(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】多孔質支持体-ゼオライト膜複合体及び多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20220720BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20220720BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220720BHJP
B01D 61/36 20060101ALI20220720BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20220720BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20220720BHJP
C01B 39/46 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D69/10
B01D69/12
B01D61/36
B01D53/22
B01D69/02
C01B39/46
(21)【出願番号】P 2019197613
(22)【出願日】2019-10-30
(62)【分割の表示】P 2016513846の分割
【原出願日】2015-04-17
【審査請求日】2019-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2014086677
(32)【優先日】2014-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田邊 暢偉
(72)【発明者】
【氏名】武脇 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 美樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼谷 公平
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-126649(JP,A)
【文献】特開2011-016123(JP,A)
【文献】国際公開第2013/125661(WO,A1)
【文献】特開2007-313390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D71/02
C01B39/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト膜の厚みが2μm以上であり、
多孔質支持体界面近傍のゼオライト膜のSiO
2/Al
2O
3モル比をX、内部のゼオライト膜のSiO
2/Al
2O
3モル比をYとしたとき、X/Yが下記式(1)を満たし、
前記ゼオライト膜の膜表面側から測定したSiO
2/Al
2O
3モル比が5以上かつ15以下であ
り、
前記ゼオライト膜がCHA型ゼオライト膜であることを特徴とする、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
0.70 < X/Y < 1.2 ・・・(1)
【請求項2】
前記多孔質支持体界面近傍のゼオライト膜と、前記内部のゼオライト膜の結晶性が実質的に同じであることを特徴とする、請求項1に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
【請求項3】
水蒸気拡散測定において、脱離水の検出強度の最大値からその1/20の値になるまでの時間Q(分)が、下記式(2)を満たすことを特徴とする、請求項1又は2に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
7.0 < Q < 30 ・・・(2)
【請求項4】
気体または液体の混合物を、請求項1~
3の何れか一項に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に接触させて、前記混合物から、透過性の高い物質を透過させて分離することを特徴とする、気体または液体の混合物の分離方法。
【請求項5】
前記気体または液体の混合物が、二重結合を含む化合物を含む混合物である、請求項
4に記載の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法に関し、さらに詳しくは、特定の種結晶の存在下、多孔質支持体上に水熱合成によりCHA型ゼオライト膜を形成して多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造する方法に関する。
また、本発明は低級アルコール、求電子性分子などのゼオライトの酸点と反応する物質等の分離に優れた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機物を含有する気体または液体の混合物の分離、濃縮は、対象となる物質の性質に応じて、蒸留法、共沸蒸留法、溶媒抽出/蒸留法、吸着剤などにより行われている。しかしながら、これらの方法は、多くのエネルギーを必要とする、あるいは分離、濃縮対象の適用範囲が限定的であるといった欠点がある。
【0003】
近年、これらの方法に代わる分離方法として、高分子膜やゼオライト膜などの膜を用いた膜分離、濃縮方法が提案されている。高分子膜、例えば平膜や中空糸膜などは、加工性に優れるが、耐熱性が低いという欠点がある。また高分子膜は、耐薬品性が低く、特に有機溶媒や有機酸といった有機物との接触で膨潤するものが多いため、分離、濃縮対象の適用範囲が限定的である。
【0004】
また、ゼオライト膜は、通常、多孔質の支持体上に膜状にゼオライトを形成させた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体として分離、濃縮に用いられている。例えば、有機物と水との混合物を、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に接触させ、水を選択的に透過させることにより、有機物を分離し、濃縮することができる。ゼオライトのような無機材料の膜を用いた分離、濃縮は、蒸留や吸着剤による分離に比べ、エネルギーの使用量を削減できるほか、高分子膜よりも広い温度範囲で分離、濃縮を実施でき、更に有機物を含む混合物の分離にも適用できる。
【0005】
従来、工業的にはゼオライト膜としてA型ゼオライト膜(特許文献1)が用いられてきた。A型ゼオライト膜は親水性が高く、高い脱水能力を持つ。しかし、SiO2/Al2O3モル比(以下SARと呼ぶ場合がある)が2と低いために耐水性や、耐酸性に問題があり、使用できる系が限定されていた。また、モルデナイト型多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いてアルコールと水の混合系から水を選択的に透過させてアルコールを濃縮する方法(特許文献2)や、フェリエライト型多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いて酢酸と水の混合系から水を選択的に透過させて酢酸を分離・濃縮する方法(特許文献3)なども提案されている。しかしながら、特許文献2に開示されるモルデナイト型多孔質支持体-ゼオライト膜複合体や特許文献3に開示されるフェリエライト型多孔質支持体-ゼオライト膜複合体は、透過流束が小さく、実用化には処理量が不十分であった。
【0006】
透過流束を改善したゼオライト膜複合体としてCHA型ゼオライト膜が提案されている(非特許文献1)。
また、耐酸性、耐水性に優れかつ、実用化に十分な透過流束をもち、高い分離性能を持つ膜としてSARが高く緻密なCHA型ゼオライト膜が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開平7-185275号公報
【文献】日本国特開2003-144871号公報
【文献】日本国特開2000-237561号公報
【文献】日本国特開2011-121040号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Microporous and Mesoporous Materials 143 (2011) 270-276
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、この非特許文献1に開示された方法では、有機テンプレートを用いず、CHA型の種結晶を用いて、SARが約5の合成ゾルを用いて合成している。このCHA型ゼオライト膜の合成時間は1日以上と長く、透過流束や分離係数も従来の膜よりは改善されているもののいまだ十分とは言えなかった。また、特許文献4に記載の製造方法では、膜の合成に有機テンプレートを用いることから、ゼオライト膜の製造の際に有機テンプレートを取り除くために焼成を行う必要があり、製造時間が長くなり、コストが高くなるという問題があった。また、有機テンプレートに起因するゼオライト膜の酸点が多く、酸点と反応する物質を分離する場合には使用しづらいという問題があった。
【0010】
本発明の課題は、耐酸性、耐水性に優れ、十分な透過流束を持ち、低級アルコールの分離や求電子性分子などのゼオライトの酸点と反応する物質の分離にも好適な多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を提供することを課題とする。また、そのような多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を工業的に、短時間で容易な方法で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の物性を有するゼオライト膜が上記課題を解決できることを見出した。また、CHA型ゼオライト膜を形成するための水熱合成の際に、FAU型ゼオライトを種結晶として用いることで、有機テンプレートを用いずともSARを適切に制御した、透過流束と分離係数の高いCHA型ゼオライト膜を短時間で製造することができることを見出し本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は以下を要旨とするものである。
[1] 多孔質支持体上に、種結晶の存在下、水熱合成によりCHA型ゼオライト膜を形成して多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造する方法であって、
前記種結晶としてFAU型ゼオライトを用いることを特徴とする、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
[2] 前記多孔質支持体に予め前記種結晶を付着させ、前記CHA型ゼオライト膜を形成することを特徴とする、前記[1]に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
[3] 前記水熱合成をSi元素源及び水を含有する水性反応混合物中で行い、
前記Si元素源はアモルファス物質またはアルコキシシラン類である、前記[1]または[2]に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
[4] 前記種結晶のSiO2/Al2O3モル比が15未満である、前記[1]~[3]のいずれか一に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
[5] 形成される前記CHA型ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比が15以下である、前記[1]~[4]のいずれか一に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
[6] 前記[1]~[5]のいずれか一に記載の製造方法により製造された、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
[7] 多孔質支持体界面近傍のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比をX、内部のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比をYとしたとき、X/Yが下記式(1)を満たすことを特徴とする、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
0.70 < X/Y < 1.2 ・・・(1)
[8] 多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜を有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、
前記多孔質支持体界面近傍のゼオライト膜と、内部のゼオライト膜の結晶性が実質的に同じであることを特徴とする、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
