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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-19
(45)【発行日】2022-07-27
(54)【発明の名称】口腔内環境改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/135 20160101AFI20220720BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20220720BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20220720BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20220720BHJP
【FI】
A23L33/135
A61K35/74 G
A61P1/02
C12N1/20 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018507389
(86)(22)【出願日】2017-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2017011619
(87)【国際公開番号】W WO2017164275
(87)【国際公開日】2017-09-28
【審査請求日】2020-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2016059662
(32)【優先日】2016-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 聡美
(72)【発明者】
【氏名】澤▲崎▼ 理子
(72)【発明者】
【氏名】北條 研一
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-186529(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0018843(US,A1)
【文献】特開平10-304871(JP,A)
【文献】ビオフェルミン効果は「おなかにいい」だけじゃなかったんだね,ビオフェルミンの効果や注意をまとめたメモhttp://blog.livedoor.jp/biobiomin/archives/28720393.html,2013年06月01日,全体,http://blog.livedoor.jp/biobiomin/archives/28720393.html,検索日2017/06/02
【文献】整腸菌製剤:ビフィズス菌製剤が一番人気,日経メディカル http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/survey/201504/541397.html&pr=1,2015年04月02日,全体,http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/survey/201504/541397.html&pr=1,検索日2017/06/05
【文献】前田伸子他,プロバイオティクスは口腔常在細菌叢を改善するか?,歯薬療法,Vol. 25, No. 3,2006年,p. 61-68,p. 63右欄、表2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/135
A61K 35/74
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピオン酸菌の発酵物を有効成分として含む、口腔内環境の改善用組成物であって、口腔内において口腔内病原菌を低減させるための組成物
【請求項2】
プロピオン酸菌が、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
発酵物が乳清発酵物である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
口腔内環境の改善が、口腔内のビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌の増加によるものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
口臭抑制のための、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
食品組成物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
タブレットの形態である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
1回摂取に適した包装形態である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
複数回摂取に適した包装形態である、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
口腔内環境改善用組成物または口臭抑制用組成物の製造のための、プロピオン酸菌の発酵物の使用であって、前記組成物が口腔内において口腔内病原菌を低減させるための組成物である、使用
