(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】型取り用シリコーンゴム組成物およびシリコーンゴム型
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20220720BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20220720BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/36
(21)【出願番号】P 2019098643
(22)【出願日】2019-05-27
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小材 利之
(72)【発明者】
【氏名】原 通久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一安
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-052027(JP,A)
【文献】特開平07-033985(JP,A)
【文献】特開2002-194219(JP,A)
【文献】特開平02-070755(JP,A)
【文献】特開平04-202258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/07
C08L 83/05
C08K 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記平均式(1)で表されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
Vi
(3-a)R
1
aSiO(R
1
2SiO)
mSiR
1
aVi
(3-a) (1)
(式中、R
1は、それぞれ独立して、非置換または置換のアルケニル基を含まない1価炭化水素基を表し、Viは、ビニル基を表し、mは、25℃における(A)成分の粘度が10,000~200,000mPa・sとなる数であり、aは0~2の数である。)
(B)下記平均式(2)で表されるオルガノポリシロキサン:5~100質量部、
(R
1
3SiO
1/2)
p(Vi
(3-b)R
1
bSiO
1/2)
q(SiO
4/2)
r (2)
(式中、R
1およびViは、前記と同じ意味を表し、p、qおよびrは、それぞれp>0、q>0、r>0、かつ、p+q+r=1を満たす数であり、bは、0~2の数である。)
(C)BET法による比表面積が50m
2/g以上のシリカ:3~
14質量部、
(D)下記平均式(3)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.1~200質量部、および
(R
1
3SiO
1/2)
s(H
(3-c)R
1
bSiO
1/2)
2-s(HR
1
1SiO
2/2)
t(R
1
2SiO
2/2)
u (3)
(式中、R
1は、前記と同じ意味を表し、cは、1または2であり、sは、0~2の数であり、tおよびuは、それぞれt>0、u≧0、かつ、2≦t+u≦100および0.05≦t/(t+u)≦1.0を満たす数である。)
(E)ヒドロシリル化反応触媒
を含有することを特徴とする型取り用シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
前記(A)成分において、aが、0~1.8の数である請求項1記載の型取り用シリコーンゴム組成物。
【請求項3】
前記(A)成分の25℃における粘度が、20,000~150,000mPa・sである請求項1または2記載の型取り用シリコーンゴム組成物。
【請求項4】
前記(C)成分の比表面積が、150m
2/g以上である請求項1~3のいずれか1項記載の型取り用シリコーンゴム組成物。
【請求項5】
前記(D)成分において、tおよびuが、それぞれt>0、u>0、かつ、2≦t+u≦70および0.2≦t/(t+u)≦0.5を満たす数である請求項1~4のいずれか1項記載の型取り用シリコーンゴム組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項記載の型取り用シリコーンゴム組成物からなる型取り剤。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項記載の型取り用シリコーンゴム組成物を硬化させてなるシリコーンゴム型。
【請求項8】