[9] 多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜を有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、
水蒸気拡散測定において、脱離水の検出強度の最大値からその1/20の値になるまでの時間Q(分)が、下記式(2)を満たすことを特徴とする、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
7.0 < Q < 30 ・・・(2)
[10] 前記ゼオライト膜がCHA型ゼオライト膜である、前記[7]~[9]の何れか一に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
[11] 前記ゼオライト膜の膜表面側から測定したSiO2/Al2O3モル比が15以下である、前記[7]~[10]の何れか一に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。
[12] 気体または液体の混合物を、前記[6]~[11]の何れか一に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に接触させて、前記混合物から、透過性の高い物質を透過させて分離することを特徴とする、気体または液体の混合物の分離方法。
[13] 前記気体または液体の混合物が、二重結合を含む化合物を含む混合物である、前記[12]に記載の分離方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐酸性、耐水性に優れ、十分な透過流束を持つ多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を短時間で製造することができる。さらには、有機テンプレートを使用せずにも多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造できることから、得られる多孔質支持体-ゼオライト膜複合体は有機テンプレートに起因するゼオライト膜の酸点が少なく、酸点と反応しやすい物質の分離にも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、パーベーパレーション法に用いる装置の概略図である。
【
図2】
図2は、実施例1で得られたゼオライト膜のX線回折(XRD)パターンである。
【
図3】
図3(A)はゼオライト膜複合体の一例の模式図であり、
図3(B)はゼオライト膜複合体断面の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定はされない。なお、本明細書において、“重量”と“質量”、“重量%”と“質量%”とは、それぞれ同義である。
本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法は、多孔質支持体上に、種結晶の存在下、水熱合成によりCHA型ゼオライト膜を形成して多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造する方法であって、種結晶としてFAU型ゼオライトを用いることを特徴とする。
【0016】
先ず、これらの発明の構成要件について、さらに詳細に説明する。なお、本明細書において、「多孔質支持体-ゼオライト膜複合体」を単に「ゼオライト膜複合体」、また「多孔質支持体」を単に「支持体」と略称することがある。
【0017】
(CHA型ゼオライト)
本発明において用いられるCHA型ゼオライトとは、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードでCHA構造のものを示す。天然に産出するチャバサイトと同等の結晶構造を有するゼオライトである。CHA型ゼオライトは3.8×3.8Åの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
【0018】
本発明において用いられるCHA型ゼオライトのフレームワーク密度は、14.5T/1000Åである。フレームワーク密度とは、ゼオライトの1000Å3あたりの酸素以外の骨格を構成する元素の数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まるものである。
尚、フレームワーク密度とゼオライトとの構造の関係はATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Fifth Revised Edition 2001 ELSEVIERに示されている。
【0019】
(FAU型ゼオライト)
本発明において用いられるFAU型ゼオライトとは、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードでFAU構造のものを示す。天然に産出するホージャサイトと同等の結晶構造を有するゼオライトである。FAU型ゼオライトは7.4×7.4Åの径を有する酸素12員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
【0020】
本発明において用いられるFAU型ゼオライトのフレームワーク密度は、12.7T/1000Åである。
尚、一般的にFAU型ゼオライトにはX型とY型がある。
【0021】
(多孔質支持体)
本発明において使用される多孔質支持体としては、その表面などにゼオライトを膜状に結晶化できるような化学的安定性があり、無機の多孔質よりなる支持体(無機多孔質支持体)であれば如何なるものであってもよい。例えば、セラミックス焼結体、鉄、ブロンズ、ステンレス等の焼結金属や、ガラス、カーボン成型体などが挙げられる。
【0022】
これら多孔質支持体の中で、基本的成分あるいはその大部分が無機の非金属物質から構成されている固体材料であるセラミックスを焼結したものを含む無機多孔質支持体(セラミックス支持体)が好ましい。このセラミックス支持体を用いれば、その一部がゼオライト膜合成中にゼオライト化することで界面の密着性を高める効果がある。
【0023】
セラミックス支持体として具体的には、例えば、シリカ、α-アルミナ、γ-アルミナなどのアルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などを含むセラミックス焼結体の支持体が挙げられる。それらの中で、アルミナ、シリカ、ムライトのうち少なくとも1種を含む支持体が好ましい。これらの支持体を用いれば、部分的なゼオライト化が容易であるため、支持体とゼオライトの結合が強固になり緻密で分離性能の高い膜が形成されやすくなる。
【0024】
多孔質支持体の形状は、気体混合物や液体混合物を有効に分離できるものであれば特に制限されず、具体的には、例えば、平板状、円筒管状などの管状、円柱状や角柱状の孔が多数存在するハニカム状、モノリスなどが挙げられる。
本発明において、かかる多孔質支持体上、すなわち支持体の表面などにゼオライトを膜状に結晶化させる。支持体の表面は、支持体の形状に応じて、どの表面であってもよく、複数の面であってもよい。例えば、円筒管の支持体の場合には外側の表面でも内側の表面でもよく、場合によっては外側と内側の両方の表面であってもよい。
【0025】
多孔質支持体表面が有する細孔の平均細孔径は特に制限されないが、細孔径が制御されているものが好ましい。平均細孔径は、通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。平均細孔径が小さすぎると透過量が小さくなる傾向があり、大きすぎると支持体自体の強度が不十分になることがあり、支持体表面の細孔の割合が増えて緻密なゼオライト膜が形成されにくくなることがある。
【0026】
支持体の平均厚さ(肉厚)は、通常0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上であり、通常7mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。支持体はゼオライト膜に機械的強度を与える目的で使用しているが、支持体の平均厚さが薄すぎると多孔質支持体-ゼオライト膜複合体が十分な強度を持たず多孔質支持体-ゼオライト膜複合体が衝撃や振動等に弱くなり実用上問題が生じる傾向がある。支持体の平均厚さが厚すぎると透過した物質の拡散が悪くなり透過流束が低くなる傾向がある。
【0027】
多孔質支持体の気孔率は、通常20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上であり、通常70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下である。支持体の気孔率は、気体や液体を分離する際の透過流量を左右し、下限未満では透過物の拡散を阻害する傾向があり、上限を超えると支持体の強度が低下する傾向がある。
【0028】
多孔質支持体の表面は滑らかであることが好ましく、必要に応じて表面をやすり等で研磨してもよい。なお、多孔質支持体の表面とはゼオライトを結晶化させる無機多孔質支持体表面部分を意味し、表面であればそれぞれの形状のどこの表面であってもよく、複数の面であってもよい。例えば、円筒管の支持体の場合には外側の表面でも内側の表面でもよく、場合によっては外側と内側の両方の表面であってもよい。
【0029】
(多孔質支持体-ゼオライト膜複合体)
支持体界面近傍のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比をX、内部のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比をYとしたとき、X/Yが下記式(1)を満たす、本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体(ゼオライト膜複合体1)について説明する。
【0030】
【0031】
本発明は上記の通り、特に、低級アルコールの分離や求電子性分子などのゼオライトの酸点と反応する物質の分離にも好適なゼオライト分離膜を提供するものである。上記式(1)の範囲を満たすゼオライト膜は、すなわち、支持体界面近傍のゼオライト膜と、内部のゼオライト膜の結晶性が実質的に同じであることを意味している。このことが上記の通りの本発明の効果を奏する理由につながっているものと予想される。
ここで、
図3(A)及び(B)にゼオライト膜複合体の一例の模式図を示す。
図3(B)に示す通り、支持体界面近傍のゼオライト膜とは、ゼオライト膜の多孔質支持体との界面からゼオライト膜表面方向へ向かって2μmまでの範囲X1を言う。また、内部のゼオライト膜とは、ゼオライト膜の多孔質支持体との界面からゼオライト膜表面方向へ向かって2μmから、ゼオライト膜表面までの範囲Y1を言う。
【0032】
また、式(1)におけるSiO2/Al2O3モル比は、ゼオライト膜複合体の断面のEDSラインプロファイル測定により算出される値で、具体的には以下の様な方法で測定される。
まず、ゼオライト膜複合体を適当な大きさに切断した後、クロスセクションポリッシャーを用いてArのイオンビームを照射し断面を平滑化する。作製した断面に対し、SEM-EDX測定を行い、ゼオライト膜表面側から支持体側に向かって垂直な直線上における0.1μmごとのポイントでのスペクトルを取得する。スペクトル強度をZAF補正してSi及びAlの半定量値を算出する。距離を横軸に取り、得られた半定量値をプロットすることにより、EDSラインプロファイルを得る。このEDSラインプロファイルからSiO2/Al2O3モル比を得る。
尚、SEM-EDX測定の条件としては、加速電圧は6~10kVが好ましく(特に6kVが好ましい)、観察倍率は1000~5000倍であることが好ましい。
上記得られたSiO2/Al2O3モル比から、支持体界面近傍のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比Xと、内部のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比Yを算出する。Xは、ゼオライト膜の支持体との界面からゼオライト膜表面方向へ向かって2μmまで(X1)のSiO2/Al2O3モル比の平均値とし、Yは、ゼオライト膜の支持体との界面からゼオライト膜表面方向へ向かって2μmから、ゼオライト膜表面まで(Y1)のSiO2/Al2O3モル比の平均値とする。
【0033】
X/Yは0.70より大きく、1.2より小さければよいが、好ましくは0.75以上、より好ましくは0.80以上、さらに好ましくは0.85以上、好ましくは1.1以下、より好ましくは1.0以下、さらに好ましくは0.95以下である。この範囲であることにより、本発明の効果を得ることができる。
上記式(1)を満たす本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を得るためには、種結晶を速くゼオライト膜に変換し、ゼオライト膜を成長させることが重要である。