【請求項11】
有効量のプロピオン酸菌の発酵物を、口腔内環境の改善または口臭抑制を必要としている対象に摂取させるか、あるいは投与することを含んでなる、口腔内環境の改善方法および口臭抑制方法であって、前記方法が口腔内において口腔内病原菌を低減させる方法である、方法
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本願は、先行する日本国出願である特願2016-59662(出願日:2016年3月24日)の優先権の利益を享受するものであり、その開示内容全体は引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、口腔内環境改善用組成物に関し、より詳細には、口腔内環境改善用の食品組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、消費者のオーラルケアに対する関心は高く、そのなかでも特に口臭ケアをターゲットとした商品に関しては、歯磨や洗口液に加えて、口腔清涼菓子の市場が拡大を続けている。口臭抑制を目的とした代表的な口腔清涼菓子にはミントフレーバーやメントールなどの清涼感を付与する成分が配合されており、一時的なすっきり感・爽快感が得られ、口臭が減少したような体感が得られる商品である。
【0004】
しかし、上記のような口腔清涼菓子で得られる体感は、清涼感を付与する配合成分に起因する一過性の爽快感によるものであり、口臭を根本から解決することはできない。また、殺菌成分を含む従来型の洗口剤を使用して口腔細菌を局所的あるいは一時的に排除することができたとしても、別の部位から口腔細菌が伝播・定着する恐れがあり、加えて、殺菌剤で安定した細菌叢をかく乱することでかえって病原菌が定着しやすくなる恐れもある(非特許文献1)。
【0005】
一方で、口腔内には口臭原因菌や歯周病原因菌などの口腔内病原菌に加えて、口腔内常在菌(善玉菌)としてビフィズス菌も生息していることが知られている。しかし、口腔内ビフィズス菌の増殖が口腔内環境へどのような影響を与えるかはこれまで報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】光岡知足:プロバイオティクス・プレバイオティクス・バイオジェニクス, 財団法人日本ビフィズス菌センター, 2011, 263-265
【発明の概要】
【0007】
本発明は新規な口腔内環境改善用組成物を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、プロピオン酸菌の発酵物がヒト口腔由来のビフィドバクテリウム属細菌の増殖を促進すること、プロピオン酸菌の発酵物を含有するタブレットを被験者に摂取させることで、口腔内のビフィドバクテリウム属細菌の増殖を実際に促進すること、さらには、プロピオン酸菌の発酵物を含有するタブレットを被験者に摂取させることで口臭を抑制するとともに、口臭原因菌数を減少させることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0009】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]プロピオン酸菌の発酵物を有効成分として含む、口腔内環境の改善用組成物および口腔内環境の改善剤(以下、「本発明の組成物および用剤」ということがある)。
[2]プロピオン酸菌が、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)である、上記[1]に記載の組成物および用剤。
[3]発酵物が乳清発酵物である、上記[1]または[2]に記載の組成物および用剤。
[4]口腔内環境の改善が、口腔内のビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)細菌の増加によるものである、上記[1]~[3]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[5]口臭抑制のための、上記[1]~[4]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[6]食品組成物である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[7]タブレットの形態である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[8]1回摂取に適した包装形態である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[9]複数回摂取に適した包装形態である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[10]口腔内環境改善用組成物または口臭抑制用組成物の製造のための、プロピオン酸菌の発酵物の使用。
[11]有効量のプロピオン酸菌の発酵物を、口腔内環境の改善または口臭抑制を必要としている対象に摂取させるか、あるいは投与することを含んでなる、口腔内環境の改善方法および口臭抑制方法。
【0010】