請求項7記載のシリコーンゴム型を用いる樹脂製複製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型取り用シリコーンゴム組成物およびシリコーンゴム型に関し、さらに詳述すると、付加硬化型の型取り用シリコーンゴム組成物およびこれが硬化してなるシリコーン型取り母型(いわゆるメス型)に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴム型を反転母型として利用し、これに樹脂を充填、硬化させることにより複数の製品を製造することは、趣味のミニチュアモデルから産業上の試作モデルに至るまで、幅広く行われている。
これらに使用されるシリコーンゴムは、硬化前は液状であり、硬化剤と混合することにより常温もしくは加熱することで簡単に硬化し、反転型を作ることができるという利点がある。しかしその反面、ゴムであるために注入成型された樹脂とゴム型が密着し、離型しにくいという問題点があった。
この解決策として一般に離型剤が使用されてきたが、工程上の時間を短縮する上で問題となっていた。
【0003】
これを解決する手段として、特許文献1には、架橋するベースポリマー以上の鎖長を有する非架橋性のシリコーンポリマーを添加することが提案され、離型性の向上に大きな成果を上げている。
しかし、この手法には、ナイロン等の高い熱変形温度を持つ樹脂を射出成型等により真空注型して型取りを繰り返し行うと、反転母型の引裂き強度が低下することにより離型しにくくなったり、母型に裂け等の傷が入ったりするという問題があった。
この対策として、特許文献2では、組成中にチタン酸カリウム等のファインセラミックスを添加する方法が提案されているが、必ずしもその効果は十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-118534号公報
【文献】特開2016-165802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、耐熱性に優れ、繰り返し使用可能なシリコーンゴム型を与える型取り用シリコーンゴム組成物、およびこのシリコーンゴム型を使用した樹脂製複製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の付加硬化型シリコーンゴム組成物が、耐熱性に優れ、繰り返し使用可能なシリコーンゴム型を与えることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、
1. (A)下記平均式(1)で表されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
Vi(3-a)R1
aSiO(R1
2SiO)mSiR1
aVi(3-a) (1)
(式中、R1は、それぞれ独立して、非置換または置換のアルケニル基を含まない1価炭化水素基を表し、Viは、ビニル基を表し、mは、25℃における(A)成分の粘度が10,000~200,000mPa・sとなる数であり、aは0~2の数である。)
(B)下記平均式(2)で表されるオルガノポリシロキサン:5~100質量部、
(R1
3SiO1/2)p(Vi(3-b)R1
bSiO1/2)q(SiO4/2)r (2)
(式中、R1およびViは、前記と同じ意味を表し、p、qおよびrは、それぞれp>0、q>0、r>0、かつ、p+q+r=1を満たす数であり、bは、0~2の数である。)、
(C)BET法による比表面積が50m2/g以上のシリカ:3~50質量部、
(D)下記平均式(3)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.1~200質量部、および
(R1
3SiO1/2)s(H(3-c)R1
bSiO1/2)2-s(HR1
1SiO2/2)t(R1
2SiO2/2)u (3)
(式中、R1は、前記と同じ意味を表し、cは、1または2であり、sは、0~2の数であり、tおよびuは、それぞれt>0、u≧0、かつ、2≦t+u≦100および0.05≦t/(t+u)≦1.0を満たす数である。)
(E)ヒドロシリル化反応触媒
を含有することを特徴とする型取り用シリコーンゴム組成物、
2. 前記(A)成分において、aが、0~1.8の数である1の型取り用シリコーンゴム組成物、
3. 前記(A)成分の25℃における粘度が、20,000~150,000mPa・sである1または2の型取り用シリコーンゴム組成物、
4. 前記(C)成分の比表面積が、150m2/g以上である1~3のいずれかの型取り用シリコーンゴム組成物、
5. 前記(D)成分において、tおよびuが、それぞれt>0、u>0、かつ、2≦t+u≦70および0.2≦t/(t+u)≦0.5を満たす数である1~4のいずれかの型取り用シリコーンゴム組成物、
6. 1~5のいずれかの型取り用シリコーンゴム組成物からなる型取り剤、