種結晶を速くゼオライト膜に変換するには、反応性が高い種結晶を用いることが有効であり、具体的にはFAU型ゼオライトなど目的のゼオライトの構造の一部を有する種結晶を用いる方法、粒径が小さい種結晶を用いる方法、アルカリ処理などの表面処理によって、表面の反応性を高めた種結晶を用いる方法などがあげられる。この中でも目的のゼオライトの構造の一部を有するFAU型ゼオライトを用いる方法が特に有効であり、この方法については後述する。
【0034】
さらに、本発明の、多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜を有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、水蒸気拡散測定において、脱離水の検出強度の最大値からその1/20の値になるまでの時間Q(分)が、下記式(2)を満たす多孔質支持体-ゼオライト膜複合体(ゼオライト膜複合体2)について説明する。
【0035】
【0036】
式(2)を満たすことにより、ゼオライト膜が、親水性、均一性、拡散性にすぐれ、かつ耐酸性、耐水性も優れた膜となり、このため、低級アルコールや酸点と反応しやすい物質の分離にも好適に用いられると予想される。
【0037】
水蒸気拡散測定は次の様にして行う。まず、ゼオライト膜複合体を適当な大きさに裁断したものを試料とする。この試料をステンレス製の測定セルに入れる。測定セルにはガスの流路となる配管(上流側、下流側)が接続されている。測定セルの下流側は差動排気ポンプに接続されている。測定セルと差動排気ポンプの流路の途中に質量分析計があり、測定セルから排出されたガスの一部が、差動排気ポンプへは流れず、質量分析計に導入される。
上流側からヘリウムガスを導入して、試料が入った測定セル内をヘリウム雰囲気とする。その後、ヘリウムガスをフローしながら差動排気することで、約80kPa程度に減圧し、140℃で試料の吸着水等の除去を行う。1時間保持後、試料に、エタノールと水の混合液(水分濃度0.2重量%)の蒸気を1時間接触させる。1時間接触後、測定セル内をヘリウム雰囲気とした後に減圧する。すなわち、ヘリウムガスをフローしながら差動排気することで、約80kPa程度に減圧する。この際に、質量分析計に導入される水の挙動を観測することで、脱離水の検出強度を得る。脱離水の検出強度が最大値の時を0分とし、脱離水の検出強度が前記最大値の1/20の値になるまでの時間をQ(分)とする。
【0038】
Qは7.0より大きく、30より小さければよいが、好ましくは10以上、より好ましくは12以上、好ましくは20以下、より好ましくは17以下である。
上記式(2)を満たす本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を得るためには、ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比を制御することや欠陥の量を制御することによって親水性を制御する方法、合成条件の制御によって、結晶サイズを適切なサイズにしたり、短時間で合成したりすることにより、膜の均一性を制御する方法、三次元の細孔構造を持つゼオライトを選択したり、フレームワーク密度の低いゼオライトを選択したりすることによって拡散性を向上させる方法があげられる。膜の均一性を制御する方法については、後述のFAU型ゼオライトを種結晶として使用する方法が挙げられる。これらのうち、一つの手法を用いてもいいが複数を組み合わせることが好ましい。
【0039】
ゼオライト膜複合体1及びゼオライト膜複合体2ともに、ゼオライト膜の結晶構造は特に限定されるものではないが、ゼオライト膜の細孔を形成する結晶ゼオライトの骨格が酸素8員環以下の環であることが好ましく、酸素6~8員環であることがより好ましい。
ゼオライトの構造としては、例えばAEI、AFG、ANA、CHA、DDR、EAB、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTA、LTN、MAR、PAU、RHO、RTH、SOD、STI、TOL、UFIなどが挙げられる。これらのうち、AEI、CHA、DDR、ERI、KFI、LEV、PAU、RHO、RTH、SOD、LTA、UFI型ゼオライトにより構成される膜を用いることが好ましく、CHA、DDR、RHO、SOD型ゼオライトにより構成される膜であることがより好ましい。中でもCHA型ゼオライトであることが好ましい。また、ゼオライトはアルミノケイ酸塩であることが好ましい。
【0040】
なお、酸素n員環を有するゼオライトのnの値は、ゼオライト骨格とT元素(骨格を構成する酸素以外の元素)で構成される細孔の中で最も酸素元素の数が大きいものをさす。
ゼオライト膜を構成する成分としては、ゼオライト以外にシリカ、アルミナなどの無機バインダー、あるいはゼオライト表面を修飾するシリル化剤などを必要に応じて含んでいてもよい。また、本発明におけるゼオライト膜は、一部アモルファス成分などを含有していてもよいが、実質的にゼオライトのみで構成されるゼオライト膜が好ましい。
【0041】
ゼオライト膜の厚さは特に制限されないが、通常0.1μm以上、好ましくは0.6μm以上、より好ましくは1.0μm以上であり、さらに好ましくは5.0μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは60μm以下、より好ましくは20μm以下の範囲である。
【0042】
ゼオライトの粒子径は特に限定されないが、小さすぎると粒界が大きくなるなどして透過選択性などを低下させる傾向がある。それゆえ、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、上限は膜の厚さ以下である。さらに、ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じである場合が特に好ましい。ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じであるとき、ゼオライトの粒界が最も小さくなる。
【0043】
(多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法)
本発明の製造方法では、多孔質支持体上に、FAU型ゼオライトを種結晶に使用して、水熱合成によりCHA型ゼオライト膜を形成する。
水熱合成は、例えば、組成を調整して均一化した水熱合成用の反応混合物(以下これを「水性反応混合物」ということがある。)をオートクレーブなどの耐熱耐圧容器に入れて、多孔質支持体をこの耐熱耐圧容器の内部に緩やかに固定し、密閉して、一定時間加熱すればよい。
【0044】
水性反応混合物としては、Si元素源及び水を含むことが好ましく、Si元素源、Al元素源、および水を含み、さらに必要に応じてアルカリ源を含むものが好ましい。
水性反応混合物に用いるSi元素源としては、例えば、無定形シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム、無定形アルミのシリケートゲル等のアモルファス物質、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメチルエトキシシラン等のアルコキシシラン類を用いることができる。
Al元素源としては、例えば、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、無定形アルミノシリケートゲル等を用いることができる。なお、Al元素源以外に他の元素源、例えばGa、Fe、B、Ti、Zr、Sn、Znなどの元素源を含んでいてもよい。
【0045】
本発明では、水熱合成に際し、有機テンプレートなどの有機物を含まなくても好適なCHA型ゼオライト膜を得ることができるため、水性反応混合物中に有機テンプレートなどの有機物を含まなくてもよく、上記酸点の観点からは含まない方が望ましい。
ゼオライト膜の合成において有機テンプレートは焼成工程を必要とするので使用しない方が望ましいが、必要に応じて用いることができる。
ここで、有機テンプレートとは、生成するゼオライトの結晶構造を規制する、すなわち、鋳型剤としての働きを持つ構造規定剤(structure-directing agent)のうち、とくに有機化合物である物をいう。
【0046】
有機テンプレートを用いる場合の水性反応混合物中のSi元素源と有機テンプレートの比は、SiO2に対する有機テンプレートのモル比(有機テンプレート/SiO2モル比)で、通常0.005以上、好ましくは0.01以上であり、通常1以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.2以下、さらに好ましくは0.1以下である。有機テンプレート/SiO2モル比が上記範囲にあるとき、より緻密なゼオライト膜が生成し得る。
【0047】
有機テンプレートとしては、通常、アミン類、4級アンモニウム塩が用いられる。例えば、米国特許第4544538号明細書、米国特許出願公開第2008/0075656号明細書に記載の有機テンプレートが好ましいものとして挙げられる。
具体的には、例えば、1-アダマンタンアミンから誘導されるカチオン、3-キナクリジナールから誘導されるカチオン、3-exo-アミノノルボルネンから誘導されるカチオン等の脂環式アミンから誘導されるカチオンが挙げられる。これらの中で、1-アダマンタンアミンから誘導されるカチオンがより好ましい。
【0048】
1-アダマンタンアミンから誘導されるカチオンを有機テンプレートとしたとき、緻密な膜を形成し得るCHA型ゼオライトが結晶化する。
1-アダマンタンアミンから誘導されるカチオンのうち、N,N,N-トリアルキル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンがさらに好ましい。N,N,N-トリアルキル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンの3つのアルキル基は、通常、それぞれ独立したアルキル基であり、好ましくは低級アルキル基、より好ましくはメチル基である。それらの中で最も好ましい化合物は、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムカチオンである。
【0049】
このようなカチオンは、CHA型ゼオライトの形成に害を及ぼさないアニオンを伴う。このようなアニオンを代表するものには、Cl-、Br-、I-などのハロゲンイオンや水酸化物イオン、酢酸塩、硫酸塩、およびカルボン酸塩が含まれる。これらの中で、水酸化物イオンが特に好適に用いられる。
【0050】
その他の有機テンプレートとしては、N,N,N-トリアルキルベンジルアンモニウムカチオンも用いることができる。この場合もアルキル基は、それぞれ独立したアルキル基であり、好ましくは低級アルキル基、より好ましくはメチル基である。それらの中で、最も好ましい化合物は、N,N,N-トリメチルベンジルアンモニウムカチオンである。また、このカチオンが伴うアニオンは上記と同様である。
【0051】
水性反応混合物に用いるアルカリ源としては、NaOH、KOHなどのアルカリ金属水酸化物、Ca(OH)2などのアルカリ土類金属水酸化物などを用いることができる。
アルカリの種類は特に限定されず、通常、Na、K、Li、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr、Baなどが用いられる。これらの中で、Na、Kが好ましく、Kが含まれることが最も好ましい。本発明の製造方法において、FAU型の種結晶を用いて、FAU型ではなくCHA型のゼオライト膜を形成するには、例えば、このアルカリとしてKを用いることが好適である。
【0052】
水性反応混合物中のSi元素源とAl元素源の比は、通常、それぞれの元素の酸化物のモル比、すなわちSiO2/Al2O3モル比として表わす。
SiO2/Al2O3モル比は特に限定されないが、通常5以上、好ましくは6以上、より好ましくは7以上、更に好ましくは7.5以上である。また、通常10000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは100以下、更に好ましくは12以下である。
【0053】
SiO2/Al2O3モル比がこの範囲内にあるときゼオライト膜が緻密に生成し、更に生成したゼオライトが強い親水性を示し、有機物を含有する混合物中から親水性の化合物、特に水を選択的に透過することができる。また耐酸性に強く脱Alしにくいゼオライト膜が得られる。
【0054】
Si元素源とアルカリ源の比は、M(2/n)O/SiO2(ここで、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、nはその価数1または2を示す。)モル比で、通常0.05以上、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上であり、通常1.0以下、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.5以下である。