本発明によれば、プロピオン酸菌による発酵物を有効成分とする口腔内環境改善用組成物および口腔内環境改善剤を提供することができる。本発明の組成物および用剤の有効成分は、従来から食品の製造に用いられている天然微生物による発酵物であり、また、微生物を用いるため当該発酵物を大量に生産することも可能であることから、本発明の組成物および用剤は安全性やコストの観点から非常に魅力的な技術であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】プロピオン酸菌の乳清発酵物が配合されたタブレットを被験者に摂取させた場合の摂取前後の口腔内ビフィズス菌の菌数の変化を示した図である。
図2】プロピオン酸菌の乳清発酵物が配合されたタブレットを被験者に摂取させた場合の硫化水素濃度(A)とメチルメルカプタン濃度(B)の変化を示した図である。
図3】プロピオン酸菌の乳清発酵物が配合されたタブレットを被験者に摂取させた場合の口臭原因菌であるフソバクテリウム・ヌクレアタムの菌数の変化を示した図である。
【発明の具体的説明】
【0012】
本発明の組成物および用剤はプロピオン酸菌の発酵物を有効成分として含んでなるものである。本発明に使用されるプロピオン酸菌の発酵物はプロピオン酸菌の培養により得られる発酵物であり、培養工程で用いる培地の栄養源としては、乳製品、酵母エキス、大豆エキスや、これらの酵素処理物などが挙げられる。培養培地としては乳製品のタンパク質分解酵素処理物を含有する培地が好ましい。炭素源を含有する培地が好ましく、本発明における炭素源とは、プロピオン酸菌が資化できる炭素源をいう。プロピオン酸菌が資化できる炭素源としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、乳酸、グリセロール、グルテン、セルロースなどが挙げられ、特に乳糖が好ましい。培養開始前の培地中の炭素源含有量は4~8質量%が好ましく、4~7質量%がより好ましく、特に好ましくは4~6.7質量%である。このうち、炭素源として乳糖を含有させた培地としては、ホエイ粉、カゼイン、脱脂粉乳、あるいは、ホエイを透析処理して乳糖含量を減らしたホエイ蛋白質濃縮物、あるいは、乳糖含量を更に高純度に分離したホエイ蛋白質分離物が挙げられる。これらはそのまま、あるいは、プロテアーゼ処理して用いることも可能であり、酵母エキス、トリプチケースなどのペプトンと、ブドウ糖、乳糖、乳糖のラクターゼ処理物などプロピオン酸菌が資化する炭素源となり得る単糖類および/または2糖類などの適量の糖類と、乳酸、グリセロール、グルテン、セルロース、乳清ミネラルなどのミネラル分、必要に応じて牡蠣、生姜などミネラル分を多く含む動植物性食品またはその抽出物を添加することにより培地を調製することができる。
【0013】
培養培地の栄養源として用いられる乳製品としては、生乳、濃縮乳、全粉乳、脱脂乳、脱脂粉乳、ミルクプロテイン(MPC(milk protein concentrate))、カゼイン、ホエイ、濃縮ホエイ、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク分離物(WPI)およびホエイ粉などが挙げられるが、これらのうちホエイ、濃縮ホエイ、ホエイタンパク質濃縮物が好ましい。本発明ではホエイ、濃縮ホエイまたはホエイタンパク質濃縮物のタンパク質分解酵素処理物を培地の栄養源とするプロピオン酸菌の発酵物を、「プロピオン酸菌の乳清発酵物」という。
【0014】
本発明で用いることができるプロピオン酸菌は、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属、プロピオニシモナス(Propionicimonas)属、プロピオニフェラックス(Propioniferax)属、プロピオニミクロビウム(Propionimicrobium)属、プロピオニビブリオ(Propionivibrio)属などがあり、特に制限されないが、プロピオニバクテリウム属に属する菌が好ましい。プロピオニバクテリウム属の菌としては、例えば、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)、プロピオニバクテリウム・トエニー(Propionibacterium thoenii)、プロピオニバクテリウム・アシディプロピオニシ(Propionibacterium acidipropionici)、プロピオニバクテリウム・ジェンセニー(Propionibacterium jensenii)、プロピオニバクテリウム・アビダム(Propionibacterium avidum)、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)、プロピオニバクテリウム・リンホフィラム(Propionibacterium lymphophilum)、プロピオニバクテリウム・グラニュロサム(Propionibacterium granulosam)などのプロピオン酸菌が挙げられる。このなかでもプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒがより好ましく、特に、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ IFO12424、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ATCC6207、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒET-3株(FERM BP-8115)が好ましい。