7. 1~5のいずれかの型取り用シリコーンゴム組成物を硬化させてなるシリコーンゴム型、
8. 7のシリコーンゴム型を用いる樹脂製複製品の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の型取り用シリコーンゴム組成物を硬化して得られるシリコーンゴム型は、耐熱性に優れ、特にナイロン等の高い硬化温度を持つ樹脂用型取り材料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について具体的に説明する。
なお、本発明において、型取り用シリコーンゴム組成物とは、未硬化状態で流動性を有し、原型の全表面または一部の表面に、注型または塗布のような方法で接触させ、その状態で硬化させて樹脂などによる複製に供する型(型取り用の母型)を形成する未硬化状態の(液状)の組成物をいう。
【0010】
本発明に係る型取り用シリコーンゴム組成物は、下記(A)~(E)成分を含有するものである。
(A)下記平均式(1)で表されるオルガノポリシロキサン
Vi(3-a)R1
aSiO(R1
2SiO)mSiR1
aVi(3-a) (1)
(式中、R1は、それぞれ独立して、非置換または置換のアルケニル基を含まない1価炭化水素基を表し、Viは、ビニル基を表し、mは、25℃における(A)成分の粘度が10,000~200,000mPa・sとなる数であり、aは0~2の数である。)
(B)下記平均式(2)で表されるオルガノポリシロキサン
(R1
3SiO1/2)p(Vi(3-b)R1
bSiO1/2)q(SiO4/2)r (2)
(式中、R1およびViは、上記と同じ意味を表し、p、qおよびrは、それぞれp>0、q>0、r>0、かつ、p+q+r=1を満たす数であり、bは、0~2の数である。)
(C)BET法による比表面積が50m2/g以上のシリカ
(D)下記平均式(3)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(R1
3SiO1/2)s(H(3-c)R1
bSiO1/2)2-s(HR1
1SiO2/2)t(R1
2SiO2/2)u (3)
(式中、R1は、上記と同じ意味を表し、cは、1または2であり、sは、0~2の数であり、tおよびuは、それぞれt>0、u≧0、かつ、2≦t+u≦100および0.05≦t/(t+u)≦1.0を満たす数である。)
(E)ヒドロシリル化反応触媒
【0011】
[1](A)成分
(A)成分は、下記平均式(1)で表されるオルガノポリシロキサンである。
Vi(3-a)R1
aSiO(R1
2SiO)mSiR1
aVi(3-a) (1)
【0012】
式(1)において、R1は、それぞれ独立して、非置換または置換のアルケニル基を含まない1価炭化水素基を表し、Viは、ビニル基を表す。
R1の1価炭化水素基としては、アルケニル基を有しないものであれば特に限定はなく、直鎖、分岐、環状のいずれでもよいが、炭素原子数1~20の1価炭化水素基が好ましく、炭素原子数1~10の1価炭化水素基がより好ましく、炭素原子数1~5の1価炭化水素基がより一層好ましい。
その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル基等の直鎖または分岐のアルキル基;シクロヘキシル基等の環状アルキル基;フェニル、トリル基等のアリール基;ベンジル、フェニルエチル基等のアラルキル基などが挙げられる。
なお、これらの1価炭化水素基の水素原子の一部または全部は、F、Cl、Br等のハロゲン原子、シアノ基等で置換されていてもよく、そのような基の具体例としては、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基;2-シアノエチル基等のシアノ置換炭化水素基等が挙げられる。
これらの中でもR1は、メチル基が好ましい。
【0013】
本発明の型取り用シリコーンゴム組成物の取り扱い性の点、ならびに得られる硬化物の引裂き強度および耐熱性の点から、(A)成分の25℃における粘度は10,000~200,000mPa・sであるが、25,000~150,000mPa・sが好ましい。
したがって、式(1)のmは、25℃における(A)成分の粘度が10,000~200,000mPa・sとなる数であるが、200~1,300の数が好ましい。なお、本発明における粘度は回転粘度計を用いた測定値である。
また、式(1)におけるaは、0~2の数であるが、0~1.8の数が好ましい。
【0014】
(A)成分の具体例としては、下記平均式で示されるオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
Vi3SiO(Me2SiO)250SiVi3
Vi3SiO(Me2SiO)750SiVi3
