(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】繊維処理用の処理剤、繊維及びその製造方法、並びに繊維シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/643 20060101AFI20220720BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
D06M15/643
C09K3/18 104
(21)【出願番号】P 2018566097
(86)(22)【出願日】2018-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2018003465
(87)【国際公開番号】W WO2018143364
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2021-01-04
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/003864
(32)【優先日】2017-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】小竹 智彦
(72)【発明者】
【氏名】牧野 竜也
(72)【発明者】
【氏名】岩永 抗太
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/010551(WO,A1)
【文献】特開2010-235931(JP,A)
【文献】特開平07-305053(JP,A)
【文献】特開2006-200083(JP,A)
【文献】特開2007-177232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715
C09K3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と、該繊維の被処理面上に下記式(1)で表される構造を有する化合物を含む撥水部と、を備え、
前記撥水部がエアロゲルを含まない、撥水性繊維。
【化1】
[式(1)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、R
3及びR
4はそれぞれ独立にアルキレン基を示す。]
【請求項2】
繊維と、該繊維の被処理面上に、支柱部及び橋かけ部を備えるラダー型構造を有し、前記橋かけ部が下記式(2)で表される化合物を含む撥水部と、を備え、
前記撥水部がエアロゲルを含まない、撥水性繊維。
【化2】
[式(2)中、R
5及びR
6はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、bは1~50の整数を示す。]
【請求項3】
下記式(3)で表される構造を有する化合物を含む前記撥水部、を備える、請求項
2に記載の撥水性繊維。
【化3】
[式(3)中、R
5、R
6、R
7及びR
8はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、a及びcはそれぞれ独立に1~3000の整数を示し、bは1~50の整数を示す。]
【請求項4】
前記撥水部がシリカ粒子をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の撥水性繊維。
【請求項5】
前記シリカ粒子の1g当りのシラノール基数が、10×10
18
~1000×10
18
個/gである、請求項4に記載の撥水性繊維。
【請求項6】
請求項
1~5のいずれか一項に記載の撥水性繊維を含む、撥水性繊維シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維処理用の処理剤、繊維及びその製造方法、並びに繊維シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維を撥水加工又は撥油加工する技術としては、例えば、撥水性の化合物を溶剤又は水に溶解又は分散させた溶液、エマルジョン、ディスパージョン等を繊維に塗布した後、溶剤、水等を気化させ撥水性の連続被膜を形成させる方法が一般的に知られている。
【0003】
また、特許文献1には、撥水性粒子を紡糸原液に添加混合することにより、繊維中に撥水性粒子を含有させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、繊維に撥水性能を付与するために用いられる処理剤は、撥水性に優れることが求められる。また、当該処理剤は、撥水性に加えて、例えば、断熱性を付与できることが好ましいと考えられる。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、繊維に優れた撥水性と断熱性とを付与できる繊維処理用の処理剤を提供することを目的とする。本発明はまた、上記処理剤を用いる、繊維の製造方法及び繊維シートの製造方法、並びに、上記処理剤を用いて得られる繊維及び繊維シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、分子内に反応性基(加水分解性の官能基又は縮合性の官能基)を有するポリシロキサン化合物を含む液状組成物を用いて得られる処理剤において、優れた撥水性と断熱性とが発現されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明は、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物、及び、該加水分解性の官能基を有するポリシロキサン化合物の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種を含有する液状組成物の縮合物を含む、繊維処理用の処理剤を提供する。また、本発明は、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物、及び、該加水分解性の官能基を有するポリシロキサン化合物の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種を含有する液状組成物を含む、繊維処理用の処理剤を提供する。このような処理剤によれば、繊維に優れた撥水性及び断熱性を付与できる。
【0009】
上記処理剤において、液状組成物がシリカ粒子を更に含有していてもよい。このような処理剤は、撥水性と断熱性とが更に向上する。
【0010】
上記シリカ粒子の1g当りのシラノール基数は、10×1018~1000×1018個/gであってもよい。これにより、低温、かつ短時間で処理できると共に、撥水性が更に向上する。また、これにより、処理剤と繊維との密着性が向上する。
【0011】
上記縮合性の官能基がヒドロキシアルキル基である場合、上記ポリシロキサン化合物としては、下記式(A)で表される化合物が挙げられる。これにより、更に優れた撥水性と密着性とを達成することができる。
【0012】
【化1】
[式(A)中、R
1aはヒドロキシアルキル基を示し、R
2aはアルキレン基を示し、R
3a及びR
4aはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、nは1~50の整数を示す。]
【0013】
上記加水分解性の官能基がアルコキシ基である場合、上記ポリシロキサン化合物としては、下記式(B)で表される化合物が挙げられる。これにより、更に優れた撥水性と密着性とを達成することができる。
【0014】
【化2】
[式(B)中、R
1bはアルキル基、アルコキシ基又はアリール基を示し、R
2b及びR
3bはそれぞれ独立にアルコキシ基を示し、R
4b及びR
5bはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、mは1~50の整数を示す。]
【0015】
上記処理剤において、液状組成物が、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するシランモノマー、及び、該加水分解性の官能基を有するシランモノマーの加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種を更に含有していてもよい。これにより、更に優れた撥水性と密着性とを達成することができる。
【0016】
上記処理剤において、液状組成物が、エアロゲル粒子を更に含有していてもよい。これにより、撥水性がより向上する。
【0017】
上記処理剤は、繊維の被処理面に撥水部を形成するために用いられてもよい。このような撥水部を形成することにより、更に優れた撥水性を達成することができる。この際、撥水部はエアロゲルを含んでいてもよい。
【0018】
本発明はまた、下記式(1)で表される構造を有する化合物を含む撥水成分、を含有する、繊維処理用の処理剤を提供する。このような処理剤は、撥水性と断熱性とに優れる。
【0019】
【化3】
[式(1)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、R
3及びR
4はそれぞれ独立にアルキレン基を示す。]
【0020】
本発明はまた、支柱部及び橋かけ部を備えるラダー型構造を有し、前記橋かけ部が下記式(2)で表される化合物を含む撥水成分、を含有する、繊維処理用の処理剤を提供する。このような処理剤は、ラダー型構造に起因する優れた断熱性、撥水性及び耐久性を有している。
【0021】
【化4】
[式(2)中、R
5及びR
6はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、bは1~50の整数を示す。]
【0022】
なお、ラダー型構造を有する化合物としては、下記式(3)で表される構造を有する化合物が挙げられる。これにより、更に優れた撥水性及び耐久性を達成することができる。
【0023】
【化5】
[式(3)中、R
5、R
6、R
7及びR
8はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、a及びcはそれぞれ独立に1~3000の整数を示し、bは1~50の整数を示す。]
【0024】
上記撥水部はエアロゲルを含んでいてもよい。また、上記撥水成分はエアロゲルであってもよい。これにより、更に優れた撥水性と断熱性とを達成することができる。
【0025】
本発明は、上記処理剤を用いて繊維を処理する工程を備える、表面処理繊維の製造方法を提供する。このような製造方法によれば、撥水性と断熱性とに優れる繊維を製造できる。
【0026】
本発明は、上記の製造方法により得られる表面処理繊維を用いて繊維シートを製造する工程を備える、又は上記の処理剤を用いて繊維シートを処理する工程を備える、表面処理繊維シートの製造方法を提供する。このような製造方法によれば、撥水性と断熱性とに優れる繊維シートを製造できる。
【0027】
本発明は、繊維と、繊維の被処理面上に上記処理剤の乾燥物を含む処理部と、を備える表面処理繊維を提供する。このような繊維は、撥水性と断熱性とに優れる。
【0028】
本発明は、上記表面処理繊維を含む表面処理繊維シートを提供する。このような繊維シートは、撥水性と断熱性とに優れる。
【0029】
本発明は、繊維と、繊維の被処理面上に上記式(1)で表される構造を有する化合物を含む撥水部と、を備える、撥水性繊維を提供する。
【0030】
本発明は、繊維と、繊維の被処理面上に、支柱部及び橋かけ部を備えるラダー型構造を有し、前記橋かけ部が上記式(2)で表される化合物を含む撥水部と、を備える、撥水性繊維を提供する。当該繊維は、被処理面上に上記式(3)で表される構造を有する化合物を含む撥水部、を備えていてもよい。上記繊維において、撥水部はエアロゲルを含んでいてもよい。
【0031】
本発明はまた、本発明の撥水性繊維を含む撥水性繊維シートを提供する。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、繊維に優れた撥水性と断熱性とを付与できる繊維処理用の処理剤を提供できる。本発明によればまた、上記処理剤を用いる、繊維の製造方法、繊維シートの製造方法、繊維及び繊維シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】粒子の二軸平均一次粒子径の算出方法を示す図である。
【
図2】DD/MAS法を用いて測定された、撥水性繊維シート7における撥水部の固体
29Si-NMRスペクトルを示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る繊維(撥水性繊維)を模式的に表す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る繊維(撥水性繊維)を模式的に表す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る繊維(撥水性繊維)を模式的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、場合により図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0035】
<定義>
