(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】分離膜の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B01D 65/06 20060101AFI20220720BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20220720BHJP
B01D 61/16 20060101ALI20220720BHJP
C02F 1/52 20060101ALI20220720BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
B01D65/06
B01D61/14 500
B01D61/16
C02F1/52 K
C02F1/44 E
(21)【出願番号】P 2020096369
(22)【出願日】2020-06-02
【審査請求日】2021-03-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】岩見 貴子
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106867691(CN,A)
【文献】特開昭57-053204(JP,A)
【文献】特開昭59-016506(JP,A)
【文献】特開昭64-080406(JP,A)
【文献】特開昭57-084704(JP,A)
【文献】特開平11-319518(JP,A)
【文献】特開2011-016100(JP,A)
【文献】特開平10-066972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
61/00-71/82
C02F 1/44
1/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素含有排水に凝集剤を添加して凝集処理し、
分離膜を用いて凝集処理後のケイ素含有排水を膜分離若しくは除濁し、
所定の頻度にて水溶性フッ化水素塩を含有する溶液にケイ素含有排水の膜分離若しくは除濁に使用した分離膜を接触させることを含む分離膜の洗浄方法を行うことを含み、
膜分離若しくは除濁に供するケイ素含有排水はケイ素濃度が5mg/L以上50mg/L以下であり、
分離膜はUF膜若しくはMF膜であ
り、且つ
水溶性フッ化水素塩を含有する溶液は燐化合物または弗素含有酸を含有しない、
ケイ素含有排水の処理方法。
【請求項2】
ケイ素含有排水の膜分離若しくは除濁に使用した分離膜を、酸洗浄および/またはアルカリ洗浄することをさらに含む、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
ケイ素含有排水に凝集剤を添加して凝集処理し、
分離膜を用いて凝集処理後のケイ素含有排水を膜分離若しくは除濁し、
所定の頻度にてケイ素含有排水の膜分離若しくは除濁に使用した分離膜を酸洗浄し、水溶性フッ化水素塩を含有する溶液に酸洗浄した分離膜を接触させ、水溶性フッ化水素塩を含有する溶液に接触させた分離膜をアルカリ洗浄することを含む分離膜の洗浄方法を行うことを含み、
膜分離若しくは除濁に供するケイ素含有排水はケイ素濃度が5mg/L以上50mg/L以下であり、
分離膜はUF膜若しくはMF膜であ
り、且つ
水溶性フッ化水素塩を含有する溶液は燐化合物または弗素含有酸を含有しない、
ケイ素含有排水の処理方法。
【請求項4】
ケイ素含有排水に凝集剤を添加して凝集処理し、
分離膜を用いて凝集処理後のケイ素含有排水を膜分離若しくは除濁し、
所定の頻度にてケイ素含有排水の膜分離若しくは除濁に使用した分離膜を酸洗浄し、水溶性フッ化水素塩を含有する溶液に酸洗浄した分離膜を接触させ、水溶性フッ化水素塩を含有する溶液に接触させた分離膜をアルカリ洗浄し、アルカリ洗浄した分離膜を酸洗浄することを含む分離膜の洗浄方法を行うことを含み、
膜分離若しくは除濁に供するケイ素含有排水はケイ素濃度が5mg/L以上50mg/L以下であり、
分離膜はUF膜若しくはMF膜であ
り、且つ
水溶性フッ化水素塩を含有する溶液は燐化合物または弗素含有酸を含有しない、
ケイ素含有排水の処理方法。
【請求項5】
ケイ素含有排水に凝集剤を添加して凝集処理し、
分離膜を用いて凝集処理後のケイ素含有排水を膜分離若しくは除濁し、