Vi3SiO(Me2SiO)1000SiVi3
ViMe2SiO(Me2SiO)250SiMe2Vi
ViMe2SiO(Me2SiO)750SiMe2Vi
ViMe2SiO(Me2SiO)1000SiMe2Vi
(式中、Viはビニル基を、Meはメチル基を意味する(以下同様)。)
【0015】
なお、(A)成分は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0016】
[2](B)成分
(B)成分は、下記平均式(2)で表されるオルガノポリシロキサンである。
(R1
3SiO1/2)p(Vi(3-b)R1
bSiO1/2)q(SiO4/2)r (2)
【0017】
式(2)において、R1は、上記式(1)と同じ意味を表し、その具体例も上記で例示した基と同様であるが、この場合もメチル基が好ましい。
p、qおよびrは、それぞれp>0、q>0、r>0、かつ、p+q+r=1を満たす数であるが、得られる硬化物の力学特性の点から、(B)成分のオルガノポリシロキサンにおいて、Q単位に対するM単位の比率(p+q)/rは、0.3~2.0が好ましく、0.4~1.0がより好ましい。
bは、0~2の数である。
【0018】
(B)成分の分子量は、特に限定されるものではないが、その他の成分に対する相溶性および得られる硬化物の力学特性の点から、1,000~50,000が好ましく、2,000~10,000がより好ましい。なお、分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)における標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0019】
(B)成分の具体例としては、例えば、下記式で表されるオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
(Me3SiO1/2)0.4(ViMe2SiO1/2)0.045(SiO4/2)0.555、
(Me3SiO1/2)0.1(Vi3SiO1/2)0.2(SiO4/2)0.7、
(Me3SiO1/2)0.35(ViMe2SiO1/2)0.2(Vi3SiO1/2)0.1(SiO4/2)0.35
【0020】
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して5~100質量部であるが、10~50質量部が好ましい。(B)成分の配合量が5質量部未満では、得られる硬化物の力学特性が不足し、100質量部を超えると、組成物の粘度が高くなるため型取りが困難となる。
なお、(B)成分は25℃において固体状となる場合があるため、上記(A)成分に溶解させて用いてもよい。
また、(B)成分は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0021】
[3](C)成分
(C)成分は、BET法による比表面積が50m2/g以上、好ましくは50~500m2/g、より好ましくは150~350m2/gのシリカであり、本発明のシリコーンゴム組成物から得られる硬化物に、引張強さ、引裂き強さ、切断時伸び等の力学特性を付与するための成分である。
シリカとしては、例えば、ヒュームドシリカ、結晶性シリカ(石英粉)、沈降性シリカ、これらの表面を疎水化処理したシリカ等が挙げられ、これらは1種単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
【0022】
このようなシリカとしては、親水性のシリカとして、Aerosil 130、200、300(日本アエロジル社製)、Cabosil MS-5,MS-7(Cabot社製),Rheorosil QS-102,103((株)トクヤマ製)等のヒュームドシリカ;トクシールUS-F((株)トクヤマ製)、Nipsil LP(日本シリカ工業(株)製)等の沈降性シリカ等が挙げられ、疎水性のシリカとして、Aerosil R-812,R-812S,R-972,R-974(日本アエロジル(株)製)、Rheorosil MT-10((株)トクヤマ製)等のヒュームドシリカ;Nipsil SSシリーズ(日本シリカ工業(株)製)等の沈降性シリカ;クリスタライト((株)龍森製)、MIN-U-SIL(U.S.Silica Company社製)、Imisil(Illinois Mineral社製)等の結晶性シリカ等が挙げられる。
【0023】