【0015】
プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒET-3株は平成13年8月9日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託され、その後、国際寄託に移管され受託番号FERM BP-8115が付与されている。なお、Budapest Notification No. 282 (http://www.wipo.int/treaties/en/notifications/budapest/treaty_budapest_282.html)に記載されるとおり、独立行政法人製品評価技術基盤機構(IPOD, NITE)が独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(IPOD, AIST)から特許微生物寄託業務を承継したため、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒET-3株は、現在は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(IPOD, NITE)(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号:FERM BP-8115のもとで寄託されている。
【0016】
プロピオン酸菌の発酵物の製造は例えば以下のようにして実施することができる。
・前培養したプロピオン酸菌含有培養液を培養液(1~3L)に接種後、本培養を行う。
・30~40℃の培養中、培養液を窒素ガス0.1~1L/分でスパージングし、攪拌速度50~200rpmで140~160時間嫌気的培養を行う。このとき、プロピオン酸菌接種後1~2日培養した後、任意の培地組成成分である糖質を0.5~20mL/時で連続的に添加してもよい。
・更に、上記嫌気的培養に引き続き好気的培養を行うことが好ましく、このとき、窒素ガスを酸素ガスに代えて同様に通気し、110~130時間好気的培養を行う。
・このようにしてプロピオン酸菌を培養してプロピオン酸菌の培養液を得、更に場合によっては当該培養液中にアスコルビン酸などの抗酸化剤を添加し、プロピオン酸菌発酵物として使用することができる。
【0017】
本発明の有効成分であるプロピオン酸菌の発酵物は、プロピオン酸菌を培養し得られたものであり、プロピオン酸菌および培養物の両方を含む。得られたプロピオン酸菌の発酵物はそのまま使用してもよいが、適宜濃縮や希釈、乾燥などを行ってもよい。
【0018】
プロピオン酸菌の発酵物はまた、国際公開第2003/016544号、国際公開第2005/099725号、国際公開第2009/107380号、国際公開第2012/132913号などに記載の公知の製造方法に従って製造することもできる。あるいは、プロピオン酸菌の発酵物を含有する市販品(例えば、B.G.S.POWDER(ビー・ジー・エス・パウダー)・株式会社明治製)を用いてもよい。
【0019】
本発明の組成物および用剤は、プロピオン酸菌の発酵物単独、または、他の成分と混合して使用することもできる。本発明の組成物および用剤におけるプロピオン酸菌の発酵物の含有量(固形分換算基準)は、口腔内環境の改善効果が発揮される限り特に限定されないが、10~100質量%とすることができ、好ましくは10~50質量%、より好ましくは10~20質量%である。本発明においては、本発明の用剤をプロピオン酸菌の発酵物からなるものとし、本発明の組成物をプロピオン酸菌の発酵物と他の成分を含んでなるものとすることができる。
【0020】
本発明の組成物および用剤は、プロピオン酸菌の発酵物に加えて、口腔内のビフィズス菌が資化しうる糖類を含んでいてもよい。このような糖類としては、ブドウ糖、ガラクトース、フルクトース、シュークロース、マルトース、メリビオース、ラクトースなどの単糖や二糖類、ラフィノース、ラクチュロース、フラクトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖などのビフィドバクテリウムを選択的に増殖させるオリゴ糖、パラチノースが挙げられる。本発明の組成物および用剤における口腔内のビフィズス菌が資化しうる糖類の含有量(固形分換算基準)は、口腔内環境の改善効果が発揮される限り特に限定されないが、0~80質量%とすることができ、好ましくは0~60質量%である。
【0021】
本発明の組成物は口腔内環境の改善に用いられるものであり、口腔内環境改善剤として用いることができる。ここで、口腔内環境の改善とは、口腔内細菌叢の改善を含む意味で用いられ、例えば、口臭原因菌や歯周病関連菌などの口腔内病原菌の総菌数の減少および/または増殖の抑制や、口腔内ビフィズス菌などのいわゆる善玉菌の総菌数の増加および/または増殖の促進を含む。
【0022】
ここで、口臭原因菌としては、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)などのフソバクテリウム属細菌、ベイロネラ・ディスパー(Veillonella dispar)などのベイロネラ属細菌などが挙げられる。