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本明細書において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0036】
<繊維処理用の処理剤>
本実施形態の処理剤は、繊維処理用のものである。本実施形態の処理剤としては、例えば、下記第一~第四の態様が挙げられる。各々の態様を採用することで、各々の態様に応じた撥水性及び断熱性を得ることができる。
【0037】
(第一の態様)
一実施形態の処理剤は、(分子内に)加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物、及び、該加水分解性の官能基を有するポリシロキサン化合物の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種(以下、場合により「ポリシロキサン化合物群」という)を含有する液状組成物の縮合物を含む。処理剤は、また、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物、及び、該加水分解性の官能基を有するポリシロキサン化合物の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種を含有する液状組成物を含んでいてもよい(処理剤が当該液状組成物であってもよい)。このような処理剤によれば、繊維に優れた撥水性及び断熱性を付与できる。上記処理剤は、繊維の被処理面に撥水部(処理部)を形成するために用いられてもよい。上記処理剤から形成される撥水部は、優れた撥水性を有すると共に、被処理面との密着性にも優れる。上記処理剤から形成される撥水部は、断熱性にも優れるため、繊維に優れた断熱機能を付与することができる。上記撥水部は、例えば、膜状の撥水部(以下、「撥水膜」ともいう)及び粒子状の撥水部(以下、「撥水粒子」ともいう)の少なくとも一方を含む形態であってもよい。すなわち、本実施形態の処理剤は、繊維の被処理面に撥水膜及び/又は撥水粒子を形成するものであってもよい。
【0038】
本発明者らは、本実施形態の処理剤が優れた撥水性を発揮する理由を、以下のように推測している。本実施形態の処理剤は、ポリシロキサン化合物群を含有していることから、例えば、シロキサン化合物としてシロキサンモノマーのみを含む処理剤と比較して、反応を制御し易いと考えられる。そして、これにより、撥水部を形成する化合物中の親水基(例えば、水酸基(OH基))を低減し易く、優れた撥水性を発揮すると考えられる。
【0039】
また、本実施形態の処理剤から形成される撥水部は、親水性の汚れが付着し難く、かつ、このような汚れを除去し易いと考えられる。したがって、上記処理剤は、親水性の汚れが付着し易い用途への適用も容易であると考えられる。
【0040】
従来の撥水加工においては、一般的に、撥水処理剤と繊維との接着性を向上させるために、接着剤、添加剤等を加えている。一方で、接着剤及び添加剤を加えると、通常、撥水性、耐磨耗性及び耐溶剤性が低下し易い。これに対して、本実施形態の処理剤は、密着性、撥水性、耐磨耗性及び耐溶剤性にも優れることから、上記接着剤及び上記添加剤は必ずしも必要ではないと考えられる。
【0041】
また、特許文献1の方法において得られる繊維は、撥水性が充分とはいえない。この理由は、例えば、撥水性に関与する撥水粒子は繊維表面の撥水粒子であるのに対し、特許文献1の方法においては、繊維全体に含有させる撥水粒子の量に対して、繊維表面に現れる撥水粒子の量が少ないことにあると考えられる。一方で、撥水性を向上させるために、撥水性粒子の量を増加させると、繊維内部の撥水性粒子の量も増えることから、繊維自体の性質が変化する(繊維が硬くなる、もろくなる等)こと及び紡糸ができなくなることが考えられる。これに対して、本実施形態の処理剤は、繊維自体の特性を損なうことなく、撥水性を付与することができると考えられる。
【0042】
加水分解性の官能基としては、例えば、アルコキシ基が挙げられる。縮合性の官能基(加水分解性の官能基に該当する官能基を除く)としては、水酸基、シラノール基、カルボキシル基、フェノール性水酸基等が挙げられる。水酸基は、ヒドロキシアルキル基等の水酸基含有基に含まれていてもよい。なお、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物は、加水分解性の官能基及び縮合性の官能基とは異なる反応性基(加水分解性の官能基及び縮合性の官能基に該当しない官能基)を更に有していてもよい。反応性基としては、エポキシ基、メルカプト基、グリシドキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アミノ基等が挙げられる。エポキシ基は、グリシドキシ基等のエポキシ基含有基に含まれていてもよい。これらの官能基及び反応性基を有するポリシロキサン化合物は単独で、あるいは2種類以上を混合して用いてもよい。これらの官能基及び反応性基のうち、アルコキシ基、シラノール基、及びヒドロキシアルキル基は、処理剤の相容性を向上することができ、層分離を抑制することができる。また、ポリシロキサン化合物の反応性向上の観点から、アルコキシ基及びヒドロキシアルキル基の炭素数は、例えば、1~6であってもよい。
【0043】
ヒドロキシアルキル基を有するポリシロキサン化合物としては、例えば、下記一般式(A)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【0044】
【0045】
式(A)中、R1aはヒドロキシアルキル基を示し、R2aはアルキレン基を示し、R3a及びR4aはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、nは1~50の整数を示す。ここで、アリール基としては、フェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(A)中、2個のR1aは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個のR2aは各々同一であっても異なっていてもよい。また、式(A)中、2個以上のR3aは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のR4aは各々同一であっても異なっていてもよい。
【0046】
上記構造のポリシロキサン化合物を含有する処理剤を用いることにより、優れた撥水性と密着性とを更に得易くなる。このような観点から、式(A)中、R1aとしては、炭素数が1~6のヒドロキシアルキル基等が挙げられ、当該ヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。また、式(A)中、R2aとしては、炭素数が1~6のアルキレン基等が挙げられ、当該アルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。また、式(A)中、R3a及びR4aとしては、それぞれ独立に炭素数が1~6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としては、メチル基等が挙げられる。また、式(A)中、nは、例えば、2~30であってもよく、5~20であってもよい。
【0047】
上記式(A)で表される構造を有するポリシロキサン化合物としては、市販品を用いることができ、X-22-160AS、KF-6001、KF-6002、KF-6003等の化合物(いずれも、信越化学工業株式会社製)、XF42-B0970、XF42-C5277、Fluid OFOH 702-4%等の化合物(いずれも、モメンティブ社製)などが挙げられる。
【0048】
アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物としては、例えば、下記一般式(B)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【0049】
【0050】
式(B)中、R1bはアルキル基、アルコキシ基又はアリール基を示し、R2b及びR3bはそれぞれ独立にアルコキシ基を示し、R4b及びR5bはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、mは1~50の整数を示す。ここで、アリール基としては、フェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(B)中、2個のR1bは各々同一であっても異なっていてもよく、2個のR2bは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個のR3bは各々同一であっても異なっていてもよい。また、式(B)中、mが2以上の整数の場合、2個以上のR4bは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のR5bも各々同一であっても異なっていてもよい。
【0051】
上記構造のポリシロキサン化合物又はその加水分解生成物を含有する処理剤を用いることにより、優れた撥水性と密着性とを更に得易くなる。このような観点から、式(B)中、R1bとしては炭素数が1~6のアルキル基、炭素数が1~6のアルコキシ基等が挙げられ、当該アルキル基又はアルコキシ基としては、メチル基、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。また、式(B)中、R2b及びR3bとしては、それぞれ独立に炭素数が1~6のアルコキシ基等が挙げられ、当該アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。また、式(B)中、R4b及びR5bとしては、それぞれ独立に炭素数が1~6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としては、メチル基等が挙げられる。式(B)中、mは、例えば、2~30であってもよく、5~20であってもよい。
【0052】
上記一般式(B)で表される構造を有するポリシロキサン化合物は、例えば、特開2000-26609号公報、特開2012-233110号公報等にて報告される製造方法を適宜参照して得ることができる。
【0053】
なお、アルコキシ基は加水分解するため、アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物は液状組成物中にて加水分解生成物として存在する可能性があり、アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物とその加水分解生成物とは混在していてもよい。また、アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物において、分子中のアルコキシ基の全てが加水分解されていてもよいし、部分的に加水分解されていてもよい。
【0054】
これら、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物、及び、加水分解性の官能基を有するポリシロキサン化合物の加水分解生成物は、単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0055】
本実施形態の処理剤は、撥水性及び断熱性が更に向上する観点から、シリカ粒子を更に含有していてもよい。すなわち、液状組成物は、シリカ粒子と、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物、及び、該加水分解性の官能基を有するポリシロキサン化合物の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種と、を含有していてもよい。このような処理剤において、撥水性が向上する理由としては、処理剤がシリカ粒子を含有すると、撥水部を構成する化合物において、後述のQ+T:Dを制御し易く、かつ、上記化合物における水酸基の量を低減し易いこと等が考えられる。
【0056】
シリカ粒子としては、特に制限なく用いることができ、例えば非晶質シリカ粒子が挙げられる。非晶質シリカ粒子としては、例えば、溶融シリカ粒子、ヒュームドシリカ粒子及びコロイダルシリカ粒子が挙げられる。これらのうち、コロイダルシリカ粒子は、単分散性が高く、処理剤中での凝集を抑制し易い。
【0057】
シリカ粒子の形状は特に制限されず、球状、繭型、会合型等が挙げられる。これらのうち、シリカ粒子として球状の粒子を用いることにより、処理剤中での凝集を抑制し易くなる。シリカ粒子の平均一次粒子径は、適度な硬度の撥水膜及び/又は撥水粒子を得易くなり、熱衝撃及び傷に対する耐久性が向上し易くなる観点から、例えば、1nm以上であってもよく、5nm以上であってもよく、20nm以上であってもよい。シリカ粒子の平均一次粒子径は、透明な撥水膜及び/又は撥水粒子を得易くなる観点から、例えば、200nm以下であってもよく、150nm以下であってもよく、100nm以下であってもよい。これらの観点から、シリカ粒子の平均一次粒子径は、例えば、1~200nmであってもよく、5~150nmであってもよく、20~100nmであってもよい。また、シリカ粒子は、中空構造、多孔質構造等を有する粒子であってもよい。
【0058】
