタ)アクリル酸重合体、(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル重合体、(メタ)アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。アクリル樹脂を構成する前記(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。
【0097】
可塑剤としては、本発明の効果を損なうものでなければ特に制限なく用いることができ、例えば、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジエステル、アジピン酸ジイソノニル、リン酸エステル、セバシン酸エステル、低分子量ポリエステル、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリエーテルポリオール、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等が挙げられる。可塑剤を含有することで、組成物の粘度が低減し、塗工の膜厚を均一化でき、塗工のしやすさを向上させることができる。
【0098】
溶剤としては特に限定されず、本発明の効果を損なうものでなければ如何なるものでも使用できる。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;ジイソプロピルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、1,4-ジオキサン等のエーテル系溶剤;メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶剤等が挙げられる。溶剤を含有することで、バインダー樹脂を溶解し、ガラス成分と板状アルミナの分散性を向上させることができる。
【0099】
また、実施形態の組成物は、本発明の効果を損なうものでなければ、高い熱伝導率を維持しつつ、緻密性、耐熱性、耐水性、耐薬品性などの種々の物性をより高めるという目的において、本発明の実施形態に係る板状アルミナ粒子及びガラス成分以外にも、これらに該当しない、アルミナ、酸化マグネシウム、窒化アルミ、炭化珪素、酸化亜鉛、窒化ホウ素、黒鉛などの無機フィラーを含有することができる。これらフィラーの形状に特に制限はなく、球状、板状、燐片状、繊維状、不定形等いかなるものを用いても構わない。
【0100】
実施形態の組成物は、例えば、上記板状アルミナ粒子と、ガラス成分とを混合して製造することができる。形態の組成物は、例えば、上記板状アルミナ粒子と、ガラス成分と、バインダー成分と、可塑剤と、溶剤とを混合して製造することができる。
組成物の総質量100質量%に対する上記ガラス成分の含有量は、例えば、30~80質量%が好ましく、40~70質量%がより好ましく、50~65質量%がさらに好ましい。
実施形態の組成物は、バインダー成分を含有することで、それ自体又はシートとした後に、より容易に所望の形状を保持させることができる。
上記板状アルミナ粒子及びガラス成分の総質量100質量%に対する上記板状アルミナ粒子の含有量は、例えば、5~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましく、15~25質量%がさらに好ましい。
組成物の総質量100質量%に対する上記バインダー成分の含有量は、固形分換算で、例えば、0.5~10質量%が好ましく、1~8質量%がより好ましく、3~5質量%がさらに好ましい。
組成物の総質量100質量%に対する上記可塑剤の含有量は、例えば、0.5~5質量%が好ましい。
組成物の総質量100質量%に対する上記溶剤の含有量は、例えば、10~50質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましく、20~35質量%がさらに好ましい。
実施形態の組成物に含まれる上記板状アルミナ粒子、ガラス成分、バインダー成分、可塑剤、溶剤の量が、上記範囲内にあることで、組成物の成形加工性並びに焼成後の強度及び熱伝導率の点で、より優れたものとすることができる。
【0101】
≪グリーンシート≫