所定の頻度にて水溶性フッ化水素塩を含有する溶液にケイ素含有排水の膜分離若しくは除濁に使用した分離膜を接触させることを含む分離膜の洗浄方法を行うことを含
み、
水溶性フッ化水素塩を含有する溶液は燐化合物または弗素含有酸を含有しない、
ケイ素含有排水の処理方法。
【請求項6】
水溶性フッ化水素塩を含有する溶液は、水溶性フッ化水素塩の濃度が1~10%であり且つpHが5未満である、請求項1~5のいずれかひとつに記載の処理方法。
【請求項7】
水溶性フッ化水素塩を含有する溶液は、水溶性フッ化水素塩の濃度が3~7%であり且つpHが5未満である、請求項1~
5のいずれかひとつに記載の処理方法。
【請求項8】
水溶性フッ化水素塩がフッ化アンモニウムである、請求項1~7のいずれかひとつに記載の処理方法。
【請求項9】
凝集処理する前のケイ素含有排水は、ケイ素濃度が5mg/L以上50mg/L以下である、請求項1~
8に記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理用の分離膜の洗浄方法に関する。より詳細に、半導体等の製造において排出されるガスの無害化に用いられる湿式排ガス処理装置から排出される水の除濁処理などに使用される、分離膜の性能低下を抑制するまたは分離膜の性能を回復させる洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体、液晶パネル、太陽電池などの製造において行われるクリーニングやエッチングなどの工程で使用され、排出されるガスには、モノシラン(SiH4)、ジシラン(Si2H6)、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、テトラエトキシシラン(TEOS:Si(OC2H5)4)、トリメチルシラン((CH3)3SiH)、四フッ化ケイ素(SiF4)などのケイ素含有ガス;CF4、C2F6、C3F8、c-C4F8、CHF3、SF6、NF3などのPFCsガスなどが含まれている。PFCsガスは温暖化係数が高い。半導体等の製造において排出されるガスは、湿式排ガス処理装置によって、または燃焼式除害装置と組み合わされた湿式排ガス処理装置によって、無害化され、大気に放出する。この湿式排ガス処理装置において使用された水は、排水処理装置において、浄化され海や川に排出するか、若しくは湿式排ガス処理装置において再使用するか、または純水化若しくは超純水化して半導体等の製造において使用する。このような排水処理装置に膜分離法が採用されることがある。
【0003】
膜分離法に用いられるMF膜、UF膜およびNF膜では、逆洗浄や空気洗浄などの物理洗浄を頻繁に行って抑留懸濁物を膜面から除去する。しかし、物理洗浄だけでは、抑留懸濁物を完全に除去できないので、膜間差圧が次第に大きくなっていく。膜間差圧が限度以上に高くなった分離膜(MF膜、UF膜、NF膜、RO膜など)においては、化学洗浄を施して、膜間差圧を下げ、性能を回復させる。分離膜の化学洗浄には、アルカリ洗浄剤(NaOH、KOH、NH4OH等)、酸洗浄剤(クエン酸、シュウ酸、HCI等)、酸化剤(次亜塩素酸ナトリウム等)、還元剤(アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム等)、キレート剤(エチレンジアミン四酢酸の塩、ニトリロ酢酸等)、有機溶媒、界面活性剤等が用いられる。
【0004】
例えば、特許文献1は、少なくとも二つの洗浄段階を含む水処理用分離膜の洗浄回生方法において、水処理用分離膜の膜に酸性溶液で洗浄する第1の洗浄段階と、前記膜にホルマリンとアルカリ助剤とを含有するアルカリ性溶液で洗浄する第2の洗浄段階を順に行うことを特徴とする逆浸透膜の洗浄回生方法を開示している。特許文献1は、酸性溶液に使用可能な酸の一つとしてフッ化水素を示している。
【0005】
特許文献2は、超純水製造に使用されるUF膜、MF膜、NF膜などの濾過膜を、超純水製造工程での使用に先立って予備的に洗浄する方法であって、前記濾過膜を、酸剤で洗浄する酸洗浄工程と、70℃以上の純水で洗浄する高温純水洗浄工程と、該濾過膜を超純水で洗浄する超純水洗浄工程とをこの順に有し、前記高温純水洗浄工程が、通水洗浄と浸漬洗浄とを交互に繰り返し実施するものであることを特徴とする濾過膜の洗浄方法を開示している。特許文献2は、酸洗浄工程で用いる酸剤の一つとしてフッ酸を示している。
【0006】