なお、シリカ粒子の平均粒子径は、原料から測定することができる。例えば、二軸平均一次粒子径は、任意の粒子20個をSEMにより観察した結果から、次のようにして算出される。すなわち、通常水に分散している固形分濃度が5~40質量%のコロイダルシリカ粒子を例にすると、コロイダルシリカ粒子の分散液に、パターン配線付きウエハを2cm角に切って得られたチップを約30秒浸した後、当該チップを純水にて約30秒間すすぎ、窒素ブロー乾燥する。その後、チップをSEM観察用の試料台に載せ、加速電圧10kVを掛け、10万倍の倍率にてシリカ粒子を観察し、画像を撮影する。得られた画像から20個のシリカ粒子を任意に選択し、それらの粒子の粒子径の平均を平均粒子径とする。この際、選択したシリカ粒子が
図1に示すような形状であった場合、シリカ粒子Pに外接し、その長辺が最も長くなるように配置した長方形(外接長方形L)を導く。そして、その外接長方形Lの長辺をX、短辺をYとして、(X+Y)/2として二軸平均一次粒子径を算出し、その粒子の粒子径とする。
【0059】
上記シリカ粒子の1g当りのシラノール基数は、良好な反応性を有すると共に、低温、短時間で優れた撥水性と密着性とを付与し易い観点から、例えば、10×1018個/g以上であってもよく、50×1018個/g以上であってもよく、100×1018個/g以上であってもよい。上記シリカ粒子の1g当りのシラノール基数は、処理時の急なゲル化を抑制し易く、均質な撥水膜及び/又は撥水粒子を得易い観点から、例えば、1000×1018個/g以下であってもよく、800×1018個/g以下であってもよく、700×1018個/g以下であってもよい。これらの観点から、上記シリカ粒子の1g当りのシラノール基数は、例えば、10×1018~1000×1018個/gであってもよく、50×1018~800×1018個/gであってもよく、100×1018~700×1018個/gであってもよい。
【0060】
シリカ粒子の含有量は、処理剤の反応性が向上する観点、及び、低温、短時間で優れた撥水性と密着性とを付与し易い観点から、液状組成物の総量100質量部に対し、例えば、0.01質量部以上であってもよく、0.1質量部以上であってもよく、0.5質量部以上であってもよい。上記シリカ粒子の含有量は、適度な硬度の撥水膜及び/又は撥水粒子が得られ易く、熱衝撃及び傷に対する耐久性が向上し易い観点から、液状組成物の総量100質量部に対し、例えば、30質量部以下であってもよく、20質量部以下であってもよく、10質量部以下であってもよい。これらの観点から、上記シリカ粒子の含有量は、液状組成物の総量100質量部に対し、例えば、0.01~30質量部であってもよく、0.1~20質量部であってもよく、0.5~10質量部であってもよい。
【0061】
液状組成物は、例えば、撥水性と密着性とを更に向上させる観点から、ポリシロキサン化合物以外の(ポリシロキサン化合物を除く)ケイ素化合物を更に含んでいてもよい。すなわち、液状組成物は、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するシランモノマー、及び、加水分解性の官能基を有するシランモノマーの加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種(以下、場合により「シランモノマー群」という)を更に含有していてもよい。シランモノマーにおける分子内のケイ素数は1~6とすることができる。
【0062】
加水分解性の官能基を有するシランモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、アルキルケイ素アルコキシドが挙げられる。アルキルケイ素アルコキシドの中でも、加水分解性の官能基の数が3個以下のものは耐水性をより向上することができる。このようなアルキルケイ素アルコキシドとしては、モノアルキルトリアルコキシシラン、モノアルキルジアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、モノアルキルモノアルコキシシラン、ジアルキルモノアルコキシシラン、トリアルキルモノアルコキシシラン等が挙げられ、具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0063】
縮合性の官能基を有するシランモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、シランテトラオール、メチルシラントリオール、ジメチルシランジオール、フェニルシラントリオール、フェニルメチルシランジオール、ジフェニルシランジオール、n-プロピルシラントリオール、ヘキシルシラントリオール、オクチルシラントリオール、デシルシラントリオール、トリフルオロプロピルシラントリオール等が挙げられる。
【0064】
加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するシランモノマーは、加水分解性の官能基及び縮合性の官能基とは異なる、上述の反応性基を更に有していてもよい。
【0065】
加水分解性の官能基の数が3個以下であり、反応性基を有するシランモノマーとして、ビニルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等も用いることができる。
【0066】
また、縮合性の官能基を有し、反応性基を有するシランモノマーとして、ビニルシラントリオール、3-グリシドキシプロピルシラントリオール、3-グリシドキシプロピルメチルシランジオール、3-メタクリロキシプロピルシラントリオール、3-メタクリロキシプロピルメチルシランジオール、3-アクリロキシプロピルシラントリオール、3-メルカプトプロピルシラントリオール、3-メルカプトプロピルメチルシランジオール、N-フェニル-3-アミノプロピルシラントリオール、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルシランジオール等も用いることができる。
【0067】
また、分子末端の加水分解性の官能基の数が3個以下のシランモノマーであるビストリメトキシシリルメタン、ビストリメトキシシリルエタン、ビストリメトキシシリルヘキサン、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等も用いることができる。
【0068】
これら、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するシランモノマー、及び、加水分解性の官能基を有するシランモノマーの加水分解生成物は、単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0069】
なお、アルコキシ基等の加水分解性の官能基は加水分解するため、加水分解性の官能基を有するシランモノマーは液状組成物中にて加水分解生成物として存在する可能性があり、加水分解性の官能基を有するシランモノマーとその加水分解生成物とは混在していてもよい。また、加水分解性の官能基を有するシランモノマーにおいて、分子中の加水分解性の官能基の全てが加水分解されていてもよいし、部分的に加水分解されていてもよい。
【0070】
ポリシロキサン化合物群の含有量(加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物の含有量、及び、加水分解性の官能基を有するポリシロキサン化合物の加水分解生成物の含有量の総和)は、撥水性が更に向上し易い観点から、液状組成物の総量100質量部に対し、例えば、0.01質量部以上であってもよく、0.1質量部以上であってもよく、0.5質量部以上であってもよい。ポリシロキサン化合物群の前記含有量は、適度な硬度の撥水膜及び/又は撥水粒子が得られ易く、熱衝撃及び傷に対する耐久性が向上し易い観点から、液状組成物の総量100質量部に対し、例えば、50質量部以下であってもよく、30質量部以下であってもよく、10質量部以下であってもよい。これらの観点から、ポリシロキサン化合物群の前記含有量は、液状組成物の総量100質量部に対し、例えば、0.01~50質量部であってもよく、0.1~30質量部であってもよく、0.5~10質量部であってもよい。
【0071】
本実施形態の処理剤が、液状組成物中にシランモノマー群を更に含有する場合、ポリシロキサン化合物群の含有量と、シランモノマー群の含有量(加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するシランモノマーの含有量、及び、加水分解性の官能基を有するシランモノマーの加水分解生成物の含有量の総和)との比は、撥水性が更に向上し易い観点及び良好な相溶性が得られ易い観点から、例えば、1:0.1以上であってもよく、1:1以上であってもよい。これらの化合物の含有量の比は、適度な硬度の撥水膜及び/又は撥水粒子が得られ易く、熱衝撃及び傷に対する耐久性が向上し易い観点から、例えば、1:10以下であってもよく、1:5以下であってもよい。これらの観点から、ポリシロキサン化合物群の含有量と、シランモノマー群の含有量との比は、例えば、1:0.1~1:10であってもよく、1:1~1:5であってもよい。
【0072】
ポリシロキサン化合物群及びシランモノマー群の含有量の総和は、撥水性が更に向上し易い観点から、液状組成物の総量100質量部に対し、例えば、0.01質量部以上であってもよく、0.1質量部以上であってもよく、0.5質量部以上であってもよい。当該含有量の総和は、適度な硬度の撥水膜及び/又は撥水粒子が得られ易く、熱衝撃及び傷に対する耐久性が向上し易い観点から、液状組成物の総量100質量部に対し、例えば、60質量部以下であってもよく、30質量部以下であってもよく、20質量部以下であってもよく、10質量部以下であってもよい。これらの観点から、ポリシロキサン化合物群及びシランモノマー群の含有量の総和は、液状組成物の総量100質量部に対し、例えば、0.01~60質量部であってもよく、0.01~30質量部であってもよく、0.1~20質量部であってもよく、0.5~10質量部であってもよい。この際、ポリシロキサン化合物群及びシランモノマー群の含有量の比は上記範囲内とすることができる。
【0073】
本実施形態の処理剤は、撥水性が向上する観点から、エアロゲル粒子を含んでいてもよい。すなわち、液状組成物は、エアロゲル粒子と、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物、及び、該加水分解性の官能基を有するポリシロキサン化合物の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種と、を含有していてもよい。エアロゲルは、ナノメートルサイズの微細孔を有する多孔質体である。エアロゲル粒子は、その表面の水酸基が少ないこと、微細孔に水が入り込み難いことから、優れた撥水性を発揮すると考えられる。
【0074】
エアロゲル粒子としては、従来公知のエアロゲル粒子を特に制限なく用いることができるが、液状組成物中に含まれるポリシロキサン化合物、シランモノマー等を原料として形成されるエアロゲル粒子であってもよい。なお、そのようなエアロゲル(粒子)は、ポリシロキサン化合物等を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルを乾燥することで得ることができる。
【0075】
エアロゲル粒子の平均一次粒子径は、良好な撥水性が得られ易いという観点から、例えば、0.1~10000nmであってもよく、1~1000nmであってもよく、2~100nmであってもよい。
【0076】
エアロゲル粒子の含有量は、良好な分散性が得られ易いという観点から、液状組成物の総量100質量部に対し、例えば、0.1~10質量部であってもよく、0.5~5質量部であってもよく、0.8~3質量部であってもよい。
【0077】
他の実施形態に係る処理剤は、撥水成分を含む態様であってもよい。撥水成分は、例えば、これまで述べてきた液状組成物の縮合物であってもよい。本実施形態に係る撥水成分の形状は、例えば、粒子状であってもよい。以下、第二~第四の態様として、撥水成分を含む処理剤の具体的態様について説明する。
【0078】
(第二の態様)
本実施形態の処理剤は、シロキサン結合(Si-O-Si)を含む主鎖を有するポリシロキサンを含有する撥水成分を含むことかできる。当該撥水成分は、構造単位として、下記M単位、D単位、T単位又はQ単位を有することができる。
【0079】
【0080】
上記式中、Rは、ケイ素原子に結合している原子(水素原子等)又は原子団(アルキル基等)を示す。M単位は、ケイ素原子が1個の酸素原子と結合した一価の基からなる単位である。D単位は、ケイ素原子が2個の酸素原子と結合した二価の基からなる単位である。T単位は、ケイ素原子が3個の酸素原子と結合した三価の基からなる単位である。Q単位は、ケイ素原子が4個の酸素原子と結合した四価の基からなる単位である。これらの単位の含有量に関する情報は、Si-NMRにより得ることができる。
【0081】
本実施形態の処理剤は、DD/MAS法を用いて測定された固体29Si-NMRスペクトルにおいて、含ケイ素結合単位Q、T及びDを以下の通り規定したとき、Q及びTに由来するシグナル面積と、Dに由来するシグナル面積との比Q+T:Dが1:0.01~1:1.00である撥水成分、を含有していてもよい。