実施形態の組成物は、ガラスセラミックス基板の製造に好適に用いられ、実施形態の組成物を用いてグリーンシートを製造できる。すなわち、実施形態の組成物は、クリーンシートの製造に使用されるグリーンシート製造用組成物として用いることができる。
本発明の一実施形態として、実施形態の組成物を用いて製造されたグリーンシートを提供できる。実施形態のグリーンシートは、上記組成物をシート成形して製造することができる(成形加工工程)。シート成形の方法は特に制限されるものではないが、上記方法により得られたスラリー(グリーンシート製造用組成物)をシート状に成形加工することが挙げられる。成形加工方法は、特に限定されず、ドクターブレード法、プレス成形法、圧延法、カレンダーロール法等の公知の方法に基づき成形することができるが、膜厚調整が容易に可能で、かつ膜厚均一性に優れるドクターブレード法によりシート成形することが好ましい。実施形態の組成物は、離型シート上にシート成形することができる。シート成形時又はシート成形後には、必要に応じて乾燥処理を行ってもよい。また、シート成形後に、カッター又は打抜き型等により所望の形状に加工されてよい。
実施形態のグリーンシートは、導電パターンを有していてもよい。導電パターンは、導電性金属を含む導電材料を、ビアホール等の貫通孔内に充填すること、グリーンシート上に印刷すること等により形成できる。
実施形態のグリーンシートは、グリーンシートが複数枚積層された積層体として提供できる。積層体は、必要に応じてプレス加工を施されてもよい。実施形態のグリーンシートは、片方又は両方の側の最表面に離型シートを有していてもよい。
【0102】
実施形態のグリーンシートの厚みは、後述のガラスセラミックス基板の厚みに応じて、適宜調整される。グリーンシートが積層体である場合には、上記厚みは、複数層あるグリーンシートの厚みの合計とする。
【0103】
≪焼成物・ガラスセラミックス基板≫
本発明の一実施形態として、実施形態の組成物の焼成物を提供できる。当該焼成物としては、実施形態のグリーンシートの焼成物を例示できる。実施形態のグリーンシートを焼成することで、本発明の一実施形態のガラスセラミックス基板を製造できる。実施形態のガラスセラミックス基板は、実施形態の焼成物を備える。
【0104】
実施形態の組成物も、グリーンシートも、焼成することで焼成物とすることができる。この焼成により、含有していたバインダー成分は焼失し、含有していたガラス成分が溶融し連続層を形成すると共に、このガラス連続層中に板状アルミナ粒子が分散し、板状アルミナ粒子とガラス成分とがムライトを起点として強く密着した焼成物が得られる。実施形態の組成物も、グリーンシートも、焼成条件に特に制限は無く、いずれも同様の条件で焼成することができる。得られた焼成物中の板状アルミナ粒子は、その板面が焼成物の平面方向に並ぶため、厚み方向の機械的強度を著しく高めることが可能となる。この焼成物は、例えば、ガラスセラミックス基板として用いることができる。
【0105】
実施形態の組成物を焼成する焼成温度及び焼成時間は、一例として、850℃~1000℃で、0.5~3時間程度とすることができる。
【0106】
実施形態の焼成物の密度は、使用するガラス成分の密度、および板状アルミナの密度、配合割合により値が異なり、実施形態の焼成物(ガラスセラミックス基板)の密度はガラス成分の密度、および板状アルミナの密度を求め、配合割合より算出することができる(配合割合より求めたガラスセラミックス基板の密度を理論密度と呼ぶ。)。
組成物内およびグリーンシート内に分散されたガラス成分、ならびに焼成時における溶融ガラスと、板状アルミナとのなじみが悪いと、焼成物内のガラス成分と板状アルミナとの界面に空隙が生じることとなる。その結果、ガラスセラミックス内に密度の低い空気(0.001293g/cm)の層が含まれることとなり、実施形態の焼成物(ガラスセラミックス基板)の密度を測定すると、配合割合より算出した値よりも小さくなる。
従って、実施形態の焼成物(ガラスセラミックス基板)の内のガラス成分と板状アルミナのなじみが良く、より多くの界面が密着することで、緻密な構造となっている場合、実施形態の焼成物(ガラスセラミックス基板)の測定密度は理論密度により近くなり、一方、ガラス成分と板状アルミナのなじみが悪いと、より多くの界面に空隙が生じ、実施形態の焼成物(ガラスセラミックス基板)の測定密度は理論密度と比較しより小さくなる。