【0023】
また、歯周病関連菌としては、ポルフィロモナス・ジンジバリス (Porphyromonas gingivalis)などのポルフィロモナス属細菌、プレボテラ・インターメディア (Prevotella intermedia)、プレボテラ・ニグレセンス(Prevotella nigrescens)などのプレボテラ属細菌、トレポネーマ・デンティコーラ(Treponema denticola)、タンネラ・フォーサイセンシス(Tannella forsythensis)、アクチノバチラス・アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)などが挙げられる。
【0024】
口腔内のビフィズス菌としては、ビフィドバクテリウム・デンティウム(Bifidobacterium dentium)、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ウリナリス(Bifidobacterium urinalis)などのビフィドバクテリウム属細菌が挙げられる。
【0025】
本発明の組成物および用剤によれば口臭原因菌、歯周病関連菌などの口腔内病原菌の総菌数を減少させるか、あるいは、増殖を抑制することができ、ひいては、口臭や歯周病などの口腔内疾患を予防または治療することができる。すなわち、本発明の組成物および用剤は口臭抑制に用いることができ、口臭抑制剤として用いることができる。ここで、「口臭」とは、呼気に含まれている口臭成分を人が感じるものをいい、呼気と共に口腔から発せられる悪臭の総称である。該悪臭の代表成分として硫化水素やメチルメルカプタンのような揮発性含硫化合物が挙げられる。
【0026】
本発明の組成物および用剤は口腔内環境の改善作用が奏される限り、その形態や形状に特に制限はなく、固形状の形態であっても、液体、半液体、ゲル状、ペースト状、粉末状などの形態であってもよい。本発明の組成物および用剤としては、例えば、タブレット(例えば、トローチ、チュアブル錠)、ガム、グミ、キャンディ、錠菓、飲料、ヨーグルト、ゼリーなどの食品組成物や、可食性フィルム、歯磨剤、洗口剤、うがい剤、義歯洗浄剤、口腔内崩壊錠、ジェルなどの口腔ケア組成物が挙げられ、携帯性や口腔内滞留性の観点から、タブレット、ガム、グミ、キャンディが好ましい。本発明の組成物および用剤は、その剤型に応じ、プロピオン酸菌の発酵物以外に任意成分としてその他の公知の添加剤を配合することができる。
【0027】
本発明の組成物および用剤をタブレットとして提供する場合には、プロピオン酸菌の発酵物以外に、糖質、賦形剤、甘味料、酸味料、香料、着色料、保存剤、安定化剤、乳化剤、植物抽出物、果汁パウダーなどから選択される1種または2種以上の成分を配合し、常法により製造することができる。
【0028】
プロピオン酸菌の発酵物は優れた口腔内環境の改善作用を有するため、日常摂取する食品や、サプリメントとして摂取する食品に含有させて提供することもできる。すなわち、本発明の組成物および用剤は食品組成物として提供することができる。本発明の組成物および用剤を食品組成物として提供する場合には、本発明の組成物および用剤は有効成分であるプロピオン酸菌の発酵物を配合する以外は、当該食品の通常の製造手順に従って製造することができる。
【0029】
本発明の有効成分であるプロピオン酸菌の発酵物を食品組成物として提供する場合には、プロピオン酸菌の発酵物をそのまま食品に含有させることで調製することができ、該食品組成物はプロピオン酸菌の発酵物を有効量含有した食品である。ここで、プロピオン酸菌の発酵物を「有効量含有した」とは、個々の食品において通常喫食される量を摂取した場合に所定の範囲でプロピオン酸菌の発酵物が摂取されるような含有量をいう。なお、本発明の有効成分であるプロピオン酸菌の発酵物そのものあるいはそれを含む組成物を、摂取者において食品(例えば、飲料やヨーグルト)に添加し食品組成物とするような態様も本発明の範囲に含まれるものとする。
【0030】
本発明の組成物および用剤は口腔内環境の改善に有効な1回分の摂取量のプロピオン酸菌の発酵物を含んでなる組成物および用剤として提供することができる。口腔環境の改善に有効な1回分のプロピオン酸菌の発酵物の摂取量や、1日当たりの摂取回数は、摂取者の年齢、症状、体感に依存して決定することができる。例示をすれば、口腔内環境の改善に有効な1回分のプロピオン酸菌の発酵物の摂取量は固形分換算質量で100mg~1000mg/回であり、好ましくは、100mg~300mg/回である。また、口腔内環境の改善に効果的な1日当たりのプロピオン酸菌の発酵物の摂取回数は、1~10回/日であり、好ましくは、1~5回/日である。
【0031】
本発明の組成物および用剤を1回分の摂取量のプロピオン酸菌の発酵物を含む組成物として提供する場合には、1回分の有効摂取量を摂取できるように該組成物を単位包装形態で提供することが望ましい。包装形態で提供する場合、1回分の有効摂取量が摂取できるように摂取量に関する記載が包装になされているか、または該記載がなされた文書を一緒に提供することが望ましい。また、本発明の組成物および用剤は継続摂取することでより優れた口腔内環境の改善効果を発揮することができる。例えば、1日分の有効摂取量を複数包装で提供する場合には、摂取の便宜上、1日分の有効摂取量の複数包装をセットで提供することもできる。