【0082】
Q:1個のケイ素原子に結合した酸素原子が4個の含ケイ素結合単位。
T:1個のケイ素原子に結合した酸素原子が3個と水素原子又は1価の有機基が1個の含ケイ素結合単位。
D:1個のケイ素原子に結合した酸素原子が2個と水素原子又は1価の有機基が2個の含ケイ素結合単位。
【0083】
ただし、前記有機基とはケイ素原子に結合する原子が炭素原子である1価の有機基である。
【0084】
このような処理剤は、撥水性及び断熱性に優れると共に、繊維との密着性にも優れる。
【0085】
Q及びTに由来するシグナル面積と、Dに由来するシグナル面積との比Q+T:Dは、例えば、1:0.01~1:0.70であってもよく、1:0.01~1:0.50であってもよく、1:0.02~1:0.50であってもよく、1:0.03~1:0.50であってもよい。シグナル面積比を1:0.01以上とすることにより、より優れた撥水性を得易い傾向があり、1:0.70以下とすることにより、より断熱性及び密着性を得易い傾向がある。
【0086】
下記Q、T及びDにおける「酸素原子」とは、主として2個のケイ素原子間を結合する酸素原子であるが、例えばケイ素原子に結合した水酸基が有する酸素原子である場合も考えられる。「有機基」とはケイ素原子に結合する原子が炭素原子である1価の有機基であり、例えば、炭素数が1~10の非置換又は置換の1価の有機基が挙げられる。非置換の1価の有機基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等の炭化水素基が挙げられる。置換の1価の有機基としては、これら炭化水素基の水素原子がハロゲン原子、所定の官能基、所定の官能基含有有機基等で置換された炭化水素基(置換有機基)、あるいは特にシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等の環の水素原子がアルキル基で置換された炭化水素基、などが挙げられる。上記ハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子等(すなわち、クロロアルキル基、ポリフルオロアルキル基等のハロゲン原子置換有機基となる)が挙げられる。上記官能基としては、水酸基、メルカプト基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、シアノ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等が挙げられる。上記官能基含有有機基としては、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、グリシジル基、エポキシシクロヘキシル基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、N-アミノアルキル置換アミノアルキル基等が挙げられる。
【0087】
シグナル面積比は、固体29Si-NMRスペクトルにより確認することができる。一般的に固体29Si-NMRの測定手法は特に限定されず、例えば、CP/MAS法とDD/MAS法が挙げられるが、本実施形態においては定量性の点からDD/MAS法を採用している。
【0088】
固体29Si-NMRスペクトルにおける含ケイ素結合単位Q、T及びDの化学シフトは、Q単位:-90~-120ppm、T単位:-45~-80ppm、D単位:0~-40ppmの範囲にそれぞれ観察されるため、含ケイ素結合単位Q、T及びDのシグナルを分離し、各単位に由来するシグナル面積を計算することが可能である。なお、スペクトル解析に際しては、解析精度向上の点から、Window関数として指数関数を採用し、なおかつLine Broadening係数を0~50Hzの範囲に設定することができる。
【0089】
例えば、
図2は、後述する実施例で用いた、DD/MAS法を用いて測定された、撥水性繊維シート7における撥水部の固体
29Si-NMRスペクトルを示す図である。
図2が示すように、DD/MAS法を用いた固体
29Si-NMRにより、含ケイ素結合単位Q、T及びDのシグナルの分離は可能である。
【0090】
ここで、
図2を用いて、シグナル面積比の計算方法を説明する。例えば、
図2においては、-90~-120ppmの化学シフト範囲において、シリカ由来のQ単位シグナルが観測されている。また、-45~-80ppmの化学シフト範囲において、ポリシロキサン化合物及びトリメトキシシラン反応物に由来するT単位のシグナルが観測されている。さらに、0~-40ppmの化学シフト範囲において、ポリシロキサン化合物及びジメチルジメトキシシラン反応物に由来するD単位のシグナルが観測されている。シグナル面積(積分値)は、それぞれの化学シフト範囲において、シグナルを積分することにより得られる。Q単位及びT単位の和のシグナル面積を1とした場合、
図2のシグナル面積比Q+T:Dは、1:0.42と計算される。なお、シグナル面積は一般的なスペクトル解析ソフト(例えば、ブルカー社製のNMRソフトウェア「TopSpin」(TopSpinは登録商標))を用いて算出されるものである。
【0091】
(第三の態様)
本実施形態の処理剤は、下記式(1)で表される構造を有する化合物を含む撥水成分を含有していてもよい。本実施形態に係る撥水成分は、式(1)で表される構造を含む構造として、下記式(1a)で表される構造を有する化合物を含むことができる。例えば、上記式(A)で表される構造を有するポリシロキサン化合物を含む液状組成物の縮合物には、式(1)及び式(1a)で表される構造を骨格中に有する化合物を含む撥水成分が含まれ得る。
【0092】
【0093】
【0094】
式(1)及び式(1a)中、R1及びR2はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、R3及びR4はそれぞれ独立にアルキレン基を示す。ここで、アリール基としては、フェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。なお、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。pは1~50の整数を示す。式(1a)中、2個以上のR1は各々同一であっても異なっていてもよく、同様に、2個以上のR2は各々同一であっても異なっていてもよい。式(1a)中、2個のR3は各々同一であっても異なっていてもよく、同様に、2個のR4は各々同一であっても異なっていてもよい。
【0095】
処理剤が、上記式(1)又は式(1a)で表される構造を有する化合物を含む撥水成分を含有すると、撥水性と断熱性とが更に向上すると共に、密着性も向上する。このような観点から、式(1)及び式(1a)中、R1及びR2としては、それぞれ独立に炭素数が1~6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としては、メチル基等が挙げられる。また、式(1)及び式(1a)中、R3及びR4としては、それぞれ独立に炭素数が1~6のアルキレン基等が挙げられ、当該アルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。式(1a)中、例えば、pは2~30であってもよく、5~20であってもよい。
【0096】
(第四の態様)
本実施形態の処理剤は、支柱部及び橋かけ部を備えるラダー型構造を有し、前記橋かけ部が下記式(2)で表される化合物、を含む撥水成分、を含有していてもよい。撥水成分が、骨格中にこのようなラダー型構造を有する化合物を含むことにより、断熱性及び撥水性を更に向上させると共に、機械的強度を向上させることができる。すなわち、本実施形態の処理剤は、ラダー型構造に起因する優れた断熱性、撥水性及び耐久性を有している。例えば、上記式(B)で表される構造を有するポリシロキサン化合物を含む液状組成物の縮合物には、式(2)で表される橋かけ部を有するラダー型構造を骨格中に有する化合物を含む撥水成分が含まれ得る。なお、本実施形態において「ラダー型構造」とは、2本の支柱部(struts)と支柱部同士を連結する橋かけ部(bridges)とを有するもの(いわゆる「梯子」の形態を有するもの)である。本態様において、ラダー型構造は、化合物の一部に含まれる態様であってもよい。
【0097】
【0098】
式(2)中、R5及びR6はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、bは1~50の整数を示す。ここで、アリール基としては、フェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(2)中、bが2以上の整数の場合、2個以上のR5は各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のR6も各々同一であっても異なっていてもよい。
【0099】
支柱部となる構造及びその鎖長、並びに橋かけ部となる構造の間隔は特に限定されないが、撥水性、機械的強度及び耐久性を更に向上させる観点から、ラダー型構造としては、下記一般式(3)で表されるラダー型構造が挙げられる。
【0100】
【0101】
式(3)中、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、a及びcはそれぞれ独立に1~3000の整数を示し、bは1~50の整数を示す。ここで、アリール基としては、フェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(3)中、bが2以上の整数の場合、2個以上のR5は各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のR6も各々同一であっても異なっていてもよい。また、式(3)中、aが2以上の整数の場合、2個以上のR7は各々同一であっても異なっていてもよく、同様にcが2以上の整数の場合、2個以上のR8は各々同一であっても異なっていてもよい。
【0102】
なお、更に優れた撥水性を得る観点から、式(2)及び(3)中、R5、R6、R7及びR8(ただし、R7及びR8は式(3)中のみ)としては、それぞれ独立に炭素数が1~6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としては、メチル基等が挙げられる。また、式(3)中、a及びcは、それぞれ独立に、例えば、6~2000であってもよく、10~1000であってもよい。また、式(2)及び(3)中、bは、例えば、2~30であってもよく、5~20であってもよい。
【0103】
処理剤が含有する撥水成分は、撥水性が向上する観点からエアロゲルから構成されていてもよい。エアロゲルは、空隙率が大きいため、エアロゲルから構成される撥水成分(並びにそれにより形成される撥水膜及び撥水粒子)は、屈折率が小さく、透明性が高いものであると考えられる。
【0104】
<撥水性繊維及び撥水性繊維シート>
撥水性繊維は、上記処理剤を用いて繊維を処理することにより得られ、撥水性繊維シートは、上記処理剤を用いて繊維シートを処理することにより得られる。撥水性繊維シートは、処理剤を用いて処理された撥水性繊維を用いて得ることもできる。撥水性繊維及び撥水性繊維シートとも、上記処理剤を用いた被処理面の表面処理により得られるものであるため、それぞれ表面処理繊維及び表面処理繊維シートと言うことができる。このような撥水性繊維及び撥水性繊維シートは、撥水性と断熱性とに優れる。
【0105】
一実施形態に係る撥水性繊維及び撥水性繊維シートは、それぞれ、繊維及び繊維シートの被処理面に撥水部が形成されており、撥水部が、上記処理剤の乾燥物を含む。なお、処理剤が上記の液状組成物の縮合物を含む場合であれば、撥水部が形成される際に縮合反応がさらに進むと考えられ、また処理剤が上記の液状組成物そのものである場合であれば、撥水部が形成される際に縮合反応が生じると考えられる。そのため、撥水部は処理剤の反応物を含むと言うこともできる。
【0106】
撥水部は、例えば、断熱部としての機能も有する。撥水部は、撥水膜及び撥水粒子の少なくとも一方を含む形態であってもよい。本実施形態の撥水性繊維及び撥水性繊維シートは、本実施形態の処理剤の乾燥物を含む撥水部(断熱部)を有することにより、撥水性及び断熱性に優れると共に、被処理面と、撥水部との密着性にも優れる。また、このような撥水性繊維及び撥水性繊維シートは、耐久性にも優れる。本実施形態の撥水性繊維及び撥水性繊維シートは、例えば、上述した処理剤により、繊維の被処理面に撥水膜及び/又は撥水粒子を形成してなるものであってもよい。ここで、被処理面に形成される撥水部(撥水粒子等)の好ましい形態は、例えば、上述の撥水成分と同様であってもよい。すなわち、本実施形態の繊維(撥水性繊維)は、例えば、上記式(1)で表される構造を有する化合物を含む撥水部、を備えていてもよく、支柱部及び橋かけ部を備えるラダー型構造を有し、上記橋かけ部が下記式(2)で表される化合物を含む撥水部、を備えていてもよく、上記式(3)で表される構造を有する化合物を含む撥水部、を備えていてもよい。
【0107】
繊維(撥水性繊維)の被処理面に形成される撥水部(撥水膜、撥水粒子等)は、撥水性が更に向上する観点から、エアロゲルを含んでいてもよい。すなわち、例えば、被処理面に形成される撥水膜及び撥水粒子は、それぞれエアロゲルを含む膜及びエアロゲルを含む粒子であってもよい。