特許文献3は、排水を分離膜によって浄化して再生利用する場合に、洗浄液を用いて前記分離膜表面に付着するケイ素化合物等を溶解或いは除去することを特徴とする分離膜の洗浄・再生方法を開示している。この方法において用いられる洗浄液として、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム四水和物を添加してpHをアルカリ性に調整したものが開示されている。特許文献3は、結晶性の二酸化ケイ素(シリカ)の除去においてフッ化水素酸による分解・溶解という手段があるが、フッ化水素酸は高分子等の有機物をも侵すことから洗浄剤として使用することができないと述べている。
【0007】
特許文献4は、ホウ酸、過飽和ナトリウム、ホウ酸ナトリウムなどのホウ素化合物と、塩酸などの無機酸と、酸性フッ化アンモニウム、フッ化水素、フッ化アンモニウムなどのフッ素化合物とを含有するスケール洗浄剤組成物を開示している。特許文献4は、このスケール洗浄剤組成物によって、熱交換器に生成したシリカスケールとカルシウムスケールとを同時に除去できると述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-66972号公報
【文献】特開2010-22935号公報
【文献】特開平11-319518号公報
【文献】特開昭61-34098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、水処理用の分離膜の洗浄方法を提供することである。本発明の課題は、半導体等の製造において排出されるガスの無害化に用いられる湿式排ガス処理装置などから排出される水の除濁処理などに使用される、分離膜の性能低下を抑制するまたは分離膜の性能を回復させる、洗浄方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0011】
〔1〕 水溶性フッ化水素塩を含有する溶液にケイ素含有排水の除濁に使用した分離膜を接触させることを含み、
ケイ素含有排水はケイ素濃度が5mg/L以上50mg/L以下であり、
分離膜はUF膜若しくはMF膜である、
分離膜の洗浄方法。
【0012】
〔2〕 ケイ素含有排水の除濁に使用した分離膜を、酸洗浄および/またはアルカリ洗浄することをさらに含む、〔1〕に記載の洗浄方法。
【0013】
〔3〕 ケイ素含有排水の除濁に使用した分離膜を酸洗浄し、
水溶性フッ化水素塩を含有する溶液に酸洗浄した分離膜を接触させ、
水溶性フッ化水素塩を含有する溶液に接触させた分離膜をアルカリ洗浄することを含み、
ケイ素含有排水はケイ素濃度が5mg/L以上50mg/L以下であり、
分離膜はUF膜若しくはMF膜である、
分離膜の洗浄方法。
【0014】
〔4〕 ケイ素含有排水の除濁に使用した分離膜を酸洗浄し、
水溶性フッ化水素塩を含有する溶液に酸洗浄した分離膜を接触させ、
水溶性フッ化水素塩を含有する溶液に接触させた分離膜をアルカリ洗浄し、
アルカリ洗浄した分離膜を酸洗浄することを含み、
ケイ素含有排水はケイ素濃度が5mg/L以上50mg/L以下であり、
分離膜はUF膜若しくはMF膜である、
分離膜の洗浄方法。
【0015】
〔5〕 水溶性フッ化水素塩を含有する溶液にケイ素含有排水の膜分離に使用した分離膜を接触させることを含む、分離膜の洗浄方法。
【0016】
〔6〕 水溶性フッ化水素塩を含有する溶液は、水溶性フッ化水素塩の濃度が1~10%であり且つpHが5未満である、〔1〕~〔5〕のいずれかひとつに記載の洗浄方法。
〔7〕 水溶性フッ化水素塩がフッ化アンモニウムである、〔1〕~〔6〕のいずれかひとつに記載の洗浄方法。
【0017】
〔8〕 分離膜を用いてケイ素含有排水を膜分離若しくは除濁し、
所定の頻度にて〔1〕~〔7〕のいずれかひとつに記載の洗浄方法を行うことを含む、
ケイ素含有排水の処理方法。
【0018】
〔9〕 ケイ素含有排水に凝集剤を添加して凝集処理し、
分離膜を用いて凝集処理後のケイ素含有排水を膜分離若しくは除濁し、
所定の頻度にて〔1〕~〔7〕のいずれかひとつに記載の洗浄方法を行うことを含む、
ケイ素含有排水の処理方法。