【0032】
本発明の組成物および用剤を提供するための包装形態は一定量を規定する形態であれば特に限定されず、例えば、包装紙、包装シート、袋、ソフトバック、紙容器、缶、ボトル、カプセル、プラスチックケースなどの収容可能な容器などが挙げられる。
【0033】
本発明の組成物および用剤は、摂取者自身が体感に応じて摂取量を決め摂取することができる。従って、本発明の組成物および用剤は、好ましくは、摂取者の好みに応じて摂取量を調整できる形態、すなわち、複数回摂取に適した形態で提供することができ、このような形態としては、例えば、タブレット、粉末、ガム、グミ、キャンディが挙げられる。また複数回摂取に適した包装形態としては、プラスチックケース、缶、ボトル、包装紙などが挙げられる。例えば、本発明の組成物および用剤は、複数回分(例えば、10~15回分)の摂取量を含有する複数個のタブレットとして提供することができ、この場合のタブレットは1回分摂取量を1~複数個(例えば、1~10個程度)で摂取できるような形態が好ましい。複数回分(例えば、10~15回分)の摂取量のタブレットは前記のような包装形態のいずれかをとることができ、保存および携帯の利便性と摂取の容易性からプラスチックケースが好ましい。
【0034】
本発明の組成物および用剤はその効果をよりよく発揮させるために、3日以上継続的に摂取させることが好ましく、投与および摂取期間はより好ましくは1~2週間、特に好ましくは1~4週間である。ここで、「継続的に」とは毎日決められた量の摂取を続けることを意味する。本発明の組成物および用剤を包装形態で提供する場合には、継続的摂取のために一定期間(例えば、1週間)の有効摂取量をセットで提供してもよい。
【0035】
本発明の別の面によれば、口腔内環境の改善または口臭抑制が必要な対象に有効量のプロピオン酸菌の発酵物を摂取させる、あるいは投与することを含んでなる、口腔内環境の改善方法および口臭抑制方法が提供される。本発明の口腔内環境の改善方法および口臭抑制方法は、本発明の組成物および用剤に関する記載に従って実施することができる。摂取または投与対象は、ヒトを含む哺乳動物であり、ヒトまたは非ヒト哺乳動物である。
【0036】
本発明のさらに別の面によれば、口腔内環境の改善用組成物または口臭抑制組成物の製造のための、プロピオン酸菌の発酵物の使用が提供される。本発明によればまた、口腔内環境改善剤または口臭抑制剤の製造のための、プロピオン酸菌の発酵物の使用が提供される。本発明によればさらに、口腔内環境の改善または口臭抑制に使用するためのプロピオン酸菌の発酵物が提供される。本発明によればさらにまた、口腔内環境改善剤または口臭抑制剤としてのプロピオン酸菌の発酵物の使用が提供される。本発明のこれらの使用は、本発明の組成物および用剤に関する記載に従って実施することができる。
【実施例
【0037】
以下の例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0038】
例1:プロピオン酸菌の乳清発酵物によるヒト口腔由来のビフィドバクテリウム属細菌の増殖促進作用の確認
(1)プロピオン酸菌の乳清発酵物の調製
国際公開第2012/132913号の実施例1に従ってプロピオン酸菌の乳清発酵物を調製した。すなわち、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ET-3株(FERM BP-8115)を30℃、嫌気条件下で48時間賦活および前培養した後、さらに30℃、嫌気条件下で72時間培養した。培養物を遠心分離し(遠心分離条件:8000rpm、4℃、10分)、培養上清を回収し、フィルター滅菌し、培養上清を得た。該培養上清をプロピオン酸菌の乳清発酵物として用いた。なお、プロピオン酸菌の乳清発酵物には主たる活性成分として1,4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸(DHNA)が含まれていることが確認されている。
【0039】
(2)試験方法
MN1培地5mLに、プロピオン酸菌の発酵物をDHNAが25または50ng/mLとなるように添加し、さらに、表1に示すヒト口腔由来の各種ビフィドバクテリウム属細菌または対照菌(フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)およびポルフィロモナス・ジンジバリス (Porphyromonas gingivalis))を10~30μLずつ接種し、37℃で培養した。15~21時間培養した後、分光光度計(Beckman社製)を用いて吸光度を測定した。
【0040】
上記MN1培地は、トリプチカーゼペプトン 2g、フィトンペプトン 0.75g、酵母エキス 1.25g、KHPO 0.5g、KHPO 0.75g、MgCl・6HO 0.125g、L-システイン・塩酸塩 0.125g、FeSO・7HO 2.5mg、グルコース 20gを純水1000mLに溶解させ、塩酸または水酸化ナトリウムによりpH6.5に調整した後、121℃、15分オートクレーブ処理することにより調製した。
【0041】
また、乳清発酵物中のDHNAの含有量は紫外分光光度型検出器付き高速液体クロマトグラフ(HPLC-UV)分析装置を用いて以下のHPLC分析条件により測定した。
【0042】
<HPLC分析条件>
検出波長:UV254nm