実施形態の焼成物(ガラスセラミックス基板)の緻密性(%)は、以下の式にて求めることができる。緻密性の値がより高いほど、ガラス成分と板状アルミナのなじみが良く、密着性が高く、より高い熱伝導率、機械強度を発現するもと考えられる。尚、密度は、アルキメデス法により求めた値である。
緻密性(%)= (実測密度(g/cm)/理論密度(g/cm))×100
【0107】
ガラスセラミックス基板の厚みは、例えば、0.05mm~5mmとすることができる。
実施形態の組成物が焼成されると、組成物に含まれる上記バインダー成分、可塑剤、及び溶剤は、熱分解又は揮発する一方で、ガラス成分は溶融して焼成物を構成する分散媒の少なくとも一部となる。そして、溶融後に固まったガラス成分の中に、上記板状アルミナ粒子が分散した状態となる。
なお、少なくとも上記焼成条件による焼成であれば、通常、板状アルミナ粒子が完全に溶融することはない。また、板状アルミナ粒子が有するムライトも、板状アルミナ粒子の表面に保持される。したがって、実施形態の焼成物に含まれる板状アルミナ粒子は、上記で説明した種々の特徴を有するものである。
【0108】
実施形態の焼成物は、上記板状アルミナ粒子と、ガラス成分とを含む。
焼成物の総質量100質量%に対する上記アルミナ粒子の含有量は、例えば、10~60質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましく、20~30質量%がさらに好ましい。
焼成物の総質量100質量%に対する上記ガラス成分の含有量は、例えば、50~90質量%が好ましく、60~85質量%がより好ましく、70~80質量%がさらに好ましい。
実施形態の焼成物に含まれる、上記板状アルミナ粒子及びガラス成分の量が上記範囲内にあることで、焼成後の強度及び熱伝導率の点で、より優れたものとすることができる。
【0109】
実施形態の焼成物(ガラスセラミックス基板)の熱伝導率は、1.3W/mk以上であることが好ましく、1.5W/mk以上であることがより好ましく、1.8W/mk以上であることがさらに好ましい。
熱伝導率は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0110】
実施形態の焼成物(ガラスセラミックス基板)の曲げ強度は、130Mpa以上であることが好ましく、140Mpa以上であることがより好ましく、160Mpa以上であることがさらに好ましい。
曲げ強度は、後述する実施例に記載の測定条件と同一の条件、又は同一の測定結果が得られる互換性のある条件のもと実施されるものとする。
【0111】
従来、無機粒子が含有されているガラスセラミックス基板はあったが、無機粒子を含有させる目的は、基板強度を高めることや、基板収縮を抑えることにあった。
一方、熱伝導率等の熱特性に着目すると、各種無機粒子のなかでアルミナ粒子は優れた特性を有している。アルミナ粒子のなかでも、本発明の実施形態に係る板状アルミナ粒子は熱伝導率が高く、特に優れている。
また、実施形態の板状アルミナ粒子を配合するガラスセラミックス基板は、従来のアルミナ粒子を配合するガラスセラミックス基板と比較し、熱伝導率が高く、且つ曲げ強度も高い。このような効果が得られる理由を以下に考察する。実施形態の板状アルミナ粒子は、表層にムライトを含んでいる。ムライトはSiを構成元素として含むため、SiOを必須成分として含有するガラス成分と馴染みがよく、ガラス成分との焼成物としたときに、ガラス成分と板状アルミナ粒子との密着性が高められていると考えられる。その結果、焼成物の緻密性(密度)が向上し、熱伝導率が高く機械強度に優れたものとなると考えられる。
また、1GHzにおけるムライトの比誘電率は6~7であり、アルミナの比誘電率は9~10である。このことから、従来のムライトを含まないアルミナ粒子を原料として製造されたガラスセラミックス基板と比較して、本発明の実施形態に係る表層にムライトを含む板状アルミナ粒子を原料として製造されたガラスセラミックス基板は、比誘電率の値が低く、より低誘電率化されているものと期待される。