〔10〕 凝集処理する前のケイ素含有排水は、ケイ素濃度が5mg/L以上50mg/L以下である、〔9〕に記載の処理方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、限外ろ過膜(UF膜)、精密ろ過膜(MF膜)などの分離膜に付着したケイ素含有排水由来物を、短時間の洗浄で、除去することができる。本発明の方法によって、分離膜の性能の低下抑制若しくは性能の回復が成され、ケイ素含有排水の膜分離処理(若しくは除濁処理)を長期間行うことができる。本発明によると、半導体等の製造において排出されるガスの無害化に用いられる湿式排ガス処理装置などから排出される水の膜分離処理(若しくは除濁処理)に使用する分離膜の交換頻度を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】実験例で使用した評価用膜分離装置を示す概念図である。
【
図3】各種薬液による洗浄した際の単糸モジュールの換算差圧の変化を示す図である。
【
図4】分離膜の洗浄スケジュールの一例を示す図である。
【
図5】
図4に示した洗浄スケジュールを行った際の単糸モジュールの換算差圧の変化を示す図である。
【
図6】洗浄後の水運転における単糸モジュールの換算差圧の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の分離膜の洗浄方法は、分離膜に、水溶性フッ化水素塩を含有する溶液(以下、フッ化水素塩溶液ということがある。)を接触させることを含むものである。
【0022】
洗浄対象である分離膜は、ケイ素含有排水の膜分離若しくは除濁に使用したものである。ケイ素含有排水の膜分離若しくは除濁に使用したことによって、分離膜には種々の物質が付着している。本発明の洗浄対象である分離膜は、鉄原子を含む物質、ケイ素原子を含む物質、およびフッ素原子を含む物質が付着したものが好ましい。なお、付着物質の同定は、SEM-EDSによって行うことができる。UF膜若しくはMF膜はモノマーシリカ(SiO2)などの水溶性シリカを濃縮させることなく通過させる。UF膜若しくはMF膜に付着するケイ素原子を含む物質は、非水溶性のコロイド状シリカ若しくはゲル状シリカ([H2SiO3]n)または非水溶性のケイ酸塩であると推測できる。
【0023】
ケイ素含有排水は、ケイ素化合物を含む排水であれば特に限定されないが、PFCsガスを含む排ガスの無害化に用いられる、湿式排ガス処理装置からまたは燃焼式除害装置と組み合わされた湿式排ガス処理装置から、排出される水であることが好ましい。ケイ素含有排水は、ケイ素濃度が、好ましくは5mg/L以上50mg/L以下、より好ましくは5mg/L以上35mg/L以下である。ケイ素濃度は、ICP発光または原子吸光を用いた公知の水質分析による方法で決定できる、ケイ素含有排水1Lに含まれるSi原子の質量である。モノマーシリカ(SiO2)は、水中にて、通常、メタケイ酸(H2SiO3)若しくはモノケイ酸(Si(OH)4)の形で存在し、110mg/L程度まで溶解すると言われている。
【0024】
洗浄対象である分離膜としては、例えば、限外濾過膜(UF膜)、精密濾過膜(MF膜)、ナノろ過膜(NF膜)、逆浸透膜(RO膜)などを挙げることができる。これらのうち、UF膜またはMF膜が好ましい。
分離膜としては、例えば、ポリエチレン(PE)、4フッ化エチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、酢酸セルロース(CA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)などの有機材料からなる膜;ならびに酸化アルミニウム(アルミナ:Al2O3)、酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO2)、酸化チタン(チタニア:TiO2)、ステンレス(SUS)などの無機材料からなる膜を挙げることができる。
【0025】
洗浄対象である分離膜は、膜モジュールに組み込まれていることが好ましい。膜モジュールとしては、ケーシング収納方式のモジュールと、槽浸漬方式のモジュールとを挙げることができる。本発明の浄化方法は、ケーシング収納方式のモジュールに対して好ましく用いられる。ケーシング収納方式のモジュールは、分離膜と、それの支持体と、流路材とを一体にして成る膜エレメントをケーシングに収納してなるものである。ケーシング収納方式のモジュールとしては、プリーツ型モジュール、スパイラル型モジュール、モノリス型モジュール、チューブ型モジュール、中空糸型モジュールなどを挙げることができる。これらのうち、中空糸型モジュールが好ましい。
【0026】