カラム:CAPCELL PAK C18 MGII(i.d. 2.0×100 mm、3μm;資生堂社製)
カラム温度:45℃
移動相:メタノール(高速液体クロマトグラフ用)、精製水および酢酸の混液(混合比(体積)=50:49:1)1Lにジチオスレイトールを50mg添加して溶解したものを使用
流速:0.2mL/分
試料溶液注入量:5μL
【0043】
(3)結果
その結果を表1に示す。
【表1】
【0044】
表1の結果から、プロピオン酸菌の発酵物の添加により、ヒト口腔由来の各種ビフィドバクテリウム属細菌の増殖が促進されることが分かった。一方、口臭原因菌として知られるフソバクテリウム・ヌクレアタムや歯周病菌として知られるポルフィロモナス・ジンジバリスの増殖は促進されないことが分かった。以上のことから、プロピオン酸菌の発酵物は、口腔内病原菌の増殖は促進せず、口腔内ビフィドバクテリウム属細菌の増殖を促進する作用を有することが示唆された。
【0045】
なお、本発明者らは、口腔内ビフィドバクテリウム属細菌を歯周病菌として知られるポルフィロモナス・ジンジバリスと共培養すると、ビフィドバクテリウム属細菌が増殖することによりポルフィロモナス・ジンジバリスの増殖が抑制されることを確認している(データ省略)。このためプロピオン酸菌の発酵物により口腔内ビフィドバクテリウム属細菌の増殖を促進し、それによりポルフィロモナス・ジンジバリスなどの口腔内病原菌の増殖を抑制できると考えられる。
【0046】
例2:プロピオン酸菌の乳清発酵物の摂取試験
(1)試験食品
プロピオン酸菌の乳清発酵物を主成分とする粉末が配合されたタブレットを常法に従って調製し、試験食品として使用した。該タブレットには、1粒(500mg)当たり乳清発酵物(例1(1)に従って調製)が固形分質量で95mg配合されるとともに、ブドウ糖が308mg配合されていた。
【0047】
(2)試験方法
20代~50代の成人男性7名を被験者とし、試験食品を毎日3粒ずつ2週間噛まずに舐めて摂取させた(口腔滞留時間はおよそ3~5分程度)。摂取タイミングは、午前中、午後、夜(18時以降)の各時間帯に1粒ずつ、計3回とした。摂取開始日を1日目とし、摂取開始日前日(0日目)、摂取7日目および摂取最終日(14日目)に唾液中の細菌検査を行った。
【0048】
細菌検査は、起床直後の唾液を採取し、リアルタイムPCR法により、唾液中のビフィドバクテリウム属細菌の菌数をカウントした。
【0049】
得られた結果について、摂取前(0日目)と摂取後(7日目、14日目)との間でウィルコクソンの符号順位検定を行い、危険率(p値)5%未満であった場合に差が有意、10%未満であった場合に差が有意傾向であると判定した。
【0050】
(3)結果
その結果を図1に示す。図1の結果から、乳清発酵物の摂取により、唾液中(口腔内)のビフィドバクテリウム属細菌の数が増加することが分かった。以上のことから、プロピオン酸菌の乳清発酵物の摂取により、口腔内のビフィドバクテリウム属細菌の増殖を促進できることが確認された。
【0051】
例3:プロピオン酸菌の発酵物含有タブレットの摂取による口腔環境改善作用の評価
本実施例ではプロピオン酸菌の乳清発酵物が口腔環境に与える影響について評価した。
【0052】
(1)試験食品
プロピオン酸菌の乳清発酵物を主成分とする粉末が配合されたタブレットを常法に従って調製し、試験食品として使用した。該タブレットには、1粒(900mg)当たり乳清発酵物(例1(1)に従って調製)が固形分質量で95mg配合されていた。
【0053】
(2)試験方法
20代~50代の成人男性9名を被験者とし、試験食品を毎日3粒ずつ4週間噛まずに舐めて摂取させた(口腔滞留時間はおよそ3~5分程度)。摂取タイミングは、午前中、午後、夜(18時以降)の各時間帯に1粒ずつ、計3回とした。摂取開始日を1日目とし、摂取開始日前日(0日目)、摂取14日目および摂取最終日(28日目)に口臭測定および唾液中の細菌検査を行った。
【0054】
口臭測定は、オーラルクロマ(アビメディカル株式会社)を用いて、口腔ガス中の口臭原因物質である揮発性硫黄化合物(硫化水素、メチルメルカプタン)の濃度を測定することにより行った。
【0055】
細菌検査は、起床直後の唾液を採取し、リアルタイムPCR法により、口臭原因菌として知られるフソバクテリウム・ヌクレアタムの菌数をカウントした。
【0056】
得られた結果について、摂取前(0日目)と摂取後(14日目、28日目)との間でウィルコクソンの符号順位検定を行い、危険率(p値)5%未満であった場合に差が有意、10%未満であった場合に差が有意傾向であると判定した。
【0057】
(3)結果
口臭測定の結果を図2に示す。図2の結果から、プロピオン酸菌の乳清発酵物を含有するタブレットを4週間摂取することにより、硫化水素およびメチルメルカプタンの濃度が有意に抑制されることが分かった。以上のことから、プロピオン酸菌の乳清発酵物摂取により、口臭が抑制されることが確認された。
【0058】
細菌検査の結果を図3に示す。図3の結果から、プロピオン酸菌の乳清発酵物を含有するタブレットを4週間摂取することにより、唾液中(口腔内)のフソバクテリウム・ヌクレアタムの菌数は減少することが分かった。
【0059】
以上のことから、プロピオン酸菌の発酵物を摂取することにより口腔環境を改善できることが明らかとなった。
図1
図2
図3