尚、基板内のガラス成分と板状アルミナの界面の評価としては、基板断面の化学機械研磨を行った後、イオンミリング処理を行い、研磨面のSEM観察し、元素差より生じる反射電子像のコントラストを求める手法が挙げられる。アルミ成分相と板状アルミナ成分相、および空隙相の面積比を求めることで空隙率%を表わすことが可能である。これより、ガラス成分と本発明に用いた、ムライト層を含む板状アルミナ粒子の界面を観察したところ、ムライト層を含まない板状アルミナを用いた場合と比較し、空隙が極端に少なく、緻密性に優れた基板であることが推測できる。
また、ガラス成分と板状アルミナの界面の評価方法として、基板断面をTEMやSTEM観察を行うことで、界面ならびに界面近傍のガラス成分、ならびに板状アルミナの結晶構造・組成を把握することができる。前述の通り、本発明における基板においては、板状アルミナ表層にSi-O-Al結合を有する層を有するものであることより、ガラス成分と板状アルミナ成分の界面はSi-O-Al結合相とガラス成分Si-O-Si結合相とが連続する相となっているものと推測され、かつ、前述のSEM観察においては界面における空隙相の割合が極めて少ない結果より、本発明に用いる板状アルミナ粒子がガラス成分とのなじみが良く、密着性に優れるものと推測できる。
【実施例
【0112】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0113】
≪板状アルミナ粒子の製造≫
<製造例A-1>
水酸化アルミニウム145.3g(日本軽金属株式会社製、平均粒子径2μm)と、二酸化珪素(関東化学株式会社製、特級)0.95gと、三酸化モリブデン(太陽鉱工株式会社製)5gとを乳鉢で混合し、混合物を得た。得られた混合物を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて5℃/分の条件で1100℃まで昇温し、1100℃で10時間焼成を行なった。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、坩堝を取り出し、98gの薄青色の粉末を得た。得られた粉末を乳鉢で、106μm篩を通るまで解砕した。
続いて、得られた前記薄青色粉末の97gを0.5%アンモニア水の150mLに分散し、分散溶液を室温(25~30℃)で0.5時間攪拌後、ろ過によりアンモニア水を除き、水洗浄と乾燥を行う事で、粒子表面に残存するモリブデンを除去し、95gの白色の粉末を得た。得られた粉末はSEM観察により形状が多角板状であり、凝集体が極めて少なく、優れた取り扱い性を有する板状形状の粒子であることが確認された。さらに、XRD測定を行ったところ、α-アルミナに由来する鋭いピーク散乱が現れ、α結晶構造以外のアルミナ結晶系ピークは観察されなく、緻密な結晶構造を有する板状アルミナであることを確認した。また、α化率は90%以上であった。さらに、蛍光X線定量分析の結果から、得られた粒子は、モリブデンを三酸化モリブデン換算で0.58%含むものであることを確認した。さらに、密度を測定した結果3.95g/cmであった。
【0114】
<製造例A-2>
水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製、平均粒子径12μm)145.3gと、二酸化珪素4.75gと、三酸化モリブデン(太陽鉱工株式会社製)5gとを乳鉢で混合した以外は製造例A-1と同様の操作を行い98gの白色の粉末を得た。得られた粉末はSEM観察により形状が多角板状であり、凝集体が極めて少なく、優れた取り扱い性を有する板状形状の粒子であることが確認された。さらに、XRD測定を行ったところ、α-アルミナに由来する鋭いピーク散乱が現れ、α結晶構造以外のアルミナ結晶系ピークは観察されなく、緻密な結晶構造を有する板状アルミナであることを確認した。また、α化率は90%以上であった。さらに、蛍光X線定量分析の結果から、得られた粒子は、モリブデンを三酸化モリブデン換算で0.86%含むものであることを確認した。さらに、密度を測定した結果3.75g/cmであった。
【0115】
<製造例A-3>