フッ化水素塩溶液に用いられる溶質のひとつは、水溶性フッ化水素塩である。フッ化水素塩は、フッ化水素と塩基とからなる塩である。塩基としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを挙げることができる。水溶性フッ化水素塩の具体例としては、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化水素ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化水素カリウムなどを挙げることができ、これらのうちフッ化アンモニウムが好ましい。
【0027】
フッ化水素塩溶液における水溶性フッ化水素塩の濃度は、好ましくは1~10質量%、より好ましくは3~7質量%、さらに好ましくは4~6質量%である。
【0028】
フッ化水素塩溶液に用いられる溶媒は、水または親水性液体、好ましくは水である。親水性液体としては、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール、アセトンなどのケトン、エチルエーテルなどのエーテルなどを挙げることができる。水としては、軟水または硬水のいずれも用いることができるが、軟水が好ましい。なお、軟水は、硬度が、好ましくは0~120mg/L、より好ましくは0~60mg/Lである。
【0029】
フッ化水素塩溶液は、pHが、好ましくは6未満、より好ましくは5未満である。pHの下限は、特に限定されないが、好ましくは3である。フッ化水素塩溶液が上記pHの範囲にある場合は、洗浄対象である分離膜の表面に存在することがある有機物の析出を抑制できる。pHの調節は、硫酸、塩酸、硝酸、シュウ酸、クエン酸などの酸によって、必要に応じて苛性ソーダ、苛性カリなどの塩基によって行うことができる。
【0030】
分離膜とフッ化水素塩溶液との接触は、その方法において特に制限されない。分離膜とフッ化水素塩溶液との接触は、通常、膜分離処理を休止している期間に行う。
分離膜とフッ化水素塩溶液との接触は、分離膜若しくは膜モジュールを水処理装置から取り外して、または分離膜若しくは膜モジュールを水処理装置に取り付けたままで行うことができる。
取り外した分離膜若しくは膜モジュールは、フッ化水素塩溶液に浸漬することによって、フッ化水素塩溶液を吹きかけることによって、若しくはフッ化水素塩溶液を垂れ流すことによって、フッ化水素塩溶液と接触させることができる。取り付けたままの分離膜若しくは膜モジュールは、膜分離処理を休止し、フッ化水素塩溶液による逆流洗浄、フッ化水素塩溶液によるフラッシング洗浄、フッ化水素塩溶液による浸け置き洗浄などを行うことによって、フッ化水素塩溶液と接触させることができる。
【0031】
分離膜とフッ化水素塩溶液との接触を行う前に若しくは後に、分離膜を酸洗浄および/またはアルカリ洗浄することが好ましい。酸洗浄は、硫酸、塩酸、硝酸、クエン酸溶液、シュウ酸溶液などの酸性薬液を分離膜に接触させることによって行う。アルカリ洗浄は、水酸化ナトリウム溶液などのアルカリ性薬液を分離膜に接触させることによって行う。酸性薬液およびアルカリ性薬液に用いられる溶媒は、水または親水性液体、好ましくは水である。酸洗浄および/またはアルカリ洗浄は、分離膜若しくは膜モジュールを水処理装置から取り外して、または分離膜若しくは膜モジュールを水処理装置に取り付けたままで行うことができる。酸洗浄によって、分離膜に付着した、鉄成分、アルミニウム成分、カルシウム成分等の金属成分を主に除去することができる。鉄成分、アルミニウム成分、カルシウム成分は、凝集処理において使用される無機凝集剤に由来するものも含まれる。アルカリ洗浄によって、分離膜に付着した、有機物を主に除去することができる。有機物は、凝集処理において使用される有機凝集剤に由来するものも含まれる。
【0032】
また、分離膜とフッ化水素塩溶液との接触を行う前に若しくは後に、必要に応じて、酸化剤や還元剤による洗浄を行ってもよい。酸化剤としては次亜塩素酸ナトリウムなどを挙げることができる。還元剤としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0033】