【0108】
図3は、本発明の一実施形態に係る繊維(撥水性繊維)を模式的に表す図である。
図3に示す撥水性繊維100は、繊維2の被処理面2aに、撥水膜1からなる撥水部10が形成された構造を有する。ここで、撥水部10は、本実施形態の処理剤の乾燥物を含むものである。当該撥水性繊維100は、被処理面2a上に、撥水膜1からなる撥水部10を備えることにより、撥水膜の化学的特性である撥水性が付与されたものになると考えられる。また、撥水部10は、本実施形態の処理剤の乾燥物を含むことから、撥水性繊維100は、断熱性にも優れると考えられる。ここで、本態様における撥水部は、モノリシックな膜ではなく、微小の撥水粒子(撥水成分)が堆積して膜状になったものであると言うことができる。
【0109】
図4は、本発明の一実施形態に係る繊維(撥水性繊維)を模式的に表す図である。
図4に示す撥水性繊維200は、繊維2の被処理面2aに、撥水粒子3からなる撥水部10が形成された構造を有する。ここで、撥水部10は、本実施形態の処理剤の乾燥物を含むものである。当該撥水性繊維200は、被処理面2a上に、撥水粒子3からなる撥水部10を備えることにより、撥水粒子の物理的特性である微細凹凸形状によるロータス効果が得られ、高い撥水性が付与されたものになると考えられる。また、撥水部10は、本実施形態の処理剤又は当該処理剤の反応物を含むことから、撥水性繊維200は、断熱性にも優れると考えられる。ここで、本態様における撥水部は、ある程度大きなサイズにまで成長した撥水粒子(撥水成分)が被処理面に付着して形成されたものと言うことができる。
【0110】
図5は、本発明の一実施形態に係る繊維(撥水性繊維)の模式的に表す図である。
図5に示す撥水性繊維300は、繊維2の被処理面2aに、撥水膜1及び撥水粒子3を含む撥水部10が形成された構造を有する。ここで、撥水部10は、本実施形態の処理剤の乾燥物を含むものである。当該撥水性繊維300は、被処理面2a上に、撥水膜1及び撥水粒子3を含む撥水部10を備えることにより、撥水粒子の化学的特性である撥水性が付与されると共に、撥水粒子の物理的特性である微細凹凸形状によるロータス効果が得られることから、更に優れた撥水性が付与されたものになると考えられる。また、撥水部10は、本実施形態の処理剤の乾燥物を含むことから、撥水性繊維300は、断熱性にも優れると考えられる。
【0111】
上記のとおり、処理剤から形成される粒子の大きさにより、種々の態様を有する撥水部を得ることができる。すなわち、撥水粒子が微小である場合には所定の厚さ堆積した膜状外観の態様、撥水粒子がある程度大きければ平面状に個別に並んだ粒子状外観の態様、両者が共存する場合には複合化外観の態様となって、それぞれ撥水部が形成される。
【0112】
なお、
図3~5では、繊維2の被処理面2aが処理剤により処理された表面処理繊維が図示されているが、繊維2内部が処理剤により処理されている態様を排除するものではない。すなわち、繊維2の内部に(繊維2内部の一部であってもよい)処理剤の乾燥物が含まれていてもよい。
【0113】
本実施形態の撥水性繊維及び撥水性繊維シートにおいて、撥水膜の厚さは、例えば、1~500nmであってもよく、20~200nmであってもよい。当該厚さを、1nm以上とすることにより、更に優れた撥水性を達成することができ、500nm以下とすることにより、更に優れた密着性を達成することができる。
【0114】
本実施形態の撥水性繊維及び撥水性繊維シートにおいて、撥水粒子の大きさは、例えば、0.1~10000nmであってもよく、1~1000nmであってもよい。撥水粒子の大きさを、0.1nm以上とすることにより、更に優れた撥水性を達成することができ、10000nm以下とすることにより、更に優れた密着性を達成することができる。
【0115】
以上のことから、本実施形態の撥水性繊維及び撥水性繊維シートにおいて、撥水部の厚さは、例えば、1~10000nmであってもよく、20~1000nmであってもよい。
【0116】
本実施形態の撥水性繊維及び撥水性繊維シートにおいて、撥水部が形成された部分の繊維の見かけ表面積は、撥水性が更に向上する観点から、未処理の繊維の見かけ表面積に対して、例えば、20%以上であってもよく、50%以上あってもよい。なお、見かけ表面積とは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することにより算出される、繊維の表面積をいう。
【0117】
<撥水性繊維の製造方法>
次に、撥水性繊維の製造方法について説明する。本実施形態の撥水性繊維の製造方法は、本実施形態の処理剤を用いて繊維を処理するものである。このような製造方法によれば、撥水性と断熱性とに優れる繊維を製造できる。以下、処理剤の製造方法及び繊維を処理する方法の具体例について説明する。
【0118】
[処理剤の製造方法]
処理剤の製造方法は、特に限定されないが、処理剤は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0119】
本実施形態の処理剤は、例えば、配合工程と、縮合反応工程とを主に備える製造方法により製造することができる。
【0120】
以下、本実施形態の処理剤の製造方法の各工程について説明する。
【0121】
(配合工程)
配合工程は、上記のポリシロキサン化合物、及び必要に応じシリカ粒子、シランモノマー、溶媒等を混合する工程である。この工程により、ポリシロキサン化合物等のケイ素化合物の加水分解反応を行うことができる。なお、シリカ粒子は、溶媒に分散された分散液の状態で混合してもよい。本工程においては、加水分解反応を促進させるため、溶媒中に更に酸触媒を添加してもよい。また、溶媒中に界面活性剤を添加することもできる。縮合性の官能基を有するケイ素化合物を用いる場合、加水分解反応は必ずしも必須ではない。
【0122】
溶媒としては、例えば、水、又は、水及びアルコール類の混合液を用いることができる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール等が挙げられる。アルコール類は、繊維の被処理面との界面張力を低減させる観点から、例えば、表面張力が低くかつ沸点の低いものであってもよい。表面張力が低くかつ沸点の低いアルコールとしては、メタノール、エタノール、2-プロパノール等が挙げられる。これらは単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0123】
酸触媒としては、フッ酸、塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、臭素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸等の無機酸類;酸性リン酸アルミニウム、酸性リン酸マグネシウム、酸性リン酸亜鉛等の酸性リン酸塩類;酢酸、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、アゼライン酸等の有機カルボン酸類などが挙げられる。これらの中でも、環境汚染を配慮し、加水分解反応を促進できる酸触媒としては有機カルボン酸類が挙げられる。当該有機カルボン酸類としては酢酸が挙げられるが、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸等であってもよい。これらは単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0124】
酸触媒を用いることで、ポリシロキサン化合物及びシランモノマーの加水分解反応を促進させて、より短時間で加水分解溶液を得ることができる。
【0125】
酸触媒の添加量は、ポリシロキサン化合物群及びシランモノマー群の総量100質量部に対し、例えば、0.001~600.0質量部であってもよい。
【0126】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤等を用いることができる。これらは単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0127】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン等の親水部と主にアルキル基からなる疎水部とを含む化合物、ポリオキシプロピレン等の親水部を含む化合物などを使用できる。ポリオキシエチレン等の親水部と主にアルキル基からなる疎水部とを含む化合物としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。ポリオキシプロピレン等の親水部を含む化合物としては、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのブロック共重合体等が挙げられる。
【0128】
イオン性界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム等が挙げられ、アニオン性界面活性剤としては、ドデシルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。また、両イオン性界面活性剤としては、アミノ酸系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤、アミンオキシド系界面活性剤等が挙げられる。アミノ酸系界面活性剤としては、例えば、アシルグルタミン酸が挙げられる。ベタイン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、及びステアリルジメチルアミノ酢酸ベタインが挙げられる。アミンオキシド系界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキシドが挙げられる。
【0129】
これらの界面活性剤は、配合工程において、溶媒中のポリシロキサン化合物、及び場合によりシリカ粒子、シランモノマー等の分散性を向上する作用を有すると考えられる。また、これらの界面活性剤は、後述する縮合反応工程において、反応系中の溶媒と、成長していくシロキサン重合体との間の化学的親和性の差異を小さくし、分散性を向上させる作用を有すると考えられる。
【0130】
界面活性剤の添加量は、界面活性剤の種類、あるいはポリシロキサン化合物及びシランモノマーの種類並びに量にも左右されるが、例えば、ポリシロキサン化合物群及びシランモノマー群の総量100質量部に対し、1~100質量部であってもよく、5~60質量部であってもよい。
【0131】
配合工程の加水分解は、混合液中のポリシロキサン化合物、シランモノマー、シリカ粒子、酸触媒、界面活性剤等の種類及び量にも左右されるが、例えば、20~60℃の温度環境下で10分~24時間行ってもよく、50~60℃の温度環境下で5分~8時間行ってもよい。これにより、ポリシロキサン化合物及びシランモノマー中の加水分解性官能基が充分に加水分解され、ポリシロキサン化合物の加水分解生成物及びシランモノマーの加水分解生成物をより確実に得ることができる。
【0132】
配合工程により、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物、及び、該加水分解性の官能基を有するポリシロキサン化合物の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種を含有する液状組成物を含む、処理剤を得ることができる。
【0133】
(縮合反応工程)
縮合反応工程により、縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物及びシランモノマー、配合工程で得られた加水分解反応物等の縮合反応を行うことができる。本工程では、縮合反応を促進させるため、塩基触媒を用いることができる。また、本工程において、熱加水分解により塩基触媒を発生する熱加水分解性化合物を添加することもできる。
【0134】
塩基触媒としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化アンモニウム、フッ化アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム等のアンモニウム化合物;メタ燐酸ナトリウム、ピロ燐酸ナトリウム、ポリ燐酸ナトリウム等の塩基性燐酸ナトリウム塩;炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸アンモニウム、炭酸銅(II)、炭酸鉄(II)、炭酸銀(I)等の炭酸塩類;炭酸水素カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩類;アリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、3-エトキシプロピルアミン、ジイソブチルアミン、3-(ジエチルアミノ)プロピルアミン、ジ-2-エチルヘキシルアミン、3-(ジブチルアミノ)プロピルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、t-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、3-(メチルアミノ)プロピルアミン、3-(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3-メトキシアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の脂肪族アミン類;モルホリン、N-メチルモルホリン、2-メチルモルホリン、ピペラジン及びその誘導体、ピペリジン及びその誘導体、イミダゾール及びその誘導体等の含窒素複素環状化合物類などが挙げられる。これらの中でも、取扱い上の安全性及び臭気の観点から、炭酸塩、又は炭酸水素塩が好ましく、経済性の観点から炭酸ナトリウム、又は炭酸水素ナトリウムがより好ましい。上記の塩基触媒は単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0135】