水酸化アルミニウム145.3g(日本軽金属株式会社製、平均粒子径2μm)と、二酸化珪素1.90gと、三酸化モリブデン(太陽鉱工株式会社製)5gとを乳鉢で混合した以外は製造例A-1と同様の操作を行い98gの薄青色の粉末を得た。得られた粉末はSEM観察により形状が多角板状であり、凝集体が極めて少なく、優れた取り扱い性を有する板状形状の粒子であることが確認された。さらに、XRD測定を行ったところ、α-アルミナに由来する鋭いピーク散乱が現れ、α結晶構造以外のアルミナ結晶系ピークは観察されなく、緻密な結晶構造を有する板状アルミナであることを確認した。また、α化率は90%以上であった。さらに、蛍光X線定量分析の結果から、得られた粒子は、モリブデンを三酸化モリブデン換算で0.88%含むものであることを確認した。さらに、密度を測定した結果3.94g/cmであった。
【0116】
<製造例A-4>
水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製、平均粒子径12μm)122.3gと、二酸化珪素1.60gと、三酸化モリブデン(太陽鉱工株式会社製)20gとを乳鉢で混合した以外は製造例A-1と同様の操作を行い80gの青色の粉末を得た。得られた粉末はSEM観察により形状が多角板状であり、凝集体が極めて少なく、優れた取り扱い性を有する板状形状の粒子であることが確認された。さらに、XRD測定を行ったところ、α-アルミナに由来する鋭いピーク散乱が現れ、α結晶構造以外のアルミナ結晶系ピークは観察されなく、緻密な結晶構造を有する板状アルミナであることを確認した。また、α化率は90%以上であった。さらに、蛍光X線定量分析の結果から、得られた粒子は、モリブデンを三酸化モリブデン換算で0.96%含むものであることを確認した。さらに、密度を測定した結果3.95g/cmであった。
【0117】
≪板状アルミナ粒子の評価≫
上記の製造例A-1~A-4で製造した粉末を試料とし、以下の評価を行った。測定方法を以下に示す。
【0118】
[板状アルミナの長径Lの計測]
レーザー回折式粒度分布計HELOS(H3355)&RODOS、R3:0.5/0.9-175μm(株式会社日本レーザー製)を用い、分散圧3bar、引圧90mbarの条件で平均粒子径d50(μm)を求め長径Lとした。
【0119】
[板状アルミナの厚みDの計測]
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、50個の厚みを測定した平均値を採用し、厚みD(μm)とした。
【0120】
[アスペクト比L/D]
アスペクト比は下記の式を用いて求めた。
アスペクト比 = 板状アルミナの長径L/板状アルミナの厚みD
【0121】
[XRDピーク強度比・ムライトの有無の分析]
作製した試料を0.5mm深さの測定試料用ホルダーにのせ、一定荷重で平らになるように充填し、それを広角X線回折(XRD)装置(株式会社リガク製 Rint-Ultma)にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード2度/分、走査範囲10~70度の条件で測定を行った。
2θ=26.2±0.2度に認められるムライトのピーク高さをA、2θ=35.1±0.2度に認められる(104)面のα-アルミナのピーク高さをBとし、2θ=30±0.2度のベースラインの値をCとして下記の式よりムライトの有無を判定した。
値が0.02以上はムライトが「有」とし、0.02未満はムライトが「無」と判定した。
【0122】
【数1】
【0123】
[板状アルミナ粒子表層のSi量の分析]
X線光電子分光(XPS)装置Quantera SNM(アルバックファイ社 )を用い、作製した試料を両面テープ上にプレス固定し、以下の条件で組成分析を行った。
・X線源:単色化AlKα、ビーム径100μmφ、出力25W
・測定:エリア測定(1000μm四方)、n=3
・帯電補正:C1s=284.8eV
XPS分析結果により求められる[Si]/[Al]を板状アルミナ粒子表層のSi量とした。
【0124】
[板状アルミナ内に含まれるMo量の分析]
蛍光X線分析装置PrimusIV(株式会社リガク製) を用い、作製した試料約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて組成分析を行った。
XRF分析結果により求められるモリブデン量を、板状アルミナ粒子100質量%に対する三酸化モリブデン換算(質量%)により求めた。