これらのシリカはそのまま用いても構わないが、表面処理剤で予め表面疎水化処理したものを使用したり、(A)成分の混練時に表面処理剤を添加してシリカ表面を疎水化処理して使用したりすることが好ましい。表面処理剤としては、アルキルアルコキシシラン、アルキルヒドロキシシラン、アルキルクロロシラン、アルキルシラザン、シランカップリング剤、低分子ポリシロキサン、チタネート系処理剤、脂肪酸エステル等が挙げられ、好ましくはアルキルジシラザン、より好ましくはヘキサメチルジシラザンである。これらの表面処理剤は1種単独で用いても、2種以上を同時にまたは異なるタイミングで用いても構わない。
表面処理剤の使用量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは0.5~50質量部、より好ましくは1~40質量部、より一層好ましくは2~30質量部である。表面処理剤の使用量が上記範囲内であると、組成物中に表面処理剤またはその分解物が残らず、流動性が得られ、経時で粘度が上昇することを抑制できる。
【0024】
(C)成分の配合量は、組成物の取り扱い性および硬化物の機械的強度の点から、(A)成分100質量部に対して3~50質量部であるが、5~30質量部が好ましい。(C)成分の配合量が3質量部未満であると、得られる硬化物の力学特性が不足し、50質量部を超えると、組成物の粘度が高くなるため型取りが困難となる。
【0025】
[4](D)成分
(D)成分は、下記平均式(3)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
(R1
3SiO1/2)s(H(3-c)R1
bSiO1/2)2-s(HR1
1SiO2/2)t(R1
2SiO2/2)u (3)
【0026】
式(3)において、R1は、上記式(1)と同じ意味を表し、その具体例も上記で例示した基と同様であるが、この場合もメチル基が好ましい。
cは、1または2であり、sは、0~2の数である。
tおよびuは、それぞれt>0、u≧0、かつ、2≦t+u≦100および0.05≦t/(t+u)≦1.0を満たす数であるが、t+uは、8~80が好ましく、t/(t+u)は、0.2~0.8が好ましい。t+uが2未満であると、(D)成分が硬化時に揮発する可能性があり、100を超えると、(D)成分の粘度が高くなることにより作業性が悪化する。また、t/(t+u)が0.05未満であると、得られる硬化物のゴム物性が不十分なものとなる。
【0027】
(D)成分の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、組成物の作業性や硬化物の力学特性を高めることを考慮すると、1,000~30,000が好ましく、1,500~10,000がより好ましい。
【0028】
(D)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの具体例としては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、これらのオルガノポリシロキサンの2種以上からなる混合物等が挙げられる。
より具体的には、下記式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられる。
【0029】
【化1】
(式中、シロキサン単位の配列は任意である。)
【0030】
(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1~200質量部であるが、0.3~50質量部が好ましい。(D)成分の配合量が、0.1質量部未満であると、架橋が不十分なものとなり、200質量部を超えると、硬化の際に水素ガスの発生による発泡が起こりやすく、硬化物内部の空隙の発生によりゴム強度が低下する。
また、(A)成分及および(B)成分中のビニル基1個あたりの(D)成分中のケイ素原子と結合した水素原子の数は、0.4~4個が好ましく、0.8~3個がより好ましい。
なお、(D)成分は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0031】
[5](E)成分
(E)成分は、(A)成分中のビニル基と(B)成分中のSiH基とのヒドロシリル化反応を促進するためのヒドロシリル化反応触媒である。
その具体例としては、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と1価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテートなどの白金系触媒、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム等のパラジウム系触媒、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等のロジウム系触媒などが挙げられる。
なお、(E)成分は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