本発明においては、ケイ素含有排水の膜分離若しくは除濁に使用した分離膜を酸洗浄し、フッ化水素塩溶液に酸洗浄した分離膜を接触させ、フッ化水素塩溶液に接触させた分離膜をアルカリ洗浄することを含む方法によって、好ましくは、ケイ素含有排水の膜分離若しくは除濁に使用した分離膜を酸洗浄し、フッ化水素塩溶液に酸洗浄した分離膜を接触させ、フッ化水素塩溶液に接触させた分離膜をアルカリ洗浄し、アルカリ洗浄した分離膜を酸洗浄することを含む方法によって、分離膜の再生を行うことができる。再生した分離膜は、膜分離に再使用することができる。なお、アルカリ洗浄後に行う2回目の酸洗浄は、最初の酸洗浄に比べ、除去対象とする汚染物の量が少ないので、薬液濃度を低く、洗浄時間を短くしても構わない。
【0034】
本発明の洗浄方法においては、フッ化水素塩溶液との接触や他の薬品による洗浄の前に、抑留懸濁物や夾雑物を分離膜から水や空気にて除去することが好ましい。また、本発明の洗浄方法においては、フッ化水素塩溶液や他の薬品による洗浄の後に、分離膜に残ったフッ化水素塩溶液や他の薬品を水ですすぎ洗いすることが好ましい。残留薬品等の量はpH計や電気伝導度計にて確認することができる。
【0035】
本発明のケイ素含有排水の処理方法は、分離膜を用いてケイ素含有排水を膜分離若しくは除濁し、所定の頻度にて前述した本発明の洗浄方法を行うことを含む。
本発明のケイ素含有排水の処理方法の別の形態は、ケイ素含有排水に無機凝集剤を添加して凝集処理し、分離膜を用いて凝集処理後のケイ素含有排水を膜分離若しくは除濁し、所定の頻度にて前述した本発明の洗浄方法を行うことを含む。
【0036】
凝集処理する前のケイ素含有排水は、ケイ素濃度が好ましくは5mg/L以上50mg/L以下である。
凝集処理においては、通常、凝集剤が用いられる。凝集剤には、無機凝集剤と有機凝集剤とがある。本発明においては、硫酸アルミニウム、ポリ硫酸第二鉄、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄などの無機凝集剤が好ましく用いられる。これら凝集剤は1種を単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。
凝集剤の添加量は、処理対象であるケイ素含有排水における凝集効果を観察して適宜に調節することができ、具体的には、好ましくは5.0~50質量%/SS、より好ましくは5.0~30質量%/SS、さらに好ましくは7.0~20質量%/SSである。凝集剤の使用によって、膜分離若しくは除濁の効率が向上する。一方で、凝集剤を添加した箇所の下流にある分離膜に凝集剤由来の金属成分や有機物が付着することがある。
【0037】
本発明のケイ素含有排水の処理方法において行われる膜分離処理若しくは除濁処理には、全量ろ過方式またはクロスフローろ過方式を採用することができる。全量ろ過方式は排水の全量を膜でろ過する方式である。クロスフローろ過方式は膜面に対し平行な流れを作ることで排水中の懸濁物質やコロイドが膜面に堆積する現象を抑制しながらろ過を行う方式である。
膜分離処理若しくは除濁処理においては、所定の頻度にて、膜の物理洗浄を行うことが好ましい。物理洗浄の頻度は、例えば、膜分離処理若しくは除濁処理30秒間~60分間に1回が好ましい。物理洗浄は、逆流洗浄、空気洗浄(エアスクラビング)等によって行うことができる。
【0038】
本発明のケイ素含有排水の処理方法における、本発明の洗浄方法の実施頻度は、分離膜の目詰まり(ファウリング)の状況に応じて適宜設定することができる。分離膜を水処理装置に取り付けたままで本発明の洗浄方法を実施する場合の頻度は、例えば、0.5日間~7日間に1回に設定することができる。分離膜を水処理装置から取り外して本発明の洗浄方法を実施する場合の頻度は、例えば、1月間~1年間に1回に設定することができる。
【0039】
以下に実験例を示して本発明の方法の効果を説明する。
【0040】
(洗浄対象:分離膜)
半導体の製造工場に設置された排ガス無害化用の湿式排ガス処理装置から排出された水の浄化処理に用いられた分離膜(外径1.4mm、孔径0.02μm、ポリフッ化ビニルデン製のUF膜、中空糸型モジュール)を用意した。該分離膜は、SEM-EDS(測定倍率:500倍)による質量組成分析の結果、表1に示す元素を含有するものであった。Fe、Si、Fが検出された。
【0041】
【0042】
[実験例1]
分離膜から中空糸を切り出した。中空糸はFeによって茶褐色を呈していた。それを薬液に、6時間浸漬した。浸漬中の中空糸の色の変化を観察した。
【0043】
薬液として、
5質量%硫酸、
5質量%硝酸、
5質量%塩酸、
5質量%シュウ酸水溶液(以下、「薬液1」という。)、