【0125】
[密度の測定]
作製した試料を、300℃3時間の条件で前処理を行った後、マイクロメリティックス社製 乾式自動密度計アキュピックII1330を用いて、測定温度25℃、ヘリウムをキャリアガスとして使用した条件で測定した。
【0126】
[等電点の測定]
ゼータ電位測定をゼータ電位測定装置(マルバーン社、ゼータサイザーナノZSP)にて行った。試料20mgと10mM KCl水溶液10mLを泡取り錬太郎(シンキー社、ARE-310)にて攪拌・脱泡モードで3分間攪拌し、5分静置した上澄みを測定用試料とした。自動滴定装置により、試料に0.1N HClを加え、pH=2までの範囲でゼータ電位測定を行い(印加電圧100V、Monomodlモード)、電位ゼロとなる等電点のpHを評価した。
【0127】
[α化率の分析]
作製した試料を0.5mm深さの測定試料用ホルダーにのせ、一定荷重で平らになる様充填し、それを広角X線回折装置(株式会社リガク製 Rint-Ultma)にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード2度/分、走査範囲10~70度の条件で測定を行った。α-アルミナと遷移アルミナの最強ピーク高さの比よりα化率を求めた。
【0128】
≪バインダー樹脂の合成≫
<製造例B-1>
キシレン100部を、窒素気流中80℃に保ち、攪拌しながらメタクリル酸エチル68部、メタクリル酸2-エチルヘキシル29部、チオグリコール酸3部、および重合開始剤(「パーブチルO」〔有効成分ペルオキシ2-エチルヘキサン酸t-ブチル、日本油脂(株)製〕)0.2部からなる混合物を4時間かけて滴下した。滴下終了後、4時間ごとに「パーブチルO」0.5部を添加し、80℃で12時間攪拌した。反応終了後不揮発分調整のためキシレンを加え、不揮発分(固形分)50%の、片末端にカルボキシル基を有するビニル共重合体のキシレン溶液を得た。該樹脂の質量平均分子量は7000、酸価は18.0mgKOH/g、ガラス転移温度Tgは38℃であった。
【0129】
≪組成物・グリーンシート・ガラスセラミックス基板の製造≫
<実施例1>
上記製造例A-1で得た板状アルミナ粒子7.13gと、ガラス粉末(旭硝子株式会社平均粒子径d50 4.5μm、アルキメデス法による密度測定結果3.512、SiO、MgO、アルカリ土類金属の酸化物を主成分とする)25.26g、上記製造例B-1で得たバインダー樹脂(固形分50質量%)のキシレン溶液3.92g、可塑剤(フタル酸ジブチル)0.66g、メチルエチルケトン13.04gを配合し自公転ミキサーを用い混合してペーストを得た。焼成後のガラスセラミックス基板中の板状アルミナフィラーの含有量が、ガラス成分と板状アルミナフィラーの合計量に対して、20体積%となるよう配合した。
作製したペーストをポリエチレンテレフタレートフィルム上にドクターブレード法により成膜し、乾燥機で乾燥後、基板用グリーンシートを複数形成した。
次に、複数枚の基板用グリーンシートを、焼成後のガラスセラミックス多層基板の厚さが0.2mmとなる様、積層して、50MPaでプレスした後、大気中900℃1時間の条件で焼成し、ガラスセラミックス基板を得た。
【0130】
<実施例2>
上記製造例A-2で得た板状アルミナ粒子6.84gと、ガラス粉末25.52g、上記製造例B-1で得たバインダー樹脂(固形分50質量%)のキシレン溶液3.96g、可塑剤0.66g、メチルエチルケトン13.02gを配合した以外は実施例1と同様の操作を行い、ガラスセラミックス基板を得た。
【0131】
<実施例3>
上記製造例A-3で得た板状アルミナ粒子7.11gと、ガラス粉末25.27g、上記製造例B-1で得たバインダー樹脂(固形分50質量%)のキシレン溶液3.92g、可塑剤0.65g、メチルエチルケトン13.04gを配合した以外は実施例1と同様の操作を行い、ガラスセラミックス基板を得た。
【0132】
<実施例4>
上記製造例A-4で得た板状アルミナ粒子7.11gと、ガラス粉末25.27g、上記製造例B-1で得たバインダー樹脂(固形分50質量%)のキシレン溶液3.92g、可塑剤0.65g、メチルエチルケトン13.04gを配合した以外は実施例1と同様の操作を行い、ガラスセラミックス基板を得た。