塩基触媒を用いることで、加水分解溶液中のポリシロキサン化合物群、シランモノマー群及びシリカ粒子の、脱水縮合反応、脱アルコール縮合反応、又はそれら両者の反応を促進することができ、より短時間で処理剤を得ることができる。
【0136】
塩基触媒の添加量は、ポリシロキサン化合物群及びシランモノマー群の総量100質量部に対し、例えば、0.1~500質量部であってもよく、1.0~200質量部であってもよい。塩基触媒の上記添加量を、0.1質量部以上とすることにより、縮合反応をより短時間で行うことができ、500質量部以下とすることにより、層分離を抑制し易い。
【0137】
熱加水分解性化合物は、熱加水分解により塩基触媒を発生して、反応溶液を塩基性とし、縮合反応を促進すると考えられる。よって、この熱加水分解性化合物としては、熱加水分解後に反応溶液を塩基性にできる化合物であれば、特に限定されず、尿素;ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等の酸アミド;ヘキサメチレンテトラミン等の環状窒素化合物などを挙げることができる。これらの中でも、特に尿素は上記促進効果を得られ易い。
【0138】
熱加水分解性化合物の添加量は、縮合反応を充分に促進することができる量であれば、特に限定されない。例えば、熱加水分解性化合物として尿素を用いた場合、その添加量は、ポリシロキサン化合物群及びシランモノマー群の総量100質量部に対して、1~200質量部であってもよく、2~150質量部であってもよい。添加量を1質量部以上とすることにより、良好な反応性をさらに得易くなり、また、200質量部以下とすることにより、層分離を抑制し易い。
【0139】
縮合反応工程における反応は、溶媒及び塩基触媒が揮発しないように密閉容器内で行ってもよい。反応温度は、例えば、20~90℃であってもよく、40~80℃であってもよい。反応温度を20℃以上とすることにより、縮合反応をより短時間に行うことができる。また、反応温度を90℃以下にすることにより、溶媒(特にアルコール類)の揮発を抑制し易くなるため、層分離を抑えながら縮合反応することができる。
【0140】
縮合反応時間は、ポリシロキサン化合物群、シランモノマー群等の種類及び反応温度にも左右されるが、例えば、2~480時間であってもよく、6~120時間であってもよい。反応時間を2時間以上とすることにより、より優れた撥水性と密着性を達成することができ、480時間以下にすることにより、層分離を抑制し易い。
【0141】
また、加水分解溶液中にシリカ粒子が含まれている場合、縮合反応時間を更に短縮することができる。この理由は、加水分解溶液中のポリシロキサン化合物群及びシランモノマー群が有する、シラノール基、反応性基、又はそれら両者が、シリカ粒子のシラノール基と水素結合、化学結合、又はそれらの結合の組合せを形成するためであると推察する。この場合、縮合反応時間は、例えば、10分~24時間であってもよく、30分~12時間であってもよい。反応時間を10分間以上とすることにより、より優れた撥水性と密着性を達成することができ、24時間以下とすることにより、層分離を抑制し易い。
【0142】
縮合反応工程により、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物、及び、該加水分解性の官能基を有するポリシロキサン化合物の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種を含有する液状組成物の縮合物を含む、処理剤を得ることができる。また、本工程により、上述の撥水成分を含有する処理剤を得ることができる。
【0143】
なお、例えば縮合反応時間、シリカ粒子の大きさ、エアロゲル粒子の大きさ等を変更することにより、撥水粒子のサイズを調整することができる。これにより所望の態様の繊維を得ることができる。
【0144】
[繊維を処理する方法]
繊維を処理する方法は、特に限定されないが、例えば、塗布工程と、洗浄工程と、乾燥工程(予備乾燥工程及びエージング工程)とを主に備える方法が挙げられる。
【0145】
以下、各工程について説明する。
【0146】
(塗布工程)
塗布工程は、上記処理剤を繊維の被処理面(繊維の表面)に塗布する工程である。また、場合により、塗布後に被処理面を乾燥して溶媒を揮発させてもよい。例えば、本工程によって、被処理面に撥水部(撥水膜及び/又は撥水粒子)を形成することができる。処理剤は、被処理面全体に塗布してもよく、被処理面の一部に選択的に塗布してもよい。
【0147】
塗布方法は、特に限定されるものではないが、例えば、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、フローコート法、バーコート法及びグラビアコート法が挙げられる。特に、ディップコート法は、生産性が高く、凹凸のある繊維表面への処理がし易いことから、好ましい。これらの方法は、単独で、又は2種類以上を併用してもよい。
【0148】
処理剤をあらかじめ他のフィルム、布等に塗布または含浸させたものを、繊維の被処理面に接触させることにより、処理剤を被処理面に塗布してもよい。塗布方法は、処理剤の使用量、被処理面の面積、特性等に応じて自由に選択することができる。
【0149】
塗布工程で用いる処理剤の温度は、例えば、20~80℃であってもよく、40~60℃であってもよい。上記温度を、20℃以上とすることにより、撥水性と密着性とが更に向上する傾向にあり、上記温度を、80℃以下とすることにより、撥水部の透明性が得られ易い傾向にある。処理剤による処理時間は、例えば0.5~4時間とすることができる。
【0150】
処理される繊維に、特に制限はないが、例えば、溶融紡糸により製造される合成繊維、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法等により製造される不織布、天然繊維及び無機繊維が挙げられる。
【0151】
合成繊維及び不織布を構成する材料としては、例えば、熱可塑性樹脂等の樹脂が挙げられる。合成繊維及び不織布の具体例は、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維及びポリアミド繊維を含む。合成繊維及び不織布を構成する材料は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。すなわち、合成繊維及び不織布は、異なる2種類以上の樹脂が複合された複合繊維であってもよい。
【0152】
複合繊維としては、例えば、融点の異なる2種類以上の樹脂を複合した繊維が挙げられる。当該複合繊維における樹脂の組み合わせとしては、例えば、共重合ポリエステル/ポリエステル、共重合ポリプロピレン/ポリプロピレン、ポリプロピレン/ポリアミド、ポリエチレン/ポリプロピレン、ポリプロピレン/ポリエステル及びポリエチレン/ポリエステルが挙げられる。
【0153】
複合繊維は、例えば、芯部分と鞘部分とで異なる材料を用いる芯鞘型複合繊維であってもよい。芯鞘型複合繊維においては、例えば、芯部が高融点の樹脂から形成され、かつ、鞘部が低融点の樹脂から形成されていてもよい。芯部を構成する樹脂は、例えば、融点を有せず分解温度を有する樹脂であってもよい。芯鞘型複合繊維において、芯部分は、例えば、無機繊維から構成されていてもよい。
【0154】
芯鞘型複合繊維は、例えば、レーヨン繊維、アセテート繊維、羊毛繊維、無機繊維等の繊維の表面を、熱可塑性樹脂で被覆した態様のものであってもよい。繊維表面への熱可塑性樹脂の被覆方法としては、例えば、浸漬法及びコーティング法が挙げられる。
【0155】
芯鞘型複合繊維の芯部を構成する無機繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維及び金属繊維が挙げられる。当該無機繊維は、高融点を有する観点から、例えば、ガラス繊維、セラミック繊維及び金属繊維であってもよい。
【0156】
天然繊維としては、例えば、セルロース繊維、綿、麻、ウール及び絹が挙げられる。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、セラミック繊維、金属繊維(スチール繊維、ステンレス繊維等)及び炭素繊維が挙げられる。これらの繊維は単独で又は2種類以上組み合わせて使用できる。
【0157】
繊維は、強度及び耐久性の観点から、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ポリエステル繊維及びポリアミド繊維であってもよく、経済性の観点から、例えば、ガラス繊維及びポリエステル繊維であってもよい。
【0158】
繊維の断面形状及び表面形状は、特に制限されず任意の形状とすることができる。繊維径(平均径)及び繊維の長さは、特に制限されないが、繊維径は、例えば、0.1μm~3mmであってもよく、0.5μm~500μmであってもよい。繊維径を、0.1μm以上とすることにより適度な機械的強度が得られ易く、3mm以下とすることにより断熱性が更に向上する傾向にある。本明細書において、繊維径は、繊維の断面積と同じ面積の円の直径をいう。
【0159】
処理剤を塗布した後、得られた繊維を乾燥して溶媒を揮発させることにより、撥水部の密着性を更に向上させることができる。この際の乾燥温度は、特に制限されず、被処理面の耐熱温度によっても異なるが、例えば、60~250℃であってもよく、120~180℃であってもよい。上記温度を60℃以上とすることにより、より優れた密着性を達成することができ、250℃以下とすることにより、熱による劣化を抑制することができる。
【0160】
(洗浄工程)
洗浄工程は、塗布工程で得られた繊維を洗浄する工程である。本工程を施すことにより、撥水部中の未反応物、副生成物等の不純物を低減し、より純度の高い撥水部を得ることができる。
【0161】
洗浄工程は、例えば、水及び/又は有機溶媒を用いて繰り返し行うことができる。この際、加温することにより洗浄効率を向上させることができる。
【0162】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,2-ジメトキシエタン、アセトニトリル、ヘプタン、ヘキサン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、N、N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ギ酸等の各種の有機溶媒を使用することができる。上記の有機溶媒は単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0163】
有機溶媒は、一般的に水との相互溶解度が極めて低い。そのため、水で洗浄した後に、有機溶媒を用いて洗浄する場合は、水に対して高い相互溶解性を有する親水性有機溶媒が好ましい。上記の有機溶媒の中で、親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,2-ジメトキシエタン等が挙げられる。なお、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン等は経済性の点で優れており好ましい。
【0164】
洗浄工程に使用される水及び/又は有機溶媒の量は、撥水部の総質量に対して、例えば、3~10倍の量であってもよい。洗浄は、繊維表面の含水率が、10質量%以下となるまで繰り返すことができる。
【0165】
洗浄温度は、洗浄に用いる溶媒の沸点以下の温度とすることができ、例えば、メタノールを用いる場合は、20~60℃程度であってもよい。加温することにより洗浄効率を向上させることもできる。洗浄時間は、例えば3~30分間とすることができる。
【0166】
(乾燥工程:予備乾燥工程)
予備乾燥工程は、洗浄工程により洗浄された繊維を予備乾燥させる工程である。
【0167】
乾燥の手法としては、特に制限されないが、例えば、大気圧下における公知の乾燥方法を用いることができる。乾燥温度は、繊維の耐熱温度及び洗浄溶媒の種類により異なる。溶媒の蒸発速度が充分に速く、撥水部の劣化を防止し易い観点から、乾燥温度は、例えば、20~250℃であってもよく、60~180℃であってもよい。乾燥時間は、撥水部の質量及び乾燥温度により異なるが、例えば、1~24時間であってもよい。
【0168】
(乾燥工程:エージング工程)
エージング工程は、予備乾燥工程により乾燥された撥水部を加熱エージングする工程である。これにより、最終的な撥水性繊維を得ることができる。エージング工程を施すことにより、撥水性繊維の撥水性と密着性とが更に向上する。