5質量%水酸化ナトリウムと0.5質量%asCl2次亜塩素酸ナトリウムとの水溶液(以下、薬液2」という。)、および
5質量%フッ化アンモニウム水溶液(以下、「薬液3」という。)
を用いた。
【0044】
5質量%硫酸、5質量%硝酸、5質量%塩酸、および薬液2に浸漬した中空糸は色に大きな変化が無かった。薬液1に浸漬した中空糸は茶色に変化した。薬液3に浸漬した中空糸は、淡黄白色に変化した。
【0045】
[実験例2]
図2に示すような評価用膜分離装置を以下のようにして組み立てた。
分離膜から中空糸11を切り出した。両端にチーズ継手14にて枝管15を設けてなる本管12に中空糸11を挿入し、中空糸の一方の端Aを本管の一方の端Aにてポッティング材13で固定し、本管の他方の端Bにて中空糸11の他方の端Cが本管12の外に出るようにポッティング材13で固定して、膜長さ7.5cm、膜面積10.6cm
2の単糸モジュール10を得た。中空糸の端Aにある開口はポッティング材で塞がっている。外に出た中空糸の端Cの開口に処理水ライン24を繋いだ。本管の端Aにある枝管15に給水ライン21を繋いだ。本管の端Bにある枝管に排水ライン22を繋いだ。給水ライン21と処理水ライン24に圧力計を取り付けた。排水ライン22の途中から循環ライン23を分岐させて給水ライン21の途中に繋いで液を循環できるようにした。
【0046】
まず、処理水ラインのバルブを開き、排水ラインのバルブおよび循環ラインのバルブを閉じ、給水ラインから純水を単糸モジュールに供給し、液をFlux4m/dayで処理水ラインに排出させた。給水ラインの圧力と処理水ラインの圧力を測定し、その差(換算差圧)を記録した。
【0047】
処理水ラインのバルブを閉じ、循環ラインのバルブを開き、給水ラインから薬液を単糸モジュールに5分間循環させた(薬液循環)。
その後、単糸モジュール内に薬液を留めた状態で2時間放置して、中空糸に薬液を含侵させた(薬液含浸)。
循環ラインのバルブを閉じ、排水ラインのバルブを開き、給水ラインから純水を単糸モジュールに供給し、中空糸を、排水ラインのpHが中性となるまで濯いだ(純粋濯ぎ)。
排水ラインのバルブを閉じ、処理水ラインのバルブを開き、給水ラインから純水を単糸モジュールに供給し、液をFlux4m/dayで処理水ラインに排出させた(純水供給)。給水ラインの圧力と処理水ラインの圧力を測定し、その差(換算差圧)を記録した。
換算差圧を記録したのち、純水の供給を停止した。
【0048】
次いで、5分間の薬液の循環、2時間の薬液の含侵、純水による濯ぎ、および純水供給時の換算差圧の記録を繰り返した。
【0049】
薬液として、
5質量%シュウ酸水溶液(pH1.6、「薬液1」)、
5質量%水酸化ナトリウムと0.5質量%asCl2次亜塩素酸ナトリウムとの水溶液(pH13、「薬液2」)、
5質量%シュウ酸と1質量%アスコルビン酸ナトリウムとの水溶液(pH2.3、以下「薬液4」という。)、
5質量%フッ化アンモニウム水溶液(pH2.9、「薬液3」)、および
1質量%フッ化アンモニウム水溶液(硫酸によるpH調整,pH3、以下「薬液5」という。)を用いた。
【0050】
図3に結果を示す。薬液2は、浸漬によって差圧が上昇した。薬液3および5は、薬液1および薬液4に比べて、短時間で差圧低減の効果が表れた。薬液3は、薬液4に比べて、差圧低減の効果が大きかった。
【0051】
[実験例3]
実験例2と同じ方法で評価用膜分離装置を組み立てた。
図4に示す洗浄スケジュールに従って以下のように単糸モジュールを洗浄した。
【0052】
まず、処理水ラインのバルブを開き、排水ラインのバルブおよび循環ラインのバルブを閉じ、給水ラインから純水を単糸モジュールに供給し、液をFlux4m/dayで処理水ラインに排出させた。給水ラインの圧力と処理水ラインの圧力を測定し、その差(換算差圧)を記録した。
【0053】
(フッ化水素塩洗浄)
処理水ラインのバルブを閉じ、循環ラインのバルブを開き、給水ラインから薬液3を単糸モジュールに5分間循環させた。その後、単糸モジュール内に薬液3を留めた状態で6時間放置して、中空糸に薬液3を含侵させた。
循環ラインのバルブを閉じ、排水ラインのバルブを開き、給水ラインから純水を単糸モジュールに供給し、中空糸を、排水ラインのpHが中性となるまで濯いだ。
排水ラインのバルブを閉じ、処理水ラインのバルブを開き、給水ラインから純水を単糸モジュールに供給し、液をFlux4m/dayで処理水ラインに排出させた。給水ラインの圧力と処理水ラインの圧力を測定し、その差(換算差圧)を記録した。