Si元素源と水の比は、SiO2に対する水のモル比(H2O/SiO2モル比)で、通常10以上、好ましくは30以上、より好ましくは40以上、特に好ましくは50以上であり、通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは200以下、特に好ましくは100以下である。
【0055】
水性反応混合物中の物質のモル比がこれらの範囲にあるとき、より緻密なゼオライト膜が生成し得る。水の量は緻密なゼオライト膜の生成においてとくに重要であり、粉末合成法の一般的な条件よりも水がシリカに対して多い条件のほうが細かい結晶が生成して緻密な膜ができやすい傾向にある。
一般的に、粉末のCHA型ゼオライトを合成する際の水の量は、H2O/SiO2モル比で、15~50程度である。H2O/SiO2モル比が高い(50以上1000以下)、すなわち水が多い条件にすることにより、支持体上にCHA型ゼオライトが緻密な膜状に結晶化した分離性能の高い多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を得ることができる。
【0056】
(種結晶)
ここで、本発明では、FAU型ゼオライトを種結晶とし、該種結晶の存在下で水熱合成を行うことにより、CHA型ゼオライト膜が形成される。
種結晶として用いるFAU型ゼオライトは構造がFAU型のゼオライトであれば何でもよい。
FAU型ゼオライトとしては、例えば、ケイ酸塩とリン酸塩が挙げられる。ケイ酸塩としては、例えば、アルミノケイ酸塩、ガロケイ酸塩、フェリケイ酸塩、チタノケイ酸塩、ボロケイ酸塩等が挙げられる。リン酸塩としては、アルミニウムと燐からなるアルミノリン酸塩(ALPO-5などのALPOと称されるもの)、ケイ素とアルミニウムと燐からなるシリコアルミノリン酸塩(SAPO-34などのSAPOと称されるもの)、Feなどの元素を含むメタロアルミノリン酸塩(FAPO-5などのMeAPOと称されるもの)等が挙げられる。これらの中で、アルミノケイ酸塩、シリコアルミノリン酸塩が好ましく、アルミノケイ酸塩がより好ましい。
【0057】
FAU型ゼオライトとしては一般にX型ゼオライトとY型ゼオライトがあり、どちらを用いても、それらの混合物でも構わないが、Y型ゼオライトを用いることが望ましい。
種結晶として用いるFAU型ゼオライトは市販のX型ゼオライトやY型ゼオライトを用いてもよいし、合成してもよい。一般的な合成方法はVERIFIED SYNTHESES OF ZEOLITIC MATERIALS Second Revised Edition 2001 ELSEVIERのP157などに記載されている。
【0058】
また、用いるFAU型ゼオライトはプロトン型でも、アルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオン、遷移金属イオンにイオン交換したものでも構わず、それらの混合物でもよい。これらのアルカリ金属イオンとしてはNa+、K+、Li+などが、アルカリ土類金属イオンとしてはCa2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+などが、遷移金属イオンとしてはFe、Cu、Znなどがあげられる。これらの中で、Na+、K+、Li+などのアルカリ金属イオンが好ましい。
【0059】
イオン交換は、FAU型ゼオライトを、NH4NO3、NaNO3などのアンモニウム塩、NaOHなどの水酸化物塩、CH3COONaなどの酢酸塩あるいは交換するイオンを含む水溶液、場合によっては塩酸などの酸で処理後、水洗する方法などにより行えばよい。
該水溶液の濃度は、通常、0.00001mol/L以上、好ましくは0.0001mol/L以上、さらに好ましくは0.001mol/L以上、通常10mol/L以下、好ましくは5mol/L以下、さらに好ましくは2mol/L以下である。
また、処理時の温度は、通常10℃以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上、通常200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下である。
処理時間は、通常2時間以上、好ましくは5時間以上、より好ましくは10時間以上、さらに好ましくは20時間以上、通常10日以下、好ましくは7日以下、より好ましくは4日以下である。さらに、必要に応じて200~500℃で焼成してもよい。
【0060】
最終的には特にプロトン型、Na型、K型およびそれらの混合物になっていることが望ましく、Na型あるいはプロトン型あるいはそれらの混合物であることがさらに好ましい。
種結晶のICP発光分光分析法によって測定されるSiO2/Al2O3比は、通常15未満、好ましくは12未満、より好ましくは10未満であり、通常1以上、好ましくは3以上である。
【0061】
種結晶の粒子径は特に規定されないが、粒度分布測定により得られる粒子径の極大値の少なくとも一つが特定の大きさの範囲に入っていることが望ましい。
なお、極大値は粒度分布測定により得られた粒度分布図(横軸に粒子径を縦軸に体積基準の相対粒子量をとった図)の極大値を指す。極大値は好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは2μm以下、特に好ましくは1.8μm以下であり、通常0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.8μm以上である。粒子径が前記上限以下であることにより、基材への種結晶の担持が良好で、欠陥の少ないゼオライト膜が形成しやすい。粒子径が前記下限以上であることにより、合成中に種結晶が溶解しにくく欠陥の少ないゼオライト膜が形成しやすい。
【0062】
種結晶の粒子径の分布については特に限定されないが、粒度分布測定により得られた累積分布図(体積基準、粒子径の小さいものから積算)で、50%の高さを与える直径、D50が通常0.5μm以上、好ましくは1.0μm以上、好ましくは5.0μm以下、より好ましくは4.0μm以下、さらに好ましくは3.0μm以下、特に好ましくは2.0μm以下であることが望ましい。
【0063】
また、支持体の平均細孔径の0.5倍以上20倍以下の範囲に存在する種結晶の割合が通常5%以上、好ましくは15%以上、さらに好ましくは25%以上であり、通常100%以下、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下である。この範囲にあるとき基材への種結晶の担持が良好に行われ緻密で性能の高いゼオライト膜を合成することができる。
このように種結晶の粒子径を制御することによって、基材に担持される種結晶の状態を制御することが可能になり、欠陥の少ない緻密な膜が形成される。
種結晶を好ましいサイズにするために、市販のFAU型ゼオライトや合成によって得られたFAU型ゼオライト、イオン交換したFAU型ゼオライトの結晶を乳鉢やボールミル、ジェットミルなどで粉砕しても構わない。
【0064】
種結晶を加える方法としては、支持体上に種結晶を付着させておく方法などを用いることが好ましい。支持体上に予め種結晶を付着させておくことで緻密で分離性能が良好なゼオライト膜が生成しやすくなる。
支持体上に種結晶を付着させる方法は特に限定されず、例えば、種結晶を水などの溶媒に分散させてその分散液に支持体を浸けて種結晶を付着させるディップ法や、種結晶を水などの溶媒と混合してスラリー状にしたものを支持体上に塗りこむ方法などを用いることができる。種結晶の付着量を制御し、再現性良くゼオライト膜複合体を製造するにはディップ法が望ましい。
【0065】
種結晶を分散させる分散媒は特に限定されないが、特に水が好ましい。必要に応じて塩酸や水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水溶性の物質を加えて分散液のpHを調整してもよい。pHを調整する場合は、分散液のpHを通常7.5以上、好ましくは8以上、通常14以下、好ましくは12以下にすることが望ましい。分散液のpHをこの範囲にすることによって種結晶の付着量を好ましい範囲としやすい。
分散させる種結晶の量は特に限定されず、分散液の全質量に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。また、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下、とくに好ましくは3質量%以下である。
【0066】
分散させる種結晶の量が少なすぎると、支持体上に付着する種結晶の量が少ないため、水熱合成時に支持体上に部分的にゼオライトが生成しない箇所ができ、欠陥のある膜となる可能性がある。ディップ法によって支持体上に付着する種結晶の量は分散液中の種結晶の量がある程度以上でほぼ一定となるため、分散液中の種結晶の量が多すぎると、種結晶の無駄が多くなりコスト面で不利である。
【0067】
支持体上に予め付着させておく種結晶の量は特に限定されず、基材1m2あたりの質量で、通常0.01g以上、好ましくは0.1g以上であり、通常100g以下、好ましくは50g以下、より好ましくは10g以下、更に好ましくは5g以下、特に好ましくは3g以下、最も好ましくは1g以下である。
種結晶の量が下限以上であることにより、結晶ができやすく、膜の成長が良好になり、膜の成長が均一になりやすい。また、種結晶の量が上限以下であることにより、表面の凹凸が種結晶によって増長されにくく、支持体から落ちた種結晶によって自発核が成長しにくく、支持体上の膜成長が阻害されにくい。よって、この範囲であることにより緻密なゼオライト膜が生成しやすい傾向がある。
【0068】
水熱合成により支持体上にゼオライト膜を形成する場合、支持体の固定化方法に特に制限はなく、縦置き、横置きなどあらゆる形態をとることができる。この場合、静置法でゼオライト膜を形成させてもよいし、水性反応混合物を攪拌させてゼオライト膜を形成させてもよい。
ゼオライト膜を形成させる際の温度は特に限定されないが、通常80℃以上、好ましくは100℃以上、更に好ましくは140℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは190℃以下である。反応温度が低すぎると、ゼオライトが生成しない場合がある。また、反応温度が高すぎると、本発明におけるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成する場合がある。
【0069】
加熱時間は特に限定されないが、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上であり、通常10日以下、好ましくは5日以下、より好ましくは3日以下、さらに好ましくは2日以下である。反応時間が短すぎるとゼオライトが結晶化しないことがある。反応時間が長すぎると、本発明におけるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成することがある。
ゼオライト膜形成時の圧力は特に限定されず、密閉容器中に入れた水性反応混合物を、この温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分である。さらに必要に応じて、窒素などの不活性ガスを加えても差し支えない。
【0070】
水熱合成により得られた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体は、水洗した後に、加熱処理して、乾燥させる。ここで、加熱処理とは、熱をかけて多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を乾燥することを意味する。
加熱処理の温度は、乾燥を目的とする場合は通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。加熱時間は、乾燥を目的とする場合にはゼオライト膜が十分に乾燥する時間であれば特に限定されず、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上である。上限は特に限定されず、通常100時間以内、好ましくは10時間以内、より好ましくは5時間以内である。
【0071】
加熱処理の温度は有機テンプレートの焼成を目的とする場合、通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、更に好ましくは480℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、さらに好ましくは800℃以下、特に好ましくは750℃以下である。
加熱時間は有機テンプレートの焼成を目的とする場合には有機テンプレートが焼成する時間であれば特に限定されず、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上である。上限は特に限定されず、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内である。
【0072】