【0169】
本工程は、予備乾燥工程後の追加乾燥として行うことができる。エージングをすることにより、撥水部中の親水基が減少し、撥水性が更に向上すると考えられる。また、撥水部が、予備乾燥工程で体積収縮を起こし、透明性が低下している場合は、スプリングバックにより体積復元することにより、透明性を向上させてもよい。
【0170】
エージング温度は、繊維の耐熱温度により異なるが、例えば、100~250℃であってもよく、120~180℃であってもよい。エージング温度を、100℃以上とすることにより、より優れた撥水性と密着性を達成することができ、250℃以下とすることにより、熱による劣化を抑制することができる。
【0171】
エージング時間は、撥水部の質量及びエージング温度により異なるが、例えば、1~10時間であってもよく、2~6時間であってもよい。エージング時間を、1時間以上とすることにより、より優れた撥水性と密着性を達成し易く、10時間以下とすることにより、生産性が低下し難い。
【0172】
以上、処理剤及び撥水性繊維の製造方法の一例について説明したが、処理剤及び撥水性繊維の製造方法はこれに限定されるものではない。
【0173】
<撥水性繊維シートの製造方法>
次に、撥水性繊維シートの製造方法について説明する。本実施形態に係る撥水性繊維シートの製造方法としては、上記の製造方法により得られた撥水性繊維を用いて繊維シートを製造する工程を備える方法が挙げられる。具体的には、撥水性繊維シートは、例えば、撥水性繊維を作製した後、当該撥水性繊維を、抄紙機、織機、編機等でシート状に加工する方法によっても製造できる。すなわち、本実施形態の繊維シート(撥水性繊維シート)は、本実施形態の繊維(撥水性繊維)を含んでいてもよい。このような製造方法によれば、撥水性と断熱性とに優れる繊維シートを製造できる。
【0174】
撥水性繊維シートの製造方法は、本実施形態の処理剤を用いて繊維シートを処理する(処理剤に繊維シートを含浸させる)ものであってもよい。このような製造方法によれば、撥水性と断熱性とに優れる繊維シートを製造できる。このような撥水性繊維シートの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、上述の撥水性繊維の製造方法において、繊維に変えて繊維シートを用いる方法が挙げられる。
【0175】
処理に用いられる繊維シートとしては、例えば、織物、編物、不織布シート等のシート状繊維が挙げられる。織物及び編物は、例えば、繊維を、織機又は編機により加工したものであり得る。不織布シートは、例えば、乾式法、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法、湿式法等により得られる繊維シートであり得る。
【0176】
また、繊維シートは、例えば、上述したシート状繊維(繊維ウエブ等)に、融点の異なる2種類以上の樹脂と接着性繊維とが複合された複合繊維等を付与して得られたシートを加熱処理して繊維間を接合したものであってもよい。
【0177】
繊維シートは、例えば、複数のシート状繊維(例えば、繊維ウエブ)を、水流絡合、ニードルパンチ等の機械的絡合処理により絡合させたものであってもよく、複数のシート状繊維を、加熱したロールにより結合させたものであってもよい。例えば、平滑なロールと、凹凸を有するロールとを用いることにより、部分的に結合された繊維シートを得てもよい。繊維シートは、例えば、種類の異なる繊維シートを複数積層して一体化してなるものであってもよい。
【0178】
以上、本実施形態の撥水性繊維シートの製造方法の一例について説明したが、撥水性繊維シートの製造方法はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0179】
次に、下記の実施例により本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
【0180】
(実施例1)
[処理剤1]
ポリシロキサン化合物としてカルビノール変性シロキサン「XF42-C5277」(モメンティブ社製、製品名)を40.0質量部、カチオン系界面活性剤として臭化セチルトリメチルアンモニウム(和光純薬工業株式会社製:以下『CTAB』と略記)を6.4質量部及び100mM 酢酸水溶液を51.6質量部混合し、25℃で2時間攪拌した。これに塩基触媒として炭酸ナトリウム2.0質量部を加え、60℃で2時間攪拌し、処理剤1を得た。
【0181】
[撥水性繊維1]
上記処理剤1に、繊維径3.5μmのガラス繊維FS19W-N(日本無機株式会社製、製品名)をディップし、60℃で2時間かけて処理した。その後、処理したガラス繊維をメタノールにディップし、25℃で5分洗浄を行った。次にメチルエチルケトンにディップし、25℃で5分洗浄を行った。洗浄されたガラス繊維を、常圧下にて、120℃で1時間乾燥し、その後、150℃で6時間エージングすることで、撥水性繊維1を得た。
【0182】
[撥水性繊維シート1]
ミキサーTM837(株式会社TESCOM、製品名)に、上記撥水性繊維1を3g、精製水を750g及び界面活性剤ラッコールAL(明成化学株式会社、製品名)0.01gを1L加え、30秒間攪拌した。その後、5Lビーカーに移し、精製水3250g及び上記界面活性剤0.04gを更に加え、撥水性繊維1の凝集が目視で確認できなくなるまで回転速度1000rpmで攪拌し、撥水性繊維1の分散液を得た。得られた撥水性繊維1の分散液を150meshのメッシュを設置したスタンダードシートマシン抄紙装置(熊谷理機工業株式会社、製品名)に投入し、全量10Lになるように精製水で希釈した後、濾水及び乾燥して、目付量120g/m2である、撥水性繊維1からなる厚さ0.50mmの撥水性繊維シート1を作製した。
【0183】
(実施例2)
[処理剤2]
ポリシロキサン化合物としてポリシロキサン化合物Aを20.0質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを3.2質量部及び100mM 酢酸水溶液を75.8質量部混合し、25℃で2時間攪拌した。これに塩基触媒として炭酸ナトリウム1.0質量部を加え、60℃で2時間攪拌し、処理剤2を得た。
【0184】
なお、上記「ポリシロキサン化合物A」は次のようにして合成した。まず、撹拌機、温度計及びジムロート冷却管を備えた1リットルの3つ口フラスコにて、ヒドロキシ末端ジメチルポリシロキサン「XC96-723」(モメンティブ社製、製品名)を100.0質量部、メチルトリメトキシシランを181.3質量部及びt-ブチルアミンを0.50質量部混合し、30℃で5時間反応させた。その後、この反応液を、1.3kPaの減圧下、140℃で2時間加熱し、揮発分を除去することで、両末端2官能アルコキシ変性ポリシロキサン化合物(ポリシロキサン化合物A)を得た。
【0185】
[撥水性繊維2]
処理剤1を処理剤2に変更したこと、及び、ガラス繊維を、繊維径1.0μmのガラス繊維FM600(日本無機株式会社、製品名)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、撥水性繊維2を得た。
【0186】
[撥水性繊維シート2]
撥水性繊維1を撥水性繊維2に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、目付量120g/m2である、撥水性繊維2からなる厚さ0.50mmの撥水性繊維シート2を作製した。
【0187】
(実施例3)
[処理剤3]
ポリシロキサン化合物としてXF42-C5277を20.0質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを3.2質量部及びシリカ粒子含有原料として酢酸濃度100mMに調整したPL-2L溶液(PL-2Lの詳細については表1に記載。シリカ粒子含有原料について以下同様。)を75.0質量部混合し、25℃で2時間攪拌した。これに塩基触媒として炭酸ナトリウム2.0質量部を加え、60℃で2時間攪拌し、処理剤3を得た。
【0188】
[撥水性繊維3]
処理剤2を処理剤3に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、撥水性繊維3を得た。
【0189】
[撥水性繊維シート3]
撥水性繊維2を撥水性繊維3に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、目付量120g/m2である、撥水性繊維3からなる厚さ0.50mmの撥水性繊維シート3を作製した。
【0190】
(実施例4)
[処理剤4]
ポリシロキサン化合物としてポリシロキサン化合物Bを20.0質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを3.2質量部及び100mM 酢酸水溶液を49.8質量部、並びにシリカ粒子含有原料として酢酸濃度100mMに調整したPL-2L溶液を25.0質量部混合し、25℃で2時間攪拌した。これに塩基触媒として炭酸ナトリウム2.0質量部を加え、60℃で2時間攪拌し、処理剤4を得た。
【0191】
なお、上記「ポリシロキサン化合物B」は次のようにして合成した。まず、撹拌機、温度計及びジムロート冷却管を備えた1リットルの3つ口フラスコにて、XC96-723を100.0質量部、テトラメトキシシランを202.6質量部及びt-ブチルアミンを0.50質量部混合し、30℃で5時間反応させた。その後、この反応液を、1.3kPaの減圧下、140℃で2時間加熱し、揮発分を除去することで、両末端3官能アルコキシ変性ポリシロキサン化合物(ポリシロキサン化合物B)を得た。
【0192】
[撥水性繊維4]
処理剤2を処理剤4に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、撥水性繊維4を得た。
【0193】
[撥水性繊維シート4]
撥水性繊維2を撥水性繊維4に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、目付量120g/m2である、撥水性繊維4からなる厚さ0.50mmの撥水性繊維シート4を作製した。
【0194】
(実施例5)
[処理剤5]
ポリシロキサン化合物としてポリシロキサン化合物Aを10.0質量部、シランモノマーとしてメチルトリメトキシシランKBM-13(信越化学工業株式会社製、製品名:以下『MTMS』と略記)を15.0質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを4.0質量部及び100mM 酢酸水溶液を69.8質量部混合し、25℃で2時間攪拌した。これに塩基触媒として炭酸ナトリウム1.2質量部を加え、60℃で2時間攪拌し、処理剤5を得た。
【0195】
[撥水性繊維5]
処理剤1を処理剤5に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、撥水性繊維5を得た。
【0196】
[撥水性繊維シート5]
撥水性繊維1を撥水性繊維5に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、目付量120g/m2である、撥水性繊維5からなる厚さ0.50mmの撥水性繊維シート5を作製した。
【0197】
(実施例6)
[処理剤6]
ポリシロキサン化合物としてポリシロキサン化合物Aを10.0質量部、シランモノマーとしてMTMSを15.0質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを4.0質量部及び100mM 酢酸水溶液を43.5質量部、並びにシリカ粒子含有原料として酢酸濃度100mMに調整したPL-5L溶液を25.0質量部混合し、25℃で2時間攪拌した。これに塩基触媒として炭酸ナトリウム2.5質量部を加え、60℃で2時間攪拌し、処理剤6を得た。
【0198】
[撥水性繊維6]
処理剤2を処理剤6に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、撥水性繊維6を得た。
【0199】
[撥水性繊維シート6]
撥水性繊維2を撥水性繊維6に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、目付量120g/m2である、撥水性繊維6からなる厚さ0.50mmの撥水性繊維シート6を作製した。
【0200】
(実施例7)
[処理剤7]
ポリシロキサン化合物としてポリシロキサン化合物Aを1.0質量部、シランモノマーとしてMTMSを3.0質量部、ジメチルジメトキシシランKBM-22(信越化学工業株式会社製、製品名:以下『DMDMS』と略記)を1.0質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを0.8質量部及び100mM 酢酸水溶液を88.7質量部、並びにシリカ粒子含有原料として酢酸濃度100mMに調整したPL-2L溶液を5.0質量部混合し、25℃で2時間攪拌した。これに塩基触媒として炭酸ナトリウム0.5質量部を加え、60℃で2時間攪拌し、処理剤7を得た。
【0201】
[撥水性繊維7]
処理剤2を処理剤7に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、撥水性繊維7を得た。