【0133】
<比較例1>
市販の板状アルミナ(キンセイマテック製 セラフ、密度を測定した結果3.94g/cmであった。また、蛍光X線定量分析の結果から、モリブデンが検出されないことを確認した。)7.11gと、ガラス粉末25.27g、上記製造例B-1で得たバインダー樹脂(固形分50質量%)のキシレン溶液3.92g、可塑剤0.65g、メチルエチルケトン13.04gを配合した以外は実施例1と同様の操作を行い、ガラスセラミックス基板を得た。
【0134】
上記組成物の配合を表1に示す。上記板状アルミナ粒子の原料化合物の酸化物換算の配合(全体を100質量%とする)、及び板状アルミナ粒子の評価結果について表2に示す。
【0135】
【表1】
【0136】
≪ガラスセラミックス基板の評価≫
上記の実施例1~4及び比較例1で製造したガラスセラミックス基板を試料とし、以下の評価を行った。測定方法を以下に示す。
【0137】
[ガラスセラミックス基板の密度の測定]
実施例1~4及び比較例1で得たガラスセラミックス基板のサイズが30mm×30mm×0.2mmとなるよう調整し、大気中とエタノール成形体の重量を小数4位まで測定し、アルキメデス法により、密度を測定した。
【0138】
[ガラスセラミックス基板の熱伝導率の測定]
実施例1~4及び比較例1で得た複数枚の基板用グリーンシートを、焼成後のガラスセラミックス多層基板の厚さが1.0mmとなる様、積層して、50MPaでプレスした後、大気中900℃1時間の条件で焼成し、ガラスセラミックス基板を得た。その後、ガラスセラミックス基板を10mm×10mm×1.0mmとなるよう調整し、キセノンフラッシュ法による熱伝導率測定装置(LFA467 HyperFlash、NETZSCH社製)を用いて、25℃における面に対し垂直方向に伝熱する熱拡散率及び比熱の測定を行った。
比熱については、10mm×10mm×1mmのパイロセラム9606をレファレンスとして測定した。得られた熱拡散率、比熱、そして密度の積から、ガラスセラミックス基板の熱伝導率を見積もった。
【0139】
[ガラスセラミックス基板の曲げ強度の測定]
JIS C2141に準拠する3点曲げ強さ試験を行った。ガラスセラミックス多層基板の一辺を、支点間距離が40mmとなる様、2点で支持し、これと対向する辺における上記2点の中間位置にクロスヘッドの移動速度0.5mm/分の速度で加重を加えて、試験片が破壊したときの最大荷重を測定し、3点曲げ強度(MPa)を算出した。当該曲げ強度を5点測定して平均値を求めた。
【0140】
上記ガラスセラミックス基板の評価結果を表2に示す。
【0141】
【表2】
【0142】
上記実施例1~4、及び比較例1で用いられた粉末は、SEM観察により、形状が多角で、上記表2に記載の厚み、平均粒子径、アスペクト比を有するものであることを確認した。
【0143】
また、α化率の測定を行ったところ、上記実施例1~4及び比較例1で用いられた粉末は、α化率が90%以上であることを確認した。
【0144】
上記実施例1~4で用いられた粉末では、XRDピーク強度比の値が0.02以上であり、ムライトの存在が認められた。
【0145】
また、XPS分析により、Si化合物の2p領域のスペクトルピークを比較したところ、実施例1~4で用いられた粉末では、ムライト構造のSi-O-Alの検出を表わす、102.5±0.5eVの結合エネルギー範囲に0.15以上の高いピークが認められることを確認した。
また、比較例1で用いられた粉末では、102.5±0.5eVの結合エネルギー範囲にピークは認められなかった。
【0146】
実施例1~4と比較例1との対比によれば、表層にムライトを含む板状アルミナ粒子を原料に製造された実施例1~4のガラスセラミックス基板は、表層にムライトを含まない板状アルミナ粒子を原料に製造された比較例1のガラスセラミックス基板よりも、密度、緻密性、熱伝導率、及び曲げ強度のいずれもが高いものであった。したがって実施例1~4のガラスセラミックス基板は、高強度且つ高熱耐性を有する優れたガラスセラミックス基板であることが判明した。
【0147】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。