ゼオライト膜は、必要に応じてイオン交換をしてもよい。イオン交換するイオンとしては、プロトン、Na+、K+、Li+などのアルカリ金属イオン、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+などのアルカリ土類金属イオン、Fe、Cu、Znなどの遷移金属のイオンなどが挙げられる。これらの中で、Na+、K+、Li+などのアルカリ金属イオンが好ましい。
イオン交換は加熱処理後のゼオライト膜を、NH4NO3、NaNO3などアンモニウム塩あるいは交換するイオンを含む水溶液で、通常、室温から100℃の温度で処理後、水洗する方法などにより行えばよい。
【0073】
ゼオライト膜は、必要に応じてシリル化剤を用いてシリル化処理をしてもよい。シリル化処理に用いるシリル化剤としてはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロキシシラン、テトライソプロキシシラン、テトラブトキシシランなどのアルコキシシラン、メチルシリケートオリゴマー、エチルシリケートオリゴマーなどのシリケートオリゴマーなどが挙げられる。これらの中でテトラエトキシシランやメチルシリケートオリゴマーが好ましい。
【0074】
シリル化処理としては、加熱処理後のゼオライト膜をシリル化剤を含む溶液に浸漬し、室温から通常150℃以下、好ましくは100℃以下で加熱処理した後、水洗することにより得る方法や、加熱処理後のゼオライト膜にシリル化剤を塗布し、水蒸気共存下で通常、室温から150℃以下で加熱処理することにより得る方法などが挙げられる。
【0075】
このようにして、本発明では、FAU型ゼオライトを種結晶とし、該種結晶の存在下で水熱合成を行うことにより、CHA型ゼオライト膜が形成される。
本発明において、CHA型ゼオライト膜と支持体との間には他の構造のゼオライト膜を実質的に有さないことが好ましいが、CHA型ゼオライト膜上には他の構造のゼオライト膜を有していてもよい。
【0076】
本発明の方法により形成されたCHA型ゼオライト膜、上記ゼオライト膜複合体1及び上記ゼオライト膜複合体2のゼオライト膜のSEM-EDXによって測定されるSiO2/Al2O3モル比は、通常5以上、好ましくは6以上、通常15以下、好ましくは12以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは10未満、特に好ましくは9以下である。ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比がこの範囲にあるとき、ゼオライト膜は親水性にすぐれかつ耐酸性、耐水性も優れた膜となり、低級アルコールや酸点と反応する物質の分離にも好適に用いられる。
尚、ここでのSiO2/Al2O3モル比は、ゼオライト膜複合体のゼオライト膜表面側からSEM-EDX測定をすることにより得られる値である。具体的測定方法については、以下の実施例で詳述する(SEM-EDX測定(膜表面側))。
【0077】
得られたCHA型ゼオライト膜複合体、上記ゼオライト膜複合体1または上記ゼオライト膜複合体2(以下、これらをあわせて「本発明のゼオライト膜複合体」という場合がある)の空気透過量[L/(m2・h)]は、通常1400L/(m2・h)以下、好ましくは1000L/(m2・h)以下、より好ましくは700L/(m2・h)以下、より好ましくは600L/(m2・h)以下、さらに好ましくは500L/(m2・h)以下、特に好ましくは300L/(m2・h)以下、もっとも好ましくは200L/(m2・h)以下である。透過量の下限は特に限定されないが、通常0L/(m2・h)以上である。
ここで、空気透過量とは、実施例で詳述するとおり、ゼオライト膜複合体を絶対圧5kPaの真空ラインに接続した時の空気の透過量[L/(m2・h)]である。
本発明のゼオライト膜複合体は、分離方法における膜分離手段として好適に用いることができる。
【0078】
(分離方法)
本発明の分離方法は気体または液体の混合物(好ましくは有機物を含む気体または液体の混合物)を、上記多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に接触させて、該混合物から、透過性の高い物質を透過させて分離することに特徴をもつものである。
【0079】
本発明の分離方法において、ゼオライト膜を備えた無機多孔質支持体を介し支持体側又はゼオライト膜側の一方の側に気体または液体の混合物を接触させ、その逆側を混合物が接触している側よりも低い圧力とすることによって混合物から、ゼオライト膜に透過性が高い物質(透過性が相対的に高い混合物中の物質)を選択的に、すなわち透過物質の主成分として透過させる。これにより、混合物から透過性の高い物質を分離することができる。その結果、混合物中の特定の物質(透過性が相対的に低い混合物中の物質)の濃度を高めることで、特定の物質を分離回収、あるいは濃縮することができる。
例えば、水と有機物の混合物の場合、通常水がゼオライト膜に対する透過性が高いので、混合物から水が分離され、有機物は元の混合物中で濃縮される。パーベーパレーション法(浸透気化法)、ベーパーパーミエーション法(蒸気透過法)と呼ばれる分離・濃縮方法は、本発明の分離方法におけるひとつの実施形態である。
【0080】
前記多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を分離膜として用いることにより、実用上も十分な処理量をもち、十分な分離性能をもつ膜分離が可能となる。
ここで、十分な処理量とは、好ましくは、膜を透過する物質の透過流束が1kg/(m2・h)以上であることをいう。また十分な分離の性能とは、好ましくは、次式で表される分離係数が100以上であること、あるいは透過液中の主成分の濃度が95質量%以上であることをいう。
【0081】
分離係数=(Pα/Pβ)/(Fα/Fβ)
[ここで、Pαは透過液中の主成分の質量パーセント濃度示し、Pβは透過液中の副成分の質量パーセント濃度を示し、Fαは透過液において主成分となる成分の被分離混合物中の質量パーセント濃度を示し、Fβは透過液において副成分となる成分の被分離混合物中の質量パーセント濃度を示す。]
【0082】
さらに具体的には、透過流束は、例えば、含水率10質量%の2-プロパノールと水の混合物を70℃において、1気圧(1.01×105Pa)の圧力差で透過させた場合、通常1kg/(m2・h)以上、好ましくは3kg/(m2・h)以上、より好ましくは5kg/(m2・h)以上であることをいう。透過流束の上限は特に限定されず、通常20kg/(m2・h)以下、好ましくは15kg/(m2・h)以下である。
【0083】
また、高い透過性能をパーミエンスで表す事もできる。パーミエンスとは、透過する物質の物質量を膜面積と時間と透過する物質の分圧差の積で割ったものである。
パーミエンスの単位で表した場合、例えば、含水率10質量%の2-プロパノールと水の混合物を70℃において、1気圧(1.01×105Pa)の圧力差で透過させた場合の水のパーミエンスは、通常3×10-7mol/(m2・s・Pa)以上、好ましくは5×10-7mol/(m2・s・Pa)以上、より好ましくは1×10-6mol/(m2・s・Pa)以上、特に好ましくは2×10-6mol/(m2・s・Pa)以上である。水のパーミエンスの上限は特に限定されず、通常1×10-4mol/(m2・s・Pa)以下、好ましくは5×10-5mol/(m2・s・Pa)以下である。
【0084】
さらに、分離係数は、例えば、含水率10質量%の2-プロパノールと水の混合物を70℃において、1気圧(1.01×105Pa)の圧力差で透過させた場合、通常500以上、好ましくは700以上、より好ましくは1000以上、さらに好ましくは2000以上である。分離係数の上限は完全に水しか透過しない場合であり、その場合は無限大となるが、好ましくは10000000以下、より好ましくは1000000以下である。
【0085】
本発明のゼオライト膜複合体は耐水性にも優れるので含水率が20%以上の分離対象にも好適に用いることができる。分離対象が、水と有機物の混合物(以下これを「含水有機化合物」ということがある。)の場合、混合物中の含水率は、通常5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、通常95質量%以下、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
本発明の分離方法では、ゼオライト膜を透過する物質は、通常水であるため、含水率が少なくなると処理量が低下するため効率的でない。また含水率が多すぎると濃縮に必要な膜が大面積となり(膜が管状に形成されている場合は数が多くなり)経済的な効果が小さくなる。
【0086】
含水有機化合物(水と有機化合物の混合物)としては、適当な水分調節方法により、予め含水率を調節したものであってもよい。この場合、好ましい含水率は上記と同様である。また、水分調節方法としては、それ自体既知の方法、例えば、蒸留、圧力スイング吸着(PSA)、温度スイング吸着(TSA)、デシカントシステムなどが挙げられる。
さらに、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体によって水が分離された含水有機化合物から、さらに水を分離してもよい。これにより、より高度に水を分離し、含水有機化合物をさらに高度に濃縮することができる。
【0087】
該有機化合物としては、例えば、酢酸、アクリル酸、プロピオン酸、蟻酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、安息香酸などのカルボン酸類;スルフォン酸、スルフィン酸、ハビツル酸、尿酸、フェノール、エノール、ジケトン型化合物、チオフェノール、イミド、オキシム、芳香族スルフォンアミド、第1級および第2級ニトロ化合物などの有機酸類;メタノール、エタノール、イソプロパノール(2-プロパノール)、アリルアルコールなどのアルコール類;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミドなどの窒素を含む有機化合物(N含有有機化合物);酢酸エステル、アクリル酸エステル等のエステル類;グリシン、リシン、グルタミン酸などのアミノ酸;グルコース、ガラクトース、マンノースなどの糖類などが挙げられる。
【0088】
これらの中で、本発明のゼオライト膜複合体は、アルコール、エーテル、ケトン、アルデヒド、アミドから選ばれる少なくとも一種を含有する有機化合物に好ましく適用できる。中でも、アルコール、ケトンを含むものにも好適である。これら有機化合物の中では、炭素数が1から4のものが好ましく、炭素数が1から3のものがより好ましい。
特に、水と、メタノールまたはエタノールの分離に好適であり、さらに水とエタノールの分離に好適である。
本発明の本発明のゼオライト膜複合体は、酸点と反応しやすい物質の分離にも好適に用いられる。酸点と反応しやすい物質としては二重結合を含む化合物が挙げられ、二重結合として具体的には、カルボニル基、アリル基、アミド基、イミン基、チオニル基等が挙げられる。
より具体的には、酢酸、アクリル酸、プロピオン酸、蟻酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、安息香酸、アセトン、メチルイソブチルケトン、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、アリルアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレンイミン、グアニジンなどがあげられる。
【0089】
また、有機化合物としては、水と混合物(混合溶液)を形成し得る高分子化合物でもよい。かかる高分子化合物としては、分子内に極性基を有するもの、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどのポリオール類;ポリアミン類;ポリスルホン酸類;ポリアクリル酸などのポリカルボン酸類;ポリアクリル酸エステルなどのポリカルボン酸エステル類;グラフト重合等によってポリマー類を変性させた変性高分子化合物類;オレフィンなどの非極性モノマーとカルボキシル基等の極性基を有する極性モノマーとの共重合によって得られる共重合高分子化合物類などが挙げられる。
【0090】
さらに、含水有機化合物としては、水とポリマーエマルジョンとの混合物でもよい。ここで、ポリマーエマルジョンとは、接着剤や塗料等で通常使用される、界面活性剤とポリマーとの混合物である。ポリマーエマルジョンに用いられるポリマーとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリオレフィン、エチレン-ビニルアルコール共重合体などのオレフィン-極性モノマー共重合体、ポリスチレン、ポリビニルエーテル、ポリアミド、ポリエステル、セルロース誘導体等の熱可塑性樹脂;尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;天然ゴム、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体などのブタジエン共重合体等のゴム等が挙げられる。また界面活性剤としては、それ自体既知のものを用いればよい。
【0091】