(E)成分の配合量は、組成物の硬化(ヒドロシリル化反応)を促進する量であれば限定されず、本組成物の各成分の質量の合計に対して、本成分中の金属原子が質量換算で0.1~1,000ppmの範囲となる量が好ましく、1~500ppmの範囲がより好ましく、3~100ppmの範囲がより一層好ましい。この範囲であれば、付加反応の反応速度が適切なものとなる。
【0033】
[6](F)成分
本発明の型取り用シリコーンゴム組成物には、組成物を調製する際や、型取りの際などの加熱硬化前に、増粘やゲル化を起こさないようにヒドロシリル化反応触媒の反応性を制御する目的で、必要に応じて(F)反応制御剤を添加してもよい。
反応制御剤の具体例としては、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、1-エチニルシクロヘキサノール、エチニルメチルデシルカルビノール、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ブチン、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ペンチン、3,5-ジメチル-3-トリメチルシロキシ-1-ヘキシン、1-エチニル-1-トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2-ジメチル-3-ブチノキシ)ジメチルシラン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン等が挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、1-エチニルシクロヘキサノール、エチニルメチルデシルカルビノール、3-メチル-1-ブチン-3-オールが好ましい。
【0034】
(F)成分を用いる場合、その添加量は、(A)成分および(B)成分の合計100質量部に対して0.01~3.0質量部が好ましく、0.01~1.5質量部がより好ましい。このような範囲であれば反応制御の効果が十分発揮される。
【0035】
[7]その他の成分
本発明の型取り用シリコーンゴム組成物には、上記(A)~(F)成分以外にも、本発明の目的を損なわない限り、以下に例示するその他の成分を配合してもよい。
その他の成分としては、酸化鉄、カーボンブラック、導電性亜鉛華、金属粉等の導電剤;酸化チタン、酸化セリウム等の耐熱剤;ジメチルシリコーンオイル等の内部離型剤;接着性付与剤;チクソ性付与剤;着色剤等が挙げられる。
【0036】
着色剤の具体例としては、ウルトラマリン、酸化鉄、酸化チタン、チタンイエロー、カーボンブラック、ジンクホワイト、クロームグリーン等の無機顔料;アントラキノンバイオレット、アントラキノンブルー、インダスレンブルー、アリザニングリーン、ペリソンレッド等の有機顔料;アルミニウム粉、銅粉、ブロンズ粉、錫粉等の金属粉顔料;蓄光顔料;蛍光顔料、さらには硬化阻害を与えない染料などが挙げられ、色調や彩度等を考慮して適宜選択することができる。
【0037】
本発明の型取り用シリコーンゴム組成物は、上記の(A)~(E)成分、必要に応じて用いられる(F)成分、およびその他の成分をニーダー、プラネタリーミキサー等を用いた公知の方法で混合して調製することができる。
本発明の型取り用シリコーンゴム組成物は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(E)成分、および必要に応じてその他の成分からなる第一剤と、(A)成分、(D)成分、(C)成分および必要に応じてその他の成分からなる第二剤を別々に調製し、使用前に第一剤と第二剤を混合する二剤型の組成物としてもよい。なお、第一剤および第二剤で共通に使用される成分があってもよい。組成物をこのような二剤型とすることにより、さらに保存安定性が確保できる。
【0038】
本発明の型取り用シリコーンゴム組成物を所定の型で注型し、硬化することによりシリコーンゴム型を得ることができる。特に真空注型を用いて注型することが好ましく、硬化条件としては、例えば常温(5~35℃)でも硬化が進行するが、加熱により硬化促進させることもでき、量産性を向上させたい場合には、この手法が有効である。
加熱硬化させる場合、通常、40~60℃の温度で2~20時間程度の条件で行うことができる。
【0039】
本発明の型取り用シリコーンゴム組成物から得られるシリコーンゴム型は、ナイロン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの樹脂成型物の成形に有効に使用することができる。特に、溶融に50~200℃、好ましくは70~180℃の熱変形温度を必要とするナイロン樹脂の成形に好適である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1~4、比較例1]