【0202】
[撥水性繊維シート7]
撥水性繊維2を撥水性繊維7に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、目付量120g/m2である、撥水性繊維7からなる厚さ0.50mmの撥水性繊維シート7を作製した。
【0203】
(実施例8)
[撥水性繊維8]
上記処理剤7に、繊維径1.0μmのガラス繊維FM600(日本無機株式会社、製品名)を25℃で5分ディップし、その後、ガラス繊維を150℃で2時間乾燥して、溶媒を揮発させた。乾燥したガラス繊維をメタノールにディップし、25℃で5分洗浄を行った。次にメチルエチルケトンにディップし、25℃で5分洗浄を行った。洗浄されたガラス繊維を、常圧下にて、120℃で1時間乾燥し、その後、150℃で6時間エージングすることで、撥水性繊維8を得た。
【0204】
[撥水性繊維シート8]
撥水性繊維2を撥水性繊維8に変更しこと以外は、実施例2と同様にして、目付量120g/m2である、撥水性繊維8からなる厚さ0.50mmの撥水性繊維シート8を作製した。
【0205】
(実施例9)
[繊維シート]
繊維径1.0μmのガラス繊維FM600(日本無機株式会社、製品名)3g、精製水750g及び界面活性剤ラッコールAL(明成化学株式会社、製品名)0.01gを、1LミキサーTM837(株式会社TESCOM、製品名)に加え、30秒間攪拌した後、5Lビーカーに移し、精製水3250g及び上記界面活性剤0.04gを更に加え、繊維の凝集が目視で確認できなくなるまで回転速度1000rpmで攪拌し、繊維の分散液を得た。得られた繊維の分散液を150meshのメッシュを設置したスタンダードシートマシン抄紙装置(熊谷理機工業株式会社、製品名)に投入し、全量10Lになるように精製水で希釈した後、濾水・乾燥して、目付量120g/m2である、繊維からなる厚さ0.50mmの繊維シートを作製した。
【0206】
[撥水性繊維シート9]
上記処理剤7に、上記繊維シートをディップし、60℃で2時間かけて処理した。その後、処理した繊維シートをメタノールにディップし、25℃で5分洗浄を行った。次にメチルエチルケトンにディップし、25℃で5分洗浄を行った。洗浄された繊維シートを、常圧下にて、120℃で1時間乾燥し、その後、150℃で6時間エージングすることで、撥水性繊維シート9を得た。
【0207】
(実施例10)
[処理剤8]
ポリシロキサン化合物としてポリシロキサン化合物Aを10.0質量部、シランモノマーとしてMTMSを15.0質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを4.0質量部、100mM 酢酸水溶液を69.8質量部、及び塩基触媒として炭酸ナトリウム1.2質量部を混合し、25℃で6時間攪拌し、処理剤8を得た。
【0208】
[撥水性繊維9]
処理剤1を処理剤8に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、撥水性繊維9を得た。
【0209】
[撥水性繊維シート10]
撥水性繊維1を撥水性繊維9に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、目付量120g/m2である、撥水性繊維9からなる厚さ0.50mmの撥水性繊維シート10を作製した。
【0210】
(実施例11)
[処理剤9]
ポリシロキサン化合物としてポリシロキサン化合物Aを1.0質量部、シランモノマーとしてMTMSを3.0質量部及びDMDMSを1.0質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを0.8質量部、100mM 酢酸水溶液を88.7質量部、シリカ粒子含有原料として酢酸濃度100mMに調整したPL-2L溶液を5.0質量部、並びに塩基触媒として炭酸ナトリウム0.5質量部を混合し、25℃で6時間攪拌し、処理剤9を得た。
【0211】
[撥水性繊維10]
処理剤2を処理剤9に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、撥水性繊維10を得た。
【0212】
[撥水性繊維シート11]
撥水性繊維2を撥水性繊維10に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、目付量120g/m2である、撥水性繊維10からなる厚さ0.50mmの撥水性繊維シート11を作製した。
【0213】
(参考例12)
[処理剤10]
ポリシロキサン化合物としてポリシロキサン化合物Aを10.0質量部、シランモノマーとしてMTMSを15.0質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを4.0質量部、100mM 酢酸水溶液を69.8質量部及びエアロゲル粒子としてIC3100(キャボット社製、製品名)を1.0質量部混合し、25℃で2時間攪拌した。これに塩基触媒として炭酸ナトリウム2.0質量部を加え、60℃で2時間攪拌し、処理剤10を得た。
【0214】
[撥水性繊維11]
処理剤1を処理剤10に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、撥水性繊維11を得た。
【0215】
[撥水性繊維シート12]
撥水性繊維1を撥水性繊維11に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、目付量120g/m2である、撥水性繊維11からなる厚さ0.50mmの撥水性繊維シート12を作製した。
【0216】
(参考例13)
[処理剤11]
ポリシロキサン化合物としてポリシロキサン化合物Aを1.0質量部、シランモノマーとしてMTMSを3.0質量部及びDMDMSを1.0質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを0.8質量部、100mM 酢酸水溶液を88.7質量部、シリカ粒子含有原料として酢酸濃度100mMに調整したPL-2L溶液を5.0質量部、エアロゲル粒子としてIC3100を1.0質量部、並びに塩基触媒として炭酸ナトリウム0.5質量部を混合し、25℃で6時間攪拌し、処理剤11を得た。
【0217】
[撥水性繊維12]
処理剤2を処理剤11に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、撥水性繊維12を得た。
【0218】
[撥水性繊維シート13]
撥水性繊維2を撥水性繊維12に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、目付量120g/m2である、撥水性繊維12からなる厚さ0.50mmの撥水性繊維シート13を作製した。
【0219】
(比較例1)
[比較処理剤1]
シランモノマーとしてMTMSを30.0質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを2.4質量部及び100mM 酢酸水溶液を66.1質量部混合し、25℃で2時間攪拌した。これに塩基触媒として炭酸ナトリウム1.5質量部を加え、60℃で2時間攪拌し、比較処理剤1を得た。
【0220】
[比較撥水性繊維1]
処理剤1を比較処理剤1に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較撥水性繊維1を得た。
【0221】
[比較撥水性繊維シート1]
撥水性繊維1を比較撥水性繊維1に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較撥水性繊維シート1を得た。
【0222】
(比較例2)
[比較処理剤2]
シランモノマーとしてMTMSを20.0質量部、DMDMSを15.0質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを2.8質量部及び100mM 酢酸水溶液を60.5質量部混合し、25℃で2時間攪拌した。これに塩基触媒として炭酸ナトリウム1.7質量部を加え、60℃で2時間攪拌し、比較処理剤2を得た。
【0223】
[比較撥水性繊維2]
処理剤2を比較処理剤2に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、比較撥水性繊維2を得た。
【0224】
[比較撥水性繊維シート2]
撥水性繊維2を比較撥水性繊維2に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、比較撥水性繊維シート2を得た。
【0225】
(比較例3)
[比較処理剤3]
シランモノマーとしてフルオロアルキルシランXC98-B2472(モメンティブ社製、製品名)を30.0質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを2.4質量部及び100mM 酢酸水溶液を66.1質量部混合し、25℃で2時間攪拌した。これに塩基触媒として炭酸ナトリウム1.5質量部を加え、60℃で2時間攪拌し、比較処理剤3を得た。
【0226】
[比較撥水性繊維3]
処理剤2を比較処理剤3に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、比較撥水性繊維3を得た。
【0227】
[比較撥水性繊維シート3]
撥水性繊維2を比較撥水性繊維3に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、比較撥水性繊維シート3を得た。
【0228】
(比較例4)
[比較撥水性繊維シート4]
処理剤7を比較処理剤2に変更したこと以外は、実施例9と同様にして、比較撥水性繊維シート4を得た。
【0229】
各実施例及び比較例における処理剤の態様(ポリシロキサン化合物、シランモノマーの種類及び含有量、並びにシリカ粒子含有原料の種類及び含有量)を表1にまとめて示す。また、各実施例及び比較例における、撥水性繊維シートの態様(処理剤の種類と処理方法、並びに処理対象の種類)を表2にまとめて示す。
【0230】
【0231】
【0232】
[各種評価]
各実施例で得られた撥水性繊維シート及び未処理の繊維シートについて、以下の条件に従って測定又は評価をした。水接触角測定、熱伝導率測定、含ケイ素結合単位Q、T及びDに係るシグナル面積比の測定の評価結果をまとめて表3に示す。
【0233】
(1)水接触角測定
各実施例及び比較例で得られた撥水性繊維シート及び未処理の繊維シートを、105℃で1時間乾燥し、測定サンプルとした。次に、協和界面科学株式会社製の接触角計DMs-401を使用して、超純水の液滴2μLを滴下し、5秒後の接触角を、室温で測定した。測定は5回行い、平均値を水接触角とした。
【0234】
(2)熱伝導率測定
各実施例及び比較例で得られた撥水性繊維シート及び未処理の繊維シートを、250mm角に切断し、105℃で1時間乾燥し、測定サンプルとした。熱伝導率の測定は、定常法熱伝導率測定装置「HFM436Lambda」(NETZSCH社製、製品名)を用いて行った。測定条件は、大気圧下、平均温度25℃とした。上記の通り得られた測定サンプルを6枚重ね、0.3MPaの荷重にて上部及び下部ヒーター間に挟み、温度差ΔTを20℃とし、ガードヒーターによって一次元の熱流になるように調整しながら、測定サンプルの上面温度、下面温度等を測定した。そして、測定サンプルの熱抵抗RSを次式より求めた。
RS=N((TU-TL)/Q)-RO
式中、TUは測定サンプル上面温度を示し、TLは測定サンプル下面温度を示し、ROは上下界面の接触熱抵抗を示し、Qは熱流束計出力を示す。なお、Nは比例係数であり、較正試料を用いて予め求めておいた。
【0235】
得られた熱抵抗RSより、測定サンプルの熱伝導率λを次式より求めた。
λ=d/RS
式中、dは測定サンプルの厚さを示す。
【0236】
(3)含ケイ素結合単位Q、T及びDに係るシグナル面積比の測定
固体29Si-NMR装置として「FT-NMR AV400WB」(ブルカー・バイオスピン株式会社製、製品名)を用いて測定を行った。測定条件は、測定モード:DD/MAS法、プローブ:4mmφのCPMASプローブ、磁場:9.4T、共鳴周波数:79Hz、MAS回転数:4kHz、遅延時間:150秒とした。標準試料としては、3-トリメチルシリルプロピオン酸ナトリウムを用いた。
【0237】
測定サンプルとしては各実施例及び比較例で得られた撥水性繊維シートを細かく裁断したものを準備し、これをZrO2製ローターに詰めて、プローブに装着して測定を行った。また、スペクトル解析においては、Line Broadening係数を2Hzとし、得られた含ケイ素結合単位Q、T及びDに係るシグナル面積比(Q+T:D)を求めた。
【0238】
【0239】
表3から、実施例の撥水性繊維シートは、いずれも水接触角が150度以上であり、未処理の繊維シート及び比較例に比べて撥水性に優れることがわかる。また、実施例の撥水性繊維シートは、未処理の繊維シート及び比較例に比べて熱伝導率が低く、断熱性に優れることがわかる。
【0240】
以上の結果より、本発明の処理剤によれば、繊維に優れた撥水性と断熱性とを付与できることがわかる。
【符号の説明】
【0241】
L…外接長方形、P…シリカ粒子、1…撥水膜、2…繊維、2a…被処理面、3…撥水粒子、10…撥水部、100,200,300…撥水性繊維。