本発明のゼオライト膜複合体は、耐酸性を有するため、水と酢酸など有機酸の混合物からの水分離、エステル化反応促進のための水分離などにも有効に利用できる。また、本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体は、酸点が少なく、酸点と反応する物質の分離にも有効に利用できる。
本発明の分離方法は、本発明のゼオライト膜複合体を用いて、適当な分離膜モジュールや分離装置を作製し、それに気体または液体の混合物を導入することにより行えばよい。これら分離膜モジュールや分離装置は、それ自体既知の部材により作製することができる。
【実施例】
【0092】
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0093】
以下の実施例において、空気透過量、XRD測定は以下の通りの方法により行った。
[空気透過量]
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の一端を封止し、他端を、密閉状態で5kPaの真空ラインに接続して、真空ラインと多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の間に設置したマスフローメーターで空気の流量を測定し、空気透過量[L/(m2・h)]とした。マスフローメーターとしてはKOFLOC社製8300、N2ガス用、最大流量500ml/min(20℃、1気圧換算)を用いた。KOFLOC社製8300においてマスフローメーターの表示が10ml/min(20℃、1気圧換算)以下であるときはLintec社製MM-2100M、Airガス用、最大流量20ml/min(0℃、1気圧換算)を用いて測定した。
【0094】
[粒度分布の測定]
種結晶の粒度分布の測定を、以下の条件で行った。
・装置名:レーザー回折式粒度分布計測装置LA-500(堀場製作所社製)
・測定方式:フランホーファ回折理論とミー散乱理論の併用
・測定範囲:0.1~200μm
・光源:He-Neレーザー(632.8nm)
・検出器:リング状シリコンフォトダイオード
・分散溶媒:水
【0095】
種結晶の粒度分布を測定するための分散液は、計測装置の超音波分散バスに水を入れて撹拌機で撹拌しながら、分散液をフローセルに循環させ、分散液を透過した光の強度が装置に表示される適正な光強度の範囲に入るように、超音波分散バス中の水に種結晶粉末または種結晶粉末を予め分散させた液を加えることで調製した。このときの分散溶媒である水の量は通常250ml、分散させる種結晶は粉末の場合、通常0.01gである。粉末の種結晶を入れる場合には、超音波を10分間かけて分散液中の種結晶の凝集を取いたのちに測定を行った。測定はフロー方式で行った。
【0096】
[XRD測定]
X線回折(XRD)測定は以下の条件に基づき行った。
・装置名:Bruker社製 New D8 ADVANCE
・光学系仕様 集中方光学系
入射側:封入式X線管球(CuKα)
Soller Slit (2.5°)
Divergence Slit (Valiable Slit)
試料台:XYZステージ
受光側:半導体アレイ検出器(Lynx Eye 1D mode)
Ni-filter
Soller Slit (2.5°)
ゴニオ半径:280mm
【0097】
・測定条件 X線出力(CuKα):40kV、40mA
走査軸:θ/2θ
走査範囲(2θ):5.0-70.0°
測定モード:Continuous
読込幅:0.01°
計数時間:57.6秒
自動可変スリット(Automatic-DS):1mm(照射幅)
【0098】
なお、X線は試料の軸方向に対し直行するように照射した。測定位置については、高さ方向は測定ピークの半割の値が最大になるように調整した。水平方向は低角のピーク強度が最大になる位置とした。
【0099】
[SEM-EDX測定(膜表面側)]
ゼオライト膜の膜表面側から測定するSiO2/Al2O3モル比は、次の条件で行ったSEM-EDX測定より算出した。
装置名:SEM:Hitachi:S-4800型FE-SEM
EDX:EDAX Genesis
X線強度の測定条件:
加速電圧:10kV、分析深さは表面から2μm程度。
WD:15mm
電子線照射方法:膜表面での倍率5000倍での視野全面(25μm×18μm)を走査し、SiKα線とAlKα線の強度比を測定。任意の5箇所でこの強度比を測定しておく。
定量方法:あらかじめ組成が既知のゼオライト粉末(L型とβ型、東ソー社製)から作製したブリケットを標準試料として使用して検量線を作成しておき、SiKα/AlKα強度比からSiO2/Al2O3モル比へと変換した。任意の5箇所の分析結果の平均値を採用した。
【0100】
[EDSラインプロファイル測定]
支持体界面近傍のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比Xと内部のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比YはSEM-EDX測定によるラインプロファイルから算出した。
ゼオライト膜複合体を適当な大きさに切断した後、クロスセクションポリッシャーを用いてArのイオンビームを照射し断面を平滑化した。作製した断面に対し、SEM-EDX測定を行い、倍率1000~5000倍で、ゼオライト膜表面側から支持体側に向かって垂直な直線上の0.1μmごとの各ポイントでのスペクトルを取得した。
装置名:SEM:Carl Zeiss:Ultra55
EDX:Bruker:Quantax200
加速電圧:6kV
WD:7mm
検出器:XFlash 4010
スペクトル強度をZAF補正してSi及びAlの半定量値を算出した。距離を横軸に取り、得られた半定量値をプロットすることにより、EDSラインプロファイルを得て、このEDSラインプロファイルからSiO2/Al2O3モル比を得た。
Xは、ゼオライト膜の支持体との界面からゼオライト膜表面方向へ向かって2μmまでのSiO2/Al2O3モル比の平均値とし、Yは、ゼオライト膜の支持体との界面からゼオライト膜表面方向へ向かって2μmから、ゼオライト膜表面までのSiO2/Al2O3モル比の平均値とした。
【0101】
[水蒸気拡散測定]
ゼオライト膜複合体を短冊状(15mm長、4mm幅)に裁断したもの5本を試料とし、この試料をステンレス製の測定セルに入れた。
尚、測定セルにはガスの流路となる配管(上流側、下流側)が接続されている。測定セルの下流側は差動排気ポンプに接続されている。測定セルと差動排気ポンプの流路の途中に質量分析計があり、測定セルから排出されたガスの一部が、差動排気ポンプへ流れず、質量分析計に導入される。
測定セルにヘリウムガスを導入して、セル内をヘリウム雰囲気とした。その後、ヘリウムガスをフローしながら差動排気することで80kPa程度に減圧し、140℃で試料の吸着水等の除去を行った。1時間保持後、試料にエタノールと水の混合液(水分濃度0.2重量%)の蒸気を1時間接触させた。1時間接触後、測定セル内をヘリウム雰囲気とした後、ヘリウムガスをフローしながら差動排気して80kPa程度まで減圧した。この際に、質量分析計(AGS-7000、キャノンアネルバ社製)に導入される水の挙動を観測することにより脱離水の検出強度を得た。
脱離水の検出強度が最大値の時を0分とし、脱離水の検出強度が前記最大値の1/20の値になるまでの時間をQ(分)とした。
【0102】
(実施例1)
水熱合成用の水性反応混合物として以下のものを調製した。
水酸化アルミニウム(Al2O3 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)2.15gに1mol/L-KOH水溶液63.0gと水61.8gを加えて混合撹拌し溶解させ溶液とした。
これにコロイダルシリカ(スノーテック-40、日産化学社製)13.5gを加えて2時間撹拌し、水性反応混合物とした。
この水性反応混合物の組成(モル比)は、SiO2/Al2O3/KOH/H2O=1/0.125/0.7/80、SiO2/Al2O3=8であった。
【0103】
無機多孔質支持体としては、多孔質アルミナチューブ(外径12mm、内径9mm)を80mmの長さに切断した後、超音波洗浄機で洗浄したのち乾燥させたものを用いた。
プロトン型のY型ゼオライト(HY(SAR=5)、触媒化成工業社製)10.0gにNaOH5.00gと水100gを混合したものを100℃で7日間加熱した後、ろ過、水洗、乾燥することによりFAU型ゼオライトを得た。このFAU型ゼオライトの粒度分布を測定したところD50は1.73μm、極大値は1.32μm、2.98μmであった(粒径:2μm程度)。このFAU型ゼオライトを種結晶として使用した。
【0104】
この種結晶を水に2質量%分散させたものに、上記支持体を所定時間浸した後、100℃で5時間以上乾燥させて種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は3g/m2であった。
種結晶を付着させた支持体を、上記水性反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、5時間かけて室温から180℃まで昇温した。昇温完了後、180℃で24時間、静置状態で、自生圧力下で加熱しすることにより、水熱合成を行った。所定時間経過後に放冷し、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を水性反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で4時間乾燥させた。
【0105】
乾燥後の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の空気透過量は9L/(m
2・h)であった。SEM-EDX測定(膜表面側)により、ゼオライト膜の膜表面側からのSiO
2/Al
2O
3モル比を測定したところ、6.4であった。多孔質支持体-ゼオライト膜複合体のXRD測定よりCHA型のゼオライト膜が生成していることを確認した。
図2にこのXRDパターンを示す。
【0106】
(実施例2)
水性反応混合物、無機多孔質支持体及び種結晶は実施例1と同じものを用いた。
この種結晶を水に2質量%分散させたものに、上記支持体を所定時間浸した後、100℃で5時間以上乾燥させて種結晶を付着させたところ、付着した種結晶の質量は2g/m2であった。
【0107】
実施例1と同様にして、種結晶を付着させた支持体を水性反応混合物に浸漬して昇温した後、昇温完了後、180℃で18時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した以外は、実施例1と同様にして多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を得た。
乾燥後の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の空気透過量は0L/(m2・h)であった。SEM-EDX測定(膜表面側)により、ゼオライト膜の膜表面側からのSiO2/Al2O3モル比を測定したところ、6.4であった。
支持体界面近傍のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比Xと内部のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比Yの比、X/Yは0.90であった。水蒸気拡散測定において、脱離水の検出強度の最大値からその1/20の値になるまでの時間Q(分)は16.7分であった。
【0108】
(実施例3)
水性反応混合物及び種結晶は実施例1と同じものを用いた。
無機多孔質支持体としては、多孔質アルミナチューブ(外径16mm、内径12mm)を80mmの長さに切断した後、超音波洗浄機で洗浄したのち乾燥させたものを用いた。
この種結晶を水に2質量%分散させたものに、上記支持体を所定時間浸した後、100℃で5時間以上乾燥させて種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は0.3g/m2であった。
その後は、実施例1と同様にして多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を得た。
【0109】
乾燥後の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の空気透過量は39L/(m2・h)であった。
SEM-EDX測定(膜表面側)により、ゼオライト膜の膜表面側からのSiO2/Al2O3モル比を測定したところ、6.0であった。多孔質支持体-ゼオライト膜複合体のXRD測定よりCHA型のゼオライト膜が生成していることを確認した。
SEMによりゼオライト膜の膜厚を確認したところ、約10μmの厚さの膜が生成していることを確認した。
支持体界面近傍のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比Xと内部のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比Yの比、X/Yは0.87であった。水蒸気拡散測定において、脱離水の検出強度の最大値からその1/20の値になるまでの時間Q(分)は15.2分であった。