換算差圧を記録したのち、純水の供給を停止した。
【0054】
(第一酸洗浄)
処理水ラインのバルブを閉じ、循環ラインのバルブを開き、給水ラインから2質量%シュウ酸と1質量%アスコルビン酸との水溶液(以下、「薬液6」という。)を単糸モジュールに5分間循環させた。その後、単糸モジュール内に薬液6を留めた状態で2時間放置して、中空糸に薬液6を含侵させた。
循環ラインのバルブを閉じ、排水ラインのバルブを開き、給水ラインから純水を単糸モジュールに供給し、中空糸を、排水ラインのpHが中性となるまで濯いだ。
排水ラインのバルブを閉じ、処理水ラインのバルブを開き、給水ラインから純水を単糸モジュールに供給し、液をFlux4m/dayで処理水ラインに排出させた。給水ラインの圧力と処理水ラインの圧力を測定し、その差(換算差圧)を記録した。
換算差圧を記録したのち、純水の供給を停止した。
【0055】
(アルカリ洗浄)
処理水ラインのバルブを閉じ、循環ラインのバルブを開き、給水ラインから1質量%水酸化ナトリウムと0.5質量%asCl2次亜塩素酸ナトリウムとの水溶液(以下、「薬液7」という。)を単糸モジュールに5分間循環させた。その後、単糸モジュール内に薬液7を留めた状態で15時間放置して、中空糸に薬液7を含侵させた。
循環ラインのバルブを閉じ、排水ラインのバルブを開き、給水ラインから純水を単糸モジュールに供給し、中空糸を、排水ラインのpHが中性となるまで濯いだ。
排水ラインのバルブを閉じ、処理水ラインのバルブを開き、給水ラインから純水を単糸モジュールに供給し、液をFlux4m/dayで処理水ラインに排出させた。給水ラインの圧力と処理水ラインの圧力を測定し、その差(換算差圧)を記録した。
換算差圧を記録したのち、純水の供給を停止した。
【0056】
(第二酸洗浄)
処理水ラインのバルブを閉じ、循環ラインのバルブを開き、給水ラインから2質量%シュウ酸水溶液(以下、「薬液8」という。)を単糸モジュールに5分間循環させた。その後、単糸モジュール内に薬液8を留めた状態で2時間放置して、中空糸に薬液8を含侵させた。
循環ラインのバルブを閉じ、排水ラインのバルブを開き、給水ラインから純水を単糸モジュールに供給し、中空糸を、排水ラインのpHが中性となるまで濯いだ。
排水ラインのバルブを閉じ、処理水ラインのバルブを開き、給水ラインから純水を単糸モジュールに供給し、液をFlux4m/dayで処理水ラインに排出させた。給水ラインの圧力と処理水ラインの圧力を測定し、その差(換算差圧)を記録した。結果を
図5に示す。
【0057】
(水運転)
換算差圧を記録したのち、給水ラインから純水を単糸モジュールに供給し、液をFlux16m/dayで処理水ラインに排出させた。給水ラインの圧力と処理水ラインの圧力を測定し、その差(換算差圧)を記録した。結果を
図6に示す。
【0058】
[実験例4]
6時間のフッ化水素塩洗浄と2時間の第一酸洗浄の順序を逆にした以外は実験例3と同じ方法で換算差圧を記録した。結果を
図5および
図6に示す。
【0059】
[実験例5]
6時間のフッ化水素塩洗浄と2時間の第一酸洗浄を、8時間のフッ化水素塩洗浄に変えた以外は実験例3と同じ方法で換算差圧を記録した。結果を
図5および
図6に示す。
【0060】
[実験例6]
第二酸洗浄において用いる薬液8を薬液6に変えた以外は実験例4と同じ方法で換算差圧を記録した。結果を
図5に示す。なお、Flux16m/dayでの水運転は行わなかった。
【0061】
これら結果が示すとおり、本発明の洗浄方法は、膜の差圧を効率的に低下させる。フッ化水素塩洗浄、第一酸洗浄、アルカリ洗浄、および第二酸洗浄をこの順序で行った場合(実験例3)またはフッ化水素塩洗浄、アルカリ洗浄、および第二酸洗浄をこの順序で行った場合(実験例5)は、洗浄完了後の水運転で差圧が上昇する傾向がみられた。これは、洗浄しきれなかった汚染物質が分離膜に再付着したからであろうと推測する。第一酸洗浄、フッ化水素塩洗浄、アルカリ洗浄、および第二酸洗浄をこの順序で行った場合(実験例4および6)は、洗浄完了後の水運転でも差圧が上昇しなかった。
【符号の説明】
【0062】
1:中空糸
2:本管
3:ポッティング材
4:チーズ継手
5:枝管
A:原水
B:膜不透過水
C:膜透過水
10:単糸モジュール
21:給水ライン
22:排水ライン
23:循環ライン
24:処理水ライン
c1~c3:薬液供給口
p:純水供給口