下記成分を表1に示される配合比(質量部)で混合し、シリコーンゴム組成物を調製した。具体的には、まず(A)成分、(B)成分、(C)成分、ヘキサメチルジシラザン1.5質量部、および水0.7質量部を25℃でニーダーを用いて1時間混合後、150℃に昇温し、2時間撹拌を続け、25℃に冷却して得られたシリコーンゴムベースに、(E)成分を白金の質量換算で組成物全体に対して100ppmになるように添加し、プラネタリーミキサーを用いて25℃で15分間撹拌混合後、(D)成分および(F)成分を添加し、プラネタリーミキサーを用いて25℃で15分間撹拌混合を行い、さらに25℃で30分間減圧脱泡し、シリコーンゴム組成物を得た。
【0042】
[比較例2]
(B)成分を用いなかった以外は、実施例1と同様にしてシリコーンゴム組成物を得た。
【0043】
[比較例3]
(C)成分、ヘキサメチルジシラザン、および水を用いなかった以外は、実施例1と同様にしてシリコーンゴム組成物を得た。
【0044】
(A)成分:
(A-1)両末端がトリビニルシリル基で封鎖された25℃における粘度が100,000mPa・sのジメチルポリシロキサン
(A-2)両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖された25℃における粘度が50,000mPa・sのジメチルポリシロキサン
(A-3)両末端がトリビニルシリル基で封鎖された25℃における粘度が60,000mPa・sのジメチルポリシロキサン
(A-4:比較例)両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖された25℃における粘度が5,000mPa・sのジメチルポリシロキサン
【0045】
(B)成分:
(B-1)(Me3SiO1/2)0.4(ViMe2SiO1/2)0.045(SiO4/2)0.555で表されるオルガノポリシロキサン(重量平均分子量3,500)
【0046】
(C)成分:
(C-1)フュームドシリカ(日本アエロジル(株)製、アエロジル(Aerosil)R976、BET比表面積240m2/g)
【0047】
(D)成分:
(D-1)下記平均式で表されるメチルハイドロジェンポリシロキサン
【0048】
【化2】
(式中、シロキサン単位の配列はランダムまたはブロックである。)
【0049】
(D-2)下記平均式で表されるメチルハイドロジェンポリシロキサン
【0050】
【化3】
(式中、シロキサン単位の配列はランダムまたはブロックである。)
【0051】
(E)成分:
(E-1)塩化白金酸オクチルアルコール錯体
【0052】
(F)成分:
(F-1)エチニルシクロヘキサノール
【0053】
【表1】
1)組成物全体に対して白金の質量が100ppmとなる量
【0054】
上記実施例1~4および比較例1~3で調製したシリコーンゴム組成物を用い、下記の各特性を評価した。結果を表2に示す。
【0055】
[硬度]
組成物を2mm厚になるよう型に流し込み、60℃、2時間の条件で硬化させた硬化物の硬度(デュロメータA)をJIS K 6253-3:2012に準拠して測定した。また、同様に作製した硬化物を180℃、150時間の環境に曝露した後の硬度を上記と同様に測定した。
[引張強さ、切断時伸び、引裂き強度]
組成物を2mm厚になるよう型に流し込み、60℃、2時間の条件で硬化させたダンベル状試験片について、JIS K 6249:2003に準拠し、引張強さ(MPa)、切断時伸び(%)、および引裂き強度(kN/m)をそれぞれ測定した。
また、同様に作製したダンベル状試験片を180℃、150時間の環境に曝露した後に上記各物性を測定した。
[複製回数]
シリコーンゴム組成物を凹形の型枠に流し込み、60℃、2時間の硬化条件にて硬化して凹形のシリコーンゴム型を作製した。
シリコーンゴム型の凹部にナイロン樹脂(SLM社製PA3000)を流し込み、180℃、1時間で硬化させてナイロン樹脂複製品を作製し、得られたナイロン樹脂複製品をシリコーンゴム型から取り出す作業を繰り返した。シリコーンゴム型に裂けが観察されるまで繰り返し可能な複製回数を評価した。
【0056】
【0057】
表2に示されるように、実施例1~4で調製した本発明の型取り用シリコーンゴム組成物から得られた硬化物は、耐熱性に優れ、ナイロン樹脂複製物の複製回数が良好であることがわかる。
一方、本発明の(A)成分を用いていない比較例1、(B)成分を用いていない比較例2、および(C)成分を用いていない比較例3では、耐熱性に劣るためシリコーンゴム型の裂けが発生しやすく、型取りに適したものではないことがわかる。