【0110】
(実施例4)
水熱合成用の反応混合物として以下のものを調製した。
水酸化アルミニウム(Al2O3 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)11.8gに1mol/L-KOH水溶液346gと水340gを混合したものを加えて撹拌し溶解させ溶液とした。これにコロイダルシリカ(スノーテック-40、日産化学社製)74.25gを加えて2時間撹拌し、水性反応混合物とした。
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO2/Al2O3/KOH/H2O=1/0.125/0.7/80、SiO2/Al2O3=8であった。
【0111】
無機多孔質支持体は、多孔質アルミナチューブ(外径16mm、内径12mm)を400mmの長さに切断した後、エアーブローしたものを用いた。また、種結晶は実施例1と同じものを用いた。
この種結晶を水に0.5質量%分散させたものに、上記支持体を所定時間浸した後、100℃で5時間以上乾燥させて種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は2g/m2であった。
【0112】
種結晶を付着させた支持体を、上記水性反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(800ml)に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、5時間かけて室温から180℃まで昇温した。昇温完了後、180℃で24時間、静置状態で、自生圧力下で加熱することにより、水熱合成を行った。所定時間経過後に放冷し、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で4時間乾燥させた。
乾燥後の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の空気透過量は10L/(m2・h)であった。
【0113】
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体のXRD測定よりCHA型のゼオライト膜が生成していることを確認した。
SEMによりゼオライト膜の膜厚を確認したところ、約20μmの厚さの膜が生成していることを確認した。
【0114】
(実施例5)
水性反応混合物、無機多孔質支持体及び種結晶は実施例1と同じものを用いた。
この種結晶を水に2質量%分散させたものに、上記支持体を所定時間浸した後、100℃で5時間以上乾燥させて種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は2g/m2であった。
その後、実施例1と同様にして多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を得た。
【0115】
乾燥後の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の空気透過量は0L/(m2・h)であった。
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体のXRD測定よりCHA型のゼオライト膜が生成していることを確認した。
乾燥後の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体にシリル化剤としてメチルシリケートオリゴマー(MKC(登録商標)シリケート、三菱化学社製)を塗布してシリル化処理し、水蒸気共存下で100℃6時間加熱した。
【0116】
(実施例6)
水性反応混合物、無機多孔質支持体及び種結晶は実施例1と同じものを用いた。
この種結晶を水に2質量%分散させたものに、上記支持体を所定時間浸した後、100℃で5時間以上乾燥させて種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は2g/m2であった。
その後、実施例1と同様にして多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を得た。
【0117】
乾燥後の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の空気透過量は0L/(m2・h)であった。
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体のXRD測定よりCHA型のゼオライト膜が生成していることを確認した。
支持体界面近傍のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比Xと内部のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比Yの比、X/Yは1.04であった。水蒸気拡散測定において、脱離水の検出強度の最大値からその1/20の値になるまでの時間Q(分)は14.1分であった。
【0118】
(実施例7)
実施例1と同様の水性反応混合物、無機多孔質支持体及び種結晶を用いて、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を得た。
種結晶は水に0.5質量%分散させて使用した。多孔質支持体を所定時間浸した後、100℃で5時間以上乾燥させて種結晶を付着させたところ、付着した種結晶の質量は0.9g/m2であった。
【0119】
乾燥後の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の空気透過量は120L/(m2・h)であった。
支持体界面近傍のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比Xと内部のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比Yの比、X/Yは0.86であった。水蒸気拡散測定において、脱離水の検出強度の最大値からその1/20の値になるまでの時間Q(分)は13.8分であった。
【0120】
(比較例1)
水性反応混合物と無機多孔質支持体は実施例1と同じものを用いた。
種結晶としてCHA型ゼオライトを用いた。CHA型ゼオライトは、プロトン型のY型ゼオライト(HY(SAR=5)、触媒化成工業社製)10.0gにKOH5.00gと水100gを混合したものを100℃、6日間加熱したものを、ろ過、水洗、乾燥して得た。
【0121】
この種結晶を水に2質量%分散させたものに、上記支持体を所定時間浸した後、100℃で5時間以上乾燥させて種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は3g/m2であった。
その後、実施例1と同様にして、種結晶を付着させた支持体を水性反応混合物に浸漬して、5時間かけて室温から180℃まで昇温した。昇温完了後、180℃で18時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した以外は、実施例1と同様にして多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を得た。
乾燥後のゼオライト膜複合体の空気透過量は0L/(m2・h)であった。
SEM-EDX測定(膜表面側)により、ゼオライト膜の膜表面側からのSiO2/Al2O3モル比を測定したところ、6.2であった。
【0122】
(比較例2)
水性反応混合物と無機多孔質支持体は実施例1と同じものを用いた。
SiO2/Al2O3/NaOH/H2O/TMADAOH=1/0.033/0.1/40/0.1のゲル組成(モル比)で、160℃、2日間水熱合成して結晶化させたものを、ろ過、水洗、乾燥して得られたCHA型ゼオライト(粒径:0.5μm程度)を種結晶として用いた。(TMADAOH:N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウム水酸化物)
【0123】
この種結晶を水に1質量%分散させたものに、上記支持体を所定時間浸した後、100℃で5時間以上乾燥させて種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は1g/m2であった。
種結晶を付着させた支持体を、上記水性反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、180℃で48時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後に放冷し、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で4時間乾燥させた。
【0124】
乾燥後の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の空気透過量は926L/(m2・h)であった。SEM-EDX測定(膜表面側)により、ゼオライト膜の膜表面側からのSiO2/Al2O3モル比を測定したところ、6.0であった。
実施例1と比較して合成時間を長く取っているにもかかわらず空気透過量が多く緻密ではない膜であった。
【0125】
(比較例3)
水熱合成用の反応混合物として以下のものを調製した。
水酸化アルミニウム(Al2O3 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)2.86gに1mol/L-KOH水溶液63.0gと水62.0gを混合したものに加えて撹拌し溶解させ溶液とした。これにコロイダルシリカ(スノーテック-40、日産化学社製)13.5gを加えて2時間撹拌し、水性反応混合物とした。
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO2/Al2O3/KOH/H2O=1/0.167/0.7/80、SiO2/Al2O3=6である。
【0126】
無機多孔質支持体は実施例1と同じものを用いた。
種結晶として、SiO2/Al2O3/NaOH/H2O/TMADAOH=1/0.033/0.1/40/0.1のゲル組成(モル比)で、160℃、2日間水熱合成して結晶化させたものを、ろ過、水洗、乾燥して得られたCHA型ゼオライトを用いた。種結晶の粒径は1μm程度であった。
この種結晶を1質量%水中に分散させたものに、上記支持体を所定時間浸した後、100℃で5時間以上乾燥させて種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は2g/m2であった。
【0127】
その後、比較例2と同様にして、種結晶を付着させた支持体を水性反応混合物に浸漬し、140℃で120時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した以外は、比較例2と同様にして多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を得た。
乾燥後の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の空気透過量は0L/(m2・h)であった。SEMによりゼオライト膜の膜厚を確認したところ、約5μmの厚さの膜が生成していることを確認した。SEM-EDX測定(膜表面側)により、ゼオライト膜の膜表面側からのSiO2/Al2O3モル比を測定したところ、6.0であった。
支持体界面近傍のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比Xと内部のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比Yの比、X/Yは1.42であった。
【0128】
(比較例4)
水熱合成用の反応混合物として以下のものを調製した。
水酸化アルミニウム(Al2O3 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.881gに1mol/L-NaOH水溶液10.5gと1mol/L-KOH水溶液7.00gと水100gを混合したものに加えて撹拌し溶解させ溶液とした。
【0129】
これに有機テンプレートとしてTMADAOH水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)2.37gを加え、さらにコロイダルシリカ(スノーテック-40、日産化学社製)10.5gを加えて2時間撹拌し、水性反応混合物とした。
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO2/Al2O3/NaOH/KOH/TMADAOH/H2O=1/0.066/0.15/0.10/0.04/100、SiO2/Al2O3=15であった。
【0130】
無機多孔質支持体は実施例1と同じものを用いた。
種結晶として、比較例3と同様にして得られたものを使用した(ただし、種結晶の粒径は0.5μm程度)。
この種結晶を0.3質量%水中に分散させたものに、上記支持体を所定時間浸した後、100℃で5時間以上乾燥させて種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は1g/m2であった。
【0131】
その後、比較例2と同様にして、種結晶を付着させた支持体を水性反応混合物に浸漬し、160℃で48時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した以外は、比較例2と同様にして多孔質支持体―ゼオライト膜複合体を得た。
水熱合成後のゼオライト膜複合体を、電気炉で、500℃、5時間焼成した。焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は41L/(m2・h)であった。
焼成後のゼオライト膜に実施例5と同様にしてシリル化処理を施した。
【0132】
(比較例5)
水性反応混合物に種結晶を付着させた支持体を浸漬した後の、水熱合成時間を、140℃、168時間としたほかは比較例1と同様にして多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を得た。
乾燥後のゼオライト膜複合体の空気透過量は0L/(m2・h)であった。
支持体界面近傍のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比Xと内部のゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比Yの比、X/Yは0.69であった。水蒸気拡散測定において、脱離水の検出強度の最大値からその1/20の値になるまでの時間Q(分)は30.6分であった。
【0133】
(比較例6)
焼成後のゼオライト膜にシリル化処理を行わなかった他は比較例4と同様にして、ゼオライト膜複合体を得た。焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は65L/(m2・h)であった。SEM-EDX測定(膜表面側)により、ゼオライト膜の膜表面側からのSiO2/Al2O3モル比を測定したところ、17であった。水蒸気拡散測定において、脱離水の検出強度の最大値からその1/20の値になるまでの時間Q(分)は7.0分であった。
以上の実施例比較例をまとめた結果を表1及び表2にそれぞれ示す。
【0134】
【0135】
【0136】
[試験例1]
実施例1で得られた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、70℃の水/2-プロパノール水溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
【0137】
パーベーパレーション法に用いた装置の概略図を
図1に示す。
図1において多孔質支持体-ゼオライト膜複合体5は真空ポンプ9によって内側が減圧され、被分離液4が接触している外側と圧力差が約1気圧(1.01×10
5Pa)になっている。この圧力差によって、被分離液4中の透過物質(水)が多孔質支持体-ゼオライト膜複合体5に浸透気化して透過する。透過した物質は透過液捕集用トラップ7で捕集される。一方、被分離液4中の有機化合物は、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体5の外側に滞留する。
【0138】
その結果、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の透過流束は4.6kg/(m2・h)、分離係数は3400、透過液中の水の濃度は99.75質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、3.7×10-6mol/(m2・s・Pa)であった。
【0139】
[試験例2]
実施例2で得られた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いて、70℃の水/2-プロパノール水溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
透過流束は5.8kg/(m2・h)、分離係数は1300、透過液中の水の濃度は99.32質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、4.7×10-6mol/(m2・s・Pa)であった。
【0140】
[試験例3]
実施例3で得られた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いて、70℃の水/2-プロパノール水溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
透過流束は4.4kg/(m2・h)、分離係数は2200、透過液中の水の濃度は99.60質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、3.6×10-6mol/(m2・s・Pa)であった。
【0141】
[試験例4]
実施例5で得られた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、上記試験例1と同様にして、60℃の水/エタノール水溶液(5/95質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
その結果、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の透過流束は0.72kg/(m2・h)、分離係数は10200、透過液中の水の濃度は99.81質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、2.1×10-6mol/(m2・s・Pa)であった。
【0142】
[試験例5]
実施例5で得られた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、上記試験例1と同様にして、70℃の水/2-プロパノール水溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
その結果、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の透過流束は4.1kg/(m2・h)、分離係数は9700、透過液中の水の濃度は99.91質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、3.3×10-6mol/(m2・s・Pa)であった。
【0143】
[試験例6]
実施例5で得られた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いて、80℃の水/アリルアルコール水溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
透過流束は3.3kg/(m2・h)、分離係数は4100、透過液中の水の濃度は99.75質量%であった。
【0144】
[試験例7]
実施例5で得られた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、上記試験例1と同様にして、50℃の水/メタノール水溶液(30/70質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
その結果、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の透過流束は1.0kg/(m2・h)、分離係数は37、透過液中の水の濃度は94.28質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、2.3×10-6mol/(m2・s・Pa)であった。
【0145】
[試験例8]
実施例4と同様の方法で製造された多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いて、80℃の水/アリルアルコール水溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
透過流束は3.6kg/(m2・h)、分離係数は7400、透過液中の水の濃度は99.85質量%であった。
【0146】
[試験例9]
実施例6で得られた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いて、70℃の水/2-プロパノール水溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
透過流束は5.4kg/(m2・h)、分離係数は5300、透過液中の水の濃度は99.83質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、4.4×10-6mol/(m2・s・Pa)であった。
【0147】
[試験例10]
実施例7で得られた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、上記試験例1と同様にして、60℃の水/エタノール水溶液(5/95質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
その結果、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の透過流束は1.53kg/(m2・h)、分離係数は1200、透過液中の水の濃度は98.49質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、4.6×10-6mol/(m2・s・Pa)であった。
【0148】
[比較試験例1]
比較例1で得られた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、上記試験例1と同様にして、70℃の水/2-プロパノール水溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
透過流束は2.8kg/(m2・h)、分離係数は98、透過液中の水の濃度は92.45質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、2.0×10-6mol/(m2・s・Pa)と透過流速、分離係数ともに低い結果であった。
【0149】
[比較試験例2]
比較例3で得られた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、上記試験例1と同様にして、70℃の水/2-プロパノール水溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
透過流束は2.0kg/(m2・h)、分離係数は1700、透過液中の水の濃度は99.54質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、1.5×10-6mol/(m2・s・Pa)であった。比較例3で得られた膜は合成時間が長いにもかかわらず分離係数が低く、透過流束も低かった。
【0150】
[比較試験例3]
比較例4で得られた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、上記試験例1と同様にして、50℃の水/メタノール水溶液(30/70質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
透過流束は0.9kg/(m2・h)、分離係数は4、透過液中の水の濃度は63.19質量%であった。水のパーミエンスであらわすと、1.3×10-6mol/(m2・s・Pa)であった。透過流束、分離係数ともに非常に低い結果となった。
【0151】
[比較試験例4]
比較例4で得られた多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を用いて、パーベーパレーション法により、上記試験例1と同様にして、80℃の水/アリルアルコール水溶液(10/90質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
透過流束は1.6kg/(m2・h)、分離係数は4800、透過液中の水の濃度は99.79質量%であった。
試験例6と比較して透過量が低い結果となった。
上記試験例及び比較試験例をまとめた結果を表3~6に示す。
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2014年4月18日出願の日本特許出願(特願2014-086677)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0157】
1.スターラー
2.湯浴
3.撹拌子
4.被分離液
5.多孔質支持体-ゼオライト膜複合体
6.ピラニゲージ
7.透過液捕集用トラップ
8.コールドトラップ
9.真空ポンプ